説明

分散型電源の系統連系インバータ、及び系統連系方法

【課題】 温度ドリフトの影響を受け難く、目標通りの電流を出力可能な分散型電源の系統連系インバータを提供する。
【解決手段】 インバータ制御回路は、位相判定部28で正弦波基準信号の位相を判定し、変換した交流電流波形が正の期間のみフィードバック制御して目標電流を出力し、負の期間では直前の正の期間に出力した波形を記憶部25に記憶して反転して出力し、正の期間と負の期間に出力する電流の大きさが等しくなるよう制御する。フィードバック制御は、基準信号作成部21で作成した商用電力系統の周波数及び位相に同期した正弦波基準信号の瞬時値に、電流指令を掛けた目標値から出力電流情報Iacを減じてPI演算部23でPI演算して実施し、その結果得られる値をPWM変調した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流の商用電力系統に太陽電池等の分散型電源を連系する為の系統連系インバータ及び系統連系方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池や燃料電池等の分散型電源を電力会社の商用電力系統に連系し、太陽光発電等で生成された余剰電力を商用電力系統へ逆潮流させる電力システムが実用化されている。このような電力システムは図6のブロック図に示すように構成され、太陽光発電等の直流電源31で発電された直流電力を昇圧チョッパ32で必要な電圧まで昇圧し、インバータ回路33で交流電力に変換して商用電力系統34に接続して電力を出力する連系運転を行っている。
この場合、インバータ回路33により商用電力系統34に出力する電流を制御するにあたって、自身の出力電流を電流センサ(CT)35で検出し、A/D変換器36等で読み取り、その読み取り値が所定値になるように電流制御回路37で制御してドライブ回路38を制御する所謂出力電流のフィードバック制御が成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、このようなシステムでは、電流センサ35で検出した出力電流情報をA/D変換器36で読み取る場合、図7(a)に示すように、まず電流センサ35の出力を抵抗で電圧に変換し、A/D変換器の入力電圧範囲に合わせて差動増幅回路などで電圧振幅の幅とレベル調整を行っている。例えば、図7(a)において、A/D変換器36の入力範囲が0〜5Vのときは、図7(b)に示すようにバイアス電圧を2.5Vにし、最大振幅が2.5V以上にならないように抵抗比(R2/R1)を調整している。
【特許文献1】特開平08−126341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記電圧振幅のレベル調整は、差動増幅回路をバイアスして行うが、このバイアス電圧が温度ドリフト等で変動すると、A/D変換器の読み取り値の0レベルが変動してしまい、その値を基に演算したインバータ出力電流も0レベルがずれ、直流成分が重畳した状態となってしまう。この状態で負荷39に変圧器がある場合、変圧器は直流励磁状態になり、コアの磁束が飽和して過電流が流れて焼損等の事故に至る虞があった。
【0005】
また、上記特許文献1では、インバータの出力電流の検出を、ローパスフィルタで交流分をカットして直流成分を検出したり、DCCTにより電流の直流成分及び交流成分を検出すると共に電流の交流成分しか検出しないCTにより交流成分を検出し、2つの電流の差から直流成分を検出してホール素子を使用して直流成分を補償する構成が開示されている。しかし、ローパスフィルタにより交流成分をカットする直流成分の検出は、検出精度がローパスフィルタの定数で決まるため、その調整が難しい上に各素子の温度ドリフト等による変動があるため、正確に直流成分を検出することが難しい。
また、DCCTとCTを使用する形態は、検出する直流成分が交流成分に比べて非常に小さいため、2つの電流の差演算をハードウエアで行う場合、比較器のオフセットなどが影響して正確な値が検出しづらかったし、ソフト的に処理する場合は、桁数が多く必要になり処理が複雑である。また、CTの磁化等により0レベルが狂った場合、正確な直流成分を検出できなくなる虞もあった。
【0006】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、温度ドリフトの影響を受け難く、目標通りの電流を安定して出力可能な分散型電源の系統連系インバータ、及び系統連系方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する為に、請求項1に記載の発明は、分散型電源の直流出力をインバータ回路とフィルタ回路とで交流電力に変換し、商用電力系統に電流を逆潮流させるための分散型電源の系統連系インバータであって、前記インバータ回路を制御するインバータ制御回路は、変換した交流電流波形が正の期間のみフィードバック制御により目標電流を出力し、変換した交流電流波形が負の期間では直前の正の期間に出力した波形を反転して出力し、電流1周期の間の正の期間と負の期間に出力する大きさを等しくする制御を行うことを特徴とする。
この構成により、交流変換して逆潮流させる波形を、負の期間は正の波形を反転して出力させるので、温度ドリフトの影響を受け難く、直流成分が重畳することがない目標通りの電流を安定して出力することが可能となる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、フィードバック制御は、正弦波基準信号の瞬時値に電流指令を掛けた目標値から出力電流フィードバック値を減じた値をPI演算して実施し、その結果得られる値をPWM変調してインバータ回路の制御出力としたことを特徴とする。
この構成により、半波のみのフィードバック制御であってもフィードバック制御を良好に実施できる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2に記載の発明において、位相0度の時点でPI演算に使用する積分データは、直前の位相180度の時点での積分データを反転したものであることを特徴とする。
この構成により、変換した交流電流波形が負の期間ではPI演算を実施しないが、位相0度においてPI演算を良好に開始でき、PI制御値が乱れるようなことがなく、目標通りの電流を安定して出力することができる。
【0010】
請求項4の発明は、分散型電源の直流出力を交流電力に変換し、商用電力系統に電流を逆潮流させるための分散型電源の系統連系方法であって、逆潮流させる交流電流波形が正の期間ではフィードバック制御により作成した電流波形を出力し、負の期間では直前の正の期間に出力した電流波形を反転して出力することを特徴とする。
この方法により、交流変換して逆潮流させる波形を、負の期間は正の波形を反転して出力させるので、温度ドリフトの影響を受け難く、直流成分が重畳することがない目標通りの電流を安定して出力することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、交流変換して逆潮流させる波形を、負の期間は正の波形を反転して出力させるので、温度ドリフトの影響を受け難く、直流成分が重畳することがない目標通りの電流を出力することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る分散型電源の系統連系インバータの一例を示すブロック図であり、例えば太陽電池から成る直流電源を商用電力系統に連系して逆潮流させるための系統連系インバータを示している。
図1において、1は入力端子2に接続された直流電源8から供給される直流電圧を昇圧する昇圧チョッパ、3は交流電力に変換するインバータ回路、4は交流変換した電力の波形を平滑にするLCフィルタ、5はインバータ回路3を駆動させるドライブ回路、6はドライブ回路5を制御するインバータ制御回路、7は出力端子9に接続された商用電力系統、10は商用電力系統に接続された負荷、12はフィードバック制御するための電流検出手段(DCCT)である。また、17は連系用開閉器であり、連系運転中は閉状態であり、異常発生等でインバータが停止した時に開路となる。
【0013】
直流電源8の出力電圧は、商用電力に比べて出力電圧が低いため、電圧昇圧チョッパ1で昇圧される。例えば、単相3線式の商用電力系統に連系する場合、インバータ回路3でAC200V以上の電圧を作らなければならないため、直流電圧で350〜400V程度まで昇圧される。そして、インバータ回路3で交流電力に変換され、LCフィルタ4で正弦波に平滑されて商用電力系統7に出力される。
【0014】
DCCT12により検出された出力電流情報はレベル調整回路13で信号レベルが調整され、A/D変換器14で変換された値が出力電流情報(Iac)としてインバータ制御回路6に入力される。また、インバータ制御回路6には、出力端子9に接続された電圧位相検出回路15から連系する商用電力系統7の電圧位相0度情報が入力され、更に入力電力測定回路16により直流電源が系統連系インバータへ出力する出力電力情報が入力される。
【0015】
インバータ制御回路6は、これらの情報を基にPWM制御信号を作成してドライブ回路5へ出力している。この制御信号は、 直流電源8の出力電流が目標値になるように作成され、ドライブ回路5を介してインバータ回路3を制御する。ドライブ回路5は、この制御信号に従いインバータ回路3の複数(例えば4個)のスイッチを駆動する。尚、インバータ制御回路の各処理は、マイクロコンピュータの制御で行っている。
【0016】
図2はインバータ制御回路6のブロック図、図3はインバータ制御回路6の制御動作を説明するための出力電流波形図を示している。図2において、21は基準信号作成部、22は電流目標値作成部、23はPI演算部、24はリミッタ、25は記憶部、26は出力切替部、27は比較回路、28は位相判定部を示している。
基準信号作成部21は、電圧位相検出回路15で得た電圧位相0度情報を基に、PLL21aによるPLL制御で正弦波基準信号が作成される。この正弦波基準信号は、周波数と位相が商用電力系統に同期した正弦波として作成される。電流目標値作成部22は、作成した正弦波基準信号の瞬時値に電流指令を掛けて出力する電流目標値を作成する。この電流指令は直流電源から供給される入力電力状況に応じて設定される。
【0017】
また、PI演算部23は、正弦波基準信号の位相が0度から180度未満の期間、電流目標値から出力電流情報(Iac)を引いた値を基に比例積分演算(PI演算)を行い、リミッタ24は、PI演算した結果出力する値が所定の範囲を超え、上限より大きな値であれば上限値に修正し、下限値より小さければ下限値に修正して出力する。この位相検出は、位相判定部28で実施される。位相判定部28では、作成した正弦波基準信号の位相を検知し、0度から180度未満の動作と、180度から360度未満の動作を切り替えている。リミッタ24を通過したPI演算値は、比較回路27で三角波キャリア信号と比較され、PWM変調をかけてPWM制御信号として出力される。また、この信号は記憶部25に記憶される。
【0018】
そして、出力切替部26では、正弦波基準信号の位相が180度から360度未満の期間は、出力を切り替えて直前の値である位相が0度から180度未満の期間に記憶部25に記憶した値を順次取り出し、その値を反転して三角波キャリア信号と比較し、PWM変調をかけPWM制御信号として出力される。
【0019】
ここで、PI演算処理に使用する積分データは次のように処理される。正弦波基準信号の位相が180度から360度の負の期間ではPI演算が実施されないので、PI演算を開始する位相0度の時点で使用する積分データは、位相180度の時点での積分データを保管し、位相0度においてこのデータを引き出して、反転して積分データとして使用している。こうすることで。位相0度の時のPI演算出力が乱れるようなことがなく、安定した制御を実施できる。尚、保管する積分データは、位相180度を迎える度に書き換えられる。
【0020】
図4は、PWM制御信号生成の流れを示すフローチャートであり、以下このフローチャートを説明する。但し、商用電力系統の周波数を60Hz、PWM制御を15.6kHz間隔で行って(商用電力系統1サイクル当たり260回実施して)いる。また、正弦波基準信号はPLL制御により、商用電力系統と同期している状態とする。
【0021】
PWM制御信号の作成処理が呼び出される(S1)と、演算処理カウンタの値をプラス1して更新(S2)する。更新した値が260以上であれば同カウンタを0にクリア(S4)し、260未満であればそのままS5へ進む。S5で演算処理カウンタの値が0であれば積分データを反転してS7に進み、0でなければ反転せずにS7へ進む。S7では、演算処理カウンタの値が130未満かどうか判断し、130未満であれば、演算処理カウンタの値を次の手順でPI演算処理する。
【0022】
まず、基準信号の瞬時値に電流指令を掛けて出力電流の目標値を作成する(S10)。この目標値から出力電流フィードバック値Iacを引きいて偏差を算出(S11)する。この偏差を基にPI演算を行い(S12)、PI演算実施後、結果をリミッタ24にかけ、上限値より大きな値であれば上限値に修正し、下限値より小さければ下限値に修正して、PI演算値を一定範囲内に納める(S13)。
こうして処理したPI演算値を、記憶部25の演算処理カウンタ値と等しい番地に記憶(S14)し、PI演算値を出力値として設定する(S15)。そして、周波数15.6kHzの三角波キャリアで変調してPWM制御信号を作り出し(S16)、インバータ回路3のPWM制御信号として出力する。
【0023】
一方、S7において演算処理カウンタの値が130以上の時は以下の処理を行う。演算処理カウンタの値から130を引いた番地に記憶されたPI演算値を引用する(S8)。引用した値は、反転して出力値として設定され(S9)、周波数15.6kHzの三角波キャリアで変調してPWM信号を作り出し(S16)、インバータ回路3のPWM信号として出力する。図3を基に説明すると、0度から180度(カウンタが0〜130)の期間のPI演算値(積分データ)が出力されると共に記憶部25に記憶され、180度から360度の間ではこの記憶したPI演算値を反転して出力され、この信号をもとにPWM制御信号が作成される。
【0024】
このように、交流変換して逆潮流させる波形を、負の期間は正の波形を反転して出力させるので、温度ドリフトの影響を受け難く、直流成分が重畳することがない目標通りの電流を安定して出力することが可能となる。
また、PI演算による制御は半波のみで、変換した交流電流波形が負の期間ではPI演算を実施しないが、位相180度の時点での積分データを位相0度のPI演算に利用するので、PI演算値が乱れるようなことがない。従って、PI演算によりフィードバック制御を良好に実施でき、目標通りの電流を安定して出力することができる。
【0025】
尚、上記実施形態では、正の半波に対してPI演算によるPI制御を実施してフィードバック制御を行って良好な制御を可能としているが、他の演算制御、例えば比例制御(P制御)によりフィードバック制御を実施することも可能である。この場合、上記図2のインバータ制御回路のブロック図において、PI演算部23がP演算部となる。そして、図5に示すフローチャートの流れで制御される。図4のフローチャートとの違いはS5,S6の積分成分の取り扱いが無くなるだけで、全体の制御は同様の流れで実施される。但し、商用電力系統の周波数、キャリア周波数等の条件は同様の条件としている。
また、交流電流波形の正の期間に対してフィードバック制御を実施しているが、勿論正負を反転して負の期間に対してフィードバック制御を実施し、正の期間は負の期間の制御波形を反転して出力しても良い。
更に、上記実施形態では、商用電力系統の周波数を60Hzとしているが、50Hzの場合は、1サイクル当たりの実施回数260が312となるので、それに伴い各カウンタ値を変更することになるが処理内容は変わらない。また、上記処理は、マイクロコンピュータを用いて行っているが、演算増幅器を利用してPI演算を行ったり、シフトレジスタ等の記憶素子でデータを記憶させても良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る分散型電源の系統連系インバータの構成の一例を示すブロック図である。
【図2】図1のインバータ制御回路のブロック図である。
【図3】インバータ制御回路の動作説明のための電流波形図である。
【図4】PWM制御信号の作成処理フローチャートである。
【図5】インバータ制御回路の他の例を示すPWM制御信号の作成処理フローチャートである。
【図6】従来の分散型電源の系統連系インバータのブロック図である。
【図7】図5の電流読み取り回路の説明図で、(a)は回路図、(b)は制御説明図である。
【符号の説明】
【0027】
3・・インバータ回路、4・・LCフィルタ回路、6・・インバータ制御回路、7・・商用電力系統、8・・直流電源、15・・電圧位相検出回路、23・・PI演算部、25・・記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型電源の直流出力をインバータ回路とフィルタ回路とで交流電力に変換し、商用電力系統に電流を逆潮流させるための分散型電源の系統連系インバータであって、
前記インバータ回路を制御するインバータ制御回路は、変換した交流電流波形が正の期間のみフィードバック制御により目標電流を出力し、変換した交流電流波形が負の期間では直前の正の期間に出力した波形を反転して出力し、電流1周期の間の正の期間と負の期間に出力する大きさを等しくする制御を行うことを特徴とする分散型電源の系統連系インバータ。
【請求項2】
フィードバック制御は、正弦波基準信号の瞬時値に電流指令を掛けた目標値から出力電流フィードバック値を減じた値をPI演算して実施し、その結果得られる値をPWM変調してインバータ回路の制御出力とした請求項1記載の分散型電源の系統連系インバータ。
【請求項3】
位相0度の時点でPI演算に使用する積分データは、直前の位相180度の時点での積分データを反転したものである請求項2記載の分散型電源の系統連系インバータ。
【請求項4】
分散型電源の直流出力を交流電力に変換し、商用電力系統に電流を逆潮流させるための分散型電源の系統連系方法であって、
逆潮流させる交流電流波形が正の期間ではフィードバック制御により作成した電流波形を出力し、負の期間では直前の正の期間に出力した電流波形を反転して出力することを特徴とする分散型電源の系統連系方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−204067(P2006−204067A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15855(P2005−15855)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000124591)河村電器産業株式会社 (857)
【Fターム(参考)】