説明

分散体接着剤

【課題】熱活性化法および湿潤接着法の両方によって優れた接着特性を示す分散体接着剤を提供する。
【解決手段】A)二官能性脂肪族ポリエステルポリオール;HDIとIPDIとの混合物;およびイオン基含有アミン系連鎖延長剤の混合物からなり、乾燥後に半結晶質または結晶質であり、-65℃〜-40℃のガラス転位温度でガラス転位するポリマーを含んでなる、水性ポリウレタンまたはポリウレタン-尿素分散体と:B)二官能性芳香族ポリエステルポリオール;二官能性ポリオール;脂肪族ジイソシアネート;およびイオン基含有アミン系連鎖延長剤からなり、乾燥後に非晶質であり、-15℃〜+10℃のガラス転位温度でガラス転位するポリマーを含んでなる、A)以外の水性ポリウレタンまたはポリウレタン-尿素分散体との混合物を含んでなる水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体の混合物に基づいた水性分散体接着剤、それらの製造方法、および接着複合材料の製造における該分散体接着剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
水性ポリウレタン分散体に基づいた接着剤は、要求の厳しい工業用途、例えば、靴の製造、自動車の内装品取り付けのための部品の接着、フィルムの貼り合わせ、または布地基材の接着のために、世界中で確立されてきた。水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体の製造方法は知られている。
【0003】
そのような分散体を基材の接着に使用する際、熱活性化法をしばしば用いる。熱活性化法では、分散体を基材に適用し、水を完全に蒸発させてから、例えば赤外線ヒータを用いて、接着層を熱により活性化し、粘着性のある状態にする。接着剤フィルムが粘着性を有するようになる温度を、活性化温度と称する。
【0004】
熱活性化法の適用に適した水性ポリウレタンまたはポリウレタン−ポリ尿素分散体に基づいた接着剤は、US−A 4,870,129に記載されている。同明細書によれば、水性ポリウレタンまたはポリウレタン−ポリ尿素分散体は、特定のジイソシアネート混合物を用いてアセトン法に従って調製され、それから得られるフィルムは容易に活性化できる。
【0005】
しかしながら、ポリウレタンまたはポリウレタン−ポリ尿素分散体を用いる場合、湿潤接着法を使用することもできる。即ち、接着剤を適用した直後に接着を実施する。接着剤が固まるまで、接合する部品の機械的固定が必要である。木材または布地基材の接着のために、この方法をしばしば用いる。
【0006】
ポリウレタン分散体混合物も知られている。例えば、US−A 6,797,764は、特定のポリエステルに基づいたスルホネート基含有ポリウレタン分散体と水性脂肪族ポリウレタン分散体との混合物を記載している。該混合物は、熱活性化法により、多くの金属およびプラスチック基材に対して良好な接着性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US−A 4,870,129
【特許文献2】US−A 6,797,764
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、熱活性化法および湿潤接着法の両方によって優れた接着特性を示す分散体接着剤を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
意外にも、以下に記載した水性ポリウレタンまたはポリウレタン−ポリ尿素分散体の混合物が、熱活性化法および湿潤接着法の両方による接着剤として適しており、個々の成分の接着強さより優れた接着強さを示すことが見出された。
【0010】
本発明の態様は、
A)I)
I(i)少なくとも1種の400〜5000g/molの分子量を有する二官能性脂肪族ポリエステルポリオール;
I(ii)ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)と1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサン(IPDI)との少なくとも1種の混合物;および
I(iii)2種以上のアミン系連鎖延長剤の少なくとも1種の混合物であって、少なくとも1種のアミン系連鎖延長剤がイオン基を含有する混合物
からなり、乾燥後に半結晶質または結晶質であり、−65℃〜−40℃のガラス転位温度Tgでガラス転位するポリマーA)
を含んでなる水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体と;
B)II)
II(i)少なくとも1種の400〜5000g/molの分子量を有する二官能性芳香族ポリエステルポリオール;
II(ii)少なくとも1種の62〜399の分子量を有する二官能性ポリオール;
II(iii)少なくとも1種の脂肪族ジイソシアネート;および
II(iv)少なくとも1種のイオン基含有アミン系連鎖延長剤
からなり、乾燥後に非晶質であり、−15℃〜+10℃のガラス転位温度Tgでガラス転位するポリマーB)
を含んでなるA)以外の水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体
との混合物を含んでなる水性分散体である。
【0011】
本発明の別の態様は、A)およびB)の総重量に基づいて、A)が30〜90重量%の量で存在し、B)が10〜70重量%の量で存在する、上記水性分散体である。
【0012】
本発明の別の態様は、HDI対IPDIのモル比が9:1〜1:9の範囲である、上記水性分散体である。
【0013】
本発明の別の態様は、I(iii)が1,2−エタンジアミンとN−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩との混合物である、上記水性分散体である。
【0014】
本発明の別の態様は、前記混合物中の1,2−エタンジアミンおよびN−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩が、6:1〜1:6の範囲にモル比を有する、上記水性分散体である。
【0015】
本発明の別の態様は、II(i)がo−フタル酸および/またはo−フタル酸無水物並びに1,4−ブタンジオールおよび/または1,6−ヘキサンジオールに基づいたポリエステルポリオールである、上記水性分散体である。
【0016】
本発明の更に別の態様は、A)とB)とを互いに混合することを含む、上記水性分散体の製造方法である。
【0017】
本発明の更に別の態様は、上記水性分散体を含んでなる接着剤組成物である。
【0018】
本発明の更に別の態様は、上記水性分散体と、一分子あたり少なくとも2つのイソシアネート基を含有する少なくとも1種のポリイソシアネート化合物とを含んでなる、二成分接着剤組成物である。
【0019】
本発明の更に別の態様は、上記水性分散体で接着された基材および/またはシート様構造体を含んでなる接着複合材料である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
従って、本発明は、
A)I)I(i)少なくとも1種の400〜5000g/molの分子量を有する二官能性脂肪族ポリエステルポリオール;
I(ii)ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)と1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサン(IPDI)との少なくとも1種の混合物;および
I(iii)2種以上のアミン系連鎖延長剤の少なくとも1種の混合物であって、少なくとも1種の化合物がイオン基を含有する混合物
からなるポリマーA)であって、該ポリマーA)が、乾燥後に半結晶質または結晶質であり、−65℃〜−40℃のガラス転位温度Tgでガラス転位するポリマー
を含んでなる水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体と;
B)II)II(i)少なくとも1種の400〜5000g/molの分子量を有する二官能性芳香族ポリエステルポリオール;
II(ii)少なくとも1種の62〜399の分子量を有する二官能性ポリオール成分;
II(iii)少なくとも1種の脂肪族ジイソシアネート;および
II(iv)少なくとも1種のイオン基含有アミン系連鎖延長剤
からなるポリマーB)であって、該ポリマーB)が、乾燥後に非晶質であり、−15℃〜+10℃のガラス転位温度でガラス転位するポリマー
を含んでなるA)以外の水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体
との混合物を含んでなる水性分散体を提供する。
【0021】
本発明の水性分散体は、30〜90重量%、好ましくは45〜75重量%、特に好ましくは55〜65重量%、最も好ましくは60重量%のポリマーA)含有水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体と、10〜70重量%、好ましくは25〜55重量%、特に好ましくは35〜45重量%、最も好ましくは40重量%のポリマーB)含有水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体との混合物を含有する。
【0022】
適当な二官能性脂肪族ポリエステルポリオールA(Ii)として、特に、脂肪族または脂環式ジカルボン酸(例えば、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸またはそれらの混合物)と、多価アルコール(例えば、エタンジオール、ジ−、トリ−、テトラ−エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジ−、トリ−、テトラ−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールまたはそれらの混合物)とから既知の方法で調製され得るような直鎖ポリエステルジオールが考慮される。ポリエステルを調製するために、遊離カルボン酸に代えて、対応するポリカルボン酸無水物、または対応する低級アルコールとのポリカルボン酸エステル、或いはそれらの混合物を使用することもできる。
【0023】
コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、アジピン酸またはマレイン酸、および1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールまたは1,6−ヘキサンジオールに基づいた二官能性脂肪族ポリエステルポリオールA(Ii)が好ましい。
【0024】
アジピン酸、および1,4−ブタンジオールまたは1,6−ヘキサンジオールに基づいた二官能性脂肪族ポリエステルポリオールA(Ii)が特に好ましい。
【0025】
アジピン酸および1,4−ブタンジオールに基づいた二官能性脂肪族ポリエステルポリオールA(Ii)が最も好ましい。
【0026】
二官能性脂肪族ポリエステルポリオールA(Ii)の分子量は、400〜5000g/mol、好ましくは1500〜3000g/mol、特に好ましくは1900〜2500g/mol、最も好ましくは2100〜2300g/molである。
【0027】
イソシアネート成分A(Iii)として、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)と1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサン(IPDI)との混合物を使用する。モル比HDI:IPDIは、好ましくは9:1〜1:9、特に好ましくは3:1〜1:3、最も好ましくは2:1である。
【0028】
成分A(Iiii)は2種以上のアミン系連鎖延長剤の混合物からなり、少なくとも1種の化合物はイオン基を含有する。本発明の範囲における連鎖延長剤は、連鎖停止をもたらすモノアミンであるとも理解される。
【0029】
モノアミンの例は、脂肪族および/または脂環式、第一級および/または第二級モノアミン、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、異性体プロピル−およびブチル−アミン、高級直鎖−脂肪族モノアミンおよび脂環式モノアミン、例えば、シクロヘキシルアミンである。更なる例は、アミノアルコール、即ち、一分子中にアミノ基とヒドロキシル基とを含有する化合物、例えば、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、ジエタノールアミンまたは2−プロパノールアミンである。更なる例は、スルホン酸基および/またはカルボキシル基を更に含有するモノアミノ化合物、例えば、タウリン、グリシンまたはアラニンである。
【0030】
ジアミノ化合物の例は、1,2−エタンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1−アミノ−3,3,5−トリメチル−5−アミノメチル−シクロヘキサン(イソホロンジアミン)、ピペラジン、1,4−ジアミノシクロヘキサンまたはビス−(4−アミノシクロヘキシル)−メタンである。また、アジピン酸ジヒドラジド、ヒドラジンおよびヒドラジン水和物も適している。ジアミノ化合物に代わる連鎖延長成分として、ポリアミン、例えばジエチレントリアミンを使用することもできる。
【0031】
更なる例は、アミノアルコール、即ち、一分子中にアミノ基とヒドロキシル基とを含有する化合物、例えば、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、N−(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミンまたはN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミンである。
【0032】
イオン基を含有する、即ち、スルホネート基および/またはカルボキシレート基を更に含有するジアミノ化合物の例は、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸/カルボン酸の、N−(3−アミノプロピル)−2−アミノエタンスルホン酸/カルボン酸の、N−(3−アミノプロピル)−3−アミノプロパンスルホン酸/カルボン酸の、またはN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロパンスルホン酸/カルボン酸のナトリウム塩またはカリウム塩である。N−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。
【0033】
ジエタノールアミン、1,2−エタンジアミン、1−アミノ−3,3,5−トリメチル−5−アミノメチル−シクロヘキサン(イソホロンジアミン)、ピペラジン、N−(2−ヒドロキシエチル)−エチレンジアミン、およびN−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸/カルボン酸のナトリウム塩が、好ましい混合物A(Iiii)の成分である。
【0034】
1,2−エタンジアミンとN−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩との混合物が特に好ましい。この混合物は、好ましくは6:1〜1:6のモル比で、特に好ましくは2:1〜1:4のモル比で、最も好ましくは1:3〜1:4のモル比で使用する。
【0035】
ポリマーA)は、乾燥後に半結晶質または結晶質であり、−65℃〜−40℃のガラス転位温度Tgで、好ましくは−60℃〜−45℃のTgで、特に好ましくは−55℃〜−50℃でガラス転位する。
【0036】
適当な二官能性芳香族ポリエステルポリオールB(IIi)として、特に、芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸またはo−フタル酸およびそれらの酸無水物、例えばo−フタル酸無水物)と、多価アルコール(例えば、エタンジオール、ジ−、トリ−、テトラ−エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジ−、トリ−、テトラ−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールまたはそれらの混合物)とから既知の方法で調製され得るような直鎖ポリエステルジオールが考慮される。
【0037】
o−フタル酸またはo−フタル酸無水物、および1,4−ブタンジオールまたは1,6−ヘキサンジオールに基づいた二官能性芳香族ポリエステルポリオールB(IIi)が好ましい。
【0038】
o−フタル酸またはo−フタル酸無水物、および1,6−ヘキサンジオールに基づいた二官能性芳香族ポリエステルポリオールB(IIi)が特に好ましい。
【0039】
二官能性芳香族ポリエステルポリオールB(IIi)の分子量は、400〜5000g/mol、好ましくは1500〜3000g/mol、特に好ましくは1800〜2300g/mol、最も好ましくは1900〜2100g/molである。
【0040】
連鎖延長成分B(IIii)として適当である62〜399の分子量を有する二官能性ポリオール成分は、例えば、それらが62〜399ダルトンの分子量を有するならば、A(Ii)およびB(IIi)として例示した生成物である。更に適当な成分は、該ポリエステルポリオールの調製のために挙げた多価アルコール、特に二価アルコール、および低分子量ポリエステルジオール、例えばアジピン酸ビス−(ヒドロキシエチル)エステルである。短鎖二官能性ポリエーテルポリオール、例えば、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドのホモポリマー、混合ポリマーおよびグラフトポリマーも適している。
【0041】
好ましい連鎖延長成分B(IIii)は1,4−ブタンジオールおよび1,6−ヘキサンジオールであり、1,6−ヘキサンジオールが特に好ましい。
【0042】
連鎖延長成分B(IIiii)として、一分子あたり少なくとも2つの遊離イソシアネート基を含有する所望の脂肪族化合物が適している。ジイソシアネートY(NCO)が好ましく、ここで、Yは、4〜12個の炭素原子を含有する二価脂肪族炭化水素基、または6〜15個の炭素原子を含有する二価脂環式炭化水素基を表す。好ましく使用されるそのようなジイソシアネートの例は、テトラメチレンジイソシアネート、メチルペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサン、4,4’−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジイソシアナト−2,2−ジシクロヘキシルプロパンまたはそれらの混合物である。
【0043】
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサン(IPDI)、4,4’−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタンおよびそれらの混合物が特に好ましい。しかしながら、イソシアネートを単独で使用することが好ましい。
【0044】
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が最も好ましい。
【0045】
イオン基含有アミン系連鎖延長剤B(IIiv)は、好ましくは、スルホネート基および/またはカルボキシレート基を更に含有するジアミノ化合物、例えば、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸の、N−(3−アミノプロピル)−2−アミノエタンスルホン酸の、N−(3−アミノプロピル)−3−アミノプロパンスルホン酸の、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロパンスルホン酸の、または類似カルボン酸のナトリウム塩またはカリウム塩である。
【0046】
N−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩および類似カルボン酸ナトリウム塩が特に好ましく、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩が最も好ましい。
【0047】
イオン基含有アミン系連鎖延長剤B(IIiv)を、単独で、または例えばA(Iiii)で記載したような他のアミン系連鎖延長剤と一緒に使用できる。イオン基含有アミン系連鎖延長剤B(IIiv)を好ましくは単独で使用する。
【0048】
乾燥後、ポリマーB)は非晶質であり、−15℃〜+10℃のガラス転位温度Tgで、好ましくは−10℃〜+5℃のTgで、特に好ましくは−5℃〜0℃でガラス転位する。
【0049】
ポリマーA)またはB)を含有する水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体は、10〜70重量%、好ましくは25〜60重量%、特に好ましくは35〜55重量%の固形分を有する。
【0050】
水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体中に存在するポリマーA)またはB)は、好ましくはアセトン法により調製される。そのために、成分A(Ii)およびA(Iii)、またはB(IIi)、B(IIii)およびB(IIiii)からプレポリマーを調製し、アセトンに溶解し、成分A(Iiii)またはB(IIiv)で連鎖延長する。水での分散後、アセトンを留去する。アセトン法の適用および器具は従来技術であり、当業者に知られている。
【0051】
更に本発明は、本発明の分散体の製造方法を提供する。本発明の方法は、ポリマーA)およびB)の水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体を互いに混合することを特徴とする。
【0052】
本発明の分散体を用いて製造した接着剤は、湿潤接着法によるブナ基材の一成分接着の場合では、3日後に、4N/mm超、好ましくは4.2N/mm超、特に好ましくは4.5N/mm超の良好な剥離強さを示す。熱活性化温度100℃での熱活性化法による硬質PVCフィルムとブナ材との一成分接着の場合では、3日後に、3.4N/mm超、好ましくは3.5N/mm超、特に好ましくは3.6N/mm超の剥離強さが得られる。本発明の範囲において一成分とは、更なる架橋剤成分、例えばイソシアネートまたはカルボジイミドを使用しないことを意味する。しかしながら、本発明の分散体接着剤は、基本的に、架橋剤成分の添加を伴った用途にも適している。
【0053】
本発明はまた、接着剤組成物の調製における本発明の水性分散体の使用を提供する。
【0054】
本発明の分散体を含んでなる接着剤組成物を、単独で、または下記物質と一緒に使用できる:被覆剤および接着剤技術で知られているバインダー、補助物質および添加剤、特に乳化剤および光安定剤、例えば紫外線吸収剤および立体障害アミン(HALS)、そして酸化防止剤、充填材、並びに助剤、例えば、沈降防止剤、抑泡剤および/または湿潤剤、流れ改良剤、反応性希釈剤、可塑剤、触媒、補助溶媒および/または増粘剤、並びに例えば、顔料、着色料または艶消剤のような添加剤。粘着付与剤も添加できる。
【0055】
適用直前に、添加剤を本発明の分散体に添加できる。しかしながら、バインダーの分散前または間に少なくとも幾つかの添加剤を添加することもできる。
【0056】
個々の成分および/または全体としての混合物に添加され得るこれら物質の選択および計量添加は、基本的に当業者に知られており、過度に高い費用を伴わずに特定の用途に合わせることができ、簡単な予備試験により決定され得る。
【0057】
本発明はまた、本発明の分散体と、一分子あたり少なくとも2つのイソシアネート基を含有する少なくとも1種のポリイソシアネート化合物とを含んでなる二成分(2K)接着剤組成物も提供する。ポリイソシアネートは使用前に添加する(2K配合)。この場合、水中で乳化できるポリイソシアネート化合物を使用するのが好ましい。それらは、例えば、EP−A 0 206 059、DE−A 31 12 117またはDE−A 100 24 624に記載されている化合物である。ポリイソシアネート化合物は、水性分散体に基づいて、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%、特に好ましくは1.5〜6重量%の量で使用される。
【0058】
本発明の分散体を、接着複合材料の製造に適した接着剤組成物を調製するために特に使用する。接着複合材料は、基材、本発明の分散体、およびシート様構造体を含んでなる。基材およびシート様構造体は、同じまたは異なった材料からなり得る。
【0059】
本発明の分散体は、非常に幅広い種類の基材およびシート様構造体(例えば、木材、紙、皮革、布地、コルク、プラスチック、例えば、様々なグレードのポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ゴム、ポリ酢酸エチルビニル、ガラス繊維、並びにガラス繊維、炭素繊維および鉱物繊維の織物および編物、並びに石材、コンクリート、石膏またはしっくいのような鉱物材料)に対する優れた接着性によって特徴付けられる。
【0060】
従って、本発明の分散体を含んでなる接着剤組成物は、好ましくは上記した物質からなる、所望の基材およびシート様構造体を接着するのに適している。
【0061】
本発明の接着剤は、木材からなる基材およびシート様構造体を接着するのに特に適している。
【0062】
本発明の接着剤はまた、ポリ塩化ビニル、特に可塑化ポリ塩化ビニル、またはポリ酢酸エチルビニル或いはポリウレタン弾性フォームに基づいた靴底を皮革または合成皮革からなる靴胴部に接着するのに、そしてポリ塩化ビニルまたは可塑化ポリ塩化ビニルに基づいたフィルムを木材に接着するのに適している。
【0063】
本発明の分散体を含んでなる接着剤組成物はまた、ガラス繊維、炭素繊維または鉱物繊維の織物複合材料および編物を鉱物基材(例えば、石材、コンクリート、石膏またはしっくい)に接着するのにも適している。それによって、例えば、建築物または構造物を、物理的影響または例えば地震のような振動による損傷から良好に保護することができる。この使用は特に好ましい。
【0064】
本発明は同様に、本発明の分散体により接着された基材およびシート様構造体を含んでなる接着複合材料を提供する。
【0065】
本発明の接着剤は、水性分散体接着剤の配合に関する接着剤技術の既知の方法により製造される。
【0066】
上記した特許文献の全てを、有用な目的の全てのために、それらの全内容を引用してここに組み込む。
【0067】
本発明を具体化する特定の構造体を示し、記載するが、本発明の基本的な概念の意図および範囲から外れることなく、その一部を様々に変更および手直しでき、ここで示し、記載する特定の形態に限定されないことは、当業者には明らかであろう。
【実施例】
【0068】
本発明を実施例により以下に詳細に説明する。湿潤接着法および熱活性化法の適用後の剥離強さは、以下の方法により測定できる。
A)湿潤接着法適用後の剥離強さの測定
一成分型(架橋剤不含有)を用いて測定を実施する。
試験材料/試験片:
ブナ材(かんな仕上げ)/ブナ材(かんな仕上げ)、寸法:40×20×5mm
接着および測定:
接着剤分散体を、はけ塗りにより両方のブナ材試験片に塗布する。接着面積は10×20mmである。次いで、2つの試験片を上下に置き、室温および圧力5barで72時間接合する。
その後、試験片に、室温で、接合部に対して180°の角度で負荷をかけ、100mm/分の速度で試験片を引き離す。それに要した力(=剥離強さ、引張剪断強さ)を測定する。5つ1組で測定を実施し、平均値を表す。
【0069】
B)熱活性化法適用後の剥離強さの測定
一成分接着:架橋剤不含有接着剤
試験材料/試験片:
a)ブナ材(かんな仕上げ)
寸法:30×210×4.0mm
b)硬質PVCラミネートフィルム(Benelit RTF; Benecke-Kaliko AG, Hanover/D) 寸法:30×210×0.4mm
接着および測定:
接着剤分散体を、はけ塗りによりブナ材試験片に塗布する。接着面積は30×90mmである。室温で30分間の乾燥時間後、第二接着層を第一接着層の上に塗布し、次いで、試験片を室温で60分間乾燥する。続いて、2つの試験片を上下に置き、100℃および圧力4barで10秒間接合する。
試験片を室温で3日間保管した後、PVCフィルムを30mm/分の速度で接合部に対して180°の角度で引き離し、それに要した力(=剥離強さ)を測定する。2つ1組で測定を実施し、平均値を表す。
【0070】
C)ガラス転位温度を、Perkin-Elmer製Pyris Diamond DSC熱量計を用いて示差走査熱量測定法(DSC)により測定した。そのために、塗布ナイフを用いて分散体を100μmの湿潤フィルム厚さに塗布することによりフィルムをガラス板上に製造し、ガラス板を乾燥箱内で、室温および周囲湿度0%で3日間貯蔵した。次いで、試料材料10mgを用い、以下の測定条件の下でDSC曲線を記録した:ヘリウム雰囲気下、液体窒素による冷却を用いて、加熱速度20K/分および冷却速度320K/分で、出発温度−100℃までの急冷、次いで−100℃〜+150℃までの3つの加熱操作の開始。ガラス転位温度は、ガラス転位の半分の高さでの温度に相当する。
【0071】
使用した材料:
分散体I:
VP KA 8481(Bayer MaterialScience AG, Leverkusen/D)
アジピン酸/ブタンジオールポリエステルおよびヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)とイソホロンジイソシアネート(IPDI)との混合物に基づいたスルホネート安定化ポリウレタン分散体(分散体の固形分は約40%)。得られるポリマーは、乾燥後に半結晶質であり、−52.5℃のガラス転位温度Tgでガラス転位する。
分散体II:
Dispercoll(登録商標)U42(Bayer MaterialScience AG, Leverkusen/D)
無水フタル酸/ヘキサンジオールポリエステル、ヘキサンジオールおよびヘキサメチレンジイソシアネートに基づいたスルホネート安定化ポリウレタン分散体(分散体の固形分は約50%)。得られるポリマーは、乾燥後に非晶質であり、−3.5℃のガラス転位温度Tgでガラス転位する。
【0072】
実施例1(本発明):
600gのVP KA 8481分散体に、400gのDispercoll(登録商標)U42分散体を撹拌しながらゆっくりと添加し、均一な混合物が生じるまで撹拌を実施する。次いで、対応する試験片を熱活性化法および湿潤接着法を用いて製造し、剥離強さを測定する(説明は上記参照)。
【0073】
実施例2(比較):
VP KA 8481を用いて、熱活性化法および湿潤接着法により対応する試験片を製造し、剥離強さを測定する(説明は上記参照)。
【0074】
実施例3(比較):
Dispercoll(登録商標)U42を用いて、熱活性化法および湿潤接着法により対応する試験片を製造し、剥離強さを測定する(説明は上記参照)。
【0075】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)I)
I(i)少なくとも1種の400〜5000g/molの分子量を有する二官能性脂肪族ポリエステルポリオール;
I(ii)ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)と1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチル−シクロヘキサン(IPDI)との少なくとも1種の混合物;および
I(iii)2種以上のアミン系連鎖延長剤の少なくとも1種の混合物であって、少なくとも1種のアミン系連鎖延長剤がイオン基を含有する混合物
からなり、乾燥後に半結晶質または結晶質であり、−65℃〜−40℃のガラス転位温度Tgでガラス転位するポリマーA)
を含んでなる水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体と;
B)II)
II(i)少なくとも1種の400〜5000g/molの分子量を有する二官能性芳香族ポリエステルポリオール;
II(ii)少なくとも1種の62〜399の分子量を有する二官能性ポリオール;
II(iii)少なくとも1種の脂肪族ジイソシアネート;および
II(iv)少なくとも1種のイオン基含有アミン系連鎖延長剤
からなり、乾燥後に非晶質であり、−15℃〜+10℃のガラス転位温度Tgでガラス転位するポリマーB)
を含んでなるA)以外の水性ポリウレタンまたはポリウレタン−尿素分散体
との混合物を含んでなる水性分散体。
【請求項2】
A)およびB)の総重量に基づいて、A)が30〜90重量%の量で存在し、B)が10〜70重量%の量で存在する、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項3】
HDI対IPDIのモル比が9:1〜1:9の範囲である、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項4】
I(iii)が1,2−エタンジアミンとN−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩との混合物である、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項5】
前記混合物中の1,2−エタンジアミンおよびN−(2−アミノエチル)−2−アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩が、6:1〜1:6の範囲にモル比を有する、請求項4に記載の水性分散体。
【請求項6】
II(i)がo−フタル酸および/またはo−フタル酸無水物並びに1,4−ブタンジオールおよび/または1,6−ヘキサンジオールに基づいたポリエステルポリオールである、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項7】
A)とB)とを互いに混合することを含む、請求項1に記載の水性分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の水性分散体を含んでなる接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の水性分散体と、一分子あたり少なくとも2つのイソシアネート基を含有する少なくとも1種のポリイソシアネート化合物とを含んでなる、二成分接着剤組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の水性分散体で接着された基材および/またはシート様構造体を含んでなる接着複合材料。

【公開番号】特開2009−191269(P2009−191269A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−31283(P2009−31283)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】