説明

列車の走行管理システム

【課題】強風時における鉄道車両の脱線を防止すべく所定区間を走行しようとする列車に対してより適格な運転規制を与え得る走行管理システムを提供する。
【解決手段】走行管理システムは、転覆限界風速を得る転覆限界風速評価部と、列車の運転に対する指令を決定し直接的及び/又は間接的に運転規制情報を与え得る列車管理装置へ向けて該指令を送信する指令決定部と、を含む。ここで指令決定部は、外部入力又は予め決定される最低走行速度での転覆限界風速を運転中止風速として運転中止指令を決定する。また、外部入力又は予め決定され且つ最低走行速度よりも速い第1規定走行速度での転覆限界風速を第1基準風速として運転中止風速との風速差が所定値以上である場合、第1基準風速で最低走行速度の徐行として徐行指令を決定する。これらは指令制御部へ与えられて列車の運転を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する列車の運転を管理するための走行管理システムに関し、特に、強風時における鉄道車両の脱線を防止すべく所定区間を走行しようとする列車に対して運転規制を与え得る走行管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
走行する列車の運転を管理する各種の走行管理システムが知られている。例えば、自動列車停止装置(ATS:Automatic Train Stop)では、列車同士の衝突事故や速度超過による鉄道車両の脱線事故を起こさぬよう、列車の運転者に警報を与えたり、列車のブレーキを強制的に作動させることなどが行われ得る。さらに、自動列車制御装置(ATC:Automatic Train Control)では、前方を走行する列車との間隔に応じて、また走行区間の規制速度条件などに応じて、許容される走行速度を列車の運転者に提示したり、列車の走行速度を自動的に制御するなどが行われる。このような走行管理システムにおいて、強風時における鉄道車両の脱線を未然に防ぐべく、所定区間毎に経験的に決定された風速以上を観測すると、該区間を走行しようとする列車に対して走行を抑止又は走行速度を規制するよう運転規制を与える処理を組み込み得る。
【0003】
ところで、線路上に移動を規制されて走行する鉄道車両において、特に、線路の延びる方向と垂直な方向に吹く風(横風)は、鉄道車両の側面に作用して脱線事故や転覆事故などを引き起こす原因となる。例えば、非特許文献1及び2には、鉄道車両の横風に対する安全性を評価する1つの指標として、横風を受けた鉄道車両が転覆を開始する風速である「転覆限界風速」を定義している。鉄道車両の側面に作用する横風による外力のモーメントは、鉄道車両のばね系を介して車体重心の左右変位及び回転変位を生じさせ、風上側の輪重を減少させる。横風の風速が増すと外力が大きくなって、やがてこの輪重はゼロとなり、さらに風速が増すと鉄道車両は転覆に至るのである。かかる輪重をゼロとする横風の風速を転覆限界風速と定義するのである。
【0004】
特許文献1では、かかる転覆限界風速を用いて、経験的に決定される強風時の運転規制の安全性を定量的に評価する方法について開示している。風速を階級分けして各階級毎の出現度数確率をワイブル分布に基づいて仮定した上で、転覆限界風速以上の強風に遭遇する確率を算出し、運転規制の安全性について定量的に評価する。これにより、経験的になされる運転規制の妥当性の1つの評価を与え得る。
【0005】
また、特許文献2では、転覆限界風速を用いて運転規制を与える運行管理方法を開示している。列車の走行区間における周囲の特有の地形を考慮して風速変動特性を求め、最大瞬間風速を予測し、これが転覆限界風速に対して上回る場合に列車に対して走行を抑止又は走行速度を規制する運転規制を与えるのである。転覆限界風速は、あらかじめ列車情報、例えば、車両形式、編成などに対応させてデータベース化され、運行管理の対象とする列車毎に、適宜、データベースから参照される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−306118号公報
【特許文献2】特開2008−275568号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日比野有、石田弘明「車両の転覆限界風速に関する静的解析法」、鉄道総研報告、第17巻、第4号、2003年4月
【非特許文献2】日比野有「風に対する車両の安定性」、鉄道総研報告、第65巻、第9号、2008年9月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、走行管理システムにおいて、強風時における鉄道車両の脱線を防止すべく、所定区間毎に経験的に決定される風速以上の風が観測されると、該区間を走行しようとする全ての列車に対して走行を抑止又は走行速度を規制する運転規制を与えるようになし得る。ところが、運転規制を与えることとなる風速は所定区間毎に経験的に求められているが、転覆限界風速が鉄道車両の重量や形状によっても異なり得るように、本来、運転規制を与えることとなる風速や運転規制の内容は鉄道車両毎にも異なるはずである。また、運転規制を一律に厳しい方向で与えることで安全性をより高める結果とはなり得るものの、過剰な運転規制は定時運行の妨げとなり、公共交通機関としての使命を考慮すれば、必ずしも好ましいこととは言えない。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、強風時における鉄道車両の脱線を防止すべく所定区間を走行しようとする列車に対してより適格な運転規制を与え得る走行管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による運行管理システムは、特定区間を走行する列車の運転を管理するための走行管理システムであって、前記特定区間における前記列車の走行速度に対する転覆限界風速を得る転覆限界風速評価部と、前記特定走行区間を走行しようとする前記列車の運転に対する指令を決定し、前記列車に対して直接的及び/又は間接的に運転規制情報を与え得る列車管理装置へ向けて前記指令を送信する指令決定部と、を含み、前記指令決定部は、外部入力又は予め決定される前記最低走行速度での前記転覆限界風速を運転中止風速として運転中止指令を決定し、及び、外部入力又は予め決定され且つ前記最低走行速度よりも速い第1規定走行速度での前記転覆限界風速を第1基準風速として前記運転中止風速との風速差が所定値以上である場合、前記第1基準風速で前記最低走行速度の徐行として徐行指令を決定し、これらを前記指令制御部へ与えて前記列車の運転を管理することを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、強風時における鉄道車両の脱線を防止すべく、所定区間を走行しようとする列車毎に多段階式の指令からなる運転規制を与え得る。すなわち、列車の運転の安全性を損なうことなく、一方で、過剰な運転規制とならないよう、きめ細かな運転規制を与え得るのである。
【0012】
上記した発明において、前記指令決定部は、外部入力又は予め決定され且つ前記第1規定走行速度よりも速い第2規定走行速度での前記転覆限界風速を第2基準風速として前記第1基準風速との風速差が所定値以上である場合、前記第2基準風速で前記第1規定走行速度の制限行として制限速度指令を決定することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、列車の運転の安全性を損なうことなく、一方で、過剰な運転規制とならないよう、よりきめ細かな運転規制を与え得るのである。
【0013】
上記した発明において、前記第1及び前記第2規定走行速度は、予め決定される速度差に基づいてこれを前記最低走行速度に加算して決定されることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、より簡便に多段階式の指令からなる運転規制を決定し得るのである。
【0014】
本発明による運行管理システムは、特定区間を走行する列車の運転を管理するための走行管理システムであって、前記特定区間における前記列車の走行速度に対する転覆限界風速を得る転覆限界風速評価部と、前記特定走行区間を走行しようとする前記列車の運転に対する指令を決定し、前記列車に対して直接的及び/又は間接的に運転規制情報を与え得る列車管理装置へ向けて前記指令を送信する指令決定部と、を含み、前記指令決定部は、外部入力又は予め決定される最低走行速度での前記転覆限界風速を運転中止風速として運転中止指令を決定し、及び、外部入力又は予め決定され且つ前記運転中止風速よりも大なる第1基準風速に対応する前記走行速度である第1規定走行速度について前記最低走行速度との速度差が所定値以上である場合、前記第1基準風速で前記最低走行速度の徐行として徐行指令を決定し、これらを前記指令制御部へ与えて前記列車の運転を管理することを特徴とする。
【0015】
かかる発明によれば、強風時における鉄道車両の脱線を防止すべく、所定区間を走行しようとする列車毎に多段階式の指令からなる運転規制を与え得る。すなわち、列車の運転の安全性を損なうことなく、一方で、過剰な運転規制とならないよう、きめ細かな運転規制を与え得るのである。
【0016】
上記した発明において、前記指令決定部は、外部入力又は予め決定され且つ前記第1基準風速よりも大なる第2基準風速を前記転覆限界風速としてこれに対応する前記走行速度である前記第2規定走行速度について前記第1規定走行速度との速度差が所定値以上である場合、前記第2基準風速で前記第1規定走行速度の制限行として制限速度指令を決定することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、列車の運転の安全性を損なうことなく、一方で、過剰な運転規制とならないよう、よりきめ細かな運転規制を与え得るのである。
【0017】
上記した発明において、前記第1及び前記第2基準風速は、予め決定される風速差に基づいてこれを前記運転中止風速に加算して前記第1基準風速に加算して決定されることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、より簡便に多段階式の指令からなる運転規制を決定し得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による走行管理システムを示すブロック図である。
【図2】本発明による走行管理システムにおける走行速度に対する転覆限界風速の評価の手順を示す図である。
【図3】車体形状の分類例を示す図である。
【図4】地上構造物の分類例を示す図である。
【図5】地上構造物の分類例を示す図である。
【図6】地上構造物の分類例を示す図である。
【図7】本発明による走行管理システムにおける運転規制の概念図である。
【図8】本発明による走行管理システムにおける運転規制の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の1つの実施例である走行管理システムについて、図1乃至図8を用いてその詳細を説明する。
【0020】
図1に示すように、走行管理システム1は、特定区間100を走行しようとする列車2の運転を管理、すなわち、線路際に設置された信号101や列車2の運転台にある車上信号102などの表示を介して間接的に列車2に運転中止や徐行の運転規制を与えたり、列車2の駆動制御系を介して運転速度を直接的に抑制させたりし得るシステムである。例えば、特定区間100の線路沿いに設けられた風速計などのセンサ103で観測される風速について、「風速30m/sで運転中止、風速25m/sで20km/hで徐行、風速20m/sで90km/hで徐行」など、多段階式の指令からなる運転規制を列車2に与え得るのである。これにより、列車2の運転の安全性を損なうことなく、一方で、過剰な運転規制とならない、きめ細かな運転規制を与え得るのである。
【0021】
詳細には、走行管理システム1は、中央制御部10を含み、これは転覆限界風速評価部11及び指令決定部12のプログラムに沿って、適宜、外部入力又は予め決定された各種パラメータを用いて各処理を行い、列車管理装置14を介して列車2に上記したような指令(運転規制)を与えるのである。
【0022】
転覆限界風速評価部11は、選択された特定区間100における列車2の走行速度に対する転覆限界風速を得るための計算処理部である。一般的に、列車2の走行速度が速いほど横風による転覆の可能性が高まるが、少なくとも転覆限界風速に与える列車2の走行速度の影響をここでは考慮している。転覆限界風速を計算的に得るためのモデルは、これに限られるものではないが、その1つとして、線路(レール)の延びる方向に対して角度を有して吹く風(横風)において、風下側の車輪とレール接触点まわりのモーメントの静的な釣り合いから輪重減少率を求めていく方法を採用し得る。ここで輪重減少率は、平地に静止した車両の輪重の左右平均である静止輪重からの減少量を静止輪重で割った比と定義される。
【0023】
詳細には、上記した非特許文献1及び2に述べられているが、典型的な剛体の転倒問題に対して、
(1)車両に作用する外力として、横風による空気力、曲線通過時の超過遠心力、車体の左右振動慣性力、
(2)台車のばねのたわみによる車体重心の左右変位、
の以上2点を考慮する。これにより、輪重減少率Dは、
【数1】

但し、
【数2】

と表現できる。ここで、
α ;超過遠心加速度[m/s2
α ;車体左右振動加速度[m/s2
;横風による横力[N]
;有効車両重心高さ[m]
BC ;有効風圧中心高さ[m]
GT ;台車重心高さ[m]
;半車体質量[kg]
;台車質量[kg]
2b ;車輪/レール接触点間距離[m]
g ;重力加速度[m/s2
;空気力係数
ρ ;空気密度[kg/m
u ;風速[m/s]
S ;半車体側面積[m2
である。すなわち、
輪重減少率D=(超過遠心力の影響項)+(左右振動慣性力の影響項)+(横風による空気力の影響項)
であって、輪重減少率Dは、超過遠心力の影響項、左右振動慣性力の影響項、及び、横風による空気力の影響項の3つの影響項の線形和で表現され得るのである。
【0024】
図2に示すように、上記した計算モデルでは、特定区間100を選択(S11)することで線形及び走行条件を決定(S12)でき、一方、特定区間100を走行する管理対象の列車2を選択(S21)することで車両諸元を決定(S22)できる。これらから、上記した輪重減少率Dの式における第1の影響項である超過遠心力の評価(S31)、及び、同式の第2の影響項である左右振動慣性力の評価(S32)を与え得る。また、特定区間100を選択(S11)したことで、地上構造物形状を決定(S13)でき、一方、特定区間100を走行する管理対象の列車2を選択(S21)したことで、車体形状を決定(S23)できる。これらから、輪重減少率Dの式の第3の影響項である空気力の評価(S33)を与え得る。その上で、輪重減少率Dの式において、D=1のとき、すなわち、風上側の輪重がゼロとなるとき、同式の第3の影響項である空気力の影響項に含まれる風速uを転覆限界風速として求め得る(S41)。
【0025】
なお、線形及び走行条件の決定(S12)において、「線形」は、大きく分けて走行区間の平面線形及び縦断面線形に関連し、例えば、曲線路の曲率の程度(直線路の場合は曲率ゼロとする。)、勾配の程度、カントにおける内側線路と外側線路の高低差の程度などの数値データである。また、「走行条件」は、列車の走行速度に関連し、例えば、許容最高走行速度などの数値データである。
【0026】
また、車両諸元の決定(S22)において、「車両諸元」は、列車の車両編成及び各車両の諸元、例えば、車両重量、台車重量、静止輪重、車両重心高さなどに関する数値データである。
【0027】
上記輪重減少率Dの式からの転覆限界風速を列車2の走行速度に対応させて算出する1つの方法として、いくつかのパラメータの仮定を与えることが好ましい。例えば、線形及び走行条件の決定(S12)及び車両諸元の決定(S22)により得られる車両重心高さh及び風圧重心高さhBCからそれぞれ有効車両重心高さh及び有効風圧中心高さhBCを仮定する。また、車体中心高さから風圧中心高さhBCを仮定する。空気力係数C、及び、左右振動加速度αについては、経験的仮定に加え実験的な仮定をも与え得る。これにより転覆限界風速を容易に求められるのである。
【0028】
ところで、輪重減少率Dの式において、第3の影響項である空気力の影響項の寄与は他の影響項に比べて大きくなるが、故に、空気力係数Cの決定の影響が輪重減少率Dに相対的に大きく寄与する。ここでは、空気力係数Cの算出方法として、列車2の走行を加味した上で、風が車体側面にどのように吹き付けるかの計算を行って、及び/又は、風洞試験による模型試験結果を行って算出する。
【0029】
この空気力係数Cの算出において、列車2の車体断面形状を図3(a)〜(e)に示すような5種類に単純化して分類することで、計算及び/又は模型試験を典型化できる。また、特定区間100の地上構造物についても、図4のような盛り土、図5のような複線高架橋、図6のような単線橋梁などに単純化して分類し、計算及び/又は模型試験を典型化できる。特に、図5の複線高架橋及び図6の単線橋梁では、桁の厚みXを考慮することで、空気力係数Cの算出をより容易に且つ実用的に典型化できる。
【0030】
つまり、車体形状の決定(S23)では、列車2の車体形状を図3(a)〜(e)の車体断面形状から選択できるように外部入力を求め、若しくは、予め選択しておく。また、地上構造物形状の決定(S13)では、特定区間100の地上構造物形状を図4〜図6の地上構造物形状から選択できるように外部入力を求め、若しくは、予め選択しておく。かかる典型分類を用いることで、空気力の評価(S33)における空気力係数Cの算出を典型化且つ容易化できて、結果として、転覆限界風速の評価(S41)を容易に出来るのである。
【0031】
また、更なる例として、上記した非特許文献2にも述べられているように、風下側の車輪/レール接触点まわりのモーメントの静的な釣り合いから輪重減少率Dを求めるにあたって、
(1)車体重心の変位量については、ばね系モデルを導入し、台車の構造に応じた、例えば、台車のストッパ当たりの有無などを判別しながら、ポテンシャルエネルギーの釣り合いからに左右変位とロール変位を求める。
(2)空気力については、横力、揚力、ローリングモーメントを考慮し、空気力係数及び風圧中心高さに風洞試験による結果を用いる。
(3)車両の走行速度に応じて風向角及び風速を補正する。
(4)左右振動加速度については、実測値若しくは走行速度に比例し最高速度で、0.98[m/s2]となる一次式を仮定する。
ことができる。これによれば、車体形状の影響、台車構造の影響、走行速度の影響、空気力の風向角依存性などの影響を更に詳細に評価し得る。
【0032】
次に、指令決定部12は、転覆限界風速評価部11で得られた特定区間100における列車2の走行速度に対する転覆限界風速をもとに、列車2に与えるべき指令を決定するための計算処理部である。
【0033】
まず、特定区間100の走行における最低走行速度Vmin、及び、単数又は複数の規定走行速度V(n=1,2,3…、Vn+1>V)を外部入力又は予め決定しておいた値を用いて定める。なお、規定走行速度VとVn+1との間の差ΔVを外部入力又は予め決定しておいて、規定走行速度V=最低走行速度Vmin+n×ΔVの関係式によって求めることとしてもよい。
【0034】
図7には、走行速度に対する転覆限界風速を実線50として模式的に示した。一般的には、実線50は単調減少を示す。まず、最低走行速度Vminのときの転覆限界風速はvminで示される。同様に、走行速度V、V、及び、Vのときの転覆限界風速は、それぞれv、v、及び、vで示される。すなわち、風速がVであっても、走行速度vで同区間を走行すれば転覆の危険性が少ないことを表している。かかる場合、風速vminを観測されると運転中止、風速vを観測されるとVminで徐行(図中の○印51が対応)、風速vを観測されるとVで徐行(図中の○印52が対応)、風速vを観測されるとVで徐行(図中の○印53が対応)の指令となる。なお、指令に当たっては、安全率を確保して、観測される風速vmin、v、vを小さく、また規定走行速度V、V、Vを小さめにしてもよい。
【0035】
ここで、実線50の勾配が小さいとき、すなわち走行速度に対する転覆限界風速の変化の小さいときや、Vmin、V、V、及び、Vの間隔が小さいとき、vminとv、vとv、vとvの間の差が小さくなり、観測される風速により頻繁に指令の変更を行うこととなる。かかる場合は、vminとv、vとv、vとvの間の差が所定値に達しない場合の走行速度Vと風速vの組み合わせを省略することが好ましい。すなわち、例えば、vとvの間の差が所定値よりも小さい場合、走行速度と転覆限界風速との組み合わせについて、Vminとvmin、Vとv、及び、Vとvを採用する。かかる場合、風速vminを観測されると運転中止、風速vを観測されるとVminで徐行、風速vを観測されるとVで徐行の指令となる。
【0036】
更に、図8は、特定区間100が曲線路である場合の走行速度に対する転覆限界風速の典型例である。列車2が曲線路の内側に転覆し得る場合(内方転覆)と外側に転覆し得る場合(外方転覆)とのそれぞれについて、転覆限界風速を走行速度に対して表した。ここで内方転覆する転覆限界風速は、外方転覆する転覆限界風速と比較して、走行速度の遅い場合に小さく、走行速度の速い場合に大きくなる。すなわち、走行速度が速いと遠心力が寄与して外方転覆しやすくなるためである。
【0037】
あらかじめ定めた最低走行速度Vminが20[km/h]のとき、内方転覆し得る転覆限界風速は30[m/s]である。次に、あらかじめ定めた規定走行速度Vが50[km/h]のとき、内方転覆し得る転覆限界風速は25[m/s]である。また、あらかじめ定めた第2の規定走行速度Vが80[km/h]のとき、外方転覆し得る転覆限界風速は20[m/s]である。なお、内方転覆し得る転覆限界風速は23[m/s]であり、内方転覆若しくは外方転覆のうちの小さい方の転覆限界風速を採用する。かかる場合、風速30m/sで運転中止、風速25m/sで20km/hで徐行、風速20m/sで50km/hで徐行の指令となる。
【0038】
列車管理装置14は、図1を併せて参照すると、特定区間100の線路沿いに設けられた風速計などのセンサ103で観測される風速について逐次情報を収集し、特定区間100を走行しようとする列車2を特定し、この運転を管理することとなると、上記した転覆限界風速評価部11及び指令決定部12により得られる指令に基づいて、適宜、列車2に運転規制を与える。運転規制は、観測された風速に基づいた指令について、線路際に設置された信号101や列車2の運転台にある車上信号102などの表示を介して間接的に列車2に運転中止や徐行の運転規制を与えたり、列車2の駆動制御系を介して運転速度を直接的に抑制させたりし得る。
【0039】
なお、風速に関して、vmin、v、v、及び、vを外部入力又は予め決定しておいて、これらから上記したと同様に、対応する規定走行速度Vmin、V、V、Vを決定してもよい。かかる場合も、走行速度V、V、及び、Vのときの転覆限界風速がそれぞれv、v、及び、vで示され、運転規制等を与えることが出来るのである。
【0040】
上記した実施例によれば、強風時における脱線を防止すべく、所定区間100を走行しようとする列車2に多段階式の指令からなる運転規制を与え得る。すなわち、列車2の運転の安全性を損なうことなく、一方で、過剰な運転規制とならないよう、きめ細かな運転規制を与え得るのである。
【0041】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した請求項の範囲を逸脱することなく種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0042】
2 列車
11 転覆限界風速評価部
12 指令決定部
14 列車管理装置
100 特定区間
101 信号
102 車上信号


【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定区間を走行する列車の運転を管理するための走行管理システムであって、
前記特定区間における前記列車の走行速度に対する転覆限界風速を得る転覆限界風速評価部と、
前記特定走行区間を走行しようとする前記列車の運転に対する指令を決定し、前記列車に対して直接的及び/又は間接的に運転規制情報を与え得る列車管理装置へ向けて前記指令を送信する指令決定部と、を含み、
前記指令決定部は、外部入力又は予め決定される最低走行速度での前記転覆限界風速を運転中止風速として運転中止指令を決定し、及び、外部入力又は予め決定され且つ前記最低走行速度よりも速い第1規定走行速度での前記転覆限界風速を第1基準風速として前記運転中止風速との風速差が所定値以上である場合、前記第1基準風速で前記最低走行速度の徐行として徐行指令を決定し、これらを前記指令制御部へ与えて前記列車の運転を管理することを特徴とする走行管理システム。
【請求項2】
前記指令決定部は、外部入力又は予め決定され且つ前記第1規定走行速度よりも速い第2規定走行速度での前記転覆限界風速を第2基準風速として前記第1基準風速との風速差が所定値以上である場合、前記第2基準風速で前記第1規定走行速度の制限行として制限速度指令を決定することを特徴とする請求項1記載の走行管理システム。
【請求項3】
前記第1及び前記第2規定走行速度は、予め決定される速度差に基づいてこれを前記最低走行速度に加算して決定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行管理システム。
【請求項4】
特定区間を走行する列車の運転を管理するための走行管理システムであって、
前記特定区間における前記列車の走行速度に対する転覆限界風速を得る転覆限界風速評価部と、
前記特定走行区間を走行しようとする前記列車の運転に対する指令を決定し、前記列車に対して直接的及び/又は間接的に運転規制情報を与え得る列車管理装置へ向けて前記指令を送信する指令決定部と、を含み、
前記指令決定部は、外部入力又は予め決定される最低走行速度での前記転覆限界風速を運転中止風速として運転中止指令を決定し、及び、外部入力又は予め決定され且つ前記運転中止風速よりも大なる第1基準風速に対応する前記走行速度である第1規定走行速度について前記最低走行速度との速度差が所定値以上である場合、前記第1基準風速で前記最低走行速度の徐行として徐行指令を決定し、これらを前記指令制御部へ与えて前記列車の運転を管理することを特徴とする走行管理システム。
【請求項5】
前記指令決定部は、外部入力又は予め決定され且つ前記第1基準風速よりも大なる第2基準風速を前記転覆限界風速としてこれに対応する前記走行速度である前記第2規定走行速度について前記第1規定走行速度との速度差が所定値以上である場合、前記第2基準風速で前記第1規定走行速度の制限行として制限速度指令を決定することを特徴とする請求項4記載の走行管理システム。
【請求項6】
前記第1及び前記第2基準風速は、予め決定される風速差に基づいてこれを前記運転中止風速に加算して決定されることを特徴とする請求項4又は5に記載の走行管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−82255(P2013−82255A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221955(P2011−221955)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】