説明

分画された大豆蛋白素材およびそれに適した加工大豆、並びにそれらの製造法

【課題】
本発明は、脂質親和性蛋白質の含量が低下した豆乳及び分離大豆蛋白や、脂質親和性蛋白質の含量が増加したオカラを提供することを目的とする。そしてそれらの方法が食品工業レベルで実施可能なプロセスであることも課題とする。
【解決手段】
脂質親和性蛋白質が選択的に変性した加工大豆から得られた豆乳や分離大豆蛋白は、従来の製法によるものに比べて風味が優れていることを見出した。さらに、脂質親和性蛋白質が選択的に変性した加工大豆から得られたオカラは、脂質親和性蛋白質が豊富に含まれることを見出した。以上より上記課題を解決するに到った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分画された大豆蛋白素材およびそれに適した加工大豆、並びにそれらの製造法に関する。詳しくは、大豆蛋白質に含まれる各々特性のある蛋白質(7Sグロブリン、11Sグロブリン、脂質親和性蛋白質など)への分画技術に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆蛋白質は、特有のゲル化力を発揮する性質から、食品の物性改善に幅広く利用されていると共に、栄養価の高い健康食品素材としての利用も増大している。
【0003】
大豆の貯蔵蛋白質は、pH4.5付近で沈澱し、比較的簡単に貯蔵蛋白質以外の可溶性成分が主体の酸可溶性蛋白画分と貯蔵蛋白質が主体の酸沈殿性蛋白画分とに分けることができる。この酸沈殿性蛋白画分を回収したものが分離大豆蛋白であり、現在広く食品工業に利用されている。
【0004】
大豆蛋白質を構成する蛋白質は、また超遠心分析による沈降係数から、2S,7S,11S,15Sの各グロブリンに分類される。このうち、7Sグロブリンと11Sグロブリンはグロブリン画分の主要な構成蛋白成分である。なお、免疫学的命名法にいうβ−コングリシニンは7Sグロブリンに、グリシニンは11Sグロブリンに実質的に相当するものである。
【0005】
大豆蛋白質を構成する蛋白質は、粘性、凝固性、界面活性などの物性や栄養生理機能において異なる性質を有する。
例えば7Sグロブリンは血中の中性脂肪を低下させることが報告され(非特許文献1)ている。また、11Sグロブリンは、ゲル化力が高く、豆腐ゲルの硬さ・食感を支配していると言われている。
【0006】
このように、大豆蛋白質をこれらの成分に富む画分へ分画することは、生理機能面や物性機能面における各蛋白質特有の機能を大きく発現させることが可能となり、特長ある素材の創出につながる可能性がある。そしてこれにより食品産業における蛋白利用分野の拡大が期待できる。
【0007】
図1に7Sグロブリンと11SグロブリンのpHに対する溶解挙動を示すとおり、7SグロブリンのpH4.8付近において、11SグロブリンはpH4.5〜6で溶解度が低いことから、pH6付近でまず11Sグロブリンを沈澱させ、その後にpHをさらに下げて7Sグロブリンを沈澱させればそれぞれの成分を高純度に分画出来るであろうということは予想できる。
しかしながら、実際に豆乳をpH6に調整し、不溶性画分と水溶性画分とに分けてSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるパターンを見ると、どちらの画分にも7Sグロブリンと11Sグロブリンが相当量混入してしまう。
そのため、単純にpHに対する両グロブリンの溶解挙動のみでは高純度に分画することが出来ない問題があった。
【0008】
そこで、この問題を克服するため、7Sグロブリンと11Sグロブリンを分画する技術がいくつか開示されている(非特許文献2、特許文献1〜7等)。
【0009】
一方、酸沈殿性大豆蛋白質には、7Sグロブリンや11Sグロブリンの他にも、細胞膜をはじめプロテインボディーやオイルボディー等の膜を構成する極性脂質との親和力の高い雑多な蛋白質が混在することが近年報告されている(非特許文献3)。
かかる報告を受け、本発明者による研究の結果、低変性の脱脂豆乳に対し1M濃度になるように硫酸ナトリウムを添加し、pHを塩酸で4.5に調製すると、酸可溶性画分に7S及び11Sグロブリンが移行すること、そして一方で酸沈殿性画分には、他の雑多な蛋白質が移行することがわかった(非特許文献4)。
そしてこの酸沈殿性画分の窒素量は脱脂豆乳中の全窒素量のうち約30%も占め、意外にも多量であることが判明した。
さらにこれらは工業的に生産される分離大豆蛋白の約35%をも占めていることを報告しており、この一群の蛋白質が従来の豆乳や分離大豆蛋白などの大豆蛋白素材の風味に影響を与えていることがわかってきた(非特許文献5)。
【0010】
この7Sグロブリンと11Sグロブリンの少ない酸沈殿性画分に含まれる蛋白質は、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動による推定分子量において主に34kDa、24kDa、18kDaを示す蛋白質、リポキシゲナーゼ、γ−コングリシニンや、その他多くの雑多な蛋白質が混在したものである。この一群の蛋白質は極性脂質との親和性を示す。
【0011】
以上の知見によれば、従来の分画技術(非特許文献2,特許文献1〜7)は脂質親和性蛋白質が酸沈殿性大豆蛋白質の相当な割合を占めていることを何ら考慮していないため、7Sグロブリンや11Sグロブリンを高純度に分画することを実質的には成し得ていなかったことがわかる。
【0012】
7Sグロブリン、11Sグロブリンと脂質親和性蛋白質を高純度に分画する方法としては、非特許文献4の方法が示されているが、高いイオン強度にして、多くの還元剤が必要であるため、脱塩や洗浄が必須工程となるため、実験レベルでは有効であるも、工業的プロセスには不向きであった。
【0013】
そこで、本出願人は脂質親和性蛋白質の混入率の低い、高純度の大豆7Sグロブリン蛋白と大豆11Sグロブリン蛋白に分画する技術を開発した(特許文献8,9)。この方法は、7Sグロブリンを高純度に分画する点において工業的に優れた方法である。しかしその一方で11Sグロブリンについても脂質親和性蛋白質の混入を少なくし、高純度に分画するためには煩雑な操作が必要であり、改善の余地がある。
【0014】
すなわち、7Sグロブリンだけを高純度に分画するのではなく、分離大豆蛋白一般或いは11Sグロブリンにおいても脂質親和性蛋白質の混入率の低い製法の開発が望まれる。そして、7Sグロブリン、11Sグロブリン、脂質親和性蛋白質をそれぞれ簡便な方法で高純度に分画できる方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭55−124457号公報
【特許文献2】特開昭48−56843号公報
【特許文献3】特開昭49−31843号公報
【特許文献4】特開昭58−36345号公報
【特許文献5】特開昭61−187755号公報
【特許文献6】国際公開WO00/58492号公報
【特許文献7】米国特許第6171640号公報
【特許文献8】国際公開WO02/28198号公報
【特許文献9】国際公開WO2004/43160号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Okita T et al, J.Nutr.Sci.Vitaminol.,27(4), 379-388, 1981
【非特許文献2】Thanh,V.H, and Shibasaki,K., J.Agric.FoodChem., 24, 1117-1121, 1976
【非特許文献3】Herman, Planta, 172, 336-345, 1987
【非特許文献4】Samoto M et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 58(11), 2123-2125, 1994
【非特許文献5】Samoto M et al., Biosci Biotechnol Biochem, 62(5), 935-940, 1998
【非特許文献6】T. Nagano, et. al., Relationship between rheological properties and conformational states of 7S globulin from soybeans at acidic pH, Food Hydrocolloids: Structures, Properties, and Functions, Plenum Press, New York, 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記課題に鑑み、本発明は、7Sグロブリンのみならず、11Sグロブリン、脂質親和性蛋白質の3つの蛋白質画分を効率的かつ高純度に分画できる手段を提供することを目的とする。さらには脂質親和性蛋白質の含量が低下した豆乳及び分離大豆蛋白を提供することも目的とする。そしてそれらの方法が食品工業レベルで実施可能なプロセスであることも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、本発明者らは蛋白質及びオカラを含有する低変性の大豆に特定の蛋白質の変性処理を施した加工大豆を調製し、これを原料として豆乳を抽出し、この豆乳を簡便な分画方法によるだけで大豆蛋白質を効率的に7Sグロブリン、11Sグロブリン、或いは脂質親和性蛋白質を高純度に分画できることを見出し、上記課題を解決するに到った。
【0019】
すなわち本発明者らは、7Sグロブリンと11Sグロブリンは低変性のままで脂質親和性蛋白質のみが選択的に変性するような条件で変性処理を施した加工大豆を調製し、これを原料として豆乳を抽出したところ、7Sグロブリン及び11Sグロブリンが主に抽出される一方、脂質親和性蛋白質は抽出が抑制されて相当量が不溶性画分としてオカラ側に留まることを見出した。
そして、得られた脂質親和性蛋白質の少ない豆乳のpHを7Sグロブリンと11Sグロブリンの溶解度の差が大きなpH域に調整するだけで、両グロブリンの高純度の分画を容易に達成できることを見出した。
【0020】
さらに、得られたオカラに加水し、加熱抽出することにより、これまで7Sグロブリンや11Sグロブリンとの分画が困難であった脂質親和性蛋白質を高純度に分画出来ることを見出した。そして分画した脂質親和性蛋白質の生理作用を調べたところ、通常の分離大豆蛋白や分画した7Sグロブリンと11Sグロブリンに比べて顕著に血中コレステロール低下作用を有する知見を得た。
【0021】
さらに、脂質親和性蛋白質が選択的に変性した加工大豆から得られた豆乳や分離大豆蛋白は、従来の製法によるものに比べて風味が優れていることを見出した。
【0022】
さらに、脂質親和性蛋白質が選択的に変性した加工大豆から得られたオカラは、脂質親和性蛋白質が豊富に含まれることを見出した。
【0023】
さらに、本発明による大豆蛋白質の分画法は、7Sグロブリン欠損大豆を用いた場合に、11Sグロブリンと脂質親和性蛋白質の2画分を分画する場合にも応用できることを見出した。
【0024】
すなわち本発明は、
(1)蛋白質及びオカラ成分を含有し、PDIが40以上80未満であり、含まれる蛋白質のうち脂質親和性蛋白質が選択的に水不溶化されていることを特徴とする加工大豆、
(2)選択的水不溶化指数(LP/MSP)が45%以下である前記(1)記載の加工大豆、
(3)選択的水不溶化指数(LP/MSP)が35%以下である前記(1)記載の加工大豆、
(4)7Sグロブリン、11Sグロブリン及び脂質親和性蛋白質から選択される1種以上の酸沈殿性大豆蛋白質の分画用である前記(1)記載の加工大豆、
(5)蛋白質及びオカラ成分を含む原料大豆に対し、等重量以下の極性アルコール溶液を含浸させることを特徴とする前記(1)記載の加工大豆の製造法、
(6)極性アルコール溶液を含浸させる工程と、品温30〜95℃で加温処理を行う工程とを含むことを特徴とする前記(5)記載の加工大豆の製造法、
(7)蛋白質及びオカラ成分を含む原料大豆に対し、加熱処理を施すことを特徴とする前記(2)記載の加工大豆の製造法、
(8)7Sグロブリン、11Sグロブリン及び脂質親和性蛋白質からなる群より選択される少なくとも1種の酸沈殿性大豆蛋白質が濃縮された分画大豆蛋白を製造するための、前記(1)記載の加工大豆の使用、
(9)前記(1)記載の加工大豆から調製した豆乳又はオカラを原料とし、7Sグロブリン、11Sグロブリン及び脂質親和性蛋白質からなる群より選択される少なくとも1種の酸沈殿性大豆蛋白質が濃縮された画分を回収することを特徴とする分画大豆蛋白の製造法、
(10)前記(1)記載の加工大豆から調製した豆乳をpH5.2〜6.4に調整し、不溶性画分を回収することを特徴とする大豆11Sグロブリン蛋白の製造法、
(11)前記(1)記載の加工大豆から調製した豆乳をpH5.2〜6.4に調整し、不溶性画分を分離して得た水溶性画分をpH4〜5.5に調整し、不溶性画分を回収することを特徴とする大豆7Sグロブリン蛋白の製造法、
(12)前記(11)記載の水溶性画分をpH4〜5.5に調整し40〜65℃で加熱後、pH5.3〜5.7に調整して生ずる不溶性画分を分離し、得られた水溶性画分をpH4〜5に調整し、不溶性画分を回収することを特徴とする大豆7Sグロブリン蛋白の製造法、
(13)前記(1)記載の加工大豆から調製した豆乳をpH4〜5.5に調整し40〜65℃で加熱後、pH5.3〜5.7に調整して生ずる不溶性画分を分離し、得られた水溶性画分をpH4〜5に調整し、不溶性画分を回収することを特徴とする大豆7Sグロブリン蛋白の製造法、
(14)前記(1)記載の加工大豆から調製したオカラを分画してなり、クロロホルムとメタノールの体積比が2:1の溶媒で抽出される油分を7%以上含有することを特徴とする非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白、
(15)LCI値が60%以上である前記(14)記載の非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白、
(16)前記(1)記載の加工大豆から調製したオカラに加水し、加熱抽出した抽出液を回収することを特徴とする非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白の製造法、
(17)該抽出液を酸沈澱させ、不溶性画分を回収することを特徴とする前記(16)記載の非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白の製造法、
(18)前記(1)記載の加工大豆から調製した豆乳を分画してなり、クロロホルムとメタノールの体積比が2:1の溶媒で抽出される油分を7%以上含有することを特徴とする非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白、
(19)LCI値が60%以上である前記(18)記載の非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白、
(20)前記(12)記載のpH5.3〜5.7に調整して生ずる不溶性画分を回収することを特徴とする非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白の製造法、
(21)前記(1)記載の加工大豆を原料とする豆乳、
(22)前記(1)記載の加工大豆を水抽出し、水溶性画分を回収することを特徴とする豆乳の製造法、
(23)前記(1)記載の加工大豆を原料とするオカラ、
(24)前記(1)記載の加工大豆を水抽出し、不溶性画分を回収することを特徴とするオカラの製造法、
(25)前記(1)記載の加工大豆から調製した豆乳を原料とする分離大豆蛋白、
(26)LCI値が38%以下である前記(25)記載の分離大豆蛋白、
(27)下記工程を経ることを特徴とする大豆蛋白質の分画方法:1.前記(1)記載の加工大豆に加水し、豆乳及びオカラに分離する工程、2.前記豆乳をpH5.2〜6.4に調整し、水溶性画分を分離して不溶性画分である大豆11Sグロブリン蛋白を得る工程、3.前記水溶性画分をpH4〜5.5に調整して40〜65℃で加熱後、pH5.3〜5.7に調整し、水溶性画分を分離して不溶性画分である非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白を得る工程、
4.前記pH5.3〜5.7に調整して分離した水溶性画分をpH4〜5に調整し、不溶性画分である大豆7Sグロブリン蛋白を得る工程、
(28)大豆が7Sグロブリン欠損大豆であることを特徴とする前記(1)記載の加工大豆、
(29)大豆が7Sグロブリン欠損大豆であることを特徴とする前記(9)記載の分画大豆蛋白の製造法、
(30)前記(28)記載の加工大豆から調製した豆乳をpH5.2〜6.4に調整し、不溶性画分を分離して得た水溶性画分をpH4〜5に調整し、不溶性画分を回収することを特徴とする非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白の製造法、
(31)下記工程を経ることを特徴とする大豆蛋白質の分画方法:
1.前記(28)記載の加工大豆に加水し、豆乳及びオカラに分離する工程、
2.前記豆乳をpH5.2〜6.4に調整し、水溶性画分を分離して不溶性画分である大豆11Sグロブリン蛋白を得る工程、
3.前記水溶性画分をpH4〜5に調整して水溶性画分を分離して不溶性画分である非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白を得る工程、
(32)前記(14)記載の非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白を含有することを特徴とする血中コレステロール低下用組成物、
(33)前記(18)記載の非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白を含有することを特徴とする血中コレステロール低下用組成物、
(34)血中コレステロール低下用組成物の製造のための、前記(14)記載の非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白の使用、
(35)血中コレステロール低下用組成物の製造のための、前記(18)記載の非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白の使用、
に係る発明を提供するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の効率的な製造プロセスに適した簡便な方法により、大豆蛋白質を7Sグロブリン、11Sグロブリン、及び脂質親和性蛋白質の3画分に高純度で分画することが可能となる。この分画法は、従来法である塩の添加などによる分画方法とは異なり、塩類を加えずにpH調整を主体として行う方法であるため、蛋白質を沈澱物として回収するのに必要な低イオン濃度環境にするための希釈や脱塩の操作が不溶であり、操作の簡便化が図れる優れた方法である。
【0026】
さらには、この加工大豆から脂質親和性蛋白質をほとんど含まない、風味に優れた豆乳や分離大豆蛋白の提供も可能となる。
【0027】
本加工大豆を原料として得られる豆乳、分離大豆蛋白、大豆11S蛋白、大豆7S蛋白、オカラ、非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白は、従来の大豆蛋白素材に比べて嫌みがなくスッキリとした、極めて良好な風味を呈するため、食品素材としての利用価値がさらに高くなったものである。
【0028】
さらに、脂質親和性蛋白質について従来の分離大豆蛋白以上の血清コレステロール低減効果が確認されたことから、新規な素材である非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白は健康機能素材としての利用価値も高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】7Sグロブリンと11Sグロブリンの各pHにおける溶解挙動を示すグラフである。
【図2】7Sグロブリン画分、11Sグロブリン画分、脂質親和性蛋白質画分のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による泳動パターンを示した図面代用写真である。
【図3】実施例2及び比較例1の加工脱脂大豆から調製した大豆11Sグロブリン蛋白及びオカラのSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による泳動パターンを示した図面代用写真である。
【図4】実施例2の加工脱脂大豆から調製した各画分(オカラ、脱脂豆乳、11Sグロブリン、7S不純物、7Sグロブリン、ホエー、脂質親和性蛋白質)のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による泳動パターンを示した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
まず、本発明に記載の用語について説明する。
【0031】
「7Sグロブリン」はβ−コングリシニンとも呼ばれ、一般には3種のサブユニット(α’、α、β)から構成される糖蛋白質であるが、何れかのサブユニットが欠損していても良い。これらのサブユニットはランダムに組み合わされ、3量体を形成している。等電点はpH4.8付近で分子量は17万程度である。以下、単に「7S」と略記することがある。
【0032】
「大豆7S蛋白」は7Sの純度を高めた大豆蛋白素材をいう。
【0033】
「11Sグロブリン」はグリシニンとも呼ばれ、酸性サブユニットと塩基性サブユニットがジスルフィド結合によって結合し、それらが6分子集まった12量体を形成している。分子量は36万程度である。以下、単に「11S」と略記することがある。
【0034】
「大豆11S蛋白」は11Sの純度を高めた大豆蛋白素材をいう。
【0035】
7Sと11Sはいずれも酸沈殿性大豆蛋白質であり、大豆プロテインボディーに貯蔵される主要な貯蔵蛋白質である。
なお、ここにいう「酸沈殿性大豆蛋白質」は、大豆の蛋白質の内、脱脂豆乳などの溶液のpHを酸性側(pH4〜6)に調整することにより沈澱する性質を有する蛋白質である。したがって、例えば分離大豆蛋白に含まれる蛋白質がこれに相当し、分離大豆蛋白製造時に酸沈しないホエー中の蛋白質はこれに含まれない。
7Sと11Sは、品種によっても異なると考えられるが、SDS電気泳動においてクマシーブリリアントブルー(CBB)染色後、デンシトメトリーによってピーク面積を測定した場合、従来の分離大豆蛋白(SPI)などでは大豆蛋白質全体の約70%を占める蛋白質である。
大豆蛋白質中の7Sと11Sの総含量の分析は、下記に示す(方法1)及び(方法2)によって行うことが出来る。
以下、7Sと11Sを併せて「MSP」と略記することがある。
【0036】
「脂質親和性蛋白質」(Lipophilic Proteins)は大豆の酸沈殿性大豆蛋白質の内、7Sと11S以外のマイナーな酸沈殿性大豆蛋白質群をいい、レシチンや糖脂質などの極性脂質を多く随伴するものである。以下、単に「LP」と略記することがある。
このLP中にはSDS-ポリアクリルアミド電気泳動による推定分子量において主に34kDa、24kDa、18kDaを示す蛋白質、リポキシゲナーゼ、γ−コングリシニンや、その他多くの雑多な蛋白質が含まれる(図2、レーン3参照)。
図2の通り、LPはSDS電気泳動法では7Sや11Sに比べて染色されにくい性質を有しており、そのため従来その実態が明確に認識されていなかったものである。そのため、従来の文献に7Sや11Sの単一のバンドとして掲載されているSDS電気泳動のバンドには、実際にはLPが相当量混在していることが多い。
LPは雑多な蛋白質が混在したものであるが故、各々の蛋白質を全て特定することは困難であるが、下記(方法1)と(方法2)に示す溶解挙動により分画することができる。
【0037】
「非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白」はLPの純度を高めた大豆蛋白素材をいう。以下、単に「LP−SPI」と略することがある。
【0038】
「PDI」は蛋白質分散性指数(Protein Dispersibility Index)の略であり、AOCS公式法(Ba10-65)として記載されている大豆製品中の溶解分散する(Dispersible)蛋白質を一定条件下で測定することにより得られる指数である。「NSI」を求めるようなゆるやかな攪拌による方法(AOCS公式方法Ba11-65)とは対照的に、この方法でとられる強攪拌操作では、一般的により高い数値結果が得られる。ここでは、大豆に水を加え、ミキサーで攪拌後、遠心上清の窒素量を測定し、大豆の窒素量に対する割合を求めた。数値が高いほうが大豆の蛋白質溶解度が高い。熱処理などで大豆の蛋白質が溶解しづらくなるとPDI値が低下する。
【0039】
「選択的水不溶化指数」は本発明の加工大豆中のLPがどの程度選択的に水不溶化されているかを数値的に示した指数であり、大豆の水溶性画分中の全窒素量に対するLP窒素量(%)とMSP窒素量(%)の比「LP/MSP」で表される。
【0040】
次に本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明は第一に、蛋白質及びオカラ成分を含有し、PDIが40以上80未満であり、含まれる蛋白質のうち脂質親和性蛋白質が選択的に水不溶化された加工大豆である。かかる加工大豆を大豆原料として7Sグロブリン、11Sグロブリン及び脂質親和性蛋白質から選択される1種以上の酸沈殿性大豆蛋白質の分画用として使用することにより、煩雑な操作を行うことなく、効率良くこれらの蛋白質を分画することができ、それぞれ特性のある各種大豆蛋白素材を得ることが可能である。
【0041】
〔原料大豆〕
本発明に使用する原料大豆は蛋白質及びオカラ成分を少なくとも含有するものであり、その品種は、脂質を貯蔵するオイルボディーが存在する限り、LPを欠損していたり、極端にその量が低下している大豆品種はないため、大豆の品種は特に限定されることはなく、何れの品種でも本発明に適用することができる。
【0042】
また、育種や遺伝子組換え技術により7Sに富む大豆や11Sに富む大豆、あるいはリポキシゲナーゼ欠損品種などの特定の成分を変化させた大豆もあるが、これらも原料として同様に用いることができる。特に、11Sに富む大豆すなわち7Sグロブリン欠損大豆を原料とする場合、この中の酸沈殿性大豆蛋白質は11SとLPが主体となっており、これらを分画する際に本発明のLPの選択的水不溶化技術を利用できる。
【0043】
但し、LPにはオイルボディー由来の蛋白質が多く含まれるため、脂質含量の低い品種を使用することは7Sや11Sを効率的に得る上で好ましい。また、大豆は胚軸の除去の有無、外皮の除去の有無に関わらず、いずれのものを使用しても良い。
【0044】
なお、本発明の加工大豆を原料として分離大豆蛋白、大豆7S蛋白、大豆11S蛋白などの各種大豆蛋白素材を調製する場合には、脂質が含まれていると蛋白質の純度に影響するため、脱脂大豆を原料大豆として用いることが好ましい。脱脂大豆は、ヘキサン等の有機溶剤で脱脂したものや圧搾などで油分を低下させたものを使用することができる。
【0045】
原料大豆の形態は特に問わないが、より好ましくは粉砕している方が良く、最大粒子径が500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下の粉末が適当である。
【0046】
また原料大豆中の蛋白質の変性が本発明の加工処理前に極度に進んでいないものが望ましく、蛋白質抽出率を示すPDIは60以上であることが好ましい。この大豆の水分は2〜15%が好ましく、5〜10%がより好ましい。
【0047】
〔加工大豆〕
本発明のPDIが40以上80未満であって、含まれる蛋白質のうちLPが選択的に水不溶化された加工大豆は、換言すれば酸沈殿性大豆蛋白質の内7Sと11Sが選択的に低変性の状態となっていることを特徴とするものである。
すなわち、水抽出した場合に、水不溶化されたLPの抽出は抑制される一方、低変性の7S及び11Sは選択的に抽出される、所謂蛋白質の選択的抽出が起こる特性を有する加工大豆である。従来のリポキシゲナーゼの失活を目的として行われる加熱や大量のエタノールによる洗浄によって同様な加工大豆を調製しようとしても、7Sや11Sを含め殆ど全ての蛋白質が水不溶化してしまうため、その不溶化状態は、非選択的なものである。
【0048】
熱履歴が大きくPDIが40未満の加工大豆を使用すると、熱によって発生する大豆由来の臭いやロースト臭、こげ臭などが発生して品質的に好ましくない。かかる加工大豆ではLPだけでなく7Sと11Sまでもが不溶化されているという、蛋白質の非選択的不溶化が生じているため、蛋白質の抽出率が低下すると共に、7Sと11Sを選択的に抽出することが困難となる。
【0049】
LPのみが選択的に水不溶化された特性を具備する加工大豆であるか否かは、蛋白質の溶解指標であるPDIのみで特定することができない。かかる特性を具備するか否かは、選択的水不溶化指数(LP/MSP)で判断することができる。
【0050】
LPが選択的に水不溶化されたと言えるLP/MSPは45%以下であれば大豆蛋白質の分画物を得るためには十分であり、より好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下が適当である。
またさらに28%以下であってもよく、さらに23%以下であってもよい。
このように、加工大豆そのものを直接分析して特定することはできないが、当該加工大豆から水抽出して得られた水溶性画分、すなわち豆乳に含まれるLP/MSPを分析することにより特定可能である。
【0051】
LP/MSPは、具体的には加工大豆から以下の方法1によって水溶性画分を得た後、方法2によりLP画分とMSP画分に分画し、それぞれの画分の窒素量をケルダール法で求めることにより、算出することができる。
【0052】
<選択的水不溶化指数(LP/MSP)の算出方法>
(方法1)
試料加工大豆(全脂大豆の場合は予めヘキサンにより油分1.5%未満となるまで脱脂しておく)を粉砕し、60メッシュパスの粒度にする。その大豆1重量部に水7重量部を加え、可性ソーダでpHを7.5に調整し、室温で30分攪拌する。これを1000G、10分の遠心分離により、水溶性画分Aと不溶性画分Aに分離する。さらに不溶性画分Aに水5重量部を加え、室温で30分攪拌する。これを1000G、10分の遠心分離により、水溶性画分Bと不溶性画分Bに分離する。水溶性画分AとBを混合し、水溶性画分とする。また不溶性画分AとBを混合し、不溶性画分とする。加水から分離までの操作温度は、10℃〜25℃で行なう。また撹拌はプロペラ(350rpm)で行う。
【0053】
(方法2)
方法1で得られた水溶性画分に塩酸を加えてpH4.5に調整する。これを1000G、10分の遠心分離により、不溶性画分Cを回収する。さらにこの不溶性画分Cに対し、1M Na2SO4(20mMメルカプトエタノール含有)溶液を方法1の試料加工大豆の5重量倍を添加してよく攪拌し、10000G、20分の遠心分離により、水溶性画分Dと不溶性画分Dに分離する。この不溶性画分Dに再度同じ操作を繰り返し、水溶性画分Eと不溶性画分Eに分離する。この不溶性画分DとEを合わせたものをLP画分とし、水溶性画分DとEを合わせたものを7S及び11S画分(MSP画分)とする。操作温度は、10℃〜25℃で行なう。以上により得られたLP画分とMSP画分の窒素量をそれぞれケルダール法で測定し、両者の比率を測定する。
【0054】
<加工大豆の調製>
LPが選択的に水不溶化された特性を具備する加工大豆を得る方法は、選択的水不溶化指数(LP/MSP)が45%以下の条件を満たす限り、特に限定されず、加熱変性、アルコール等の蛋白質変性剤による変性などの公知の蛋白質変性方法を利用すればよく、当業者が適宜加工方法とその条件を選択することができる。
【0055】
(加熱変性処理)
変性方法の一態様として加熱変性を利用する場合、大豆の加熱は、焙煎装置、熱風加熱装置、マイクロ波加熱装置等を使用する乾式加熱方式や、加湿加熱装置、蒸煮装置、蒸気加熱装置等を使用する湿式加熱方式を特に限定されることなく採用することができる。ただし水が大豆に浸るような状態で加熱すると蛋白質が抽出されてしまうため、避けた方が良い。
一例として、大豆を密閉タンクに封入し、相対湿度90%以上の雰囲気下で品温が70〜95℃程度になるように密閉タンクの外側を覆うジャケット内を加熱する方法などが採用できる。
加熱の温度や時間の条件はLPの不溶化が選択的なものとなる限り特に限定されないが、通常は品温で60〜95℃となるよう温度設定し、時間は1分から10時間の間で行うことが適当である。
【0056】
(アルコール変性処理)
変性方法のもう一つの態様としてアルコール変性を利用する場合、蛋白質及びオカラ成分を含む原料大豆に対し、等重量以下、好ましくは2〜100重量部、より好ましくは8〜20重量部、さらに好ましくは10〜15重量部の極性アルコール溶液を添加し、含浸させる方法が好ましい。この方法によればLP/MSPを30%以下とすることが容易となり、より効率的にLPのみを選択的に水不溶化することができる。
【0057】
なお、この方法は従来のアルコール洗浄による濃縮大豆蛋白などの製法のように、大豆を何倍量ものアルコールを浸漬し、懸濁状態にして大豆の糖質などの非蛋白質成分を洗浄する方法とは全く考え方が異なり、大豆に対して等重量以下の極性溶媒溶液を添加し、含浸させるものである。この場合、混合された大豆の状態は典型的には湿潤した粉末状態となる。
【0058】
ただし、極性溶媒の添加量が大豆に対して2重量%よりも低くなると、LPの選択的な水不溶化が不十分となるので、水抽出時のLPの抽出抑制効果が不充分となる傾向となる。逆に等重量よりも多くなると、LPと共に7Sと11Sも水不溶化する非選択的な水不溶化が起こりやすくなり、7Sと11Sの抽出までが不十分となる。
【0059】
LPの選択的水不溶化を促進するために適する極性溶媒としては、極性アルコール溶液(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等)を用いることができる。特に、食品工業上多用されているエタノール水溶液を使用することが好ましい。水は純水のままでも良いし、酸水溶液(塩酸水溶液、炭酸水溶液、クエン酸水溶液等)、アルカリ水溶液(水酸化ナトリウム溶液、重炭酸ナトリウム等)等を使用することもできる。
【0060】
極性溶媒溶液の濃度は5〜100%が好ましく、50〜80%がより好ましい。極性溶媒溶液の濃度が低すぎても高すぎても、LPの変性による水不溶化が不十分となる。
極性溶媒溶液の添加方法は、例えば噴霧により粉に吹付ける方法や、滴下する方法などで実施できるが、特に限定されない。極性溶媒溶液添加後の混合方法は、例えばニーダーのような攪拌機や、高速攪拌機などを用いることができる。
【0061】
さらに、上記のアルコール含浸処理に加え、加温処理を併用することがより好ましい。加温温度は、大豆の品温で30〜95℃が好ましく、40〜90℃がより好ましい。また加温時間は5〜100分が好ましく、10分〜60分がより好ましい。
【0062】
極性溶媒の含浸処理と加温処理を併用する場合、これらの工程の順序には特に限定されないが、極性溶媒を添加し、混合した後に加温処理を施すか、極性溶媒を添加・混合しながら加熱処理を行うのが好ましい。
この極性溶媒の含浸処理と加温処理を併用することにより、比較的低い温度処理でも効率よく大豆中のLPのみを選択的に水不溶化することが可能となる。また加熱による色や臭いの発生も抑え、加工大豆やそれを原料に調製される調製品の風味を向上することが可能となる。
さらに、極性溶媒の添加量を少なくすることができるので、処理後の極性溶媒の除去工程が従来のアルコール洗浄法などと比較すると極めて容易となり、効率的な製造プロセスを確立する上で有利である。
【0063】
加工大豆に残存する極性溶媒はほとんど加温処理によって揮発させることができ、これを直接抽出工程に供することができるが、所望によりさらに残存量を低下させたい場合には、さらに品温40〜60℃、減圧(−10mmHg程度)下で10分〜60分の処理を行えば完全に揮発させることが出来、ほぼ添加前の大豆の重量に戻すことができる。
なお、揮発させた極性溶媒は蒸留により回収すれば、再利用が可能であるので、製造プロセス上有利である。
【0064】
以下の発明は、LPが選択的に水不溶化された加工大豆が、7S、11S及びLPから選択される1種以上の酸沈殿性大豆蛋白質の分画用原料として使用されることを共通の技術的特徴とするものである。
すなわち、上記加工大豆から調製した豆乳又はオカラを原料とし、7Sグロブリン、11Sグロブリン又は脂質親和性蛋白質からなる群より選択される少なくとも1種の酸沈殿性大豆蛋白質が濃縮された画分を回収し、分画大豆蛋白を得る発明である。
【0065】
(1)豆乳
本発明の豆乳は、上記加工大豆を原料とする豆乳である。好ましくは、上記アルコール変性処理により得られた加工大豆を原料とする豆乳である。
本発明の豆乳は、上記加工大豆を原料に使用するものであればその製法は特に限定されないが、水やアルカリ水溶液などの水系溶媒で抽出し、遠心分離により豆乳とオカラに分離して、可溶性画分を回収することにより得られる。
【0066】
水系溶媒の添加量は加工大豆に対し、6〜12重量倍が好ましく、7〜9重量倍がより好ましい。水系溶媒の添加量が少なすぎると粘度が高くなり、多すぎると希薄溶液となって回収効率が悪くなる。
抽出時の温度は、4〜50℃程度が好ましく、10〜30℃程度がより好ましい。温度が高すぎるとLPが溶解しやすくなり、逆に温度が低すぎると抽出効率が悪くなってしまう。
得られた抽出液から中性付近pH6〜9において不溶物であるオカラを遠心分離等により除去する。得られたオカラに対しさらに水を4〜6重量倍加え、さらに抽出し豆乳の回収量を上げる操作を繰り返しても良い。
【0067】
以上のように本発明の加工大豆を原料とする豆乳は、そのままの形態で製品化しても良いし、さらに加工して濃縮豆乳や粉末豆乳としたり、適当な原料を添加して調製豆乳に加工することも可能である。
【0068】
得られた豆乳の蛋白質組成は、通常の豆乳とは異なり極めて特徴的な組成を有しており、LPの混入量が低く、LP/MSPが45%以下、好ましくは35%以下、さらに好ましくは30%以下、さらに好ましくは28%以下、最も好ましくは23%以下である。
【0069】
また本豆乳は以下の分画大豆蛋白の製造に使用することが可能である。
【0070】
一方、通常の製法による豆乳や非選択的な蛋白質の不溶化処理がなされた大豆で抽出した豆乳では、LP/MSP比が45%を超える(表1参照)。この場合、大豆7Sグロブリン蛋白と大豆11Sグロブリン蛋白への分画がpH調整のみによる簡便な手段で行いにくくなる。そして得られる各種大豆蛋白素材が良好な風味と色調を併せ持つことが困難となる。
【0071】
(2)分離大豆蛋白
本発明の分離大豆蛋白は、上記加工大豆から得た豆乳を原料とすることが特徴であり、その以外は通常行われている公知の製法によっても製造することができる。
【0072】
典型的には、本発明の豆乳に酸(塩酸、硫酸等)を加え、豆乳のpHを酸性にする。pHは大豆蛋白質の等電点付近に調整すればよく、pH4.2〜5.2に調整することが好ましい。大豆蛋白質の内、酸沈殿性大豆蛋白質がこのpH範囲で不溶化し、沈澱物となる。これを遠心分離で回収し、苛性ソーダなどのアルカリ水を添加して中和し、大豆蛋白質の中和液を調製し、分離大豆蛋白を得る。これを所望により殺菌・乾燥して粉末の形態でそのまま使用するか、又は適当な製剤原料を添加して製剤に調製することにより、分離大豆蛋白として従来の各種食品への用途に用いることができる。
また上記の酸沈工程を経る方法の他、国際公開WO2004/13170号公報に記載の通り、本発明の脱脂大豆を酸洗浄した後、水抽出する方法により分離大豆蛋白を得ることができる。
【0073】
得られた分離大豆蛋白は粗蛋白質含量が90重量%以上であることに加え、LPの含量が低いためか、従来の分離大豆蛋白よりも風味に優れることに特徴を有する。
【0074】
次に分離大豆蛋白中のLP含量の測定方法について説明する。
大豆蛋白素材として提供される分離大豆蛋白は最終の製品化工程において一般的には加熱殺菌されるため、7S,11SはLPと共に加熱変性が起こっている。そのため、製品化された分離大豆蛋白から上記方法1、2の方法によってLPを7S,11Sと分画し、LP含量を測定することが困難である。
また、一般的な蛋白質組成の測定方法であるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)ではLPがCBB染色されにくいという性質を有し、これも正確な測定が困難である。
したがって簡易的に、7S,11S,LPの各蛋白質中の主要な蛋白質を選択し、それらの染色比率を求め、これらの比率からLP含量を推定する以下の方法を採用することができる。
なお、本方法は分離大豆蛋白のみならず、大豆7S蛋白、大豆11S蛋白、LP−SPIなどの各種分画大豆蛋白にも適用が可能である。
【0075】
〔LP含量の推定方法〕
(a) 各蛋白質中の主要な蛋白質として、7Sはαサブユニット及びα'サブユニット(α+α')、11Sは酸性サブユニット(AS)、LPは34kDa蛋白質及びリポキシゲナーゼ(P34+Lx)を選択し、SDS−PAGEにより選択された各蛋白質の染色比率を求める。電気泳動は表1の条件で行うことが出来る。
(b) X(%)=(P34+Lx)/{(P34+Lx)+(α+α’)+AS}×100(%)を求める。
(c) 低変性脱脂大豆から調製された分離大豆蛋白のLP含量を加熱殺菌前に上記方法1,2の分画法により測定すると凡そ38%となることから、X=38(%)となるよう(P34+Lx)に補正係数k*=6を掛ける。
(d) すなわち、以下の式によりLP推定含量(Lipophilic Proteins Content Index、以下「LCI」と略する。)を算出する。
【0076】
(表1)

【0077】
(数1)

【0078】
本発明により得られる分離大豆蛋白はLCIが38%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下である。LCIが38%を超えると従来の製法による分離大豆蛋白のLCI値に近づき、品質的に変わらなくなる。他方、LCI値が小さいほど風味に優れる傾向にある。
【0079】
(3)大豆11S蛋白および大豆7S蛋白
酸沈殿性大豆蛋白質を11Sと7Sとに分画する方法は、従来技術に記載したとおり種々の方法が試されているが、本発明の大豆11S蛋白と本大豆7S蛋白は、いずれも本発明の上記加工大豆から調製した豆乳を分画してなることを特徴とする。
これにより7Sと11Sを従来のような複雑な手段に寄らなくとも簡便な手段によってそれぞれの蛋白質を高純度に分画した分画大豆蛋白(大豆7S蛋白、大豆11S蛋白)を製造することができる。
【0080】
7Sと11Sの分画方法は、本発明の加工大豆を分画の原料とする限り、背景技術の項で挙げたような公知の方法のいずれを採用しても、LP含量の少ない高純度の大豆11S蛋白を得ることが可能である。したがっていずれの分画方法を採用するかは当業者が製造プロセス構築の際に適宜選択することができるが、特に以下に示す方法がより簡便であり好ましい。
【0081】
〔大豆11S蛋白の調製例〕
本発明の大豆11S蛋白は、本発明の豆乳を特定のpHに調整し、生成する不溶性画分を回収し、これを所望により、中和、殺菌、乾燥し、粉末の形態でそのまま使用するか、又は適当な製剤原料を添加して製剤に調製することにより分画大豆蛋白質素材を高純度かつ効率的に得ることができる。
【0082】
pHは酸(酸の種類は問わない)によりpH5.2〜6.4に調整するのが好ましく、pH5.7〜6.2に調整するのがより好ましい。
得られた画分の電気泳動パターンは本発明の豆乳の泳動パターンと同様にLPの含量が少なく(図4)、風味に優れる。
【0083】
上記方法による場合、豆乳に亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を添加してから上記pH範囲に調整することもできる。これによりさらに分離性が向上する利点がある。還元剤は、従来法で11Sを分離する場合には10mM程度加えることが通例であるが、この豆乳の場合は、1mM程度で良好な分離が可能である。
【0084】
また別の分画方法の例示として、従来の11S分離方法である冷却して沈降する11Sの性質を利用しても良い(非特許文献2,6)。即ち本発明の豆乳に還元剤を加え、豆乳のpHを6.1〜6.5に調整し、4〜6℃に冷却して半日放置し、生成した沈降物を回収することによって、11Sグロブリンが回収される。還元剤は、11Sを分離する場合は、10mM加えることが通例であるが、この豆乳の場合は、1mM程度で良好な分離が可能である。
【0085】
得られた大豆11S蛋白は11Sが75重量%以上、さらには85重量%以上、さらには90重量%以上の高純度であるため、11S特有の特性を活かした利用が可能である。11Sは粘性が低く、加熱によるゲル強度が強いので、例えばゲル化剤などとしての用途に利用でき、卵白の代替品として、また硬い豆腐ができるので、豆腐の硬さ付与などにも利用が可能である。
またLCI値が30%以下であり、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下であり、LP含量が極めて少なく、風味に優れるものである。
【0086】
〔大豆7S蛋白の調製例〕
本発明の大豆7S蛋白は、上記の11Sを分画後の水溶性画分溶液のpHを酸でpH4〜5.5、好ましくは4.3〜4.8に調整し、生成する不溶性画分を回収し、これを所望により中和するかせずして殺菌・乾燥し、粉末の形態でそのまま使用するか、又は適当な製剤原料を添加して製剤に調製することにより得ることができる。この場合、大豆7S蛋白中の7Sの純度は少なくとも38%以上、さらには40%以上、さらには50%以上、さらには60%以上となる。
【0087】
7Sの精製度をさらに高めるために、LPを上記工程の前に予め不溶性画分として除去することができる。
すなわち、本発明の大豆11S蛋白の調製時に得られる水溶性画分のpHをpH4〜5.5、好ましくはpH4.8〜5.2に調整し40〜65℃で加熱後、次にpHを5.3〜5.7に調整することで、7S以外の蛋白質(LP主体)は不溶物となり、これを不溶性画分として除くことができる。また豆乳から7Sと11Sを同時に回収することを要しない場合には、上記水溶性画分の代わりに本発明の豆乳を用いて、直接7Sのみを分画し、11SとLPは不溶性画分として除くこともできる。
そして不溶性画分除去後の水溶性画分のpHを酸でpH4〜5、好ましくは4.3〜4.8に調整し、生成する不溶性画分を回収することにより、より精製度の高い大豆7S蛋白を得ることが可能である。
【0088】
大豆7S蛋白の調製方法としては、この方法に限らず、所望により、従来の7Sの分画方法を利用しても良い。例えば長野らの方法(非特許文献6)のように、11Sグロブリンを除いた豆乳に0.25Mの濃度になるようにNaClを加え、pHを5.0にして不溶性画分を除き、これに水を3倍容量加えてpHを4.5にして生成する沈澱物を回収する方法がある。あるいは、佐本らの方法(非特許文献5)のように11Sグロブリンを除いた豆乳に硫酸を加えてpHを2.8〜3.5に調整し、生じる沈澱を除去後、これに水を2倍容量加えてpHを4.5にして生成する沈澱物を回収する方法などがある。
いずれの方法でも、LPの混入が防がれ、高純度で良質な大豆7S蛋白を調製できる。
【0089】
以上のようにして得られた高純度の大豆7S蛋白の7Sの純度は少なくとも80%以上の高純度となるため、7S特有の特性を活かした利用が可能である。例えば血中中性脂肪低減剤や体脂肪低減剤などの栄養機能剤や高粘性素材などに利用できる。
またLCIが30%以下であり、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下であり、LP含量が極めて少なく、風味に優れるものである。
【0090】
(4)オカラ
本発明のオカラは本発明の加工大豆を原料とし、これを水抽出し、不溶性画分を回収してなるオカラである。
本加工大豆はLPが選択的に水不溶化されたものであるので、上述の通りこれを水抽出すると7S及び11Sを主体として豆乳側に抽出され、LPはオカラ側に主に分画される。
したがって本オカラはLPに富むことに特徴を有しており、LP含量は通常のオカラの場合、乾燥固形分中10〜20重量%程度であるが、本オカラは35〜60重量%である。LPは大豆の酸沈殿性大豆蛋白質の中でも特に血中コレステロール低下作用が優れている。したがって、豆乳の副産物として一般に廃棄処分されることの多いオカラに高付加価値を付与することができる。
本オカラは、上述の豆乳の製造中に分離される不溶性画分を遠心分離等により回収することにより得られる。所望により、殺菌、冷凍、粉砕、乾燥等の処理により多様な形態の製品とすることができる。
【0091】
(5)非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白(LP−SPI)
LPは従来の大豆蛋白素材の風味劣化の一因となる成分と考えられていたものであるが、これを高純度に分画し、非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白とすることにより、LP固有の特性を活かした用途への使用が可能となる。
本発明のLP−SPIは、上記加工大豆から調製したオカラを原料とする場合と、豆乳を原料とする場合の2通りの方法により分画して得ることができる。
【0092】
第一のLPは、上記加工大豆から調製したオカラを分画してなり、クロロホルムとメタノールの体積比が2:1の溶媒で抽出される油分を7%以上、好ましくは8%以上含有することを特徴とする。以下に調製例を示す。
【0093】
〔LP-SPIの調製例〕
LPは本発明の加工大豆中に選択的に不溶化された状態で含まれるので、その豆乳を抽出した残渣である上記オカラより分画することが可能である。
分画はオカラに加水して加熱抽出し、抽出液を回収することにより可能となる。加水量はオカラ100重量部に対して水50〜500重量部が好ましい。加熱温度は100〜150℃が好ましい。加熱時間は、数秒〜数分の間が好ましい。
以上の方法で得られた抽出物は少なくともLCIが50重量%以上、好ましくは60重量%以上のLP-SPIとして提供できる。また所望により、抽出液に酸を加え、pHを4〜5、好ましくは4.3〜4.8に調整し、生成する沈澱物を回収してさらに高純度のLP-SPIを得ることができる。これを可性ソーダで中和して中和液を調製し、殺菌加熱、乾燥する。以上の方法で得られたLP-SPIは少なくともLCIが60重量%以上、好ましくは65重量%以上の高純度品として提供できる。
【0094】
第二のLPは、上記加工大豆から調製した豆乳を分画してなり、クロロホルムとメタノールの体積比が2:1の溶媒で抽出される油分を7%以上、好ましくは8%以上含有することを特徴とする分画法である。以下に調製例を示す。
【0095】
〔LP-SPIの調製例〕
LPは本発明の加工大豆中に総含量の50〜80%程度が選択的に不溶化された状態で含まれるが、20〜50%程度は豆乳中にも抽出される。従って、本発明の加工大豆から調製した豆乳から分画することも可能である。
具体的には、本発明の加工大豆から大豆7S蛋白を調製する上記工程において、加工大豆から調製した豆乳をpH5.2〜6.4に調整し、不溶性画分を分離して得た水溶性画分をpH4〜5.5に調整し40〜65℃で加熱後、pH5.3〜5.7に調整した際に生ずる不溶性画分を回収することによりLPを高純度に分画することができる。
また、7Sグロブリン欠損大豆を使用する場合には、7SとLPを分離する工程が不溶であり、操作がより簡便となる。すなわち、加工大豆から調製したした豆乳をpH5.2〜6.4に調整し、不溶性画分(11S画分)を分離して得た水溶性画分をpH4〜5に調整し、不溶性画分を回収するだけでLPを高純度に分画することができる。
以上の方法で得られた分画物を必要により可性ソーダで中和して中和液を調製し、殺菌加熱、乾燥する。以上の方法で得られたLP-SPIは少なくともLCIが60重量%以上の高純度品として提供することができる。
【0096】
以上のように2通りの方法により分画されるLPは脂質に対して強い親和性を有するため、大豆蛋白素材が本発明のLP-SPIに相当するか否かの判定は、当該蛋白中のクロロホルム:メタノールが2:1の溶媒で抽出される油分(以下、「クロメタ油分」と記載する。)が7重量%以上、好ましくは8〜15重量%、より好ましくは9〜15重量%であるか否かで行うことが可能である。ただし、LP-SPIのエーテル抽出油分が2%以上含まれる場合には、上記数値からエーテル抽出油分を差し引かなければならない。抽出される極性脂質はレシチンや糖脂質が主成分である。
ちなみに分画されていない従来の分離大豆蛋白のクロメタ油分は4〜5重量%程度で、高純度の大豆7S蛋白や大豆11S蛋白も3%以下に過ぎない。
【0097】
[LP-SPIを含有する血中コレステロール低下組成物]
本発明により得られるLP-SPIを含有させることにより、血中コレステロール低下用組成物を得ることが可能である。LP-SPIは上記の何れの方法により分画されたものでも血中コレステロール低下活性を有する。
本発明者らは、LP-SPIをラットに摂取させ、LP-SPIがラットの血中コレステロール濃度に及ぼす効果を確認したところ、LP-SPIは分離大豆蛋白、大豆7S蛋白、大豆11S蛋白に比較して顕著に強い血中コレステロール低減作用を示すことを確認している。また、本試験で用いたような純度の高い、すなわちLPの少ない7Sは、ほとんど血中コレステロール低下作用を示さないことも確認している。
さらに、LP-SPIを一旦エタノールで洗浄し、クロメタ抽出物を除去した後、再度このクロメタ抽出物を添加したものについては、エタノール洗浄前のLP-SPIほどの血中コレステロール低下作用を示さないことを確認している。
すなわち、LP-SPIは、LPとクロメタ抽出物が共存し、かつこれらが複合体として存在することにより、より強力なコレステロール低下作用を示すものである。
【0098】
本発明の血中コレステロール低下用組成物中に添加するLP-SPIの含有量は、組成物の形態・量によっても異なり、適宜設定することができる。通常は1日あたりの有効成分の摂取量を摂取できるように、1日あたりの組成物の摂取量を考慮し、組成物中の含有量を当業者が設定すればよい。例えば、1日あたりのLP-SPIの摂取量を4.5gと設定した場合、1日あたりの組成物の摂取量が10gである場合は、組成物中の有効成分の含有量を45重量%とすれば良い。本発明のLP-SPI1日あたりの摂取量は特に限定されないが、4〜10gとすることができる。
【0099】
本発明の血中コレステロール低下用組成物には、LP-SPIを使用する以外に、血中コレステロール低下作用のあるといわれる材料を併用することも可能である。例えば、イソフラボン、豆乳、分離大豆蛋白、濃縮大豆蛋白、レシチン、乳酸菌、ポリフェノール類、多糖類等を併用できる。
【0100】
本発明の血中コレステロール低下用組成物の形態は剤又は食品であることができる。
剤の場合は、種々の投与形態の製剤とすることができる。すなわち、経口的投与の場合に、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、粒剤もしくは丸剤等の固形製剤や、溶液、エマルジョンもしくはサスペンジョンなどの液剤の形態等で投与することができる。また、非経口的投与の場合に、注射溶液や坐剤などの形態で投与される。これらの製剤の調製にあたっては製剤化のために許容される添加剤、例えば賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、張度調製剤、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤等を併用して製剤化することができる。
食品の場合は、一般的な食品の形態である清涼飲料、乳製品、豆乳、発酵豆乳、大豆蛋白飲料、豆腐、納豆、油揚げ、厚揚げ、がんもどき、ハンバーグ、ミートボール、唐揚げ、ナゲット、各種総菜、焼き菓子、栄養バー、シリアル、飴、ガム、ゼリー等の菓子類、タブレット、パン類、米飯類など、様々な食品に配合することができる。さらに、食品の場合には食品の包装やパンフレット等の宣伝媒体等にLP-SPIが有効成分として含まれる旨、そしてこれにより食品が血中コレステロールの低下作用を有する旨を直接的又は間接的に記載した、日本の特定保健用食品などの健康食品にもすることができる。
【0101】
以上説明したとおり、本発明の利点は第一に、LPを選択的に水不溶化処理を行うことによって、従来複雑な操作が必要であった7S、11S、及びLPの分画を高純度、効率的かつ簡易的に行えることにある。本発明の加工大豆を原料とすることにより、7Sと11Sの混合物をそれぞれ固有の等電点において沈殿させるだけで高純度に分画することが可能となる。また従来あまり認識されていなかったLPを高純度に分画することが可能となる。このLPを高度に含むLP-SPIは分離大豆蛋白よりも強い血中コレステロール低下作用を有しており、新規な大豆蛋白素材としての提供が可能となる。
【0102】
そして本発明の第二の利点は、豆乳や分離大豆蛋白等の既存の大豆蛋白素材の風味を改良できることである。すなわち本発明の大豆の加工処理により、LPを選択的に不溶化させ、LPと会合する脂質が抽出されにくい状態に導くことができる。これにより、抽出された豆乳や、その豆乳から調製される各種大豆蛋白素材の風味が格段に改良される。
また同時にLPの選択的水不溶化処理は、脂質劣化に関与するリポキシゲナーゼなどの大豆内在酵素の失活も伴う。特に含水極性有機溶媒の接触は酵素系の失活を導き、抽出する際のオフフレーバーの発生を抑制することができる。オフフレーバーは、加工中に生成する臭い成分であり、主に脂質の不飽和脂肪酸の酵素的、化学的酸化反応によって、アルデヒドやケトン類の所謂カルボニル化合物が発生してくる。これらは好ましくない風味の要因となる。本発明の加工大豆はカルボニル化合物の生成量が非常に少ないことも特徴の一つである。
さらに本発明の加工大豆は、加工処理により大豆中の菌数が低下したものである。このことは、水を使用した加工プロセスにおける菌の増殖を抑えることになり、風味面のみならず、衛星面でも利点がある。
得られた豆乳は、風味が良好であるので、高品質の豆乳素材として提供が可能である。さらにはこれから分画して製造される分離大豆蛋白、大豆7S蛋白、及び大豆11S蛋白も、いずれも格段に色や風味が良く、例えばレトルト殺菌のような強度の加熱処理を施しても色が黒ずんだり、風味が悪化することはない。
また、極性アルコールを使用した本発明の加工処理による酸化劣化に関与する酵素の失活及び低菌化については、脱脂大豆だけでなく、全脂大豆にももちろん適用できるため、全脂大豆から調製される豆乳の風味改善にも非常に有効である。
【実施例】
【0103】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明は、この実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0104】
<加工脱脂大豆の製造>
〔実施例1〕 −エタノール処理1−
密閉容器に充填した低変性脱脂大豆(PDI:83、水分7.0%)1kgに含水エタノール(10%、50%、60%、70%、及び80%)をそれぞれ100g噴霧しながら混合した。これを脱脂大豆の品温が70℃になるように密閉容器の外側を加熱し、30分維持した。容器から脱脂大豆を取り出し、放置冷却して加工脱脂大豆を調製した。各加工脱脂大豆のPDIはそれぞれ71、67、64、65、及び64であった。
【0105】
〔実施例2〕−エタノール処理2−
含水エタノール(70%)の噴霧量を150gに増量する以外は、実施例1と同様にして加工脱脂大豆を調製した。このPDIは72であった。
【0106】
〔実施例3〕−エタノール処理3−
含水エタノール(70%)の噴霧量を200gに増量する以外は、実施例1と同様にして加工脱脂大豆を調製した。このPDIは45であった。
【0107】
〔実施例4〕−湿熱加熱処理1−
脱脂大豆(PDI:83、水分7.0%)1kgを相対湿度90%以上の雰囲気下で脱脂大豆の品温が75℃になるように密閉容器の外側を加熱し、30分維持した。容器から脱脂大豆を取り出し、加工脱脂大豆を調製した。このPDIは73であった。
【0108】
〔実施例5〕−湿熱加熱処理2−
脱脂大豆の品温が85℃になるように加熱し、60分維持する以外は、実施例4と同様にして加工脱脂大豆を調製した。このPDIは66であった。
【0109】
〔実施例6〕−エタノール処理4−
含水エタノール(70%)の噴霧量を30gに減量する以外は実施例1と同様にして加工脱脂大豆を調製した。このPDIは79であった。
【0110】
〔比較例1〕−エタノール処理5−
含水エタノール(80%)の噴霧量を1.5kgに増量し、加熱維持時間を60分に延長する以外は、実施例1と同様にして加工脱脂大豆を調製した。このPDIは32であった。
【0111】
〔比較実験例1〕 −脱脂豆乳の調製と成分分析−
実施例1〜6及び比較例1で得られた加工脱脂大豆が、LPのみが選択的に不溶化されている特性を具備しているか否かを調べるため、上述の(方法1)に従って脱脂大豆からオカラを分離して豆乳を調製し、(方法2)に従って豆乳中のホエー画分を分離し、さらに7S及び11S画分(MSP画分)とLP画分とに分画した。
次に、得られたホエー画分、オカラ画分、LP画分及びMSP画分の窒素量をそれぞれケルダール法にて分析し、脱脂大豆中の全窒素量を100%とした場合の各画分への窒素移行率(%)を算出した。そしてLP画分とMSP画分の窒素比率(LP/MSP)である選択的水不溶化指数を算出した。
なお、対照として加工処理を施さない低変性脱脂大豆についても同様に豆乳を抽出して分析を行った。結果を表2に示す。
【0112】
(表2)各種加工脱脂大豆から抽出した豆乳の分析結果

【0113】
実験結果より、実施例1〜6で示した処理条件の加工脱脂大豆から抽出された豆乳では選択的水不溶化指数(LP/MSP)が比較例1や対照に比べ顕著に低値を示した。すなわち、加工脱脂大豆中のLPが選択的に不溶化され、これを水抽出しようとしても50〜80%程度はオカラ画分へ留まることが確認された。
さらに、実施例では実施例3のようにMSPへの窒素移行率が低下しており、歩留まりが低下しているものもあるが、ほとんどが45%以上であり、未処理である対照の48%に近い窒素移行率を示した。すなわち、7Sと11Sが高歩留まりで豆乳側へ抽出されることが確認された。
実施例1〜3、実施例6、比較例1の結果より、エタノール濃度が高く、添加量が多いほどPDIは低値を示し、脱脂大豆の変性度合が大きくなった。一方、エタノール添加量がある程度多くなるとLP画分への窒素移行率の低下傾向が小さくなり、逆にMSPの窒素移行率が低下する傾向になった。その結果LP/MSPが増加傾向となり、比較例1では対照と変わらぬ数値を示した。
また、実施例4,5の湿熱加熱による脱脂大豆の加工法でも、PDIはエタノール添加と同程度の値が得られ、LPの選択的に水不溶化されていた。強めに加熱した実施例5ではMSP画分への窒素移行率が低下しつつあり、LP/MSP比はエタノール処理の場合よりも若干高めであった。湿熱加熱とエタノール添加との比較では、エタノール添加の方がLP/MSPが小さくなり、LPがより選択的に水不溶化される傾向にあった。
以上の結果より、LPを選択的に水不溶化させる脱脂大豆の加工処理条件としては、PDIが40以上80未満であって、LP/MSPが45%以下となる条件が好適であった。かかる条件を満たす具体的な加工処理方法としては、湿式加熱による制御、及び大豆に対し5〜100%濃度の含水エタノールを5〜100重量%添加する方法が適していた。特に含水エタノールを添加する方法によれば、LP/MSPをより小さく、35%以下にすることができた。
【0114】
〔比較実験例2〕 −豆乳および分離大豆蛋白溶液の風味確認−
比較実験例1で各々の加工脱脂大豆から調製された豆乳を10分間煮沸後、室温まで冷却して風味検定用の豆乳を得た。
また、各豆乳を塩酸でpH4.5に調整後、沈澱物を遠心分離にて採取し、ホエー画分を除いた。さらに採取した沈澱物を水酸化ナトリウムで中和して3%濃度になるように加水した。この中和液を10分間煮沸後室温まで冷却して、風味検定用の分離大豆蛋白溶液を調製した。この分離大豆タンパク質溶液については、上記LP含量の推定方法に従い、表1の条件でSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動による分析を実施し、LP含量の推定値であるLCI値(数1参照)を求めた。
得られた各豆乳及び分離大豆蛋白溶液の風味を10人のパネラーにて検定した。点数は10点満点で点数が多いほど、悪い風味が少ないとした。基準として、未処理の調製例を5点として、点数を付けた。合計点数をパネラーの人数で割った平均点を記載している。
【0115】
(表3)各加工脱脂大豆から調製された脱脂豆乳および分離大豆蛋白溶液の風味検定

【0116】
実施例1〜3、6(エタノール添加処理)の加工脱脂大豆を使用して抽出した脱脂豆乳や分離大豆蛋白溶液は、いずれもすっきりしていて、嫌味が少ないという評価であった。実施例4,5についても風味は向上していたが、エタノール処理の方が改善効果が大きかった。実施例5(湿熱加熱処理)は、雑味が少ないことで点数は上がったが、ロースト臭が感じられた。比較例1は風味については良い評価であったが、MSP画分の抽出量が少なすぎるため、製造プロセス上問題であった。
【0117】
〔比較実験例3〕 −抽出豆乳からの大豆7S蛋白及び大豆11S蛋白の調製−
比較実験例1で各々の加工脱脂大豆から調製された豆乳に塩酸で豆乳のpHを5.8に調整し、生じた沈澱を1000G、10分の遠心分離により回収した。この不溶性画分を大豆11S蛋白とした。
また、遠心分離後の水溶性画分を塩酸でさらにpHを4.5に調整し、生じた不溶性画分を1000G、10分の遠心分離で回収した。この不溶性画分を大豆7S蛋白とした。
各蛋白の固形分の3.7μgを試料としてSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、SDS-PAGEにより展開し、純度検定を行った。純度検定は、クマシーブリリアントブルーで染色後、デンシトメーターに供し、全蛋白質のバンドの濃さに対する7Sと11Sに相当するバンドの濃さが占める割合を算出する方法により行った。また、これらのサンプルのLCI値も求めた。その結果を表4に示す。
【0118】
(表4)加工脱脂大豆から調製した大豆11S蛋白及び大豆7S蛋白の純度及び回収率

【0119】
全ての実施例では、大豆11S蛋白の純度が75%以上、実施例1〜3では90%以上と高くなり、回収率も同等以上であった。大豆7S蛋白の純度は全ての実施例で38%以上、実施例1〜3では50%以上であり、60%を超えるようになる実施例もあった。これらの蛋白の風味はいずれもすっきりしていて、嫌味が少ないという評価であった。
比較例1では大豆11S蛋白の純度は実施例並みであったが回収率が6%とかなり低くなってしまった。これはオカラへの7S、11Sの移行量が多く、LPの選択的な水不溶化が不十分であったためと考えられる。
【0120】
〔実施例7〕 −高純度大豆7S蛋白の調製−
大豆7S蛋白については、純度を上げるために、さらに以下のような方法が適用できる。
実施例2で調製された加工脱脂大豆を用いて比較実験例3に従い、大豆11S蛋白を回収した後の水溶性画分を塩酸にてpHを5.0に調整し、60℃で15分間加熱後、苛性ソーダでpHを5.5にして30分間プロペラ攪拌(300〜350rpm)後、不溶性画分Aを1000G、10分の遠心分離にて除去した(図4:7S不純物)。その上清を塩酸にてpHを4.5に調整し、生じた不溶性画分Bを1000G、10分の遠心分離にて回収した。この不溶性画分Bを大豆7S蛋白としてSDS-PAGEで比較実験例3と同様に純度検定した結果、91%であった(図4:7Sグロブリン)。また、このときのLCI値は、12であった。
この蛋白の風味はすっきりしていて、嫌味が少ないという評価であった。
【0121】
〔実施例8〕 −LP−SPIの調製1−
実施例2で調製された加工脱脂大豆を用いて比較実験例2に従い、豆乳を抽出した後のオカラに同重量の水を加え、110℃、30秒の加熱処理をした後、遠心分離(1000g、10分)で水溶性画分を回収した。この水溶性画分に塩酸を加え、pHを4.5に調整し、生じた不溶性画分を遠心分離(1000g、10分)で回収した。この画分をLP−SPIとした(図4:レーンLP)。この蛋白の固形分中に含まれる油分は、エーテルで抽出される油分は1%であり、クロロホルム:メタノールの比が2:1の混合溶媒で抽出される油分が11%であり、極性脂質に親和性を示すLPが多く含まれることを示していた。
得られたLP−SPIは、従来分離大豆蛋白のオフフレーバーの原因成分であると考えられていたLPを高含有するため、悪風味が予想されたが、実際に風味を検定すると、意外にも悪風味のない良好な風味を呈していた。このときのLCI値は72%であった。
【0122】
〔実施例9〕−LP−SPIの調製2−
実施例7と同様の方法でで得られた不溶性画分Aを回収し、この画分をLP−SPIとした。この蛋白の固形分中に含まれる油分は、エーテルで抽出される油分は1%であり、クロロホルム:メタノールの比が2:1の混合溶媒で抽出される油分が9%であり、極性脂質に親和性を示すLPが多く含まれることを示していた。
得られたLP−SPIは、実施例7のLP−SPIと同様に、意外にも悪風味のない良好な風味を呈していた。このときのLCI値は71%であった。
【0123】
〔栄養試験1〕 LP-SPIの血中コレステロール低下作用の確認
比較実験例3、実施例6及び実施例7で得られた各種大豆蛋白素材の血中コレステロール低下活性について確認した。
AIN-93G組成(REEVES P.G.ら:J. NUTR., 123, 1939-1951, 1993.)に基づき、カゼイン「ビタミンフリーカゼイン」(オリエンタル酵母(株)製、以下「カゼイン」と記載する。)20重量%配合食を対照として、蛋白質源のうち10重量%をそれぞれ(1)分離大豆蛋白「フジプロF」(不二製油(株)製)、(2)比較実験例3と同様に製造した大豆11S蛋白、(3)実施例7と同様に製造した大豆7S蛋白、(4)実施例8と同様に製造したLP-SPI、又は(5)実施例9と同様に製造したLP-SPIで置換した試験食(表5)を以下の方法で動物に蛋白質として1日2g摂取させた。
モデル動物は6週齢のWISTAR系雄ラット(日本SLC(株)販)を36匹使用した。1週間の予備飼育後、群間の平均体重がほぼ同等になるように各群6匹づつに群分けし、2週間の試験食飼育を行った。
【0124】
(表5)

【0125】
試験期間終了後、朝8:00より6時間絶食の後にネンブタール麻酔下で開腹し、腹部大動脈より採血した。血液はヘパリン処理後、3000RPMで15分間遠心分離し、得られた血漿を血液サンプルとし、血中総コレステロール(TC)と、糞中ステロイド排泄量を測定した。
TCは富士ドライケム5500(富士フィルム(株))を用いて測定した。また糞中ステロイド排泄量については、屠殺直前の3日間に糞の採集を行い、凍結乾燥、粉砕したのち、排泄された中性,酸性のステロイドをそれぞれMiettinenらの方法(Miettinen, T. A.; Ahrens, E. H. Jr.; Grundy, S. M. Quantitative isolation and gas-liquid chromatographic analysis of total dietary and fecal neutral steroids. J. Lipid Res., 6, 411-424, 1965.)、Grundyらの方法に(Grundy, S. M.; Ahrens, E. H. Jr.; Miettinen, T. A. Quantitative isolation and gas-liquid chromatographic analysis of total fecal bile acids. J. Lipid Res., 6, 397-410, 1965.)に従ってガスクロマトグラフィーを用いて分析し、それらを合計して算出した。
2週間試験飼料で飼育されたラットのコレステロール値及び糞中総ステロイド排泄量の変化についての結果を表6に示した。
【0126】
(表6)結果:2週間試験飼料で飼育されたラットのコレステロール値変化

【0127】
以上の結果、LP-SPIの摂取は、分離大豆蛋白や大豆7S蛋白よりも有意に血中コレステロール低下作用が認められ、大豆11S蛋白に対しても低下する傾向が見られた。すなわち、本発明の方法で分画したLP-SPIは従来の大豆蛋白素材よりも強い血中コレステロール低下作用を有する素材であることが認められた。
【0128】
〔栄養試験2〕
次に、LP-SPIをエタノールで洗浄し、クロメタ抽出物を除去したときの血中コレステロール低下作用に及ぼす影響を調べた。
実施例8と同様にして製造したLP-SPIを10容量倍の70%エタノールで一回洗浄し、次に3容量倍の70%エタノールで一回洗浄し、次いで2容量倍の99.5%エタノールで洗浄で洗浄した。室温で一夜乾燥後、60℃で一時間乾燥し、エタノール洗浄LP-SPI(LP-EW)を得た。LP-EW中のクロメタ抽出物の含量は1.4%となっていた。
次に、上記のエタノール洗浄液からエタノールをエバポレーター(50〜55℃)で蒸発させ、凍結乾燥しすることにより、脂質を回収した。この脂質を表5の大豆油に溶解し、再度LP-EWと試験食中で混合した試料(LP-EW+Lipid)を得た。
栄養試験1と同様に、カゼイン20重量%配合食を対照として、蛋白質源のうち10重量%をそれぞれLP-SPI、LP-EW、LP-EW+Lipidで置換した試験食(表5)を以下の方法で動物に蛋白質として1日2g摂取させた。各蛋白の摂取群は、カゼイン群(対照群)、LP-SPI群、LP-EW群、LP-EW+Lipid群とし、モデル動物は6週齢のWISTAR系雄ラット(日本SLC(株)販)を24匹使用した。1週間の予備飼育後、群間の平均体重がほぼ同等になるように各群6匹づつに群分けし、2週間の試験食飼育を行った。試験期間終了後、栄養試験1と同様に2週間試験試料で飼育されたラットの血中コレステロール値の変化についての結果を表7に示した。
【0129】
(表7)2週間試験飼料で飼育されたラットのコレステロール値変化

【0130】
表7の結果より、LP-SPIはエタノールでクロメタ抽出物が除去されてしまうと、再度クロメタ抽出物を混合しても、強力な血中コレステロール低減作用を失う傾向が見られた。このことから、本発明のLP-SPIは、LP単独で存在するよりも、LPと親和性の高いレシチンなどのクロメタ抽出物が共存し、かつ複合体化していることにより、より強い血中コレステロール低減作用を示すと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の加工大豆を原料とすることにより、大豆蛋白質を7Sグロブリン、11Sグロブリン、脂質親和性蛋白質にそれぞれ高純度かつ簡便に分画することが可能であり、従来の分画方法による複雑な製造プロセスを大幅に改善することができる。
【0132】
また、高純度の大豆7S蛋白、大豆11S蛋白、非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白を提供することにより、それぞれの物性や栄養生理機能をより活かした食品製造が可能となる。特に非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白はこれまで製品化されていない新規の大豆蛋白素材であり、従来の分離大豆蛋白よりもコレステロール低下作用が高いので、特定保健用食品などの栄養改善への用途が期待される。
【0133】
さらに、本発明で得られる豆乳、分離大豆蛋白、大豆7S蛋白、大豆11S蛋白、オカラ、非7S・11S−酸沈殿性大豆蛋白は従来の大豆蛋白素材に比べて非常に風味が良好であるため、これらを使用する従来食品の品質改善においても利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質及びオカラ成分を含有し、PDIが40以上80未満であり、含まれる蛋白質のうち脂質親和性蛋白質が選択的に水不溶化されていることを特徴とする加工大豆。
【請求項2】
選択的水不溶化指数(LP/MSP)が45%以下である請求項1記載の加工大豆。
【請求項3】
選択的水不溶化指数(LP/MSP)が35%以下である請求項1記載の加工大豆。
【請求項4】
7Sグロブリン、11Sグロブリン及び脂質親和性蛋白質から選択される1種以上の酸沈殿性大豆蛋白質の分画用である請求項1記載の加工大豆。
【請求項5】
蛋白質及びオカラ成分を含む原料大豆に対し、加熱処理を施すことを特徴とする請求項2記載の加工大豆の製造法。
【請求項6】
請求項1記載の加工大豆を原料とする豆乳。
【請求項7】
請求項1記載の加工大豆を水抽出し、水溶性画分を回収することを特徴とする豆乳の製造法。
【請求項8】
請求項1記載の加工大豆を原料とするオカラ。
【請求項9】
請求項1記載の加工大豆を水抽出し、不溶性画分を回収することを特徴とするオカラの製造法。
【請求項10】
請求項1記載の加工大豆から調製した豆乳を原料とする分離大豆蛋白。
【請求項11】
LCI値が38%以下である請求項10記載の分離大豆蛋白。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−193909(P2010−193909A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135389(P2010−135389)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【分割の表示】特願2007−518999(P2007−518999)の分割
【原出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】