切削方法
【課題】被加工物毎に適切な余裕幅が設定でき、被加工物上面に切削ブレードが衝突することで生じる切削ブレードや被加工物の破損を防止できる切削方法を提供する。
【解決手段】加工開始位置設定ステップで設定した加工開始位置に切削ブレードを退避位置から所定高さ位置へと下降させ切削送りを開始し切削終了点で切削送りを終了させて該繰り返しステップを実施する、切削方法とする。
【解決手段】加工開始位置設定ステップで設定した加工開始位置に切削ブレードを退避位置から所定高さ位置へと下降させ切削送りを開始し切削終了点で切削送りを終了させて該繰り返しステップを実施する、切削方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を切削ブレードで切削する切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円板形状の被加工物である半導体ウェーハをスピンドルの先端に装着された切削ブレードで切削し複数の溝を形成する切削方法は知られている(例えば、特許文献1参照)。また、保持テーブルに半導体ウェーハを直接保持する形態のほか、被加工物を粘着テープを介して環状フレームに固定して被加工物ユニットを構成し、被加工物ユニットを保持テーブルにて保持する形態も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
以上のような切削方法は、ダイサーと呼ばれる切削装置を用いて行われるものであり、マニュアルにて被加工物を保持テーブルにセットして切削加工がなされるマニュアルダイサーや、被加工物の保持テーブルへのセットも含め、ほとんどの操作が自動制御にてなされるフルオートダイサーが知られている。
【0004】
切削ブレードは、保持テーブルの上方となる位置である退避位置と、保持テーブル上にセットされた被加工物に対して切削加工を行う加工高さ位置の間において、上下方向に移動するように構成されており、切削加工がなされる際には、切削ブレードが退避位置から加工高さ位置へと下降される。
【0005】
以上のような切削加工がなされる際には、被加工物の中心と保持テーブルの中心が完全に一致した状態で切削加工がなされることが好ましい。しかしながら、マニュアルダイサーが使用される場合では、マニュアルにて被加工物を保持テーブルにセットする際に、被加工物の中心と保持テーブルの中心を完全に一致させることは困難であり、載置位置ズレが生じる可能性が存在する。
【0006】
一方、フルオートダイサーでは環状フレームを基準として被加工物ユニットの位置決めがなされた上で保持テーブル上に搬送されるため、環状フレームの中心と被加工物の中心とがずれている場合(貼り付け誤差がある場合)には、保持テーブル上に搬送された被加工物の中心と保持テーブルの中心とにはズレが生じることが考えられる。また、保持テーブル上への搬送も自動で行われるため、各回の搬送において搬送誤差(搬送ばらつき)が生じることが考えられる。
【0007】
そして、被加工物の中心と保持テーブルの中心にズレが生じていると、被加工物を切削するために切削ブレードを加工高さ位置へと下降させた際に、被加工物の上面に切削ブレードが衝突するおそれがあり、この衝突によって切削ブレードや被加工物が破損するなどの不具合が発生するおそれがある。
【0008】
そこで、載置位置ズレ、貼り付け誤差、搬送ばらつきなどを考慮した上で、切削加工時には被加工物の少なくとも一端側(切削ブレードの切り込み側)に所定の余裕幅を設定し、被加工物の外側から切削ブレードが被加工物に切り込むようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−335593号公報
【特許文献2】特開2011−192863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の不具合の発生に鑑みて余裕幅を長く設定すると、切削により多くの時間を要することになるため、生産性が悪くなってしまうという問題があった。
【0011】
そこで、本発明では、被加工物毎に適切な余裕幅が設定でき、被加工物上面に切削ブレードが衝突することで生じる切削ブレードや被加工物の破損を防止できる切削方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、円板形状の被加工物をスピンドルの先端に装着された切削ブレードで切削し複数の溝を形成する切削方法であって、被加工物を保持テーブルで保持する保持ステップと、保持ステップを実施した後、被加工物外周縁から所定距離外側に離れた加工開始位置において、被加工物の上面より上方の退避位置から被加工物に切り込む所定高さ位置へと切削ブレードを下降させる切削ブレード下降ステップと、切削ブレード下降ステップに続いて保持テーブルと切削ブレードとを切削送り方向に相対移動させることでスピンドルで回転された切削ブレードを被加工物の一端に切り込ませ、切削ブレードで被加工物の一端から他端まで切削するとともに切削ブレードを他端から切り抜けさせる切削ステップと、切削ステップを実施した後、被加工物の他端から切り抜けた切削ブレードを退避位置へと上昇させる切削ブレード上昇ステップと、切削ステップを実施した後、切削ブレードと保持テーブルとを加工送り方向に直交する割り出し送り方向に所定ピッチ分相対移動させる割り出し送りステップと、割り出し送りステップを実施した後、少なくとも切削ブレード下降ステップと切削ステップとを繰り返す繰り返しステップと、を含み、切削ステップを実施する際に、切削ブレードが被加工物の一端に切り込んだ切削開始点と切削ブレードが被加工物の他端から切り抜けた切削終了点との距離を検出し、検出した距離と、被加工物の外形サイズとから次に形成する溝の切削開始点と切削終了点の座標位置を算出する座標位置算出ステップと、座標位置算出ステップを実施した後、座標位置算出ステップで算出した切削開始点に基づいて繰り返しステップでの切削開始点に対応する加工開始位置を設定する加工開始位置設定ステップと、座標位置算出ステップを実施した後、座標位置算出ステップで算出した切削終了点に基づいて繰り返しステップでの切削終了点に対応する加工終了位置を設定する加工終了位置設定ステップと、を備え、繰り返しステップでは、加工開始位置設定ステップで設定した加工開始位置に切削ブレードを退避位置から所定高さ位置へと下降させ切削送りを開始し切削終了点で切削送りを終了させて繰り返しステップを実施する、ことを特徴とする切削方法が提供される。
【0013】
好ましくは、切り込み座標位置算出ステップでは、スピンドルの負荷電流値の変化により切削開始点と切削終了点とを検出する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の切削方法によれば、各被加工物に対する初回の溝加工(切削加工)がされた際に、切削ブレードが被加工物の一端に切り込む切削開始点と切削ブレードが被加工物の他端から切り抜けた切削終了点とが加工検出手段で検出される。次いで、検出した切削開始点と切削終了点とにおける座標位置と、被加工物の外形サイズとから切削ブレードが、次に形成する溝についての切削開始点が算出され、さらに、切削開始点から余裕幅を持たせた加工開始位置が算出される。
【0015】
そして、切削開始点が検出された初回の溝加工以降の溝加工においては、加工開始位置が切削開始点に基づいて設定されるため、余裕幅を最小に設定することができ、切削時間を最小として生産性が向上されるとともに、被加工物上面に切削ブレードが衝突することで生じる切削ブレードや被加工物の破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】切削装置の斜視図である。
【図2】被加工物ユニットの斜視図である。
【図3】保持ステップの概要について示す側面図である。
【図4】切削ブレード下降ステップの概要について示す側面図である。
【図5】切削ステップの概要について示す側面図である。
【図6】切削ブレード上昇ステップの概要について示す側面図である。
【図7】割り出し送りステップ、及び、戻しステップの概要について示す平面図である。
【図8】割り出し送りステップと戻しステップを同時に行う場合の概要について示す平面図である。
【図9】初回の溝加工がなされる際の概要について説明する図である。
【図10】負荷電流値の変動について説明する図である。
【図11】切削開始点、加工開始位置、余裕幅などについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態としての切削装置2の外観斜視図を示している。
【0018】
切削装置2の前面側には、オペレータが加工条件等の装置に対する指示を入力するための操作パネル4が設けられている。装置上部には、オペレータに対する案内画面や後述する撮像ユニットによって撮像された画像が表示されるCRT等の表示ユニット6が設けられている。
【0019】
図2は、被加工物となるウェーハWについて示すものであり、ウェーハWは粘着テープT(ダイシングテープ)に貼着され、粘着テープTの外周縁部が環状フレームFに貼着されて被加工物ユニットUが形成される。被加工物ユニットUでは、ウェーハWは粘着テープTを介して環状フレームFに支持された状態となり、図1に示したカセット8中に被加工物ユニットUが複数枚(例えば25枚)収容される。カセット8は上下動可能なカセット載置部9(カセットエレベータ)上に載置される。
【0020】
図2に示されるように、ウェーハWの表面には、第1の分割予定ラインS1と第2の分割予定ラインS2とが直交して形成されており、第1の分割予定ラインS1と第2の分割予定ラインS2によって区画された各領域に半導体パッケージDが形成されている。
【0021】
図1において、カセット8の後方には、カセット8から切削前のウェーハW(被加工物ユニットU)を搬出するとともに、切削後のウェーハWをカセット8に搬入する搬出入ユニット10が配設されている。
【0022】
搬出入ユニット10はクランプ11を有しており、クランプ11が被加工物ユニットUの環状フレームFを把持して、カセット8に対して被加工物ユニットUを搬出及び搬入する。搬出入ユニット10はY軸方向に直線移動される。
【0023】
カセット8と搬出入ユニット10との間には、搬出入対象の被加工物ユニットUが一時的に載置される領域である仮置きテーブル12が設けられており、仮置きテーブル12には、被加工物ユニットUの環状フレームFをセンタリングする一対のガイドレール14が配設されている。
【0024】
仮置きテーブル12の近傍には、被加工物ユニットUを吸着して搬送する旋回アームを有する搬送ユニット16が配設されており、仮置きテーブル12に搬出された被加工物ユニットUは、搬送ユニット16により吸着されてチャックテーブル19上に搬送され、このチャックテーブル19に吸引保持されるとともに、複数のフレームクランプ21により環状フレームFがクランプされて固定される。
【0025】
チャックテーブル19は、回転可能且つX軸方向に往復動可能に構成されており、チャックテーブル19のX軸方向の移動経路の上方には、ウェーハWの切削すべきストリートを検出するアライメントユニット20が配設されている。
【0026】
アライメントユニット20は、ウェーハWの表面を撮像する撮像素子及び顕微鏡を有する撮像ユニット22を備えており、撮像により取得した画像に基づき、コントローラによるパターンマッチング等の画像処理によって切削すべきストリートを検出することができる。撮像ユニット22によって取得された画像は、表示ユニット6に表示される。
【0027】
アライメントユニット20の左側には、チャックテーブル19に保持されたウェーハWに対して切削加工を施す切削ユニット24が配設されている。切削ユニット24はアライメントユニット20と一体的に構成されており、両者が連動してY軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0028】
切削ユニット24は、回転可能なスピンドル26の先端に切削ブレード28が装着されて構成され、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能となっている。切削ブレード28は撮像ユニット22のX軸方向の延長線上に位置している。
【0029】
25は切削加工の終了した被加工物ユニットUを吸着してスピンナ洗浄ユニット27まで搬送する搬送ユニットであり、スピンナ洗浄ユニット27では被加工物ユニットUがスピン洗浄及びスピン乾燥される。
【0030】
スピン洗浄及びスピン乾燥された後の被加工物ユニットUは、搬送ユニット16により吸着されて再び仮置きテーブル12へと移動され、搬出入ユニット10にてカセット8へと移動される。
【0031】
次に、以上のような切削装置2を用いて行なわれる本発明の特徴的な切削方法について説明する。この切削方法は、円板形状の被加工物であるウェーハWをスピンドル26の先端に装着された切削ブレード28で切削し複数の溝を形成する切削方法であり、以下のステップにて実施される。
【0032】
まず、図3に示すように、被加工物であるウェーハWを保持テーブルであるチャックテーブル19で保持する保持ステップが実施される。これにより、フレームクランプ21により被加工物ユニットUの環状フレームFがクランプされるとともに、ウェーハWがチャックテーブル19の上面に対して吸引保持される状態となる。
【0033】
なお、被加工物としては、本実施形態のウェーハW(図2参照)の他、ガラス板やセラミック板である場合もある。また、分割予定ラインS1,S2(図2参照)が形成されているものの他、被加工物上には分割予定ラインが形成されていない場合もある。また、本実施例では、保持ステップの前に、ウェーハWを粘着テープT(ダイシングテープ)を介して環状フレームFに固定するステップが実施されることで被加工物ユニットUが構成されることとしているが、被加工物であるウェーハWを保持テーブルであるチャックテーブル19に直置きして保持、及び、加工させることとしてもよい。
【0034】
保持ステップを実施した後、図4に示すように、ウェーハWの外周縁から所定距離(余裕幅Y1)外側に離れた加工開始位置Pa1において、ウェーハWの上面Waより上方の退避位置H1からウェーハWに切り込む所定高さ位置H2へと切削ブレード28を下降させる切削ブレード下降ステップが実施される。
【0035】
この切削ブレード下降ステップにおける所定距離は、切削ブレード28を所定高さ位置H2に下降させた際に、切削ブレード28とウェーハWが接触することによる切削ブレード28やウェーハWの破損を防ぐために、余裕幅Y1として十分な値に設定される。
【0036】
切削ブレード下降ステップに続いて、図5に示すように、チャックテーブル19と切削ブレード28とを切削送り方向(X軸方向)に相対移動させることでスピンドル26で回転された切削ブレード28をウェーハWの一端に切り込ませ、切削ブレード28でウェーハWの一端E1から他端E2まで切削するとともに切削ブレード28を他端E2から切り抜けさせる切削ステップが実施される。
【0037】
切削ステップを実施した後、図6に示すように、ウェーハWの他端E2から切り抜けた切削ブレード28を退避位置H1へと上昇させる切削ブレード上昇ステップを実施する。
【0038】
これにより、切削ブレード28がウェーハWの上方へと移動され、ウェーハW及びチャックテーブル19と、切削ブレード28の間に隙間空間Kが形成される。
【0039】
切削ステップを実施した後、切削ブレード上昇ステップの実施に次いで、図7に示すように、切削ブレード28とチャックテーブル19とを加工送り方向(X軸方向)に直交する割り出し送り方向(Y軸方向)に所定ピッチ分相対移動させる割り出し送りステップを実施する。
【0040】
これにより、切削ブレード28が次に切削加工が施されるべき分割予定ラインに対し、Y軸方向における位置合わせがなされる。なお、ここでいう「所定ピッチ」とは、隣り合う分割予定ライン同士の間隔である。
【0041】
この割り出し送りステップにおいては、図6に示すように、予め切削ブレード上昇ステップにより隙間空間Kが形成されているため、切削ブレード28がウェーハWに接触してしまうことがない。
【0042】
なお、切削ステップでは、分割予定ラインにおいてウェーハWの厚み方向の全てを切断する溝加工であるフルカットや、ウェーハWの厚み方向中途部まで溝加工を施すハーフカットがなされることが想定される。このハーフカットがなされる場合には、切削ステップ後、切削ブレード上昇ステップを実施する前に割り出し送りステップが実施されることとしてもよい。切削ブレード上昇ステップを実施せずに割り出し送りステップを実施しても、切削ブレード28がウェーハWに接触することがないためである。また、切削ブレード上昇ステップと割り出し送りステップが同時に実施されることとしてもよい。
【0043】
割り出し送りステップと切削ブレード上昇ステップを実施した後、図7に示すように、チャックテーブル19と切削ブレード28とを切削送り方向(X軸方向)に相対移動させることで、切削ブレード28をウェーハWの一端E1側へと戻す戻しステップが実施される。これにより、切削ブレード28がウェーハWの一端E1側、即ち、切削加工開始側へと位置づけられる。
【0044】
また、この戻しステップは、図7に示すように、割り出し送りステップが実施された後に行なわれる、つまりは、Y軸方向に切削ブレード28を移動させた後に、チャックテーブル19と切削ブレード28の切削送り方向(X軸方向)の相対移動がなされることとするほか、図8に示すように、割り出し送りステップと戻しステップを同時に実施することで、切削ブレード28がチャックテーブル19に対し平面視において斜め方向に相対移動されることとしてもよい。また、割り出し送りステップを実施する前に戻しステップを実施してもよい。
【0045】
割り出し送りステップを実施した後、少なくとも上述した切削ブレード下降ステップ(図4)と切削ステップ(図5)とを繰り返す繰り返しステップとが実施される。これにより、図9に示すように、既に切削加工された溝M1の隣にあって、次に切削加工がなされるべき分割予定ラインに対し切削加工がなされ、この切削加工により溝M2が形成される。
【0046】
そして、図9に示すように、切削ステップを実施する際には、切削ブレード28がウェーハWの一端E1に切り込んだ切削開始点Pb1と切削ブレード28がウェーハWの他端E2から切り抜けた切削終了点Pc1との距離L1を検出し、検出した距離L1と、ウェーハWの外形サイズとから次に形成する溝M2の切削開始点Pb2と切削終了点Pc2の座標位置を算出する座標位置算出ステップが実施される。
【0047】
より詳しくは、まず、切削ブレード28がウェーハWの一端E1に切り込んだ切削開始点Pb1が検出される。この切削開始点Pb1は、切削ブレード28がウェーハWの一端E1側に接触した位置を特定するための位置情報であり、図9に示すX軸方向の座標位置にて定義される。
【0048】
同様に、切削ブレード28がウェーハWの他端E2から切り抜けた切削終了点Pc1が検出される。この切削終了点Pc1は、切削ブレード28がウェーハWの他端E2側から離れる位置を特定するための位置情報であり、図9に示すX軸方向の座標位置にて定義される。
【0049】
切削開始点Pb1と切削終了点Pc1の座標位置の検出は、例えば、図10に示すように、スピンドル26の負荷電流値Aの変化に基づいて検出することができる。具体的には、図示せぬコントローラにてスピンドル26の負荷電流値A(スピンドル26を駆動するモータの電流値)をモニターし、負荷が急激に増加した時間に切削が開始されたとして、当該時間を切削開始点Pb1への到達時間T1とし、同様に、負荷が急激に減少した時間に切削が終了したとして、当該時間を切削終了点Pc1への到達時間T2とする。
【0050】
そして、コントローラは、到達時間T1から到達時間T2までの所要時間T3を求めるとともに、所要時間T3に切削送り速度、即ち、切削ブレード28とチャックテーブル19の相対移動速度を乗ずることによって距離L1を求める。
【0051】
なお、上記の例により距離L1を求めるほか、以下の例としてもよい。即ち、スピンドル26の負荷電流値Aが急激に増加した時点(到達時間T1)を検出するとともに、この時(到達時間T1)のダイサー内の座標系におけるチャックテーブル19の座標位置とスピンドル26の座標位置と切削ブレード28の外径サイズとから切削開始点Pb1の座標位置を検出する。
【0052】
同様に到達時間T2を検出するとともにこの時(到達時間T2)のダイサー内の座標系におけるチャックテーブル19の座標位置とスピンドル26の座標位置と切削ブレード28の外径サイズとから切削終了点Pc1の座標位置を検出する。そして、切削開始点Pb1の座標位置と切削終了点Pc1の座標位置とから距離L1を求める。
【0053】
なお、本実施形態のように、スピンドルの負荷電流値を基に切削開始点Pb1と切削終了点Pc1を求める形態の加工検出手段を構成することとするほか、周知のAEセンサ(アコースティックエミッションセンサ)を用い、切削加工時に生じる切削音を基に切削開始点Pb1と切削終了点Pc1を求める加工検出手段を構成することや、周知の渦電流式センサを切削ブレード28に近接させ、測定される電圧値の変化を基に切削開始点Pb1と切削終了点Pc1を求める加工検出手段を構成することとしてもよい。
【0054】
次いで、コントローラは、図11に示すように、距離L1とウェーハWの外形サイズ(例えばウェーハの半径Rや所定ピッチL2など)に基づいて、次に形成する溝M2の切削開始点Pb2と切削終了点Pc2の座標位置を算出する。
【0055】
例えば、具体的には、距離L1は、最初に切削加工がなされる分割予定ラインの位置に対応する溝M1の長さに対応するものであるため、距離L1を呈する分割予定ラインを設定し得る半径Rの仮想円C1を設定するとともに、溝M1から所定ピッチL2だけY軸移動した位置における分割予定ラインC2を設定し、それぞれ、仮想円C1と分割予定ラインC2の交点の一端E1側のX軸方向の座標位置を切削開始点Pb2、他端E2側のX軸方向の座標位置を切削終了点Pc2とすることができる。
【0056】
次いで、座標位置算出ステップを実施した後、図11に示すように、座標位置算出ステップで算出した切削開始点Pb1に基づいて繰り返しステップでの切削開始点Pb2に対応する加工開始位置Pa2を設定する加工開始位置設定ステップが実施される。加工開始位置Pa2は、任意に設定される余裕幅Y2により規定することができ、例えば、予め、コントローラに500μmを余裕幅Y2として設定しておくことで、切削開始点Pb2から500μmだけウェーハWの外側に離れた位置が加工開始位置Pa2として規定されることになる。
【0057】
次いで、座標位置算出ステップを実施した後、図11に示すように、座標位置算出ステップで算出した切削終了点Pc1に基づいて繰り返しステップでの切削終了点Pc2に対応する加工終了位置PcMを設定する加工終了位置設定ステップが実施される。本実施形態では、座標位置算出ステップにて求められた切削終了点Pc2の座標位置がそのまま加工終了位置PcMとして使用される。
【0058】
このほか、例えば、切削終了点Pc2から100μmだけウェーハWの外側に離れた位置を加工終了位置PcNとして規定し、この加工終了位置PcNに対応する座標位置まで切削ブレード28を切削送りすることで、切削ブレード28をウェーハWから確実に切り抜けさせる設定としてもよい。
【0059】
そして、繰り返しステップでは、加工開始位置設定ステップで設定した加工開始位置Pa2に切削ブレード28を退避位置H1から所定高さ位置H2へと下降させ切削送りを開始し、加工終了位置設定ステップで設定した加工終了位置PcMで切削送りを終了させて繰り返しステップを実施する。
【0060】
以上に説明した切削方法によれば、各ウェーハWに対する初回の溝加工(切削加工)がされた際に、切削ブレード28がウェーハWの一端E1に切り込む切削開始点Pb1と切削ブレード28がウェーハWの他端E2から切り抜けた切削終了点Pc1とが加工検出手段で検出される。次いで、検出した切削開始点Pb1と切削終了点Pc1とにおける座標位置と、ウェーハWの外形サイズとから、切削ブレード28が次に形成する溝についての切削開始点Pb2が算出され、さらに、切削開始点Pb2から余裕幅Y2を持たせた加工開始位置Pa2が算出される。
【0061】
そして、切削開始点Pb1が検出された初回の溝加工以降の溝加工においては、加工開始位置Pa2が切削開始点Pb2に基づいて設定されるため、余裕幅Y2を最小に設定することができ、切削時間を最小として生産性を向上させるとともに被加工物上面に切削ブレードが衝突することで生じる切削ブレードや被加工物の破損を防止できる。
【0062】
例えば、一つの具体的な実施形態を用いて説明すると、図11に示すように、切削開始点Pb1を検出するための初回の溝加工では、余裕幅Y1を4000μmとしておく。ただし、この余裕幅Y1は設計上の数値であって、載置位置ズレ、貼り付け誤差、搬送ばらつきなどによって実測値は変動するものである。このため、切削ブレードの破損などの不具合発生防止のために、余裕幅Y1が長く設定される。
【0063】
そして、上述のステップを実施することで、実際に形成された溝M1の切削開始点Pb1の座標位置が求められ、この切削開始点Pb1に基づいて次に形成される溝M2の切削開始点Pb2の座標位置が求められる。そして、余裕幅Y2を500μmとすれば、溝M2を加工する際に無駄な余裕幅を設定する必要がなくなり、加工時間を短縮できることになる。
【符号の説明】
【0064】
2 切削装置
19 チャックテーブル
28 切削ブレード
C1 仮想円
C2 分割予定ライン
D 半導体パッケージ
F 環状フレーム
H1 退避位置
H2 位置
K 隙間空間
L1 距離
L2 所定ピッチ
M1 溝
M2 溝
Pa1 加工開始位置
Pa2 加工開始位置
Pb1 切削開始点
Pb2 切削開始点
Pc1 切削終了点
Pc2 切削終了点
PcM 加工終了位置
Y1 余裕幅
Y2 余裕幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を切削ブレードで切削する切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、円板形状の被加工物である半導体ウェーハをスピンドルの先端に装着された切削ブレードで切削し複数の溝を形成する切削方法は知られている(例えば、特許文献1参照)。また、保持テーブルに半導体ウェーハを直接保持する形態のほか、被加工物を粘着テープを介して環状フレームに固定して被加工物ユニットを構成し、被加工物ユニットを保持テーブルにて保持する形態も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
以上のような切削方法は、ダイサーと呼ばれる切削装置を用いて行われるものであり、マニュアルにて被加工物を保持テーブルにセットして切削加工がなされるマニュアルダイサーや、被加工物の保持テーブルへのセットも含め、ほとんどの操作が自動制御にてなされるフルオートダイサーが知られている。
【0004】
切削ブレードは、保持テーブルの上方となる位置である退避位置と、保持テーブル上にセットされた被加工物に対して切削加工を行う加工高さ位置の間において、上下方向に移動するように構成されており、切削加工がなされる際には、切削ブレードが退避位置から加工高さ位置へと下降される。
【0005】
以上のような切削加工がなされる際には、被加工物の中心と保持テーブルの中心が完全に一致した状態で切削加工がなされることが好ましい。しかしながら、マニュアルダイサーが使用される場合では、マニュアルにて被加工物を保持テーブルにセットする際に、被加工物の中心と保持テーブルの中心を完全に一致させることは困難であり、載置位置ズレが生じる可能性が存在する。
【0006】
一方、フルオートダイサーでは環状フレームを基準として被加工物ユニットの位置決めがなされた上で保持テーブル上に搬送されるため、環状フレームの中心と被加工物の中心とがずれている場合(貼り付け誤差がある場合)には、保持テーブル上に搬送された被加工物の中心と保持テーブルの中心とにはズレが生じることが考えられる。また、保持テーブル上への搬送も自動で行われるため、各回の搬送において搬送誤差(搬送ばらつき)が生じることが考えられる。
【0007】
そして、被加工物の中心と保持テーブルの中心にズレが生じていると、被加工物を切削するために切削ブレードを加工高さ位置へと下降させた際に、被加工物の上面に切削ブレードが衝突するおそれがあり、この衝突によって切削ブレードや被加工物が破損するなどの不具合が発生するおそれがある。
【0008】
そこで、載置位置ズレ、貼り付け誤差、搬送ばらつきなどを考慮した上で、切削加工時には被加工物の少なくとも一端側(切削ブレードの切り込み側)に所定の余裕幅を設定し、被加工物の外側から切削ブレードが被加工物に切り込むようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−335593号公報
【特許文献2】特開2011−192863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の不具合の発生に鑑みて余裕幅を長く設定すると、切削により多くの時間を要することになるため、生産性が悪くなってしまうという問題があった。
【0011】
そこで、本発明では、被加工物毎に適切な余裕幅が設定でき、被加工物上面に切削ブレードが衝突することで生じる切削ブレードや被加工物の破損を防止できる切削方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、円板形状の被加工物をスピンドルの先端に装着された切削ブレードで切削し複数の溝を形成する切削方法であって、被加工物を保持テーブルで保持する保持ステップと、保持ステップを実施した後、被加工物外周縁から所定距離外側に離れた加工開始位置において、被加工物の上面より上方の退避位置から被加工物に切り込む所定高さ位置へと切削ブレードを下降させる切削ブレード下降ステップと、切削ブレード下降ステップに続いて保持テーブルと切削ブレードとを切削送り方向に相対移動させることでスピンドルで回転された切削ブレードを被加工物の一端に切り込ませ、切削ブレードで被加工物の一端から他端まで切削するとともに切削ブレードを他端から切り抜けさせる切削ステップと、切削ステップを実施した後、被加工物の他端から切り抜けた切削ブレードを退避位置へと上昇させる切削ブレード上昇ステップと、切削ステップを実施した後、切削ブレードと保持テーブルとを加工送り方向に直交する割り出し送り方向に所定ピッチ分相対移動させる割り出し送りステップと、割り出し送りステップを実施した後、少なくとも切削ブレード下降ステップと切削ステップとを繰り返す繰り返しステップと、を含み、切削ステップを実施する際に、切削ブレードが被加工物の一端に切り込んだ切削開始点と切削ブレードが被加工物の他端から切り抜けた切削終了点との距離を検出し、検出した距離と、被加工物の外形サイズとから次に形成する溝の切削開始点と切削終了点の座標位置を算出する座標位置算出ステップと、座標位置算出ステップを実施した後、座標位置算出ステップで算出した切削開始点に基づいて繰り返しステップでの切削開始点に対応する加工開始位置を設定する加工開始位置設定ステップと、座標位置算出ステップを実施した後、座標位置算出ステップで算出した切削終了点に基づいて繰り返しステップでの切削終了点に対応する加工終了位置を設定する加工終了位置設定ステップと、を備え、繰り返しステップでは、加工開始位置設定ステップで設定した加工開始位置に切削ブレードを退避位置から所定高さ位置へと下降させ切削送りを開始し切削終了点で切削送りを終了させて繰り返しステップを実施する、ことを特徴とする切削方法が提供される。
【0013】
好ましくは、切り込み座標位置算出ステップでは、スピンドルの負荷電流値の変化により切削開始点と切削終了点とを検出する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の切削方法によれば、各被加工物に対する初回の溝加工(切削加工)がされた際に、切削ブレードが被加工物の一端に切り込む切削開始点と切削ブレードが被加工物の他端から切り抜けた切削終了点とが加工検出手段で検出される。次いで、検出した切削開始点と切削終了点とにおける座標位置と、被加工物の外形サイズとから切削ブレードが、次に形成する溝についての切削開始点が算出され、さらに、切削開始点から余裕幅を持たせた加工開始位置が算出される。
【0015】
そして、切削開始点が検出された初回の溝加工以降の溝加工においては、加工開始位置が切削開始点に基づいて設定されるため、余裕幅を最小に設定することができ、切削時間を最小として生産性が向上されるとともに、被加工物上面に切削ブレードが衝突することで生じる切削ブレードや被加工物の破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】切削装置の斜視図である。
【図2】被加工物ユニットの斜視図である。
【図3】保持ステップの概要について示す側面図である。
【図4】切削ブレード下降ステップの概要について示す側面図である。
【図5】切削ステップの概要について示す側面図である。
【図6】切削ブレード上昇ステップの概要について示す側面図である。
【図7】割り出し送りステップ、及び、戻しステップの概要について示す平面図である。
【図8】割り出し送りステップと戻しステップを同時に行う場合の概要について示す平面図である。
【図9】初回の溝加工がなされる際の概要について説明する図である。
【図10】負荷電流値の変動について説明する図である。
【図11】切削開始点、加工開始位置、余裕幅などについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態としての切削装置2の外観斜視図を示している。
【0018】
切削装置2の前面側には、オペレータが加工条件等の装置に対する指示を入力するための操作パネル4が設けられている。装置上部には、オペレータに対する案内画面や後述する撮像ユニットによって撮像された画像が表示されるCRT等の表示ユニット6が設けられている。
【0019】
図2は、被加工物となるウェーハWについて示すものであり、ウェーハWは粘着テープT(ダイシングテープ)に貼着され、粘着テープTの外周縁部が環状フレームFに貼着されて被加工物ユニットUが形成される。被加工物ユニットUでは、ウェーハWは粘着テープTを介して環状フレームFに支持された状態となり、図1に示したカセット8中に被加工物ユニットUが複数枚(例えば25枚)収容される。カセット8は上下動可能なカセット載置部9(カセットエレベータ)上に載置される。
【0020】
図2に示されるように、ウェーハWの表面には、第1の分割予定ラインS1と第2の分割予定ラインS2とが直交して形成されており、第1の分割予定ラインS1と第2の分割予定ラインS2によって区画された各領域に半導体パッケージDが形成されている。
【0021】
図1において、カセット8の後方には、カセット8から切削前のウェーハW(被加工物ユニットU)を搬出するとともに、切削後のウェーハWをカセット8に搬入する搬出入ユニット10が配設されている。
【0022】
搬出入ユニット10はクランプ11を有しており、クランプ11が被加工物ユニットUの環状フレームFを把持して、カセット8に対して被加工物ユニットUを搬出及び搬入する。搬出入ユニット10はY軸方向に直線移動される。
【0023】
カセット8と搬出入ユニット10との間には、搬出入対象の被加工物ユニットUが一時的に載置される領域である仮置きテーブル12が設けられており、仮置きテーブル12には、被加工物ユニットUの環状フレームFをセンタリングする一対のガイドレール14が配設されている。
【0024】
仮置きテーブル12の近傍には、被加工物ユニットUを吸着して搬送する旋回アームを有する搬送ユニット16が配設されており、仮置きテーブル12に搬出された被加工物ユニットUは、搬送ユニット16により吸着されてチャックテーブル19上に搬送され、このチャックテーブル19に吸引保持されるとともに、複数のフレームクランプ21により環状フレームFがクランプされて固定される。
【0025】
チャックテーブル19は、回転可能且つX軸方向に往復動可能に構成されており、チャックテーブル19のX軸方向の移動経路の上方には、ウェーハWの切削すべきストリートを検出するアライメントユニット20が配設されている。
【0026】
アライメントユニット20は、ウェーハWの表面を撮像する撮像素子及び顕微鏡を有する撮像ユニット22を備えており、撮像により取得した画像に基づき、コントローラによるパターンマッチング等の画像処理によって切削すべきストリートを検出することができる。撮像ユニット22によって取得された画像は、表示ユニット6に表示される。
【0027】
アライメントユニット20の左側には、チャックテーブル19に保持されたウェーハWに対して切削加工を施す切削ユニット24が配設されている。切削ユニット24はアライメントユニット20と一体的に構成されており、両者が連動してY軸方向及びZ軸方向に移動する。
【0028】
切削ユニット24は、回転可能なスピンドル26の先端に切削ブレード28が装着されて構成され、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能となっている。切削ブレード28は撮像ユニット22のX軸方向の延長線上に位置している。
【0029】
25は切削加工の終了した被加工物ユニットUを吸着してスピンナ洗浄ユニット27まで搬送する搬送ユニットであり、スピンナ洗浄ユニット27では被加工物ユニットUがスピン洗浄及びスピン乾燥される。
【0030】
スピン洗浄及びスピン乾燥された後の被加工物ユニットUは、搬送ユニット16により吸着されて再び仮置きテーブル12へと移動され、搬出入ユニット10にてカセット8へと移動される。
【0031】
次に、以上のような切削装置2を用いて行なわれる本発明の特徴的な切削方法について説明する。この切削方法は、円板形状の被加工物であるウェーハWをスピンドル26の先端に装着された切削ブレード28で切削し複数の溝を形成する切削方法であり、以下のステップにて実施される。
【0032】
まず、図3に示すように、被加工物であるウェーハWを保持テーブルであるチャックテーブル19で保持する保持ステップが実施される。これにより、フレームクランプ21により被加工物ユニットUの環状フレームFがクランプされるとともに、ウェーハWがチャックテーブル19の上面に対して吸引保持される状態となる。
【0033】
なお、被加工物としては、本実施形態のウェーハW(図2参照)の他、ガラス板やセラミック板である場合もある。また、分割予定ラインS1,S2(図2参照)が形成されているものの他、被加工物上には分割予定ラインが形成されていない場合もある。また、本実施例では、保持ステップの前に、ウェーハWを粘着テープT(ダイシングテープ)を介して環状フレームFに固定するステップが実施されることで被加工物ユニットUが構成されることとしているが、被加工物であるウェーハWを保持テーブルであるチャックテーブル19に直置きして保持、及び、加工させることとしてもよい。
【0034】
保持ステップを実施した後、図4に示すように、ウェーハWの外周縁から所定距離(余裕幅Y1)外側に離れた加工開始位置Pa1において、ウェーハWの上面Waより上方の退避位置H1からウェーハWに切り込む所定高さ位置H2へと切削ブレード28を下降させる切削ブレード下降ステップが実施される。
【0035】
この切削ブレード下降ステップにおける所定距離は、切削ブレード28を所定高さ位置H2に下降させた際に、切削ブレード28とウェーハWが接触することによる切削ブレード28やウェーハWの破損を防ぐために、余裕幅Y1として十分な値に設定される。
【0036】
切削ブレード下降ステップに続いて、図5に示すように、チャックテーブル19と切削ブレード28とを切削送り方向(X軸方向)に相対移動させることでスピンドル26で回転された切削ブレード28をウェーハWの一端に切り込ませ、切削ブレード28でウェーハWの一端E1から他端E2まで切削するとともに切削ブレード28を他端E2から切り抜けさせる切削ステップが実施される。
【0037】
切削ステップを実施した後、図6に示すように、ウェーハWの他端E2から切り抜けた切削ブレード28を退避位置H1へと上昇させる切削ブレード上昇ステップを実施する。
【0038】
これにより、切削ブレード28がウェーハWの上方へと移動され、ウェーハW及びチャックテーブル19と、切削ブレード28の間に隙間空間Kが形成される。
【0039】
切削ステップを実施した後、切削ブレード上昇ステップの実施に次いで、図7に示すように、切削ブレード28とチャックテーブル19とを加工送り方向(X軸方向)に直交する割り出し送り方向(Y軸方向)に所定ピッチ分相対移動させる割り出し送りステップを実施する。
【0040】
これにより、切削ブレード28が次に切削加工が施されるべき分割予定ラインに対し、Y軸方向における位置合わせがなされる。なお、ここでいう「所定ピッチ」とは、隣り合う分割予定ライン同士の間隔である。
【0041】
この割り出し送りステップにおいては、図6に示すように、予め切削ブレード上昇ステップにより隙間空間Kが形成されているため、切削ブレード28がウェーハWに接触してしまうことがない。
【0042】
なお、切削ステップでは、分割予定ラインにおいてウェーハWの厚み方向の全てを切断する溝加工であるフルカットや、ウェーハWの厚み方向中途部まで溝加工を施すハーフカットがなされることが想定される。このハーフカットがなされる場合には、切削ステップ後、切削ブレード上昇ステップを実施する前に割り出し送りステップが実施されることとしてもよい。切削ブレード上昇ステップを実施せずに割り出し送りステップを実施しても、切削ブレード28がウェーハWに接触することがないためである。また、切削ブレード上昇ステップと割り出し送りステップが同時に実施されることとしてもよい。
【0043】
割り出し送りステップと切削ブレード上昇ステップを実施した後、図7に示すように、チャックテーブル19と切削ブレード28とを切削送り方向(X軸方向)に相対移動させることで、切削ブレード28をウェーハWの一端E1側へと戻す戻しステップが実施される。これにより、切削ブレード28がウェーハWの一端E1側、即ち、切削加工開始側へと位置づけられる。
【0044】
また、この戻しステップは、図7に示すように、割り出し送りステップが実施された後に行なわれる、つまりは、Y軸方向に切削ブレード28を移動させた後に、チャックテーブル19と切削ブレード28の切削送り方向(X軸方向)の相対移動がなされることとするほか、図8に示すように、割り出し送りステップと戻しステップを同時に実施することで、切削ブレード28がチャックテーブル19に対し平面視において斜め方向に相対移動されることとしてもよい。また、割り出し送りステップを実施する前に戻しステップを実施してもよい。
【0045】
割り出し送りステップを実施した後、少なくとも上述した切削ブレード下降ステップ(図4)と切削ステップ(図5)とを繰り返す繰り返しステップとが実施される。これにより、図9に示すように、既に切削加工された溝M1の隣にあって、次に切削加工がなされるべき分割予定ラインに対し切削加工がなされ、この切削加工により溝M2が形成される。
【0046】
そして、図9に示すように、切削ステップを実施する際には、切削ブレード28がウェーハWの一端E1に切り込んだ切削開始点Pb1と切削ブレード28がウェーハWの他端E2から切り抜けた切削終了点Pc1との距離L1を検出し、検出した距離L1と、ウェーハWの外形サイズとから次に形成する溝M2の切削開始点Pb2と切削終了点Pc2の座標位置を算出する座標位置算出ステップが実施される。
【0047】
より詳しくは、まず、切削ブレード28がウェーハWの一端E1に切り込んだ切削開始点Pb1が検出される。この切削開始点Pb1は、切削ブレード28がウェーハWの一端E1側に接触した位置を特定するための位置情報であり、図9に示すX軸方向の座標位置にて定義される。
【0048】
同様に、切削ブレード28がウェーハWの他端E2から切り抜けた切削終了点Pc1が検出される。この切削終了点Pc1は、切削ブレード28がウェーハWの他端E2側から離れる位置を特定するための位置情報であり、図9に示すX軸方向の座標位置にて定義される。
【0049】
切削開始点Pb1と切削終了点Pc1の座標位置の検出は、例えば、図10に示すように、スピンドル26の負荷電流値Aの変化に基づいて検出することができる。具体的には、図示せぬコントローラにてスピンドル26の負荷電流値A(スピンドル26を駆動するモータの電流値)をモニターし、負荷が急激に増加した時間に切削が開始されたとして、当該時間を切削開始点Pb1への到達時間T1とし、同様に、負荷が急激に減少した時間に切削が終了したとして、当該時間を切削終了点Pc1への到達時間T2とする。
【0050】
そして、コントローラは、到達時間T1から到達時間T2までの所要時間T3を求めるとともに、所要時間T3に切削送り速度、即ち、切削ブレード28とチャックテーブル19の相対移動速度を乗ずることによって距離L1を求める。
【0051】
なお、上記の例により距離L1を求めるほか、以下の例としてもよい。即ち、スピンドル26の負荷電流値Aが急激に増加した時点(到達時間T1)を検出するとともに、この時(到達時間T1)のダイサー内の座標系におけるチャックテーブル19の座標位置とスピンドル26の座標位置と切削ブレード28の外径サイズとから切削開始点Pb1の座標位置を検出する。
【0052】
同様に到達時間T2を検出するとともにこの時(到達時間T2)のダイサー内の座標系におけるチャックテーブル19の座標位置とスピンドル26の座標位置と切削ブレード28の外径サイズとから切削終了点Pc1の座標位置を検出する。そして、切削開始点Pb1の座標位置と切削終了点Pc1の座標位置とから距離L1を求める。
【0053】
なお、本実施形態のように、スピンドルの負荷電流値を基に切削開始点Pb1と切削終了点Pc1を求める形態の加工検出手段を構成することとするほか、周知のAEセンサ(アコースティックエミッションセンサ)を用い、切削加工時に生じる切削音を基に切削開始点Pb1と切削終了点Pc1を求める加工検出手段を構成することや、周知の渦電流式センサを切削ブレード28に近接させ、測定される電圧値の変化を基に切削開始点Pb1と切削終了点Pc1を求める加工検出手段を構成することとしてもよい。
【0054】
次いで、コントローラは、図11に示すように、距離L1とウェーハWの外形サイズ(例えばウェーハの半径Rや所定ピッチL2など)に基づいて、次に形成する溝M2の切削開始点Pb2と切削終了点Pc2の座標位置を算出する。
【0055】
例えば、具体的には、距離L1は、最初に切削加工がなされる分割予定ラインの位置に対応する溝M1の長さに対応するものであるため、距離L1を呈する分割予定ラインを設定し得る半径Rの仮想円C1を設定するとともに、溝M1から所定ピッチL2だけY軸移動した位置における分割予定ラインC2を設定し、それぞれ、仮想円C1と分割予定ラインC2の交点の一端E1側のX軸方向の座標位置を切削開始点Pb2、他端E2側のX軸方向の座標位置を切削終了点Pc2とすることができる。
【0056】
次いで、座標位置算出ステップを実施した後、図11に示すように、座標位置算出ステップで算出した切削開始点Pb1に基づいて繰り返しステップでの切削開始点Pb2に対応する加工開始位置Pa2を設定する加工開始位置設定ステップが実施される。加工開始位置Pa2は、任意に設定される余裕幅Y2により規定することができ、例えば、予め、コントローラに500μmを余裕幅Y2として設定しておくことで、切削開始点Pb2から500μmだけウェーハWの外側に離れた位置が加工開始位置Pa2として規定されることになる。
【0057】
次いで、座標位置算出ステップを実施した後、図11に示すように、座標位置算出ステップで算出した切削終了点Pc1に基づいて繰り返しステップでの切削終了点Pc2に対応する加工終了位置PcMを設定する加工終了位置設定ステップが実施される。本実施形態では、座標位置算出ステップにて求められた切削終了点Pc2の座標位置がそのまま加工終了位置PcMとして使用される。
【0058】
このほか、例えば、切削終了点Pc2から100μmだけウェーハWの外側に離れた位置を加工終了位置PcNとして規定し、この加工終了位置PcNに対応する座標位置まで切削ブレード28を切削送りすることで、切削ブレード28をウェーハWから確実に切り抜けさせる設定としてもよい。
【0059】
そして、繰り返しステップでは、加工開始位置設定ステップで設定した加工開始位置Pa2に切削ブレード28を退避位置H1から所定高さ位置H2へと下降させ切削送りを開始し、加工終了位置設定ステップで設定した加工終了位置PcMで切削送りを終了させて繰り返しステップを実施する。
【0060】
以上に説明した切削方法によれば、各ウェーハWに対する初回の溝加工(切削加工)がされた際に、切削ブレード28がウェーハWの一端E1に切り込む切削開始点Pb1と切削ブレード28がウェーハWの他端E2から切り抜けた切削終了点Pc1とが加工検出手段で検出される。次いで、検出した切削開始点Pb1と切削終了点Pc1とにおける座標位置と、ウェーハWの外形サイズとから、切削ブレード28が次に形成する溝についての切削開始点Pb2が算出され、さらに、切削開始点Pb2から余裕幅Y2を持たせた加工開始位置Pa2が算出される。
【0061】
そして、切削開始点Pb1が検出された初回の溝加工以降の溝加工においては、加工開始位置Pa2が切削開始点Pb2に基づいて設定されるため、余裕幅Y2を最小に設定することができ、切削時間を最小として生産性を向上させるとともに被加工物上面に切削ブレードが衝突することで生じる切削ブレードや被加工物の破損を防止できる。
【0062】
例えば、一つの具体的な実施形態を用いて説明すると、図11に示すように、切削開始点Pb1を検出するための初回の溝加工では、余裕幅Y1を4000μmとしておく。ただし、この余裕幅Y1は設計上の数値であって、載置位置ズレ、貼り付け誤差、搬送ばらつきなどによって実測値は変動するものである。このため、切削ブレードの破損などの不具合発生防止のために、余裕幅Y1が長く設定される。
【0063】
そして、上述のステップを実施することで、実際に形成された溝M1の切削開始点Pb1の座標位置が求められ、この切削開始点Pb1に基づいて次に形成される溝M2の切削開始点Pb2の座標位置が求められる。そして、余裕幅Y2を500μmとすれば、溝M2を加工する際に無駄な余裕幅を設定する必要がなくなり、加工時間を短縮できることになる。
【符号の説明】
【0064】
2 切削装置
19 チャックテーブル
28 切削ブレード
C1 仮想円
C2 分割予定ライン
D 半導体パッケージ
F 環状フレーム
H1 退避位置
H2 位置
K 隙間空間
L1 距離
L2 所定ピッチ
M1 溝
M2 溝
Pa1 加工開始位置
Pa2 加工開始位置
Pb1 切削開始点
Pb2 切削開始点
Pc1 切削終了点
Pc2 切削終了点
PcM 加工終了位置
Y1 余裕幅
Y2 余裕幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板形状の被加工物をスピンドルの先端に装着された切削ブレードで切削し複数の溝を形成する切削方法であって、
被加工物を保持テーブルで保持する保持ステップと、
該保持ステップを実施した後、被加工物外周縁から所定距離外側に離れた加工開始位置において、被加工物の上面より上方の退避位置から被加工物に切り込む所定高さ位置へと切削ブレードを下降させる切削ブレード下降ステップと、
該切削ブレード下降ステップに続いて該保持テーブルと該切削ブレードとを切削送り方向に相対移動させることで該スピンドルで回転された該切削ブレードを被加工物の一端に切り込ませ、該切削ブレードで被加工物の一端から他端まで切削するとともに該切削ブレードを該他端から切り抜けさせる切削ステップと、
該切削ステップを実施した後、被加工物の該他端から切り抜けた該切削ブレードを該退避位置へと上昇させる切削ブレード上昇ステップと、
該切削ステップを実施した後、該切削ブレードと該保持テーブルとを該加工送り方向に直交する割り出し送り方向に所定ピッチ分相対移動させる割り出し送りステップと、
該割り出し送りステップを実施した後、少なくとも該切削ブレード下降ステップと該切削ステップとを繰り返す繰り返しステップと、を含み、
該切削ステップを実施する際に、該切削ブレードが被加工物の該一端に切り込んだ切削開始点と該切削ブレードが被加工物の該他端から切り抜けた切削終了点との距離を検出し、検出した該距離と、被加工物の外形サイズとから次に形成する溝の切削開始点と切削終了点の座標位置を算出する座標位置算出ステップと、
該座標位置算出ステップを実施した後、該座標位置算出ステップで算出した該切削開始点に基づいて該繰り返しステップでの切削開始点に対応する加工開始位置を設定する加工開始位置設定ステップと、
該繰り返しステップでは、
該加工開始位置設定ステップで設定した該加工開始位置に切削ブレードを該退避位置から該所定高さ位置へと下降させ切削送りを開始し該切削終了点で切削送りを終了させて該繰り返しステップを実施する、
ことを特徴とする切削方法。
【請求項2】
前記切り込み座標位置算出ステップでは、
前記スピンドルの負荷電流値の変化により前記切削開始点と前記切削終了点とを検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削方法。
【請求項1】
円板形状の被加工物をスピンドルの先端に装着された切削ブレードで切削し複数の溝を形成する切削方法であって、
被加工物を保持テーブルで保持する保持ステップと、
該保持ステップを実施した後、被加工物外周縁から所定距離外側に離れた加工開始位置において、被加工物の上面より上方の退避位置から被加工物に切り込む所定高さ位置へと切削ブレードを下降させる切削ブレード下降ステップと、
該切削ブレード下降ステップに続いて該保持テーブルと該切削ブレードとを切削送り方向に相対移動させることで該スピンドルで回転された該切削ブレードを被加工物の一端に切り込ませ、該切削ブレードで被加工物の一端から他端まで切削するとともに該切削ブレードを該他端から切り抜けさせる切削ステップと、
該切削ステップを実施した後、被加工物の該他端から切り抜けた該切削ブレードを該退避位置へと上昇させる切削ブレード上昇ステップと、
該切削ステップを実施した後、該切削ブレードと該保持テーブルとを該加工送り方向に直交する割り出し送り方向に所定ピッチ分相対移動させる割り出し送りステップと、
該割り出し送りステップを実施した後、少なくとも該切削ブレード下降ステップと該切削ステップとを繰り返す繰り返しステップと、を含み、
該切削ステップを実施する際に、該切削ブレードが被加工物の該一端に切り込んだ切削開始点と該切削ブレードが被加工物の該他端から切り抜けた切削終了点との距離を検出し、検出した該距離と、被加工物の外形サイズとから次に形成する溝の切削開始点と切削終了点の座標位置を算出する座標位置算出ステップと、
該座標位置算出ステップを実施した後、該座標位置算出ステップで算出した該切削開始点に基づいて該繰り返しステップでの切削開始点に対応する加工開始位置を設定する加工開始位置設定ステップと、
該繰り返しステップでは、
該加工開始位置設定ステップで設定した該加工開始位置に切削ブレードを該退避位置から該所定高さ位置へと下降させ切削送りを開始し該切削終了点で切削送りを終了させて該繰り返しステップを実施する、
ことを特徴とする切削方法。
【請求項2】
前記切り込み座標位置算出ステップでは、
前記スピンドルの負荷電流値の変化により前記切削開始点と前記切削終了点とを検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の切削方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−110141(P2013−110141A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251416(P2011−251416)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
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