説明

切削工具

【課題】インサートの8コーナーを使用可能とするとともに、工具正面方向から生じる切削背分力を低減させることが可能な切削工具を提供する。
【解決手段】インサート10が着脱自在に装着されてなる正面フライス2において、外側取付座20と内側取付座30とを周方向に複数交互に配置し、内側取付座30のインサート10の切削主切刃29aと外側取付座20のインサート切削主切刃39aを軸線Oを中心とした同一円錐面上に位置させ、外側取付座20のインサート10の切削副切刃29bを工具先端側に突出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具本体の先端部外周に、切刃を有するインサートが着脱可能に装着された切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被切削材に平面加工を施す切削工具として、円盤状をなす工具本体に複数のインサートが装着されたいわゆる縦刃式の正面フライスが使用されている(例えば特許文献1参照)。
この種の切削工具は、円盤状の工具本体の先端側外周に周方向に所定間隔を空けて複数の取付座が形成されており、該取付座のそれぞれに超硬合金等の硬質材料よりなるインサートが着脱可能に装着されて構成されている。
そして、前記工具本体をその軸線回りに高速回転するとともに軸線と交差する方向に送りを与えられることにより、前記インサートの工具径方向外側に向けられた主切刃によって被切削材に切り込んでいくとともに、工具先端側に向けられた副切刃によって被切削材の被加工面に平面加工を施していく。
【0003】
また、上記切削工具に装着される一般的なインサートとして、外形が長方形平板状をなして、その厚さ方向に対抗する2つの長方形面と、この長方形面の長辺が延びる方向に沿う2つの第一側面及び短辺が延びる方向に沿う2つの第二側面とを有し、第一側面の辺稜部に主切刃が設けられるとともに、この第一側面の各コーナー部に、該コーナー部に交差する辺稜部に対して45°傾いた副切刃が設けられたものが広く使用されている。
【0004】
このようなインサートが上記切削工具に装着されるに際しては、長方形面の一方が工具径方向外側を向く逃げ面となるように装着されるとともに、長方形面の他方は工具本体の取付座の取付面に密着する着座面とされる。そして、第一側面の一方は工具回転方向に向けられてすくい面とされ、上記主切刃のうちすくい面と逃げ面との交差稜線部に当たる主切刃及びこの主切刃に連なる副切刃が切削加工に使用される。
このようにして、切削加工に際しては、2つの第一側面における計8つのコーナー部のうち1つのコーナー部のみが使用されることになる。従って、切削工具に対してインサートを回転させて装着することにより、各コーナー部における主切刃と副切刃を順次使用することができるようになっている。
【特許文献1】特許第3003230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記長方形平板状のインサートを装着した従来の切削工具においては、工具回転方向前方側から見てインサートが右側に送られる場合(以下、右勝手という)には、各主切刃及び副切刃の位置関係から、計8つのコーナー部のうち4つのコーナー部における主切刃及び副切刃のみが使用可能であり、残りの4つのコーナー部の主切刃及び副切刃を使用することはできない。従って、インサートのコーナー部の有効利用が図ることができないという問題があった。
また、このインサートを、回転方向前方側から見てインサートの左側に送られる(以下、左勝手という)切削工具に装着すれば、未使用状態であったコーナー部の主切刃及び副切刃で切削加工をすることができ8つのコーナー部の全てを使用をすることが可能となるが、右勝手用の切削工具の他、左勝手用の切削工具を別に用意する必要があるため経済的に好ましくないという問題があった。
【0006】
一方、上記切削工具において、切削効率を向上させるにはなるべく多くのインサートを装着する方が好ましい。ところが、副切刃が被切削面を平面加工することにより生じる正面方向の切削背分力は、当該インサートの装着数に応じて大きくなる。したがって、インサートの数が多い場合には当該切削背分力が増大し、これによりビビリ振動が発生して精度の高い均一な切削をすることが困難となってしまうという問題があった。
【0007】
この発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、工具本体の勝手に左右されずインサートの各コーナー部に設けられた主切刃及び副切刃を使用可能とするとともに、工具正面方向から生じる切削背分力を低減させて加工精度を向上させることが可能な切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提案している。
即ち本発明に係る切削工具は、軸線回りに回転される工具本体を有し、該工具本体の先端側外周に、切刃を有するインサートが着脱自在に装着されてなる切削工具であって、前記インサートは、外形が長方形平板状をなし、その厚さ方向を向く2つの長方形面と、この長方形面の長辺が延びる方向に沿う2つの第一側面及び短辺が延びる方向に沿う2つの第二側面とを有し、前記第一側面と前記長方形面との交差稜線部に第一主切刃が、前記第一側面と前記第二側面との交差稜線部に第二主切刃がそれぞれ形成されるとともに、前記第一側面のコーナー部に前記第一主切刃及び前記第二主切刃に連なる副切刃がそれぞれ形成され、前記工具本体の先端側外周には、工具先端側かつ工具径方向外側を向く外側取付面を有する外側取付座と、該外側取付座よりも径方向内側に形成され、工具先端側かつ径方向内側を向く第二取付面を有する内側取付座とが、周方向に複数交互に配置されており、これら外側取付座及び内側取付座には、前記インサートが、前記2つの長方形面のうち一方の長方形面を前記外側取付面又は内側取付面に当接させて、前記2つの第一側面のうち一方の第一側面を工具回転方向に向けてそれぞれ取り付けられ、前記外側取付座の前記インサートは、前記一方の第一側面と他方の前記長方形面との交差稜線部に形成された第一主切刃が、工具径方向外側に突出させられて切削主切刃とされ、この切削主切刃に連なる前記副切刃が、工具先端方向に突出させられて切削副切刃とされており、前記内側取付座の前記インサートは、前記一方の第一側面と前記2つの第二側面のうち工具先端側に位置する一方の第二側面との交差稜線部に形成された第二主切刃が、工具径方向外側に突出させられて切削主切刃とされ、各前記インサートの前記切削主切刃が前記軸線を中心とした同一円錐面上に位置するとともに、前記外側取付座の前記インサートの前記切削副切刃が、前記内側取付座の前記インサートの前記切削主切刃に連なって工具先端方向に突出させられる前記副切刃よりも工具先端側に突出していることを特徴としている。
【0009】
このような切削工具においては、外側取付座に取り付けられたインサートの切削主切刃と内側取付座に取り付けられたインサートの切削主切刃とが、送りを与えられた方向に向かって被切削材に切り込んでいくとともに、これら両インサートの工具先端側に向けられた副切刃によって被切削材に平面加工を施していく。
そして、本発明の切削工具においては、外側取付座に取り付けられたインサートの切削副切刃が内側取付座に取り付けられたインサートの工具先端方向に突出させられる副切刃よりも工具先端側に突出していることにより、切削加工時には、外側取付座に取り付けられたインサートの切削副切刃のみが専ら被切削材の被加工面に接触することになる。これによって、全てのインサートを通じて被切削材の被加工面から受ける切削背分力を半減させることができるため、工具本体に生じるビビリ振動を低減させることが可能となる。
【0010】
一方、内側取付座に取り付けられたインサートにおける工具先端側のコーナー部では、工具本体の送りに伴い工具先端側に突出した副切刃の極一部は切削に使用されるものの、その大部分は切削に使用されることなく未使用のままとなる。
即ち、それぞれの取付座においては8つのコーナー部のうち4つのみしか使用できないが、一方の取付座において未使用状態の残りの4つのコーナー部は、他方の取付座において使用することができるため、内側取付座と外側取付座とのインサートを入れ換えることにより、当該インサートの全てのコーナー部を切削加工に使用することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る切削工具において、前記工具本体には、前記外側取付座と前記内側取付座とが周方向に交互に形成されていることを特徴としている。
これにより切削負荷のバランスを確保して良好な切削加工を行うことが可能となる。また、外側取付座と内側取付座とが同数となることにより、これら外側取付座と内側取付座とで過不足なくインサートの入れ換えを行うことができる。
【0012】
さらに、本発明に係る切削工具においては、前記外側取付座に取り付けられた前記インサートの前記副切刃の工具先端側への突出量を調整する振れ調整機構が設けられたことを特徴としている。
【0013】
この振れ調整機構によって、副切刃の突出量を適宜変えて振れ出しを調整することで被加工面の加工精度を向上させることが可能な他、該被加工面に直接的に接触する副切刃の割合を変えて、正面方向から生じる切削背分力の微調整をすることが可能となる。
さらに、例えば外側取付座に取り付けられたインサートのうち一部のインサートの副切刃のみを他のインサートよりも突出させると、当該インサートの副切刃が他のインサートに遅れて被加工面をさらうようにして切削するため、当該副切刃が仕上げ加工を施すことになり、加工面粗度を向上させることが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る切削工具においては、前記振れ調整機構は、前記外側取付座の工具後端側に形成された切欠部にねじ込まれて、該外側取付座の前記インサートの他方の前記第二側面を押圧することによって該インサートを前記外側取付面に沿って変位させるクサビ部材であることを特徴としている。
【0015】
これにより、副切刃の突出量の調整をする際には、インサートが外側取付面に沿って変位させられるため、このインサートの切削主切刃の位置を軸線を中心とした円錐面上に保持しながら副切刃の突出量調整を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る切削工具によれば、インサートが外側取付座と内側取付座とに装着されるため、これら取付座に取り付けられているインサートを適宜入れ換えることで、インサートの8つのコーナー部の全ての主切刃及び副切刃を切削加工に使用することができる。従って、右勝手、左勝手にかかわらずどちらか一方の勝手の切削工具でもってインサートの有効利用を図ることができる。
また、外側取付座に取り付けられた副切刃のみが工具先端方向に突出していることから、工具本体に及ぶ切削背分力を半減させることができる。これによってビビリ振動の発生を抑えて、切削精度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る切削工具の実施の形態である正面フライスについて、図面を参照して説明する。図1は本実施の形態に係る正面フライスの側断面図、図2は本実施の形態に係る正面工具本体を先端側(正面側)から見た図、図3はインサートの斜視図、図4は図1における外側取付座に取り付けられたインサートを示すB方向矢視図、図5は図4におけるC方向矢視図、図6は図1における内側取付座に取り付けられたインサートを示すA方向矢視図、図7は図6におけるD方向矢視図、図8は図1における部分拡大図、図9は外側取付座に取り付けられたインサートの振れ調整機構を説明する側断面図、図10は図9のA方向矢視図である。
【0018】
本実施形態の正面フライス1は、図1および図2に示すように、軸線Oを中心とした概略円盤状をなす工具本体2と該工具本体2の先端外周部に装着されるインサート10を有し、軸線O回りに工具回転方向Tに回転させられて切削加工(平面切削)に供されるものである。この工具本体2がなす円盤の中央部には、工具本体2を工作機械の主軸端等(図示なし)に取り付けるための取付孔3が軸線Oに沿うように穿設されている。
【0019】
本実施形態におけるインサート10は、超硬合金等の硬質材料によって構成され、図3に示すように、外形が概略長方形平板状をなしており、当該切削インサート10の厚さ方向を向く2つの長方形面11、11と、この長方形面11の長辺が延びる方向に沿う2つの第一側面12、12及び短辺が延びる方向に沿う2つの第二側面13、13とを有している。
【0020】
また、上記長方形面11の中央には、インサート10を厚さ方向に貫通する取付孔10Aが開口させられており、インサート10は、この取付孔10Aの中心線回りに180°回転対称に形成されるとともに、第一側面12の中心を通って上記短辺方向に延びる中心線回りと、第二側面13の中心を通って上記長辺方向に延びる中心線回りとにも、それぞれ180°回転対称な形状とされている。また、第一側面12と長方形面11及び第二側面13とはそれぞれ互いに直交し、さらに長方形面11と第二側面13とも互いに直交する方向に形成されている。
【0021】
そして、長方形面11と第一側面12との交差稜線部、即ち長方形面11の長辺部分には後述するように第一側面12をすくい面とする第一主切刃14が形成されるとともに、第一側面12と第二側面13との交差稜線部には、やはり第一側面12をすくい面とする第二主切刃15が形成されている。従って、このインサート10はネガティブインサートとされる。
【0022】
また、長方形面11と第二側面13との境界部には、2つの第一側面12、12間に直交するように平坦状に切り欠かれるようにして面取部16が形成されており、2つの第一側面12、12のそれぞれ4つのコーナー部17における当該第一側面12と面取部16との交差稜線部に副切刃18が形成されている。
これによって、第一側面12の各コーナー部17には、第一主切刃14及び第二主切刃15に対して45°傾いて連なるようにして、やはり第一側面12をすくい面とする副切刃18が配置されることになる。
【0023】
そして、このようなインサート10は、図2に示すように、工具本体2の先端外周部に周方向全域に交互に複数(本実施形態においては各30箇所ずつ計60箇所)形成された外側取付座20及び内側取付座30に装着される
【0024】
外側取付座20は、図1、図2、図4、図5及び図8に示すように工具本体2の先端最外周に工具径方向外側に向かって開口されており、インサート10の長方形面11が取り付けられるの外側取付面21と、第一側面12が当接させられる外側第一当接面22と、第二側面13が当接させられる外側第二当接面23とを備えている。
【0025】
この外側取付面21は、工具先端側に向かうに連れて漸次工具径方向内側に後退しており、その傾斜角度は、図1及び図8に示す断面視にて、軸線Oに対して45°の角度をなすように設定されている。
さらに、該外側取付面21は、詳しくは図5に示すように、工具回転方向T後方側に向かうにつれて僅かに工具径方向内側に後退するように形成されており、これによって、外側取付面21は、工具先端側かつ工具径方向外側を向きつつ、僅かに工具回転方向T前方側を向く傾斜面状をなしている。
また、この外側取付面21の略中央には、インサート10を取り付けるためのインサート取付ネジ6が螺合する取付ネジ孔(図示省略)が該外側取付面21と直交する方向に形成されている。
【0026】
外側第一当接面22は、外側取付面21における工具回転方向T後方側の端部と直交するとともに、工具先端側に向かうに従い工具回転方向T後方側に向かうように僅かに傾斜している。さらに、外側第二当接面23は、外側取付面21における工具後端側の端部と直交するとともに、工具回転方向T後方側に向かうに従い工具後端側に後退するように僅かに傾斜している。
【0027】
また、図2に示すように外側取付座20の直ぐ工具回転方向T前方側には、工具先端側かつ工具径方向外側に向かって開口する凹溝5が、該外側取付面21に沿って延びるように形成されている。
【0028】
次に、外側取付座20へのインサート10の取り付けについて詳細に説明する。
詳しくは図8に示すように、インサート10は2つの長方形面11、11のうちいずれか一方の長方形面11が外側取付面21に密着される着座面25として、他方の長方形面11が工具先端側かつ工具径方向外側に面する逃げ面26として配置され、インサート10の取付孔10A及び外側取付面21の取付ネジ孔(図示省略)にインサート取付ネジ6が挿入、螺合されることで、インサート10が外側取付座20に取り付けられる。
【0029】
また、この際、2つの第一側面12、12のうち一方の第一側面12は工具回転方向T前方側に向けられてすくい面27とされ、他方の第一側面12は外側取付座20の第一当接面22に当接させられる。同様にして、2つの第二側面13、13のうち一方の第二側面13は工具先端側かつ工具径方向内側に向けられて切削背面28とされ、他方の第二側面13は第二当接面23に当接させられる。
【0030】
そして、上記逃げ面26とされた長方形面11と上記すくい面27とされた第一側面12との交差稜線部の第一主切刃14は、外側取付面21が工具回転方向T後方側に向かうにつれて僅かに工具径方向内側に後退していることにより、工具径方向外側に向けて突出させられて、被切削材の切削を行う切削主切刃29aとされる。
また、この切削主切刃29aの工具先端側に連なる副切刃18は、外側第一当接面22及び外側第二当接面23の傾斜によって工具先端側に突出させられて、被切削材の正面切削を行う切削副切刃29bとされる。
【0031】
なお、このようにインサート10が外側取付座20に取り付けられた際には、上記切削主切刃29aは外側取付面21の傾斜と同様に軸線Oに対して45°の傾斜角度を有する斜め方向に直線状に延び、切削副切刃29bは軸線Oに直交する向き、即ち水平方向に直線状に延びている。
【0032】
以上のようにしてインサート10が外側取付座20に取り付けられると、計8つのコーナー部17のうちのいずれか一つのコーナー部17に位置する第一主切刃14及び副切刃18のみが切削加工に使用されることになる。また、外側取付座20に対して、インサート10を回転させて装着することにより、互いに隣接しない計4つのコーナー部17における第一主切刃14と副切刃18を順次使用することができる。
【0033】
内側取付座30は、図1、図2、図6、図7及び図8に示すように、工具本体2の先端外周部において上記外側取付座20よりも工具径方向内側に配置されるとともに、工具先端側かつ工具径方向内側に向かって開口されており、インサート10の長方形面11が取り付けられるの内側取付面31と、第一側面12が当接させられる内側第一当接面32と、第二側面13が当接させられる内側第二当接面33とを備えている。
【0034】
内側取付面31は、工具先端側に向かうに連れて漸次工具径方向外側に後退しており、その傾斜角度は、図1及び図8に示す断面視にて、軸線Oに対して45°の角度をなすように設定されている。これにより、この内側取付面31は、断面視にて上記外側取付面21と90°の角度をなしている。
さらに、該内側取付面31は、詳しくは図7に示すように、工具回転方向T後方側に向かうにつれて僅かに工具径方向外側に後退するように形成されており、これによって、内側取付面31は、工具先端側かつ工具径方向外側を向きつつ、僅かに工具回転方向T後方側を向く傾斜面状をなしている。
また、この内側取付面31の略中央には、インサート10を取り付けるための取付ネジが螺合する取付ネジ孔(図示省略)が該内側取付面31と直交する方向に形成されている。
【0035】
また、内側第一当接面32は、内側取付面31における工具回転方向T後方側の端部と直交するとともに、工具先端側に向かうに従い工具回転方向T後方側に向かうように僅かに傾斜している。また、内側第二当接面33は、内側取付面31における工具後端側の端部と直交するとともに、工具回転方向T後方側に向かうに従い工具後端側に後退するように僅かに傾斜している。
【0036】
さらに、内側取付座30の直ぐ工具回転方向T前方側には、上記外側取付座20と同様にして凹溝5が形成されている。
【0037】
次に、内側取付座30へのインサート10の取り付けについて詳細に説明する。
詳しくは図8に示すように、インサート10は2つの長方形面11、11のうちいずれか一方の長方形面11が内側取付面31に密着される着座面35として、他方の長方形面11が工具先端側かつ工具径方向内側に面する切削背面38として配置され、インサート10の取付孔10A及び内側取付面31の取付ネジ孔(図示省略)にインサート取付ネジ6が挿入、螺合されることで、インサート10が内側取付座30に取り付けられる。
【0038】
また、この際、2つの第一側面12、12のうち一方の第一側面12は工具回転方向T前方側に向けられてすくい面37とされ、他方の第一側面12は内側取付座30の内側第一当接面32に当接させられる。同様にして、2つの第二側面13、13のうち一方の第二側面13は工具先端側かつ工具径方向外側に向けられて逃げ面36とされ、他方の第二側面13は内側第二当接面33に当接させられる。
【0039】
そして、上記逃げ面36とされた第二側面13と上記すくい面37とされた第一側面12との交差稜線部の第二主切刃15は、内側第二当接面33が工具回転方向T後方側に向かうに従い工具後端側に後退するように僅かに傾斜していることにより、工具径方向外側に向けて突出させられて、被切削材の切削を行う切削主切刃39aとされる。
また、この切削主切刃39aの工具先端側に連なる副切刃18は、内側取付面31及び内側第一当接面32の傾斜によって工具先端側に突出させられて、被切削材の正面切削を行う切削副切刃39bとされる。
【0040】
なお、このようにインサート10が内側取付座30に取り付けられた際には、上記切削主切刃39aは内側取付面31の傾斜と同様に軸線Oに対して45°の傾斜角度を有する斜め方向に直線状に延びており、切削副切刃39bは軸線Oに直交する向き、即ち水平方向に直線状に延びている。
【0041】
以上のようにしてインサート10が内側取付座30に取り付けられると、計8つのコーナー部17のうちのいずれか一つのコーナー部17に位置する第二主切刃15及び副切刃18のみが切削加工に使用されることになる。また、内側取付座30に対して、インサート10を回転させて装着することにより、互いに隣接しない計4つのコーナー部17における第二主切刃15と副切刃18を順次使用することができる。
【0042】
また、このようにインサート10が内側取付座30又は外側取付座20に取り付けられることによって使用される各4つのコーナー部17は、それぞれの取付座20、30によって異なったものとなっており、例えば外側取付座20に取り付けられることによって使用される4つのコーナー部17は、内側取付座30に取り付けられる際には使用することはできず、逆に、外側取付座20に取り付けられた際に使用されなかった4つのコーナー部17が、内側取付座30に取り付けられる際に使用されることになる。
【0043】
ここで、外側取付座20及び内側取付座30のそれぞれに取り付けられたインサートの切削主切刃29a、39a及び切削副切刃29b、39bの位置関係を図8を参照して説明する。
外側取付座20における切削主切刃29aと内側取付座30における切削主切刃39aとは、軸線Oを中心として工具先端側に向かうに従い漸次縮径する同一円錐面上に配置されており、これにより両切削主切刃29a、39aは同一の回転軌跡を描くことになる。
一方、外側取付座20の切削副切刃29bは、内側取付座30の切削副切刃39bよりも僅かに(例えば0.07mm)工具先端側に突出させられている。このため、切削加工の際には、外側取付座20に取り付けられたインサートの切削副切刃29bのみが専ら被切削材の被加工面に接触することになる。
【0044】
また、計30箇所に形成された外側取付座20のうち、3箇所毎の計10箇所の外側取付座20における工具後端側には振れ調整機構50が設けられている。この振れ調整機構50は、詳しくは図9及び図10に示すように、工具本体2の外周が工具径方向内側かつ工具後端側に向かって斜めに切り欠かれるようにして形成された切欠部45と、該切欠部45に挿入される調整クサビ40とから構成されている。
【0045】
調整クサビ40は、鋼材等で構成され、図9に示すように、その内部には調整クサビ40を切欠部45に取り付けるためのクサビ取付ネジ41が挿通されるクサビネジ挿通孔42が設けられている。また、切欠部45に挿入された状態における調整クサビ40の工具先端側を向く面に、インサート10の第二側面13を押圧する押圧面43が形成されている。
【0046】
そして、クサビ取付ネジ41がクサビネジ挿入孔42を挿通するとともに切欠部45の底面45aに形成されたクサビ取付ネジ孔46にねじ込まれることによって、調整クサビ40の押圧面43が、インサート10を第二側面13を押圧するようにして、調整クサビ40が切欠部45に取り付けられている。
【0047】
以上のような正面フライス1を用いて切削加工をする際には、工具本体2に形成された取付孔3を用いて工作機械の主軸端(図示省略)に取り付けられ、軸線O回りに回転されるとともに、軸線Oに交差する方向(例えば図1及び図8に示す矢印方向P)に送りを与えられ、外側取付座20及び内側取付座30に取り付けられたそれぞれのインサート10の工具径方向外側に向けられた切削主切刃29a、39aによって被切削材に水平方向から切り込んでいくとともに、工具先端方向に向けられた切削副切刃29b、39bによって被切削材の加工面を切削して平面加工を施していく。
【0048】
ここで、本実施形態の正面フライス1においては、外側取付座20における切削主切刃29aと内側取付座30における切削主切刃39aとが、軸線Oを中心とした同一円錐面上に配置されているため、正面フライス1の送り方向については、計60個が装着されたインサート10の全ての切削主切刃29a、39aが被切削材に接触して切り込むことができる。
一方、外側取付座20に取り付けられたインサート10の切削副切刃29bが内側取付座30に取り付けられたインサート10の切削副切刃39bよりも工具先端側に突出していることにより、正面フライス1の正面方向については、外側取付座20に取り付けられたインサート10の切削副切刃29bのみが初めに被切削材の被加工面に接触することになる。これにより、正面方向の切削抵抗による背分力を半減させることができる。
従って、数多くのインサート10でもって、送り方向の切削加工を効率良く行いながら、被切削材から受ける正面方向の背分力を半減させることによって工具本体に生じるビビリ振動を低減させて、切削精度の高い効果的な切削加工を行うことが可能となる。
【0049】
また、外側取付座20に取り付けられたインサート10と内側取付座30に取り付けられたインサート10とにおける切削加工に使用されるコーナー部17を対比すると、一方のインサート10から見た場合の他方のインサート10の当該コーナー部17は、一方のインサート10が当該取付座に装着される限り使用されることのないコーナー部に相当する。よって例えば外側取付座20に取り付けられた際に使用されなかった4つのコーナー部17は、当該インサート10を内側取付座30に取り付けられることにより使用することができるようになる。
したがって、本実施形態の正面フライス1においては、右勝手及び左勝手のどちらか一方の工具本体2のみをもって、インサート10の8つの全てのコーナー部17における主切刃14、15及び副切刃18を切削加工に使用することができ、経済性に優れた正面フライス1を提供することが可能となる。
【0050】
また、外側取付座20と内側取付座30とが周方向に交互に同数形成されていることにより、切削負荷のバランスを確保して良好な切削加工を行うことが可能となるとともに、これら外側取付座20と内側取付座30とで過不足なくインサート10の入れ換えを行うことができる。
【0051】
さらに、本実施形態の正面フライス1においては、振れ調整機構50における調整クサビ40の挿入量を調整することによって、当該調整クサビ40の押圧面43が外側第二当接面23に当接されたインサート10の第二側面13を押圧する。これによって、インサート10が外側取付面21に沿って工具先端側かつ工具径方向内側に向かって変位可能とされるため、切削副切刃29bの工具正面側への突出量、即ち、振れを調整することができる。
【0052】
このようにインサート10の振れ出しを微調整することで、被加工面の加工精度を向上させることが可能な他、該被加工面に直接的に接触する副切刃29aの割合を変えることで、正面方向から生じる切削背分力の微調整をすることが可能となる。
【0053】
さらに、例えば一部のインサート10の副切刃29aのみを他のインサート10よりも例えば軸線方向に0.03mm程度突出した位置l(図8参照)まで変位させると、切削加工時には当該インサート10の副切刃29aが他のインサート10の副切刃29aに遅れて被加工面をさらうようにして加工を施すことになる。これにより、加工面粗度をより向上させることが可能となる。
【0054】
さらに、この振れ調整機構50においては、インサート10が外側取付面21に沿って変位させられるため、インサート10の切削主切刃29aの位置を、他のインサートの切削主切刃29aと同様の軸線Oを中心とした円錐面上に保持することができる。これにより、切削副切刃29bの調整作業によって切削主切刃29aは影響を受けることなく、加工精度を安定させることができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態である切削工具について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施の形態に係る正面フライスの側断面図である。
【図2】本実施の形態に係る正面工具本体を先端側(正面側)から見た図である。
【図3】インサートの斜視図である。
【図4】図1における外側取付座に取り付けられたインサートを示すA方向矢視図である。
【図5】図4におけるC方向矢視図である。
【図6】図1における内側取付座に取り付けられたインサートを示すB方向矢視図である。
【図7】図6におけるD方向矢視図である。
【図8】図1における部分拡大図である。
【図9】外側取付座に取り付けられたインサートの振れ調整機構を説明する側断面図である。
【図10】図9のE方向矢視図である。
【符号の説明】
【0057】
1 正面フライス
2 工具本体
10 インサート
11 長方形面
12 第一側面
13 第二側面
14 第一主切刃
15 第二主切刃
17 コーナー部
18 副切刃
20 外側取付座
21 外側取付面
29a 切削主切刃
29b 切削副切刃
30 内側取付座
31 内側取付面
39a 切削主切刃
39b 切削副切刃
40 調整クサビ
41 クサビ取付ネジ
43 押圧面
45 切欠部
50 振れ調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転される工具本体を有し、該工具本体の先端側外周に、切刃を有するインサートが着脱自在に装着されてなる切削工具であって、
前記インサートは、外形が長方形平板状をなし、その厚さ方向を向く2つの長方形面と、この長方形面の長辺が延びる方向に沿う2つの第一側面及び短辺が延びる方向に沿う2つの第二側面とを有し、前記第一側面と前記長方形面との交差稜線部に第一主切刃が、前記第一側面と前記第二側面との交差稜線部に第二主切刃がそれぞれ形成されるとともに、前記第一側面のコーナー部に前記第一主切刃及び前記第二主切刃に連なる副切刃がそれぞれ形成され、
前記工具本体の先端側外周には、工具先端側かつ工具径方向外側を向く外側取付面を有する外側取付座と、該外側取付座よりも径方向内側に形成され、工具先端側かつ径方向内側を向く第二取付面を有する内側取付座とが、周方向に複数交互に配置されており、
これら外側取付座及び内側取付座には、前記インサートが、前記2つの長方形面のうち一方の長方形面を前記外側取付面又は内側取付面に当接させて、前記2つの第一側面のうち一方の第一側面を工具回転方向に向けてそれぞれ取り付けられ、
前記外側取付座の前記インサートは、前記一方の第一側面と他方の前記長方形面との交差稜線部に形成された第一主切刃が、工具径方向外側に突出させられて切削主切刃とされ、この切削主切刃に連なる前記副切刃が、工具先端方向に突出させられて切削副切刃とされており、
前記内側取付座の前記インサートは、前記一方の第一側面と前記2つの第二側面のうち工具先端側に位置する一方の第二側面との交差稜線部に形成された第二主切刃が、工具径方向外側に突出させられて切削主切刃とされ、
各前記インサートの前記切削主切刃が前記軸線を中心とした同一円錐面上に位置するとともに、前記外側取付座の前記インサートの前記切削副切刃が、前記内側取付座の前記インサートの前記切削主切刃に連なって工具先端方向に突出させられる前記副切刃よりも工具先端側に突出していることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記工具本体には、前記外側取付座と前記内側取付座とが周方向に交互に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記外側取付座に取り付けられた前記インサートの前記副切刃の工具先端側への突出量を調整する振れ調整機構が設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記振れ調整機構は、前記外側取付座の工具後端側に形成された切欠部にねじ込まれて、該外側取付座の前記インサートの他方の前記第二側面を押圧することによって該インサートを前記外側取付面に沿って変位させるクサビ部材であることを特徴とする請求項3に記載の切削工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate