説明

分析装置および方法

【課題】複数の分析装置で同一検体を分析する際に、各分析装置で同様の異常が発生することによる損失を最小限に抑える。
【解決手段】複数の分析装置1のうち、同一検体について他の分析装置1により分析が開始されていないと判定した一の分析装置1Aの検体の分析が先行して開始するとともに他の分析装置1Bが分析を待機する。一の分析装置1Aの分析中に異常が生じた場合には分析を停止するとともに他の分析装置1Bに対して異常の種類を送信し、正常に完了した場合には他の分析装置1Bに分析手段20の待機状態を解除するための分析開始命令を送信する。他の分析装置1Bにおいて、異常の種類が送信された場合には待機状態のまま異常の種類および異常の種類毎に予め設定された異常の重度を外部に出力し、分析の開始命令が送信された場合には分析を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体内の被験物質を定量的または定性的に分析する分析装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液(全血、血漿を含む)、尿等の検体の定性的または定量的な分析を行う自動分析装置が普及している。たとえば特許文献1には、複数の分析ユニットと、各分析ユニットに試料を搬送する搬送手段とを有する大型の分析装置が提案されている。そして、各分析ユニットが搬送された試料を分注機構により分注し、同一の検体について異なる種類の分析を行うようになっている。特に、一の分析ユニットにおいて分注の異常が発生した場合にはその旨を出力するとともに、他の分析ユニットによる分析が実行されないようにしている。
【0003】
一方で、特許文献1の病院等において使用される大型の分析装置の他に、検体を簡易的に測定するPOCT(Point of Care Testing)診療向けの小型分析装置が開発されている。特許文献2には上述した複数の小型分析装置がネットワークにより接続された分析システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−10363号公報
【特許文献2】特開2008−292328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような大型の分析装置の場合、同一検体が各分析ユニットに搬送手段により搬送されることはシステム構成上明らかである。一方、特許文献2に示す小型の複数の分析装置により同一検体について異なる項目の種類を行う場合、特許文献1とは異なり使用者が各分析装置に対しそれぞれ検体をセットするため、各分析装置内において他の分析装置と同一の検体がセットされたか否か判断することができない。したがって、検体の粘性が高いもしくは検体に不純物が混入している等の検体に起因する異常が発生した場合であっても、特許文献1のように分析を停止させることができず、すべての分析装置で同様の異常が発生する可能性がある。すると結果としてすべての分析装置において検体の再採取および再測定を行う必要が生じ、分析作業の効率が落ちてしまうという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、複数の分析装置で同一検体を分析する際に、各分析装置で同様の異常が発生することによる損失を最小限に抑えることができる分析装置および方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の分析装置は、検体内の被検物質の分析を行う分析手段を備えた、他の分析装置に互いにデータ転送可能に接続された分析装置であって、分析しようとする検体について他の分析装置による分析が開始されているか否かを判定する検体判定手段と、検体判定手段において他の分析装置により分析が開始されていないと判定された場合には分析手段に検体の分析を開始させ、他の分析装置により分析が開始されていると判定された場合には他の分析装置の分析が完了するまで分析手段を待機させる動作制御手段と、分析手段による分析中に異常が生じた際に他の分析装置に対して異常の種類を送信し、正常に完了した際には他の分析装置に分析手段の待機状態を解除するための分析開始命令を送信する状態出力手段と、分析手段の待機中に他の分析装置から異常の種類が送信された場合に、異常の種類と異常の種類毎に予め設定された異常再発の度合いを示す異常の重度を外部に出力する情報出力手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の分析方法は、検体容器内の検体を抽出し検体中の被検物質の分析を行う分析手段を備えた、他の分析装置に互いにデータ転送可能に接続された複数の分析装置を用いた分析方法であって、各分析装置において分析しようとしている検体について他の分析装置による分析が開始されているか否かを判定し、複数の分析装置のうち、検体について他の分析装置により分析が開始されていないと判定した一の分析装置の検体の分析が開始するとともに、検体について一の分析装置により分析が開始されていると判定した他の分析装置が分析を待機し、一の分析装置の分析中に異常が生じた場合には分析を停止するとともに他の分析装置に対して異常の種類を送信し、正常に完了した場合には他の分析装置に分析手段の待機状態を解除するための分析開始命令を送信し、他の分析装置において、異常の種類が送信された場合には待機状態のまま異常の種類と、該異常の種類毎に予め設定された異常再発の度合いを示す異常の重度を外部に出力し、分析の開始命令が送信された場合には分析を開始することを特徴とするものである。
【0009】
ここで、分析装置は、検体を分析するものであれば検体の種類を問わず、たとえば検体としてたとえば全血、全血を遠心分離して抽出された血漿、尿等が分析される。
【0010】
また、分析手段は、検体の定量的または定性的な分析を行うものであればよく、たとえば検体を収容した検体容器内から検体を抽出する、抽出した検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成する検体処理手段と、流路が形成された分析チップを用いて分析を行うものであって、検体処理手段により検体溶液を分析チップの流路内に流しながら検体中の被検物質の分析を行う分析ユニットとを備えたものであってもよい。
【0011】
なお、異常の重度は、検体が同一であればどの分析装置でも起こりうる可能性が高いほど重度が重く設定されているものであればよく、たとえば検体処理手段の動作中に生じる異常の種類の方が分析ユニットの動作中に生じる異常の種類よりも重く設定されているものであってもよい。
【0012】
さらに、動作制御手段は、検体の分析が完了するのを待って他の分析装置へ分析開始命令を送信するものであってもよいし、検体処理手段による検体溶液の生成および所定量の流路内への流入が正常に完了した際に、他の分析装置に対し分析開始命令を送信するものであってもよい。
【0013】
また、検体判定手段は、複数の分析装置のいずれかにおいて同一検体について分析が開始されているかを判定するものであればその構成を問わず、たとえば検体に付された識別情報を取得するとともに他の分析装置に転送する識別情報取得手段と、識別情報取得手段において取得された識別情報と他の分析装置から転送された識別情報とを照合する照合手段と、照合手段において合致する識別情報が存在しない場合には同一検体について他の分析装置により分析が開始されていないと判定し、合致する識別情報が存在する場合には同一検体について他の分析装置により分析が開始されていると判定する状態判定手段とを備えたものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分析装置および方法によれば、各分析装置において同一検体について他の分析装置により分析が開始されているか否かを判定し、複数の分析装置のうち、同一検体について他の分析装置により分析が開始されていないと判定した一の分析装置の検体の分析が開始するとともに、同一検体について一の分析装置により分析が開始されていると判定した他の分析装置が分析を待機し、一の分析装置の分析中に異常が生じた場合には分析を停止するとともに他の分析装置に対して異常の種類を送信し、正常に完了した場合には他の分析装置に分析手段の待機状態を解除するための分析開始命令を送信し、他の分析装置において、異常の種類が送信された場合には待機状態のまま異常の種類と、異常の種類毎に予め設定された異常再発の度合いを示す異常の重度を外部に出力し、分析の開始命令が送信された場合には分析を開始することにより、複数の分析装置のうち先行して分析を行う分析装置が正常に分析を行うまで他の分析装置の分析動作を待機させるとともに、異常が検出された場合には他の分析装置において異常の種類および重度が出力されるため、使用者が異常の種類および重度から他の分析装置においても同様の異常が生じる場合には検体溶液の希釈等を行う等の対処を分析開始前に行うことができ、複数の分析装置にセットされた検体溶液がすべて無駄になる等の検体依存の異常による影響を最小限に抑えることができる。
【0015】
なお、分析手段が、検体を収容した検体容器内から検体を抽出し、抽出した検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成する検体処理手段と、流路が形成された分析チップを用いて分析を行うものであって、検体処理手段により検体溶液を分析チップの流路内に流しながら検体中の被検物質の分析を行う分析ユニットとを備えたものであって、異常の重度が、検体処理手段の動作中に生じる異常の種類の方が分析ユニットの動作中に生じる異常の種類よりも重く設定されているとき、検体の粘性や不純物の混入等により検体依存の異常に対する重度を重くして、同一検体について他の分析装置で分析を行う際に、先行した分析装置と同様の異常が発生する可能性が高い旨を使用者に報知することができる。
【0016】
また、動作制御手段が、検体処理手段による検体と試薬との混合撹拌および所定量の流路内への流入が正常に完了した際に、他の分析装置に対し分析開始命令を送信するものであれば、検体に起因した異常が生じる可能性の最も高い工程において異常が生じなければ、他の分析装置においても異常が生じる可能性が低いとみなし、先行した分析装置からの分析の完了を待たずに他の分析装置による分析を開始することができるため、効率的な分析作業を行うことができる。
【0017】
さらに、検体判定手段が、検体に付された識別情報を取得するとともに他の分析装置に転送する識別情報取得手段と、識別情報取得手段において取得された識別情報と他の分析装置から転送された識別情報とを照合する照合手段と、照合手段において合致する識別情報が存在しない場合には同一検体について他の分析装置により分析が開始されていないと判定し、合致する識別情報が存在する場合には同一検体について他の分析装置により分析が開始されていると判定する状態判定手段とを備えたものであれば、使用者による識別情報の入力を省略して自動的に同一検体か否かを判定することができるため、効率的な分析作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の分析システムの好ましい実施形態を示す模式図
【図2】本発明の分析装置の好ましい実施形態を示すブロック図
【図3】図1および図2の分析装置に用いられる分析チップの一例を示す模式図
【図4】図2の検体処理手段によりノズルチップを用いて検体が検体容器から抽出される様子を示す模式図
【図5】図2の検体処理手段によりノズルチップ内の検体が試薬セルに注入・撹拌される様子を示す模式図
【図6】図2の分析ユニットの一例を示す模式図
【図7】図2の分析ユニットにおいてレート法により定量的または定性的な分析が行われる様子を示すグラフ
【図8】本発明の分析方法の好ましい実施形態を示すフローチャート
【図9】本発明の分析方法の好ましい実施形態を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の分析装置を複数有する分析システム100の概略構成図である。分析システム100は、複数の分析装置1はたとえば同一種類の分析装置であって、ネットワークを介してデータ伝送可能に接続されている。なお、図1においては各分析装置1がスター型に接続されている場合について例示しているが、ディジーチェーン型に接続されていてもよい。さらに、複数の分析装置1のみが接続されている場合について例示しているが、分析結果の集計・管理等を行う分析管理装置もネットワークに接続されていてもよい。
【0020】
そして、複数の分析装置1は、同一検体についてそれぞれ異なる項目の分析を並行して行う場合、いずれか一の分析装置1Aが先行して分析を行い、他の分析装置1Bが一の分析装置1Aの分析(もしくは送液)が異常なく完了した後に分析を開始するように動作する。以下に、当動作を行う分析装置1の構成について詳細に説明する。
【0021】
図2は本発明の分析装置の好ましい実施形態を示すブロック図である。図2の分析装置1はたとえば表面プラズモン共鳴を利用した免疫解析装置であって、分析装置1により分析を行う際、図1に示す検体が収容された検体容器CBと、検体および試薬を抽出する際に用いられるノズルチップNCと、試薬セルおよびマイクロ流路が形成された分析チップ10が装填される。なお、検体容器CB、ノズルチップNCおよび分析チップ10はいずれも一度使用したら破棄される使い捨てのものである。そして、分析装置1は検体を分析チップ10のマイクロ流路に流しながら検体内の被検物質について定量的もしくは定性的な分析を行う。
【0022】
この分析装置1は、分析手段20、検体判定手段30、分析制御手段40、データ転送手段50、情報出力手段60等を備えている。分析手段20は、分析チップ10の流路に検体溶液を送液させた状態で定量的または定性的な分析を行うものであって、その動作は分析制御手段40により制御される。この分析手段20は、検体処理手段20Aと分析ユニット20Bとを備えている。検体処理手段20Aは、ノズルチップNCを用いて検体を収容した検体容器CB内から検体を抽出し、抽出した検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成するものである。
【0023】
ここで、図3は分析チップ10の一例を示す模式図である。分析チップ10は、光透過性の樹脂からなる本体11に注入口12、排出口13、試料セル14a、14b、流路15が形成された構造を有している。注入口12は流路15を介して排出口13に連通しており、排出口13から負圧をかけることにより検体は注入口12から注入されて流路15内に流れ排出口13から排出される。試料セル14a、14bは検体容器CB内の検体に混合する試薬(第2抗体)を収容する容器である。なお、試料セル14a、14bの開口部はシール部材により封止されており、検体と試薬とを混合する際にシール部材が穿孔されるようになっている。また、流路15内には検体内の被検物質を検出するための金属膜16a、16b、16cが形成されており、金属膜16a〜16c上には第1抗体B1が設けられている。
【0024】
そして、分析の開始が指示された際、検体処理手段20Aは図4に示すようにノズルチップNCを用いて検体容器CBから検体を吸引する。その後、検体処理手段20Aは図5に示すように試料セル14aのシール部材を穿孔し試料セル14a内の試薬に検体を混合・撹拌させた後、検体溶液を再びノズルチップNCを用いて吸引する。この動作を試料セル14bについても同様に行う。すると、検体内に存在する被検物質(抗原)Aに試薬内の特異的に結合する第2の結合物質である2次抗体B2が表面に修飾された検体溶液が生成される。そして、検体処理手段20Aは、検体溶液を収容したノズルチップNCを注入口12上に設置し、注入口12へ検体溶液を分注する。その後、排出口13からの負圧により注入口12内の検体溶液が流路15内に流入する。
【0025】
なお、検体処理手段20Aが検体と試薬とを混合した検体溶液を流路15内に供給する場合について例示しているが、流路15内に予め試薬を充填させておき、検体処理手段20Aが注入口12から検体のみを流入させるようにしてもよい。
【0026】
図2の分析ユニット20Bは、検体処理手段20Aにより検体溶液を分析チップ10の流路15内に流しながら検体中の被検物質の分析を行うものである。ここで、図6は分析ユニット20Bの一例を示す模式図である。なお、以下に金属膜16aに対する光の照射および蛍光検出について例示しているが、金属膜16b、16cについても同様である。図6の分析ユニット20Bは、励起光源21とプリズム22と光検出器23とを備えている。励起光源21は、分析チップの裏面側から励起光Lを全反射条件となる入射角度でプリズム22を介して誘電体プレート17と金属膜16aに照射するものである。光検出器23は、いわゆるサンドイッチ方式により金属膜16a上の第1抗体B1に結合した標識化された検体からの蛍光Lfを検出するものである。
【0027】
すなわち、励起光学系21により励起光Lが誘電体プレート17と金属膜16aとの界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属膜16a上の試料S中にエバネッセント波Ewが滲み出し、このエバネッセント波Ewによって金属膜16a中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜16a表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。すると、結合した蛍光標識物質Fはエバネッセント波Ewにより励起され増強された蛍光を発生する。なお、蛍光強度は蛍光標識物質Fの結合した量によって変化するため、図7に示すように、時間経過とともに蛍光強度は変化する。この時間変化率を解析することにより、検体内の被検物質について定量的な分析が行われ(レート法)、分析結果が情報出力手段4から出力される。
【0028】
図2の検体判定手段30は、検体について他の分析装置1により分析が開始されているか否かを判定するものであって、識別情報取得手段31、照合手段32、状況判定手段33を備えている。識別情報取得手段31は、検体に付された識別情報を取得するとともに、取得した識別情報IDをデータ転送手段50を介して他の分析装置1に転送する機能を有している。ここで、識別情報取得手段31は、検体容器CBが分析装置1に装填された際に検体容器CBの表面に付されたバーコードやICチップ等から識別情報IDを自動的に読み取るものであってもよいし、入力手段3から入力に従い識別情報IDを取得するものであってもよい。
【0029】
照合手段32は、識別情報取得手段31において取得された識別情報IDと他の分析装置1から転送された識別情報IDとを照合するものである。状況判定手段33は、照合手段32において合致する識別情報IDが存在しない場合には同一検体について他の分析装置により分析が開始されていないと判定し、合致する識別情報IDが存在する場合には同一検体について他の分析装置1により分析が開始されていると判定するものである。すなわち、上述したように各分析装置1は識別情報IDを取得した際には、取得した識別情報IDをネットワーク2を介して他の分析装置1に伝送するようになっている。したがって、同一検体について分析を行っている分析装置1が存在する場合には、照合手段32において検体容器CBから取得した識別情報IDに一致する識別情報IDを発見することができる。一方、同一検体について分析を行っている分析装置1が存在しない場合には、照合手段32において検体容器CBから取得した識別情報IDに一致する識別情報IDを発見できない。これにより、使用者がどの分析装置1に同一検体を設置したかを把握することなく、分析装置1内で自動的に識別することができ、分析作業の効率化を図ることができる。
【0030】
分析制御手段40は分析手段20の動作を制御するものであって、動作制御手段41、状態出力手段42を備えている。動作制御手段41は、検体判定手段30において他の分析装置1により分析が開始されていないと判定された場合には分析手段20に検体の分析を開始させる。すると、検体処理手段20Aによる検体溶液の生成が開始する。一方、動作制御手段41は、他の分析装置1により分析が開始されていると判定された場合には他の分析装置1の分析が完了するまで分析手段20(検体処理手段20A)を待機させる。
【0031】
また、動作制御手段41は、検体処理手段20Aおよび分析ユニット20Bに設けられた圧力センサ、光学センサ、液面検知センサ等(図示せず)の異常検出センサからの出力に基づいて、検体処理手段20Aおよび分析ユニット20Bの異常を検出する機能を有している。そして、動作制御手段41は、異常検出センサにより異常が検出された際、動作制御手段41は分析動作を停止させるとともに、上記異常検出センサの出力に基づいて異常が発生した機構もしくは工程を特定する。そして、状態出力手段42は、動作制御手段41により特定された異常が発生した機構もしくは工程毎に付与された異常の種類(エラーコード)をデータ転送手段を介して他の分析装置1に送信する。一方、異常検出センサによる異常の検出がなされずに動作が完了した場合(正常に完了した場合)、状態出力手段42は他の分析装置1に待機状態を解除するための分析開始命令を送信する。
【0032】
なお、状態出力手段42は、検体処理手段20Aおよび分析ユニット20Bの双方の処理が正常に完了した後に分析開始命令を送信するようにしてもよいし、検体処理手段20Aによる処理が正常に完了した後に分析ユニット20Bによる分析完了を待たずに分析開始命令を送信するようにしてもよい。すなわち、検体に起因した異常が生じる可能性の最も高い工程において異常が生じなければ、他の分析装置においても異常が生じる可能性が低いとみなし、先行した分析装置からの分析の完了を待たずに他の分析装置による分析を開始する。これにより、検体依存による同一の異常が複数の分析装置1に同時に発生するのを防止しながら、時間を短縮した効率的な分析作業を行うことができる。
【0033】
情報出力手段60はたとえばモニタやスピーカ等の使用者に情報を伝達するものからなっており、分析装置1の状態や分析結果等を出力するものである。特に、情報出力手段60は、分析手段20の待機中に他の分析装置から異常の種類が送信された場合に、異常の種類および異常の種類毎に予め設定された異常の重度を外部に出力する機能を有している。具体的には、情報出力手段60は、異常の種類(エラーコード)毎に重度を関連づけて記憶したエラーテーブルを有しており、エラーテーブルを用いて状態出力手段42から出力された異常の種類(エラーコード)と重度とを出力する。
【0034】
ここで、異常の重度は、異常再発の度合いをたとえば5段階(1〜5)で表現したものであって、いずれの分析装置1においても発生する可能性が高い異常の種類ほど重度が大きく設定されている。特に検体処理手段20Aにおいて生じた異常の種類は分析ユニット20Bにおいて生じる異常の種類に比べて重度が大きく設定されている。そして、使用者は、待機中の分析装置1Bにおいて表示されている異常の種類および重度に応じて、そのまま入力手段3を介して分析開始命令を入力するか、あるいは検体容器CBを一旦取り出し検体の希釈等を行った後に再セットし直す。
【0035】
このように、同一検体について複数の分析装置1A、1Bを用いて分析する際に、すべてを同時に稼働させるのではなく、1台の分析装置1Aが先行して分析動作を行い、異常がなければ他の分析装置1Bに分析を行わせることができるため、検体容器内の検体Sを試薬に混合する前に、異常を回避する処置をとることができるため、検体を無駄にすることなく異常の影響を最小限に抑えることができる。
【0036】
さらに、先行分析している分析装置1Aにおいて異常が発生した際に、待機中の分析装置1Bの情報出力手段60から先行した分析装置1Aで起きた異常の種類および重度を出力することにより、先行した分析装置1Aで起きた異常が他の分析装置1Bでも起こる可能性が高いものであるかを判断することができるため、異常の影響を最小限に抑えながら効率よく分析作業を行うことができる。
【0037】
図8および図9は本発明の分析方法の好ましい実施形態を示すフローチャートであり、図1から図9を参照して分析方法について説明する。まず、図8に示すように、各分析装置1の電源がONにされると、各分析装置1間においてデータの送受信が可能な状態になる(ステップST1)。この状態で、各分析装置1に対し同一検体が収容された検体チップCBと各分析装置1毎に異なる種類の試薬が封止された分析チップ10およびノズルチップNCが装着される(ステップST2)。
【0038】
すると、各分析装置1の識別情報取得手段31において検体の識別情報IDが検出され、他の分析装置1に転送される(ステップST3)。その後、照合手段32および状況判定手段33により、識別情報IDの照合に基づいて同一検体について他の分析装置1において既に分析が開始されているか否かが判定される(ステップST4)。他の分析装置1において分析が開始されていると判定された場合、分析開始命令があるまで分析を待機する分析装置1Bであると判断する(ステップST5、6)。一方、他の分析装置1において分析が未だされていないと判定した場合、先行して分析を行う分析装置1Aになって分析が開始する(ステップST10)。
【0039】
次に、図9に示すように、先行して分析装置1Aにおいて、検体処理手段20Aによる検体と試薬とを混合した検体溶液の生成が開始される(ステップST11、図4、図5参照)。検体処理手段20Aの動作中において目詰まりや検体の吸引等の異常が発生しないか否かが監視され(ステップST11)、異常なく完了した際には(ステップST12)分析ユニット20Bによる分析が開始される(ステップST13、図6、図7参照)。分析ユニット20Bの分析処理中においても異常が発生したか否かが監視され(ステップST14)、異常なく正常に完了した際には(ステップST15)待機状態にある他の分析装置1Bに対し分析開始命令が転送され(ステップST16)、他の分析装置1Bにおいて分析動作が開始する。また、分析した結果が分析装置1Aの情報出力手段4から表示される(ステップST17)。
【0040】
一方、検体処理手段20Aまたは分析ユニット20Bにおいて異常が発生した場合(ステップST11、ST14)、動作制御手段41により検体処理手段20Aまたは分析ユニット20Bの動作が停止する(ステップST21)。分析制御手段40から異常の種類がデータ転送手段50を介して他の分析装置1Bに転送され(ステップST22)、他の分析装置1Bの情報出力手段4から異常の種類および重度が出力される(ステップST23)。
【0041】
そして、使用者は他の分析装置1Bの情報出力手段4に出力されている異常の種類および重度に基づいて他の分析装置1Bにおいて分析を行うか否かを判断する。使用者が他の分析装置1Bにおいて分析を行ってもよいと判断したとき、入力手段3により分析開始命令を入力し、他の分析装置1Bの分析動作が開始される。一方、先行して分析を行った分析装置1Aと同様の異常が生じる可能性が高いと判断した場合、検体容器CB内の検体Sを希釈しもしくはろ過フィルターを通す等の処理を行った後に分析装置1Bにセットし直す。
【0042】
上記実施の形態によれば、各分析装置1A、1Bにおいて分析しようとしている検体について他の分析装置1による分析が開始されているか否かを判定し、複数の分析装置1のうち、同一検体について他の分析装置1により分析が開始されていないと判定した一の分析装置1Aの検体の分析が開始するとともに、同一検体について一の分析装置1Aによる分析が開始されていると判定した他の分析装置1Bが分析を待機し、一の分析装置1Aの分析中に異常が生じた場合には分析を停止するとともに他の分析装置1Bに対して異常の種類を送信し、正常に完了した場合には他の分析装置1Bに分析手段20の待機状態を解除するための分析開始命令を送信し、他の分析装置1Bにおいて、異常の種類が送信された場合には待機状態のまま異常の種類および異常の種類毎に予め設定された異常の重度を外部に出力し、分析の開始命令が送信された場合には分析を開始することにより、複数の分析装置1のうち先行して分析を行う分析装置1Aが正常に分析を行うまで他の分析装置1Bの分析動作を待機させるとともに、異常が検出された場合には他の分析装置1Bにおいて異常の種類および重度が出力されるため、使用者が異常の種類および重度から他の分析装置1Bにおいても同様の異常が生じると判断した場合には検体溶液の希釈等を行う等の対処を分析開始前に行うことができるため、複数の分析装置1にセットされた検体溶液がすべて無駄になる等の検体依存の異常による影響を最小限に抑えることができる。
【0043】
なお、図4および図5に示すように、分析手段20が、検体を収容した検体容器CB内から検体を抽出し、抽出した検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成する検体処理手段20Aと、流路15が形成された分析チップ10を用いて分析を行うものであって、検体処理手段により検体溶液を分析チップ10の流路15内に流しながら検体中の被検物質の分析を行う分析ユニット20Bとを備えたものであって、異常の重度が、検体処理手段20Aの動作中に生じる異常の種類の方が分析ユニット20Bの動作中に生じる異常の種類よりも重く設定されているとき、検体の粘性や不純物の混入等により検体依存の異常に対する重度を重くして、同一検体について他の分析装置1で分析を行う際に、先行した分析装置と同様の異常が発生する可能性が高い旨を使用者に報知することができる。
【0044】
また、動作制御手段41が、検体処理手段20Aによる検体と試薬との混合撹拌および所定量の流路内への流入が正常に完了した際に、他の分析装置に対し分析開始命令を送信するものであれば、検体に起因した異常が生じる可能性の最も高い工程において異常が生じなければ、他の分析装置1Bにおいても異常が生じる可能性が低いとみなし、先行した分析装置からの分析の完了を待たずに他の分析装置1Bによる分析を開始することができるため、効率的な分析作業を行うことができる。
【0045】
さらに、検体判定手段30が、検体に付された識別情報IDを取得するとともに他の分析装置1に転送する識別情報取得手段31と、識別情報取得手段31において取得された識別情報と他の分析装置から転送された識別情報とを照合する照合手段32と、照合手段32において合致する識別情報が存在しない場合には同一検体について他の分析装置1により分析が開始されていないと判定し、合致する識別情報が存在する場合には同一検体について他の分析装置1により分析が開始されていると判定する状況判定手段33とを備えたものであれば、使用者による識別情報IDの入力を省略して自動的に同一検体か否かを判定することができるため、効率的な分析作業を行うことができる。
【0046】
本発明の実施形態は上記実施形態に限定されない。たとえば、上記実施の形態において、分析システム100が複数の同一種類の分析装置により構成されている場合について例示しているが、各分析装置が同一検体について並行して分析を行うものであれば、異なる種類の分析装置が含まれていてもよい。
【0047】
また、上記実施の形態において、分析制御手段40は、他の分析装置1が既に分析を開始している場合には分析を待機する場合について例示しているが、使用者による設定により、待機せずに他の分析装置1と並行して分析を行うことができる機能を有していてもよい。
【0048】
さらに、検体処理手段20Aが検体溶液を生成する場合について例示しているが、さらに検体が血漿である場合には血液から血漿を遠心分離させる遠心分離器をさらに備えたものであってもよい。そして、検体処理手段20Aは血液が入った検体容器を遠心分離器にかけ、遠心分離された血漿を抽出し、検体溶液の生成するようにしてもよい。そして、検体溶液の生成中に異常が生じた場合には、検体容器を再び遠心分離器に戻し、さらに遠心分離させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 分析装置
1A 先行して分析する分析装置(一の分析装置)
1B 待機する分析装置(他の分析装置)
4 情報出力手段
10 分析チップ
20 分析手段
20A 検体処理手段
20B 分析ユニット
30 検体判定手段
31 識別情報取得手段
32 照合手段
33 状況判定手段
40 分析制御手段
41 動作制御手段
42 状態出力手段
50 データ転送手段
60 情報出力手段
100 分析システム
ID 識別情報
L 励起光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体内の被検物質の分析を行う分析手段を備えた、他の分析装置に互いにデータ転送可能に接続された分析装置であって、
分析しようとする前記検体について前記他の分析装置による分析が開始されているか否かを判定する検体判定手段と、
該検体判定手段において前記他の分析装置により分析が開始されていないと判定された場合には前記分析手段に前記検体の分析を開始させ、前記他の分析装置により分析が開始されていると判定された場合には前記他の分析装置の分析が完了するまで前記分析手段を待機させる動作制御手段と、
前記分析手段による分析中に異常が生じた際に前記他の分析装置に対して異常の種類を送信し、正常に完了した際には前記他の分析装置に前記分析手段の待機状態を解除するための分析開始命令を送信する状態出力手段と、
前記分析手段の待機中に前記他の分析装置から前記異常の種類が送信された場合に、前記異常の種類と、該異常の種類毎に予め設定された異常再発の度合いを示す異常の重度を外部に出力する情報出力手段と
を備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記分析手段が、
前記検体を収容した検体容器内から該検体を抽出する、もしくは抽出した該検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成する検体処理手段と、
流路が形成された分析チップを用いて分析を行うものであって、前記検体処理手段により生成された前記検体溶液を前記分析チップの前記流路内に流しながら前記検体中の前記被検物質の分析を行う分析ユニットと
を備えたことを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記異常の重度が、前記分析ユニットの動作中に生じる異常の種類よりも前記検体処理手段の動作中に生じる異常の種類の方が重く設定されていることを特徴とする請求項2記載の分析装置。
【請求項4】
前記動作制御手段が、前記検体処理手段による前記検体溶液の生成および所定量の前記流路内への流入が正常に完了した際に、前記他の分析装置に対し分析開始命令を送信するものであることを特徴とする請求項2または3記載の分析装置。
【請求項5】
前記検体判定手段が、
前記検体に付された識別情報を取得するとともに前記他の分析装置に転送する識別情報取得手段と、
該識別情報取得手段において取得された前記識別情報と前記他の分析装置から転送された前記識別情報とを照合する照合手段と、
該照合手段において合致する前記識別情報が存在しない場合には同一検体について前記他の分析装置により分析が開始されていないと判定し、合致する前記識別情報が存在する場合には同一検体について前記他の分析装置により分析が開始されていると判定する状態判定手段と
を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項6】
検体容器内の検体を抽出し該検体中の被検物質の分析を行う分析手段を備えた、他の分析装置に互いにデータ転送可能に接続された複数の分析装置を用いた分析方法であって、
前記各分析装置において分析しようとしている検体について前記他の分析装置による分析が開始されているか否かを判定し、
前記複数の分析装置のうち、前記検体について他の分析装置により分析が開始されていないと判定した一の前記分析装置の前記検体の分析が開始するとともに、前記検体について前記一の分析装置による分析が開始されていると判定した前記他の分析装置が分析を待機し、
前記一の分析装置の分析中に異常が生じた場合には分析を停止するとともに前記他の分析装置に対して異常の種類を送信し、正常に完了した場合には前記他の分析装置に前記分析手段の待機状態を解除するための分析開始命令を送信し、
前記他の分析装置において、前記異常の種類が送信された場合には待機状態のまま前記異常の種類と、該異常の種類毎に予め設定された異常再発の度合いを示す異常の重度を外部に出力し、前記分析の開始命令が送信された場合には分析を開始する
ことを特徴とする分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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