説明

分散剤

【課題】スラリーの粘度を低減できる分散剤の提供。
【解決手段】(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩、(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩又はアミン塩、及び水を含む分散剤であって、前記重合体の塩の重量平均分子量が300以上1000未満であり、前記重合体の塩に対する前記(メタ)アクリル酸塩の重量比((メタ)アクリル酸塩/重合体の塩)が、0.031〜0.060である分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤、それを用いた分散方法及びスラリー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどの電子部品の製造には、スラリー化した電子材料用粉体が用いられる。例えば、誘電体セラミック粉末のスラリー組成物は、積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層の形成材料として利用される。電子機器の小型化に伴い、より取り扱い性が向上したスラリー組成物が求められている。例えば、積層セラミックコンデンサの小型化には誘電体セラミック層の薄層化が必要であり、分散性及び作業性が向上した誘電体セラミック粉末のスラリー組成物が求められている。
【0003】
粉体のスラリー組成物の粘度を低減させることにより分散性及び作業性を向上する分散剤として、構成単位として(メタ)アクリル酸からなる重合体の4級アンモニウム塩からなる分散剤(特許文献1)、分子量が25000〜80000である(メタ)アクリル酸−不飽和二塩基酸共重合体を含む分散剤(特許文献2)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−308563[請求項1、要約]
【特許文献2】特開2005−288294[請求項1、要約]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、電子部品等に対する要求特性はますます高まりつつある。例えば、ファインセラミック分野などにおいては、ナノスケールの微細構造を制御することで、小型化、高速化、低消費電力、高効率化、高容量化を実現する試みがなされており、水系における粉体のナノ分散技術への要求も高く、分散剤の性能のさらなる改善が求められている。
【0006】
本発明は、スラリーの粘度を低減できる分散剤、それを用いた分散方法及びスラリー組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩、(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩又はアミン塩、及び水を含む分散剤であって、前記重合体の塩の重量平均分子量が300以上1000未満であり、前記重合体の塩に対する前記(メタ)アクリル酸塩の重量比((メタ)アクリル酸塩/重合体の塩)が0.031〜0.060である分散剤に関する。
【0008】
本発明は、その他の態様において、本発明の分散剤を用いて水系溶媒中に粉体を分散させることを含む分散方法に関する。さらに、本発明はその他の態様において、本発明の分散剤、粉体、及び水系溶媒を含有するスラリー組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分散剤は、好ましくは、粘度がより低減された、水系スラリー組成物を提供できるという効果を奏しうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例及び比較例の分散剤を用いて調製されたスラリー組成物における、重合体の塩の重量平均分子量と粘度との関係を示すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ポリアクリル酸系の重合体を含む分散剤においては、通常、分散性の観点から重量分子量が数1000以上のポリアクリル酸系重合体が使用されている。しかし、本発明の分散剤は、分散剤の成分としては通常使用されない低分子量の(メタ)アクリル酸の重合体を含む。本発明は、そのような低分子量の重合体と所定量の(メタ)アクリル酸とを含む分散剤が、例えば電子材料用粉体のような粉体の水系スラリー組成物の粘度を低減でき、それより、該水系スラリー組成物の分散性及び作業性を向上できる、という知見に基づく。
【0012】
低分子量の(メタ)アクリル酸重合体と所定量の(メタ)アクリル酸とを含む分散剤がそのような優れた効果を発現する理由は定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、分散質である粉体にまず(メタ)アクリル酸が吸着し、低分子量の重合体が(メタ)アクリル酸が吸着していない部位に吸着する。これにより粉体に反発力(静電気的及び/又は立体的)が付与され、その結果、分散安定化が図られ粘度が低下するものと考えられる。但し、これらは推定であって、本発明は、これらメカニズムに限定されない。
【0013】
すなわち、本発明は、一態様において分散剤(以下、「本発明の分散剤」ともいう)であって、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩、(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩又はアミン塩、及び水を含む分散剤であって、前記重合体の塩の重量平均分子量が300以上1000未満であり、前記重合体の塩に対する前記(メタ)アクリル酸塩の重量比((メタ)アクリル酸塩/重合体の塩)が、0.031〜0.060である分散剤に関する。本発明の分散剤によれば、好ましくは、水系スラリー組成物の粘度をより低減でき、それによりスラリー組成物の分散性及び作業性を向上できるという効果が奏されうる。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を指す。
【0014】
[分散剤]
本発明の分散剤は、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩と、(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩又はアミン塩と、水とを含む。本発明の分散剤は、一つの実施形態として、分散性を向上する有効成分が、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩と(メタ)アクリル酸アンモニウム塩又はアミン塩との組合せからなる分散剤であってもよい。
【0015】
本発明の分散剤の実施形態は、水性溶液である。本発明において、(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体及び(メタ)アクリル酸の中和度は、粉体成分の耐化学分解性及び耐臭気性の観点から、好ましくは50〜99モル%、より好ましくは60〜99モル%、さらに好ましくは77〜99モル%である。ここで、本明細書において中和度は、[塩を構成している酸基のモル当量/塩を構成し得るフリーの酸基のモル当量+塩を構成している酸基のモル当量]×100(モル%)で表される。
【0016】
本発明の分散剤のpHは、粉体成分の耐化学分解性及び耐臭気性の観点から、好ましくは5〜9、より好ましくは5.5〜8.5、さらに好ましくは6〜8である。
【0017】
[(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体成分]
本発明の分散剤は、構成単位がアクリル酸又はメタクリル酸由来である重合体のアンモニウム塩又はアミン塩(以下、「重合体成分」ともいう)を含む。本明細書において、構成単位がアクリル酸又はメタクリル酸由来である重合体とは、重合体における全構成単位の好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは実質的に全てがアクリル酸又はメタクリル酸由来の構成単位であることをいう。また、本明細書において、重合体の構成単位がアクリル酸又はメタクリル酸由来であるとは、該重合体がアクリル酸又はメタクリル酸から製造され得ることをいう。重合体成分の構成単位としては、重合時の重合速度が速いという点から、アクリル酸由来であることが好ましい。
【0018】
また、重合体成分は、アクリル酸由来の構成単位とメタクリル酸由来の構成単位との共重合体のアンモニウム塩又はアミン塩であってもよい。この場合、アクリル酸由来の構成単位の重量とメタクリル酸由来の構成単位の重量との比(アクリル酸/メタクリル酸(重量比))は、後述の水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、100/0〜80/20が好ましく、100/0〜88/12がより好ましく、100/0〜95/5がさらに好ましい。なお、前記重量比において「100/0」とは、メタクリル酸由来の構成単位を含まないことを表す。
【0019】
なお、一実施形態において、重合体成分は、構成単位がアクリル酸である重合体のアンモニウム塩及びアミン塩、構成単位がメタクリル酸である重合体のアンモニウム塩及びアミン塩、並びに、アクリル酸由来の構成単位とメタクリル酸由来の構成単位との共重合体のアンモニウム塩及びアミン塩からなる群から選択される一種以上の混合物であってもよい。
【0020】
重合体成分の重量平均分子量は、後述の水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、300以上1000未満であり、好ましくは350〜950、より好ましくは400〜900である。本発明は、この重量平均分子量の範囲であれば水系スラリー組成物の粘度を顕著に低減できるという知見に基づく。なお、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した値であり、測定条件の詳細は実施例に示す通りである。
【0021】
重合体成分の数平均分子量は、後述の水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、240〜650が好ましく、280〜610がより好ましく、310〜580がさらに好ましい。なお、数平均分子量はGPCにより測定した値であり、測定条件の詳細は実施例に示す通りである。
【0022】
重合体成分における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、水系スラリー組成物の分散性を維持する観点から、1.15〜2.60が好ましく、1.20〜2.55がより好ましく、1.25〜2.50がさらに好ましい。
【0023】
重合体成分におけるアミン塩としては、1級、2級又は3級のアルキルアミン塩やアルカノールアミン塩が挙げられ、モノアルキル(アルキル基の炭素数1〜3)アミン、ジアルキル(アルキル基の炭素数1〜3)アミン、トリアルキル(アルキル基の炭素数1〜3)アミン、モノアルカノール(アルカノールの炭素数1〜3)アミン、ジアルカノール(アルカノールの炭素数1〜3)アミン、トリアルカノール(アルカノールの炭素数1〜3)アミン等の塩が挙げられる。アンモニウム塩又はアミン塩としては、具体的には、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化トリエチルメチルアンモニウム等に由来する塩が挙げられる。この中でも、粉体の水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、アンモニウム塩が特に好ましい。
【0024】
本発明の分散剤中の重合体成分の含有量は、取り扱い性の点から、20〜55重量%が好ましく、25〜50重量%がより好ましく、30〜45重量%がさらに好ましい。
【0025】
[(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩又はアミン塩]
本発明の分散剤は、(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩又はアミン塩(以下、「単分子成分」ともいう)を含む。重合体成分に対する単分子成分の重量比((メタ)アクリル酸のアンモニウム塩又はアミン塩/重合体のアンモニウム塩又はアミン塩)は、水系スラリー組成物の粘度低減の観点から、0.031〜0.060であって、0.035〜0.055であることが好ましく、0.038〜0.053であることがより好ましい。また、本発明の分散剤中の単分子成分の含有量は、取り扱い性の点から、1.2〜2.4重量%が好ましく、1.4〜2.2重量%がより好ましく、1.5〜2.1重量%がさらに好ましい。
【0026】
単分子成分の含有量は、本発明の分散剤中の固形分を、後述のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により求めることができる。したがって、本発明の分散剤中の重合体成分の含有量は、例えば原材料の仕込み量からも求めることができるが、本発明の分散剤中の固形分から、(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩又はアミン塩の量を除くことにより求めることもできる。アンモニウム塩及びアミン塩としては、前述の重合体成分と同様の化合物であることが好ましい。
【0027】
[分散剤の製造方法]
本発明の分散剤は、(メタ)アクリル酸を重合反応させた後にアクリル酸を添加し、さらに前述した1級、2級もしくは3級アミン、水酸化第4級アンモニウム、アンモニア水などを添加して中和する方法で製造してもよく、あるいは、アクリル酸を重合反応の際に反応温度を下げて未反応のアクリル酸を残留させて同様に中和する方法で製造してもよい。当業者であれば、本明細書を参照して調製できる。
【0028】
重合反応に用いられる水系溶媒は、例えば、蒸留水、イオン交換水、超純水等が挙げられる。重合を容易に開始・促進させるための重合開示剤を使用することが好ましい。重合開始剤としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等が挙げられるが、モノマーを容易に重合させる観点から過硫酸アンモニウムが好ましい。
【0029】
重合反応にはさらに連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤としては、2−メルカプトエタノール、メルカプトリンゴ酸、メルカプトグリセロール、メルカプトプロピオン酸、ブチルメルカプタン、次亜リン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、低分子量の重合体を合成する点から、2−メルカプトエタノールが好ましい。連鎖移動剤の添加量は、得られる重合体の分子量を制御する観点から、連鎖移動剤/モノマー=31〜105モル%であることが好ましく、より好ましくは33〜85モル%であり、さらに好ましくは35〜78モル%である。
【0030】
重合体の分子量を前述した所定の範囲に制御する観点から、重合方法としては、各滴下ロートにそれぞれの薬剤を仕込み、所定の時間にて滴下する重合方法が好ましい。重合時及びその後の熟成時の温度としては、反応を容易に進行させる観点から、75〜100℃が好ましく、より好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは85〜100℃である。
【0031】
(メタ)アクリル酸アンモニウム塩又はアミン塩を所定量に設定する方法としては、完全に重合を終了させた後に、冷却後(メタ)アクリル酸を添加する方法が挙げられる。あるいは、重合及び熟成温度を低めに設定にして反応を行い、未反応の(メタ)アクリル酸を残留させる方法でもよい。未反応の(メタ)アクリル酸を残留させる反応温度としては、75〜85℃が好ましく、より好ましくは75〜82℃であり、さらに好ましくは75〜78℃である。
【0032】
重合体及び(メタ)アクリル酸を中和して重合体の塩及び(メタ)アクリル酸塩とするために添加するアミン及びアンモニウム化合物としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化トリエチルメチルアンモニウム、アンモニア水溶液等が挙げられる。水系スラリー組成物の粘度低減の観点からは、アンモニウム塩とすることが好ましい。
【0033】
以上のようにして製造される分散剤は、水系溶媒における粉体のスラリー組成物の粘度低減に優れる。本発明の分散剤は、とりわけ、電子材料用粉体として使用される粉体を含む後述する粉体の分散に好適である。
【0034】
[分散方法]
本発明は、その他の態様として、本発明の分散剤を用いて粉体を水系溶媒中で分散させる工程を含む分散方法(以下、「本発明の分散方法」ともいう)を提供しうる。本発明の分散方法により分散させる粉体としては、電子材料用粉体として使用される粉体を含む後述する粉体が挙げられる。また、水系溶媒は、水、あるいは水とエチルアルコール、エチレングリコール等の水溶性有機溶媒との混合溶液が挙げられ、好ましくは水である。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、超純水等が挙げられる。本発明の分散方法によれば、粘度が低減されたスラリー組成物を製造することができる。
【0035】
[スラリー組成物]
本発明の分散剤を用いれば、水系溶媒に粉体が分散した水系スラリー組成物を得ることができる。したがって、本発明は、さらにその他の態様において、スラリー組成物であって(以下、「本発明のスラリー組成物」ともいう)、水系溶媒、粉体、及び分散剤を含有し、該分散剤が本発明の分散剤であるスラリー組成物を提供できる。本発明のスラリー組成物によれば、粘度の低減を実現できる。本発明のスラリー組成物に分散させる粉体としては、電子材料用粉体として使用される粉体を含む後述する粉体が挙げられる。水系溶媒は、水、あるいは水とエチルアルコール、エチレングリコール等の水溶性有機溶媒との混合溶液が挙げられ、好ましくは水である。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、超純水等が挙げられる。したがって、本発明は、さらにその他の態様として、スラリー組成物の製造方法であって(以下、「本発明のスラリー組成物の製造方法」ともいう)、粉体、分散剤、及び水系溶媒を合して、該粉体を分散させる工程を含み、該分散剤が、本発明の分散剤であるスラリー組成物の製造方法を提供しうる。
【0036】
本発明のスラリー組成物における粉体の含有量は、特に規定されないが、乾燥効率及び生産性の向上の観点から、好ましくは45重量%以上であり、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは55重量%以上である。
【0037】
本発明のスラリー組成物の製造において、本発明の分散剤の添加量は、スラリー組成物の粘度低減の観点から、粉体100重量部に対し、本発明の分散剤の固形分が好ましくは0.3〜5.0重量部、より好ましくは0.4〜4.0重量部、さらに好ましくは0.5〜3.0重量部となるように添加される。
【0038】
本発明のスラリー組成物の製造方法の実施形態として、例えば、分散剤を溶解した水溶液に粉体を添加し、攪拌、混合する方法、あるいは、粉体に水と分散剤を加えて攪拌、混合する方法等が挙げられる。攪拌、混合する方法としては、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー等一般に用いられる攪拌装置を使用することができる。攪拌温度としては、分散剤と粉体とを容易に混合させる観点から、20〜60℃が好ましく、より好ましくは23〜50℃であり、さらに好ましくは25〜40℃である。
【0039】
本発明のスラリー組成物の製造方法のその他の実施形態として、個数平均粒径が10μm以上の粉体粗粒子を、粉砕と同時にスラリー化する製造方法が挙げられる。具体的には、粉体粗粒子に水系媒体と分散剤とを添加して、粉砕と同時にスラリー化する方法等が挙げられる。粉砕と同時にスラリー化する方法としてはビーズミル、ペイントシェーカー等一般に用いられる攪拌装置を使用することができる。その際攪拌温度としては、分散剤と粉体とを容易に混合させる観点から、20〜60℃が好ましく、より好ましくは23〜50℃であり、さらに好ましくは25〜40℃である。
【0040】
[粉体]
本発明の分散剤で分散させる粉体の窒素吸着法により測定されるBET比表面積は、スラリー組成物の粘度低減の観点から、650〜1000m2/gであることが好ましく、より好ましくは670〜900m2/gであり、さらに好ましくは700〜800m2/gである。また、本発明の分散剤で分散させる粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)で測定される一次粒径としては、スラリー組成物の粘度低減の観点から、10nm以上60nm未満が好ましく、より好ましくは15〜55nmであり、さらに好ましくは20〜50nmである。
【0041】
本発明の分散剤で分散させる粉体としては、炭酸塩、リン酸塩、チタン酸塩、珪酸塩、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ(酸化ケイ素)、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、カーボンブラック及び炭化珪素等が挙げられる。これらの粉体は、電子材料用粉体として、例えばICパッケージ、配線基板、絶縁体、センサー、電極、磁性体、半導体、コンデンサー、光ファイバー等の電子部品に使用される。また、シリカ、酸化セリウム粉等は、研磨材用粉体として使用される。したがって、本発明は、その他の態様として、電子材料用粉体又は研磨材用粉体に使用する分散剤、電子材料用粉体又は研磨材用粉体の分散方法、並びに、電子材料用粉体又は研磨材用粉体のスラリー組成物及びその製造方法を提供できる。本発明によれば、好ましくは、電子材料用粉体スラリーの粘度を低減することにより分散性及び作業性を向上でき、電子部品の小型化や生産性の向上に寄与できる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を説明する。後述する実施例及び比較例において、分散剤における重合体成分の重量平均分子量及び数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定し、分散剤における固形分量はマイクロウェーブ水分計により測定し、分散剤における単分子成分はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により測定した。具体的な条件は以下のとおりである。
【0043】
重合体成分の重量平均分子量及び数平均分子量の測定方法
分散剤における重合体成分の重量平均分子量及び数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記条件で測定した。
カラム:TSK PWXL+G4000PWXL+G2500PWXL(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
検出器:RI又はUV(210nm)
溶離液:0.2mol/L リン酸緩衝液/アセトニトリル(9/1)
流速:1.0mL/min
注入量:0.1mL
標準:ポリエチレングリコール
【0044】
分散剤の固形分量の測定方法
分散剤の固形分量は、マイクロウェーブ水分計(SMART 5 SYSTEM、CEM社製)により、下記条件で測定した。
分散剤測定条件; 温度 105℃、マイクロウェーブパワー 80重量%
1.グラスファイバーサンプルパッド(Reorder part #200150)2枚を水分計にセットし、Tareを押し、サンプルパッドの水分を除去する。
2.サンプルパッドの間にて分散剤を約2g計る(天秤内蔵)。
3.水分計のカバーを閉め、Startを押し、測定を開始する。水分(重量%)が出力される。
4.1〜3の操作を3回行い、水分(重量%)の平均値を算出する。
固形分量(重量%)=100−水分(重量%)平均値
【0045】
単分子成分の測定方法
分散剤の単分子成分の量は、分散剤中の固形分量の測定方法により求めた固形分量から、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)により、下記条件で測定した。
HPLC:Lachrom L−7100/L−7200/L−7300/L−7400(日立社製)
カラム:ODS−80TS(東ソー社製)
溶離液:0.02mol/L リン酸緩衝液
注入量:20μL
【0046】
[分散剤の調製(実施例1〜10、比較例1〜11)]
下記表1に示す分散剤(実施例1〜10、比較例1〜11)を、後述のとおり調製した。
【0047】
【表1】

【0048】
(実施例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器にイオン交換水221.6gを仕込み、窒素気流下で100℃に加熱後、この温度を維持しながら、80重量%アクリル酸水溶液549.8g、2−メルカプトエタノール214.5g及び3重量%過硫酸アンモニウム水溶液111.36gをそれぞれ別の滴下ロートから3.5時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、100℃で3時間熟成し(熟成開始15分後に3重量%過硫酸アンモニウム水溶液27.8gを添加)重合反応を完結させた。反応終了後、100℃で35重量%過酸化水素水溶液400.1gを滴下し、脱臭処理を行った。その後冷却し、約40℃を保持しながらアクリル酸を所定量加えた後、pHが6〜8となるように28重量%アンモニア水溶液349.0gを滴下して中和し、重合体及びアクリル酸のアンモニウム塩を含む固形分濃度40重量%の分散剤を得た。
【0049】
(実施例2−10、比較例5〜11)
実施例1におけるアクリル酸水溶液及び2−メルカプトエタノールの量を下記表2に示す量の(メタ)アクリル酸水溶液及び2−メルカプトエタノールとした他は、実施例1と同様にして分散剤(実施例2−10、比較例5〜11)を調製した。
【0050】
【表2】

【0051】
(比較例1)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器にマレイン酸無水物78.5g及びイオン交換水80.0gを仕込み、窒素気流下で55℃に加熱後、28重量%アンモニア水溶液24.3gを滴下し、マレイン酸アンモニウム水溶液とした。次に窒素気流下で100℃まで加熱した後、この温度を維持しながら、80重量%アクリル酸水溶液360.5g及び35重量%過酸化水素水溶液153.9gをそれぞれ別の滴下ロートから3.5時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、100℃で10時間熟成し重合反応を完結させた。反応終了後、冷却し、約40℃を保持しながら28重量%アンモニア水溶液230.0gを滴下してpHが6〜8に調整し、アクリル酸−マレイン酸共重合体及びアクリル酸のアンモニウム塩を含む固形分濃度40重量%の分散剤を得た。
【0052】
(比較例2)
攪拌式オートクレーブにトリエチルアミン(1モル)、炭酸ジメチル(1.5モル)及び溶媒としてメタノール(2.0モル)を仕込み、反応温度110℃にて12時間反応させ、メチルトリエチルアンモニウムメチルカーボネートのメタノール溶液を得た。アクリル酸/マレイン酸共重合体(モル比77/23、Mw5000)の40重量%水溶液250.0gに、前記メチルトリエチルアンモニウムメチルカーボネートのメタノール溶液300.0gを加えpHが7.0に調整した。炭酸ガス及びメタノールを除き、水を加えることでアクリル酸/マレイン酸共重合体・メチルトリエチルアンモニウム塩を含む固形分濃度40重量%の分散剤を得た。
【0053】
(比較例3)
耐圧反応容器にイソプロピルアルコール420部、水120部を仕込み、窒素置換後密閉し、100℃に昇温した。攪拌下アクリル酸77部と、アクリル酸228部と連鎖移動剤(トリエチレンジグリコールメルカプタン)4部と次亜リン酸ナトリウム(2水和物)2部と塩化第1鉄(4水和物)0.7部との均一混合物と、過硫酸ナトリウム6%水溶液50部とを、別々の容器からそれぞれ3時間、1時間後から2時間、3.5時間かけて滴下した。滴下終了後、35%過酸化水素水溶液3部を投入し、同温度で1時間保持し、重合体を得た(Mw10000)。水酸化ナトリウム30%水溶液158部、トリエチルメチルアンモニウムメチルカーボネートのメタノール60%溶液27部で中和した後、イソプロピルアルコール、メチルアルコールを留去して、ポリアクリル酸混合塩を含む固形分濃度40重量%の分散剤を得た。
【0054】
(比較例4)
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器にマレイン酸無水物39.2g及びイオン交換水55.2gを仕込み、窒素気流下で55℃に加熱後、30重量%水酸化ナトリウム水溶液106.7gを滴下し、マレイン酸ナトリウム水溶液とした。次に窒素気流下で100℃まで加熱した後、この温度を維持しながら、100重量%メタアクリル酸メチルポリオキシ(EO23モル)エチレン889.6g及び35重量%過酸化水素水溶液15.9gをそれぞれ別の滴下ロートから3.5時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了後、100℃で10時間熟成し重合反応を完結させた。反応終了後、冷却し、約40℃を保持しながら、pHが6〜8となるように48重量%水酸化ナトリウム水溶液を87.7.g添加して中和し、マレイン酸−メタアクリル酸メチルポリオキシ(EO23モル)エチレン共重合体ナトリウム塩を含む固形分濃度40重量%の分散剤を得た。
【0055】
[スラリー組成物の調製]
実施例1〜10、比較例1〜11の分散剤を3つの含有量で含むスラリー組成物を下記のようにして調製し、得られたスラリー組成物それぞれについて25℃におけるB粘度を下記のように測定した。その結果を下記表3に示す。また、実施例1〜10、比較例5,8,11の重合体成分の重量平均分子量とスラリー組成物の粘度をプロットしたグラフを図1に示す。
【0056】
ディスポビーカー500mLに一次粒径が50nm、比表面積700m2/gの炭酸ストロンチウム粉体(宇部マテリアルズ社製)を160g、実施例の分散剤1〜10又は比較分散剤1〜11の各分散剤を添加量0.5重量部、0.8重量部、1.0重量部(対炭酸ストロンチウム粉体100重量部、固形分換算)に変化させたもの、及びイオン交換水を加え、プライミクス社製のホモディスパーで攪拌(2500rpm×2分間)し、55重量%の粉体スラリー(分散組成物)を調製した。得られたスラリーの25℃におけるB粘度を、東機産業社製のB型粘度測定装置TVB−10を用いてローターの回転速度60rpmで測定した。
【0057】
【表3】

【0058】
上記表3に示すとおり、実施例1〜10の分散剤を用いたスラリー組成物では、比較例1〜11の分散剤を用いたものよりもB粘度の値が低減され、600mPa・s以下の良好な数値を示した。また、図1に示すとおり、重合体成分の分子量が300以上1000未満の範囲において、著しく粘度が低減された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したとおり、本発明は、例えば、水系溶媒における粉体のスラリーを製造工程で用いる分野、例えば、電子部品の製造の分野などで有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸由来の構成単位を含む重合体のアンモニウム塩又はアミン塩、(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩又はアミン塩、及び水を含む分散剤であって、
前記重合体の塩の重量平均分子量が300以上1000未満であり、
前記重合体の塩に対する前記(メタ)アクリル酸塩の重量比((メタ)アクリル酸塩/重合体の塩)が、0.031〜0.060である、分散剤。
【請求項2】
前記重合体の塩の含有量が20〜55重量%であり、前記(メタ)アクリル酸塩の含有量が1.2〜2.4重量%である、請求項1記載の分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分散剤を用いて水系溶媒中に粉体を分散させることを含む、分散方法。
【請求項4】
粉体が、炭酸塩、リン酸塩、チタン酸塩、珪酸塩、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、カーボンブラック及び炭化珪素から選ばれる少なくとも1種である、請求項3記載の分散方法。
【請求項5】
粉体の比表面積が650〜1000m2/gであり、粉体の一次粒径が10nm以上60nm未満である、請求項3又は4に記載の分散方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の分散剤、粉体、及び水系溶媒を合して、前記粉体を分散させる工程を有する、スラリー組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−41929(P2011−41929A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193396(P2009−193396)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】