説明

分解除去装置及びそれを用いた分解除去方法

【課題】
ドライガス条件下だけでなく、水蒸気存在条件下においても高いVOC(揮発性有機化合物)分解率を発揮でき、さらに貴金属担持触媒を用いたものよりも低コスト化を実現することができる揮発性有機化合物の分解除去装置及びそれを用いた分解除去方法を提供する。
【解決手段】
排ガスの流路内に設けられて当該排ガス中に含有される揮発性有機化合物を分解除去する分解除去装置であって、基体(例えば基材27)と、この基体を直接又は間接的に加熱する加熱手段(例えばヒータ21A)と、前記基体の表面に設けられたCeOからなる触媒層25Aとを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒としてセリア(CeO)を利用して、排ガス中に含有される揮発性有機化合物(VOC)を分解除去する分解除去装置及びその分解除去装置を用いた分解除去方法に関し、特に排ガス中に含有されるヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素、ナフタレンなどの多環芳香族炭化水素といった揮発性有機化合物を分解除去する分解除去装置及びその分解除去装置を用いた分解除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds、以下単に「VOC」ともいう)とは、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、及びナフタレンなどの多環芳香族炭化水素(PAH:Polycyclic Aromatic Hydrocarbons)などの物質を指す。VOCの代表的な成分である芳香族炭化水素、特にベンゼン、トルエンなどは有機溶剤や塗料など幅広い用途に用いられているが、その多くは大気汚染を引き起こす可能性を持ったものである。中でもベンゼンは発ガン性物質として知られており、表1に示すように環境基準も定められている。また、VOC成分はそれ自体に発ガン性や有害性があるだけでなく、大気中に放出されるとオゾンなどの光化学オキシダントを合成し、窒素酸化物(NO)とともに光化学大気汚染をもたらす主要な原因物質となる。これら2次的に生成する光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質(SPM:Suspended Particulate Matter)は人体にも影響を及ぼすため環境基準が定められている(表1参照)。要するに、ここで述べたVOCは、大気汚染物質としてすでに規制されている窒素酸化物(NO)や硫黄酸化物(SO)と同様、環境及び人体への影響が懸念される有害汚染物質の一つである。このため、近年、大気中へのVOC排出が問題視されており、ディーゼルエンジンの排ガスといった各種燃焼排ガスだけでなく、今後は、各種工場や廃棄物処理などの固定発生源で発生するVOC量を抑制するための処理技術が必要となる可能性がある。
【0003】
【表1】

【0004】
VOC処理技術は、欧米を中心に法規制の強化とともに発展し、各種装置の導入が進んだ経緯がある。一方、日本では臭気対策が中心であり、排ガス脱臭装置として導入され、結果的にVOCが処理されてきたのが実情である。このようなVOC排ガス処理技術は、燃焼酸化法(直接燃焼、触媒燃焼)、吸着法、活性汚泥法(生物処理法)に大別され、排ガス処理量、VOC濃度などによってどの手法によるかが決定される。また最近では、プラズマ分解法などの新処理方式も開発されている。各種処理技術において、様々な課題がある中、酸化チタン(TiO)などの光触媒作用による分解、及び貴金属担持触媒などによる触媒燃焼(接触酸化)は、最終的に二酸化炭素(CO)と水(HO)にまでVOCを分解することから有効な処理手段に挙げられる。
【0005】
ここで、後者の貴金属担持触媒によるVOCの処理技術については、1)反応温度が低く、燃料費の節約が可能、2)サーマルNOがほとんど発生しない、3)システムが単純で小型化が可能(設置スペースが小さい)、などの特徴が挙げられる。このような貴金属担持触媒によるVOC処理技術の具体例としては、金属酸化物の担体に白金(Pt)、パラジウム(Pd)などの貴金属を活性成分として担持したもの、数種類の金属酸化物を組み合わせた複合酸化物を用いたもの等がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
そして、これらの触媒を用いた分解除去装置としては、図28に示すものが提案されている(特許文献3参照)。この分解除去装置500は、炉から排出された有機化合物を含有する排ガスをバグフィルタ501で除塵した後、触媒塔502に送るようになっている。その際に、分解除去装置500は、触媒塔502の底部に設けられた再加熱器503により、排ガスを昇温した後、再加熱器503の下流に位置する触媒層504に送り、排ガスに含有される有機化合物を分解除去する。そして、分解除去装置500は、誘引送風機505を用いて有機化合物が分解除去された排ガスを煙突506から大気へと放出している。すなわち、この分解除去装置500は、触媒層504に排ガスを送る直前に排ガスの温度を上げることによって、触媒層504と有機化合物の反応を促進して排ガスに含有される有機化合物を分解除去した後、排ガスを大気へと放出するものである。
【0007】
しかしながら、上述したような貴金属担持触媒には、Ptなどの貴金属をアルミナなどの高表面積担体に担持したものが用いられていることからコスト高になるという問題がある。このことは、各種工場から排出される膨大な量のVOC含有排ガスやディーゼルエンジンなどからの燃焼排ガス等に対してVOC処理を実施しようとする場合に深刻な問題となる。このため、VOCの十分な分解能は確保しつつも現状の貴金属担持触媒の代替となりうるような低コストな触媒が望まれている。
【0008】
加えて、上述したような貴金属担持触媒によるVOC処理技術には以下のような問題がある。すなわち、貴金属担持触媒を利用した場合、水蒸気が含まれていないドライガス条件下では非常に高い分解率を達成するが、水蒸気が混入した条件になると分解率がとたんに大きく低下してしまうという問題がある。例えば、貴金属担持触媒としてPdPt/Alを用いた場合、ドライガス条件(CO:15%、O:5%、N:バランスガス、空間速度SV(供給ガス量/触媒充填量):12000h−1、温度:150℃)の下では98.2%だった分解率が、水蒸気を含む条件(CO:15%、O:5%、HO:9%、N:バランスガス)の下では25%にまで低下する(表4参照)。ところが、各種工場から排出される排ガスには2〜3%、燃焼排ガスには8%程度の水蒸気が含まれることから、貴金属担持触媒をVOC分解触媒としてそのまま用いることはできない。このため、例えば工場などからの排気といったようなVOCに水蒸気が混入しうるような条件下では別の触媒成分を併用あるいは混合させる必要があった。
【0009】
さらに、図28に示す分解除去装置で用いられる再加熱器は触媒塔と同程度の大きさのものになり、設備面積及び設置面積が大きく、高い建設費が必要になるという問題があった。また、このような分解除去装置は設備面積及び設置面積が大きくなることから、既存の排ガス流路内に設置することができないという問題があった。
【0010】
【特許文献1】特開2001−38207号公報
【特許文献2】特開平11−57470号公報
【特許文献3】特開2001−58119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、排ガス自体を加熱するような大がかりな設備を用いることなく、しかも、ドライガス条件下だけでなく、水蒸気存在条件下においても高いVOC分解率を発揮でき、さらに貴金属担持触媒を用いたものよりも低コスト化を実現することができるVOCの分解除去装置及びそれを用いた分解除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、排ガスの流路内に設けられて当該排ガス中に含有される揮発性有機化合物を分解除去する分解除去装置であって、基体と、この基体を直接又は間接的に加熱する加熱手段と、前記基体の表面に設けられたセリアからなる触媒層とを具備することを特徴とする分解除去装置にある。
【0013】
かかる第1の態様では、排ガスを加熱することなく常温で導入するだけで、加熱手段により加熱された触媒層によりVOCを分解でき、しかも、ドライガス条件下だけでなく、水蒸気存在条件下においても高いVOC分解率を発揮でき、さらに貴金属担持触媒を用いたものよりも低コスト化を実現することができるVOCの分解除去装置を提供することができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の分解除去装置において、前記加熱手段が、前記基体又は前記基体に接触して設けられた加熱媒体に通電することにより加熱する電気ヒータであることを特徴とする分解除去装置にある。
【0015】
かかる第2の態様では、通常の電源から加熱装置に通電するだけで、排ガス中の揮発性有機化合物を分解することができ、分解除去装置を小型化することができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の分解除去装置において、前記基体が板状部材であり、その両面に前記触媒層が設けられていることを特徴とする分解除去装置にある。
【0017】
かかる第3の態様では、分解除去装置を容易に製造することができると共に、分解除去装置のより低コスト化を実現することができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の分解除去装置において、前記基体が、長手方向に連通する複数のガス処理流路を具備するハニカム形状の部材であり、前記ガス処理流路の内周面に前記触媒層が設けられていることを特徴とする分解除去装置にある。
【0019】
かかる第4の態様では、分解除去装置の物理的強度を向上させることができる共に、分解除去装置の分解能を向上させることができる。
【0020】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の分解除去装置において、前記ガス処理流路が複数接触する境界部に前記長手方向に亘って設けられた加熱室が設けられ、この加熱室内に前記加熱手段が設けられていることを特徴とする分解除去装置にある。
【0021】
かかる第5の態様では、分解除去装置の加熱手段をより容易に製造することができる。
【0022】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様に記載の分解除去装置において、前記加熱手段は、前記触媒層を200〜300℃の所定の温度に加熱することを特徴とする分解除去装置にある。
【0023】
かかる第6の態様では、200〜300℃という低い温度でVOC(揮発性有機化合物)を効率的に分解することができる。
【0024】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様に記載の分解除去装置を、環境空気を外部に排出する排気流路の途中に設け、前記加熱手段により200〜300℃の所定温度に前記触媒層を加熱することを特徴とする分解除去方法にある。
【0025】
かかる第7の態様では、分解除去装置を単に排気流路に設け、200〜300℃という比較的低い温度に触媒層を加熱するだけで排ガス中のVOCを分解でき、しかも、ドライガス条件下だけでなく、水蒸気存在条件下においてもVOCを高い分解率で分解することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る分解除去装置によると、貴金属担持触媒よりも低コストな触媒(セリア:CeO)を用いつつ、貴金属担持触媒を用いた場合と同等の分解率でVOCを分解することができるので、所定の分解除去能は確保しつつ低コスト化した分解除去装置を提供することができる。
【0027】
また、セリア(CeO)を触媒に用いた場合に、水蒸気存在下でも高い分解率を発揮するため、貴金属担持触媒のように水蒸気が混入すると分解率がとたんに低下してしまうというようなことがない。したがって、例えば工場などからの排気といったようなVOCに水蒸気が混入しうるような条件下において、触媒層に別の触媒成分を併用したり混合したりしなくて済むという利点がある。
【0028】
加えて、本発明によれば、貴金属担持触媒におけるように担体を用いることなく、セリア(CeO)を単独の触媒として使用することになるため触媒製造や取扱いが容易だという効果もあり、さらに担体を用いずに基体上に触媒層を設けることができるという利点がある。
【0029】
さらに、本発明の分解除去装置は小型化することができるので、分解除去装置をモジュール化して既存の排ガス流路に容易に設置することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本実施形態の説明は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0031】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1に係る分解除去装置が設置される排気ダクト100を示す概略図であり、図2は図1に示すA−A’面における分解除去装置1の概略断面図であり、図3は図2に示すB−B’面における分解除去装置1の概略断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る分解除去装置1は各種工場の排気ダクト100内などに設置されており、VOCを含有する排ガスは分解除去装置1を通過しなければ外部に放出されないようになっている。ここで、VOCとは、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、及びナフタレンなどの多環芳香族炭化水素などの物質を指すが、これらに限定されるものではない。中でもベンゼン、トルエンなどは有機溶剤や塗料など幅広い用途に用いられている揮発性有機化合物である。
【0032】
また、本実施形態に係る分解除去装置1には図示しない電気ヒータが内蔵され、当該電気ヒータに電源50が接続されており、後述するようにして分解除去装置1を構成する触媒層を200〜300℃に加熱することができるようになっている。
【0033】
分解除去装置1は、図2及び図3に示すように、円筒形状の外壁10と、その内部に所定の間隔を隔てて層状に取付けられた複数の板状部材20とを具備しており、長手方向に連通する複数のガス処理流路22が形成されるようになっている。このように分解除去装置1を構成することにより、後述する触媒層と分解除去装置1内を通過する排ガスとの接触面積を大きくすることができるので、結果としてVOCの分解能を向上させることができる。
【0034】
次に板状部材20について説明する。図4は板状部材20の概略断面図である。板状部材20は、図4に示すように、基体であるヒータ21と、ヒータ21の両表面に設けられたCeOを含有する触媒層25とを具備している。そして、各ヒータ21は上述した電源50に接続されており、電源50から供給された電力によりヒータ21を加熱して触媒層25の温度を200〜300℃に保持することができるようになっている。
【0035】
このように分解除去装置1を構成することにより、貴金属担持触媒よりも低コストな触媒(CeO)を用いつつ、貴金属担持触媒を用いた場合と同等の分解率でVOCを分解することができるので、所定の分解除去能は確保しつつ低コスト化した分解除去装置1を提供することができる。
【0036】
また、セリア(CeO)を触媒に用いた場合に、水蒸気存在下でも高い分解率を発揮するため、貴金属担持触媒のように水蒸気が混入すると分解率がとたんに低下してしまうというようなことがない。したがって、例えば工場などからの排気といったようなVOCに水蒸気が混入しうるような条件下において、触媒層25に別の触媒成分を併用したり混合したりしなくて済むという利点がある。
【0037】
加えて、本発明によれば、貴金属担持触媒におけるように担体を用いることなく、酸化物(CeO)を単独の触媒として使用することになるため触媒製造や取扱いが容易であるという効果もあり、さらに担体を用いることなく基体(ヒータ21)上に触媒層25を設けることができるという利点がある。
【0038】
さらに、本発明の分解除去装置1は小型化することができるので、分解除去装置1をモジュール化して既存の排ガス流路内に容易に設置することができるという利点がある。
【0039】
次に、本実施形態に係る分解除去装置1が設置される排気ダクト100及び分解除去装置1を構成する各構成要素について説明する。分解除去装置1が設置される排気ダクト100は環境空気を外部に排出する排気流路、すなわち、VOCを含む排ガスを排出する際に使用される排気流路であれば特に限定されず、例えば印刷工場に設置された排気ダクトなどであってもよい。
【0040】
分解除去装置1を構成する外壁10は200〜300℃の熱に対する耐熱性を有するものであれば特に限定されない。
【0041】
板状部材20は以下に説明するヒータ21と触媒層25とを有するものであれば特に限定されない。例えば、板状部材20の表面形状は特に限定されないが、図5に示すような断面凸凹形状や、断面波形形状、断面山形形状などが好ましい。このような表面形状にすることにより、板状部材20を構成する触媒層25の表面積を大きくすることができるので、結果としてVOCの分解能を向上させることができる。
【0042】
ヒータ21は触媒層25の温度を200〜300℃に保持することができるものであれば特に限定されない。
【0043】
触媒層25は、CeOが触媒として作用することができるようになっているものであれば特に限定されない。触媒層25としては、例えばヒータ21の表面上に接着剤や粘着剤若しくはシール材を塗布し、それらの上にCeO粉末を敷き詰めたものなどが挙げられる。ここで、接着剤、粘着剤、シール材としてはCeOの触媒作用に対する耐性を有し、200〜300℃の熱に対する耐熱性を有するものであれば特に限定されず、例えばリジタイザー(株式会社東京マテリアルス社製)などが挙げられる。
【0044】
次に、本実施形態に係る分解除去装置1の動作について説明する。まず、VOCが含有された排ガスは、排気ダクト100に導入される。そして、導入された排ガスは、排気ダクト100内に設置された分解除去装置1の内部を通過することになる。その際に、排ガスは、板状部材20の表面に設けられた触媒層25と接触して200〜300℃に加熱されると共に、触媒層25のCeOの触媒作用により分解されて、排ガスから除去されることになる。そして、VOCが除去された排ガスが外部に放出される。
【0045】
(実施形態2)
実施形態1では、図2に示すように、分解除去装置は、円筒形状の外壁10と、その内部に所定の間隔を隔てて層状に取付けられた複数の板状部材20とを具備し、長手方向に連通する複数のガス処理流路22が形成されるようにしたが、図6に示すように、円筒形状の外壁10と、その内部の流路を複数に分割した横断面格子状の内壁部材20Aとを具備し、長手方向に連通する複数のガス処理流路22Aが形成されるようにしてもよい。これはいわゆるハニカム形状の分解除去装置であり、内壁部材20Aの表面に触媒層25Aを設ければよい。なお、内壁部材20Aによって形成されるガス処理流路22Aの断面形状は三角形、矩形、多角形など特に限定されない。
【0046】
この内壁部材20Aは、図7に示すように、基体である横断面格子状のヒータ21Aと、そのヒータ21Aの内周面に設けられたCeOを含有する触媒層25Aとを具備している。そして、実施形態1と同様に、各ヒータ21Aは図示しない電源に接続されており、電源から供給された電力によりヒータ21Aを加熱して触媒層25Aの温度を200〜300℃に保持することができるようになっている。なお、図7は図6に示す部分Xを拡大した概略拡大断面図である。
【0047】
このように分解除去装置1Aを構成することにより、分解除去装置1Aの物理的強度を向上させることができると共に、触媒層25Aと分解除去装置1A内を通過する排ガスとの接触面積をより大きくすることができるので、結果としてVOCの分解能をより向上させることができる。
【0048】
このような内壁部材20Aを構成するヒータ21A及び触媒層25Aは、実施形態1に係るヒータ21及び触媒層25と同様なものであれば特に限定されない。その他の構成要素は実施形態1の分解除去装置と同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0049】
また、本実施形態では、上述したように内壁部材を構成したが、図8に示すように構成してもよい。図8に示すように、内壁部材20Bを構成する基体であるハニカム状の基材27の内周面には、CeOを含有する触媒層25Bが設けられている。そして、ガス処理流路22Aが複数接触する基材27の境界部28には、長手方向に亘って円筒状の加熱室29が設けられており、その加熱室29内に円柱状のヒータ21Bがそれぞれ挿着されている。各ヒータ21Bは図示しない電源に接続されており、電源から供給された電力によりヒータ21Bを加熱することによって間接的に基材27を加熱し、触媒層25Bの温度を200〜300℃に保持することができるようになっている。
【0050】
このように内壁部材20Bを構成することにより、内壁部材20Bを容易にかつ低コストで製造することができる。また、この内壁部材20Bではヒータ21Bを容易に交換することができるので、内壁部材20B中のヒータ21Bが故障した場合であっても、そのヒータ21Bを交換することにより、内壁部材20Bをそのまま使用することができるという効果を奏する。
【0051】
このような内壁部材20Bを構成する基材27は、200〜300℃の耐熱性を有するものであれば特に限定されないが、熱伝導率が高いものが好ましいのはいうまでもない。
【0052】
また、触媒層25Bは、実施形態1の触媒層25と同様なものであれば特に限定されない。
【0053】
さらに、ヒータ21Bは、加熱室29内に挿着することができ、通電された際に内壁部材に漏電することがないものであって、触媒層25Bの温度を200〜300℃に保持することができるものであれば特に限定されない。その他の構成要素は実施形態1の分解除去装置と同様であるので、同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
(他の実施形態)
実施形態1及び2では、板状部材及び内壁部材の表面にのみ触媒層を設けたが、外壁の内側表面に触媒層を設けてもよい。なお、この場合には、外壁と触媒層との間にヒータや、外壁自体を加熱する加熱手段などを設けて、その触媒層の温度を200〜300℃に保持する必要がある。
【0055】
このようにすることにより、触媒層と分解除去装置内を通過する排ガスとの接触面積をさらに大きくすることができるので、結果としてVOCの分解能をさらに向上させることができる。
【0056】
[実施例1]
まず、低温活性に優れなお、かつ低コストな触媒を見出すという観点で燃焼排ガス等に適用可能なVOC分解触媒のスクリーニングを行った。以下、この実験内容を実施例1として図面に基づいて詳細に説明する。以下にその内容を説明するとおり、この観点からの触媒としてはセリア(CeO)が最も相応しい。
【0057】
1.VOC分解触媒
VOC分解触媒としては、光分解ではTiO及びそれらの複合酸化物、触媒酸化法では主にAlを担体としてPtなどの貴金属を担持した触媒による様々な研究が行われている。これに対し、本発明者は超微粒子生成・複合化装置で作製したTiO、酸化鉄(Fe)及びTiO(関東化学株式会社,アナターゼ)、酸化銅(CuO;関東化学株式会社)、Al(住友化学工業株式会社,TA-1301)、ジルコニア(ZrO;第一稀元素化学工業,RC-100)、セリア(CeO;第一稀元素化学工業,HS)、ZrOCeO(第一稀元素化学工業,ACZ-58)、TiOZrO(第一稀元素化学工業)の9種類の酸化物触媒を選定して実際にベンゼンを分解するという研究を行った。また、これまで出願人たる(財)電力中央研究所にてメタンの低温酸化用に研究が進められてきたPdPt担持触媒(PdPt/Al)やPdPt/Alに助触媒としてZrO、CeOなどを添加した触媒(PdPt/ZrO、PdPt/CeO、PdPt/ZrOCeOなど)、及びPd担持触媒(Pd/Al)、Pt担持触媒(Pt/Al)などの貴金属担持触媒6種類について、VOC分解触媒としての可能性を試みた。各貴金属担持触媒の仕様を表2に示す。各種触媒はプレス成形後、9〜16メッシュ(mesh)に整粒し(一例として目開きが2mm(8.6メッシュ)、1mm(16メッシュ))、触媒の物性分析及び反応試験に用いた。
【0058】
【表2】

【0059】
2.物性分析
触媒性能を比較評価する上で重要な因子となる比表面積及び貴金属担持触媒表面上の活性成分である金属成分へのCO吸着量を測定した。比表面積の測定は、自動比表面積測定装置(Micromeritics社,GEMINI 2360)を用いて、BET法に基づいて行った。COによる化学吸着量は、全自動触媒ガス吸着量測定装置(大倉理研,MODEL R6015)を用いて測定した。本装置は、触媒などの表面上の活性成分が、CO、Hなどの活性ガスを化学吸着する性質を利用したもので、活性ガスをパルス状に触媒に導入し、総吸着量を測定する。なお、本装置は触媒学会の測定法に準拠している。測定は、前処理としてヘリウム気流中で室温から400℃まで10℃/minで昇温後、400℃で15分水素還元し、その後15分脱気した後、10℃/minで降温し、50℃に保持した。次に、試料出口のCO濃度を熱伝導度方式の検出器(TCD)で測定しながら、ヘリウム気流中で49.7%のCOをパルス状に試料に供給し、飽和点までのCOの吸着量を測定した。
【0060】
3.VOC分解反応試験
VOC分解反応試験に用いた実験装置を図11に示す。石英製の反応管202に触媒1を2ml充填し、石英ウール(図示省略)により触媒201の前後を固定した。触媒201を充填した反応管202を管状電気炉203内に設置し、所定温度に昇温後、表3に示すような実験条件で反応試験を開始した。ベンゼン(試薬特級:>99.5%,関東化学製)は、ガラス製拡散管204に注入し、その後一定温度に保持し、窒素を一定流量流すことによって希釈したガスを発生させた。また、水蒸気は、水蒸気発生部205において水を一定温度でバブリングすることによって導入した。ベンゼン及び水蒸気を含んだガス流路は、リボンヒーターで120℃以上に保温した(図中ではリボンヒーターで加熱される部分を斜線で示している)。各種固定発生源からの排ガス中のVOC濃度は、化学工場などで数ppm〜数100ppm、廃棄物処理では数ppm〜20ppm程度であることから、今回の試験においては表3に示すようなベンゼン濃度に制御した。ベンゼン濃度はガス検知管(ガステック製)を用いて計測した。ガスサンプリングされなかった残りのガスは水トラップ206と活性炭207を通過させた後に排気した。
【0061】
【表3】

【0062】
4.実験結果
4−1 各種触媒でのベンゼン分解反応試験結果
図12に主な酸化物触媒及び貴金属担持触媒のベンゼン分解反応試験結果を示す。実験条件は燃焼排ガス組成を想定し、まずCO:15%、O:5%、ガス流量400ml/min(空間速度SV:12000h−1)、反応温度150℃で反応試験を行った。TiO、Al、CeO、ZrOCeOなど、9種類の酸化物触媒の中で分解能を示したのはCeO、ZrOCeOのみで、その他7種類の酸化物触媒では分解能を示さなかった。CeOは初期活性として45%の分解率を示すが、その後20%以下まで低下し、そのまま安定した。ZrOCeOでは、反応開始30分後まではCeOと同等の分解率を示すものの、60分後には分解性能を示さなかった。これに対して、Pd/Al、Pt/Al、PdPt/Al、PdPt/ZrO、PdPt/CeO及びPdPt/ZrOCeOの6種類は、反応開始から高い分解率を示し、それぞれ98%以上の分解率が得られた。
【0063】
なお、反応開始30分後に関して、酸化物触媒のCeO、ZrOCeOは、それぞれドライガス条件下で約10〜15%の分解率が得られるだけであったのに対し、貴金属担持触媒のうちの6種類はドライガス条件下で98%以上の分解率を示した(表4中の(i)参照)。
【0064】
酸化物触媒の中で分解能を示したCeOについて、Pdを担持したPd/CeO(Pd担持量:1wt%)を含浸法により調製し、反応試験を試みた。図12にも示したようにPd担持によって、分解率は15%から55%まで大きく上昇したが、Pd/AlやPdPt/Alなどの約半分程度であった。表5に貴金属担持触媒7種類及び酸化物触媒の中で分解能を示したCeO、ZrOCeOの初期物性を示す。CeOは約150m/gと高い比表面積を有し、Pd担持後も他の貴金属担持触媒の2倍近い約112m/gであった。しかし、CO吸着量は、PdPt/AlやPd/Alの半分以下となり、この差が分解能に現れたものと推察された。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
燃焼排ガス中にはVOCとともに水蒸気が含まれる。そこで、水蒸気9%を含むCO:15%、O:5%、ガス流量400ml/min(SV:12000h−1)、反応温度150℃で試験を行った。触媒はドライガス条件下で高分解率を示したPdPt/Al、PdPt/ZrOCeOなどの貴金属担持触媒7種類と酸化物触媒の中で分解能を示したCeO、ZrOCeOを選定した。
【0068】
図13に各種触媒の実験結果を示す。Pd/Al、PdPt/Al、PdPt/ZrOなどでは、水蒸気の存在によって分解率は大きく低下し、中でもPd/Alは20%以下まで低下した。Pd/AlにPtを添加したPdPt担持触媒の4種類はPd/Alより高い分解率を示し、活性成分の複合化による効果が明らかとなった。また、担体成分の違いで比較すると、AlのみであるPdPt/Alが最も分解率は低く、次いでPdPt/ZrO、PdPt/CeO、PdPt/ZrOCeOの順序となった。これに対して、Pt/Alでは分解率70%以上を保持し、Pd/AlやPdPt担持触媒と比較して水蒸気の影響は少ないことが明らかとなった。一方、CeOに関しては、水蒸気の存在によって、むしろ分解率が向上することを見出した(表4中の(i),(ii)参照、)。
【0069】
4−2 空間速度(SV)の影響
化学工場や石油化学プラント及び各種燃焼プロセスからの排ガス中には、VOC成分とともに水蒸気が含まれ、水蒸気が触媒の劣化要因の一つとなり、触媒寿命を短くする。そのため、助触媒添加などの触媒改良によって触媒性能の向上が図られる。また、水蒸気などのガス組成以外にも触媒の滞留時間や反応温度も触媒性能を決める重要な因子となる。そこで、本実施例ではまずSVを下げることによって分解率の変化について検討した。実験条件は、図13での水蒸気導入試験と同じ条件下である反応温度300℃及びSV=6000h−1とした。触媒は、Pt/Al、PdPt/ZrOCeO、PdPt/CeOの3種類を選定した。
【0070】
図9及び図14に反応試験結果を示すように、各触媒においてSVを下げることによって分解率の上昇が確認された。PdPt/ZrOCeO、PdPt/CeOは、約65%まで分解率は上昇したが、Pt/AlのSV=12000h−1での分解率以下であった。これに対してPt/Alでは、ドライガス条件とほぼ同等の分解率が得られることが判明した。
【0071】
4−3 反応温度の影響
SVを下げることによって、Pt/Alはドライガス条件下と同等の分解性能が得られたが、PdPt/ZrOCeO、PdPt/CeOでは、Pt/AlのSV=12000h−1での分解率以下となった。そこで、PdPt/ZrOCeOについて反応温度を高めたときの変化について検討した。
【0072】
水蒸気導入試験と同じガス組成及びSV=6000h−1で反応温度を上昇させた結果を図15に示す。反応温度の上昇によって分解率は大きく上昇し、180℃でPt/Alと同等の分解率が得られることが確認された。そこでさらに、触媒をPt/Al、PdPt/ZrOCeOに絞り込み、SV=12000h−1での水蒸気導入試験において反応温度を高めた場合の変化について検討した。図15に示すようにPt/Alは180℃、PdPt/ZrOCeOでは200℃でドライガス条件と同等の分解率を得られることが明らかとなった。なお、CeOに関しては、SV=6000h−1、300℃でPt/Al、PdPt/ZrOCeOと同等の98%以上の分解率が得られることが明らかになった(図10参照)。
【0073】
以上の結果から、同じ酸化物触媒であるZrOCeO、CeOの場合には、反応温度を高くすることである程度の分解率の上昇は認められたが、SVを変化させても、分解率の変化は認められず、目標とする分解率とはほど遠い物であった。しかし、CeOに関しては、SVを6000h−1に下げ、反応温度を300℃にすることで98%以上の分解率を示したことから、CeOが貴金属担持触媒の代替となる低コストなVOC分解触媒として有望であることが明らかになった(図10、表4(v)参照)。
【0074】
これらの結果から、水蒸気を含むガス組成においても、SVが6000h−1、あるいは反応温度180℃以上にすることで、Pt/Al、PdPt/ZrOCeOはVOCの分解触媒として適用可能であることを見出した。
【0075】
4−4 CeOの反応特性
各種触媒で水蒸気の影響が大きいことが確認されたが、図16に示すようにCeOは分解率が低いものの、水蒸気の影響はほとんどない。また、Ptなどの貴金属担持触媒は高い触媒性能を有するが、その反面、高価であるため、より安価なCeOなどの酸化物触媒がコスト面から望ましい。そこで、CeOによる分解率向上を図るためにSVを6000h−1に下げて反応試験を試みた。貴金属担持触媒ではSVの効果が確認されたが、CeOでは反応初期で分解率が少し高くなったのみで、SV=12000h−1と6000h−1ともに分解率20%以下となり、SVの効果は確認されなかった。そのため、貴金属担持触媒と同様、反応温度の上昇を試みたところ、図17に示すように、反応温度220℃までは分解率において大きな変化はなかったが、250℃から徐々に上昇し、300℃でPt/Al、PdPt/ZrOCeOと同等の分解率を示すことが明らかとなった。しかしながら、反応ガスを検出能力のあまり高くないガス検知管(ガステック製)で測定したため、反応温度が250℃以上における正確な反応ガス量を測定できていない可能性が懸念された。そこで、実施例2ではガスクロマトグラフにより反応ガスの検出を行った結果、後に詳述するように、反応温度400℃、SV=5600h−1、水蒸気濃度約9%で95%の分解率となり、300℃付近では分解率は約30%程度であった。
【0076】
以上、模擬燃焼排ガス中のVOC分解触媒として、酸化物触媒、及び貴金属担持触媒
によるスクリーニングの結果、以下の結果を得た。
【0077】
(1)CO:15%、O:5%、ガス流量400ml/min(空間速度SV:12000h−1)、反応温度150℃でのベンゼン分解反応試験において、Pd/Al、Pt/Al及びPdPt/ZrOCeOなどの貴金属担持触媒は高い触媒性能を示すことが明らかとなった。
【0078】
(2)各種触媒での反応試験において、水蒸気の存在によって分解率は大きく低下することが判明した。しかし、SVの低下(12000h−1→6000h−1)、反応温度180℃以上でPt/Al、PdPt/ZrOCeOでは,ドライガス条件下と同等の触媒性能が得られることを見出した。
【0079】
(3)各種触媒の中でCeOは水蒸気の影響をほとんど受けず、なお、かつ水蒸気存在下であってSV=6000h−1、反応温度300℃のときにはPt/Al、PdPt/ZrOCeOと同等の触媒性能を示し、高価な貴金属触媒より安価なVOC分解触媒として有望であることを見出した。しかしながら、上記したように、実施例2でガスクロマトグラフにより反応ガスの検出を行った結果、反応温度400℃、SV=5600h−1、水蒸気濃度約9%で95%の分解率となり、300℃付近では分解率は約30%程度であった。
【0080】
[実施例2]
次に、セリア(CeO)が工場排ガスなどに含まれるVOCを分解する触媒として用いることができること、並びにそのときの好適な反応条件などについて実験した。実験では、VOC分解反応におけるSV、反応温度及び水蒸気濃度の影響を、VOCがベンゼン又はトルエンの場合について検討した。
【0081】
1.ベンゼン又はトルエンの分解反応試験
ベンゼン又はトルエンの分解反応試験には、図11と同じ実験装置を用いた。石英製の反応管202に触媒201としてセリア(CeO;第一稀元素化学工業,HS)を2〜2.7ml充填し、石英ウール(図示省略)により触媒201の前後を固定した。触媒201を充填した反応管202を管状電気炉203内に設置し、所定温度に昇温後、反応試験を開始した。ベンゼン(試薬特級:>99.5%,関東化学製)又はトルエン(試薬特級:>99.5%,関東化学製)はガラス製拡散管204に注入し、その後一定温度に保持し、窒素を一定流量流すことによって希釈したガスを発生させた。また、水蒸気は、水蒸気発生部205において水を一定温度でバブリングすることによって導入した。ベンゼンと水蒸気もしくはトルエンと水蒸気を含んだガスの流路は、リボンヒーターで130℃以上に保温した(図中ではリボンヒーターで加熱される部分を斜線で示している)。反応条件は、燃焼排ガス組成を想定し、15%CO、5%O及びNバランスガスの総ガス流量を250〜400ml/min(空間速度SV:5600〜12000h−1)とし、反応温度150℃により反応試験をおこなった。各種固定発生源からの排ガス中のVOC濃度は、化学工場などで数ppm〜数100ppm、廃棄物処理では数ppm〜20ppm程度と発生源によって異なるが、今回は、VOC発生部から安定供給できる範囲で制御し、ベンゼン(約30〜40ppm)又はトルエン(80、220〜230ppm)を導入した。なお、反応ガスは実施例1で用いたガス検知管(ガステック社製)ではなく、より計測精度を上げることを目的として、ガスクロマトグラフ(島津製作所:C−R14A CHROMATOPAC、検出器:FID)を用いて計測した。
【0082】
2.トルエン分解反応後の生成物分析
トルエンの分解反応後において、ガスクロマトグラフにより反応ガスの検出を行った結果、トルエン及び極微量のベンゼンが検出されたが、それら以外の成分については確認しなかった。そこで、反応後のガスを、GC−MS(横河アナリティカルシステム(株):5973A−N series GC/MSD system)により、定性分析し、トルエン分解反応後のガス組成について検討した。
【0083】
3.実験結果
3−1.ベンゼンのドライガス条件下における反応温度及びSVの影響
ベンゼンのドライガス条件下における反応温度及びSVの影響を詳細に検討した結果を図18に示す。150℃においては、SVが6000h−1以下では30〜33%、6900h-1以上では20%以下と低い分解性能を示したが、反応温度を180℃に上げると、各SVでの分解率は大きく向上し、SVが6000h−1以下では95%以上の分解率が得られた。さらに温度を上げると、分解率は緩やかに低下したが、300℃から再び上昇する傾向を示し、SVが8000h−1以下では、350℃で95%以上、400℃では99%以上の分解率が得られた。また、12000h-1においても400℃で99%以上を示した。400℃ではSV値に起因する分解率の差が認められなかったことから、400℃以上の反応温度では、SV値に影響を受けないと思われる。従って、工場等から排出されるVOCを含む排ガスが低温の場合には、熱交換器等を用いて廃熱を利用して昇温させることが好ましい。これらの結果から、より低温で目標性能を得るためにSVを5600h−1に設定することが好ましいことは判明した。そこで、以下、SVを5600h−1に設定して実験を行った。
【0084】
なお、各SVにおいて、200℃以上から分解率が低下し、300℃以上で再び分解率が上昇する温度依存性が確認された。本反応試験では、触媒入口と出口でのベンゼン濃度の差から分解率を計算している。この現象は、反応開始から200℃までは、触媒表面にベンゼンが徐々に吸着するとともに、分解反応が起こり、分解率が上昇するが、200℃を超えると、触媒表面に吸着しないベンゼンがそのまま通過するため、200℃以上では出口濃度が上がり、分解率が低下する。さらに300℃以上になると触媒表面の活性が上がることで分解率が再び上昇していると推察された。
【0085】
3−2.ベンゼン分解反応における水蒸気濃度の影響
SVが5600h−1の場合について水蒸気の影響を検討した。排ガス中において想定される水蒸気濃度は、燃焼ガスレベルの8%程度から燃焼プロセス以外の各種工場施設での排ガスレベルである2〜3%である。そこで、各種工場などの排ガスレベルの約2%から燃焼排ガスレベル以上の約10%になるよう水蒸気濃度を制御した。図19に水蒸気導入試験結果を示す。図18と比較して、水蒸気の存在により分解率の低下が確認されたが、2.07%、6.05%及び7.34%の水蒸気濃度では300℃以上からは分解率は上昇し、400℃で95%以上の分解率が得られることが確認された。また、8.84%及び10.83%の水蒸気濃度においても300℃以上から分解率は上昇し、400℃で90%以上の分解率が得られることが確認された。
【0086】
以上の結果から、水蒸気の混入によって分解率は幾分低下するものの、水蒸気濃度が11%以下の場合においては、300℃以上から分解率は向上し、400℃に上げることで十分な分解性能を示すことが確認された。すなわち、工場等からの排ガスに含まれる水蒸気濃度(2〜3%)は勿論のこと、燃焼排ガスレベルの水蒸気濃度(8%)に対しても反応温度が300℃以上であれば、CeOはベンゼン分解反応に十分に適用可能であることが確認された。
【0087】
3−3.トルエンの分解反応における反応温度の影響
ベンゼンの分解反応試験結果から、各条件下において400℃以上で90%以上の分解率を示すことが確認されたが、ベンゼン以外のVOC成分についても同様の分解性能が望まれる。そこで、VOC成分の中でも様々な用途に用いられており、VOC排出量の中でも、排出割合が高いトルエンの分解性能について検討した。トルエンの発生源となる各種工場、特に印刷、塗装施設などでは、VOC対策のニーズが高まってきており、その排出濃度は発生源によって数10ppm〜数100ppm以上と業種によって異なるが、本実験では、まず、100ppm以下での分解性能を検討した。反応条件は、トルエン濃度80ppm、反応ガスとして、15%CO、5%O及びNバランスガスの総ガス流量を250ml/min(SV:5600h−1)とし、反応温度150℃〜300℃で反応試験を行った。
【0088】
図20の符号△にドライガス条件下でのトルエン反応試験結果を示す。150℃では約35%の分解率を示したが、180℃に上げると急激に分解率は上昇し、200℃では99%以上の分解性能が得られ、ベンゼンよりも低温で高い分解率が得られることが明らかとなった。
【0089】
次に、水蒸気による影響を検討した。図20の符号○に水蒸気存在下でのトルエン反応試験結果を示す。水蒸気濃度としては、トルエンの発生源となる各種工場施設などの排ガス中の水蒸気レベルである3%以下に制御し、水蒸気を含む15%CO、5%O及びNバランスガスの総ガス流量を250ml/min(SV:5600h-1)とし、反応温度150〜300℃で試験を行った。150℃では、約8%と低い分解率であるが、ドライガス条件下と同様に180℃で大きく分解率は上昇し、180℃で95%以上、200℃で97%以上、300℃では約99%の分解性能が得られることが明らかとなった。従って、水蒸気濃度が3%以下で、トルエン濃度が80ppm以下の場合には、反応温度が180℃以上であれば、CeOはトルエン分解反応に十分に適用可能であることが確認された。また、反応温度を400℃以上にすれば、ベンゼンとトルエンの双方を99%以上分解できる。
【0090】
なお、前述のようにトルエンは多用途に使用され、排ガス中のVOC濃度も数10ppm〜100ppm以上と発生源によって異なる。そこで、入口濃度の影響を検討するために、トルエン濃度を増加させた反応試験をおこなった。トルエン濃度は、本反応装置のVOC発生部からトルエンを安定供給できる濃度範囲で制御し、約220ppmとした。図21に反応試験結果を示す。80ppmの結果同様、180℃から急激に分解率は上昇し、200℃で98%以上の分解性能を示し、入口濃度の影響がないことが確認された。
【0091】
次に、入口濃度を高濃度(220〜230ppm)にした場合のSV、水蒸気濃度の影響を検討した。図22に水蒸気濃度3%以下におけるSVが5600〜10000h−1の反応試験結果を示す。反応温度の上昇とともに各条件下での分解性能は上昇し、180℃で90%以上の分解率が得られ、300℃で95%以上の分解率が得られた。
【0092】
次に5600h−1での水蒸気濃度が約2%から10%の反応試験結果を図23に示す。反応温度を150℃から180℃に上げることで分解率は上昇し、水蒸気濃度の増加に伴い、分解性能は若干低下するが、水蒸気濃度が7%以下では90%以上の分解率を示し、水蒸気濃度が10%の場合には80%程度の分解率を示すことが明らかとなった。
【0093】
従って、水蒸気濃度が10%以下の場合には、反応温度が180℃以上であれば、CeOはトルエン分解反応に十分に適用可能であることが確認された。
【0094】
3−4.トルエン分解反応後の生成物分析
図24にトルエンの分解反応後のガスをGC−MSにより定性分析した結果を示す。この結果から、VOC成分としては未反応分のトルエンのみが検出され、それ以外のVOC成分の生成は無いことが確認された。ベンゼンが検出されなかった原因は、採取したパック等への付着もしくは経時変化によるものと考えられる。したがって、トルエンが分解反応することで、トルエン及びベンゼン以外の新たなVOCの生成は起こらないことが確認された。
【0095】
以上、VOC分解触媒としてCeOを用いた場合のVOC分解反応におけるSV、温度及び水蒸気濃度の影響を、VOCがベンゼン及びトルエンの場合について検討した結果、以下の知見を得た。
【0096】
(1)ベンゼン分解反応試験
ドライガス条件下では、400℃で99%以上の分解性能が得られ、特に、SV=5600h−1ではより低温でも97%以上と高い分解率を示すことが明らかとなった。また、SV=5600h−1での水蒸気導入試験の結果、約11%の水蒸気濃度では400℃で90%、約2%では、97%以上の分解率が得られ、各条件下において十分な分解性能が確認された。
【0097】
(2)トルエン分解反応試験
ドライガスでは180℃以上で分解性能98%以上を示し、水蒸気導入試験(水蒸気濃度3%、SV:5600h−1)においても、180℃以上で分解性能95%以上を示した。また、入口濃度(80ppm、220ppm)を変化させた場合でも分解性能に影響はないことが確認された。さらに、SVが10000h-1以下(水蒸気濃度3%以下)の場合には、反応温度180℃で90%以上の分解性能を示し、水蒸気濃度10%以下(SV:5600h−1)では、反応温度180℃で80%以上の分解性能を示すことが明らかとなった。従って、VOC分解触媒としてCeOが十分適用可能であることが確認された。
【0098】
また、反応生成ガスをGC−MS分析した結果、未反応分のトルエンのみが検出され、それ以外のVOC成分の生成は無いことが確認された。すなわち、トルエンが分解反応することで、トルエン及びベンゼン以外の新たなVOCの生成は起こらないことが確認された。
【0099】
なお、以上の結果はベンゼンの場合にはガス中の水蒸気濃度が11%以下、トルエンの場合には10%以下という条件下で得られたものであるが、これは水蒸気が存在するという条件の一例に過ぎず、本発明が適用可能な条件はこれらには限られず、水蒸気濃度が異なる範囲であってもあるいはドライガスにおいても、VOC分解触媒としてCeOが十分適用可能である。
【0100】
また、本明細書における「ガス中に水蒸気が存在する条件」は、例えば化石燃料の燃焼排ガスのように元来排ガス中に水蒸気が含まれているような場合はもちろん、人為的に水蒸気を導入した場合も含まれる。したがって、例えば従来の貴金属担持触媒によるVOC処理の場合のように、ドライガスに対し人為的に水蒸気を注入して水蒸気混入状態としたガスに対しても、VOC分解触媒としてCeOが十分適用可能である。
【0101】
[実施例3]
上述したように、VOC分解触媒としてCeOが十分適用可能であることから、CeOを用いたVOC分解除去装置を作成し、その分解能を測定した。
【0102】
1.分解除去装置の作成
長さ152mm、幅22mm、厚さ1mmの耐熱ガラス310上に、シール材としてリジダイザー(株式会社東京マテリアルス社製)を塗布した後、その上にCeOの粉末を散布し、空気雰囲気下、300℃で2時間熱処理して、図25に示すような厚さ約0.5mmの触媒層320が一方の表面に設けられた試験片を得た。
【0103】
この試験片を2枚作成し、図26に示すような試験装置300を作成した。具体的には、各試験片の他方の表面に板状のヒータ330を取付け、触媒層320が設けられた表面を対向させるように2枚の試験片を矩形状の筒350内に配置して試験装置300を作成した。
【0104】
2.トルエン分解除去試験
上述した試験装置300において、ヒータ330で各試験片を加熱しつつ、250ml/minの流量で、表6に示す成分からなる排ガスを流し、この試験装置による排ガスの分解率を試験片の温度ごとに測定した。
【0105】
【表6】

【0106】
得られた結果を図27に示す。ここで、AVとは、[ガス流量(m/h)]/[触媒面積(m)]で算出される数値(m/h)である。図27に示すように、試験片の温度が200℃以上になると、分解率が80%以上になり、特に300℃では95%程度になることが分かった。すなわち、この試験装置では、試験片の温度が200〜300℃であれば、充分にトルエンを分解できることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】実施形態1に係る排気ダクトを示す概略図である。
【図2】図1に示すA−A’面における分解除去装置の概略断面図である。
【図3】図2に示すB−B’面における分解除去装置の概略断面図である。
【図4】実施形態1に係る板状部材の概略断面図である。
【図5】実施形態1に係る板状部材の一例を示す概略断面図である。
【図6】実施形態2に係る分解除去装置の概略断面図である。
【図7】図6に示す部分Xを拡大した概略拡大断面図である。
【図8】実施形態2に係る内壁部材の一例を示す概略拡大断面図である。
【図9】実施例1におけるベンゼン分解反応試験の結果(SVの効果)を示すグラフである。
【図10】実施例1におけるベンゼン分解反応試験の結果(反応温度の効果)を示すグラフである。
【図11】実施例1におけるVOC分解反応試験装置の構成図である。
【図12】実施例1におけるベンゼン分解反応試験の結果を示すグラフである。
【図13】実施例1における水蒸気導入試験の結果を示すグラフである。
【図14】実施例1におけるベンゼン分解反応試験の結果(SVの効果)を示すグラフである。
【図15】実施例1におけるベンゼン分解反応試験の結果(反応温度の効果)を示すグラフである。
【図16】実施例1におけるCeOでの水蒸気の影響を示すグラフである。
【図17】実施例1におけるCeOでの反応の影響を示すグラフである。
【図18】実施例2におけるベンゼン分解反応試験の結果(ドライガスでのSVの影響)を示すグラフである。
【図19】実施例2におけるベンゼン分解反応試験の結果(水蒸気の影響)を示すグラフである。
【図20】実施例2におけるトルエン分解反応試験の結果(水蒸気の影響)を示すグラフである。
【図21】実施例2におけるトルエン分解反応試験の結果(入口濃度の影響)を示すグラフである。
【図22】実施例2におけるトルエン分解反応試験の結果(SVの影響)を示すグラフである。
【図23】実施例2におけるトルエン分解反応試験の結果(水蒸気の影響)を示すグラフである。
【図24】実施例2におけるトルエンの分解反応後のガスをGC−MSにより定性分析した結果を示す図である。
【図25】実施例3における試験片の概略断面図である。
【図26】実施例3における分解除去装置の概略断面図である。
【図27】実施例3における分解率と温度との関係を示すグラフである。
【図28】従来の分解除去装置の概略図である。
【符号の説明】
【0108】
1、1A 分解除去装置
10 外壁
20 板状部材
20A、20B 内壁部材
21、21A、21B ヒータ
22、22A ガス処理流路
25、25A、25B 触媒層
27 基材
28 境界部
29 加熱室
50 電源
100 排気ダクト
201 触媒
202 反応管
203 管状電気炉
204 ガラス製拡散管
205 水蒸気発生部
206 水トラップ
207 活性炭
300 試験装置
310 耐熱ガラス
320 触媒層
330 ヒータ
350 筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスの流路内に設けられて当該排ガス中に含有される揮発性有機化合物を分解除去する分解除去装置であって、基体と、この基体を直接又は間接的に加熱する加熱手段と、前記基体の表面に設けられたセリアからなる触媒層とを具備することを特徴とする分解除去装置。
【請求項2】
請求項1記載の分解除去装置において、前記加熱手段が、前記基体又は前記基体に接触して設けられた加熱媒体に通電することにより加熱する電気ヒータであることを特徴とする分解除去装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分解除去装置において、前記基体が板状部材であり、その両面に前記触媒層が設けられていることを特徴とする分解除去装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の分解除去装置において、前記基体が、長手方向に連通する複数のガス処理流路を具備するハニカム形状の部材であり、前記ガス処理流路の内周面に前記触媒層が設けられていることを特徴とする分解除去装置。
【請求項5】
請求項4に記載の分解除去装置において、前記ガス処理流路が複数接触する境界部に前記長手方向に亘って設けられた加熱室が設けられ、この加熱室内に前記加熱手段が設けられていることを特徴とする分解除去装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の分解除去装置において、前記加熱手段は、前記触媒層を200〜300℃の所定の温度に加熱することを特徴とする分解除去装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の分解除去装置を、環境空気を外部に排出する排気流路の途中に設け、前記加熱手段により200〜300℃の所定温度に前記触媒層を加熱することを特徴とする分解除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2007−175612(P2007−175612A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−376575(P2005−376575)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】