説明

切断抵抗性でかつ耐磨耗性の織物表面を形成させるためのヤーン

【課題】EN388標準規格のクラス3の要件を満足させる切断抵抗性を有し、且つ耐摩耗性を有する織物を形成するヤーンを提供する。
【解決手段】高靭性(high-tenacity)ポリアミドステープルファイバーであって、その強度(tenacity)が4.5 cN/dtexを越え、繊維長が40〜170mmであるポリアミドステープルファイバーを紡績することにより得られたものである。当該紡績糸には高性能繊維(high performance fiber)型のポリビニルアルコール繊維であって、そのモジュラスが10 GPaを越える繊維、テクスチャード(textured)ナイロン-6,6 ポリアミドを混紡することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切断抵抗性でかつ耐磨耗性の織物表面(textile surface)を形成させるためのヤーンに関する。
【背景技術】
【0002】
無機材料、例えばガラス又は金属、繊維又はフィラメントで強化されているか又は強化されていない、種々の種類の繊維状重合体を使用することにより良好な切断抵抗性(cut−resistance)を達成し得ることは、米国特許3,883,898号、英国特許1,586,890号、米国特許4,777,789号、米国特許4,004,295号、英国特許2,018,323号、ドイツ特許(DE)1,610,495号及び欧州特許(EP)0 118 898号から知られている。
【0003】
切断抵抗性は欧州においてはEN 388 標準規格によって規定されていることに留意すべきである;この規格では、1〜5の、かつ、性能の水準と共に増大するクラス(class)と呼ばれる5段階の性能水準が定義されている。
【0004】
有機繊維に基づく非強化製品においては、むしろ、材料の選択が制限される。一般的に使用される材料はポリフェニレンテレフタルアミド(PPTA)、液晶重合体(LCP)又は高分子量ポリエチレン、即ち、600 000 g/モルより大きいモル質量(molar mass)を有するものである。かく形成される繊維はそれ自体で又はポリアミド繊維と組合わせて使用し得る。
【0005】
エンジニアリングポリマーと呼ばれるこれらの重合体の全ては、一般的に、高いモジュラスと非常に高い機械的強度を有する。しかしながら、モジュラスは100 GPaより大きいことは稀であり、引張強さは2000 MPaである。
【0006】
しかしながら、有機繊維についてのこれらの非常に高いモジュラス値はカーボン、炭化珪素(SiC)又は超合金型の無機繊維に対応するものより非常に低い。
【0007】
一般的に、高いモジュラス値は剛性(stiffness)と同義であり、しばしば、作業者が物を掴むことを非常に困難にし、作業者に若干の不便性を与える。この場合、作業者は、多くの場合、手袋(glove)の形で使用される保護用具を装着することができない。
【0008】
多数の用途について、これらの手袋は再生を要求されることのない手袋を製造することを可能にする特殊な機械上で編まれる。
【0009】
そのゲージ(gauge)、即ち、1インチ当りのニードルの数に従って定義される3つのタイプの機械が通常使用される。
【0010】
ゲージ7によって定義される第1のタイプの機械により、保護性ではあるが、非常に使用者に好適ではない(user-friendly)、重い手袋を製造することが可能である。それぞれ、ゲージ10及びゲージ13によって定義される第2及び第3のタイプの機械は、それぞれ、中間グレード(medium−grade)の手袋及び高級グレード(fine−grade)の手袋を製造するのに使用される。
【0011】
中間グレードの手袋は、特に、自動車工業において、機械及び電気工業において、ガラス工業において、包装工業において、又は、運搬の目的で最も使用されている。これらの工業は、一般的に、ゲージ10で製造された手袋を使用し、EN 388 標準規格によって定義されているクラス3の要件を満足させる。
【0012】
エンジニアリングポリマーに関する上記した欠点とは別に、これらの製品は非常に高価である。ある種の工業においては、このことは、木綿又は皮手袋のごとき、意思決定者(decision−maker)に不適切な解決手段を受容することを強要し、かくして、作業者は不便性と傷害の危険性に暴露される。
【0013】
更に、製品の寿命末期(end-of-life)リサイクリングにより価格の問題及び環境汚染の問題が提供される。
【0014】
2つの解決手段、即ち、廃棄物の投棄の制御及び焼却が存在する。後者の場合、ある種の重合体は青酸(HCN)及び他の望ましくない化合物のごとき有害物質を発生する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、EN 388標準規格のクラス3の要件を満足させる、切断抵抗性でかつ耐摩耗性の繊維表面(textile surface)を形成させるためのヤーンを提供することによりこれらの欠点を除去し、一方、製造される製品についての使用者の満足感(comfort)を改善し、更に、その製造コストを低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、本発明は、高靭性(high−tenacity)ポリアミドステープルファイバーであって、その靭性(tenacity)が4.5 cN/dtexを越え、そして、その繊維の長さが40〜170mmであるポリアミドステープルファイバーを紡糸することにより得られたものであることを特徴とする、切断抵抗性でかつ耐磨耗性の織物表面を形成させるためのヤーンを主題とする。
【0017】
本発明の第1の態様によれば、繊維は、クラッキング(cracking)、カッティング(cutting)、カーディング(carding)又は延伸(drawing)により変換され(convert)、65〜140 mmの長さを有する。
【0018】
本発明の第2の態様によれば、繊維は棉状化(cottonizing) により変換され、40〜65 mmの長さを有する。
【0019】
ヤーンはHPF(高性能繊維:high performance fiber)型のポリビニルアルコール繊維であって、そのモジュラスが10 GPaを越える繊維からなることが好ましい。
【0020】
このタイプの繊維はヤーンの切断性能を改善することを可能にする。
【0021】
本発明の別の要旨によれば、ヤーンはテクスチャード(textured) ナイロン-6,6 ポリアミドからなる。
【0022】
この種の繊維によりヤーンの磨耗性能が改善される。
【0023】
高靱性ポリアミドの割合は全ヤーンの合計重量の15〜85%であることが有利である。
【0024】
テクスチャードポリアミドの割合は全ヤーンの合計重量の5〜30%であることが好ましい。
【0025】
本発明の一つの要旨によれば、高靱性ポリアミドの繊度(fineness)は0.5〜8dtexである。
【0026】
本発明の一つの態様によれば、HPFポリアミド繊維の繊度は0.5〜8dtexである。
【0027】
全番手(total yarn count)はNm 2.5〜Nm 50であることが有利である。
【0028】
他の態様によれば、ヤーンは一次ヤーン(primary yarn)の形で製造され、この一次ヤーンのツイスト係数(twist coefficient)は30〜90である。
【0029】
本発明の他の態様によれば、ヤーンはツイストヤーン(twist yarn)の形で製造され、このツイストヤーンのツイスト係数は25〜85である。
【0030】
本発明は、更に、本発明のヤーンから形成された織物表面(textile surface)に関する。
【0031】
いずれの場合においても、本発明は、図面を参照して、下記の説明から理解されるであろう。
【0032】
図1は、ヤーンの繊維の組成の関数としての、切断指数(cutting index)の変化を示す図である。
【0033】
本発明のヤーンを製造するためには、いずれもリサイクル可能な2系列の重合体が使用される:即ち、
−HT−PAとも呼ばれる高靭性ポリアミド;及び
−HPF−PVAとも呼ばれるHPF(高性能繊維)型ポリビニルアルコ−ル。
【0034】
これらの2種の重合体は半結晶質熱可塑性樹脂である。特に、使用される高靭性ポリアミドは、ファインテキスタイル(fine textile)については通常使用されないが、良好な耐切断性を有する、タイヤ及び加圧ホースを強化するために使用される種類のものであり得る。
【0035】
ヤーンは、靭性が4.5 cN/dtexを越え、単一番手(unitary count)が2.5〜7dtexである、高靭性ナイロン6,6−ポリアミド繊維からなる。この繊維は遅い、漸進的クラッキングプロセスによって得られ、6〜12 cN/dtexの高い強度が与えられている。しかしながら、この繊維は高い破断点伸びを有しており、製品に10 GPa以下のモジュラスを与える。この低いモジュラスは、着用者にとって快適である編成手袋(knitted glove)を製造することを可能にする。
【0036】
ヤーンは、更に、モジュラスが10 GPaより大きいHPFポリビニルアルコ−ル繊維を包含している。このタイプの繊維は、一般的には、セメントを強化するのに使用されている。
【0037】
また、これらの繊維は、約8%の高い破断点伸びについての、約11 cN/dtexの高い機械的強度のために選択され、繊維に約20 GPaのモジュラスを与える。これらの繊維は2〜5dtexの繊度を有しており、遅い漸進的クラッキングプロセスにより製造され、その高い強度が与えられている。
【0038】
高靭性ポリアミド繊維及びHPFポリビニルアルコール繊維は紡糸プロセスに適合する平均長さ、即ち、40〜170mm、好ましくは、80〜110mmの平均長さを有する。
【0039】
ヤーンはHT−PAステープルファイバー及びHT−PVAステープルファイバーから紡糸により形成させることが好ましい。別法として、ヤーンはHT−PAステープルファイバーだけからも製造し得る。
【0040】
HT−PA及びHT−PVAファイバーを、例えば、ヤーンの全質量の15〜25%を占め得るテクスチャードナイロン6.6−ポリアミドファイバーフィラメントと混合し得る。かかる混合物は耐摩耗性を増大させることを可能にする。
【0041】
使用されるヤーンはNm 28/2型のもの、即ち、1kgの材料から28kmのヤーンを得ることのできるトゥーストランド(two-strand)ツイストヤーンであることが好ましい。
【0042】
ヤーンは一次ヤーンと二次ヤーンとから構成される。各々のヤーンについて、ツイスト係数が定められている;これは下記の式から推察される:
T = α(Nm) 1/2
上記において、
T = ターン(turn)/m で表されるツイスト;
α = ツイスト係数(無次元);
= m/gで表されるメートル数
【0043】
Nm 25/1(35.7tex)一次ヤーンのツイスト係数αは30〜90である。ツイストヤーンのツイスト係数は25〜85である。ツイスト係数は、特に、快適性(comfort)及び耐磨耗性に対する影響を発揮することに留意すべきである。このパラメーターは切断抵抗性に対しては少ししか影響しない。
【0044】
一次ヤーンについての約60のツイスト係数と、ツイストヤーンについての約55のツイスト係数とについて、最も良好な妥協が得られる。テクスチャードポリアミドフィラメントが添加される場合には、後者のツイスト係数はツイストヤーンのツイスト係数と実質的に同一である。
【0045】
このヤーンが切断からの保護に関する要件に関してEN 388 標準規格を満足させる織物表面を形成させるか否かを検討するために、ゲージ10 編機で編むことより手袋を製造した。ついで、これらの手袋をEN 388 標準規格の基準に従って試験した。
【0046】
技術センターで行われた試験の結果は下記の表に示されている。この表には使用したヤーンの種類に従って、それぞれ、切断抵抗性及び耐磨耗性に関する要件に関して達成された指数及びクラスが要約されている。
【0047】
切断指数(cutting index)は特に興味のあるものである;この指数は、標準規格によって定義されている、ある重さを負荷された試験用ブレードが達成しなければならない通過数(number of passes)に比例する。即ち、クラス内での切断指数が高ければ高いほど、製品の切断抵抗性は大きい。製品が切断抵抗性に関してクラス3の要件を満たすためには、切断指数は5から10でなければならない。
【0048】
かくして、4種のヤーンを試験した;即ち、
−HT−PA繊維だけからなる、Nm 28/2 型のヤーン;
−HPF−PVA繊維だけからなる、Nm 28/2 型のヤーン;
−50重量%のHT−PA繊維と50重量%のHPF−PVA繊維とからなる、Nm 28/2 型のヤーン;及び
−41重量%のHT−PA繊維と41重量%のHPF−PVA繊維と18重量%のテクスチャードナイロン−6,6 ポリアミドとからなるNm 28/2 型のヤーン。
【0049】

【0050】
HPF−PVA繊維だけからなるヤーンを除いて、全てのタイプのヤーンが切断からの保護に関して、クラス3の要件を満たしていることに注目すべきである。
【0051】
更に、最後の2つのタイプのヤーンを比較すると、テクスチャードナイロン−6,6 ポリアミドフィラメントを混合することにより、特に磨耗性に関して製品の特性が改善されることが注目され得る。
【0052】
図1は、ヤーンのHT−PA及びHPF−PVAの組成の関数としての切断指数の変化を示している。
【0053】
図1は、最大の切断指数は50重量%のHT−PA繊維と50重量%のHPF−PVA繊維とからなるヤーン組成について得られること示している。更に、上記の表から明らかなごとく、HT−PA繊維だけからなるヤーンがクラス3の要件を満たすことも注目され得る。
【0054】
本発明は、上記で例示して記載したヤーンの組成だけに限定されるものではない;このこととは反対に、本発明はその全ての変更を包含するものである。即ち、特に、本発明の要旨から逸脱することなしに、高靭性ポリアミド繊維から、又は、テクスチャードナイロン−6,6-ポリアミド繊維と組合わされているが、HPF−ポリビニルアルコール繊維とは組合されていない高靭性ポリアミド繊維からヤーンを製造し得る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ヤーンのHT−PA及びHPF−PVAの組成の関数としての切断指数の変化を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高靭性ポリアミドステープルファイバーであって、その靭性が4.5 cN/dtexを越え、そして、その繊維の長さが40〜170mmであるポリアミドステープルファイバーを紡糸することにより得られたものであることを特徴とする、切断抵抗性でかつ耐磨耗性の織物表面を形成させるためのヤーン。
【請求項2】
繊維は、クラッキング、カッティング、カーディング又は延伸により変換され、65〜140 mmの長さを有する、請求項1に記載のヤーン。
【請求項3】
繊維は、綿状化により変換され、40〜65 mmの長さを有する、請求項1に記載のヤーン。
【請求項4】
ヤーンは、HPF(高性能繊維)型のポリビニルアルコール繊維であって、そのモジュラスが10 GPaを越える繊維からなる、請求項1〜3のいずれか一つに記載のヤーン。
【請求項5】
ヤーンはテクスチャードナイロン−6,6 ポリアミド繊維からなる、請求項1〜4のいずれか一つに記載のヤーン。
【請求項6】
高靭性ポリアミドの割合は、全ヤーンの合計重量の15〜85%である、請求項1〜5のいずれか一つに記載のヤーン。
【請求項7】
テクスチャードポリアミドの割合は、全ヤーンの合計重量の5〜30%である、請求項5又は6に記載のヤーン。
【請求項8】
高靭性ポリアミドの繊度は0.5〜8dtexである、請求項1〜7のいずれか一つに記載のヤーン。
【請求項9】
HPFポリアミド繊維の繊度は0.5〜8dtexであり、その靭性は4.5cN/dtexである、請求項4〜8のいずれか一つに記載のヤーン。
【請求項10】
全番手はNm 2.5〜Nm 50である、請求項1〜9のいずれか一つに記載のヤーン。
【請求項11】
一次ヤーンの形で製造され、該一次ヤーンのツイスト係数は30〜90である、請求項1〜10のいずれか一つに記載のヤーン。
【請求項12】
ツイストヤーンの形で製造され、該ツイストヤーンのツイスト係数は25〜85である、請求項1〜10のいずれか一つに記載のヤーン。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一つに記載のヤーンから形成された織物表面。

【図1】
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【公開番号】特開2008−25092(P2008−25092A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188025(P2007−188025)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(500224771)ソシエテ アノニム シヤープ (1)
【Fターム(参考)】