説明

分岐トンネル施工用エントランスリング

【課題】 シールドマシンの前胴のみを搬入できるような狭い親トンネルから分岐トンネルを確実に施工することが可能となり、分岐トンネルの施工効率を高める上で有利なエントランスリングを提供すること。
【解決手段】 エントランスリング16の前部30と後部32とは共に鋼製で、その外周面が単一の円筒面上を延在するように設けられている。前部30の左右の側面部30Bと切り欠き30Cは、左右の側面部30Bの縁の全域が親トンネル12のトンネル壁14の円筒状の内周面に当接される形状で形成されている。後部32は、その周方向の一部32Aが残りの部分32Bに対して着脱可能に設けられ、一部32Aを外した際に、残りの部分32Bには側方に開放状の開口32Cが形成される。後部32の内面全域には、シールドマシンの胴体に弾接して地下水を止水するための止水部材34が取着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親トンネルから分岐させる形で新たなトンネルを構築する場合に、効率的な
施工を行なう上で有利な分岐トンネル施工用エントランスリングに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、既に設置されたトンネル内で、新たなトンネルを分岐施工するための掘削機械を組み立て、一部が完成した状態で地山中に押し出し、逐次、組立と押出しを繰り返して掘削機械の発進を完了させる方法がある。
この方法では、既に設置されたトンネルの覆工の内、新たなトンネルを発進させる部分の覆工を切削可能な素材としておくことで施工の効率化をはかることが多い(特許文献1)。
しかしながら、この切削可能な覆工部材を用いた場合、施工効率の向上に有効であるが大割れした部材により掘削機械の排土装置が閉塞するなど、一転して大きな施工ロスを生じる恐れも有する。そして、切削可能部材の切削状況の把握と、迅速な対応が望まれている。
【特許文献1】特開2003−253992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、既に設置されたトンネルから新たなトンネルを分岐施工することは、狭隘な空間における非常に効率の悪い作業の連続である。
特に、掘削機械の組立を多くの段階に分けて行う必要があり、その組立・発進完了までに多くの施工手順と長い作業時間が必要である。そして、掘削機械の組立精度・設置精度を確保し、かつ、簡略・効率的な施工手順が望まれている。
また、親トンネル内では子機発進のための設備(坑口、反力等)を設置する必要があり、通常では残りスペースに制限された分割サイズでの子機搬入とならざるを得ない。
通常のシールド発進においては、シールド機後方に仮セグメント接続用のリング状反力部材を設置し推進するが、分岐シールドの場合、後方スペースに余裕がなくセグメント接続用リング状反力部材を設置すると資機材(セグメント等)搬入および掘削土搬出(特に泥土圧)が非常に困難となる。
【0004】
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、シールドマシンの前胴のみを搬入できるような狭い親トンネルから分岐トンネルを確実に施工することが可能となり、分岐トンネルの施工効率を高める上で有利なエントランスリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため本発明は、既に設置された親トンネルから新たな分岐トンネルを施工する際に用いられる鋼製のエントランスリングであって、筒状の前部と、前記前部に続く筒状の後部とを有し、前記前部と後部とは、分岐トンネルを施工するシールドマシンの外径よりも大きな内径を有すると共にその外周面が単一の円筒面上を延在するように設けられ、前記前部は、環板状の基部と、前記基部の両側から前方に突出する左右の側面部と、前記左右の側面部の間の上下部に設けられた前方に開放状の切り欠きとを有し、 前記左右の側面部と前記切り欠きは、前記左右の側面部の縁が前記親トンネルの円筒状の内周面に当接される形状で形成され、前記後部は、前記前部の基部に連続する環板状に設けられ、その内周面に、分岐トンネルを施工するシールドマシンの胴体に弾接して親トンネル内への地下水の侵入を阻止する止水部材が取着され、前記後部の少なくともその周方向の一部が残りの部分に対して着脱可能に設けられ、前記一部を前記残りの部分から外した際に、前記残りの部分には側方に開放状の開口が形成され、前記開口の高さは、分岐トンネルを施工するシールドマシンの直径よりも大きい高さを有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、エントランスリングの左右の側面部の縁がトンネル壁に、例えば、溶接により固定される。
次に、後部の周方向の一部が取り外され、残りの部分に開口を露出させておく。
次に、分岐トンネルを施工する際に用いる泥土圧式シールドマシンの前胴のみをトンネル内に搬入し、開口から後部の残りの部分の内側に配置する。
そして、取り外した周方向の一部を残りの部分に対して取り付け、後部を組み立てる。
次に、シールドマシンの前胴の背面と、エントランスリングが設置された箇所と反対側のトンネル壁との間に、反力受け部材を介して複数のジャッキを配置し、ジャッキにより推進力を前胴に与え、カッターの回転により掘削しつつ前胴を前進させていく。
したがって、シールドマシン全体を搬入できず、シールドマシンの前胴のみを搬入できるような狭い親トンネルから分岐トンネルを確実に施工することが可能となり、分岐トンネルの施工効率を高める上で有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
図1は親トンネルおよびエントランスリングの断面正面図、図2はエントランスリングの後部の説明図、図3は親トンネルおよびエントランスリングの断面平面図を示す。
図面において符号12は既に施工された親トンネルを示し、符号14はそのトンネル壁を示し、トンネル壁14は円筒状を呈し、本実施の形態では、トンネルは下水道用のものである。
また、符号16は、親トンネル12から新たな分岐トンネル18を施工する際に用いられるエントランスリング、符号20は、分岐トンネル18を施工する際に用いる泥土圧式のシールドマシンの前胴を示している。
シールドマシンは、前胴20と、この前胴20に続く中胴、中胴に続く後胴から構成されている。
前胴20には、カッター20Aやその駆動部20B、土砂排出用のスクリューコンベアなどが配置されている。
中胴には、推進用ジャッキなどが配置され、中胴は前胴20に対して折曲可能に連結され進路を湾曲させる際に機能する箇所でもある。
後胴には、セグメントリング組み立て用のエレクターなどが設置され、その内部で順次セグメントリングを組み立てていく箇所である。
分岐トンネル18を施工する際、スペースの問題からシールドマシン全体を親トンネル12内に搬入できず、まずは前胴20のみの搬入となる。
【0008】
エントランスリング16は、筒状の前部30と、前部30に続く筒状の後部32とを有している。
前部30と後部32とは共に鋼製で、分岐トンネル18を施工する際に用いる泥土圧式のシールドマシンよりも大きな寸法の均一の内径で形成され、また、その外周面が単一の円筒面上を延在するように設けられている。
前部30は、環板状の基部30Aと、基部30Aの左右両側から前方に突出する左右の側面部30Bと、左右の側面部30Bの間の上下部に設けられた前方に開放状の切り欠き30Cとを有している。
左右の側面部30Bと切り欠き30Cは、左右の側面部30Bの縁の全域が親トンネル12のトンネル壁14の円筒状の内周面に当接される形状で形成されている。
左右の側面部30Bの縁は、開口すべきトンネル壁14の内面に、例えば、溶接により固定される。
左右の側面部30Bには開口3002が設けられ、開口3002にアクリルなどの合成樹脂からなる透明板3004が取着され、透明板3004により前部30の外側から内側箇所の視認を可能とした透明窓30Dが構成されている。
【0009】
後部32は、前部30の基部30Aに連続する環板状に設けられ、少なくともその周方向の一部32Aが残りの部分32Bに対して着脱可能に設けられている。
一部32Aを残りの部分32Bから外した際に、残りの部分32Bには側方に開放状の開口32Cが形成される。
開口32Cの高さは、分岐トンネル18を施工するシールドマシンの直径よりも大きい高さHを有している。
また、後部32の内面全域には、シールドマシンの胴体に弾接しシールドマシンの胴体をつたって親トンネル12の内部に入ろうとする地下水を止水するための止水部材34が取着されている。
【0010】
本実施の形態では、まず、分岐トンネル18を施工すべき親トンネル12内の箇所にエントランスリング16を搬入する。
そして、エントランスリング16の左右の側面部30Bの縁を、トンネル壁14の内面に、例えば、溶接により固定する。
次に、後部32の周方向の一部32Aを取り外し、残りの部分32Bに開口32Cを露出させておく。
次に、分岐トンネル18を施工する際に用いる泥土圧式シールドマシンの前胴20のみを親トンネル12内に搬入し、開口32Cから後部32の残りの部分32Bの内側に配置する。
そして、前胴20を後部32の残りの部分32Bの内側に配置したならば、取り外した周方向の一部32Aを残りの部分32Bに対して取り付け、後部32を組み立てる。
【0011】
次に、シールドマシンの前胴20の背面と、エントランスリング16が設置された箇所と反対側のトンネル壁14との間に、反力受け部材を介して複数のジャッキを配置し、ジャッキにより推進力を前胴20に与え、カッター20Aの回転により掘削しつつ前胴20を前進させていく。
この掘削状況は、透明窓30Dから視認可能であり、スクリューコンベア内の土圧、排土量の調整や、複数のジャッキのうちのどのジャッキにより大きな力を発揮させるなど、掘削状況に応じて様々な処置がとられる。
そして、前胴20を前進させたならば、順次、エントランスリング16内で前胴20に中胴を組み付け、中胴に後胴を組み付けて前進させ、後胴の組み付け後は、後胴内でセグメントリングを組み立てて前進させ、分岐トンネル18を施工していく。
【0012】
本実施の形態によれば、分岐トンネル施工用のシールドマシン全体を搬入できず、シールドマシンの前胴20のみを搬入できるような狭い親トンネル12から分岐トンネル18を確実に施工することが可能となり、分岐トンネル18の施工効率を高める上で有利となる。
また、掘削初期の掘削状況を透明窓30Dから視認できるので、前胴20の円滑、確実な掘進が可能となり、分岐トンネル18の施工効率を高める上でより一層有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】親トンネルおよびエントランスリングの断面正面図である。
【図2】エントランスリングの後部の説明図である。
【図3】親トンネルおよびエントランスリングの断面平面図である。
【符号の説明】
【0014】
12……親トンネル、14……トンネル壁、16……エントランスリング、20……シールドマシンの前胴、30……前部、32……後部、30D……透明窓、32C……開口、34……止水部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既に設置された親トンネルから新たな分岐トンネルを施工する際に用いられる鋼製のエントランスリングであって、
筒状の前部と、前記前部に続く筒状の後部とを有し、
前記前部と後部とは、分岐トンネルを施工するシールドマシンの外径よりも大きな内径を有すると共にその外周面が単一の円筒面上を延在するように設けられ、
前記前部は、環板状の基部と、前記基部の両側から前方に突出する左右の側面部と、前記左右の側面部の間の上下部に設けられた前方に開放状の切り欠きとを有し、
前記左右の側面部と前記切り欠きは、前記左右の側面部の縁が前記親トンネルの円筒状の内周面に当接される形状で形成され、
前記後部は、前記前部の基部に連続する環板状に設けられ、その内周面に、分岐トンネルを施工するシールドマシンの胴体に弾接して親トンネル内への地下水の侵入を阻止する止水部材が取着され、
前記後部の少なくともその周方向の一部が残りの部分に対して着脱可能に設けられ、
前記一部を前記残りの部分から外した際に、前記残りの部分には側方に開放状の開口が形成され、
前記開口の高さは、分岐トンネルを施工するシールドマシンの直径よりも大きい高さを有している、
ことを特徴とする分岐トンネル施工用エントランスリング。
【請求項2】
前記左右の側面部には開口が設けられ、前記開口に透明板が取着され、前記透明板により前記前部の外側から内側箇所の視認を可能とした透明窓が構成されていることを特徴とする請求項1記載の分岐トンネル施工用エントランスリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−262853(P2007−262853A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92972(P2006−92972)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】