説明

分注器具

【課題】生理活性物質の産生を誘導する細胞等の機能の測定などにおいて、測定値に影響し得るエンドトキシン汚染を抑制でき、使用及び廃棄に際しての安全性が高められており、かつ分注作業を容易に行い得る分注器具を提供する。
【解決手段】第1の試験管が栓体8側から挿入される第1のホルダー2と、第2の試験管9が栓体10側から挿入される第2のホルダー3とを有し、第1,第2のホルダー2,3内には、第1,第2の針管4,5が設けられており、第1,第2の針管4,5が液密的に連通されるように、第1,第2のホルダー2,3が互いの前端側において結合されており、第1,第2のホルダー2,3及び第1,第2の針管4,5が合成樹脂からなり、エンドトキシン抽出液を第1の試験管2から第2の試験管3に圧力差を利用して分注したときに、分注前後のエンドトキシン抽出液の濃度差が0.1EU/ml未満とされている分注器具1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の試験管に収納されている液状試料の一部を第2の試験管にエンドトキシンによる汚染を引き起こすことなく分注することを可能とする分注器具に関し、例えば、血液細胞の生理活性物質の産生能力などを測定する際にエンドトキシン汚染を引き起こすことなく分注を行うのに好適に用いられる、分注器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液状の試料を例えば試験管などに採取した後、該液状の試料を分注するためにピペットなどの実験器具や様々な分注装置が用いられている。
【0003】
しかしながら、液状の試料によっては、ピペットや通常の分注装置を用いることができないことがある。すなわち、人体もしくは環境などに悪影響を及ぼす液状の試料では、ピペットや通常の分注装置を用いることができない。例えば、血液試料では、ウィルスなどの微生物感染の可能性があるため、通常のピペットや分注装置を用いた場合、取扱者が感染する恐れがある。
【0004】
また、下記の特許文献1に記載の細胞機能測定方法の場合のように、採取した血液を一定量のLPSで刺激する方法では、LPSの汚染が生じないようにLPSを遮断した系で血液試料を分注する必要があった。すなわち、通常のピペットや分注装置を用いた場合には、外気中のLPSが混入し、正確な測定を行うことができなくなる。
【0005】
従って、上記のように、人体もしくは環境などに悪影響を及ぼす恐れがある液状試料や、外気との接触により化学的もしくは物理的な変化を生じる恐れがある液状の試料などを取り扱う際には、液状の試料を外部と接触させることなく分注する必要がある。従来、この種の液状の試料を分注する場合、液状の試料が収納された閉鎖系容器から他の容器に注射器を用いて移しかえる方法が用いられていた。
【0006】
しかしながら、注射器を用いる方法では、液状の試料の一部を他の容器に移動させる操作が煩雑であり、かつ注射器の針先から試料がたれたりし、感染などのおそれがあった。また、液状の試料の一部を正確な量だけ他の容器に移動させることが困難であった。
【0007】
他方、下記の特許文献2には、このような問題を解決する分注器具が開示されている。図6は、この先行技術に記載の分注器具を示す。ここでは、液状の試料26が、内部が第1の圧力とされている第1の試験管27から、第1の圧力よりも低い第2の圧力とされている第2の試験管29に、第1,第2の圧力の圧力差を利用して移動される。この分注器具は、両端に針先23a,23bを有する針管23と、針管23の長さ方向途中に固定された保持部材24と、筒状ホルダー21とを有する。筒状ホルダー21の長さ方向中央に隔壁21aが形成されており、隔壁21aに、上記針管23が固定される。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の分注器具では、針管23をホルダー21に装着する際に、針管23の針先に手指が触れ、ユーザーが怪我をしたり、感染症に感染する恐れがあった。また、合成樹脂などからなるホルダー21と、金属からなる針管23とを有するため、廃棄に際しては、これらを分別して廃棄しなければならなかった。従って、多数の分注器具を用いる臨床現場等において、廃棄に際して煩雑な作業が強いられていた。また、分別廃棄に際し、針23をホルダー21から外さなければならず、この際に手指が受傷したり、感染症に感染する恐れもあった。
【0009】
また、下記の特許文献3に記載の分注器具では、上述した従来技術の欠点を解消し、使用及び廃棄に際しての安全性がさらに高められており、かつ容易に廃棄することができる、合成樹脂製のホルダー部と針管が一体となった分注器具が開示されている。
【0010】
しかしながら、血液などを測定試料として、サイトカインなどの生理活性物質の産生機能測定において、従来、上記のような分注器具を用いるとき、分注操作に伴い、分注器具自体に由来するエンドトキシン汚染により、測定結果が影響される恐れがあるにもかかわらず、何の考慮も図られていなかった。
【特許文献1】特開平10−807031号公報
【特許文献2】特開2000−300544号公報
【特許文献3】特開2003−75306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、サイトカインなどの生理活性物質の産生機能測定などにおいて、分注操作に伴って、実質的に測定値に影響しうるエンドトキシン汚染がなく、使用及び廃棄に際しての安全性が高められており、かつ容易に廃棄することができる分注器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、液状の試料が収納されており、内部が第1の圧力とされて栓体により閉成されている第1の試験管から、第1の圧力よりも低い第2の圧力とされて栓体により閉成されている第2の試験管に、液状の試料の一部を第1の圧力と第2の圧力との圧力差を利用して移動させる分注方法に用いられる分注器具であって、後端に開口を有し、該開口から第1の試験管が栓体側から挿入される第1のホルダーと、後端に開口を有し、該開口から第2の試験管が栓体側から挿入される第2のホルダーとを備え、前記第1,第2のホルダーの前端から、各ホルダー内において後方に延ばされた第1,第2の針管がそれぞれ形成されており、第1のホルダーの第1の針管が第1の試験管の栓体を貫通するように構成されており、第2のホルダーの第2の針管が、第2の試験管の栓体を貫通するように構成されており、第1の針管と第2の針管とが液密的に連通されるように、第1,第2のホルダーが互いの前端側において結合されており、前記第1,第2のホルダー及び第1,第2の針管が合成樹脂により構成されており、エンドトキシン抽出液を第1の試験管から第2の試験管に圧力差を利用して分注したとき、分注前後のエンドトキシン抽出液のエンドトキシン濃度差が0.1EU/ml未満とされている分注器具が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る分注器具は、上記第1,第2の針管が、液密的に連通され、かつ第1,第2のホルダーが互いの前端側において結合された一体的な構造を有し、第1,第2の試験管内の圧力差により分注が行われる。すなわち、第1のホルダー内に、内部が第1の圧力とされて栓体により閉栓されている第1の試験管を挿入し、第1の針管により該栓体を貫通させ、他方内部が第1の圧力よりも低い第2の圧力とされて栓体により閉栓されている第2の試験管を第2のホルダーに挿入し、第2の針管により栓体を貫通させるだけで、液状の試料が第1,第2の圧力の圧力差により第1の試験管から第2の試験管に移動される。この場合、液状の試料の移動量は、第1,第2の圧力の圧力差により調整される。
【0014】
よって、外気と液状の試料とを遮断した状態で、第1の試験管から第2の試験管に液状の試料の一部を容易にかつ高精度に移動させることができる。従って、液状の試料の分注を安全にかつ高精度に行うことができる。また、液状の試料の外部からの汚染も生じ難い。
【0015】
加えて、本発明では、上記エンドトキシン抽出液を第1の試験管から第2の試験管に上記のようにして圧力差を利用して分注したときに、分注前後のエンドトキシン抽出液の濃度差が0.1EU/ml未満とされている。すなわち、分注器具由来のエンドトキシン染料が上記特定の値未満に制限されているので、分注された液状試料における分注器具由来のエンドトキシンの混入が著しく低められており、血液中の白血球が分注器具由来のエンドトキシンにより刺激されて、サイトカインなどの所望でない産生を引き起こすおそれがない。従って、分注器具由来の汚染による測定不良を防止することができ、血液細胞のサイトカインの産生能などの測定の前処理に好適に用いられる分注器具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る分注装置を示す縦断面図であり、図2はその外観を示す斜視図である。
【0018】
分注器具1は、第1,第2のホルダー2,3を有する。第1,第2のホルダー2,3は、筒状の形状を有し、それぞれ、後端に開口2a,3aを有する。開口2a,3aの周囲にはフランジ部2b,3bが形成されている。
【0019】
開口2a,3aは、後述する第1,第2の試験管が挿入される部分に相当する。なお、開口2a,3aが開いている側を後端とし、反対側の端部2c,3cを前端側とする。
【0020】
ホルダー2,3の端部2c,3cから後方に延びるように、ホルダー2,3内には、第1,第2の針管4,5が形成されている。針管4,5は、中空針のような形状を有し、内部に流路4a,5aが形成されている。流路4a,5aは、針管4,5の針先4b,5b側において開口している。針先4b,5bは、第1,第2の試験管の栓体を貫通し得るように尖らされている。
【0021】
第1のホルダー2においては、端部2cの端面から後方に凹んだ凹部2dが形成されている。凹部2dは、略円筒状の形状を有し、略円筒状の後述の突出部3dが圧入され得る寸法とされている。凹部2dの底面には、前述した針管4の流路4aが開いている。
【0022】
第2のホルダー3においては、端部3cから前端側に突出している突出部3dが形成されており、該突出部3d内には、突出方向に延ばされた流路3eが形成されている。この流路3eは、針管5内の流路5aに連通しており、かつ突出部3dの先端において開口している。
【0023】
本実施形態では、上記針管4,5は、それぞれ、第1,第2のホルダー2,3と合成樹脂により一体的に形成されている。第1,第2のホルダー2,3は、上記突出部3dを凹部2dに圧入することにより各前端側において結合されている。針管5の内部の流路5aは、突出部3dの流路3eを介して針管4の流路4aに連通されている。
【0024】
第1のホルダー2の先端に、凹部2dが形成されており、第2のホルダー3に突出部3dが形成されているので、該突出部3dを凹部2dに挿入することにより、第1,第2のホルダー2,3の第1,第2の針管4,5の流路が連通される。
【0025】
また、第1のホルダー2の針管4と第2のホルダー3の針管5とを液密的に連通する構造については特に限定されないが、突出部3dが凹部2dに圧入される構造では、複雑な構造を必要とすることなく、第1,第2の針管を液密的に連通させることができる。
【0026】
なお、ホルダー2,3は、上記のように、合成樹脂成形品により構成されているが、このような合成樹脂としては、ABS樹脂、ポリプロピレンなどの適宜の合成樹脂を用いることができる。好ましくは、第1,第2のホルダー2,3は透明な合成樹脂により構成され、それによって後述する試験管内の状況を外部から視認することができる。また、針管4,5が、ホルダー2,3と合成樹脂により一体的に構成され、この針管によって、栓体8,10を搾針するのに十分な強度に成型可能な樹脂が好適に用いられる。
【0027】
本実施形態の分注器具1は、好適には、血液を測定試料として、白血球などの血液細胞からのサイトカインなどの生理活性物質の産生能力を測定する際、エンドトキシン汚染を排除し、簡便かつ高精度の測定を可能にするために用いられる。分注器具1では、第1の試験管に採取したエンドトキシン抽出液を第2の試験管に圧力差を利用して分注したとき、分分注前後のエンドトキシン抽出液の濃度差が0.1EU/ml未満とされている。
【0028】
エンドトキシン抽出液としては、エンドトキシンフリー水やエンドトキシンの抽出効率を高めるために血清アルブミンなどのタンパク質を添加したエンドトキシンフリーの液が用いられる。エンドトキシンの測定方法としては、種々の方法が存在するが、本明細書におけるエンドトキシン含量の測定方法は、第十四改正日本薬局方解説書「エンドトキシン試験法」における発色合成基質の加水分解による発色を指標とする比色法であり、例えば、市販品であるエンドスペシー(生化学工業社製)を用いて測定することができる。
【0029】
分注前後のエンドトキシン抽出液の濃度差は0.1EU/ml未満とされていることが必要であり、分注前後のエンドトキシン抽出液の濃度差が0.1EU/ml以上であると、後述の実験例のように、エンドトキシンによって、血液中に生理活性物質の一つであるサイトカインなどの産生誘導を顕著に引き起こす。
【0030】
なお、上記のように、第1の試験管から第2の試験管に液状試料が圧力差により分注されるが、第1,第2の試験管や、分注器具以外の部材は合成樹脂またはガラスなどの適宜の材料により構成され得る。これらの器具や部材についても、エンドトキシン汚染を引き起こし難いものを用いることが好ましい。
【0031】
例えば、ガラス製の試験管や部材の場合には、250℃及び1時間以上の乾熱処理を施したものであることが望ましい。合成樹脂からなる試験管や部材の場合には、0.2M水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、エンドトキシンフリー水で洗浄し、エンドトキシンを失活させたものを用いることが望ましい。
【0032】
また、水を使用する場合、水はエンドトキシンフリー水であることが必要であり、操作環境は二次的なエンドトキシンの汚染をできるだけ防止するために、クリーンルームなどであることが望ましい。
【0033】
次に、上記分注器具1を用いて、第1の試験管から第2の試験管に、外気との接触を遮断した状態で液状の試料を分注する方法を、図3を参照して説明する。まず、図3に示すように、液状の試料6が収納された第1の試験管7を用意する。第1の試験管7は、栓体8により閉成されている。栓体8で閉成された第1の試験管7内は、第1の圧力とされている。この第1の圧力については、後述する第2の圧力よりも高ければ特に限定されないが、通常、大気圧とされる。
【0034】
また、液状の試料6を収納した第1の試験管7を用意する方法については特に限定されない。すなわち、第1の試験管として真空採血管などを用意し、第1の試験管7に栓体8が取り付けられた状態で、血液などの液状の試料6を栓体8を貫通する採血針を用いて吸引し、液状の試料6を試験管7内に収納してもよい。あるいは、第1の試験管7内に、液状の試料6を収納した後、栓体8により閉成してもよい。
【0035】
もっとも、好ましくは、真空採血管のように、真空吸引により液状の試料6を収納する方法が用いられる。すなわち、第1の試験管7に栓体8が取り付けられた構造に、真空吸引により液状の試料6を注入する方法では、最初の液状の試料6の収納操作を外気と遮断した状態で行うことができる。
【0036】
他方、図3に示されている第2の試験管9を用意する。第2の試験管9内の圧力は、第1の試験管7内の圧力、すなわち第1の圧力よりも低い第2の圧力とされている。そして、第2の試験管9は栓体10により閉成されている。第2の圧力の大きさは、第1の圧力との圧力差を利用して液状の試料6の一部を移動させる量に応じて定められる。
【0037】
次に、図1に示した分注器具1の第1のホルダー2内に、第1の試験管7を挿入し、針管4により栓体8を貫通させる。同時に、あるいは直後に、第2のホルダー3に、第2の試験管9を挿入し、栓体10を針管5により貫通する。その結果、第1の試験管7と、第2の試験管9とが分注器具1の針管4,5により連通される。そのため、第1の試験管7内の第1の圧力と、第2の試験管9内の圧力差により、液状の試料6が第2の試験管9側に流れ込む。
【0038】
液状の試料6の移動量は、第1,第2の圧力の圧力差に依存する。従って、第2の圧力の大きさを、液状の試料6を移動させる量に応じて設定しておくことにより、所望量の液状の試料6を第1の試験管7から第2の試験管9に移動させることができる。
【0039】
上記分注操作に際しては、閉鎖系容器である第1,第2の試験管7,9と、第1,第2の試験管7,9内を液密的に連通させる分注器具1とが用いられるため、液状の試料6が外気と接触することはない。
【0040】
よって、外気と遮断した状態で液状の試料6の分注を行い得るので、液状の試料6として、感染の恐れがある血液試料を用いた場合や、人体もしくは環境などに悪影響を及ぼす毒物などを用いた場合であっても、操作者に感染や汚染の恐れを引き起こすことなく分注作業を安全に行うことができる。
【0041】
しかも、上記のように、針管4,5が、ホルダー2,3と合成樹脂により一体的に構成されているため、針管をホルダーに固定する作業を必要とせず、直ちにホルダー2,3を用いることができる。加えて、廃棄に際しても、すべてが合成樹脂材料から構成されているので、プラスチック廃棄物として直ちに廃棄することができる。また、廃棄に際し、分解作業を必要としないため、廃棄に際して針先4b,5bにより手指が損傷したり、血液感染が生じたりする恐れもない。
【0042】
のみならず、本実施形態の分注器具1の最大の特徴は、後述する実施例及び比較例で固定されるようにエンドトキシン抽出液を分注した場合、第1の試験管から第2の試験管に分注した後と分注前のエンドトキシン抽出液のエンドトキシンの濃度差が0.1EU/ml未満に制限されていることにある。すなわち、分注器具由来のエンドトキシン汚染が著しく低められている。加えて、単に分注器具由来のエンドトキシン汚染量が低められているだけでなく、上記のようにして測定されたエンドトキシン抽出液の分注前後の濃度差として0.1EU/ml未満と特定の値以下とされており、そのため、分注後の液状の試料を用いてサイトカインの産生能などを測定した場合、エンドトキシン汚染による影響を受けることなく、高精度にサイトカインの産生能などを測定することができる。
【0043】
すなわち、従来は、前述したように、従来、エンドトキシンなどのLPSで刺激する細胞機能測定方法では、LPSを単純に遮断した状態で分注する必要があることは特許文献1に記載のように知られていた。しかしながら、このような方法を実現するために従来、使用する器具を単純にエンドトキシンフリーとなるように処理したり、閉鎖系容器から他の容器に注射器等を用いて移し替える方法などが採用されていた。そして、これらの方法では、作業が煩雑とならざるを得なかった。
【0044】
他方、特許文献2,3に記載のような分注器具では、操作自体は容易であるが、エンドトキシンによる汚染等については注意が払われていなかった。これに対して、本実施形態の分注器具1を用いた場合には、上記のように、分注操作を容易に行い得るだけでなく、エンドトキシン抽出液の分注前後のエンドトキシン濃度差が0.1EU/ml未満と特定の値以下に制限されているため、エンドトキシン汚染による影響を抑制することができる。しかも、0.1EU/ml未満と特定の値以下に制限されているので、作業者は、試験管や使用する液状試料に注意を払うだけでよく、分注器具自体には注意を払うことなく、正確な測定を行うことができる。
【0045】
なお、上記第1,第2の試験管7,9を構成する材料については特に限定されず、ガラス、合成樹脂などの通常の採血管や試験管に用いられる適宜の材料を用いることができる。また、栓体8,10を構成する材料についても、エラストマーなどからなる適宜の弾性材料を用いることができる。
【0046】
なお、針管4の長さについては、図1に示した分注操作において針先4bが液状の試料6の液面から最終的に露出することがないように選択することが必要である。すなわち、液状の試料6を第1の試験管7から第2の試験管9に移動させた後においても、針管4の先端4bが液状の試料6の液面よりも下方に位置するように針管4の長さを選択することが必要である。
【0047】
上記実施形態では、突出部3dを凹部2dに圧入することにより、針管4,5が液密的に連通されると共に、ホルダー2,3が連結されていたが、他の構造を用いてもよい。例えば、図4に示すように、突出部3dの外周面に雄ねじ3fを形成し、凹部2dの内周面に雄ねじ3fと噛み合う雌ねじ2fを形成してもよい。この場合には、突出部3dと、凹部2dとが、ねじ止めされて、ホルダー2,3が連結される。すなわち、第2のホルダー3の突出部3dを第1のホルダー2の凹部2dにねじ込むことにより、両ホルダー2,3が連結されると共に、針管4,5の流路4a,5aが液密的に連通される。
【0048】
次に、本発明の実施例及び比較例を挙げることにより、本発明をさらに詳細に述べる。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(参考例)
ポリエチレンテレフタレート製の4mlの試験管(直径12.6×75mm)を、エンドトキシンフリー水(大塚製薬社製)4mlで10回洗浄し、200IUヘパリンNa注射液(ノボノルディスクA/S)ヘパリンナトリウム(ノボ・ノルディスクA/S社製、商品名:ノボ・ヘパリン注1000)を0.05ml添加した。E.coli UKT−B由来エンドトキシン標準品100(日本薬局方標準品)に添付書に記載の所定量のエンドトキシンフリー水(注射用水、大塚製薬社製)を添加して溶解し、次いで、注射用生理食塩水にて段階希釈して、0.2EU/ml、0.4EU/ml、1EU/ml、2EU/ml、4EU/ml、10EU/ml、及び20EU/mlの各エンドトキシン溶液を調製し、各濃度水準の溶液をそれぞれ、上記ヘパリンナトリウムを添加済みの試験管に0.05mlずつ添加した(n=6)。
【0049】
次いで、エンドトキシンフリー水(大塚製薬社製)でよく洗浄した、上記試験管の管径に合致したブチルゴム製の栓体を上記各試験管の開口部に、開口部を密栓しないように、軽く載せた後、減圧し得る容器内に配置し、上記容器を570hPaに減圧したところで、該試験管の開口部を密栓した。
【0050】
注射針のついた注射器に、エンドトキシンフリー水(大塚製薬社製)を採取し、注射針を上記ヘパリンナトリウムと各水準のエンドトキシンとを添加し、かつ減圧密栓された試験管各3本ずつと、ヘパリンナトリウムだけを含有した試験管6本の内の各3本ずつのブチルゴム製の栓体部分に突き刺し、各試験管にエンドトキシンフリー水(大塚製薬社製)を0.9ml注入し、1時間、37℃で攪拌し、エンドトキシンを抽出した。次に、この抽出液中のエンドトキシン含量を生化学工業社製のエンドトキシン測定用キットであるエンドスペシーES(商品名)を用いて、合成発色基質法で測定した。
【0051】
その結果、ヘパリンナトリウムだけを含有した試験管のエンドトキシン濃度は、0.006EU/ml未満の検出限界以下であった。また、各水準のエンドトキシンを添加した試験管のエンドトキシン濃度は、それぞれ、0.01EU/ml、0.02EU/ml、0.05EU/ml、0.1EU/ml、0.2EU/ml、0.5EU/ml、1EU/mlであった。
【0052】
健常人ボランティアから注射針のついた注射器にヘパリン採血し、その注射針を上記の残りの各3本の試験管のブチルゴム製栓体部分に突き刺し、試験管内に、検体血液0.9mlを採取した。次いで、予め37℃に保温しておいた恒温器中の転倒混和用ロッカープラットフォームに血液を採取した各々の試験管を取り付け、4時間、転倒混和した。混和後、各々の容器を1600G、10分間、4℃で遠心分離して、上澄みの血漿を採取した。採取した血漿中のTNFα濃度を酵素免疫測定キット(Genzyme社製、PREDICTA Human TNF−α ELISA KIT、測定限界35pg/ml)にて測定した。測定結果を図5に示した。
【0053】
図5における横軸のエンドトキシン濃度の単位EU/mlは、血液と接触したときの全溶液中のエンドトキシン濃度を示し、縦軸のTNF−α産生量は、各3本の試験管で得られた値の平均値を示す。この結果から明らかなように、エンドトキシン濃度が0.1EU/ml以上では、TNFαの産生誘導が起こることが明らかである。なお、エンドトキシン濃度が0.006EU/ml未満、0.01EU/ml、0.02EU/ml及び0.05EU/mlの場合は、TNF−α産生量は検出限界濃度以下であった。
(実施例)
ポリエチレンテレフタレート製の4mlの試験管(直径12.6×長さ75mm)を、エンドトキシンフリー水(大塚製薬社製)4mlで10回よく洗浄し、1000IUヘパリンNa注射液〔ノボ・ノルディスクA/S社製、商品名:ノボ・ヘパリン注1000〕を0.03ml添加した後、ゴム栓を試験管の開口部に密栓しないように軽く載せた。真空打栓機(日精)を用いて、2.0−2.3mlの血液を吸引できるように減圧し、試験管の開口部をゴム栓で密栓した。
【0054】
この減圧された第1の試験管にマルチプル注射針を用いて、エンドトキシンフリー水を直接約2ml採取し、本発明の分注器具の下方側からホルダーに挿入し、針管をゴム栓に突き刺し、ホルダーを反転させた。次に、別の減圧された第2の試験管を第1の試験管と対向するホルダーの下方側から挿入し、針管をゴム栓に突き刺し、圧力差によって、第1の試験管内のエンドトキシンフリー水を第2の試験管に分注した。
【0055】
分注後に、第1の試験管及び第2の試験管を針管から引き抜いた。分注後の第1の試験管及び第2の試験管内の液のエンドトキシン濃度を生化学工業社製のエンドトキシン測定用キットであるエンドスペシーESを用いて、合成発色基質法で測定した。繰り返し5回試験したときの試験管1及び2の抽出液中のエンドトキシン濃度の差は0.01〜0.03EU/mlであり、何れも0.1EU/ml未満であった。
【0056】
健常人ボランティアから、上記の減圧試験管に、マルチプル注射針を用いて、血液を採取し、上記のエンドトキシンフリー水を分注したときと同様に分注器具を用いて、第1の試験管から第2の試験管に血液を分注した。次に、血液を分注後の第1の試験管及び第2の試験管を37℃の恒温器内で穏やかに撹拌しながら4時間培養した。培養後、各々の試験管を1600G、10分間、4℃で遠心分離して、上澄みの血漿を採取した。採取した血漿中のTNFα濃度を酵素免疫測定キット(Genzyme社製、PREDICTA Human TNF−α ELISA KIT、測定限界35pg/ml)にて測定した。第1の試験管及び第2の試験管の培養血液から採取した血漿中のTNFα量は、何れも測定限界未満であった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施実施形態に係る分注器具の縦断面図。
【図2】図1に示した実施形態の分注器具の外観を示す斜視図。
【図3】図1に示した実施形態の分注器具を用いた分注方法を説明するための縦断面図。
【図4】第1のホルダーの突出部と第2のホルダーの凹部との連結構造の他の例を説明するための部分切欠断面図。
【図5】血漿中のTNFα濃度を酵素免疫測定キットにて測定した結果を示す図。
【図6】従来の分注器具を説明するための縦断面図。
【符号の説明】
【0058】
1…分注器具
2,3…第1,第2のホルダー
2a,3a…開口
2c,3c…先端
2d…凹部
2f…雌ねじ
3d…突出部
3e…流路
3f…雄ねじ
4,5…第1,第2の針管
4a,5a…流路
4b,5b…針先
6…液状の試料
7…第1の試験管
8…栓体
9…第2の試験管
10…栓体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の試料が収納されており、内部が第1の圧力とされて栓体により閉成されている第1の試験管から、第1の圧力よりも低い第2の圧力とされて栓体により閉成されている第2の試験管に、液状の試料の一部を第1の圧力と第2の圧力との圧力差を利用して移動させる分注方法に用いられる分注器具であって、
後端に開口を有し、該開口から第1の試験管が栓体側から挿入される第1のホルダーと、後端に開口を有し、該開口から第2の試験管が栓体側から挿入される第2のホルダーとを備え、
前記第1,第2のホルダーの前端から、各ホルダー内において後方に延ばされた第1,第2の針管がそれぞれ形成されており、第1のホルダーの第1の針管が第1の試験管の栓体を貫通するように構成されており、第2のホルダーの第2の針管が、第2の試験管の栓体を貫通するように構成されており、第1の針管と第2の針管とが液密的に連通されるように、第1,第2のホルダーが互いの前端側において結合されており、前記第1,第2のホルダー及び第1,第2の針管が合成樹脂により構成されており、
エンドトキシン抽出液を第1の試験管から第2の試験管に圧力差を利用して分注したとき、分注前後のエンドトキシン抽出液のエンドトキシン濃度差が0.1EU/ml未満とされている分注器具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−343259(P2006−343259A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170505(P2005−170505)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】