説明

切削インサート及び切削工具、並びにそれを用いた被削材の切削方法

【課題】切削抵抗が小さく、且つ、耐欠損性に優れた切削インサート及び切削工具、並びにそれを用いた被削材の切削方法を提供する。
【解決手段】切削インサートは、上面と、下面と、前記上面と前記下面との間に位置する側面と、前記上面と前記側面との交線部に位置する上切刃と、前記下面と前記側面との交線部に位置する下切刃と、を備えている。前記側面は、厚み方向に沿って前記上面まで延び且つ前記上切刃を複数の分断上切刃に分断する少なくとも1つの上凹部と、厚み方向に沿って前記下面まで延び且つ前記下切刃を複数の分断下切刃に分断する少なくとも1つの下凹部と、を有している。前記少なくとも1つの上凹部と前記少なくとも1つの下凹部とは、幅方向に沿って連続する肉厚部を介して互いに離隔している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサート及び切削工具、並びにそれを用いた被削材の切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削インサート(以下、「インサート」と言うことがある。)において、切屑の絡みつきを抑制する観点から、側面に溝部を設けて切刃を凹凸状にする事が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、従来のインサートにおける溝部は、側面の上面から下面に渡って形成されている。そのため、インサートの肉厚、すなわちインサートの中心軸を含み且つ切刃に平行な断面から側面までの距離を、側面の幅方向において連続的に確保することができず、インサートの耐欠損性が低下するおそれがあった。言い換えれば、溝部が存在する事によって、溝部に隣接する部位は、側面の上面から下面に渡ってブロック状に突出した構成となる。そして、このブロック状に突出した部位は、その上面側端部に位置する切刃によって切削を行う際に、切削応力に耐えられずに欠損するおそれがあった。
【0004】
そこで、切削抵抗が小さく、且つ、耐欠損性に優れたインサートが求められている。特に、上面から下面まで貫通する貫通孔(取付孔)を採用するインサートにおいては、貫通孔がインサートの更なる肉厚減少の原因となるため、耐欠損性の低下に対する対策がより一層求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平2−53305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題の一つは、切削抵抗が小さく、且つ、耐欠損性に優れた切削インサート及び切削工具、並びにそれを用いた被削材の切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る切削インサートは、上面と、下面と、前記上面と前記下面との間に位置する側面と、前記上面と前記側面との交線部に位置する上切刃と、前記下面と前記側面との交線部に位置する下切刃と、を備えている。また、前記側面は、厚み方向に沿って前記上面まで延び且つ前記上切刃を複数の分断上切刃に分断する少なくとも1つの上凹部と、厚み方向に沿って前記下面まで延び且つ前記下切刃を複数の分断下切刃に分断する少なくとも1つの下凹部と、を有している。そして、前記少なくとも1つの上凹部と前記少なくとも1つの下凹部とは、前記側面の幅方向に沿って連続する肉厚部を介して、互いに離隔している。
【0008】
本発明の実施形態に係る切削工具は、前記切削インサートと、該切削インサートが装着されるホルダと、を備えている。
本発明の他の実施形態に係る切削工具は、複数の前記切削インサートと、これら複数の切削インサートが装着されるホルダと、を備えている。前記複数の切削インサートのうち2つの切削インサートは、互いの前記上面と前記下面とを反対向きにし、前記ホルダの同一円周に沿って見たときに、一方の切削インサートの前記少なくとも1つの下凹部が、他方の切削インサートの前記少なくとも1つの上凹部と交互に且つ隙間を介して位置するような状態で、前記ホルダに装着される。
【0009】
本発明の実施形態に係る被削材の切削方法は、前記切削工具を回転させる工程と、回転している前記切削工具の前記上切刃又は前記下切刃を、被削材の表面に接触させる工程と、前記切削工具を前記被削材から離隔する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態に係る切削インサートによれば、上凹部と下凹部とが、側面の幅方向に沿って連続する肉厚部を介して互いに離隔しているため、インサートの肉厚を側面の幅方向に渡って確保する事ができる。その結果、上下両面を用いて切削可能な両面使いのインサートにおいて、凹部(上凹部及び下凹部)による切削抵抗の低減、並びに、肉厚部による耐欠損性の向上という2つの効果を兼ね備える事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る切削インサートを示す全体斜視図である。
【図2】(a)は、図1に示す切削インサートの上面図であり、(b)は、その側面図である。
【図3】(a)は、図1に示す切削インサートの反転後を示す図であり、(b)は、その反転前を示す図である。
【図4】(a)は、図2(a)のA−A線断面図であり、(b)は、図2(a)のB−B線断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る切削工具を示す全体斜視図である。
【図6】(a),(b)は、図5に示す切削工具の外周先端部付近を示す部分拡大側面図である。
【図7】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係る被削材の切削方法を示す工程図である。
【図8】(a),(b)は、本発明の他の実施形態に係る切削インサートの側面付近を示す部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<切削インサート>
以下、本発明に係る切削インサートの一実施形態について、図1〜図4を参照して詳細に説明する。
【0013】
本実施形態の切削インサート1は、図1及び図2に示すように、大略、上面2と、下面3と、上面2及び下面3に接続される側面4と、上面2から下面3まで貫通する貫通孔9と、上面2と側面4との交線部に位置する上切刃5と、下面3と側面4との交線部に位置する下切刃6と、を備えている。また、側面4は、厚み方向に沿って上面2まで延び且つ上切刃5を複数の分断上切刃51a〜51dに分断する少なくとも1つの上凹部7aと、厚み方向に沿って下面3まで延び且つ下切刃6を複数の分断下切刃61a〜61dに分断する少なくとも1つの下凹部7bと、を有している。そして、少なくとも1つの上凹部7aと少なくとも1つの下凹部7bとは、幅方向に沿って連続する肉厚部8(側面強化部)を介して互いに離隔している。なお、側面4の厚み方向とはインサート1の中心軸に平行な方向をいい、側面4の幅方向とは上記厚み方向に垂直な方向をいう。なお、側面4の幅方向に沿って連続するとは、側面視において上切刃5と下切刃6とに沿って延びる方向に連続していれば足りる。
【0014】
このような切削インサート1によれば、インサート1の肉厚を側面の幅方向に渡って確保する事ができる。その結果、上下両面を用いて切削可能な両面使いのインサート1において、凹部(上凹部7a及び下凹部7b)による切削抵抗の低減、並びに、肉厚部8による耐欠損性の向上という2つの効果を兼ね備える事が可能となる。
【0015】
なお、本実施形態に係るインサート1は、本体部が略多角形板状である。そして、本体部は、すくい面として機能する上面2と、着座面として機能する下面3と、逃げ面として機能する側面4と、を有している。また、図2に示すように、このインサート1は、上面2及び下面3の両面をそれぞれすくい面として使用可能なネガティブ形のインサートである。従って、下切刃6を用いる場合には、下面3をすくい面、上面2を着座面として使用する。以下、インサート1を構成する各部位について、詳細に説明する。
【0016】
本体部は、略多角形の形状であれば特に限定されるものではなく、上面視において、例えば三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の当業者が通常インサートに使用する形状であればよい。本実施形態においては、4つの長辺を有する略四角形の形状が用いられている。すなわち、インサート1は4コーナー使いのインサートである。したがって、上切刃5は、上面2の全周に渡って位置している。なお、本体部の形状は、全ての辺を切刃として使用する観点から、例えば正方形、正五角形等のように各辺の長さが等しいことが好ましい。また、切刃長さを確保しつつ、切刃を多く設けることができることを考慮すると、正五角形が好ましい。
【0017】
上面2及び下面3には、上切刃5及び下切刃6から内方に向かって厚みが順次薄くなるすくい面が形成されている。また、上面2の略中央部には、上面2から下面3まで貫通する貫通孔9(取付穴)が形成されている。貫通孔9の中心軸は、本体部の中心軸A1と同じ位置にある。この貫通孔9は、インサート1を後述するホルダ91に固定する目的で形成されている。すなわち、この貫通孔9に取付ねじ92(固定部材)を挿入してさらにホルダ91にねじ込むことによって、インサート1をホルダ91に固定することができる。このように上面2から下面3まで貫通する貫通孔9を有するインサート1では、貫通孔9がインサート1の肉厚減少の原因となり得るが、このようなインサート1においても、後述する肉厚部8を備える事によって耐欠損性の低下を効果的に抑制する事ができる。
【0018】
インサート1は、図2(a)に示す上面視において、中心軸A1に垂直な第3直線L3のうち上面2における最小寸法をS1、図2(b)に示す側面視において、中心軸A1に平行な第4直線L4のうち側面4における最小寸法をS2としたとき、前記S1及び前記S2は、S1>S2の関係を有している。なお、前記S1及び前記S2は同一の上切刃5からの寸法であって、前記S1は言わばインサート1の奥行きに相当し、前記S2は言わばインサート1の厚みに相当する。このような寸法の関係を有する事で、インサート1の肉厚を比較的大きくする事ができ、インサート1の耐欠損性を確保する事が可能となる。また、ホルダ91に対するインサート1の取付け安定性が向上する。
【0019】
上面2及び下面3は、それぞれの色を互いに異ならせるのが好ましい。具体的には、例えば前記本体部が銀色を示す超硬合金である場合に、上面2及び下面3のいずれか一方を、例えば金色を示す窒化チタン(TiN)により被覆するのが好ましい。ネガティブ形のインサートにおいては、上面及び下面は、いずれもすくい面として機能するため、インサートの取付け間違いを生じる場合がある。上面及び下面のいずれか一方をTiNで被覆すると、TiNで被覆した面と被覆していない面とが異なる色となる。それゆえ、それぞれの面を明確に区別できるようになり、インサートを装着する際の誤認を抑制することができる。上面2及び下面3のいずれかの被覆対象面は、その全面を被覆する必要はなく、例えば被覆対象面の一部(例えば切刃以外の部分)にTiNを被覆することによっても同様の効果を得ることができる。なお、上述の被覆に用いる材料としては、上面2及び下面3の色の相違を認識する事ができれば、TiNに限定されるものではない。例えば、前記本体部が超硬合金である場合に、明るい赤褐色を示す炭窒化チタン(TiCN)、暗い赤褐色を示す窒化チタンアルミ(TiAlN)等を採用することもできる。
【0020】
上切刃5は、主切刃部51と、この主切刃部51に連続して形成される副切刃部52と、を有している。具体的に説明すると、前記した通り、上面2は略多角形である。この上面2に接続される側面4は、第1側面41と、該第1側面41に隣接する第2側面42と、を有している。第1側面41及び第2側面42は、いずれも平面である。上切刃5は、第1側面41と上面2との交線部に位置する主切刃部51と、第1側面41及び第2側面42の接続側部43と上面2との交差部に位置し且つ主切刃部51と連続した副切刃部52と、を有している。なお、上切刃5と同様に、下切刃6も主切刃部61及び副切刃部62を有している。主切刃部61及び副切刃部62の構成は、主切刃部51及び副切刃部52と同様である。したがって、以下の説明では、主切刃部51及び副切刃部52について説明する。
【0021】
主切刃部51は、切削作用において、切屑生成に主な役割を果たす切刃である。主切刃部51は、側面4に並設された複数の上凹部7aにより分断されてなる分断上切刃51a〜51d(分割切刃)を有している。副切刃部52は、被削材の仕上げ面精度向上の目的で形成される。副切刃部52は、本体部の角部に形成され、通常、直線状である。主切刃部51と副切刃部52との間には、丸みを帯びたコーナー切刃を有する場合がある。主切刃部51は、側面視において、主切刃部61と平行であってもよい。これと同様に、副切刃部52も、側面視において、副切刃部62と平行であってもよい。
【0022】
主切刃部51及び副切刃部52は、図2(b)に示すように、両者で凸部53を形成するように、主切刃部51及び副切刃部52が鉛直方向に垂直な面に対してそれぞれ傾斜している。凸部53は、切削開始時の被削材へ切り込む(食い込む)際に有利である。被削材(ワーク)に対して、凸部53が点当りで接触し、スムーズに切り込むことができる観点から、側面視において、主切刃51と副切刃52とのなす角度αを鈍角とするのが好ましい。具体的には、角度αは、100〜170度の範囲に設定することが好ましい。
【0023】
側面4は、上面2と下面3とに垂直な面である。それ故、側面が上面2又は下面3との間に逃げ角を有するインサートと比較して、インサート1の肉厚を確保する事ができるため、耐欠損性に優れている。また、側面4は、上面2の略多角形の各辺にそれぞれ接続された複数の分割側面を有し、上凹部7aは、複数の分割側面のそれぞれに少なくとも1つ位置している。ここで分割側面とは、後述する第1側面41及び第2側面42のように、上面2の各辺に接続される個々の側面を意味する。本実施形態のインサート1において、側面4には、前記した通り、上凹部7a、下凹部7b及び肉厚部8が形成されている。以下、順に説明する。
【0024】
上凹部7aは、上切刃5、具体的には主切刃部51を分断するように形成されている。これにより、主切刃部51によって生成する切屑は、幅方向に小さく分断されるため、切削時の切削抵抗を低減させることができる。その結果、加工中におけるびびり振動及び切刃の欠損を低減し、優れた仕上げ面精度を得ることができるとともに、工具寿命を長くすることができる。このような主切刃部51を有するインサート1は、重切削加工する場合に特に好適である。
【0025】
上凹部7aは、側面4から上面2に達するように形成され、下凹部7bは、側面4から下面3に達するように形成されている。上凹部7a及び下凹部7bは、いずれも略一定の幅を有する溝状であり、また厚み方向に直線状である。複数の上凹部7aと、複数の下凹部7bとは、側面視において、互いに離隔している。これにより、側面4における上凹部7aと下凹部7bとの間に幅方向に沿って連続する肉厚部8が形成されるので、優れた耐欠損性を得ることができる。
【0026】
上凹部7aのそれぞれ及び下凹部7bのそれぞれは、側面4に位置する下端部7a1及び上端部7b1を有している。具体的には、図2(b)に示すように、上凹部7aの下端部7a1及び下凹部7bの上端部7b1はいずれも第1側面41に位置している。そして、本実施形態のインサートは、側面視において、下端部7a1は、上端部7b1よりも上面2側に位置している。この場合、側面4における上凹部7aと下凹部7bとの間に、厚み方向に比較的長い肉厚部8が形成されるので、より優れた耐欠損性を得ることができる。
【0027】
上凹部7a及び下凹部7bは、インサート1を切削工具に装着する角度に応じて適宜形成される。例えば本実施形態のように前記すくい面を有する場合は、このすくい面から側面4に向かって水平方向に上凹部7a及び下凹部7bを設けてもよいし、あるいは上凹部7a及び下凹部7bの底部が側面4に向かうに従って、下面3又は上面2に近づくように傾斜してもよい。上凹部7a及び下凹部7bの厚み方向における長さは、インサート1を装着した切削工具の送り量に応じて適宜設定すればよい。
【0028】
上凹部7a及び下凹部7bの数は、使用する被削材の種類に応じて適宜設定すればよい。上凹部7a及び下凹部7bの数が多いほど、切削抵抗及びびびり振動は低減されるが、切削面積は小さくなる。上凹部7a及び下凹部7bの数は、少なくとも1つであればよく、インサート1の強度を低下させず、且つ切削抵抗を低減する点から、1つの側面に対して、通常2〜6個程度、好ましくは2〜4個の範囲で形成される。なお、上凹部7a及び下凹部7bは、切削時の各切刃の摩耗量を均一にする観点から、各側面に対して同数形成されることが好ましい。
【0029】
図2(b)及び図3(a)に示すように、少なくとも1つの下凹部7bは、上面視において、側面4の対角線の交点Pを通り且つ中心軸A1に垂直な基準線Lを軸にして反転させたとき、図3(b)に示す前記反転前の複数の分断上切刃51a〜51dの少なくとも1つと重なる。具体的には、前記少なくとも1つの下凹部7bと、該下凹部7bと隣接する一方の分断下切刃との交差部と、前記少なくとも1つの下凹部7bと、該下凹部7bと隣接する他方の分断下切刃との交差部とを結ぶ直線の全長が、基準線Lを軸にして反転させたとき、前記反転前の複数の分断上切刃51a〜51dの少なくとも1つと重なる。これによれば、被削材のうち分断上切刃51a〜51d及び分断下切刃61a〜61dで削り残した部位を相互に補完しあう事ができるため、1種類のインサート1のみで削り残しのない切削が可能となる。特に、本実施形態に係るインサート1を用いれば、一のインサートの上面と他のインサートの下面とを交互に配置する事によって、1種類のインサート1のみで削り残しのない切削が可能となる。
【0030】
また、本実施形態のインサート1は、前記少なくとも1つの下凹部7bは、上面視において、基準線Lを軸にして反転させたとき、前記反転前の少なくとも1つの上凹部7aと交互に且つ隙間を介して位置する構成を有する。すなわち、前記少なくとも1つの下凹部7bが、上面視において、基準線Lを軸にして反転させたとき、前記反転前の少なくとも1つの上凹部7aと重ならないように配置されている。したがって、このような構成によっても、図3(b)に示す反転前のインサート1と、図3(a)に示す反転後のインサート1(以下、「反転インサート1’」と言う。)とを、ホルダ91の同一円周上に沿って配置すると、インサート1の上凹部7aで生成する帯状の削り残し部を、反転インサート1’の下切刃6で切削することができる。
【0031】
上凹部7a及び下凹部7bは、上面視において、本体部の厚み方向に垂直に延びる中心軸A1を基準に回転対称となるように各側面4に配置されることが好ましい。具体的には、各側面4に形成される上凹部7a及び下凹部7bが、側面視において同じになるように配置される。これにより、インサート1と、その反転インサート1’との切刃の寿命のばらつきが少なくなり、切削工具に用いる全てのインサートの交換のタイミングをほぼ同時期とすることができる。
【0032】
上凹部7aは、図1に示すように、第1側面41に位置する複数の第1上凹部71aと、第2側面42に位置する複数の第2上凹部72aと、を有している。上面視において、第1上凹部71aと、第2上凹部72aとは、中心軸A1を基準に回転対称である。また、第1上凹部71aの数と、第2上凹部72aの数は、同じである。第1上凹部71a及び第2上凹部72aのその他の構成は、前記した上凹部7aと同様である。
【0033】
肉厚部8は、側面4の幅方向、すなわち側面4の両端部を結ぶ方向に連続する部分であり、側面4において、インサート1の肉厚を確保する役割を有する。肉厚部8を有することで、上面から下面まで貫通する溝部を形成する場合に生じる従来の課題、すなわちインサートの耐欠損性の低下を抑制することができる。本実施形態においては、上凹部7a及び下凹部7bを除く側面4の平坦な面全体が肉厚部8に相当する。なお、肉厚部8は、側面4の幅方向の長さが、隣接する2つの上凹部7aの距離、或いは、隣接する2つの下凹部7bの距離、よりも大きい事が好ましい。肉厚部8がこのような長さに渡って連続する事によって、上述のような効果を十分に発揮する事が可能となる。
【0034】
肉厚部8は、上述のように、側面4の幅方向に連続しており、インサート1の肉厚を確保できるような部分であればよい。具体的に説明すると、図4(a)に示すように、肉厚部8を通り中心軸A1に垂直な第1直線L1のうち肉厚部8と中心軸A1との間の距離をD1、上切刃5を通り中心軸A1に垂直な第2直線L2のうち上切刃5と中心軸Aとの間の距離をD2としたとき、前記D1及び前記D2が、D1=D2の関係を有するのが好ましい。第1直線L1及び第2直線L2は、互いに平行である。この関係を満たす事によって、耐欠損性に優れたインサート1とする事ができる。なお、肉厚部8は、上切刃5よりも外方に向かって張り出していてもよい。すなわち、D1>D2の関係を有していてもよい。この場合、インサート1の耐欠損性をさらに向上させる事が可能となる。
【0035】
肉厚部8は、その厚み方向における長さについても特に制限されない。例えば肉厚部8は、側面4の幅方向に線で形成されていてもよく、面で形成されていてもよい。肉厚部8が線状となる例としては、例えば、上凹部7a及び下凹部7bの深さがそれぞれ側面4の厚み方向の中央領域で浅くなって終端部(下端部7a1、上端部7b1)に至り、両終端部が実質的に一体となる場合が挙げられる。
【0036】
肉厚部8は、優れた耐欠損性を得る観点から面で形成されることが好ましい。具体的には、図1及び図4に示すように、上切刃5は、直線部(主切刃部51、副切刃部52)を有し、前記直線部は平面部8aの厚み方向に沿う延長線上に位置している。そして、中心軸A1を含み且つ前記直線部に平行な断面と、平面部8aとは、互いに平行である。これにより、インサート1の肉厚が減少することによる耐欠損性の低下を抑制することができる。
【0037】
また、側面4の幅方向に直線状に形成される面を含んでいることがさらに好ましい。図2(b)及び図4(b)に示すように、本実施形態においては、肉厚部8が、上凹部7aと下凹部7bとの間に直線状(帯状)の平面部8a(平坦面)を含んで形成されている。すなわち、側面視において、肉厚部8は、第1側面41の幅方向の一端部から他端部まで直線的に延びる直線領域を有している。
【0038】
肉厚部8の厚み方向の長さは、側面視における上凹部7a及び下凹部7bの厚み方向の長さの最大値に比べて大きくなるように設定することが好ましい。例えば、上凹部7aの長さの最大値と、下凹部7bの長さの最大値とを合計した値を、上凹部7a及び下凹部7bの長さの最大値として比較すればよい。
【0039】
肉厚部8は、より優れた耐欠損性を得る点から、各側面4に位置する肉厚部8が互いに連続して形成されていることが好ましい。具体的に説明すると、肉厚部8は、図1に示すように、第1側面41に位置する第1肉厚部81と、第2側面42に位置する第2肉厚部82と、を有している。第1肉厚部81と第2肉厚部82とは、幅方向に沿って互いに連続している。
【0040】
肉厚部8は、1つの側面4に対して、以下の割合で形成されるのが好ましい。すなわち、肉厚部8は、上凹部7a、下凹部7b及び肉厚部8が形成されていない状態の1つの側面4全体に対して、60%以上、好ましくは60〜80%の割合で形成されるのが好ましい。これにより、インサート1の肉厚を確保することができる。
【0041】
上面2は、図4(b)に示すように、貫通孔9の周囲に第1平面領域21を有する。本体部の中心軸A1を含み且つ上切刃5に垂直な断面において、第1平面領域21は、下端部7a1よりも上方に位置する。これにより、上凹部7aを大きく確保することができ、1刃当りの送り量を上げて加工することができる。また、下面3は、貫通孔9の周囲に第2平面領域31を有する。前記断面において、第2平面領域31は、上端部7b1よりも下方に位置する。これにより、下凹部7bを大きく確保することができ、1刃当りの送り量を上げて加工することができる。
【0042】
また、図4(a)に示すように、前記断面において、第1平面領域21は、上切刃5よりも下方に位置する。これにより、上切刃5のすくい角を大きく確保することができる。前記断面において、第2平面領域31は、下切刃6よりも上方に位置する。これにより、下切刃6のすくい角を大きく確保することができる。
【0043】
<切削工具>
次に、本発明に係る切削工具の一実施形態について、図5及び図6を参照して詳細に説明する。図5及び図6(a)に示すように、本実施形態に係る切削工具90は、複数の前記したインサート1と、これら複数のインサート1が装着されるホルダ91と、を備えている。
【0044】
ホルダ91の外周先端部には、複数のインサートポケット93が形成されている。各インサートポケット93内の外周位置にインサート1が取り付けられる。具体的には、インサート1は、矢印Cに示す回転方向に上面(すくい面)2を向けて最外周に主切刃部51が位置するように装着される。切削工具90は、ホルダ91を矢印C方向に回転させることによって主切刃部51により切削が行われる。
【0045】
切削工具90は、図6(b)に示すように、インサート1を装着した状態で、正のアキシャルレーキ角を持つように、ホルダ91にインサート1が装着される。具体的には、インサート1の副切刃部52が、ホルダ91の中心軸A2に対して垂直となるように装着される。
【0046】
切削工具90は、ホルダ91の同一円周上に沿って主切刃部の配置が異なるインサート1を装着してなる。複数のインサート1のうち2つのインサート1,1は、互いの上面2と下面3とが反対に位置する状態でホルダ91に装着される。すなわち、ホルダ91の同一円周上に沿って上面2を回転方向に向けたインサート1と、下面3を回転方向に向けた反転インサート1’とを交互に配置する。次いで、インサート1及び反転インサート1’の各々の貫通孔9に、取付ねじ92(固定部材)を挿入してホルダ91にねじ込むことによって、インサート1及び反転インサート1’をホルダ91にそれぞれ固定する。これにより、インサート1の上凹部7aで生成する帯状の削り残し部を反転インサート1’の下切刃6(主切刃部61)で切削することができ、削り残し部を生じずに切削加工することができる。同一円周上に沿って配置できるインサートの数は、インサート1とその反転インサート1’とが少なくとも1つずつであればよい。インサートの数は、通常、2の倍数となることが好ましい。
【0047】
<被削材の切削方法>
次に、本発明に係る被削材の切削方法の一実施形態について、図7を参照して詳細に説明する。本実施形態にかかる被削材の切削方法は、以下の(i)〜(iii)の工程を備える。
(i)図7(a)に示すように、切削工具90をホルダ91の中心軸A2を中心に矢印C方向に回転させ、矢印D方向に動かし、被削材100に切削工具90を近づける工程。
(ii)図7(b)に示すように、回転している切削工具90の上切刃5及び下切刃6を、被削材100の表面に接触させ、切削工具90を矢印E方向に動かし、被削材100を切削する工程。
(iii)図7(c)に示すように、切削工具90を矢印F方向に動かし、切削工具90を被削材100から離隔する工程。
【0048】
本実施形態では、インサート1を装着した切削工具90を用いて被削材100を切削するので、前記(ii)の工程では、切削時の切削抵抗を低減することができ、加工中におけるびびり振動を低減することができる。さらに1種類のインサートで削り残し部を生じずに加工することができる。
【0049】
なお、前記(i)の工程では、切削工具90及び被削材100のいずれかを回転させればよい。切削工具90と被削材100とは相対的に近づけばよく、例えば被削材100を切削工具90に近づけてもよい。これと同様に、前記(iii)の工程では、被削材100と切削工具90とは相対的に遠ざかればよく、例えば被削材100を切削工具90から遠ざけてもよい。切削加工を継続する場合には、切削工具90を回転させた状態を保持して、被削材100の異なる箇所に切削工具90の上切刃5及び下切刃6を接触させる工程を繰り返せばよい。使用している上切刃5及び下切刃6が摩耗した際には、インサート1及び反転インサート1’を貫通穴9の中心軸A1に対して90度回転させ、未使用の上切刃5及び下切刃6を用いればよい。
【0050】
以上、本発明に係るいくつかの実施形態について例示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意のものとすることができることは言うまでもない。
【0051】
例えば、前記した一実施形態に係るインサートでは、側面視において、上凹部の下端部が、下凹部の上端部よりも上面側に位置する場合について説明した。これに代えて、側面視において、上凹部の下端部は下凹部の上端部よりも下面側に位置するような構成としても良い。例えば、図8(a)に示すように、側面4及び第1側面41に位置する下端部7a2及び上端部7b2の位置関係を、側面視において、下端部7a2が上端部7b2よりも下面3側に位置する。この実施形態に係る肉厚部81は、第1側面41の幅方向の一端部から他端部まで波状に延びる曲線領域を有する。この実施形態に係るインサートにおいても、側面4の幅方向に沿って肉厚部8が連続することから、前記した一実施形態に係るインサート1と同様の効果を奏する。特に、上凹部7a及び下凹部7bの長さをより長くできることから、切屑の排出性をさらに向上させる事が可能となる。なお、その他の構成は、前記した一実施形態に係るインサート1と同様である。
【0052】
また、前記した一実施形態に係る肉厚部の直線領域は、図2(b)に示すように、第1側面41の幅方向の一端部における中点と、第1側面41の幅方向の他端部における中点とを通る第5直線に対して平行である。これに代えて、例えばこの直線領域を、第5直線に対して傾斜させることもできる。具体例を挙げて説明すると、図8(b)に示すように、側面視において、肉厚部82の直線領域83は、副切刃部から主切刃部へ向かう矢印Gに示す方向において、第5直線L5に対して上切刃5側に近付くように傾斜している。これにより、ホルダ装着時の逃げ角に応じた溝逃げ量を確保することができる。その他の構成は、前記した一実施形態に係るインサート1と同様である。
【符号の説明】
【0053】
1 切削インサート
2 上面
3 下面
4 側面
41 第1側面
42 第2側面
43 接続側部
5 上切刃
51 主切刃部
51a〜51d 分断上切刃
52 副切刃部
53 凸部
6 下切刃
61 主切刃部
61a〜61d 分断下切刃
62 副切刃部
7a 上凹部
7a1 下端部
71a 第1上凹部
72a 第2上凹部
7b 下凹部
7b1 上端部
8 肉厚部
8a 平面部
81 第1肉厚部
82 第2肉厚部
9 貫通孔
21 第1平面領域
31 第2平面領域
90 切削工具
91 ホルダ
92 取付ねじ
93 インサートポケット
100 被削材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と、
下面と、
前記上面と前記下面との間に位置する側面と、
前記上面と前記側面との交線部に位置する上切刃と、
前記下面と前記側面との交線部に位置する下切刃と、を備える切削インサートであって、
前記側面は、
厚み方向に沿って前記上面まで延び且つ前記上切刃を複数の分断上切刃に分断する少なくとも1つの上凹部と、
厚み方向に沿って前記下面まで延び且つ前記下切刃を複数の分断下切刃に分断する少なくとも1つの下凹部と、を有し、
前記少なくとも1つの上凹部と前記少なくとも1つの下凹部とは、前記側面の幅方向に沿って連続する肉厚部を介して、互いに離隔している、切削インサート。
【請求項2】
前記肉厚部を通り切削インサートの中心軸に垂直な第1直線のうち、前記肉厚部と前記中心軸との間の距離をD1、
前記第1直線に平行で、且つ、前記上切刃を通り前記中心軸に垂直な第2直線のうち、前記上切刃と前記中心軸との間の距離をD2としたとき、
前記D1及び前記D2が、D1≧D2の関係を有する、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記上切刃は直線部を有し、
前記肉厚部は平面部を有し、
前記直線部は前記平面部の厚み方向に沿う延長線上に位置し、
前記中心軸を含み且つ前記直線部に平行な断面と前記平面部とは、互いに平行である、請求項1又は2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記少なくとも1つの上凹部は、前記側面に位置する下端部を有し、
前記少なくとも1つの下凹部は、前記側面に位置する上端部を有し、
側面視において、前記下端部は前記上端部よりも前記上面側に位置する、請求項1〜3のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項5】
前記少なくとも1つの上凹部は、前記側面に位置する下端部を有し、
前記少なくとも1つの下凹部は、前記側面に位置する上端部を有し、
側面視において、前記下端部は前記上端部よりも前記下面側に位置する、請求項1〜3のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項6】
前記上面から前記下面まで貫通する貫通孔、をさらに有する請求項1〜5のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項7】
上面視において、前記中心軸に垂直な第3直線のうち前記上面における最小寸法をS1、
側面視において、前記中心軸に平行な第4直線のうち前記側面における最小寸法をS2としたとき、
前記S1及び前記S2は、S1>S2の関係を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項8】
前記上面の色と前記下面の色とが、互いに異なる、請求項1〜7のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項9】
前記上面は略多角形であり、
前記側面は、第1側面と、該第1側面に隣接する第2側面と、を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項10】
側面視において、前記肉厚部は、前記第1側面の幅方向の一端部から他端部まで直線的に延びる直線領域を有する、請求項9に記載の切削インサート。
【請求項11】
側面視において、前記肉厚部の前記直線領域は、前記第1側面の幅方向の一端部における中点と、前記第1側面の幅方向の他端部における中点とを通る第5直線に対して傾斜している、請求項10に記載の切削インサート。
【請求項12】
側面視において、前記肉厚部は、前記第1側面の幅方向の一端部から他端部まで波状に延びる曲線領域を有する、請求項9に記載の切削インサート。
【請求項13】
前記肉厚部は、
前記第1側面に位置する第1肉厚部と、前記第2側面に位置する第2肉厚部と、を有し、
前記第1肉厚部と前記第2肉厚部とは、幅方向に沿って互いに連続している、請求項9〜12のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項14】
前記少なくとも1つの上凹部は、
前記第1側面に位置する少なくとも1つの第1上凹部と、前記第2側面に位置する少なくとも1つの第2上凹部と、を有し、
上面視において、前記少なくとも1つの第1上凹部と前記少なくとも1つの第2上凹部とは、前記中心軸を基準に回転対称である、請求項9〜13のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項15】
前記上切刃は前記上面の全周に渡って位置し、
前記側面は、前記上面の前記略多角形の各辺にそれぞれ接続された、複数の分割側面を有し、
前記少なくとも1つの上凹部は複数の上凹部を有し、
前記複数の分割側面のそれぞれに前記複数の上凹部の少なくとも1つが位置している、請求項9〜14のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の切削インサートと、
前記切削インサートが、その前記貫通孔に挿入される固定部材によって、装着されるホルダと、を備える、切削工具。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれかに記載の複数の切削インサートと、
前記複数の切削インサートが装着されるホルダと、を備え、
前記複数の切削インサートのうち2つの切削インサートは、互いの前記上面と前記下面とを反対向きにし、前記ホルダの同一円周に沿って見たときに、一方の切削インサートの前記少なくとも1つの下凹部が、他方の切削インサートの前記少なくとも1つの上凹部と交互に且つ隙間を介して位置するような状態で、前記ホルダに装着される、切削工具。
【請求項18】
請求項16又は17に記載の切削工具を回転させる工程と、
回転している前記切削工具の前記上切刃又は前記下切刃を、被削材の表面に接触させる工程と、
前記切削工具を前記被削材から離隔する工程と、を備える、被削材の切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−280056(P2010−280056A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175903(P2010−175903)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【分割の表示】特願2010−529969(P2010−529969)の分割
【原出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】