説明

切削工具

【課題】切削効率が高く且つ、安定性の高い切削を実現すること。
【解決手段】筒状部105と、該筒状部105に挿入された軸状部101とを含む長尺部材と、2つの刃を有し、長尺部材の一端に設けられて、長尺部材の内部に収容された収容位置と長尺部材の外側に2つの刃を突出させた突出位置との間で回動可能なブレード201と、長尺部材の他端に設けられ、筒状部105と軸状部101とを相対的に移動させる操作部102〜104と、操作部102〜104の操作によって生じた筒状部105と軸状部101との相対的な移動を、収容位置と突出位置との間のブレードの回動に変更する運動機構と、を含み、ブレード201の2つの刃が筒状部105の両側に突出した状態で、全体として回転しつつ操作部側へ移動することにより、筒状部105の外径よりも大きな径の穴を穿孔する切削工具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体に穴を開ける切削技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な切削工具が存在する。中でも、骨穿孔用のドリルについては、低侵襲であること、体内の限られた空間で使用することなどの制約条件があるため、特別な機能を持たせる必要がある場合が多い。
【0003】
例えば、特許文献1〜4には、関節鏡視下の手術で、切削工具を回転させながら手前に引くことで、関節内部で大径の穿孔(移植腱を挿入する穴)を形成する方法及びそのための切削工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開公報US2010/0168750A1
【特許文献2】米国特許公開公報US2009/0275950A1
【特許文献3】欧州特許公開公報EP2098177A1
【特許文献4】欧州特許公報1987786
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、回転体の軸の一方にしかブレードが無いため、切削の効率が悪く、且つ、バランスが悪く振動や故障の原因となっていた。
【0006】
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る切削工具は、
筒状部と、該筒状部に挿入された軸状部とを含む長尺部材と、
2つの刃を有し、前記長尺部材の一端に設けられて、前記長尺部材の内部に収容された収容位置と、前記長尺部材の外側に前記2つの刃を突出させた突出位置との間で回動可能なブレードと、
前記長尺部材の他端に設けられ、前記筒状部と前記軸状部とを相対的に移動させる操作部と、
前記操作部の操作によって生じた前記筒状部と前記軸状部との相対的な移動を、前記収容位置と前記突出位置との間の前記ブレードの回動に変更する運動機構と、
を含み、
前記ブレードの2つの刃が前記筒状部の両側に突出した状態で、全体として回転しつつ前記操作部側へ移動することにより、前記筒状部の外径よりも大きな径の穴を穿孔することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、切削効率が高く且つ、安定性の高い切削を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る切削工具の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る切削工具の先端構成を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る切削工具の全体構成を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る切削工具の先端構成を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る軸状部の構成を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る軸状部の先端構成を示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る筒状部の先端構成を示す図である。
【図8】本発明の第1実施形態に係るブレードの構成を示す図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る切削工具の操作部の構成を示す図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係るブレードの構成を示す図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る先端部の構成を示す図である。
【図12】本発明の第3実施形態に係る先端部の構成を示す図である。
【図13】本発明の第4実施形態に係る先端部の構成を示す図である。
【図14】本発明の第4実施形態に係る先端部の構成を示す図である。
【図15】本発明の第5実施形態に係る先端部の構成を示す図である。
【図16】ACL再建術における骨穿孔の方法を説明するための図である。
【図17】ACL再建術の一例を説明するための図である。
【図18】ACL再建術の一例を説明するための図である。
【図19】ACL再建術の一例を説明するための図である。
【図20】ACL再建術の他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
(第1実施形態)
本発明に係る切削工具の第1実施形態としてのドリルビットについて説明する前に、その使用状況の一例として、膝靱帯の再建術について以下に説明する。ただし、本発明の適用はこのような膝靱帯の再建術に限定されるわけではなく、穿孔を目的とするあらゆる場面に応用可能である。つまり、骨に限らず、木材や金属などあらゆる材料で形成された固体の穿孔に本発明を用いることができる。
【0012】
[膝靱帯の再建術の概略]
前十字靱帯(Anterior cruciate ligament:ACL)や後十字靱帯(Posterior cruciate ligament:PCL)が断裂して修復不可能な場合、一般に組織移植片を移植することにより治療(つまりACL再建、PCL再建)が行なわれる。手術成績の向上とリハビリの早期回復から、ACL再建術は膝関節外科手術の中でも最も頻繁に行われる手術となっている。手術方法はこの10年で格段に進歩し、関節鏡を用いて小さな傷で手術が行えるようになった。
【0013】
図17、図18は、ACL再建術の一例を説明するための図である。図17は、右足の膝部1700の皮膚及び筋肉を透過させ、大腿骨1701と脛骨1706とを正面側から表わした斜視図である。大腿骨1701と脛骨1706とを繋いでいる前十字靱帯が断裂した場合、大腿骨1701及び脛骨1706に骨孔1704、1707を形成し、その中に移植腱(graft)1705を挿入して固定することにより前十字靱帯の機能を再生させる。
【0014】
移植腱1705は、膝蓋腱の一部および半腱様の筋および薄筋などから採取されることが一般的であるが、合成材料または合成材料と天然材料との混合物から形成する場合もある。移植腱1705の一端は、大腿骨1701に形成された骨孔1704に挿入され、その他端は、脛骨1706内に形成された骨孔1707内に挿入される。移植腱1705の各端部は、糸を介してエンドボタン(endobutton)1702または、インターフェランススクリュー(interference screw)1708などの固定具に取り付けられ、固定具は骨に固定される。
【0015】
図19を用いて、エンドボタン1702の使用方法について説明する。図19の1901に示すように、大腿骨1701において、移植腱1705を挿入するための比較的大径(φ5〜φ10mm)の骨孔1704を形成する。移植腱の径(太さ)をあらかじめ計測し、そのサイズに合った(同じ)径の骨孔を作成する。そして更に、エンドボタン(横幅4mm)1702を使用する場合、移植腱1705からエンドボタンまで延びる糸1803及びエンドボタン1702を通すための小径(φ4.5mm)の骨孔1703を形成する。移植腱1705に対して骨孔1704が大きすぎると、術後に骨と移植腱との固着が悪くなるため、通常は移植腱挿入用の骨孔の径を小さめにする。関節内から骨孔を作成する場合は、大腿骨に挿入する移植腱の長さ(通常15mm〜20mm)にエンドボタンを反転させる為に必要な6mmを合計した長さの骨孔を作成する。次に、エンドボタン1702に結びつけられた2本の糸1801、1802を大腿骨1701の骨孔1703を通して皮下組織から体外に出す。
【0016】
そして、主に糸1801を引っ張ることにより、エンドボタン1702を、骨孔1704、1703を通して関節内から皮下組織へと移動させる。
【0017】
図19の1902に示すようにエンドボタン1702の全体が皮下組織にでれば、その時点で、逆に、糸1801をゆるめて、糸1802を引っ張る。これにより、エンドボタン1702は、大腿骨1701のすぐ外側で向きを変える。
【0018】
図19の1903に示すように、エンドボタン1702が90度向きを変えれば、骨孔1703の出口に引っかかり、大腿骨1701内部に戻ることはないため、その時点で移植腱1705が固定されることになる。最後に、糸1801、1802をエンドボタン1702から抜いてしまえば、大腿骨1701側への移植腱1705の取り付けは完了する。
【0019】
なお、移植腱1705として用いられているのはハムストリングス(膝の後ろの腱)と膝蓋靱帯(膝蓋骨と脛骨をつなぐ靭帯)の2つである。図17、18では、大腿骨に1つ、脛骨に1つ穴をあけて、腱をその中に通し固定する方法を示した。しかし、近年になって前十字靱帯は細かくみると2つの線維に分かれていることが分かったため、これらの2つの線維を再建する方法(2重束ACL再建法)が行われるようになってきた(Muneta 1999, Yasuda 2006)。近年では前方および回旋不安定性の回復は1重束より効果的であるとの報告が多くなっている。この2重束ACL再建法では、ハムストリングスを用いて長い移植腱を用意し、大腿骨に2つ、脛骨に2つないし3つ穴をあけて固定する(Anatomic double bundle ACL reconstruction: Charles Crawford, John Nyland Sarah Landes, Richard Jackson, Haw Chong Chang, Akbar Nawab, David N. M. Caborn,: Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc (2007) 15:946-964)。
【0020】
この2重束ACL再建法による腱移植後の膝部2000を図20に示す。図20では、Anteromedial band (AM束)2005とPosterolateral band (PL束)1705との2本の移植腱が再建されている。2重束ACL再建法では、PL束1705用の骨孔1703、1704、1707と、AM束2005用の骨孔2003、2004、2007とを穿孔する必要が生じる。そして、2個のエンドボタン1702、2002を用いてPL束1705とAM束2005とを固定する。なお、図20では、脛骨1706側の固定具としてステープル2008を用いて、PL束1705とAM束2005との両方を一度に固定する場合について図示している。
【0021】
以上のような、膝靱帯の再建手術において、患者の早期回復のため及び靱帯断裂前の状態に近づけるため最も重要なのは、移植腱の取付位置と移植腱の径であると言われている。これは言い換えれば、骨孔の位置と方向とサイズが重要ということに他ならない。
【0022】
図17では、脛骨1706に形成された骨孔1707と、大腿骨1701に形成された骨孔1704とは、ほぼ同軸に形成されているが、実際には、この図17のように直線状に移植腱1705を取り付けることは生体学的に望ましくない場合がある。つまり、骨孔1704の開口位置及び穿孔方向には種々の制約があり、脛骨1706側から大腿骨1701側の骨孔1704を正確且つ的確に穿孔することは困難である。
【0023】
そこで、近年、脛骨1706側ではなく、大腿骨1701の外側から穿孔して骨孔1704を形成するアウトサイドインという方法が望まれている。しかし、大腿骨1701の外側には、非常に重要な大腿四頭筋が存在するため、大径の穴を開けることはできない。一方、移植腱1705及びそれを挿入するための骨孔1704は、ある程度の径を要求されるため、極小径の骨孔では移植腱1705の再建を行なうことができない。つまり、通常の方法では、径の異なる同軸の連続する骨孔(ソケット状の骨孔)を作成することができない。Endobuttonを固定具として用いる際には、エンドボタンの長さの半分の径(6mm)の骨孔を形成する必要があるので、結局、移植腱自体を細くせざるをえず、移植腱の強度が不足する可能性があった。
【0024】
以上の事実から、図16に示すように、大腿骨1701の外側から小径のドリルビット1601で穿孔した後、同じドリルビット1601を挿入したまま、又は、ほぼ同じ径の別ドリルを挿入して、関節内でブレード1602を出し、手前に引きながら大腿骨1701の内側の面に大径の骨孔1704を形成する術式が望まれるようになってきた。
【0025】
本発明の第1実施形態としての切削工具は、そのような術式に用いられるドリルビットである。
【0026】
[ドリルビットの構成]
図1は、本実施形態に係るドリルビット100の外観全体を示す図である。左側の図は正面図、右側の図は右側面を示している。ドリルビット100は、筒状部105と、筒状部105に挿入された軸状部101とを含む長尺部材を備えている。軸状部101の図中上部を不図示のドリルモータにチャックして回転させることにより、ドリルビット100の先端部107において切削が行なわれる。
【0027】
グリップ102は、軸状部101に固定されており、枠状部103と一体に形成されている。枠状部103は、中空の角筒形状となっており、内部に回転操作部104を収容している。回転操作部104は、軸状部101及び枠状部103に対して回転自在に設けられている。回転操作部104の内部はねじが切られており、そのねじに筒状部105が螺合されている。回転操作部104を回転させることにより、筒状部105が、軸状部101に対して相対的に軸方向に移動する構成となっている。ここでは、クローズ方向(図中左側)に回転操作部104を回転させることにより、筒状部105が最も手元側(図中上側)に移動した状態を示している。つまり、これら、回転操作部104等は、長尺部材の他端に設けられ、軸状部101と筒状部105とを相対的に移動させる操作部として機能する。
【0028】
筒状部105の外周面には、一定間隔でマーク106が設けられている。マーク106の位置により、このドリルビット100をどれだけ挿入したか、そして挿入後、どれだけ引き出したかを確認することができる。ドリルビット100の全長は約300mmであり、筒状部105の外径は、4.5mmであることが望ましい。エンドボタンの挿入に適した径の骨孔を大腿骨に形成できるからである。
【0029】
図2は、ドリルビット100の先端部107を拡大した拡大図である。左側の図は側面拡大図であり、右側の図は、そのA−A断面図である。軸状部101の端部には、先端カッター203が形成されており、その手前には、スリット101aが設けられている。スリット101aは、軸状部101の外径よりも小さな幅を有する角孔であり、その中心部分には、ピン204が挿入されている。ピン204には、2つの刃201b、201cを有し、ピン204を中心に回動可能なブレード201が取り付けられている。ブレード201には、その表面に溝部201aが形成されており、その溝部201aの内部を筒状部105の一部としての凸部205が移動する機構となっている。筒状部105が図中下方向に移動すると、凸部205が、溝部201a内を進みつつ、ピン204を中心としてブレード201を回動させる。このような凸部205及び溝部201aは、回転操作部104の操作によって生じた軸状部101と筒状部105との相対的な移動を、収容位置と突出位置との間のブレード201の回動に変更する運動機構として機能する。すなわち、この運動機構では、筒状部105の凸部205が上下直線移動することにより、溝部201aの内壁面に対して押圧力を作用させ、その押圧力がブレード201を回転させる回転力となる。すなわち、凸部205が溝部201a内を移動しつつブレードに回転力を与える。
【0030】
その結果、筒状部105の先端に切られた、スリット105a、105bから、ブレード201の2つの刃201b、201cが筒状部105の外側に飛び出すように動く。つまり、ブレード201は、ドリルビットの長尺部材の内部に収容された収容位置と、長尺部材の外側に2つの刃201b、201cを突出させた突出位置との間で回動可能である。
【0031】
図3は、図1の先端部107においてブレード201を出した状態のドリルビット100の外観を示す図である。図1と同様に、左側の図は側面図、右側の図は正面図を示している。図3に示されているように先端部307において、ブレード201がサイドに突出した状態となっている。この状態でドリルビット100全体を回転させながら、図中上方向に引き戻すことにより、図16や図20等で示したような大径の骨孔1704を形成できる。
【0032】
図4は、図3の先端部307を拡大した図であり、左側は、側面図、右側はそのB−B断面図である。図4に示すように、筒状部105が、軸状部101に対して下方向に移動することにより、ブレード201が凸部205の力を受けて、図中右回りに回転し、その結果、筒状部105の外側に刃201b、201cが張り出す。刃201b、201cは、軸状部101の軸に対して垂直をなす方向に形成されている。
【0033】
図5〜図8は、それぞれドリルビット100を分解した場合の一部品を示す図であり、図5は軸状部101、図6は軸状部101の先端、図7は筒状部105、図8はブレード201を示している。
【0034】
図5は、軸状部101の正面図(501)と平面拡大図(502)と底面拡大図(503)と右側面図(504)とを示している。正面図(501)に示されているように、軸状部101の一端には、不図示のドリルモータに取り付けるためのチャック部101bを備えている。そして、図2でも説明したように、軸状部101の他端には、先端カッター203と、スリット101aが形成されている。また、右側面図(504)にあるように、軸状部101の先端の側面には、ブレード201の回転軸としてのピン204を嵌合するための貫通孔101cが形成されている。
【0035】
図5に示す軸状部101の先端部507を拡大したものが、図6に示されている。図6においては、拡大した先端部内部を示す断面図(601)とそのC−C断面図(602)とが表わされている。図6に示すようにスリット101aと貫通孔101cとは軸状部101の内部で互いに交差している。スリット101aは、その中に挿入すべきブレード201の大きさに応じたサイズで形成されている。
【0036】
図7は、筒状部105の正面図(701)と底面図(702)とそのD−D断面図(703)とを表わしている。これらの図に示すように、筒状部105は、先端に互いに対向するスリット105a、105bを備えている。スリット105aは、スリット105bと同じ幅で、かつブレード201が縦位置で収容できるように、スリット105bよりも長く形成されている。スリット105aの中央部分よりも少し下側に凸部205が設けられている。凸部205は、例えば、筒状部105に対してスリット105aを形成すべく切削する際に同時に形成することができる。
【0037】
図8は、ブレード201の正面図(801)、左側面図(802)、底面図(803)を示している。これらの図に示すようにブレード201は、2つの刃201b、201cを円弧部201dで繋ぐ形状となっている。円弧部201dの中央には、回転軸としてのピン204が緩挿されるための貫通孔201eが設けられている。底面部201fは、平面状に形成されており、その一方の端部から少し内側に溝部201aの出口が設けられる。溝部201aはその出口から貫通孔201eに向けて直線状に設けられ、筒状部105の凸部205が挿入できる幅に形成されている。ブレード201の刃201b、201cと底面部201fとを結ぶ側面部201g、201hは、曲面に形成されており、ピン204を中心に回転した場合に、筒状部105に干渉しないように配慮されている。
【0038】
図9は、図1に示した、ドリルビット100のハンドル部分を拡大した断面図である。グリップ102は、軸状部101に固定されており、枠状部103と一体に形成されている。枠状部103は、中空の角筒形状となっており、内部に回転操作部104を収容している。回転操作部104は、軸状部101及び枠状部103に対して回転自在に設けられている。回転操作部104の内部には、ねじが切られたブロックナット901が嵌め込まれ、そのねじに筒状部105の外側に固定されたガイド部902が螺合されている。回転操作部104を回転させることにより、ブロックナット901を介して、ガイド部902に軸方向の力が伝わり、筒状部105が軸状部101に対して軸方向に移動する構成となっている。
【0039】
以上のように構成されたドリルビット100によれば、筒状部105の両側に刃が突出する機構としたため、切削効率を2倍に高め、且つ、切削時の振動を少なくすることができる。また、軸に対する負荷のバランスも良いため、壊れにくくなる。特に、骨の穿孔に利用する場合、振動の低減は非常に重要な課題であるが、筒状部の一方にのみ刃が突出する機構に比べ、大幅に振動を減らすことが可能となる。更に、軸のぶれも小さくなるため、小径の骨孔と大径の骨孔とを正確に同軸に形成することができ、エンドボタンの挿入を非常にスムーズに行なうことが可能となる。
【0040】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態としてのドリルビットについて図10を用いて説明する。図10は、本実施形態にかかるドリルビットの先端部を示す断面図(1010、1020)を示しており、それぞれ、図6の断面図(601、602)に対応するものである。本実施形態でもブレード1001は、溝部1001aを備えており、その中を凸部205が移動することにより、ブレード1001が筒状部105に対して90度回転する。
【0041】
ただし、第1実施形態と異なり、本実施形態では、ブレード1001が備えた2つの刃1001b、1001cは、軸状部101の軸に対して垂直でなく、手元側に凸になるようにそれぞれ斜めに形成されている。つまり、第1実施形態では、ブレード201の刃201b、201cの刃面の中心線が同一直線上にあったが、本実施形態では、2つの刃1001b、1001cの刃面の中心線は互いに鋭角に交差する。言い方を変えれば、ブレード1001は、全体として略二等辺三角形の板であり、その2つの斜辺に刃が設けられている。他の構成及び機能については第1実施形態と同様であるためここでは説明を省略する。
【0042】
本実施形態によれば、切削開始時の抵抗及び振動を減らすことができる。また、大径の骨孔を先細るように形成することができ、より移植腱を強固に嵌め込むことが可能となる。また、エンドボタンの挿入時の引っかかりを低減することができる。
【0043】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態としてのドリルビットについて図11、図12を用いて説明する。図11は、本実施形態にかかるドリルビットの先端部が変化する様子を説明する断面図である。第1、第2実施形態と異なり、ドリルビットの先端は、軸状部1104に軸支された2枚のブレード部品1101、1102を備えている。そして、筒状部1103が軸状部1104に対して軸方向に相対移動することにより、それらのブレード部品1101、1102が開閉する。つまり、ブレードがそれぞれ1つの刃を有する2つのブレード部品1101、1102の組み合わせで構成されている。他の構成及び機能については第1実施形態と同様であるためここでは説明を省略する。
【0044】
図11の左側の図においては、ブレード部品1101、1102は閉状態にあり、2枚で先端カッターを構成している。この状態でドリルビットを回転させて図中上方向に押し進めることにより、小径の穿孔を行なうことが可能である。ブレード部品1101、1102はそれぞれ内側に階段状の端縁を有しており、それらが嵌め合うことにより一体となって先端カッターとして機能する。
【0045】
一方、筒状部1103を軸状部1104に対して図中下側(操作者から見て手前側)に移動させることにより、中央の図のように、ブレード部品1101、1102は左右に開き始める。筒状部1103に形成された凸部1105がブレード部品1101、1102の溝部1101a、1102a内を移動することにより、ブレード部品1101に対して図中右方向の力を与え、ブレード部品1102に対して図中左方向の力を与える。この点は、第1、第2実施形態と同様である。
【0046】
更に、筒状部1103を軸状部1104に対して図中下側に移動させると、ブレード部品1101、1102は、徐々に開いていき、図11の右図のようになる。そして、図12の左図、中央図、右図と変化していく。最終的に、図12の右図のように、筒状部1103の両側にブレード部品1101、1102が張出す状態となる。この状態で、ドリルビットを回転させつつ手前に引くことにより、第1、第2実施形態と同様に段差のある穿孔を一度に行なうことが可能となる。
【0047】
本実施形態によれば、2枚のブレードが先端カッターとしても機能するため、ブレードを開閉するためのスペースを小さくすることができる。つまり、膝靱帯の再建術に利用すれば、径小の骨孔を形成した後、最小限の挿入でブレードを広げ、径大の骨孔を形成することができる。すなわち、手術時間を大幅に短縮すると共に、安全且つ低侵襲な靱帯再建を行なうことができる。
【0048】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態としてのドリルビットについて、図13、図14を用いて説明する。図13、図14は、本実施形態にかかるドリルビットの先端部が変化する様子を説明する断面図であり、図13はブレード1302が開いた状態を示す。図14は、ブレード1302が閉じた状態を示す。第1、第2実施形態では、筒状部105に設けられた凸部205とブレード201、1001に設けられた溝部201a、1001aとの係合によって、ブレード201の開閉が行なわれていた。これに対し、本実施形態では筒状部1305に設けられたスリット1306の斜めの面(軸方向内側表面)がブレード1302の刃又はその対向面(つまり、外周面の一部)と当接することにより、ブレード1302が回転して、刃の開閉を行なう。第1〜第3実施形態と異なり、筒状部1305を固定して軸状部1301を移動させることにより刃を開閉させる。
【0049】
図13において、ブレード1302は、第1、第2実施形態と同様に、軸状部1301に設けられたスリット1301a内に固定されたピン1304に軸支され、ピン1304を中心に回転可能に取り付けられている。軸状部1301を図中上方向(操作者から見て奥側)に移動させることにより、右側の図のように、筒状部1305に形成された、軸に向けて先端側に傾斜したスリット1306の面と、ブレード1302とが当接し、ブレード1302に対して、図中右に回転させる力が加えられる。これにより、ブレード1302は、図14の左図のように収納される。一方、軸状部1301を図中下方向(操作者から見て手前側)に移動させることにより、図14の右図のようにブレード1302を筒状部1305の外側に突出させることができる。この場合、スリット1306の下側の斜め面がブレード1302の刃と当接することにより、ブレード1302が回転する。 一方、本実施形態において、ドリルビットの先端カッター1303は、筒状部1305に嵌め込まれて固定されている。
【0050】
本実施形態の構成は、ドリルビットの外径がより小さい場合や図2に示した凸部205の強度が確保できない場合に有効である。先端カッター1303は、筒状部1305に固定されるため、より強い穿孔力を発揮させることができる。
【0051】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について図15を用いて説明する。図15は、本実施形態に係るドリルビットの先端部分の断面図である。本実施形態では、第4実施形態の構成に加えて、ブレード1502に糸挿入スリット1501を設けたものである。骨孔1704を形成した後、この糸挿入スリット1501に、エンドボタン1702を操作するための糸1801、1802を引っかけて、ブレード1502を閉じ、ドリルビットを引き出すことにより、糸1801、1802を体外に引き出すことができる。すなわち、手術時の工程を更に短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0052】
100 ドリルビット
101、1104、1301 軸状部
102 グリップ
103 枠状部
104 回転操作部
105、1103、1305 筒状部
106 マーク
201、1001、1101、1102、1302、1502 ブレード
203、1303 先端カッター
204、1304 ピン
205、1105 凸部
901 ブロックナット
902 ガイド部
1501 糸挿入スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部と、該筒状部に挿入された軸状部とを含む長尺部材と、
2つの刃を有し、前記長尺部材の一端に設けられて、前記長尺部材の内部に収容された収容位置と、前記長尺部材の外側に前記2つの刃を突出させた突出位置との間で回動可能なブレードと、
前記長尺部材の他端に設けられ、前記筒状部と前記軸状部とを相対的に移動させる操作部と、
前記操作部の操作によって生じた前記筒状部と前記軸状部との相対的な移動を、前記収容位置と前記突出位置との間の前記ブレードの回動に変更する運動機構と、
を含み、
前記ブレードの2つの刃が前記筒状部の両側に突出した状態で、全体として回転しつつ前記操作部側へ移動することにより、前記筒状部の外径よりも大きな径の穴を穿孔することを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記運動機構は、
前記ブレードに設けられた溝部と、
前記筒状部に設けられ、該溝部内を移動しつつ前記ブレードに回動力を与える凸部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記ブレードに設けられた2つの刃の刃面の中心線は同一直線上に存在することを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項4】
前記ブレードに設けられた2つの刃の刃面の中心線は互いに鋭角に交差することを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項5】
前記ブレードは、それぞれ1つの刃を有する2つのブレード部品の組合せで構成されたことを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項6】
前記運動機構は、
前記ブレードの外周面と、
前記筒状部に設けられ、前記ブレードの厚みよりも広い幅に形成されたスリットの軸方向内側表面と、
を含み、
前記外周面が前記スリットの軸方向内側表面に当接することによって、前記ブレードが前記収容位置と前記突出位置との間で回動することを特徴とする請求項1に記載の切削工具。
【請求項7】
前記ブレードに、糸を引っかけるための糸挿入スリットを設けたことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−187287(P2012−187287A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53838(P2011−53838)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【特許番号】特許第4801225号(P4801225)
【特許公報発行日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(511065484)アリオメディカル株式会社 (1)
【Fターム(参考)】