分子インプリントされた炭素
分子インプリントされた炭素の調製が記載されている。分子インプリントされた炭素は、目的とする特定のテンプレート分子に分子レベルでインプリントされると、テンプレート分子の少なくとも一部に対応する被分析物に対し、きわめて選択的になる表面をもつ。分子インプリントされた炭素を含むデバイス、および被分析物を検出する方法でのこのデバイスの使用も記載されている。一例として、ジブチルブチルホスホネート(DBBP)は、化学兵器の代替物であるが、これをテンプレート分子として使用した。エレクトロスピニングされた分子インプリントされたSU−8および熱分解したポリマー(PP)の固相マイクロ抽出(SPME)デバイスを調製し、このデバイスが水系マトリックスからDBBPを優先的に抽出する能力を、妨害物質が存在する状態、存在しない状態で、非インプリント型SU−8およびPP SPME繊維と比較することによって評価した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2010年3月2日に出願された米国仮特許出願第61/309,681号の利益を主張し、この出願は本明細書において参照として援用される。
【0002】
政府の財政的支援
本発明は、National Science Foundation(NSF)助成金番号NSF−0616709によって支援された。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
分子インプリンティングは、特定のテンプレート分子に合わせた認識特性をもつポリマーを調製することによるプロセスである。これは、テンプレート分子が存在する状態で合成ポリマーを架橋することによって達成される。その後、得られた架橋ポリマーマトリックスを洗浄することによってテンプレート分子を除去し、ポリマー内に、ポリマー内にあったテンプレートの大きさ、形状、化学機能に相補的な空洞が残る。得られた分子インプリントポリマー(MIP)は、他の分子が存在する状態で、そのテンプレート分子に選択的に結合する能力がある。非特許文献1;非特許文献2。この能力によって、このポリマーは、アフィニティによる分離、生体模倣型センサ、種々の有機合成をはじめとした種々の用途に理想的に適したものとなる。MIPは、確立されている技術(例えば、合成抗体)と比べ、製造するのが安価であるというだけではなく、化学的、熱的に安定であるという多くの利点をもっている。非特許文献3。しかし、ある種のMIPの分子テンプレートは、繰り返し使用しているうちに分解し、テンプレート分子に対するMIPの選択性が時間経過に伴って低下していくことがわかっている。
【0004】
固相マイクロ抽出(SPME)は、使用が容易であり、汎用性があり、信頼性が高いため、近年人気が高まってきている無溶媒抽出技術である。非特許文献4。SPMEデバイスは、固体支持体(典型的には繊維)の上に堆積した少量の抽出材料からなる。コーティングされた繊維は、目的のサンプルにさらされ、その場に存在する被分析物が、抽出材料のコーティングによって抽出される。次いで、分離および定量のために、被分析物を抽出材料のコーティングから分析装置(例えば、ガスクロマトグラフ)へと脱離させる。非特許文献5。
【0005】
SPMEは、水サンプル、ならびにさまざまなin−vitroおよびin−vivoでの生体液の中の揮発性および半揮発性の有機化合物の分析を含め、さまざまな用途に適用されてきた。非特許文献6;非特許文献7。SPMEの汎用性は、主に、さまざまな種類の繊維コーティングを利用することができることによるものである。現時点で市販されている炭素SPME繊維はない。非特許文献8。
【0006】
SPMEコーティングの製造に利用するために、ゾル−ゲル技術(非特許文献9)、電解重合を含め、多くのさまざまな方法が文献に記載されている。非特許文献10。本願発明者らは、最近、エレクトロスピニングによってSPME繊維コーティングを作製する方法を開発した。具体的には、SU−8 2100というネガティブフォトレジストを、ステンレス鋼ワイヤにエレクトロスピニングし、ナノ繊維の小片で構成されるコーティングを得た。しかし、これらの既知の技術を用いて得ることができるものよりも高い選択性または高い耐久性を示すコーティングをインプリントする必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Le MouUecら、J.Chromatogr.A、1139、171−177(2007)
【非特許文献2】Turielら、Anal.Chem.、79、3099−3104(2007)
【非特許文献3】Chronakisら、Macromolecules、39、357−361(2006)
【非特許文献4】Arthurら、J.Anal.Chem.、62、2145−2148(1990)
【非特許文献5】Pawliszyn、J.「Solid Phase Microextraction Theory and Practice」、Chap.2、11−42(1997)
【非特許文献6】Musteataら、J.Anal.Chem.、79、6903−6911(2007)
【非特許文献7】Vawdzikら、J.Liq.Chromatogr.Rel.Technol、27、1027−1041(2004)
【非特許文献8】Dietzら、J.Chromatogr.A、1103、183−192(2006)
【非特許文献9】Wangら、J.Chromatogr.A、893、157−168(2000)
【非特許文献10】Bagheriら、Anal.Chim.Acta、532、89−95(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
要旨
本発明は、分子インプリントすることが可能な改良型コーティングを提供する。本願発明者らは、炭素ナノ繊維系SPMEコーティングを作製するために、エレクトロスピニングされたナノ繊維を熱分解することができることを示した。Zeweら、Anal Chem.82、5341−8(2010)。この技術は、本明細書に記載されているように詳細に説明され、ここには、エレクトロスピニングされ、分子インプリントされたSU−8(MI−SU−8)および炭素、または分子インプリントされ、熱分解したポリマー(MI−PP)、ナノ繊維系SPMEコーティングの作製が記載されている。本明細書に記載される分子インプリントされた炭素は、従来技術の分子インプリントポリマーと比べ、多くの利点をもつ。主な利点の1つとしては、分子インプリントポリマーよりも炭素の熱安定性が高いため、この分子インプリントされた炭素は、操作寿命が長くなる。また、分子インプリントされた炭素は、従来の分子インプリントポリマーよりも化学安定性も高いはずである。
【0009】
ジブチルブチルホスホネート(DBBP)を、MI−SU−8 SPME繊維およびMI−PP SPME繊維の製造にインプリント分子として利用した。DBBPは、さまざまな化学兵器(CWA)の代用物となるが、目的のテンプレート分子にもなる。Malosseら、Analyst、133、588−595(2008)。本明細書では、非インプリント型SU−8繊維およびPP繊維と抽出性能を比較することによって、具体的には、水系マトリックスからDBBPを優先的に抽出する能力を、種々の妨害物質が存在する状態、存在しない状態で比較することによって、MI−SU−8 SPME繊維およびMI−PP SPME繊維を評価する。さらに、固相抽出(SPE)試験で、エレクトロスピニングされ、スピンコーティングされ、非インプリント型MI−SU−8およびMI−PPでコーティングされたシリカスライドの抽出性能と比較することによって、テンプレートプロセスに及ぼすエレクトロスピニングの影響を調べた。
【0010】
本発明は、分子インプリントポリマーを保有する基材(「熱分解プリフォーム」)を、分子インプリントされたコーティングが熱分解し、熱分解の前にコーティング中にあった分子インプリントのパターンを保持した炭素系コーティングを生じるような条件で加熱するような、分子インプリントされたコーティングを用いる固相マイクロ抽出の初期の研究とは異なる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様では、本発明は、熱分解した分子インプリントポリマーを提供する。一実施形態では、このポリマーは、熱分解され、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択される難黒鉛化性炭素を形成するのに適したポリマーである。別の実施形態では、このポリマーは、フォトレジストポリマーであり、例えば、エポキシ系ネガティブフォトレジストポリマーである。さらなる実施形態では、このポリマーは、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子によってインプリントされる。
【0012】
本発明の別の態様は、固体支持体を備え、その固体支持体の表面の少なくとも一部が、その上に分子インプリントされた炭素層を保有しているデバイスを提供する。一実施形態では、分子インプリントされた炭素層は、炭素ナノ繊維から作られる。別の実施形態では、このデバイスは、固相マイクロ抽出デバイスである。さらなる実施形態では、分子インプリントされた炭素層は、炭素層の表面に、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている。さらに他の実施形態では、分子インプリントされた炭素層は、複数の異なるテンプレート分子を用いてインプリントされたか、または、このデバイスは、各々が異なるテンプレート分子によって分子インプリントされた複数の領域を備えている。
【0013】
本発明のデバイスのさらなる実施形態では、分子インプリントされた炭素層は、エレクトロスピニングを行い、テンプレート分子が存在する状態でポリマー表面層を架橋し、テンプレート分子を除去して分子インプリントポリマー表面層を作製し、次いで、分子インプリントポリマー表面層を熱分解することによって、支持体の上にポリマー表面層を形成することによって製造される。さらなる実施形態は、あるポリマーを利用し、このポリマーは、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリル、またはエポキシ系ネガティブフォトレジストポリマーからなる群から選択される。
【0014】
本発明の別の態様は、サンプルから被分析物を選択的に抽出するプロセスを提供し、このプロセスは、サンプルと本発明のデバイスとを接触させることを含み、その分子インプリントされた炭素層が、炭素層の表面に、被分析物の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている。一実施形態では、被分析物の一部は、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子の一部に対応している。別の実施形態では、サンプルが、被分析物に加え、担体と、測定可能な量の少なくとも1つの他の分子とを含有する。
【0015】
本発明のさらなる態様は、固相マイクロ抽出デバイスを製造する方法を提供し、この方法は、架橋可能なベースポリマーとテンプレート分子とを含む混合物を、固体支持体の表面の少なくとも一部に塗布する工程と、ベースポリマーを架橋し、分子インプリントポリマー層を作製する工程と、分子インプリントポリマー層からテンプレート分子を抽出する工程と、分子インプリントポリマー層を熱分解し、分子インプリントされた炭素層を作製する工程とを含む。
【0016】
本発明の実施形態は、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択されるベースポリマーを含む。別の実施形態では、ベースポリマーは、エポキシ系ネガティブフォトレジストを含む。この方法のさらなる実施形態では、この混合物が、エレクトロスピニングによって固体支持体に塗布される。さらに別の実施形態では、ベースポリマーは、UV光を露光することによって架橋される。さらなる実施形態では、熱分解は、約550℃〜約650℃の範囲の温度で行われる。
【0017】
以下の図を参照することによって、本発明をもっと簡単に理解することができるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、エレクトロスピニング装置の概略図を与えており、エレクトロスピニングによってコーティングされるSPME繊維の調製を示している。
【図2】図2は、DBBPテンプレート分子を用いて分子インプリントされるSU−8の調製の概略図を与えている。DBBPをSU−8エレクトロスピニング溶液に混合し、この状態でDBBPとSU−8分子は、動的平衡状態にある。次いで、この溶液をステンレス鋼ワイヤにエレクトロスピニングし、架橋し、SU−8ポリマーマトリックスを硬化させる。次いで、この硬化したポリマーマトリックスを洗浄し、徹底的なソックスレー抽出によってDBBPテンプレート分子を除去し、DBBPに特異的な分子インプリントされたSU−8を与える。
【図3】図3は、エレクトロスピニングされたMI−SU−8 SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型SU−8 SPME繊維(■)を用い、40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図4A】図4Aは、エレクトロスピニングされたMI−SU−8 SPME繊維を用い、DBBP(▲)、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)をそれぞれ40ppm直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図4B】図4Bは、エレクトロスピニングされた非インプリント型SU−8 SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図4C】図4Cは、エレクトロスピニングされたMI−SU−8 SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型SU−8 SPME繊維(■)によって、40ppmのDBBPおよびBTEXを含有する水系マトリックスから抽出されたDBBPの量を比較するグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図5】図5は、エレクトロスピニングされたMI−400℃ SPME繊維(■)およびエレクトロスピニングされた非インプリント型400℃ SPME繊維(◆)を用い、40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図6】図6は、エレクトロスピニングされたMI−600℃ SPME繊維(■)およびエレクトロスピニングされた非インプリント型600℃ SPME繊維(◆)を用い、40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図7】図7は、エレクトロスピニングされたMI−800℃ SPME繊維(■)およびエレクトロスピニングされた非インプリント型800℃ SPME繊維(◆)を用い、40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図8A】図8Aは、エレクトロスピニングされたMI−400℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図8B】図8Bは、エレクトロスピニングされた非インプリント型400℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図8C】図8Cは、エレクトロスピニングされたMI−400℃ SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型400℃ SPME繊維(■)によって、40ppmのDBBPおよびBTEXを含有する水系マトリックスから抽出されたDBBPの量を比較するグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図9A】図9Aは、エレクトロスピニングされたMI−600℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図9B】図9Bは、エレクトロスピニングされた非インプリント型600℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図9C】図9Cは、エレクトロスピニングされたMI−600℃ SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型600℃ SPME繊維(■)によって、40ppmのDBBPおよびBTEXを含有する水系マトリックスから抽出されたDBBPの量を比較するグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図10A】図10Aは、エレクトロスピニングされたMI−800℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図10B】図10Bは、エレクトロスピニングされた非インプリント型800℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図10C】図10Cは、エレクトロスピニングされたMI−800℃ SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型800℃ SPME繊維(■)によって、40ppmのDBBPおよびBTEXを含有する水系マトリックスから抽出されたDBBPの量を比較するグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図11】図11は、エレクトロスピニングされたMI−600℃(DBBP(◆)およびDOPP(●))および非インプリント型600℃(DBBP(◆)およびDOPP(●))のSPME繊維を用い、40ppmのDOPPを含有する水系マトリックスから40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
以下の説明は、当業者が本発明を製造し、使用することができるように提示している。さまざまな改変は、当業者にとって明らかであると思われ、本明細書に開示した一般的な原理を、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態および応用例に適用してもよい。したがって、本発明は、示している実施形態に限定されることを意図しておらず、本明細書に開示している原理および特徴と一致する最も広い範囲を認めるべきである。
【0020】
(定義)
他の意味であると定義されていない限り、本明細書で用いるあらゆる技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解しているのと同じ意味をもつ。矛盾する場合、定義を含め、本明細書が優先する。
【0021】
本明細書に記載の専門用語は、単に実施形態を記述するためのものであり、本発明を全体として限定すると解釈すべきではない。他の意味であると明記されていない限り、「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」、「少なくとも1つ(at least one)」は、相互に置き換え可能に使用される。さらに、本発明の記載および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形である「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」は、その周囲の内容から矛盾することが示されていない限り、複数形を包含する。
【0022】
また、本明細書では、複数の終点による数値範囲の引用は、その範囲内に含まれるあらゆる値を含む(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0023】
一態様では、本発明は、熱分解され、分子インプリントされた炭素系構造を形成する分子インプリントポリマーを提供する。この分子インプリントポリマーは、テンプレート分子の少なくとも一部の形状に対応する空洞を備えるようにインプリントされたポリマーである。テンプレート分子は、大きさが1ミクロン以下であってもよいが、実際に空洞を形成するテンプレート分子の一部は、実質的にこの大きさより小さくてもよい。分子インプリントポリマーは、本明細書では、熱分解「プリフォーム」とも呼ばれ、本明細書に記載の方法を用いて調製することができる。
【0024】
このポリマーは、ベースポリマー混合物にテンプレート分子を含むことによってインプリントされる。ベースポリマー混合物を架橋し、テンプレート分子の少なくとも一部の周囲に、架橋したポリマー内の空洞にテンプレート分子を保持するような、もっと永久的な構造を形成する。次いで、テンプレート分子を除去すると、テンプレート分子の少なくとも一部の形状がインプリントされたポリマーが得られる。この分子インプリントされたポリマーは、空洞の形状と、テンプレート分子の少なくとも一部の形状が対応していることから生じる分子インプリントポリマー内の空洞に対するこれらのテンプレート分子の親和性の結果、再びさらされるとテンプレート分子またはその一部をあらわす被分析物に結合する能力をもつ。サンプル中にさまざまな分子が存在する場合、空洞は、テンプレート分子に対応する被分析物に対し、きわめて優先的な結合性を示す。
【0025】
次いで、分子インプリントポリマーを熱分解し、分子インプリントされた炭素系構造を作製する。熱分解は、ポリマーを選択的に燃焼させ、ポリマーと炭素構造を置き換える。その表面の本質的な物理構造は、熱分解中も保持されているが、構造の化学組成は変化する。したがって、ポリマー繊維は、炭素繊維に変換され、テンプレート分子の周囲に作られる空洞は、熱分解の結果、分子インプリントされたポリマーから作られる分子インプリントされた炭素でも保持されているだろう。熱分解の前のコーティング中の分子インプリントパターンを保持する炭素系コーティングに熱分解することが可能な、分子インプリントポリマーから作られる任意のコーティングに本発明を実施することができることが理解されるだろう。熱分解プリフォームを基材に塗布する場合、好ましくは、この基材は、熱分解反応を行ったときにも、同じように物理的一体性を保持している。
【0026】
熱分解プリフォームとして用いられるポリマーは、熱分解して難黒鉛化性炭素を作製するのに適したポリマーであるべきである。難黒鉛化性炭素は、熱分解のときにどれほど多くの熱をポリマーに加えても、結晶性グラファイトを生成しないと思われる炭素である。難黒鉛化性炭素は、ナノサイズの黒鉛sp2炭素領域を含む不規則な炭素系である。
【0027】
分子インプリントされた炭素を調製するとき、好ましくは、分子状炭素の含有量が大きい分子インプリントポリマーが用いられる。すなわち、このポリマーコーティングを構成するポリマー分子を形成する炭素原子の量は、重量基準でこれらのポリマー分子の少なくとも50%でなければならない。炭素原子の量が、これらのポリマー分子の少なくとも60wt.%、少なくとも70wt%、少なくとも75wt.%、またはさらに少なくとも80wt.%であるポリマーが好ましい。特定の例としては、上の作業例に記載した種々のエポキシ樹脂だけではなく、例えば、ポリアセチレンおよび種々のオリジン(oligyne)ポリマーが挙げられる。例えば、使用するポリマーは、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルポリマーからなる群から選択されてもよい。
【0028】
ある用途のために、使用するポリマーがフォトレジストポリマーであることが好ましい場合もある。フォトレジストは、種々の産業プロセス(例えば、フォトリソグラフィーおよび写真製版)で使用し、表面にパターン形成されたコーティングを作製する感光性材料である。好ましくは、このポリマーは、ネガティブフォトレジストである。ネガティブフォトレジストは、露光したフォトレジストの部分が、フォトレジスト現像剤に不溶性になるような種類のフォトレジストである。このフォトレジストの露光していない部分は、フォトレジスト現像剤に溶解し、基板表面のある部分が覆われていない状態になる。好ましいポリマーは、エポキシ系ネガティブフォトレジストであり、特に、SU−8シリーズのネガティブフォトレジストである。
【0029】
また、熱分解した分子インプリントポリマーを炭素繊維として提供してもよい。炭素繊維を作製するために、熱分解プリフォームは、熱分解中に保持される繊維構造でなければならない。炭素繊維は、ミクロ繊維またはナノ繊維であってもよい。ナノ繊維は、直径が1ミクロン未満である。ナノ繊維を含む実施形態は、繊維の直径が50〜800ナノメートル、200〜600ナノメートル、または300〜500ナノメートルであってもよい。ナノ繊維の質量および直径は、一般的に、ポリマーが熱分解して炭素になるにつれて減少し、温度が高くなるにつれて収縮量も大きくなる。例えば、重さが0.52mgのSU−8ポリマーの小片は、600℃で熱分解することによって、0.33mgの炭素に変換され、800℃で熱分解することによって、0.20mgの炭素に変換される。熱分解は炭素繊維の大きさに影響を与えないが、熱分解プリフォームをインプリントするのに使用されるテンプレート分子に対する分子インプリントされた炭素の親和性には、驚くべきことにほとんど影響を示さない。炭素繊維の使用は、表面積の大きなコーティングを与えるという利点があり、テンプレート分子による多量の結合を与えることができる。熱分解プリフォームの熱分解によっても、繊維の表面積が増える。
【0030】
本発明の別の態様は、固体支持体を備え、その固体支持体の表面の少なくとも一部が、分子インプリントされた炭素層を保有しているデバイスを提供する。固体支持体の表面の任意のかなりの量が炭素層を備えていてもよく、炭素層は、連続している必要はない。例えば、炭素層は、固体支持体の表面の5%〜100%を占めていてもよい。コーティングは、固体支持体の表面に直接存在していてもよく、または、ある実施形態では、結合性を高めるために、炭素層と固体支持体との間にさらなる接着材料が含まれていてもよい。固体支持体という観点で、熱分解反応の結果、構造一体性を保持していると思われる任意の材料を、分子インプリントされた炭素層の支持体として用いることができる。最初は分子インプリントポリマーを支持し、最終的に後で分子インプリントされた炭素を支持するために、支持体は固体である必要があるが、支持体は、剛性である必要はない。例えば、ある実施形態では、固体支持体として可とう性材料を用いることが好ましい場合がある。インコネルなどを含め、金属(特に、ステンレス鋼、および熱分解中に直面する高温および還元条件で反応性ではない他の金属)を使用してもよい。入手可能性、費用、耐久性から、ステンレス鋼が好ましい。したがって、好ましい実施形態では、固体支持体は、ステンレス鋼ワイヤを含む。
【0031】
炭素層は、固体支持体表面に塗布される熱分解プリフォームの厚みに依存して、さまざまな厚みであってもよい。例えば、厚みが2〜50マイクロメートル、3〜30マイクロメートル、または5〜15マイクロメートルの分子インプリントされた炭素層の種々の実施形態。炭素層は、炭素層が炭素繊維で構成されるとき、小片の形態であろう。
【0032】
好ましい実施形態では、デバイスは、固相マイクロ抽出デバイスである。固相マイクロ抽出(SPME)は、無溶媒抽出方法である。機能するために、デバイスは、単にかなりの量の分子インプリントされた材料を保有できることが必要であり、したがって、形状は実質的に変わってもよい。簡便のために、コーティングされた材料の棒を典型的には使用する。ある実施形態では、デバイスは、さまざまな異なる分子テンプレートに感受性のインプリントされた部分を含んでいてもよく、その結果、デバイスは、アレイとして機能することができる。または、炭素層は、デバイスが複数の異なる被分析物を抽出するように、さまざまな異なる分子テンプレートで分子インプリントされてもよい。
【0033】
前述のことから、本発明の焦点は、固相マイクロ抽出のための分子インプリントされた炭素コーティングを製造することであることがわかるだろう。しかし、本発明は、他の用途で有用な生成物を製造するために使用することもできる。例えば、本発明にしたがって製造された分子インプリントされた炭素系表面を有する生成物を、大規模バルク抽出のため、クロマトグラフィーの固定相または支持体を製造するため、また、さまざまな異なる種類の分子および他のこのような用途のためのセンサを製造するために使用してもよい。さらに、このような生成物は、本質的に任意の形態、例えば、上述のコーティングされた生成物の形態、塊状(すなわち、コーティングされていないか、または基材に保持されていない炭素系材料の塊の形態)、または任意の他の望ましい物理形態で製造することができる。その場合、生成物の分子インプリントされる表面は、上述の同じ材料から、上述の同じ熱分解アプローチを用いて製造することができる。
【0034】
本明細書に記載する場合、炭素層内に存在する分子インプリンティングは、層の表面に、テンプレート分子の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている。本明細書で使用する場合、テンプレート「分子」は、実際に、複数の分子を含む粒子(例えば、ウイルス粒子)であってもよい。しかし、テンプレート分子が1ミクロン以下の大きさをもつことが好ましい。代替的な実施形態では、テンプレート分子は、大きさが500ナノメートル以下、250ナノメートル以下、または100ナノメートル以下であってもよい。ある実施形態では、テンプレート分子のほぼ100%が空洞を形成するために用いられてもよく、一方、他の実施形態では、テンプレート分子の一部のみが空洞を形成するために用いられてもよい。しかし、1個のテンプレート分子が、分子インプリンティングプロセスの部分として空洞を形成するのに有用な複数の領域をもっていてもよい。
【0035】
テンプレート分子を除去するために、また、得られた空洞に、後でテンプレート分子を抽出する機能を持たせるために、空洞は、炭素層の内側に埋没しているのではなく、炭素層の表面に存在しなければならない。したがって、炭素繊維を使用する場合のように、炭素層が高い表面積をもつことが好ましい。表面に空洞が存在するとは、空洞の一部を形成し、炭素層の表面に配置された穴を通り、炭素繊維の外側から空洞に近づくことができることを意味する。
【0036】
本明細書でさらに詳細に記載されるように、分子インプリントされた炭素層は、支持体の上にポリマー表面層を形成し、テンプレート分子が存在する状態でポリマー表面層を架橋し、テンプレート分子を除去して分子インプリントポリマー表面層を作製し、次いで、分子インプリントポリマー表面層を熱分解し、分子インプリントされた炭素層を作製することによって製造される。
【0037】
本発明の別の態様は、固相マイクロ抽出デバイスを製造する方法を提供する。この方法は、架橋可能なベースポリマーとテンプレート分子とを含む混合物を、固体支持体の表面の少なくとも一部に塗布する工程と、ベースポリマーを架橋し、分子インプリントポリマー層を作製する工程と、分子インプリントポリマー層からテンプレート分子を抽出する工程と、分子インプリントポリマー層を熱分解し、分子インプリントされた炭素層を作製する工程とを含み、これにより、固体支持体を含み、その少なくとも一部に分子インプリントされた炭素層を保有する固相マイクロ抽出デバイスが作製される。
【0038】
本発明のこの態様にしたがって分子インプリントポリマー(すなわち、熱分解プリフォーム)を製造することは、本明細書に記載するように、既知の技術を用いて行われる。すなわち、分子インプリントされるコーティングが過去に作られたのと同じ様式で熱分解プリフォームが作られ、上述の炭素含有量が高いポリマーのコーティングと、熱分解反応の結果、物理的一体性を保持する基材とを選択するように注意を払う。分子インプリントされたポリマーを、当業者に既知のさまざまな異なる方法を用いてデバイス表面に塗布することができる。Dietzら、J.Chromatogr.A、1103、183−192(2006)およびJiangら、J.Chromatogr.Sci.44、324−332(2006)を参照。使用可能な方法の例としては、エレクトロスピニング、スピンコーティング、ゾル−ゲル技術および電解重合が挙げられる。
【0039】
熱分解プリフォームは、架橋可能なベースポリマーから調製される。架橋可能なポリマーは、当業者なら知っているように、架橋して固体構造を形成するモノマーを含む。架橋は、例えば、化学的に、または照射によって誘導することができる。架橋を促進するために、混合物に架橋剤を与えてもよい。SU−8ポリマーの場合、架橋剤を用い、ベースポリマーは、UV光を露光することによって架橋する。
【0040】
架橋可能なベースポリマーおよびテンプレート分子を、混合物として固体支持体に塗布する。架橋可能なベースポリマーおよびテンプレート分子の両方の支持に役立ち得る溶媒を用い、混合物を与える。例えば、SU−8および種々のフェニル化合物の場合、シクロペンタノンは、適切な溶媒を与える。2〜10%のテンプレート分子と70〜80%のSU−8ポリマーを、SU−8が2%〜75%の範囲になるように用いることが、混合物の好ましい組成である。
【0041】
この混合物を固体支持体に塗布する好ましい方法は、エレクトロスピニングによる方法である。ポリマー繊維のエレクトロスピニングによって、ミクロサイズまたはナノサイズの繊維を作ることができる。エレクトロスピニングは、ポリマー溶液と導電性コレクタとの間を高電場にすることを含む。この電場が、液滴の表面張力を超えるほど強い場合、テイラーコーンが作られる。テイラーコーンが作られた後、ポリマーのナノ繊維が導電性コレクタに向かって放出される。Ramakrishnaら、「An introduction to Electrospinning and Nanofibers」、World Scientific、Rivers Edge N.J.(2005)を参照。エレクトロスピニングの使用に関する詳細な記載は、本明細書に提示した実施例の中にある。フォトレジストポリマーSU−8のエレクトロスピニングを最適化するためのパラメータは、Steachら、J.Appl.Polym.Sci.、118 405−412(2010)に記載されている。
【0042】
熱分解プリフォームを製造したら、熱分解し、熱分解前に存在したコーティング中の分子インプリントパターンを保持する炭素系コーティングを製造する。このことは、不活性雰囲気または中程度の還元雰囲気下、熱分解プリフォームを400℃〜800℃の高温で所定時間(例えば、少なくとも5時間程度)加熱し、分子インプリントされたコーティングを形成する材料を分解蒸留することによって達成することができる。熱分解反応で使用する雰囲気の性質、ならびに熱分解反応時間に依存して、300℃の低温から1500℃の高温までの熱分解温度が想定されている。同様に、熱分解反応で使用する雰囲気の性質、ならびに熱分解反応温度に依存して、1時間と短い時間から5日程度の長い時間までの熱分解が想定されている。本明細書の実施例に与えられているデータによって示されるように、約550℃〜約650℃の温度範囲内の温度で行われる熱分解が、最もよい結果を与えるようである。
【0043】
この観点で、熱分解反応に不活性雰囲気を用いてもよいが、分子インプリントポリマーコーティングを形成する材料の分解、熱分解プリフォームの基質からの不安定成分の気体放出、またはこの両者の結果として存在し得る不安定な酸素または他の反応性化学物質を捕捉するために、中程度の還元雰囲気が好ましい。作業例に示されるように、主に不活性気体と、少量の(例えば、約1〜40vol.%、さらに典型的には、2〜20vol.%、3〜15vol.%、4〜10vol.%、またはさらに約5vol.%の)H2または他の中程度の還元性気体を含む中程度な還元雰囲気が好ましい。分子インプリントされた炭素の分解を避けるために、酸化性気体は使用すべきではない。
【0044】
本発明の別の態様は、固体支持体を備え、固体支持体の表面の少なくとも一部分に分子インプリントされた炭素層を保有するデバイスを用い、サンプルから被分析物を選択的に抽出するプロセスを提供する。このプロセスは、サンプルと、分子インプリントされた炭素層を含む固体支持体を備えるデバイスとを接触させることを含み、その分子インプリントされた炭素層が、炭素層の表面に、被分析物の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている。
【0045】
このプロセスは、さらに、サンプルからの被分析物の抽出を検出する工程を含んでいてもよい。例えば、炭素層表面の空洞内の被分析物を抽出するとき、炭素層の物理的特徴の変化を検出することができる。または、例えば、分光法によって、炭素層に被分析物が存在するのを直接検出することができる。サンプル内の被分析物の濃度減少を示すことによって、抽出を検出することができる。または、分離および定量のために、被分析物を、分子インプリントされた炭素から分析装置(例えば、ガスクロマトグラフ)へと脱離させることができる。
【0046】
被分析物という用語は、本明細書で使用する場合、テンプレート分子の少なくとも一部に対応する分子を指す。ある実施形態では、被分析物とテンプレート分子は、同じであってもよい。例えば、本明細書に記載した実施例の被分析物とテンプレート分子(DBBP)は同じである。しかし、被分析物は、テンプレート分子全体の一部をあらわしていてもよい。したがって、テンプレート分子は、ある実施形態では、複数の被分析物に感受性の本発明のデバイスを提供していてもよい。例えば、ウイルス粒子をテンプレート分子として使用してもよいだけではなく、ウイルスのタンパク質コーティングを被分析物として使用してもよい。または、テンプレート分子は、混合物へのテンプレートの溶解度を高めるために、目的の被分析物とは無関係な、可溶性を高める部分のようなさらなる材料を含んでいてもよい。
【0047】
本発明のデバイスを用いて被分析物を抽出するプロセスを、種々の異なる目的の被分析物に用いてもよい。本質的に、適切なテンプレート分子の少なくとも一部に対応する任意の被分析物を使用することができる。目的の被分析物の1種は、ジブチルブチルホスホネート(DBBP)が代用物として作用する化学兵器である。化学兵器を検出するプロセスで使用される本発明のデバイスは、化学兵器にさらされる場所であり得ると思われる環境中の有害な薬剤への暴露を検出する有用な無溶媒方法を与えることができるだろう。容易に抽出可能な被分析物の特定の例は、リンを含有する被分析物、例えば、リンを含有する化学兵器であり、分子インプリントされた炭素に高い親和性を示す。または、本発明のデバイスを用いて被分析物を抽出するプロセスを使用し、作業場の有害な化学物質を監視することができ、または、環境中にある化学物質を検出することが望ましいような広範囲の他の用途に用いることができる。
【0048】
被分析物の供給源として有用な非常にさまざまなサンプルが本明細書で想定されている。サンプルは、従来からあるサンプルであってもよく、例えば、廃棄水または体液のような液体の一部であってもよい。または、サンプルという用語は、環境にデバイスを単にさらすことを包含するようなもっと広い意味で用いることができる。例えば、化学兵器を検出するプロセスを使用する例では、サンプルは、単にデバイスを持った使用者がある一定期間にわたって通り過ぎる空気であってもよい。本発明のプロセスは、従来のSPMEによって調べられるのに適した任意のサンプルに用いてもよい。Musteataら、J.Anal.Chem.、79、6903−6911(2007)およびVawdzikら、J.Liq.Chromatogr.Rel.Technol、27、1027−1041(2004)を参照。ある単純な実施形態では、サンプルは、単に、被分析物(例えば、水または空気)を懸濁する担体と、1種類の被分析物とを含む。しかし、サンプルが、被分析物に加え、担体と測定可能な量の少なくとも1つの他の分子を含む、もっと複雑な実施形態も想定されている。それに加え、本明細書で述べられるように、本発明のデバイスは、複数の被分析物を別個に、またはある分類として検出するような構成であってもよい。
【0049】
以下の実施例は、単に説明するために与えられており、いかなる様式でも本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0050】
この実施例で、本願発明者らは、エレクトロスピニングされ、分子インプリントされた(MI)−SU−8および分子インプリントされ、熱分解したポリマー(MI−PP)SPMEデバイスが、抽出時間のプロフィールによって示されるようにDBBPに対し、高い選択性をもつことを示す。全てのMI−SPME繊維は、非インプリント型の対照物よりも、少なくとも60%より多いDBBPを抽出した。MI−600℃繊維は、最も大きな効果を示し、非インプリント型600℃ SPME繊維と比較し、5倍を超える量のDBBPを抽出した。さらに、いくつかの固相抽出(SPE)試験を実施し、テンプレートプロセスに及ぼすエレクトロスピニングの影響を、エレクトロスピニングされ、スピンコーティングされたMI−SU−8およびMI−PPのシリカチップ両方の抽出性能を比較することによって決定した。
【0051】
(実験例)
(材料)
ジブチルブチルホスホネート(90%)、ジオクチルフェニルホスホネート(95%)、ベンゼン(99.9%)、トルエン(99.8%))、エチルベンゼン(99.8%))、o−キシレン(98%))を抽出に利用し、これらをSigma Aldiichから購入した。HPLCグレードのメタノールを、DBBP溶液およびDOPP溶液の調製に使用し、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレンの溶液をジクロロメタンを用いて調製した。
【0052】
(装置および器具)
SPME繊維によって抽出された全化合物を、圧力を制御したスプリット有/スプリット無注入口と、フレームイオン化検出器とを備えるHewlett− Packard 5890 Series II Plusガスクロマトグラフを用いて分析した。Agilent Technologies製のHP−5MS GCキャピラリー(膜厚0.25μm、長さ30m、内径0.255mm)と接続した、内径が0.75mmの注入スリーブを利用した。Spellman CZE 1000R高電圧電源およびHarvard Model 33デュアルシリンジポンプを両方とも、図1に示すエレクトロスピニング装置に使用した。Lindberg/Blue TF55030Aを使用し、非インプリント型SPME繊維およびMI−SU−8でコーティングされたSPME繊維を熱分解し、これらを炭素に変換した。
【0053】
(SPME繊維製造のための材料の調製)
分子非インプリント型SPMEデバイスのエレクトロスピニング溶液は、SU−8 2100ネガティブフォトレジスト(MicroChem Corporation(ニュートン、MA)製)およびシクロペンタノン(Sigma Aldrich製)の75%(v/v)溶液であった。SU−8 2100は、エポキシ型ベースポリマーと光反応性架橋剤とで構成されている。このレジストは、UV光を露光すると、架橋剤がポリマーを架橋するので、硬化する。このために、SU−8溶液のあらゆる処理は、SU−8が予定より早い時期に架橋しないように、黄色光の下で行われた。この溶液を最短で24時間撹拌し、エレクトロスピニング用の10mLシリンジで抜き取る前に、均一にした。シリンジ内の溶液が、エレクトロスピニングの前に気泡を含まないように注意した。
【0054】
MI−SPMEデバイスのエレクトロスピニング溶液は、この溶液にDBBPを加える以外は、上述の溶液と同じであった。エレクトロスピニング溶液中のDBBPの最終濃度は、0.1Mであった。DBBPを加えた後、この溶液を、エレクトロスピニング用の10mLシリンジに移す前に、少なくとも48時間撹拌した。このように撹拌時間を延ばすことで、SU−8とDBBPテンプレート分子とを会合させた。これらのエレクトロスピニング試験の全てに利用するコレクタは、Small Parts(マイアミレイクス、FL)製の直径が約127μmの小さなステンレス鋼繊維であった。エレクトロスピニングの前に、これらのステンレス鋼繊維を、最終的な長さが1.5cmになるように切断し、メタノールで洗浄し、乾燥器内で、80℃で30分間乾燥させた。
【0055】
(SPME繊維の製造)
ここで使用するエレクトロスピニングのパラメータは、Zeweら、Anal Chem.82、5341−8(2010)に記載されている。ステンレス鋼繊維は、エレクトロスピニング溶液を保持しているシリンジの末端から10cmの位置にあり、アリゲータークリップによって接地していた。かけられた電圧は9kVであり、エレクトロスピニング溶液の流速は0.02mL/分であった。全ての繊維について、エレクトロスピニングの持続時間は、1分であった。エレクトロスピニングされたSU−8繊維でステンレス鋼ワイヤをコーティングしたら、UV光を5分間露光し、SU−8繊維を架橋した。
【0056】
(分子インプリントされたSU−8繊維の調製)
DBBP/SU−8エレクトロスピニングされた繊維でコーティングしたステンレス鋼繊維にUV光を露光することによって架橋したら、ヘプタンのバイアルに少なくとも24時間置いた。この間、バイアル内部の溶液を磁気によって撹拌した。その後、繊維を徹底的なソックスレー抽出に最低で24時間かけ、このときもヘプタンを用いた。これらの工程の目的は、ポリマーマトリックスからDBBPテンプレート分子を除去することであり、MI−SU−8ナノ繊維が残った。分子インプリンティングプロセスの機構を図によってあらわしたものを図2に示す。
【0057】
(エレクトロスピニングされたSU−8繊維の熱分解)
炭素コーティングされたSPMEデバイスを作るために、エレクトロスピニングされたSU−8ナノ繊維で覆ったワイヤをLindberg/Blue TF55030A石英管の炉の中で熱分解した。エレクトロスピニングによってコーティングされたワイヤを石英管の内側に置き、作製用気体混合物(95%N2および5%H2)を熱分解を継続している間、管に連続して流し、作製用気体は、熱分解が開始する前に全ての酸素が管から追い出されるように、20分間管を通して最初に流しておいた。望ましい熱分解温度に達するまで、1℃/分の上昇温度を用い、繊維を最終温度に最短で5時間保持した後、室温まで冷却した。400、600、700、800℃で熱分解した繊維をこの試験で利用した。
【0058】
分子インプリントされた繊維と、非インプリント型繊維の熱分解条件は同じであった。しかし、熱分解の前に、上述のように、洗浄およびソックスレー抽出によって、繊維からテンプレート分子(DBBP)を除去した。
【0059】
(SPME繊維の集合体)
市販のSPME繊維集合体を、エレクトロスピニングによってコーティングされたステンレス鋼繊維で改良し、コーティングされた繊維を、高温エポキシ(Epoxy Technology(ビルリカ、MA)製)と用いて集合体と接続し、乾燥器中、80℃の温度で1時間かけて硬化させた。エポキシが硬化したら、繊維をGC注入口に少なくとも30分間置き、安定なシグナルベースラインが得られるまで保持した。注入口の温度は、300℃であった。
【0060】
(SPEのためのケイ素チップのコーティングおよび処理)
抽出実験のために1.0×1.5cmの四角形に切断したケイ素ウェハのチップ。次いで、これらのチップをメタノールで洗浄し、次いで、乾燥器中、80℃で30分間乾燥した。エレクトロスピニングによってコーティングしたケイ素チップを、SPMEワイヤのコーティングについて記載したのと同じ様式で調製した。エレクトロスピニングの時間は20分であった。
【0061】
ケイ素チップをコーティングするにも、スピンコーティング手順を使用した。SU−8 2100で使用したスピンコーティングのパラメータは、SU−8フォトレジスト製品品目に関する情報について、MicroChem Corp.のウェブサイトで入手可能である。ケイ素チップをスピンコーティングするために、WS−400A−6NPP/Liteシングルウェハスピンプロセッサ(Laurell Technologies Corporation(北ウェールズ、PA))を使用した。スピンコーティングのプログラムは、初期の5秒間に上昇、上昇率が100rpm/s〜500rpm、10秒間保持から構成されていた。第2の上昇、上昇率300rpm/sは、8.3秒間実施され、回転速度が3000rpmに達し、この状態で、手順が終了するまで30秒間保持された。プログラム開始時に、非インプリント型またはMI−SU−8のいずれか1mLを運んだ。スピンコーティングされたケイ素チップを架橋し、テンプレートを除去し、熱分解する手順は、エレクトロスピニングによってコーティングされたケイ素チップおよびエレクトロスピニングによってコーティングされたSPMEワイヤに使用したのと同じであった。
【0062】
(抽出および分析の手順)
全ての抽出を40mL EPAバイアル内で行った。このバイアルにEPA PTFE/シリコーン(10/90)セプタム(National Scientific(ロックウッド、TN))で蓋をした。全ての抽出にナノ純水(18MO−cm)を利用し、全ての被分析物は、濃度40ppmで存在した。全ての溶液を、IKA C−MAG HS7撹拌プレートによって出力50%に制御したテフロン(登録商標)撹拌棒(Fisher Scientific(ハノーバーパーク、IL))を用いて撹拌した。抽出時間のプロフィールは、DBBPと、DBBPおよびBTEXの混合物を抽出することからなっていた。バイアル内のナノ純水を、試験化合物それぞれに入れ、SPME繊維を系に入れる前に20分間撹拌した。割り当てられた時間の間、繊維は系内に留まっており、その後、ガスクロマトグラフに移した。
【0063】
(結果および考察)
(分子インプリントされたSPME繊維および非インプリント型のエレクトロスピニングされたSPME繊維の比較)
エレクトロスピニングされたMI−DBBP SU−8 SPME繊維が、エレクトロスピニングされた非インプリント型SU−8 SPME繊維に比べ、DBBPに対して選択性が優れていることは、各繊維について、水系マトリックスから40ppmのDBBPを直接抽出するための抽出時間プロフィールを比較することによって最初に示された。これらの抽出結果を図3に示す。
【0064】
約60分間で平衡に達したら、MI−SU−8 SPME繊維は、非インプリント型SU−8 SPME繊維よりも顕著に多くのDBBPを抽出した。エレクトロスピニングされた相(SU−8)の量は、重量で測定した場合、両方の繊維に存在していたため、これらの結果は、MI−SU−8 繊維が、非インプリント型繊維よりもDBBPに対して大きな分配定数を持っていることを示唆している。この傾向から、両方の種類の繊維を、化合物群としてBTEXと一般的に呼ばれているベンゼン(B)、トルエン(T)、エチルベンゼン(E)、o−キシレン(X)を40ppm含むもっと複雑なマトリックスに塗布したときにも観察された。
【0065】
これらの実験結果を図4に提示している。図4の結果は、SU−8の吸着部位に対するBTEXとDBBPの競争によって、平衡時間が短くなることを示す(競争抽出の場合30分、BTEX化合物を含まないDBBP抽出の場合60分)。さらに、BTEX化合物の相対的な抽出を比較するとき、分子インプリントの存在は、抽出されるo−キシレンの量に影響を与えると思われ、インプリントされた繊維の場合、o−キシレンの抽出が減る。
【0066】
MI−PP繊維でコーティングされたワイヤの性能も、PPエレクトロスピニングされた非インプリント型繊維でコーティングされたSPME繊維の性能と比較した。分子インプリントされた繊維と、非インプリント型繊維を400、600、800℃で熱分解したものを、40ppmのDBBPを含有する水系マトリックスを直接抽出することによって、最初に評価した。次いで、これらを、40ppmのBTEX化合物を妨害物質として含む水系マトリックスからDBBPの直接抽出に適用した。400、600、800℃で熱分解したSPME繊維について、DBBPのみを含有する溶液からの抽出結果をそれぞれ図5、図6、図7に示す。BTEX化合物を含有する溶液からのDBBP抽出の平衡プロフィールを図8〜10に示す。
【0067】
図5は、MI−400℃ SPME繊維が、平衡状態で非インプリント型400℃ 繊維よりも多くのDBBPを水溶液から抽出したことを明らかに示している。両方の繊維の平衡状態は、約60分間で達成された。図6および図7は、MI−600℃繊維およびMI−800℃繊維が、両方とも、非インプリント型の対照物よりも多くのDBBPを抽出することを示している。これらの繊維それぞれの平衡時間は、約30分であった。抽出されるDBBPの合計量は、繊維の上の相の合計量が、処理温度に伴って低下していくという過去に観察した結果と同様に、熱分解温度を上げるにつれて下がると思われた。インプリントされた繊維の中で、MI−400℃繊維は、MI−600℃繊維よりも多くの量を抽出した。MI−800℃は、最も少ない量のDBBPを抽出した。非インプリント型繊維の中では、非インプリント型400℃繊維が、最も多くのDBBPを抽出し、非インプリント型800℃繊維によって最も少ない量のDBBPが抽出されるという傾向は、維持されていた。また、インプリントされた繊維に対する選択性は、600℃のものが他の処理温度と比較して高かった。
【0068】
MI−400℃が、BTEXを含む水溶液からDBBPを抽出する性能も、図8Aに示している。エチルベンゼンが最も多く抽出された被分析物であり、平衡には約60分で達した。図8Bは、非インプリント型400℃繊維について、水溶液中のDBBPおよびBTEXの平衡曲線を示す。MI−400℃ SPME繊維を用いた場合、エチルベンゼンが最も多く抽出された被分析物であり、平衡時間は約60分であった。BTEX化学物質の全てが、MI−400℃繊維よりも、非インプリント型400℃繊維によって簡単に抽出された。図8Bは、各繊維について、BTEXを含有する水溶液から抽出されたDBBPの量の直接比較を示す。平衡に達したら、MI−400℃繊維は、非インプリント型400℃繊維よりも多くのDBBPを抽出する。
【0069】
MI−600℃繊維および非インプリント型600℃繊維について、水溶液からDBBPおよびBTEXを抽出する平衡状態のプロフィールをそれぞれ図9Aおよび図9Bに示す。両方の場合で、エチルベンゼンはここでも最も多く抽出された化合物であるが、非インプリント型600℃繊維の場合、もっと量が多かった。DBBPの平衡状態には、MI−600℃繊維では約60分間で達し、非インプリント型600℃繊維では30分間で達した。しかし、図9Cに示されているように、MI−600℃は、非インプリント型600℃繊維よりもかなり多くの量のDBBPを抽出した。MIと非インプリント型600℃繊維の競争なしにDBBPの抽出を示した図6と比較し、抽出されたDBBPの量は、MI−600℃繊維と同等であった。競争から、非インプリント型600℃繊維の場合、DBBPの抽出にもっと負の影響を及ぼすと思われる。
【0070】
図10Aおよび図10Bは、MI−800℃ SPMEおよび800℃ SPMEについて、それぞれ水系マトリックスからのDBBPおよびBTEXの抽出を示す。平衡状態には、両方の繊維とも60分で達した。驚くべきことに、エチルベンゼンは、両方の繊維について、同じように最も多く抽出された被分析物のままであった。400℃および600℃で処理された繊維とは異なり、MI−800℃繊維は、最も多くのDBBPと最も多くのBTEXを抽出し、他の2つの場合には、非インプリント型繊維は、その分子インプリントされた対照物よりも多くのBTEXを抽出した。図10Cは、BTEX水溶液からDBBPを抽出するときの2種類の繊維の性能を比較している。MI−800℃は、非インプリント型繊維と比較して、DBBPの抽出量の向上が示された。競争は、800℃で処理した両繊維に悪い影響を与えるようであった。図10Cと図7を比較すると、MI−800℃繊維も非インプリント型800℃繊維も、BTEX妨害物質が存在しない場合に、水溶液から多くのDBBPを抽出することができたのは明らかである。
【0071】
全ての処理温度について、競争が存在する場合、しない場合の両方で、抽出されたDBBPの量は、非インプリント型PP繊維よりもMI−PP繊維で高かった。さらに、MI−PP繊維は、その非インプリント型の対照物よりも抽出されたBTEXが少なく、このことは、DBBPに対する選択性が高いことを示している。これとは異なる唯一の繊維は、MI−800℃ SPME繊維であり、非インプリント型800℃ SPME繊維よりも多くのDBBPおよびBTEXを抽出した。競争は、繊維によって吸着するDBBPの量に影響を与えると思われる。MI−600℃ SPME繊維のみが、DBBPのみを含有する水溶液からの平衡プロフィールと比較したときに、BTEXを含有する水溶液から抽出されたDBBPの量の低下を示さなかった。
【0072】
表Iは、DBBPの分子インプリンティングを用いて観察される選択性の向上を示している。明らかに、異なる化学構造の化合物が表面部位で競争する場合、600℃で熱分解したMI−SPMEは、最も高い選択性を示しており、他の化学構造の化合物が存在しない場合、表面の親和性の顕著な上昇を示している。
表I.非インプリント型SPMEに対するMI−SPMEの選択性の比
【0073】
【表1】
その選択性が高いため、MI−600℃ SPME繊維を、40ppmのDBBP、ならびに40ppmの構造的にDBBPと似たジオクチルフェニルホスホネート(DOPP)を含有する水溶液からのDBBP抽出に使用した。評価のために、MI−600℃ SPME繊維の平衡プロフィールを、非インプリント型600℃ SPME繊維の平衡プロフィールと比較した。これらのプロフィールを図11に示す。
【0074】
図11は、両繊維の平衡に約90分で達したことを示す。MI−600℃および非インプリント型600℃によって抽出されるDBBPの量は、BTEXを含まない水溶液からのDBBP抽出でみられた量に匹敵していた。両繊維の場合で、DOPPは、DBBPよりももっと簡単に抽出された。しかし、MI−600℃ SPME繊維は、非インプリント型600℃繊維と比べて、平衡状態で顕著に多くの量のDBBPを抽出し、わずかに多くの量のDOPPを抽出した。このことは、インプリントは、DBBPについては識別性を高めるが、DOPP中に含まれるホスホネート基も、程度はかなり小さいものの、分子インプリントされた表面に対するわずかな親和性をもつだろうことを示唆しているだろう。
【0075】
(分子インプリンティングに対するエレクトロスピニングの重要性)
固相抽出を行い、エレクトロスピニングプロセスが、DBBPのインプリントプロセスに影響を及ぼしているかどうかを決定した。ナノ繊維のエレクトロスピニング、ケイ素チップへの連続フィルムのスピンコーティングによって、MI−SU−8および非インプリント型SU−8、MI−600℃ PPの表面を作製した。抽出のため、これらのチップをDBBP飽和水溶液20mLに24時間浸した。抽出の後、溶液中に残存するDBBPの濃度を決定し、エレクトロスピニングされた相およびスピンコーティングされた相によって抽出されたDBBPの量を見つけた。表IIは、それぞれの吸着剤によって抽出されたDBBPの量を示す。
【0076】
表II.エレクトロスピニングされたか、スピンコーティングされたSU−8、MI−SU−8、600℃ PP、MI−600℃ PPで構成される吸着相によって抽出されたDBBPの量。飽和DBBP水溶液20mLから24時間かけて抽出を行った。
【0077】
【表2】
SPEデータは、ここでも、MI−SU−8が、非インプリント型ポリマーよりも多くのDBBPを抽出することを示している。さらに、MI−PPは、MI−SU−8より大量のDBBPを抽出したが、このことは、SPME実験の発見と一致している。しかし、最も重要なことに、これらのデータは、スピンコーティングされ、インプリントされたポリマーと比較して、エレクトロスピニングされ、インプリントされたポリマーの場合、インプリントに感知できるほどの差はないことを示している(すなわち、エレクトロスピニングが、分子インプリンティングを行うことに必須ではない)。
【0078】
(一般的な使用および繊維の安定性)
平均して、SPME繊維コーティングの有効な寿命は、20〜30回の抽出であることがわかり、繊維が伸び縮みするときに、SPMEホルダーの側面に対し、SPME繊維がこすられるため、繊維の欠陥が頻繁に起こる。しかし、MI−SU−8 SPME繊維の場合、DBBPに対する優先的な選択性は、一般的に、10〜15回使用した後に消えてしまうことが観察された。このことは、すでに述べたように、まったく予想できないことではない。しかし、MI−PP SPME繊維は、任意の処理温度でこのような挙動を示さず、繊維の欠陥が起こるまで、DBBPの優先的な抽出を示している。
【0079】
繊維コーティングの厚みは、インプリントされた繊維および非インプリント型繊維の両方で再現可能であり、同じ温度で熱分解した繊維で、変動は10%を超えなかった。両方の種類の繊維について、欠陥が起こる前に繊維の染み出しはみられなかった。
【0080】
(結論)
テンプレート分子としてDBBPを用い、エレクトロスピニングされたMI−SU−8およびMI−PPの調製について記載した。この試験で実施した全ての抽出は、エレクトロスピニングされたMI−SU−8繊維およびMI−PP SPME繊維が、非インプリント型SPME繊維に対し、DBBPテンプレート分子への選択性の向上を示すことを示した。分子インプリントの効果は、600℃で熱分解した繊維で最も顕著であった。MI−600℃ SPME繊維は、非インプリント型600℃繊維のほぼ4〜5倍のDBBPを抽出した。全てのMI−PP繊維は、抽出されたDBBPの量の少なくとも60%増加を示した。MI−SU−8 SPME繊維は、非インプリント型対照物と比較して、DBBP抽出の30〜40%増加を示した。これらの発見は、固相抽出によって裏付けられた。MI−SU−8 SPME繊維は、分子インプリントが、繰り返し使用すると悪化していき、SPME繊維の欠陥の前に、多くは低下してしまうことを示した。このことは、熱安定性が高いMI−PP SPME繊維ではみられなかった。
【0081】
本明細書に引用されているあらゆる特許、特許明細書、刊行物、電気的に入手可能な題材の完全な開示内容が、参考として組み込まれる。上の詳細な記載および実施例は、単に理解を明らかにするために与えられている。これらから不必要な限定はないと理解されるべきである。特に、本明細書に提示されている任意の操作理論は、任意であり、したがって、本願発明者らは、本明細書に記載の理論に束縛されない。本発明は、示され、記載されている実際の詳細に限定されず、当業者にとって明らかな改変は、特許請求の範囲によって規定される本発明に含まれるだろう。
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2010年3月2日に出願された米国仮特許出願第61/309,681号の利益を主張し、この出願は本明細書において参照として援用される。
【0002】
政府の財政的支援
本発明は、National Science Foundation(NSF)助成金番号NSF−0616709によって支援された。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
分子インプリンティングは、特定のテンプレート分子に合わせた認識特性をもつポリマーを調製することによるプロセスである。これは、テンプレート分子が存在する状態で合成ポリマーを架橋することによって達成される。その後、得られた架橋ポリマーマトリックスを洗浄することによってテンプレート分子を除去し、ポリマー内に、ポリマー内にあったテンプレートの大きさ、形状、化学機能に相補的な空洞が残る。得られた分子インプリントポリマー(MIP)は、他の分子が存在する状態で、そのテンプレート分子に選択的に結合する能力がある。非特許文献1;非特許文献2。この能力によって、このポリマーは、アフィニティによる分離、生体模倣型センサ、種々の有機合成をはじめとした種々の用途に理想的に適したものとなる。MIPは、確立されている技術(例えば、合成抗体)と比べ、製造するのが安価であるというだけではなく、化学的、熱的に安定であるという多くの利点をもっている。非特許文献3。しかし、ある種のMIPの分子テンプレートは、繰り返し使用しているうちに分解し、テンプレート分子に対するMIPの選択性が時間経過に伴って低下していくことがわかっている。
【0004】
固相マイクロ抽出(SPME)は、使用が容易であり、汎用性があり、信頼性が高いため、近年人気が高まってきている無溶媒抽出技術である。非特許文献4。SPMEデバイスは、固体支持体(典型的には繊維)の上に堆積した少量の抽出材料からなる。コーティングされた繊維は、目的のサンプルにさらされ、その場に存在する被分析物が、抽出材料のコーティングによって抽出される。次いで、分離および定量のために、被分析物を抽出材料のコーティングから分析装置(例えば、ガスクロマトグラフ)へと脱離させる。非特許文献5。
【0005】
SPMEは、水サンプル、ならびにさまざまなin−vitroおよびin−vivoでの生体液の中の揮発性および半揮発性の有機化合物の分析を含め、さまざまな用途に適用されてきた。非特許文献6;非特許文献7。SPMEの汎用性は、主に、さまざまな種類の繊維コーティングを利用することができることによるものである。現時点で市販されている炭素SPME繊維はない。非特許文献8。
【0006】
SPMEコーティングの製造に利用するために、ゾル−ゲル技術(非特許文献9)、電解重合を含め、多くのさまざまな方法が文献に記載されている。非特許文献10。本願発明者らは、最近、エレクトロスピニングによってSPME繊維コーティングを作製する方法を開発した。具体的には、SU−8 2100というネガティブフォトレジストを、ステンレス鋼ワイヤにエレクトロスピニングし、ナノ繊維の小片で構成されるコーティングを得た。しかし、これらの既知の技術を用いて得ることができるものよりも高い選択性または高い耐久性を示すコーティングをインプリントする必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Le MouUecら、J.Chromatogr.A、1139、171−177(2007)
【非特許文献2】Turielら、Anal.Chem.、79、3099−3104(2007)
【非特許文献3】Chronakisら、Macromolecules、39、357−361(2006)
【非特許文献4】Arthurら、J.Anal.Chem.、62、2145−2148(1990)
【非特許文献5】Pawliszyn、J.「Solid Phase Microextraction Theory and Practice」、Chap.2、11−42(1997)
【非特許文献6】Musteataら、J.Anal.Chem.、79、6903−6911(2007)
【非特許文献7】Vawdzikら、J.Liq.Chromatogr.Rel.Technol、27、1027−1041(2004)
【非特許文献8】Dietzら、J.Chromatogr.A、1103、183−192(2006)
【非特許文献9】Wangら、J.Chromatogr.A、893、157−168(2000)
【非特許文献10】Bagheriら、Anal.Chim.Acta、532、89−95(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
要旨
本発明は、分子インプリントすることが可能な改良型コーティングを提供する。本願発明者らは、炭素ナノ繊維系SPMEコーティングを作製するために、エレクトロスピニングされたナノ繊維を熱分解することができることを示した。Zeweら、Anal Chem.82、5341−8(2010)。この技術は、本明細書に記載されているように詳細に説明され、ここには、エレクトロスピニングされ、分子インプリントされたSU−8(MI−SU−8)および炭素、または分子インプリントされ、熱分解したポリマー(MI−PP)、ナノ繊維系SPMEコーティングの作製が記載されている。本明細書に記載される分子インプリントされた炭素は、従来技術の分子インプリントポリマーと比べ、多くの利点をもつ。主な利点の1つとしては、分子インプリントポリマーよりも炭素の熱安定性が高いため、この分子インプリントされた炭素は、操作寿命が長くなる。また、分子インプリントされた炭素は、従来の分子インプリントポリマーよりも化学安定性も高いはずである。
【0009】
ジブチルブチルホスホネート(DBBP)を、MI−SU−8 SPME繊維およびMI−PP SPME繊維の製造にインプリント分子として利用した。DBBPは、さまざまな化学兵器(CWA)の代用物となるが、目的のテンプレート分子にもなる。Malosseら、Analyst、133、588−595(2008)。本明細書では、非インプリント型SU−8繊維およびPP繊維と抽出性能を比較することによって、具体的には、水系マトリックスからDBBPを優先的に抽出する能力を、種々の妨害物質が存在する状態、存在しない状態で比較することによって、MI−SU−8 SPME繊維およびMI−PP SPME繊維を評価する。さらに、固相抽出(SPE)試験で、エレクトロスピニングされ、スピンコーティングされ、非インプリント型MI−SU−8およびMI−PPでコーティングされたシリカスライドの抽出性能と比較することによって、テンプレートプロセスに及ぼすエレクトロスピニングの影響を調べた。
【0010】
本発明は、分子インプリントポリマーを保有する基材(「熱分解プリフォーム」)を、分子インプリントされたコーティングが熱分解し、熱分解の前にコーティング中にあった分子インプリントのパターンを保持した炭素系コーティングを生じるような条件で加熱するような、分子インプリントされたコーティングを用いる固相マイクロ抽出の初期の研究とは異なる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様では、本発明は、熱分解した分子インプリントポリマーを提供する。一実施形態では、このポリマーは、熱分解され、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択される難黒鉛化性炭素を形成するのに適したポリマーである。別の実施形態では、このポリマーは、フォトレジストポリマーであり、例えば、エポキシ系ネガティブフォトレジストポリマーである。さらなる実施形態では、このポリマーは、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子によってインプリントされる。
【0012】
本発明の別の態様は、固体支持体を備え、その固体支持体の表面の少なくとも一部が、その上に分子インプリントされた炭素層を保有しているデバイスを提供する。一実施形態では、分子インプリントされた炭素層は、炭素ナノ繊維から作られる。別の実施形態では、このデバイスは、固相マイクロ抽出デバイスである。さらなる実施形態では、分子インプリントされた炭素層は、炭素層の表面に、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている。さらに他の実施形態では、分子インプリントされた炭素層は、複数の異なるテンプレート分子を用いてインプリントされたか、または、このデバイスは、各々が異なるテンプレート分子によって分子インプリントされた複数の領域を備えている。
【0013】
本発明のデバイスのさらなる実施形態では、分子インプリントされた炭素層は、エレクトロスピニングを行い、テンプレート分子が存在する状態でポリマー表面層を架橋し、テンプレート分子を除去して分子インプリントポリマー表面層を作製し、次いで、分子インプリントポリマー表面層を熱分解することによって、支持体の上にポリマー表面層を形成することによって製造される。さらなる実施形態は、あるポリマーを利用し、このポリマーは、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリル、またはエポキシ系ネガティブフォトレジストポリマーからなる群から選択される。
【0014】
本発明の別の態様は、サンプルから被分析物を選択的に抽出するプロセスを提供し、このプロセスは、サンプルと本発明のデバイスとを接触させることを含み、その分子インプリントされた炭素層が、炭素層の表面に、被分析物の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている。一実施形態では、被分析物の一部は、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子の一部に対応している。別の実施形態では、サンプルが、被分析物に加え、担体と、測定可能な量の少なくとも1つの他の分子とを含有する。
【0015】
本発明のさらなる態様は、固相マイクロ抽出デバイスを製造する方法を提供し、この方法は、架橋可能なベースポリマーとテンプレート分子とを含む混合物を、固体支持体の表面の少なくとも一部に塗布する工程と、ベースポリマーを架橋し、分子インプリントポリマー層を作製する工程と、分子インプリントポリマー層からテンプレート分子を抽出する工程と、分子インプリントポリマー層を熱分解し、分子インプリントされた炭素層を作製する工程とを含む。
【0016】
本発明の実施形態は、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択されるベースポリマーを含む。別の実施形態では、ベースポリマーは、エポキシ系ネガティブフォトレジストを含む。この方法のさらなる実施形態では、この混合物が、エレクトロスピニングによって固体支持体に塗布される。さらに別の実施形態では、ベースポリマーは、UV光を露光することによって架橋される。さらなる実施形態では、熱分解は、約550℃〜約650℃の範囲の温度で行われる。
【0017】
以下の図を参照することによって、本発明をもっと簡単に理解することができるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、エレクトロスピニング装置の概略図を与えており、エレクトロスピニングによってコーティングされるSPME繊維の調製を示している。
【図2】図2は、DBBPテンプレート分子を用いて分子インプリントされるSU−8の調製の概略図を与えている。DBBPをSU−8エレクトロスピニング溶液に混合し、この状態でDBBPとSU−8分子は、動的平衡状態にある。次いで、この溶液をステンレス鋼ワイヤにエレクトロスピニングし、架橋し、SU−8ポリマーマトリックスを硬化させる。次いで、この硬化したポリマーマトリックスを洗浄し、徹底的なソックスレー抽出によってDBBPテンプレート分子を除去し、DBBPに特異的な分子インプリントされたSU−8を与える。
【図3】図3は、エレクトロスピニングされたMI−SU−8 SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型SU−8 SPME繊維(■)を用い、40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図4A】図4Aは、エレクトロスピニングされたMI−SU−8 SPME繊維を用い、DBBP(▲)、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)をそれぞれ40ppm直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図4B】図4Bは、エレクトロスピニングされた非インプリント型SU−8 SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図4C】図4Cは、エレクトロスピニングされたMI−SU−8 SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型SU−8 SPME繊維(■)によって、40ppmのDBBPおよびBTEXを含有する水系マトリックスから抽出されたDBBPの量を比較するグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図5】図5は、エレクトロスピニングされたMI−400℃ SPME繊維(■)およびエレクトロスピニングされた非インプリント型400℃ SPME繊維(◆)を用い、40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図6】図6は、エレクトロスピニングされたMI−600℃ SPME繊維(■)およびエレクトロスピニングされた非インプリント型600℃ SPME繊維(◆)を用い、40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図7】図7は、エレクトロスピニングされたMI−800℃ SPME繊維(■)およびエレクトロスピニングされた非インプリント型800℃ SPME繊維(◆)を用い、40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図8A】図8Aは、エレクトロスピニングされたMI−400℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図8B】図8Bは、エレクトロスピニングされた非インプリント型400℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図8C】図8Cは、エレクトロスピニングされたMI−400℃ SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型400℃ SPME繊維(■)によって、40ppmのDBBPおよびBTEXを含有する水系マトリックスから抽出されたDBBPの量を比較するグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図9A】図9Aは、エレクトロスピニングされたMI−600℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図9B】図9Bは、エレクトロスピニングされた非インプリント型600℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図9C】図9Cは、エレクトロスピニングされたMI−600℃ SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型600℃ SPME繊維(■)によって、40ppmのDBBPおよびBTEXを含有する水系マトリックスから抽出されたDBBPの量を比較するグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図10A】図10Aは、エレクトロスピニングされたMI−800℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図10B】図10Bは、エレクトロスピニングされた非インプリント型800℃ SPME繊維を用い、ベンゼン(◆)、トルエン(●)、エチルベンゼン(■)、o−キシレン(X)を40ppm含有する水系マトリックス中、40ppmのDBBP(▲)を直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図10C】図10Cは、エレクトロスピニングされたMI−800℃ SPME繊維(◆)、エレクトロスピニングされた非インプリント型800℃ SPME繊維(■)によって、40ppmのDBBPおよびBTEXを含有する水系マトリックスから抽出されたDBBPの量を比較するグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。GC条件:30℃で1分間、次いで、5℃/分で100℃まで、12℃/分で140℃まで、2℃/分で190℃までのプログラム;入口温度を300℃に設定し、検出器温度を300℃に設定する。
【図11】図11は、エレクトロスピニングされたMI−600℃(DBBP(◆)およびDOPP(●))および非インプリント型600℃(DBBP(◆)およびDOPP(●))のSPME繊維を用い、40ppmのDOPPを含有する水系マトリックスから40ppmのDBBPを直接抽出するときの、時間に対する抽出効率のプロフィールを示すグラフを与えている。撹拌速度を最大の50%に設定し、室温、一定速度で撹拌する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
以下の説明は、当業者が本発明を製造し、使用することができるように提示している。さまざまな改変は、当業者にとって明らかであると思われ、本明細書に開示した一般的な原理を、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態および応用例に適用してもよい。したがって、本発明は、示している実施形態に限定されることを意図しておらず、本明細書に開示している原理および特徴と一致する最も広い範囲を認めるべきである。
【0020】
(定義)
他の意味であると定義されていない限り、本明細書で用いるあらゆる技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解しているのと同じ意味をもつ。矛盾する場合、定義を含め、本明細書が優先する。
【0021】
本明細書に記載の専門用語は、単に実施形態を記述するためのものであり、本発明を全体として限定すると解釈すべきではない。他の意味であると明記されていない限り、「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」、「少なくとも1つ(at least one)」は、相互に置き換え可能に使用される。さらに、本発明の記載および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形である「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」は、その周囲の内容から矛盾することが示されていない限り、複数形を包含する。
【0022】
また、本明細書では、複数の終点による数値範囲の引用は、その範囲内に含まれるあらゆる値を含む(例えば、1〜5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0023】
一態様では、本発明は、熱分解され、分子インプリントされた炭素系構造を形成する分子インプリントポリマーを提供する。この分子インプリントポリマーは、テンプレート分子の少なくとも一部の形状に対応する空洞を備えるようにインプリントされたポリマーである。テンプレート分子は、大きさが1ミクロン以下であってもよいが、実際に空洞を形成するテンプレート分子の一部は、実質的にこの大きさより小さくてもよい。分子インプリントポリマーは、本明細書では、熱分解「プリフォーム」とも呼ばれ、本明細書に記載の方法を用いて調製することができる。
【0024】
このポリマーは、ベースポリマー混合物にテンプレート分子を含むことによってインプリントされる。ベースポリマー混合物を架橋し、テンプレート分子の少なくとも一部の周囲に、架橋したポリマー内の空洞にテンプレート分子を保持するような、もっと永久的な構造を形成する。次いで、テンプレート分子を除去すると、テンプレート分子の少なくとも一部の形状がインプリントされたポリマーが得られる。この分子インプリントされたポリマーは、空洞の形状と、テンプレート分子の少なくとも一部の形状が対応していることから生じる分子インプリントポリマー内の空洞に対するこれらのテンプレート分子の親和性の結果、再びさらされるとテンプレート分子またはその一部をあらわす被分析物に結合する能力をもつ。サンプル中にさまざまな分子が存在する場合、空洞は、テンプレート分子に対応する被分析物に対し、きわめて優先的な結合性を示す。
【0025】
次いで、分子インプリントポリマーを熱分解し、分子インプリントされた炭素系構造を作製する。熱分解は、ポリマーを選択的に燃焼させ、ポリマーと炭素構造を置き換える。その表面の本質的な物理構造は、熱分解中も保持されているが、構造の化学組成は変化する。したがって、ポリマー繊維は、炭素繊維に変換され、テンプレート分子の周囲に作られる空洞は、熱分解の結果、分子インプリントされたポリマーから作られる分子インプリントされた炭素でも保持されているだろう。熱分解の前のコーティング中の分子インプリントパターンを保持する炭素系コーティングに熱分解することが可能な、分子インプリントポリマーから作られる任意のコーティングに本発明を実施することができることが理解されるだろう。熱分解プリフォームを基材に塗布する場合、好ましくは、この基材は、熱分解反応を行ったときにも、同じように物理的一体性を保持している。
【0026】
熱分解プリフォームとして用いられるポリマーは、熱分解して難黒鉛化性炭素を作製するのに適したポリマーであるべきである。難黒鉛化性炭素は、熱分解のときにどれほど多くの熱をポリマーに加えても、結晶性グラファイトを生成しないと思われる炭素である。難黒鉛化性炭素は、ナノサイズの黒鉛sp2炭素領域を含む不規則な炭素系である。
【0027】
分子インプリントされた炭素を調製するとき、好ましくは、分子状炭素の含有量が大きい分子インプリントポリマーが用いられる。すなわち、このポリマーコーティングを構成するポリマー分子を形成する炭素原子の量は、重量基準でこれらのポリマー分子の少なくとも50%でなければならない。炭素原子の量が、これらのポリマー分子の少なくとも60wt.%、少なくとも70wt%、少なくとも75wt.%、またはさらに少なくとも80wt.%であるポリマーが好ましい。特定の例としては、上の作業例に記載した種々のエポキシ樹脂だけではなく、例えば、ポリアセチレンおよび種々のオリジン(oligyne)ポリマーが挙げられる。例えば、使用するポリマーは、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルポリマーからなる群から選択されてもよい。
【0028】
ある用途のために、使用するポリマーがフォトレジストポリマーであることが好ましい場合もある。フォトレジストは、種々の産業プロセス(例えば、フォトリソグラフィーおよび写真製版)で使用し、表面にパターン形成されたコーティングを作製する感光性材料である。好ましくは、このポリマーは、ネガティブフォトレジストである。ネガティブフォトレジストは、露光したフォトレジストの部分が、フォトレジスト現像剤に不溶性になるような種類のフォトレジストである。このフォトレジストの露光していない部分は、フォトレジスト現像剤に溶解し、基板表面のある部分が覆われていない状態になる。好ましいポリマーは、エポキシ系ネガティブフォトレジストであり、特に、SU−8シリーズのネガティブフォトレジストである。
【0029】
また、熱分解した分子インプリントポリマーを炭素繊維として提供してもよい。炭素繊維を作製するために、熱分解プリフォームは、熱分解中に保持される繊維構造でなければならない。炭素繊維は、ミクロ繊維またはナノ繊維であってもよい。ナノ繊維は、直径が1ミクロン未満である。ナノ繊維を含む実施形態は、繊維の直径が50〜800ナノメートル、200〜600ナノメートル、または300〜500ナノメートルであってもよい。ナノ繊維の質量および直径は、一般的に、ポリマーが熱分解して炭素になるにつれて減少し、温度が高くなるにつれて収縮量も大きくなる。例えば、重さが0.52mgのSU−8ポリマーの小片は、600℃で熱分解することによって、0.33mgの炭素に変換され、800℃で熱分解することによって、0.20mgの炭素に変換される。熱分解は炭素繊維の大きさに影響を与えないが、熱分解プリフォームをインプリントするのに使用されるテンプレート分子に対する分子インプリントされた炭素の親和性には、驚くべきことにほとんど影響を示さない。炭素繊維の使用は、表面積の大きなコーティングを与えるという利点があり、テンプレート分子による多量の結合を与えることができる。熱分解プリフォームの熱分解によっても、繊維の表面積が増える。
【0030】
本発明の別の態様は、固体支持体を備え、その固体支持体の表面の少なくとも一部が、分子インプリントされた炭素層を保有しているデバイスを提供する。固体支持体の表面の任意のかなりの量が炭素層を備えていてもよく、炭素層は、連続している必要はない。例えば、炭素層は、固体支持体の表面の5%〜100%を占めていてもよい。コーティングは、固体支持体の表面に直接存在していてもよく、または、ある実施形態では、結合性を高めるために、炭素層と固体支持体との間にさらなる接着材料が含まれていてもよい。固体支持体という観点で、熱分解反応の結果、構造一体性を保持していると思われる任意の材料を、分子インプリントされた炭素層の支持体として用いることができる。最初は分子インプリントポリマーを支持し、最終的に後で分子インプリントされた炭素を支持するために、支持体は固体である必要があるが、支持体は、剛性である必要はない。例えば、ある実施形態では、固体支持体として可とう性材料を用いることが好ましい場合がある。インコネルなどを含め、金属(特に、ステンレス鋼、および熱分解中に直面する高温および還元条件で反応性ではない他の金属)を使用してもよい。入手可能性、費用、耐久性から、ステンレス鋼が好ましい。したがって、好ましい実施形態では、固体支持体は、ステンレス鋼ワイヤを含む。
【0031】
炭素層は、固体支持体表面に塗布される熱分解プリフォームの厚みに依存して、さまざまな厚みであってもよい。例えば、厚みが2〜50マイクロメートル、3〜30マイクロメートル、または5〜15マイクロメートルの分子インプリントされた炭素層の種々の実施形態。炭素層は、炭素層が炭素繊維で構成されるとき、小片の形態であろう。
【0032】
好ましい実施形態では、デバイスは、固相マイクロ抽出デバイスである。固相マイクロ抽出(SPME)は、無溶媒抽出方法である。機能するために、デバイスは、単にかなりの量の分子インプリントされた材料を保有できることが必要であり、したがって、形状は実質的に変わってもよい。簡便のために、コーティングされた材料の棒を典型的には使用する。ある実施形態では、デバイスは、さまざまな異なる分子テンプレートに感受性のインプリントされた部分を含んでいてもよく、その結果、デバイスは、アレイとして機能することができる。または、炭素層は、デバイスが複数の異なる被分析物を抽出するように、さまざまな異なる分子テンプレートで分子インプリントされてもよい。
【0033】
前述のことから、本発明の焦点は、固相マイクロ抽出のための分子インプリントされた炭素コーティングを製造することであることがわかるだろう。しかし、本発明は、他の用途で有用な生成物を製造するために使用することもできる。例えば、本発明にしたがって製造された分子インプリントされた炭素系表面を有する生成物を、大規模バルク抽出のため、クロマトグラフィーの固定相または支持体を製造するため、また、さまざまな異なる種類の分子および他のこのような用途のためのセンサを製造するために使用してもよい。さらに、このような生成物は、本質的に任意の形態、例えば、上述のコーティングされた生成物の形態、塊状(すなわち、コーティングされていないか、または基材に保持されていない炭素系材料の塊の形態)、または任意の他の望ましい物理形態で製造することができる。その場合、生成物の分子インプリントされる表面は、上述の同じ材料から、上述の同じ熱分解アプローチを用いて製造することができる。
【0034】
本明細書に記載する場合、炭素層内に存在する分子インプリンティングは、層の表面に、テンプレート分子の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている。本明細書で使用する場合、テンプレート「分子」は、実際に、複数の分子を含む粒子(例えば、ウイルス粒子)であってもよい。しかし、テンプレート分子が1ミクロン以下の大きさをもつことが好ましい。代替的な実施形態では、テンプレート分子は、大きさが500ナノメートル以下、250ナノメートル以下、または100ナノメートル以下であってもよい。ある実施形態では、テンプレート分子のほぼ100%が空洞を形成するために用いられてもよく、一方、他の実施形態では、テンプレート分子の一部のみが空洞を形成するために用いられてもよい。しかし、1個のテンプレート分子が、分子インプリンティングプロセスの部分として空洞を形成するのに有用な複数の領域をもっていてもよい。
【0035】
テンプレート分子を除去するために、また、得られた空洞に、後でテンプレート分子を抽出する機能を持たせるために、空洞は、炭素層の内側に埋没しているのではなく、炭素層の表面に存在しなければならない。したがって、炭素繊維を使用する場合のように、炭素層が高い表面積をもつことが好ましい。表面に空洞が存在するとは、空洞の一部を形成し、炭素層の表面に配置された穴を通り、炭素繊維の外側から空洞に近づくことができることを意味する。
【0036】
本明細書でさらに詳細に記載されるように、分子インプリントされた炭素層は、支持体の上にポリマー表面層を形成し、テンプレート分子が存在する状態でポリマー表面層を架橋し、テンプレート分子を除去して分子インプリントポリマー表面層を作製し、次いで、分子インプリントポリマー表面層を熱分解し、分子インプリントされた炭素層を作製することによって製造される。
【0037】
本発明の別の態様は、固相マイクロ抽出デバイスを製造する方法を提供する。この方法は、架橋可能なベースポリマーとテンプレート分子とを含む混合物を、固体支持体の表面の少なくとも一部に塗布する工程と、ベースポリマーを架橋し、分子インプリントポリマー層を作製する工程と、分子インプリントポリマー層からテンプレート分子を抽出する工程と、分子インプリントポリマー層を熱分解し、分子インプリントされた炭素層を作製する工程とを含み、これにより、固体支持体を含み、その少なくとも一部に分子インプリントされた炭素層を保有する固相マイクロ抽出デバイスが作製される。
【0038】
本発明のこの態様にしたがって分子インプリントポリマー(すなわち、熱分解プリフォーム)を製造することは、本明細書に記載するように、既知の技術を用いて行われる。すなわち、分子インプリントされるコーティングが過去に作られたのと同じ様式で熱分解プリフォームが作られ、上述の炭素含有量が高いポリマーのコーティングと、熱分解反応の結果、物理的一体性を保持する基材とを選択するように注意を払う。分子インプリントされたポリマーを、当業者に既知のさまざまな異なる方法を用いてデバイス表面に塗布することができる。Dietzら、J.Chromatogr.A、1103、183−192(2006)およびJiangら、J.Chromatogr.Sci.44、324−332(2006)を参照。使用可能な方法の例としては、エレクトロスピニング、スピンコーティング、ゾル−ゲル技術および電解重合が挙げられる。
【0039】
熱分解プリフォームは、架橋可能なベースポリマーから調製される。架橋可能なポリマーは、当業者なら知っているように、架橋して固体構造を形成するモノマーを含む。架橋は、例えば、化学的に、または照射によって誘導することができる。架橋を促進するために、混合物に架橋剤を与えてもよい。SU−8ポリマーの場合、架橋剤を用い、ベースポリマーは、UV光を露光することによって架橋する。
【0040】
架橋可能なベースポリマーおよびテンプレート分子を、混合物として固体支持体に塗布する。架橋可能なベースポリマーおよびテンプレート分子の両方の支持に役立ち得る溶媒を用い、混合物を与える。例えば、SU−8および種々のフェニル化合物の場合、シクロペンタノンは、適切な溶媒を与える。2〜10%のテンプレート分子と70〜80%のSU−8ポリマーを、SU−8が2%〜75%の範囲になるように用いることが、混合物の好ましい組成である。
【0041】
この混合物を固体支持体に塗布する好ましい方法は、エレクトロスピニングによる方法である。ポリマー繊維のエレクトロスピニングによって、ミクロサイズまたはナノサイズの繊維を作ることができる。エレクトロスピニングは、ポリマー溶液と導電性コレクタとの間を高電場にすることを含む。この電場が、液滴の表面張力を超えるほど強い場合、テイラーコーンが作られる。テイラーコーンが作られた後、ポリマーのナノ繊維が導電性コレクタに向かって放出される。Ramakrishnaら、「An introduction to Electrospinning and Nanofibers」、World Scientific、Rivers Edge N.J.(2005)を参照。エレクトロスピニングの使用に関する詳細な記載は、本明細書に提示した実施例の中にある。フォトレジストポリマーSU−8のエレクトロスピニングを最適化するためのパラメータは、Steachら、J.Appl.Polym.Sci.、118 405−412(2010)に記載されている。
【0042】
熱分解プリフォームを製造したら、熱分解し、熱分解前に存在したコーティング中の分子インプリントパターンを保持する炭素系コーティングを製造する。このことは、不活性雰囲気または中程度の還元雰囲気下、熱分解プリフォームを400℃〜800℃の高温で所定時間(例えば、少なくとも5時間程度)加熱し、分子インプリントされたコーティングを形成する材料を分解蒸留することによって達成することができる。熱分解反応で使用する雰囲気の性質、ならびに熱分解反応時間に依存して、300℃の低温から1500℃の高温までの熱分解温度が想定されている。同様に、熱分解反応で使用する雰囲気の性質、ならびに熱分解反応温度に依存して、1時間と短い時間から5日程度の長い時間までの熱分解が想定されている。本明細書の実施例に与えられているデータによって示されるように、約550℃〜約650℃の温度範囲内の温度で行われる熱分解が、最もよい結果を与えるようである。
【0043】
この観点で、熱分解反応に不活性雰囲気を用いてもよいが、分子インプリントポリマーコーティングを形成する材料の分解、熱分解プリフォームの基質からの不安定成分の気体放出、またはこの両者の結果として存在し得る不安定な酸素または他の反応性化学物質を捕捉するために、中程度の還元雰囲気が好ましい。作業例に示されるように、主に不活性気体と、少量の(例えば、約1〜40vol.%、さらに典型的には、2〜20vol.%、3〜15vol.%、4〜10vol.%、またはさらに約5vol.%の)H2または他の中程度の還元性気体を含む中程度な還元雰囲気が好ましい。分子インプリントされた炭素の分解を避けるために、酸化性気体は使用すべきではない。
【0044】
本発明の別の態様は、固体支持体を備え、固体支持体の表面の少なくとも一部分に分子インプリントされた炭素層を保有するデバイスを用い、サンプルから被分析物を選択的に抽出するプロセスを提供する。このプロセスは、サンプルと、分子インプリントされた炭素層を含む固体支持体を備えるデバイスとを接触させることを含み、その分子インプリントされた炭素層が、炭素層の表面に、被分析物の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている。
【0045】
このプロセスは、さらに、サンプルからの被分析物の抽出を検出する工程を含んでいてもよい。例えば、炭素層表面の空洞内の被分析物を抽出するとき、炭素層の物理的特徴の変化を検出することができる。または、例えば、分光法によって、炭素層に被分析物が存在するのを直接検出することができる。サンプル内の被分析物の濃度減少を示すことによって、抽出を検出することができる。または、分離および定量のために、被分析物を、分子インプリントされた炭素から分析装置(例えば、ガスクロマトグラフ)へと脱離させることができる。
【0046】
被分析物という用語は、本明細書で使用する場合、テンプレート分子の少なくとも一部に対応する分子を指す。ある実施形態では、被分析物とテンプレート分子は、同じであってもよい。例えば、本明細書に記載した実施例の被分析物とテンプレート分子(DBBP)は同じである。しかし、被分析物は、テンプレート分子全体の一部をあらわしていてもよい。したがって、テンプレート分子は、ある実施形態では、複数の被分析物に感受性の本発明のデバイスを提供していてもよい。例えば、ウイルス粒子をテンプレート分子として使用してもよいだけではなく、ウイルスのタンパク質コーティングを被分析物として使用してもよい。または、テンプレート分子は、混合物へのテンプレートの溶解度を高めるために、目的の被分析物とは無関係な、可溶性を高める部分のようなさらなる材料を含んでいてもよい。
【0047】
本発明のデバイスを用いて被分析物を抽出するプロセスを、種々の異なる目的の被分析物に用いてもよい。本質的に、適切なテンプレート分子の少なくとも一部に対応する任意の被分析物を使用することができる。目的の被分析物の1種は、ジブチルブチルホスホネート(DBBP)が代用物として作用する化学兵器である。化学兵器を検出するプロセスで使用される本発明のデバイスは、化学兵器にさらされる場所であり得ると思われる環境中の有害な薬剤への暴露を検出する有用な無溶媒方法を与えることができるだろう。容易に抽出可能な被分析物の特定の例は、リンを含有する被分析物、例えば、リンを含有する化学兵器であり、分子インプリントされた炭素に高い親和性を示す。または、本発明のデバイスを用いて被分析物を抽出するプロセスを使用し、作業場の有害な化学物質を監視することができ、または、環境中にある化学物質を検出することが望ましいような広範囲の他の用途に用いることができる。
【0048】
被分析物の供給源として有用な非常にさまざまなサンプルが本明細書で想定されている。サンプルは、従来からあるサンプルであってもよく、例えば、廃棄水または体液のような液体の一部であってもよい。または、サンプルという用語は、環境にデバイスを単にさらすことを包含するようなもっと広い意味で用いることができる。例えば、化学兵器を検出するプロセスを使用する例では、サンプルは、単にデバイスを持った使用者がある一定期間にわたって通り過ぎる空気であってもよい。本発明のプロセスは、従来のSPMEによって調べられるのに適した任意のサンプルに用いてもよい。Musteataら、J.Anal.Chem.、79、6903−6911(2007)およびVawdzikら、J.Liq.Chromatogr.Rel.Technol、27、1027−1041(2004)を参照。ある単純な実施形態では、サンプルは、単に、被分析物(例えば、水または空気)を懸濁する担体と、1種類の被分析物とを含む。しかし、サンプルが、被分析物に加え、担体と測定可能な量の少なくとも1つの他の分子を含む、もっと複雑な実施形態も想定されている。それに加え、本明細書で述べられるように、本発明のデバイスは、複数の被分析物を別個に、またはある分類として検出するような構成であってもよい。
【0049】
以下の実施例は、単に説明するために与えられており、いかなる様式でも本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例】
【0050】
この実施例で、本願発明者らは、エレクトロスピニングされ、分子インプリントされた(MI)−SU−8および分子インプリントされ、熱分解したポリマー(MI−PP)SPMEデバイスが、抽出時間のプロフィールによって示されるようにDBBPに対し、高い選択性をもつことを示す。全てのMI−SPME繊維は、非インプリント型の対照物よりも、少なくとも60%より多いDBBPを抽出した。MI−600℃繊維は、最も大きな効果を示し、非インプリント型600℃ SPME繊維と比較し、5倍を超える量のDBBPを抽出した。さらに、いくつかの固相抽出(SPE)試験を実施し、テンプレートプロセスに及ぼすエレクトロスピニングの影響を、エレクトロスピニングされ、スピンコーティングされたMI−SU−8およびMI−PPのシリカチップ両方の抽出性能を比較することによって決定した。
【0051】
(実験例)
(材料)
ジブチルブチルホスホネート(90%)、ジオクチルフェニルホスホネート(95%)、ベンゼン(99.9%)、トルエン(99.8%))、エチルベンゼン(99.8%))、o−キシレン(98%))を抽出に利用し、これらをSigma Aldiichから購入した。HPLCグレードのメタノールを、DBBP溶液およびDOPP溶液の調製に使用し、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o−キシレンの溶液をジクロロメタンを用いて調製した。
【0052】
(装置および器具)
SPME繊維によって抽出された全化合物を、圧力を制御したスプリット有/スプリット無注入口と、フレームイオン化検出器とを備えるHewlett− Packard 5890 Series II Plusガスクロマトグラフを用いて分析した。Agilent Technologies製のHP−5MS GCキャピラリー(膜厚0.25μm、長さ30m、内径0.255mm)と接続した、内径が0.75mmの注入スリーブを利用した。Spellman CZE 1000R高電圧電源およびHarvard Model 33デュアルシリンジポンプを両方とも、図1に示すエレクトロスピニング装置に使用した。Lindberg/Blue TF55030Aを使用し、非インプリント型SPME繊維およびMI−SU−8でコーティングされたSPME繊維を熱分解し、これらを炭素に変換した。
【0053】
(SPME繊維製造のための材料の調製)
分子非インプリント型SPMEデバイスのエレクトロスピニング溶液は、SU−8 2100ネガティブフォトレジスト(MicroChem Corporation(ニュートン、MA)製)およびシクロペンタノン(Sigma Aldrich製)の75%(v/v)溶液であった。SU−8 2100は、エポキシ型ベースポリマーと光反応性架橋剤とで構成されている。このレジストは、UV光を露光すると、架橋剤がポリマーを架橋するので、硬化する。このために、SU−8溶液のあらゆる処理は、SU−8が予定より早い時期に架橋しないように、黄色光の下で行われた。この溶液を最短で24時間撹拌し、エレクトロスピニング用の10mLシリンジで抜き取る前に、均一にした。シリンジ内の溶液が、エレクトロスピニングの前に気泡を含まないように注意した。
【0054】
MI−SPMEデバイスのエレクトロスピニング溶液は、この溶液にDBBPを加える以外は、上述の溶液と同じであった。エレクトロスピニング溶液中のDBBPの最終濃度は、0.1Mであった。DBBPを加えた後、この溶液を、エレクトロスピニング用の10mLシリンジに移す前に、少なくとも48時間撹拌した。このように撹拌時間を延ばすことで、SU−8とDBBPテンプレート分子とを会合させた。これらのエレクトロスピニング試験の全てに利用するコレクタは、Small Parts(マイアミレイクス、FL)製の直径が約127μmの小さなステンレス鋼繊維であった。エレクトロスピニングの前に、これらのステンレス鋼繊維を、最終的な長さが1.5cmになるように切断し、メタノールで洗浄し、乾燥器内で、80℃で30分間乾燥させた。
【0055】
(SPME繊維の製造)
ここで使用するエレクトロスピニングのパラメータは、Zeweら、Anal Chem.82、5341−8(2010)に記載されている。ステンレス鋼繊維は、エレクトロスピニング溶液を保持しているシリンジの末端から10cmの位置にあり、アリゲータークリップによって接地していた。かけられた電圧は9kVであり、エレクトロスピニング溶液の流速は0.02mL/分であった。全ての繊維について、エレクトロスピニングの持続時間は、1分であった。エレクトロスピニングされたSU−8繊維でステンレス鋼ワイヤをコーティングしたら、UV光を5分間露光し、SU−8繊維を架橋した。
【0056】
(分子インプリントされたSU−8繊維の調製)
DBBP/SU−8エレクトロスピニングされた繊維でコーティングしたステンレス鋼繊維にUV光を露光することによって架橋したら、ヘプタンのバイアルに少なくとも24時間置いた。この間、バイアル内部の溶液を磁気によって撹拌した。その後、繊維を徹底的なソックスレー抽出に最低で24時間かけ、このときもヘプタンを用いた。これらの工程の目的は、ポリマーマトリックスからDBBPテンプレート分子を除去することであり、MI−SU−8ナノ繊維が残った。分子インプリンティングプロセスの機構を図によってあらわしたものを図2に示す。
【0057】
(エレクトロスピニングされたSU−8繊維の熱分解)
炭素コーティングされたSPMEデバイスを作るために、エレクトロスピニングされたSU−8ナノ繊維で覆ったワイヤをLindberg/Blue TF55030A石英管の炉の中で熱分解した。エレクトロスピニングによってコーティングされたワイヤを石英管の内側に置き、作製用気体混合物(95%N2および5%H2)を熱分解を継続している間、管に連続して流し、作製用気体は、熱分解が開始する前に全ての酸素が管から追い出されるように、20分間管を通して最初に流しておいた。望ましい熱分解温度に達するまで、1℃/分の上昇温度を用い、繊維を最終温度に最短で5時間保持した後、室温まで冷却した。400、600、700、800℃で熱分解した繊維をこの試験で利用した。
【0058】
分子インプリントされた繊維と、非インプリント型繊維の熱分解条件は同じであった。しかし、熱分解の前に、上述のように、洗浄およびソックスレー抽出によって、繊維からテンプレート分子(DBBP)を除去した。
【0059】
(SPME繊維の集合体)
市販のSPME繊維集合体を、エレクトロスピニングによってコーティングされたステンレス鋼繊維で改良し、コーティングされた繊維を、高温エポキシ(Epoxy Technology(ビルリカ、MA)製)と用いて集合体と接続し、乾燥器中、80℃の温度で1時間かけて硬化させた。エポキシが硬化したら、繊維をGC注入口に少なくとも30分間置き、安定なシグナルベースラインが得られるまで保持した。注入口の温度は、300℃であった。
【0060】
(SPEのためのケイ素チップのコーティングおよび処理)
抽出実験のために1.0×1.5cmの四角形に切断したケイ素ウェハのチップ。次いで、これらのチップをメタノールで洗浄し、次いで、乾燥器中、80℃で30分間乾燥した。エレクトロスピニングによってコーティングしたケイ素チップを、SPMEワイヤのコーティングについて記載したのと同じ様式で調製した。エレクトロスピニングの時間は20分であった。
【0061】
ケイ素チップをコーティングするにも、スピンコーティング手順を使用した。SU−8 2100で使用したスピンコーティングのパラメータは、SU−8フォトレジスト製品品目に関する情報について、MicroChem Corp.のウェブサイトで入手可能である。ケイ素チップをスピンコーティングするために、WS−400A−6NPP/Liteシングルウェハスピンプロセッサ(Laurell Technologies Corporation(北ウェールズ、PA))を使用した。スピンコーティングのプログラムは、初期の5秒間に上昇、上昇率が100rpm/s〜500rpm、10秒間保持から構成されていた。第2の上昇、上昇率300rpm/sは、8.3秒間実施され、回転速度が3000rpmに達し、この状態で、手順が終了するまで30秒間保持された。プログラム開始時に、非インプリント型またはMI−SU−8のいずれか1mLを運んだ。スピンコーティングされたケイ素チップを架橋し、テンプレートを除去し、熱分解する手順は、エレクトロスピニングによってコーティングされたケイ素チップおよびエレクトロスピニングによってコーティングされたSPMEワイヤに使用したのと同じであった。
【0062】
(抽出および分析の手順)
全ての抽出を40mL EPAバイアル内で行った。このバイアルにEPA PTFE/シリコーン(10/90)セプタム(National Scientific(ロックウッド、TN))で蓋をした。全ての抽出にナノ純水(18MO−cm)を利用し、全ての被分析物は、濃度40ppmで存在した。全ての溶液を、IKA C−MAG HS7撹拌プレートによって出力50%に制御したテフロン(登録商標)撹拌棒(Fisher Scientific(ハノーバーパーク、IL))を用いて撹拌した。抽出時間のプロフィールは、DBBPと、DBBPおよびBTEXの混合物を抽出することからなっていた。バイアル内のナノ純水を、試験化合物それぞれに入れ、SPME繊維を系に入れる前に20分間撹拌した。割り当てられた時間の間、繊維は系内に留まっており、その後、ガスクロマトグラフに移した。
【0063】
(結果および考察)
(分子インプリントされたSPME繊維および非インプリント型のエレクトロスピニングされたSPME繊維の比較)
エレクトロスピニングされたMI−DBBP SU−8 SPME繊維が、エレクトロスピニングされた非インプリント型SU−8 SPME繊維に比べ、DBBPに対して選択性が優れていることは、各繊維について、水系マトリックスから40ppmのDBBPを直接抽出するための抽出時間プロフィールを比較することによって最初に示された。これらの抽出結果を図3に示す。
【0064】
約60分間で平衡に達したら、MI−SU−8 SPME繊維は、非インプリント型SU−8 SPME繊維よりも顕著に多くのDBBPを抽出した。エレクトロスピニングされた相(SU−8)の量は、重量で測定した場合、両方の繊維に存在していたため、これらの結果は、MI−SU−8 繊維が、非インプリント型繊維よりもDBBPに対して大きな分配定数を持っていることを示唆している。この傾向から、両方の種類の繊維を、化合物群としてBTEXと一般的に呼ばれているベンゼン(B)、トルエン(T)、エチルベンゼン(E)、o−キシレン(X)を40ppm含むもっと複雑なマトリックスに塗布したときにも観察された。
【0065】
これらの実験結果を図4に提示している。図4の結果は、SU−8の吸着部位に対するBTEXとDBBPの競争によって、平衡時間が短くなることを示す(競争抽出の場合30分、BTEX化合物を含まないDBBP抽出の場合60分)。さらに、BTEX化合物の相対的な抽出を比較するとき、分子インプリントの存在は、抽出されるo−キシレンの量に影響を与えると思われ、インプリントされた繊維の場合、o−キシレンの抽出が減る。
【0066】
MI−PP繊維でコーティングされたワイヤの性能も、PPエレクトロスピニングされた非インプリント型繊維でコーティングされたSPME繊維の性能と比較した。分子インプリントされた繊維と、非インプリント型繊維を400、600、800℃で熱分解したものを、40ppmのDBBPを含有する水系マトリックスを直接抽出することによって、最初に評価した。次いで、これらを、40ppmのBTEX化合物を妨害物質として含む水系マトリックスからDBBPの直接抽出に適用した。400、600、800℃で熱分解したSPME繊維について、DBBPのみを含有する溶液からの抽出結果をそれぞれ図5、図6、図7に示す。BTEX化合物を含有する溶液からのDBBP抽出の平衡プロフィールを図8〜10に示す。
【0067】
図5は、MI−400℃ SPME繊維が、平衡状態で非インプリント型400℃ 繊維よりも多くのDBBPを水溶液から抽出したことを明らかに示している。両方の繊維の平衡状態は、約60分間で達成された。図6および図7は、MI−600℃繊維およびMI−800℃繊維が、両方とも、非インプリント型の対照物よりも多くのDBBPを抽出することを示している。これらの繊維それぞれの平衡時間は、約30分であった。抽出されるDBBPの合計量は、繊維の上の相の合計量が、処理温度に伴って低下していくという過去に観察した結果と同様に、熱分解温度を上げるにつれて下がると思われた。インプリントされた繊維の中で、MI−400℃繊維は、MI−600℃繊維よりも多くの量を抽出した。MI−800℃は、最も少ない量のDBBPを抽出した。非インプリント型繊維の中では、非インプリント型400℃繊維が、最も多くのDBBPを抽出し、非インプリント型800℃繊維によって最も少ない量のDBBPが抽出されるという傾向は、維持されていた。また、インプリントされた繊維に対する選択性は、600℃のものが他の処理温度と比較して高かった。
【0068】
MI−400℃が、BTEXを含む水溶液からDBBPを抽出する性能も、図8Aに示している。エチルベンゼンが最も多く抽出された被分析物であり、平衡には約60分で達した。図8Bは、非インプリント型400℃繊維について、水溶液中のDBBPおよびBTEXの平衡曲線を示す。MI−400℃ SPME繊維を用いた場合、エチルベンゼンが最も多く抽出された被分析物であり、平衡時間は約60分であった。BTEX化学物質の全てが、MI−400℃繊維よりも、非インプリント型400℃繊維によって簡単に抽出された。図8Bは、各繊維について、BTEXを含有する水溶液から抽出されたDBBPの量の直接比較を示す。平衡に達したら、MI−400℃繊維は、非インプリント型400℃繊維よりも多くのDBBPを抽出する。
【0069】
MI−600℃繊維および非インプリント型600℃繊維について、水溶液からDBBPおよびBTEXを抽出する平衡状態のプロフィールをそれぞれ図9Aおよび図9Bに示す。両方の場合で、エチルベンゼンはここでも最も多く抽出された化合物であるが、非インプリント型600℃繊維の場合、もっと量が多かった。DBBPの平衡状態には、MI−600℃繊維では約60分間で達し、非インプリント型600℃繊維では30分間で達した。しかし、図9Cに示されているように、MI−600℃は、非インプリント型600℃繊維よりもかなり多くの量のDBBPを抽出した。MIと非インプリント型600℃繊維の競争なしにDBBPの抽出を示した図6と比較し、抽出されたDBBPの量は、MI−600℃繊維と同等であった。競争から、非インプリント型600℃繊維の場合、DBBPの抽出にもっと負の影響を及ぼすと思われる。
【0070】
図10Aおよび図10Bは、MI−800℃ SPMEおよび800℃ SPMEについて、それぞれ水系マトリックスからのDBBPおよびBTEXの抽出を示す。平衡状態には、両方の繊維とも60分で達した。驚くべきことに、エチルベンゼンは、両方の繊維について、同じように最も多く抽出された被分析物のままであった。400℃および600℃で処理された繊維とは異なり、MI−800℃繊維は、最も多くのDBBPと最も多くのBTEXを抽出し、他の2つの場合には、非インプリント型繊維は、その分子インプリントされた対照物よりも多くのBTEXを抽出した。図10Cは、BTEX水溶液からDBBPを抽出するときの2種類の繊維の性能を比較している。MI−800℃は、非インプリント型繊維と比較して、DBBPの抽出量の向上が示された。競争は、800℃で処理した両繊維に悪い影響を与えるようであった。図10Cと図7を比較すると、MI−800℃繊維も非インプリント型800℃繊維も、BTEX妨害物質が存在しない場合に、水溶液から多くのDBBPを抽出することができたのは明らかである。
【0071】
全ての処理温度について、競争が存在する場合、しない場合の両方で、抽出されたDBBPの量は、非インプリント型PP繊維よりもMI−PP繊維で高かった。さらに、MI−PP繊維は、その非インプリント型の対照物よりも抽出されたBTEXが少なく、このことは、DBBPに対する選択性が高いことを示している。これとは異なる唯一の繊維は、MI−800℃ SPME繊維であり、非インプリント型800℃ SPME繊維よりも多くのDBBPおよびBTEXを抽出した。競争は、繊維によって吸着するDBBPの量に影響を与えると思われる。MI−600℃ SPME繊維のみが、DBBPのみを含有する水溶液からの平衡プロフィールと比較したときに、BTEXを含有する水溶液から抽出されたDBBPの量の低下を示さなかった。
【0072】
表Iは、DBBPの分子インプリンティングを用いて観察される選択性の向上を示している。明らかに、異なる化学構造の化合物が表面部位で競争する場合、600℃で熱分解したMI−SPMEは、最も高い選択性を示しており、他の化学構造の化合物が存在しない場合、表面の親和性の顕著な上昇を示している。
表I.非インプリント型SPMEに対するMI−SPMEの選択性の比
【0073】
【表1】
その選択性が高いため、MI−600℃ SPME繊維を、40ppmのDBBP、ならびに40ppmの構造的にDBBPと似たジオクチルフェニルホスホネート(DOPP)を含有する水溶液からのDBBP抽出に使用した。評価のために、MI−600℃ SPME繊維の平衡プロフィールを、非インプリント型600℃ SPME繊維の平衡プロフィールと比較した。これらのプロフィールを図11に示す。
【0074】
図11は、両繊維の平衡に約90分で達したことを示す。MI−600℃および非インプリント型600℃によって抽出されるDBBPの量は、BTEXを含まない水溶液からのDBBP抽出でみられた量に匹敵していた。両繊維の場合で、DOPPは、DBBPよりももっと簡単に抽出された。しかし、MI−600℃ SPME繊維は、非インプリント型600℃繊維と比べて、平衡状態で顕著に多くの量のDBBPを抽出し、わずかに多くの量のDOPPを抽出した。このことは、インプリントは、DBBPについては識別性を高めるが、DOPP中に含まれるホスホネート基も、程度はかなり小さいものの、分子インプリントされた表面に対するわずかな親和性をもつだろうことを示唆しているだろう。
【0075】
(分子インプリンティングに対するエレクトロスピニングの重要性)
固相抽出を行い、エレクトロスピニングプロセスが、DBBPのインプリントプロセスに影響を及ぼしているかどうかを決定した。ナノ繊維のエレクトロスピニング、ケイ素チップへの連続フィルムのスピンコーティングによって、MI−SU−8および非インプリント型SU−8、MI−600℃ PPの表面を作製した。抽出のため、これらのチップをDBBP飽和水溶液20mLに24時間浸した。抽出の後、溶液中に残存するDBBPの濃度を決定し、エレクトロスピニングされた相およびスピンコーティングされた相によって抽出されたDBBPの量を見つけた。表IIは、それぞれの吸着剤によって抽出されたDBBPの量を示す。
【0076】
表II.エレクトロスピニングされたか、スピンコーティングされたSU−8、MI−SU−8、600℃ PP、MI−600℃ PPで構成される吸着相によって抽出されたDBBPの量。飽和DBBP水溶液20mLから24時間かけて抽出を行った。
【0077】
【表2】
SPEデータは、ここでも、MI−SU−8が、非インプリント型ポリマーよりも多くのDBBPを抽出することを示している。さらに、MI−PPは、MI−SU−8より大量のDBBPを抽出したが、このことは、SPME実験の発見と一致している。しかし、最も重要なことに、これらのデータは、スピンコーティングされ、インプリントされたポリマーと比較して、エレクトロスピニングされ、インプリントされたポリマーの場合、インプリントに感知できるほどの差はないことを示している(すなわち、エレクトロスピニングが、分子インプリンティングを行うことに必須ではない)。
【0078】
(一般的な使用および繊維の安定性)
平均して、SPME繊維コーティングの有効な寿命は、20〜30回の抽出であることがわかり、繊維が伸び縮みするときに、SPMEホルダーの側面に対し、SPME繊維がこすられるため、繊維の欠陥が頻繁に起こる。しかし、MI−SU−8 SPME繊維の場合、DBBPに対する優先的な選択性は、一般的に、10〜15回使用した後に消えてしまうことが観察された。このことは、すでに述べたように、まったく予想できないことではない。しかし、MI−PP SPME繊維は、任意の処理温度でこのような挙動を示さず、繊維の欠陥が起こるまで、DBBPの優先的な抽出を示している。
【0079】
繊維コーティングの厚みは、インプリントされた繊維および非インプリント型繊維の両方で再現可能であり、同じ温度で熱分解した繊維で、変動は10%を超えなかった。両方の種類の繊維について、欠陥が起こる前に繊維の染み出しはみられなかった。
【0080】
(結論)
テンプレート分子としてDBBPを用い、エレクトロスピニングされたMI−SU−8およびMI−PPの調製について記載した。この試験で実施した全ての抽出は、エレクトロスピニングされたMI−SU−8繊維およびMI−PP SPME繊維が、非インプリント型SPME繊維に対し、DBBPテンプレート分子への選択性の向上を示すことを示した。分子インプリントの効果は、600℃で熱分解した繊維で最も顕著であった。MI−600℃ SPME繊維は、非インプリント型600℃繊維のほぼ4〜5倍のDBBPを抽出した。全てのMI−PP繊維は、抽出されたDBBPの量の少なくとも60%増加を示した。MI−SU−8 SPME繊維は、非インプリント型対照物と比較して、DBBP抽出の30〜40%増加を示した。これらの発見は、固相抽出によって裏付けられた。MI−SU−8 SPME繊維は、分子インプリントが、繰り返し使用すると悪化していき、SPME繊維の欠陥の前に、多くは低下してしまうことを示した。このことは、熱安定性が高いMI−PP SPME繊維ではみられなかった。
【0081】
本明細書に引用されているあらゆる特許、特許明細書、刊行物、電気的に入手可能な題材の完全な開示内容が、参考として組み込まれる。上の詳細な記載および実施例は、単に理解を明らかにするために与えられている。これらから不必要な限定はないと理解されるべきである。特に、本明細書に提示されている任意の操作理論は、任意であり、したがって、本願発明者らは、本明細書に記載の理論に束縛されない。本発明は、示され、記載されている実際の詳細に限定されず、当業者にとって明らかな改変は、特許請求の範囲によって規定される本発明に含まれるだろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱分解した分子インプリントポリマー。
【請求項2】
前記ポリマーが、熱分解されて、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択される難黒鉛化性炭素を形成するのに適したポリマーを含む、請求項1に記載の熱分解したポリマー。
【請求項3】
前記ポリマーがフォトレジストポリマーである、請求項1に記載の熱分解したポリマー。
【請求項4】
前記ポリマーが、エポキシ系ネガティブフォトレジストである、請求項3に記載の熱分解したポリマー。
【請求項5】
前記ポリマーがSU−8である、請求項4に記載の熱分解したポリマー。
【請求項6】
前記ポリマーが、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子によってインプリントされる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱分解したポリマー。
【請求項7】
固体支持体を備え、該固体支持体の表面の少なくとも一部が、その上に分子インプリントされた炭素層を保有している、デバイス。
【請求項8】
前記分子インプリントされた炭素層が、炭素ナノ繊維から作られる、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスが、固相マイクロ抽出デバイスである、請求項7に記載のデバイス。
【請求項10】
前記固体支持体がステンレス鋼ワイヤを含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記分子インプリントされた炭素層は、該炭素層の表面に、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている、請求項7に記載のデバイス。
【請求項12】
前記分子インプリントされた炭素層が、複数の異なるテンプレート分子を用いてインプリントされた、請求項7に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスが、各々が異なるテンプレート分子によって分子インプリントされた複数の領域を備えている、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記分子インプリントされた炭素層が、エレクトロスピニングを行い、テンプレート分子が存在する状態でポリマー表面層を架橋し、該テンプレート分子を除去して分子インプリントポリマー表面層を作製し、次いで、該分子インプリントポリマー表面層を熱分解することによって、前記支持体の上に該ポリマー表面層を形成することによって製造される、請求項7〜13のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記ポリマーが、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択される、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記ポリマーがエポキシ系ネガティブフォトレジストである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項17】
サンプルから被分析物を選択的に抽出するプロセスであって、該サンプルと請求項7に記載のデバイスとを接触させることを含み、その分子インプリントされた炭素層が、該炭素層の表面に、該被分析物の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている、プロセス。
【請求項18】
前記被分析物の一部が、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子の一部に対応している、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記サンプルが、前記被分析物に加え、担体と、測定可能な量の少なくとも1つの他の分子とを含有する、請求項17または18に記載のプロセス。
【請求項20】
固相マイクロ抽出デバイスを製造する方法であって、
架橋可能なベースポリマーとテンプレート分子とを含む混合物を、固体支持体の表面の少なくとも一部に塗布する工程と、
該ベースポリマーを架橋し、分子インプリントポリマー層を作製する工程と、
該分子インプリントポリマー層から該テンプレート分子を抽出する工程と、
該分子インプリントポリマー層を熱分解し、分子インプリントされた炭素層を作製する工程とを含む、方法。
【請求項21】
前記ベースポリマーが、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択されるポリマーを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ベースポリマーが、エポキシ系ネガティブフォトレジストを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記混合物が、エレクトロスピニングによって前記固体支持体に塗布される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記ベースポリマーが、UV光を露光することによって架橋される、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記熱分解が、約550℃〜約650℃の範囲の温度で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項1】
熱分解した分子インプリントポリマー。
【請求項2】
前記ポリマーが、熱分解されて、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択される難黒鉛化性炭素を形成するのに適したポリマーを含む、請求項1に記載の熱分解したポリマー。
【請求項3】
前記ポリマーがフォトレジストポリマーである、請求項1に記載の熱分解したポリマー。
【請求項4】
前記ポリマーが、エポキシ系ネガティブフォトレジストである、請求項3に記載の熱分解したポリマー。
【請求項5】
前記ポリマーがSU−8である、請求項4に記載の熱分解したポリマー。
【請求項6】
前記ポリマーが、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子によってインプリントされる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱分解したポリマー。
【請求項7】
固体支持体を備え、該固体支持体の表面の少なくとも一部が、その上に分子インプリントされた炭素層を保有している、デバイス。
【請求項8】
前記分子インプリントされた炭素層が、炭素ナノ繊維から作られる、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスが、固相マイクロ抽出デバイスである、請求項7に記載のデバイス。
【請求項10】
前記固体支持体がステンレス鋼ワイヤを含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記分子インプリントされた炭素層は、該炭素層の表面に、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている、請求項7に記載のデバイス。
【請求項12】
前記分子インプリントされた炭素層が、複数の異なるテンプレート分子を用いてインプリントされた、請求項7に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスが、各々が異なるテンプレート分子によって分子インプリントされた複数の領域を備えている、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記分子インプリントされた炭素層が、エレクトロスピニングを行い、テンプレート分子が存在する状態でポリマー表面層を架橋し、該テンプレート分子を除去して分子インプリントポリマー表面層を作製し、次いで、該分子インプリントポリマー表面層を熱分解することによって、前記支持体の上に該ポリマー表面層を形成することによって製造される、請求項7〜13のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記ポリマーが、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択される、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記ポリマーがエポキシ系ネガティブフォトレジストである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項17】
サンプルから被分析物を選択的に抽出するプロセスであって、該サンプルと請求項7に記載のデバイスとを接触させることを含み、その分子インプリントされた炭素層が、該炭素層の表面に、該被分析物の少なくとも一部に対応する形状を有する複数の空洞を備えている、プロセス。
【請求項18】
前記被分析物の一部が、大きさが1ミクロン以下のテンプレート分子の一部に対応している、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記サンプルが、前記被分析物に加え、担体と、測定可能な量の少なくとも1つの他の分子とを含有する、請求項17または18に記載のプロセス。
【請求項20】
固相マイクロ抽出デバイスを製造する方法であって、
架橋可能なベースポリマーとテンプレート分子とを含む混合物を、固体支持体の表面の少なくとも一部に塗布する工程と、
該ベースポリマーを架橋し、分子インプリントポリマー層を作製する工程と、
該分子インプリントポリマー層から該テンプレート分子を抽出する工程と、
該分子インプリントポリマー層を熱分解し、分子インプリントされた炭素層を作製する工程とを含む、方法。
【請求項21】
前記ベースポリマーが、セルロース、ポリ(フルフリルアルコール)またはフルフリルアルコールコポリマー、ポリ(塩化ビニリデン)、レゾルシノール−フェノールコポリマー、高度不飽和ポリマー、ポリイミド、およびポリアクリロニトリルからなる群から選択されるポリマーを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ベースポリマーが、エポキシ系ネガティブフォトレジストを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記混合物が、エレクトロスピニングによって前記固体支持体に塗布される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記ベースポリマーが、UV光を露光することによって架橋される、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記熱分解が、約550℃〜約650℃の範囲の温度で行われる、請求項20に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【公表番号】特表2013−521216(P2013−521216A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556201(P2012−556201)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2011/026809
【国際公開番号】WO2011/109473
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(504325287)ザ オハイオ ステート ユニバーシティー リサーチ ファウンデーション (24)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2011/026809
【国際公開番号】WO2011/109473
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(504325287)ザ オハイオ ステート ユニバーシティー リサーチ ファウンデーション (24)
【Fターム(参考)】
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