説明

分析用蒸留装置

【課題】液体試料中のシアン又はフェノールの分析において試料の前処理に使用される蒸留装置であって、装置構成を簡素化でき且つ小型化を図ることが出来、操作性にも優れた分析用蒸留装置を提供する。
【解決手段】分析用蒸留装置は、複数系統の試料処理機器と蒸留用の加熱手段(2)とを備え、各系統の試料処理機器は、液体試料を収容して加熱手段により加熱される試料容器(3)と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器(4)と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器(5)とから主に構成される。そして、加熱手段(2)は、上面が平坦に形成された金属製ブロック(20)にヒーター(23)を埋設して成り、加熱手段(2)の上面には、試料容器(3)を装填可能な容器装填穴(21)が少なくとも試料処理機器の系統数に相当する数設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析用蒸留装置に関するものであり、詳しくは、液体試料中のシアン又はフェノールの分析において試料の前処理に使用される分析用蒸留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場排水や環境水の汚染管理として行われる全シアンやフェノールの分析においては、工場排水などから採取した試料を前処理として蒸留し、得られた留出液を吸光光度法などによって分析している。例えばシアンの分析における蒸留操作では、試料に少量の水およびリン酸を加えてpHを調整した後、EDTA溶液を添加して蒸留し、留出液を水酸化ナトリウム溶液に捕集する。また、フェノールの分析における蒸留操作では、試料に少量の水およびリン酸を加えてpHを調整した後、硫酸銅(II)溶液を添加して蒸留し、留出液を捕集する。
【0003】
上記の様な蒸留操作においては、試料を蒸留する蒸留フラスコと、発生させた蒸気を冷却する冷却器と、留出液を収容するメスシリンダー等の受器とから主に構成された分析装置が使用される。そして、蒸留フラスコの加熱には、当該蒸留フラスコの底部形状に倣って断熱材により半球状の窪みとして形成されたフラスコ保持穴に電熱線を埋設して成る所謂マントルヒーターが使用される。
【非特許文献1】JIS規格票 K0102,図38.2(1998年)
【特許文献1】特開平9−89869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、工場排水や環境水などの水分析においては、通常、多数の場所で試料を採取し、多数の試料を分析するため、作業の効率化を図る観点から、前処理においては、上記の様な蒸留装置を複数組使用している。換言すれば、蒸留フラスコ、受器および蒸留フラスコ加熱用のマントルヒーターを複数組準備し、そして、各試料の処理を略同時に行っている。従って、蒸留装置が全体として大掛かりな装置となり、また、操作も煩雑化している。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、液体試料中のシアン又はフェノールの分析において試料の前処理に使用される蒸留装置であって、装置構成を簡素化でき且つ小型化を図ることが出来、操作性にも優れた分析用蒸留装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、試料蒸留用の試料容器、蒸気液化用の冷却器および留出液収容用の受器から成る一連の試料処理機器を複数系統設けると共に、各試料容器の加熱手段として、複数個の容器装填穴が備えられて同時に複数の試料容器を加熱可能なブロック構造の加熱手段を各系統に対して共通に使用することにより、装置構成を簡素化し、小型化を図った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、液体試料中のシアン又はフェノールの分析において試料の前処理に使用される分析用蒸留装置であって、複数系統の試料処理機器と蒸留用の加熱手段とを備え、前記各系統の試料処理機器は、液体試料を収容して前記加熱手段により加熱される試料容器と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器とから主に構成され、前記加熱手段は、上面が平坦に形成された金属製ブロックにヒーターを埋設して成り、前記加熱手段の上面には、前記試料容器を装填可能な容器装填穴が少なくとも前記試料処理機器の系統数に相当する数設けられていることを特徴とする分析用蒸留装置に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分析用蒸留装置によれば、試料容器、冷却器および受器から成る一連の試料処理機器が複数系統設けられ、金属製ブロックにヒーターを埋設して成る共通の加熱手段を備えており、加熱手段の上面に各系統の試料容器を整然と配置してこれら試料容器を同時に加熱できるため、装置構成を簡素化することが出来かつ小型化を図ることが出来、操作性を向上させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る分析用蒸留装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る分析用蒸留装置の主要部の構造を一部破断して示す側面図であり、図2は、図1の分析用蒸留装置における試料処理機器の配置および加熱手段の容器装填穴の配置を示す平面図である。なお、以下の説明においては、分析用蒸留装置を「蒸留装置」と略記する。
【0010】
本発明の蒸留装置は、液体試料中のシアン又はフェノールの分析において試料の前処理に使用される装置であり、工場排水や環境水の分析において複数の試料を同時に処理し得る様に、複数系統の試料処理機器と図中に符号(2)で示す蒸留用の加熱手段とを備えている。
【0011】
上記の試料処理機器は、通常は4〜8系統、例えば図2に示す様に8系統設けられる。各系統の試料処理機器は、図1に示す様に、液体試料を収容して加熱手段(2)により加熱される試料容器(3)と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器(4)と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器(5)とから主に構成される。
【0012】
試料容器(3)は、収容した液体試料を蒸留するための容器であり、後述する加熱手段(2)の容器装填穴(21)に配置される。試料容器(3)としては、有底円筒状のガラス製容器が使用され、その外径は30〜40mm、高さは100〜130mm、内容積は50〜70ml程度である。試料容器(3)は、その上端に蒸留管(31)が取り付けられており、当該試料容器で発生した蒸気中の水蒸気の一部を蒸留管(31)で再液化して試料容器に還流することにより、水蒸気とシアン等の分析成分とを効率良く蒸留する様になされている。そして、試料容器(3)の蒸留管(31)の頂部には、抽出された蒸気を冷却器(4)に送気するガラス製の送気管(95)が取り付けられている。
【0013】
冷却器(4)は、例えば、後述する加熱手段(2)を収容するケーシング(1)の側壁に支持金具で固定されることにより当該ケーシングの側面側に配置される。冷却器(4)は、蒸気が通過する流路としての内管が外套容器に収容されたガラス製の器具であり、別途設置された冷却水循環装置(7)から外套容器に冷却水を循環させることにより、内管を通過する蒸気を冷却する様に構成されている。冷却器(4)の外套容器の内容積は、20〜30ml程度である。冷却器(4)の下端には、内管に連続して留出液採取管(41)が取り付けられており、留出液採取管(41)は、受器(5)に挿入されている。すなわち、冷却器(4)は、これを通過する蒸気を液化し、その留出液を受器(5)に滴下する様になされている。
【0014】
上記の冷却水循環装置(7)は、例えば、空冷方式の冷凍機、冷却水の循環ポンプ及び水槽から主に構成され、15〜20℃に温度調節した冷却水を冷却器(4)に供給する様になされている。上記の冷凍機としては、冷凍能力が300〜1000kcal、消費電力が350〜1000W程度のものが使用される。循環ポンプとしては、7〜20L/min程度のポンプが使用される。
【0015】
蒸留装置においては、冷却水循環装置(7)の冷却水供給口と冷却水回収口をそれぞれ分岐させ、各系統の冷却器(4)に対して個別に冷却水を循環させることも出来るが、例えば図2に示す様に8系統の試料処理機器が配置された蒸留装置においては、各系統の冷却器(4)が直列的に接続され、冷却水循環装置(7)から1つの冷却器(4)に供給した冷却水を他の冷却器(4)に順次に循環させ、他の1つの冷却器(4)から排出される冷却水を冷却水循環装置(7)に回収する様に構成されてもよい。
【0016】
具体的には、冷却水循環装置(7)から先ず第1の冷却器(4)(図2の左下に示す冷却器)に冷却水供給管(96)(図1及び図2参照)によって冷却水が供給され、当該第1の冷却器から排出される冷却水が冷却水転送管(97)(図2参照)によって第2の冷却器(4)(図2の左下から2番目に示す冷却器)に供給され、以降、同様にして第3〜第8の各冷却器(4)に順次供給され、そして、第8の冷却器(4)(図2の右下に示す冷却器)から排出される冷却水が冷却水回収管(98)(図2参照)によって冷却水循環装置(7)に回収される様に構成される。なお、冷却水供給管(96)、冷却水転送管(97)及び冷却水回収管(98)としては、樹脂または合成ゴム製の可撓性チューブが使用される。
【0017】
受器(5)は、図1に示す様に、蒸留された液体試料の留出液を収容する容器であり、高さ調節可能な支持台(14)に載せられてケーシング(1)の側面側の冷却器(4)の下方に配置される。受器(5)としては、通常50又は100ml、好ましくは50mlのメスフラスコが使用される。なお、図示を省略するが、上記の様な試料処理機器においては、流路の開閉あるいは流量調節を行うためのコック(弁)が送気管(95)や冷却器(4)出口に設けられる。
【0018】
本発明の蒸留装置においては、装置構成を一層コンパクト化するため、図1に示す様に、各系統において共通に使用する加熱手段(2)が設けられる。斯かる加熱手段(2)は、上面が平坦に形成された金属製のブロック(20)にヒーター(23)を埋設して成り、加熱手段(2)の上面には、試料容器(3)を装填可能な容器装填穴(21)が少なくとも試料処理機器の系統数に相当する数設けられる。
【0019】
上記のブロック(20)は、外形を直方体に形成されたブロックであり、砲金や鉄などで構成することも出来るが、通常は、熱伝導度が高く且つ成型性が良好なアルミニウム又はアルミニウム合金によって構成される。ブロック(20)の平面寸法は、一辺が200〜300mm程度、厚さは60〜100mm程度とされる。ブロック(20)は、外観が直方体に形成され且つ上面が開放されたケーシング(1)に収容され、ブロック(20)側壁部および底面部は、ケーシング(1)に充填されたセラミックファイバー等から成る断熱材(11)によって被覆される。
【0020】
ヒーター(23)としては、発熱線(ニクロム線)が巻き付けられた棒状のセラミックをステンレス製パイプに挿入し且つ発熱線とパイプの隙間に酸化マグネシウムを充填して成る棒状のカートリッジヒーター、あるいは、金属パイプの中心に発熱コイルを挿入し且つ金属パイプと発熱コイルの隙間に酸化マグネシウムを充填して成る直管構造のシーズヒーター等が使用される。ヒーター(23)は、上記のブロック(20)を均一に加熱するため、通常はブロック(20)に対して2〜5本埋設され、各ヒーター(23)は、ブロック(20)にその一側面から容器装填穴(21)の底部に隣接して水平に開口されたヒーター取付穴に挿入される。ヒーター(23)の総発熱量は、800〜1200W程度とされる。
【0021】
また、ブロック(20)には、当該ブロックの温度を検出するセンサー(24)が埋設される。センサー(24)としては、例えば白金と白金ロジウムを組み合わせた熱電対方式のものが使用される。斯かるセンサー(24)は、ブロック(20)にその一側面の長さ方向の中央で且つ容器装填穴(21)の高さの範囲内の位置から容器装填穴(21)及び後述する容器装填穴(22)に干渉しない様に水平に開口されたセンサー取付穴に挿入される。
【0022】
上記の容器装填穴(21)は、図1に示す様に、ブロック(20)の上面から鉛直方向に開口されている。容器装填穴(21)の内径は、試料容器(3)が緩く嵌合する程度の大きさであり、具体的には30〜40mm程度である。また、容器装填穴(21)の深さは、試料容器(3)の高さの75〜85%に相当する深さとされ、具体的には80〜105mm程度である。
【0023】
本発明の蒸留装置においては、図2に示す様に、例えば8系統の試料処理機器の各試料容器(3)を同時に処理するため、少なくとも8個の容器装填穴(21)がブロック(20)に設けられる。平面視した場合のブロック(20)における容器装填穴(21)の配列は、試料容器(3)を均等に配置し得る限り特に制限はないが、前述した冷却器(4)及び受器(5)との取合い関係から、容器装填穴(21)は、ブロック(20)の平行な2辺部に沿って例えば4個づつ均等に配列される。
【0024】
なお、図に例示した装置においては、ブロック(20)の一辺部に沿って設けられた4個の容器装填穴(21)と他方の一辺部に沿って設けられた4個の容器装填穴(21)との間に、異なる用途の容器装填穴(22)が2列、合計8個設けられているが、これら容器装填穴(22)は、他の分析、例えば酸化剤を添加して加熱分解を行う窒素やリンの分析において試料容器の加熱に使用される。上記の様に、試料容器(3)を配置する容器装填穴(21)と共に更に容器装填穴(22)を設けることにより、他の分析用途にも容易に転用できる。
【0025】
また、本発明の蒸留装置において、ケーシング(1)内の加熱手段(2)の下方には、上記のセンサー(24)で検出されたブロック(20)の温度と予め設定された温度とに基づいてヒーター(23)の通電を例えばPID制御する温度調節器(13)が収容され、また、ケーシング(1)の表側には、ヒーター(23)の通電回路および温度調節器(13)の温度設定回路を含む操作盤(12)が取り付けられる。
【0026】
本発明の蒸留装置を使用した試料の前処理方法は次の通りである。シアンの分析を行う場合は、先ず、試料容器(3)に液体試料を収容し、これに水を加えて全体量を約20mlとした後、直径2〜3mmの沸騰石を2個ほど試料容器(3)に投入し、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を1滴加える。試料容器(3)内の液体がアルカリ性を示している場合は、赤色が消えるまでリン酸を滴下する。そして、試料容器(3)にアミド硫酸アンモニウム溶液を0.1ml加える。一方、受器(5)は、これに水酸化ナトリウム溶液を10ml入れ、冷却器(4)の下方に配置しておく。
【0027】
次いで、試料容器(3)にリン酸1ml、EDTA溶液1ml及び少量の水を添加した後、予め約160℃に設定された加熱手段(2)の容器装填穴(21)に試料容器(3)を配置する。そして、試料容器(3)の上端に蒸留管(31)を取り付け、送気管(95)により蒸留管(31)と冷却器(4)を接続し、約20分間蒸留する。
【0028】
蒸留後は、冷却器(4)の内管を水洗し、洗液と共に水を受器(5)に加え、受器(5)内の液量を50mlに定容する。受器(5)に捕集された試料については、例えば、4−ピリジンカルボン酸−ピラゾロン吸光光度法を利用して試料中の全シアンを定量分析する。
【0029】
また、フェノールの分析を行う場合は、先ず、試料容器(3)に液体試料を20ml収容し、これにメチレンオレンジを数滴加えた後、メチレンオレンジが変色するまでリン酸(1+9)を加えて試料をpH4に調整し、更に硫酸銅(II)溶液を0.5ml添加する。
【0030】
次いで、冷却器(4)の下方に受器(5)を配置し、また、予め約180℃に設定された加熱手段(2)の容器装填穴(21)に試料容器(3)を配置する。そして、試料容器(3)の上端に蒸留管(31)を取り付け、送気管(95)により蒸留管(31)と冷却器(4)を接続し、約40分間蒸留する。受器(5)に捕集された試料については、例えば、4−アミノアンチピリン吸光光度法を利用して試料中のフェノールを定量分析する。
【0031】
シアンやフェノールの分析における上記の蒸留操作では、加熱手段(2)のブロック(20)をヒーター(23)で加熱し、液体試料が収容され且つブロック(20)の各容器装填穴(21)に配置された複数の試料容器(3)をブロック(20)により同時に加熱する。そして、各試料容器(3)に対する加熱を操作盤(12)の操作で一括して管理する。
【0032】
換言すれば、本発明の蒸留装置においては、試料蒸留用の試料容器(3)、蒸気液化用の冷却器(4)及び留出液収容用の受器(5)から成る一連の試料処理機器が複数系統設けられ、金属製ブロック(20)にヒーター(23)を埋設して成り且つ複数個の容器装填穴(21)を有する共通の加熱手段(2)が備えられており、加熱手段(2)の上面に各系統の試料容器(3)を整然と配置してこれら試料容器(3)を同時に加熱できる。従って、本発明によれば、装置構成を簡素化することが出来かつ小型化を図ることが出来、しかも、1つの加熱手段(2)を操作するだけで各系統の蒸留操作が出来、操作性を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る分析用蒸留装置の主要部の構造を一部破断して示す側面図である。
【図2】図1の分析用蒸留装置における試料処理機器の配置および加熱手段の容器装填穴の配置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 :ケーシング
11:断熱材
13:温度調節器
14:支持台
2 :加熱手段
20:金属製のブロック
21:容器装填穴
22:容器装填穴
23:ヒーター
24:センサー
3 :試料容器
31:蒸留管
4 :冷却器
41:留出液採取管
5 :受器
7 :冷却水循環装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中のシアン又はフェノールの分析において試料の前処理に使用される分析用蒸留装置であって、複数系統の試料処理機器と蒸留用の加熱手段とを備え、前記各系統の試料処理機器は、液体試料を収容して前記加熱手段により加熱される試料容器と、当該試料容器で発生させた蒸気を冷却水の循環により冷却する冷却器と、当該冷却器を通じて得られた留出液を収容する受器とから主に構成され、前記加熱手段は、上面が平坦に形成された金属製ブロックにヒーターを埋設して成り、前記加熱手段の上面には、前記試料容器を装填可能な容器装填穴が少なくとも前記試料処理機器の系統数に相当する数設けられていることを特徴とする分析用蒸留装置。

【図1】
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【図2】
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