説明

分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラム

【課題】需要家内に設置された分散電源に対して計測装置を直接設置することなく分散電源の運転状態を判別することができるようにする。
【解決手段】計測時点毎の需要家入口有効電力及び需要家入口力率の計測値と当該計測時点毎の需要家内に設置された分散電源の運転状態の計測値との組み合わせの実績データである運転状態事例データを読み込み(S1−1)、運転状態事例データを用いてサポートベクターマシンによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定し(S1−2)、新たに計測された需要家入口有効電力及び需要家入口力率の計測値の入力を受け(S2−1)、決定された識別関数と新たに計測され入力された計測値とに基づいて需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別する(S2−2)ようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、配電系統に連系している分散電源の運転の状態を判別する技術に関する。
【0002】
本明細書において、分散電源とは、配電系統(若しくは送電系統)に連系される大口需要家の自家発電設備や配電系統に接続される小口需要家の内燃機関等を動力とする小型の発電設備等の電源を意味する。また、分散電源が運転し発電している状態を運転ありと呼び、分散電源が停止し発電していない状態を運転なしと呼ぶ。そして、ここでは主に分散電源の発電の有無を運転状態と呼ぶが、一軒の需要家に複数台の分散電源が設置されているような場合には、運転台数を検出するように拡張することもできる。
【0003】
また、本明細書において、サポートベクターマシン(Support Vector Machine)のことをSVMとも表記する。なお、SVMは、パターン識別手法の一つである。
【背景技術】
【0004】
配電系統に分散電源が連系している場合、配電系統を適切に運用するためには、区分開閉器によって区分される配電系統の各区間の負荷や電力潮流(電流)をおおまかに算出することが必要とされ、そのために各分散電源の運転状態を把握することが必要とされる。
【0005】
配電系統に分散電源が連系している場合の区分開閉器によって区分される配電系統の各区間の負荷を算出する従来の技術としては、例えば、配電線の区間負荷算出装置がある(特許文献1)。この装置は、変電所で測定される配電線の送出し電力と、配電系統に連系する各分散電源に設置された分散電源出力計測手段によって計測される計測値であって変電所における送出し電力の測定時刻と同時刻の分散電源から配電系統に対して供給される電流の計測値に基づいて各区間の実際の負荷を算出し、これによって各区間の電力潮流を把握するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−61247号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の配電線の区間負荷算出装置では、需要家の各分散電源に対して計測装置を直接設置して計測を行う必要がある。したがって、全ての需要家に対して計測装置の設置を要請し承諾をしてもらわなければならず、現実には非常に困難である。
【0008】
そこで、本発明は、需要家内に設置された分散電源に対して計測装置を直接設置することなく分散電源の運転状態を判別することができる分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の分散電源の運転状態検出方法は、配電系統と分散電源を有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力及び力率を計測すると共に当該有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態を計測し、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに計測される連系点の配電系統側における有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別するようにしている。
【0010】
また、請求項2記載の分散電源の運転状態検出装置は、配電系統と分散電源を有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値並びに有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段と、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段と、新たに計測される連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値を読み込む手段と、新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段とを有するようにしている。
【0011】
また、請求項3記載の分散電源の運転状態検出プログラムは、少なくとも、配電系統と分散電源を有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値並びに有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段、新たに計測される連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値を読み込む手段、新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0012】
この分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラムによると、下記に説明する原理によって配電系統に連系する分散電源の運転状態を判別することができる。
【0013】
本発明が前提とする需要家内の回路を図1に示す。需要家内には分散電源G並びに力率改善用コンデンサCが設置され、需要家内の負荷を負荷Lで表す。なお、力率改善用コンデンサCとは、需要家内の負荷Lの遅れ力率を補償するためのものである。また、分散電源Gの発電形式に合わせて、直接に、あるいはAC−ACコンバータ又はDC−ACコンバータを介して分散電源Gは需要家内の回路に接続され、配電系統に連系される。
【0014】
需要家内の回路を流れる電力を以下のようにおく。
:配電系統側の給電線から需要家側に供給される有効電力
:配電系統側の給電線から需要家側に供給される無効電力
cosφ:需要家入口で計測される力率
:需要家内の負荷Lに供給される有効電力
:需要家内の負荷Lに供給される無効電力
:需要家内に設置される力率改善用コンデンサCに供給される無効電力
':力率改善用コンデンサC設置後の需要家内の負荷L'(負荷Lと力率改善用コ
ンデンサCを合成した負荷)に供給される無効電力
cosφ:需要家内の負荷Lの力率
cosφ':力率改善用コンデンサC設置後の需要家内の負荷L'の力率
:需要家内に設置された分散電源Gから需要家の負荷L'に供給される有効電力
:需要家内に設置された分散電源Gから需要家の負荷L'に供給される無効電力
cosφ:需要家内に設置された分散電源Gの力率
ここで、本発明が対象とするような分散電源では、通常、力率が一定とな
る制御(APFRと呼ばれる)が行われており、通常はcosφ≧0.80
(系統側から見て進み)となるように制御される。
【0015】
なお、本発明において、需要家入口とは、配電系統と需要家との連系点の配電系統側のことをいう。また、配電系統側の給電線から需要家側に供給される有効電力は需要家入口で計測される有効電力であり、以下においては需要家入口有効電力と呼ぶ。さらに、以下においては、需要家入口で計測される力率を需要家入口力率と呼ぶ。
【0016】
ここで、図2に示すように、力率改善用コンデンサC設置前の需要家の負荷Lの力率cosφを一定とすると需要家内の負荷LはPQ平面上のO−Aの負荷直線Lで表される。ここでは、需要家内の負荷Lの力率cosφ=0.80と仮定する。なお、図2のP軸は有効電力、Q軸は無効電力である。
【0017】
力率改善用コンデンサCが設置されると、負荷直線Lは力率改善用コンデンサC設置後の負荷直線L'(即ちB−B')に移動する。なお、系統連系規定では需要家の力率が進みになることは許されていないので、負荷直線L'の範囲はB''でなくB'までになる。
【0018】
ここで、需要家内に設置された分散電源Gの力率cosφ=0.95とし、分散電源Gの発電出力がP(即ちフル出力)から1/2P(即ちハーフロード)までの範囲で運転されるとすると、発電出力は直線O−C上をC’からCまで動く。
【0019】
その結果、配電系統側の給電線から需要家側に供給される有効電力P及び配電系統側の給電線から需要家側に供給される無効電力QはD−D−D−Dで囲まれた平行四辺形の領域内を動くことになる(図2において、系統から供給される電力O−Eとして表される)が、先に述べた系統連系規定によりD−D−E−Eの領域になる。
【0020】
この領域と、上述の分散電源Gが運転されない場合の負荷直線L'(即ちB−B')とは互いに重なり合うことはないので、分散電源Gが運転しているときと運転していないときとのそれぞれにおける需要家入口有効電力Pと需要家入口力率cosφとの組み合わせを適確に判別することによって分散電源の運転状態を判別することができる。
【0021】
そして、請求項1,2,3記載の分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラムでは、需要家入口即ち配電系統と需要家との連系点の配電系統側における有効電力Pの計測値と力率cosφの計測値との組み合わせに基づいて需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別するようにしているので、計測装置を分散電源に直接取り付けることなく需要家内に設置された分散電源の運転状態を検出することができる。
【0022】
また、請求項4記載の分散電源の運転状態検出方法は、分散電源を有する需要家が連系している配電系統の配電線区間の有効電力及び力率を計測すると共に当該有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態を計測し、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに計測される配電線区間の有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別するようにしている。
【0023】
また、請求項5記載の分散電源の運転状態検出装置は、分散電源を有する需要家が連系している配電系統の配電線区間の有効電力及び力率の計測値並びに有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段と、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段と、新たに計測される配電線区間の有効電力及び力率の計測値を読み込む手段と、新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段とを有するようにしている。
【0024】
また、請求項6記載の分散電源の運転状態検出プログラムは、少なくとも、分散電源を有する需要家が連系している配電系統の配電線区間の有効電力及び力率の計測値並びに有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段、新たに計測される配電線区間の有効電力及び力率の計測値を読み込む手段、新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0025】
そして、請求項4,5,6記載の分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラムでは、配電線区間の有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせに基づいて需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別するようにしているので、計測装置を分散電源に直接取り付けることなく需要家内に設置された分散電源の運転状態を検出することができる。
【0026】
なお、請求項4,5,6記載の発明も図1に示す需要家内の回路を前提にすると共に各種電力指標相互の関係を図2に示すように捉える。ただし、請求項4,5,6記載の発明においては、図1及び図2におけるPは分散電源を有する需要家が連系している配電線区間の有効電力を意味し、Qは配電線区間の無効電力を意味する。また、cosφは配電線区間の力率を意味する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラムによれば、計測装置を分散電源に直接取り付けることなく需要家内に設置された分散電源の運転状態を検出することができるので、需要家内に設置された分散電源の運転状態の検出の仕組みを容易に構築することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の分散電源の運転状態を判別する原理の説明のための需要家内の分散電源を含む回路の概要図である。
【図2】分散電源の運転状態によって需要家入口(若しくは配電線区間)有効電力と需要家入口(若しくは配電線区間)力率との組合せデータの取り得る領域が異なることを示す概念図である。
【図3】本発明の分散電源の運転状態検出方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図4】実施形態の分散電源の運転状態検出方法をプログラムを用いて実施する場合の分散電源の運転状態検出装置の機能ブロック図である。
【図5】第二の実施形態の配電系統並びに配電線区間を説明する図である。
【図6】実施例の運転状態判別面の生成結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0030】
図3及び図4に、本発明の分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラムの第一の実施形態を示す。この分散電源の運転状態検出方法は、配電系統と分散電源を有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力及び力率を計測すると共に当該有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態を計測し、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに計測される連系点の配電系統側における有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別するようにしている。
【0031】
そして、上記分散電源の運転状態検出方法は、図3に示すように、計測時点毎の需要家入口有効電力及び需要家入口力率の計測値と当該計測時点毎の需要家内に設置された分散電源の運転状態の計測値との組み合わせの実績データである運転状態事例データの読み込みを行うステップ(S1−1)と、運転状態事例データを用いてサポートベクターマシンによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定するステップ(S1−2)と、新たに計測された需要家入口有効電力P及び需要家入口力率cosφの計測値の入力を受けるステップ(S2−1)と、決定された識別関数と新たに計測され入力された計測値とに基づいて需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別するステップ(S2−2)とからなる処理構成により実現される。
【0032】
また、上記分散電源の運転状態検出方法は、本発明の分散電源の運転状態検出装置として実現される。この分散電源の運転状態検出装置は、配電系統と分散電源を有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値並びに有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段と、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段と、新たに計測される連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値を読み込む手段と、新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段とを備えている。
【0033】
上述の分散電源の運転状態検出方法及び分散電源の運転状態検出装置は、本発明の分散電源の運転状態検出プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、分散電源の運転状態検出プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
【0034】
分散電源の運転状態検出プログラム17を実行するための本実施形態の分散電源の運転状態検出装置10の全体構成を図4に示す。この分散電源の運転状態検出装置10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線により接続されている。また、分散電源の運転状態検出装置10にはデータサーバ16がバス等の信号回線等により接続されており、その信号回線等を介して相互にデータや制御指令等の信号の送受信(入出力)が行われる。
【0035】
制御部11は記憶部12に記憶されている分散電源の運転状態検出プログラム17によって分散電源の運転状態検出装置10全体の制御並びに分散電源の運転状態の検出等に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。メモリ15は制御部11が各種制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となる。
【0036】
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0037】
表示部14は制御部11の制御により文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0038】
また、データサーバ16は少なくともデータを記憶可能なサーバである。
【0039】
分散電源の運転状態検出装置10の制御部11には、分散電源の運転状態検出プログラム17を実行することにより、配電系統と分散電源を有する需要家との連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値並びに有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段としての事例データ読込部11a、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段としてのSVM学習部11b、新たに計測される連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値を読み込む手段としての計測データ入力受部11c、新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段としてのSVM判別部11dが構成される。
【0040】
本発明の分散電源の運転状態検出方法は、図3に示すように、大きくは、運転状態事例データを用いてSVMによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定する学習ステップ(S1)と、識別関数と新たに計測された計測値とに基づいて需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別する判別ステップ(S2)とからなる。
【0041】
そして、本実施形態では、需要家入口に設置した計測器によって計測される需要家入口有効電力及び需要家入口力率を用いる。また、需要家内の分散電源に設置した計測器によって検出される分散電源の運転状態のデータを用いる。なお、分散電源の運転状態のデータは学習ステップ(S1)のみで用いるものであり、判別ステップ(S2)では当該データは用いない。
【0042】
まず、学習ステップ(S1)について説明する。
【0043】
本実施形態の分散電源の運転状態検出方法の実行にあたっては、まず、制御部11の事例データ読込部11aが、計測時点毎の需要家入口有効電力及び需要家入口力率の計測値と、当該計測時点毎の需要家内に設置された分散電源の運転状態の計測値との組み合わせの実績データである運転状態事例データの読み込みを行う(S1−1)。
【0044】
本実施形態では、運転状態事例データは運転状態事例データベース18としてデータサーバ16に蓄積される。事例データ読込部11aは、運転状態事例データをデータサーバ16に保存されている運転状態事例データベース18から読み込む。なお、本発明における運転状態事例データはSVMにおける学習データ(若しくは学習サンプルやサンプルデータや訓練サンプルや例題とも呼ばれる)に該当する。
【0045】
そして、事例データ読込部11aは、運転状態事例データベース18から読み込んだ運転状態事例データをメモリ15に記憶させる。
【0046】
次に、制御部11のSVM学習部11bは、S1−1の処理においてメモリ15に記憶された運転状態事例データを用いてSVMによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定する(S1−2)。
【0047】
本実施形態では、需要家入口有効電力Pと需要家入口力率cosφと分散電源の運転状態とからなる運転状態事例データのうち、需要家入口有効電力Pと需要家入口力率cosφとをSVMにおける特徴ベクトル(即ち入力)として扱い、分散電源の運転状態をクラス(即ち出力)として扱う。
【0048】
SVMは、パターン識別手法の一つであり、d次元の1個のパターンデータX=(x,x,・・・,x)が与えられたときに、パターンデータXがどのクラスに属するのかを分類するものである。なお、パターンデータXはSVMにおける特徴ベクトルである。
【0049】
本発明では、分散電源の運転状態をクラスとして扱う。これについて、本実施形態では、分散電源の運転のあり・なしをクラスとして扱う。したがって、本実施形態においてはクラスの数は2個となる。具体的には、本実施形態では、クラスをyで表し、運転ありに対応するクラスy=+1とすると共に運転なしに対応するクラスy=−1として数値化して用いる。なお、本実施形態において例として挙げているのは分散電源の運転・停止のみの判断であるが、複数台設置の需要家については、運転台数をクラスとして扱うことも可能である。その場合には、クラスの値は整数値をとることとなる。
【0050】
また、本実施形態では、パターンデータXとして需要家入口有効電力P及び需要家入口力率cosφの計測値を用いる。すなわち、本実施形態では、パターンデータXは二次元であり、パターンデータX=(需要家入口有効電力P,需要家入口力率cosφ)である。なお、本実施形態における例ではパターンデータを2次元としているが、需要家入口有効電力P及び需要家入口力率cosφの組み合わせの連続値を利用することも可能であり、その場合には多次元(具体的には、2次元データ×n組で2n次元)となる。
【0051】
そして、SVMでは、パターンデータXを入力とし、クラスy=+1,−1を出力とし、パターンデータXが入力された場合にクラスyを出力する関数である識別関数を決定する。SVMでは、まず、事前に与えられるサンプルデータであって過去の実績に基づくn個のパターンデータX,X,・・・,Xと各パターンデータに対応する正解のクラスy,y,・・・,yとの組み合わせである学習データを用い、学習データが正しく判別されるような識別関数を決定する。そして、SVMでは、新しく与えられクラスが未知であるパターンデータXを、得られた識別関数を用いて分類してクラスyを出力する。
【0052】
本実施形態における運転ありに対応するクラスy=+1と運転なしに対応するクラスy=−1とを分類する場合について説明する。パターンデータXの入力に対し、二値のクラスyを出力する識別関数y=f(X)(数式1)に従ってクラスyを出力する。
(数1) f(X)=sgn(w・X+b)
ここで、w=(w,w,・・・,w):ベクトル変数,b:スカラー変数を表す。
また、w・Xの・は内積を表す。
さらに、sgn[u]は、u>0で1をとり、u≦0で−1をとる符号関数である。
【0053】
数式1は、d次元の入力空間をw・X+b=0で定義される超平面H0で二つに分け、一方に1を、他方に−1を対応させることに対応する。学習データを正しく判別する識別関数の設定は、与えられた学習データに対してベクトル変数wやスカラー変数bを調整することにより行われる。
【0054】
サンプルのパターンデータXの全てに対して正しいクラスyが出力されるようなベクトル変数wとスカラー変数bとの組み合わせが存在するとき、その学習データ集合は「線形分離可能」であるという。この線形分離を実現する超平面(判別面とも言う)H0は一つには決まらない。そこで、SVMでは、判別面H0から各クラスyの端までの距離をマージンLと呼び、マージンLを最大にするように判別面H0(最適超平面と言う)を決定する。このことは各クラスyの間の真ん中を判別面H0とすることに対応する。そして、最適超平面H0からマージンLだけ離れて最適超平面H0を挟む二枚の超平面、換言すれば各クラスyの端のサンプルパターンデータXがのっている超平面が第一超平面H1と第二超平面H2とになる。
【0055】
ここで、サンプルのパターンデータXの全てに対して正しいクラスyが出力されるようなベクトル変数wとスカラー変数bとの組み合わせが存在することは必ずしも保証されない。つまり、常に線形分離可能であるとは限らない。線形分離は、一般に、サンプル数nが大きくなるほど難しく、特徴ベクトルXの次元dが大きいほど易しくなる。そこで、線形分離可能でない場合には、パターンデータXを非線形変換(z=φ(X))によって、より高次元の空間に写像する。これにより、線形分離可能な状態になり、最適超平面H0を求めることができる。例えば二次元空間上のパターンデータXを非線形変換(z=φ(X))することにより、三次元空間上のzへと変換すると、平面で線形分離することができる。
【0056】
SVMでは、一般的に、次元dの増加とともに計算量が増えて計算が困難になる。この問題を解決するためにSVMでは、内積X・Xを非線形変換した結果現れる内積z・z=φ(X)・φ(X)を核関数(カーネル関数と呼ばれる)Kを使って済ませ、zの計算を経由しないという方法をとる。このテクニックをカーネルトリックと呼ぶ。
【0057】
具体的には、カーネル関数Kを数式2のようにおく。
(数2) K(X,X)=φ(X)・φ(X)
【0058】
カーネル関数Kの代表的な例としては、数式3で表されるRBF(Radial Basis Function)カーネルや数式4で表されるp次の多項式カーネルがある。
(数3) K(x,y)=exp(−‖x−y‖/2σ)
(数4) K(x,y)=(x・y+1)
【0059】
このように、カーネルトリックと呼ばれる計算方法によって、高次元の写像を実際に計算することなしに高速に解を求めることができる。これにより、線形分離可能な状態となり、最適超平面H0を求めることができる。なお、最適超平面(判別面)H0及び第一超平面H1及び第二超平面H2を求めるアルゴリズムは必ずしも上記の例には限定されず、その他の既知のアルゴリズムあるいは更に改良された新規のアルゴリズムを採用することも可能である。
【0060】
なお、需要家入口有効電力P及び需要家入口力率cosφと分散電源の運転状態との組み合わせデータは需要家毎に特性が異なることが考えられるので、本発明においては、運転状態検出対象の需要家毎に運転状態事例データが準備されると共に判別面H0が決定されることが好ましい。しかしながら、例えば同一若しくは類似の業種の工場であったり、特別な電気機器は使用されていない一般的なビルであったりする場合であって特性が似ていると考えられる場合には或る一つの工場やビルで計測された運転状態事例データに基づく判別面H0を他の工場やビルに対して用いるようにしても良い。
【0061】
SVM学習部11bは、S1−1の処理においてメモリ15に記憶された運転状態事例データをメモリ15から読み込み、当該データを用いてSVMによって運転状態判別面を生成して識別関数を決定する。
【0062】
さらに、SVM学習部11bは決定した識別関数をメモリ15に記憶させる。この際、複数の需要家を運転状態検出の対象としている場合には、SVM学習部11bは例えば需要家毎に付与されたID番号などを対応させて識別関数をメモリ15に記憶させる。
【0063】
以上の学習ステップ(S1)は、識別関数を特定するために或る需要家若しくは或る特徴を有する需要家に対して一回だけ行う。そして、この学習ステップ(S1)によって決定された識別関数を用いて以下の判別ステップ(S2)を繰り返して行う。
【0064】
続いて、判別ステップ(S2)について説明する。
【0065】
制御部11の計測データ入力受部11cは、新たに計測された需要家入口有効電力P及び需要家入口力率cosφの計測値の入力を受ける(S2−1)。
【0066】
なお、分散電源を有する需要家が配電系統に複数連系している場合で複数の需要家を運転状態の検出対象としている場合には、計測器は、例えば需要家毎に付与されたID番号などと計測値とを合わせて計測データ入力受部11cに送る。
【0067】
需要家入口に設置された計測器からは、連続的に若しくは所定の時間間隔で計測データ入力受部11cに対して需要家入口有効電力P及び需要家入口力率cosφの計測値が入力される。なお、本実施形態の分散電源の運転状態検出装置10には受信装置19がバス等の信号回線等により接続されており、新たに計測される計測値はこの受信装置19を介して計測データ入力受部11cに送られる。需要家入口に設置された計測器と受信装置19との間の通信方法は特定の方式に限定されるものではなく、有線でも無線でも構わない。
【0068】
計測データ入力受部11cは、入力された計測値をメモリ15に記憶させる。
【0069】
制御部11のSVM判別部11dは、S1−2の処理において決定された識別関数とS2−1の処理において入力された計測値とを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別する(S2−2)。
【0070】
具体的には、SVM判別部11dは、S1−2の処理において決定されメモリ15に記憶された識別関数をメモリ15から読み込む。また、需要家入口に設置された計測器から入力されメモリ15に記憶された需要家入口有効電力P及び需要家入口力率cosφの計測値をメモリ15から読み込む。そして、計測値を識別関数に入力して分散電源の運転状態を判別する(END)。
【0071】
なお、分散電源を有する需要家が配電系統に複数連系している場合で複数の需要家を運転状態の検出対象としている場合には、計測器は、例えば需要家毎に付与されたID番号などに基づいて需要家毎に判別ステップ(S2)の処理を行う。
【0072】
また、判別ステップ(S2)の処理は、需要家入口に設置された計測器からの計測データの入力に合わせて実行される。
【0073】
以上によって需要家毎に判別された分散電源の運転状態は、例えば、区分開閉器で区分される配電系統の区間毎の電力潮流及び需要家毎の実際の負荷電力値を推定し、当該推定値に基づいて、電圧が規定値の範囲を超えて低下又は上昇するような不都合を回避する配電系統の制御に活用される。
【0074】
次に、図5を更に用いて、本発明の分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラムの第二の実施形態について説明する。なお、以下に説明する第二の実施形態において上述の第一の実施形態と同様の構成要素については、同一符号を付してその詳細な説明を適宜省略する。
【0075】
第二の実施形態においては、図5に示すように、変電所4を有する配電系統1に設置された機器3Aと機器3Bとによって区分される配電線区間2に分散電源Gと負荷Lとを有する需要家5が連系している場合を考える。なお、一つの配電線区間2に複数の需要家が連系していても構わない。そして、一つの配電線区間2には分散電源Gを有する需要家5は一つだけ連系していることが基本であるけれども、一つの配電線区間2に分散電源Gを有する需要家5が複数連系している場合にはそのうちの一つの需要家5を対象として分散電源Gの運転状態を検出する。
【0076】
第二の実施形態においては、配電系統1に設置された機器3Aと機器3Bとによって区分される配電線区間2の有効電力と力率とを用いる。ここで、機器3A,3Bは配電線の有効電力と無効電力とを計測可能な装置や仕組みを備えるものである。具体的には配電線センサーの機能を備える機器であり、例えばセンサー付きの区分開閉器である。以下では、配電線センサーの機能を備える機器の具体例として単に区分開閉器3A,3Bと呼ぶ。
【0077】
そして、第二の実施形態においては、図1及び図2におけるPは配電線区間2の有効電力(以下、配電線区間有効電力と呼ぶ)を意味し、Qは配電線区間2の無効電力(以下、配電線区間無効電力と呼ぶ)を意味する。また、cosφは配電線区間2の力率(以下、配電線区間力率と呼ぶ)を意味する。なお、図2については、配電線区間2に複数の需要家が連系している場合には、区間単位には運転状態の検出対象でない需要家の負荷の影響が入る。このため、負荷直線L'(即ちB−B')及び領域D−D−D−Dは負荷の影響を受けて横軸(即ち有効電力)正の向き、縦軸(即ち無効電力)正の向き(通常は遅れ力率であるため)に平行移動する。しかしながら、負荷直線L'と領域D−D−D−Dとの両者の相対的な位置関係は変わらないので、第一の実施形態の場合と同様に各種電力指標相互の関係を図2に示すように捉えることによって分散電源Gの運転状態を推定することができる。
【0078】
ここで、配電線区間2の有効電力Pは数式5によって求められ、配電線区間2の無効電力Qは数式6によって求められる。
(数5) P=(区分開閉器3Aの有効電力)−(区分開閉器3Bの有効電力)
(数6) Q=(区分開閉器3Aの無効電力)−(区分開閉器3Bの無効電力)
【0079】
また、配電線区間2の力率cosφは数式7によって求められる。
【数7】

【0080】
なお、図3に示すフローチャート及び図4に示す機能ブロック図は第二の実施形態においても同様である。
【0081】
そして、第二の実施形態の分散電源の運転状態検出方法は、分散電源Gを有する需要家5が連系している配電系統1の配電線区間2の有効電力及び力率を計測すると共に当該有効電力及び力率の計測時における分散電源Gの運転状態を計測し、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源Gの運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家5内に設置された分散電源Gの運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに計測される配電線区間2の有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源Gがどのような運転状態にあるかを判別するようにしている。
【0082】
そして、上記分散電源の運転状態検出方法は、図3に示すように、計測時点毎の配電線区間有効電力及び配電線区間力率の計測値と当該計測時点毎の需要家内に設置された分散電源の運転状態の計測値との組み合わせの実績データである運転状態事例データの読み込みを行うステップ(S1−1)と、運転状態事例データを用いてサポートベクターマシンによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定するステップ(S1−2)と、新たに計測された配電線区間有効電力P及び配電線区間力率cosφの計測値の入力を受けるステップ(S2−1)と、決定された識別関数と新たに計測され入力された計測値とに基づいて需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別するステップ(S2−2)とからなる処理構成により実現される。
【0083】
また、上記分散電源の運転状態検出方法は、本発明の分散電源の運転状態検出装置として実現される。この分散電源の運転状態検出装置は、分散電源を有する需要家が連系している配電系統の配電線区間の有効電力及び力率の計測値並びに有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段と、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段と、新たに計測される配電線区間の有効電力及び力率の計測値を読み込む手段と、新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段とを備えている。
【0084】
上述の分散電源の運転状態検出方法及び分散電源の運転状態検出装置は、本発明の分散電源の運転状態検出プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、分散電源の運転状態検出プログラムをコンピュータ上で実行する場合を例に挙げて説明する。
【0085】
分散電源の運転状態検出プログラム17を実行する分散電源の運転状態検出装置の全体構成は、第一の実施形態として既に説明した図4に示す分散電源の運転状態検出装置10の全体構成と同様である。
【0086】
分散電源の運転状態検出装置10の制御部11には、分散電源の運転状態検出プログラム17を実行することにより、分散電源を有する需要家が連系している配電系統の配電線区間の有効電力及び力率の計測値並びに有効電力及び力率の計測時における分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段としての事例データ読込部11a、有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段としてのSVM学習部11b、新たに計測される配電線区間の有効電力及び力率の計測値を読み込む手段としての計測データ入力受部11c、新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として識別関数を用いて分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段としてのSVM判別部11dが構成される。
【0087】
そして、本実施形態の分散電源の運転状態検出方法も、図3に示すように、大きくは、運転状態事例データを用いてSVMによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定する学習ステップ(S1)と、識別関数と新たに計測された計測値とに基づいて需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別する判別ステップ(S2)とからなる。
【0088】
そして、本実施形態では、区分開閉器3A,3Bによって計測される値に基づいて算出される配電線区間有効電力及び配電線区間力率を用いる。また、需要家内の分散電源に設置した計測器によって検出される分散電源の運転状態のデータを用いる。なお、分散電源の運転状態のデータは学習ステップ(S1)のみで用いるものであり、判別ステップ(S2)では当該データは用いない。
【0089】
まず、学習ステップ(S1)について説明する。
【0090】
本実施形態の分散電源の運転状態検出方法の実行にあたっては、まず、制御部11の事例データ読込部11aが、計測時点毎の配電線区間有効電力及び配電線区間力率の計測値と、当該計測時点毎の需要家内に設置された分散電源の運転状態の計測値との組み合わせの実績データである運転状態事例データの読み込みを行う(S1−1)。
【0091】
本実施形態では、運転状態事例データは運転状態事例データベース18としてデータサーバ16に蓄積される。事例データ読込部11aは、運転状態事例データをデータサーバ16に保存されている運転状態事例データベース18から読み込む。なお、本発明における運転状態事例データはSVMにおける学習データ(若しくは学習サンプルやサンプルデータや訓練サンプルや例題とも呼ばれる)に該当する。
【0092】
そして、事例データ読込部11aは、運転状態事例データベース18から読み込んだ運転状態事例データをメモリ15に記憶させる。
【0093】
次に、制御部11のSVM学習部11bは、S1−1の処理においてメモリ15に記憶された運転状態事例データを用いてSVMによって運転状態判別面を生成し識別関数を決定する(S1−2)。
【0094】
本実施形態では、配電線区間有効電力Pと配電線区間力率cosφと分散電源の運転状態とからなる運転状態事例データのうち、配電線区間有効電力Pと配電線区間力率cosφとをSVMにおける特徴ベクトル(即ち入力)として扱い、分散電源の運転状態をクラス(即ち出力)として扱う。なお、本実施形態におけるクラスの考え方は第一の実施形態において説明した内容と同様である。
【0095】
また、本実施形態では、パターンデータXとして配電線区間有効電力P及び配電線区間力率cosφの計測値を用いる。すなわち、本実施形態では、パターンデータXは二次元であり、パターンデータX=(配電線区間有効電力P,配電線区間力率cosφ)である。なお、本実施形態における例ではパターンデータを2次元としているが、配電線区間有効電力P及び配電線区間力率cosφの組み合わせの連続値を利用することも可能であり、その場合には多次元となる。
【0096】
また、本実施形態におけるSVMに纏わるパターンデータとクラスと学習データと識別関数との関係や取扱いなどは第一の実施形態におけるものと同様である。
【0097】
SVM学習部11bは、S1−1の処理においてメモリ15に記憶された運転状態事例データをメモリ15から読み込み、当該データを用いてSVMによって運転状態判別面を生成して識別関数を決定する。
【0098】
さらに、SVM学習部11bは決定した識別関数をメモリ15に記憶させる。
【0099】
以上の学習ステップ(S1)は、識別関数を特定するために或る需要家若しくは或る特徴を有する需要家に対して一回だけ行う。そして、この学習ステップ(S1)によって決定された識別関数を用いて以下の判別ステップ(S2)を繰り返して行う。
【0100】
続いて、判別ステップ(S2)について説明する。
【0101】
制御部11の計測データ入力受部11cは、新たに計測された配電線区間有効電力P及び配電線区間力率cosφの計測値の入力を受ける(S2−1)。
【0102】
配電線区間2の両端の区分開閉器3A,3Bからは、連続的に若しくは所定の時間間隔で計測データ入力受部11cに対して配電線区間有効電力P及び配電線区間力率cosφの計測値が入力される。なお、本実施形態の分散電源の運転状態検出装置10には受信装置19がバス等の信号回線等により接続されており、新たに計測される計測値はこの受信装置19を介して計測データ入力受部11cに送られる。配電線区間2の両端の区分開閉器3A,3Bと受信装置19との間の通信方法は特定の方式に限定されるものではなく、有線でも無線でも構わない。
【0103】
計測データ入力受部11cは、入力された計測値をメモリ15に記憶させる。
【0104】
制御部11のSVM判別部11dは、S1−2の処理において決定された識別関数とS2−1の処理において入力された計測値とを用いて需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別する(S2−2)。
【0105】
具体的には、SVM判別部11dは、S1−2の処理において決定されメモリ15に記憶された識別関数をメモリ15から読み込む。また、配電線区間2の両端の区分開閉器3A,3Bから入力されメモリ15に記憶された配電線区間有効電力P及び配電線区間力率cosφの計測値をメモリ15から読み込む。そして、計測値を識別関数に入力して分散電源の運転状態を判別する(END)。
【0106】
また、判別ステップ(S2)の処理は、配電線区間2の両端の区分開閉器3A,3Bからの計測データの入力に合わせて実行される。
【0107】
以上によって需要家毎に判別された分散電源の運転状態は、例えば、区分開閉器で区分される配電系統の区間毎の電力潮流及び需要家毎の実際の負荷電力値を推定し、当該推定値に基づいて、電圧が規定値の範囲を超えて低下又は上昇するような不都合を回避する配電系統の制御に活用される。
【0108】
以上のように構成された本発明の分散電源の運転状態検出方法、装置及びプログラムによれば、計測装置を分散電源に直接取り付けることなく需要家内に設置された分散電源の運転状態を検出することができる。このため、需要家内に設置された分散電源の運転状態の検出の仕組みを容易に構築することが可能になる。
【0109】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、第一の実施形態では、需要家入口に設置された計測器は需要家入口有効電力P及び需要家入口力率cosφを計測して計測値を別に設置された分散電源の運転状態検出装置10に送信するものとして構成されているが、場合によっては、当該計測器が需要家内に設置された分散電源の運転状態を判別するようにしても良い。この場合には、分散電源を有する需要家が配電系統に多数連系している場合に特に分散電源の運転状態の判別の処理にかかる負荷を分散してより迅速な処理をすることができるという効果がある。
【0110】
また、第一及び第二の実施形態においては、運転状態事例データは運転状態事例データベース18としてデータサーバ16に蓄積されるようにしているが、運転状態事例データの蓄積方法はこれに限られるものではなく、分散電源の運転状態検出装置10の記憶部12に蓄積されるようにしても良い。
【実施例1】
【0111】
本発明の分散電源の運転状態検出方法を実際の計測値に基づく需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別に適用した実施例を図6を用いて説明する。なお、本実施例は、上述の第一の実施形態についての実施例である。
【0112】
本実施例では、発電機が需要家内の回路に接続されている需要家を対象として実際に計測して得られた計測データを用いた。需要家入口から需要家構内をみると、回路にはモーターや照明などの通常の負荷の他に発電機(複数台の場合もある)が並列に接続されている。この状態で、需要家入口(即ち受電端)と発電機接続点(即ち発電端)とに計測器を設置して有効電力や力率などを計測した。
【0113】
需要家入口で計測した有効電力と力率との組み合わせ毎に計測時点における発電機接続点で計測した有効電力に基づいて分散電源の運転ありと運転なしとの2パターンに分類してプロットすることによって図6に示す結果が得られた。図6において、記号○は分散電源の運転ありの場合の需要家入口有効電力と力率との組み合わせデータのプロットであり、記号×は分散電源の運転なし(即ち停止)の場合の需要家入口有効電力と力率との組み合わせデータのプロットである。図6中、一点鎖線で囲まれた領域が運転なし状態を示している。
【0114】
図6に示す一点鎖線で囲まれた領域(運転なし状態を示すプロットの領域)とそれ以外の領域(運転あり状態を示すプロットの領域)とをSVMによって自動判別した。具体的には、(有効電力,力率)=Xを入力とすると共に(発電機の運転,発電機の停止)=yを出力とする学習データの組み(X,y)を用いて判別面を決定した。
【0115】
SVMを用いて分類した結果、約95%の高い精度で分散電源の運転ありとなしとを推定できることがわかった.また、10fold cross validation(10分割交差検定とも呼ばれる)によって判別性能を評価した結果、正答率は95%であった。
【0116】
以上から、本発明は一般性を有し且つ高い判別精度を有することが確認された。
【符号の説明】
【0117】
10 分散電源の運転状態検出装置
11 制御部
11a 事例データ読込部
11b SVM学習部
11c 計測データ入力受部
11d SVM判別部
17 分散電源の運転状態検出プログラム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電系統と分散電源を有する需要家との連系点の前記配電系統側における有効電力及び力率を計測すると共に当該有効電力及び力率の計測時における前記分散電源の運転状態を計測し、前記有効電力の計測値と前記力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に前記分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに計測される前記連系点の配電系統側における有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として前記識別関数を用いて前記分散電源がどのような運転状態にあるかを判別することを特徴とする分散電源の運転状態検出方法。
【請求項2】
配電系統と分散電源を有する需要家との連系点の前記配電系統側における有効電力及び力率の計測値並びに前記有効電力及び力率の計測時における前記分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段と、前記有効電力の計測値と前記力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に前記分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段と、新たに計測される前記連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値を読み込む手段と、前記新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として前記識別関数を用いて前記分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段とを有することを特徴とする分散電源の運転状態検出装置。
【請求項3】
少なくとも、配電系統と分散電源を有する需要家との連系点の前記配電系統側における有効電力及び力率の計測値並びに前記有効電力及び力率の計測時における前記分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段、前記有効電力の計測値と前記力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に前記分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段、新たに計測される前記連系点の配電系統側における有効電力及び力率の計測値を読み込む手段、前記新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として前記識別関数を用いて前記分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段としてコンピュータを機能させるための分散電源の運転状態検出プログラム。
【請求項4】
分散電源を有する需要家が連系している配電系統の配電線区間の有効電力及び力率を計測すると共に当該有効電力及び力率の計測時における前記分散電源の運転状態を計測し、前記有効電力の計測値と前記力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に前記分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定し、新たに計測される前記配電線区間の有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として前記識別関数を用いて前記分散電源がどのような運転状態にあるかを判別することを特徴とする分散電源の運転状態検出方法。
【請求項5】
分散電源を有する需要家が連系している配電系統の配電線区間の有効電力及び力率の計測値並びに前記有効電力及び力率の計測時における前記分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段と、前記有効電力の計測値と前記力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に前記分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段と、新たに計測される前記配電線区間の有効電力及び力率の計測値を読み込む手段と、前記新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として前記識別関数を用いて前記分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段とを有することを特徴とする分散電源の運転状態検出装置。
【請求項6】
少なくとも、分散電源を有する需要家が連系している配電系統の配電線区間の有効電力及び力率の計測値並びに前記有効電力及び力率の計測時における前記分散電源の運転状態の計測値を読み込む手段、前記有効電力の計測値と前記力率の計測値との組み合わせを入力とすると共に前記分散電源の運転状態の計測値を出力としてサポートベクターマシンを用いて前記需要家内に設置された分散電源の運転状態の判別面を生成して識別関数を決定する手段、新たに計測される前記配電線区間の有効電力及び力率の計測値を読み込む手段、前記新たな有効電力の計測値と力率の計測値との組み合わせを入力として前記識別関数を用いて前記分散電源がどのような運転状態にあるかを判別する手段としてコンピュータを機能させるための分散電源の運転状態検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−261226(P2009−261226A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61834(P2009−61834)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(591277717)東北計器工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】