説明

分離膜の耐塩素性推定方法

【課題】従来の耐塩素性推定方法と比較して、高い精度で簡便に耐塩素性を推定できる分離膜の耐塩素性推定方法を提供する。
【解決手段】分離膜の耐塩素性を推定する方法であって、異なる濃度の塩素系物質を含有する複数の評価水に分離膜を各々浸漬させて耐塩素性を評価した後、前記評価により得られた複数の耐塩素性評価値から、評価水中の塩素系物質濃度の増加に伴って耐塩素性評価値が増加する相関関係を示す回帰式を作製し、前記回帰式により、特定濃度の塩素系物質を含有する被処理水に対する分離膜の耐塩素性評価値を求めることを特徴とする分離膜の耐塩素性推定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜の耐塩素性推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、海水を淡水化したり、超純水や各種製造プロセス用水を得る方法として、例えば、逆浸透膜(RO膜)やナノろ過膜(NF膜)を分離膜とするモジュールを用い、原水中からイオン成分や低分子成分を分離する方法が知られている。
【0003】
上記逆浸透膜(RO膜)やナノろ過膜(NF膜)等の分離膜は、表面にスキン層(分離活性層)と呼ばれる緻密層を有しており、スキン層としては、現在、ポリアミド系素材からなるものが主流となっている。
【0004】
これら分離膜は、各種水処理を安定して簡易かつ安価に行い得るものであること、例えば、各種酸化剤、特に塩素による洗浄に耐え得る耐久性を有することが求められているが、上記ポリアミド系素材からなるスキン層を有するものは、実用的な耐酸化性を持たず、酸化剤による劣化が問題となることがある。
【0005】
上記RO膜やNF膜は、特に、原水中に次亜塩素酸ナトリウムをはじめとする塩素系物質が含まれる場合や、原水の酸化還元電位(ORP)が高い場合に、膜の劣化速度が早まることから、近年、耐塩素性(塩素系物質に対する耐久性)を高めたRO膜の開発が行われるようになっている(例えば、特許文献1(特開2003−80042号公報)参照)。
【0006】
ところで、上記分離膜は、実際には、ppm〜ppbオーダーの塩素系物質含有水に対し、例えば、数万〜数十万時間程度の耐久性を有するものであることから、その耐塩素性を評価することは容易でない。このため、従来より、膜の耐塩素性を評価する方法として、分離膜を比較的高濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬して、膜分離能を維持し得る耐久時間を測定した上で、用いた次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度(Concentration)と、耐久時間(Time)の積により、いわゆるCT値(ppm・h)を求め、このCT値を耐塩素性の指標として用いる方法が採用されている。
【0007】
上記耐塩素性の指標となるCT値は、例えば、測定対象となる分離膜を、100mgCl/L(100ppm)の濃度を有する次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬して、経時的に劣化の程度を観察した場合に、100時間(100h)まで耐久性を有していた場合には、CT値が10000(ppm・h)であるとし(100(ppm)×100(h)=10000(ppm・h))、この10000(ppm・h)のCT値を有する分離膜を1mgCl/L(1ppm)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬する場合には、上記CT値を利用して、10000(ppm・h)/1(ppm)=10000(h)という算出式から、10000時間まで耐久性(耐塩素性)を有すると推定している。
【0008】
上記耐塩素性の推定方法は、用いる次亜塩素酸ナトリウムの濃度に関わらず、耐塩素性の指標となるCT値は一定であるという前提で成立しており、次亜塩素酸ナトリウムの濃度(C)が高くなれば耐久時間(T)が短くなり、次亜塩素酸ナトリウムの濃度(C)が低くなれば耐久時間(T)が長くなって、当業界においては、分離膜の耐塩素性を評価し、分離膜の塩素系物質に対する耐久時間を推定する方法として、非常に有用な方法であるとされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−80042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下、本発明は、当業界の常識を覆す、分離膜の耐塩素性を推定する全く新規な方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、上記CT値は、用いる塩素系物質の濃度に関わらず一定である訳ではなく、塩素系物質濃度の変化に伴って変化することを見出すとともに、上記CT値は、塩素系物質含有水中の塩素系物質濃度の増加に伴って増加する関係にあることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)分離膜の耐塩素性を推定する方法であって、
異なる濃度の塩素系物質を含有する複数の評価水に分離膜を各々浸漬させて耐塩素性を評価した後、
前記評価により得られた複数の耐塩素性評価値から、評価水中の塩素系物質濃度の増加に伴って耐塩素性評価値が増加する相関関係を示す回帰式を作製し、
前記回帰式により、特定濃度の塩素系物質を含有する被処理水に対する分離膜の耐塩素性評価値を求めること
を特徴とする分離膜の耐塩素性推定方法、
(2)前記評価水中の塩素系物質の濃度がいずれも10mgCl/L以上であり、前記被処理水中の塩素系物質の濃度が10mgCl/L未満である上記(1)に記載の分離膜の耐塩素性推定方法、
(3)評価水の数が5以上である上記(1)または(2)に記載の耐塩素性推定方法、
(4) 前記回帰式が、一次回帰式または二次回帰式である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法、
(5)前記耐塩素性評価値が、塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される上記(1)〜(4)のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法、
(6)前記塩素系物質が、次亜塩素酸ナトリウムである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法、
(7)前記分離膜が、逆浸透膜またはナノろ過膜である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法、
(8)前記分離膜が、平面状またはスパイラル状である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法、
(9)前記分離膜が、芳香族ポリアミド系素材含有物からなる上記(1)〜(8)のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、異なる濃度の塩素系物質を含有する複数の評価水に分離膜を各々浸漬させて耐塩素性を評価した後、該評価により得られた分離膜の複数の耐塩素性評価値から、評価水中の塩素系物質濃度の増加に伴って耐塩素性評価値が増加する相関関係を示す回帰式を作製し、この回帰式により、特定濃度の塩素系物質を含有する被処理水に対する分離膜の耐塩素性評価値を求めるという斬新な方法によって、従来の耐塩素性評価方法に比べ、高い精度で簡便に分離膜の耐塩素性を推定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例および比較例で用いた耐塩素性評価装置(平膜試験装置)の模式図である。
【図2】本発明の実施例で用いた耐塩素性評価装置(通水試験装置)の模式図である。
【図3】本発明の実施例で用いた分離膜の阻止率を示す図である。
【図4】本発明の実施例で用いた分離膜の阻止率を示す図である。
【図5】本発明の実施例で用いた分離膜の阻止率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の分離膜の耐塩素性推定方法は、異なる濃度の塩素系物質を含有する複数の評価水に分離膜を各々浸漬させて耐塩素性を評価した後、前記評価により得られた複数の耐塩素性評価値から、評価水中の塩素系物質濃度の増加に伴って耐塩素性評価値が増加する相関関係を示す回帰式を作製し、前記回帰式により、特定濃度の塩素系物質を含有する被処理水に対する分離膜の耐塩素性評価値を求めることを特徴とするものである。
【0016】
本発明において、耐塩素性を推定する分離膜としては、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜等を挙げることができ、このうち、塩素による劣化を受けやすい逆浸透膜またはナノろ過膜に対して本発明の方法を適用することが好ましい。分離膜の形状は、特に制限されないが、平面状あるいはスパイラル状であることが適当である。分離膜の素材も特に制限されず、セルロース系、ポリスルホン系、ピペラジン系、ポリアミド系、芳香族ポリアミド系の素材を含有するものであることが好ましく、特にスキン層(緻密層)がポリアミド系素材からなるものが、塩素による劣化を受け易いことから、本発明の方法を適用することが好ましい。
【0017】
本発明においては、上記分離膜を、異なる濃度の塩素系物質を含有する複数の評価水に浸漬させて、耐塩素性(塩素系物質に対する耐久性)を評価する。
【0018】
本発明において、塩素系物質とは、酸化性を有する塩素または塩素化合物を意味し、例えば、液体塩素、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸塩、晒し粉、クロロイソシアヌール酸塩、クロラミン−T等を挙げることができる。
【0019】
評価水中に含まれる塩素系物質は、後述する被処理水中に含まれる塩素系物質と同一のものを選択することが好ましい。
【0020】
上記評価水中の塩素系物質の濃度は、いずれも10mgCl/L(塩素濃度10ppm)以上であることが好ましく、20mgCl/L(塩素濃度20ppm)以上であることがより好ましく、50mgCl/L(塩素濃度50ppm)以上であることがさらに好ましい。評価水中の塩素系物質の濃度が10ppm以上であることにより、分離膜の耐塩性評価値を短時間で求めることができ、回帰式を簡便に作製することが可能となる。
【0021】
また、本発明において、各評価水中の塩素系物資は、その濃度が相互に異なっており、評価水中の塩素系物質の濃度は、10mgCl/L〜2000mgCl/L(塩素濃度10〜2000ppm)の範囲に分散していることが好ましい。
【0022】
上記評価水を構成する、塩素系物質を分散させる水としては、特に制限されないが、例えば、超純水や、超純水の製造過程における、種々の工程で生じる水が挙げられる。
【0023】
本発明において、評価水の数は5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、7以上であることがさらに好ましい。評価水の数が5以上であることにより、得られる回帰式の精度を高めることができる。評価水の数は多いほどよいが、簡便に回帰式を作製する上からは、10以下であることが好ましい。
【0024】
分離膜は、評価水中に、耐塩素性評価値(塩素系物質に対する耐久性評価値)を得るために適当な時間、浸漬される。
【0025】
上記耐塩素性を評価する方法としては、例えば、所定濃度の塩素系物質を含有する評価水中に、一定時間(例えば、塩素系物質の濃度(ppm)と時間(h)との積が1000(ppm・h)となる時間)分離膜を浸漬した上で、分離膜の分離能を評価し、分離膜の分離能が一定値未満となるまで上記操作を繰り返し、そのときの塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される数値を耐塩素性評価値として求める方法が挙げられる。上記分離能は、例えば、塩化ナトリウム等の分離物に対する阻止率(水溶液中に含まれる塩化ナトリウム濃度に対して分離膜が分離し得る塩化ナトリウム濃度の割合)が、例えば、95%、90%、80%など任意の割合を下回るか否かにより判断することが好ましい。阻止率を求める際に使用する分離物としては、塩化ナトリウム以外に、例えば、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、エタノール、2−プロパノール、グルコース、等を挙げることができる。
【0026】
また、中空糸膜の耐塩素性の評価方法としては、所定濃度の塩素系物質を含有する評価水中に、一定時間(例えば、塩素系物質の濃度(ppm)と時間(h)との積が1000(ppm・h)となる時間)分離膜を浸漬した上で、分離膜の引張強度を測定し、その強度が一定値未満となるまで上記操作を繰り返し、そのときの塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される数値を耐塩素性評価値として求める方法が挙げられる。
【0027】
耐塩素性の評価指標となる耐塩素性評価値は、上述したように、塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される数値により示されることが好ましい。
【0028】
本発明において、分離膜の耐塩素性評価値を求めるために分離膜を評価水中に浸漬する時間は、特に制限されないが、1〜350時間であることが適当であり、12〜240時間であることがより適当であり、24〜240時間であることがさらに適当である。分離膜を評価水中に浸漬する時間が1〜350時間であることにより、後述する回帰式を簡便に得ることができる。
【0029】
このように、本発明においては、異なる濃度の塩素系物質を有する複数の評価水毎に分離膜の耐塩素性評価値が求められる(複数の評価水から複数の耐塩素性評価値が求められる)。例えば、従来の方法に従い、分離能が一定値未満となるまで所定濃度の評価水一種類のみに分離膜を浸漬したときの、塩素系物質の濃度と時間との積によって表される数値を耐塩素性評価値とした場合、当業界におけるこれまでの技術常識では、評価水中の塩素系物質の濃度が変化しても、耐塩素性を示す耐塩素性評価値、すなわち、塩素系物質の濃度と時間との積によって表される数値は一定であると考えられていた。しかしながら、本発明者が検討したところ、全く驚くべきことに、耐塩素性評価値は、評価水中の塩素系物質の濃度が変化すると変動することを見出すとともに、上記耐塩素性評価値は、評価水中の塩素系物質濃度の増加に伴って増加することを見出し、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0030】
本発明においては、上記耐塩素性の評価により得られた分離膜の複数の耐塩素性評価値から、評価水中の塩素系物質濃度の増加に伴って耐塩素性評価値が増加する相関関係を示す回帰式を作製する。
【0031】
本発明において、上記相関関係を示す回帰方法は得に限定されないが、回帰方法としては最小二乗法等を挙げることができる。回帰式は、直線または二次曲線で表される一次回帰式または二次回帰式であることが好ましい。
【0032】
一次回帰式または二次回帰式のいずれを選択するかは、各回帰式の決定係数(相関係数Rの二乗)を求め、決定係数が所定値以上であるか否かにより決定することが好ましい。例えば、先ず、一次回帰によって近似直線を求めたときの決定係数が0.9以上、好ましくは0.99以上となった場合は一次関数近似を採用し、決定係数が0.9未満、好ましくは0.99未満となった場合には、二次回帰によって近似曲線を引き、決定係数が一次回帰したときよりも大きくなっていれば、二次回帰式を採用すればよい。
【0033】
本発明においては、例えば、横軸(x軸)を評価水中の塩素系物質の濃度とし、縦軸(y軸)を耐塩素性評価値として、評価水中の塩素系物質濃度と耐塩素性評価値との相関関係を示す回帰式を得ることが便宜である。
【0034】
本発明においては、得られた回帰式により、特定濃度の塩素系物質を含有する被処理水に対する耐塩素性評価値を求める。
【0035】
塩素系物質としては、上述した評価水中に含まれる塩素系物質と同様のものを挙げることができる。また、被処理水を構成する、塩素系物質を分散する水も、特に制限されないが、例えば、超純水や、超純水の製造過程における、種々の工程で生じる水が挙げられる。
【0036】
被処理水中の塩素系物質の濃度は10mgCl/L(塩素濃度10ppm)未満であることが適当であり、5mgCl/L(塩素濃度5ppm)未満であることがより適当であり、3mgCl/L(塩素濃度3ppm)未満であることがさらに適当である。
【0037】
上述したように、本発明においては、塩素系物質の濃度が10ppm以上の評価水を用いて簡便に回帰式を作製することができ、得られた回帰式を、耐塩素性評価値の実測に時間を要する、塩素系物質濃度が10ppm未満の評価水に適用して分離膜の耐塩素性評価値を求めることにより、低濃度の塩素系物質を含有する被処理水に対する分離膜の耐塩素性を簡便に推定することができる。
【0038】
上記回帰式から得られる耐塩素性評価値が、塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される数値(CT値)により示されるものである場合には、この数値を被処理水中の塩素系物質の濃度(C)で割り返すことにより、その濃度における分離膜の耐久時間(T)を容易に求めることができる。
【実施例】
【0039】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0040】
(実施例1)
(1)異なる濃度の塩素系物質を含有する複数の評価水として、50mgCl/L、100mgCl/L、200mgCl/L、300mgCl/L、400mgCl/Lの5つの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2Lづつ用意し、評価用の分離膜として、それぞれの評価水に日東電工社製の芳香族ポリアミド系逆浸透膜ES10の平膜(直径75mm)を25枚浸漬した。
【0041】
評価水中の塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される数値が1000[ppm・h]となる毎に上記分離膜を1枚ずつ取り出し、図1に示す平膜試験装置にて、阻止率を評価した。
【0042】
図1に示す平膜試験装置1においては、上記分離膜をモジュール2に設置した上で、このモジュール2に対し、タンク3から濃度500mg/Lの塩化ナトリウム水溶液を送水圧力0.75MPaで供給して、モジュール2に設置された分離膜により、分離処理を行った。上記分離処理によって得られた処理液がビーカー4に貯蔵されるとともに、処理に供されなかった塩化ナトリウム水溶液は、フローメーター6で流量調整しつつ、バルブ5を開閉することにより、タンク3に循環させた。このとき、モジュール2に供される被処理水の水温が25℃になるように、循環水の水温を熱交換器7で調整した。そして、((タンク3から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L−ビーカー4に貯蔵された処理水中の塩化ナトリウム濃度)/(タンク3から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L))×100という算出式により、各分離膜の阻止率(%)を求めた。
【0043】
各評価水に対して、上記分離膜の阻止率が90%を下回るまで浸漬を続け、耐塩素性評価値として、阻止率が90%を下回った時点における評価水中の塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される数値(CT値0.9)を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1より、耐塩素性評価値(CT値0.9)は、評価水中の塩素系物質の濃度の増加に伴って増加する相関関係を有するものであることが分かる。
続いて、横軸を評価水中の塩素濃度x、縦軸を耐塩素性評価値(CT値0.9)yとして、表1に示す5点のデータをプロットし、最小二乗法により一次回帰式を求めたところ、y=97.561x+512.2、決定係数R=0.9981で表される一次関数近似直線が得られた。
【0046】
決定係数が0.99を上回ったので、上記一次回帰式を、耐塩素性評価用の回帰式として採用することとし、この回帰式より、水処理用途で用いられる、0.5mgCl/L、1mgCl/L、2mgCl/Lという低濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に対する分離膜のCT値0.9を算出し、阻止率が90%を下回る推定時間(h)を求めた。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
(2)次に、図2に示す通水試験装置を用い、スパイラル型膜エレメントを用いた長期評価を実施して、上記推定時間の精度を検証した。
【0049】
図2に示す通水試験装置11においては、分離膜として、日東電工社製の芳香族ポリアミド系逆浸透膜である、4インチスパイラル型エレメント膜 ES10をモジュール12に設置した。この分離膜は、膜形状がスパイラル状になっている点を除けば、上記平膜状芳香族ポリアミド系逆浸透膜ES10と同様のものである。
【0050】
このモジュール12に対し、タンク13から濃度500mg/Lの塩化ナトリウムおよび濃度2mgCl/Lの次亜塩素酸ナトリウムを含む水溶液を送水圧力0.75MPaで供給して、モジュール12に設置された分離膜により分離処理を行った。上記分離処理によって得られた処理液は、フローメーター16aで流量調整しつつバルブ15aを開閉することによりタンク13に循環し、分離処理に供されなかった被処理水は、フローメーター16bで流量調整しつつ、バルブ15bを開閉することにより、タンク13に循環した。このとき、分離膜に循環される水温が25℃になるように熱交換器17で循環水の水温を調整しつつ、消費される次亜塩素酸ナトリウムの濃度を連続監視して、その濃度が常に2mgCl/Lとなるように調整した。
【0051】
そして、モジュール12により処理されてタンク13に循環される処理水の一部を定期的に抜き出し、((タンク13から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L−抜き出した処理水中の塩化ナトリウム濃度)/(タンク13から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L))×100という算出式により、定期的に分離膜の阻止率(%)を求めた。結果を図3に示す。
【0052】
図3より、本実施例で用いた分離膜は、2mgCl/L(塩素濃度2ppm)の処理水に対し、350時間浸漬したときに阻止率が90%を下回ることが分かり、この結果は上記表1の推定結果と符合するものであった。
【0053】
このように、実施例1によれば、100時間程度の実験時間で、低濃度の塩素系物質含有水に対する分離膜の耐久性を精度よく推定できることが分かる。
【0054】
(比較例1)
評価水として、濃度100mgCl/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液2L、評価用分離膜として、日東電工社製の芳香族ポリアミド系逆浸透膜ES10の平膜(直径75mm)を25枚用意して、上記評価水中に上記評価用分離膜を浸漬した。
【0055】
評価水中の次亜塩素酸ナトリウムの濃度と該濃度における分離膜の耐久時間の積で表される数値が1000(ppm・h)となる毎に上記分離膜を1枚ずつ取り出し、図1に示す平膜試験装置にて、実施例1と同様にして阻止率を評価したところ、上記数値が11000(ppm・h)であるときに阻止率が90%を下回った。
【0056】
従来の耐塩素性評価方法によれば、塩素濃度2ppm(2mgCl/L)の処理水に対して、阻止率が90%を下回る推定時間は、5500時間(11000(ppm・h)/2(ppm)=5500(h))となるが、この推定時間は、上記実施例1(2)に示した実際の耐久時間(350時間)と大きく異なるものであった。
【0057】
(実施例2)
(1)異なる濃度の塩素系物質を含有する複数の評価水として、50mgCl/L、100mgCl/L、200mgCl/L、400mgCl/L、800mgCl/Lの5つの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2Lづつ用意し、評価用の分離膜として、それぞれの評価水に日東電工社製の芳香族ポリアミド系耐塩素性逆浸透膜CR10の平膜(直径75mm)を20枚浸漬した。
【0058】
評価水中の塩素系物質濃度と該濃度における分離膜の耐久時間の積で表される数値が3000[ppm・h]となる毎に上記分離膜を1枚ずつ取り出し、図1に示す平膜試験装置にて、送水圧力を0.75MPaから1.5MPaに変更して、実施例1と同様にして阻止率を評価した。
【0059】
上記分離膜の阻止率が80%を下回るまで分離膜を評価水に浸漬し続け、耐塩素性評価値として、阻止率が80%を下回った時点における評価水中の塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される数値(CT値0.8)を求めた。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3より、耐塩素性評価値(CT値0.8)は、評価水中の塩素系物質の濃度の増加に伴って増加する相関関係を有するものであることが分かる。
【0062】
続いて、横軸を評価水中の塩素濃度x、縦軸を耐塩素性評価値(CT値0.8)yとして、表3に示す5点のデータをプロットし、最小二乗法により一次回帰式を求めたところ、y=50.081x+8875、決定係数R=0.9871で表される一次回帰式が得られた。
【0063】
上記一次回帰結果によれば、決定係数が0.99を下回ったので、一次回帰式を採用せず、再度最小二乗法により二次回帰式による回帰を試みたところ、y=−0.0234x+70.266x+6607.8、決定係数R=0.9951で表される二次回帰式が得られた。
【0064】
決定係数が0.99を上回ったので、上記二次回帰式を、耐塩素性評価用の回帰式として採用することとし、この回帰式より、水処理用途で用いられる、0.5mgCl/L、1mgCl/L、2mgCl/Lという低濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に対する分離膜のCT値0.8を算出し、阻止率が80%を下回る推定時間(h)を求めた。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
(2)次に、図2に示す通水試験装置を用い、スパイラル型膜エレメントを用いた長期評価を実施して、実施例1と同様にして上記推定時間の精度を検証した。
【0067】
図2に示す通水試験装置11においては、分離膜として、日東電工社製の芳香族ポリアミド系逆浸透膜である、4インチスパイラル型エレメント膜 CR10をモジュール12に設置した。この分離膜は、膜形状がスパイラル状になっている点を除けば、上記平膜状芳香族ポリアミド系逆浸透膜CR−10と同様のものである。そして、図2に示す通水試験装置11を用い、送水圧力を0.75MPaから1.5MPaに変更して、実施例1と同様の方法で、塩化ナトリウム濃度が500mg/Lで塩素濃度が2mgCl/Lである処理水の通水試験を行い、タンク13に循環される処理水の一部を定期的に抜き出し、((タンク13から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L−抜き出した処理水中の塩化ナトリウム濃度)/(タンク13から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L))×100という算出式により、分離膜の阻止率(%)を定期的に求めた。結果を図4に示す。
【0068】
図4より、本実施例で用いた分離膜は、2mgCl/L(塩素濃度2ppm)の処理水に対し、4200時間浸漬したときに阻止率が80%を下回ることが分かり、この結果は上記表4の推定結果とほぼ対応するものであった。
【0069】
このように、実施例2によれば、180時間程度の実験時間で、低濃度の塩素系物質含有水に対する分離膜の耐久性を精度よく推定できることが分かる。
【0070】
(比較例2)
評価水として、濃度100mgCl/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液2L、評価用分離膜として、日東電工社製の芳香族ポリアミド系逆浸透膜CR10の平膜(直径75mm)を20枚用意して、上記評価水中に上記評価用分離膜を浸漬した。
【0071】
評価水中の次亜塩素酸ナトリウムの濃度と該濃度における分離膜の耐久時間の積で表される数値が3000[ppm・h]となる毎に上記分離膜を1枚ずつ取り出し、図1に示す平膜試験装置にて、実施例2と同様にして阻止率を評価したところ、上記数値が14000(ppm・h)であるときに阻止率が80%を下回った。
【0072】
従来の耐塩素性評価方法によれば、塩素濃度2ppm(2mgCl/L)の処理水に対して、阻止率が80%を下回る推定時間は、7000時間(14000(ppm・h)/2(ppm)=7000(h))となるが、この推定時間は、上記実施例2(2)に示した実際の耐久時間(4200時間)と大きく異なるものであった。
【0073】
(実施例3)
異なる濃度の塩素系物質を含有する複数の評価水として、50mgCl/L、100mgCl/L、200mgCl/L、400mgCl/L、800mgCl/Lの5つの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を2Lづつ用意し、評価用の分離膜として、それぞれの評価水に日東電工社製の芳香族ポリアミド系ナノろ過膜LES90の平膜(直径75mm)を25枚浸漬した。
【0074】
評価水中の塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される値が1000[ppm・h]となる毎に上記分離膜を1枚ずつ取り出し、図1に示す平膜試験装置にて、阻止率を評価した。
【0075】
図1に示す試験装置1においては、上記分離膜をモジュール2に設置した上で、このモジュール2に対し、タンク3から濃度500mg/Lの塩化ナトリウム水溶液を送水圧力0.5MPaで供給して、モジュール2に設置された分離膜により、分離処理を行った。上記分離処理によって得られた処理液がビーカー4に貯蔵されるとともに、処理に供されなかった塩化ナトリウム水溶液は、フローメーター6で流量調整しつつ、バルブ5を開閉することにより、タンク3に循環した。このとき、モジュール2に供される被処理水の水温が25℃になるように、循環水の水温を熱交換器7で調整した。そして、((タンク3から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L−ビーカー4に貯蔵された処理水中の塩化ナトリウム濃度)/(タンク3から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L))×100という算出式により、各分離膜の阻止率(%)を求めた。
【0076】
各評価水に対して、上記分離膜の阻止率が75%を下回るまで浸漬を続け、耐塩素性評価値として、阻止率が75%を下回った時点における評価水中の塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される数値(CT値0.75)を求めた。結果を表5に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
表5より、耐塩素性評価値(CT値0.75)は、評価水中の塩素系物質の濃度の増加に伴って増加する相関関係を有するものであることが分かる。
【0079】
続いて、横軸を評価水中の塩素濃度x、縦軸を耐塩素性評価値(CT値0.75)yとして、表5に示す5点のデータをプロットし、最小二乗法により一次回帰式を求めたところ、y=206.83x+2083.3、決定係数R=0.999で表される一次回帰式が得られた。
【0080】
決定係数が0.99を上回ったので、上記一次回帰式を、耐塩素性評価用の回帰式として採用することとし、この回帰式より、水処理用途で用いられる、0.5mgCl/L、1mgCl/L、2mgCl/Lという低濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に対する分離膜のCT値0.75を算出し、阻止率が75%を下回る推定時間(h)を求めた。結果を表6に示す。
【0081】
【表6】

【0082】
(2)次に、図2に示す通水試験装置を用い、スパイラル型膜エレメントを用いた長期評価を実施して、上記推定時間の精度を検証した。
【0083】
図2に示す通水試験装置11においては、分離膜として、日東電工社製の芳香族ポリアミド系ナノろ過膜である、4インチスパイラル型エレメント膜LES90をモジュール12に設置した。この分離膜は、膜形状がスパイラル状になっている点を除けば、上記芳香族ポリアミド系ナノろ過膜LES90と同様のものである。
【0084】
上記モジュール12に対し、タンク13から濃度500mg/Lの塩化ナトリウムおよび濃度2mgCl/Lの次亜塩素酸ナトリウムを含む水溶液を送水圧力0.5MPaで供給して、モジュール12に設置された分離膜により分離処理を行った。上記分離処理によって得られた処理液は、フローメーター16aで流量調整しつつバルブ15aを開閉することによりタンク13に循環し、分離処理に供されなかった被処理水は、フローメーター16bで流量調整しつつ、バルブ15bを開閉することにより、タンク13に循環した。このとき、分離膜に循環される水温が25℃になるように熱交換器7で循環水の水温を調整しつつ、消費される次亜塩素酸ナトリウムの濃度を連続監視して、その濃度が常に2mgCl/Lとなるように調整した。
【0085】
そして、モジュール12で処理されタンク13に循環される処理水の一部を定期的に抜き出し、((タンク13から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L−抜き出した処理水中の塩化ナトリウム濃度)/(タンク13から供給される塩化ナトリウム濃度500mg/L))×100という算出式により、分離膜の阻止率(%)を定期的に求めた。結果を図5に示す。
【0086】
図5より、本実施例で用いた分離膜は、2mgCl/L(塩素濃度2ppm)の処理水に対し、1250時間浸漬したときに阻止率が75%を下回ることが分かり、この結果は上記表6の推定結果と符合するものであった。
【0087】
このように、実施例1によれば、200時間程度の実験時間で、低濃度の塩素系物質含有水に対する分離膜の耐久性を精度よく推定できることが分かる。
【0088】
(比較例3)
評価水として、濃度100mgCl/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液2L、評価用分離膜として、日東電工社製の芳香族ポリアミド系ナノろ過膜LES90の平膜(直径75mm)を25枚用意して、上記評価水中に上記評価用分離膜を浸漬した。
【0089】
評価水中の塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間の積によって表される数値が1000(ppm・h)となる毎に上記分離膜を1枚ずつ取り出し、図1に示す平膜試験装置にて、実施例3と同様にして阻止率を評価したところ、上記数値が22000(ppm・h)であるときに阻止率が75%を下回った。
【0090】
従来の耐塩素性評価方法によれば、塩素濃度2ppm(2mgCl/L)の処理水に対して、阻止率が75%を下回る推定時間は、11000時間(22000(ppm・h)/2(ppm)=11000(h))となるが、この推定時間は、上記実施例3(2)に示した実際の耐久時間(1250時間)と大きく異なるものであった。
【0091】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3とをそれぞれ比較することにより、本発明の耐塩素性の推定方法は、従来の耐塩素性推定方法と比較して、高い精度で簡便に耐塩素性を推定できるものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、従来の耐塩素性推定方法と比較して、高い精度で簡便に耐塩素性を推定できる分離膜の耐塩素性推定方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 平膜試験装置
2 モジュール
3 タンク
4 ビーカー
5 バルブ
6 フローメーター
7 熱交換器
11 通水試験装置
12 モジュール
13 タンク
15a、15b バルブ
16a、16b フローメーター
17 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜の耐塩素性を推定する方法であって、
異なる濃度の塩素系物質を含有する複数の評価水に分離膜を各々浸漬させて耐塩素性を評価した後、
前記評価により得られた複数の耐塩素性評価値から、評価水中の塩素系物質濃度の増加に伴って耐塩素性評価値が増加する相関関係を示す回帰式を作製し、
前記回帰式により、特定濃度の塩素系物質を含有する被処理水に対する分離膜の耐塩素性評価値を求めること
を特徴とする分離膜の耐塩素性推定方法。
【請求項2】
前記評価水中の塩素系物質の濃度がいずれも10mgCl/L以上であり、前記被処理水中の塩素系物質の濃度が10mgCl/L未満である請求項1に記載の分離膜の耐塩素性推定方法。
【請求項3】
評価水の数が5以上である請求項1または請求項2に記載の耐塩素性推定方法。
【請求項4】
前記回帰式が、一次回帰式または二次回帰式である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法。
【請求項5】
前記耐塩素性評価値が、塩素系物質の濃度と該濃度における分離膜の耐久時間との積によって表される請求項1〜請求項4のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法。
【請求項6】
前記塩素系物質が、次亜塩素酸ナトリウムである請求項1〜請求項5のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法。
【請求項7】
前記分離膜が、逆浸透膜またはナノろ過膜である請求項1〜請求項6のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法。
【請求項8】
前記分離膜が、平面状またはスパイラル状である請求項1〜請求項7のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法。
【請求項9】
前記分離膜が、芳香族ポリアミド系素材含有物からなる請求項1〜請求項8のいずれかに記載の分離膜の耐塩素性推定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−214284(P2010−214284A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62959(P2009−62959)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】