説明

分散染料による合成繊維材料の乾式転写捺染法並びに転写紙

【課題】分散染料インクをプリント又は付与した転写紙を合成繊維材料に加圧、加熱処理
することにより、転写紙から該繊維材料に染料(図柄)を転写する乾式転写捺染法に用い
る転写紙であって、図柄の繊細性と再現性に優れる捺染を行うことができ、更にいわゆる
無製版プリントによってクイックデリバリーを可能にする乾式転写捺染用転写紙を提供することを課題とする。
【解決手段】
転写用紙に分散染料インクをプリント又は付与して転写紙を作成し、該転写紙を、合成繊
維材料に密着して加圧・加熱処理することにより転写し、次いで固着処理する乾式転写捺
染法に用いる転写紙であって、該転写用紙が、離型剤層として有機溶剤可溶性の合成樹脂
を、その上層のインク受容層として、加熱する事によって軟化或いは溶融する親水性合成
樹脂、親水性糊剤及び各種助剤との混合物を用いて積層されてなることを特徴とする乾式
転写捺染用転写紙及びそれを用いる乾式転写捺染法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散染料による合成繊維材料の乾式転写捺染法並びに転写紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、布に染料で図柄を堅牢・精細に描く方法として、スクリーン捺染、ローラー捺
染、ロータリースクリーン捺染、グラビア印刷或いはこれらのプリント技法を用いた転写
捺染法が知られており、工業的に実施されている。しかし、これらの製版プリント方式に
は、
・色数に制約がある、
・3原色色分解型枠によるプリントでは多色感を表現できるが、3原色組成に用いる組成
の色相・濃度を整える事が困難である、
・多重層を形成する為プリント加工の再現性を欠く恐れが大きい
等の問題がある。加えて小ロット生産では、製版作成費が高価となる、プリント加工時に
色糊を加工に必要な量より余剰に調製する必要がある等、資材面での損失・無駄が増加す
る問題が指摘されている。
【0003】
これらの問題点を解決する新たな捺染法として、コンピュータで画像処理を行い、インク
ジェット方式でプリントする無製版プリントが脚光を浴びている。この無製版プリントは
、布への直接プリントのほか、転写プリント分野へも展開されており、その実用化が進め
られている。この無製版プリントによる転写プリントでは、紙上に、インクジェットプリ
ンターで染料インク(図柄)を付与して転写紙を製造し、この転写紙の染料が天然又は合
成繊維材料に転写される。しかしながら、この方法では、転写用紙に染料インクを、イン
クジェットプリンターで、小ドットプリントする際に、ドット斑による均捺性を欠くとか
、染料液が滲み出し繊細さを失う等の問題点が指摘されている。
【0004】
分散染料を用いるインクジェットプリンター方式も、布帛への直接プリント法と、転写紙
を用いる昇華転写法が実用化されている。布帛への直接プリント法の問題点は、特許文献
1(特開2005-264021号公報 第9頁段落番号0047〜0051)、或いは
特許文献2(特公平5−36545号公報)等に記載があるように、にじみ防止効果を持
たせる為に、水溶性金属塩、ポリカチオン化合物、水溶性高分子、界面活性剤及び撥水剤
等を用いた布帛の前処理が不可欠である。即ち、布上にプリントされた水性インクが滲ん
だり、はじく事によって図柄のシャープ性が失われるので、この問題点を回避するために
、前記特許公報記載例のように、布帛に何らかの前処理を施す必要がある。
【0005】
この前処理は織編物の形状(織り方、編み方、糸の太さ・撚り方等)によって変化させる
必要があり、工程が煩雑となってコストアップの要因となるばかりでなく、前処理設備や
特殊な薬剤が必要となるなど、経済性や品質の安定性に問題を生じる可能性が大きい。こ
の直接プリント法は特許文献3(特開2004-176203号公報)に記載があるよう
に、ベルベットなど、立体織編物、立体生地、縫製品等の厚生地に適用する事は困難であ
る。また、布帛への直接プリント法の場合は事前に転写紙を備蓄できないので、インクジ
ェットプリンターのプリントスピードから考えてクイックデリバリー対応にも問題を生じる可能性がある。
【0006】
一方、分散染料インクを用いてプリントした転写紙を用いる方法としては、昇華型分散染
料を用いる転写法がよく知られている。この昇華転写方式の長所は、単に転写紙を圧着し
て加熱するだけで染料を固着でき、洗浄が不要であるなどの点にあるが、この方式には下
記の通り多くの問題点がある。
(1)昇華性のよい分散染料を用いるため、図柄周辺にブリードが生じ、デザインのシャ
ープ性に欠ける。即ち、図柄の尖鋭度と再現性に欠けると言う問題がある。
(2)昇華固着法であるため染着濃度は濃色が得難い。
(3)堅牢度の低い昇華性の分散染料が使用されるため、熱安定性、昇華堅牢度及び洗濯
堅牢度が低い。
(4)表面染着のためチョークマークが発生しやすい。
(5)高熱処理されるため繊維の風合が損なわれる。
分散染料の昇華型転写捺染方式が工業的に本格的に採用されないのは、これらの問題点に
よると考えられる。
【0007】
なお、特許文献4には、剥離剤層、熱可塑性樹脂層、水溶性高分子物質層、インキ層の四
層よりなる転写紙を布帛に重ね合わせ加圧、加熱によりインキ層、水溶性高分子物質層、
熱可塑性樹脂層を布帛に転写させ、固着処理する事が記載されている。しかるに、この特
許文献4に記載されている熱可塑性樹脂層は、トルエン溶液として塗布しており(同特許
文献第2頁右欄第5行目)、水洗工程でフィルムとなって分離される(同特許文献第2頁
左欄第19〜23行目)と記載されており、いわゆる疎水性樹脂が使用されている。この
疎水性樹脂は、本発明の水性分散染料との相溶性が悪く、本発明の対象とする分散染料イ
ンクを用いる乾式転写捺染法には適さない。また、疎水性樹脂は水洗除去が困難で、布帛
の風合を損なう問題があった。
【0008】
また、特許文献5には、一側面に離型層を有し、更にその外層に糊剤と粘着剤とからなるコーティング層を有する転写紙であって、該転写紙のコーティング層と布帛とを合わせて両者を1〜4kg/cm2で圧着した時の布帛への糊剤と粘着剤の転移率が98〜100%である転写紙について記載されている。該特許文献では、インク受容層として糊剤を主体とするためか、布帛への糊剤と粘着剤の転写を加熱無しの圧着のみで行うことを特徴としているが、このようなコーティング層では、実用的価値が極めて乏しい加工法になる。つまり、糊を塗布された転写用紙及びインクジェットプリントされた転写紙は、通常、巻き取られ、転写工程に移行するまでの間、一定期間保存されなければならないが、1〜4 kg/cm2程度の圧着でインク受容層が剥離するのであれば、数百メートル塗布或いはプリントされた転写用紙・転写紙を巻き取った場合、紙の裏面に転写が起こり、転写用紙・転写紙を巻き取る事は事実上不可能となる。
【0009】
更に、特許文献6には、転写紙として、(1)先ず紙の上に有機溶剤溶解性の合成樹脂か
らなる離型剤を塗布し、次いでその上に(2)親水性の樹脂を塗布し、更にその上に(3
)親水性糊剤を塗布した3層構造から成る転写用紙を用い、その上に水溶性染料をインク
ジェットプリント等で付与して乾燥した転写紙を用い、次に繊維材料とこの転写紙を密着
・加熱して転写する事により転写紙上の図柄を繊維材料表面に移行・転写させ、固着処理
することを特徴とする水溶性染料による天然繊維材料の転写捺染法が記載されている。
【0010】
しかるに、本発明の対象とする分散染料のインクは、水溶性染料のインクに比して、凝集
し易く、インクジェットのノズルの目詰まりが起き易いために、乾燥防止(保湿)剤や目
詰まり防止剤などの目的でエチレングリコール、グリセリンなど有機溶剤を多量に使用さ
れる。このために、分散染料インクの転写用紙に対する吸収性が悪く、高濃度プリントが
得られ難いという問題があった。更に該特許文献に見られる3層構造から成る転写用紙で
は、工程的に不利であり、また、いわゆる転移率が不十分であるという問題もあった。
【特許文献1】特開2005-264021号公報
【特許文献2】特公平5−36545号公報
【特許文献3】特開2004-176203号公報
【特許文献4】特公昭43−14865号公報
【特許文献5】特開平6−270596号公報
【特許文献6】特開平2006−207101号公報
【0011】
以下、本発明では転写紙に関する用語を、次の通りの意味で用いる事がある。
(1)転写用原紙:離型剤が塗布された状態の用紙又はフイルム
(2)転写用紙:インク受容層が塗布された転写用原紙
(3)転写紙:分散染料インクをプリント又は付与してなる転写用紙
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、分散染料インクをプリント又は付与した転写紙を合成繊維材料に加圧、加熱処
理することにより、転写紙から該繊維材料に染料(図柄)を転写する乾式転写捺染法に用
いる転写紙であって、ポリエステル、トリアセテート、ジアセテート、ポリアミド、ポリ
アクリル等の合成繊維材料、半合成繊維材料の織物、編物、不織布等の単独、或いは天然
繊維を含めた複合品、例えば混紡、交織及び混織品等の捺染に使用可能であり、図柄の繊
細性と再現性に優れる捺染を行うことができ、更にいわゆる無製版プリントによってクイ
ックデリバリーを可能にする乾式転写捺染用転写紙を提供することを課題とする。本発明
は、更にこの乾式転写捺染用転写紙を用い、図柄の繊細性と再現性に優れ、低コスト及び
エコロジー対応でもある乾式転写捺染法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、転写用紙に分散染料インクをプリント又は付与して転写紙を作成し、該転写紙
を、合成繊維材料に密着して加圧・加熱処理することにより転写し、次いで固着処理する
乾式転写捺染法に用いる転写紙であって、該転写用紙が、離型剤層として有機溶剤可溶性
の合成樹脂を、その上層のインク受容層として、加熱する事によって軟化或いは溶融する
親水性合成樹脂、親水性糊剤及び各種助剤との混合物を用いて積層されてなることを特徴
とする乾式転写捺染用転写紙である(請求項1)。
【0014】
また、本発明は、インク受容層を構成する親水性合成樹脂と親水性糊剤との混合割合が、
該親水性合成樹脂の100重量部に対し、該親水性糊剤が1〜50重量部であるあること
を特徴とする請求項1に記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項2)。
更にまた、本発明は、各種助剤が、PH調整剤であることを特徴とする請求項1乃至請求項
2の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項3)。
【0015】
次に、本発明は、PH調整剤が、有機酸の単独或いは有機酸又は無機酸の塩からなり、それ
自身酸性であるか、加熱によって酸性となる物質から選ばれることを特徴とする請求項3
に記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項4)。
【0016】
次にまた、本発明は、分散染料インクが、非昇華型の分散染料インクであることを特徴と
する請求項1乃至請求項4の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項5)。
また、本発明は、固着処理が、湿式固着処理(スチーム処理)であることを特徴とする請
求項1乃至請求項5何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項6)。
更に本発明は、湿式固着処理(スチーム処理)の温度範囲が、90〜180℃であること
を特徴とする請求項6に記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項7)。
【0017】
次に、本発明は、各種助剤が、PH調整剤、表面張力低下剤、増粘剤、保湿剤、箔転写用
バインダー、濃染化剤、防腐剤、防黴剤、帯電防止剤、金属イオン封鎖剤及び還元防止剤
から選択された少なくとも1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項8)。
次にまた本発明は、離型剤層として用いる有機溶剤可溶性の合成樹脂が、シリコン樹脂、
フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、
ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ステアリン酸樹脂及びポリエステル樹脂から選択され
た一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項9)。
【0018】
更に、本発明は、加熱する事によって軟化或いは溶融する親水性合成樹脂が、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ウレタン変性エーテル樹脂、水溶性ポリビニルアルコール変性樹脂、水溶性アクリル酸系樹脂及び水溶性ポリエチレンオキサイド樹脂から選択された一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項10)。
【0019】
更にまた本発明は、親水性糊剤が、天然ガム糊(エーテル化タマリンドガム、エーテル化ローカストビーンガム、エーテル化グアガム、アカシアアラビヤ系ガム等)、繊維素誘導糊(エーテル化カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、加工デンプン糊(エーテル化澱粉、エステル化澱粉)、水溶性合成糊(ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等)、海藻糊(アルギン酸ソーダ)から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙である(請求項11)。
【0020】
本発明は、転写用紙に分散染料インクをプリント又は付与して転写紙を作成し、該転写紙
を、合成繊維材料に密着して加圧・加熱処理することにより転写し、次いで固着処理する
乾式転写捺染法であって、該転写用紙が、離型剤層として有機溶剤可溶性の合成樹脂を、
その上層のインク受容層として、加熱する事によって軟化或いは溶融する親水性合成樹脂
、親水性糊剤及び各種助剤との混合物を用いて積層されてなることを特徴とする乾式転写
捺染法である(請求項12)。
【0021】
また、本発明は、インク受容層を構成する親水性合成樹脂と親水性糊剤との混合割合が、
該親水性合成樹脂の100重量部に対し、該親水性糊剤が1〜50重量部であるあること
を特徴とする請求項12に記載の乾式転写捺染法である(請求項13)。
【0022】
更にまた、本発明は、各種助剤が、PH調整剤であることを特徴とする請求項12乃至請求
項13の何れかに記載の乾式転写捺染法である(請求項14)。
次に本発明は、PH調整剤が、有機酸の単独或いは有機酸又は無機酸の塩からなり、それ自
身酸性であるか、加熱によって酸性となる物質から選ばれることを特徴とする請求項14
に記載の乾式転写捺染法である(請求項15)。
【0023】
本発明は、分散染料インクが、非昇華型の分散染料インクであることを特徴とする請求項
12乃至請求項15の何れかに記載の乾式転写捺染法である(請求項16)。
また、本発明は、固着処理が、湿式固着処理(スチーム処理)であることを特徴とする請
求項12乃至請求項16の何れかに記載の乾式転写捺染法である(請求項17)。
【0024】
更に、本発明は、湿式固着処理(スチーム処理)の温度範囲が、90〜180℃であるこ
とを特徴とする請求項17に記載の乾式転写捺染法である(請求項18)。
更にまた、本発明は、各種助剤が、PH調整剤、表面張力低下剤、増粘剤、保湿剤、箔転
写用バインダー、濃染化剤、防腐剤、帯電防止剤、金属イオン封鎖剤及び還元防止剤から
選択された少なくとも1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12乃至請求項18の何れかに記載の乾式転写捺染法である(請求項19)。
【0025】
次に本発明は、離型剤層として用いる有機溶剤可溶性の合成樹脂が、シリコン樹脂、フッ
素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリ
アミド樹脂、フェノール樹脂、ステアリン酸樹脂及びポリエステル樹脂から選択された一
種又は二種以上であることを特徴とする請求項12乃至請求項19の何れかに記載の乾式転写捺染法である(請求項20)。
【0026】
次にまた、本発明は、加熱する事によって軟化或いは溶融する親水性合成樹脂が、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ウレタン変性エーテル樹脂、水溶性ポリビニルアルコール変性樹脂、水溶性アクリル酸系樹脂及び水溶性ポリエチレンオキサイド樹脂から選択された一種又は二種以上であることを特徴とする請求項12乃至請求項20の何れかに記載の乾式転写捺染法である(請求項21)。
【0027】
本発明は、親水性糊剤が、親水性糊剤が、天然ガム糊(エーテル化タマリンドガム、エーテル化ローカストビーンガム、エーテル化グアガム、アカシアアラビヤ系ガム等)、繊維素誘導糊(エーテル化カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、加工デンプン糊(エーテル化澱粉、エステル化澱粉)、水溶性合成糊(ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等)、海藻糊(アルギン酸ソーダ)から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12乃至請求項21の何れかに記載の乾式転写捺染法である(請求項22)。
【0028】
更に本発明は、合成繊維材料が、ポリエステル、トリアセテート、ジアセテート、ポリア
ミド、ポリアクリル等の合成繊維材料、半合成繊維材料の織物、編物、不織布等の単独、
或いは天然繊維を含めた混紡、交織及び複合品から選ばれることを特徴とする請求項12
乃至請求項22の何れかに記載の乾式転写捺染法である(請求項23)。
更にまた、本発明は、請求項23に記載の乾式転写捺染法によって転写された合成繊維材
料である(請求項24)。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、いわゆる無製版プリントによってクイックデリバリーを可能とし、しか
も尖鋭で高濃度・ 高品質・高堅牢な図柄が容易に得られ、また、得られた合成繊維製品
の風合いも良く、かつ余剰糊も不要で、既設の汎用設備が使用可能である等、コスト、品
質及びエコロジー対応という極めて優れた種々の効果を奏する。また、本発明の乾式転写
捺染法によれば、低コストで小ロットにも対応でき、しかも品質の優れた転写捺染物を得
ることができる。特に複雑な捺染技術を簡素化し、工業生産的にも有利とするだけでなく
、どこでも誰でも自由に自分の好みに合った図柄を選んで、合成繊維材料に鮮明・堅牢で
風合の良いデザインをプリントできるという特有の効果を奏する。
【0030】
本発明は、従来困難視されていた繊細な捺染図柄の表現を再現性よく提供する合成繊維材
料の乾式転写捺染法であり、多くの困難を克服して確立した新技術である。例えば、転写
紙の保存安定性(転写紙の保存中にインク受容層に傷がついたり脱落・剥離しないこと)
と、生地への転写性(転写工程においてインク受容層を100%転写し、紙と布とが綺麗
に剥離できること)は矛盾関係にあるが、この矛盾関係の物性を調和両立させた技術であ
り、かつ、インクジェットプリンターで直接転写用紙にプリントできること、被転写物で
ある合成繊維材料サイドを何の前処理も必要としないこと、更に近年重要性が高まってい
る少量多品種生産や多様性のニーズに敏速で効率的に対応できる工業生産システムを構築できるだけでなく、家庭でも簡単に楽しむことができる高品質・機能性転写紙を提供できる技術であり、環境適合性と共に経済性と品質効果(尖鋭性、堅牢度、風合い等)も優れた方法であって、捺染繊維製品の品質向上、付加価値向上に大きく寄与することができる。
【0031】
本発明の利点は、インクジェットプリンターで図柄を直接転写用紙にプリントできる上に
、布帛の前処理の必要がなく、現在多用されているポリエステル繊維の乾式転写及びスチーム固着設備を利用して合成繊維の工業的乾式転写捺染が可能となり、かつ、風合、尖鋭度、堅牢性等の卓越した捺染性能を提供しうる転写紙の作製及びその転写紙を用いた乾式転写捺染法を提供できる点にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の特徴は、前述したとおり、転写用紙に分散染料インクをプリント又は付与して転
写紙を作成し、該転写紙を、合成繊維材料に密着して加圧・加熱処理することにより転写
し、次いで固着処理する乾式転写捺染法に用いる転写紙であって、該転写用紙が、離型剤
層として有機溶剤可溶性の合成樹脂を、その上層のインク受容層として、加熱する事によ
って軟化或いは溶融する親水性合成樹脂、親水性糊剤及び各種助剤との混合物(以下、該
混合物を「インク受容層ペースト」ということがある)を用いて積層されてなることを特
徴とする(請求項1)。
【0033】
即ち、離型剤として有機溶剤可溶性の合成樹脂層が塗布された転写用原紙の上に、インク
受容層として、前記インク受容層ペーストを塗布・乾燥して転写用紙を作成し、該転写用
紙に分散染料インクをプリント又は付与して転写紙を作成することを特徴とするものである。ここで、離型剤の上に塗布するインク受容層ペーストの塗布量は、通常15g/m2〜80g/m2好ましくは、20g/m2〜50g/m2である。15g/m2以下であると転写における染料の移転率が不十分となる傾向を示し、また、80g/m2以上では塗布後の乾燥が遅く、生産性が低くなり、染料固着処理後の洗浄性が悪くなるために、好ましくない。
【0034】
次に、本発明の特徴は、インク受容層ペーストを多成分で構成し、その組成を最適化する
事によって、転写用紙に分散染料インクがプリントされる際に、分散染料インクの吸収・
乾燥を容易ならしめ、デザインがボケることの無いように敏速に図柄を固定・安定化し、
かつ転写性・剥離性が良好で、布への転写率を略100%にすることができ、再現性良く
、堅牢・繊細な転写が可能な転写紙を開発した点にある。この場合、離型剤層の上に多量
の親水性糊剤が直接接触するような塗布条件では転写性が大幅に低下する。本発明者らは
、これを解決するために、インク受容層として、親水性合成樹脂と親水性糊剤との組成比
率が重要となり、具体的には該親水性合成樹脂の100重量部に対し、該親水性糊剤が1
〜50重量部、更に好ましくは5〜30重量部含有されるような範囲のインク受容層ペー
ストを用いることが好ましいことを見出した(請求項2)ものである。
【0035】
本発明において、このインク受容層ペーストを用いることの利点は、転写捺染される合成
繊維材料について前処理を必要とせず、該インク受容層ペーストを転写用原紙に塗布・乾
燥するだけで転写用紙を作成し、該転写用紙に分散染料インクをプリント又は付与して転
写紙を作成し、該転写紙を、合成繊維材料に密着して加圧・加熱処理することにより転写
し、次いで固着処理することで乾式転写捺染が完成されるものであり、いわゆる無製版プ
リントによってクイックデリバリーが可能、しかも尖鋭で高濃度・高品質・高堅牢な図柄
が容易に得られ、コスト及びエコロジー対応の全く新しい転写捺染法を確立するに至った
ものである。
【0036】
特に、本発明者らは、本発明の分散染料インクを用いる合成繊維材料の乾式転写捺染法に
おいては、上記インク受容層ペーストにPH調整剤を含むことが極めて重要であり、該PH調整剤として、有機酸の単独或いは有機酸又は無機酸の塩からなり、それ自身酸性であるか、加熱によって酸性となる物質から選ばれたいわゆる弱酸性物質を含ませることによって(請求項3、請求項4)、本発明の課題(特に染着率の向上)解決に極めて効果的であることを初めて見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0037】
本発明にいう該有機酸の単独或いは有機酸又は無機酸の塩からなり、それ自身酸性である
か、加熱によって酸性となる物質から選ばれたいわゆる弱酸性物質の具体例として、有機
酸の単独として脂肪族カルボン酸、例えば、脂肪族モノカルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピ
オン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、アクリル酸、クロトン酸などのC1-4 脂肪族モノカル
ボン酸など)、ハロゲン化脂肪族モノカルボン酸(モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリ
クロロ酢酸などのC1-4 ハロゲン化脂肪族モノカルボン酸など)、脂肪族多価カルボン酸
(マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸などの脂肪族多価カルボン酸、特にC1-
4 脂肪族多価カルボン酸など)、脂肪族ヒドロキシカルボン酸(グリコール酸、乳酸、グ
リセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン
酸、特にC1-4 脂肪族ヒドロキシカルボン酸など)、アルコキシカルボン酸(メトキシ酢
酸、エトキシ酢酸などのC1-4 アルコキシカルボン酸など)、オキソカルボン酸(アセト
酢酸などのC1-4 オキソカルボン酸など)、さらには、メタンスルフォン酸、エタンスル
ホン酸などのアルキルスルホン酸類、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メシチ
レンスルホン酸、スルフォサリチル酸、p-トルエンスルフォン酸などの芳香族スルホン
酸類、安息香酸、ケイ皮酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸類などが挙げられる。
また、該有機酸又は無機酸の塩としては、蓚酸、酒石酸、リンゴ酸又はクエン酸などの有
機酸のアンモニウム塩、或いは塩酸、硫酸、硝酸又は第一燐酸などの無機酸のアンモニウ
ム塩若しくは第一燐酸ソーダ、第一燐酸カリ又は第一燐酸リチウム塩などの無機酸のアル
カリ金属塩などが挙げられる。中でも、塩酸、硫酸又は硝酸のアンモニウム塩が特に好ま
しくは用いられる。これらの弱酸性物質の添加量は、インク受容層ペーストに対して通常
、0.1〜10%、好ましくは0.3〜5%である。
【0038】
本発明に用いられる前記インク受容層ペーストの主体となる成分は、加熱・加圧で軟化・
溶融し、離型剤層から容易に剥離して布帛に転写でき、転写・固着後に水で簡単に洗い流
し除去できる親水性合成樹脂及び親水性糊剤であり、これらのうち、親水性合成樹脂の物
性としては、次の様な条件が満たされる必要がある。
【0039】
1.溶剤型離型剤層の上に均一に接着できる事、即ちコーティング時に水はじき性がなく
、均一に塗布できる事。
2.塗布皮膜が柔軟強靭であり、転写紙及び布帛の動的な取り扱い作業中や保管中に亀裂、剥離現象を生じない事。
3.分散染料との相溶性がよく、染着を阻害しない事。
4.塗布後の乾燥が容易で、ブロッキング(タック)を生じない事及びプリントした染料
がスレによる汚染を生じない事。
5.加熱・加圧により布帛への転写性及び紙の剥離性がよいこと。
6.染料固着処理後の洗浄が容易で、繊維の風合を阻害しない事。
7.離型剤層への均一接着性を高めるために添加される表面張力低下剤とか、樹脂・糊・
プリント染料液の過乾燥防止剤との相溶性がよいこと(水はじき性、乾燥性、粘度安定性
等の調整に必要)。
これらの条件が満たされる親水性合成樹脂であれば、本発明の目的を達成できる。
なお、表面張力低下剤の効果は薬剤の種類と混合量及び水溶性の合成樹脂の種類で異なる
ため、予め最適組み合わせの確認が必要である。
【0040】
次に、前記親水性糊剤の物性としては、次の様な条件が満たされる必要がある。
1.親水性合成樹脂との相溶性が良好である事。
2.分散染料との相溶性がよく、転写後の染着を阻害しない事。
3.乾燥皮膜が柔軟強靭で、転写紙及び布帛の動的な取り扱い作業において亀裂・剥離等を生じない事。
4.染料液のインクジェットプリントに於いて速やかに糊層内部に均一に吸収保持できる
と共に、乾燥が速く、染料のこすれによる接触汚染を生じない事。
5.加熱・加圧処理で水溶性の合成樹脂と共に離型剤層から剥離し、布帛へ容易に移行で
きること。
6.染料固着処理後の洗浄で容易に除去できる事。
【0041】
更に、本発明に用いられるインク受容層ペーストには、親水性合成樹脂及び親水性糊剤以
外に各種助剤の添加が必須であり、添加・配合される各種助剤として、前記PH調整剤の他に、表面張力低下剤、増粘剤、保湿剤、箔転写用バインダー、濃染化剤、防腐剤、防黴剤、帯電防止剤、金属イオン封鎖剤及び還元防止剤から選択された1種又は2種以上が挙げられる。
【0042】
ここで、表面張力低下剤としては、脂肪酸類、アルコール類、アルデヒド類、エーテル類
、エステル類、アミン類、テンペル等が有効で、具体的には、例えばノニオン及びアニオ
ン系界面活性剤、メタノール、エタノール、エチルエーテル、トリエタノールアミン、ジ
エタノールアミン、アセトン、クロロホルム、ジエチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウ
ム、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。具体的な商品名として
メイサノールTR(アニオン系活性剤:明成化学工業社製)、イオネット300(ノニオ
ン系活性剤:三洋化成工業社製)、プラスコートRY-2(フッ素系10%液:互応化学
工業社製)などが挙げられ、上記化学薬品を含めて、インク受容層ペーストに対して0.
1〜5%添加される。これらは、インク受容層ペースト塗布時の水はじき防止剤として効
果的である。
【0043】
増粘剤としては、アクリル系合成糊が効果的で、具体的な商品名として増粘剤−F(アニ
オン系:(株)佐野社製)、ハイプリントLN−11R(アニオン系:林化学工業社製)
、ダイシプリントST(京都製糊社製)などが挙げられ、インク受容層ペーストに対して
0.1〜3%用いる事ができる。
保湿剤としては、具体的にはポリエチレングリコール(MW200〜600)、グリセリ
ン等が挙げられ、インク受容層ペーストに対して1〜5%用いる事ができる。
【0044】
箔転写用バインダーとしては、具体的にはナイロンパウダー、アクリル系樹脂等をベース
に構成されたものが挙げられ、これらは親水性合成樹脂の転写促進の為に効果的である。
【0045】
濃染化剤としては、具体的には、メイプリンターPE-11(ノニオン系活性剤:明成化
学工業社製)、IPサーモスM−10A(多価アルコール系:一方社油脂工業社製)、ハ
イアクセラーPE-71(ノニオン系活性剤:センカ社製)などが挙げられ、染着率を更
に向上させるために添加される。
【0046】
防腐剤、防黴剤としては、具体的にはネオシントールLB(防腐剤:シントファイン社製
)、ネオシントールTF−1(防黴剤:シントファイン社製)、アモルデンFS−100
(防腐・防黴剤:有機窒素硫黄化合物:大和化学工業社製)、プロテクトールN(防腐・
防黴剤:パラクロロメタクレゾール系:岡本染料店社製)などが挙げられ、インク受容層
ペーストの粘度安定性保持(防腐剤)、塗布したインク受容層の貯蔵中における防黴を目
的に使用される。
還元防止剤としては、具体的には塩素酸ソーダやメタニトロベンゼンスルホン酸ソーダが
挙げられ、これらは転写布帛のスチーム処理における染着安定性向上の為に用いられる。
【0047】
本発明で用いられる転写用原紙又はフィルムは、クラフトパルプ又はグラインドパルプ等
のパルプ或いはリサイクル紙を原料として抄紙されたパルプ紙、再生紙或いは耐熱性の合
成樹脂フイルム、例えばポリエステルフィルム等が用いられる。作業性から重量は10〜
150g/m2、厚さは0.01〜0.5mm程度が好ましい。
【0048】
かかる転写用原紙又はフィルムに有機溶剤可溶性の合成樹脂、具体的には、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ステアリン酸樹脂及びポリエステル樹脂等を有機溶剤、例えば酢酸エチル、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等で溶解し、有機溶剤ワニスとして塗布乾燥して離型剤層を形成させる。離型剤層の厚みは10〜30μm程度が好ましい。これらの転写用原紙としては、例えば市販のポリエチレンラミネートクラフト紙を用いる事も可能である。なお、離型剤と同じ組成のフィルムの場合は、離型剤の塗布を省略してそのまま使用できる利点がある。
【0049】
この転写用原紙の上に、インク受容層として、熱で軟化・溶融する親水性合成樹脂、具体的には、水溶性ポリエステル樹脂(例えば、プラスコートZ-850、プラスコートZ-221及びプラスコートZ-730:以上、何れも互応化学工業社製、)、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ウレタン変性エーテル樹脂(例えば、HAレジンPE-1B:明成化学工業社製)、水溶性ポリビニルアルコール変性樹脂(ホットメルト樹脂、エクセバール系樹脂、HPポリマー(クラレ社製)など)、水溶性アクリル酸系樹脂(例えば、バインダー812-A-1:(株)佐野社製、アクリセット系樹脂:日本触媒社製)及び水溶性ポリエチレンオキサイド樹脂(例えば、アルコックスE−30:明成化学工業社製)から選択された一種又は二種以上と、親水性糊剤の内、分散染料の繊維への染着を阻害しない親水性増粘物質例えば、天然ガム糊(エーテル化タマリンドガム、エーテル化ローカストビーンガム、エーテル化グアガム、アカシアアラビヤ系ガム等)、繊維素誘導糊(エーテル化カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、加工デンプン糊(エーテル化澱粉、エステル化澱粉)、水溶性合成糊(ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等)、海藻糊(アルギン酸ソーダ)から選択された1種又は2種以上を主体として含むインク受容層ペーストを厚さ10〜60μm程度塗布する。なお、該親水性糊剤には、染料インクのインク受容層への吸収を促進させ、表面の乾燥性を高める等の目的で、更に鉱物性糊(具体的には、シリカ、珪藻土、クレー、タルク、ベントナイト、酸性白土等)等を加えることもできる。
【0050】
本発明において、塗布するインク受容層の厚さは、樹脂が軟化・溶融して布へ転写する際
の難易度及び分散染料固着処理後の洗浄除去性に関わってくるため、インク受容層ペース
トをコーティング機で塗布する場合は、付着量の管理が重要である。
また、親水性の合成樹脂の種類によっては、塗布時に水はじき現象を生じ離型剤との均一
接着が困難になる場合がある。水はじきの現象は、糊剤の種類と糊固形分含有量、表面張
力低下剤の種類と添加量(アニオン系、ノニオン系界面活性剤、アルコール類等)等で異
なるため、処方条件によって個々に調整する必要がある。また、コーティング時のインク
受容層ペーストの粘度の増加にはアクリル酸系合成糊を0.5〜3%等を任意に用いる事
ができる。
【0051】
本発明のインクジェットプリント等に使用される分散染料インクは、市販の分散染料イン
クをそのまま用いるか、或いは特開平11-256084号公報、特開2003-2469
54号公報の記載に従って、市販の分散染料パウダー、リキッド或いはコンクケーキ、プ
レスケーキ等色素原体を原料として用い、分散剤と共にサンドミルなどで1.0μ〜0.
1μ程度に微粒化、分散化したあと、微量の不純物を濾過して除いたインク原液を作製す
る。このインク原液には、ノズルの目詰まり防止対策として、保湿剤、乾燥防止剤、例え
ば尿素、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、エチレングリコ
ール等と必要に応じて表面張力調整剤、消泡・脱気剤、粘度調整剤、PH調整剤、防黴剤
、金属イオン封鎖剤等を添加・混合して、微量の不溶物を孔径1〜2μmのメンブレンフ
ィルターでろ過したあと脱気したものが使用される。
【0052】
具体的には、例えば、C.I.Disperse Yellow 114 の色素分を15
%、分散剤としてデモールC(特殊芳香族スルホン酸塩のホルマリン縮合物:花王社製)
15%、水70%からなる混合物を、粒径0.3mmのジルコニウムビーズを用いて、染
料の粒径が0.3μmになるように常法によって微粒化する。ついで、ビーズを分離した
分散液30%、グリセリン10%、尿素2%、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン
(表面張力調整剤)2%、残りは水で調製して100%とし、PHを7±0.5に調整した
あと、1μmのメンブレンフィルターで濾過して、分散染料インクを得る。
【0053】
なお、例えば、特開2005-264021号公報に記載のインクの調製法の場合は、布
帛へ直接プリントするインクであるので、転写用紙へプリントする本発明の場合とは配合
組成が若干異なっている。即ち、転写用紙にプリントする場合は、インクは速乾性である
必要があるが、布へ直接プリントする場合は、インクが布内部へ浸透する(これはにじみ
の原因でもある)ので、やや遅乾性のインクでもよく、エチレングリコール、グリセリン
等の水溶性の有機溶剤が多量に配合されている。
【0054】
本発明の乾式転写捺染法は、昇華転写方式ではないので、分散染料の種類としては昇華型
である必要は無い。むしろ昇華型分散染料は昇華堅牢度が低いので好ましくない。つまり
、非昇華型の高堅牢タイプの分散染料を用いることができるのが本発明の特徴でもある。
よって、本発明においては、従来の昇華転写用染料としてはB又はCクラスまたはそれ以
下の非昇華型の分散染料が好ましく用いられる。
【0055】
本発明に好適に用いられる非昇華型の高堅牢タイプの分散染料としては、具体的には C
.I.Disperse Yellow 114 (Kiwalon Polyester
Yellow 6GF)、 C.I.Disperse Yellow 126 (同
Yellow 6GRF)、 C.I.Disperse Yellow 79 (同 Y
ellow GLS)、 C.I.Disperse Yellow 163 (同 Ye
llow BRF)、C.I.Disperse Orange 73 (同 Orang
e RF)、C.I.Disperse Orange 62 (同 Y.Brown RF
L) 、C.I.Disperse Orange 30 (同 Y.Brown 2RF)
、C.I.Disperse Orange 61 (同 Y.Brown 3RF) 、C
.I.Disperse Red 202 (Foron Brill.Red S−RG
L)、C.I.Disperse Red 153 (Kiwalon Polyeste
r Scarlet D−GS)、C.I.Disperse Red 152 (同 R
ed D−BS)、C.I.Disperse Red 167:1(同 Rubine 2
GF)、C.I.Disperse Red 145 (同 Rubine D-3BF)、C
.I.Disperse Red 179 (同 Rubine 2BF)、C.I.Dis
perse Violet 77(同 Violet 4RF)、C.I.Dispers
e Violet 63(同 Violet 3RF)、C.I.Disperse Blu
e 257 (Sumikaron Blue S−3RF)、Kiwalon Poly
ester Blue KBSF、C.I.Disperse Blue 165 (Kiw
alon Polyester Blue 2BFL)、C.I.Disperse Blu
e 165:1 (同 Blue BGFL)、C.I.Disperse Blue 73
(同 Blue BGF)、C.I.Disperse Blue 149 (同 Blue D
−5G)、C.I.Disperse Blue 60 (同 T.Blue BG)、Kiw
alon Polyester T.Blue BG−LN、C.I.Disperse B
lue 79 (同 Navy 2GF)、Kiwalon Polyester Nav
y R−80 Liquid、Kiwalon Polyester Black KG
SF Liquid、Kiwalon Polyester Black T−62 L
iquid などが挙げられる。ここで、非昇華型の高堅牢タイプの分散染料とは、標準
染色濃度(JIS L-0802)1/1濃度において、昇華堅牢度試験(JIS L-0879 1968)
のPET白布汚染が汚染用グレースケール判定で3−4級又はそれ以上の堅牢度を有する分
散染料をいう。
【0056】
本発明方法はハイテク技術のインクジェットプリント機を使用する事をメインに記載してあるが、インクの溶媒、粘度、表面張力等を調整する事によって、機械捺染、手捺染、手描き、グラビア印刷等あらゆる手段で図柄或いは色彩を付与できる事は言うまでもない。
【0057】
前述した様にして得られた転写用紙、即ち、原紙−離型剤層−インク受容剤層で構成され
た転写用紙に、分散染料インク或いは液状品をインクジェットプリント或いはその他の方
法によって図柄をプリント・付与、乾燥して、転写紙を作製する。次いで該転写紙と、合
成繊維布を合わせ、加熱・加圧によって布に図柄を転写した。この場合の加熱温度は、通
常100℃から170℃、好ましくは110℃〜160℃である。また、加圧の程度は、
1〜5kg/cm2好ましくは1.5〜3kg/cm2である。かくして、転写紙から布への
染料の移転率は100%がベストであり、本発明によれば容易に染料の移転率を100%
にすることができる。
【0058】
最後に、染料の固着熱処理を行い、染料を布に染着させ、洗浄(素材により還元洗浄、或
いはソーピング)によってインク受容層として用いた親水性合成樹脂と親水性糊剤を除去
し、繊維の風合が良好なプリント生地或いはプリント製品を得る。
【0059】
転写後の分散染料の繊維への固着は、通常の分散染料の染色法で採用されている固着条件
がそのまま採用できるが、本発明者らは、本発明の分散染料による乾式転写捺染法におい
ては、特に湿式固着処理(スチーム処理)が、染着力、繊細性などにおいて優れているこ
とを見出した。また、本発明の該湿式固着処理(スチーム処理)の好ましい温度範囲は9
0〜180℃である。
【0060】
具体的には、本発明の湿式固着処理(スチーム処理)は、例えば、常圧スチーミング法で
は100℃、30分の湿熱処理、HTスチーミング法では、150〜180℃、5〜10
分間の湿熱処理、HPスチーミング法では、120〜135℃、20〜40分間の湿熱処
理によって染料の繊維への固着を行う。
【0061】
染料の固着処理後は洗浄(素材により還元洗浄、或いはソーピング等)でインク受容層に
用いた合成樹脂や糊剤及び未固着の染料等を除去し、繊維の風合が良好で鮮明な捺染物を
得る事ができる。
【0062】
本発明の乾式転写捺染法に適用される合成繊維材料としては、分散染料で染着可能なもの
、例えば、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアルキレンテレフ
タレート、乳酸ポリエステル等)、トリアセテート、ジアセテート、ポリアミド、ポリア
クリル等の合成繊維材料、半合成繊維材料の織物、編物、不織布等の単独、或いは天然繊
維を含めた混紡、交織、複合系繊維等を挙げる事ができる。
【0063】
この場合、必要に応じて布帛には染料の染着向上に有益な薬剤或いは染着促進に効果のあ
る薬剤などで前処理したのち転写に用いても差支えないが、本発明はインク受容層を多成
分で構成し、最適化する事によって、布帛の前処理その他余分な工程を無くしてコスト競
争力を高めたことが特徴の一つである。
【0064】
本発明の乾式転写捺染法では転写用原紙に塗布されたインク受容層が100%転写されるので、転写済みの紙は、転写用原紙としてリサイクル使用が可能である。また、親水性糊剤の付着量が通常の捺染に比べて遥かに少ない事から、転写生地の洗浄水の廃水負荷も小さい事を合わせ考えると、本発明方法は環境に優しいエコ・フレンドリー加工法であると言っても差支えない。
【0065】
本発明者等は粘り強い研究・実験を繰り返し、転写性、転写紙安定性、プリントデザイン
の鮮鋭性、染着力、洗浄性、繊維の風合、堅牢度などの多くの難題を、インク受容剤組成
に含まれる各種薬剤の選定・最適化と合わせ、成分の構成バランスを整える事で解決法を
見出したものであり、その結果、布の前処理を省略でき、非昇華・堅牢型分散染料を用い
た転写捺染法を開発した。この方法は、従来知られていなかった新規な方法であり、工業
的に有利であるだけでなく、一般家庭での利用も可能な、実用性の高い、たぐい稀なる新
規技術である。
【実施例】
【0066】
以下実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制約さ
れるものではない。なお、例中、%は重量%を意味する。
【0067】
実施例1
転写用パルプ紙(重量90g/m2、厚さ0.2mm)に離型剤層として有機溶剤ワニス(
フェノール樹脂30%、エチルセルロース3%、炭酸カルシューム10%、クレー10%
、酢酸エチル47%)をコーティング機により塗布・乾燥後、140℃・3分間のキュア
リングを施した。離型剤層の厚みは30μmであった。
【0068】
次いでインク受容層として、プラスコートZ-850(水溶性ポリエステル樹脂25%分
散液:互応化学工業社製)60%、FDアルギンBL(アルギン酸ソーダ低粘度品:古川
化学社製)10%ペースト10%、ソルビトーゼC-5(エーテル化澱粉:AVEBE社
製)10%ペースト20%、増粘剤−F(アクリル系合成糊:(株)佐野社製)1%、硫
酸アンモニウム0.5%、塩素酸ソーダ0.5%、ヘキサメタ燐酸ソーダ0.2%、ネオ
シントールLB(防腐剤:シントファイン社製)0.1%、ネオシントールTF−1(防
黴剤:シントファイン社製)0.1%、メイサノールTR(アニオン系活性剤:明成化学
工業社製)1.5%、残量を水で合計100%としたインク受容層ペーストをコーティン
グ機にて塗布・乾燥した。このインク受容層ペーストの塗布量は30g/m2であった。こ
の様にして分散染料用の乾式転写用紙を得た。
【0069】
次いで分散染料インク液(C.I.Disperse Blue 257,色素分5%、エチ
レングリコール2%、グリセリン10%、デモールC5%、表面張力調整剤2%、尿素3
%、水73%含有)を上記転写用紙上にインクジェットプリンター(HYPERECO:
武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェット方式)によって図柄をプリントし、
乾燥して、分散染料の乾式転写紙を得た。なお、ここに用いた分散染料は、高温染色に於
ける JIS-L-0802(標準染色濃度1/1)で昇華堅牢度4〜5級の非昇華型であ
る。(以下、同じ)
【0070】
次いで該転写紙と、ポリエステル布を合わせ、加熱・加圧(130℃・5秒、2kg/c
2)によりポリエステル布に図柄を転写した。転写紙から布への染料の移転率は100
%であった。次いで該ポリエステル布にHTスチーム固着処理(170℃・10分間)を
行い、水洗、還元洗浄(80℃・10分間:38度Be’苛性ソーダ2g、ハイドロサル
ファイトコンク2g、ノニオン系活性剤1g/L含有液)、水洗・乾燥後、寸法を整える
ためヒートセット(160℃・2分)を施して仕上げた。この様にして得られた転写布は
、繊細かつ鮮明なデザインが表現されており、風合いも柔軟で、市場で要求される昇華・
洗濯・汗などの堅牢度も良好であった。尚、本実施例においてインク受容層ペーストに対
して、ナイロンパウダーを主成分とする箔転写用バインダー糊を15%加えると、転写時
間が約1/4に短縮された。
【0071】
実施例2
転写用パルプ紙(重量90g/m2、厚味0.2mm)に離型剤層として実施例1で用いた
有機溶剤ワニスを用いて同様に処理した後、インク受容層としてHAレジンPE-1B(
水溶性ウレタン変性エーテル型樹脂25%粘調液:明成化学工業社製)55%、クレー粉
末(粒径0.6μm)10%、メイプロガムNP−5−D(グアガムの加水分解物:(株
)三晶社製)10%ペースト25%、塩化アンモニウム1%、レジスターL(メタニトロ
ベンゼンスルホン酸系還元防止剤:センカ社製)2%、テトロン210(EDTAの2ナ
トリウム塩:明成化学工業社製)0.3%、ネオシントールLB(防腐剤:シントファイ
ン社製)0.1%、プラスコートRY-2(フッ素系10%液:互応化学工業社製)1%
、残量を水で合計100%のインク受容層ペーストを、コーティング機にて塗布・乾燥し
た。このインク受容層ペーストの塗布量は38g/m2であった。この様にして分散染料用
の乾式転写用紙を得た。
【0072】
次いで分散染料インク(C.I.Disperse Red 202,色素分7%、エチレ
ングリコール5%、グリセリン5%、デモールC7%、表面張力調整剤2%、尿素2%、
水72%含有)を上記転写用紙上にインクジェットプリンター(HYPERECO:武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェット方式)によって図柄をプリントし、乾燥して、分散染料の乾式転写紙を得た。なお、ここに用いた分散染料の昇華牢度は、5級の非昇華型である。
【0073】
次いで該転写紙と、ポリエステル布を合わせ、加熱・加圧(130℃・5秒、2kg/c
2)によりポリエステル布に図柄を転写した。転写紙から布への染料の移転率は100
%であった。次いで該ポリエステル布にHTスチーム固着処理(130℃・30分間)を
行い、水洗、還元洗浄(80℃・10分間:38度Be’苛性ソーダ2g、スーパーリダ
ック16(還元剤:センカ社製)4g、ノニオン系活性剤1g/L含有液)、水洗・乾燥
後、寸法を整えるためヒートセット(170℃・20秒)を施して仕上げた。この様にし
て得た転写布は実施例1と同様に印刷調でない繊細なデザインと均捺性および適度な浸透性を有しており、繊維の風合は柔軟で、耐光・昇華・洗濯・汗等の各種堅牢度にも優れるものであった。
【0074】
本実施例において、分散染料インクとして非昇華型である前記イエロー、レッド、ブルー
の3原色、例えばC.I.Disperse Yellow 114 (Kiwalon
Polyester Yellow 6GF)、C.I.Disperse Red 20
2 (Foron Brill.Red S−RGL)及びC.I.Disperse B
lue 257 (Sumikaron Blue S−3RF)とブラック(Kiwal
on Polyester Black KGSF Liquid )を揃えて用い、前
記インクジェットプリンターでプリントすると、パソコンでデザインした図柄および色調
が、転写−固着した布上に正確に精度よくフルカラーで表現されており、かつ加工の再現
性にも優れるものであった。
【0075】
実施例3
ポリエチレン離型剤塗布クラフト紙(重量75g/m2:三菱製紙社製)に、インク受容層
として、アルコックスE−30(ポリエチレンオキサイド系水溶性樹脂粉末:明成化学工
業社製)10%、バインダーTGF−218(ナイロンパウダー含有箔バインダーペース
ト:(株)松井色素研究所社製)5%、キプロガムPL−V(タマリンド系ガム:日澱化
学社製)10%ペースト25%、二酸化珪素パウダー1%、硫酸アンモニウム0.5%、
MSパウダー(メタニトロベンゼンスルホン酸系還元防止剤:明成化学工業社製)2%、
ヘキサメタ燐酸ソーダ0.3%、ネオシントールLB(防腐剤:シントファイン社製)0
.1%、ネオシントールTF−1(防黴剤:シントファイン社製)0.1%、プラスコー
トRY−2(フッ素系表面張力低下剤10%液:互応化学工業社製)1.5%、残量を水
で合計100%としたインク受容層ペーストをコーティング機にて塗布・乾燥した。この
インク受容層ペーストの塗布量は30g/m2であった。この様にして分散染料用の乾式転
写用紙を得た。
【0076】
次いで分散染料インク液(C.I.Disperse Blue 257,色素分6%、ジエ
チレングリコール2%、グリセリン8%、デモールC6%、表面張力調整剤2%、尿素2
%、水74%含有)を上記転写用紙上にインクジェットプリンター(HYPERECO:
武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェット方式)によって図柄をプリントし、
乾燥して、分散染料の乾式転写紙を得た。次いで該転写紙と、ポリエステル布を合わせ、
加熱・加圧(140℃・3秒、2kg/cm2)によりポリエステル布に図柄を転写した。
転写紙から布への染料の移転率は100%であった。
【0077】
次いで該ポリエステル布にHTスチーム固着処理(130℃・30分間)を行い、水洗、
還元洗浄(80℃・10分間:38度Be’苛性ソーダ1g、ハイドロサルファイトコン
ク1g、ノニオン系活性剤1g/L含有液)、水洗・乾燥後、寸法を整えるためヒートセ
ット(160℃・90秒)を施して仕上げた。この様にして得られた転写布は、鮮明・濃
厚な色調と繊細なデザインが表現されており、風合いも柔軟で、優れるものであった。
【0078】
実施例4
転写用パルプ紙(重量90g/m2、厚味0.2mm)に、離型剤層として実施例1で用い
た有機溶剤ワニスを用いて同様に処理した後、インク受容層としてプラスコートZ-22
1(水溶性ポリエステル樹脂20%分散液:互応化学工業社製)60%、サンプリントT
ME(グアガムの加水分解物:(株)三晶社製)6%、塩化アンモニウム1%、塩素酸ソ
ーダ0.5%、ヘキサメタ燐酸ソーダ0.2%、FAS−300(防腐剤:(株)佐野社
製)0.2%、メイサノールTR(アニオン系活性剤:明成化学工業社製)1%、残量を
水で合計100%のインク受容層ペーストを、コーティング機にて塗布・乾燥した。この
インク受容層ペーストの塗布量は30g/m2であった。この様にして分散染料用の乾式転
写用紙を得た。
【0079】
次いで分散染料インクとして市販品(KIWA・JET−E TEXTILE MAGE
NTA(紀和化学工業社製)を用いて、上記転写用紙上にインクジェットプリンター(E
PSON PM−770C型)によって図柄をプリントし、乾燥して、分散染料の乾式転
写紙を得た。
次いで該転写紙と、ポリエステル布を合わせ、加熱・加圧(130℃・5秒、2kg/c
2)によりポリエステル布に図柄を転写した。転写紙から布への染料の移転率は100
%であった。
【0080】
次いで該ポリエステル布にHTスチーム固着処理(170℃・8分)を行い、水洗、ソー
ピング(80℃・5分:アニオン系活性剤1g/L及びソーダ灰3g/Lの含有液)、水洗して仕上げた。この様にして得られたポリエステルの転写布は、鮮明・濃厚な色調と繊細なデザインが表現されており、風合いも柔軟であった。
【0081】
実施例5
ポリエチレン離型剤塗布クラフト紙(重量75g/m2:三菱製紙社製)に、インク受容層
として、プラスコートZ-730(水溶性ポリエステル樹脂25%分散液:互応化学工業社製)30%、HAレジンPE-1B(水溶性ウレタン変性エーテル型樹脂25%粘調液:
明成化学工業社製)30%、セルベスガム4450(エーテル化CMC:ダイセル化学工
業社製)7%ペースト15%、フジヘックBL−15(ヒドロキシエチルセルローズ:フ
ジケミカル社製)10%ペースト15%、硫酸アンモニウム0.5%、塩素酸ソーダ0.
5%、ヘキサメタ燐酸ソーダ0.2%、ネオシントールLB(防腐剤:シントファイン社
製)0.1%、ネオシントールTF−1(防黴剤:シントファイン社製)0.1%、メイ
サノールTR(アニオン系活性剤:明成化学工業社製)1.5%、残量を水で合計100
%としたインク受容層ペーストをコーティング機にて塗布・乾燥した。この塗布量は25
g/m2であった。この様にして分散染料用の乾式転写用紙を得た。
【0082】
次いで分散染料インク液(C.I.Disperse Yellow 114,色素分8%
、エチレングリコール3%、グリセリン8%、デモールC7%、表面張力調整剤2%、尿
素2%、水70%含有)を上記転写用紙上にインクジェットプリンター(HYPEREC
O:武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェット方式)によって図柄をプリント
し、乾燥して、分散染料の乾式転写紙を得た。ここに用いた分散染料の昇華堅牢度は、5
級の非昇華型である。次いで該転写紙と、ポリエステル/トリアセテート(70/30)
の複合素材布を合わせ、加熱・加圧(140℃・3秒、2kg/cm2)によりを該複合素
材布に図柄を転写した。転写紙から該複合素材布への染料の移転率は100%であった。
【0083】
次いで該複合素材布にHTスチーム固着処理(170℃・10分間)を行い、水洗、還元
洗浄(80℃・10分間:ソーダ灰2g、ハイドロサルファイトコンク1g、ノニオン系
活性剤1g/L含有液)、水洗・乾燥後、寸法を整えるためヒートセット(160℃・2
分)を施して仕上げた。この様にして得られた複合素材転写布は、鮮明・濃厚な色調と繊
細なデザインが表現されており、風合いも柔軟であった。
【0084】
実施例6
転写用パルプ紙(重量90g/m2、厚味0.2mm)に離型剤層として実施例1で用いた
有機溶剤ワニスを用いて同様に処理した後、インク受容層としてプラスコートZ-850
(水溶性ポリエステル樹脂25%分散液:互応化学工業社製)55%、HASバインディ
TG−30(タマリンドガム:シキボー社製)10%ペースト15%、ソルビトーゼC-
5(エーテル化澱粉:AVEBE社製)10%ペースト10%、塩化アンモニウム1%、
MSパウダー(メタニトロベンゼンスルホン酸系還元防止剤:明成化学工業社製)2%、
、ヘキサメタ燐酸ソーダ0.2%、ネオシントールLB(防腐剤:シントファイン社製)
0.1%、ネオシントールTF−1(防黴剤:シントファイン社製)1%、プラスコート
RY−2(フッ素系表面張力低下剤10%液:互応化学工業社製)1%、残量を水で合計
100%としたインク受容層ペーストをコーティング機にて塗布・乾燥した。このインク
受容層ペーストの塗布量は35g/m2であった。この様にして分散染料用の乾式転写用紙
を得た。
【0085】
次いで分散染料インク(実施例2で用いたインク)を上記転写用紙上にインクジェットプ
リンター(HYPERECO:武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェット方式
)によって図柄をプリントし、乾燥して、分散染料の乾式転写紙を得た。次いで該転写紙
と、ポリエステル布を合わせ、加熱・加圧(140℃・4秒、2kg/cm2)によりポリ
エステル布に図柄を転写した。転写紙から布への染料の移転率は100%であった。
【0086】
次いで該ポリエステル布にHTスチーム固着処理(175℃・8分間)を行い、水洗、還
元洗浄(80℃・10分間:38度Be’苛性ソーダ2g、ハイドロサルファイトコンク
2g、ノニオン系活性剤1g/L含有液)、水洗・乾燥後、寸法を整えるためヒートセッ
ト(160℃・2分)を施して仕上げた。この様にして得られた転写布は、鮮明・濃厚な
色調と繊細なデザインが表現されており、風合いも柔軟であった。
【0087】
実施例7
ポリエチレン離型剤塗布クラフト紙(重量75g/m2:三菱製紙社製)に、インク受容層
として、プラスコートZ-730(水溶性ポリエステル樹脂25%分散液:互応化学工業社製)40%、バインダー812-A-1(水溶性アクリル酸系樹脂50%分散液:(株)佐野社製)20%、セルベスガム4450(エーテル化CMC:ダイセル化学工業社製)7%ペースト15%、フジヘックBL−15(ヒドロキシエチルセルローズ:フジケミカル社製)10%ペースト15%、硫酸アンモニウム0.5%、塩素酸ソーダ0.5%、ヘキサメタ燐酸ソーダ0.2%、ネオシントールLB(防腐剤:シントファイン社製)0.1%、ネオシントールTF−1(防黴剤:シントファイン社製)0.1%、メイサノールTR(アニオン系活性剤:明成化学工業社製)1.5%、残量を水で合計100%としたインク受容層ペーストをコーティング機にて塗布・乾燥した。この塗布量は35g/m2であった。この様にして分散染料用の乾式転写用紙を得た。
【0088】
次いで分散染料インク液(C.I.Disperse Yellow 114,色素分8%
、エチレングリコール3%、グリセリン8%、デモールC7%、表面張力調整剤2%、尿
素2%、水70%含有)を上記転写用紙上にインクジェットプリンター(HYPEREC
O:武藤工業社製:オンデマンド型ピエゾインクジェット方式)によって図柄をプリント
し、乾燥して、分散染料の乾式転写紙を得た。ここに用いた分散染料の昇華堅牢度は、5
級の非昇華型である。次いで該転写紙と、ポリエステル/トリアセテート(70/30)
の複合素材布を合わせ、加熱・加圧(140℃・3秒、2kg/cm2)によりを該複合素
材布に図柄を転写した。転写紙から該複合素材布への染料の移転率は100%であった。
【0089】
次いで該複合素材布にHTスチーム固着処理(170℃・10分間)を行い、水洗、還元
洗浄(80℃・10分間:ソーダ灰2g、ハイドロサルファイトコンク1g、ノニオン系
活性剤1g/L含有液)、水洗・乾燥後、寸法を整えるためヒートセット(160℃・2
分)を施して仕上げた。この様にして得られた複合素材転写布は、鮮明・濃厚な色調と繊
細なデザインが表現されており、風合いも柔軟であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写用紙に分散染料インクをプリント又は付与して転写紙を作成し、該転写紙を、合成繊
維材料に密着して加圧・加熱処理することにより転写し、次いで固着処理する乾式転写捺
染法に用いる転写紙であって、該転写用紙が、離型剤層として有機溶剤可溶性の合成樹脂
を、その上層のインク受容層として、加熱する事によって軟化或いは溶融する親水性合成
樹脂、親水性糊剤及び各種助剤との混合物を用いて積層されてなることを特徴とする乾式
転写捺染用転写紙。
【請求項2】
インク受容層を構成する親水性合成樹脂と親水性糊剤との混合割合が、該親水性合成樹脂
の100重量部に対し、該親水性糊剤が1〜50重量部であるあることを特徴とする請求
項1に記載の乾式転写捺染用転写紙。
【請求項3】
各種助剤が、PH調整剤であることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載の乾
式転写捺染用転写紙。
【請求項4】
PH調整剤が、有機酸の単独或いは有機酸又は無機酸の塩からなり、それ自身酸性であるか
、加熱によって酸性となる物質から選ばれることを特徴とする請求項3に記載の乾式転写
捺染用転写紙。
【請求項5】
分散染料インクが、非昇華型の分散染料インクであることを特徴とする請求項1乃至請求
項4の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙。
【請求項6】
固着処理が、湿式固着処理(スチーム処理)であることを特徴とする請求項1乃至請求項
5の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙。
【請求項7】
湿式固着処理(スチーム処理)の温度範囲が、90〜180℃であることを特徴とする請
求項6に記載の乾式転写捺染用転写紙。
【請求項8】
各種助剤が、PH調整剤、表面張力低下剤、増粘剤、保湿剤、箔転写用バインダー、濃染
化剤、防腐剤、防黴剤、帯電防止剤、金属イオン封鎖剤及び還元防止剤から選択された少
なくとも1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙。
【請求項9】
離型剤層として用いる有機溶剤可溶性の合成樹脂が、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリプ
ロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド樹脂、フ
ェノール樹脂、ステアリン酸樹脂及びポリエステル樹脂から選択された一種又は二種以上
であることを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙。
【請求項10】
加熱する事によって軟化或いは溶融する親水性合成樹脂が、水溶性ポリエステル樹脂、水
溶性ウレタン樹脂、水溶性ウレタン変性エーテル樹脂、水溶性ポリビニルアルコール変性樹脂、水溶性アクリル酸系樹脂及び水溶性ポリエチレンオキサイド樹脂から選択された一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙。
【請求項11】
親水性糊剤が、天然ガム糊(エーテル化タマリンドガム、エーテル化ローカストビーンガ
ム、エーテル化グアガム、アカシアアラビヤ系ガム等)、繊維素誘導糊(エーテル化カル
ボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、加工デンプン糊(エーテル
化澱粉、エステル化澱粉)、水溶性合成糊(ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等)、海藻糊(アルギン酸ソーダ)から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れかに記載の乾式転写捺染用転写紙。
【請求項12】
転写用紙に分散染料インクをプリント又は付与して転写紙を作成し、該転写紙を、合成繊
維材料に密着して加圧・加熱処理することにより転写し、次いで固着処理する乾式転写捺
染法であって、該転写用紙が、離型剤層として有機溶剤可溶性の合成樹脂を、その上層の
インク受容層として、加熱する事によって軟化或いは溶融する親水性合成樹脂、親水性糊
剤及び各種助剤との混合物を用いて積層されてなることを特徴とする乾式転写捺染法。
【請求項13】
インク受容層を構成する親水性合成樹脂と親水性糊剤との混合割合が、該親水性合成樹脂
の100重量部に対し、該親水性糊剤が1〜50重量部であるあることを特徴とする請求
項12に記載の乾式転写捺染法。
【請求項14】
各種助剤が、PH調整剤であることを特徴とする請求項12乃至請求項13の何れかに記載
の乾式転写捺染法。
【請求項15】
PH調整剤が、有機酸の単独或いは有機酸又は無機酸の塩からなり、それ自身酸性であるか
、加熱によって酸性となる物質から選ばれることを特徴とする請求項14に記載の乾式転
写捺染法。
【請求項16】
分散染料インクが、非昇華型の分散染料インクであることを特徴とする請求項12乃至請
求項15の何れかに記載の乾式転写捺染法。
【請求項17】
固着処理が、湿式固着処理(スチーム処理)であることを特徴とする請求項12乃至請求
項16の何れかに記載の乾式転写捺染法。
【請求項18】
湿式固着処理(スチーム処理)の温度範囲が、90〜180℃であることを特徴とする請
求項17に記載の乾式転写捺染法。
【請求項19】
各種助剤が、PH調整剤、表面張力低下剤、増粘剤、保湿剤、箔転写用バインダー、濃染
化剤、防腐剤、帯電防止剤、金属イオン封鎖剤及び還元防止剤から選択された少なくとも
1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12乃至請求項18の何れかに記載の乾式転写捺染法。
【請求項20】
離型剤層として用いる有機溶剤可溶性の合成樹脂が、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリプ
ロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド樹脂、フ
ェノール樹脂、ステアリン酸樹脂及びポリエステル樹脂から選択された一種又は二種以上
であることを特徴とする請求項12乃至請求項19の何れかに記載の乾式転写捺染法。
【請求項21】
加熱する事によって軟化或いは溶融する親水性合成樹脂が、水溶性ポリエステル樹脂、水
溶性ウレタン樹脂、水溶性ウレタン変性エーテル樹脂、水溶性ポリビニルアルコール変性樹脂、水溶性アクリル酸系樹脂及び水溶性ポリエチレンオキサイド樹脂から選択された一種又は二種以上であることを特徴とする請求項12乃至請求項20の何れかに記載の乾式転写捺染法。
【請求項22】
親水性糊剤が、天然ガム糊(エーテル化タマリンドガム、エーテル化ローカストビーンガ
ム、エーテル化グアガム、アカシアアラビヤ系ガム等)、繊維素誘導糊(エーテル化カル
ボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)、加工デンプン糊(エーテル
化澱粉、エステル化澱粉)、水溶性合成糊(ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール等)、海藻糊(アルギン酸ソーダ)から選択された1種又は2種以上であることを特徴とする請求項12乃至請求項21の何れかに記載の乾式転写捺染法。
【請求項23】
合成繊維材料が、ポリエステル、トリアセテート、ジアセテート、ポリアミド、ポリアク
リル等の合成繊維材料、半合成繊維材料の織物、編物、不織布等の単独、或いは天然繊維
を含めた混紡、交織及び複合品から選ばれることを特徴とする請求項12乃至請求項22
の何れかに記載の乾式転写捺染法。
【請求項24】
請求項23に記載の乾式転写捺染法によって転写された合成繊維材料。

【公開番号】特開2008−274516(P2008−274516A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11443(P2008−11443)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(505067346)株式会社アート (2)
【Fターム(参考)】