説明

分析法および分析装置

【課題】検体の各種分子に関する高精度の分析を行う。
【解決手段】自発ラマン分光法とp-CARS分光法を併用し、さらに、これら異なる種類の分光法の両方に関連して多変量解析法を用いて検体の分析を行う。ここで、検体の分析とは、検体に含まれる目的分子種の同定/定量を多変量解析手法を用いて行うこともしくは目的分子種と同一の分類に属する分子群(以下、目的分子群と表記する)の分類を多変量解析手法を用いて行うことを意味する。さらに、目的分子種の同定を行うことは、検体に目的分子種が含有されるかどうかを明らかにすることを意味し、目的分子種の定量を行うことは、検体中に含まれる目的分子種の存在量を明らかにすることを意味する。また、目的分子群の分類は主成分分析に基いてこの目的分子群をさらに細分化した分類を行うこと、もしくは、主成分分析に基いて目的分子群の情報から検体の状態を分類することを意味する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分析法および分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体試料は水およびタンパク質、核酸、糖鎖脂肪、脂肪酸、リン酸脂質等の複数の分子群で構成され、さらに、それぞれの分子群は以下の様な分子種で構成される。例えば、アミノ酸や塩基の残基数や糖の数が異なったり、それぞれの配列が異なったりした種々の分子や、炭素鎖・側鎖の長さや飽和度の異なる分子、シス-トランス配向異性体等、様々な分子種が挙げられる。しかも、複数の分子や分子群が複合して機能する場合もあり、この場合、関与する分子種の構造変化も伴う。このため、生体試料中の分子は種々の分子群の区別と併せて、それぞれの分子群を構成する個々の分子種の1次・2次および3次構造を含む構造情報(コンフォメーション情報)によって区別される。この様な未知の生体試料に含まれる分子種を対象として、分光学的に個々の分子種の分析を行うためには、すなわち具体的には分子種の同定あるいは定量を行ったり、あるいはコンフォメーションに対応した分類を行ったりするためには、分子群に特徴的なスペクトルを取得する事に加えて、個々の分子種のコンフォメーション情報を反映したスペクトルを取得する事が必要となる。
【0003】
種々の分光法の中でも自発ラマン分光法は、分子に含まれる特有の官能基の振動を観測することで、分子を官能基毎に区別することができるため、主に、前述の分子群を区別するための振動分光に用いられてきた。この自発ラマン分光法は、例えば、非特許文献1に示す様に、生体を構成する要素群であるタンパク質、核酸、糖鎖、脂肪をそれぞれの分子群として独立に扱って自発ラマンスペクトルを測定し、生体組織の評価・分類が行われた。しかしながら、非特許文献1ではタンパク質群を構成する個々のタンパク質や核酸分子のコンフォメーションなど、分子群を構成する個々の分子種の構造情報を個別に扱った解析はなされていない。これは複雑な分子構成を有する混合物である生体試料を対象にした場合、自発ラマン分光法ではスペクトルの線形情報が損われるため2次構造やコンフォメーションの情報を取得することが困難なためである。
【0004】
一方、分子のコンフォメーション情報を分光学的に取得する方法の一例として、偏光Coherent Anti-Stokes Scattering (p-CARS)分光法が挙げられる。この分光法では、振動を誘起する2本のレーザー光の偏光を操作したり、発生するコヒーレントラマン信号を検出する偏光角度を調整したりして振動スペクトルの観測を行う。このp-CARS分光法に関しては、例えば、非特許文献2では幾つかのタンパク質のp-CARSスペクトルが測定されている。個々のタンパク質水溶液のamide I振動(1640〜1690 cm-1)を観測した結果、タンパク質のαヘリックスやβシート等のタンパク質のコンフォメーション(特に2次構造)の違いから生じる偏光解消度によってp-CARSスペクトルが変化する事が報告されている。しかしながら、非特許文献2ではタンパク質溶液を個々のタンパク質について別個に用意して用い、他のタンパク質や生体分子群を含まない環境で測定されていた。さらに、個々のタンパク質溶液の溶媒には実際の生体とは異なる重水を用いていた。p-CARS分光法はこれまでこの様な理想的な環境下での測定により、タンパク質のコンフォメーションによるバンドシフトについての報告がなされているに過ぎず、複雑な分子構成を有する混合物である生体試料の分析には用いられていない。
【非特許文献1】N. Stone et.al, British J. Cancer., 94 (2006) 1460
【非特許文献2】J. Greve et.al, Biophys. J., 63 (1992) 976
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の分光法を用いて実際に生体試料を観測する条件下においては、理想条件下とは異なり、目的とする分子種/分子群以外にも他の分子群に属する分子種が数多く存在するため、目的とする分子種/分子群を特徴付ける振動バンドに他の分子種/分子群のバンドが重なって観測される。
例えばタンパク質を分析する事を目的とした場合には、タンパク質の2次構造を特徴付けるamide Iバンド(1600 ~ 1710 cm-1)には核酸に含まれるグアニン(G)およびチミン(T)もしくはウラシル(U)に由来するC=Oバンド(1610 ~ 1740 cm-1)や脂質のC=C伸縮振動(1650 cm-1近傍)、水の変角振動(1500 ~ 1800 cm-1)が重なって観測される。また、同じくタンパク質の2次構造を特徴付けるamide IIIバンド(1240 ~ 1280 cm-1)には核酸のバンド(1240 ~ 1260 cm-1)や脂質の=C-H面内変角振動(1264 cm-1近傍)が重なって観測される。
同様に、核酸の分析を目的とした場合には、核酸のコンフォメーションを特徴付けると考えられるグアニン(G)の環呼吸振動バンド(600 ~ 700 cm-1)にはタンパク質のNCO変角振動のブロードなバンド(600 ~ 700 cm-1)が重なる。また、糖鎖のコンフォメーションを特徴付けると考えられるδ(COH)、δ(CCH)、δ(OCH)deformationバンド(800 ~ 950 cm-1)にはタンパク質のバンドが重なり、さらにν(C-C)、ν(C-O)伸縮振動バンドやδ(CH2)、δ(CH2OH)deformationバンドには核酸塩基のバンドや核酸のdeoxyriboseおよびriboseのバンドが重なってくる。
この様に、目的分子とそれ以外の分子/分子群が重なって観測されることから、p-CARSスペクトルのみで目的とする分子種のコンフォメーション情報を抽出することは困難である。このため、別途取得した生体試料の純スペクトルに基いた多変量解析法を適用しても生体検体に含まれる分子種/分子群を分析することは困難である。
【0006】
一方、ラマン分光法のみを用いた場合にも、バンドが重なってくることに加え、生体分子の2次構造やコンフォメーションの情報を取得することは困難である。このため、生体分子の分子群を個々の生体分子種まで細分化して生体検体の分析を行うことは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、自発ラマン分光法とp-CARS分光法を併用することを第1の特徴とし、さらに、これら異なる種類の分光法の両方に関連して多変量解析法を用いて検体の分析を行うことを第2の特徴とする。
ここで、検体の分析とは、検体に含まれる目的分子種の同定/定量を多変量解析手法を用いて行うこともしくは目的分子種と同一の分類に属する分子群(以下、目的分子群と表記する)の分類を多変量解析手法を用いて行うことを意味する。
さらに、目的分子種の同定を行うことは、検体に目的分子種が含有されるかどうかを明らかにすることを意味し、目的分子種の定量を行うことは、検体中に含まれる目的分子種の存在量を明らかにすることを意味する。また、目的分子群の分類は主成分分析に基いてこの目的分子群をさらに細分化した分類を行うこと、もしくは、主成分分析に基いて目的分子群の情報から検体の状態を分類することを意味する。
【0008】
本発明は次のように表される。
すなわち、請求項1は、検体中のタンパク質の分析を行う方法であって、次のステップを含む;
(a) 少なくとも一つの検体について測定して得られた自発ラマンスペクトルと、別途取得した種々のタンパク質、核酸および検体に含まれると予想される分子種を少なくとも含む分子群の自発ラマン参照スペクトル群(以下、ラマン参照群)とに基づいて、前記検体中の核酸の存在量を算出するステップ、
(b) ステップ(a)において算出した核酸の存在量を用いて、別途取得した種々のタンパク質と核酸と検体に含まれると予想される分子種を含む分子群のp-CARS参照スペクトル群(以下、CARS参照群)とに基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する核酸のp-CARSスペクトル強度を算出するステップ、
(c)少なくとも一つの検体について測定して得られたp-CARSスペクトルから、ステップ(b)で算出した核酸のp-CARSスペクトル成分を除去することにより、核酸以外のp-CARSスペクトルを取得するステップ、
(d) ステップ(c)で取得した核酸以外のp-CARSスペクトルに基づいて検体中に存在する種々のタンパク質に関する分析を行うステップ、ことを特徴とする方法である。
【0009】
ここで、請求項2として、ステップ(a)の算出は、多変量解析を適用して実行される、請求項1に記載のタンパク質分析法である。また、請求項3として、ステップ(d)の分析は、前記CARS参照群に基づく多変量解析を適用して実行される、請求項1または2に記載のタンパク質分析法である。また、請求項4として、ステップ(d)の分析は、検体の核酸以外のp-CARSスペクトルを用いて多変量解析を行う、請求項1または3に記載のタンパク質分析法である。また、請求項5として、検体についての前記自発ラマンスペクトルおよび前記p-CARSスペクトルは、検体の同一点で測定して取得される、請求項1から4の何れかに記載のタンパク質分析法である。
【0010】
また、本発明は、請求項6として、検体中のタンパク質の分析を行う方法であって、次のステップを含む;
(a) 少なくとも一つの検体について測定して得られた自発ラマンスペクトルと、別途取得した種々のタンパク質および該タンパク質とは異なり且つ検体に含まれると予想される種々の分子種から構成される分子群を少なくとも含む自発ラマン参照スペクトル群(以下、ラマン参照群)とに基づいて、前記検体中のタンパク質とは異なる種々の分子から構成される分子群の存在量を算出するステップ、
(b) ステップ(a)において算出した前記分子群の存在量を用いて、別途取得した種々のタンパク質およびタンパク質とは異なる種々の分子種から構成される分子群についてのp-CARS参照スペクトル群(以下、CARS参照群)とに基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する前記分子群のp-CARSスペクトル強度を算出するステップ、
(c)少なくとも一つの検体について測定して得られたp-CARSスペクトルから、ステップ(b)で算出した前記分子群のp-CARSスペクトル成分を除去することにより、種々のタンパク質についてのp-CARSスペクトルを取得するステップ、
(d) ステップ(c)で取得した種々のタンパク質についてのp-CARSスペクトルに基づいて検体中に存在する種々のタンパク質に関する分析を行うステップ、ことを特徴とする方法である。
【0011】
ここで、請求項7として、ステップ(d)の分析は、前記CARS参照群に基づく多変量解析を適用して実行される、請求項6に記載のタンパク質分析法である。また、請求項8として、ステップ(d)の分析は、検体に含まれる種々のタンパク質のp-CARSスペクトルを用いた多変量解析を適用して実行される、請求項6に記載のタンパク質分析法である。また、請求項9として、検体についての前記自発ラマンスペクトルおよび前記とp-CARSスペクトルは、検体の同一点で測定して取得される、請求項6から8の何れかに記載のタンパク質分析法である。
【0012】
また、本発明は、請求項10として、検体中の目的分子種もしくは目的分子種と同一の分類に属する分子群の分析を行う方法であって、次のステップを含む;
(a) 少なくとも一つの検体について測定して得られた自発ラマンスペクトルと、別途取得した目的分子種および該目的分子種以外の検体に含まれると予想される分子種を少なくとも含む自発ラマン参照スペクトル群(以下、ラマン参照群)とに基づいて、前記検体中の目的分子種以外の分子種のうち、該目的分子種とは異なる分類に属する分子種の存在量を算出するステップ、
(b) ステップ(a)において算出した前記分子種の存在量を用いて、別途取得した目的分子種および該目的分子種以外の検体に含まれると予想される分子種についてのp-CARS参照スペクトル群(以下、CARS参照群)とに基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する前記分子群のp-CARSスペクトル強度を算出するステップ、
(c)少なくとも一つの検体について測定して得られたp-CARSスペクトルから、ステップ(b)で算出した前記分子群のp-CARSスペクトル成分を除去することにより、目的分子種と同一の分類に属する分子群についてのp-CARSスペクトルを取得するステップ、
(d) ステップ(c)で取得した目的分子種と同一の分類に属する分子群についてのp-CARSスペクトルに基づいて検体中に存在する種々のタンパク質に関する分析を行うステップ、ことを特徴とする方法である。
【0013】
ここで、請求項11として、ステップ(a)の算出は、多変量解析を適用して実行される、請求項10に記載の分子群の分析法である。また、請求項12として、ステップ(d)の分析は、前記CARS参照群に基づく多変量解析を適用して実行される、請求項10または11に記載の分子群の分析法である。また、請求項13として、ステップ(d)の分析は、検体中に存在する該目的分子種と同一の分類に属する分子群のp-CARSスペクトルを用いた多変量解析を適用して実行される、請求項10または11に記載の目的分子種と同一の分類に属する分子群の分析法である。また、請求項14として、ステップ(a)は、前記自発ラマンスペクトルの測定および前記p-CARSスペクトルの測定を検体の同一点で測定する、請求項10から13の何れかに記載の分子群の分析法である。また、請求項15として、前記目的分子が、タンパク質、核酸、糖もしくは脂質であって、該目的分子のコンフォメーションに基いた分析を行う、請求項10から14の何れかに記載の分析法である。さらに、請求項14として、請求項9〜12に記載の分析法において、目的分子が水であって、水分子の局所的なコンフォメーションに基いた分析を行うことを特徴とする分子群の分析法である。
【0014】
また、本発明の装置は、請求項15として、検体中の目的分子種と同一の分類に属する分子群の分析を行う装置であって、
少なくとも一つの検体の自発ラマンおよびp-CARSスペクトルを測定する測定手段と、
前記測定手段から得られたスペクトルデータに基づいて解析を行う手段とを備え、
前記解析手段は次の手段を含む;
(a) 少なくとも一つの検体の自発ラマンスペクトルに、別途取得した目的分子種および該目的分子種以外の分子種の自発ラマン参照スペクトル群(以下、ラマン参照群)に基づいて、検体中の該目的分子種以外の分子種のうち該目的分子種と異なる分類に属する分子種の存在量を算出する存在量算出手段、
(b) 前記存在量算出手段により算出された該目的分子種と異なる分類に属する分子種の存在量と、別途取得した目的分子種および検体に含まれると予想される前記目的分子種以外の分子種についてのp-CARS参照スペクトル群(以下、CARS参照群)とに基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する目的分子種と異なる分類に属する分子種のp-CARSスペクトル強度を算出するスペクトル強度算出手段、
(c) 前記スペクトル強度算出手段により算出された目的分子種と異なる分類に属する分子種についてのp-CARSスペクトル成分を、前記検体のp-CARSスペクトルから除去して該目的分子種と同一の分類に属する分子群のp-CARSスペクトルを取得するスペクトル取得手段、
(d) 前記スペクトル取得手段により取得した該目的分子種と同一の分類に属する分子群のp-CARSスペクトルに基づき、検体中に存在する目的分子種と同一の分類に属する分子群を分析する手段;ことを特徴とする。
【0015】
ここで、請求項16として、前記解析手段がさらに(a)または(c)の少なくとも一つの手段において多変量解析を適用する、請求項15に記載の分析装置である。また、請求項17として、前記測定手段による自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルの測定点が検体の同一点に設定されている、請求項15または16に記載の分析装置である。
【0016】
上述した本発明は、次のように述べることもできる。
すなわち、請求項1に記載の発明では該2つの分光法を用いて、以下に示すステップを踏んで検体中に含まれるタンパク質/タンパク質群の分析を行う。
(a) 検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルを測定する。
ここで、p-CARSスペクトルはタンパク質のコンフォメーション情報を含むバンドの振動数領域について測定する。しかし、このバンドは核酸由来のバンドと重なってしまっている。そこで、自発ラマンスペクトルは核酸由来のバンドであってタンパク質由来のバンドが重ならない振動数領域を含む領域について測定する。
このステップにおいて、分析に用いるための検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルが取得できる。
(b) 測定した検体の自発ラマンスペクトルを、別途取得した多変量解析用の自発ラマンスペクトルデータセット(ラマン参照群)に基いて多変量解析法を適用する。
ここで、ラマン参照群は多変量解析に用いるための一連の参照スペクトルである。これは少なくとも種々のタンパク質と核酸と検体に含まれると予想される分子種を含む様々な分子種から構成され、これらの分子種の混合比や濃度を変えて測定した一連の自発ラマンスペクトルを意味する。
このステップにおいて、核酸由来のバンドであってタンパク質由来のバンドが重ならない振動数領域の自発ラマンスペクトルの強度が指標となるため、多変量解析法を適用することで検体のこの領域の自発ラマンスペクトルをラマン参照群を用いて再構築できる。スペクトルを再構築する際には検体のこの領域の自発ラマンスペクトルに寄与する核酸のスペクトル強度を算出するため、検体中の核酸の存在量が算出できる。
(c) ステップ(b)で算出した核酸の存在量と別途取得したp-CARSスペクトルデータセット(CARS参照群)を用いることで、検体のp-CARSスペクトルに寄与する核酸のスペクトル強度が算出できる。
ここでCARS参照群は、少なくとも種々のタンパク質と核酸と検体に含まれると予想される分子種を含む様々な分子種から構成され、これらの分子種の混合比や濃度を変えて測定した一連のp-CARSスペクトルを意味する。
算出した核酸のスペクトル強度を検体のp-CARSスペクトルから除去する。これにより、核酸の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルが取得できる。
(d) ステップ(c)で得られた核酸の寄与を除去したp-CARSスペクトルに対して多変量解析法を適用する。核酸の寄与を除去したp-CARSスペクトルでは、タンパク質のコンフォメーション情報を含むバンドに重なっていた核酸のバンド強度が除去されているため、検体のスペクトルからタンパク質のコンフォメーション情報を抽出することが容易になっている。このため、多変量解析法を適用してこのタンパク質のコンフォメーション情報を抽出することで、タンパク質/タンパク質群の分析が行える。すなわち、このステップにおいて、核酸の影響を排除して検体中の特定のタンパク質の同定・定量もしくはタンパク質群の分類を行うことができる。
【0017】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の分析が別途取得した該CARS参照群に基いた多変量解析によって行われる。すなわち、請求項1(d)のステップにおいて該CARS参照群に基いた多変量解析(いわゆる教師付き多変量解析)を行う。
多変量解析がCARS参照群に基くことにより、検体中に含まれるタンパク質/タンパク質群の同定/定量が可能となる。また、CARS参照群を用いて検体中のタンパク質/タンパク質群の主成分分析を行うことでタンパク質/タンパク質群の分類が可能となる。
【0018】
これに対して、請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の分析は別途取得した該CARS参照群に基かない。すなわち、請求項1(d)のステップにおいてCARS参照群を用いずに、少なくとも一つ以上の検体について取得したスペクトルを対象とした多変量解析(いわゆる教師なし多変量解析)を行う。
検体中のタンパク質/タンパク質群の主成分分析を行うことでタンパク質/タンパク質群の分類が可能となる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、請求項1(a)のステップにおいて、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルは検体の同一点で測定する。これにより、検体の測定箇所毎のスペクトルを用いてタンパク質の同定・定量もしくはタンパク質群の分類を行うことが可能となる。また、測定点毎に含有する成分がバラつく場合でも分析が可能となる。
【0020】
請求項5に記載の発明では、分析の対象とする目的分子種/目的分子群として特定のタンパク質/タンパク質群を想定し、タンパク質群と非タンパク質群をスペクトル上で分離し、タンパク質/タンパク質群の分析を行う。分析は以下のステップに従って行う。
ここでタンパク質群は目的とする特定のタンパク質を含む種々のタンパク質を意味する。また、非タンパク質群はタンパク質群以外の生体分子群を意味する。
(a) 検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルを測定する。
ここで、p-CARSスペクトルはタンパク質のコンフォメーション情報を含むバンドの振動数領域について測定する。しかし、このバンドは非タンパク質群由来のバンドと重なってしまっている。そこで、自発ラマンスペクトルは非タンパク質群由来のバンドであってタンパク質群由来のバンドが重ならない振動数領域を含む領域について測定する。
このステップにおいて、分析に用いるための検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルが取得できる。
(b) 測定した検体の自発ラマンスペクトルを、別途取得した多変量解析用の自発ラマンスペクトルデータセット(ラマン参照群)に基いて多変量解析法を適用する。
ここでラマン参照群は、少なくとも検体に含まれると想定される分子種とタンパク質群と非タンパク質群を含む様々な分子種について、その混合比や濃度を変えて測定した一連の自発ラマンスペクトルを意味する。
このステップにおいて、非タンパク質群由来のバンドであってタンパク質群由来のバンドが重ならない振動数領域の自発ラマンスペクトルの強度が指標となるため、多変量解析法を適用することで検体のこの領域の自発ラマンスペクトルをラマン参照群を用いて再構築できる。スペクトルを再構築する際には検体のこの領域の自発ラマンスペクトルに寄与する非タンパク質群のスペクトル強度を算出するため、検体中の非タンパク質群の存在量が算出できる。
(c) ステップ(b)で算出した非タンパク質群の存在量と別途取得したCARS参照群を用い、これらを乗算することで検体のp-CARSスペクトルに寄与する非タンパク質群のスペクトル強度が算出できる。
ここでCARS参照群は、少なくとも検体に含まれると想定される分子種とタンパク質群と非タンパク質群を含む様々な分子種について、その混合比や濃度を変えて測定した一連のp-CARSスペクトルを意味する。
算出した非タンパク質群のスペクトル強度を検体のp-CARSスペクトルから除去する。これにより、非タンパク質群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルが取得できる。
(d) ステップ(c)で得られた非タンパク質群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルに対して多変量解析法を適用する。非タンパク質群の寄与を除去したp-CARSスペクトルでは、タンパク質のコンフォメーション情報を含むバンドに重なっていた非タンパク質群のバンド強度が除去されているため、検体のスペクトルからタンパク質のコンフォメーション情報を抽出することが容易になっている。このため、多変量解析法を適用してこのタンパク質のコンフォメーション情報を抽出することで、タンパク質/タンパク質群の分析が行える。すなわち、このステップに於いて、非タンパク質群の寄与を排除して検体中のタンパク質/タンパク質群の同定・定量もしくはタンパク質群の分類を行うことができる。
【0021】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の分析が別途取得した該CARS参照群に基いた多変量解析によって行われる。すなわち、請求項5(d)のステップにおいて該CARS参照群に基いた多変量解析(いわゆる教師付き多変量解析)を行う。
多変量解析がCARS参照群に基くことにより、検体中に含まれるタンパク質/タンパク質群の同定/定量が可能となる。また、CARS参照群を用いて検体中のタンパク質/タンパク質群の主成分分析を行うことでタンパク質/タンパク質群の分類が可能となる。
【0022】
これに対して、請求項7に記載の発明では、請求項5に記載の分析は別途取得した該CARS参照群に基かない。すなわち、請求項5(d)のステップにおいて該CARS参照群を用いずに、少なくとも一つ以上の検体について取得したスペクトルを対象とした多変量解析(いわゆる教師なし多変量解析)を行う。
検体中のタンパク質/タンパク質群の主成分分析を行うことでタンパク質/タンパク質群の分類が可能となる。
【0023】
請求項8に記載の発明では、請求項5(a)のステップにおいて、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルは検体の同一点で測定する。これにより、検体の測定箇所毎のスペクトルを用いてタンパク質の同定・定量もしくはタンパク質群の分類を行うことが可能となる。また、測定点毎に含有する成分がバラつく場合でも分析が可能となる。
【0024】
前記分析法はタンパク質/タンパク質群の分析に限定されるものではなく、核酸群や糖群等他の分子群の分析にも適用可能である。
請求項9に記載の発明では、目的分子種を含む目的分子種と同一の分類に属する分子群(以下、目的分子群と表記する)と、目的分子とは異なる分類に属する分子群(以下、非目的分子群と表記する)をスペクトル上で分離し、目的分子種/目的分子群の分析を行う。分析は以下のステップに従って行う。
(a) 検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルを測定する。
ここで、p-CARSスペクトルは目的分子群のコンフォメーション情報を含むバンドの振動数領域について測定する。しかし、このバンドは非目的分子群由来のバンドと重なってしまっている。そこで、自発ラマンスペクトルは非目的分子群由来のバンドであって目的分子群由来のバンドが重ならない振動数領域を含む領域について測定する。
このステップにおいて、分析に用いるための検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルが取得できる。
(b) 測定した検体の自発ラマンスペクトルを、別途取得した多変量解析用の自発ラマンスペクトルデータセット(ラマン参照群)に基いて多変量解析法を適用する。
ここでラマン参照群は、目的分子種/目的分子群と非目的分子群を少なくとも含む様々な分子種から構成され、これら分子種/分子群の混合比や濃度を変えて測定した一連の自発ラマンスペクトルを意味する。
このステップにおいて、非目的分子群由来のバンドであって目的分子群由来のバンドが重ならない振動数領域の自発ラマンスペクトルの強度が指標となるため、多変量解析法を適用することで検体のこの領域の自発ラマンスペクトルをラマン参照群を用いて再構築できる。スペクトルを再構築する際には検体のこの領域の自発ラマンスペクトルに寄与する非目的分子群のスペクトル強度を算出するため、検体中の非目的分子群の存在量が算出できる。
(c) ステップ(b)で算出した非目的分子群の存在量と別途取得したCARS参照群を用い、これらを乗算することで検体のp-CARSスペクトルに寄与する非目的分子群のスペクトル強度が算出できる。
ここでCARS参照群は、目的分子種/目的分子群と非目的分子群を少なくとも含む様々な分子種から構成され、これら分子種/分子群の混合比や濃度を変えて測定した一連のp-CARSスペクトルを意味する
算出した非目的分子群のスペクトル強度を検体のp-CARSスペクトルから除去する。これにより、非目的分子群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルが取得できる。
(d) ステップ(c)で得られた非目的分子群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルに多変量解析法を適用する。非目的分子群の寄与を除去したp-CARSスペクトルでは、目的分子群のコンフォメーション情報を含むバンドに重なっていた非目的分子群のバンド強度が除去されているため、検体のスペクトルから目的分子群のコンフォメーション情報を抽出することが容易になっている。このため、多変量解析法を適用してこの目的分子のコンフォメーション情報を抽出することで、目的分子種/目的分子群の分析が行える。すなわち、このステップにおいて、非目的分子群の寄与を排除して検体中の目的分子種/目的分子群の分析が行える。
【0025】
請求項10に記載の発明では、請求項9に記載の分析が別途取得した該CARS参照群に基いた多変量解析によって行われる。すなわち、請求項9(d)のステップにおいて該CARS参照群に基いた多変量解析(いわゆる教師付き多変量解析)を行う。
多変量解析がCARS参照群に基くことにより、検体中に含まれる目的分子種/目的分子群の同定/定量が可能となる。また、CARS参照群を用いて検体中の目的分子種/目的分子群の主成分分析を行うことで目的分子種/目的分子群の分類が可能となる。
【0026】
これに対して、請求項11に記載の発明では、請求項9に記載の分析は別途取得した該CARS参照群に基かない。すなわち、請求項9(d)のステップにおいて該CARS参照群を用いずに、少なくとも一つ以上の検体について取得したスペクトルを対象とした多変量解析(いわゆる教師なし多変量解析)を行う。
検体中の目的分子種/目的分子群の主成分分析を行うことで目的分子種/目的分子群の分類が可能となる。
【0027】
請求項12に記載の発明では、請求項9(a)のステップにおいて、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルは検体の同一点で測定する。これにより、検体の測定箇所毎のスペクトルを用いて目的分子種/目的分子群の分析を行うことが可能となる。また、測定点毎に含有する成分がバラつく場合でも分析が可能となる。
【0028】
請求項13に記載の発明では、分析の目的分子がタンパク質、核酸、糖もしくは脂質であって、該目的分子のコンフォメーションに基いた分析することを特徴とする。これにより生体分子の詳細な分析が行える。
【0029】
請求項14に記載の発明では、分析の目的分子が水であって、水分子の局所的なコンフォメーションに基いた分析することを特徴とする。これにより生体内の水分子の局所情報が判別できる。
【0030】
請求項15に記載の発明は、請求項1から14のいずれかに記載の分析を行うための装置を提供する。
装置(a)は、請求項1から14のいずれかに記載したステップ(a)を行うための装置である。
これにより、検体の自発ラマンおよびp-CARSスペクトルを測定することができる。
装置(b)は、請求項1から14のいずれかに記載したステップ(b)を行うための装置である。
これにより、検体の自発ラマンスペクトルに、別途取得した目的分子種および該目的分子以外の分子種の自発ラマン参照スペクトル群(ラマン参照群)に基づく多変量解析法を適用し、検体中の該目的分子種以外の分子種の内、該目的分子種と異なる分類に属する分子群(非目的分子群)の存在量を算出することができる。
装置(c)は、請求項1から14のいずれかに記載したステップ(c)を行うための装置である。
これにより、装置(b)を用いて算出した該非目的分子群の存在量を用いて、別途取得した目的分子および該目的分子以外の分子のp-CARS参照スペクトル群(CARS参照群)に基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する該非目的分子群のp-CARSスペクトル強度を算出し、検体のp-CARSスペクトルから該算出した該非目的分子群のp-CARSスペクトルを除去して該目的分子と同一の分類に属する分子群(目的分子群)のp-CARSスペクトルを取得する装置であり、請求項1から14のいずれかに記載したステップ(c)を行うことができる。
装置(d)は、請求項1から14のいずれかに記載したステップ(d)を行うための装置である。
これにより、装置(c)を用いて取得した該目的分子群のp-CARSスペクトルに多変量解析法を適用し、検体中に存在する目的分子群を分析することができる。
【0031】
請求項16に記載の発明では、請求項15(a)において、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルは検体の同一点で測定することを特徴とする。これにより、検体の測定箇所毎のスペクトルを用いて目的分子種/目的分子群の分析を行うことが可能となる。また、測定点毎に含有する成分がバラつく場合でも分析が可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、自発ラマン分光法とp-CARS分光法を併用することで単独では困難であった正確な検体の分析法および装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の第1の実施形態に係る分析法について、図1を参照して以下に説明する。まず、ステップ(a)として、検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルを測定する。ここで、p-CARSスペクトルはタンパク質のコンフォメーション情報を含むバンドの振動数領域について測定する。例えば、
amide I振動バンド領域(1600 ~ 1710 cm-1)
amide III振動領域(1240~1280 cm-1)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。しかし、このバンドは非タンパク質群由来のバンドと重なってしまっている。そこで、自発ラマンスペクトルは核酸由来のバンドであってタンパク質由来のバンドが重ならない振動数領域を含む領域について測定する。例えば、
PO2-対称伸縮振動(1100 cm-1近傍)
O-P-O伸縮振動(848 cm-1近傍)
環呼吸振動(785 cm-1近傍)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。また、検体のp-CARSスペクトルの測定では、振動を誘起する2本のレーザー光の偏光を操作したり、発生するコヒーレントラマン信号を検出する偏光角度を調整する等、複数の条件で測定してもよい。このステップにおいて、分析に用いるための検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルが取得できる。
尚、ステップ(a)において、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルの測定は検体の同一点で測定しても良い。例えば検体が生体組織である場合、検体の測定場所によって含有する成分が異なる場合もあるが、同一点で該2つの分光法によるスペクトルを測定することにより、測定点毎のスペクトルを用いてタンパク質の同定・定量もしくはタンパク質群の分類を行うことが可能となる。
また、ステップ(a)において、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルの測定は検体の同一点で測定しなくても良い。例えば検体が生体組織から抽出あるいは生体組織の一部もしくは全部を精製した均質な試料の場合、測定点に依らず含有する成分は均一であるため、2つの分光法によるスペクトルを必ずしも同一点で測定する必要はない。
【0034】
次に、ステップ(b)として、測定した検体の自発ラマンスペクトルを、別途取得した多変量解析用の自発ラマンスペクトルデータセット(ラマン参照群)に基いて多変量解析法を適用する。ここで、ラマン参照群は多変量解析に用いるための一連の参照スペクトルである。これは少なくとも種々のタンパク質と核酸と検体に含まれると予想される分子種を含む様々な分子種から構成され、これらの分子種の混合比や濃度を変えて測定した一連の自発ラマンスペクトルを意味する。このステップにおいて、核酸由来のバンドであってタンパク質由来のバンドが重ならない振動数領域の自発ラマンスペクトルの強度が指標となるため、多変量解析法を適用することで検体のこの領域の自発ラマンスペクトルをラマン参照群を用いて再構築できる。スペクトルを再構築する際には検体のこの領域の自発ラマンスペクトルに寄与する核酸のスペクトル強度を算出するため、検体中の核酸の存在量が算出できる。
【0035】
また、ラマン参照群に使用する光源やサンプルセル、光学部品、光学部材等の装置関数や分光器の応答関数に関して取得したデータを含めることで分析精度の向上が見込まれる。
このステップにおいて、上記自発ラマンスペクトルの測定領域の情報を有効に利用することで、検体中の核酸の存在量が算出できる。ここで、多変量解析法は核酸の存在量を検量する目的で使用するが、Classical Least Squares (CLS)回帰法、Partial Least Squares (PLS)、非線形PLS、Quadratic PLS (QPLS)、kernel PLS (KPLS)、Principal Components Regression (PCR)、Inverse Least Squares (ILS)、Multiple Linear Regression (MLR)、Principal Components Analysis (PCA)、Multivariate Curve Resolution (MCR)、Self Modeling Curve Resolution (SMCR)、Generalized Rank Annihilation Method (GRAM)、Tri-Linear Decomposition (TLD)、Parallel Factor Analysis (PARAFAC)、Tucker models、Ridge Regression (RR)、Continuum Regression (CR)法のいずれか一つもしくは複数の組合せで用いてもよい。
【0036】
続いてステップ(c)として、ステップ(b)で算出した核酸の存在量と別途取得したp-CARSスペクトルデータセット(CARS参照群)用い、これらを乗算することで検体のp-CARSスペクトルに寄与する核酸のスペクトル強度が算出できる。その核酸の寄与分のスペクトル強度を測定した検体のp-CARSスペクトルからを減算し、核酸の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルが取得できる。なお、CARS参照群は、少なくとも種々のタンパク質と核酸と検体に含まれると予想される分子種を含む様々な分子種から構成され、これらの分子種の混合比や濃度を変えて測定した一連のp-CARSスペクトルを意味する。また、CARS参照群に使用する光源やサンプルセル、光学部品、光学部材等の装置関数や分光器の応答関数に関して取得したデータを含めることで分析精度の向上が見込まれる。さらに、p-CARSスペクトルでは検出法に応じて分子の濃度に線形もしくは濃度の2乗に比例してバンド強度が決定されることが知られていることから、濃度との相関を考慮して算術処理を行う。
【0037】
最後にステップ(d)では、ステップ(c)で得られた核酸の寄与を除去したp-CARSスペクトルに対して多変量解析法を適用する。核酸の寄与を除去したp-CARSスペクトルでは、タンパク質のコンフォメーション情報を含むバンドに重なっていた核酸のバンド強度が除去されているため、検体のスペクトルからタンパク質のコンフォメーション情報を抽出することが容易になっている。このため、多変量解析法を適用してこのタンパク質のコンフォメーション情報を抽出することで、タンパク質の分析が行える。すなわち、このステップにおいて、核酸の影響を排除して検体中の特定のタンパク質の同定・定量もしくはタンパク質群の分類を行うことができる。また、該分析は、上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せを用いて行ってもよい。
【0038】
続いて、本発明の第2の実施形態に係る分析法について、図2を参照して以下に説明する。本発明の第2の実施形態は(a)〜(d)の4つのステップからなる。ここで、ステップ(a), (b), (c)に関しては第1の実施形態と同じため、説明を省略する。ステップ(d)では、ステップ(c)で得られた核酸の寄与を除去したp-CARSスペクトルに対して多変量解析法を適用し、検体中のタンパク質の分析を行う。このステップにおける多変量解析法を用いた分析は、別途取得した該CARS参照群に基いた多変量解析によって行われる。すなわち、該CARS参照群に基いた多変量解析(いわゆる教師付き多変量解析)を行う。これにより、検体中に含まれるタンパク質/タンパク質群の同定/定量が可能となる。また、CARS参照群を用いて検体中のタンパク質/タンパク質群の主成分分析を行うことでタンパク質/タンパク質群の分類が可能となる。また、該分析は、上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せを用いて行ってもよい。
【0039】
続いて、本発明の第3の実施形態に係る分析法について、図3を参照して以下に説明する。本発明の第3の実施形態は(a)〜(d)の4つのステップからなる。
ステップ(a), (b), (c)に関しては第1および第2の実施形態と同じため、説明を省略する。
ステップ(d)では、ステップ(c)で得られた核酸の寄与を除去したp-CARSスペクトルに対して多変量解析法を適用し、検体中のタンパク質の分析を行う。このステップにおける多変量解析法を用いた分析は、別途取得した該CARS参照群に基かない。すなわち、ステップ(a)から(c)を少なくとも一つ以上の検体に対して適用し、取得した核酸の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトル自体を用いて多変量解析(いわゆる教師なしの多変量解析)を行う。検体中のタンパク質/タンパク質群の主成分分析を行うことでタンパク質/タンパク質群の分類が可能となる。また、該分析は、上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せを用いて行ってもよい。
【0040】
続いて、本発明の第4の実施形態に係る分析法について、図4を参照して以下に説明する。ここでは、分析の対象とする目的分子種/目的分子群として特定のタンパク質/タンパク質群を想定し、タンパク質群と非タンパク質群をスペクトル上で分離し、タンパク質/タンパク質群の分析を行う。分析は以下のステップに従って行う。まず、ステップ(a)として、検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルを測定する。ここで、p-CARSスペクトルはタンパク質のコンフォメーション情報を含むバンドの振動数領域について測定する。例えば、
amide I振動バンド領域(1600 ~ 1710 cm-1)
amide III振動領域(1240~1280 cm-1)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。しかし、このバンドは非タンパク質群由来のバンドと重なってしまっている。そこで、自発ラマンスペクトルは非タンパク質群由来のバンドであってタンパク質群由来のバンドが重ならない振動数領域を含む領域について測定する。例えば、
PO2-対称伸縮振動(1100 cm-1近傍)
O-P-O伸縮振動(848 cm-1近傍)
環呼吸振動(785 cm-1近傍)
脂質のC=O伸縮振動(1750 cm-1近傍)
水のOH伸縮振動(3000 cm-1近傍)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。また、検体のp-CARSスペクトルの測定では、振動を誘起する2本のレーザー光の偏光を操作したり、発生するコヒーレントラマン信号を検出する偏光角度を調整する等、複数の条件で測定してもよい。このステップにおいて、分析に用いるための検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルが取得できる。
尚、ステップ(a)において、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルの測定は検体の同一点で測定しても良い。例えば検体が生体組織である場合、検体の測定場所によって含有する成分が異なる場合もあるが、同一点で該2つの分光法によるスペクトルを測定することにより、測定点毎のスペクトルを用いてタンパク質の同定・定量もしくはタンパク質群の分類を行うことが可能となる。
また、ステップ(a)において、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルの測定は検体の同一点で測定しなくても良い。例えば検体が生体組織から抽出あるいは生体組織の一部もしくは全部を精製した均質な試料の場合、測定点に依らず含有する成分は均一であるため、2つの分光法によるスペクトルを必ずしも同一点で測定する必要はない。
【0041】
次に、ステップ(b)として、測定した検体の自発ラマンスペクトルを、別途取得した多変量解析用の自発ラマンスペクトルデータセット(ラマン参照群)に基いて多変量解析法を適用する。ここで、ラマン参照群は多変量解析に用いるための一連の参照スペクトルである。これは少なくとも検体に含まれると想定される分子種とタンパク質群と非タンパク質群を含む様々な分子種について、その混合比や濃度を変えて測定した一連の自発ラマンスペクトルを意味する。このステップにおいて、非タンパク質群由来のバンドであってタンパク質群由来のバンドが重ならない振動数領域の自発ラマンスペクトルの強度が指標となるため、多変量解析法を適用することで検体の自発ラマンスペクトルをラマン参照群を用いて再構築できる。スペクトルを再構築する際には検体の自発ラマンスペクトルに寄与する非タンパク質群のスペクトル強度を算出するため、検体中の非タンパク質群の存在量が算出できる。ここで、多変量解析法は非タンパク質群の存在量を検量する目的で使用するが、上述の多変量解析法のうちいずれか一つもしくは複数の組合せで用いてもよい。
【0042】
続いてステップ(c)として、ステップ(b)で算出した非タンパク質群の存在量と別途取得したCARS参照群を用い、これらを乗算することで検体のp-CARSスペクトルに寄与する非タンパク質群のスペクトル強度が算出できる。この非タンパク質群の寄与分のスペクトル強度を測定した検体のp-CARSスペクトルからを減算し、タンパク質群以外の分子群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルが取得できる。なお、CARS参照群は、CARS参照群は、少なくとも検体に含まれると想定される分子種とタンパク質群と非タンパク質群を含む様々な分子種について、その混合比や濃度を変えて測定した一連のp-CARSスペクトルを意味する。また、p-CARSスペクトルでは検出法に応じて分子の濃度に線形もしくは濃度の2乗に比例してバンド強度が決定されることが知られていることから、濃度との相関を考慮して算術処理を行う。
【0043】
最後にステップ(d)では、ステップ(c)で得られた非タンパク質群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルに対して多変量解析法を適用する。非タンパク質群の寄与を除去したp-CARSスペクトルでは、タンパク質のコンフォメーション情報を含むバンドに重なっていた非タンパク質群のバンド強度が除去されているため、検体のスペクトルからタンパク質のコンフォメーション情報を抽出することが容易になっている。このため、多変量解析法を適用してこのタンパク質のコンフォメーション情報を抽出することで、タンパク質/タンパク質群の分析が行える。すなわち、このステップに於いて、非タンパク質群の寄与を排除して検体中のタンパク質/タンパク質群の同定・定量もしくはタンパク質群の分類を行うことができる。また、該分析は、上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せを用いて行ってもよい。
【0044】
また、ステップ(d)において多変量解析法を用いた分析は、別途取得した該CARS参照群に基いた多変量解析によって行ってもよい。すなわち、該CARS参照群に基いた、いわゆる教師付き多変量解析を行ってもよい。多変量解析がCARS参照群に基くことにより、検体中に含まれるタンパク質/タンパク質群の同定/定量が可能となる。また、CARS参照群を用いて検体中のタンパク質/タンパク質群の主成分分析を行うことでタンパク質/タンパク質群の分類が可能となる。また、該分析は、上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せを用いて行ってもよい。
【0045】
また、ステップ(d)において多変量解析法を用いた分析は、別途取得した該CARS参照群に基かなくてもよい。すなわち、ステップ(a)から(c)を少なくとも一つ以上の検体に対して適用し、取得した非タンパク質群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトル自体を用いて多変量解析(いわゆる教師なしの多変量解析)を行う。検体中のタンパク質/タンパク質群の主成分分析を行うことでタンパク質/タンパク質群の分類が可能となる。また、該分析は、上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せを用いて行ってもよい。
【0046】
続いて、本発明の第5の実施形態に係る分析法について、図5を参照して以下に説明する。本発明では目的分子種/目的分子群と非目的分子群を分離し、目的分子種/目的分子群の分析を行う。なお、目的分子種を特定のコンフォメーションを有するタンパク質とした場合には、種々のタンパク質群と、タンパク質以外の分子群である核酸群、糖群、脂質群、水等の分子群とをスペクトル上で分離し、タンパク質/タンパク質群の分析を行う。
目的分子種を特定のコンフォメーションを有する核酸とした場合には、種々のコンフォメーションを有する核酸群と、核酸以外の分子群であるタンパク質群、糖群、脂質群、水等の分子群とをスペクトル上で分離し、核酸/核酸群の分析を行う。また、目的分子種を特定のコンフォメーションを有する糖とした場合には、種々のコンフォメーションを有する糖群と、糖以外の分子群であるタンパク質群、核酸群、脂質群、水等の分子群とをスペクトル上で分離し、糖/糖群の分析を行う。
【0047】
かかる分析を具体的に説明すると以下のステップに従って行う。まず、ステップ(a)として、検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルを測定する。ここで、p-CARSスペクトルは目的分子群のコンフォメーション情報を含むバンドの振動数領域について測定する。しかし、このバンドは非目的分子群由来のバンドと重なってしまっている。そこで、自発ラマンスペクトルは非目的分子群由来のバンドであって目的分子群由来のバンドが重ならない振動数領域を含む領域について測定する。例えば、目的分子種がタンパク質の場合、p-CARSスペクトルでは、
amide I振動バンド領域(1600 ~ 1710 cm-1)
amide III振動領域(1240~1280 cm-1)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。
一方、自発ラマンスペクトルでは、
PO2-対称伸縮振動(1100 cm-1近傍)
O-P-O伸縮振動(848 cm-1近傍)
核酸の環呼吸振動(785 cm-1近傍)
脂質、脂肪酸のC=O伸縮振動(1750 cm-1近傍)
水のOH伸縮振動(3000 cm-1近傍)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。
尚、ステップ(a)において、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルの測定は検体の同一点で測定しても良い。例えば検体が生体組織である場合、検体の測定場所によって含有する成分が異なる場合もあるが、同一点で該2つの分光法によるスペクトルを測定することにより、測定点毎のスペクトルを用いて目的分子種/目的分子群の分析を行うことが可能となる。
また、ステップ(a)において、自発ラマンスペクトルとp-CARSスペクトルの測定は検体の同一点で測定しなくても良い。例えば検体が生体組織から抽出あるいは生体組織の一部もしくは全部を精製した均質な試料の場合、測定点に依らず含有する成分は均一であるため、2つの分光法によるスペクトルを必ずしも同一点で測定する必要はない。
【0048】
また、目的分子種が核酸の場合、p-CARSスペクトルでは、
核酸のグアニン(G)の環呼吸振動(620~685 cm-1)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。
一方、自発ラマンスペクトルでは、
脂質、脂肪酸のC=O伸縮振動(1750 cm-1近傍)
タンパク質のフェニルアラニンの振動(1000 cm-1近傍)
システインのS-S振動(500 cm-1近傍)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。
【0049】
また、目的分子種が糖の場合、p-CARSスペクトルでは、
COH, CCH, OCH変角振動(800~950 cm-1)
C-CおよびC-O伸縮振動(950~1200cm-1)
CH2, CH2OH変角振動(1250~1500 cm-1)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。
一方、自発ラマンスペクトルでは、
核酸の環呼吸振動(785 cm-1近傍)
タンパク質のフェニルアラニンの振動(1000 cm-1近傍)
システインのS-S振動(500 cm-1近傍)
脂質、脂肪酸のC=O伸縮振動(~1750 cm-1近傍)
の振動バンドが挙げられるがこの限りではない。
【0050】
なお、以上の目的分子種に挙げていない分子種(脂質、水)についても、検体の注目部位に脂質成分ないし親水性成分が存在する場合には、その部位の対象分子種のコンフォメーション情報や水分子の局所的構造情報の変化を検出したり監視する目的で本発明を適用することができる。また、検体のp-CARSスペクトルの測定では、振動を誘起する2本のレーザー光の偏光を操作したり、発生するコヒーレントラマン信号を検出する偏光角度を調整する等、複数の条件で測定してもよい。このステップにおいて、分析に用いるための検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルが取得できる。
【0051】
次に、ステップ(b)として、測定した検体の自発ラマンスペクトルを、別途取得した多変量解析用の自発ラマンスペクトルデータセット(ラマン参照群)に基いて多変量解析法を適用する。ここでラマン参照群は、少なくとも目的分子種/目的分子群と非目的分子群を含む様々な分子種から構成され、これら分子種/分子群の混合比や濃度を変えて測定した一連の自発ラマンスペクトルを意味する。このステップにおいて、非目的分子群由来のバンドであって目的分子群由来のバンドが重ならない振動数領域の自発ラマンスペクトルの強度が指標となるため、多変量解析法を適用することで検体のこの領域の自発ラマンスペクトルをラマン参照群を用いて再構築できる。スペクトルを再構築する際には検体のこの領域の自発ラマンスペクトルに寄与する非目的分子群のスペクトル強度を算出するため、検体中の非目的分子群の存在量が算出できる。ここで、多変量解析法は非目的分子群の存在量を検量する目的で使用するが、上述の多変量解析法のうちいずれか一つもしくは複数の組合せで用いてもよい。
【0052】
続いてステップ(c)として、ステップ(b)で算出した非目的分子群の存在量と別途取得したp-CARSスペクトルデータセット(CARS参照群)を用い、これらを乗算することで検体のp-CARSスペクトルに寄与する非目的分子群のスペクトル強度が算出できる。算出した非目的分子群の寄与分のスペクトル強度を測定した検体のp-CARSスペクトルからを減算することで、タンパク質群以外の分子群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルが取得できる。なお、CARS参照群は、少なくとも目的分子種/目的分子群と非目的分子群を含む様々な分子種から構成され、これら分子種/分子群の混合比や濃度を変えて測定した一連のp-CARSスペクトルを意味する。また、p-CARSスペクトルでは検出法に応じて分子の濃度に線形もしくは濃度の2乗に比例してバンド強度が決定されることが知られていることから、濃度との相関を考慮して算術処理を行う。
【0053】
最後にステップ(d)では、ステップ(c)で得られた非目的分子群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトルに対して多変量解析法を適用する。非目的分子群の寄与を除去したp-CARSスペクトルでは、目的分子群のコンフォメーション情報を含むバンドに重なっていた非目的分子群のバンド強度が除去されているため、検体のスペクトルから目的分子群のコンフォメーション情報を抽出することが容易になっている。このため、多変量解析法を適用してこの目的分子のコンフォメーション情報を抽出することで、目的分子種/目的分子群の分析が行える。すなわち、このステップにおいて、非目的分子群の寄与を排除して検体中の目的分子種/目的分子群の分析が行える。また、該分析は、上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せを用いて行ってもよい。
【0054】
また、ステップ(d)において多変量解析法を用いた分析は、別途取得した該CARS参照群に基いた多変量解析によって行ってもよい。すなわち、該CARS参照群に基いた多変量解析、いわゆる教師付き多変量解析を行ってもよい。多変量解析がCARS参照群に基くことにより、検体中に含まれる目的分子種/目的分子群の同定/定量が可能となる。また、CARS参照群を用いて検体中の目的分子種/目的分子群の主成分分析を行うことで目的分子種/目的分子群の分類が可能となる。また、該分析は、上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せを用いて行ってもよい。
【0055】
また、ステップ(d)において多変量解析法を用いた分析は、別途取得した該CARS参照群に基かなくてもよい。すなわち、ステップ(a)から(c)を少なくとも一つ以上の検体に対して適用し、取得した非目的分子群の寄与を除去した検体のp-CARSスペクトル自体を用いて多変量解析(いわゆる教師なしの多変量解析)を行ってもよい。検体中の目的分子種/目的分子群の主成分分析を行うことで目的分子種/目的分子群の分類が可能となる。また、該分析は、上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せを用いて行ってもよい。
【0056】
続いて、本発明の第6の実施形態に係る分析装置について、図6を参照して以下に説明する。本実施形態は本発明の一実施形態を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されるわけではない。検体の自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルを測定する装置(以下、装置(a)と表記する)において検体の自発ラマンスペクトルの測定は自発ラマン分光装置601を用いて行う。
【0057】
この自発ラマン分光装置601において、自発ラマン光源611からの自発ラマン励起光613はフィルター612を作用した後、励起レンズ652で集光して試料653に導き、発生する自発ラマン信号光617を受光レンズ654で受光する。受光レンズ654で受光した自発ラマン信号光617はフィルター619および波長分解装置657を作用した後、検出器658で検出される。フィルター612により、自発ラマン励起光613から単一の波長が切り出される。これにより、自発ラマンスペクトルの純度が向上する。また、自発ラマン励起光613の光路に偏光子を備えることにより、所望の偏光を切り出すことを可能としてもよい。これにより、ラマン励起光の偏光比が向上し、ラマンスペクトルの純度を高めることが出来る。また、ラマン励起光613の光路にλ/2板を設置してもよい。これにより、ラマン励起光を所望の方向に偏光操作が可能となる。さらに、ラマン励起光613の光路にλ/4板を設置してもよい。これにより、装置全体で付加される不要な楕円偏光成分が補償され、ラマンスペクトルの純度を高めることができる。
【0058】
自発ラマン信号光617の光路には、自発ラマン励起光613を遮蔽するためにフィルター619が設置されている。これにより自発ラマン励起光が検出器658に入射することを妨げることができる。このフィルター618はノッチフィルターであっても、長波長透過フィルターであっても、バンドパスフィルターであってもよく、また、この限りではない。自発ラマン信号光617には偏光解消板を設置してもよい。これにより波長分解装置658の偏光依存性を軽減することができる。波長分解装置657は、自発ラマン信号光の波長分解を行う。この波長分解装置657は分光器であってもよいし、バンドパスフィルターであってもよいがこの限りではない。
【0059】
検出器658は波長分解した自発ラマン信号光の波長毎の強度を測定する。これにより自発ラマン信号光の波長と強度の関係すなわち自発ラマンスペクトルが取得できる。この検出器658はマルチチャンネルの検出器であってもよいし、シングルチャンネルの検出器でもよいがこの限りではない。
【0060】
自発ラマンスペクトルはコンピューター装置660に記録されてもよい。これによりスペクトル情報の取り扱いが簡便となる。コンピューター装置660は測定した検体の自発ラマンスペクトルを記憶するための記憶媒体670を備えていてもよい。これにより、自発ラマンスペクトル情報を任意に呼び出すことが可能となる。また、コンピューター装置660は測定した検体の自発ラマンスペクトルを表示するための表示装置680を備えていてもよい。これにより測定したラマンスペクトルや記憶したラマンスペクトルを任意に視覚上で確認することができる。
【0061】
装置(a)において検体のp-CARSスペクトルの測定はp-CARS分光装置602を用いて行う。このp-CARS分光装置602はpump光源621およびStokes光源622からのCARS励起光であるpump光637およびStokes光638をビームコンバイナー650を用いて合波する。合波したpump光637およびStokes光638はフィルター640を作用した後、励起レンズ652で集光して試料653に導き、発生するp-CARS信号光618を受光レンズ654で受光する。受光レンズ645で受光したp-CARS信号光618はフィルター655と偏光解消板676と波長分解装置657を作用した後、検出器658で検出される。ここで、pump光源621とStoke光源622はパルスレーザーを用いてもよい。また、pump光パルスとStokes光パルスが同時に試料に到達する様に2つの光源を電気的に同期がとれる様に電気パルス制御装置623が設置されて、電気コントロールパルス624によってコントロールされてもよいが、この限りではない。
【0062】
また、一つの光源を分岐し、一方をpump光637とし、もう一方を波長変換してStokes光638としてもよいが、この限りではない。また、この波長変換装置はオプティカルパラメトリックオシレーターを用いてもよい。これにより電気パルス制御装置なしにp-CARSスペクトルの測定が可能となる。また、この波長変換装置はフォトニッククリスタルファイバーを用いてもよい。これにより電気パルス制御装置なしにp-CARSスペクトルの測定が可能となり、さらに、オプティカルパラメトリックオシレーターよりも安価に波長変換が行える。また、pump光源621とStokes光源622の少なくともどちらか一方を自発ラマン光源601に使用してもよい。これにより装置の簡略化が図れる。
【0063】
また、pump光637の光路には偏光子631を備えることにより所望の偏光を切り出すことを可能としてもよい。これにより、pump光の偏光比が向上し、p-CARSスペクトルの純度を高めることが出来る。Stokes光638の光路には偏光子632を備えることにより所望の偏光を切り出すことを可能としてもよい。これにより、Stokes光の偏光比が向上し、p-CARSスペクトルの純度を高めることが出来る。また、Stokes光638の光路とpump光637の光路の少なくとも一方に、λ/2板633を設置してもよい。これにより、偏光方向を所望の方向に操作可能になり、pump光とStokes光の相対的な偏光角度が調製可能となる。加えて、Stokes光638の光路とpump光637の光路の少なくとも一方に、λ/4板634を設置してもよい。これにより、装置全体で付加される不要な楕円偏光成分を補償し、p-CARSスペクトルの純度を高めることができる。さらに、このλ/4板634を用いて意図的に楕円偏光を作り出してサンプルに照射することによっても、CARSスペクトルには不要な背景光を除去することが可能となる。
【0064】
また、pumpおよびStokes光はビームコンバイナー651によって自発ラマン励起光と同軸に合波してもよいし、光路切り替えミラー651で光路を切り替えてもよい。これにより装置全体の簡略化が図れる。ビームコンバイナー650で合波したpump光およびStokes光の光路に設置したフィルター640を作用することによりpump光およびStokes光に含まれる不要な波長の光を除去してもよい。これによりp-CARSスペクトルの純度を高めることができる。p-CARS信号光618の光路にはpump光およびStokes光を遮蔽するためにフィルター655が設置されている。これによりpumpおよびStokes光が検出器658に入射することを妨げることができる。さらに、p-CARS信号光618の光路には検光子656が設置され、p-CARS信号光618の所望の偏光方向のみの信号が切り出される。これによりp-CARS信号光618からコンフォメーション情報を含んだ偏光成分のみが取り出せる。
【0065】
所望の偏光方向のみを切り出したCARS信号光には、偏光解消板676が作用される。これにより波長分解装置657の偏光依存性を軽減することができる。波長分解装置657は偏光解消板676を作用したp-CARS信号光の波長分解を行う。この波長分解装置657は分光器であってもよいし、バンドパスフィルターであってもよいがこの限りではない。検出器658はマルチチャンネルの検出器であってもよいし、シングルチャンネルの検出器でもよいが、この限りではない。検出器658は波長分解したp-CARS信号光の波長毎の強度を測定する。これによりp-CARS信号光の波長と強度の関係すなわちp-CARSスペクトルが取得できる。
【0066】
p-CARSスペクトルはコンピューター装置660に記録されてもよい。これによりスペクトル情報の取り扱いが簡便となる。コンピューター装置660は測定した検体のp-CARSスペクトルを記憶するための記憶媒体670を備えていてもよい。これにより、p-CARSスペクトル情報を任意に呼び出すことが可能となる。また、コンピューター装置660は測定した検体のp-CARSスペクトルを表示するための表示装置680を備えていてもよい。これにより測定したp-CARSスペクトルや記憶したp-CARSスペクトルを任意に視覚上で確認することができる。
【0067】
検体の自発ラマンスペクトルに、別途取得した目的分子および該目的分子以外の分子の自発ラマン参照スペクトル群(ラマン参照群)に基づく多変量解析法を適用し、検体中の該目的分子以外の分子の内、該目的分子と異なる分類に属する分子(以下、非目的分子群と表記する)の存在量を算出する装置(以下、装置(b)と表記する)はスペクトル演算装置690が担う。このスペクトル演算装置690はコンピューター660からなるが、記憶媒体670および表示装置680を備えていてもよい。このスペクトル演算装置690のコンピューター660は自発ラマン測定装置601に組み込まれたものでもよいがこの限りではない。これにより分析装置全体の簡略化が図れる。また、スペクトル演算装置690のコンピューター660はp-CARSスペクトル測定装置602に組み込まれたものでもよいがこの限りではない。これにより分析装置全体の簡略化が図れる。
【0068】
解析に用いるためのラマン参照群は記憶媒体670に別途取得した自発ラマンスペクトルを記憶しておいて、これを用いてもよい。これにより、他の装置で測定した自発ラマンスペクトルも解析に試用することが可能となる。この場合、装置の特性関数を併用してもよい。これにより装置個体毎の特性が補正可能となる。ラマン参照群は自発ラマン測定装置601を用いて測定し、測定毎にインプットしてもよい。これにより、装置の特性関数に係らず分析が可能となる。さらに、ラマン参照群は自発ラマン測定装置601を用いて測定し、記憶媒体670に記憶してもよい。これにより分析手順が簡便化することができる。ラマン参照群の取り扱いに関してはここに例示した範囲に限定されるものではない。コンピューター660では多変量解析のためのアプリケーションが起動できる様になっていてもよい。これにより複数検体の分析を行うことを簡便化できる。測定した検体の自発ラマンスペクトルとラマン参照群をコンピューター660に入力し、ラマン参照群に基いた多変量解析法を適用することによって、非目的分子群の存在量を算出できる。非目的分子群の存在量は表示装置680によって表示がなされてもよい。これにより分析の途中経過を視覚上で確認でき、分析が良好に行われているかを確認するための情報が得られる。
【0069】
非目的分子群の存在量を用いて、別途取得した目的分子および該目的分子以外の分子のp-CARS参照スペクトル群(CARS参照群)に基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する該非目的分子のp-CARSスペクトル強度を算出し、検体のp-CARSスペクトルから該算出した該非目的分子群のp-CARSスペクトルを除去して該目的分子と同一の分類に属する分子群(以下、目的分子群と表記する)のp-CARSスペクトルを取得する装置(以下、装置(c)と表記する)はスペクトル演算装置690が担う。この装置は、装置(b)を兼ねてもよい。このスペクトル演算装置690はコンピューター660からなるが、記憶媒体670および表示装置680を備えていてもよい。このスペクトル演算装置690のコンピューター660は自発ラマン測定装置601に組み込まれたものでもよいがこの限りではない。これにより分析装置全体の簡略化が図れる。また、スペクトル演算装置690のコンピューター660はp-CARSスペクトル測定装置602に組み込まれたものでもよいがこの限りではない。これにより分析装置全体の簡略化が図れる。
【0070】
解析に用いるためのp-CARS参照群は記憶媒体670に別途取得したp-CARSスペクトルを記憶しておいて、これを用いてもよい。これにより、他の装置で測定した自発ラマンスペクトルも解析に試用することが可能となる。この場合、装置の特性関数を併用してもよい。これにより装置個体毎の特性が補正可能となる。また、CARS参照群はp-CARS測定装置602を用いて測定し、測定毎にインプットしてもよい。これにより、装置の特性関数に係らず分析が可能となる。さらに、CARS参照群はCARS測定装置602を用いて測定し、記憶媒体670に記憶してもよい。これにより分析手順が簡便化することができる。CARS参照群の取り扱いに関してはここに例示した範囲に限定されるものではない。コンピューター660では多変量解析のためのアプリケーションが起動できる様になっていてもよい。これにより複数検体の分析を行うことを簡便化できる。測定した検体のp-CARSスペクトルとCARS参照群と算出した非目的分子群の存在量をコンピューター660に入力する。CARS参照群と算出した非目的分子群の存在量から、演算処理を行うことにより、検体のp-CARSスペクトルに寄与する該非目的分子群のp-CARSスペクトル強度が算出される。さらに、検体のp-CARSスペクトルから該算出した非目的分子群のp-CARSスペクトル強度をコンピューター上で演算によって除去することで、該目的分子群のp-CARSスペクトルを算出することができる。算出結果は、表示装置680によって表示がなされてもよい。これにより分析の途中経過を視覚上で確認でき、分析が良好に行われているかを確認するための情報が得られる。なお、自発ラマンスペクトルを取得するための測定とp-CARSスペクトルとは検体の同一測定点において実行されるので、検体の複数個所の測定点において測定と算出を行った場合には、表示装置680により検体(例えば生体試料)の測定点ごとに結果表示するようにして所望の成分についての分布画像を検体自身の任意の顕微鏡画像(例えば透過画像)とオーバーレイするステップを加えてもよい。
【0071】
該目的分子群のp-CARSスペクトルに多変量解析法を適用し、検体中に存在する目的分子群を分析する装置(以下、装置(d)と表記する)はスペクトル演算装置690が担う。このスペクトル演算装置690は、装置(b)、あるいは、装置(c)を兼ねてもよい。これにより分析装置全体の簡略化が図れる。このスペクトル演算装置690はコンピューター660からなるが、記憶媒体670および表示装置680を備えていてもよい。このスペクトル演算装置690のコンピューター660は自発ラマン測定装置601に組み込まれたものでもよいがこの限りではない。これにより分析装置全体の簡略化が図れる。また、スペクトル演算装置690のコンピューター660はp-CARSスペクトル測定装置602に組み込まれたものでもよいがこの限りではない。これにより分析装置全体の簡略化が図れる。
【0072】
装置(c)を用いて算出した該目的分子群のp-CARSスペクトルとCARS参照群に関するデータは、使用者がコンピューター660に入力することで、該目的分子群のp-CARSスペクトルにCARS参照群に基いた多変量解析法を適用するようになっている。これは、装置(d)を用いて目的分子群の教師付き分析がなされることを意味している。こうして該目的分子群の分析が可能となる。一方、装置(a)から(c)を用いて少なくとも1つの検体の測定を行い、装置(a)から(c)を少なくとも1回以上繰り返して使用して算出される一連の該目的分子群のp-CARSスペクトルをコンピューター660に入力し、多変量解析法を適用する。これは、装置(d)を用いて目的分子群の教師なし分析がなされることを意味している。これにより該目的分子群の分析が可能となる。分析結果は表示装置680によって表示がなされてもよい。これにより分析結果を視覚的に任意に確認することができる。コンピューター660では多変量解析のためのアプリケーションが起動できる様になっていてもよい。これにより複数検体の分析を行うことを簡便化できる。また、このアプリケーションでは上述の多変量解析法のいずれか一つもしくは複数の組合せで多変量解析を行うことができるよう設定されていてもよい。
【0073】
なお、本実施形態では検体からの自発ラマンおよびp-CARS信号光を透過配置で検出しているが、epi配置(図示略)でもよい。epi配置では、レンズと光源との間にビームスプリッターもしくはダイクロイックミラーを備え、ビームスプリッターもしくはダイクロイックミラーで反射した自発ラマン信号光あるいはp-CARS信号光を観測しても良い。この配置において、自発ラマン測定装置では該ビームスプリッターもしくは該ダイクロイックミラーの下流にフィルター619、波長分解装置657を配置して検出器658で検出する。また、p-CARS測定装置では、該ビームスプリッターもしくは該ダイクロイックミラーの下流にフィルター655、検光子656、偏光解消板676を配置して検出器658で検出する。これにより検体における散乱による信号光の損失を低減して分析が可能となる。
【0074】
また、上述した実施形態では、教師付き分析がなされる場合には、測定対象である被検体としての検体の複数個所(または部位)をそれぞれ測定して取得した複数のデータを個別に採用して分析を行ってもよいし、複数の平均的なデータを採用するようにしてもよい。また、教師なしの分析がなされる場合にも、測定対象である被検体としての複数の検体に対して複数個所(または部位)をそれぞれ測定して取得した複数のデータを個別に採用して分析を行ってもよいし、各検体の複数個所の平均的なデータを採用するようにしてもよい。
【0075】
さらに、本発明における自発ラマンによる測定およびp-CARSによる測定の方法および装置は、これら測定原理を改良したり一部変更等した類似の測定原理による方法および装置を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態に係る検体中のタンパク質の分析法のフロー図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る検体中のタンパク質の分析法のフロー図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る検体中のタンパク質の分析法のフロー図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る検体中のタンパク質の分析法のフロー図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る検体中の目的分子と同一の分類に属する分子群の分析法のフロー図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る検体を分析するための装置図である。
【符号の説明】
【0077】
601 自発ラマン測定装置
611 自発ラマン用光源
613 ラマン励起光
612 フィルター
652 励起レンズ
653 試料
654 受光レンズ
617 自発ラマン信号光
619 フィルター
657 波長分解装置
658 検出器
660 コンピューター装置
670 記憶媒体
680 表示装置
602 p-CARS分光装置
621 pump光源
622 Stokes光源
637 pump光
638 Stokes光
650 ビームコンバイナー
651 ビームコンバイナー/切り替えミラー
640 フィルター
623 電気パルス制御装置
624 電気コントロールパルス
631, 632 偏光子
633 λ/2板
634 λ/4板
655 フィルター
656 検光子
676 偏光解消板
690 スペクトル演算装置




【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中のタンパク質の分析を行う方法であって、次のステップを含む;
(a) 少なくとも一つの検体について測定して得られた自発ラマンスペクトルと、別途取得した種々のタンパク質、核酸および検体に含まれると予想される分子種を少なくとも含む分子群の自発ラマン参照スペクトル群(以下、ラマン参照群)とに基づいて、前記検体中の核酸の存在量を算出するステップ、
(b) ステップ(a)において算出した核酸の存在量を用いて、別途取得した種々のタンパク質と核酸と検体に含まれると予想される分子種を含む分子群のp-CARS参照スペクトル群(以下、CARS参照群)とに基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する核酸のp-CARSスペクトル強度を算出するステップ、
(c)少なくとも一つの検体について測定して得られたp-CARSスペクトルから、ステップ(b)で算出した核酸のp-CARSスペクトル成分を除去することにより、核酸以外のp-CARSスペクトルを取得するステップ、
(d) ステップ(c)で取得した核酸以外のp-CARSスペクトルに基づいて検体中に存在する種々のタンパク質に関する分析を行うステップ。
【請求項2】
ステップ(a)の算出は、多変量解析を適用して実行される、請求項1に記載のタンパク質分析法。
【請求項3】
ステップ(d)の分析は、前記CARS参照群に基づく多変量解析を適用して実行される、請求項1または2に記載のタンパク質分析法。
【請求項4】
ステップ(d)の分析は、検体の核酸以外のp-CARSスペクトルを用いて多変量解析を行う、請求項1または3に記載のタンパク質分析法。
【請求項5】
検体についての前記自発ラマンスペクトルおよび前記p-CARSスペクトルは、検体の同一点で測定して取得される、請求項1から4の何れかに記載のタンパク質分析法。
【請求項6】
検体中のタンパク質の分析を行う方法であって、次のステップを含む;
(a) 少なくとも一つの検体について測定して得られた自発ラマンスペクトルと、別途取得した種々のタンパク質および該タンパク質とは異なり且つ検体に含まれると予想される種々の分子種から構成される分子群を少なくとも含む自発ラマン参照スペクトル群(以下、ラマン参照群)とに基づいて、前記検体中のタンパク質とは異なる種々の分子から構成される分子群の存在量を算出するステップ、
(b) ステップ(a)において算出した前記分子群の存在量を用いて、別途取得した種々のタンパク質およびタンパク質とは異なる種々の分子種から構成される分子群についてのp-CARS参照スペクトル群(以下、CARS参照群)とに基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する前記分子群のp-CARSスペクトル強度を算出するステップ、
(c)少なくとも一つの検体について測定して得られたp-CARSスペクトルから、ステップ(b)で算出した前記分子群のp-CARSスペクトル成分を除去することにより、種々のタンパク質についてのp-CARSスペクトルを取得するステップ、
(d) ステップ(c)で取得した種々のタンパク質についてのp-CARSスペクトルに基づいて検体中に存在する種々のタンパク質に関する分析を行うステップ。
【請求項7】
ステップ(d)の分析は、前記CARS参照群に基づく多変量解析を適用して実行される、請求項6に記載のタンパク質分析法。
【請求項8】
ステップ(d)の分析は、検体に含まれる種々のタンパク質のp-CARSスペクトルを用いた多変量解析を適用して実行される、請求項6に記載のタンパク質分析法。
【請求項9】
検体についての前記自発ラマンスペクトルおよび前記とp-CARSスペクトルは、検体の同一点で測定して取得される、請求項6から8の何れかに記載のタンパク質分析法。
【請求項10】
検体中の目的分子種もしくは目的分子種と同一の分類に属する分子群の分析を行う方法であって、次のステップを含む;
(a) 少なくとも一つの検体について測定して得られた自発ラマンスペクトルと、別途取得した目的分子種および該目的分子種以外の検体に含まれると予想される分子種を少なくとも含む自発ラマン参照スペクトル群(以下、ラマン参照群)とに基づいて、前記検体中の目的分子種以外の分子種のうち、該目的分子種とは異なる分類に属する分子種の存在量を算出するステップ、
(b) ステップ(a)において算出した前記分子種の存在量を用いて、別途取得した目的分子種および該目的分子種以外の検体に含まれると予想される分子種についてのp-CARS参照スペクトル群(以下、CARS参照群)とに基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する前記分子群のp-CARSスペクトル強度を算出するステップ、
(c)少なくとも一つの検体について測定して得られたp-CARSスペクトルから、ステップ(b)で算出した前記分子群のp-CARSスペクトル成分を除去することにより、目的分子種と同一の分類に属する分子群についてのp-CARSスペクトルを取得するステップ、
(d) ステップ(c)で取得した目的分子種と同一の分類に属する分子群についてのp-CARSスペクトルに基づいて検体中に存在する種々のタンパク質に関する分析を行うステップ。
【請求項11】
ステップ(a)の算出は、多変量解析を適用して実行される、請求項10に記載の分子群の分析法。
【請求項12】
ステップ(d)の分析は、前記CARS参照群に基づく多変量解析を適用して実行される、請求項10または11に記載の分子群の分析法。
【請求項13】
ステップ(d)の分析は、検体中に存在する該目的分子種と同一の分類に属する分子群のp-CARSスペクトルを用いた多変量解析を適用して実行される、請求項10または11に記載の目的分子種と同一の分類に属する分子群の分析法。
【請求項14】
ステップ(a)は、前記自発ラマンスペクトルの測定および前記p-CARSスペクトルの測定を検体の同一点で測定する、請求項10から13の何れかに記載の分子群の分析法。
【請求項15】
前記目的分子が、タンパク質、核酸、糖もしくは脂質であって、該目的分子のコンフォメーションに基いた分析を行う、請求項10から14の何れかに記載の分析法。
【請求項16】
請求項9〜12に記載の分析法において、目的分子が水であって、水分子の局所的なコンフォメーションに基いた分析を行うことを特徴とする分子群の分析法。
【請求項17】
検体中の目的分子種と同一の分類に属する分子群の分析を行う装置であって、
少なくとも一つの検体の自発ラマンおよびp-CARSスペクトルを測定する測定手段と、
前記測定手段から得られたスペクトルデータに基づいて解析を行う手段とを備え、
前記解析手段は次の手段を含む;
(a) 少なくとも一つの検体の自発ラマンスペクトルに、別途取得した目的分子種および該目的分子種以外の分子種の自発ラマン参照スペクトル群(以下、ラマン参照群)に基づいて、検体中の該目的分子種以外の分子種のうち該目的分子種と異なる分類に属する分子種の存在量を算出する存在量算出手段、
(b) 前記存在量算出手段により算出された該目的分子種と異なる分類に属する分子種の存在量と、別途取得した目的分子種および検体に含まれると予想される前記目的分子種以外の分子種についてのp-CARS参照スペクトル群(以下、CARS参照群)とに基いて、検体のp-CARSスペクトルに寄与する目的分子種と異なる分類に属する分子種のp-CARSスペクトル強度を算出するスペクトル強度算出手段、
(c) 前記スペクトル強度算出手段により算出された目的分子種と異なる分類に属する分子種についてのp-CARSスペクトル成分を、前記検体のp-CARSスペクトルから除去して該目的分子種と同一の分類に属する分子群のp-CARSスペクトルを取得するスペクトル取得手段、
(d) 前記スペクトル取得手段により取得した該目的分子種と同一の分類に属する分子群のp-CARSスペクトルに基づき、検体中に存在する目的分子種と同一の分類に属する分子群を分析する手段。
【請求項18】
前記解析手段がさらに(a)または(c)の少なくとも一つの手段において多変量解析を適用する、請求項17に記載の分析装置。
【請求項19】
前記測定手段による自発ラマンスペクトルおよびp-CARSスペクトルの測定点が検体の同一点に設定されている、請求項17または18に記載の分析装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−203097(P2011−203097A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70249(P2010−70249)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】