説明

切削装置

【課題】アイドリング動作によるスピンドル又は切削ブレード駆動源等の温度変化に起因する寸法変化が許容できる状態で切削加工動作を開始できる切削装置を提供すること。
【解決手段】切削装置1の制御手段6は、判断部6PBが第一の座標記憶部6MAに記憶された第一の位置座標と第二の座標記憶部6MBに記憶された第二の位置座標との誤差が許容値以内に収まっていると判断した場合には、被加工物の切削加工動作を開始し、判断部6PBが第一の座標記憶部6MAに記憶された第一の位置座標と第二の座標記憶部6MBに記憶された第二の位置座標との誤差が許容値以内に収まっていないと判断した場合には、アイドリング動作を繰り返すように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工動作を開始する時にアイドリング運転を行う切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
切削装置は、半導体ウエーハ等の被加工物を保持するチャックテーブルと、チャックテーブルに保持された被加工物を切削する切削ブレードを回転可能に支持するとともに切削水を供給する切削手段とを少なくとも備えていて、幅数十μm程の極めて狭い分割予定ラインを高精度に切削することができる。しかし、長時間(例えば十数時間)稼動を停止した後に切削装置を再稼動すると、切削手段を構成するスピンドル及びスピンドルを介して切削ブレードを回転させるモータ(切削ブレード駆動源)等の発熱により、スピンドルが割り出し方向に伸びるとともに、供給される切削水の冷却効果と相まってスピンドルの伸びが停止することから、切削加工においては数μm程度の割り出し送り方向の誤差が生じるおそれがある。このため、切削水供給ノズルを有する切削装置において、切削に先立ち所定時間スピンドルを回転させてアイドリング運転を行う技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−114949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アイドリング動作を十分に行ったつもりで製品を加工しても、実際に製品を加工するまでは、温度変化によるスピンドル又は切削ブレード駆動源等の伸縮が分かりにくいという問題がある。
【0005】
本発明は、アイドリング動作によるスピンドル又は切削ブレード駆動源等の温度変化に起因する寸法変化が許容できる状態で切削加工動作を開始できる切削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表面に特徴領域が形成された被加工物を上面に保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に切削液を供給しながら加工を行う切削手段と、該チャックテーブルに対して該切削手段を割り出し送りする割り出し送り手段と、該チャックテーブルを該割り出し送り方向に直交する切削送り方向に移動するよう切削送りする切削送り手段と、該切削手段を昇降させて所定位置に切り込み送りする切り込み送り手段と、該切削手段の近傍に配設され該チャックテーブルに保持された該被加工物の特徴領域を撮像する撮像手段と、チャックテーブルと割り出し送り手段と切削送り手段とを制御する制御手段と、を備えた切削装置であって、該制御手段は、該被加工物の特徴領域を該撮像手段により撮像し撮像された画像情報に基づいて検出された該特徴領域の位置座標を第一の位置座標として記憶する第一の座標記憶部と、アイドリング動作遂行後の該被加工物の特徴領域を該撮像手段により撮像し撮像された画像情報に基づいて検出された該特徴領域の位置座標を第二の位置座標として記憶する第二の座標記憶部と、該第一の位置座標と該第二の位置座標との誤差が許容値以内に収まっているか否かを判断する判断部とを備え、該判断部が該第一の座標記憶部に記憶された該第一の位置座標と該第二の座標記憶部に記憶された該第二の位置座標との誤差が許容値以内に収まっていると判断した場合には、該制御手段は被加工物の切削加工動作を開始し、該判断部が該第一の座標記憶部に記憶された該第一の位置座標と該第二の座標記憶部に記憶された該第二の位置座標との誤差が許容値以内に収まっていないと判断した場合には、該制御手段はアイドリング動作を繰り返すように制御することを特徴とする切削装置である。
【0007】
本発明において、該アイドリング動作は、該切り込み手段により該切削手段が該被加工物に切り込まない位置に上昇した状態で、切削液を供給しながら該被加工物の切削加工動作を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、アイドリング動作によるスピンドル又は切削ブレード駆動源等の温度変化に起因する寸法変化が許容できる状態で切削加工動作を開始できる切削装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本実施形態に係る切削の構成例を示す図である。
【図2】図2は、被加工物を載置したトレイを示す斜視図である。
【図3】図3は、切削装置のアイドリング動作時における制御の手順を示すフローチャートである。
【図4】図4は、アイドリング動作の一例を示す図である。
【図5】図5は、誤差を説明するための図である。
【図6】図6は、誤差を説明するための図である。
【図7】図7は、アイドリング動作の前後における特徴領域の位置座標の誤差を求める手法の他の例を示す図である。
【図8】図8は、アイドリング動作の前後における特徴領域の位置座標の誤差を求める手法の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0011】
図1は、本実施形態に係る切削の構成例を示す図である。図2は、被加工物を載置したトレイを示す斜視図である。本実施形態に係る切削装置1は、切削ブレード21を有する切削手段20と被加工物Wを保持したチャックテーブル10とを相対移動させることで、被加工物Wを切削加工するものである。図1に示すように、切削装置1は、1スピンドルのダイサであるが、2個のスピンドルを有するダイサ、いわゆるツインダイサであってもよい。切削装置1は、チャックテーブル10と、切削手段20と、Y軸移動手段50と、X軸移動手段40と、Z軸移動手段60と、θ軸回転手段70と、撮像手段30と、制御手段6とを含んでいる。次に、切削装置1が有するそれぞれの構成要素について説明する。
【0012】
チャックテーブル10は、表面に特徴領域CPが形成された被加工物W(図2参照)を上面に保持する。特徴領域CPは、被加工物Wの表面に形成されている電子回路の一部等である。特徴領域CPは、各デバイスWに1個しかなく、かつ後述する特徴領域CPの抽出に用いられるパターンマッチングに適したパターン(電子回路等のパターン)を有する領域が選択される。チャックテーブル10は、保持部11を有している。保持部11は、水平面である表面に被加工物Wを保持する。本実施形態において、保持部11は、図2に示すトレイ12に被加工物Wをテープ等で貼り付けて載置し、トレイ12をその裏面から吸引することで保持する。保持部11の表面を構成する部分は、ポーラスセラミック等から形成された円盤形状であり、図示しない真空吸引経路を介して図示しない真空吸引源と接続されている。被加工物Wは、切削装置1により加工される加工対象である。切削装置1は、例えば、電子部品又は半導体ウエーハの電子回路の試験に供する試験片を切り出す場合又はFIB(Focused Ion Beam)の前加工等といった微細加工が要求されるときに使用される。被加工物Wとしては、前述した試験片を切り出す前の半導体ウエーハ又はFIBの加工対象等がある。ただし、被加工物Wはこのような試験片を切り出す前の半導体ウエーハに限定されず、例えば、シリコン、サファイア、ガリウム等を母材とするウエーハであってもよい。
【0013】
切削手段20は、チャックテーブル10に保持された被加工物Wに切削液を供給しながら加工を行う。このとき、切削手段20は、撮像手段30によって撮像された、被加工物Wの加工すべき領域を加工する。より具体的には、切削手段20は、撮像手段30が撮像した被加工物Wの加工すべき領域の位置情報に基づき、チャックテーブル10に保持された被加工物Wを切削ブレード21により切断する。切削ブレード21は、略リング形状を有する極薄の切削砥石である。切削ブレード21は、スピンドル22に着脱自在に装着される。スピンドル22は、円筒形状のハウジング23に回転自在に支持されている。また、スピンドル22は、ハウジング23に収納されている、図示しない切削ブレード駆動源としてのモータに連結されている。切削ブレード21は、切削ブレード駆動源により発生した回転力により回転駆動する。切削手段20は、切削ブレード移動基台8に壁部5及び支持部4を介して搭載されている。切削手段20は、切削ブレード21による被加工物Wの加工中に、被加工物Wへ切削液を供給する切削液供給ノズル24を備えている。被加工物Wの加工中には、切削液供給ノズル24から切削液が加工点に供給される。
【0014】
Y軸移動手段50は、チャックテーブル10に対して切削手段20を割り出し送りする割り出し送り手段に相当する。このため、Y軸移動手段50は、図1に示すように、チャックテーブル10に保持された被加工物Wと切削ブレード21とをY軸方向にそれぞれ相対移動させる。Y軸移動手段50は、Y軸パルスモータ51と、Y軸ボールねじ52と、一対のY軸ガイドレール53、53と、Y軸位置検出用スケール54と、Y軸位置検出用センサ55とを含んでいる。Y軸ボールねじ52は、Y軸方向に配設されており、切削ブレード移動基台8の内部に設けられた図示しないナットとそれぞれ螺合しており、一端にY軸パルスモータ51が連結されている。Y軸移動手段50は、Y軸パルスモータ51により発生した回転力によりY軸ボールねじ51を回転駆動させることで、切削ブレード移動基台8を装置本体3に対してY軸方向に移動させる。
【0015】
X軸移動手段40は、チャックテーブル10を割り出し送り方向に直交する切削送り方向に移動するよう切削送りする切削送り手段に相当する。このため、X軸移動手段40は、切削ブレード21に対して保持された被加工物WをX軸方向に相対移動させる。X軸移動手段40は、X軸パルスモータ41と、X軸ボールねじ42と、一対のX軸ガイドレール43、43と、X軸位置検出用スケール44と、X軸位置検出用センサ45とを含んでいる。X軸ボールねじ42は、X軸方向に配設されており、テーブル移動基台2の下部に設けられた図示しないナットと螺合しており、一端にX軸パルスモータ41が連結されている。一対のX軸ガイドレール43、43は、X軸ボールねじ42と平行に配置され、θ軸回転手段70及びチャックテーブル10を搭載したテーブル移動基台2がスライド可能に載置されている。X軸移動手段40は、X軸パルスモータ41により発生した回転力によりX軸ボールねじ42を回転駆動させることで、テーブル移動基台2(チャックテーブル10)を一対のX軸ガイドレールによりガイドしつつ装置本体3に対してX軸方向に移動させる。
【0016】
Z軸移動手段60は、切削手段20を昇降させて所定位置に切り込み送りする切り込み送り手段に相当する。このため、Z軸移動手段60は、チャックテーブル10に保持された被加工物Wに対して切削ブレード21をZ軸方向、すなわちスピンドル22がチャックテーブル10に接近及び離れる方向にそれぞれ相対移動させる。Z軸移動手段60は、切削ブレード移動基台8に設けられており、Z軸ボールねじ61と、Z軸パルスモータ62と、一対のZ軸ガイドレール63とを含んでいる。Z軸ボールねじ61は、壁部5においてZ軸方向に配設されており、支持部4の内部に設けられた図示しないナットとそれぞれ螺合しており、一端にZ軸パルスモータ62が連結されている。一対のZ軸ガイドレール63は、Z軸ボールねじ61と平行に設けられ、支持部4が壁部5に対してスライド可能にそれぞれ載置されている。Z軸移動手段60は、Z軸パルスモータ62により発生した回転力によりZ軸ボールねじ61を回転駆動させることで、支持部4を一対のZ軸ガイドレール63によりガイドしつつ装置本体3に対してZ軸方向にそれぞれ移動させる。
【0017】
θ軸回転手段70は、θ軸回転モータ71と、テーブル72とを含んでいる。テーブル72は、チャックテーブル10を搭載している。テーブル72は、チャックテーブル10の中心軸線を中心に回転できるように、θ軸回転モータ71を介して装置本体3に支持されている。テーブル72は、テーブル移動基台2に搭載されたθ軸回転モータ71と連結されている。θ軸回転モータ71の回転中心軸は、チャックテーブル10の中心軸線と一致している。テーブル72は、θ軸回転手段70により発生した回転力により任意の角度、例えば90度回転又は連続回転することができる。このような構造により、テーブル72は、チャックテーブル10を、その中心軸線を中心に、切削ブレード21に対して任意の角度回転又は連続回転等の回転運動させることができる。
【0018】
撮像手段30は、複数の画素からなり、チャックテーブル10に保持された被加工物Wを撮像し、画像を生成する。より具体的には、撮像手段30は、切削手段20の近傍に配設されチャックテーブル10に保持された被加工物Wの特徴領域CPを撮像する。撮像手段30は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサを用いたカメラ等であるが、これに限定されるものではない。
【0019】
制御手段6は、切削装置1が有する上述した構成要素をそれぞれ制御して、被加工物Wに対する加工動作を切削装置1に行わせるものである。例えば、制御手段6は、チャックテーブル10と割り出し送り手段としてのY軸移動手段50と切削送り手段としてのX軸移動手段40とを制御する。この他にも、制御手段6は、切り込み送り手段としてのZ軸移動手段40及びθ軸回転手段70等の動作を制御する。制御手段6は、例えば、マイクロコンピュータが用いられる。制御手段6は、加工動作の状態を表示する表示手段及びオペレータが加工内容情報等を登録する際に用いる、操作手段7と接続されている。
【0020】
制御手段6は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等を用いた処理部6Pと、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)又はHDD(ハードディスクドライブ)等を用いた記憶部6Mとを有する。処理部6Pは、装置制御部6PAと、切削装置1のアイドリング時の制御を行う判断部6PBと有している。記憶部6Mは、第一の座標記憶部6MAと、第2の座標記憶部6MBとを有している。
【0021】
第一の座標記憶部6MAは、被加工物Wの特徴領域CP(図2参照)を撮像手段30により撮像し、撮像された画像情報に基いて検出された特徴領域CPの位置座標を第一の位置座標P1として記憶する。第二の座標記憶部6MBは、アイドリング動作(切削装置1のアイドリング動作)遂行後の被加工物Wの特徴領域CPを撮像手段30により撮像し、撮像された画像情報に基づいて検出された特徴領域CPの位置座標を第二の位置座標P2として記憶する。
【0022】
装置制御部6PAは、切削装置1の動作を制御する。例えば、Y軸移動手段50を制御して、チャックテーブル10に対して切削手段20を割り出し送りする場合、装置制御部6PAは、Y軸位置検出用センサ55がY軸位置検出用スケール54から読み取ったY軸位置に基づいてY軸パルスモータ51を回転させて、切削手段20が搭載された切削ブレード移動基台8をY軸方向に移動させる。このようにして、切削手段20は、チャックテーブル10に対して割り出し送りされる。
【0023】
チャックテーブル10に対して切削手段20を切削送りする場合、装置制御部6PAは、X軸位置検出用センサ45がX軸位置検出用スケール44から読み取ったX軸位置に基づいてX軸パルスモータ41を回転させて、チャックテーブル10が搭載されたテーブル移動基台2をX軸方向に移動させる。このようにして、切削手段20は、チャックテーブル10に対して割り出し送りされる。切削手段20を昇降させて所定位置に切り込み送りする場合、装置制御部6PAは、Z軸パルスモータ62を回転させて、切削手段20を支持する支持部4をZ軸方向に移動させる。このようにして、切削手段20は、所定位置に切り込み送りされる。
【0024】
判断部6PBは、第一の位置座標P1と第二の位置座標P2との誤差ΔEが許容値ΔEc以内に収まっているか否かを判断する。判断部6PBが第一の座標記憶部6MAに記憶された第一の位置座標P1と第二の座標記憶部6MBに記憶された第二の位置座標P2との誤差ΔEが許容値ΔEc以内に収まっていると判断した場合には、制御手段6、より具体的には装置制御部6PAは、被加工物Wの切削加工動作を開始する。判断部6PBが第一の座標記憶部6MAに記憶された第一の位置座標P1と第二の座標記憶部6MBに記憶された第二の位置座標P2との誤差ΔEが許容値ΔEc以内に収まっていないと判断した場合には、制御手段6、より具体的には装置制御部6PAは、アイドリング動作を繰り返すように制御する。
【0025】
切削装置1は、これらの他に、図示しないカセットエレベータと、図示しない仮置き手段と、図示しない洗浄・乾燥手段とを含んでいてもよい。カセットエレベータは、一度に複数の被加工物Wを収納するものである。仮置き手段は、一対のレールを有し、一対のレール上に加工前後の被加工物Wを一時的に載置するものである。洗浄・乾燥手段は、スピンナテーブルを有し、スピンナテーブルに加工後の被加工物Wが載置され、保持されるものである。次に、切削装置1のアイドリング動作時における制御を説明する。
【0026】
図3は、切削装置のアイドリング動作時における制御の手順を示すフローチャートである。図4は、アイドリング動作の一例を示す図である。図5、図6は、誤差を説明するための図である。図5、図6のX、Yは、それぞれ切削装置1のX軸、Y軸を示している(以下同様)。本実施形態において切削装置1がアイドリング動作を行う場合、図1に示す撮像手段30は、図2に示す被加工物Wの特徴領域CPを撮像する(ステップS101)。特徴領域CPを抽出する場合、記憶部6Mに記憶されている、特徴領域CPと同形状の図示しないキーパターンを用いる。例えば、制御手段6は、パターンマッチングにより、撮像手段30が撮像している画像からキーパターンと類似度が高い特徴領域CPを検出することで、被加工物Wの特徴領域CPを抽出する。特徴領域CPが抽出されたら、撮像手段30は、被加工物Wの特徴領域CPを撮像する。
【0027】
図5は、ステップS101で撮像手段30が撮像した被加工物Wの特徴領域CPの画像情報PS1を示している。画像情報PS1は、特徴領域CPの中心が、ターゲットラインTLX、TLYの交点と一致するようになっている。本実施形態において、ターゲットラインTLX、TLYの交点は、撮像手段30の視野の中心に一致する。画像情報PS1は、特徴領域CPのX軸方向における位置情報及びY軸方向における位置情報(特徴領域位置情報)を含んでいる。図5に示すXは、X軸位置検出用センサ45がX軸位置検出用スケール44から読み取ったX軸位置(切削装置1における位置)であり、Y軸位置検出用センサ55がY軸位置検出用スケール54から読み取ったY軸位置(切削装置1における位置)である(以下の例でも同様)。この例では、X軸位置及びY軸位置は、いずれも0.000である。例えば、これらが特徴領域位置情報になる。処理部6Pは、撮像された特徴領域CPの画像情報PS1に基づいて、検出された特徴領域CPの位置座標を求める。第一の座標記憶部6MAは、この位置座標を第一の位置座標P1として記憶する(ステップS102)。この例において、特徴領域CPの位置座標は、上述したX軸位置及びY軸位置、すなわち、P1(0.000、0.000)になる。
【0028】
次に、制御手段6は、切削装置1にアイドリング動作を行わせる(ステップS103)。アイドリング動作は、切削加工動作に寄与するスピンドル22又は切削ブレード等の温度変化に起因する寸法変化を抑えるために、被加工物Wの切削加工動作に先立って切削液を供給しながら切削ブレード21を回転させてX軸移動手段40、Y軸移動手段50等の駆動機構を動作させる事前動作である。本実施形態においては、図4に示すように、Z軸移動手段により、切削ブレード21が被加工物Wに切り込まない位置に上昇した状態で、切削液を供給しながら被加工物Wの切削加工動作を行う。この場合、切削ブレード21と被加工物Wとの間には、所定の隙間Sが形成される。このようにすることで、被加工物Wを無駄にすることなくアイドリング動作を行うことができる。なお、アイドリング動作はこのような動作に限定されるものではない。例えば、アイドリング動作は、被加工物Wを切り込む位置で、切削液を供給しながら切削手段20が実際に被加工物Wを切削するものであってもよい。また、アイドリング動作は、切削ブレード21がドレッシングボードを切削する動作、すなわち、切削ブレード21のドレスをする動作であってもよい。さらに、アイドリング動作は、被加工物Wのダミーを切削する動作であってもよい。
【0029】
アイドリング動作が終了したら、撮像手段30は、被加工物Wの特徴領域CPを撮像する(ステップS104)。この場合、制御手段6は、図6に示すように、撮像手段30の視野の中心、すなわちターゲットラインTLX、TLYの交点が特徴領域CPの中心と一致するように撮像手段30を移動させる。温度変化によるスピンドル22の伸縮又は切削ブレード駆動源の伸縮等が発生すると、切削手段20の位置は伸縮前と比較してずれることになる。撮像手段30は、視野の中心に切削手段20の切削ブレード21が位置するようになっている。このため、撮像手段30がアイドリング動作前と同じ状態、すなわち撮像手段30の視野の中心が特徴領域CPの中心と一致する状態で特徴領域CPを撮像するためには、撮像手段30のX軸における位置とY軸における位置との少なくとも一方は、アイドリング動作前に対して変化することになる。
【0030】
図6は、アイドリング動作後、撮像手段30の視野の中心が特徴領域CPの中心と一致する状態で特徴領域CPを撮像した結果得られた特徴領域CPの画像情報PS2を示している。図6に示すXは、アイドリング動作前、すなわち、図5に示すX(=0.000)に対して0.052であり、Yはアイドリング動作前のY(=0.000)に対して0.076となっている。このように、アイドリング動作後は、アイドリング動作前に対して撮像手段30、すなわち切削ブレード21の位置が変化している。処理部6Pは、撮像された特徴領域CPの画像情報PS2に基づいて、検出された特徴領域CPの位置座標を求める。第二の座標記憶部6MBは、この位置座標を第二の位置座標P2として記憶する(ステップS105)。この例において、特徴領域CPの位置座標は、上述したアイドリング後におけるX軸位置及びY軸位置、すなわち、P2(0.052、0.076)になる。
【0031】
次に、制御手段6が有する処理部6Pの判断部6PBは、アイドリング動作の前後における特徴領域CPの位置座標の誤差ΔE(位置誤差ΔE)を求める(ステップS106)。位置誤差ΔEは、|P2−P1|である。第一の位置座標P1と第二の位置座標P2とを一般化して、P1(X1、Y1)、P2(X2、Y2)とすると、例えば、位置誤差ΔEは、(ΔEX、ΔEY)=(|X2−X1|、|Y2−Y1|)となる。この場合、位置誤差ΔEXはアイドリング前後におけるX方向の特徴領域CPの位置誤差となり、位置誤差ΔEYはアイドリング前後におけるY方向の特徴領域CPの位置誤差である。なお、位置誤差ΔEは、このようなものに限らず、アイドリング前後における特徴領域CPの移動距離としてもよい。この場合、位置誤差ΔEは、√{(X2−X1)+(Y2−Y1)}となる。判断部6PBは、第一の座標記憶部6MAから第一の位置座標P1を読み出し、第二の座標記憶部6MBから第二の位置座標P2を読み出して、位置誤差ΔEを求める。次に、アイドリング動作の前後における特徴領域CPの位置座標の誤差(位置誤差)ΔEを求める他の手法を説明する。
【0032】
図7、図8は、アイドリング動作の前後における特徴領域の位置座標の誤差を求める手法の他の例を示す図である。上記の例では、切削ブレード21の位置、すなわち撮像手段30の視野の中心を、特徴領域CPの中心に一致させたが、この例では、撮像手段30の視野の中心をアイドリング動作前の位置に戻したときに、撮像手段30の視野における特徴領域CPの中心と撮像手段30の視野とのずれを求めることにより、位置誤差ΔEを求める。
【0033】
図7に示す、アイドリング動作前における画像情報PS1aの第一の位置座標P1と、図8に示すアイドリング動作後における画像情報PS2aの第二の位置座標P2とが、いずれも同一の値となっている。すなわち、アイドリング動作後の画像情報PS2aは、アイドリング動作前の画像情報PS1aと同じ位置で撮像されている。アイドリング動作前の画像情報PS1aは、撮像手段30の視野の中心が特徴領域CPの中心と一致している。一方、アイドリング動作後の画像情報PS1bは、撮像手段30の視野の中心が特徴領域CPからずれている。具体的には、特徴領域CPは、ターゲットラインTLXからX軸方向にΔX、ターゲットラインTLYからΔYだけずれている。このずれが位置誤差ΔE(=(ΔX、ΔY))となる。このように、アイドリング動作の前後において、切削装置1に対して同じ位置で同じ特徴領域CPを撮像したときの画像情報PS1a、PS2aから得られた第一の位置座標P1と第二の位置座標P2とから位置誤差ΔEを求めてもよい。
【0034】
位置誤差ΔEが求められたら、判断部6PBは、第一の位置座標P1と第二の位置座標P2との誤差、すなわち位置誤差ΔEが許容値ΔEc以内に収まっているか否かを判断する(ステップS107)。ΔEcは、温度変化によるスピンドル22の伸縮又は切削ブレード駆動源の寸法変化が許容できる大きさに設定されて、記憶部6Mに記憶されている。許容値ΔEcは、被加工物Wの加工要求精度等により適宜決定されるものである。ΔE≦ΔEcである場合(ステップS107、Yes)、スピンドル22の伸縮又は切削ブレード駆動源の寸法変化は許容範囲にあると判断できる。この場合、制御手段6は被加工物Wの切削加工動作を開始する(ステップS108)。すなわち、加工対象の被加工物Wを貼り付けたトレイ12をチャックテーブル10の保持部11が保持した状態で、切削ブレード21を回転させながら被加工物Wを切削する。
【0035】
ΔE≦ΔEcでない場合、すなわち、ΔE>ΔEcである場合(ステップS107、No)、スピンドル22の伸縮又は切削ブレード駆動源の寸法変化は許容範囲外であると判断できる。この場合、制御手段6は、現在の第二の位置座標P2を第一の位置座標P1として第一の座標記憶部6MAに記憶させる。その後、制御手段6は、ΔE≦ΔEcになるまでステップS103からステップS107を繰り返す。この場合、位置誤差ΔEは、最新のアイドリング動作の前後における第一の位置座標P1と第二の位置座標P2との誤差として求められる。
【0036】
以上、本実施形態は、位置誤差が、温度変化によるスピンドルの伸縮又は切削ブレード駆動源の寸法変化が許容できる大きさになるまでアイドリング動作を繰り返す。このため、アイドリング動作を十分に行ったつもりで製品加工を行っても実際に製品を加工するまでは、温度変化によるスピンドル、切削ブレード駆動源(モータ)又はチャックテーブル等の伸縮が分かりにくいといったことを回避できる。その結果、本実施形態は、必要十分なアイドリング動作で、温度変化に起因したスピンドル又は切削ブレード駆動源等の寸法変化を安定させることができるとともに、アイドリング動作により前記寸法変化が許容できるようになったことを確認できる。このため、前記寸法変化が許容できる状態で切削加工動作を開始できる。その結果、精度の高い加工をより確実に実現することができる。また、製品加工において、小径の製品等でストロークが微細な場合であって、スピンドル又は切削ブレード駆動源等の寸法変化が安定したことの判断がつきにくい場合であっても、確実に前記寸法変化を安定させることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 切削装置
2 テーブル移動基台
3 装置本体
6 制御手段
6M 記憶部
6MA 第一座標記憶部
6MB 第二座標記憶部
6P 処理部
6PA 装置制御部
6PB 判断部
8 切削ブレード移動基台
7 操作手段
10 チャックテーブル
11 保持部
12 トレイ
20 切削手段
21 切削ブレード
22 スピンドル
23 ハウジング
24 切削液供給ノズル
30 撮像手段
40 X軸移動手段
50 Y軸移動手段
60 Z軸移動手段
70 θ軸回転手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に特徴領域が形成された被加工物を上面に保持するチャックテーブルと、
該チャックテーブルに保持された被加工物に切削液を供給しながら加工を行う切削手段と、
該チャックテーブルに対して該切削手段を割り出し送りする割り出し送り手段と、
該チャックテーブルを該割り出し送り方向に直交する切削送り方向に移動するよう切削送りする切削送り手段と、
該切削手段を昇降させて所定位置に切り込み送りする切り込み送り手段と、
該切削手段の近傍に配設され該チャックテーブルに保持された該被加工物の特徴領域を撮像する撮像手段と、
チャックテーブルと割り出し送り手段と切削送り手段とを制御する制御手段と、を備えた切削装置であって、
該制御手段は、
該被加工物の特徴領域を該撮像手段により撮像し撮像された画像情報に基いて検出された該特徴領域の位置座標を第一の位置座標として記憶する第一の座標記憶部と、
アイドリング動作遂行後の該被加工物の特徴領域を該撮像手段により撮像し撮像された画像情報に基づいて検出された該特徴領域の位置座標を第二の位置座標として記憶する第二の座標記憶部と、
該第一の位置座標と該第二の位置座標との誤差が許容値以内に収まっているか否かを判断する判断部とを備え、
該判断部が該第一の座標記憶部に記憶された該第一の位置座標と該第二の座標記憶部に記憶された該第二の位置座標との誤差が許容値以内に収まっていると判断した場合には、該制御手段は被加工物の切削加工動作を開始し、
該判断部が該第一の座標記憶部に記憶された該第一の位置座標と該第二の座標記憶部に記憶された該第二の位置座標との誤差が許容値以内に収まっていないと判断した場合には、該制御手段はアイドリング動作を繰り返すように制御することを特徴とする切削装置。
【請求項2】
該アイドリング動作は、
該切り込み手段により該切削手段が該被加工物に切り込まない位置に上昇した状態で、切削液を供給しながら該被加工物の切削加工動作を行う、請求項1に記載の切削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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