説明

分散形電源の運転状態判別方法および装置並びに運転状態判別プログラム

【課題】需要家内に設置された分散形電源に対して計測装置を直接設置することなく当該分散形電源の運転状態を判別する。
【解決手段】三相電流を測定する電流測定手段5と、電流測定手段5の測定結果に基づいて電流不平衡率に関連する値を求める関連値決定手段6と、予め作成された運転状態事例データ群21を記憶する記憶手段14と、データ群21を使用しサポートベクターマシンを用いて発電機(分散形電源)3の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段8と、新たに求められる電流不平衡率の関連値を入力として識別関数を用いて発電機3の運転状態を判別する判別手段9とを備えている。データ群21は、同じ時刻に測定されて求められた電流不平衡率の関連値と発電機3の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成されたものである。電流不平衡率の関連値は、例えば三相の電流実効値と三相の電流の位相差との組み合わせ等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散形電源の運転状態判別方法および装置並びに運転状態判別プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、配電系統に連系している発電機、インバータ電源等の三相電流を発生させる分散形電源の運転状態を判別する技術に関するものである。
【0002】
本明細書において、分散形電源が運転し発電している状態を運転ありと呼び、分散形電源が停止し発電していない状態を運転なしと呼ぶ。そして、ここでは主に分散形電源の発電の有無を運転状態と呼ぶが、一軒の需要家に複数台の分散形電源が設置されているような場合には、運転台数を判別するように拡張することもできる。
【0003】
また、本明細書において、サポートベクターマシン(Support Vector Machine)のことをSVMとも表記する。なお、SVMは、パターン識別手法の一つである。
【背景技術】
【0004】
配電系統に分散形電源が連系している場合、配電系統を適切に運用するためには、区分開閉器によって区分される配電系統の各区間の負荷や電力潮流(電流)をおおまかに算出することが必要とされ、そのために需要家が有する分散形電源の運転状態を把握することが必要とされる。
【0005】
配電系統に分散形電源が連系している場合の区分開閉器によって区分される配電系統の各区間の負荷を算出する従来の技術としては、例えば、配電線の区間負荷算出装置がある(特許文献1)。この装置は、変電所で測定される配電線の送出し電力と、配電系統に連系する各分散形電源に設置された分散形電源出力計測手段によって計測される計測値であって変電所における送出し電力の測定時刻と同時刻の分散形電源から配電系統に対して供給される電流の計測値に基づいて各区間の実際の負荷を算出し、これによって各区間の電力潮流を把握するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−61247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の配電線の区間負荷算出装置は、需要家の各分散形電源に対して計測装置を直接設置して計測を行う必要がある。したがって、全ての需要家に対して計測装置の設置を要請し承諾をしてもらわなければならず、現実には非常に困難である。
【0008】
本発明は、需要家内に設置された発電機や三相のインバータ電源等の分散形電源に対して計測装置を直接設置することなく当該分散形電源の運転状態を判別することができる分散形電源の運転状態判別方法および装置並びに運転状態判別プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、三相電流が流れる配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源の運転状態判別方法において、予め、配電系統又は配電系統から分散形電源に至るまでの電線を流れる三相電流を測定して電流不平衡率に関連する値を求めると共に、測定時における分散形電源の運転状態を計測し、同じ測定時刻の電流不平衡率の関連値と分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めた運転状態事例データ群を作成しておき、運転状態事例データ群の電流不平衡率の関連値を入力とすると共に運転状態事例データ群の分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに求められる電流不平衡率の関連値を入力として識別関数を用いて分散形電源の運転状態を判別するものであり、電流不平衡率の関連値は、電流不平衡率、三相の電流の位相差を120度と仮定した場合の電流不平衡率、三相の電流実効値、三相の電流実効値と三相の電流の位相差との組み合わせ、正相電流と逆相電流との組み合わせのいずれか1つとしている。
【0010】
また、請求項2記載の分散形電源の運転状態判別方法は、三相電流が流れる配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源の運転状態判別方法において、予め、配電系統から分散形電源に至るまでの電線の電力を二電力計法によって測定して2つの電力計の測定値を電流不平衡率に関連する値とすると共に、測定時における分散形電源の運転状態を計測し、同じ測定時刻の電流不平衡率の関連値と分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めた運転状態事例データ群を作成しておき、運転状態事例データ群の電流不平衡率の関連値を入力とすると共に運転状態事例データ群の分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに求められる電流不平衡率の関連値を入力として識別関数を用いて分散形電源の運転状態を判別するものである。
【0011】
また、請求項3記載の分散形電源の運転状態判別方法は、測定に係る三相電流の力率を測定し、サポートベクターマシンの入力に、力率の測定値を組み合わせるものである。
【0012】
また、請求項4記載の分散形電源の運転状態判別装置は、三相電流が流れる配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源の運転状態判別装置において、配電系統又は配電系統から分散形電源に至るまでの電線を流れる三相電流を測定する電流測定手段と、電流測定手段の測定結果に基づいて電流不平衡率に関連する値を求める関連値決定手段と、予め作成された運転状態事例データ群を記憶する記憶手段と、運転状態事例データ群の電流不平衡率の関連値を入力とすると共に運転状態事例データ群の分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段と、電流測定手段によって新たに測定されて関連値決定手段によって新たに求められる電流不平衡率の関連値を入力として識別関数を用いて分散形電源がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段とを備え、運転状態事例データ群は、同じ時刻に測定されて求められた電流不平衡率の関連値と分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成されたものであり、電流不平衡率の関連値は、電流不平衡率、三相の電流の位相差を120度と仮定した場合の電流不平衡率、三相の電流実効値、三相の電流実効値と三相の電流の位相差との組み合わせ、正相電流と逆相電流との組み合わせのいずれか1つとしているものである。
【0013】
また、請求項5記載の分散形電源の運転状態判別装置は、三相電流が流れる配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源の運転状態判別装置において、配電系統から分散形電源に至るまでの電線に設けられた二電力計法に使用する2つの電力計と、2つの電力計の計測値の組み合わせを電流不平衡率に関連する値とする関連値決定手段と、予め作成された運転状態事例データ群を記憶する記憶手段と、運転状態事例データ群の2つの電力計の計測値を入力とすると共に運転状態事例データ群の分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段と、新たに計測される2つの電力計の計測値を入力として識別関数を用いて分散形電源がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段とを備え、運転状態事例データ群は、同じ時刻に計測された2つの電力計の計測値と分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成されたものである。
【0014】
さらに、請求項6記載の分散形電源の運転状態判別装置は、測定に係る三相電流の力率を測定する力率測定手段を備え、サポートベクターマシンの入力に、力率の測定値を組み合わせるようにしている。
【0015】
また、請求項7記載の分散形電源の運転状態判別プログラムは、少なくとも、三相電流が流れる配電系統又は配電系統から配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源に至るまでの電線を流れる三相電流を測定する電流測定手段の測定結果に基づいて電流不平衡率に関連する値を求める関連値決定手段と、同じ時刻に測定されて求められた電流不平衡率の関連値と分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成され記憶手段に記憶された運転状態事例データ群の電流不平衡率の関連値を入力とすると共に運転状態事例データ群の分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段と、電流測定手段によって新たに測定されて関連値決定手段によって新たに求められる電流不平衡率の関連値を入力として識別関数を用いて分散形電源がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段としてコンピュータを機能させるものである。
【0016】
また、請求項8記載の分散形電源の運転状態判別プログラムは、少なくとも、三相電流が流れる配電系統から配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源に至るまでの電線に設けられた二電力計法に使用する2つの電力計の計測値の組み合わせを電流不平衡率に関連する値とする関連値決定手段と、同じ時刻に計測された2つの電力計の計測値と分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成され記憶手段に記憶された運転状態事例データ群の2つの電力計の計測値を入力とすると共に運転状態事例データ群の分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段と、新たに計測される2つの電力計の計測値を入力として識別関数を用いて分散形電源がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
【0017】
さらに、請求項9記載の分散形電源の運転状態判別プログラムは、測定に係る三相電流の力率を測定する力率測定手段の測定値を前記サポートベクターマシンの入力に組み合わせるものである。
【0018】
この分散形電源の運転状態判別方法および分散形電源の運転状態判別装置並びに分散形電源の運転状態判別プログラムによると、下記に説明する原理によって配電系統に連系する分散形電源の運転状態を判別することができる。
【0019】
配電系統に連系されている需要家の三相負荷は平衡である。また、需要家の分散形電源電流(三相)も平衡である。いま、需要家の単相負荷が三相のうちab相に接続されているとすると、例えば連系点の電流は数式1〜数式3によって示される。ここで、Iar:a相の電流、Ibr:b相の電流、Icr:c相の電流である。また、需要家の三相負荷のうちa相負荷をIa3p、b相負荷をIb3p、c相負荷をIc3pとし、分散形電源電流のうちa相電流をIaG、b相電流をIbG、c相電流をIcGとする。さらに、需要家の単相負荷が接続されるa相電流をIa1p、b相電流をIb1pとする。
【0020】
〈数1〉
ar=Ia3p+Ia1p−IaG
〈数2〉
br=Ib3p+Ib1p−IbG
〈数3〉
cr=Ic3p−IcG
【0021】
零相電流を計算すると、零相電流Iは数式4によって示される。
〈数4〉
=1/3(Iar+Ibr+Icr
=1/3{(Ia3p+Ia1p−IaG
+(Ib3p+Ib1p−IbG
+(Ic3p−IcG)}
=1/3{(Ia3p+Ib3p+Ic3p
+(Ia1p+Ib1p
−(IaG+IbG+IcG)}
【0022】
ここで三相平衡条件より、(Ia3p+Ib3p+Ic3p)=0,(IaG+IbG+IcG)=0であるので、上記数式4は数式5となる。
〈数5〉
=1/3(Ia1p+Ib1p
【0023】
かつ、Ia1p=−Ib1pであるので、これを数式5に代入すると、零相電流I=0となる。したがって、零相電流Iは三相負荷電力および分散形電源の影響を受けない。
【0024】
次に、正相電流を計算すると、正相電流Iは数式6によって示される。ここで、a及びaは数式7,8によって示される回転ベクトルである。
〈数6〉
=1/3(Iar+a×Ibr+a×Icr
=1/3{(Ia3p+Ia1p−IaG
+a×(Ib3p+Ib1p−IbG
+a×(Ic3p−IcG)}
=1/3{(Ia3p+a×Ib3p+a×Ic3p
+(Ia1p+a×Ib1p
−(IaG+a×IbG+a×IcG)}
【数7】

【数8】

【0025】
ここで三相平衡条件より、Ib3p=a×Ia3p、Ic3p=a×Ia3p、IbG=a×IaG、IcG=a×IaGであるので、これらを数式6に代入すると、正相電流Iは数式9となる。
〈数9〉
I1=1/3{(Ia3p+a×Ia3p+a×Ia3p
+(Ia1p+a×Ib1p
−(IaG+a×IaG+a×IaG)}
=1/3{3×Ia3p+(Ia1p+a×Ib1p)−3×IaG
=Ia3p−IaG+1/3(Ia1p+a×Ib1p
よって、正相電流Iは三相負荷電力および分散形電源電流により変動する。
【0026】
次に、逆相電流を計算すると、逆相電流Iは数式10によって示される。
〈数10〉
=1/3(Iar+a×Ibr+a×Icr
=1/3{(Ia3p+a×Ib3p+a×Ic3p
+(Ia1p+a×Ib1p
−(IaG+a×IbG+a×IcG)}
=1/3{(Ia3p+a×Ia3p+a×Ic3p
+(Ia1p+a×Ib1p
−(IaG+a×IaG+a×IaG)}
=1/3{(Ia3p+a×Ia3p+a×Ic3p
+(Ia1p+a×Ib1p
−(IaG+a×IaG+a×IaG)}
=1/3{(1+a+a)×Ia3p+(Ia1p+a×Ib1p
−(1+a+a)×IaG
=1/3(Ia1p+a×Ib1p
したがって、逆相電流Iは三相負荷電力および分散形電源電流の影響を受けない。
【0027】
よって、正相電流Iに対する逆相電流Iの割合である電流不平衡率を求め、この電流不平衡率との関係に基づいて分散形電源の運転状態を判別することができる。
【0028】
また、判別に使用する指標としては、必ずしも精確に求めた電流不平衡率でなくても、分散形電源電流の影響を受けているものであれば使用可能である。したがって、三相の電流の位相差を120度と仮定した場合の電流不平衡率を使用することもできる。
【0029】
また、上述のように、電流不平衡率の算出には三相の電流実効値(電流値)や三相電流の正相電流が使用され、これらの値は電流不平衡率の値に影響することになる。よって、三相の電流実効値との関係、又は三相電流の正相電流及び逆相電流との関係に基づいて分散形電源の運転状態を判別することもできる。
【0030】
さらに、二電力計法で使用される2つの電力計の計測値と電流不平衡率との間には相関がある。よって、二電力計法で使用される2つの電力計の計測値との関係に基づいて分散形電源の運転状態を判別することもできる。
【0031】
即ち、電流不平衡率に関連する値(以下、単に関連値という)として、電流不平衡率それ自体の他、三相の電流の位相差を120度と仮定した場合の電流不平衡率、三相の電流実効値、三相の電流実効値と三相の電流の位相差との組み合わせ、正相電流と逆相電流との組み合わせ、二電力計法による2つの電力計の計測値の組み合わせ、を使用することができる。
【0032】
また、上述の電流不平衡率の計算では力率を考慮していないが、力率を考慮することで位相差に関する情報を補完できるので、サポートベクターマシンの入力指標として力率を更に組み合わせて使用することもできる。
【0033】
ここで、分散形電源を発電機とした場合の発電機電流と三相電流・電流不平衡率との関係を調べる実験を行った。実験は、単相負荷を60kW(力率100%)、三相負荷を240kW(力率85%)、発電機出力を定格240kW(力率95%)とし、発電機出力を0kWから240kWまで変化させて需要家2入口の各相電流、電流不平衡率を計算することで行った。単相負荷はA相とC相の間に設けた。
【0034】
その結果を図5に示す。図5からも明らかなように、発電機3の出力増加に伴って電流不平衡率が増大することを確認できた。また、電流不平衡率の変化は三相の電流値の変化に反映されることも確認できた。したがって、電流不平衡率を指標として採用することにより、発電機3の運転状態の判別が可能であると共に、電流不平衡率に関連する値として三相の電流値(実効値)を採用可能である。
【0035】
また、分散形電源を発電機とした場合の発電機電流と二電力計法による2つの電力計の計測値(指示値)・電流不平衡率との関係を調べる実験を行った。実験は、単相負荷を60kW(力率100%)、三相負荷を240kW(力率85%)、発電機出力を定格240kW(力率95%)とし、発電機出力を0kWから240kWまで変化させて2つの電力計の指示値(W1,W3)と、需要家2入口の電流不平衡率を計算することで行なった。
【0036】
その結果を図6に示す。図6からも明らかなように、発電機3の出力増加に伴って電流不平衡率が増大すると共に、電流不平衡率の変化は2つの電力計の指示値に反映されることが確認できた。したがって、電流不平衡率を指標として採用することにより、発電機3の運転状態の判別が可能であると共に、電流不平衡率に関連する値として2つの電力計の指示値を採用可能である。
【発明の効果】
【0037】
請求項1,2記載の分散形電源の運転状態判別方法、請求項4,5記載の分散形電源の運転状態判別装置、及び請求項7,8記載の分散形電源の運転状態判別プログラムによれば、需要家内に計測装置を直接取り付けることなく需要家内に設置された分散形電源の運転状態を判別することができるので、需要家内に設置された分散形電源の運転状態の判別の仕組みを容易に構築することが可能になる。
また、請求項3記載の分散形電源の運転状態判別方法、請求項6記載の分散形電源の運転状態判別装置、及び請求項9記載の分散形電源の運転状態判別プログラムによれば、分散形電源の運転状態の判別をより精確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の分散形電源の運転状態判別装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の分散形電源の運転状態判別方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
【図3】三相電流の電流実効値と三相の電流の位相差を説明するための図である。
【図4】本発明の分散形電源の運転状態判別装置の他の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図5】分散形電源電流と受電点の三相電流・電流不平衡率との関係を調べる実験の結果を示すグラフである。
【図6】分散形電源電流と受電点の二電力計法による2つの電力計の計測値(指示値)・電流不平衡率との関係を調べる実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0040】
図1に本発明の分散形電源の運転状態判別装置の第1の実施形態を、図2に本発明の分散形電源の運転状態判別方法の第1の実施形態をそれぞれ示す。本実施形態では、分散形電源として発電機を例に説明する。ただし、分散形電源としては三相電流を発生させる分散形電源であれば発電機に限るものではなく、例えば燃料電池等を使用したインバータ電源等でも良い。分散形電源の運転状態判別装置(以下、単に運転状態判別装置という)は、三相電流が流れる配電系統1に連系された需要家2の三相電流を発生させる発電機3の運転状態を判別するものであって、配電系統1又は配電系統1から発電機3に至るまでの電線4を流れる三相電流を測定する電流測定手段5と、電流測定手段5の測定結果に基づいて電流不平衡率に関連する値を求める関連値決定手段6と、予め作成された運転状態事例データ群21を記憶する記憶手段14と、運転状態事例データ群21の電流不平衡率の関連値を入力とすると共に運転状態事例データ群21の発電機3の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて発電機3の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段8と、電流測定手段5によって新たに測定されて関連値決定手段6によって新たに求められる電流不平衡率の関連値を入力として識別関数を用いて発電機3がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段9とを備えている。また、分散形電源の運転状態判別方法(以下、単に運転状態判別方法という)は、三相電流が流れる配電系統1に連系された需要家2の三相電流を発生させる発電機3の運転状態を判別するものであって、予め、配電系統1又は配電系統1から発電機3に至るまでの電線4を流れる三相電流を測定して電流不平衡率に関連する値を求めると共に、三相電流の測定時における発電機3の運転状態を計測し、同じ測定時刻の電流不平衡率の関連値と発電機3の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めた運転状態事例データ群21を作成しておき、運転状態事例データ群21の電流不平衡率の関連値を入力とすると共に運転状態事例データ群21の発電機3の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて発電機3の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに求められる電流不平衡率の関連値を入力として識別関数を用いて発電機3がどのような運転状態にあるかを判別するものである。さらに、分散形電源の運転状態判別プログラム16は、少なくとも、三相電流が流れる配電系統1又は配電系統1から配電系統1に連系された需要家2の三相電流を発生させる発電機3に至るまでの電線4を流れる三相電流を測定する電流測定手段5の測定結果に基づいて電流不平衡率に関連する値を求める関連値決定手段6と、同じ時刻に測定されて求められた電流不平衡率の関連値と発電機3の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成され記憶手段14に記憶された運転状態事例データ群21の電流不平衡率の関連値を入力とすると共に運転状態事例データ群21の発電機3の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて発電機3の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段8と、電流測定手段5によって新たに測定されて関連値決定手段6によって新たに求められる電流不平衡率の関連値を入力として識別関数を用いて発電機3がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段9としてコンピュータを機能させるためのものである。
【0041】
本実施形態では、電流不平衡率の関連値は、三相の電流実効値と三相の電流の位相差との組み合わせである。即ち、電流不平衡率の関連値として、三相の電流実効値(第1の関連値)と三相の電流の位相差(第2の関連値)との2つの関連値を使用する。
【0042】
電流測定手段5は、例えば三相電流の測定器であり、例えば配電系統1に設けられている。変電所22から電力が供給される配電系統1には複数の区分開閉器10が設けられており、区分開閉器10には各相毎に電流を測定する電流測定器が設けられているので、本実施形態では電流測定手段5として区分開閉器10の電流測定器を利用する。ただし、電流測定手段5としては区分開閉器10の電流測定器に限るものではなく、配電系統1に流れる三相電流を各相毎に測定できるものであれば他のものを使用しても良い。電流測定手段5は、判別対象となる発電機3の運転による影響が電流不平衡率の変化として現われる範囲内に設置されている。なお、図1の符号23は需要家2が有する負荷である。
【0043】
電流測定手段5は、連続的に若しくは各相の電流の波形を再現可能なサンプリングタイムで各相の電流実効値を測定し、その測定値と測定時刻を受信装置15を介して運転状態判別装置の記憶手段14に供給する。記憶手段14は供給された測定値とその測定時刻とを順次記憶する。電流測定手段5と受信装置15との間の通信方法は特定の方式に限定されるものではなく、有線でも無線でも構わない。なお、本実施形態では、後述するように測定した各相の電流の波形を再現し三相の電流の位相差を求める必要があることから、測定を連続的に若しくは各相の電流の波形を再現可能なサンプリングタイムで行うようにしていたが、電流の波形を再現する必要がない場合等には、必ずしも連続的に若しくは各相の電流の波形を再現可能なサンプリングタイムで測定を行う必要はない。
【0044】
本発明の運転状態判別装置は、制御部11、入力部12、表示部13、記憶手段14を備え、これらは相互にバス等の信号回線18により接続されている。制御部11は記憶手段14に記憶されている運転状態判別プログラム16の実行により運転状態判別装置全体の制御並びに発電機3の運転状態の判別等に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。記憶手段14は少なくともデータやプログラム16を記憶可能な装置であり、例えばハードディスクドライブ装置である。
【0045】
この運転状態判別装置は、本発明の発電機3の運転状態判別プログラム16をコンピュータ上で実行することによっても実現される。即ち、少なくとも1つのCPUやMPUなどの演算処理装置と、データの入出力を行うインターフェースと、プログラムやデータを記憶する手段を備えるコンピュータ、及び運転状態判別プログラム16によって、関連値決定手段6、学習手段8、判別手段9を実現している。即ち、演算処理装置は、メモリに記憶されたOS等の制御プログラム、運転状態判別プログラム16及び所要データ等により、上記関連値決定手段6、学習手段8、判別手段9を実現している。
【0046】
入力部12は、少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェースであり、例えばキーボードである。
【0047】
表示部13は、制御部11の制御により文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0048】
制御部11には、運転状態判別プログラム16を実行することにより、関連値決定手段6と、学習手段8と、判別手段9が構成される。
【0049】
関連値決定手段6は、電流測定手段5によって測定された電流実効値(図3のIa,Ib,Ic)を記憶手段14から読み込んで第1の関連値とする。また、電流測定手段5の測定値に基づいて各相の電流の波形を再現し、三相の電流の位相差(図3の角度θ1,θ2,θ3)を求めて第2の関連値とする。関連値決定手段6は、このようにして求めた第1の関連値及び第2の関連値を組み合わせて記憶手段14に供給し、記憶手段14は第1の関連値及び第2の関連値の組み合わせを記憶する。
【0050】
学習手段8は、記憶手段14に記憶されている運転状態事例データ群21を用いてサポートベクターマシンによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定するものである。
【0051】
判別手段9は、決定された識別関数と新たに求められた第1の関連値及び第2の関連値とに基づいてサポートベクターマシンによって発電機3の運転状態を判別するものである。
【0052】
運転状態事例データ群21は、例えば実験を行って予め作成され、記憶手段14に記憶されている。運転状態事例データ群21は、同じ測定時刻の電流不平衡率の関連値と発電機3の運転状態の測定値(運転あり・なし)との組み合わせを多数集めたものである。
【0053】
電流不平衡率の関連値は、例えば本発明による発電機3の運転状態の判別と同様に、電流測定手段5と関連値決定手段6を用いて求められる。また、発電機3の運転状態の測定は、例えば発電機3の運転状態を計測する計測器を需要家1内の発電機3に一時的に設置することで行なわれる。需要家1内の発電機3に一時的に運転状態計測器を設置してデータを収集し、サポートベクターマシンの識別関数の作成に必要な運転状態事例データ群21を予め作成しておくことで、本発明による発電機3の運転状態の識別では、需要家1内の発電機3に運転状態計測器を設置しなくても、発電機3の運転状態を判別することができる。
【0054】
運転状態計測器として、例えば発電機端に設置され、発電機3の三相電圧と2相電流を入力とし、二電力量計法によって発電機3の有効電力や力率等を計測するものの使用が可能である。測定した有効電力が0の場合に発電なし、0よりも大きな場合に発電ありと判断する。
【0055】
本実施形態では、電流不平衡率の関連値として、三相の電流実効値(第1の関連値)と三相の電流の位相差(第2の関連値)とを使用しているので、運転状態事例データ群21は三相の電流実効値、三相の電流の位相差、発電機3の運転状態の測定値の組み合わせを複数集めた構造となっている。
【0056】
本発明の運転状態判別方法は、図2に示すように、大きくは、予め作成し記憶している運転状態事例データ群21を用いてSVMによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定する学習ステップ(S1)と、識別関数と新たに測定され求められた電流不平衡率とに基づいて需要家2内に設置された発電機3の運転状態を判別する判別ステップ(S2)とからなる。なお、運転状態事例データ群21は学習ステップ(S1)のみで用いられるものであり、判別ステップ(S2)では用いられない。
【0057】
まず、学習ステップ(S1)について説明する。
【0058】
本実施形態の発電機3の運転状態判別方法の実行にあたっては、まず、制御部11の学習手段8が記憶手段14に記憶されている運転状態事例データ群21の読み込みを行う(S1−1)。なお、本発明における運転状態事例データ群21を構成するデータはSVMにおける学習データ(若しくは学習サンプルやサンプルデータや訓練サンプルや例題とも呼ばれる)に該当する。
【0059】
次に、学習手段8は、読み込んだ運転状態事例データ群21を用いてSVMによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定する(S1−2)。
【0060】
本実施形態では、運転状態事例データ群21のうち、電流不平衡率の関連値(第1の関連値:三相の電流実効値,第2の関連値:三相の電流の位相差)をSVMにおける特徴ベクトル(即ち入力)として扱い、発電機3の運転状態をクラス(即ち出力)として扱う。
【0061】
SVMは、パターン識別手法の一つであり、d次元の1個のパターンデータX=(x,x,・・・,x)が与えられたときに、パターンデータXがどのクラスに属するのかを分類するものである。なお、パターンデータXはSVMにおける特徴ベクトルである。
【0062】
本発明では、発電機3の運転状態をクラスとして扱う。これについて、本実施形態では、発電機3の運転のあり・なしをクラスとして扱う。したがって、本実施形態においてはクラスの数は2個となる。具体的には、本実施形態では、クラスをyで表し、運転ありに対応するクラスy=+1とすると共に運転なしに対応するクラスy=−1として数値化して用いる。なお、本実施形態において例として挙げているのは発電機3の運転・停止のみの判断であるが、複数台設置の需要家2については、運転台数をクラスとして扱うことも可能である。その場合には、クラスの値は整数値をとることとなる。
【0063】
また、本実施形態では、パターンデータXとして電流不平衡率の関連値を用いる。すなわち、本実施形態では、パターンデータXは二次元であり、パターンデータX=(第1の関連値,第2の関連値)である。なお、本実施形態における例ではパターンデータを2次元としているが、第1の関連値及び第2の関連値の組み合わせの連続値を利用することも可能であり、その場合には多次元(具体的には、2次元データ×n組で2n次元)となる。
【0064】
そして、SVMでは、パターンデータXを入力とし、クラスy=+1,−1を出力とし、パターンデータXが入力された場合にクラスyを出力する関数である識別関数を決定する。SVMでは、まず、事前に与えられるサンプルデータであって過去の実績に基づくn個のパターンデータX,X,・・・,Xと各パターンデータに対応する正解のクラスy,y,・・・,yとの組み合わせである学習データを用い、学習データが正しく判別されるような識別関数を決定する。そして、SVMでは、新しく与えられクラスが未知であるパターンデータXを、得られた識別関数を用いて分類してクラスyを出力する。
【0065】
本実施形態における運転ありに対応するクラスy=+1と運転なしに対応するクラスy=−1とを分類する場合について説明する。パターンデータXの入力に対し、二値のクラスyを出力する識別関数y=f(X)(数式11)に従ってクラスyを出力する。
〈数11〉
f(X)=sgn(w・X+b)
ここで、w=(w,w,・・・,w):ベクトル変数,b:スカラー変数を表す。
また、w・Xの・は内積を表す。
さらに、sgn[u]は、u>0で1をとり、u≦0で−1をとる符号関数である。
【0066】
数式11は、d次元の入力空間をw・X+b=0で定義される超平面H0で二つに分け、一方に1を、他方に−1を対応させることに対応する。学習データを正しく判別する識別関数の設定は、与えられた学習データに対してベクトル変数wやスカラー変数bを調整することにより行われる。
【0067】
サンプルのパターンデータXの全てに対して正しいクラスyが出力されるようなベクトル変数wとスカラー変数bとの組み合わせが存在するとき、その学習データ集合は「線形分離可能」であるという。この線形分離を実現する超平面(判別面とも言う)H0は一つには決まらない。そこで、SVMでは、判別面H0から各クラスyの端までの距離をマージンLと呼び、マージンLを最大にするように判別面H0(最適超平面と言う)を決定する。このことは各クラスyの間の真ん中を判別面H0とすることに対応する。そして、最適超平面H0からマージンLだけ離れて最適超平面H0を挟む二枚の超平面、換言すれば各クラスyの端のサンプルパターンデータXがのっている超平面が第一超平面H1と第二超平面H2とになる。
【0068】
ここで、サンプルのパターンデータXの全てに対して正しいクラスyが出力されるようなベクトル変数wとスカラー変数bとの組み合わせが存在することは必ずしも保証されない。つまり、常に線形分離可能であるとは限らない。線形分離は、一般に、サンプル数nが大きくなるほど難しく、特徴ベクトルXの次元dが大きいほど易しくなる。そこで、線形分離可能でない場合には、パターンデータXを非線形変換(z=φ(X))によって、より高次元の空間に写像する。これにより、線形分離可能な状態になり、最適超平面H0を求めることができる。例えば二次元空間上のパターンデータXを非線形変換(z=φ(X))することにより、三次元空間上のzへと変換すると、平面で線形分離することができる。
【0069】
SVMでは、一般的に、次元dの増加とともに計算量が増えて計算が困難になる。この問題を解決するためにSVMでは、内積X・Xを非線形変換した結果現れる内積z・z=φ(X)・φ(X)を核関数(カーネル関数と呼ばれる)Kを使って済ませ、zの計算を経由しないという方法をとる。このテクニックをカーネルトリックと呼ぶ。
【0070】
具体的には、カーネル関数Kを数式12のようにおく。
〈数12〉
K(X,X)=φ(X)・φ(X)
【0071】
カーネル関数Kの代表的な例としては、数式13で表されるRBF(Radial Basis Function)カーネルや数式14で表されるp次の多項式カーネルがある。
〈数13〉
K(x,y)=exp(−‖x−y‖/2σ)
〈数14〉
K(x,y)=(x・y+1)
【0072】
このように、カーネルトリックと呼ばれる計算方法によって、高次元の写像を実際に計算することなしに高速に解を求めることができる。これにより、線形分離可能な状態となり、最適超平面H0を求めることができる。なお、最適超平面(判別面)H0及び第一超平面H1及び第二超平面H2を求めるアルゴリズムは必ずしも上記の例には限定されず、その他の既知のアルゴリズムあるいは更に改良された新規のアルゴリズムを採用することも可能である。
【0073】
なお、電流不平衡率の関連値と発電機3の運転状態との組み合わせデータは需要家2又は発電機3毎に特性が異なることが考えられるので、本発明においては、運転状態判別対象の需要家2又は発電機3毎に運転状態事例データ群21が準備されると共に判別面H0が決定されることが好ましい。しかしながら、例えば同一若しくは類似の業種の工場であったり、特別な電気機器は使用されていない一般的なビルであったりする場合であって特性が似ていると考えられる場合には或る一つの工場やビルで計測された運転状態事例データ群21に基づく判別面H0を他の工場やビルに対して用いるようにしても良い。
【0074】
学習手段8は、S1−1の処理において記憶手段14に記憶されている運転状態事例データ群21を読み込み、当該データを用いてSVMによって運転状態判別面を生成して識別関数を決定する。学習手段8は決定した識別関数を記憶手段14に記憶させる(ステップS1−2)。
【0075】
以上の学習ステップ(S1)は、識別関数を特定するために或る需要家2若しくは或る特徴を有する需要家2に対して一回だけ行う。そして、この学習ステップ(S1)によって決定された識別関数を用いて以下の判別ステップ(S2)を繰り返して行う。
【0076】
続いて、判別ステップ(S2)について説明する。
【0077】
電流測定手段5によって新たに測定された電流実効値は受信装置15を介して記憶手段14に供給され、一旦記憶される。関連値決定手段6は記憶手段14に一旦記憶された測定値(電流実効値)を読み込み(ステップS2−1)、第1の関連値と第2の関連値を求める。求めた第1の関連値と第2の関連値は記憶手段14に一旦記憶される。なお、第2の関連値は、今回の測定値だけからは求めることはできないが、今回の測定の前に測定した複数の測定値を用いて電流の波形を再現して求めることができる。
【0078】
次に、判別手段9は関連値決定手段6が新たに求めた第1の関連値及び第2の関連値と、ステップS1−2の処理において決定された識別関数を記憶手段14から読み込み、第1の関連値と第2の関連値を識別関数に入力して発電機3の運転状態を判別する(ステップS2−2)。その後、判別手段9は判別結果を表示部13に表示して判別ステップ(S2)を終了する。
【0079】
なお、判別ステップ(S2)の処理は、例えば予め設定された時間間隔(例えば1分ごと、3分ごと、10分ごと、1時間ごと等)で実行される。即ち、電流測定手段5は電流の波形を再現可能な時間間隔で測定を繰り返しているが、判別ステップ(S2)の実行はこれよりも長い間隔となっている。ただし、必ずしもこれに限るものではなく、判別ステップ(S2)の処理を、例えば電流測定手段5からの測定データの入力に合わせて実行するようにしても良い。
【0080】
以上によって判別された発電機3の運転状態は、例えば、区分開閉器10で区分される配電系統1の区間毎の電力潮流及び需要家2毎の実際の負荷電力値を推定し、当該推定値に基づいて、電圧が規定値の範囲を超えて低下又は上昇するような不都合を回避する配電系統1の制御に活用される。
【0081】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0082】
例えば、上述の説明では、電流不平衡率の関連値を、三相の電流実効値(第1の関連値)と三相の電流の位相差(第2の関連値)との組み合わせとしていたが、必ずしもこれに限るものではない。例えば、電流不平衡率、三相の電流の位相差を120度と仮定した場合の電流不平衡率、三相の電流実効値、正相電流と逆相電流との組み合わせ、二電力計法による2つの電力計の計測値の組み合わせ、のいずれか1つでも良い。あるいは、これらの各々について、力率の測定値を組み合わせるようにしても良い。即ち、電流測定手段5によって測定される三相電流の力率を測定し、サポートベクターマシンの入力に、力率の測定値を組み合わせるようにしても良い。
【0083】
電流不平衡率の関連値として、電流不平衡率を使用する場合には、関連値決定手段6は、電流測定手段5によって測定された電流実効値と、再現した電流波形から求めた三相の電流の位相差に基づいて電流不平衡率を算出する。この場合には、関連値が電流不平衡率そのものであるので、発電機3の運転状態の判定を高精度に行うことができる。
【0084】
電流不平衡率の関連値として、三相の電流の位相差を120度と仮定した場合の電流不平衡率(簡易な電流不平衡率)を使用する場合には、関連値決定手段6は、電流測定手段5によって測定された電流実効値に基づき、三相の電流の位相差を120度と仮定して電流不平衡率を算出する。この場合には、電流不平衡率の関連値が実際の三相の電流の位相差を反映していないので発電機3の運転状態の判定の精度が若干悪化する虞があるが、その反面、三相の電流の位相差を求める必要がないので計算量を減らすことができると共に、電流波形を再現する必要がないので電流測定手段5による測定の時間間隔を長くすることができて取り扱う情報量を減らすことができる。
【0085】
電流不平衡率の関連値として、三相の電流実効値を使用する場合には、関連値決定手段6は、電流測定手段5によって測定された電流実効値をそのまま関連値とする。この場合には、電流測定手段5の測定値をそのまま関連値としているので複雑な計算を行う必要がなくなると共に、電流波形を再現する必要がないので電流測定手段5による測定の時間間隔を長くすることができて取り扱う情報量を減らすことができる。
【0086】
電流不平衡率の関連値として、正相電流と逆相電流との組み合わせを使用する場合には、関連値決定手段6は、電流測定手段5によって測定された電流実効値と、再現した電流波形から求めた三相の電流の位相差に基づいて正相電流及び逆相電流を算出する。この場合には、関連値が正相電流及び逆相電流であるので、電流不平衡率を算出する場合に比べて計算量を減らすことができると共に、関連値に実際の三相の電流の大きさを関連させることができるので、発電機3の運転状態の判定をある程度高精度に行うことができる。
【0087】
電流不平衡率の関連値として、二電力計法による2つの電力計の計測値の組み合わせを使用する場合には、電流測定手段5に代えて二電力計法に使用する2つの電力計20,20を設けるようにする。また、関連値決定手段6は、2つの電力計20,20の計測値を関連値とする。この場合の例を例えば図4に示す。なお、図4では図1のものと同一のものには同一の符号を付してある。2つの電力計20,20は電線4(引き込み線)に設けられている。この場合には、関連値が2つの電力計20,20の読みそのものであるので、電流不平衡率を算出する場合に比べて計算量を減らすことができる。また、広く一般的に設置されている電力計20,20をそのまま使用することができるので、わざわざ関連値を求める為に専用の計測器を設ける必要がない。
【0088】
また、サポートベクターマシンの入力に力率の測定値を組み合わせる場合には、電流測定手段5によって測定される三相電流の力率を測定する力率測定手段19を設け、この力率測定手段19の測定値を使用することが考えられる。力率測定手段19として、例えば力率計の使用が可能である。ただし、力率計に限るものではなく、力率を算出可能な物理量を測定する測定器でも良い。力率測定手段19は、例えば図1の実施形態では電流測定手段5に隣接して、図4の実施形態では電力計20,20に隣接してそれぞれ設けられている。
【0089】
力率測定手段19による測定値は受信装置15を介して記憶手段14に供給され、一旦記憶された後、関連値決定手段6によって読み込まれる。そして、関連値決定手段6は読み込んだ力率の計測値を電流不平衡率の関連値とする。この関連値は、学習ステップ(S1)で使用する運転状態事例データ群21と、判別ステップ(S2)で使用する特徴ベクトルとして使用される。即ち、サポートベクターマシンの入力に、電流不平衡率と力率の測定値との組み合わせ、三相の電流の位相差を120度と仮定した場合の電流不平衡率と力率の測定値との組み合わせ、三相の電流実効値と力率の測定値との組み合わせ、三相の電流実効値と三相の電流の位相差と力率の測定値との組み合わせ、正相電流と逆相電流と力率の測定値との組み合わせ、二電力計法による2つの電力計の計測値と力率の測定値との組み合わせ、を使用するようにしても良い。力率の測定値を組み合わせることで、発電機3の運転状態の判別精度を向上させることができる。
【0090】
また、上述の説明では、電流測定手段5を配電系統1に設けていたが、電線4に設けるようにしても良い。
【0091】
また、上述の説明では、予め運転状態事例データ群21を作成しておき、本発明による発電機3の運転状態の判別では、学習ステップ(S1)においてSVMによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定するようにしていたが、必ずしもこれに限るものではなく、例えば、予め運転状態事例データ群21を作成しておくと共に、予めSVMによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定しておき、本発明による発電機3の運転状態の判別では、予め決定しておいた識別関数を使用して発電機3の運転状態を判別するようにしても良い。この場合でも、図2の実施形態と同様に発電機3の運転状態を判別することができる。
【実施例1】
【0092】
サポートベクターマシンを用いて発電機3の運転状態の判別が可能であることを確認するための実験を行った。実験では、発電機3を有する需要家2とその需要家2の連系点を含む配電系統1の区間を対象として実際に計測して得られた計測データを用いた。
【0093】
配電系統1区間のデータとして、変電所に近い地点の配電線上と、需要家2との連系点を挟んで変電所から遠い地点の配電線上(即ち、連系点を挟んだ上下2箇所)にそれぞれ計測器を設置し、各相の電流や有効電力、力率などを測定した。そして、変電所に近い地点の測定データから遠い地点の測定データを引き、区間についてのデータとした。また、需要家2入口から需要家2構内を見ると、回路にはモータや照明などの通常の負荷の他に発電機3(複数台の場合もある)が並列に接続されている。この状態で、需要家2入口(受電端)と発電機3接続点(すなわち発電端)とに計測器を設置して有効電力や力率などを測定し、それらのデータを需要家2のデータとした。
【0094】
配電系統1区間で計測した1分間隔の各相電流と区間力率の連続する10分間分のデータ(計40個)を別途計測した発電機の運転状態(運転あり、なし)別にSVMに学習させた。具体的には、A相の有効電流をA1,A2,・・・、B相の有効電流をB1,B2,・・・、C相の有効電流をC1,C2,・・・、力率をPF1,PF2,・・・,PF10とすると、(A1,…,A10,B1,…,B10,C1,…,C10,PF1,…,PF10)=Xを入力とすると共に、(発電機の運転、発電機の停止)=yを出力とする学習データの組み(X,y)を用いて判別面を決定した。
【0095】
SMVを用いて分類した結果、約99%の高い精度で学習し、10fold cross validation(10分割交差検定とも呼ばれる)によって判別性能を評価した結果、正答率は96〜99%となった。以上より、本発明は一般性を有し、且つ高い判別精度を有することが確認された。
【実施例2】
【0096】
次に、電流不平衡率の関連値として2つの電力計の指示値と力率を採用した運転状態事例データ群21を、異なる3軒の需要家2についての実測データに基づいて作成した。なお、使用した実測データは実施例1で使用したものと同じものである。この運転状態事例データ群21を学習データとして与えて学習させたSVMを用いて推定精度を検証したところ、正答率は96〜99%となった。これにより、本発明は一般性を有し、且つ高い判別精度を有することが確認された。
【符号の説明】
【0097】
1 配電系統
2 需要家
3 発電機(分散形電源)
4 電線
5 電流測定手段
6 関連値決定手段
8 学習手段
9 判別手段
19 力率測定手段
20 電力計
21 運転状態事例データ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相電流が流れる配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源の運転状態判別方法において、予め、前記配電系統又は前記配電系統から前記分散形電源に至るまでの電線を流れる三相電流を測定して電流不平衡率に関連する値を求めると共に、前記測定時における前記分散形電源の運転状態を計測し、同じ測定時刻の前記電流不平衡率の関連値と前記分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めた運転状態事例データ群を作成しておき、前記運転状態事例データ群の前記電流不平衡率の関連値を入力とすると共に前記運転状態事例データ群の前記分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに求められる前記電流不平衡率の関連値を入力として前記識別関数を用いて前記分散形電源の運転状態を判別するものであり、前記電流不平衡率の関連値は、電流不平衡率、三相の電流の位相差を120度と仮定した場合の電流不平衡率、三相の電流実効値、三相の電流実効値と三相の電流の位相差との組み合わせ、正相電流と逆相電流との組み合わせのいずれか1つであることを特徴とする分散形電源の運転状態判別方法。
【請求項2】
三相電流が流れる配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源の運転状態判別方法において、予め、前記配電系統から前記分散形電源に至るまでの電線の電力を二電力計法によって測定して2つの電力計の測定値を電流不平衡率に関連する値とすると共に、前記測定時における前記分散形電源の運転状態を計測し、同じ測定時刻の前記電流不平衡率の関連値と前記分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めた運転状態事例データ群を作成しておき、前記運転状態事例データ群の前記電流不平衡率の関連値を入力とすると共に前記運転状態事例データ群の前記分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに求められる前記電流不平衡率の関連値を入力として前記識別関数を用いて前記分散形電源の運転状態を判別することを特徴とする分散形電源の運転状態判別方法。
【請求項3】
前記測定に係る三相電流の力率を測定し、前記サポートベクターマシンの入力に、前記力率の測定値を組み合わせることを特徴とする請求項1又は2記載の分散形電源の運転状態判別方法。
【請求項4】
三相電流が流れる配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源の運転状態判別装置において、前記配電系統又は前記配電系統から前記分散形電源に至るまでの電線を流れる三相電流を測定する電流測定手段と、前記電流測定手段の測定結果に基づいて電流不平衡率に関連する値を求める関連値決定手段と、予め作成された運転状態事例データ群を記憶する記憶手段と、前記運転状態事例データ群の前記電流不平衡率の関連値を入力とすると共に前記運転状態事例データ群の前記分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段と、前記電流測定手段によって新たに測定されて前記関連値決定手段によって新たに求められる前記電流不平衡率の関連値を入力として前記識別関数を用いて前記分散形電源がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段とを備え、前記運転状態事例データ群は、同じ時刻に測定されて求められた前記電流不平衡率の関連値と前記分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成されたものであり、前記電流不平衡率の関連値は、電流不平衡率、三相の電流の位相差を120度と仮定した場合の電流不平衡率、三相の電流実効値、三相の電流実効値と三相の電流の位相差との組み合わせ、正相電流と逆相電流との組み合わせのいずれか1つであることを特徴とする分散形電源の運転状態判別装置。
【請求項5】
三相電流が流れる配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源の運転状態判別装置において、前記配電系統から前記分散形電源に至るまでの電線に設けられた二電力計法に使用する2つの電力計と、前記2つの電力計の計測値の組み合わせを電流不平衡率に関連する値とする関連値決定手段と、予め作成された運転状態事例データ群を記憶する記憶手段と、前記運転状態事例データ群の前記2つの電力計の計測値を入力とすると共に前記運転状態事例データ群の前記分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段と、新たに計測される前記2つの電力計の計測値を入力として前記識別関数を用いて前記分散形電源がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段とを備え、前記運転状態事例データ群は、同じ時刻に計測された前記2つの電力計の計測値と前記分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成されたものであることを特徴とする分散形電源の運転状態判別装置。
【請求項6】
前記測定に係る三相電流の力率を測定する力率測定手段を備え、前記サポートベクターマシンの入力に、前記力率の測定値を組み合わせることを特徴とする請求項4又は5記載の分散形電源の運転状態判別装置。
【請求項7】
少なくとも、三相電流が流れる配電系統又は前記配電系統から前記配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源に至るまでの電線を流れる三相電流を測定する電流測定手段の測定結果に基づいて電流不平衡率に関連する値を求める関連値決定手段と、同じ時刻に測定されて求められた前記電流不平衡率の関連値と前記分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成され記憶手段に記憶された運転状態事例データ群の前記電流不平衡率の関連値を入力とすると共に前記運転状態事例データ群の前記分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段と、前記電流測定手段によって新たに測定されて前記関連値決定手段によって新たに求められる前記電流不平衡率の関連値を入力として前記識別関数を用いて前記分散形電源がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段としてコンピュータを機能させるための分散形電源の運転状態判別プログラム。
【請求項8】
少なくとも、三相電流が流れる配電系統から前記配電系統に連系された需要家の三相電流を発生させる分散形電源に至るまでの電線に設けられた二電力計法に使用する2つの電力計の計測値の組み合わせを電流不平衡率に関連する値とする関連値決定手段と、同じ時刻に計測された前記2つの電力計の計測値と前記分散形電源の運転状態の計測値とを組み合わせて複数集めて予め作成され記憶手段に記憶された運転状態事例データ群の前記2つの電力計の計測値を入力とすると共に前記運転状態事例データ群の前記分散形電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記分散形電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する学習手段と、新たに計測される前記2つの電力計の計測値を入力として前記識別関数を用いて前記分散形電源がどのような運転状態にあるかを判別する判別手段としてコンピュータを機能させるための分散形電源の運転状態判別プログラム。
【請求項9】
前記測定に係る三相電流の力率を測定する力率測定手段の測定値を前記サポートベクターマシンの入力に組み合わせることを特徴とする請求項7又は8記載の分散形電源の運転状態判別プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−72122(P2011−72122A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220904(P2009−220904)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(591277717)東北計器工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】