説明

分散剤組成物

【課題】スラリーの粘度を低減できる分散剤組成物、該分散剤組成物の製造方法、該分散剤組成物を用いた分散方法、及びスラリー組成物の製造方法の提供。
【解決手段】(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル、及び水を含む分散剤組成物であって、前記重合体の塩の重量平均分子量が30000〜80000であり、前記エステルの分散剤組成物中の含有量が700重量ppm以上1600重量ppm未満である分散剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤組成物、分散剤組成物の製造方法、分散方法及びスラリー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどの電子部品の製造には、スラリー化した電子材料用粉体が用いられる。例えば、誘電体セラミック粉末のスラリー組成物は、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層の形成材料として利用される。携帯電話等をはじめとする電子機器及びそれらの電子部品の高性能化及び小型化に伴い、より取り扱い性が向上したスラリー組成物が求められている。例えば、積層セラミックコンデンサの小型化には誘電体セラミック層の薄層化が必要であり、分散性及び作業性が向上した誘電体セラミック粉末のスラリー組成物が求められている。
【0003】
粉体の分散剤の1つとして、ポリカルボン酸系(共)重合体が挙げられる(特許文献1)。そのなかでも、粉体のスラリー組成物の粘度を低減させることにより分散性及び作業性を向上する分散剤として、α,β−不飽和カルボン酸を構成単位とする(共)重合体の中和物からなる顔料分散剤(特許文献2)、分子量が25000〜80000である(メタ)アクリル酸−不飽和二塩基酸共重合体を含む分散剤組成物(特許文献3)などが開示されている。
【0004】
また、イソプロパノールを含む溶媒の再利用を含むアクリル酸系重合体の製造方法も開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−99614号公報[0022段落]
【特許文献2】特開平10−110015号公報[請求項1、要約]
【特許文献3】特開2005−288294号公報[請求項1、要約]
【特許文献4】特開2008−37968号公報[請求項1、要約]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電子部品等に対する要求特性はますます高まりつつある。例えば、ファインセラミック分野などにおいては、ナノスケールの微細構造を制御することで、小型化、高速化、低消費電力、高効率化、高容量化を実現する試みがなされており、水系における粉体のナノ分散技術への要求も高く、分散剤組成物の性能のさらなる改善が求められている。
【0007】
本発明は、スラリーの粘度を低減できる分散剤組成物、該分散剤組成物の製造方法、該分散剤組成物を用いた分散方法、及びスラリー組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル、及び水を含む分散剤組成物であって、前記重合体の塩の重量平均分子量が30000〜80000であり、前記エステルの分散剤組成物中の含有量が700重量ppm以上1600重量ppm未満である分散剤組成物に関する。
【0009】
本発明は、その他の態様において、本発明の分散剤組成物の製造方法であって、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体を、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル及びイソプロパノールを含む溶媒を用いた重合反応で調製することを含む製造方法に関する。
【0010】
本発明は、さらにその他の態様において、本発明の分散剤組成物を用いて水系溶媒中に粉体を分散させることを含む分散方法に関する。さらに、本発明はその他の態様において、本発明の分散剤組成物、粉体、及び水系溶媒を含有するスラリー組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分散剤組成物は、好ましくは、粘度がより低減された、水系スラリー組成物を提供できるという効果を奏しうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例及び比較例の分散剤組成物を用いて調製されたスラリー組成物における、分散剤組成物中の(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステルの含有量と、スラリー組成物の粘度との関係を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ポリアクリル酸系の重合体を含む分散剤組成物においては、重合反応の溶媒としてイソプロパノールと水の混合溶液が使用されることがある。例えば、アクリル酸を単量体としてイソプロパノール存在下で重合反応を行った場合、反応後の溶媒にはアクリル酸とイソプロパノールとのエステルであるアクリル酸イソプロピルが含まれる。このようなエステルは、通常、重合反応後にイソプロパノールとともに蒸留除去され、分散剤組成物には含まれない(例えば、特許文献4)。本発明は、そのようなエステルを所定量含有させることにより、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体を含む分散剤組成物が、例えば電子材料用粉体のような粉体の水系スラリー組成物の粘度を低減でき、それより、該水系スラリー組成物の分散性及び作業性を向上できる、という知見に基づく。
【0014】
(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体と、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステルとを含む分散剤組成物が、前述の効果を奏する理由は定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、分散質である粉体にまず該エステルが吸着し、該粉体が表面処理されたような状態になる。その後、該重合体がエステルを介して粉体に吸着する。これにより粉体に反発力(静電気的及び/又は立体的)が付与され、その結果、分散安定化が図られ粘度が低下するものと考えられる。但し、これらは推定であって、本発明は、これらメカニズムに限定されない。
【0015】
すなわち、本発明は、一態様において分散剤組成物(以下、「本発明の分散剤組成物」ともいう)であって、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル、及び水を含む分散剤組成物であって、前記重合体の塩の重量平均分子量が30000〜80000であり、前記エステルの分散剤組成物中の含有量が700重量ppm以上1600重量ppm未満である分散剤組成物に関する。本発明の分散剤組成物によれば、好ましくは、水系スラリー組成物の粘度をより低減でき、それによりスラリー組成物の分散性及び作業性を向上できるという効果が奏されうる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を指す。
【0016】
[分散剤組成物]
本発明の分散剤組成物は、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩と、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステルと、水とを含む。本発明の分散剤組成物は、一つの実施形態として、分散性を向上する有効成分が、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩、及び、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステルの組合せからなる分散剤組成物であってもよい。
【0017】
本発明の分散剤組成物の一実施形態は、水性溶液である。本発明において、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体の中和度は、粉体成分の耐化学分解性及び耐臭気性の観点から、好ましくは50モル%を超え99モル%以下、より好ましくは60〜99モル%、さらに好ましくは77〜99モル%である。ここで、本明細書において中和度は、[中和されている酸基のモル当量/中和され得る全酸基のモル当量]×100(モル%)で表される。
【0018】
本発明の分散剤組成物のpHは、粉体成分の耐化学分解性及び耐臭気性の観点から、好ましくは5〜9、より好ましくは5.5〜8.5、さらに好ましくは6.0 〜8.0である。
【0019】
[(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体成分]
本発明の分散剤組成物は、構成単位がアクリル酸又はメタクリル酸由来である重合体のアンモニウム塩又はアミン塩(以下、「重合体成分」ともいう)を含む。本明細書において、構成単位がアクリル酸又はメタクリル酸由来である重合体とは、重合体における全構成単位の好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは実質的に全てがアクリル酸又はメタクリル酸由来の構成単位であることをいう。また、本明細書において、重合体の構成単位がアクリル酸又はメタクリル酸由来であるとは、該重合体がアクリル酸又はメタクリル酸から製造され得ることをいう。重合体成分の構成単位としては、重合時の重合速度が高いという点から、アクリル酸由来であることが好ましい。
【0020】
また、重合体成分は、アクリル酸由来の構成単位とメタクリル酸由来の構成単位との共重合体のアンモニウム塩又はアミン塩であってもよい。この場合、アクリル酸由来の構成単位の重量とメタクリル酸由来の構成単位の重量との比(アクリル酸/メタクリル酸(重量比))は、後述の水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、100/0〜80/20が好ましく、100/0〜88/12がより好ましく、100/0〜95/5がさらに好ましい。なお、前記重量比において「100/0」とは、メタクリル酸由来の構成単位を含まないことを表す。
【0021】
なお、一実施形態において、重合体成分は、構成単位がアクリル酸である重合体のアンモニウム塩及びアミン塩、構成単位がメタクリル酸である重合体のアンモニウム塩及びアミン塩、並びに、アクリル酸由来の構成単位とメタクリル酸由来の構成単位との共重合体のアンモニウム塩及びアミン塩からなる群から選択される一種以上であってもよい。
【0022】
重合体成分の重量平均分子量(Mw)は、水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、30000〜80000であり、好ましくは40000〜70000、より好ましくは45000〜65000である。なお、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した値であり、測定条件の詳細は実施例に示す通りである。
【0023】
重合体成分の数平均分子量(Mn)は、水系スラリー組成物の粘度低減の観点、とりわけ、高濃度の粉体のスラリーの粘度低減の観点から、24000〜55000が好ましく、32000〜47000がより好ましく、36000〜43000がさらに好ましい。なお、数平均分子量はGPCにより測定した値であり、測定条件の詳細は実施例に示す通りである。
【0024】
重合体成分における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、水系スラリー組成物の分散性及び低粘度を維持する観点から、1.15〜2.60が好ましく、1.20〜2.55がより好ましく、1.25〜2.50がさらに好ましい。
【0025】
重合体成分におけるアミン塩としては、1級、2級又は3級のアルキルアミン塩やアルカノールアミン塩が挙げられ、モノアルキル(アルキル基の炭素数1〜3)アミン、ジアルキル(アルキル基の炭素数1〜3)アミン、トリアルキル(アルキル基の炭素数1〜3)アミン、モノアルカノール(アルカノールの炭素数1〜3)アミン、ジアルカノール(アルカノールの炭素数1〜3)アミン、トリアルカノール(アルカノールの炭素数1〜3)アミン等の塩が挙げられる。アンモニウム塩又はアミン塩としては、具体的には、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化トリエチルメチルアンモニウム等に由来する塩が挙げられる。この中でも、粉体の水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、アンモニウム塩が好ましい。
【0026】
本発明の分散剤組成物中の重合体成分の含有量は、水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、20〜55重量%が好ましく、25〜50重量%がより好ましく、30〜45重量%がさらに好ましい。本発明の分散剤組成物中の重合体成分の含有量は、例えば、原材料の仕込み量からも求めることができる、あるいは、本発明の分散剤組成物中の固形分量を測定することで求めることもできる。
【0027】
[(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル]
本発明の分散剤組成物は、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル(以下、「エステル成分」ともいう)を含む。エステル成分としては、後述するとおり、イソプロパノールを含む溶媒で(メタ)アクリル酸の重合反応を行った後の反応溶液に含まれるものを用いることが好ましい。
【0028】
本発明の分散剤組成物中のエステル成分の含有量は、水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、700重量ppm以上1600重量ppm未満であって、750〜1500重量ppmが好ましく、800〜1400重量ppmがより好ましく、800〜1300重量ppmがさらに好ましい。本明細書において、「重量ppm」とは重量比の百万分率であることを示す。
【0029】
本発明の分散剤組成物におけるエステル成分の含有量はGC(ガスクロマトグラフィー)により測定される値であり、測定条件の詳細は実施例に示す通りである。
【0030】
[分散剤組成物の製造方法]
本発明の分散剤組成物は、(メタ)アクリル酸を重合反応させた後に、前述した1級、2級もしくは3級アミン、水酸化第4級アンモニウム、アンモニア水などを添加して中和し、前記中和の前後若しくは同時に所定量の(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステルを添加する方法で製造してもよい。また、連鎖移動剤としてイソプロパノールを含む溶媒で(メタ)アクリル酸の重合反応を行うと、反応後の溶媒には(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステルが含まれることとなる。したがって、本発明の分散剤組成物は、イソプロパノールの存在下、又は、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル及びイソプロパノールの存在下で(メタ)アクリル酸の重合反応を行った後、イソプロパノールの蒸留除去及び中和を行う方法で製造してもよい。
【0031】
本発明の分散剤組成物を製造する方法の一形態としては、以下の方法が挙げられる。攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロート等を備えた反応容器に、溶媒としてイソプパノール及びイオン交換水を仕込み、窒素気流下で加熱後、温度を維持しながら、(メタ)アクリル酸水溶液及び過硫酸アンモニウム水溶液をそれぞれ別の滴下ロートから所定時間をかけて滴下し重合反応を行う。滴下終了後、所定時間熟成し重合反応を完結させる。反応終了後、所定の温度でエバポレーターによりイソプロパノールを除去して分散剤組成物を得る。溶媒中のイソプロパノールの量を調節し、あるいは、溶媒中に予めエステル成分を含有させることで、分散剤組成物中のエステル成分の含有量を前述した所定範囲とすることができる。
【0032】
したがって、本発明は、その他の態様において、本発明の分散剤組成物を製造する方法(以下、「本発明の分散剤組成物製造方法」ともいう。)であって、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体を、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル及びイソプロパノールを含む溶媒を用いた重合反応で調製することを含む製造方法に関する。
【0033】
「(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル及びイソプロパノールを含む溶媒を用いた重合反応」の具体例としては、例えば、(i)所定温度に加温された溶媒の攪拌下に、単量体((メタ)アクリル酸)及び重合開始剤を添加する方法、(ii)所定温度に加温された溶媒と単量体との混合物の攪拌下に、重合開始剤を添加する方法、(iii)所定温度に加温された溶媒と一部の単量体との混合物の攪拌下に、残りの単量体及び重合開始剤を添加する方法等が挙げられる。
【0034】
重合反応の溶媒は、水系溶媒(例えば、蒸留水、イオン交換水、超純水等)に(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル及びイソプロパノールを混合することで調製できる。あるいは、前記溶媒は、水系溶媒に回収イソプロパノールを混合して調製してもよく、水系溶媒にイソプロパノール及び回収イソプロパノールをそれぞれ適宜混合して調製してもよい。本明細書において「回収イソプロパノール」とは、イソプロパノールを含む溶媒で(メタ)アクリル酸の重合反応を行った後に、重合体の濃縮等を目的として蒸留除去されて回収されるイソプロパノールをいい、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステルを含むものをいう。したがって、本発明は、さらにその他の態様において、分散剤組成物の製造方法であって、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとを含む溶媒を用いた重合反応によって(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体を繰り返し調製することを含み、前記溶媒が(メタ)アクリル酸をイソプロパノール存在下で重合反応させた後の留去物(すなわち、回収イソプロパノール)を含む分散剤組成物製造方法に関する。この態様の製造方法により製造される分散剤組成物も本発明の分散剤組成物に含めることができる。
【0035】
重合反応の溶媒における(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステルの含有量は、分散剤組成物におけるエステル成分の含有量調節の容易化、回収イソプロパノール再利用によるコスト低減及び環境保全、並びに、水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、500重量ppmを超え1000重量ppm未満が好ましく、550〜900重量ppmがより好ましく、600〜800重量ppmがさらに好ましい。
【0036】
重合反応の溶媒におけるイソプロパノールの含有量は、分散剤組成物の重合体成分の重量平均分子量を制御する観点から、イソプロパノール/((メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル及びイソプロパノールの合計)=16〜195モル%が好ましく、より好ましくは25〜150モル%であり、さらに好ましくは35〜100モル%である。
【0037】
重合反応には、重合を容易に開始・促進させるための重合開示剤を使用することが好ましい。重合開始剤としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等が挙げられるが、モノマーを容易に重合させる観点から過硫酸アンモニウムが好ましい。
【0038】
重合反応にはイソプロパノールの他に、さらに連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤としては、2−メルカプトエタノール、メルカプトリンゴ酸、メルカプトグリセロール、メルカプトプロピオン酸、ブチルメルカプタン、次亜リン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0039】
重合体の分子量の制御のしやすさの観点から、重合方法としては、各滴下ロートにそれぞれの薬剤を仕込み、所定の時間にて滴下する重合方法が好ましい。重合時及びその後の熟成時の温度としては、反応を容易に進行させる観点から、75〜95℃が好ましく、より好ましくは78〜92℃、さらに好ましくは81〜89℃である。
【0040】
(メタ)アクリル酸アンモニウム塩又はアミン塩を所定量に設定する方法としては、完全に重合を終了させた後に、冷却後(メタ)アクリル酸を添加する方法が挙げられる。あるいは、重合及び熟成温度を低めに設定にして反応を行い、未反応の(メタ)アクリル酸を残留させる方法でもよい。未反応の(メタ)アクリル酸を残留させる反応温度としては、75〜85℃が好ましく、より好ましくは75〜82℃であり、さらに好ましくは75〜78℃である。
【0041】
重合反応の終了後、反応溶液を加熱して溶媒(イソプロパノール)を蒸留除去することが好ましい。ここで回収されるイソプロパノールは、前述のおとり、次の重合反応の溶媒の調製に使用できる。イソプロパノールを留去するための反応溶液の加熱は、分散剤組成物におけるエステル成分の含有量調節の容易化の点から、40〜100℃が好ましく、蒸留除去後の反応溶液における溶媒の含有量が30〜70重量%となるまで、あるいは、後述の中和反応後におけるエステル成分が前述の範囲となるまで蒸留除去することが好ましい。なお、この蒸留は、常圧下及び減圧下のいずれで行ってもよい。
【0042】
重合体を中和して重合体の塩とするために添加するアミン及びアンモニウム化合物としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化トリエチルメチルアンモニウム、アンモニア水溶液等が挙げられる。水系スラリー組成物の粘度低減の観点からは、アンモニウム塩とすることが好ましい。
【0043】
以上のようにして製造される分散剤組成物は、水系溶媒における粉体のスラリー組成物の粘度低減に優れる。本発明の分散剤組成物は、とりわけ、電子材料用粉体として使用される粉体を含む後述する粉体の分散に好適である。
【0044】
[分散方法]
本発明は、その他の態様として、本発明の分散剤組成物を用いて粉体を水系溶媒中で分散させる工程を含む分散方法(以下、「本発明の分散方法」ともいう)を提供しうる。本発明の分散方法により分散させる粉体としては、電子材料用粉体として使用される粉体を含む後述する粉体が挙げられる。また、水系溶媒は、水、あるいは水とエチルアルコール、エチレングリコール等の水溶性有機溶媒との混合溶液が挙げられ、好ましくは水である。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、超純水等が挙げられる。本発明の分散方法によれば、粘度が低減されたスラリー組成物を製造することができる。
【0045】
[スラリー組成物]
本発明の分散剤組成物を用いれば、水系溶媒に粉体が分散した水系スラリー組成物を得ることができる。したがって、本発明は、さらにその他の態様において、スラリー組成物であって(以下、「本発明のスラリー組成物」ともいう)、水系溶媒、粉体、及び分散剤組成物を含有し、該分散剤組成物が本発明の分散剤組成物であるスラリー組成物を提供できる。本発明のスラリー組成物によれば、粘度の低減を実現できる。本発明のスラリー組成物に分散させる粉体としては、電子材料用粉体として使用される粉体を含む後述する粉体が挙げられる。水系溶媒は、水、あるいは水とエチルアルコール、エチレングリコール等の水溶性有機溶媒との混合溶液が挙げられ、好ましくは水である。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、超純水等が挙げられる。したがって、本発明は、さらにその他の態様として、スラリー組成物の製造方法であって(以下、「本発明のスラリー組成物の製造方法」ともいう)、粉体、分散剤組成物、及び水系溶媒を合して、該粉体を分散させる工程を含み、該分散剤組成物が、本発明の分散剤組成物であるスラリー組成物の製造方法を提供しうる。
【0046】
本発明のスラリー組成物における粉体の含有量は、特に規定されないが、乾燥効率及び生産性の向上の観点から、好ましくは45重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは55重量%以上である。
【0047】
本発明のスラリー組成物の製造において、本発明の分散剤組成物の添加量は、スラリー組成物の粘度低減の観点から、粉体100重量部に対し、本発明の分散剤組成物の固形分が好ましくは0.3〜5.0重量部、より好ましくは0.4〜4.0重量部、さらに好ましくは0.5〜3.0重量部となるように添加される。
【0048】
本発明のスラリー組成物の製造方法の実施形態として、例えば、分散剤組成物を溶解した水溶液に粉体を添加し、攪拌、混合する方法、あるいは、粉体に水と分散剤組成物を加えて攪拌、混合する方法等が挙げられる。攪拌、混合する方法としては、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー等一般に用いられる攪拌装置を使用することができる。攪拌温度としては、分散剤組成物と粉体とを容易に混合させる観点から、20〜60℃が好ましく、より好ましくは23〜50℃であり、さらに好ましくは25〜40℃である。
【0049】
本発明のスラリー組成物の製造方法のその他の実施形態として、個数平均粒径が10μm以上の粉体粗粒子を、粉砕と同時にスラリー化する製造方法が挙げられる。具体的には、粉体粗粒子に水系媒体と分散剤組成物とを添加して、粉砕と同時にスラリー化する方法等が挙げられる。粉砕と同時にスラリー化する方法としてはビーズミル、ペイントシェーカー等一般に用いられる攪拌装置を使用することができる。その際攪拌温度としては、分散剤組成物と粉体とを容易に混合させる観点から、20〜60℃が好ましく、より好ましくは23〜50℃であり、さらに好ましくは25〜40℃である。
【0050】
[粉体]
本発明の分散剤組成物で分散させる粉体の窒素吸着法により測定されるBET比表面積は、スラリー組成物の粘度低減の観点から、330m2/g以上650m2/g未満であることが好ましく、より好ましくは350〜600m2/gであり、さらに好ましくは370〜500m2/gである。また、本発明の分散剤組成物で分散させる粉体の走査型電子顕微鏡(SEM;20,000倍、100個の平均値)で測定される一次粒径としては、スラリー組成物の粘度低減の観点から、60〜150nmが好ましく、より好ましくは70〜130nmであり、さらに好ましくは80〜110nmである。したがって、本発明の分散方法の一実施形態として、本発明の分散剤組成物を用いて水系溶媒中に粉体を分散させることを含み、前記粉体の比表面積が330m2/g以上650m2/g未満であり、前記粉体の一次粒径が60〜160nmである分散方法、が挙げられる。
【0051】
本発明の分散剤組成物で分散させる粉体としては、炭酸塩、リン酸塩、チタン酸塩、珪酸塩、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ(酸化ケイ素)、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、カーボンブラック及び炭化珪素等が挙げられる。これらの粉体は、電子材料用粉体として、例えばICパッケージ、配線基板、絶縁体、センサー、電極、磁性体、半導体、コンデンサー、光ファイバー等の電子部品に使用されうる。また、シリカ、酸化セリウム粉等は、研磨材用粉体として使用されうる。したがって、本発明は、その他の態様として、電子材料用粉体又は研磨材用粉体に使用する分散剤組成物、電子材料用粉体又は研磨材用粉体の分散方法、並びに、電子材料用粉体又は研磨材用粉体のスラリー組成物及びその製造方法を提供できる。本発明によれば、好ましくは、電子材料用粉体スラリーの粘度を低減することにより分散性及び作業性を向上でき、電子部品の小型化や生産性の向上に寄与できる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を説明する。後述する実施例及び比較例において、分散剤組成物における重合体成分の重量平均分子量及び数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定し、分散剤組成物におけるエステル成分はGC(ガスクロマトグラフィー)により測定した。具体的な条件は以下のとおりである。
【0053】
<重合体成分の重量平均分子量及び数平均分子量の測定方法>
分散剤組成物における重合体成分の重量平均分子量及び数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記条件で測定した。
カラム:TSK PWXL+G4000PWXL+G2500PWXL(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
検出器:RI又はUV(210nm)
溶離液:0.2mol/L リン酸緩衝液/アセトニトリル(9/1)
流速:1.0mL/min
注入量:0.1mL
標準:ポリエチレングリコール
【0054】
<分散剤組成物の固形分量の測定方法>
分散剤組成物の固形分量は、マイクロウェーブ水分計(SMART 5 SYSTEM、CEM社製)により、下記条件で測定した。
分散剤組成物測定条件; 温度 105℃、マイクロウェーブパワー 80重量%
1.グラスファイバーサンプルパッド(Reorder part #200150)2枚を水分計にセットし、Tareを押し、サンプルパッドの水分を除去する。
2.サンプルパッドの間にて分散剤組成物を約2g計る(天秤内蔵)。
3.水分計のカバーを閉め、Startを押し、測定を開始する。水分(重量%)が出力される。
4.1〜3の操作を3回行い、水分(重量%)の平均値を算出する。
固形分量(重量%)=100−水分(重量%)平均値
【0055】
<エステル成分の測定方法>
分散剤組成物中及び回収アルコール中のエステル含有量はGC(ガスクロマトグラフィー)により、下記条件で測定した。
測定機器:6890N(Agilent Technologies社)
カラム:DB−1HT(J&W社、30m×250μm×0.1μm)
キャリヤーガス:He(コンスタントフローモード)
スプリット比 50:1
検出器:FID
注入口温度:330℃
検出器温度:330℃
測定温度条件:60℃→(10℃/min)→370℃×5分保持
検出感度:取り込み速度 20Hz、最小ピーク幅 0.01min
注入量:1μL(スプリット法)
【0056】
<回収イソプロパノールの調製>
分散剤組成物の調製に使用した回収イソプロパノールは、以下のように調製した。
まず、攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、525.3gのイソプロパノール(シグマアルドリッチ社製試薬、エステル含有量0ppm)及び62.0gのイオン交換水を仕込み、窒素気流下で90℃に加熱後、この温度を維持しながら、80重量%アクリル酸水溶液200.0g及び4重量%過硫酸アンモニウム水溶液55.8gをそれぞれ別の滴下ロートから5時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、90℃で5時間熟成し(熟成開始15分後に4重量%過硫酸アンモニウム水溶液9.9gを添加)重合反応を完結させた。反応終了後、90℃にて減圧下、エバポレーターでイソプロパノールを回収した。回収イソプロパノール中のエステル(アクリル酸イソプロピル)の含有量は2200ppmであった。
【0057】
[分散剤組成物の調製(実施例1〜10、比較例1〜8)]
まず、下記表1に示す分散剤組成物(実施例1〜10、比較例5及び8)を、後述のとおり調製した。
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、イソプロパノール215.4g(未使用アルコール/回収アルコール=80/20重量%)及びイオン交換水62.0gを仕込み、窒素気流下で85℃に加熱後、この温度を維持しながら、80重量%アクリル酸水溶液170.0g及び4重量%過硫酸アンモニウム水溶液55.8gをそれぞれ別の滴下ロートから2時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、85℃で5時間熟成し(熟成開始15分後に4重量%過硫酸アンモニウム水溶液9.9gを添加)重合反応を完結させた。反応終了後、80℃にてエバポレーターでイソプロパノールを除去した。その後イオン交換水で濃度調整後、約40℃を保持しながらpHが6〜8となるように28重量%アンモニア水溶液101.9gを滴下して中和し、アクリル酸重合体のアンモニウム塩を含む分散剤組成物(固形分40重量%)を得た。前記重合体の重量平均分子量は33800、エステル含有量は726重量ppmであった。なお、前記未使用アルコールとして、イソプロパノール試薬(シグマアルドリッチ社製試薬、エステル含有量0ppm)を使用した。
【0060】
(実施例2〜10、比較例5及び8)
実施例1におけるイソプロパノール(未使用アルコール及び回収アルコール)の量を上記表1に示す量とした他は、実施例1と同様にして分散剤組成物(実施例2〜10、比較例5及び8)を調製した(それぞれ、固形分40重量%)。重合体の重量平均分子量及びエステル含有量は下記表2に示すとおりであった。
【0061】
【表2】

【0062】
次に、比較例1〜4、6、及び7の分散剤組成物を下記のように調製した。
【0063】
(比較例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、マレイン酸無水物78.5g及びイオン交換水80.0gを仕込み、55℃に加熱後、28重量%アンモニア水溶液24.3gを滴下し、マレイン酸アンモニウム塩水溶液とした。マレイン酸/アンモニア=100/50(モル比)。次に窒素気流下で100℃まで加熱した後、この温度を維持しながら、80重量%アクリル酸水溶液360.5g及び35重量%過酸化水素水溶液153.9gをそれぞれ別の滴下ロートから3.5時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、100℃で10時間熟成し、重合反応を完結させた。反応終了後、冷却し、約40℃を保持しながらpHが6〜8となるように28重量%アンモニア水溶液230.0gを滴下して中和し、アクリル酸−マレイン酸共重合体のアンモニウム塩を含む分散剤組成物(固形分40重量%)を得た。
【0064】
(比較例2)
攪拌式オートクレーブにトリエチルアミン(1モル)、炭酸ジメチル(1.5モル)及び溶媒としてメタノール(2.0モル)を仕込み、反応温度110℃にて12時間反応させ、メチルトリエチルアンモニウムメチルカーボネートのメタノール溶液を得た。アクリル酸/マレイン酸共重合体(モル比77/23、Mw5000)の40重量%水溶液に、上記メチルトリエチルアンモニウムメチルカーボネートのメタノール溶液をpHが7.0になるように仕込んだ。炭酸ガス及びメタノールを除き、水を加えることでアクリル酸/マレイン酸共重合体・メチルトリエチルアンモニウム塩を含む分散剤組成物(固形分35重量%)を得た。
【0065】
(比較例3)
耐圧反応容器にイソプロパノール420部、水120部を仕込み、窒素置換後密閉し、100℃に昇温した。攪拌下アクリル酸77部と、アクリル酸228部と連鎖移動剤(トリエチレンジグリコールメルカプタン)4部と次亜リン酸ナトリウム(2水和物)2部と塩化第1鉄(4水和物)0.7部との均一混合物と、過硫酸ナトリウム6%水溶液50部とを、別々の容器からそれぞれ3時間、1時間後から2時間、3.5時間かけて滴下した。滴下終了後、35%過酸化水素水溶液3部を投入し、同温度で1時間保持し、重合体を得た(Mw10000)。水酸化ナトリウム30%水溶液158部、トリエチルメチルアンモニウムメチルカーボネートのメタノール60%溶液27部で中和した後、イソプロパノール、メチルアルコールを留去して、ポリアクリル酸混合塩(固形分48重量%)を含む分散剤組成物を得た。
【0066】
(比較例4)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器にマレイン酸無水物39.2g及びイオン交換水55.2gを仕込み、窒素気流下で55℃に加熱後、30重量%水酸化ナトリウム水溶液106.7gを滴下し、マレイン酸ナトリウム水溶液とした。次に窒素気流下で100℃まで加熱した後、この温度を維持しながら、100重量%メタアクリル酸メチルポリオキシ(EO23モル)エチレンを889.6g及び35重量%過酸化水素水溶液15.9gをそれぞれ別の滴下ロートから3.5時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、100℃で10時間熟成し重合反応を完結させた。反応終了後、冷却し、約40℃を保持しながら、pHが6〜8となるように48重量%水酸化ナトリウム水溶液を87.7g添加して中和し、マレイン酸−メタアクリル酸メチルポリオキシ(EO23モル)エチレン共重合体ナトリウム塩(固形分78重量%)を含む分散剤組成物を得た。
【0067】
(比較例6)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器にイオン交換水121.5gを仕込み、窒素気流下で100℃に加熱後、この温度を維持しながら、80重量%アクリル酸水溶液270.4g、メタアクリル酸255.0g、2−メルカプトエタノール75.3g及び3重量%過硫酸アンモニウム水溶液111.4gをそれぞれ別の滴下ロートから3.5時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、100℃で3時間熟成し(熟成開始15分後に3重量%過硫酸アンモニウム水溶液27.8gを添加)重合反応を完結させた。反応終了後、100℃で35重量%過酸化水素水溶液113.0gを滴下し、脱臭処理を行った。その後冷却し、pHが6〜8となるようにトリエタノールアミン804.6gを滴下して中和し、共重合体及のトリエタノールアミン塩(固形分78重量%)を含む分散剤組成物を得た。
【0068】
(比較例7)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器にイオン交換水221.6gを仕込み、窒素気流下で100℃に加熱後、この温度を維持しながら、80重量%アクリル酸水溶液549.8g、2−メルカプトエタノール25.0g及び3重量%過硫酸アンモニウム水溶液111.36gをそれぞれ別の滴下ロートから3.5時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、100℃で3時間熟成し(熟成開始15分後に3重量%過硫酸アンモニウム水溶液27.8gを添加)重合反応を完結させた。反応終了後、100℃で35重量%過酸化水素水溶液37.5gを滴下し、脱臭処理を行った。その後冷却し、約40℃を保持しながらpHが6〜8となるように28重量%アンモニア水溶液349.0gを滴下して中和し、重合体のアンモニウム塩(固形分40重量%)を含む分散剤組成物を得た。
【0069】
[スラリー組成物の調製]
実施例1〜10、比較例1〜8の分散剤組成物を用いて、それぞれ3種の異なる含有量でスラリー組成物を下記のようにして調製し、得られたスラリー組成物それぞれについて25℃におけるB粘度を下記のように測定した。その結果を下記表3に示す。また、実施例1〜10、比較例5及び8のエステル成分の含有量とスラリー組成物の粘度をプロットしたグラフを図1に示す。
【0070】
ディスポビーカー500mLに一次粒径が80nm、比表面積370m2/gの酸化チタン粉体(堺化学社製、商品名SSP)を160g、実施例1〜10又は比較例1〜8の各分散剤組成物を添加量0.5重量部、0.8重量部、1.0重量部(対酸化チタン粉体100重量部、固形分換算)に変化させたもの、及びイオン交換水を加え、プライミクス社製のホモディスパーで攪拌(2500rpm×2分間)し、55重量%の粉体スラリー(分散組成物)を調製した。得られたスラリーの25℃におけるB粘度を、東機産業社製のB型粘度測定装置TVB−10を用いてローターの回転速度60rpmで測定した。
【0071】
【表3】

【0072】
上記表3に示すとおり、実施例1〜10の分散剤組成物を用いたスラリー組成物では、比較例1〜8の分散剤組成物を用いたものよりもB粘度の値が低減され、610mPa・s以下の良好な数値を示した。なお、スラリー粘度が何れも630mPa・s以下を満足するものが良好な分散剤組成物と評価できる。また、図1に示すとおり、エステル成分が700重量ppm以上1600重量ppm未満の範囲において、スラリー組成物の粘度が著しく低減された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したとおり、本発明は、例えば、水系溶媒における粉体のスラリーを製造工程で用いる分野、例えば、電子部品の製造の分野などで有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル、及び水を含む分散剤組成物であって、
前記重合体の塩の重量平均分子量が、30000〜80000であり、
前記エステルの分散剤組成物中の含有量が、700重量ppm以上1600重量ppm未満である、分散剤組成物。
【請求項2】
請求項1記載の分散剤組成物を製造する方法であって、
(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体を、(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステル及びイソプロパノールを含む溶媒を用いた重合反応で調製することを含む、分散剤組成物の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒中の(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとのエステルの含有量が、500重量ppmを超え、1000重量ppm未満である、請求項2記載の分散剤組成物の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が、(メタ)アクリル酸をイソプロパノール存在下で重合反応させた後の留去物を含む、請求項2又は3に記載の分散剤組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の分散剤組成物を用いて水系溶媒中に粉体を分散させることを含み、
前記粉体の比表面積が330m2/g以上650m2/g未満であり、前記粉体の一次粒径が60〜160nmである、分散方法。
【請求項6】
請求項1記載の分散剤組成物、粉体、及び水系溶媒を混合して、前記粉体を分散させる工程を有する、スラリー組成物の製造方法。
【請求項7】
(メタ)アクリル酸とイソプロパノールとを含む溶媒を用いた重合反応によって(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体を繰り返し調製することを含み、
前記溶媒が、(メタ)アクリル酸をイソプロパノール存在下で重合反応させた後の留去物を含む、分散剤組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−105808(P2011−105808A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260144(P2009−260144)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】