説明

切削工具およびそれを用いた切削方法

【課題】小さな切削インサートであっても強固にホルダに固定できるとともに、切削インサートの交換作業の時間を短縮でき高い作業効率を発揮することができる切削工具を提供する。
【解決手段】上面と下面と側面と前記上面と前記側面との交差部に形成された切刃とを有した切削インサートと、該切削インサートが固定されるホルダと、を備えた切削工具であって、前記ホルダと当接する切削インサートの表面の少なくとも一部に、強磁性膜が形成されており、前記切削インサートが前記ホルダに磁力によって固定されていることを特徴とする切削工具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品などの加工に用いられる、切削インサートをホルダに着脱可能に取り付けてなる切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部品などの加工に用いられる、切削インサートをホルダに着脱可能に取り付けてなる切削工具であるスローアウェイ式切削工具が多用されている。
【0003】
このようなスローアウェイ式切削工具においては、従来から、切削インサートをホルダに取り付ける機構、いわゆる、インサートのクランプ機構が数多く提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ホルダの先端部に形成されたインサートポケットに、複数の切削インサートがクランプねじによって固定された転削工具が開示されている。
【0005】
また、他のクランプ機構としては、レバーロック機構やウェッジロック機構など、様々な形状をなすクランプ部材によって切削インサートをホルダに取り付ける機構が開示されている。
【特許文献1】特開2002―273611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、昨今では、切削加工の高効率化に伴い、一度に多量の被削材を切削加工できるように、ホルダに多数の切削インサートを取り付けて使用する切削工具が多用されてきている。
【0007】
しかし、このような切削工具に、上記のような従来のクランプ機構を用いた場合には、切削加工で摩耗した切削インサートを交換する度に、各々の切削インサートについて、固定するねじやレバーなどといったクランプ部材の操作を行わなければならず、多大な作業時間を要する。そのため、加工速度は向上するものの、作業性が低下し、加工工程全体としては必ずしも十分な効率化が図られていないという問題があった。
【0008】
また他方では、切削加工の複雑化も進んでいる。具体的には、被削材がより小さなものになったり、切削加工によって形成する加工物の形状がより複雑なものになったりしてきている。このような小物加工や複雑な形状の切削加工を好適に行うためには、切削工具そのものの小型化が望まれている。
【0009】
しかしながら、クランプ部材によって切削インサートをホルダに取り付ける従来のインサートのクランプ機構では、切削インサートにクランプねじを挿入するねじ穴や、レバーロックが係合する貫通穴などを形成しなければならない。さらに、従来のインサートのクランプ機構で固定される切削インサートは、切削加工に耐え得るだけでなくクランプねじなどの締め付けにも耐え得るだけの肉厚を確保する必要があった。
【0010】
そのため、従来のクランプ機構で固定される切削インサートを小型化しようとすると、ねじなどの締め付けに耐え得る肉厚を確保できず破損してしまうといった問題があった。そもそも、ねじ穴や貫通穴を形成しなければならない為、切削インサートを小型化すること自体が困難であった。
【0011】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、小さな切削インサートであっても強固にホルダに固定できるとともに、切削インサートの交換作業の時間を短縮でき高い作業効率を発揮することができる切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の切削工具は、上面と下面と側面と前記上面と前記側面との交差部に形成された切刃とを有した切削インサートと、該切削インサートが固定されるホルダと、を備えた切削工具であって、前記ホルダに当接する前記切削インサートの表面の少なくとも一部に、強磁性膜が形成されており、前記切削インサートが前記ホルダに磁力によって固定されていることを特徴とする。
【0013】
このような構成により、クランプ部材を用いることなくホルダに切削インサートを装着することができるため、切削インサートの小型化が図れるとともに、切削インサートの交換にかかる作業時間の短縮が図れる。
【0014】
さらに、前記強磁性膜は、Fe、Ni、Coのうちの一種またはこれらの合金で形成されていることが、切削インサートをホルダに拘束する力が向上するとともに、成膜が容易であり切削工具の加工コストの低減が図れるため望ましい。
【0015】
さらに、前記強磁性膜は、前記切刃から離間して形成されていることが、切削時に温度が上昇する切刃から十分に離間した位置に成膜されていることにより、膜を安定した状態に保つことができるとともに、切削時に切刃に溶着して切削性能を低下させることなくインサートをホルダへ安定して拘束することができるため望ましい。
【0016】
また、前記ホルダは、前記切削インサートの下面が当接する拘束座面と、前記切削インサートの側面が当接する拘束側面と、を有しており、前記拘束座面および拘束側面のうち少なくとも一方には、常磁性部材が設けられていることが、ホルダを磁化していない間でも、ホルダへ切削インサートを仮止めしておくことができ、作業効率の向上が更に図れるため望ましい。
【0017】
さらに、前記常磁性部材は、前記拘束座面および拘束側面の少なくとも一方の外周に沿って設けられていることが、ホルダに切削インサートを安定して仮止めすることができるため望ましい。
【0018】
また、前記拘束側面および前記切削インサートの側面には、互いに嵌合する側面側嵌合部が各々設けられていることが、ホルダを磁化していない間でも、ホルダへ切削インサートを仮止めしておくことができるため望ましい。
【0019】
さらに、前記拘束座面および前記切削インサートの下面には、互いに嵌合する座面側嵌合部が各々設けられていることが、上記同様、ホルダを磁化していない間でも、ホルダへ切削インサートを仮止めしておくことができるため望ましい。
【0020】
また、前記座面側嵌合部は、前記ホルダの軸線方向に沿って設けられていることが、ホルダに切削インサートを安定して仮止めすることができるとともに、切削時に切削インサートが飛散することを抑制することができるため望ましい。
【0021】
さらに、前記座面側嵌合部は、前記ホルダの先端側から基端側に向かうにつれて前記ホルダの軸線から遠ざかるよう傾斜して設けられていることが、切削時に切削インサートが飛散することを抑制する効果および仮止めの効果が好適に得られ、切削インサートをホルダに強固に安定して固定することができるため望ましい。
【0022】
また、前記拘束座面に設けられた前記座面側嵌合部のうち、前記ホルダの軸線に沿う壁面に常磁性部材が配置されていることが、切削時に切削インサートが飛散することを抑制する力が向上するため望ましい。
【0023】
さらに、前記拘束座面および拘束側面は、前記ホルダの本体から着脱可能である補助部材に形成されていることが、拘束座面や拘束側面に、仮止め機構である常磁性部材を配置したり嵌合部を形成したりすることが、容易になり、切削工具のコスト低減が図れるため望ましい。
【0024】
前記課題を解決するため、本発明の被削材の切削方法は、上記切削工具を用いて被削材を切削する方法であって、前記被削材に前記切削工具を相対的に近づける近接工程と、前記被削材又は前記切削工具を回転させ、該切削工具を前記被削材の表面に接触させて前記被削材を切削する切削工程と、前記被削材と前記切削工具とを相対的に遠ざける離間工程と、を備えることを特徴とする。
【0025】
このような構成により、切削インサートがクランプ部材を用いることなくホルダに強固にかつ安定して固定された切削工具を用いて切削するため、加工面精度および作業効率が高い切削加工を実現することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の切削工具によれば、従来のねじやレバーなどのクランプ部材のような別部品を用いることなく、ホルダに切削インサートを取り付けることができるため、切削インサートそのものの小型化が図れるとともに、使用した切削インサートを交換する作業時間を短縮でき、作業効率の向上が図れる。
【0027】
本発明の被削材の切削方法によれば、使用した切削インサートの交換作業に要する時間を短縮でき、切削加工全体の作業効率の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を添付図面により説明する。
【0029】
図1乃至図4は、本発明の第一の実施形態を示すものである。図1は、本発明の第一の実施形態による切削工具1の全体斜視図である。図2は、図1の切削工具1を構成するホルダ2の全体斜視図であり、図3は、図2のホルダ2の側面図である。そして、図4は、図3の要部拡大図、図5は、切削工具1のうち、切削インサート(以下、インサート3とする)が装着された部分の概略断面図である。
【0030】
さらに、図6は、本発明の第二の実施形態による切削工具1’のホルダ2の要部拡大図、図7は、切削工具1’のうち、インサート3が装着された部分の概略断面図である。
【0031】
図1乃至図5を用いて、本発明の第一の実施形態による切削工具1について、詳細に説明する。
【0032】
図1乃至図5に示す本発明の第一の実施形態による切削工具1は、インサート3と、該インサート3が固定されるホルダ2と、を備えてなる。
【0033】
インサート3は少なくとも一部がすくい面をなす上面と、少なくとも一部が逃げ面をなす側面と、上面と側面との交差部に形成された切刃と、を有している。本実施形態においては、インサート3は、上面視で略四角形板状をなすとともに、上面視で4つの角部のうち対角に位置する2つの角部に切刃が形成された、いわゆる、2コーナー使いのインサートである。
【0034】
ホルダ2は、図2および図3に示すように、インサート3が固定されるインサートポケット9を有してなる。インサートポケット9は、図2に示すように、本実施形態においては、ホルダ2の先端側に5個形成されている。ホルダ2の材料としては、SCM、SNCMなどの合金鋼やSK、SKDなどの工具鋼を用いることができる。これらの材料は、以下で説明するように、クランプ機構に必要な磁化を得るのに好適である。
【0035】
これらのインサートポケット9は、いずれも軸線L方向において同一高さ位置に配置されるとともに、先端視でホルダ2の軸線Lを中心とする放射状に配置されている。そして、インサートポケット9には、インサート1の側面を拘束する拘束側面21と、インサート1の下面を拘束する拘束座面22とが、形成されている。本実施形態においては、図3および図4に示すように、拘束側面21は、ホルダ2の内周側に位置するとともにホルダ2の軸線Lに対して略平行な拘束側面21Aとホルダ2の基端側に位置するとともにホルダ2の軸線Lに対して略垂直な拘束側面21Bとの2つの面で構成されている。
【0036】
ここで、本実施形態の切削工具1をなすインサート3は、図5に示すように、ホルダ2に当接するインサート3の表面、すなわち、ホルダ2の拘束座面22と当接するインサート3の下面32およびホルダ2の拘束側面21と当接する側面31には、強磁性膜4が形成されている。この強磁性膜4は、以下で説明するように、ホルダ2が外部機器によって磁化された際に、磁化されたホルダ2と磁力によって密着し得る組成からなる。例えば、Fe、Ni、Coのうちの一種またはこれらの合金で構成される。また、フェライトなどのセラミックスからなる強磁性膜4を用いてもよい。
【0037】
そして、この強磁性膜4が形成されたインサート3の下面32が拘束座面22に、インサート3の側面31が拘束側面21に、磁力によって固定されていることを特徴とする。
【0038】
ここで、本実施形態による切削工具1におけるインサート3のホルダ2へのクランプ機構について説明する。
【0039】
切削工具1は、外部出力によって部品を磁化する磁化手段を有した外部機器に把持される。具体的には、ホルダ2の基端側が外部機器に把持され、外部機器と一体もしくは別体からなる着磁電源装置などの磁化手段とホルダ2とが接続するよう配置される(以下、この状態を装着状態と略す。)この装着状態では、ホルダ2の基端側に形成されている磁化手段を備えた外部機器と物理的に接続されているだけである。
【0040】
本実施形態による切削工具1のクランプ機構の第一工程として、まずは、インサート3をホルダ2のインサートポケット9に配置する。
【0041】
第二工程として、インサート3が配置された切削工具1を上述した装着状態に設置する。
【0042】
第三工程として、この装着状態において、外部の磁化手段を作動させ、ホルダ2を磁化する。そうすることで、下面32および側面31の少なくとも一方に強磁性膜4が形成されたインサート3を、磁力によってホルダ2に固定する。具体的には、インサート3の下面32がホルダ2の拘束座面22に、インサート3の側面31がホルダ2の拘束側面22に、各々、磁力によって拘束される。
【0043】
このように本実施形態による切削工具1では、従来のクランプ機構のように、ねじ部材やレバーなど別途クランプ部材を用いることなく、切削工具を着磁電源装置などの外部の磁化手段に接続してホルダ2を磁化するだけで、インサートポケット9に位置する磁化された拘束座面22および拘束側面21と各々当接するインサート3の下面32および側面31に強磁性膜4が形成されているため、磁力によって、インサート3をホルダ2に固定することができる。そのため、ねじ穴やレバーと係合する貫通穴などをインサートに設けなければならない従来のクランプ機構と異なり、インサート3の形状の制限がなく、インサート3の小型化が図れる。加えて、クランプ部材を各々のインサート3に対して操作することがなく、交換作業そのものが容易であるとともに、使用したインサート3を交換する作業時間を短縮することができる。
【0044】
強磁性膜4としては、上述したように、Fe、Ni、Coのうちの一種またはこれらの合金や、フェライトなどのセラミックスなど、適宜選択できるが、一般的なメッキ法、CVD法、PVD法等で容易に成膜でき、コスト的に有利である点で、Fe、Ni、Coのうちの一種またはこれらの合金からなるのが好ましい。
【0045】
さらに、拘束側面21に形成された強磁性膜4は、図5に示すように、切刃から離間して形成されていることが好ましい。本実施形態においては、図5に示すように、強磁性膜4は、インサート3を交換する際の判断基準となる逃げ面摩耗の摩耗量wだけ切刃から離間した位置に強磁性膜4の上端がくるように形成されている。これにより、切削時に温度が上昇する切刃から十分に離間した位置に成膜されていることにより、膜を安定した状態に保つことができる。そのため、切削時に強磁性膜4が切刃に溶着して切削性能を低下させることを抑制できる。その結果、インサート3をホルダ2へ安定して長期に渡って拘束することができる。
【0046】
また、本実施形態による切削工具1は、図4および図5に示すように、拘束座面22には、常磁性部材5が設けられている。これにより、上述したクランプ機構の第三工程を行う前のホルダ2を磁化していない間でも、ホルダ2へインサート3を仮止めしておくことができる。そのため、インサート3を交換する際の作業効率の向上が更に図れる。
【0047】
なお、本実施形態においては、インサート3の拘束座面22にのみ常磁性部材5が設けられた形態を例示したが、これに限らず、拘束座面22および拘束側面21の両面において、または、拘束側面21にのみ設けられたものであっても構わない。
【0048】
さらに、本実施形態における常磁性部材5は、図4および図5に示すように、拘束座面22の外周に沿って設けられている。具体的には、本実施形態においては、常磁性部材5は、拘束座面22のうち、外周側にのみ、すなわち、拘束座面22の外周に沿って環状に配置されている。これにより、インサート3をホルダ2に安定して固定することができる。特に、ホルダ2にインサート3が固定された状態で、切削時に大きな負荷がかかる切刃に近接する拘束座面22の外周部分において強力な拘束力を備えることができるため、インサート3をホルダ2へより強固に固定することができる。その結果、切削加工時にインサート3が位置ズレして加工精度が低下することを抑制することができる。なお、常磁性部材5を環状に設けることでコスト削減を図ることもできる。
【0049】
図5に示すように、本実施形態においては、強磁性膜4は、インサート3の下面32全面に形成するとともに、常磁性部材5は、拘束座面22の外周に沿って形成している。このような構成により、膜を形成しない箇所をマスキングするという前工程が不要であるため、インサート3の加工が容易であるとともに、上述のように、安定して強固にインサート3をホルダ2に固定することができる。
【0050】
なお、強磁性膜4および常磁性部材5は、互いに当接するようインサート3の下面32およびホルダ2の拘束座面22の各々に対応する領域にのみ形成しても良い。
【0051】
また、本実施形態においては、図5に示すように、常磁性部材5は、拘束座面22に埋設した形態を例示しているが、これに限るものではない。
【0052】
さらに、本実施形態においては、図4および図5に示すように、ホルダ2の内周側に位置するとともにホルダ2の軸線Lに対して略平行な拘束側面21Aは、インサート3の側面の両端側を安定して拘束できるよう分離して2つ形成されている。このように2つの分離した拘束側面21Aの各面において、上述した常磁性部材5を設けることで、仮止めの際の拘束力を更に向上させることができる。特に、このように拘束側面21Aを2つの分離した面で構成した面に常磁性部材5を設けることにより、焼成時に中央部分が膨張したインサート3であっても、インサート3の側面の両端側を上記クランプ機構によって安定してホルダ2に拘束することができる。一方、ホルダ2の基端側に位置するとともにホルダ2の軸線Lに対して略垂直な拘束側面21Bは、1つの面で構成されている。
【0053】
なお、本実施形態において、ホルダ2の拘束座面22および拘束側面21のいずれも同様の構成をなす形態を例示したが、これに限るものではない。
【0054】
次に、本発明の第二の実施形態による切削工具1’について、詳細に説明する。図6は、本発明の第二の実施形態による切削工具1’のホルダ2の要部拡大図、図7は、切削工具1’のうち、インサート3が装着された部分の概略断面図である。なお、図6および図7において、図1〜図5と同様の構成については、同様の符号を付して、説明を省略する。
【0055】
図7に示すように、第二の実施形態による切削工具1’は、拘束座面22’およびインサート3の下面32’に、互いに嵌合する座面側嵌合部が各々形成されている。すなわち、図6に示すように、拘束座面22’には、インサート3の下面32’に形成された凹部8(座面側嵌合部)と嵌合する凸部7(座面側嵌合部)が形成されている。このような構成により、インサート3と拘束座面22’との拘束面積を安定して確保できるため、ホルダ2へのインサート3の拘束力が高まる。したがって、より厳しい切削条件下においても、インサート3をホルダ2に強固に固定することができる。その結果、切削加工中にインサート3ががたつくことを抑制でき、加工面精度の向上が図れる。さらに、このような構成により、ホルダ2を磁化していない間でも、ホルダ2へインサート3を仮止めしておくことができ、作業効率の向上が更に図れる。
【0056】
さらに、本実施形態においては、図6に示すように、拘束座面22’に形成された凸部7は、ホルダ2の軸線Lに沿って形成されている。また、この拘束座面22’に形成された凸部7と嵌合する凹部8も、ホルダ2に装着された状態で、ホルダ2の軸線Lに沿って配置される(不図示)。すなわち、互いに嵌合する座面側嵌合部が、ホルダ2の軸線Lに沿って形成されている。このような構成により、座面側嵌合部が、インサート3をホルダ2に仮止めする仮止め部として機能するとともに、切削時にインサート3がホルダ2から飛散することを防止する飛散防止部として機能する。したがって、インサート3をホルダ2に装着する際および切削を行う際の両方において、強固でかつ安定した拘束力を発揮することができる。
【0057】
なお、このように拘束座面22’に形成された凸部7は、軸線Lに沿って形成されることで上記効果を奏すが、凸部7が、平面視において、ホルダ2の基端側から先端側に向かって幅広となる略台形状をなすよう形成することで、より仮止め機能を向上させることができる。
【0058】
またさらには、本実施形態において、ホルダ2の軸線に沿って形成されている凸部7は、図6に示すように、ホルダ2の先端側から基端側に向かうにつれてホルダ2の軸線Lから遠ざかるよう傾斜して設けられている。また、この拘束座面22’に形成された凸部7と嵌合する凹部8も、ホルダ2に装着された状態で、ホルダ2の先端側から基端側に向かうにつれてホルダ2の軸線Lから遠ざかるよう傾斜して配置される(不図示)。このような構成により、上述した仮止め機能および飛散防止機能の両方を好適に兼ね備えることができる。特に、このような構成においては、嵌合部の幅が一定のまま仮止め機能の向上が図れる。そのため、ホルダ2およびインサート3の下面に嵌合部を形成する工程が容易であり、低コストで仮止め機能および飛散防止機能の両方を好適に兼ね備えた切削工具となる。なお、ホルダ2の軸線Lと座面側嵌合部の配置は、図6に示すように、拘束座面22に対向して観察した際のホルダ2の軸線Lと座面側嵌合部の配置をいう。
【0059】
さらに、図7に示すように、本実施形態による切削工具1’は、拘束座面21に形成された凸部7のうち、ホルダ2の軸線Lに沿う壁面71に常磁性部材5が配置されている。このような構成により、ホルダ2からインサート3が飛散する方向、すなわち、ホルダ2の径方向外方に向かう方向と反対に作用する拘束力を、より強固なものにすることができる。
【0060】
つまり、拘束座面22’に上述のような凹部7を設けることで、拘束座面22’とインサート3の下面32とのホルダ2の軸線Lに沿った拘束面積が増大するとともに、凹部7のうちホルダ2の軸線Lに沿う壁面71に常磁性部材5が配置されていることで、ホルダ2の径方向内方にインサート3を拘束する力が向上する。その結果、クランプ部材を用いることなく、容易な操作でインサート3の交換が可能であり、インサート3の飛散を防止して、インサート3をホルダ2に強固に固定することのできるクランプ機構を有した切削工具1’となる。
【0061】
本実施形態においては、凹部7のうちホルダ2の軸線Lに沿う壁面は2面あるが、そのうち、ホルダ2の軸線Lに遠い方の壁面71に常磁性部材5を配置した形態を例示したが、これに限らず、凹部7のうちホルダ2の軸線Lに沿う2つの壁面のうち、ホルダ2の軸線Lに近接する壁面に常磁性部材5を配置しても良い。
【0062】
ここで、上述のように拘束座面22’に凹部7を形成する際に拘束側面21にも嵌合部を形成する場合は、拘束座面22’に形成された嵌合部に対して略垂直となるよう形成するのが良い。インサート3の装着の容易性を考慮すれば、嵌合部は、拘束側面21および拘束座面22のいずれか一方に形成するのがより好ましい。特に、面積がより広い拘束座面22に嵌合部を設けることが、加工が容易であるとともに、拘束力を向上させる効果がより高いため好適である。
【0063】
なお、上述した拘束座面22および拘束側面21は、ホルダ2の本体から着脱可能である補助部材(不図示)に形成されていても良い。これにより、拘束座面22や拘束側面21に、仮止め機構である常磁性部材5を配置したり嵌合部を形成したりすることが、容易になり、切削工具のコスト低減が図れる。さらには、インサート3の組成に応じて、異なる種々の常磁性部材5が設けられた拘束座面22を備えたホルダ2を構成することができる。そのため、超硬合金やサーメットなど、異なる材種からなる種々のインサート3を各々好適にホルダ2に拘束させることのできる切削工具を提供することができる。
【0064】
ここで、上述の第一の実施形態および第二の実施形態による切削工具1、1’においても、ホルダ2の拘束座面22および対応するインサート3の下面32にのみ、嵌合部(側面側嵌合部)が形成された形態を例示したが、ホルダ2の拘束側面21および対応するインサート3の側面32に、互いに嵌合する嵌合部が形成されていても良い。これにより、上述した座面側嵌合部と同様、インサート3をホルダ2に拘束する力が更に向上する。そのため、更なる加工精度の向上が図れる。また、側面側嵌合部を、ホルダ2の拘束側面21のうち、内周側に位置する拘束側面21Aに形成することで、仮止め部としての機能が高まり、作業効率の向上が更に図れる。
【0065】
なお、上述の第一の実施形態による切削工具1においても、装着状態におけるインサート3の仮止め機構として、第三の実施形態と同様に嵌合部を有する仮止め機構を設けても構わない。ここで、インサート3の仮止め機構としては、上述の形態に限らず、インサートポケット9にスリットを設け、該スリットにインサート3をスライドさせて一旦係合させる構成など、種々、選択することができる。
【0066】
最後に、本発明の一実施形態による被削材の切削方法について、上記切削工具1を用いた場合を例示して説明する。
【0067】
本実施形態による被削材の切削方法は、上記切削工具1を用いて被削材を切削する方法であって、被削材に切削工具1を相対的に近づける近接工程と、被削材又は切削工具1を回転させ、該切削工具1を被削材の表面に接触させて被削材を切削する切削工程と、被削材と切削工具1とを相対的に遠ざける離間工程と、を備える。
【0068】
このような構成により、インサート3がクランプ部材などの別部品を用いることなくホルダ3に強固にかつ安定して固定された切削工具1を用いて切削するため、加工面精度および作業効率が高い切削加工を実現することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、発明の目的を逸脱しない限り任意のものとすることができることはいうまでもない。
【0070】
例えば、上述した実施形態においては、インサートがホルダの軸線方向において略等しい位置に配置された形態を例示した。すなわち、インサートが、ホルダの先端側に1段だけ先端視で放射状に配置された形態を例示した。しかしこれに限らず、軸線方向にも複数のインサートが配置されたいわゆる多段配置をなす切削工具であっても構わない。なお、インサートの多段配置の中でも、インサートが、らせん状に配置されたものであっても、一直線状に配置されたものであっても構わない。
【0071】
さらに、上述した実施形態においては、エンドミルを例示したが、これに限らず、正面フライス等の他の転削工具においても好適に用いることができる。またさらには、転削工具に限らず、スローアウェイ式の切削工具であれば、内径、外径加工等に用いられる旋削工具など、他の切削工具にも適用することができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、発明の目的を逸脱しない限り任意のものとすることができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第一の実施形態による切削工具1の全体斜視図である。
【図2】図1の切削工具1を構成するホルダ2の全体斜視図である。
【図3】図2のホルダ2の側面図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】図5は、切削工具1のうちインサート3が装着された部分の概略断面図である。
【図6】図6は、本発明の第二の実施形態による切削工具1’のホルダ2の要部拡大図である。
【図7】図7は、切削工具1’のうち、インサート3が装着された部分の概略断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 第一の実施形態による切削工具
1’ 第二の実施形態による切削工具
2 ホルダ
21 拘束側面
21A ホルダの内周側に位置するとともにホルダの軸線に対して略平行な拘束側面
21B ホルダの基端側に位置するとともにホルダの軸線に対して略垂直な拘束側面
22 拘束座面
3 切削インサート
4 強磁性膜
5 常磁性部材
7 凹部(拘束座面22に形成された座面側嵌合部)
71 凹部のうちホルダ2の軸線Lに沿った壁面
8 凸部(インサート3の下面に形成された座面側嵌合部)
9 インサートポケット
L ホルダ2の軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と下面と側面と前記上面と前記側面との交差部に形成された切刃とを有した切削インサートと、該切削インサートが固定されるホルダと、を備えた切削工具であって、
前記ホルダに当接する前記切削インサートの表面の少なくとも一部に、強磁性膜が形成されており、
前記切削インサートが前記ホルダに磁力によって固定されていることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記強磁性膜は、Fe、Ni、Coのうちの一種またはこれらの合金で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記強磁性膜は、前記切刃から離間して形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記ホルダは、前記切削インサートの下面が当接する拘束座面と、前記切削インサートの側面が当接する拘束側面と、を有しており、前記拘束座面および拘束側面のうち少なくとも一方には、常磁性部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の切削工具。
【請求項5】
前記常磁性部材は、前記拘束座面および拘束側面の少なくとも一方の外周に沿って設けられていることを特徴とする請求項4記載の切削工具。
【請求項6】
前記拘束側面および前記切削インサートの側面には、互いに嵌合する側面側嵌合部が各々設けられていることを特徴とする請求項4または5に記載の切削工具。
【請求項7】
前記拘束座面および前記切削インサートの下面には、互いに嵌合する座面側嵌合部が各々設けられていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の切削工具。
【請求項8】
前記座面側嵌合部は、前記ホルダの軸線方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項7に記載の切削工具。
【請求項9】
前記座面側嵌合部は、前記ホルダの先端側から基端側に向かうにつれて前記ホルダの軸線から遠ざかるよう傾斜して設けられていることを特徴とする請求項8に記載の切削工具。
【請求項10】
前記拘束座面に設けられた前記座面側嵌合部のうち、前記ホルダの軸線に沿う壁面に常磁性部材が配置されていることを特徴とする請求項8または9に記載の切削工具。
【請求項11】
前記拘束座面および拘束側面は、前記ホルダの本体から着脱可能である補助部材に形成されていることを特徴とする請求項4乃至10のいずれかに記載の切削工具。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の切削工具および被削材の少なくとも一方を回転させ、前記被削材に前記切削工具の切刃を近接する工程と、
前記切削工具の切刃を前記被削材の表面に接触させ、前記被削材を切削する工程と、
前記被削材から前記切刃を離間させる工程と、
を備えた被削材の切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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