説明

分枝鎖アミノ酸分解抑制剤

【課題】本発明の目的は、分枝鎖アミノ酸の分解抑制効果を有する新たな有効成分を提供することにある。
【解決手段】本発明は、ラクトフェリンを有効成分とする分枝鎖アミノ酸分解抑制剤、前記分枝鎖アミノ酸分解抑制剤を含む筋肉疲労抑制剤、及び、分枝鎖アミノ酸をさらに含む前記筋肉疲労抑制剤を提供する。本発明によれば、分枝鎖アミノ酸の分解を十分に抑制し、それにより筋肉疲労を抑制しうる、分枝鎖アミノ酸分解抑制剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分枝鎖アミノ酸分解抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
分枝鎖アミノ酸(分岐鎖アミノ酸、BCAA)は、急激な運動条件下における代謝調節に関わっており、筋損傷やいわゆる筋肉痛などの筋肉の疲労による症状の抑制に重要な役割を果たすことが明らかにされている(下村 吉治、デサントスポーツ科学 vol.28 p3−10(非特許文献1))。すなわち、分枝鎖アミノ酸は筋肉組織内に一定の量蓄積されており、この蓄積されている分枝鎖アミノ酸が急激な運動条件下で分解され、エネルギー源として使われる(下村 吉治、デサントスポーツ科学 Vol.18(非特許文献2))。また、運動条件下で分枝鎖アミノ酸が分解されると、筋肉組織における分枝鎖アミノ酸の蓄積量が減少し、このことが筋肉の疲労による症状発生の一因となることが推定されている。かかる疲労を抑制する方法として、運動事前に分枝鎖アミノ酸を外部から摂取(補給)する手段が一般的である。
【0003】
一方で、ラクトフェリンに関し、特開2005−68060号公報(特許文献1)には、ビタミンB群複合体、マグネシウム塩、カルシウム塩、カルニチン、コエンザイムQ10、エゾウコギ抽出物、朝鮮人参抽出物など慢性疲労症候群の治療に有効とされる成分と併用することにより、前記成分の治療効果を相乗的ないし相加的に増強することが記載されている。また、鯉川なつえ他、順天堂医学52巻4号、第635頁、2006年(非特許文献3)には、鉄と共にラクトフェリンを摂取させることにより、血中乳酸値の増加の抑制、及び貧血の抑制が観察されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−68060号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】下村 吉治、デサントスポーツ科学 vol.28 p3−10 運動による筋損傷に対する分岐鎖アミノ酸の投与効果
【非特許文献2】下村 吉治、デサントスポーツ科学 vol.18 トレーニングによる筋肉づくりに有利なタンパク質に関する運動栄養学的研究
【非特許文献3】鯉川なつえ他、ラクトフェリン摂取が女子長距離ランナーの運動性貧血を示す血液性化学マーカーに及ぼす影響、順天堂医学52巻4号、第635頁、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
筋肉痛の抑制に関し、外部からの分枝鎖アミノ酸摂取だけでは、有効性が十分ではなく、より抑制効果の高いものが切望されている。一方、ラクトフェリンと分枝鎖アミノ酸の代謝との関係や、ラクトフェリン単独での筋肉痛抑制に対する効果については、これまでまったく知られていなかった。本発明の目的は、分枝鎖アミノ酸の分解抑制効果を有する新たな有効成分を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
我々は、ラクトフェリンと分枝鎖アミノ酸の代謝との関係に着目し、鋭意検討を重ねる過程で、ラクトフェリンが分枝鎖アミノ酸の分解を抑制する作用を有することを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、以下の〔1〕〜〔3〕を提供する。
〔1〕ラクトフェリンを有効成分とする、分枝鎖アミノ酸分解抑制剤。
〔2〕上記〔1〕に記載の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤を含む、筋肉疲労抑制剤。
〔3〕分枝鎖アミノ酸をさらに含む、〔2〕に記載の筋肉疲労抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分枝鎖アミノ酸の分解を十分に抑制し、それにより筋肉疲労を抑制しうる、分枝鎖アミノ酸分解抑制剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤は、ラクトフェリンを有効成分とする。
【0011】
ラクトフェリンとしては、市販のラクトフェリン;哺乳類(例えば人、牛、羊、山羊、馬等)の初乳、移行乳、常乳、末期乳等又はこれらの乳の処理物である脱脂乳、ホエー等から、常法(例えば、イオン交換クロマトグラフィー)により分離したラクトフェリン;植物(トマト、イネ、タバコ)から生産されたラクトフェリン;遺伝子組み換えによって得られたラクトフェリン;が例示される。ラクトフェリンは、市販品を使用してもよいし、公知の方法により調製して使用することができる。
【0012】
ラクトフェリンは上記具体例のものを1種単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。なお、ラクトフェリンとしては、牛由来のラクトフェリンが好ましい。
【0013】
本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤は、分枝鎖アミノ酸の分解を抑制するものである。
分枝鎖アミノ酸とは、分枝鎖(枝分かれした側鎖)を有するアミノ酸を意味し、バリン、ロイシン、イソロイシンが例示される。なお、本発明におけるアミノ酸の光学異性については特に限定されないが、通常はL型である。本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤が対象とする分枝鎖アミノ酸は、これらのうちの1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0014】
分枝鎖アミノ酸の分解とは、分枝鎖アミノ酸の化学構造の分解を意味し、通常は生物の体内(組織内、細胞内)における分枝鎖アミノ酸の代謝経路を介する分解を意味する。通常生物の体内において、L−ロイシンはアセチル−CoAとアセト酢酸とに分解され、L−バリンとL−イソロイシンとは、スクシニル−CoAにまで分解される。
【0015】
分枝鎖アミノ酸の分解の抑制は、通常は、生物の体内における分枝鎖アミノ酸の分解経路に関与する種々の酵素のうちの少なくとも一つの酵素の機能を抑制することであり、該酵素のタンパク質発現を阻害することが好ましい。
【0016】
前記種々の酵素は、Kegg(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)に記載されており、具体的に列挙すると以下の通りである。
【0017】
アルデヒドデヒドロゲナーゼ1ファミリー,メンバーB1(aldehyde dehydrogenase 1 family,member B1)、アルデヒドデヒドロゲナーゼファミリー1,サブファミリーA7(aldehyde dehydrogenase family 1,subfamily A7)、アルデヒドデヒドロゲナーゼ3ファミリー,メンバーA2(aldehyde dehydrogenase 3 family,member A2)、アルデヒドデヒドロゲナーゼ2ファミリー(ミトコンドリア)(aldehyde dehydrogenase 2 family(mitochondrial))、アルデヒドデヒドロゲナーゼ6ファミリー メンバーA1(aldehyde dehydrogenase 6 family,member A1)、アルデヒドデヒドロゲナーゼ 9ファミリー,メンバーA1(aldehyde dehydrogenase 9 family,member A1)などのアルデヒドデヒドロゲナーゼ;
【0018】
アシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ,C−2〜C−3ショートチェイン(acyl−Coenzyme A dehydrogenase,C−2 to C−3 short chain)、アシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ,ショート/ブランチドチェイン(acyl−Coenzyme A dehydrogenase,short/branched chain)、アシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ,C−4〜C−12ストレートチェイン(acyl−Coenzyme A dehydrogenase,C−4 to C−12 straight chain)などのアシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ;
【0019】
ヒドロキシステロイド(17−β)デヒドロゲナーゼ4(hydroxysteroid(17-beta)dehydrogenase 4)、ヒドロキシステロイド(17−β)デヒドロゲナーゼ10(hydroxysteroid(17-beta)dehydrogenase 10)などのヒドロキシステロイド(17−β)デヒドロゲナーゼ;
【0020】
3−ヒドロキシイソブチレートデヒドロゲナーゼ(3−hydroxyisobutyrate dehydrogenase)、ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼ(dihydrolipoamide dehydrogenase)、ブランチドチェインケトアシドデヒドロゲナーゼE1,αポリペプチド(branched chain ketoacid dehydrogenase E1,alpha polypeptide)、イソバレリルコエンザイムAデヒドロゲナーゼ(isovaleryl coenzyme A dehydrogenase)、ヒドロキシアシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ(hydroxyacyl−Coenzyme A dehydrogenase)などのデヒドロゲナーゼ;
【0021】
アセチル−コエンザイムAアセチルトランスフェラーゼ2(acetyl-Coenzyme A acetyltransferase 2)、アセチル−コエンザイムAアセチルトランスフェラーゼ1(acetyl-coenzyme A acetyltransferase 1)などのアセチル−コエンザイムAアセチルトランスフェラーゼ;
【0022】
アセチル−コエンザイムAアシルトランスフェラーゼ1(acetyl−Coenzyme A acyltransferase 1)、アセチル−コエンザイムAアシルトランスフェラーゼ2(acetyl−Coenzyme A acyltransferase 2)などのアセチル−コエンザイムAアシルトランスフェラーゼ;
【0023】
メチルクロトノイル−コエンザイムAカルボキシラーゼ2(β)(methylcrotonoyl−Coenzyme A carboxylase 2(beta))、メチルクロトノイル−コエンザイムAカルボキシラーゼ1(α)(methylcrotonoyl-Coenzyme A carboxylase 1(alpha))などのメチルクロトノイル−コエンザイムAカルボキシラーゼ;
【0024】
プロピオニル−コエンザイムAカルボキシラーゼ,αポリペプチド(propionyl-Coenzyme A carboxylase,alpha polypeptide)、プロピオニルコエンザイムAカルボキシラーゼ,βポリペプチド(propionyl coenzyme A carboxylase,beta polypeptide)などのカルボキシラーゼ;
【0025】
3−オキソアシッドコエンザイムAトランスフェラーゼ1(3−oxoacid−Coenzyme A transferase 1)、ブランチドチェインアミノトランスフェラーゼ2,ミトコンドリアル(branched chain aminotransferase 2,mitochondrial)、アルデヒドオキシダーゼ1(aldehyde oxidase 1)などのトランスフェラーゼ;
【0026】
3−ヒドロキシメチル−3−メチルグルタリル−コエンザイムAリアーゼ(3−hydroxymethyl−3−methylglutaryl−Coenzyme A lyase)、メチルマロニル−コエンザイムAムターゼ(methylmalonyl−Coenzyme A mutase)、3−ヒドロキシイソブチル−コエンザイムAヒドロラーゼ(3−hydroxyisobutyryl−Coenzyme A hydrolase)、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムAシンターゼ1(可溶性)(3−hydroxy−3−methylglutaryl−Coenzyme A synthase 1(soluble))、ジヒドロリポアミドブランチドチェイントランスアシラーゼE2(dihydrolipoamide branched chain transacylase E2)、メチルマロニルCoAエピメラーゼ(methylmalonyl−Coenzyme A epimerase)、エノイルコエンザイムAヒドラターゼ,ショートチェイン,1,ミトコンドリアル(enoyl−Coenzyme A hydratase,short chain,1,mitochondrial);
【0027】
エノイル−コエンザイムA,ヒドラターゼ/3−ヒドロキシアシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ(enoyl−Coenzyme A,hydratase/3−hydroxyacyl Coenzyme A dehydrogenase)、AU RNAバインディングプロテイン/エノイル−コエンザイムAヒドラターゼ(AU RNA binding protein/enoyl-coenzyme A hydratase)、ヒドロキシアシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ/3−ケトアシル−コエンザイムAチオラーゼ/エノイルコエンザイムAヒドラターゼ(トリファンクショナルプロテイン),βサブユニット(hydroxyacyl−Coenzyme A dehydrogenase/3−ketoacyl−Coenzyme A thiolase/enoyl−Coenzyme A hydratase(trifunctional protein),beta subunit)、ヒドロキシアシル−コエンザイムAデヒドロゲナーゼ/3−ケトアシル−コエンザイムAチオラーゼ/エノイル−コエンザイムAヒドラターゼ(トリファンクショナルプロテイン),αサブユニット(hydroxyacyl−Coenzyme A dehydrogenase/3−ketoacyl−Coenzyme A thiolase/enoyl−Coenzyme A hydratase(trifunctional protein),alpha subunit)などの酵素複合体。
【0028】
本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤は、上述の酵素から選ばれる1または2以上の酵素のタンパク質発現を阻害することによって、分枝鎖アミノ酸の分解抑制活性を発現し得る。
【0029】
本発明において、分解を抑制するとは、生体におけるある物質の分解の程度が通常よりも低下することを意味する。本発明において、発現が抑制されるとは、生体におけるあるタンパク質の発現の程度が通常よりも低下することを意味し、より詳細にはタンパク質の遺伝子の発現の程度が通常よりも低下することを意味する。
【0030】
本発明の分枝鎖アミノ酸の分解阻害剤が分枝鎖アミノ酸の分解を抑制することの確認は、例えば、実施例のようにして行うことができる。すなわち、ラット腸間膜組織から調製した前駆脂肪細胞に対して、ラクトフェリンを添加した、或いは添加しない内臓脂肪分化メディウム(例えばプライマリーセル社の製品など)を添加して培養する。その後、細胞からRNAを抽出してGeneChip解析を行う。GeneChip解析は、GeneChipデータ解析システムGCOS(GeneChip Operating Software)などのソフトを用いてラクトフェリン添加と無添加のサンプルのComparison Analysisを行い、分枝鎖アミノ酸の分解に関与する酵素タンパク質の遺伝子の増減判定を確認して行うことができる。また、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物に実際にサンプルを投与して、サンプル投与前後の脂肪細胞における、分枝鎖アミノ酸の分解量の変化、分枝鎖アミノ酸の分解に関与する酵素の発現量の変化、サンプル投与前後の脂肪細胞における分枝鎖アミノ酸の分解量の変化などを確認してもよい。
【0031】
本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤の対象は特には限定されない。ヒトまたはヒト以外の脊椎動物に対し有用である。また対象であるヒトまたはヒト以外の脊椎動物の健康状態についても特に問わない。
【0032】
本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤には、ラクトフェリンのほかに、薬学的に許容される担体が配合され得る。薬学的に許容される担体としては、例えば油性成分、滑沢剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤などが挙げられる。また、甘味剤、酸味剤、香味剤、着色剤、色素等の添加物を適宜、適量含有してもよい。
【0033】
油性成分としては、各種脂肪酸エステル、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール等が例示される。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、タルク等が例示される。
【0034】
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、デンプン、デキストリン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント、精製ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、エチルセルロース、プルラン、ポリエチレングリコール(マクロゴール)等が例示される。
【0035】
崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロースカルシウム(カルメロースカルシウム)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロースナトリウム)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋型カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロースナトリウム)、粉末セルロース、セルロースまたはその誘導体、架橋型ポリビニルピロリドン(クロスポピドン)、デンプン、カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、寒天等が例示される。
【0036】
賦形剤としては、下記のものが例示される:
結晶セルロース、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム等の多糖類;
α化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、コーンスターチ、ポテトスターチ等のスターチ及びその誘導体;
ショ糖、グルコース、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、トレハロース、パラチノース、パラチニット(還元パラチノース)、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、乳糖、果糖、粉末還元麦芽糖水飴等の糖類および糖アルコール類;
粉末セルロース、部分α化デンプン、エチルセルロース等のセルロース及びその誘導体;
軽質無水ケイ酸、酸化チタン、水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、三ケイ酸アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリン、カカオ脂、クエン酸またはその塩、ステアリン酸またはその塩、リン酸水素カルシウム、リン酸水素ナトリウム。
【0037】
甘味料としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、サッカリンナトリウム、スクラロース、ステビア、ソーマチン等が例示される。酸味料としては、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸等が例示される。香味剤としては、メントール、カンフル、ボルネオール、リモネン等のモノテルペン類、各種香料等が例示される。
【0038】
本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤の剤型は、特に限定されるものではなく、投与形態に応じて適宜選択され得る。経口投与の場合、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、シロップ剤、徐放性錠、タブレット、咀嚼錠剤またはドロップ剤等が挙げられる。
【0039】
分枝鎖アミノ酸分解抑制剤の製造方法は、特に限定されるものではなく、剤型に合わせて適宜選択され得る。例えば剤型がタブレットの場合、ラクトフェリンおよび必要に応じて配合され得る任意の成分を混合した後この混合物を圧縮成形してタブレットを得る方法、さらに上記のように圧縮成形後に得られるタブレットを腸溶性成分によりコーティングする方法(腸溶剤とする方法)、が挙げられ、後者の方法が好ましい。腸溶性成分としては、シェラック、ヒドロキシメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルセルロース、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、ビール酵母細胞壁(例えば、商品名イーストラップなど)、タピオカデンプン、ゼラチン、ペクチン等が挙げられ、中でもシェラックが好ましい。なお、腸溶剤であるか否かは、第14改正日本薬局方 崩壊試験法により確認可能である。
【0040】
本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤は、分枝鎖アミノ酸の分解に対し優れた抑制効果を示す。よって、本発明の分枝鎖アミノ鎖分解抑制剤は、分枝鎖アミノ酸の分解に起因する現象、例えば、筋肉疲労(例えば、筋損傷、筋肉痛などの症状)の抑制に有効である。すなわち、運動条件下で分枝鎖アミノ酸が分解されると、筋肉組織における分枝鎖アミノ酸の蓄積量が減少し、このことが筋肉の疲労による症状発生の一因となるが、分枝鎖アミノ酸の分解が抑制されれば前記蓄積量は維持されるので、筋肉疲労の抑制効果をもたらす。よって、本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤は、筋肉疲労抑制剤として(すなわち、ラクトフェリンを有効成分とする筋肉疲労抑制剤として)用いることができる。ラクトフェリンは上記効果のほかに、脂肪代謝(分解)を促進する効果、すなわち肥満の予防、治療効果をも有することも知られていることから、本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤を含む筋肉疲労抑制剤を服用しながら運動することにより、効果的に肥満を解消し、健康の維持、生活習慣病の予防、治療を効率的に図ることができるものと期待される。
【0041】
本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤における、ラクトフェリンの配合量は、分枝鎖アミノ酸の分解阻害効果に応じて適宜定めることができる。一般に、ラクトフェリンの配合濃度は10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。
【0042】
本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤の投与量は、剤形、投与形態、投与対象であるヒトまたはヒト以外の脊椎動物の年齢、体重、性別、運動前に服用する場合には運動の負荷などの条件によって異なるが、上記作用が発揮でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内で適宜定めることができる。投与対象が成人の場合は、通常、ラクトフェリンの量として、1日当り50mg以上の量を投与することが好ましく、100mg以上の量を投与することがより好ましい。上限は通常5,000mg以下である。すなわち、ラクトフェリンの量として1日当たり50〜5,000mgとなる量を投与することが好ましい。例えばラクトフェリン100mgを含む錠剤で1日あたり300mgを摂取したい場合には、錠剤3錠を摂取することになる。
【0043】
投与方法は、ラクトフェリンの配合濃度や、剤型、投与対象者の年齢、体重、性別、運動前に服用する場合には運動の負荷などの条件により適宜定めることができる。例えば剤型がタブレットの場合、水等と一緒に服用することが好ましい。投与間隔は適宜定めることができ、食事の前、食事の後、および食間のいずれであってもよい。
【0044】
なお、本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤の投与の他に、分枝鎖アミノ酸や、他の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤の投与を組み合わせてもよい。分枝鎖アミノ酸の投与を本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤の投与と組み合わせる場合、本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤と合わせて投与することもできるし、ラクトフェリンと分枝鎖アミノ酸とを有効成分として含む筋肉疲労抑制剤として(単一の剤として)投与することも可能である。
【0045】
ヒトまたはヒト以外の脊椎動物に対してラクトフェリンを含有する分枝鎖アミノ酸分解抑制剤を与えることにより、筋肉疲労が抑制され得る。よって本発明の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤は医薬、医薬部外品、食品としても有用である。
【0046】
食品にはいわゆる健康食品が含まれるほか、機能性食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品が含まれる。
【0047】
ここで、分枝鎖アミノ酸分解阻害用食品の摂取時期は、特には限定されないが、運動(スポーツ、競技)開始前に摂取されることが好ましい。これにより、運動時にも、分枝鎖アミノ酸が分解されず通常時(運動していないとき)の蓄積量を保つことができ、筋肉疲労を効果的に抑制し得る。運動開始前とは、運動開始時よりも前を意味し、通常は数時間前(例えば30分〜3時間前)である。
また、運動について特に限定はなく、運動の種類や強度、運動の時間には無関係に適用可能であるが、好ましくは筋肉痛を伴うような強度の強い運動、すなわち、短距離走や運動不足の人の非日常的な急激な運動である。
【0048】
食品とする場合には、本発明の効果の表示を付しておくことが好ましい。本発明の効果の表示とは、分枝鎖アミノ酸の分解を阻害するために用いられるものである旨の表示;筋肉疲労を抑制するために用いられるものである旨の表示、などが挙げられる。
【0049】
このように、本発明の食品は、ヒトまたはヒト以外の脊椎動物に投与し、摂取させることによって、体内における分枝鎖アミノ酸の分解を抑制する。従って、本発明の食品は、筋肉疲労を抑制するための食品として有用である。また、食品とすれば日常的な摂取が可能となるので、運動の際の筋肉疲労の予防策として極めて有用である。
【実施例】
【0050】
実施例1
SDラット(雄性12週齢)から腸間膜脂肪組織を摘出し、前駆脂肪細胞を調製した。これを内臓脂肪分化メディウム(プライマリーセル社)に懸濁し、細胞培養用24ウェルプレートに播種した。細胞の播種量は、1×107個/24ウェルプレートとした。培養開始時に、各プレートに、ウシラクトフェリン(和光純薬工業)を0.3mg/mL添加した。培養期間中2日に1度培地交換を行った。なお、上記のようにラクトフェリンを添加した群(LF添加群)に対し、対照として、ラクトフェリンを添加しなかったほかは同様に培養を行った(無添加群)。
【0051】
ラクトフェリン添加5日後(培養開始5日後)の細胞を回収し、細胞からRNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いてTotal RNAを抽出・精製し、Affymetrix社のプロトコルに従ってGeneChip工程およびArrayのスキャンを実施した。ChipはRat Expression Array 230 2.0を用いた。また、スキャンの際はGeneChip3000Scannerを用いて画像データを取得した。
【0052】
GeneChipデータ解析システムGCOS(GeneChip Operating Software)を用いて、取得した各サンプルのArray画像データを確認した。また、GeneChipデータ解析ソフトウェアExpression Consoleを用いて遺伝子発現量(Signal)を数値として抽出した。さらに、GCOSを用いて、LF添加群と無添加群とでComparison Analysisを実施し、変動倍率(Signal Log Ratio=log2(LF添加群のシグナル/無添加群のシグナル))を算出し、発現変化の指標とした(表1−1及び表1−2中の*1)。表1−1及び表1−2に培養5日目の遺伝子発現変化の結果をまとめた。
【0053】
【表1−1】

【0054】
【表1−2】

【0055】
表1−1及び表1−2から明らかなように、LF添加群においては、無添加群と比較して、分枝鎖アミノ酸分解に関連する酵素群の大部分の発現が顕著に低下していた。このことから、ラクトフェリンは分枝鎖アミノ酸の分解を抑制することが明らかとなった。
【0056】
実施例2
30〜60歳代の男女503名(男女比1:1)に、ラクトフェリンを含む製剤(ラクトフェリン100mg、結晶セルロース65mg、乳糖60mg、デキストリン45mg、カルボキシメチルセルロースカルシウム5mg、ショ糖脂肪酸エステル5mg、及びヒハツ熱水抽出物5mgに、可塑剤及び流動化剤を加え定法どおり打錠し、シェラックを用いてコーティングした300mgの錠剤)を継続的に服用してもらい、服用後の効果を調べた。服用期間は約半年以上(54%が1年以上)であった。服用量は1日あたり製剤3錠前後とした。
【0057】
運動のしやすさについては、「楽になった」と答えた被験者が全体の12%(63名)であり、「きつくなった」と答えた被験者が1%(4名)であった。また、強い運動をする習慣のある被験者のうち(153名)「楽になった」と答えた被験者は16%(25名)であり、「きつくなった」と答えた人は0%(0名)であった。同様に、中程度の運動をする習慣のある被験者(292名)では15%(44名)、ウォーキングを日課とする被験者(432名)では14%の人(61名)が「楽になった」と答え、それぞれのうち「きつくなった」と答えた被験者は0%(0名)であった。
【0058】
身体活動増減については、「増加した」と答えた被験者が15%(73名)であり、「減少した」と答えた被験者が6%(31名)であり、増加したと答えた被験者の割合の方が高かった。
【0059】
このことから、ラクトフェリンは筋肉疲労を抑制する効果を発揮することが明らかとなった。また、実施例1の結果を踏まえると、ラクトフェリンが体内で分枝鎖アミノ酸の分解を抑制し、それにより筋肉疲労を抑制することを示すと考察できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンを有効成分とする、分枝鎖アミノ酸分解抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載の分枝鎖アミノ酸分解抑制剤を含む、筋肉疲労抑制剤。
【請求項3】
分枝鎖アミノ酸をさらに含む、請求項2に記載の筋肉疲労抑制剤。

【公開番号】特開2011−148769(P2011−148769A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279525(P2010−279525)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】