説明

分離膜、分離膜エレメント、および膜ろ過装置、ならびにそれを用いた下廃水処理方法

【課題】 運転開始直後でも透過水に大腸菌などの菌が漏洩することのない、極めて高い安全性を有する透過水が得られる分離膜を提供する。
【解決手段】 平均孔径がd1av、最大孔径がd1maxのろ過材1および平均孔径がd2av、最大孔径がd2maxのろ過材2からなり、式(1)かつ式(2)を満足する分離膜。
1av<d2av ・・・式(1)
1max>d2max ・・・式(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や湖水、海水などの浄化、ならびに、下水(炊事、洗濯、風呂、トイレ、その他の生活環境から生ずる生活排水)や、生産工場、レストラン、水産加工場、食品加工場などから生ずる廃水の浄化、さらには、培養液のろ過など生物科学分野のろ過に用いられる分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
精密ろ過膜や限外ろ過膜などの分離膜は食品工業や医療分野、用水製造、排水処理分野等をはじめとして様々な方面で利用されている。例えば飲料水製造分野すなわち浄水処理過程においては、分離膜を用いることによって、従来の浄水処理における殺菌技術である塩素処理で死なないクリプトスポリジウムなどの病原性微生物を完全に阻止でき、安全で水質良好な飲料水を得ることが可能になるためである。また、近年、下水や廃水の浄化にも分離膜が使われるようになってきている。そのような分離膜には、いろいろな種類、形態のものがあるが、樹脂溶液を、織布や不織布のような多孔質基材の表面に塗布したり、多孔質基材に含浸したりした後、樹脂を凝固させるとともに多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を形成してなる、いわゆる精密ろ過膜と称される平膜が注目され、従来下廃水処理技術である活性汚泥槽の中に直接精密ろ過膜を浸漬して、高速・高効率の処理を行う膜分離活性汚泥法(メンブレンバイオリアクター法)が盛んに研究され(例えば、特許文献1参照)、一部実用化が開始されている。
【0003】
精密ろ過膜や限外ろ過膜は、原理上非常に高精度の固液分離能を有するが、実用処理規模の大膜面積の膜エレメントの場合、多孔質樹脂層の分離膜孔径には分布があるため、ごく僅かにピンホールを有していたり、また加えて、分離膜においては、使用中に砂のような無機物や汚泥、その他の固形物が激しく衝突したり、活性汚泥への酸素の供給や目詰まり防止のために行うエアレーション操作による気泡が膜面に激しく衝突したりするので、そのような衝撃によっても多孔質樹脂層に極微少の傷が生じることがある。これらピンホールや極微少の傷は、ろ過中に被処理水中の濁質や活性汚泥などで閉塞し、実用上の透過水水質には影響を与えないが、処理水の完全除菌が求められる用途においては、ろ過の初期や、分離膜の薬液洗浄後の運転開始時に大腸菌などの微生物が漏れる問題があった。
【0004】
特許文献2には、中空糸膜モジュールによる膜分離において、中空糸膜が破損したとしても、透過成分の汚染を抑制し、円滑に膜分離をする目的で、中空糸膜の平均孔径よりも10倍以上の大きさであって、100μm以下の平均孔径を有する分離膜で構成された筒体で中空糸膜束を覆った中空糸膜モジュールの技術が開示されている。しかしながら特許文献2では、1〜100μmといった比較的大きな孔径の分離膜によって、中空糸膜損傷時の透過成分の汚染を抑制することが述べられていること、さらに分離膜の孔径分布に関する議論はいっさいされておらず、かつ最大孔径に関する規定がないことから、本出願で問題にしている大腸菌などの微生物漏洩防止を該技術により達成することは不可能である。
【0005】
特許文献3には、分離膜が損傷したとしても、速やかにリークを検知して、膜分離装置の運転を制御し、透過成分の汚染や濃縮成分の濃縮率の低下を抑制する目的で、分離膜1からリークした被処理流体を、第一の分離膜1よりも大きな平均孔径を有する第二の分離膜2に供給する技術が開示されているが、該技術においても分離膜の孔径分布に関する議論はいっさいされておらず、かつ最大孔径に関する規定がないことから、本出願で問題にしている大腸菌などの微生物漏洩防止を該技術により達成することは不可能である。
【特許文献1】特開2004−313923号公報
【特許文献2】特開平6−226057号公報
【特許文献3】特開平7−47236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来の技術の問題点を解決し、運転開始直後でも透過水に大腸菌などの菌が漏洩することのない、極めて高い安全性を有する透過水が得られる分離膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、透過水に全く菌が漏れることのない分離膜を発明するに至った。すなわち本発明は、
(1)平均孔径がd1av、最大孔径がd1maxのろ過材1および平均孔径がd2av、最大孔径がd2maxのろ過材2からなり、d1av<d2avかつd1max>d2maxを満足する分離膜。
【0008】
(2)被処理水がろ過材1を透過した後、ろ過材2を透過するように構成された前記分離膜。
【0009】
(3)d2maxが0.1μm以上2μm以下である前記分離膜。
【0010】
(4)d1avが0.001μm以上1μm以下である前記分離膜。
【0011】
(5)ろ過材1が多孔質樹脂層を含む分離膜である前記分離膜。
【0012】
(6)多孔質樹脂層がポリフッ化ビニリデンを主成分とする樹脂からなる前記分離膜。
【0013】
(7)前記分離膜を有する分離膜エレメント。
【0014】
(8)前記分離膜を有する膜ろ過装置。
【0015】
(9)前記分離膜エレメントを有する膜ろ過装置。
【0016】
(10)平均孔径がd1av、最大孔径がd1maxのろ過材1を透過させた後で、平均孔径がd2av、最大孔径がd2maxのろ過材2を透過させる、式(1)かつ式(2)を満足する膜ろ過装置。
1av<d2av ・・・式(1)
1max>d2max ・・・式(2)
(11)(1)〜(6)のいずれかに記載の分離膜を用いた下廃水処理方法。
【0017】
(12)(7)に記載の分離膜エレメントを用いた下廃水処理方法。
【0018】
(13)(8)〜(10)に記載の膜ろ過装置を用いた下廃水処理方法。
からなるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、分離膜において、d1av<d2avかつd1max>d2maxを満足する、平均孔径がd1av、最大孔径がd1maxのろ過材1、および平均孔径がd2av、最大孔径がd2maxのろ過材2を組み合わせることで、例えば多孔質樹脂層の分離膜にごく僅かに有するピンホールや、使用中の砂のような無機物や汚泥、その他の固形物が激しく衝突することによって生じる多孔質樹脂層の極微少の傷からの大腸菌などの菌の漏れを完全に防止することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の分離膜は、図1、図2に示すとおり、d1av<d2avかつd1max>d2maxを満足する、平均孔径がd1av、最大孔径がd1maxのろ過材1、および平均孔径がd2av、最大孔径がd2maxのろ過材2を組み合わせることで得られる。また、図4に示すようなろ過材1を透過させた後、ろ過材2に導いてろ過する膜ろ過装置も好ましく採用でき、また、これを用いて下廃水処理を行うことも好ましく採用できる。
【0021】
ろ過材1は、一般に精密ろ過膜や限外ろ過膜と呼ばれる平膜であれば特に限定はされないが、その平均孔径d1avは0.001μm以上1μm以下、ろ過における分離性能と透水性能のバランスを考慮した場合には、0.01μm以上1μm以下が好ましい。そうすることで多孔質樹脂層を含むろ過材1からの菌体の漏れを極僅かにすることができるため、ろ過材2への菌除去の負荷を減らすことが可能となり、分離膜全体としても除菌性能が向上するので好ましい。
【0022】
ここで平均孔径d1avは、次のように求める。逆浸透膜透過水、蒸留水などの精製水に任意の平均粒径dのポリスチレンラテックス微粒子を10ppm程度の濃度になるように分散させてなる原液を用い、原液を撹拌しながら温度25℃、10kPa程度のろ過差圧を駆動力に分離膜を透過させ、原液と透過液についてそれぞれの濃度から、式(3)によって阻止率を求める。
【0023】
阻止率=[(原液濃度−透過液濃度)/原液濃度]×100 ・・・式(3)
異なる4種類以上の平均粒径dのポリスチレンラテックス微粒子について阻止率を求め、ポリスチレンラテックス微粒子平均粒径dと阻止率の関係をプロットしてなめらかに結び、阻止率が90%となるポリスチレンラテックス微粒子の平均粒径dを平均孔径d1avとする。
【0024】
ろ過材1の材質は、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能が得られれば特に限定はされないが、阻止性能、透水性能や耐汚れ性といった分離性能の点からは多孔質樹脂層を含む分離膜であることが好ましく採用できる。多孔質樹脂層の材質としてはポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂、セルローストリアセテート系樹脂などからなれば良く、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。中でも、溶液による製膜が容易で、物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂が好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とするものが最も好ましい。ここで、フッ化ビニリデン系樹脂とは、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられるが、フッ化ビニリデンの単独重合体の他、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。かかるビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
【0025】
ろ過材2は、多孔質樹脂層からなるろ過材1を透過した清澄なろ過水がろ過されて除菌が行われれば良く、材質に関しては特に限定されないがセルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布や、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂、セルローストリアセテート系樹脂などを用いてなる限外ろ過膜や精密ろ過膜、ステンレスなどの金属製の焼結フィルター、また糸巻きやプリーツタイプの円筒型カートリッジフィルターなどが採用できる。ろ過材2は、除菌性能が維持されるだけでよく、ろ過材1(例えば多孔質樹脂層を含む分離膜)のろ過水をろ過するだけであり、汚れによる閉塞も起こらないので、耐汚れ性などの機能は不要であり、除菌性能以外は低機能で安価なろ過材が好ましい。
【0026】
そのようなろ過材2の最大孔径d2maxは、対象とする被処理水中に含まれる菌の大きさよりも小さくなるように選べばよく、かつ、ろ過材1の最大孔径d1maxよりも小さいことが、本発明の特徴である。そうすることで、分離膜1の僅かな欠点から漏れだした菌をろ過材2で捕捉でき、分離膜全体の透過水に菌が漏れ出すことがない。またろ過材2の平均孔径d2avはろ過材1の平均孔径d1avより大きくすることで、透過抵抗を小さくすることが可能となり、経済性が確保できる。
【0027】
例えば、大腸菌の漏れを防ぐためには、一般的な大腸菌の大きさが1μm×2μm程度の円柱状であるためろ過材2の最大孔径d2maxは2μm程度以下が好ましい。また、下廃水中の最小の菌が0.5μm程度であることを考慮すると、d2maxは0.1μm以上で良い。最大孔径はバブルポイントによる最大孔径によって決められる必要がある。なおバブルポイントの測定方法は、基本的にはJIS K 3832(1990)に準じる。
【0028】
本発明の分離膜は、好ましくは、多孔質樹脂層を含む1枚のろ過材1に1枚のろ過材2を、例えば図3に示すような袋状に組み合わせることにより得られる。また、極めて高い安全性を確保したい場合などは、ろ過材2を複数枚組み合わせても良い。
【0029】
ろ過材1とろ過材2の組合せ方法も菌の漏れが確認されなければ特に限定はされないが、ウレタンやエポキシなどの樹脂接着剤や超音波融着、レーザー融着、熱融着などによる接着が好ましく採用できる。さらに分離膜エレメントの製造時に、分離膜エレメント部材と多孔質基材、多孔質樹脂層を含む分離膜を同時に接着することも簡便、安価であり好ましく採用できる。また、ろ過材1を透過した透過水を単にろ過材2に通すことも採用できる。
【0030】
本発明の分離膜は、透過水の取出口を有する枠体などの支持体の両面に、流路材、たとえばプラスチックネットを介して貼り合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。さらに、この分離膜エレメント複数枚をユニット化して水槽に沈め、分離膜エレメントの下部から分離膜の表面に空気を供給できる散気管を設け、複数の分離膜エレメントの透過水を集水できる配管と吸引ろ過するためのポンプ等を有する膜ろ過装置とすることもできる。また、上述の分離膜、分離膜エレメント、膜ろ過装置を下廃水の処理に用いることも好ましく、本発明の下廃水処理方法として採用できる。
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0032】
[d1av,d2av,d1max,d2maxの測定方法]
平均孔径d1av、d2avは、ポリスチレンラテックスの阻止曲線から求める。すなわち、逆浸透膜透過水、蒸留水などの精製水に任意の平均粒径dのポリスチレンラテックス微粒子を10ppm程度の濃度になるように分散させてなる原液を用い、原液を撹拌しながら温度25℃、10kPa程度のろ過差圧を駆動力に分離膜を透過させ、原液と透過液についてそれぞれの濃度から、式(3)によって阻止率を求める。濃度の測定には例えば波長240nmの紫外線の吸光度などを使うことができる。
【0033】
阻止率=[(原液濃度−透過液濃度)/原液濃度]×100・・・式(3)。
【0034】
異なる4種類以上の平均粒径dのポリスチレンラテックス微粒子について阻止率を求め、ポリスチレンラテックス微粒子平均粒径dと阻止率の関係をプロットしてなめらかに結び、阻止率が90%となるポリスチレンラテックス微粒子の平均粒径dを平均孔径d1avとする。
【0035】
最大孔径d1max,d2maxについては、JIS K 3832に準じたバブルポイント法により求める。具体的には、水中で膜の透過側から空気圧を徐々に加えていき、初めて連続的に空気が漏れるときの圧力をバブルポイントとして記録し、式(4)によって最大孔径に変換する。
【0036】
最大孔径(μm)=4×測定液体の表面張力(N/m)/バブルポイント(kPa)・・・・式(4)。
ここで、25℃の水を用いてバブルポイントを測定する場合は、25℃の水の表面張力は0.072N/mとした。膜の孔径や化学的性質によってはイソプロパノールのようなアルコールなどを用いても良い。
【0037】
[大腸菌群の測定方法]
2001年度版上水試験方法において収載されたECブルーを培地とした測定方法、すなわち、日本製薬株式会社製ECブルー−100「ニッスイ」を用いて、膜透過水の大腸菌群の測定を行った。EC培地が培地が入った培養容器に100mLの膜透過水を無菌的に分取して蓋をし、よく攪拌して培地を完全に溶かす。35℃以上37℃以下程度で24時間培養した後、青〜青緑色の呈色を判定する。青〜青緑色の呈色が認められた場合は、大腸菌群陽性と判断する。
【実施例】
【0038】
表1に実施例1〜3、比較例1〜4のろ過材1およびろ過材2の平均孔径と最大孔径、バブルポイントと膜透過水の大腸菌群の結果を表1に整理した。
【0039】
(実施例1)
ろ過材1としてポリフッ化ビニリデン樹脂を含む、平均孔径が0.1μm、最大孔径が10μmの分離膜を、またろ過材2として平均孔径が0.45μm、最大孔径が1.8μmのADVANTEC社製セルロースアセテートタイプメンブレンフィルターC045Aをエポキシ樹脂製接着剤で張り合わせた分離膜を作成した。ろ過材1は重量平均分子量約25万のポリフッ化ビニリデン樹脂13重量%、数平均分子量約400のポリエチレングリコール5重量%とN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)82重量%からなる40℃の製膜原液をポリエステル不織布(密度0.48g/cm、厚み約200μm)に塗布し、30℃の水で凝固せしめた後、水洗、熱処理を行いDMAcを脱溶媒して作製した。該膜を用いてMLSS濃度10000mg/Lの活性汚泥を膜ろ過流束1.5m/日で常時散気しながらろ過したところ、膜透過水から大腸菌群は検出されなかった。また、初期ろ過差圧は7kPaと低く、ろ過差圧上昇速度が0.09kPa/日と小さく安定に運転することができた。
【0040】
(比較例1)
実施例1と同一のろ過材1を用い、ろ過材2を用いずに実施例1と同様に活性汚泥をろ過したところ、膜透過水から大腸菌群を検出した。
【0041】
(比較例2)
実施例1で用いたろ過材2のみで実施例1と同様に活性汚泥をろ過したところ、膜透過水からの大腸菌群の漏れはなかったが、ろ過差圧上昇速度が2.3kPa/日と大きく安定運転ができなかった。
【0042】
(実施例2)
ろ過材1としてポリフッ化ビニリデン樹脂を含む、平均孔径が0.08μm、最大孔径が7.5μmの分離膜を、またろ過材2として平均孔径が0.45μm、最大孔径が1.8μmのADVANTEC社製セルロースアセテートタイプメンブレンフィルターC045Aをエポキシ樹脂製接着剤で張り合わせた分離膜を作成した。ろ過材1は重量平均分子量約25万のポリフッ化ビニリデン樹脂13重量%、数平均分子量約10,000のポリエチレングリコール3重量%とDMAc84重量%からなる40℃の製膜原液をポリエステル不織布に塗布し、30℃の水で凝固せしめた後、水洗、熱処理を行いDMAcを脱溶媒して作製した。該膜を用いてMLSS12000mg/Lの活性汚泥を、膜ろ過流束1.5m/日で常時散気しながらろ過したところ、膜透過水から大腸菌群は検出されなかった。また、初期ろ過差圧は9kPaと低く、ろ過差圧上昇速度が0.1kPa/日と小さく安定に運転することができた。
【0043】
(比較例3)
実施例2と同一のろ過材1と平均孔径が3.0μm、最大孔径が8.8μmのADVANTEC社製セルロースアセテートタイプメンブレンフィルターC300Aをエポキシ樹脂製接着剤で張り合わせた分離膜を作成した。該膜を用いて活性汚泥をろ過したところ、膜透過水から大腸菌群が検出された。
【0044】
(比較例4)
実施例2と同一のろ過材1と平均孔径が0.05μm、最大孔径が0.17μmのMILLIPORE社製セルロース混合エステルメンブレンフィルター、“MF−ミリポア“タイプVMをエポキシ樹脂製接着剤で張り合わせた分離膜を作成した。実施例2と同様に該膜を用いてMLSS12000mg/Lの活性汚泥を、膜ろ過流束1.5m/日で常時散気しながらろ過したところ、膜透過水から大腸菌群は検出されなかったが、初期ろ過差圧は17kPaと高かった。ろ過差圧上昇速度も1.3kPa/日と大きく安定運転ができなかった。
【0045】
(実施例3)
図4に示すように、比較例1の透過水をろ過材2として平均孔径が0.45μm、最大孔径が1.3μmのADVANTEC社製アセテートメンブレンカートリッジフィルターTCR−045に導きろ過したところ、膜透過水から大腸菌群は検出されなかった。
【0046】
(実施例4)
重量平均分子量約40万のポリアクリロニトリル10重量%とジメチルスルフォキシド(DMSO)90重量%からなる40℃の製膜原液をポリエステル不織布に塗布し、30℃、10重量%のDMSO水溶液で凝固せしめた後、水洗、熱処理を行いDMSOを脱溶媒して得た平均孔径が0.02μm、最大孔径が3.0μmの分離膜をろ過材1とし、実施例1に記載のろ過材2をエポキシ樹脂接着剤で張り合わせて分離膜を作製した。該膜を用いてMLSS濃度10000mg/Lの活性汚泥を膜ろ過流束0.6m/日で常時散気しながらろ過したところ、膜透過水から大腸菌群は検出されなかった。また、初期ろ過差圧は8kPaと低く、ろ過差圧上昇速度が0.1kPa/日と小さく安定に運転することができた。
【0047】
(実施例5)
ポリスルフォン(ソルベイ社製ユーデルP3500)13重量%、重量平均分子量約4万ポリビニルピロリドン(PVP)3%とジメチルフォルムアミド(DMF)84重量%からなる60℃の製膜原液をポリエステル不織布に塗布し、25℃の水で凝固せしめた後、水洗、熱処理を行いDMFを脱溶媒して得た平均孔径が0.04μm、最大孔径が4.0μmの分離膜をろ過材1とし、実施例1に記載のろ過材2をエポキシ樹脂接着剤で張り合わせて分離膜を作製した。該膜を用いてMLSS濃度10000mg/Lの活性汚泥を膜ろ過流束1.0m/日で常時散気しながらろ過したところ、膜透過水から大腸菌群は検出されなかった。また、初期ろ過差圧は8kPaと低く、ろ過差圧上昇速度が0.12kPa/日と小さく安定に運転することができた。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の分離膜、分離膜エレメント、および膜ろ過装置は、運転開始直後でも透過水に大腸菌などの菌が漏洩することのない、極めて高い安全性を有する透過水が比較的簡便、安価に得られる技術であり、産業上の利用の可能性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の分離膜の一態様を示す概略図
【図2】本発明の分離膜の一態様の構造を説明する図
【図3】本発明の好ましい分離膜の一態様を示す概略図
【図4】本発明の膜ろ過装置の一様態を説明する図
【符号の説明】
【0051】
1 ろ過材1
2 ろ過材2
3 透過水の取出口
4 支持体
5.活性汚泥槽
6.散気管
7.吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均孔径がd1av、最大孔径がd1maxのろ過材1および平均孔径がd2av、最大孔径がd2maxのろ過材2からなり、式(1)かつ式(2)を満足する分離膜。
1av<d2av ・・・式(1)
1max>d2max ・・・式(2)
【請求項2】
被処理水がろ過材1を透過した後、ろ過材2を透過するように構成された請求項1記載の分離膜。
【請求項3】
2maxが0.1μm以上2μm以下である請求項1または2記載の分離膜。
【請求項4】
1avが0.001μm以上1μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の分離膜。
【請求項5】
ろ過材1が多孔質樹脂層を含む分離膜である請求項1〜4のいずれかに記載の分離膜。
【請求項6】
多孔質樹脂層がポリフッ化ビニリデンを主成分とする樹脂からなる請求項5に記載の分離膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の分離膜を有する分離膜エレメント。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の分離膜を有する分離膜ろ過装置。
【請求項9】
請求項7に記載の分離膜エレメントを有する膜ろ過装置。
【請求項10】
平均孔径がd1av、最大孔径がd1maxのろ過材1を透過させた後で、平均孔径がd2av、最大孔径がd2maxのろ過材2を透過させる、式(1)かつ式(2)を満足する膜ろ過装置。
1av<d2av ・・・式(1)
1max>d2max ・・・式(2)
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の分離膜を用いた下廃水処理方法。
【請求項12】
請求項7に記載の分離膜エレメントを用いた下廃水処理方法。
【請求項13】
請求項8〜10に記載の膜ろ過装置を用いた下廃水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−204995(P2006−204995A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18114(P2005−18114)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】