説明

切梁中継具

【課題】ほとんどの部材を回収することができる、経済的な切梁との中継具を提供する。
【解決手段】既設構造物と、その周囲の山留め壁面に配置した腹起との間に切梁を配置する場合の部材である。既設構造物の表面に取り付ける構造物当板と、切梁の端面に取り付ける切梁当板と、平行した両板の間に、直交方向に介在させる複数本の支持脚とより構成する。既設構造物の表面に取り付けるための構造物当板に、支持脚の一端を解体自在に取り付け、その支持脚の他端に、切梁当板を解体自在に取り付けて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切梁中継具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設構造物の補強のために、コンクリート構造物の周囲に補強用の鉄筋コンクリートを新たに打設する補強方法が採用されている。
その場合に、橋脚のような一部が地中に埋設されている既設の構造物を補強するためには、図9に示すように、構造物の周囲に矢板などの山留め壁を打設して開削して構造物の表面を露出させなければならない。
開削に際して山留め壁を支持し安定させるには、山留め壁と既設構造物の表面との間に腹起、切梁を配置する必要がある。
しかし構造物の表面には補強コンクリートを取り付ける必要があるから、切梁の端面を既設構造物に直接、接触させて位置させては補強コンクリートの取り付けの障害となる。
さらに補強コンクリートの内部には多数本の鉄筋を配置させることから、その点からも切梁の端面を既設構造物に直接、接触させて位置させることはできない。
類似の工法として特許文献1のような発明が知られている。
【特許文献1】特許第3668177号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記した特許文献1記載の切梁の連結具は、新たなコンクリート構造物の構築の際に使用するものであって、既設構造物の補強に使用するものではない。
また、新たなコンクリート構造物の内部に、構造と関係のない連結具を残置することになり、補強コンクリートの一部に異物が残ってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記のような課題を解決する本発明の切梁中継具は、既設構造物と、その周囲の山留め壁面に配置した腹起との間に切梁を配置する場合の部材であって、既設構造物の表面に取り付ける構造物当板と、切梁の端面に取り付ける切梁当板と、平行した両板の間に、直交方向に介在させる複数本の支持脚とにより構成し、既設構造物の表面に取り付けるための構造物当板に、支持脚の一端を解体自在に取り付け、その支持脚の他端に、切梁当板を解体自在に取り付けて構成した、切梁中継具を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の切梁中継具は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 既設構造物と山留め壁との間に切梁を配置して、山留め壁の一方から作用する土圧を既設構造物に伝達して支持することができる。
<2> 補強コンクリートの内部に残すのは構造物当板だけであり、他の部材はすべて回収することができる。したがってきわめて経済的な中継具である。
<3> 補強コンクリートの内部に、構造に関係しない異物をほとんど、残すことがなく、補強コンクリートのすべてを有効に機能させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0007】
<1>全体の構成。
本発明の切梁中継具Aは、既設構造物Bと、その周囲に配置した山留め壁の腹起Cとの間に切梁Dを配置する場合の中継用の部材である。
そしてこの切梁中継具Aは、構造物当板1と切梁当板2と、両板の間に配置する支持脚3とによって構成する。
【0008】
<2>構造物当板1。
構造物当板1は、既設構造物Bの表面に取り付ける鋼製の板体である。
この構造物当板1だけは、補強コンクリートGを打設した後にはその内部に埋設され回収の対象にならないが薄い鋼板であり補強コンクリートへの影響はほとんどない。
構造物当板1の既設構造物Bへの取り付け方法は、一般的にはボルトによって行う。
しかしボルトに限定する必要はなく、アンカー打設、接着剤による接着など公知の各種のコンクリートへ取り付け方法を採用することができる。
【0009】
<3>切梁当板2。
切梁当板2は、切梁Dの端面に取り付ける鋼製の板体である。
したがって切梁当板2の寸法は、ほぼ切梁Dの端面の寸法と同一に構成する。
切梁当板2と切梁Dとの取り付けは、自由に解体を行えるように、たとえばボルトによって行う。
そのために切梁当板2にはボルト穴を形成しておく。
このボルト穴は図の実施例では一箇所であるが、複数個所に開設しておくこともできる。
【0010】
<4>支持脚3。
支持脚3は鋼製の棒状体である。
この複数本の支持脚3を、平行に配置した構造物当板1と切梁当板2との間に配置する。
すなわち、この支持脚3の一端は構造物当板1に解体自在に取り付ける。
支持脚3の他端は、切梁当板2に解体自在に取り付ける。
支持脚3の直径は、全長にわたって等しい寸法でもよいが、特に構造物当板1に接する側を細く、切梁当板2に接する側を太く構成することもできる。
このように構成すると、後述するような補強コンクリートGの硬化後に支持脚3を補強コンクリートGの内部から引き抜く際に容易となる。
支持脚3の長さと、構造物当板1の厚さの合計が、補強コンクリートGの厚さとほぼ同一である。
なお、構造物当版1と支持脚3との結合部を逆ねじにしておくことも可能である。
【0011】
<5>支持脚3の取り付け構造。
支持脚3の一端と構造物当板1とを、相互に取り付けと解体が自由であるように構成する。
そのために、たとえば構造物当板1の側にナット穴を設け、支持脚3の一端にはボルトを突設しておく。
あるいはその反対の構造、すなわち構造物当板1の側にボルトを突設し、支持脚3の一端にはナット穴を設けておく構造を採用することもできる。
支持脚3の他端も、切梁当板2と相互に取り付けと解体が自由であるように構成する。
そのためにたとえば切梁当板2に貫通穴を設け、支持脚3の他端にはナット穴を設けておく。
そして切梁当板2の外部から支持脚固定ボルト31を挿入して支持脚3の他端のナット穴にねじ込めば、切梁当板2と支持脚3とは取り付け、解体を自由に構成できる。
切梁当板2のボルト穴の周囲に、底のある浅い凹部を形成しておけば、支持脚固定ボルト31の頭部が切梁当板2の表面から露出しない。
なお支持脚3の切梁当板2の側にボルトを突設しておき、切梁当板2の貫通穴を貫通したボルトに、外部からナットをねじ込めば、切梁当板2と支持脚3とは取り付け、解体を自由に構成できる。
【0012】
<6>使用方法。
次に本発明の中継具の使用方法について説明する。
まず、構造物当板1と支持脚3、及び切梁当板2を取り付けてから配筋を行う例を説明するが、鉄筋Eの配筋を行ってから支持脚3、及び切梁当板2を取り付ける工法を採用することも可能である。
【0013】
<7>構造物当板1の取り付け。
まず橋脚などの既設構造物Bの表面に構造物当板1を取り付ける。
この構造物当板1は回収するものではないから、どのような取り付け方法によってもよい。
たとえば構造物当板1に貫通穴を開口しておき、既設構造物Bの表面に形成したナット穴に貫通穴を通してボルトをねじ込んで、構造物当板1を取り付けることができる。
その後に既設構造物Bの周囲に多数本の鉄筋Eを配置する。
【0014】
<8>支持脚3の取り付け。
配筋後に、構造物当板1に直交する方向で、支持脚3を取り付ける。
その際にすでに既設構造物Bの外側には多数本の鉄筋Eが交差している。
しかし鉄筋E群の間には隙間があるから、図8に示すように、棒状体である支持脚3を鉄筋Eの隙間を貫通させて取り付けることができる。
構造物当板1への取り付けは、支持脚3の先端をねじとして構成しておけば、鉄筋E群の外部から支持脚3を回転するだけで取り付けることができ、鉄筋Eの存在も支持脚3の取り付けの障害にならない。
支持脚3の直径が同一でない場合には、細い側を構造物当板1に取り付け、太い側を切梁当板2に取り付ける。
さらに支持脚3の周囲に厚紙などを巻きつけると、コンクリートの硬化後における支持脚3のコンクリート内部からの引き抜きが容易となる。
支持脚3の長さと構造物当板1の厚さの合計は、前記したように補強コンクリートGの厚さとほぼ同一である。
【0015】
<9>切梁当板2の取り付け。
支持脚3の他端には切梁当板2を取り付ける。
支持脚3への取り付けは、前記したようなボルト、ナットの組み合わせによって取り付けと解体が自由であることが必要である。
【0016】
<10>切梁Dなどの取り付け。
切梁当板2の表側に、切梁Dの一端をねじ止めして取り付ける。
さらに切梁当板2の周囲には型枠Fを鉛直に立てて、図示しない支保工などの公知の手段で型枠Fの位置を固定する。
型枠Fの既設構造物B側の面と、切梁当板2の面とはほぼ同一面を形成し、この面が補強コンクリートGの外面となる。
【0017】
<11>後から配筋する場合。
既設構造物Bの表面に構造物当板1を取り付けたら、すぐに支持脚3を取り付け、その支持脚3群に切梁当板2を取り付ける場合もある。
この切梁当板2に切梁Dを取り付けて切梁としての機能を確保する。
こうして複数段の切梁Dを設置し、最深部までの掘削が完了したら、その後に鉄筋Eを配筋する。
その場合には、構造物Bの表面からは多数本の支持脚3が突出しているから、その位置を避けて、支持脚3の隙間を貫通させて鉄筋Eを配筋することになる。
しかし鉄筋Eの配置位置は事前に分かっていて墨出しを行えるから、その位置を避けて構造物当板1を設置すれば支持脚3に鉄筋Eが当たることはない。
【0018】
<12>補強コンクリートの打設。
既設構造物Bの表面と、型枠Fおよび切梁当板2で形成された面との間に補強コンクリートGを打設する。
この補強コンクリートGの厚さは、構造物当板1の厚さと支持脚3の長さの合計にほぼ等しいものとなる。
【0019】
<13>中継具の解体、回収。
補強コンクリートGが硬化したら型枠Fを解体し、補強コンクリートGの表面を養生した後、開削部の埋め戻しを行う。
埋め戻しに平行して切梁Dを取り外してゆく。
切梁Dを取り外したら、補強コンクリートGの表面には切梁当板2の表面が露出した状態となる。
さらに切梁当板2の表面には支持脚3固定ボルトの頭部が露出しているから、このボルトを回転すれば、切梁当板2を支持脚3から取り外して回収することができる。
さらに支持脚3を外部から回転して構造物当板1との取り付けを解体して補強コンクリートGから引き抜く。
この際に、支持脚3の直径が同一ではなく、外部の方を大きくしてあれば、その引き抜きがさらに容易となる。
こうして、すべての切梁Dの設置位置の切梁当板2と支持脚3群を簡単に回収することができる。
回収後の空洞は無収縮モルタルなどを充填しておく。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】既設構造物に本発明の構造物当板を取り付ける状態の説明図。
【図2】構造物当板を取り付けた状態の説明図。
【図3】構造物当板の表面に支持脚と切梁当板を取り付ける状態の説明図。
【図4】切梁中継具の取り付けが完了した状態の側面図。
【図5】補強コンクリートを打設する状態の説明図。
【図6】補強コンクリートの硬化後に切梁中継具を解体して回収する状態の説明図。
【図7】本発明の切梁中継具の実施例の斜視図。
【図8】鉄筋と支持脚との交差状態の説明図。
【図9】本発明の切梁中継具を使用する実施例の全体の説明図。
【符号の説明】
【0021】
1:構造物当板
2:切梁当板
3:支持脚
A:本発明の中継具
B:既設構造物
C:腹起
D:切梁
E:鉄筋
F:型枠
G:補強コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物と、その周囲の山留め壁面に配置した腹起との間に切梁を配置する場合の部材であって、
既設構造物の表面に取り付ける構造物当板と、
切梁の端面に取り付ける切梁当板と、
平行した両板の間に、直交方向に介在させる複数本の支持脚とにより構成し、
既設構造物の表面に取り付けるための構造物当板に、
支持脚の一端を解体自在に取り付け、
その支持脚の他端に、
切梁当板を解体自在に取り付けて構成した、
切梁中継具。

【請求項2】
支持脚の直径は、
構造物当板に接する側が細く、
切梁当板に接する側が太く構成した、
請求項1記載の切梁中継具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−91780(P2009−91780A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262412(P2007−262412)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(591065848)名工建設株式会社 (15)
【出願人】(593139374)株式会社エムオーテック (10)
【Fターム(参考)】