説明

分子量回復機能を有するウレタン樹脂及び分子量回復方法

【課題】溶融混練や屋外暴露などで分子量が低下しても、分子量を回復させることができ、溶融混練時の歩留向上や、耐侯性が高く、添加剤量を減らすことができるウレタン樹脂を提供する。
【解決手段】一般式I:


で表されるジイソシアネート構成単位と、一般式II:


で表されるジオール構成単位(式中、X,Yは特定の脂環基を表す。)とを有するウレタン樹脂であって、イソシアネート基の含有量が0.1重量%以上であるウレタン樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融混練や屋外暴露などにより分子量が低下しても、加熱することで分子量が回復する機能を有するウレタン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン樹脂は、フォーム、塗料、コーティング剤、接着剤として広く用いられている。また、熱可塑性エラストマーなどの成形材料としても広く用いられている。成形材料として用いる場合、樹脂を押出機に供給し、加熱溶融して着色剤などと混練する、溶融混練が行われることが多い。一般的にウレタン樹脂は熱により分解しやすく、溶融混練時に温度を上げすぎると分子量が著しく低下し、また、外観も悪くなってしまう。
【0003】
また、塗料やコーティング剤として用いられる場合には、屋外暴露などにより、分子量が低下し、塗膜やコーティング皮膜の強度が低下して脆くなる。
【0004】
このため、ウレタン樹脂の溶融混練においては、溶融温度を可能な限り低くし、高粘度の樹脂を押出すため、負荷能力の高い成形機が必要である(例えば、非特許文献1)。また、塗料やコーティング用途においては、劣化を抑えるための添加剤が使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松永勝治,ポリウレタンの基礎と応用,シーエムシー,p102(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウレタン樹脂の溶融混練において、溶融温度を可能な限り低くした場合、成形機の負荷が大きくなり、スクリューなどによるせん断発熱により、樹脂の温度が上がってしまい、樹脂が劣化することがある。また、塗料用途などに使用する場合、添加剤がブリードアウトして、外観が悪化する場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、溶融混練や屋外暴露などで分子量が低下しても、分子量を回復させることができ、溶融混練時の歩留向上や、耐侯性が高く、添加剤量を減らすことができるウレタン樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定のウレタン樹脂に一定量のイソシアネート基を含有させることにより樹脂の分子量を回復させることができ、上述の課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)一般式I:
【化1】

[式中、Xはシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレン、シクロアルキレンアルキレンシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレンアルキレン、又はビシクロアルキレン(これらは、ハロゲン、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシからなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい)である]
で表されるジイソシアネート構成単位と、
一般式II:
【化2】

[式中、Yはシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレン、シクロアルキレンアルキレンシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレンアルキレン、又はビシクロアルキレン(これらは、ハロゲン、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシからなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい)である]
で表されるジオール構成単位と、
を有するウレタン樹脂であって、イソシアネート基の含有量が0.1重量%以上であるウレタン樹脂。
(2)イソシアネート基の含有量が0.2重量%以上である、(1)に記載のウレタン樹脂。
(3)一般式I:
【化3】

[式中、Xは上記の通りである]
で表されるジイソシアネート構成単位と、
一般式II:
【化4】

[式中、Yは上記の通りである]
で表されるジオール構成単位と、
を有するウレタン樹脂であって、前記樹脂をフィルムに成形し、JIS A1415に記載のオープンフレームカーボンアークランプによる暴露試験(WS−A法)を200時間行うことによりイソシアネート基の含有量が0.1重量%以上となるウレタン樹脂。
(4)X及びYが、それぞれ独立して、シクロへキシレン、C1−3アルキレンシクロへキシレン、シクロへキシレンC1−3アルキレンシクロへキシレン、C1−3アルキレンシクロへキシレンC1−3アルキレン、又はビシクロへキシレンである、(1)〜(3)のいずれかに記載のウレタン樹脂。
(5)一般式Iで表されるジイソシアネート構成単位がジシクロへキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、又は1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンに由来する、(4)に記載のウレタン樹脂。
(6)一般式IIで表されるジオール構成単位が1,4−シクロへキサンジメタノール、1,4−シクロへキサンジオール、又は4,4’−ビシクロへキサンジオールに由来する、(4)に記載のウレタン樹脂。
(7)ウレタン樹脂の重量平均分子量が20,000〜250,000である、請求項(1)〜(6)のいずれかに記載のウレタン樹脂。
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載のウレタン樹脂を含む塗料。
(9)(1)〜(7)のいずれかに記載のウレタン樹脂を含むコーティング材料。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載のウレタン樹脂若しくは前記ウレタン樹脂より成形される成形品、コーティング材料、又は塗料を、そのガラス転移温度より20℃低い温度以上240℃未満の温度で加熱することを含む、ウレタン樹脂の分子量を向上させる方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウレタン樹脂は、溶融混練や屋外暴露などにより分子量が低下しても、加熱することで分子量が回復する機能を有する。そのため、溶融混練時に分子量が低下しても、その後、樹脂を加熱することで分子量を回復させることができ、溶融混練での歩留が向上する。また、屋外暴露で分子量が低下しても、加熱することで分子量を回復させることができるため、添加剤の量を減らすことができ、外観不良などを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で製造したウレタン樹脂を220℃で加熱した場合の重量平均分子量の変化を示す。
【図2】実施例1で製造したウレタン樹脂を120℃で加熱した場合の重量平均分子量の変化を示す。
【図3】比較例2で製造したウレタン樹脂を220℃で加熱した場合の重量平均分子量の変化を示す。
【図4】比較例2で製造したウレタン樹脂を140℃で加熱した場合の重量平均分子量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明において「アルキレン」とは、アルカンの炭素原子から2つの水素原子が失われて生ずる2価の基を意味し、一般に、−C2n−(nは正の整数である)で表される。アルキレンは直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。また、同一の炭素原子から2つの水素原子が失われて生じるいわゆるアルキリデンも本発明におけるアルキレンに包含されるものとする。
【0014】
本発明におけるアルキレンとしては、C1−6アルキレンが好ましく、C1−3アルキレンが特に好ましい。例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、へキシレンなどを挙げることができる。
【0015】
本発明において「シクロアルキレン」とは、シクロアルカンの炭素原子から2つの水素原子が失われて生ずる2価の基を意味し、一般に、−C2m−2−(mは3以上の正の整数であり、C2m−2部分は環を形成する)で表される。同一の炭素原子から2つの水素原子が失われて生じるいわゆるシクロアルキリデンも本発明におけるシクロアルキレンに包含されるものとする。
【0016】
本発明におけるシクロアルキレンとしては、C3−10シクロアルキレンが好ましく、C5−8アルキレンが特に好ましい。例えば、シクロプロピレン、シクロブチレン、シクロペンチレン、シクロへキシレン、シクロへプチレン、シクロオクチレンなどを挙げることができる。
【0017】
本発明における「アルキレンシクロアルキレン」とは、アルキルシクロアルカンのアルキル部分の炭素原子とシクロアルカン部分の炭素原子から水素原子がそれぞれ1つずつ失われて生ずる2価の基を意味し、一般に、−C2n−C2m−2−(nは正の整数であり;mは3以上の正の整数であり、C2m−2部分は環を形成する)で表される。アルキル部分は直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。
【0018】
本発明におけるアルキレンシクロアルキレンとしては、C1−6アルキレンC3−10シクロアルキレンが好ましく、C1−3アルキレンC5−8シクロアルキレンが特に好ましい。例えば、メチレンシクロペンチレン、メチレンシクロへキシレン、メチレンシクロへプチレン、エチレンシクロペンチレン、エチレンシクロへキシレン、エチレンシクロへプチレン、プロピレンシクロペンチレン、プロピレンシクロへキシレン、プロピレンシクロへプチレンなどを挙げることができる。
【0019】
本発明における「シクロアルキレンアルキレンシクロアルキレン」とは、ジシクロアルキルアルカンの2つのシクロアルキル部分の炭素原子から水素原子がそれぞれ1つずつ失われて生ずる2価の基を意味し、一般に、−C2m−2−C2n−C2o−2−(nは正の整数であり;mおよびoは3以上の正の整数であり、C2m−2部分、C2o−2部分は環を形成する)で表される。アルカン部分は直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。
【0020】
本発明におけるシクロアルキレンアルキレンシクロアルキレンとしては、C3−10シクロアルキレンC1−6アルキレンC3−10シクロアルキレンが好ましく、C5−8シクロアルキレンC1−3アルキレンC5−8シクロアルキレンが特に好ましい。例えば、シクロペンチレンメチレンシクロペンチレン、シクロペンチレンメチレンシクロヘキシレン、シクロへキシレンメチレンシクロへキシレン、シクロへプチレンメチレンシクロへプチレン、シクロペンチレンエチレンシクロペンチレン、シクロへキシレンエチレンシクロへキシレン、シクロへプチレンエチレンシクロへプチレン、シクロペンチレンプロピレンシクロペンチレン、シクロへキシレンプロピレンシクロへキシレン、シクロへプチレンプロピレンシクロへプチレンなどを挙げることができる。
【0021】
本発明における「アルキレンシクロアルキレンアルキレン」とは、ジアルキルシクロアルカンの2つのアルキル部分の炭素原子から水素原子がそれぞれ1つずつ失われて生ずる2価の基を意味し、一般に、−C2n−C2m−2−C2p−(nおよびpは正の整数であり;mは3以上の正の整数であり、C2m−2部分は環を形成する)で表される。アルキル部分は直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。
【0022】
本発明におけるアルキレンシクロアルキレンアルキレンとしては、C1−6アルキレンC3−10シクロアルキレンC1−6アルキレンが好ましく、C1−3アルキレンC5−8シクロアルキレンC1−3アルキレンが特に好ましい。例えば、メチレンシクロペンチレンメチレン、メチレンシクロへキシレンメチレン、メチレンシクロヘキシレンエチレン、メチレンシクロへプチレンメチレン、エチレンシクロペンチレンエチレン、エチレンシクロへキシレンエチレン、エチレンシクロへプチレンエチレン、プロピレンシクロペンチレンプロピレン、プロピレンシクロへキシレンプロピレン、プロピレンシクロへプチレンプロピレンなどを挙げることができる。
【0023】
本発明における「ビシクロアルキレン」とは、ビシクロアルカンの2つのシクロアルカン部分の炭素原子から水素原子がそれぞれ1つずつ失われて生ずる2価の基を意味し、一般に、−C2m−2−C2m−2−(mは3以上の正の整数であり、C2m−2部分は環を形成する)で表される。
【0024】
本発明におけるビシクロアルキレンとしては、C3−10シクロアルキレンC3−10シクロアルキレンが好ましく、C5−8シクロアルキレンC5−8シクロアルキレンが特に好ましい。例えば、シクロペンチレンシクロペンチレン、シクロへキシレンシクロへキシレン、シクロへプチレンシクロへプチレンなどを挙げることができる。
【0025】
1.ウレタン樹脂
本発明のウレタン樹脂は、一般式I:
【化5】

[式中、Xはシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレン、シクロアルキレンアルキレンシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレンアルキレン、又はビシクロアルキレン(これらは、ハロゲン、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシからなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい)である]
で表されるジイソシアネート構成単位と、
一般式II:
【化6】

[式中、Yはシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレン、シクロアルキレンアルキレンシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレンアルキレン、又はビシクロアルキレン(これらは、ハロゲン、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシからなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい)である]
で表されるジオール構成単位と、
を有し、イソシアネート基を0.1重量%以上含有するものである。
【0026】
イソシアネート基はウレタン樹脂の分子量を回復させるために必要である。また、溶融混練や屋外暴露などによりイソシアネート基の含有量は低下する。そのため、溶融混練や屋外暴露前のウレタン樹脂に一定量以上のイソシアネート基が含有されていることが必要である。すなわち、ウレタン樹脂中のイソシアネート基の含有量は0.1重量%以上であり、好ましくは0.1〜2重量%、より好ましくは0.2〜1重量%である。イソシアネート基の含有量が0.1重量%未満であると溶融混練や屋外暴露後にウレタン樹脂の分子量を回復させることが困難となる。一方、含有量が2重量%を越えると、過剰のイソシアネートがブリードアウトしたり、樹脂のガラス転移温度が低下するため好ましくない。
【0027】
ウレタン樹脂中のイソシアネート基の含有量は、JIS K1603(A法、ジブチルアミン塩酸法)に準じた方法で測定することができ、具体的には実施例に記載の手順に従って測定することができる。
【0028】
また、本発明のウレタン樹脂は、一般式I:
【化7】

[式中、Xは上記の通りである]
で表されるジイソシアネート構成単位と、
一般式II:
【化8】

[式中、Yは上記の通りである]
で表されるジオール構成単位と、
を有し、フィルムに成形した樹脂を用いてJIS A1415に記載のオープンフレームカーボンアークランプによる暴露試験(WS−A法)を200時間行うことによりイソシアネート基の含有量が0.1重量%以上となるものである。なお、暴露試験に用いる樹脂フィルムの厚さは70μmであり、実施例に記載の手順に従って作成することができる。
【0029】
ウレタン樹脂の低下した分子量を回復させるためには、溶融混練や屋外暴露後のウレタン樹脂に一定量以上のイソシアネート基が含有されていることが必要である。すなわち、上記暴露試験後のウレタン樹脂中のイソシアネート基の含有量は0.1重量%以上であり、好ましくは0.1〜2重量%、より好ましくは0.2〜1重量%である。イソシアネート基の含有量が0.1重量%未満であると低下した分子量を回復させることが困難となる。一方、含有量が2重量%を越えると、過剰のイソシアネートがブリードアウトしたり、樹脂のガラス転移温度が低下するため好ましくない。
【0030】
ウレタン樹脂中のイソシアネート基の含有量は、JIS K1603(A法、ジブチルアミン塩酸法)に準じた方法で測定することができ、具体的には実施例に記載の手順に従って測定することができる。
【0031】
本発明のウレタン樹脂の重量平均分子量(Mw)に特に制限はないが、20,000〜250,000であることが好ましく、20,000〜100,000であることがより好ましく、20,000〜50,000であることが特に好ましい。重量平均分子量はゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して測定することができる。
【0032】
本発明のウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は100〜200℃であることが好ましく、110〜180℃であることがより好ましく、120〜160℃であることが特に好ましい。ガラス転移温度は示差走査熱量分析(DSC)により測定することができる。
【0033】
本発明のウレタン樹脂は上記のジイソシアネート構成単位及びジオール構成単位のみから構成されていることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲でその他の任意構成単位を有していてもよい。
【0034】
本発明のウレタン樹脂の用途としては、塗料、コーティング材料、フォーム、接着剤などが挙げられ、好ましくは塗料及びコーティング材料を挙げることができる。塗料及びコーティング材料はウレタン樹脂に加えて任意の成分を含んでいてもよく、例えば、顔料、可塑剤、沈殿防止剤、改質剤、消泡剤、増粘剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、難燃剤、凍結防止剤、溶剤などを挙げることができる。
【0035】
(1)ジイソシアネート構成単位
本発明の一実施形態において、一般式Iで表されるジイソシアネート構成単位におけるXはシクロへキシレン、C1−3アルキレンシクロへキシレン、シクロへキシレンンC1−3アルキレンシクロへキシレン、C1−3アルキレンシクロへキシレンC1−3アルキレン、又はビシクロへキシレン(これらは、ハロゲン、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシからなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい)である。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、Xはシクロへキシレン、メチレンシクロへキシレン、シクロへキシレンメチレンシクロへキシレン、メチレンシクロへキシレンメチレン、又はビシクロへキシレン(これらは、C1−3アルキルで置換されていてもよい)である。
【0037】
本発明の特に好ましい実施形態において、Xはシクロへキシレンメチレンシクロへキシレンである。
【0038】
上記ジイソシアネート構成単位を有するウレタン樹脂を製造するためのジイソシアネート化合物としては、例えば、ジシクロへキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンなどが挙げられ、好ましくはジシクロへキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートが挙げられる。これらのジイソシアネート化合物は1種のみを使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(2)ジオール構成単位
本発明の一実施形態において、一般式IIで表されるジオール構成単位におけるYはシクロへキシレン、C1−3アルキレンシクロへキシレン、シクロへキシレンC1−3アルキレンシクロへキシレン、C1−3アルキレンシクロへキシレンC1−3アルキレン、又はビシクロへキシレン(これらは、ハロゲン、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシからなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい)である。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、Yはシクロへキシレン、メチレンシクロへキシレン、シクロへキシレンメチレンシクロへキシレン、メチレンシクロへキシレンメチレン、又はビシクロへキシレン(これらは、C1−3アルキルで置換されていてもよい)である。
本発明の特に好ましい実施形態において、Yはメチレンシクロへキシレンメチレンである。
【0041】
上記ジオール構成単位を有するウレタン樹脂を製造するためのジオール化合物としては、例えば、1,4−シクロへキサンジメタノール、1,4−シクロへキサンジオール、又は4,4’−ビシクロへキサンジオールが挙げられ、好ましくは1,4−シクロへキサンジメタノールが挙げられる。これらのジオール化合物は1種のみを使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
2.ウレタン樹脂の分子量回復方法
本発明はウレタン樹脂の分子量回復方法も包含する。本方法によれば、溶融混練や屋外暴露などにより低下した分子量を向上させることができる。
【0043】
ウレタン樹脂の分子量回復方法は、上記のウレタン樹脂、若しくは上記のウレタン樹脂より成形される成形品、又は上記のウレタン樹脂を含むコーティング材料若しくは塗料を、そのガラス転移温度より20℃低い温度以上240℃未満の温度で加熱することを含む。好ましくは、加熱温度はガラス転移温度より10℃低い温度以上である。また、220℃未満の温度で加熱することが好ましく、200℃未満の温度で加熱することがより好ましく、ガラス転移温度以下の温度で加熱することが特に好ましい。ガラス転移温度より20℃低い温度未満では分子量を回復させることは困難であり、240℃以上では分子量が更に低下することになる。
【0044】
本発明のウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、上記の通り、100〜200℃であることが好ましく、110〜180℃であることがより好ましく、120〜160℃であることが特に好ましい。
【0045】
3.ウレタン樹脂の製造方法
本発明のウレタン樹脂の製造方法としては、一般的なウレタン樹脂の製造方法、例えばジイソシアネート化合物とジオール化合物を直接あるいは溶媒中で反応させることで製造する。特に溶媒中で反応させる場合は、溶媒の沸点以下の温度に加熱し、攪拌することで製造する。製造した樹脂または樹脂成形物を取り出す方法としては、ジイソシアネート化合物とジオール化合物を直接反応させる方法では、ジイソシアネート化合物とジオール化合物を混合後、型内に充てんし、直接樹脂成形物として取り出す方法や、ジイソシアネート化合物とジオール化合物を押出機に供給して、加熱混練しながら反応させて樹脂を得る方法がある。一方、溶媒中で反応させる場合は、反応釜中で加熱攪拌して得られた樹脂溶液を押出機に供給してベント口より溶媒を除去して樹脂を取り出す方法や、樹脂溶液を、樹脂を溶解しない溶媒(貧溶媒)中に注いで、析出した樹脂を取り出す方法が挙げられる。
【0046】
ウレタン樹脂では、ジイソシアネート化合物とジオール化合物は当モル反応させるが、本発明の樹脂を得るためには、ジイソシアネート化合物をジオール化合物より過剰に添加する必要がある。一般的なウレタン樹脂の場合でも、ジイソシアネート化合物は分解しやすいことを考慮して、ジオール化合物よりも僅かに過剰に添加するが、本発明では、ジオール化合物1モルに対し、ジイソシアネート化合物を1.005〜1.1モル、好ましくは1.01〜1.05モル添加する。ジオール化合物1モルに対してジイソシアネート化合物が1.1モルを越えると、樹脂の分子量が上がりにくくなる。
【0047】
また、ウレタン樹脂に対して、ジイソシアネート化合物を0.1〜2重量%添加、混合することでも本発明のウレタン樹脂とすることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれにより限定されるものではない。
【0049】
評価分析方法
本実施例で用いた評価分析方法は以下の通りである。
(1)樹脂のガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量分析(DSC)にて、20℃/分で昇温した時に観測されるガラス転移温度(Tg)を評価した。
【0050】
(2)重量平均分子量(Mw)
樹脂をクロロホルムに溶解し、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて次の条件で測定、算出した。
・カラム:東ソー(株)製 TSKGel Super HZM−M ×2本
・溶離液:クロロホルム
・流量:0.5mL/分
・カラム温度:40℃
・検出器:示差屈折率検出器(RID)
・重量平均分子量(Mw)の算出
標準ポリスチレン(東ソー製、TSKstandard POLYSTYRENE)を用いて、クロマトグラムの保持時間と重量平均分子量(Mw)についての検量線(Mw=7.0×10〜1×10の範囲)を作成し、この検量線を用いて、樹脂の保持時間から重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0051】
(3)イソシアネート基の含有量
樹脂を脱水ジメチルホルムアミドに溶解し、JIS K1603(A法、ジブチルアミン塩酸法)に準じた次の方法で、イソシアネート基の含有量を求めた。
【0052】
(i)100mLの三角フラスコに樹脂0.5gと脱水ジメチルホルムアミド30mLを加える。
(ii)室温で溶解後、0.1mol/Lのジブチルアミン溶液を1mL加え、ときどき振り混ぜながら約1時間置く。
(iii)ジメチルホルムアミド50mLと指示薬としてブロモフェノールブルーを数滴加え、0.02mol/Lの塩酸水溶液で滴定する。
(iv)同様の方法で、空試験も行い、下式によりイソシアネート基含有量を算出する。
イソシアネート基(重量%)
=((V0−V1)×0.02×f×42.02)/(S×1000)×100
S:樹脂の質量(g)
V0:空試験に要した0.02mol/Lの塩酸水溶液滴定量(mL)
V1:樹脂の滴定に要した0.02mol/Lの塩酸水溶液滴定量(mL)
f:0.02mol/Lの塩酸水溶液のファクター
【0053】
(4)オープンフレームカーボンアークランプによる暴露試験
JIS A1415のWS−A法に従い、次の条件で暴露試験を行った。
・サイクル:102分照射後、18分照射及び水噴霧
・ブラックパネル温度:63±3℃
・相対湿度:50±5℃
【0054】
実施例1
反応容器に1,4−シクロヘキサンジメタノールを21.28重量部、溶媒としてジメチルホルムアミドを30重量部投入し、窒素雰囲気下で110℃に加熱した。ついで4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート38.72重量部を毎分1重量部で添加し、さらに溶媒(ジメチルホルムアミド)を10重量部添加した。添加完了後、130℃で23時間反応を行った。途中、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート0.4重量部を2回添加した。ついで、反応容器を220℃に昇温し、約5Torrの減圧下で溶媒を除去後、樹脂を反応容器より押出、ペレット化した。
【0055】
この樹脂のガラス転移温度(Tg)は129℃、重量平均分子量(Mw)は32,000であった。また、樹脂中のイソシアネート基の含有量は0.22重量%であった。
【0056】
この樹脂を220℃、及び120℃のオーブン中で熱処理したときの重量平均分子量(Mw)の変化を図1及び図2に示す。図1に示すように220℃で加熱した場合、重量平均分子量は加熱開始後に変化したが、その後、長時間にわたり一定の値を示した。そして図2に示すように、120℃で加熱すると、重量平均分子量は大きく増大した。
【0057】
さらに、この樹脂を押出機に供給し、220℃でTダイより押し出して厚さ70μmのフィルム(重量平均分子量(Mw):25,000)を得た。このフィルムを120℃で24時間加熱した後の重量平均分子量(Mw)は31,000と加熱前より高くなっていた。
【0058】
実施例2
実施例1で試作した樹脂を押出機に供給し、220℃でTダイより押し出して得た厚さ70μmのフィルム(重量平均分子量(Mw):25,000)について、オープンフレームカーボンアークランプによる暴露試験を200時間行った。このときのフィルムの重量平均分子量(Mw)は24,000と耐候試験前より低下した。この耐候試験後のフィルム中のイソシアネート基の含有量は0.11重量%であり、これを120℃で24時間加熱した後の重量平均分子量(Mw)は28,000と耐候試験前より高くなっていた。
【0059】
比較例1
実施例1で試作した樹脂を押出機に供給し、220℃でTダイより押し出して得た厚さ70μmのフィルム(重量平均分子量(Mw):25,000)について、オープンフレームカーボンアークランプによる暴露試験を500時間行った。このときのフィルムの重量平均分子量(Mw)は22,000であった。この耐候試験後のフィルム中のイソシアネート基の含有量は0.06重量%であり、これを120℃で24時間加熱しても重量平均分子量(Mw)は21,000と分子量は回復しなかった。
【0060】
比較例2
反応容器にフェニルエチレングリコールを20.01重量部、溶媒としてジメチルホルムアミドを39重量部投入し、窒素雰囲気下で110℃に加熱した。ついで4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート37.99重量部を少量ずつ添加した。添加完了後、130℃で30時間反応を行った。途中、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート0.4重量部を2回添加した。次いで得られた反応液75重量部をテトラヒドロフラン150重量部で希釈後、メタノール(約1000重量部)中に注いで樹脂を沈殿させ、80℃で真空乾燥した。
【0061】
この樹脂のガラス転移温度(Tg)は130℃、重量平均分子量(Mw)は39,000であった。
【0062】
この樹脂を220℃、及び140℃のオーブン中で熱処理したときの重量平均分子量(Mw)の変化を図3及び図4に示す。図3に示すように220℃で加熱した場合、重量平均分子量は加熱開始後速やかに低下したが、その後も徐々に分子量が低下した。また図4に示すように、140℃で加熱したときの重量平均分子量の変化は小さかった。
【0063】
比較例3
実施例1で試作した樹脂を、樹脂のガラス転移温度より約40℃低い、90℃のオーブン中で168時間熱処理したが、重量平均分子量は変化しなかった。
【0064】
比較例4
実施例1で試作した樹脂を、240℃のオーブン中で2時間熱処理したところ、重量平均分子量は19,700に低下した。この樹脂は非常に脆く、成形材料、塗料、コーティング材として使用することは難しかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】

[式中、Xはシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレン、シクロアルキレンアルキレンシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレンアルキレン、又はビシクロアルキレン(これらは、ハロゲン、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシからなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい)である]
で表されるジイソシアネート構成単位と、
一般式II:
【化2】

[式中、Yはシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレン、シクロアルキレンアルキレンシクロアルキレン、アルキレンシクロアルキレンアルキレン、又はビシクロアルキレン(これらは、ハロゲン、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシからなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい)である]
で表されるジオール構成単位と、
を有するウレタン樹脂であって、イソシアネート基の含有量が0.1重量%以上であるウレタン樹脂。
【請求項2】
イソシアネート基の含有量が0.2重量%以上である、請求項1に記載のウレタン樹脂。
【請求項3】
一般式I:
【化3】

[式中、Xは請求項1で定義した通りである]
で表されるジイソシアネート構成単位と、
一般式II:
【化4】

[式中、Yは請求項1で定義した通りである]
で表されるジオール構成単位と、
を有するウレタン樹脂であって、前記樹脂をフィルムに成形し、JIS A1415に記載のオープンフレームカーボンアークランプによる暴露試験(WS−A法)を200時間行うことによりイソシアネート基の含有量が0.1重量%以上となるウレタン樹脂。
【請求項4】
X及びYが、それぞれ独立して、シクロへキシレン、C1−3アルキレンシクロへキシレン、シクロへキシレンC1−3アルキレンシクロへキシレン、C1−3アルキレンシクロへキシレンC1−3アルキレン、又はビシクロへキシレンである、請求項1〜3のいずれかに記載のウレタン樹脂。
【請求項5】
一般式Iで表されるジイソシアネート構成単位がジシクロへキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、又は1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンに由来する、請求項4に記載のウレタン樹脂。
【請求項6】
一般式IIで表されるジオール構成単位が1,4−シクロへキサンジメタノール、1,4−シクロへキサンジオール、又は4,4’−ビシクロへキサンジオールに由来する、請求項4に記載のウレタン樹脂。
【請求項7】
ウレタン樹脂の重量平均分子量が20,000〜250,000である、請求項1〜6のいずれかに記載のウレタン樹脂。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のウレタン樹脂を含む塗料。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のウレタン樹脂を含むコーティング材料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のウレタン樹脂若しくは前記ウレタン樹脂より成形される成形品、コーティング材料、又は塗料を、そのガラス転移温度より20℃低い温度以上240℃未満の温度で加熱することを含む、ウレタン樹脂の分子量を向上させる方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−46700(P2012−46700A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192526(P2010−192526)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】