説明

切断工具

【課題】カッターナイフの角度が変化すると、引張コイルスプリングが引っ張られて引張荷重が大きくなり、その結果カッターナイフの刃先が下地に食い込んでしまうという課題を解決する切断工具を提供する。
【解決手段】ケースに、定荷重バネを設置されており、定荷重バネの先端にワイヤーの片側の端部を取り付けて、もう一方の端部はケースに回転自在に固定されたプーリに巻掛けてカッター鞘に設けているワイヤー取付部材に固定して一定に荷重を保持する機構を有する構成としている。また、可動プーリーが軸支されているプーリー軸を、カッター鞘の回動量に応じて、本体に設けたプーリー移動用孔とカッター鞘に設けたプーリー移動用孔の合致した位置に強制的に移動させることによってカッターナイフの刃先にかかる荷重が一定に保持される構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断工具に関するものである。さらに詳しくは、切断刃で切断対象を切断する際に、下地を傷つけずに切断したり、所望の厚さに調整して切断作業を行うための切断工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切断刃の刃先が外方に突出されるようにして該切断刃が取り付けられる取付部材と、前記刃先を切断対象物に対して近接・離間させる方向に回動可能に前記取付部材を支持すると共に、作業者に把持される把持部を備えた本体部材と、前記取付部材と前記本体部材とを連結して、前記取付部材に対して、前記刃先を前記切断対象物に押し当てる押し当て方向に付勢力を及ぼす付勢部材と、前記本体部材に運動可能に支持されて、前記付勢部材と前記取付部材とを連結することにより、前記付勢部材による前記押し当て方向への付勢力を調整するリンク部材と、を備えることを特徴とする切断補助装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4457171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の段落0062には、「例えば、カッターナイフの切断対象物に対してなす角度が変化する程に、大きな力が刃先に加えられて、取付部材が枢軸回りを回動する場合においても、第二リンクが取付部材に対して相対的に所定量だけ回動した後に、取付部材の回動による反力、延いては引張荷重が、引張りコイルスプリングに及ぼされるようになっている。これにより、引張荷重の急激な変化が抑えられ、軸部材のハウジングケースに対する位置決めに基づいて調整された初期の付勢力が、リンク部材によって略一定の値に調整される。」と記載されているように、取付部材の回動による反力、延いては引張荷重が、引張りコイルスプリングに及ぼされる構成となっている。
【0005】
そのために、カッターナイフの角度が変化すると、例えば壁紙施工における重ね切りという施工を行った場合、壁に貼り付けした壁紙を切断する際に、天井方向から床面近くまではよいが、床面近くになってくると、切断補助装置の本体自体が邪魔となり、床面近くまで壁紙を一定の角度で切断できないため、カッターナイフの角度が変わってしまうのであるが、その際に、引張コイルスプリングが引っ張られて引張荷重が大きくなり、その結果カッターナイフの刃先が下地に食い込んでしまうという課題を有していた。下地を傷つけてしまうと壁紙の施工後に壁紙の目開きなどの問題が発生することがあったのである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために本発明は、切断刃の刃先が外方に突出されるようにして該切断刃が取り付けられる取付部材と、前記刃先を切断対象物に対して近接・離間させる方向に回動可能に前記取付部材を支持すると共に、作業者に把持される把持部を備えた本体部材と、前記取付部材と前記本体部材とを連結して、前記取付部材に対して、前記刃先を前記切断対象物に押し当てる押し当て方向に一定の付勢力を及ぼす付勢部材と、前記本体部材に取付られて、前記付勢部材と前記取付部材とを伸縮性の無い紐状体で連結し、前記取付部材に設けられ、かつ前記取付部材の回動中心との距離を変更可能な紐状体取付部材に前記紐状体を連結することにより、前記付勢部材による前記押し当て方向への付勢力を調整することを特徴とする。
【0007】
また、切断刃の刃先が外方に突出されるようにして該切断刃が取り付けられる取付部材と、前記刃先を切断対象物に対して近接・離間させる方向に回動可能に前記取付部材を支持すると共に、作業者に把持される把持部を備えた本体部材と、前記本体部材に固定位置調整可能に設けられ、付勢部材の一端が固定された付勢力調整部材と、前記取付部材と前記付勢力調整部材とを連結して、前記取付部材に対して、前記刃先を前記切断対象物に押し当てる押し当て方向に付勢力を及ぼす付勢部材と、前記本体部材のプーリー移動用孔と前記取付部材のプーリー移動用孔に移動可能に軸支された可動プーリーとを有し、前記付勢部材と前記取付部材とを紐状体で連結して前記可動プーリーに前記紐状体を巻掛けして、前記本体部材のプーリー移動用孔は、前記取付部材の回動量に応じて前記付勢部材が伸縮しないように可動プーリーを移動させる方向の軌跡に沿った方向に設定されており、前記取付部材のプーリー移動用孔は、前記取付部材の回動量に応じて前記本体部材のプーリー移動用孔内で可動プーリーを付勢部材が伸縮しない状態で保持する移動量を規制し、前記両プーリー移動用孔によって前記付勢部材による前記押し当て方向への付勢力を一定に調整することを特徴とする。
【0008】
また、切断対象物に対して切断工具の切断角度を一定に保持するガイド又は保持用の複数の車輪を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、取付部材(カッターナイフを取り付けたカッター鞘)が回動して刃先にかかる荷重が変化しようとしても、一定に保持することができ、下地を傷めてしまったりすることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】切断工具の実施形態を説明する構造説明図である。
【図2】カッター鞘が回転自在に取り付けられた状態を説明する図である。
【図3】ワイヤー取付部材の移動構造を説明する図である。(a)はワイヤー取付部材の要部を拡大した図で、(b)は(a)の図を右側面から見た状態でワイヤーを省略している図、(c)は(a)の図を下側から見た状態の図である。
【図4】切断工具の別の実施形態を説明する構造説明図である。
【図5】図5の実施形態について上方から見た状態を説明する図である。
【図6】(a)は図5の実施形態についてカッター鞘の構造を説明する図で、(b)は(a)の図を下側から見た状態の図である。
【図7】図5の実施形態について図5の右側方向から見た可動プーリー部の構成を説明する図である。
【図8】切断工具の別の実施形態を説明する構造説明図である。
【図9】切断工具の別の実施形態を説明する構造説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1に示すように、切断工具1はカッターナイフ2が取り付けられたカッター鞘3が、ケース4に回転軸3aを軸として回転自在に取り付けられている。図2に示すように回転軸3aはケース4に取り付けられたベアリング4aに軸支されており、カッター鞘3はケース4内で回動自在に設置設置されている。そして、カッター鞘3はケース4に設けられた切り欠き部によってその回動範囲を規制されてもいる。
【0012】
また、ケース4には、定荷重バネ5も設置されており、定荷重バネの先端にワイヤー6の片側の端部を取り付けて、もう一方の端部はケース4に回転自在に固定されたプーリ7に巻掛けてカッター鞘3に設けているワイヤー取付部材8に固定している。
このプーリ7を使用することで、プーリ7とワイヤー取付部材8の距離を長くすることによって、カッター鞘3が回動して角度が変化したときにでも、その角度の変化による定荷重バネ5の変化は無視できる程度になっている。
【0013】
ワイヤー取付部材8はカッター鞘に回転自在に取り付けられたネジ軸9に螺合しており、このネジ軸9はケース4の下部に開口した孔から工具を挿入して回転させ、ワイヤー取付部材8の位置を調整する構成としている。また、図3に示すように、ワイヤー取付部材8に溝部8aを設けて、その溝部8aをカッター鞘3の板部と嵌合させることで、ネジ軸9と一緒にワイヤー取付部材8が共回りしてしまわない構成とし、ネジ軸9を回転させた場合にカッター鞘3の板部がワイヤー取付部材8の移動のガイドの役割も有している。
【0014】
カッターナイフ2に対してカッター鞘3は、カッターナイフ2がしっかりと固定できるような寸法で図2に示すような断面略コの字形の形状として、カッターナイフをはめ込み固定する。
【0015】
次に図4から図7に開示した別の実施形態について説明する。この実施形態は可動プーリー10を用いて、カッターナイフ2の刃先の角度が変化しても常に安定した荷重のかかり方となるように構成したものである。
図4に示すように切断工具1はカッターナイフ2が取り付けられたカッター鞘3が、ケース4に回転軸3aを軸として回転自在に取り付けられている。この構造は図2と同様であるので図示は省略する。
【0016】
ケース4にバネ11の一端を取り付けたバネ調整スライダー12が切断工具1の上部にスライド自在に取り付けられている。このバネ調整スライダー12の固定は、ケース4内に位置しているバネ調整スライダー12に設けた雌ネジに螺合した固定ネジ13によって、ケース4を挟み込むことでバネ調整スライダー12を荷重調整した所望の位置で固定できる構成となっている。ケース4には、バネ調整スライダー12と固定ネジ13のネジ部が通過する長孔が設けられている。(図5参照)
【0017】
カッター鞘3は図6に示すように、バネ11の1端を固定するピン3bとプーリー移動用孔3cが設けられている。
【0018】
可動プーリー10は、図7に示すようにプーリー軸14にベアリング10aを介して回転自在に軸支されており、プーリー軸14はケース4とケース蓋4bにそれぞれ設けられたプーリー移動用孔4c、4dに軸支されている。そしてプーリー軸14は、ケース4とカッター鞘3の間の軸径が大きくなっており、プーリー軸14が図7における左右方向に移動しないようになっている。そして、可動プーリー10はバネ11の荷重がかかったワイヤー6が巻掛けられるために図7の左右方向への移動はしないようになっている。
【0019】
カッターナイフ2の刃先に荷重がかかっていないときは、可動プーリー10はプーリー移動孔3cは図6(a)の右下方向に位置しており、カッターナイフ2の刃先に荷重がかかってカッター鞘3が回転軸3aを軸として回転したときに、可動プーリー10は、カッター鞘3に設けられたプーリー移動用孔3cと、ケース4とケース蓋4bに設けられたプーリー移動用孔4c、4dによって位置調整がなされる。
【0020】
プーリー移動用孔4c、4dの長孔の方向は、切断作業中にカッター鞘3が回動した場合に、カッターナイフ2の刃先にかかる荷重が変化しようとして引張バネ11を伸縮させようとした時に、カッター鞘3の回動量に応じて引っ張りバネ11が伸縮しないように可動プーリー10を移動させる方向の軌跡に沿った方向に設定されており、プーリー移動用孔3cは、カッター鞘3の回動量に応じてプーリー移動用孔4c、4d内で可動プーリー10を引っ張りバネ11が伸縮しない状態で保持する移動量を規制している。
【0021】
従って、可動プーリー10が軸支されているプーリー軸14を、カッター鞘3の回動量に応じて、プーリー移動用孔3cとプーリー移動用孔4c、4dの合致した位置に強制的に移動させることによってカッターナイフ2の刃先にかかる荷重が変化しない状態、すなわち一定に保持するように構成されている。
【0022】
図示した実施形態は1例であり、可動プーリー10と固定プーリー15の径は同一としているが、プーリー径を変更したり、設計上固定プーリーの中心と可動プーリーの中心との距離が変化しない状態で稼働プーリーが移動する軌跡とするように設計するなど条件については種々の形態が選択、設定することができる。そして、コンピューター上で設計する際に、画面上でシミュレーションを行って設計すると良いのである。
【0023】
図8に開示する実施の形態は、切断する時に切断対象物とカッターナイフ2の刃先の位置が一定になるような構造を有する切断工具の例である。
【0024】
カッターナイフ2の刃先側と切断工具1の後部側に切断対象物に当接する車輪21、22を設け、この車輪を切断対象物に当接させて移動させることによってカッターナイフ2の刃先角度を一定とした状態で切断対象物を切断するという構成のものである。図では車輪の大きさを変えているが同じ大きさの車輪でもかまわない。
【0025】
上記のように一定した角度にできる構成であるので、刃先にかかる荷重の調整機構を先に説明した図1から図7の構成としてもよいし、図8に示すように、カッター鞘3の下部に圧縮バネ23を取り付けるためのピン23aと、バネ調整ネジ24の先端にピン24aを設け、上記ピン23aとピン24a間に圧縮バネ23を取り付けた構成としてもよい。
【0026】
調整ネジ24はケース4のケースネジ部26に螺合しており、調整した圧縮バネ23の荷重が容易に変化してしまわないようにするために固定ネジ25を取り付けて、ケースネジ部26と固定ネジでダブルナットのように固定するようにしている。
【0027】
図9に開示する実施の形態は、切断する時に切断対象物とカッターナイフ2の刃先の位置が一定になるような構造の別の実施形態である。切断対象物、例えば壁紙などの場合においては、車輪を当接させると壁紙の表面にスジが残ったり、凹凸のために刃先角度が微妙に変化してしまうような素材が使われている壁紙がある。そのために、ある程度の面積をもったガイド部27を切断工具1の刃先側に設けてガイド部27の底面を切断対象物に沿わせるようにした時にカッターナイフ2の刃先の角度が一定になる構成としたものである。
【0028】
上記の車輪21、22やガイド部は切断工具に嵌合させたり、ベルトなどで容易に着脱できるように設けても良いし、一体に設けた状態としても良い。
【0029】
ケース4を金属の素材を使用した場合はケースネジ部26は設けやすいが、金属以外の樹脂を使用した場合には金属製のナットなどを嵌合するなどしておくとよい。
【符号の説明】
【0030】
1 切断工具
2 カッターナイフ
3 カッター鞘
3a 回転軸
3b ピン
3c プーリー移動用孔
4 ケース
4a ベアリング
4b ケース蓋
4c プーリー移動用孔
4d プーリー移動用孔
5 定荷重バネ
6 ワイヤー
7 プーリ
8 ワイヤー取付部材
9 ネジ軸
10 可動プーリー
11 バネ
12 バネ調整スライダー
13 固定ネジ
14 プーリー軸
15 固定プーリー
21 車輪
22 車輪
23 圧縮バネ
23a ピン
24 調整ネジ
24a ピン
25 固定ネジ
26 ケースネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断刃の刃先が外方に突出されるようにして該切断刃が取り付けられる取付部材と、
前記刃先を切断対象物に対して近接・離間させる方向に回動可能に前記取付部材を支持すると共に、作業者に把持される把持部を備えた本体部材と、
前記取付部材と前記本体部材とを連結して、前記取付部材に対して、前記刃先を前記切断対象物に押し当てる押し当て方向に一定の付勢力を及ぼす付勢部材と、
前記本体部材に取付られて、前記付勢部材と前記取付部材とを伸縮性の無い紐状体で連結し、前記取付部材に設けられ、かつ前記取付部材の回動中心との距離を変更可能な紐状体取付部材に前記紐状体を連結することにより、前記付勢部材による前記押し当て方向への付勢力を調整する
ことを特徴とする切断工具。
【請求項2】
切断刃の刃先が外方に突出されるようにして該切断刃が取り付けられる取付部材と、
前記刃先を切断対象物に対して近接・離間させる方向に回動可能に前記取付部材を支持すると共に、作業者に把持される把持部を備えた本体部材と、
前記本体部材に固定位置調整可能に設けられ、付勢部材の一端が固定された付勢力調整部材と、
前記取付部材と前記付勢力調整部材とを連結して、前記取付部材に対して、前記刃先を前記切断対象物に押し当てる押し当て方向に付勢力を及ぼす付勢部材と、
前記本体部材のプーリー移動用孔と前記取付部材のプーリー移動用孔に移動可能に軸支された可動プーリーとを有し、
前記付勢部材と前記取付部材とを紐状体で連結して前記可動プーリーに前記紐状体を巻掛けして、
前記本体部材のプーリー移動用孔は、前記取付部材の回動量に応じて前記付勢部材が伸縮しないように可動プーリーを移動させる方向の軌跡に沿った方向に設定されており、
前記取付部材のプーリー移動用孔は、前記取付部材の回動量に応じて前記本体部材のプーリー移動用孔内で可動プーリーを付勢部材が伸縮しない状態で保持する移動量を規制し、前記両プーリー移動用孔によって前記付勢部材による前記押し当て方向への付勢力を一定に調整することを特徴とする切断工具。
【請求項3】
切断対象物に対して切断工具の切断角度を一定に保持するガイド又は保持用の複数の車輪を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の切断工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate