説明

分画マイクロチップ及び分画装置

【課題】 微粒子の分画処理手段をマイクロチップ内に搭載させ、熟練を要さずに安定した分画処理が可能な、ディスポーサブルで安価,安全かつコンパクトな分画マイクロチップ及び分画装置を提供すること。
【解決手段】 マイクロチップに積層した電気機械変換素子に流路も兼ねる圧力チャンバーを設け、ポンプやバルブとしての機能を発揮させることで小型化を実現した。剪断モードで壁面を屈曲させチャンバー容積を増減させることで流れを変化させるものである。分岐後の流路へ対称的に圧力チャンバーを設け、分岐点に微粒子が到達する瞬間を狙ってチャンバーをプッシュプル動作で駆動することで流動方向を精度よく制御する。さらに、貼り合せ構造(シェブロン構造)の圧電体を使用することで、マイクロチップとしては高速動作を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に浮遊する微生物,細胞ないし微粒子を、分光学的解析或いは画像解析等の手段により識別し、その識別データに従って高速かつ精密に微粒子を単離する分画マイクロチップ及び分画装置に係わる。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの進歩により、マトリックス組織をトリプシンやコラゲナーゼなどのタンパク分解酵素で消化し、さらに細胞間の結合をEDTAなどのCaイオンのキレート剤を用いて破壊することで細胞組織からも容易に細胞を単離することが可能となり、生細胞を利用した実験が広く行われる様になった。
【0003】
現在では蛍光プローブをターゲットに応じて選択し、蛍光ラベルプライマー(DNA,RNA),蛍光ラベルペプチド,蛍光ラベル糖鎖や蛍光ラベル抗体等で細胞構成物質を標識することにより抽出すべき細胞を識別したり、細胞内で生成したタンパク質の検出などが行われており、蛍光標識された細胞を分画および選択的に分取するというプロセスが益々重要となっている。
【0004】
標識された浮遊細胞の代表的な分画手法としては、フローサイトメーターによる細胞集団の解析と、分取機能をもたせたセルソーターによる細胞の抽出が挙げられ、研究開発段階から創薬での細胞実験まで広く行われている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
特に、後者のセルソーターは大量のサンプル細胞を自動的に高速分離する手法として地位を確立している。市販されているシステムは、コンティニアスヘッドで液滴を連続形成している(例えば、特許文献1参照。)。ヘッドから吐出された液滴がノズルから尾を引く状態のうちに細胞の有無を発光強度により検出して、尾を切り離す直前に液滴に電荷(+/0/−)を与える。
【0006】
荷電されなかった液滴は直進してアポート溶液として回収される。吐出された液滴のうち正負にチャージされた液滴は、偏向用電極(数kVの電圧が印加され対向している)で進行方向を曲げられて+チャージ液滴回収容器と−チャージ液回収容器に分取される(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
したがって、この装置は大掛かりなシステム構成で高価となる上に、発振周波数の調整や駆動電圧の制御,シース溶液流量の調整で液滴形成状態を安定化・維持するなど、その操作に熟練を要するほか、長時間の無人運転を行うことが困難であった。
【0008】
また、原理的にミスト発生を完全に抑えることは不可能であるため、危険なサンプルを扱う場合には環境の汚染等に充分注意する必要があり、ましてや装置内部の偏向電極,吐出ヘッドや流路の汚染は著しく使用後のメンテナンスが煩雑であった。
【0009】
その他、液滴へのチャージ・ディスチャージや回収容器への衝突等で細胞がダメージを受けるなどの課題が指摘されている。
【0010】
一方、最近では特許文献2にあるように、光マニュピュレーション技術を応用した分画装置(例えば、特許文献3参照。)も報告されているが、分画速度という点で大量の細胞分取を行なう手法としては課題を有している。
【0011】
他方、まだ研究開発段階でるがマイクロチップを使用して外付けポンプにより溶液の流動方向を制御する分画方法なども報告されているが、応答速度の課題と、バルブ操作やポンプ切換え操作の煩雑さより、実用化は困難と予想されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【特許文献1】米国特許第4515274号明細書
【特許文献2】米国特許第6281018号明細書
【特許文献3】特開2004−167479号公報
【非特許文献1】「フローサイトメトリー自由自在」中内啓光 監修 秀潤社2004年12月発行 ISBN4−87962−281−8
【非特許文献2】Anne Y. Fu, et al., "An Integrated Microfablicated Cell Sorter", Anal. Chem. Vol.74(11),pp2451-2457
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記の荷電方式によるセルソーターの課題は、液滴にして分画するという手法自体に起因するといっても過言ではない。液滴の安定吐出に要する負荷低減やミスト発生抑制,コンタミ防止,作業の安全性確保,メンテナンスの簡素化を考えた場合、閉鎖系での分画処理を実現することが好ましいことは言うまでもない。
【0013】
このような観点より、分画機能を有する流路をディスポーサブルなマイクロチップに集積することが望ましいが、背景技術で言及した様に分画処理速度の向上手段を講じなければ実用性化は難しい。さらに、ポンプやバルブを多数外部に設けることはシステムを大型化・複雑化し、装置のコストアップやメンテナンス等で作業者の負荷増大をもたらし好ましくない。
【0014】
即ち本発明の目的は、制御因子を簡素化し熟練を要さずに安定した分画処理が行える手法を創出するとともに、ポンプやバルブ機能をマイクロチップに搭載することで高速動作を可能とし、ディスポーサブルで安全かつメンテナンスフリーな分画マイクロチップ及び分画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために送液機構と識別手段を除いた分画機能をマイクロチップ内に集積させるとともに、サンプル溶液の採取から分画処理後の回収液排出に至るまでの流路を連続した水柱で移動可能なシステムとした。以下具体的な手段を説明する。
【0016】
(1)安全性、メンテナンス性の改善
上述の様に、閉鎖系で分画処理を行なうことで解決される。本発明では分画処理をマイクロチップ内で実施することで、作業環境や装置を汚染する危険性を回避した。また、マイクロチップはディスポーサブル可能であるためコンタミの心配がないうえ、装置本体の配管は交換可能なのでチューブコネクター類の洗浄も簡素化することが可能である。
【0017】
(2)制御因子、装置の簡素化
サンプル溶液の採取および送液にはシュリンジポンプを採用し、温度変化やサンプル溶液の残量にかかわらず、系内の総合流量を常に一定化できる様にした。したがって、分画マイクロチップ内にある識別エリアの固定観測点から実際に分画を行なう分岐点に至るまでの所要時間は常に一定となり、かつ送液量により一義的に決めることができる。
したがって、観測点で識別データを取得してから一定時間(遅延時間td)後に分岐点での分画操作を実施すればよく、制御を簡素化することができる。
本発明では、液滴を形成したり帯電・偏向をさせる機能が不要であるうえ、光圧を利用した分画装置のように、検出系以外の光学系を必要としないので装置の調整行為が少なくしかも小型化することができる。
【0018】
(3)マイクロチップでの分画処理速度
本発明では分岐点での液体の流れを制御して微粒子の分画を行なうものであるが、(4)で言及するポンプ機能を実現するチャンバーを分岐点の近傍に設けたことで音響距離を短縮させ、外部ポンプの切換え動作では実現不可能なスイッチング速度(流れ方向の変換)を実現した。
【0019】
また、荷電方式のセルソーターではデッドボリウムが多く、少量サンプルの分画を行なう場合には分散液の希釈が必要となりオペレーションタイムが犠牲となってしまうが、マイクロチップ化することで数μl単位からの分画化処理を短時間で行うことができる。
【0020】
(4)ポンプ・バルブ機能のマイクロチップ集積
本発明では、ポンプやバルブとして機能し、かつ、流路も兼ねるチャンバーを電気機械変換素子で形成したことで、チップサイズの小型化を実現した。具体的には流路を溝深さ方向に拡張してチャンバーを構成し、かつ分岐点側口と排出側口の流路断面積が絞られる構造をとることで、チャンバーが圧力室として機能する様にした。
【0021】
即ち、壁面を屈曲させチャンバー容積を増大させる様に電気機械変換素子へ電力供給を行うと、チャンバー内部の圧力低下を補償するために分岐点側および排出口側より液体が流入することとなる。反対に、壁面の屈曲をチャンバー体積を減少させる様に電気機械変換素子に電力供給を行なうと、チャンバー内部の圧力上昇を緩和するために分岐点側および排出口側へ液体が流出することとなる。
【0022】
従って、上記の圧力変化を利用して流れを制御し、微粒子が分岐点に流れ着いた瞬間に選択流路または放流流路に誘導することができる。分画用にバルブや外付けポンプを設置することなしに、マイクロチップ内でこれらの操作を実現した。
【0023】
因みに、電気機械変換素子として圧電体材料を使った場合、自発分極方向Psに垂直に電界を加えると、分極方向と平行かつ電界方向に垂直な面で厚みすべり歪を生じる。このd15モードの剪断変形を利用して壁を屈曲させることができる。(詳細は実施例で説明する。)
なお、選択流路と放流流路の構造を同一とし、かつ対称的に配置することで、両者の特性を揃えることが出来るため、ポンプ駆動シーケンスを簡素化することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の分画装置によると、サンプル溶液の導入から識別,分画処理後の選別溶液の回収までが閉鎖系の流路内で実施されるため、大気中にサンプル溶液が飛散する危険性がなく、装置の汚染や環境汚染をもたらすこと無く分画作業を実施することができる。
【0025】
また、微粒子が充分に離散的にマイクロ流路を流れる濃度に希釈されていれば、従来のセルソーターと異なり制御因子としてサンプル溶液の流速のみを一定化するだけで安定的な分画処理を行なうことが可能となり、作業者の習熟を必要としない使いやすい分画装置を提供できる。
【0026】
さらに、送受液で使用するチューブとディスポーサブル分画マイクロチップを実験毎に交換することで、メンテナンス不要のコンタミレス分画処理が可能となる他、装置自体も簡素化・小型化することが可能となる。
【0027】
無論、従来のセルソーターと異なり液滴へのチャージ,ディスチャージ工程や回収容器への衝突が無いため、細胞へのダメージを与える危険性が無いなどの効果も期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。また、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。
(システム構成)
図1に本発明の分画マイクロチップを評価した装置構成を示す。分散液の送液には流量の調節機能を有している市販のマイクロシリンジポンプ200を用いた。通常の装置は各種のシリンジ210が脱着可能であり、サンプル容量や送液速度に応じて選択可能である。シリンジポンプから送液された分散液は送液用キャピラリー220を経由して、分画マイクロチップ100の導入口131からチップ内に導入される。
識別手段として蛍光発光による検出システムを用いた。水銀ランプ300で励起され発光したビーズの蛍光像を、顕微鏡310で拡大して高速度ビデオカメラ320で撮像し、映像出力信号を中央制御ユニット330に動画として取り込み画像処理を行なう。また、画像処理された映像信号はモニター340に出力され、再生することができる他、ライブ映像をモニターすることもできる。
【0029】
離散的に流路チップ120の中を流れてくるオレンジ色または黄緑色に発光するビーズを、固定観測点となる識別エリア122で認識すると、中央制御ユニット330は分散液の流量から設定される遅延時間td(人為的にも調整可能)経過後に選択または放流(非選択)の信号をドライバーユニット350に送信する。ドライバーユニット350の出力はケーブル360を介して分画マイクロチップの電極端子116A、116Bおよび117に接続される。なお、ポンプの駆動電圧(Vdd2)やパルス幅(ton)等のパラメータはドライバーユニット350で任意に設定できるものとした。
【0030】
実施例において選択流路と放流流路は同一の構造で対称的な配置としたため、選択流路と放流流路は等価で交換可能である。そこで、以下、A,Bの識別記号を使って区別するものとする。なお、両者の構造や配置が異なる場合は、駆動電圧やパルス幅のパラメータを調整することで容易に対応することが可能である。
分画されたビーズは、分画マイクロチップ100の排出口A132Aおよび排出口B132Bに接続された回収チューブ400を通して回収容器410に分画される。
【0031】
(評価方法)
微粒子として市販のフローサイトメーター校正用蛍光ビーズ(直径約6μm)を用い、UV光源でオレンジ色を発光するビーズ(Fluoresbrite Polychromatic (PC Red))と、黄緑に発光するビーズ(Fluoresbrite Yellow Green(YG))を等量混合し、0.0025vol%濃度の分散液に調製して分画試験を行なった。
【0032】
分画はオレンジ色に発光するビーズを排出口A側に、黄緑色に発光するビーズを排出口B側に選別させ、モニター画面で確認した成功率で評価することとした。
なお、駆動電圧(Vdd2)と駆動パルス幅(ton)の値は流路構造等に依存するが、今回の評価ではVdd2=±26V,ton=24μsで良好な結果が得られており、この値に統一して評価を行なった。
【0033】
(実施の形態1)
電気機械結合素子としてPZTの単極板(貼り合せ構造でない)を用いた場合の実施例を示す。
【0034】
(1)アクチュエータチップの作製
図2にアクチュエータチップ110の作製方法を示した。PZTには市販のHIP処理品で、d15=950pm/V程度の圧電定数を有する材料を選択した。厚み方向に分極された厚さ0.8mmのPZT板111の分極+面にドライフィルム113をラミネートし、図2(a)の様なパターンを形成する。次に、直径51.4mm、刃厚78μmのブレードを装着したダイシングソーにより深さ約360μm、溝幅約80μm、溝底の直線部分18mmとなる溝114を形成すると、図2(b)のようになる。なお、圧力チャンバーを形成する流路壁の厚みは約60μmとした。
【0035】
引き続き公知の斜め蒸着法を2回繰り返し、溝の壁面両側の開口部表面より約180μmの深さまでTi,Auを積層蒸着し、リフトオフ法によりドライフィルムを除去すると、図2(c)のアクチュエータチップが完成する。
アクチュエータチップには溝が6本形成されており、図2(b)の溝114Aおよび114Bが分散液が流れる流路である。なお、溝114A内に形成された壁面電極(図示せず)と溝114B内に形成された壁面電極(図示せず)はGND電極端子117と導通する構造となっており、分散液の電気分解等が発生しない様にしてある。
【0036】
また、溝114Aおよび溝114Bに隣接するそれぞれ2本(計4本)の溝114は電極形成のためのダミー溝であり、流路となる溝114Aと114Bの両壁面に形成された壁面電極(図示せず)に対向する壁面電極115は、ジャンパーパターン118で導通され、それぞれ電極端子A116Aと電極端子B116Bに接続されている。
従って、溝114Aを構成する壁と、溝114Bを構成する壁とを独立に屈曲させることが可能となる接続にしている。
【0037】
なお、図2(c)の状態から必要に応じてパリレンなどの保護膜を被覆しても良い。その場合、電極端子の表面の皮膜は別工程で除去しなければならない。
【0038】
(2)ベース基板の作製
図3に分画マイクロチップのベース基板130を示す。紫外線による励起を行なう場合が多いので実施例では素材として厚み約0.52mmの鏡面研磨された石英板を選択したが、これに限定するものではない。ドライフィルムで所定の位置に開口部を形成後、サンドブラスト法により電極端子用切り欠き134と5箇所の穴を加工した。さらに、2次加工により導入口131を直径約100μmの丸穴に仕上げ,分岐後の分散液が流れ込む分岐後導入口133A,133Bおよび排出口132A,132Bをそれぞれ直径約70μmの丸穴に仕上げた。
【0039】
(3)流路チップの作製
図4に流路チップ120を示した。本実施例ではマイクロ流路の作製で公知の技術であるSU−8(ストラクチャー形成用)レジストを用いて型を作り、ポリジメチルシロキサン(PDMS)での型取りを行って厚み0.5mm,高さ25μm,幅50μmのT字型流路121を有する流路チップを作製した。無論、識別手段で許容される特性(例えば、透光性,平滑性など)を有する材料ならばいずれでも良い。
【0040】
(4)分画チップの組み立て
図5に本発明の分画マイクロチップの組み図を示す。ベース基板の片側にエポキシ系接着剤を薄く塗布し、アクチュエータチップの溝114Aと114Bの溝底が表面と交差する部分と、ベース基板の分岐後導入口133A,133Bおよび排出口132A,132Bが一致するように接着し硬化させる。
次に、ベース基板の非接着面とPDMS製の流路チップの流路形成面を酸素プラズマで短時間活性化後、T字型流路の3箇所の末端が、ベース基板に形成された分岐後導入口133A,133Bおよび導入口131に一致するよう正確に圧着しパーマネントボンディングさせる。以上の工程により分画マイクロチップ100を完成させた。
【0041】
(5)動作原理
図6に分画用マイクロチップのプッシュプル動作原理を示した。図6(a)の見取り図で一点鎖線で切断して矢印の方向から見た模式図を図6(b)〜図6(e)に示してある。また、選択流路と放流流路は等価となっているためA,Bで識別し、図6(a)での端子Aと端子Bと共通のGNDに印加する駆動電圧のパターンを右側の表に、そのときの壁の動きを中央に、流路チップ内での液体の流れ方を矢印で表示したものを左に示してある。
【0042】
ここでは、オレンジ色の蛍光を発するビーズが流れてきた時にA側に回収する場合を説明する。図6(b)はビーズが分岐点に流れつかない状態(<td)を示しており、端子A,端子Bともに電圧が印加されておらず、壁は変形していない状態(ノーマル状態)になっている。この状態では、A側の流路もB側の流路も送液量の半分の流量を分担している。
【0043】
次の図6(c)はビーズが分岐点に到着した状態(≒td)を示しており、吸い込み側のA側チャンバー容積が増大するように端子Aに−の電圧を印加され、同時に押し出し側のB側チャンバー容積が減少するように端子Bに+の電圧印加される。駆動電圧を適切に選ぶと壁が変位し続けている時間(チャンバー形状に依存するが通常数10μs程度)、分散液が全てA側に流入する状態を作り出すことが出来き、微粒子はA側流路に誘導される。すなわち、バルブ無しに瞬間的にB側流路を閉鎖した状態を作り出している。
【0044】
図6(d)はビーズが分岐点を過ぎてA側流路に取り込まれたあとの復帰段階を示したもので、A側チャンバーをノーマル状態に戻すためにGNDレベル(0V)にし、同時にB側チャンバーもノーマル状態にもどすためにGNDレベル(0V)にする。この場合はA側流路が閉鎖された状態となり、分散液が全てB側流路に流入する状態になる。
図6(e)は再び定常状態に戻った状態を示している。このような動作を繰り返し行なって、分岐点に到達したビーズの進行方向を制御することができる。
なお、以上の動作サイクルはビーズの流動速度と比較して充分に早いものであるが、ビーズの取り込み中に後続ビーズが分岐点に到達する様なことが無い様に、濃度調整を適切に行なわなければならない。
【0045】
本実施例で示したプッシュプル動作の場合の選別評価結果(実施例1)を表1に示す。
【0046】
【表1】

(実施の形態2)
実施の形態1の場合で、端子Bに電圧を印加せずにプッシュ動作(押し出し動作)を省略し、プル動作(吸い込み動作)のみを行なった場合の選別評価結果(実施例2)を同じく表1に示す。
【0047】
(実施の形態3)
実施の形態1の場合で、端子Aに電圧を印加せずにプル動作(吸い込み動作)を省略し、プッシュ動作(押し出し動作)のみを行なった場合の選別評価結果(実施例3)を同じく表1に示す。
【0048】
(実施の形態4)
図7(a)〜図7(c)に、アクチュエータチップの分極方向を反平行とし直列に積層(シェブロン構造)させた場合の実施形態を示す。ただし、チップ構造は実施形態1と同一とした。素材のPZTは表面側PZT112Aの厚み180μm,裏面側PZT112Bの厚み620μmからなる積層PZT112を用いた。実施例1(1)との相違は、壁面全部に電極形成を行なっている点であり、付きまわり性の良いスパッタ法などでTi,Auを成膜することで実施できる。その後の作製手順は同一である。
【0049】
本実施例で構成された分画チップは実施形態1と比較して駆動電圧を低く設定することが可能であり、より大きなチャンバー体積変化を必要とする場合に有効であった。本形態の選別評価結果(実施例4)を表1に示す。
以上の実施例をまとめると、プル動作(吸い込み動作)またはプッシュ動作(押し出し動作)単独でも分画処理は可能であるが、分画速度を上げるためにはプッシュプル動作が好ましいことが判明した。さらに分画速度を上げるためには貼り合せ構造(シェブロン構造)の圧電体を採用すれば良いことが明らかと成った。
【0050】
ところで、前記の実施例においては蛍光ビーズを使った評価を行なったが、浮遊細胞、細菌や微生物,ミセル,コロイド,無機物の微粒子などが浮遊している分散液(混相液)であっても同様に扱えることは言うまでもない。また、本実施例では蛍光による分画を代表例として採り上げたが、例えば画像により微粒子の形や大きさによる分画を行うことやや、微生物の運動量の違いによる分画を行なうことなども可能であり、分画パラメータを限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の分画装置の構成図を説明する図である。
【図2】本発明のアクチュエータチップの作製方法を示す図である。
【図3】本発明のベース基板を示す図である。
【図4】本発明の流路チップを示す図である。
【図5】本発明の分画マイクロチップの組図である。
【図6】本発明の分画マイクロチップの動作原理を示す図である。
【図7】本発明の貼り合せ材を用いた場合のアクチュエータチップの作製方法を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
100 分画マイクロチップ
110 アクチュエータチップ
111 PZT板
112 積層PZT板
112A 表面側PZT板
112B 裏面側PZT板
113 ドライフィルム
114 溝
114A 溝A
114B 溝B
115 壁面電極
116 電極端子
116A 電極端子A
116B 電極端子B
117 GND電極
118 ジャンパーパターン
120 流路チップ
121 T字型流路
122 識別エリア
123 分岐点
124 分岐後流路
124A 分岐後流路A
124B 分岐後流路B
130 ベース基板
131 導入口
132 排出口
132A 排出口A
132B 排出口B
133 分岐後導入口
133A 分岐後導入口A
133B 分岐後導入口B
134 電極端子用切り欠き
200 マイクロシリンジポンプ
210 マイクロシリンジ
220 送液キャピラリー
300 水銀ランプ
310 顕微鏡
320 高速度ビデオカメラ
330 中央制御ユニット
340 モニター
350 ドライバーユニット
360 ケーブル
400 回収チューブ
410 回収容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分画処理を行う微粒子が液体中を浮遊している分散液が流入側から流出側へ向かって分岐点で分流され流動する流路であって、外部から光学的に前記微粒子を識別する識別エリアと、該識別エリアの下流に位置する前記分岐点と、前記分岐点と連通し識別データに基づき選択された微粒子を取り込む採取流路と、非選択の微粒子を逃す放流流路とを有する流路を備え、
前記採取流路と前記放流流路のうちの少なくともいずれかの流路構成部材が変形し、流路容積を変化させることにより前記分岐点での前記分散液の流れ方向を制御し、前記微粒子の選別を行なうことを特徴とする分画マイクロチップ。
【請求項2】
前記流路構成部材の一部が電気機械変換素子により構成され、通電により前記流路容積が可変することを特徴とする請求項1に記載の分画マイクロチップ。
【請求項3】
前記電気機械変換素子が圧電体であり、かつ剪断モードで駆動されることを特徴とする請求項2に記載の分画マイクロチップ。
【請求項4】
前記圧電体が分極方向を反平行とし直列に積層されたシェブロン構造を有し、かつ剪断モードで駆動されることを特徴とする請求項1に記載の分画マイクロチップ。
【請求項5】
前記採取流路および前記放流流路の流路壁を相反する前記容積変化を生じせしめる様に変形してプッシュプル動作により前記微粒子の分画を行なうことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分画マイクロチップ。
【請求項6】
前記分岐点より下流側の流路構造が等価かつ対称な構造となっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の分画マイクロチップ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の分画マイクロチップと、該分画マイクロチップに前記分散液を送液するポンプと、送液された前記分散液中の前記微粒子を識別する識別手段と、該識別手段により得られた前記識別データに基づき前記流路容積及び前記分散液の前記流れ方向を制御する中央制御ユニットとを備えることを特徴とする分画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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