分解経路に関わる少なくとも1つの遺伝子の発現を調節可能な分子およびその使用
分解経路に関わる少なくとも1つの遺伝子の発現を調節可能な、細胞の分解経路を亢進して細胞における毒性化合物の蓄積を予防または拮抗するための、CLEARエレメントに対して作用する分子。好ましい分子はTFEBタンパク質、その合成または生物工学的機能的誘導体、TFEBタンパク質またはその合成もしくは生物工学的機能的誘導体を含むキメラ分子、TFEBタンパク質の活性および/または発現レベルの調節因子である。分子は神経変性障害および/またはリソソーム貯蔵障害の治療において用いられうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の分解経路を亢進して細胞における毒性化合物の蓄積を予防または拮抗するための、分解経路に関わる少なくとも1つの遺伝子の発現を調節可能な分子に関する。
【背景技術】
【0002】
リソソームは分泌経路、エンドサイトーシス経路、オートファジー経路およびファゴサイトーシス経路から受け取った高分子の分解を専門とする(1)。アルツハイマー病、パーキンソン病やハンチントン病などのリソソーム貯蔵障害および神経変性疾患は共通の特徴として病原性凝集体または細胞性異化作用の中間体を形成する傾向があるタンパク質といった未消化高分子の細胞内部における進行性蓄積を共有する。これは最終的に細胞機能障害ならびに内臓病変(肝脾腫)、骨格病変(関節の制限、骨疾患および奇形)、血液学的病変(貧血、リンパ球空胞化および封入)および最も重要な、しばしば不可逆な損傷と無効または致命的な結果とを伴う神経学的病変に可変の関連がある臨床症状をもたらす。これらの疾患は全て細胞の消化能力低減を共有することから、分解経路の普遍的なエンハンサーとして作用可能な分子の同定には大きな医学的関心が持たれる。
【0003】
リソソームは動物細胞における分解および再利用プロセスの中心となる細胞小器官である。リソソームの活性が細胞のニーズに応じて調整されるかどうかは未だ不明である。我々はリソソーム遺伝子の大半は調整された転写挙動を呈し、転写因子TFEBにより制御されることを見出した。異常なリソソーム貯蔵状態下でTFEBは細胞質から核に移行し、標的遺伝子の活性化をもたらした。培養細胞におけるTFEBの過剰発現はリソソームの発生を誘導し、グリコサミノグリカン(GAGs)やハンチントン病を引き起こす病原性タンパク質などの複合分子の分解を増強した。このようにして遺伝的プログラムはリソソームの発生および機能をコントロールするが、これはリソソーム貯蔵障害および神経変性疾患において細胞のクリアランスを亢進する潜在的な治療標的を提供するものである。
【0004】
先行技術はリソソームシステムの阻害後にいくつかのカテプシンの活性を上昇させるシステムについての記述を報告している。しかしながら、これらの結果はいくぶん部分的で議論の余地があり、分子メカニズムが詳細に解析されていない。公表された文献のなかで、リソソーム遺伝子のネットワークの存在を明らかにしている文献またはリソソームの活性の潜在的な調節因子としてTFEBを同定している文献はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】CA2525255A1
【特許文献2】WO2007/070856
【特許文献3】US2005/255450
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Esumi Noriko他、The Journal of Biological Chemistry 1997、282、3、1838〜1850頁
【非特許文献2】“Lysosomes”、著者:Paul Saftig、Landes Bioscience、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の著者らは、毒性化合物の分解に決定的に重要なリソソームのタンパク質をコードする遺伝子を含む遺伝子ネットワークを同定した。これらのタンパク質は、直接的または間接的に多数のヒト疾患に関わる。これら遺伝子の調節を担う制御性エレメントがそれらのプロモーター配列中に同定された。かかる制御性エレメントは、著者らはCLEARと呼ぶものだが、それ自体が毒性化合物の分解を担うリソソームのタンパク質の産生を調節する、そしてそれ故に亢進するための標的であることを意味する。ついには、TFEB(NCBI GeneID=7942;nt=NM_007162.1、タンパク質=NP_009093.1(配列番号228の1-476位アミノ酸)およびその変異体)と呼ばれる転写因子がCLEARエレメントに結合して標的遺伝子の発現を調節可能なタンパク質として同定された。著者らはリソソームの活性はTFEB量を増減させることで調節されうることを実証した。特に、TFEBレベルの上昇により生じるリソソームの亢進は神経変性のハンチントン病の原因である毒性のタンパク質から細胞をクリアにすることが可能である。
【0008】
リソソームシステムの活性化による細胞分解経路の亢進は、リソソーム貯蔵障害および神経変性疾患の治療に好都合に用いられうる。
【0009】
かかる治療は以下を用いることで行われうる。
1)リソソーム遺伝子および分解経路に関わる他の遺伝子の発現調節を担うCLEARエレメントに対して直接的に作用する、細胞の分解経路を亢進し、毒性化合物の蓄積を予防または拮抗するための、ペプチド断片、キメラペプチド等のTFEBまたはその合成もしくは生物工学的誘導体、および/または
2)直接的または間接的にTFEBタンパク質またはその量に対して作用可能な、ペプチド、マイクロRNA、マイクロRNA阻害剤または他の任意の化学物質等の分子、および/または
3)TFEB、マイクロRNA、マイクロRNA阻害剤またはCLEAR制御性ネットワークを調節可能な他の遺伝子を含有する、細胞の分解経路を亢進するための、遺伝子治療用ベクター。
【0010】
CA2525255A1は、がんの治療および細胞増殖または分化を調節するためのTFEBの使用を記述している。
【0011】
WO2007/070856は、免疫機能障害の治療のためのTFEBの使用をクレームしている。この文献は干渉RNA分子を通じたTFEBのブロックによるCD40Lの発現抑制を開示している。さらにこの文献はTFEBダイマーによるTFEBの抑制を開示している。上のいずれもTFEBの量/標的遺伝子への活性の亢進に関係しない。
【0012】
Esumi Noriko他、The Journal of Biological Chemistry 1997、282、3、1838〜1850頁はTFEBに対するsiRNAの効果を開示しているが、これはVMD2の発現と相関する。TFEB/CLEARネットワークを通じた分解経路の活性化はこの文献において開示または示唆されていない。
【0013】
US2005/255450は神経変性疾患治療用の治療薬を開発するための、候補薬剤をスクリーニングしてリード化合物を同定する方法を開示している。この文献は神経毒性ペプチドのクリアランスを調節する物質を数個同定した酵母細胞での実験を開示しているが、これは酵母遺伝子の推定ヒトオルソログのいくつかは同様に作用するであろうことを示唆している。TFEBの発現と神経毒性ペプチドのクリアランスとの間の潜在的な関連性については、診断の観点において示唆されているものの、データはない。実際、記述されている酵母タンパク質のHMS1はTFEBの酵母オルソログではない。
【0014】
最後に、リソソームシステムの調節を可能にするCLEAR制御性エレメントはいかなる先行技術文献にも開示されていない。
【0015】
リソソームの活性を亢進可能な技術は今まで記述されていない。著者らは制御性エレメントCLEARまたはTFEBタンパク質を通じたリソソームシステムの調節に関わる分子イベントを定義した。
【0016】
“Lysosomes”、著者:Paul Saftig、Landes Bioscience、2005に記述されているように、この発明においてリソソーム貯蔵障害はリソソームの発生または代謝に関与する多くのタンパク質のうちの1つの欠損が未分解分子のリソソーム内貯蔵を導く遺伝性疾患として意図されている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、細胞の分解経路を亢進可能な、細胞における毒性化合物の蓄積を予防または拮抗するための分子であって、
a)直接的または間接的にCLEARエレメントに対して作用して細胞の分解経路に関わる少なくとも1つの遺伝子の発現を亢進し、前記CLEARエレメントはコンセンサス配列として配列番号110を有するヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含むこと、および
b)TFEBタンパク質、その合成もしくは生物工学的機能的誘導体、そのペプチド断片、TFEBタンパク質およびその合成もしくは生物工学的機能的誘導体を含むキメラ分子ならびにTFEBタンパク質の活性および/または発現レベルの調節因子からなる群に属すること
を特徴とする分子を目的とする。
【0018】
TFEBタンパク質としては、NCBI GeneID=7942;nt=NM_007162.1、タンパク質=NP_009093.1(配列番号228の1-476位アミノ酸)およびその変異体が意図される。
【0019】
本発明の特定の態様において、CLEARエレメントはコンセンサス配列として配列番号111を有するヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む。
【0020】
好ましいCLEARエレメントは配列番号1から配列番号109までの群より選択されるヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含み、最も好ましいCLEARエレメントは配列番号3、配列番号9、配列番号13、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号47、配列番号50、配列番号53、配列番号59、配列番号62、配列番号77、配列番号78、配列番号84、配列番号85、配列番号88、配列番号92、配列番号94、配列番号95、配列番号98および配列番号108からなる群より選択されるヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む。かかる配列はマイクロアレイおよび/またはリアルタイムPCR実験のいずれかに応答する遺伝子に属する。
【0021】
本発明の特定の態様において、キメラ分子はTFEBタンパク質および核局在シグナル(NLS)を含み、より好ましくはキメラ分子は配列番号228の配列を有する。
【0022】
本発明の他の特定の態様において、TFEBタンパク質の調節因子はマイクロRNAまたはマイクロRNA阻害剤であり、好ましくはTFEBタンパク質の調節因子はmiR-128またはmiR-128阻害剤である。
【0023】
好ましい態様において、本発明の分子は直接的または間接的にCLEARエレメントに対して作用して、細胞の分解経路に関わるリソソームのタンパク質を発現する少なくとも1つの遺伝子の発現を亢進する。
【0024】
好ましい態様において、本発明の分子は医療用である。
【0025】
好ましい態様において、本発明の分子は神経変性障害の治療用である。
【0026】
神経変性疾患は以下を含むがこれに限定されるものではない:アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、脊髄小脳失調症(SCA)。
【0027】
好ましくは神経変性障害はアルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病からなる群に属する。
【0028】
別の好ましい態様において、本発明の分子はリソソーム貯蔵障害の治療用である。
【0029】
リソソーム貯蔵障害は以下を含むがこれに限定されるものではない:活性化因子欠損症/GM2ガングリオシドーシス、α-マンノーシドーシス、アスパルチルグルコサミン尿症、コレステロールエステル蓄積症、慢性ヘキソサミニダーゼA欠損症、シスチン症、ダノン病、ファブリー病、ファーバー病、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、ゴーシェ病(I型、II型およびIII型を含む)、GM1ガングリオシドーシス(小児性、後期小児性/若年性、成人性/慢性を含む)、I-細胞病/ムコリピドーシスII、小児性遊離シアル酸蓄積症/ISSD、若年性ヘキソサミニダーゼA欠損症、クラッベ病(小児発症性、遅発性を含む)、異染性白質ジストロフィー、偽性ハーラー・ポリジストロフィー/ムコリピドーシスIIIA、MPSIハーラー症候群、MPSIシャイエ症候群、MPS Iハーラー・シャイエ症候群、MPS IIハンター症候群、サンフィリポ症候群A型/MPS IIIA、サンフィリポ症候群B型/MPS IIIB、サンフィリポ症候群C型/MPS IIIC、サンフィリポ症候群D型/MPS IIID、モルキオ症候群A型/MPS IVA、モルキオ症候群B型/MPS IVB、MPS IXヒアルロニダーゼ欠損症、MPS VIマロトー・ラミー症候群、MPS VIIスライ症候群、ムコリピドーシスI/シアリドーシス、ムコリピドーシスIIIC、ムコリピドーシスIV型、多種スルファターゼ欠損症、ニーマン・ピック病(A型、B型およびC型を含む)、CLN6病を含む神経セロイドリポフスチン症、非定形後期小児性遅発性バリアント(Atypical Late Infantile, Late Onset variant)、早期若年性バッテン・シュピールマイアー・フォークト病/若年性NCL/CLN3病、フィンランドバリアント後期小児性CLN5(Finnish Variant Late Infantile CLN5)、ヤンスキー・ビールショースキー病/後期小児性CLN2/TPP1病、クーフス/成人発症性NCL/CLN4病、北方てんかん/バリアント後期小児性CLN8(Northern Epilepsy/variant late infantile CLN8)、サンタビューリ・ハルティア/小児性CLN1/PPT病(Santavuori-Haltia/lnfantile CLN1/PPT disease)、β-マンノーシドーシス、ポンペ病/糖原病II型、濃化異骨症、サンドホフ病/成人発症性/GM2ガングリオシドーシス、サンドホフ病/GM2ガングリオシドーシス、小児性サンドホフ病/GM2ガングリオシドーシス、若年性シンドラー病、サラ病/シアル酸蓄積症、テイ・サックス病/GM2ガングリオシドーシス、ウォルマン病。
【0030】
好ましくはリソソーム貯蔵障害はポンペ病および多種スルファターゼ欠損症(MSD)からなる群に属する。
【0031】
本発明の他の態様は、上で開示された分子をコードする配列を含有する核酸である。
【0032】
本発明の他の態様は、適切な制御性配列のもとで上記核酸を含むベクターであり、好ましくは遺伝子治療用である。
【0033】
本発明は実験的な限定的でない証拠を参照することで説明される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1−1】リソソーム遺伝子の発現をコントロールする制御性遺伝子ネットワーク。(A)ヒト遺伝子プロモーター上のCLEARエレメントのゲノム分布(赤い点)を示す図である。スコアはCLEARの位置重み行列に基づいて与えられる。青い点はリソソーム遺伝子のプロモーターにおけるCLEARエレメントを指し示す。破線のボックスは遺伝子オントロジー解析(本文参照)に用いられた遺伝子に対応するエレメントの全てを含有する。(B)インタクトな(上段)または変異した(中段、変異を赤で示す)CLEARエレメントのいずれかを4コピーのタンデムで保有するコンストラクトを用いたルシフェラーゼアッセイの図である。
【図1−2】リソソーム遺伝子の発現をコントロールする制御性遺伝子ネットワーク。(C)TFEBの過剰発現およびサイレンシング後のリソソーム遺伝子の発現解析の図である。青いバーはpcDNA3トランスフェクト細胞と比べたTFEBトランスフェクト細胞におけるリソソーム遺伝子のmRNAレベルの変化倍率を示す。赤いバーは標準対照のマイクロRNA(mimic-miR-cel-67)でトランスフェクトされた細胞と比べたmimic-miR-128トランスフェクト細胞におけるmRNAレベルの変化倍率を示す。ランダムに選ばれた非リソソーム遺伝子が対照として用いられた。遺伝子発現はGAPDHに対して規格化された。
【図1−3】リソソーム遺伝子の発現をコントロールする制御性遺伝子ネットワーク。(D)クロマチン免疫沈降(ChIP)解析の図である。ヒストグラムはDNA総投入量のパーセンテージで表現した免疫沈降されたDNA量を示す。対照にはハウスキーピング遺伝子(ACTB、APRT、HPRT)およびCLEAR部位を持たないランダム遺伝子(TXNDC4、WIF1)のプロモーターならびにリソソーム遺伝子のイントロン配列(int)が包含される。リソソーム遺伝子と対照とは有意に異なっており、マン・ホイットニー・ウィルコクソン検定でP<10-4であった。(B)、(C)および(D)における全ての実験は三連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。(E)HeLa細胞においてC1orf85-Myc(緑)がリソソーム膜マーカーLAMP1(赤)と共局在することを示す共焦点顕微鏡検査の図である。
【図2】TFEBの過剰発現はリソソームの発生を誘導する。HeLa細胞のTFEBまたは空のpcDNA3ベクター(対照)いずれかの安定的トランスフェクタントの比較。(A)リソソームマーカーLAMP1に対する抗体で染色した後の共焦点顕微鏡検査の図である。(B)リソソーム特異的色素のLysotrackerで染色した後のFACS解析の図である。解析は4つの独立クローンに対して行われた(TFEB#1〜4)(図18参照)。青いバーは指示された閾値(P4ゲート)より大きい蛍光強度を持つ細胞の割合を指し示す。1クローンあたり30,000個の細胞が解析された。(C)電子顕微鏡検査の解析図である。TFEB過剰発現トランスフェクタントにおいては対照に対し、薄片はより多くの典型的な超微細構造を持つリソソームプロファイル(矢印)を呈した(詳細は破線ボックス領域に対応する挿入図を参照)。スケールバー、720nm。(D)薄片におけるリソソーム数を示す図である(平均値±標準誤差、N=20個の細胞)。
【図3】CLEARネットワークはリソソームの貯蔵により活性化される。(A)ショ糖のリソソーム貯蔵後のChIP解析図である。ヒストグラムはショ糖処理細胞におけるFLAG免疫沈降されたクロマチン量の非処理細胞に対する(変化倍率で表現された)比を示す。リソソーム遺伝子は平均で2倍から3倍、免疫沈降されたクロマチンの増加を示した一方、対照遺伝子では有意な変化は認められなかった。(B)ショ糖添加後のリソソーム遺伝子の発現解析。図はリソソーム遺伝子およびTFEBのmRNAレベルの時間経過解析を示す。遺伝子発現はリアルタイムqPCRによりモニターされ、GAPDHに対して規格化された。(A)および(B)における全ての実験は少なくとも二連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。(C)ショ糖添加後のTFEB細胞内局在の免疫蛍光顕微鏡検査の解析図である。TFEB-3xFLAGを安定的に発現するHeLaクローンは培養培地にショ糖を加えた後の様々な時点で抗FLAG抗体で染色された。(D)異なる3タイプのマウスLSDモデル由来のマウス胎仔線維芽細胞(MEF)におけるTFEB局在の免疫蛍光顕微鏡検査の解析図である。LSDまたは野生型(WT)マウス由来のMEFはTFEB-3xFLAGコンストラクトで一過性にトランスフェクトされて抗FLAG抗体で染色された。FLAG染色陽性である核のパーセンテージは、異なる2つのトランスフェクション実験において細胞タイプあたり100個の細胞を試験することで推定した(データは平均値±標準偏差を表す)。
【図4】TFEBは細胞のクリアランスを亢進する。(A)TFEBまたは空のpcDNA3ベクター(対照)いずれかについてのHeLa細胞の安定的クローンにおけるGAGクリアランスカイネティクスの比較の図である。グラフはGAGに取り込まれた3H-グルコサミンの相対量を時間に対して示す。1=0時の3H-グルコサミンレベル。アスタリスク、P<0.05。実験は三連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。(BおよびC)TFEB過剰発現後のポリQ伸長されたハンチンチン(HTT)のクリアランス。(B)エレクトロポレーションから24時間後にFACSにより分離したTFEB-EGFP陽性(+)HD43細胞およびTFEB-EGFP陰性(-)HD43細胞のイムノブロット解析の図である。濃度測定解析のグラフは、ポリQ伸長されたハンチンチンが対照と比較してTFEB-EGFP陽性細胞において強く減少することを示す。(C)3xFLAG-TFEBコンストラクトでトランスフェクトされたHD43(Q105)細胞におけるTFEBおよびHTTの免疫細胞化学的解析の図であり、3xFLAG-TFEB染色陽性細胞においてハンチンチン染色はほとんど見られないことを示す。
【図5】リソソーム遺伝子は調整された発現挙動を見せる。図は40個のリソソーム疾患遺伝子と既知の全リソソーム遺伝子との発現相関を視覚的表示で報告する。各カラムは上段の指示された遺伝子との発現相関によりランク付けされたAffymetrix HG-U133Aプラットフォームの遺伝子プローブ〜22,500個を表す。青いバーはランク付けしたリスト内でのリソソーム遺伝子の順位を表す。解析はランク付けされた発現相関リストの最初の5パーセンタイル内にリソソーム遺伝子が濃縮されることを示す。
【図6】リソソーム遺伝子間の発現相関の詳細図である。カラムには選択されたリソソーム遺伝子についての発現相関リストでの最初の100個の遺伝子プローブが挙げられている。リソソーム遺伝子はオレンジ色でハイライトされている。リソソームの機能に関係する他の遺伝子は黄色でハイライトされている。ランダムにランク付けしたリストにおいてリソソーム遺伝子プローブを発見する可能性は〜1:100であることに注意すべきである。
【図7】CLEARエレメントのロゴ表示の図である。カラム内の各残基の保存性はシンボルの相対的な高さとして可視化されている。
【図8】リソソーム遺伝子サブセットのプロモーター領域でのCLEARエレメントの分布を示す図である。CLEARエレメントはクラスター化しており、しばしば多コピーで転写開始部位の周辺に存在する。色分けの凡例は模式図として図中で報告される。
【図9】酵素活性を示す図である。安定的なTFEB過剰発現HeLa細胞および対照における、リソソーム酵素β-グルコシダーゼ、カテプシンDおよびβ-グルクロニダーゼの活性の定量化。アスタリスク、P<0.05。全ての測定は三連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。
【図10】TFEB過剰発現後のHEK293細胞におけるリソソーム遺伝子の発現解析の図である。青いバーはTFEBトランスフェクト細胞とpcDNA3トランスフェクト細胞とで比較したモニターされた遺伝子のmRNAレベルの変化倍率を示す。遺伝子発現はGAPDHに対して規格化された。
【図11】デュアルルシフェラーゼアッセイによるmiR-128の標的遺伝子としてのTFEBの検証を示す図である。TFEBの3’UTR領域はホタルルシフェラーゼのセンサーコンストラクト中にクローニングされ、ウミシイタケルシフェラーゼ対照と一緒にHeLa細胞中にトランスフェクトされた。ルシフェラーゼ活性はhsa-miR-128の前駆体配列を含有するプラスミドコンストラクトの存在下または非存在下で測定された。EZH2遺伝子およびLRIG1遺伝子はmiR-128の推定標的ではなく、陰性対照として用いられた。全ての実験は三連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。
【図12】3’UTR領域を欠損したTFEB導入遺伝子を安定的に発現するHeLa細胞へのmimic-miR-128トランスフェクション後のリソソーム遺伝子の発現解析の図である。mimic-miR-128トランスフェクション後のリソソーム遺伝子のダウンレギュレーションがTFEBサイレンシングによるものであることを検証するため、mimic-miR-128はmiR128結合部位を含有するTFEB 3’UTR領域を欠損したTFEB導入遺伝子を安定的に発現するHeLaクローン中にトランスフェクトされた。青いバーはmimic-miR-128トランスフェクト細胞と標準対照のマイクロRNA(mimic-miR-cel-67)でトランスフェクトされた細胞とで比較したモニターされた遺伝子の変化倍率を示す。テストした遺伝子のいずれにおいても有意な変化は認められなかった。遺伝子発現はGAPDHに対して規格化された。
【図13】TFEB一過性トランスフェクション後のHeLa細胞におけるトランスクリプトーム変化解析の図である。グラフはアップレギュレートされた遺伝子の’細胞コンパートメント’カテゴリーによる偽発見率<0.1での遺伝子オントロジー解析を示す。
【図14】HeLa細胞におけるリソソーム遺伝子とTFEB過剰発現により誘導された遺伝子との間のFDR<0.10での重なりを示すベン図である。図は20個の遺伝子、これらは全てCLEAR部位をプロモーター中に含有するが、これらは両カテゴリーにおいて表されることを示す。高度に厳しい統計的基準に基づいており、単一の細胞タイプに対するものであるため、過小評価である可能性がある。TFEB誘導に対するリソソーム遺伝子の応答についてのより包括的な見解は図15(Gene Set Enrichment Analysis)に示される。
【図15】TFEB過剰発現後のトランスクリプトーム変化についてのGene Set Enrichment Score Analysis(GSEA)の図である。グラフはランク付けされた遺伝子発現データについてのGSEA解析により生成した濃縮プロットを示す(左:アップレギュレートされた遺伝子、赤、右:ダウンレギュレートされた遺伝子、青)。濃縮スコアは青い線として示されており、プロットの下の垂直の青いバーはCLEAR部位をプロモーター中に保有するリソソーム遺伝子の位置を指し示す。解析はCLEAR部位を持つリソソーム遺伝子はほとんどがアップレギュレート遺伝子画分に分類されることを示す(濃縮スコア=0.84、P<0.0001)。
【図16−1】リソソーム特異的色素のlysotrackerでHeLa細胞の安定なTFEBトランスフェクタント(TFEB#1〜4)を染色した後のFACS解析の図である。青いバーは指示された閾値(P4ゲート)より大きい蛍光強度を持つ細胞の割合を指し示す。1クローンあたり30,000個の細胞が解析された。
【図16−2】リソソーム特異的色素のlysotrackerでHeLa細胞の安定なTFEBトランスフェクタント(TFEB#1〜4)を染色した後のFACS解析の図である。青いバーは指示された閾値(P4ゲート)より大きい蛍光強度を持つ細胞の割合を指し示す。1クローンあたり30,000個の細胞が解析された。
【図16−3】リソソーム特異的色素のlysotrackerでHeLa細胞の安定なTFEBトランスフェクタント(TFEB#1〜4)を染色した後のFACS解析の図である。青いバーは指示された閾値(P4ゲート)より大きい蛍光強度を持つ細胞の割合を指し示す。1クローンあたり30,000個の細胞が解析された。
【図17】空のベクター(左)またはTFEBベクター(右)のトランスフェクションから48時間後のMSD細胞についての顕微鏡検査の解析図である。矢印は未処理のMSD細胞におけるグリコサミノグリカンの貯蔵を指し示す。実験はTFEBで処理した細胞は未消化グリコサミノグリカンの蓄積を見せなくなることを示す。
【図18】空のベクター(左)またはTFEBベクター(右)のトランスフェクションから48時間後のMSD細胞についての電子顕微鏡検査の解析図である。未処理細胞は未消化のグリコサミノグリカン貯蔵による広範な空胞化を示す。TFEBで処理された細胞は細胞の空胞化が大きく回復したことを示す。
【図19】TFEB-3xFLAGベクターで処理されたポンペ病細胞の免疫蛍光解析の図である。トランスフェクトされた細胞(矢印)は、非トランスフェクト細胞(右)で見出されたグリコーゲン蓄積による広範な空胞化が強く回復したことを示す。
【図20】miR-128の阻害はCLEARネットワークの転写活性化をもたらすことを示す図である。培養HeLa細胞はmiR-128特異的な阻害剤(Dharmacon)またはヒト細胞において標的を持たない標準対照(miR-cel-167阻害剤)でトランスフェクトされた。リアルタイムqPCRが行われ、トランスフェクションから48時間後のTFEB、そのリソソーム標的であるPSAP、2つのハウスキーピング遺伝子(HPRTおよびGAPDH)および2つのランダム遺伝子(ARPP-19およびH0XA9)の発現がモニターされた。グラフはモニターされた遺伝子の発現レベルについてのmiR-128阻害剤でトランスフェクトされた細胞と対照との間の比を示す。TFEBとその標的のPSAPのいずれの発現も増加し、対照遺伝子には変化がないという結果が示された。遺伝子発現はHPRTに対して規格化された。
【図21】人工的TFEBアナログであるTFEB-NLS(配列番号228)のアミノ酸配列を示す図である。TFEB-NLSはタンパク質のC末端に核局在シグナル(NLS)を付加して得られた。核局在シグナルは配列PKKKRKを有する(図中の下線部)。
【図22】TFEB-NLSは核において局在する。TFEBアナログであるTFEB-NLSの免疫蛍光解析の図であり、TFEB-NLSコンストラクトの完全な核局在を示す。細胞内TFEB-NLS局在の代表例として二組の画像が報告されている。各組において、左側では細胞核がDAPI色素(DNAに特異的)で染色されており、右側では細胞がTFEB染色されている。
【発明を実施するための形態】
【0035】
材料および方法
ゲノム解析
ヒトゲノム配列はEnsembleデータベース(http://www.ensembl.org)から検索され、Regulatory Sequence Analysis Tool(28)を用いて解析された。反復性解析でCLEARエレメントのコンセンサス配列同定を導いた。位置重み行列(PWM)はリソソーム遺伝子の転写開始部位から200bp以内に見出される全てのCLEARエレメントをアセンブルすることで構築された。ヒト遺伝子プロモーターはPatSerツール(28)を初期設定パラメータで用いて、CLEARのPWMで探索された。遺伝子オントロジー(GO)解析はウェブツールのDAVID(http://david.abcc.ncifcrf.gov)で初期設定パラメータを用いて行われた。P値≦0.01および濃縮倍率≧2の非重複タームのみが保持された。
【0036】
発現相関解析
発現相関解析は以前に記述された方法(29)に、軽微な改変を加えて行われた。簡潔には、リソソーム遺伝子はg:Profilerパッケージ(30)の一部であるg:Sorterツールを用いて解析された。選択された遺伝子プローブについて、g:Sorterは特定のGEOデータセットにおける最も類似した共発現プロファイルをいくつか検索することができる。解析はHG-U133A GeneChipアレイに基づく計160のヘテロジニアスなマイクロアレイ実験に対して実施された。代表的なリソソーム遺伝子セットについての遺伝子プローブでg:Sorterにクエリした。解析されたプローブ各々について、最も相関のある遺伝子プローブのうち最初の3%が各マイクロアレイデータセットについて取り出された。続いて全てのHG-U133A遺伝子プローブが、最も相関のある遺伝子についての160の異なるリストにおける出現頻度に基づいてランク付けされた。出現頻度が等しい遺伝子は、様々な実験内での平均的ランクに従ってサブランク付けされた。この手法により、調査された遺伝子に対する発現相関によりランク付けされた遺伝子プローブのリストを得た。
【0037】
細胞培養およびトランスフェクション
HeLa細胞ならびにMPS II(31)、MPS IIIA(32)およびMSD(33)のマウスモデル由来のマウス胎仔線維芽細胞は、10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone)を添加したDulbecco変法イーグル培地(DMEM、Euroclone)中で生育された。指示がある場合、培地にはショ糖が終濃度100mMになるように添加された。細胞は6ウェルプレート中に10%コンフルエンスでトランスフェクション前に播種された。トランスフェクションはPolyFect Transfection Reagent(Qiagen)またはInterferin(PolyPlus transfection)を用いて、製造業者のプロトコールに従って行われた。完全長のTFEBおよびTFEB-3xFLAGでのトランスフェクタントは1mg/ml G418(Sigma)で選択された。マイクロRNA実験のため、細胞は200nMのmiRIDIAN Dharmacon miRNA Mimics(miR-128または陰性対照のcel-miR-67)でトランスフェクトされ、48時間後に全RNA抽出のため回収された。
【0038】
ルシフェラーゼアッセイ
CLEAR部位の転写促進能力をテストするため、HeLa細胞は4コピーのタンデムを持つ配列番号112の配列(4xCLEARコンセンサス配列(配列番号111)、下線)
CCGGGTCACGTGACCCCAGGGTCACGTGACCCTGCGGGTCACGTGACCCTGCGGGTCACGTGACCCCC
または
配列番号113の配列(4x対照配列、太字):
CCGGGAATCGTGACCCCAGGGAATCGTGACCCTGCGGGAATCGTGACCCTGCGGGAATCGTGACCCCC
のいずれかを含有するpGL3-basicルシフェラーゼレポータープラスミドでトランスフェクトされた。
【0039】
TFEBがmiR-128の標的であることを検証するため、HeLa細胞はTFEBまたは対照遺伝子(EZH2およびLRIG1)のいずれかの3’UTR領域を含有するホタルルシフェラーゼレポータープラスミド、およびhsa-miR-128の前駆体配列を含有するコンストラクトであるpsiUxプラスミド(34)でトランスフェクトされた。ルシフェラーゼアッセイはトランスフェクションから48時間後にDual Luciferase Reporter Assay System(Promega)を用いて行われ、トランスフェクション効率はコトランスフェクトしたウミシイタケルシフェラーゼにより規格化された。
【0040】
分子生物学
完全長のヒトMITF、TFE3、TFEBおよびTFECはpcDNA3.1ベクター(Invitrogen)中にクローニングされた。完全長のTFEBはまたp3xFLAG-CMV-10ベクター中にもクローニングされた。完全長のC1orf85はpcDNA3.1/c-Mycベクター(Invitrogen)中にクローニングされた。RNAサンプルはRNeasyまたはmiRNeasyキット(Qiagen)のいずれかを用いて、製造業者の説明書に従って取得した。RNAはNanoDrop 8000(Thermo Fischer)を用いて定量された。cDNAはQuantiTect Reverse Transcriptionキット(Qiagen)を用いて合成された。
【0041】
クロマチン免疫沈降アッセイ(ChIP)
ChIPアッセイはTFEB-3xFLAG導入遺伝子を保有するHeLaトランスフェクタントまたはタグを付加した導入遺伝子を何ら持たない対照のHeLa細胞株(モック)から単離された、ホルムアルデヒド固定された核を用いて実施された。各々のChIP実験には107個の細胞が必要だった。ChIPはANTI-FLAG M2 Affinity Gel(Sigma)を用いて、製造業者のプロトコールに従って行われた。
【0042】
定量的リアルタイムPCR
cDNAまたは超音波処理したクロマチンに対するリアルタイム定量的RT-PCRは、LightCycler 480 SYBR Green I mix(Roche)でLight Cycler 480 II検出システム(Roche)を用いて以下の条件で実施された:95℃、5分間;(95℃、10秒;60℃、10秒;72℃、15秒)x40。発現研究のため、qRT-PCRの結果は内部対照(GAPDH)に対して規格化された。オリゴヌクレオチド配列はTable 5(表5)に報告されている。
【0043】
マイクロアレイ実験
TFEBトランスフェクトHeLa細胞からの全RNAを用いて、Affymetrix Human Gene 1.0 STアレイプラットフォームに対するハイブリダイゼーション用のcDNAを調製した。ハイブリダイゼーションは三連で、Coriell Genotyping and Microarray Center、Coriell Institute for Medical Research、Camden、NJ、USAにて行われた。偽発見率<0.1が有意な遺伝子差次的発現を評価するのに用いられた。Gene Set Enrichment Analysisは以前に記述された方法で行われた(35)。累積分布機能は1,000個のランダム遺伝子セットのメンバーシップ割当を行って作成された。名目上のP値<0.01およびFDR<10%が濃縮スコア(Enrichment Score(ES))の有意性を評価するのに用いられた。
【0044】
共焦点イメージング
トランスフェクトされたHeLa細胞はガラスのカバースリップ上で24時間生育され、100mMのMgCl2および100mMのCaCl2を含有するPBS(PBS/Ca/Mg)で洗浄され、4%パラホルムアルデヒド(PFA、Sigma)で10分間固定された。洗浄および50mMのNH4Clで15分間PFAを消失させた後、細胞はPBSで洗浄されて、ブロッキングバッファー(0.05%サポニン/0.2%BSAのPBS/Ca/Mg溶液)中で20分間透過処理された。カバースリップは次いで適切な一次抗体と共に一晩、Alexa-594およびAlexa-488コンジュゲート二次抗体(Molecular Probes)と共に1時間、インキュベートされた。カバースリップはガラススライド上にVectashield(Vector Laboratories)でマウントされた。画像は共焦点顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss、Inc.)を用いて、Plan-Neofluar 63x液浸対物レンズ(Carl Zeiss、Inc.)を用いて撮影された。
【0045】
電子顕微鏡検査
対照およびTFEB過剰発現HeLa細胞はPBSで洗浄され、1%グルタルアルデヒドの0.2M Hepesバッファー(pH7.4)溶液中で30分間室温で固定された。細胞は次いで2時間、OsO4中で後固定された。段階的濃度のエタノール中での脱水後、細胞はEpon 812(Fluka)中に包埋され、60℃で72時間重合された。薄片はLeica EM UC6で切断され、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で対比染色された。EM画像は薄片からULTRA VIEW CCDデジタルカメラを備えたPhilips Tecnai-12電子顕微鏡(Philips、Eindhoven、オランダ)を用いて取得された。リソソームの定量はAnalySISソフトウェア(Soft Imaging Systems GmbH、Munster、Germany)を用いて行われた。定量用の細胞の選択は立体的解析への適合性に基づき、すなわち中心領域(Golgi膜の存在に基づいて検出された)で切断された細胞のみが解析された。リソソームのプロファイルは高い電子密度や多重内腔小胞、同心性小体およびミエリン様小体の存在などの典型的な超微細構造の特性に基づいて検出された。
【0046】
ハンチンチンクリアランス
ハンチンチン誘導性の線条体細胞[HD43(Q105)]は以前に記述されたように(36)、33℃で高グルコースが添加されたDMEM中で培養された。HD43(Q105)細胞はIRES2-EGFPカセットを含有するpCIG2-TFEBベクターまたは対照として空のpCIG2ベクターで、Gene Pulser IIエレクトロポレーター(BioRad)を用いてエレクトロポレーションされた。エレクトロポレーション後すみやかに、細胞は0.2μg/mlドキシサイクリン(Sigma)の存在下で伸長されたハンチンチン用の導入遺伝子を誘導するために蒔かれた。誘導から24時間後にGFP陽性細胞はフローサイトメトリーでBD FACSAriaサイトメーター(BD Biosciences)でソートされ、イムノブロット解析に用いられた。
【0047】
FACS解析
細胞は50nMの酸指向性色素LysoTracker Red DND-99(Molecular Probes)中で40分間保たれた。1サンプルあたり30,000個の細胞についてリソソームの赤い蛍光がBD FACSAriaサイトメーター(BD Biosciences)を用いてフローサイトメトリーにより決定された。
【0048】
GAGクリアランス
HeLa細胞は10%FCSを添加したRPMI培地(Gibco、Invitrogen、Grand Island)中で、7μCi/mlの3H-グルコサミン塩酸塩(Perkin Elmer、37.75Ci/mmol、Boston)の存在下で3日間生育され、PBSで十分に洗浄されて可変回数、追跡された。各時点で細胞は回収され、ホモジェナイズされてSephadex G-25カラム(GE Healthcare、Sweden)に対するクロマトグラフィーに供されて、未取り込みの3H-グルコサミン塩酸塩が除去された。取り込まれた放射能量はBeckman LS6500カウンター(Beckman Instruments、Fullerton、California、USA)における液体シンチレーションにより測定された。
【0049】
イムノブロット
細胞は冷溶解バッファー(20mM Tris-HCl、pH7.4、150mM NaCl、1% TritonX-100)中で、プロテアーゼ阻害剤(SIGMA)存在下で30分間、氷上で溶解された。タンパク質サンプル20mgはSDS-PAGEアクリルアミドゲル上で分離されて、ニトロセルロース膜(Amersham Pharmacia Biotech)上にトランスファーされた。一次抗体および(HRP)-コンジュゲート抗体は1%BSA TBS-T中で希釈された。バンドはECL検出試薬(Pierce)を用いて可視化され、アクチンに対して規格化された。タンパク質はBradford法により定量された。抗体:ハンチンチン、MAb2166(Chemicon、Temecula、CA);アクチン(Sigma)
【0050】
酵素活性
カテプシンD活性はCathepsin D Assay Kit(Sigma)で製造業者の説明書に従って決定された。β-グルコシダーゼ活性は細胞ホモジェネート(細胞107個、〜10μgタンパク質)を5mM 4-MU-β-D-グルコピラノシドの0.1M酢酸バッファー(pH4.2)溶液で3時間、37℃でインキュベートして決定された。β-グルクロニダーゼ活性は細胞ホモジェネート(細胞2.5x107個、〜25μgタンパク質)を10mM 4-MU-グルクロニドの0.2酢酸バッファー(pH4.8)溶液で1時間、37℃でインキュベートして決定された。いずれの反応も1mlのグリシン-炭酸塩バッファー(pH10.7)で停止させた。蛍光は365nm(励起)および450nm(蛍光)で、Turner Modulus蛍光光度計上で読み取られた。
【0051】
データ解析
大半のデータは平均値±標準偏差で表される。統計的な比較は分散分析(ANOVA)を用いてなされた。P値<0.05が統計的に有意と考えられた。
【0052】
結果
上述のように、リソソームは分泌経路、エンドサイトーシス経路、オートファジー経路およびファゴサイトーシス経路から受け取った高分子の分解を専門とする(1)。細胞の分解要件は組織のタイプ、年齢および環境条件に依存して変わりうることから、著者らはリソソームの活性を調整する細胞プログラムの存在を仮定した。g:profiler(2)ツールを用いることで著者らはリソソームのタンパク質をコードする遺伝子(以下、リソソーム遺伝子という)は、調整された発現の傾向があることを認めた(図5および図6)。96個の既知リソソーム遺伝子(3)のプロモーター領域についてのパターン発見解析は、このプロモーターセットにおいて高度に濃縮されたパリンドロームである10bpのGTCACGTGACモチーフの同定をもたらした(遺伝子96個のうち68個、P<0.0001)(図7)。このモチーフは転写開始部位(TSS)から200bp以内に優先的に、単一の配列またはタンデムの多コピーとして位置する(図8およびTable 1(表1))。このモチーフの分布は全てのヒト遺伝子TSSの周辺で決定され(図1A)、TSSから200bp以内にモチーフを少なくとも2個持つ遺伝子、おそらくプロモーター中に存在することが示唆されるものだが、この遺伝子の遺伝子オントロジー解析はリソソームの発生および機能に関係した機能カテゴリーへの顕著な濃縮を示した(Table 2(表2))。このようにして著者らはこのモチーフをCoordinated Lysosomal Expression And Regulation(CLEAR)エレメントと命名した。ルシフェラーゼアッセイはCLEARエレメントが転写の活性化を媒介することを示した(図1B)。
【0053】
配列番号110で示されるCLEARコンセンサス配列はE-box(CANNTG)のコンセンサス配列と重なるが、これはbHLH転写因子の既知の標的部位である(4)。特に、bHLH因子のMiT/TFEサブファミリーのメンバーはCLEARコンセンサスに類似した配列に結合することが見出された(5)。MiT/TFEサブファミリーはヒトにおいてMITF、TFE3、TFEBおよびTFECの4つのメンバーから構成される(6)。これらタンパク質のいずれもがリソソーム遺伝子を発現調節可能か決定するため、著者らはMITF、TFE3、TFEBまたはTFECのcDNAを保有するプラスミドでHeLa細胞をトランスフェクトした。著者らはTFEB過剰発現後にのみ、リソソーム遺伝子のmRNAレベルの増加を認めた(テストした遺伝子23個のうち22個)(図1C)。それに応じて、著者らはリソソームの酵素であるβ-グルコシダーゼ、カテプシンDおよびβ-グルクロニダーゼの活性の有意な上昇を検出した(図9)。TFEB過剰発現後のリソソーム遺伝子の誘導はまたHEK293細胞においても認められた(図10)。著者らはTFEBはマイクロRNAであるmiR-128(7)の標的であろうと予測したが、これはルシフェラーゼ実験により確認された(図11)。マイクロRNAを介したTFEBのサイレンシングは、テストしたリソソーム遺伝子23個のうち18個のダウンレギュレーションに関連があった(図1Cおよび図12)。このようにしてTFEBはリソソーム遺伝子の発現を制御する。
【0054】
miR-128の阻害は特異的なmiRNA阻害剤(Dharmacon)で行われ、TFEBおよびその標的リソソーム遺伝子であるPSAPの発現の上昇をもたらしたが(図20)、これはmiR-128の発現調節がCLEARネットワークの活性化に直接的に影響しうることを実証するものである。
【0055】
リソソーム遺伝子はTFEBの直接的な標的であるかテストするため、著者らはTFEB 3xFLAGコンストラクトを安定的に発現するHeLa細胞に対して抗-FLAG抗体を用いてクロマチン免疫沈降(ChIP)解析を行った。結果はTFEBがCLEAR部位に結合することを実証した(図1D)。TFEB応答性遺伝子をゲノム規模で同定するため、著者らはTFEB過剰発現後のHeLaトランスクリプトームについてマイクロアレイ解析を行った。著者らは291個の遺伝子がアップレギュレートされ、7個がダウンレギュレートされたことを偽発見率<0.1で認めた(Table 3(表3))。アップレギュレートされた遺伝子は、リソソーム遺伝子ならびにリソソームの発生および機能に関係している遺伝子で大いに濃縮された(図13および図14、Table 4(表4))。それに応じて、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)はプロモーター中にCLEARエレメントを含有するリソソーム遺伝子が誘導された遺伝子の中で有意に濃縮されることを示した(濃縮スコア=0.84、P<0.0001)(図15)。興味深いことに、分解経路に関わる非リソソーム遺伝子はTFEBにより調節されるように見えた。これらには、オートファジーを制御する主要な因子であるRRAGCおよびUVRAG(8、9)、リソソームから漏出するプロテアーゼに対する保護の役割を果たすCSTB(10)、リソソーム内へのタンパク質の移入を媒介するM6PRおよびIGF2R(11)が挙げられる。リソソームの機能に関わる遺伝子を同定してオーファンのリソソーム疾患(3)についての候補遺伝子を提供するツールとしてのCLEARネットワークの使用可能性を例証するため、著者らはランダムに選ばれた機能未知のタンパク質2個、C1orf85およびC12orf49の細胞内分布を決定した。性質不明のTFEB標的であるC1orf85はリソソームに局在することが見出された(図1E)。
【0056】
リソソームコンパートメントの拡大が安定的にTFEBを過剰発現するHeLaトランスフェクタントにおいて検出された(図2AおよびBならびに図16)。それに応じて、超微細構造解析により細胞あたりのリソソーム数の有意な増加が明らかになったが(図2CおよびD)、これはリソソームの発生におけるTFEBの関わりを指し示すものである。
【0057】
著者らはショ糖誘導性空胞化モデル(12、13)を用いて、TFEB-CLEARネットワークが未分解分子のリソソーム貯蔵に応答するかテストした。リソソームプロモーターへのTFEB結合イベントの増加(図3A)およびTFEBより程度は弱いもののリソソーム遺伝子のmRNAレベルの増加が培養培地へのショ糖添加で検出された(図3B)。またショ糖添加は未処理細胞における主な存在場所である細胞質における拡散した局在から核へのTFEBの進行性の移行を決定し(図3C)、これは核移行がTFEB活性化のための重要なメカニズムであることを示唆する。
【0058】
40を超えるリソソーム貯蔵障害(LSD)が未消化高分子の細胞内への進行性蓄積を特徴とし、多様な臨床症状(1、14、15)に導く細胞の機能障害をもたらす。著者らは3つの異なるLSD、ムコ多糖症のII型およびIIIA型(MPSIIおよびMPSIIIA)ならびに多種スルファターゼ欠損症(MSD)(16〜18)のマウスモデル由来の胎仔線維芽細胞におけるTFEBの細胞内局在を調査した。優勢なTFEB核局在が3つのLSDマウスモデル全てからの細胞において検出され(図3D)、これはTFEBシグナリング経路が未分解分子のリソソーム内貯蔵の後に活性化されることを示唆する。かかる活性化はリソソームストレスへの細胞の生理的応答の一部であり、リソソームシステムを亢進することで分解ニーズに貢献しうるものである。完全かつ直接的に核内に局在させることが可能なTFEB分子を取得するため、著者らは核局在シグナル(NLS)をTFEBタンパク質のC末端に付加してTFEBアナログ(キメラ分子)を設計した(配列番号228、図21)。TFEB-NLSコンストラクトでトランスフェクトされたHeLa細胞の免疫蛍光解析は、貯蔵状態へのニーズがなくてもこれが確かに核内に局在することを実証した(図22)。
【0059】
リソソーム貯蔵障害は、リソソームの機能に関与する遺伝子における変異による未消化物質の細胞内蓄積が原因である。深刻なヒトの障害である多種スルファターゼ欠損症(MSD)において、スルファターゼの欠損は細胞の硫酸化された化合物を分解する能力を減少させ、その後に広範な細胞の空胞化を誘導してついには細胞に対して毒性を持つことがわかるグリコサミノグリカンの蓄積を伴う。著者らはマウスMSDモデル由来の細胞を用いて、この疾患におけるTFEBのクリアランス能力をテストした。TFEBベクターまたは空のベクターでMSD細胞をトランスフェクトして、トランスフェクションから48時間後のグリコサミノグリカンの蓄積をモニターした。TFEBは貯蔵されたグリコサミノグリカンのクリアランスを促進し(図17)、電子顕微鏡検査の解析で実証されたようにその後の細胞空胞化を回復可能であることを見出した(図18)。著者らはリソソーム貯蔵障害のさらなるモデルである、酸性α-グルコシダーゼ遺伝子の欠損がグリコーゲンのリソソーム内蓄積およびその後の広範な細胞空胞化を導くポンペ病でのTFEBのクリアランス能力をテストした。著者らはポンペ病患者由来のヒト繊維芽細胞をTFEB-3xFLAGベクターでトランスフェクトし、細胞におけるリソソームの形状および数をモニターした。TFEB-3xFLAGでトランスフェクトされた細胞は、非トランスフェクト細胞と比較したリソソーム小胞数の減少により実証されたように、未消化のグリコーゲン量を減少させることが見出された(図19)。同時に、これらのデータはCLEARネットワークに対する作用によるリソソームの活性の亢進が異なるリソソーム貯蔵障害に対する多価の治療を原理的に提供しうることを指し示す。
【0060】
リソソーム依存的分解経路を亢進するTFEBの能力をテストするため、著者らはグリコサミノグリカン(GAGs)の分解をパルス追跡実験において解析した。TFEBの安定的トランスフェクタントは対照と比較してより早いGAGクリアランス速度を見せた(図4A)。著者らはまたハンチントン病の原因であるポリグルタミン(polyQ)伸長されたハンチンチンタンパク質の分解を誘導するTFEBの能力について、変異ハンチンチン誘導性導入遺伝子を保有するラット線条体細胞モデルHD43を用いて調査した(19)。イムノブロット解析はTFEB過剰発現細胞において対照と比較して変異ハンチンチンが強く減少することを示した(図4B)。並行実験において、誘導されたHD43細胞は3xFLAG-TFEBコンストラクトでエレクトロポレーションされた。免疫蛍光解析は3xFLAG-TFEB陽性の細胞はハンチンチンの蓄積をもしあったとしてもほとんど示さないことを示した(図4C)。
【0061】
著者らはリソソームの発生を制御して高分子のクリアランスに関与する細胞プログラムを発見した。病原性蓄積に対する細胞応答としてのリソソームの亢進は神経変性疾患において認められている(20〜22)。興味深いことに、神経毒性タンパク質の分解に関わる主要な酵素の一つであるカテプシンD(23、24)はCLEARネットワークに属し、TFEBの過剰発現により誘導される。また特に興味深いのは、著者らがTFEBのダウンレギュレーションに用いたmiR-128がアルツハイマー病患者の脳(25)において、ならびにプリオン誘導性および化学物質誘導性神経変性(26、27)の両者において顕著にアップレギュレートされるという知見である。魅力的な観点では、神経変性疾患における細胞の病原性蓄積に対する細胞応答を亢進するCLEARネットワークの治療標的としての使用であろう。
【0062】
【表1A】
【0063】
【表1B】
【0064】
【表1C】
【0065】
【表1D】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3A】
【0068】
【表3B】
【0069】
【表3C】
【0070】
【表3D】
【0071】
【表3E】
【0072】
【表3F】
【0073】
【表3G】
【0074】
【表3H】
【0075】
【表3I】
【0076】
【表3J】
【0077】
【表3K】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5−1】
【0080】
【表5−2】
【0081】
【表5−3】
【0082】
【表6】
【0083】
引用先行技術文献
[参考文献]
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の分解経路を亢進して細胞における毒性化合物の蓄積を予防または拮抗するための、分解経路に関わる少なくとも1つの遺伝子の発現を調節可能な分子に関する。
【背景技術】
【0002】
リソソームは分泌経路、エンドサイトーシス経路、オートファジー経路およびファゴサイトーシス経路から受け取った高分子の分解を専門とする(1)。アルツハイマー病、パーキンソン病やハンチントン病などのリソソーム貯蔵障害および神経変性疾患は共通の特徴として病原性凝集体または細胞性異化作用の中間体を形成する傾向があるタンパク質といった未消化高分子の細胞内部における進行性蓄積を共有する。これは最終的に細胞機能障害ならびに内臓病変(肝脾腫)、骨格病変(関節の制限、骨疾患および奇形)、血液学的病変(貧血、リンパ球空胞化および封入)および最も重要な、しばしば不可逆な損傷と無効または致命的な結果とを伴う神経学的病変に可変の関連がある臨床症状をもたらす。これらの疾患は全て細胞の消化能力低減を共有することから、分解経路の普遍的なエンハンサーとして作用可能な分子の同定には大きな医学的関心が持たれる。
【0003】
リソソームは動物細胞における分解および再利用プロセスの中心となる細胞小器官である。リソソームの活性が細胞のニーズに応じて調整されるかどうかは未だ不明である。我々はリソソーム遺伝子の大半は調整された転写挙動を呈し、転写因子TFEBにより制御されることを見出した。異常なリソソーム貯蔵状態下でTFEBは細胞質から核に移行し、標的遺伝子の活性化をもたらした。培養細胞におけるTFEBの過剰発現はリソソームの発生を誘導し、グリコサミノグリカン(GAGs)やハンチントン病を引き起こす病原性タンパク質などの複合分子の分解を増強した。このようにして遺伝的プログラムはリソソームの発生および機能をコントロールするが、これはリソソーム貯蔵障害および神経変性疾患において細胞のクリアランスを亢進する潜在的な治療標的を提供するものである。
【0004】
先行技術はリソソームシステムの阻害後にいくつかのカテプシンの活性を上昇させるシステムについての記述を報告している。しかしながら、これらの結果はいくぶん部分的で議論の余地があり、分子メカニズムが詳細に解析されていない。公表された文献のなかで、リソソーム遺伝子のネットワークの存在を明らかにしている文献またはリソソームの活性の潜在的な調節因子としてTFEBを同定している文献はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】CA2525255A1
【特許文献2】WO2007/070856
【特許文献3】US2005/255450
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Esumi Noriko他、The Journal of Biological Chemistry 1997、282、3、1838〜1850頁
【非特許文献2】“Lysosomes”、著者:Paul Saftig、Landes Bioscience、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の著者らは、毒性化合物の分解に決定的に重要なリソソームのタンパク質をコードする遺伝子を含む遺伝子ネットワークを同定した。これらのタンパク質は、直接的または間接的に多数のヒト疾患に関わる。これら遺伝子の調節を担う制御性エレメントがそれらのプロモーター配列中に同定された。かかる制御性エレメントは、著者らはCLEARと呼ぶものだが、それ自体が毒性化合物の分解を担うリソソームのタンパク質の産生を調節する、そしてそれ故に亢進するための標的であることを意味する。ついには、TFEB(NCBI GeneID=7942;nt=NM_007162.1、タンパク質=NP_009093.1(配列番号228の1-476位アミノ酸)およびその変異体)と呼ばれる転写因子がCLEARエレメントに結合して標的遺伝子の発現を調節可能なタンパク質として同定された。著者らはリソソームの活性はTFEB量を増減させることで調節されうることを実証した。特に、TFEBレベルの上昇により生じるリソソームの亢進は神経変性のハンチントン病の原因である毒性のタンパク質から細胞をクリアにすることが可能である。
【0008】
リソソームシステムの活性化による細胞分解経路の亢進は、リソソーム貯蔵障害および神経変性疾患の治療に好都合に用いられうる。
【0009】
かかる治療は以下を用いることで行われうる。
1)リソソーム遺伝子および分解経路に関わる他の遺伝子の発現調節を担うCLEARエレメントに対して直接的に作用する、細胞の分解経路を亢進し、毒性化合物の蓄積を予防または拮抗するための、ペプチド断片、キメラペプチド等のTFEBまたはその合成もしくは生物工学的誘導体、および/または
2)直接的または間接的にTFEBタンパク質またはその量に対して作用可能な、ペプチド、マイクロRNA、マイクロRNA阻害剤または他の任意の化学物質等の分子、および/または
3)TFEB、マイクロRNA、マイクロRNA阻害剤またはCLEAR制御性ネットワークを調節可能な他の遺伝子を含有する、細胞の分解経路を亢進するための、遺伝子治療用ベクター。
【0010】
CA2525255A1は、がんの治療および細胞増殖または分化を調節するためのTFEBの使用を記述している。
【0011】
WO2007/070856は、免疫機能障害の治療のためのTFEBの使用をクレームしている。この文献は干渉RNA分子を通じたTFEBのブロックによるCD40Lの発現抑制を開示している。さらにこの文献はTFEBダイマーによるTFEBの抑制を開示している。上のいずれもTFEBの量/標的遺伝子への活性の亢進に関係しない。
【0012】
Esumi Noriko他、The Journal of Biological Chemistry 1997、282、3、1838〜1850頁はTFEBに対するsiRNAの効果を開示しているが、これはVMD2の発現と相関する。TFEB/CLEARネットワークを通じた分解経路の活性化はこの文献において開示または示唆されていない。
【0013】
US2005/255450は神経変性疾患治療用の治療薬を開発するための、候補薬剤をスクリーニングしてリード化合物を同定する方法を開示している。この文献は神経毒性ペプチドのクリアランスを調節する物質を数個同定した酵母細胞での実験を開示しているが、これは酵母遺伝子の推定ヒトオルソログのいくつかは同様に作用するであろうことを示唆している。TFEBの発現と神経毒性ペプチドのクリアランスとの間の潜在的な関連性については、診断の観点において示唆されているものの、データはない。実際、記述されている酵母タンパク質のHMS1はTFEBの酵母オルソログではない。
【0014】
最後に、リソソームシステムの調節を可能にするCLEAR制御性エレメントはいかなる先行技術文献にも開示されていない。
【0015】
リソソームの活性を亢進可能な技術は今まで記述されていない。著者らは制御性エレメントCLEARまたはTFEBタンパク質を通じたリソソームシステムの調節に関わる分子イベントを定義した。
【0016】
“Lysosomes”、著者:Paul Saftig、Landes Bioscience、2005に記述されているように、この発明においてリソソーム貯蔵障害はリソソームの発生または代謝に関与する多くのタンパク質のうちの1つの欠損が未分解分子のリソソーム内貯蔵を導く遺伝性疾患として意図されている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、細胞の分解経路を亢進可能な、細胞における毒性化合物の蓄積を予防または拮抗するための分子であって、
a)直接的または間接的にCLEARエレメントに対して作用して細胞の分解経路に関わる少なくとも1つの遺伝子の発現を亢進し、前記CLEARエレメントはコンセンサス配列として配列番号110を有するヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含むこと、および
b)TFEBタンパク質、その合成もしくは生物工学的機能的誘導体、そのペプチド断片、TFEBタンパク質およびその合成もしくは生物工学的機能的誘導体を含むキメラ分子ならびにTFEBタンパク質の活性および/または発現レベルの調節因子からなる群に属すること
を特徴とする分子を目的とする。
【0018】
TFEBタンパク質としては、NCBI GeneID=7942;nt=NM_007162.1、タンパク質=NP_009093.1(配列番号228の1-476位アミノ酸)およびその変異体が意図される。
【0019】
本発明の特定の態様において、CLEARエレメントはコンセンサス配列として配列番号111を有するヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む。
【0020】
好ましいCLEARエレメントは配列番号1から配列番号109までの群より選択されるヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含み、最も好ましいCLEARエレメントは配列番号3、配列番号9、配列番号13、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号47、配列番号50、配列番号53、配列番号59、配列番号62、配列番号77、配列番号78、配列番号84、配列番号85、配列番号88、配列番号92、配列番号94、配列番号95、配列番号98および配列番号108からなる群より選択されるヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む。かかる配列はマイクロアレイおよび/またはリアルタイムPCR実験のいずれかに応答する遺伝子に属する。
【0021】
本発明の特定の態様において、キメラ分子はTFEBタンパク質および核局在シグナル(NLS)を含み、より好ましくはキメラ分子は配列番号228の配列を有する。
【0022】
本発明の他の特定の態様において、TFEBタンパク質の調節因子はマイクロRNAまたはマイクロRNA阻害剤であり、好ましくはTFEBタンパク質の調節因子はmiR-128またはmiR-128阻害剤である。
【0023】
好ましい態様において、本発明の分子は直接的または間接的にCLEARエレメントに対して作用して、細胞の分解経路に関わるリソソームのタンパク質を発現する少なくとも1つの遺伝子の発現を亢進する。
【0024】
好ましい態様において、本発明の分子は医療用である。
【0025】
好ましい態様において、本発明の分子は神経変性障害の治療用である。
【0026】
神経変性疾患は以下を含むがこれに限定されるものではない:アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、脊髄小脳失調症(SCA)。
【0027】
好ましくは神経変性障害はアルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病からなる群に属する。
【0028】
別の好ましい態様において、本発明の分子はリソソーム貯蔵障害の治療用である。
【0029】
リソソーム貯蔵障害は以下を含むがこれに限定されるものではない:活性化因子欠損症/GM2ガングリオシドーシス、α-マンノーシドーシス、アスパルチルグルコサミン尿症、コレステロールエステル蓄積症、慢性ヘキソサミニダーゼA欠損症、シスチン症、ダノン病、ファブリー病、ファーバー病、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、ゴーシェ病(I型、II型およびIII型を含む)、GM1ガングリオシドーシス(小児性、後期小児性/若年性、成人性/慢性を含む)、I-細胞病/ムコリピドーシスII、小児性遊離シアル酸蓄積症/ISSD、若年性ヘキソサミニダーゼA欠損症、クラッベ病(小児発症性、遅発性を含む)、異染性白質ジストロフィー、偽性ハーラー・ポリジストロフィー/ムコリピドーシスIIIA、MPSIハーラー症候群、MPSIシャイエ症候群、MPS Iハーラー・シャイエ症候群、MPS IIハンター症候群、サンフィリポ症候群A型/MPS IIIA、サンフィリポ症候群B型/MPS IIIB、サンフィリポ症候群C型/MPS IIIC、サンフィリポ症候群D型/MPS IIID、モルキオ症候群A型/MPS IVA、モルキオ症候群B型/MPS IVB、MPS IXヒアルロニダーゼ欠損症、MPS VIマロトー・ラミー症候群、MPS VIIスライ症候群、ムコリピドーシスI/シアリドーシス、ムコリピドーシスIIIC、ムコリピドーシスIV型、多種スルファターゼ欠損症、ニーマン・ピック病(A型、B型およびC型を含む)、CLN6病を含む神経セロイドリポフスチン症、非定形後期小児性遅発性バリアント(Atypical Late Infantile, Late Onset variant)、早期若年性バッテン・シュピールマイアー・フォークト病/若年性NCL/CLN3病、フィンランドバリアント後期小児性CLN5(Finnish Variant Late Infantile CLN5)、ヤンスキー・ビールショースキー病/後期小児性CLN2/TPP1病、クーフス/成人発症性NCL/CLN4病、北方てんかん/バリアント後期小児性CLN8(Northern Epilepsy/variant late infantile CLN8)、サンタビューリ・ハルティア/小児性CLN1/PPT病(Santavuori-Haltia/lnfantile CLN1/PPT disease)、β-マンノーシドーシス、ポンペ病/糖原病II型、濃化異骨症、サンドホフ病/成人発症性/GM2ガングリオシドーシス、サンドホフ病/GM2ガングリオシドーシス、小児性サンドホフ病/GM2ガングリオシドーシス、若年性シンドラー病、サラ病/シアル酸蓄積症、テイ・サックス病/GM2ガングリオシドーシス、ウォルマン病。
【0030】
好ましくはリソソーム貯蔵障害はポンペ病および多種スルファターゼ欠損症(MSD)からなる群に属する。
【0031】
本発明の他の態様は、上で開示された分子をコードする配列を含有する核酸である。
【0032】
本発明の他の態様は、適切な制御性配列のもとで上記核酸を含むベクターであり、好ましくは遺伝子治療用である。
【0033】
本発明は実験的な限定的でない証拠を参照することで説明される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1−1】リソソーム遺伝子の発現をコントロールする制御性遺伝子ネットワーク。(A)ヒト遺伝子プロモーター上のCLEARエレメントのゲノム分布(赤い点)を示す図である。スコアはCLEARの位置重み行列に基づいて与えられる。青い点はリソソーム遺伝子のプロモーターにおけるCLEARエレメントを指し示す。破線のボックスは遺伝子オントロジー解析(本文参照)に用いられた遺伝子に対応するエレメントの全てを含有する。(B)インタクトな(上段)または変異した(中段、変異を赤で示す)CLEARエレメントのいずれかを4コピーのタンデムで保有するコンストラクトを用いたルシフェラーゼアッセイの図である。
【図1−2】リソソーム遺伝子の発現をコントロールする制御性遺伝子ネットワーク。(C)TFEBの過剰発現およびサイレンシング後のリソソーム遺伝子の発現解析の図である。青いバーはpcDNA3トランスフェクト細胞と比べたTFEBトランスフェクト細胞におけるリソソーム遺伝子のmRNAレベルの変化倍率を示す。赤いバーは標準対照のマイクロRNA(mimic-miR-cel-67)でトランスフェクトされた細胞と比べたmimic-miR-128トランスフェクト細胞におけるmRNAレベルの変化倍率を示す。ランダムに選ばれた非リソソーム遺伝子が対照として用いられた。遺伝子発現はGAPDHに対して規格化された。
【図1−3】リソソーム遺伝子の発現をコントロールする制御性遺伝子ネットワーク。(D)クロマチン免疫沈降(ChIP)解析の図である。ヒストグラムはDNA総投入量のパーセンテージで表現した免疫沈降されたDNA量を示す。対照にはハウスキーピング遺伝子(ACTB、APRT、HPRT)およびCLEAR部位を持たないランダム遺伝子(TXNDC4、WIF1)のプロモーターならびにリソソーム遺伝子のイントロン配列(int)が包含される。リソソーム遺伝子と対照とは有意に異なっており、マン・ホイットニー・ウィルコクソン検定でP<10-4であった。(B)、(C)および(D)における全ての実験は三連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。(E)HeLa細胞においてC1orf85-Myc(緑)がリソソーム膜マーカーLAMP1(赤)と共局在することを示す共焦点顕微鏡検査の図である。
【図2】TFEBの過剰発現はリソソームの発生を誘導する。HeLa細胞のTFEBまたは空のpcDNA3ベクター(対照)いずれかの安定的トランスフェクタントの比較。(A)リソソームマーカーLAMP1に対する抗体で染色した後の共焦点顕微鏡検査の図である。(B)リソソーム特異的色素のLysotrackerで染色した後のFACS解析の図である。解析は4つの独立クローンに対して行われた(TFEB#1〜4)(図18参照)。青いバーは指示された閾値(P4ゲート)より大きい蛍光強度を持つ細胞の割合を指し示す。1クローンあたり30,000個の細胞が解析された。(C)電子顕微鏡検査の解析図である。TFEB過剰発現トランスフェクタントにおいては対照に対し、薄片はより多くの典型的な超微細構造を持つリソソームプロファイル(矢印)を呈した(詳細は破線ボックス領域に対応する挿入図を参照)。スケールバー、720nm。(D)薄片におけるリソソーム数を示す図である(平均値±標準誤差、N=20個の細胞)。
【図3】CLEARネットワークはリソソームの貯蔵により活性化される。(A)ショ糖のリソソーム貯蔵後のChIP解析図である。ヒストグラムはショ糖処理細胞におけるFLAG免疫沈降されたクロマチン量の非処理細胞に対する(変化倍率で表現された)比を示す。リソソーム遺伝子は平均で2倍から3倍、免疫沈降されたクロマチンの増加を示した一方、対照遺伝子では有意な変化は認められなかった。(B)ショ糖添加後のリソソーム遺伝子の発現解析。図はリソソーム遺伝子およびTFEBのmRNAレベルの時間経過解析を示す。遺伝子発現はリアルタイムqPCRによりモニターされ、GAPDHに対して規格化された。(A)および(B)における全ての実験は少なくとも二連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。(C)ショ糖添加後のTFEB細胞内局在の免疫蛍光顕微鏡検査の解析図である。TFEB-3xFLAGを安定的に発現するHeLaクローンは培養培地にショ糖を加えた後の様々な時点で抗FLAG抗体で染色された。(D)異なる3タイプのマウスLSDモデル由来のマウス胎仔線維芽細胞(MEF)におけるTFEB局在の免疫蛍光顕微鏡検査の解析図である。LSDまたは野生型(WT)マウス由来のMEFはTFEB-3xFLAGコンストラクトで一過性にトランスフェクトされて抗FLAG抗体で染色された。FLAG染色陽性である核のパーセンテージは、異なる2つのトランスフェクション実験において細胞タイプあたり100個の細胞を試験することで推定した(データは平均値±標準偏差を表す)。
【図4】TFEBは細胞のクリアランスを亢進する。(A)TFEBまたは空のpcDNA3ベクター(対照)いずれかについてのHeLa細胞の安定的クローンにおけるGAGクリアランスカイネティクスの比較の図である。グラフはGAGに取り込まれた3H-グルコサミンの相対量を時間に対して示す。1=0時の3H-グルコサミンレベル。アスタリスク、P<0.05。実験は三連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。(BおよびC)TFEB過剰発現後のポリQ伸長されたハンチンチン(HTT)のクリアランス。(B)エレクトロポレーションから24時間後にFACSにより分離したTFEB-EGFP陽性(+)HD43細胞およびTFEB-EGFP陰性(-)HD43細胞のイムノブロット解析の図である。濃度測定解析のグラフは、ポリQ伸長されたハンチンチンが対照と比較してTFEB-EGFP陽性細胞において強く減少することを示す。(C)3xFLAG-TFEBコンストラクトでトランスフェクトされたHD43(Q105)細胞におけるTFEBおよびHTTの免疫細胞化学的解析の図であり、3xFLAG-TFEB染色陽性細胞においてハンチンチン染色はほとんど見られないことを示す。
【図5】リソソーム遺伝子は調整された発現挙動を見せる。図は40個のリソソーム疾患遺伝子と既知の全リソソーム遺伝子との発現相関を視覚的表示で報告する。各カラムは上段の指示された遺伝子との発現相関によりランク付けされたAffymetrix HG-U133Aプラットフォームの遺伝子プローブ〜22,500個を表す。青いバーはランク付けしたリスト内でのリソソーム遺伝子の順位を表す。解析はランク付けされた発現相関リストの最初の5パーセンタイル内にリソソーム遺伝子が濃縮されることを示す。
【図6】リソソーム遺伝子間の発現相関の詳細図である。カラムには選択されたリソソーム遺伝子についての発現相関リストでの最初の100個の遺伝子プローブが挙げられている。リソソーム遺伝子はオレンジ色でハイライトされている。リソソームの機能に関係する他の遺伝子は黄色でハイライトされている。ランダムにランク付けしたリストにおいてリソソーム遺伝子プローブを発見する可能性は〜1:100であることに注意すべきである。
【図7】CLEARエレメントのロゴ表示の図である。カラム内の各残基の保存性はシンボルの相対的な高さとして可視化されている。
【図8】リソソーム遺伝子サブセットのプロモーター領域でのCLEARエレメントの分布を示す図である。CLEARエレメントはクラスター化しており、しばしば多コピーで転写開始部位の周辺に存在する。色分けの凡例は模式図として図中で報告される。
【図9】酵素活性を示す図である。安定的なTFEB過剰発現HeLa細胞および対照における、リソソーム酵素β-グルコシダーゼ、カテプシンDおよびβ-グルクロニダーゼの活性の定量化。アスタリスク、P<0.05。全ての測定は三連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。
【図10】TFEB過剰発現後のHEK293細胞におけるリソソーム遺伝子の発現解析の図である。青いバーはTFEBトランスフェクト細胞とpcDNA3トランスフェクト細胞とで比較したモニターされた遺伝子のmRNAレベルの変化倍率を示す。遺伝子発現はGAPDHに対して規格化された。
【図11】デュアルルシフェラーゼアッセイによるmiR-128の標的遺伝子としてのTFEBの検証を示す図である。TFEBの3’UTR領域はホタルルシフェラーゼのセンサーコンストラクト中にクローニングされ、ウミシイタケルシフェラーゼ対照と一緒にHeLa細胞中にトランスフェクトされた。ルシフェラーゼ活性はhsa-miR-128の前駆体配列を含有するプラスミドコンストラクトの存在下または非存在下で測定された。EZH2遺伝子およびLRIG1遺伝子はmiR-128の推定標的ではなく、陰性対照として用いられた。全ての実験は三連で行われた(データは平均値±標準偏差を表す)。
【図12】3’UTR領域を欠損したTFEB導入遺伝子を安定的に発現するHeLa細胞へのmimic-miR-128トランスフェクション後のリソソーム遺伝子の発現解析の図である。mimic-miR-128トランスフェクション後のリソソーム遺伝子のダウンレギュレーションがTFEBサイレンシングによるものであることを検証するため、mimic-miR-128はmiR128結合部位を含有するTFEB 3’UTR領域を欠損したTFEB導入遺伝子を安定的に発現するHeLaクローン中にトランスフェクトされた。青いバーはmimic-miR-128トランスフェクト細胞と標準対照のマイクロRNA(mimic-miR-cel-67)でトランスフェクトされた細胞とで比較したモニターされた遺伝子の変化倍率を示す。テストした遺伝子のいずれにおいても有意な変化は認められなかった。遺伝子発現はGAPDHに対して規格化された。
【図13】TFEB一過性トランスフェクション後のHeLa細胞におけるトランスクリプトーム変化解析の図である。グラフはアップレギュレートされた遺伝子の’細胞コンパートメント’カテゴリーによる偽発見率<0.1での遺伝子オントロジー解析を示す。
【図14】HeLa細胞におけるリソソーム遺伝子とTFEB過剰発現により誘導された遺伝子との間のFDR<0.10での重なりを示すベン図である。図は20個の遺伝子、これらは全てCLEAR部位をプロモーター中に含有するが、これらは両カテゴリーにおいて表されることを示す。高度に厳しい統計的基準に基づいており、単一の細胞タイプに対するものであるため、過小評価である可能性がある。TFEB誘導に対するリソソーム遺伝子の応答についてのより包括的な見解は図15(Gene Set Enrichment Analysis)に示される。
【図15】TFEB過剰発現後のトランスクリプトーム変化についてのGene Set Enrichment Score Analysis(GSEA)の図である。グラフはランク付けされた遺伝子発現データについてのGSEA解析により生成した濃縮プロットを示す(左:アップレギュレートされた遺伝子、赤、右:ダウンレギュレートされた遺伝子、青)。濃縮スコアは青い線として示されており、プロットの下の垂直の青いバーはCLEAR部位をプロモーター中に保有するリソソーム遺伝子の位置を指し示す。解析はCLEAR部位を持つリソソーム遺伝子はほとんどがアップレギュレート遺伝子画分に分類されることを示す(濃縮スコア=0.84、P<0.0001)。
【図16−1】リソソーム特異的色素のlysotrackerでHeLa細胞の安定なTFEBトランスフェクタント(TFEB#1〜4)を染色した後のFACS解析の図である。青いバーは指示された閾値(P4ゲート)より大きい蛍光強度を持つ細胞の割合を指し示す。1クローンあたり30,000個の細胞が解析された。
【図16−2】リソソーム特異的色素のlysotrackerでHeLa細胞の安定なTFEBトランスフェクタント(TFEB#1〜4)を染色した後のFACS解析の図である。青いバーは指示された閾値(P4ゲート)より大きい蛍光強度を持つ細胞の割合を指し示す。1クローンあたり30,000個の細胞が解析された。
【図16−3】リソソーム特異的色素のlysotrackerでHeLa細胞の安定なTFEBトランスフェクタント(TFEB#1〜4)を染色した後のFACS解析の図である。青いバーは指示された閾値(P4ゲート)より大きい蛍光強度を持つ細胞の割合を指し示す。1クローンあたり30,000個の細胞が解析された。
【図17】空のベクター(左)またはTFEBベクター(右)のトランスフェクションから48時間後のMSD細胞についての顕微鏡検査の解析図である。矢印は未処理のMSD細胞におけるグリコサミノグリカンの貯蔵を指し示す。実験はTFEBで処理した細胞は未消化グリコサミノグリカンの蓄積を見せなくなることを示す。
【図18】空のベクター(左)またはTFEBベクター(右)のトランスフェクションから48時間後のMSD細胞についての電子顕微鏡検査の解析図である。未処理細胞は未消化のグリコサミノグリカン貯蔵による広範な空胞化を示す。TFEBで処理された細胞は細胞の空胞化が大きく回復したことを示す。
【図19】TFEB-3xFLAGベクターで処理されたポンペ病細胞の免疫蛍光解析の図である。トランスフェクトされた細胞(矢印)は、非トランスフェクト細胞(右)で見出されたグリコーゲン蓄積による広範な空胞化が強く回復したことを示す。
【図20】miR-128の阻害はCLEARネットワークの転写活性化をもたらすことを示す図である。培養HeLa細胞はmiR-128特異的な阻害剤(Dharmacon)またはヒト細胞において標的を持たない標準対照(miR-cel-167阻害剤)でトランスフェクトされた。リアルタイムqPCRが行われ、トランスフェクションから48時間後のTFEB、そのリソソーム標的であるPSAP、2つのハウスキーピング遺伝子(HPRTおよびGAPDH)および2つのランダム遺伝子(ARPP-19およびH0XA9)の発現がモニターされた。グラフはモニターされた遺伝子の発現レベルについてのmiR-128阻害剤でトランスフェクトされた細胞と対照との間の比を示す。TFEBとその標的のPSAPのいずれの発現も増加し、対照遺伝子には変化がないという結果が示された。遺伝子発現はHPRTに対して規格化された。
【図21】人工的TFEBアナログであるTFEB-NLS(配列番号228)のアミノ酸配列を示す図である。TFEB-NLSはタンパク質のC末端に核局在シグナル(NLS)を付加して得られた。核局在シグナルは配列PKKKRKを有する(図中の下線部)。
【図22】TFEB-NLSは核において局在する。TFEBアナログであるTFEB-NLSの免疫蛍光解析の図であり、TFEB-NLSコンストラクトの完全な核局在を示す。細胞内TFEB-NLS局在の代表例として二組の画像が報告されている。各組において、左側では細胞核がDAPI色素(DNAに特異的)で染色されており、右側では細胞がTFEB染色されている。
【発明を実施するための形態】
【0035】
材料および方法
ゲノム解析
ヒトゲノム配列はEnsembleデータベース(http://www.ensembl.org)から検索され、Regulatory Sequence Analysis Tool(28)を用いて解析された。反復性解析でCLEARエレメントのコンセンサス配列同定を導いた。位置重み行列(PWM)はリソソーム遺伝子の転写開始部位から200bp以内に見出される全てのCLEARエレメントをアセンブルすることで構築された。ヒト遺伝子プロモーターはPatSerツール(28)を初期設定パラメータで用いて、CLEARのPWMで探索された。遺伝子オントロジー(GO)解析はウェブツールのDAVID(http://david.abcc.ncifcrf.gov)で初期設定パラメータを用いて行われた。P値≦0.01および濃縮倍率≧2の非重複タームのみが保持された。
【0036】
発現相関解析
発現相関解析は以前に記述された方法(29)に、軽微な改変を加えて行われた。簡潔には、リソソーム遺伝子はg:Profilerパッケージ(30)の一部であるg:Sorterツールを用いて解析された。選択された遺伝子プローブについて、g:Sorterは特定のGEOデータセットにおける最も類似した共発現プロファイルをいくつか検索することができる。解析はHG-U133A GeneChipアレイに基づく計160のヘテロジニアスなマイクロアレイ実験に対して実施された。代表的なリソソーム遺伝子セットについての遺伝子プローブでg:Sorterにクエリした。解析されたプローブ各々について、最も相関のある遺伝子プローブのうち最初の3%が各マイクロアレイデータセットについて取り出された。続いて全てのHG-U133A遺伝子プローブが、最も相関のある遺伝子についての160の異なるリストにおける出現頻度に基づいてランク付けされた。出現頻度が等しい遺伝子は、様々な実験内での平均的ランクに従ってサブランク付けされた。この手法により、調査された遺伝子に対する発現相関によりランク付けされた遺伝子プローブのリストを得た。
【0037】
細胞培養およびトランスフェクション
HeLa細胞ならびにMPS II(31)、MPS IIIA(32)およびMSD(33)のマウスモデル由来のマウス胎仔線維芽細胞は、10%熱不活化ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone)を添加したDulbecco変法イーグル培地(DMEM、Euroclone)中で生育された。指示がある場合、培地にはショ糖が終濃度100mMになるように添加された。細胞は6ウェルプレート中に10%コンフルエンスでトランスフェクション前に播種された。トランスフェクションはPolyFect Transfection Reagent(Qiagen)またはInterferin(PolyPlus transfection)を用いて、製造業者のプロトコールに従って行われた。完全長のTFEBおよびTFEB-3xFLAGでのトランスフェクタントは1mg/ml G418(Sigma)で選択された。マイクロRNA実験のため、細胞は200nMのmiRIDIAN Dharmacon miRNA Mimics(miR-128または陰性対照のcel-miR-67)でトランスフェクトされ、48時間後に全RNA抽出のため回収された。
【0038】
ルシフェラーゼアッセイ
CLEAR部位の転写促進能力をテストするため、HeLa細胞は4コピーのタンデムを持つ配列番号112の配列(4xCLEARコンセンサス配列(配列番号111)、下線)
CCGGGTCACGTGACCCCAGGGTCACGTGACCCTGCGGGTCACGTGACCCTGCGGGTCACGTGACCCCC
または
配列番号113の配列(4x対照配列、太字):
CCGGGAATCGTGACCCCAGGGAATCGTGACCCTGCGGGAATCGTGACCCTGCGGGAATCGTGACCCCC
のいずれかを含有するpGL3-basicルシフェラーゼレポータープラスミドでトランスフェクトされた。
【0039】
TFEBがmiR-128の標的であることを検証するため、HeLa細胞はTFEBまたは対照遺伝子(EZH2およびLRIG1)のいずれかの3’UTR領域を含有するホタルルシフェラーゼレポータープラスミド、およびhsa-miR-128の前駆体配列を含有するコンストラクトであるpsiUxプラスミド(34)でトランスフェクトされた。ルシフェラーゼアッセイはトランスフェクションから48時間後にDual Luciferase Reporter Assay System(Promega)を用いて行われ、トランスフェクション効率はコトランスフェクトしたウミシイタケルシフェラーゼにより規格化された。
【0040】
分子生物学
完全長のヒトMITF、TFE3、TFEBおよびTFECはpcDNA3.1ベクター(Invitrogen)中にクローニングされた。完全長のTFEBはまたp3xFLAG-CMV-10ベクター中にもクローニングされた。完全長のC1orf85はpcDNA3.1/c-Mycベクター(Invitrogen)中にクローニングされた。RNAサンプルはRNeasyまたはmiRNeasyキット(Qiagen)のいずれかを用いて、製造業者の説明書に従って取得した。RNAはNanoDrop 8000(Thermo Fischer)を用いて定量された。cDNAはQuantiTect Reverse Transcriptionキット(Qiagen)を用いて合成された。
【0041】
クロマチン免疫沈降アッセイ(ChIP)
ChIPアッセイはTFEB-3xFLAG導入遺伝子を保有するHeLaトランスフェクタントまたはタグを付加した導入遺伝子を何ら持たない対照のHeLa細胞株(モック)から単離された、ホルムアルデヒド固定された核を用いて実施された。各々のChIP実験には107個の細胞が必要だった。ChIPはANTI-FLAG M2 Affinity Gel(Sigma)を用いて、製造業者のプロトコールに従って行われた。
【0042】
定量的リアルタイムPCR
cDNAまたは超音波処理したクロマチンに対するリアルタイム定量的RT-PCRは、LightCycler 480 SYBR Green I mix(Roche)でLight Cycler 480 II検出システム(Roche)を用いて以下の条件で実施された:95℃、5分間;(95℃、10秒;60℃、10秒;72℃、15秒)x40。発現研究のため、qRT-PCRの結果は内部対照(GAPDH)に対して規格化された。オリゴヌクレオチド配列はTable 5(表5)に報告されている。
【0043】
マイクロアレイ実験
TFEBトランスフェクトHeLa細胞からの全RNAを用いて、Affymetrix Human Gene 1.0 STアレイプラットフォームに対するハイブリダイゼーション用のcDNAを調製した。ハイブリダイゼーションは三連で、Coriell Genotyping and Microarray Center、Coriell Institute for Medical Research、Camden、NJ、USAにて行われた。偽発見率<0.1が有意な遺伝子差次的発現を評価するのに用いられた。Gene Set Enrichment Analysisは以前に記述された方法で行われた(35)。累積分布機能は1,000個のランダム遺伝子セットのメンバーシップ割当を行って作成された。名目上のP値<0.01およびFDR<10%が濃縮スコア(Enrichment Score(ES))の有意性を評価するのに用いられた。
【0044】
共焦点イメージング
トランスフェクトされたHeLa細胞はガラスのカバースリップ上で24時間生育され、100mMのMgCl2および100mMのCaCl2を含有するPBS(PBS/Ca/Mg)で洗浄され、4%パラホルムアルデヒド(PFA、Sigma)で10分間固定された。洗浄および50mMのNH4Clで15分間PFAを消失させた後、細胞はPBSで洗浄されて、ブロッキングバッファー(0.05%サポニン/0.2%BSAのPBS/Ca/Mg溶液)中で20分間透過処理された。カバースリップは次いで適切な一次抗体と共に一晩、Alexa-594およびAlexa-488コンジュゲート二次抗体(Molecular Probes)と共に1時間、インキュベートされた。カバースリップはガラススライド上にVectashield(Vector Laboratories)でマウントされた。画像は共焦点顕微鏡(LSM510、Carl Zeiss、Inc.)を用いて、Plan-Neofluar 63x液浸対物レンズ(Carl Zeiss、Inc.)を用いて撮影された。
【0045】
電子顕微鏡検査
対照およびTFEB過剰発現HeLa細胞はPBSで洗浄され、1%グルタルアルデヒドの0.2M Hepesバッファー(pH7.4)溶液中で30分間室温で固定された。細胞は次いで2時間、OsO4中で後固定された。段階的濃度のエタノール中での脱水後、細胞はEpon 812(Fluka)中に包埋され、60℃で72時間重合された。薄片はLeica EM UC6で切断され、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で対比染色された。EM画像は薄片からULTRA VIEW CCDデジタルカメラを備えたPhilips Tecnai-12電子顕微鏡(Philips、Eindhoven、オランダ)を用いて取得された。リソソームの定量はAnalySISソフトウェア(Soft Imaging Systems GmbH、Munster、Germany)を用いて行われた。定量用の細胞の選択は立体的解析への適合性に基づき、すなわち中心領域(Golgi膜の存在に基づいて検出された)で切断された細胞のみが解析された。リソソームのプロファイルは高い電子密度や多重内腔小胞、同心性小体およびミエリン様小体の存在などの典型的な超微細構造の特性に基づいて検出された。
【0046】
ハンチンチンクリアランス
ハンチンチン誘導性の線条体細胞[HD43(Q105)]は以前に記述されたように(36)、33℃で高グルコースが添加されたDMEM中で培養された。HD43(Q105)細胞はIRES2-EGFPカセットを含有するpCIG2-TFEBベクターまたは対照として空のpCIG2ベクターで、Gene Pulser IIエレクトロポレーター(BioRad)を用いてエレクトロポレーションされた。エレクトロポレーション後すみやかに、細胞は0.2μg/mlドキシサイクリン(Sigma)の存在下で伸長されたハンチンチン用の導入遺伝子を誘導するために蒔かれた。誘導から24時間後にGFP陽性細胞はフローサイトメトリーでBD FACSAriaサイトメーター(BD Biosciences)でソートされ、イムノブロット解析に用いられた。
【0047】
FACS解析
細胞は50nMの酸指向性色素LysoTracker Red DND-99(Molecular Probes)中で40分間保たれた。1サンプルあたり30,000個の細胞についてリソソームの赤い蛍光がBD FACSAriaサイトメーター(BD Biosciences)を用いてフローサイトメトリーにより決定された。
【0048】
GAGクリアランス
HeLa細胞は10%FCSを添加したRPMI培地(Gibco、Invitrogen、Grand Island)中で、7μCi/mlの3H-グルコサミン塩酸塩(Perkin Elmer、37.75Ci/mmol、Boston)の存在下で3日間生育され、PBSで十分に洗浄されて可変回数、追跡された。各時点で細胞は回収され、ホモジェナイズされてSephadex G-25カラム(GE Healthcare、Sweden)に対するクロマトグラフィーに供されて、未取り込みの3H-グルコサミン塩酸塩が除去された。取り込まれた放射能量はBeckman LS6500カウンター(Beckman Instruments、Fullerton、California、USA)における液体シンチレーションにより測定された。
【0049】
イムノブロット
細胞は冷溶解バッファー(20mM Tris-HCl、pH7.4、150mM NaCl、1% TritonX-100)中で、プロテアーゼ阻害剤(SIGMA)存在下で30分間、氷上で溶解された。タンパク質サンプル20mgはSDS-PAGEアクリルアミドゲル上で分離されて、ニトロセルロース膜(Amersham Pharmacia Biotech)上にトランスファーされた。一次抗体および(HRP)-コンジュゲート抗体は1%BSA TBS-T中で希釈された。バンドはECL検出試薬(Pierce)を用いて可視化され、アクチンに対して規格化された。タンパク質はBradford法により定量された。抗体:ハンチンチン、MAb2166(Chemicon、Temecula、CA);アクチン(Sigma)
【0050】
酵素活性
カテプシンD活性はCathepsin D Assay Kit(Sigma)で製造業者の説明書に従って決定された。β-グルコシダーゼ活性は細胞ホモジェネート(細胞107個、〜10μgタンパク質)を5mM 4-MU-β-D-グルコピラノシドの0.1M酢酸バッファー(pH4.2)溶液で3時間、37℃でインキュベートして決定された。β-グルクロニダーゼ活性は細胞ホモジェネート(細胞2.5x107個、〜25μgタンパク質)を10mM 4-MU-グルクロニドの0.2酢酸バッファー(pH4.8)溶液で1時間、37℃でインキュベートして決定された。いずれの反応も1mlのグリシン-炭酸塩バッファー(pH10.7)で停止させた。蛍光は365nm(励起)および450nm(蛍光)で、Turner Modulus蛍光光度計上で読み取られた。
【0051】
データ解析
大半のデータは平均値±標準偏差で表される。統計的な比較は分散分析(ANOVA)を用いてなされた。P値<0.05が統計的に有意と考えられた。
【0052】
結果
上述のように、リソソームは分泌経路、エンドサイトーシス経路、オートファジー経路およびファゴサイトーシス経路から受け取った高分子の分解を専門とする(1)。細胞の分解要件は組織のタイプ、年齢および環境条件に依存して変わりうることから、著者らはリソソームの活性を調整する細胞プログラムの存在を仮定した。g:profiler(2)ツールを用いることで著者らはリソソームのタンパク質をコードする遺伝子(以下、リソソーム遺伝子という)は、調整された発現の傾向があることを認めた(図5および図6)。96個の既知リソソーム遺伝子(3)のプロモーター領域についてのパターン発見解析は、このプロモーターセットにおいて高度に濃縮されたパリンドロームである10bpのGTCACGTGACモチーフの同定をもたらした(遺伝子96個のうち68個、P<0.0001)(図7)。このモチーフは転写開始部位(TSS)から200bp以内に優先的に、単一の配列またはタンデムの多コピーとして位置する(図8およびTable 1(表1))。このモチーフの分布は全てのヒト遺伝子TSSの周辺で決定され(図1A)、TSSから200bp以内にモチーフを少なくとも2個持つ遺伝子、おそらくプロモーター中に存在することが示唆されるものだが、この遺伝子の遺伝子オントロジー解析はリソソームの発生および機能に関係した機能カテゴリーへの顕著な濃縮を示した(Table 2(表2))。このようにして著者らはこのモチーフをCoordinated Lysosomal Expression And Regulation(CLEAR)エレメントと命名した。ルシフェラーゼアッセイはCLEARエレメントが転写の活性化を媒介することを示した(図1B)。
【0053】
配列番号110で示されるCLEARコンセンサス配列はE-box(CANNTG)のコンセンサス配列と重なるが、これはbHLH転写因子の既知の標的部位である(4)。特に、bHLH因子のMiT/TFEサブファミリーのメンバーはCLEARコンセンサスに類似した配列に結合することが見出された(5)。MiT/TFEサブファミリーはヒトにおいてMITF、TFE3、TFEBおよびTFECの4つのメンバーから構成される(6)。これらタンパク質のいずれもがリソソーム遺伝子を発現調節可能か決定するため、著者らはMITF、TFE3、TFEBまたはTFECのcDNAを保有するプラスミドでHeLa細胞をトランスフェクトした。著者らはTFEB過剰発現後にのみ、リソソーム遺伝子のmRNAレベルの増加を認めた(テストした遺伝子23個のうち22個)(図1C)。それに応じて、著者らはリソソームの酵素であるβ-グルコシダーゼ、カテプシンDおよびβ-グルクロニダーゼの活性の有意な上昇を検出した(図9)。TFEB過剰発現後のリソソーム遺伝子の誘導はまたHEK293細胞においても認められた(図10)。著者らはTFEBはマイクロRNAであるmiR-128(7)の標的であろうと予測したが、これはルシフェラーゼ実験により確認された(図11)。マイクロRNAを介したTFEBのサイレンシングは、テストしたリソソーム遺伝子23個のうち18個のダウンレギュレーションに関連があった(図1Cおよび図12)。このようにしてTFEBはリソソーム遺伝子の発現を制御する。
【0054】
miR-128の阻害は特異的なmiRNA阻害剤(Dharmacon)で行われ、TFEBおよびその標的リソソーム遺伝子であるPSAPの発現の上昇をもたらしたが(図20)、これはmiR-128の発現調節がCLEARネットワークの活性化に直接的に影響しうることを実証するものである。
【0055】
リソソーム遺伝子はTFEBの直接的な標的であるかテストするため、著者らはTFEB 3xFLAGコンストラクトを安定的に発現するHeLa細胞に対して抗-FLAG抗体を用いてクロマチン免疫沈降(ChIP)解析を行った。結果はTFEBがCLEAR部位に結合することを実証した(図1D)。TFEB応答性遺伝子をゲノム規模で同定するため、著者らはTFEB過剰発現後のHeLaトランスクリプトームについてマイクロアレイ解析を行った。著者らは291個の遺伝子がアップレギュレートされ、7個がダウンレギュレートされたことを偽発見率<0.1で認めた(Table 3(表3))。アップレギュレートされた遺伝子は、リソソーム遺伝子ならびにリソソームの発生および機能に関係している遺伝子で大いに濃縮された(図13および図14、Table 4(表4))。それに応じて、Gene Set Enrichment Analysis(GSEA)はプロモーター中にCLEARエレメントを含有するリソソーム遺伝子が誘導された遺伝子の中で有意に濃縮されることを示した(濃縮スコア=0.84、P<0.0001)(図15)。興味深いことに、分解経路に関わる非リソソーム遺伝子はTFEBにより調節されるように見えた。これらには、オートファジーを制御する主要な因子であるRRAGCおよびUVRAG(8、9)、リソソームから漏出するプロテアーゼに対する保護の役割を果たすCSTB(10)、リソソーム内へのタンパク質の移入を媒介するM6PRおよびIGF2R(11)が挙げられる。リソソームの機能に関わる遺伝子を同定してオーファンのリソソーム疾患(3)についての候補遺伝子を提供するツールとしてのCLEARネットワークの使用可能性を例証するため、著者らはランダムに選ばれた機能未知のタンパク質2個、C1orf85およびC12orf49の細胞内分布を決定した。性質不明のTFEB標的であるC1orf85はリソソームに局在することが見出された(図1E)。
【0056】
リソソームコンパートメントの拡大が安定的にTFEBを過剰発現するHeLaトランスフェクタントにおいて検出された(図2AおよびBならびに図16)。それに応じて、超微細構造解析により細胞あたりのリソソーム数の有意な増加が明らかになったが(図2CおよびD)、これはリソソームの発生におけるTFEBの関わりを指し示すものである。
【0057】
著者らはショ糖誘導性空胞化モデル(12、13)を用いて、TFEB-CLEARネットワークが未分解分子のリソソーム貯蔵に応答するかテストした。リソソームプロモーターへのTFEB結合イベントの増加(図3A)およびTFEBより程度は弱いもののリソソーム遺伝子のmRNAレベルの増加が培養培地へのショ糖添加で検出された(図3B)。またショ糖添加は未処理細胞における主な存在場所である細胞質における拡散した局在から核へのTFEBの進行性の移行を決定し(図3C)、これは核移行がTFEB活性化のための重要なメカニズムであることを示唆する。
【0058】
40を超えるリソソーム貯蔵障害(LSD)が未消化高分子の細胞内への進行性蓄積を特徴とし、多様な臨床症状(1、14、15)に導く細胞の機能障害をもたらす。著者らは3つの異なるLSD、ムコ多糖症のII型およびIIIA型(MPSIIおよびMPSIIIA)ならびに多種スルファターゼ欠損症(MSD)(16〜18)のマウスモデル由来の胎仔線維芽細胞におけるTFEBの細胞内局在を調査した。優勢なTFEB核局在が3つのLSDマウスモデル全てからの細胞において検出され(図3D)、これはTFEBシグナリング経路が未分解分子のリソソーム内貯蔵の後に活性化されることを示唆する。かかる活性化はリソソームストレスへの細胞の生理的応答の一部であり、リソソームシステムを亢進することで分解ニーズに貢献しうるものである。完全かつ直接的に核内に局在させることが可能なTFEB分子を取得するため、著者らは核局在シグナル(NLS)をTFEBタンパク質のC末端に付加してTFEBアナログ(キメラ分子)を設計した(配列番号228、図21)。TFEB-NLSコンストラクトでトランスフェクトされたHeLa細胞の免疫蛍光解析は、貯蔵状態へのニーズがなくてもこれが確かに核内に局在することを実証した(図22)。
【0059】
リソソーム貯蔵障害は、リソソームの機能に関与する遺伝子における変異による未消化物質の細胞内蓄積が原因である。深刻なヒトの障害である多種スルファターゼ欠損症(MSD)において、スルファターゼの欠損は細胞の硫酸化された化合物を分解する能力を減少させ、その後に広範な細胞の空胞化を誘導してついには細胞に対して毒性を持つことがわかるグリコサミノグリカンの蓄積を伴う。著者らはマウスMSDモデル由来の細胞を用いて、この疾患におけるTFEBのクリアランス能力をテストした。TFEBベクターまたは空のベクターでMSD細胞をトランスフェクトして、トランスフェクションから48時間後のグリコサミノグリカンの蓄積をモニターした。TFEBは貯蔵されたグリコサミノグリカンのクリアランスを促進し(図17)、電子顕微鏡検査の解析で実証されたようにその後の細胞空胞化を回復可能であることを見出した(図18)。著者らはリソソーム貯蔵障害のさらなるモデルである、酸性α-グルコシダーゼ遺伝子の欠損がグリコーゲンのリソソーム内蓄積およびその後の広範な細胞空胞化を導くポンペ病でのTFEBのクリアランス能力をテストした。著者らはポンペ病患者由来のヒト繊維芽細胞をTFEB-3xFLAGベクターでトランスフェクトし、細胞におけるリソソームの形状および数をモニターした。TFEB-3xFLAGでトランスフェクトされた細胞は、非トランスフェクト細胞と比較したリソソーム小胞数の減少により実証されたように、未消化のグリコーゲン量を減少させることが見出された(図19)。同時に、これらのデータはCLEARネットワークに対する作用によるリソソームの活性の亢進が異なるリソソーム貯蔵障害に対する多価の治療を原理的に提供しうることを指し示す。
【0060】
リソソーム依存的分解経路を亢進するTFEBの能力をテストするため、著者らはグリコサミノグリカン(GAGs)の分解をパルス追跡実験において解析した。TFEBの安定的トランスフェクタントは対照と比較してより早いGAGクリアランス速度を見せた(図4A)。著者らはまたハンチントン病の原因であるポリグルタミン(polyQ)伸長されたハンチンチンタンパク質の分解を誘導するTFEBの能力について、変異ハンチンチン誘導性導入遺伝子を保有するラット線条体細胞モデルHD43を用いて調査した(19)。イムノブロット解析はTFEB過剰発現細胞において対照と比較して変異ハンチンチンが強く減少することを示した(図4B)。並行実験において、誘導されたHD43細胞は3xFLAG-TFEBコンストラクトでエレクトロポレーションされた。免疫蛍光解析は3xFLAG-TFEB陽性の細胞はハンチンチンの蓄積をもしあったとしてもほとんど示さないことを示した(図4C)。
【0061】
著者らはリソソームの発生を制御して高分子のクリアランスに関与する細胞プログラムを発見した。病原性蓄積に対する細胞応答としてのリソソームの亢進は神経変性疾患において認められている(20〜22)。興味深いことに、神経毒性タンパク質の分解に関わる主要な酵素の一つであるカテプシンD(23、24)はCLEARネットワークに属し、TFEBの過剰発現により誘導される。また特に興味深いのは、著者らがTFEBのダウンレギュレーションに用いたmiR-128がアルツハイマー病患者の脳(25)において、ならびにプリオン誘導性および化学物質誘導性神経変性(26、27)の両者において顕著にアップレギュレートされるという知見である。魅力的な観点では、神経変性疾患における細胞の病原性蓄積に対する細胞応答を亢進するCLEARネットワークの治療標的としての使用であろう。
【0062】
【表1A】
【0063】
【表1B】
【0064】
【表1C】
【0065】
【表1D】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3A】
【0068】
【表3B】
【0069】
【表3C】
【0070】
【表3D】
【0071】
【表3E】
【0072】
【表3F】
【0073】
【表3G】
【0074】
【表3H】
【0075】
【表3I】
【0076】
【表3J】
【0077】
【表3K】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5−1】
【0080】
【表5−2】
【0081】
【表5−3】
【0082】
【表6】
【0083】
引用先行技術文献
[参考文献]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の分解経路を亢進可能な、細胞における毒性化合物の蓄積を予防または拮抗するための分子であって、
a)直接的または間接的にCLEARエレメントに対して作用して細胞の分解経路に関わる少なくとも1つの遺伝子の発現を亢進し、前記CLEARエレメントはコンセンサス配列として配列番号110を有するヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含むこと、および
b)TFEBタンパク質、その合成もしくは生物工学的機能的誘導体、そのペプチド断片、TFEBタンパク質およびその合成もしくは生物工学的機能的誘導体を含むキメラ分子ならびにTFEBタンパク質の活性および/または発現レベルの調節因子からなる群に属すること
を特徴とする分子。
【請求項2】
CLEARエレメントがコンセンサス配列として配列番号111を有するヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
CLEARエレメントが配列番号1から配列番号109までの群より選択されるヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む、請求項1に記載の分子。
【請求項4】
CLEARエレメントが配列番号3、配列番号9、配列番号13、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号47、配列番号50、配列番号53、配列番号59、配列番号62、配列番号77、配列番号78、配列番号84、配列番号85、配列番号88、配列番号92、配列番号94、配列番号95、配列番号98および配列番号108からなる群より選択されるヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む、請求項3に記載の分子。
【請求項5】
キメラ分子がTFEBタンパク質および核局在シグナル(NLS)を含む、請求項1から4のいずれかに記載の分子。
【請求項6】
TFEBタンパク質の調節因子がマイクロRNAまたはマイクロRNA阻害剤である、請求項1から4のいずれかに記載の分子。
【請求項7】
マイクロRNAがmiR-128またはmiR-128阻害剤である、請求項6に記載の分子。
【請求項8】
前記分解経路に関わる遺伝子がリソソームのタンパク質を発現する遺伝子である、請求項1から7のいずれかに記載の分子。
【請求項9】
医療用である、請求項1から8のいずれかに記載の分子。
【請求項10】
神経変性障害の治療用である、請求項9に記載の分子。
【請求項11】
神経変性障害がアルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病からなる群に属する、請求項10に記載の分子。
【請求項12】
リソソーム貯蔵障害の治療用である、請求項9に記載の分子。
【請求項13】
リソソーム貯蔵障害がポンペ病および多種スルファターゼ欠損症(MSD)からなる群に属する、請求項12に記載の分子。
【請求項14】
請求項1から7のいずれかに記載の分子をコードする配列を含有する核酸。
【請求項15】
適切な制御性配列のもとで請求項14に記載の核酸を含むベクター。
【請求項16】
遺伝子治療用である、請求項15に記載のベクター。
【請求項1】
細胞の分解経路を亢進可能な、細胞における毒性化合物の蓄積を予防または拮抗するための分子であって、
a)直接的または間接的にCLEARエレメントに対して作用して細胞の分解経路に関わる少なくとも1つの遺伝子の発現を亢進し、前記CLEARエレメントはコンセンサス配列として配列番号110を有するヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含むこと、および
b)TFEBタンパク質、その合成もしくは生物工学的機能的誘導体、そのペプチド断片、TFEBタンパク質およびその合成もしくは生物工学的機能的誘導体を含むキメラ分子ならびにTFEBタンパク質の活性および/または発現レベルの調節因子からなる群に属すること
を特徴とする分子。
【請求項2】
CLEARエレメントがコンセンサス配列として配列番号111を有するヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む、請求項1に記載の分子。
【請求項3】
CLEARエレメントが配列番号1から配列番号109までの群より選択されるヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む、請求項1に記載の分子。
【請求項4】
CLEARエレメントが配列番号3、配列番号9、配列番号13、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号47、配列番号50、配列番号53、配列番号59、配列番号62、配列番号77、配列番号78、配列番号84、配列番号85、配列番号88、配列番号92、配列番号94、配列番号95、配列番号98および配列番号108からなる群より選択されるヌクレオチド配列の繰り返しを少なくとも1つ含む、請求項3に記載の分子。
【請求項5】
キメラ分子がTFEBタンパク質および核局在シグナル(NLS)を含む、請求項1から4のいずれかに記載の分子。
【請求項6】
TFEBタンパク質の調節因子がマイクロRNAまたはマイクロRNA阻害剤である、請求項1から4のいずれかに記載の分子。
【請求項7】
マイクロRNAがmiR-128またはmiR-128阻害剤である、請求項6に記載の分子。
【請求項8】
前記分解経路に関わる遺伝子がリソソームのタンパク質を発現する遺伝子である、請求項1から7のいずれかに記載の分子。
【請求項9】
医療用である、請求項1から8のいずれかに記載の分子。
【請求項10】
神経変性障害の治療用である、請求項9に記載の分子。
【請求項11】
神経変性障害がアルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病からなる群に属する、請求項10に記載の分子。
【請求項12】
リソソーム貯蔵障害の治療用である、請求項9に記載の分子。
【請求項13】
リソソーム貯蔵障害がポンペ病および多種スルファターゼ欠損症(MSD)からなる群に属する、請求項12に記載の分子。
【請求項14】
請求項1から7のいずれかに記載の分子をコードする配列を含有する核酸。
【請求項15】
適切な制御性配列のもとで請求項14に記載の核酸を含むベクター。
【請求項16】
遺伝子治療用である、請求項15に記載のベクター。
【図19】
【図21】
【図22】
【図1−1】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16−1】
【図16−2】
【図16−3】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図1−1】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16−1】
【図16−2】
【図16−3】
【図17】
【図18】
【図20】
【公表番号】特表2012−517802(P2012−517802A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549556(P2011−549556)
【出願日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051705
【国際公開番号】WO2010/092112
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(511197958)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051705
【国際公開番号】WO2010/092112
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(511197958)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]