説明

切削インサートおよび切削工具ならびにそれを用いた被削材の切削方法

【課題】特に肩削り加工における切削抵抗が低減され、かつ切屑排出性の良好な切削インサートを提供する。
【解決手段】切削インサートは、上面2および下面3ならびに上面2と下面3とに接続されている側面4を有する本体部を備え、側面4に設けられ、一端が上面2に達している溝部5と、上面2と側面4との交差部に位置し、溝部5によって分割された複数の分割切刃61とを有し、上面2には、分割切刃61の内側に位置し、分割切刃61から離れるにつれて下面3に近づくように傾斜する第1すくい部と、第1すくい部よりも内側に位置し、分割切刃61から離れるにつれて下面3から離れるように傾斜する第2すくい部とを有する切削インサートであって、第2すくい部は、分割切刃61に対応して設けられている凹部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートおよび切削工具ならびにそれを用いた被削材の切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正面フライス、エンドミルなどの転削工具として、回転中心軸を有するホルダの先端部外周面に設けられた複数のインサートポケットに、それぞれ切削インサートを装着したスローアウェイ式の転削工具が用いられている。転削工具を用いて行う代表的な加工としては、例えば平面を加工する平面削り加工、あるいは段を加工したり直角な面を加工したりする肩削り加工などが挙げられる。このような転削工具に用いられる切削インサートとして、近年、平面削りでは切削抵抗を低減するために、例えば特許文献1に開示されるように、側面に設けられる溝部によって切刃が分割された分割切刃を有した切削インサートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−57519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
肩削り加工では、特に転削工具の回転中心軸に対して平行な加工壁を形成する必要がある。この場合、加工面を傷つけることを抑制することが必要となる。本発明の目的は、特に肩削り加工において切削抵抗が低くて、切屑排出性の良好な切削インサートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の切削インサートは、上面および下面ならびに前記上面と前記下面とに接続されている側面を有する本体部を備え、該側面に設けられ、一端が前記上面に達している溝部と、前記上面と前記側面との交差部に位置し、前記溝部によって分割された複数の分割切刃とを有し、前記上面には、前記分割切刃の内側に位置し、前記分割切刃から離れるにつれて前記下面に近づくように傾斜する第1すくい部と、該第1すくい部よりも内側に位置し、前記分割切刃から離れるにつれて前記下面から離れるように傾斜する第2すくい部とを有する切削インサートであって、前記第2すくい部は、前記分割切刃に対応して設けられている凹部を有していることを特徴とする。
【0006】
本発明の切削工具は、本発明の切削インサートを複数と、これら複数の切削インサートが装着されるホルダとを備えている切削工具であって、前記複数の切削インサートは、一の側面における溝部の数が奇数である第1の切削インサートと、一の側面における溝部の数が偶数である第2の切削インサートとを含み、前記ホルダは回転中心軸を有し、かつ前記ホルダの先端部外周面に設けられた複数のインサートポケットを有し、前記第1の切削インサートおよび前記第2の切削インサートは、前記インサートポケットに交互に配置されて装着されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の被削材の切削方法は、本発明の切削工具を回転させる工程と、回転している前記切削工具の前記切刃を被削材に接触させて前記被削材を切削する工程と、回転している前記切削工具を前記被削材から離間させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の切削インサートによれば、切屑をカールさせるために設けられる第2すくい部において、分割切刃に対応した凹部が設けられている。分割切刃によって生成された切屑は、凹部によって幅方向に圧縮変形されて剛性が高められた状態でカールされる。また、凹部が切屑の進行方向を案内するため、切屑の排出方向が制御されて、切屑によって加工面を傷つけることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態の一例である切削インサート1Aの斜視図である。
【図2】図1に示す切削インサート1Aの上面図である。
【図3】図1に示す切削インサート1Aの側面図である。
【図4】図2に示す切削インサート1Aの、(a)および(b)は部分拡大図である。
【図5】図4(a)に示す切削インサート1Aの、(a)はA−A線における断面図であり、(b)はB−B線における断面図であり、(c)はC−C線における断面図である。
【図6】図4(b)に示す切削インサート1Aの、(a)はD−D線における断面図であり、(b)はE−E線における断面図であり、(c)はF−F線における断面図である。
【図7】(a)は本発明の実施形態の他の例である切削インサート1Bの斜視図であり、(b)は上面図であり、(c)は側面図である。
【図8】本発明の切削工具の実施形態の一例を示す斜視図である。
【図9】切削インサート1Aおよび切削インサート1Bのそれぞれの分割切刃と溝部との対応関係を示す図である。
【図10】本発明の被削材の切削方法の実施形態の一例を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<切削インサート>
以下、図1〜図7を用いて、本発明の実施形態の例である切削インサート1(1A,1B)(以下、単にインサート1と略す)について説明する。
【0011】
本発明の実施形態の一例であるインサート1Aは、上面2と下面3と、上面2および下面3に接続されている側面4とを有する本体部を備える。本例においては、図1および図2に示すように、この本体部は略板状であり、上面視において、例えば、四角形、五角形、六角形、八角形といった多角形状などの当業者が通常インサートに使用する形状である。本例においては、具体的には、本体部は、長さが等しい4つの辺と4つのコーナーとを有する略四角形状である。なお、上面2と側面4との交差部には切刃が設けられている。したがって、インサート1Aは、4つの辺に対応して4つの切刃を有しており、いわゆる4コーナー仕様のインサートである。本例においては、上面2は一辺が18.34mmの正方形であり、下面3から上面2までの高さは6.55mmである。
【0012】
インサート1Aの材質としては、例えば、超硬合金あるいはサーメットなどが挙げられる。超硬合金の組成としては、例えば、炭化タングステン(WC)にコバルト(Co)の粉末を加えて焼結して生成されるWC−Co、WC−Coに炭化チタン(TiC)を添加したWC−TiC−Co、あるいはWC−TiC−Coに炭化タンタル(TaC)を添加したWC−TiC−TaC−Coがある。また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料であり、具体的には、炭化チタン(TiC)、または窒化チタン(TiN)を主成分としたチタン化合物がある。
【0013】
インサート1Aの表面は、化学蒸着(CVD)法または物理蒸着(PVD)法を用いて
被膜でコーティングされていてもよい。被膜の組成としては、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)またはアルミナ(Al)などが挙げられる。
【0014】
上面2のうち切刃に沿う領域は、切屑が擦過するすくい面として機能する。側面3のうち切刃に沿う領域は、逃げ面として機能する。また、下面3は、ホルダに装着するための着座面として機能する。
【0015】
上面2と側面4とは、具体的には、上面2と側面4とのなす角が鋭角となるように接続している。すなわちインサート1Aは、図3に示すように、側面4に正の逃げ角θが付与された、いわゆるポジティブ型のインサートである。ここで、逃げ角θは、側面視において、下面3に垂直な補助線Vに対する側面4の傾斜角度である。逃げ角θとしては、5°〜30°の範囲であり、この範囲内で適宜設定される。本例においては、逃げ角θは11°であり、切刃に沿う方向において一定である。
【0016】
インサート1Aにおいては、インサート1Aの強度を維持する観点から、側面4が上面2および下面3に対して垂直に形成された、いわゆるネガティブ型のインサートであってもよい。
【0017】
図3に示すように、側面4の少なくとも1つの面には、溝部5が設けられている。また、図4(a)に示すように、溝部5は、一端が上面2に達しており、切刃6を複数の分割切刃61に分割するように設けられている。このように、切刃6を分割するように溝部5が設けられることによって、分割切刃61で生成される切屑の幅は、切刃6によって生成される切屑の幅に比べて小さくなるため、切削時にインサート1Aにかかる負荷が小さくなる。その結果、切削抵抗を低減することができる。
【0018】
本例においては、効果的に切削抵抗を低減させることを目的として、溝部5はすべての側面4に設けられている。なお、側面4における溝部5の数は特に制限されず、切削条件によって適宜設定すればよい。例えば、溝部5の数がそれぞれの側面4において異なっていてもよい。これによって、1つのインサート1Aをもって種々の切削条件に対応することが可能となる。例えば、また、一の側面4には溝部5が形成されており、それと隣り合う側面4には溝部5が形成されていないものでもよい。これによって、隣り合う側面4に切屑が詰まるおそれがなく、結果として、インサート、ホルダ、あるいは加工面を傷つけることが抑制される。本例においては、図3に示すように、1つの側面4に3つの溝部5が設けられている。
【0019】
溝部5の上面視における形状は特に制限されない。例えば、図4(a)に示す例においては、上面視で、外側に開口する凹状をなすように形成されている。本例においては、図4(b)に示すように、インサート1Aの強度の低下を抑制する観点から、上面視において、幅W5が内側に向かうにつれて小さくなっている。ここで、内側とは、インサート1Aにおいて切刃5を基準として本体側のことであり、外側とは、その逆側のことである。
【0020】
溝部5は、下面3側の端部に達していてもよいし、達していなくてもよい。本例においては、図3に示すように、製造上の容易さから溝部5は側面視において下面3側の端部に達している。また、溝部5の側面視における形状は特に制限されない。例えば、側面視において直線状であってもよいし、曲線状でもよい。本例においては、図3に示すように、側面視において、上面2から中央部に近づくにつれて、その幅が大きくなっており、中央部から下面3に近づくにつれて、その幅が小さくなっている。これによって、分割切刃61付近のインサート1Aの肉厚を厚くすることができ、結果として、インサート1Aの強度の低下を抑制することができる。さらに、深さについても特に制限されない。本例にお
いては、インサート1Aの強度の低下を抑制することを目的として、上面2から下面3に近づくにつれて浅くなっている。
【0021】
分割切刃61は、具体的には、図4(b)に示すように、直線部61aと、直線部61aの両端に位置する曲線部61bとで構成されている。曲線部61bを設けることによって分割切刃61の欠損を抑制することができる。また、本例においては、図4(b)に示すように、分割切刃61の幅W61は溝部5の幅W5よりも大きい。これによって、インサート1Aの強度の低下を抑制することができ、また、切屑が溝部5に詰まることを抑制することができる。
【0022】
上面2には、分割切刃61の内側に位置し、分割切刃61から離れるにつれて下面3に近づくように傾斜する第1すくい部21を有している。具体的には、図5(a)において、第1すくい部21は、第1すくい部21の分割切刃61に近い側の端部の仮想延長線Pと水平面Hとが角度αをなしている。角度αは10°〜30°の範囲から適宜設定される。本例においては、α=18°である。なお、図5(a)は側面図であるため、水平面Hは破線の直線で表されている。
【0023】
第1すくい部21は、すくいとして機能し、分割切刃61から生成される切屑の厚みに関与する。一般に、角度αが大きくなると、切屑の厚みは薄くなる傾向がある。また、第1すくい部21は、図4(a)に示すように、各分割切刃61に対応しており、また分割切刃61に沿って形成されている。つまり、第1すくい部21の少なくとも一部が、上面2において、各分割切刃61の垂直2等分線L上に位置している。ここで、本明細書において、「分割切刃61に対応する」とは、対象の部位の少なくとも一部が、上面2において、各分割切刃61の垂直2等分線L上に位置していることをいう。
【0024】
なお、本例においては、図4(b)および図5(a),(b)に示すように、分割切刃61の刃先の強度を強くするため、分割切刃61と第1すくい部21との交差部には、平坦なランド部611を有している。その幅は、切削条件によって適宜設定されるが、本例においては0.15mmである。
【0025】
上面2には、第1すくい部21よりも内側に位置し、分割切刃61から離れるにつれて下面3から離れるように傾斜する第2すくい部22を有している。具体的には、第2すくい部22は、第2すくい部22の分割切刃61から遠い側の端部の仮想延長線と水平面Hとが角度βをなしている。その角度βは20°〜45°の範囲から適宜設定される。本例においては、切屑をゼンマイ状にカールさせやすくすることを目的として、第2すくい部22は、分割切刃61に垂直な方向の断面視において、下面3に近づく方向に凹状である。この場合、図5(a)に示すように、角度βは、第2すくい部22の分割切刃61に近い側の端部と、分割切刃61から遠い側の端部とを結んだ直線Qと水平面Hとがなす角度で計測すればよい。本例においては、β=30°である。第2すくい部22は、すくいとして機能し、分割切刃61から生成される切屑を持ち上げてゼンマイ状にカールさせる。したがって、第2すくい部22は、図4(a)に示すように、各分割切刃61に対応しており、また分割切刃61に沿って形成されている。
【0026】
第1すくい部21と第2すくい部22との交差部23は、上面視において、分割切刃61の中央に向かうに従って分割切刃61から離れるように形成されている。すなわち、図4(b)において、例えば、分割切刃61中央部側における、交差部23と分割切刃61との距離X1は、分割切刃61端部における、交差部23と分割切刃61との距離X2に比べて長くなっている。本例において、図4(b)に示すように、交差部23は上面視において円弧状に形成されている。このような構成により、分割切刃61により生成された切屑が、まず幅方向の端部から交差部23および第2すくい部22に接触し、幅方向に圧
縮変形される。これによって、切屑の剛性を高めることができる。
【0027】
第2すくい部22は、本例において、図4(a)に示すように、分割切刃61に対応して設けられている凹部24を有している。これによって、さらに、幅方向に圧縮変形されて剛性が高められた状態でカールされる。また、凹部24が切屑の進行方向を案内するガイドとなり、切屑が左右方向に振れて進行するのを抑制し、切屑の排出方向の制御が良好となる。そのため、特に肩削り加工のように工具の回転中心軸に対して平行な加工面が形成される場合において、加工面を傷つけることを抑制することができる。
【0028】
凹部24は、本例においては、上面視において、図4(b)に示すように、第2すくい部22を分断するように、分割切刃61に垂直な方向に延びている。これによって、切り屑は、第2すくい部22を擦過している間、幅方向に圧縮変形された状態が維持され、かつガイドされた状態も維持されるため、切屑排出方向の制御がより良好となる。ここで、「ガイドする」とは、切屑が左右方向に振れて進行するのを抑制することをいう。
【0029】
凹部24は、本例において、図4(b)に示すように、交差部23を越えて、第1すくい部21まで延びている。切屑は第2すくい部22によって持ち上げられるために進行方向は不安定になりやすいが、この構成によれば、交差部23よりも分割切刃61に近い側から切屑をガイドできるため、切屑排出方向の制御がより良好となる。
【0030】
凹部24は、第1すくい部21と第2すくい部22との交差部23よりも内側に位置する第1領域241と、外側に位置する第2領域242とを有している。本例においては、図4(b)に示すように、分割切刃61の強度の低下を抑制するため、上面視において、第2領域242の面積は、第1領域241の面積よりも小さくなっている。
【0031】
また、本例においては、分割切刃61に垂直な方向の断面視において、凹部24の底部における最深部24dが、第1すくい部21と第2すくい部22との交差部23よりも内側に位置している。具体的には、最深部24dは、図5(b)において、底部において下面3との距離が最も小さくなっており、図4(b)において、交差部23よりも分割切刃61から遠い側に位置している。これによって、切屑が第2すくい部22によってカールされる際に、最も深い空間ができ、切屑がその空間に沈み込むことによって、カールの径を小さくすることができる。
【0032】
凹部24は、本例においては、図6に示すように、分割切刃61に平行でかつ上面2と直交する断面視において、分割切刃61の端部から中央部に近づくにつれて、下面3に近づくように湾曲している。これによって、切屑の幅方向の圧縮変形を促進することができる。
【0033】
さらに、本例においては、凹部24の幅における最大部24wは、図4(b)に示すように、上面視において、第1すくい部21と第2すくい部22との交差部23よりも内側に位置している。すなわち、凹部24の幅における最大部24wは第1領域241に位置している。なお、図6(a)における凹部24の幅をW24aとし、図6(b)における凹部24の幅をW24bとし、図6(c)における凹部24の幅をW24cとすれば、その大小関係は、W24b>W24a,W24b>W24cである。また、図4(b)に示すようにW24b≦W61であるのがよい。これによって、切屑が第2すくい部22を擦過し、第2すくい部22によってカールされる際に、最も広い空間ができ、切屑がその空間に沈み込むことによって、カールの径をより小さくすることができる。
【0034】
なお、本例においては、図4(b)に示すように、上面視において、最深部24dと最大部24wとが一致している。これによって、切屑のカール径をより良好に制御すること
ができる。
【0035】
第1領域241の幅は、図4(b)に示すように、上面視において、最大部24wから内側において、分割切刃61から離れるにつれて小さくなっている。これによって、切屑の幅方向の圧縮変形を促進することができる。
【0036】
第2領域242の幅は、図4(b)に示すように、上面視において、分割切刃61から離れるにつれて大きくなっている。これによって、分割切刃61付近におけるインサート1Aの強度の低下を抑制することができる。
【0037】
さらに、切屑を良好にガイドするために、凹部24は上面視において、分割切刃61の垂直2等分線Lに対して線対称な形状であるのがよい。本例においては、図4(b)に示すように、楕円形状であるが、これに限定されるものではなく、例えば、円形状や菱形状であってもよい。
【0038】
上面2には、本例において、図4(a)に示すように、溝部5に対応して凸部7が設けられている。この凸部7は、分割切刃61によって生成された切屑同士が互いに衝突しないように切屑の排出方向を安定させるとともに、切屑を第2すくい部22に誘導させるためのガイドの役割を果たす。これにより、切屑を確実にカールさせることができる。
【0039】
凸部7は、上面視において、その幅が最も広くなる位置における幅W7が、溝部5の幅W5以上の大きさであるのがよく、本例においては、図4(b)に示すように、その大小関係はW5<W7である。これによって、切屑が溝部5に進入することを抑制する。また、凸部7の幅は、図4(b)に示すように、上面視において、交差部23の位置で最も広くなり、交差部23よりも内側に近づくにつれて小さくなっている。これによって、第2すくい部22の面積をより大きく確保することができるため、切屑の幅方向の圧縮変形が良好に促進される。
【0040】
凸部7の頂部71は、図5(c)に示すように、溝部5から離れるにつれて高くなっている。これによって、切屑は第2すくい部22に近づくにつれて不安定になりやすくなるが、頂部71によって良好にガイドすることができる。
【0041】
上面2には、図4(a)に示すように、第2すくい部22よりも内側に第2すくい部22と連続している平坦な陸部25を有している。陸部25の中央部には、上面2の中央から下面3の中央まで貫通する貫通孔8を有しており、貫通孔8の周囲には、陸部25よりも低い位置にあるネジ頭当接部26を有している。貫通孔8は、ホルダに取り付けるために取付けネジを挿通する孔であり、ネジ頭当接部26は、取付けネジのネジ頭と当接する。このとき、陸部25は、分割切刃61よりも高い位置にあり、ネジ頭当接部26は分割切刃61と同じ高さに位置しているか、あるいは分割切刃61よりも低い位置にあるのがよい。具体的には、図5(a)および(b)に示すように、陸部25は、分割切刃61よりも高い位置にあり、ネジ頭当接部26は分割切刃61よりも低い位置にある。陸部25が分割切刃61よりも高い位置にあることによって、切屑が第2すくい部22を乗り越えて貫通孔8側に進入し、取付けネジに絡み付くことを抑制することができる。また、ネジ頭当接部26が分割切刃61よりも低い位置にあることによって、万一、切屑が陸部25を乗り越えた場合にも、取付けネジのネジ頭とネジ頭当接部26とが接触する位置が分割切刃61よりも低い位置にあるため、取付けネジのネジ頭とネジ頭当接部26との間に切屑が噛み込まれにくくなる。
【0042】
本発明の実施形態の他の例である切削インサート1Bについては、切削インサート1Aと異なる構成についてのみ説明する。切削インサート1Bは、図7に示すように、1つの
側面4に4つの溝部5が設けられている。本例においては、図7(c)に示すように、側面視において、中央の2つの溝部5は下面3側の端部に達しており、インサート1Bの強度の低下を抑制することを目的として、残りの両端部の2つの溝部5は下面3側の端部に達していない。
【0043】
<切削工具>
本発明の実施形態の一例である切削工具30は、図8に示すように、回転中心軸Sを有し、先端側の外周面に複数のインサートポケット21を有するホルダ20と、インサートポケット21にそれぞれ装着される上記のインサート1とを備えている。
【0044】
ホルダ20は、回転中心軸Sを中心とする略回転体形状をなす。そして、ホルダ20の先端側の外周面には、インサートポケット21が等間隔に複数設けられている。インサートポケット21は、インサート1が装着される部分であり、ホルダ20の外周面および先端面に開口している。
【0045】
そして、ホルダ20に設けられた複数のインサートポケット21に、インサート1が装着される。複数のインサート1は、切刃6が外周面から外方に突出するように装着される。
【0046】
本例においては、インサート1は、取付けネジによって、インサートポケット21に装着されている。すなわち、インサート1の貫通孔8に取付けネジを挿入し、この取付けネジの先端をインサートポケット21に形成されたネジ孔(図示せず)に挿入してネジ部同士を螺合させることによって、インサート1がホルダ20に装着されている。
【0047】
また、本例においては、インサート1は、ホルダ20に対して、外周面から外方に突出する切刃6が正のアキシャルレーキ角を有するように装着されている。すなわち、側面視で、ホルダ20の外周面側に配置されたインサート1の切刃6は、ホルダ20の先端側から後端側に向かうにつれて、ホルダ20の回転中心軸Sから遠ざかるように傾斜している。このような構成によって、切削時にかかる切削抵抗の低減を図ることができる。
【0048】
本例の切削工具においては、溝部5の数が異なる複数のインサート1を組み合わせて用いてもよい。本例においては、一の側面における溝部5の数が奇数である切削インサート1Aと、一の側面における溝部5の数が偶数である切削インサート1Bとを組み合わせて用いている。
【0049】
具体的には、切削インサート1Bの分割切刃61は、切削インサート1Aの溝部5に対応して設けられている。図9に示すように、切削インサート1Aおよび切削インサート1Bは、切削インサート1Bの分割切刃61の垂直2等分線L上に切削インサート1Aの溝部5が位置するようにホルダ20に配置されている。例えば、図8に示すように、インサート1Aとインサート1Bとが交互にホルダ20に配置されることが好ましい。このような切削インサート1Aおよび切削インサート1Bを組み合わせて用いることによって、切削インサート1Aの溝部5によって残る削り残し部分を切削インサート1Bの分割切刃61によって削ることができ、平坦な加工面を安定して得ることができる。
【0050】
なお、本例においては、切削インサート1Aおよび切削インサート1Bは、本体部、溝部5および分割切刃61の寸法が全て等しいものを用いているが、上述のように、一方の切削インサート1A(1B)の分割切刃61が他方の切削インサート1B(1A)の溝部5に対応していればよい。
【0051】
<被削材の切削方法>
図10を用いて、本発明の実施形態の一例である被削材の切削方法について、切削工具30を用いた場合を例示して説明する。本例の被削材の切削方法は、以下の(i)〜(iii)の工程を含む。
(i)図10(a)に示すように、切削工具30をホルダ20の回転中心軸Sを中心に矢
印X方向に回転させる工程、および矢印Y1方向に動かし、被削材100に切削工具30の切刃6を近づける工程。
(ii)図10(b)に示すように、インサート1の切刃6を被削材100の表面に接触させ、回転している切削工具30を矢印Z方向に動かし、被削材100の表面を切削する工程。
(iii)図10(c)に示すように、回転している切削工具30を矢印Y2方向に動かし
、被削材100から切削工具30を離間させる工程。
【0052】
これによって、上述したように、肩削り加工のように、回転中心軸Sと平行な方向に加工面が形成され、切屑の排出方向に制限される場合においても、切削抵抗が低減され、かつ良好な切屑排出性を備える切削工具30を用いて加工するため、加工効率および仕上げ面精度の向上が図れる。
【0053】
なお、切削工具30と被削材100とは相対的に近づければよく、例えば被削材100を切削工具30に近づけてもよい。これと同様に、前記(iii)の工程では、被削材10
0と切削工具30とは相対的に遠ざければよく、例えば被削材100を切削工具30から遠ざけてもよい。切削加工を継続する場合には、切削工具30を回転させた状態を保持して、被削材100の異なる箇所にインサート1の切刃6を接触させる工程を繰り返せばよい。使用している切刃6が摩耗した際には、インサート1を貫通穴8の中心軸に対して90度回転させて、未使用の切刃6を用いればよい。
【0054】
さらに、被削材100の材質の代表例としては、炭素鋼、合金鋼、ステンレス、鋳鉄、または非鉄金属などが挙げられる。
【符号の説明】
【0055】
1 切削インサート
2 上面
21 第1すくい部
22 第2すくい部
23 交差部
24 凹部
241 第1領域
242 第2領域
24d 最深部
24w 最大部
25 陸部
26 ネジ頭当接部
3 下面
4 側面
5 溝部
6 切刃
61 分割切刃
611 ランド部
7 凸部
8 貫通孔
20 ホルダ
21 インサートポケット
30 切削工具
100 被削材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面および下面ならびに前記上面と前記下面とに接続されている側面を有する本体部を備え、
該側面に設けられ、一端が前記上面に達している溝部と、
前記上面と前記側面との交差部に位置し、前記溝部によって分割された複数の分割切刃とを有し、
前記上面には、前記分割切刃の内側に位置し、前記分割切刃から離れるにつれて前記下面に近づくように傾斜する第1すくい部と、
該第1すくい部よりも内側に位置し、前記分割切刃から離れるにつれて前記下面から離れるように傾斜する第2すくい部とを有する切削インサートであって、
前記第2すくい部は、前記分割切刃に対応して設けられている凹部を有していることを特徴とする切削インサート。
【請求項2】
前記第1すくい部と前記第2すくい部との交差部は、上面視において、前記分割切刃の中央に向かうに従って前記分割切刃から離れるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記凹部は、上面視において、前記第2すくい部を分断するように、前記分割切刃に垂直な方向に延びていることを特徴とする請求項1または2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記凹部は、前記第1すくい部まで延びていることを特徴とする請求項1から3のいずれかの項に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記分割切刃に垂直な方向の断面視において、前記凹部の底部における最深部が、前記第1すくい部と前記第2すくい部との交差部よりも内側に位置していることを特徴とする請求項4に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記凹部の幅における最大部は、上面視において、前記第1すくい部と前記第2すくい部との交差部よりも内側に位置していることを特徴とする請求項4または5に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記凹部は、前記第1すくい部と前記第2すくい部との交差部よりも内側に位置する第1領域と、外側に位置する第2領域とを有し、
上面視において、前記第2領域の面積は、前記第1領域の面積よりも小さいことを特徴とする請求項4から6のいずれかの項に記載の切削インサート。
【請求項8】
前記第2領域の幅は、上面視において、前記分割切刃から離れるにつれて大きくなっていることを特徴とする請求項7に記載の切削インサート。
【請求項9】
前記凹部は、上面視において、楕円形状であることを特徴とする請求項4から8のいずれかの項に記載の切削インサート。
【請求項10】
前記溝部に対応して凸部が設けられていることを特徴とする請求項1から9のいずれかの項に記載の切削インサート。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかの項に記載の切削インサートを複数と、これら複数の切削インサートが装着されるホルダとを備えている切削工具であって、
前記複数の切削インサートは、一の側面における溝部の数が奇数である第1の切削インサートと、一の側面における溝部の数が偶数である第2の切削インサートとを含み、
前記ホルダは回転中心軸を有し、かつ前記ホルダの先端部外周面に設けられた複数のインサートポケットを有し、
前記第1の切削インサートおよび前記第2の切削インサートは、前記インサートポケットに交互に配置されて装着されていることを特徴とする切削工具。
【請求項12】
前記ホルダの前記回転中心軸に対して、前記分割切刃が正のアキシャルレーキを有するように前記複数の切削インサートが前記ホルダに装着されていることを特徴とする請求項11に記載の切削工具。
【請求項13】
請求項11または12に記載の切削工具を回転させる工程と、
回転している前記切削工具の前記切刃を被削材に接触させて前記被削材を切削する工程と、
回転している前記切削工具を前記被削材から離間させる工程とを含むことを特徴とする被削材の切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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