説明

分離装置および分離方法

基板(101)に流路(103)を形成し、流路(103)の一部に、分離部(107)を設ける。分離部(107)には、多数の柱状体が形成され、表面に特定物質に対して特異的相互作用をする被吸着物質が固定化された被吸着物質層が形成されている。試料を流路(103)に導入すると、特定物質が被吸着物質層に吸着し、他の成分から分離される。流路(103)内をバッファーで洗浄後、流路(103)に脱離液を流して特定物質を被吸着物質層から脱着させ、回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、分離装置、分離方法、および質量分析システムに関し、特に物質間の特異的相互作用を利用した分離装置に関する。
【背景技術】
アフィニティークロマトグラフィーは、不溶性の担体に分離、精製を目的とする物質に対する特異的相互作用を有する物質を固定化して親和性吸着体を作製し、これをカラムに充填して試料溶液中の目的物質を親和性吸着体に吸着させて分離するクロマトグラフィーである。アフィニティークロマトグラフィーは、物質間の特異的相互作用を利用して成分を分離するため、特に生体由来物質の分離、精製に有用な方法である。
しかし、カラムに充填して行うアフィニティークロマトグラフィーは、微量の試料の分離を効率よく行う設計という面では必ずしも適しているとはいえなかった。
一方、生体由来物質の分離、分析機能をチップ上に備えたマイクロチップの研究開発が活発に行われている。これらのマイクロチップには、微細加工技術を用いて微細な分離用流路等が設けられており、極めて少量の試料をマイクロチップに導入し、分離を行うことができるようになっている。
こうしたマイクロチップを活用する技術において、アフィニティークロマトグラフィーの技術を導入する試みが提案されている(特許文献1)。この装置においては、流路中にビーズ等を担体とする親和性吸着体の充填領域が設けられており、流路に目的成分を含む試料を流すと、目的成分が親和性吸着体に吸着されるようになっている。ところが、このような構成では、従来のカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー同様、親和性吸着体の充填率が高い場合、親和性吸着体同士が充分に離間して存在することができず、親和性吸着体の表面全体が目的物質との吸着に関与することができず、分離効率が低下するという課題があった。
また、特許文献1に記載の装置では、チャネルの壁を不溶性の担体とすることができる旨記載されているが、壁のみを用いる場合表面積が小さく、充分な親和性吸着体を備えようとすると、チャネルの長さが大きくなってしまっていた。
さらに、目的の物質を親和性吸着体に吸着させた後、親和性吸着体から脱着させて回収する必要があるが、この際に高濃度の塩溶液や有機溶媒を含む溶液を用いるため、目的の物質がタンパク質等の高次構造を有する物質である場合、立体構造の不可逆的な変性や、失活などが生じるという課題があった。
特許文献1 特表2002−502597号公報
【発明の開示】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、特異的相互作用を用いて試料中の特定物質を効率よく分離する装置または方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、微量の特定物質を効率よく分離し、回収する小型の分離装置を提供することにある。また、本発明のさらに別の目的は、特定物質を吸着させた後簡易な方法で脱着させ、高い活性を維持した状態で回収する分離装置または分離方法を提供することにある。また、本発明のさらにまた別の目的は、生体試料に適用可能な質量分析システムを提供することにある。
本発明によれば、基材と、該基材に設けられた試料が流れる流路と、該流路に設けられ、前記試料中の特定物質を分離する分離部と、該分離部に設けられ、前記流路よりも幅狭の微細流路と、を含み、前記分離部に前記特定物質と選択的に吸着または結合する被吸着物質の層が形成されていることを特徴とする分離装置が提供される。
本発明において、「選択的に吸着または結合する」とは、被検物質のみが検出物質と吸着または結合し、試料中に含まれる他の物質は吸着または結合しないことをいう。吸着または結合の様式に制限はなく、物理的な相互作用であっても、化学的な相互作用であってもよい。また、選択的な吸着または結合のことを、以下適宜「特異的相互作用」と呼ぶ。
本発明に係る分離装置は、分離部においてアフィニティークロマトグラフィーの原理を利用して試料中の特定物質の分離を行う装置である。本発明に係る分離装置では、基材に形成された流路に分離部が設けられた構成となっているため、特定物質を含む試料を流路に導入すると、分離部に形成された被吸着物質の層に選択的に吸着または結合させることができる。このため、簡便な操作により特定物質の分離を行うことができる。
また、分離部に流路よりも幅狭の微細流路を形成することにより、分離部表面の被吸着物質に接近し、相互作用することができる特定物質の分子数を増加させることができる。よって、特定物質を効率よく分離することが可能である。
本発明に係る分離装置はマイクロチップ上でアフィニティークロマトグラフィーを行うことができるため、μTAS(Micrototal Analytical System:マイクロトータル・アナリティカル・システム)に組み込むことも可能となる。たとえば、分離部により分離された試料を試料乾燥部に連通する構成とすることにより、分離した試料を乾燥させて回収し、また質量分析等に供することが可能となる。
本発明によれば、基材と、該基材に設けられた試料が流れる流路と、該流路に設けられ、前記試料中の特定物質を分離する分離部と、該分離部に設けられた突起部と、を含み、前記分離部に前記特定物質と選択的に吸着または結合する被吸着物質の層が形成されていることを特徴とする分離装置が提供される。
本発明に係る分離装置では、分離部に突起部が形成されているため、分離部表面の被吸着物質に接近し、相互作用することができる特定物質の分子数を増加させることができる。また、突起部の形状および配置を調節することにより、分離部における試料通過経路の幅を調節することができる。したがって、分離部の形状を特定物質の分子サイズに応じて最適化することができるため、担体粒子を流路に充填する従来の方法に比べて分離効率を向上させることができる。
本発明の分離装置において、前記分離部および前記流路に電極が設けられ、前記電極間に電圧を付与する電圧付与手段をさらに備える構成とすることができる。
また、本発明の分離装置において、前記分離部に突起部が設けられ、該突起部に電極が形成されている構成とすることができる。こうすることにより、帯電した特定物質をより一層効率よく分離部に誘導することが可能となる。また、分離部において被吸着物質に選択的に吸着または結合した特定物質を脱着させる際にも、電極に付与する電位の正負を制御すれば脱着が容易となるため、流路に流す脱離用溶液の塩濃度、有機溶媒濃度等を低減することができる。したがって、特定物質がタンパク質等である場合にも、失活や変性を抑制することができる。
本発明の分離装置において、前記特定物質と前記被吸着物質との組み合わせは、抗原と抗体、酵素と基質、酵素と基質誘導体、酵素と阻害剤、糖とレクチン、DNAとDNA、DNAとRNA、タンパク質と核酸、金属とタンパク質またはリガンドとレセプターのいずれかの組み合わせとすることができる。こうすることにより、生体試料中から特定物質を分離することができる。このとき、本発明に係る分離装置は、基材に流路が形成された構成であり、微量の試料の分離にも適した構成であるため、確実に分離を行うことができる。
本発明の分離装置において、前記被吸着物質がスペーサーを介して前記基材の表面に備えられた構成とすることができる。スペーサーを設けることにより、被吸着物質と基板との間に好適な空間が形成されるため、特定物質の吸着または結合を効率よく形成させることができる。また、スペーサーを親水性分子とすることにより、分離部の表面が親水性のグラフト鎖で被覆されることになるため、分離部表面への特定物質以外の不要成分の非特異的な吸着を抑制することができる。
本発明によれば、基材に設けられた流路と、該流路に設けられた分離部と該分離部に設けられ、前記流路よりも幅狭の微細流路と、を含む分離装置の分離部に、分離対象物質に選択的に吸着または結合する被吸着物質と異なる符号の電圧を印加しながら、前記流路に前記被吸着物質を含む液体を導入し前記分離部に吸着させるステップと、前記流路に前記分離対象物質を含む試料を導入し、前記被吸着物質に選択的に吸着または結合させるステップと、前記流路に前記分離対象物質を前記被吸着物質から脱離させる脱離液を導入し、前記分離対象物質を脱離させ、回収するステップと、を行うことを特徴とする分離方法が提供される。
また、本発明によれば、基材に設けられた流路と、該流路に設けられた分離部と、該分離部に設けられた突起部と、を含む分離装置の分離部に、分離対象物質に選択的に吸着または結合する被吸着物質と異なる符号の電圧を印加しながら、前記流路に前記被吸着物質を含む液体を導入し、前記分離部に吸着させるステップと、前記流路に前記分離対象物質を含む試料を導入し、前記被吸着物質に選択的に吸着または結合させるステップと、前記流路に前記分離対象物質を前記被吸着物質から脱離させる脱離液を導入し、前記分離対象物質を脱離させ、回収するステップと、を行うことを特徴とする分離方法が提供される。
本発明に係る分離方法によれば、分離部に電圧を印加しながら被吸着物質の吸着、試料の導入、および試料中の特定物質の脱離と回収を行うことにより、被吸着物質をカップリング剤等を用いて基材に固定化することなく、簡便かつ確実に特定物質の分離を行うことが可能となる。たとえば、被吸着物質がマイナスに帯電している場合、分離部にプラスの電位を付与することにより、被吸着物質を分離部に吸着させることができる。
本発明によれば、生体試料を分子サイズまたは性状に応じて分離する分離手段と、前記分離手段により分離された試料に対し、酵素消化処理を含む前処理を行う前処理手段と、前処理された試料を乾燥させる乾燥手段と、乾燥後の試料を質量分析する質量分析手段と、を備え、前記分離手段は、前記分離装置を含むことを特徴とする質量分析システムが提供される。ここで生体試料は、生体から抽出したものであってもよく、合成したものであってもよい。
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置の間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
以上説明したように本発明によれば、基材に設けられた流路と、流路に設けられた分離部と、分離部に設けられ、流路よりも幅狭の微細流路と、を含み、分離部に試料中の特定物質と選択的に吸着または結合する被吸着物質の層が形成されていることにより、特異的相互作用を用いて試料中の特定物質を効率よく分離する装置または方法が実現される。また、本発明によれば、微量の特定物質を効率よく分離し、回収する小型の分離装置が実現される。また、本発明によれば、特定物質を吸着させた後簡易な方法で脱着させ、高い活性を維持した状態で回収する分離装置または分離方法が実現される。また、本発明によれば、生体試料に適用可能な質量分析システムが実現される。
【図面の簡単な説明】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
図1は、本実施形態に係る分離装置の構成を示す上面図である。
図2は、図1の分離装置の分離領域の構成を示す図である。
図3は、図1の分離装置の分離部の構成を示す斜視図である。
図4は、図1の分離装置の表面の構成を説明するための図である。
図5は、図1の分離装置の柱状体表面の構成を説明するための図である。
図6は、本実施形態に係る分離装置の構成を示す図である。
図7は、図6の分離装置の液溜めの構成を説明するための図である。
図8は、図7の液溜めのB−B’方向の構成を説明するための図である。
図9は、本実施形態に係る分離装置の分離部の構成を示す図である。
図10は、図1の分離装置の分離部の構成を示す図である。
図11は、質量分析装置の構成を示す概略図である。
図12は、本実施形態に係る分離装置の構成を示す図である。
図13は、図12の分離装置の乾燥部の構成を示す図である。
図14は、本実施形態に係る分離装置の作製方法を示す工程断面図である。
図15は、本実施形態に係る分離装置の作製方法を示す工程断面図である。
図16は、本実施形態に係る分離装置の作製方法を示す工程断面図である。
図17は、本実施形態に係る分離装置の作製方法を示す工程断面図である。
図18は、分離装置の他の例を示す図である。
図19は、分離装置の他の例を示す図である。
図20は、図18に示した分離装置のサンプル定量管の近傍の拡大図である。
図21は、図19に示した分離装置の詳細図である。
図22は、本実施形態の分離装置を含む質量分析システムのブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
(第一の実施形態)
図1は、本実施形態に係る分離装置100の上面図である。分離装置100においては、基板101上に流路103が設けられ、流路103の一部に分離部107を含む分離領域113が形成されている。また、流路103の両端はそれぞれ試料導入部145および液溜め147に連通している。
なお、流路103の上面を被覆部材により被覆してもよい。流路103の上面に被覆部材を設けることにより、試料液体の乾燥が抑制される。また、試料中の成分がタンパク質等高次構造を有する物質である場合、表面が親水性の被覆部材を用い、流路103内を密閉することにより、気液界面においてこの成分が不可逆的に変性することが抑制される。
図2は、分離装置100における分離領域113の拡大図である。図2(a)は上面図、図2(b)は図2(a)のA−A’方向の断面図である。分離部107においては、流路103中に柱状体105が等間隔で規則正しく形成されており、柱状体105間の間隙を液体が流れる。柱状体105の表面には、図4において後述するように被吸着物質層が形成されているため、試料液体中の特定成分が柱状体105表面において非吸着物質と選択的に吸着または結合することが可能である。
図3は、分離部107における基板101の構成を示す斜視図である。図3において、Wは流路103の幅、Dは流路103の深さを示し、φは柱状体105の直径、dは柱状体105の高さ、pは隣接する柱状体105間の平均間隔を示す。これらの各寸法は、たとえば図3に示された範囲とすることができる。また、分離目的の分子の直径をRとした場合、Rとp、D、またはdとについては次の条件を満たすことが好ましい。こうすることにより、分離部107に導入された試料中の特定物質A’が効率よく壁面に接触し、分離される。
p:0.5R≦p≦50R
D:5R≦D≦50R
d:R≦d≦50R
図4は、基板101の表面の構成を説明するための図である。基板101には、被吸着物質層109が形成されている。すなわち、被吸着物質は基板101の表面に固定化されている。
また図5は、柱状体105表面を例に、被吸着物質層109に被吸着物質Aが固定化されている様子を説明する図である。図5(a)では、柱状体105の表面に低分子物質が被吸着物質Aとして固定化されている。このような柱状体105に特定物質A’を含む試料液体が導入されると、図5(b)に示すように、試料液体中の特定物質A’が被吸着物質Aに選択的に吸着または結合し、複合体を形成する。したがって、分離装置100では、被吸着物質Aに対する特異的相互作用を有する特定物質A’のみを選択的に被吸着物質層109に吸着させ、試料中の他の成分から分離することができる。
分離装置100において、基板101の材料としてシリコンを用いる。また、シリコンにかえて、たとえば石英等のガラス、プラスチック材料等を用いてもよい。プラスチック材料として、たとえばシリコン樹脂、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂等が挙げられる。このような材料は成形加工が容易なため、乾燥装置の製造コストを抑えることができる。
柱状体105は、たとえば、基板101を所定のパターン形状にエッチングすることにより形成することができるが、その作製方法には特に制限はない。また、図2の柱状体105は円柱であるが、円柱、擬円柱等の擬円柱に限らず、円錐、楕円錘等の錐体;三角柱、四角柱等の多角柱;その他の断面形状を有する柱体;等としてもよい。
被吸着物質層109に備える被吸着物質Aと特定物質A’は、選択的に吸着または結合する組み合わせから選択される。このような組み合わせとして、たとえば、
(a)リガンドとレセプター、
(b)抗原と抗体、
(c)酵素と基質、酵素と基質誘導体、または酵素と阻害剤、
(d)糖とレクチン、
(e)DNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)、またはDNAとDNA、
(f)タンパク質と核酸
(g)金属とタンパク質
の組み合わせを用いることができる。それぞれの組み合わせにおいて、任意の一方が特定物質となり、他方が被吸着物質となる。
(a)の場合、ステロイドなどのホルモン、神経伝達物質などの生理活性物質、薬物、その他の血中因子、インシュリンレセプターなどの細胞膜レセプター、あるいは上記レセプターに対して親和性を有するタンパク質、糖タンパク質、糖脂質、または低分子物質など、を用いることができる。
(b)の場合、抗原は、いわゆるハプテンなどの低分子物質であっても、タンパク質などの高分子物質であってもよい。抗原の例として、たとえば、HCV抗原や、CEA、PSAなどの腫瘍マーカー、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、異常プリオン、アルツハイマー症に特有のタンパク質等を用いることができる。
(c)の場合、たとえばインフルエンザウイルスであるノイラミニザーゼとその阻害剤候補、HIVウイルスの逆転写酵素とその阻害剤候補、またはHIVプロテアーゼとその阻害剤候補等の組み合わせとすることができる。
(d)の場合、たとえばN−アセチル−D−グルコサミンと小麦胚レクチン、コンカナバリンA(ConA)とConAレセプター糖タンパク質等の組み合わせを用いることができる。
(e)の場合、変異したDNAと、変異したDNAに対する相補的DNAなどを用いることができる。
(f)の場合、たとえばDNA結合タンパク質とDNAなどの組み合わせを用いることができる。
また、(g)の場合、たとえばニッケルとヒスチジンタグ(His−Tag)などの組み合わせを用いることができる。
なお、流路103の上部に被覆部材を設ける場合、その材料としては、たとえば基板101と同様の材料の中から選択することができる。基板101と同種の材料を用いてもよいし、異なる材料としてもよい。
次に、分離装置100を用いた特定物質A’の分離方法について説明する。
図1にもどり、特定物質A’を含む試料液体を試料導入部145に注入し、毛細管効果あるいはポンプを用いた圧入などにより流路103に展開させる。試料液体の流速は、たとえば10nl/min以上100μl/min以下とする。すると、図5を用いて前述したように、分離部107において被吸着物質Aに対する特異的相互作用を有する特定物質A’のみが選択的に被吸着物質層109に吸着する。吸着しなかった成分は、溶媒または分散媒である液体とともに液溜め147に導かれる。
次に、試料導入部145から流路103洗浄用の緩衝液等を流し、流路103に滞留する特定物質A’以外の成分を除去する。このとき、特定物質A’と被吸着物質Aとは特異的相互作用により吸着または結合しているため、これらが解離することはない。
流路103を洗浄した後、特定物質A’を被吸着物質Aから脱着させる。脱着方法として、たとえば0.1mol/l以上1mol/l以下のNaCl溶液を試料導入部145から流路103に導入する方法を用いることができる。また、被吸着物質Aと特定物質A’とが抗原と抗体であるような場合には、被吸着物質Aに対する特異的相互作用を有し、被吸着物質Aに対する結合定数が特定物質A’よりも大きい物質を競争阻害剤として流路103に導入し、特定物質A’を脱着させることもできる。脱着した特定物質A’は、液溜め147に導かれ、回収される。
以上のように、分離装置100は流路103に分離部107が形成されているため、試料が微量である場合にも流路103に導入することにより特定物質A’を分離し、回収することが可能である。カラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーに比べ、操作は簡便である。また、分離装置100は使い捨てのチップであるため、分離装置100の洗浄操作が不要であり、確実に分離を行うことができる。
次に、分離装置100の製造方法について説明する。
基板101上への流路溝103および柱状体105の形成は、基板101を所定のパターン形状にエッチング等を行うことができるが、その作製方法には特に制限はない。
図15、図16、および図17はその一例を示す工程断面図である。各分図において、中央が上面図であり、左右の図が断面図となっている。この方法では、微細加工用レジストのカリックスアレーンを用いた電子線リソグラフィ技術を利用して柱状体105を形成する。カリックスアレーンの分子構造の一例を以下に示す。カリックスアレーンは電子線露光用のレジストとして用いられ、ナノ加工用のレジストとして好適に利用することができる。

ここでは、基板101として面方位が(100)のシリコン基板を用いる。まず、図15(a)に示すように、基板101上にシリコン酸化膜185、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト183をこの順で形成する。シリコン酸化膜185、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト183の膜厚は、それぞれ40nm、55nmとする。次に、電子ビーム(EB)を用い、柱状体105となる領域を露光する。現像はキシレンを用いて行い、イソプロピルアルコールによりリンスする。この工程により、図15(b)に示すように、カリックスアレーン電子ビームネガレジスト183がパターニングされる。
つづいて全面にポジフォトレジスト155を塗布する(図15(c))。膜厚は1.8μmとする。その後、流路103となる領域が露光するようにマスク露光をし、現像を行う(図16(a))。
次に、シリコン酸化膜185をCF、CHFの混合ガスを用いてRIEエッチングする。エッチング後の膜厚を35nmとする(図16(b))。レジストをアセトン、アルコール、水の混合液を用いた有機洗浄により除去した後、酸化プラズマ処理をする(図16(c))。つづいて、基板101をHBrガスを用いてECRエッチングする。エッチング後のシリコン基板の膜厚を400nmとする(図17(a))。つづいてBHFバッファードフッ酸でウェットエッチングを行い、シリコン酸化膜を除去する(図17(b))。以上により、基板101上に流路103および柱状体105が形成される。
ここで、図17(b)の工程に次いで、基板101表面の親水化を行うことが好ましい。基板101表面を親水化することにより、流路103や柱状体105に試料液体が円滑に導入される。特に、柱状体105により流路が微細化した分離部107においては、流路の表面を親水化することにより、試料液体の毛管現象による導入が促進され、分離効率が向上するため好ましい。
そこで、図17(b)の工程の後、基板101を炉に入れてシリコン熱酸化膜187を形成する(図17(c))。このとき、酸化膜の膜厚が30nmとなるように熱処理条件を選択する。シリコン熱酸化膜187を形成することにより、分離装置内に液体を導入する際の困難を解消することができる。その後、被覆189で静電接合を行い、シーリングして分離装置を完成する(図17(d))。
なお、基板101にプラスチック材料を用いる場合、エッチングやエンボス成形等の金型を用いたプレス成形、射出成形、光硬化による形成等、基板101の材料の種類に適した公知の方法で行うことができる。
基板101にプラスチック材料を用いる場合にも、基板101表面の親水化を行うことが好ましい。基板101表面を親水化することにより、流路103や柱状体105に試料液体が円滑に導入される。特に、柱状体105により流路103が微細化した分離部107においては、流路103の表面を親水化することにより、試料液体の毛管現象による導入が促進され、乾燥効率が向上するため好ましい。
親水性を付与するための表面処理としては、たとえば、親水基をもつカップリング剤を流路103の側壁に塗布することができる。親水基をもつカップリング剤としては、たとえばアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられ、具体的にはN−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が例示される。これらのカップリング剤は、スピンコート法、スプレー法、ディップ法、気相法等により塗布することができる。
また、流路壁に試料の分子が粘着するのを防ぐために、流路103に付着防止処理を行うことができる。付着防止処理としては、たとえば、細胞壁を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質を流路103の側壁に塗布することができる。このような処理により、試料がタンパク質等の生体成分である場合、成分の変性を防ぐことができると共に、流路103における特定の成分の非特異吸着を抑制することができ、回収率を向上することができる。親水性処理および付着防止処理としては、たとえば、リピジュア(登録商標、日本油脂社製)を用いることができる。この場合、リピジュア(登録商標)を0.5wt%となるようにTBEバッファー等の緩衝液に溶解させ、この溶液で流路103内を満たし、数分間放置することによって流路103の内壁を処理することができる。この後、溶液をエアガン等で吹き飛ばして流路103を乾燥させる。付着防止処理の他の例としては、たとえばフッ素樹脂を流路103の側壁に塗布することができる。
次に、分離部107における基板101表面への被吸着物質の固定化方法として、たとえば、物理的吸着法、共有結合法、などの方法を用いることができる。
物理的吸着法を用いる場合、たとえば被吸着物質の単分子膜を作製し、分離部107における基板101の表面に吸着させることができる。
また、共有結合法を用いる場合、基板101表面に表面改質を施し反応性の官能基や活性基を導入し、被吸着物質を含む溶液と基板101とを接触させ、基板101表面に被吸着物質を結合させることができる。基板101の表面改質方法は、目的に応じ適宜選択することができるが、たとえば、プラズマ処理や、イオンビームによる処理、電子線処理、などを用いることができる。このとき、基板101の表面にスペーサー分子を固定化し、スペーサー分子と被吸着物質とを結合させることもできる。スペーサー分子の固定化方法については後述する。
また、石英系ガラス製などの基板101を用いる場合、この表面に被吸着物質Aを化学的に結合させるために、シランカップリング剤などのカップリング剤を用いることができる。カップリング剤を用いる場合、柱状体105の表面にカップリング剤を塗布した後、カップリング剤のもつ有機官能基と被吸着物質Aとを結合させる。このとき、たとえば被吸着物質Aのチオール基や、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、水酸基等を利用することができる。たとえば、リガンドのカルボキシル基を用いる場合、リガンドの基板101の固定化は以下のようにして行うことができる。基板101を、−NH基を有するシランカップリング剤の水溶液に浸漬する。シランカップリング剤の濃度は、たとえば0.1%以上2.0%以下とする。シランカップリング剤により表面処理された基板101に、たとえばカルボジイミド法など、縮合試薬を用いた方法によりリガンドを固定化する。なお、固定化の際には必要に応じて、N−ヒドロキシスクシンイミドなどの活性化剤を併用してもよい。シランカップリング剤の−NH基と、リガンドのカルボキシル基とが結合する。こうして、リガンドが固定化された層を被吸着物質層109とする分離部107が得られる。
また、別の固定化方法として、被吸着物質Aを予めビオチン化する方法がある。ビオチン化しておけば、基板101にアビジンまたはストレプトアビジンを固定化し、ビオチンとアビジンとの相互作用により特定物質を選択的に吸着させることができる。このとき、アビジンとビオチンとの間の結合定数は通常の抗原抗体間の結合定数等に比べて顕著に大きいため、ビオチン化した被吸着物質Aが基板101に固定化されたアビジン等から脱離しない条件で被吸着物質Aから特定物質A’を脱離させ、回収することができる。
基板101への被吸着物質の固定密度は、特定物質が被吸着物質と結合できる程度に十分に密であることが好ましい。こうすることにより、試料中に含まれる他の物質が、基板101表面に非特異的に吸着または結合することを抑制することができる。また特に、たとえば被吸着物質Aが低分子物質で特定物質A’がかさ高い構造の高分子物質である場合、立体障害により特定物質A’が被吸着物質Aに吸着または結合することができなくなることがないような固定密度とすることが好ましい。
さらに、被吸着物質層109の形成方法として、被吸着物質を固定化する方法にかわり、分子インプリンティング法を用いて、特定物質が結合できる鋳型ポリマー層を基板101表面に設けることもできる。分子インプリンティング法では、目的分子にあわせてテーラーメイド的にそれを認識する高分子材料を一段階で合成する方法で、具体的には以下のようにして行う。まず、目的分子を鋳型として、機能性モノマーを共有結合または非共有結合により結合させ、鋳型分子−機能性ポリマー複合体を形成させる。ここで、機能性モノマーとして鋳型分子と結合可能な官能基と、ビニル基などの重合可能な基を有する2官能性以上のモノマーを用いることができる。次に、鋳型分子−機能性モノマー複合体を含む溶液に、架橋剤と重合開始剤を加え、分離部107の壁面にて重合反応を行う。そして、鋳型分子を、たとえば酵素分解などにより、重合したポリマーから分解除去する。すると、得られたポリマーには、鋳型分子との特異的結合部位が形成される。
なお、前述のように、被吸着物質Aを化学的に結合させる場合、図10に示すように、基板101と被吸着物質Aとの間に、適宜、スペーサー119を設けることもできる。スペーサー119とは、特定物質A’と被吸着物質Aとの選択的な吸着または結合が立体障害なしに進行するように、被吸着物質Aを基板101から離すため、基板101と被吸着物質Aとの間に挿入させる化合物のことをいう。こうすることにより、図10(a)および図10(b)のように、被吸着物質Aと特定物質A’との吸着または結合が容易となる。また、スペーサー119に親水性の分子を用いることにより、基板101表面への目的外成分の非選択的な吸着を抑制することができる。スペーサー119の鎖長は比較的短いことが好ましい。また、活性基を有するものが好ましい。被吸着物質Aの固定化操作がより簡便になるからである。活性基は、被吸着物質Aとの反応性を有する官能基であれば特に制限はない。なお、スペーサー119に活性基がない場合は、縮合試薬等を用いてスペーサー119の官能基と被吸着物質Aとを結合させる。たとえば、被吸着物質Aのチオール基や、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、水酸基等を利用することができる。
スペーサー119は、アフィニティークロマトグラフィーやSPR法などで用いられる分子を適宜選択することができるが、たとえば、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDG)や、鎖長の短いポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、デキストランまたはその誘導体、などを用いることができる。
さらに、基板101表面に被吸着物質Aが固定化された構成にかわり、分子インプリンティング法により、特定物質A’が結合できる鋳型ポリマー層が設けられた構成とすることもできる。
(第二の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の分離装置において、分離部107が隔壁によって隔てられた複数の細分化流路となっている構成である。図9は、本実施形態に係る分離装置100の分離領域113の構成を示す図である。図9(a)は上面図、図9(b)は図9(a)のC−C’方向の断面図である。分離部153においては、流路103中に隔壁151が等間隔で規則正しく形成されており、隔壁151間の間隙を液体が流れる。すなわち、流路103より幅狭の流路が形成されており、これらの微細流路が分離用流路149となる。そして、分離用流路149の表面には、第一の実施形態と同様に、被吸着物質層109が形成されているため、試料液体中の特定物質A’が分離用流路149において非吸着物質Aと選択的に吸着または結合することが可能である。
図9の分離領域113は、第一の実施形態と同様にして作製することができる。
(第三の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の分離装置100において、分離部107に設けられた柱状体105の内部に電極が設けられており、これらの電極に電位を付与する態様である。分離部107の内部に電極を形成する方法としての一例は以下の通りである。図14は、本実施形態に係る分離装置の製造方法を示す工程断面図である。まず、電極の装着部分を含む金型173を用意する(図14(a))。そして、金型173に電極175を設置する(図14(b))。電極175に用いる材料は、たとえばAu、Pt、Ag、Al、Cuなどとする。次に、金型173上に被覆用金型179をセットして電極175を固定し、基板101となる樹脂177を金型173内に射出し、成形する(図14(c))。樹脂177として、たとえばPMMAを用いる。
そして、成形された樹脂177を金型173および被覆用金型179から外すと、流路103の形成された基板101が得られる(図14(d))。基板101の裏面の電極175表面の不純物をアッシングにより除去し、電極175材料金属を露出させる。必要に応じて、基板101の底面に金属膜を蒸着等により形成し、これを配線181とする(図14(e))。以上のようにして、流路103中に電極175を柱状体105とする分離部107が形成される。こうして形成された電極または配線181は、外部電源(不図示)に接続され、電圧を印加することができるようになっている。なお、上記工程の後、流路103の全面に絶縁膜を形成してもよい。このとき、絶縁膜の厚さは、たとえば10nm以上500nm以下とする。
なお、分離装置100(図1)において、試料導入部145および液溜め147についても同様の方法あるいは第四の実施形態に記載の方法で電極を形成しておけば、電極を基板101の下面等を導通させて外部電源(不図示)に接続し、試料導入部145と分離部107との間、分離部107と液溜め147との間、および試料導入部145と液溜め147との間、にそれぞれ電圧を付与することが可能となる。
このような構成とすると、試料中の目的成分の分離をより一層確実に効率よく行うことができる。たとえば、特定物質A’がタンパク質であって、そのタンパク質の等電点よりも低pHの緩衝液に溶解された試料から分離を行う場合、試料導入部145を正極、分離部107を負極として通電すると、正に帯電したタンパク質が効率よく分離部107に導かれ、被吸着物質層109に選択的に吸着する。流路103中の他の成分を除去した後、今度は分離部107を正極、液溜め147を負極として通電すれば、被吸着物質層109に保持されていたタンパク質の脱離および液溜め147への誘導が促進される。なお、被吸着物質層109に保持されていたタンパク質を脱離させる際には、交流電場を付与することにより、タンパク質分子の運動性が増し、さらに脱離が促進される。
このため、特定物質A’と被吸着物質Aとを脱離させるために流路103に流す溶離液の塩濃度や有機溶媒濃度を低減することができる。したがって、特定物質A’がタンパク質等の高次構造を有する物質である場合にも、立体構造の不可逆的な変性や、失活などを抑制することができる。
さらに、柱状体105を電極として電位を付与することにより、被吸着物質Aを基板101に固定化する操作が不要となる場合がある。たとえば、被吸着物質Aをタンパク質とし、これに対するレセプターが特定物質A’であって、タンパク質がマイナスに帯電しているpH条件でリガンドが帯電していないかあるいはプラスに帯電している場合、以下のようにして特定物質A’の分離を行うことができる。
まず、流路103に被吸着物質Aすなわちタンパク質の溶液を導入する。このとき、タンパク質はマイナスに帯電しているため、柱状体105を正極として静電界を付与する。すると、タンパク質は静電相互作用により柱状体105表面にタンパク質が吸着する。柱状体105に静電界を付与しながら、流路103中の余分なタンパク質をバッファーにより洗い流した後、流路103にリガンドを含む試料を導入する。すると、タンパク質表面にリガンドが吸着するため、他の成分から分離される。そして、第一の実施形態等と同様にして、流路103を洗浄後、塩溶液等を流すことにより、リガンドがタンパク質から脱着し、回収される。このとき、電界を付与したままリガンドを脱離させるため、タンパク質は柱状体105表面に吸着された状態が維持される。
以上のように、柱状体105に電極を形成することにより、被吸着物質Aをカップリング剤等を用いて固定化する工程が不要となるため、より簡便に分離を行うことが可能となる。なお、タンパク質がプラスに帯電しており、リガンドが帯電していないかあるいはマイナスに帯電している場合にも、柱状体105にマイナスの電位を付与することにより、同様にしてリガンドを分離することができる。
(第四の実施形態)
図6は、本実施形態に係る分離装置171の構成を示す図である。分離装置171においては、基板121上に分離用流路131が形成され、これと交差するように投入用流路129および回収用流路135が形成されている。投入用流路129、分離用流路131および回収用流路135には、それぞれその両端に液溜め125a、125b、123a、123b、127a、127bが形成されている。各々の液溜めには電極が設けられており、これを用いて例えば分離用流路131の両端に電圧を付与することができる。また、分離用流路131には、分離部107が設けられている。分離部107の構成は、第一〜第三の実施形態のいずれに記載の構成としてもよい。
ここで、電極が設けられた液溜めの構造について、図7および図8を参照して説明する。図7は、図1における液溜め123a付近の拡大図である。また図8は、図7におけるB−B’断面図である。分離用流路131および液溜め123aが設けられた基板121上には、緩衝液等を注入できるようにするための開口部139が設けられた被覆137が配設される。また被覆137の上には、外部電源に接続することができるように電導路141が設けられる。さらに図8に示されるように、電極板143が液溜め123aの壁面と電導路141とに沿うように配設させる。電極板143と電導路141とは圧着され、電気的に接続される。なお、その他の液溜めについても上記と同様な構造を有する。それぞれの液溜めに形成された電極板143は、基板101の下面等を導通させて外部電源(不図示)に接続すると、電圧が印加可能となる。
図6に戻り、この装置を使って試料の分離を行う方法について説明する。まず特定物質A’を含む試料を液溜め125a、もしくは液溜め125bに注入する。液溜め125aに注入した場合は、液溜め125bの方向へ試料が流れるように電圧を印加し、液溜め125bに注入した場合は、液溜め125aの方向へ試料が流れるように電圧を印加する。これにより、試料は投入用流路129へと流入し、結果的に投入用流路129の全体を満たす。この時、分離用流路131上では、試料は投入用流路129との交点にのみ存在し、投入用流路129の幅程度の狭いバンドを形成している。
次に、液溜め125a、液溜め125bの間への電圧印加をやめ、液溜め123aと液溜め123bの間に、試料が液溜め123bの方向へ流れるように電圧を印加する。これにより試料は分離用流路131を通過することになる。分離用流路131中に設けられた分離部107において、特定物質A’のみが被吸着物質Aと特異的に相互作用し、他の成分は液溜め123bへと排出される。第一、第二の実施形態と同様にして分離用流路131を洗浄した後、液溜め123a、液溜め123b間への電圧印加をやめ、代わりに液溜め127a、液溜め127bの間に電圧を印加する。すると分離用流路131中と、回収用流路135の交差点に存在するバンドは、回収用流路135に流れこむ。液溜め127a、液溜め127b間への電圧印加を一定時間の後に停止すると、液溜め127aまたは液溜め127bに、分離されたバンドに含まれる特定物質A’が回収される。
以上の手順により、特定物質A’が分離される。分離装置171は、分離用流路131に加えて投入用流路129、回収用流路135を備えるため、不要な成分と特定物質A’とを異なる液溜めに導くことができる。このため、液溜めに残存する不要成分の特定物質A’への混入が抑制され、分離効率がより一層向上する。
また、液溜め125aまたは液溜め125bに反応試薬を導入することにより、回収用流路135中に誘導された特定物質A’に対し、酵素反応や検出用の発色反応等、種々の反応を施すことが可能となる。
(第五の実施形態)
本実施形態は、目的成分の分離および濃縮、乾燥を行い、また乾燥した試料を質量分析測定に供する際の質量分析用基板として利用可能な分離装置に関する。図12は、本実施形態に係る分離装置165の構成を示す図である。分離装置165は、第三の実施形態に記載の分離装置100を基本構成とする。分離装置100における基板101が分離装置165における基板133に、流路103が第一の流路157にそれぞれ対応した構成となっており、第一の流路157に第一の流路157より幅狭の第二の流路159が連通している。第二の流路159の末端に乾燥部161が設けられている。第一の流路157および第二の流路159の上面には被覆163が設けられており、試料導入部145、液溜め147、および乾燥部161の上面が開口部となっている。さらに、第三の実施形態と同様に、試料導入部145、液溜め147、第一の流路157および乾燥部161の表面には金属膜(不図示)が設けられており、これらの間に電圧を付与することができる。
また、図13は、分離装置165における乾燥部161の構成を示す図である。図13(a)が上面図、図13(b)は図13(a)のD−D’方向の断面図である。図13に示されるように、乾燥部161には複数の柱状体167が備えられている。また、乾燥部161の底面には乾燥を促進させるためのヒーター169が設けられている。
分離装置165の使用方法は以下の通りである。すなわち、まず、特定物質A’を含む試料液体を、試料導入部145から注入し、毛細管効果あるいはポンプを用いた圧入などにより第一の流路157に展開させる。すると、分離部107において被吸着物質Aに対する特異的相互作用を有する特定物質A’のみが選択的に被吸着物質層109に吸着する。このとき、試料導入部145を正極、分離部107を負極として通電すると、特定物質A’の分離部107への誘導が促進され、好ましい。被吸着物質Aに吸着しなかった成分は、溶媒または分散媒である液体とともに液溜め147に導かれ、排出される。
次に、試料導入部145から流路103洗浄用の緩衝液等を流して洗浄し、第一の流路157に滞留する特定物質A’以外の成分を除去する。このとき、特定物質A’と被吸着物質Aとは特異的相互作用により吸着または結合しているため、これらが解離することはない。
その後、特定物質A’を第一および第二の実施形態と同様にして、被吸着物質Aから脱着させる。このとき、分離部107を正極、乾燥部161を負極として通電するともに、乾燥部161をヒーター169によりたとえば30℃以上70℃以下に加熱すると、解離した特定物質A’を含む液体が第二の流路159を経由して乾燥部161に導かれ、乾燥部161において速やかに乾燥する。乾燥部161には複数の柱状体167が設けられており、毛細管現象により効率よく第二の流路159中の液体が導入されるとともに、すみやかに乾燥が進行する。またこのとき、第二の流路159は第一の流路157より幅狭となっているため、第一の流路157から第二の流路159へと効率よく液体が導入される。
以上により、分離部107で分離された特定物質A’が乾燥部161で乾燥され、回収される。
また、特定物質A’を乾燥部161で乾燥させる際にMALDI−TOFMS(Matrix−Assisted Laser Desorption Ionization−Time of Flight Mass Spectrometer:マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置)のマトリックスと混合することにより、MALDI−TOFMS用の試料が得られる。ここで、本実施形態で用いる質量分析装置について簡単に説明する。図11は、質量分析装置の構成を示す概略図である。図11において、試料台上に乾燥試料が設置される。そして、真空下で乾燥試料に波長337nmの窒素ガスレーザーが照射される。すると、乾燥試料はマトリックスとともに蒸発する。試料台は電極となっており、電圧を印加することにより、気化した試料は真空中を飛行し、リフレクター検知器、リフレクター、およびリニアー検知器を含む検出部において検出される。
したがって、分離装置165中の液体を完全に乾燥させた後、分離装置165をMALDI−TOFMS装置の真空槽に設置し、これを試料台としてMALDI−TOFMSを行うことが可能である。ここで、乾燥部161の表面には金属膜が形成されており、外部電源に接続可能な構成となっているため、試料台として電位を付与することが可能となっている。
このように、分離装置165を用いることにより、複数の成分を含む試料中から特定物質A’のみを分離し、さらに乾燥して回収することができる。そして、乾燥した特定物質A’を、分離装置165ごとMALDI−TOFMSに供することができる。したがって、目的とする成分の抽出、乾燥、および構造解析を一枚の分離装置165上で行うことができるため、プロテオーム解析等にも有用である。
なお、MALDI−TOFMS用のマトリックスは、測定対象物質に応じて適宜選択されるが、たとえば、シナピン酸、α−CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸)、2,5−DHB(2,5−ジヒドロキシ安息香酸)、2,5−DHBおよびDHBs(5−メトキシサリチル酸)の混合物、HABA(2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸)、3−HPA(3−ヒドロキシピコリン酸)、ジスラノール、THAP(2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン)、IAA(トランス−3−インドールアクリル酸)、ピコリン酸、ニコチン酸等を用いることができる。
(第六の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の分離装置100を用いて抗His−Tag(ヒスチジンタグ)抗体を用いてHis−Tagを導入したGFP(Green Fluorescent Protein)の精製を行う方法に関する。
分離装置100において、抗His−Tag抗体を分離部107の表面に固定化し、被吸着物質層109を形成する。固定化には、たとえば第一の実施例と同様の方法や、あるいはアフィニティークロマトグラフィー用の抗体の固定化に関する公知の方法を用いる。
具体的には、たとえば分離部107を、−NH基を有するシランカップリング剤を用いて表面処理する。次に、分離部107にスペーサーを結合させる。スペーサーとして、たとえばEGDE(エチレングリコールジグリシジルエーテル)を用いる。スペーサーの結合は、たとえばpH11のNaOH溶液に大過剰のEGDEを加え、たとえば30℃にて攪拌する。この溶液を分離部107に滴下し、たとえば24時間反応させる。その後、スペーサーの末端のエポキシ基を用いて、抗His−Tag抗体を固定化する。このとき、抗His−Tag抗体のアルカリ溶液を、スペーサーの設けられた分離部107に滴下し、静置する。そして、分離部を洗浄すると、分離部107に抗His−Tag抗体が固定化された分離装置100が得られる。
得られた分離装置100の試料導入部145に、大腸菌中で発現させたHis−Tag付加GFPを含む抽出物を導入する。すると、His−Tagを付加されたGFPのみが選択的に抗His−Tag抗体と相互作用し、被吸着物質層109に吸着される。流路103を洗浄後、分離部107を観察すると、GFPが吸着している領域は緑色の蛍光を発するため、目視で容易に確認することができる。
こうして分離されたHis−Tag付加GFPを第一の実施形態と同様にして被吸着物質層109から脱着させることにより、液溜め147からHis−Tag付加GFPを回収することができる。
なお、本実施形態においては、抗His−Tag抗体を用いたが、His−Tag結合性のニッケルカラムと同様にして、分離部107にニトリロ3酢酸などを固定化してもよい。また、本実施形態の精製方法は、第二〜第五の実施形態に記載の分離装置の構成にも適用可能である。
(第七の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の分離装置100を用いて金属に対して特異的相互作用を有する物質を分離する方法に関する。
このような分離装置は以下のようにして作製する。すなわち、図17(c)の工程に続き、基板101全面にレジスト膜を設け、分離部107となる領域のみを露出させるレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとして基板全面に金属膜を形成する。金属膜の材料は、たとえばPt、Au等水中で安定しうる物質とする。また金属膜の形成は、たとえば蒸着等により行う。そして、シリコン熱酸化膜187を溶解せずレジストマスクを溶解する剥離液を用いてレジストを除去すれば、分離部107表面に金属膜が形成される。
得られた分離装置100に金属結合性物質を含む試料を導入することにより、金属結合性物質を効率よく分離することができる。
なお、水溶液中で不安定な金属、たとえばFe、Cu、Ag、Al、Ni、U、Ge等に対して特異的相互作用する物質を分離したい場合には、これらのイオンをキレートするキレート剤やキレートタンパク質、クラウンエーテルを用い、これらにキレートさせた状態で分離部107の表面に固定化する態様とすることができる。このときの固定化は、第一の実施形態と同様にして行うことができる。また、本実施形態の分離方法は、第二〜第五の実施形態に記載の分離装置の構成にも適用可能である。
(第八の実施形態)
本実施形態は、第一の実施形態に記載の分離装置100において、レクチンを被吸着物質Aとして用い、試料中の特定の糖鎖を分離する方法に関する。レクチンとして、たとえばConA(コンカナバリンA)を用いる。レクチンは、単糖ではマンノースおよびグルコースに特異的なレクチンであり、また、高マンノース型の糖鎖を有する糖タンパク質や、多糖類に対する親和性を有する。
分離装置100において、ConAを分離部107の表面に固定化し、被吸着物質層109を形成する。固定化には、たとえば第一の実施例と同様の方法や、あるいはアフィニティークロマトグラフィー用の固定化レクチンに関する公知の作製方法を用いる。
具体的には、たとえば分離部107を、−NH基を有するシランカップリング剤を用いて表面処理する。次に、分離部107にスペーサーを結合させる。スペーサーとして、たとえばEGDE(エチレングリコールジグリシジルエーテル)を用いる。スペーサーの結合は、たとえばpH11のNaOH溶液に大過剰のEGDEを加え、たとえば30℃にて攪拌する。この溶液を分離部107に滴下し、たとえば24時間反応させる。その後、スペーサーの末端のエポキシ基を用いて、レクチンを固定化する。このとき、たとえば−SH基、−OH基、−NHを含むレクチンのアルカリ溶液を、スペーサーの設けられた分離部107に滴下する。
得られた分離装置100を用いることにより、高マンノース型の糖鎖を有する糖タンパク質または多糖類の有無を簡便に高精度、高感度で分離し、回収することが可能である。分離装置100の分離部107には、レクチンと基板101表面との間にスペーサーが設けられているため、レクチンと糖鎖との特異的相互作用が容易になる。したがって、より効率よく分離を行うことができる。なお、本実施形態の分離方法は、第二〜第五の実施形態に記載の分離装置の構成にも適用可能である。
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各製造工程の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
たとえば、本実施形態に係る分離装置を次のように構成することもできる。図18は、毛細管現象を利用して試料を移動させる方式の分離装置の構成を示す図である。毛細管現象を利用することにより、電力、圧力等の外力の印加が不要で駆動のためのエネルギーが不要となる。図18において、基板550に設けられた分離用流路540には、第一の実施形態に記載の分離部(不図示)が形成されている。分離用流路540の一端には空気穴560が設けられ、他端には分離時にバッファーを注入するためのバッファー注入口510が設けられている。分離用流路540は、バッファー注入口510、空気穴560以外の部分では密閉されている。分離用流路540の起始部には、サンプル定量管530がつながっており、サンプル定量管530の他方の端は、サンプル注入口520が設けられている。
図20は、サンプル定量管530の近傍を拡大して示したものである。サンプル定量管530内部、サンプル保持部503、およびバッファー導入部504には、親水性の吸収領域が設けられる。また分離用流路540への導入口付近にも吸収領域506が設けられる。サンプル定量管530とサンプル保持部503との間には、一時停止スリット502が設けられている。一時停止スリット502は疎水性領域とすることができる。各吸収領域の間は、一時停止スリット505および507で隔てられている。サンプル保持部503の空隙体積は、サンプル定量管530の空隙体積と一時停止スリット502の体積の和にほぼ等しい。一時停止スリット505の幅は、一時停止スリット502の幅よりも狭い。ここで、サンプル定量管530は、親水性の機能を有し、試料の導入部としての機能が果たせるように構成される。
次に、図18の装置を用いた分離操作の手順について説明する。まず、サンプル注入口520にサンプルを徐々に注入しサンプル定量管530を満たす。この時、水面が盛り上がらないようにする。サンプル定量管530がサンプルで満たされた後、サンプルは一時停止スリット502に徐々にしみ出してゆく。一時停止スリット502にしみだしたサンプルが、サンプル保持部503の表面に到達すると、一時停止スリット502およびサンプル定量管530の内部のサンプルは、さらに毛細管効果の大きい、サンプル保持部503へとすべて吸い取られる。ここで、各吸収領域は、親水性材料の選択により、親水性の度合いが異なるように形成され、サンプル保持部503は、サンプル定量管530よりも大きい毛細管効果を有する。サンプル保持部503へのサンプル充填の間は、一時停止スリット505、507が存在するため、サンプルがバッファー導入部504に流れ込むことは無い。
サンプル保持部503にサンプルが導入された後、バッファー注入口510に分離用バッファーを注入する。注入されたバッファーは、バッファー導入部504に一時的に充填されて、サンプル保持部503との界面が直線状になる。さらにバッファーが充填されると、一時停止スリット505にしみだして、サンプル保持部503に流入し、さらに、サンプルをひきずりながら、一時停止スリット507を超えて分離用流路の方向へと進行する。この際、一時停止スリット502の幅が、一時停止スリット505、507の幅よりも大きいため、一時停止スリット502へバッファーが逆流しても、サンプルは既に、サンプル保持部503より先に進行しているため、サンプルの逆流はほとんどない。
分離用バッファーは毛細管現象で、分離用流路を空気穴560へ向けてさらに進行し、この過程で、サンプルが分離される。分離用バッファーが、空気穴560に到達すると、バッファーの流入が停止する。バッファーの流入が停止した段階、もしくは、バッファーが進行中の段階で、サンプルの分離状態を計測する。
上記実施形態は、毛細管現象を用いた分離装置の例であるが、この原理を利用した試料注入の他の例について図19および図21を参照して説明する。この装置では、図18におけるサンプル定量管530に代えて、サンプル投入管570が設けられている。サンプル投入管570の両端には、サンプル注入口520と、排出口580が設けられている。
この装置を用いた分離手順について説明する。まず、サンプルを、サンプル注入口520に投入し、排出口580まで満たす。この間に、サンプルは、投入穴509を介してサンプル保持部503に吸収される。
しかる後に、サンプル注入口520に空気を圧入して、サンプルを排出口580から排出することによりサンプル投入管570の内部のサンプルを払拭、乾燥する。毛細管現象による分離の場合は、上記と同様に、分離用バッファーを注入する。電気泳動による分離の場合は、サンプルの投入以前に、バッファー注入口510に相当する液溜め、空気穴560に相当する液溜めから泳動用バッファーを導入しておく。広く作られた一時停止スリット505、507が存在するため、サンプル保持部には、流入しない。
サンプル保持部503へのサンプルの保持が終わった段階で、さらに微量の泳動用バッファーを分離用流路の一端の液溜めに加えるか、サンプル保持部503の周辺に軽く振動を与えることで、泳動バッファーを連続させ、電圧を印加して分離する。
なお、図22は本実施形態の分離装置を含む質量分析システムのブロック図である。このシステムは、図22(a)に示すように、試料1001について、夾雑物をある程度除去する精製1002、不要成分1004を除去する分離1003、分離した試料の前処理1005、前処理後の試料の乾燥1006、質量分析による同定1007、の各ステップを実行する手段を備えている。
ここで、以上の実施形態で説明した分離装置による分離は、分離1003のステップに対応しており、マイクロチップ1008上で行われる。また、精製1002のステップにはたとえば血球等の巨大成分のみを除去するための分離装置等を用いる。前処理1005では、上述のトリプシン等を用いた低分子化、マトリックスとの混合等を行う。乾燥1006では、前処理の施された試料を乾燥し、質量分析用乾燥試料を得る。
また、本実施形態に係る分離装置は流路を有しているため、図22(b)に示すように、精製1002から乾燥1006までのステップを一枚のマイクロチップ1008上で行うこともできる。試料をマイクロチップ1008上で連続的に処理することにより、微量の成分についても損出が少ない方法で効率よく確実に同定を行うことが可能となる。
このように、図22に示される試料の処理のうち、適宜選択したステップまたはすべてのステップをマイクロチップ1008上にて行うことが可能となる。
【実施例】
以下、本発明をDNAとRNAの組み合わせを例にした実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
第一の実施の形態で説明した方法で流路103の表面に柱状体105が形成された反応装置100(図1)を製造する。基板101は、(100)面を主面とするシリコン基板により構成する。分離部107に、柱状体105(図2)を設ける。柱状体105は、図15〜図17を用いて説明した方法で形成する。ここでは、柱状体105の間隔pが約200nmとなるようにする。
次に、柱状体105であるシリコンピラーの表面に、カップリング剤を用いて線虫(C.エレガンス:Caenorhabditis elegans)のtpa−1遺伝子の一部に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドAをシリコンピラー表面に固定する。

ここで、アンチセンスオリゴヌクレオチドAは5’末端がSH基により修飾されている。
具体的には、図1において分離部107の表面に、アンチセンスオリゴヌクレオチドAのチオール基と結合する化合物として、アミノシランの一種であるN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(EDA)を固定する。
このとき、分離部107を1:1の濃HCl:CHOHに約30分間浸し、蒸留水で洗浄した後、濃HSOに約30分間浸する。そして、蒸留水で洗浄した後、脱イオン水中で数分間煮沸させる。つづいて、1%EDA(1mM酢酸水溶液中)等のアミノシランを分離部107に導入し、室温で約20分間反応させる。これにより、分離部107の表面にEDAが固定される。その後、蒸留水で残さを洗浄し、不活性ガス雰囲気下にて約120℃で3〜4分加熱して乾燥させる。
つづいて、二官能性のクロスリンカーとして、1mMのスクシンイミジル4−(マレイミドフェニル)ブチレート(SMPB)溶液を準備し、少量のDMSOに溶解させた後、希釈する。分離部107をこの希釈溶液に室温で2時間浸し、希釈溶媒で洗浄した後不活性ガス雰囲気下で乾燥する。
これにより、SMPBのエステル基がEDAのアミノ基と反応し、分離部107表面にマレイミドが露出した状態となる。このような状態で、分離部107に、チオール基が付いたアンチセンスオリゴヌクレオチドAを導入する。こうすると、アンチセンスオリゴヌクレオチドAのチオール基と分離部107の表面のマレイミドとが反応し、アンチセンスオリゴヌクレオチドAが分離部107の表面に固定される(たとえばChriseyら、Nucleic Acids Research、1996年、Vol.24、No.15、3031頁〜3039頁)。これにより、流路103および柱状体105の表面に、アンチセンスオリゴヌクレオチドAを固定することができる。
以上の手順により、分離装置100が得られる。得られた分離装置100を用いて、RNAの分離を行う。
線虫から抽出したRNAをハイブリダイゼーション溶液(Rapid hybridization buffer(Amersham社製)と混合する。
試料導入部145よりサンプルを導入し、調湿箱内で、70℃で2時間反応した後、2×SSC(標準食塩クエン酸緩衝液)、0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)で室温15分、続いて0.2×SSC、0.1%SDSで65℃15分の洗浄を行う。次にDEPC(Diethylprocarbonate)処理水を試料導入部145より導入し、液溜め147に押し出された液の除去と液溜め147の洗浄を行う。そして、80℃で変性を行い、急冷により分離部107に固定化されたDNAとRNAを分けた後、溶液部分を液溜め147に回収すると、tpa−1遺伝子由来のRNAを高率に含有する溶液が得られる。
このように本実施例によれば、RNA混合物から特定の配列を持つRNAを良好に分離することができる。
【配列表】

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材に設けられた試料が流れる流路と、該流路に設けられ、前記試料中の特定物質を分離する分離部と、該分離部に設けられ、前記流路よりも幅狭の微細流路と、を含み、前記分離部に前記特定物質と選択的に吸着または結合する被吸着物質の層が形成されていることを特徴とする分離装置。
【請求項2】
基材と、該基材に設けられた試料が流れる流路と、該流路に設けられ、前記試料中の特定物質を分離する分離部と、該分離部に設けられた突起部と、を含み、前記分離部に前記特定物質と選択的に吸着または結合する被吸着物質の層が形成されていることを特徴とする分離装置。
【請求項3】
請求の範囲第1項または第2項に記載の分離装置において、前記分離部および前記流路に電極が設けられ、前記電極間に電圧を付与する電圧付与手段をさらに備えることを特徴とする分離装置。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載の分離装置において、前記分離部に突起部が設けられ、該突起部に電極が形成されていることを特徴とする分離装置。
【請求項5】
請求の範囲第1項乃至第4項いずれかに記載の分離装置において、前記特定物質と前記被吸着物質との組み合わせが、抗原と抗体、酵素と基質、酵素と基質誘導体、酵素と阻害剤、糖とレクチン、DNAとDNA、DNAとRNA、タンパク質と核酸、金属とタンパク質またはリガンドとレセプター、のいずれかの組み合わせであることを特徴とする分離装置。
【請求項6】
請求の範囲第1項乃至第5項いずれかに記載の分離装置において、前記被吸着物質がスペーサーを介して前記基材の表面に備えられたことを特徴とする分離装置。
【請求項7】
基材に設けられた流路と、該流路に設けられた分離部と、該分離部に設けられ、前記流路よりも幅狭の微細流路と、を含む分離装置の分離部に、分離対象物質に選択的に吸着または結合する被吸着物質と異なる符号の電圧を印加しながら、
前記流路に前記被吸着物質を含む液体を導入し、前記分離部に吸着させるステップと、
前記流路に前記分離対象物質を含む試料を導入し、前記被吸着物質に選択的に吸着または結合させるステップと、
前記流路に前記分離対象物質を前記被吸着物質から脱離させる脱離液を導入し、前記分離対象物質を脱離させ、回収するステップと、
を行うことを特徴とする分離方法。
【請求項8】
基材に設けられた流路と、該流路に設けられた分離部と、該分離部に設けられた突起部と、を含む分離装置の分離部に、分離対象物質に選択的に吸着または結合する被吸着物質と異なる符号の電圧を印加しながら、
前記流路に前記被吸着物質を含む液体を導入し、前記分離部に吸着させるステップと、
前記流路に前記分離対象物質を含む試料を導入し、前記被吸着物質に選択的に吸着または結合させるステップと、
前記流路に前記分離対象物質を前記被吸着物質から脱離させる脱離液を導入し、前記分離対象物質を脱離させ、回収するステップと、
を行うことを特徴とする分離方法。
【請求項9】
生体試料を分子サイズまたは性状に応じて分離する分離手段と、
前記分離手段により分離された試料に対し、酵素消化処理を含む前処理を行う前処理手段と、
前処理された試料を乾燥させる乾燥手段と、
乾燥後の試料を質量分析する質量分析手段と、
を備え、
前記分離手段は、請求の範囲第1項乃至第6項いずれかに記載の分離装置を含むことを特徴とする質量分析システム。

【国際公開番号】WO2004/051231
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【発行日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556860(P2004−556860)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015260
【国際出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】