説明

列車制御装置

【課題】速度発電機を用いて列車位置を検知するとともに、地上子と車上子とが対向して結合したときにその検知された列車位置を補正して所定の列車制御を行う列車制御装置において、補正に伴う列車間隔が急変しないようにする。
【解決手段】地上子よりも列車の進行方向側の所定の軌道に互いに走行長さの異なる複数の経路からなる特定の区間を含むとき、それら複数の経路の走行長さの差分の長さとその特定の区間内におけるその地上子からの列車位置とに基づいてその列車の進行方向と反対側の列車後方に安全バッファ量を付加する安全バッファ量付加手段を設けることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は列車制御装置に係り、特に、列車の車軸に接続された速度発電機を用いて列車位置を検知し、その検知されたて列車位置検知に基づいて列車制御を行う列車制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の軌道を走行する列車を制御するに当たっては、その軌道上における列車位置を検知することが不可欠であり、この列車位置検知装置としては、速度発電機(TG(タコジェネレータ))式の列車位置検知装置が知られている(特許文献1,2参照)。この速度発電機式の列車位置検知装置は、列車の車軸に速度発電機を接続し、その速度発電機から出力されるパルス状の出力信号に基づいて自列車の列車速度、自列車の走行距離及び自列車位置を検知するように構成されている。
【0003】
上記速度発電機式の列車位置検知装置を用いた列車制御装置は、車上(列車)で得られた列車位置情報を無線を用いて地上に設けられた地上装置に送信し、その列車位置情報を受信した地上装置で列車制御を行うようにすることも提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
上述の速度発電機式の列車位置検知装置を用いた列車制御装置は、列車位置計算の基礎となる車輪径の設定誤差、車輪の空転による誤差及び車輪の滑走による誤差により、検知誤差が発生する性質を有している。このため、従来の速度発電機式の列車位置検知装置を用いた列車制御装置は、列車に設けられている車上子が地上の所定位置に設けられている地上子と対向して結合したときに検知誤差を補正するようにしている。すなわち、その地上子からは、絶対位置情報が得られるので、車上子が地上子との結合したときに速度発電機式の列車位置をその地上子位置に補正することで発生した検知誤差の解消を図っている。
【特許文献1】特開平4−161815号公報
【特許文献2】特開2000−247235号公報
【特許文献3】特開昭64−69129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の速度発電機式の列車位置検知装置を用いた列車制御装置は、列車の前方(列車の走行方向側)及び列車の後方(列車の走行方向と反対側)の両方に最悪値で確保された防護区間を有しているため、列車間隔が大きくなり列車制御の効率が低下するおそれがあった。すなわち、速度発電機の検知誤差に対する安全のために確保される防護区間は、最悪値で設定されるので、列車間隔が大きくなり列車制御の効率が低下するおそれがあった。
【0006】
また、速度発電機式の列車位置検知装置では、発生した検知誤差を車上子が地上子と結合したときに補正するようにしているが、この地上子は、列車の進行方向に対して所定の長さ(例えば560mm)を有しているので、列車の走行速度に対応した距離(長さ)の応動範囲を有している。しかし、従来の速度発電機式の列車位置検知装置を用いた列車制御装置は、この応動範囲を加味した列車位置の補正が行われていなかった。このため、この応動範囲を加味した列車位置の補正が望まれていた。
【0007】
さらに、速度発電機式の列車位置検知装置を用いた列車制御装置は、上述のように、速度発電機で発生した検知誤差は、車上子が地上子と結合したときに補正されるが、その補正の距離の値が大きいと列車間隔が急激に変化し、乗り心地が損なわれる等の不都合が発生するおそれがあった。例えば、車上子が地上子と結合したときに、自列車位置が前方に大きく補正されたときは、自列車の停止点までの距離が急激に小さくなって急激に制動が働くおそれがあった。また、車上子が地上子と結合したときに、自列車位置が後方に大きく補正されたときは、後続列車の停止点までの距離が急激に小さくなってその後続列車において急激に制動が働くおそれがあった。
【0008】
さらにまた、例えば、軌道の途中に複線のような長さの異なる経路を有するとき、同一の地上子を基準として走行した場合に、どちらの経路を走行したかにより列車位置に誤差が生じ、この誤差を考慮した安全バッファの設定が望まれていた。図6(a),(b)の説明図を用いてさらに説明すると、同図(a)には、軌道Tの途中にA線及びそのA線よりも走行距離の長いB線からなる複線を含む路線図が示されている。そして、この路線図において、列車Xが基準点となる地上子a0を通過してB線を走行後、その列車Xに続く後続の列車YもそのB線を追従走行した場合は、先行列車Xが次の地上子aで列車位置が進行方向と反対方向側の後方に補正されると、列車X及び列車Yの列車間隔が急激に減少し、後続の列車Yの停止点距離が急減するという事態が発生する。また、同図(b)に示される列車走行においては、すなわち、列車Xが基準点となる地上子a0を通過してB線を走行後、後続の列車YがA線から出発した場合は、先行列車Xの検知位置が実際の列車位置よりも進行方向と同方向側の前方になり、列車X及び列車Yの実際の列車間隔が小さくなるという事態が発生する。
【0009】
そこで、本発明は、上記欠点を解決するためになされたものであって、その目的は、従来の最悪値で確保された余裕距離(防護区間)を小さくできるようにして列車間隔を効率的に制御できるようにするとともに、車上子と地上子との結合時の応動範囲を加味して列車位置を検知できるようにし、さらに、車上子が地上子と結合したときに大きく補正されることがないようにし、さらにまた、軌道の途中に長さの異なる経路を有する場合に、列車の進行方向と反対方向側の後方に安全バッファを拡張設定できるようにした列車制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る列車制御装置は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、所定の軌道を走行する列車の車軸に接続された速度発電機の出力信号を用いて列車位置を検知するとともに、その検知された列車位置をその所定の軌道の所定の位置に設けられている地上子とその列車に設けられている車上子とが対向して結合したときにその検知された列車位置を補正して所定の列車制御を行う列車制御装置において、前記地上子よりも列車の進行方向側の所定の軌道に互いに走行長さの異なる複数の経路からなる特定の区間を含むとき、それら複数の経路の走行長さの差分の長さとその特定の区間内におけるその地上子からの列車位置とに基づいてその列車の進行方向と反対方向側の後方に安全バッファ量を付加する安全バッファ量付加手段を設けたことを特徴としている。
請求項2に記載の列車制御装置は、付加される安全バッファ量は列車の車軸に接続された速度発電機の出力信号を用いて列車の後方に付加された本来の安全バッファ量に拡張して設けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に記載の列車制御装置は、地上子よりも列車の進行方向側の所定の軌道に互いに走行長さの異なる複数の経路からなる特定の区間を含むとき、それら複数の経路の走行長さの差分の長さとその特定の区間内におけるその地上子からの列車位置とに基づいてその列車の進行方向と反対方向側の後方に安全バッファ量を付加する安全バッファ量付加手段を設けたので、先行列車及び後続列車の列車間隔が急激に減少し、後続列車の停止点距離が急減することが無くなり、また、先行列車及び後続列車の実際の列車間隔が小さくなっても、安全を確保することができるとともに、列車間隔の急変が無いので、乗り心地が損なわれることを防止することができる。
請求項2に記載の列車制御装置は、付加される安全バッファ量は列車の車軸に接続された速度発電機の出力信号を用いて列車の後方に付加された本来の安全バッファ量に拡張して設けられるので、より安全性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る列車制御装置の概略構成図であり、図中、Tは列車イの走行する軌道であって、鉄車輪を有する列車の場合は、レールによって構成されている。なお、本発明で列車というときは、電車や気動車等の各種車両を含んでいる。
【0013】
図1中、1は、列車イに搭載された車上装置であって、この車上装置1には、選択処理部2及び車上制御部3が含まれている。この選択処理部2には、列車イの複数の独立した車軸(図示の例では4本の車軸)にそれぞれ接続されている速度発電機(TG(タコジェネレータ))G1〜G4が接続されていて、これら速度発電機G1〜G4から出力されるパルス状の出力信号を入力できるように構成されている。なお、これら速度発電機G1〜G4は、速度発電機を取り付けている車軸が同時に空転,滑走が生じないように配慮して列車イの各車両に分散して設けられている。また、図示の例では、速度発電機を4個としているが、2個以上であれば採用することができる。しかし、図示のように、各車両に互いに離して2個ずつ速度発電機を設けるようにすると、車軸が同時に空転,滑走が生じないように配慮して設けることが可能となる。
【0014】
上記選択処理部2は、各速度発電機G1〜G4から入力された信号(LTG1〜LTG4)の中から最も大きな値の信号である最大値LTG.max(=MAX(LTG1〜LTG4))を選択できるように構成されている。この各速度発電機G1〜G4から出力される信号(LTG1〜LTG4)のパルス数は、列車イの移動距離の大きさを意味しているので、この選択された最大値LTG.maxは、各速度発電機G1〜G4で計測された移動距離のうち、最大移動距離を意味している。また、この選択処理部2は、各速度発電機G1〜G4から入力された信号(LTG1〜LTG4)の中から最も小さい値の信号である最小値LTG.min(=MIN(LTG1〜LTG4))を選択できるようにも構成されている。この各速度発電機G1〜G4から出力される信号(LTG1〜LTG4)のパルス数は、列車イの移動距離の大きさを意味しているので、この選択された最小値LTG.minは、各速度発電機G1〜G4で計測された移動距離のうち、最小移動距離を意味している。そしてこの選択された最大移動距離の最大値LTG.max及び最小移動距の最小値LTG.minは、アンテナ4aを備えた送受信部4を介して後述する地上制御部に送信されるように構成されている。
【0015】
上記車上制御部3は、送受信部4を介して地上制御部に接続されていて、その地上制御部から送信されてきた所定の制御信号に基づいて速度制御等の所定の列車制御信号を出力できるように構成されている。また、この車上制御部3には、地上に設けられている地上子aから位置情報を入手するための車上子bが接続されている。すなわち、この車上子bは、列車イの先頭下部で、かつ、その列車イが進行したときに地上子aと対向できる位置に設けられている。したがって、車上制御部3は、車上子bと地上子aとが対向して結合したときに、その地上子aから軌道Tにおける列車イの絶対位置を示す所定の位置情報を入手することができる。
【0016】
図1中、10は、アンテナ10aを備えた送受信部であり、地上の所定位置に設けられている地上制御部11に接続されている。この地上制御部11は軌道Tの所定範囲内を走行する列車を統括的に制御できるように構成されている。そして、この地上制御部11は、図示の軌道Tに隣接する軌道の所定範囲内を走行する列車を統括的に制御する他の地上制御部(図示せず)と連繋をとりながら列車制御を行うことができるように構成されている。
【0017】
上記構成からなる列車制御装置の列車位置検知制御動作を図2のフローチャート及び図3の説明図を用いて説明する。今、列車イは、図1に示されるように、軌道Tを左側から右側へ、すなわち地上子a側へ走行しているものとする。この走行中、選択処理部2には、速度発電機G1〜G4から出力されるパルス状の出力信号が入力され、その入力された信号の中から列車イの移動距離の最も大きい信号を示す最大値LTG.maxと、その入力された信号の中から列車イの移動距離の最も小さい信号を示す最小値LTG.minとが選択される(ステップ100。以下、ステップを「S」とする。)。そして、その選択された最大値LTG.max及び最小値LTG.minは、送受信部4及び送受信部10を介して地上制御部11に送信される。
【0018】
車上(列車イ)側から最大値LTG.max及び最小値LTG.minを受信した地上制御部11では、車上子bと地上子aとが対向して結合するまで(S102、S104否定)、最大値LTG.maxに基いて列車イの先頭位置が求められる。すなわち、地上制御部11では、車上側から信号を受信する毎に前回求められていた先頭位置に今回求められた最大値LTG.maxを加算して更新し、列車イの先頭位置が求められる(S106、S108)。
【0019】
列車イの先頭位置が求められると、地上制御部11では、その列車イの所定の停止点までの距離を算出し(S110)、その所定の停止点までの列車速度等の所定の列車制御信号が生成される。そして、その生成された列車制御信号は、送受信部10及び送受信部4を介して車上制御部3に送信される。したがって、列車イは、その受信された列車制御信号に基いて制御される(S112)。
【0020】
上述の列車イの先頭位置の算出について、図3を用いてさらに説明すると、この図3におけるa0は、図1の地上子aの位置よりも左側に位置している図1には示されていない地上子である。したがって、この図3の列車イは、この地上子a0と車上子bとが結合した位置を基準に速度発電機G1〜G4からの信号に基く走行距離の算出が行われる。なお、ここでは、この基準となる位置は地上子aの位置よりも内方に位置する地上子a0であるが、列車イが始発駅等の所定の出発点から出発するときは、その出発点が基準位置とされる。そして、列車イの先頭位置(図3の(A)の位置)は、上述したようにその基準位置を基準位置として最大値LTG.maxに基いて決められるので、その列車イの先頭位置は、ΣLTG.maxとして求められる。
【0021】
上述のようにして列車イの先頭位置が求められると、地上制御部11では、その列車イの所定の停止点を把握しているので、その停止点を終端とする走行パターンを生成し、その走行パターンに沿って列車制御を行うこととなる。なお、図3においては、停止点を軌道終端としているが、その列車イの前方に列車が在線しているときは、その前方列車の最後尾位置が停止点となり、あるいは、前方に列車イの停車駅があるときは、その停車駅の停車位置が停止点となる。
【0022】
図2のフローチャートでは省略されているが、車上子bと地上子aとが対向して結合するまでの列車イの最後尾位置の算出は、図3に示されるようにして行われる。すなわち、列車イの最後尾位置は、上述のようにして求められた列車イの先頭位置(ΣLTG.max)から速度発電機G1〜G4から得られた最小値LTG.minの総和(ΣLTG.min)を減じて得られた差分距離△L(=ΣLTG.max−ΣLTG.min)を列車イの最後尾位置に加算してその列車イの最後尾位置とされる(図3の(B)の位置)。したがって、列車イに後続する列車ロは、列車イの最後尾位置(B)を停止点として列車制御が行われる。このように、列車イの最後尾位置が速度発電機G1〜G4の出力値の最大値LTG.max及び最小値LTG.minから想定される位置誤差の範囲から簡易的に推定されるため、従来の最悪値として確保していた余裕距離よりも小さくすることができ、列車間隔を効率的に制御することが可能となる。
【0023】
次に、列車イに設けられている車上子bが地上子aと対向して結合したときについて説明する。車上子bと地上子aとが対向して結合したときは(S104否肯定)、列車イは、地上子aから軌道T上の絶対位置が得られるので、それまでの速度発電機G1〜G4からの信号に基づく列車イの先頭位置がその絶対位置に基いて補正される(S114、S116)。そして、列車イの最後尾位置も、それまでの速度発電機G1〜G4からの信号に基づく列車イの最後尾位置がその絶対位置に基いて補正される(S118)。
【0024】
図4は、列車イに設けられている車上子bが地上子aと対向して結合したときのその列車イの前後に付加される防護区間を説明している。上述したように、地上子は、列車の進行方向に対して所定の長さ(例えば560mm)を有しているので、列車の走行速度に対応した距離(長さ)の応動範囲を有している。図4の車上子b,b′,b″は、この順序で地上子a上を移動していることを示していて、「b」の位置が結合を開始した位置であり、「b″」の位置が結合を終了した位置であり、そして「b′」の位置が結合の中心位置を示している。
【0025】
図4の(1)は、車上子bが地上子aと結合を開始したときの列車イが実線で示される位置のとき、破線で示される列車位置に列車イが位置しているとみなされることを示している。また、図4の(2)は、車上子bが地上子aと結合を終了するときの列車イが実線で示される位置のとき、破線で示される列車位置に列車イが位置しているとみなされることを示している。このことから、図4(3)の破線で示されるように、車上子bと地上子aとが結合中、列車イの前後にL1,L2に相当する距離を前後に付加すると、列車イの前後を防護することが分かる。そこで、地上制御部11では、列車の先頭位置を車上子b及び地上子aが対向して結合したとき、応動範囲の1/2の長さ分だけ前方に補正し、その列車の最後尾位置をその応動範囲の1/2の長さ分だけ後方に補正するようにしている。これにより、列車の前後の防護を効果的に図ることができる。
【0026】
図5(a),(b)は、車上子bと地上子aとが結合したときに大きな距離補正が発生しないようにした補正手段を説明するための説明図である。先ず、図5(a)は、実線で示される列車イが前回の基準となる地上子a0から今回の地上子aまで走行したことを示している。そして、破線で示される列車イは、速度発電機G1〜G4の出力信号に基いて求められた計算上の列車位置を示している。したがって、この場合の補正は、車上子bと地上子aとが結合したときに、計算上の列車位置(破線で示される列車イの位置)に実線で示される列車イまでの距離(+L)が加算する形で行われる。
【0027】
また、図5(b)は、上記図5(a)と同様に、実線で示される列車イは前回の基準となる地上子a0から今回の地上子aまで走行したことを示している。そして、破線で示される列車イ′は、速度発電機G1〜G4の出力信号に基いて求められた計算上の列車位置を示している。したがって、この場合の補正は、車上子bと地上子aとが結合したときに、計算上の列車位置(破線で示される列車イ′の位置)に実線で示される列車イまでの距離(−L)を減算する形で行われる。
【0028】
ところで、上記図5(a)の加算距離(+L)は、列車イの走行中に発生した定常的な誤差であり、同様に、上記図5(b)の減算距離(−L)も列車イの走行中に発生した定常的な誤差である。したがって、地上制御部11では、その補正がその列車イを進行方向へ誤差分(+L)だけ移動するとき、その列車イの最後尾位置をその誤差分(+L)だけその列車イの進行方向と反対方向へ補正し、その補正がその列車の進行方向と反対方向側へその誤差分(−L)だけ移動するとき、その列車イの先頭位置をその誤差分(−L)だけその列車イの進行方向側へ補正するようにしている。したがって、列車イが次の地上子と結合したときは、定常的に発生する誤差を無くすことができ、仮に発生しても、その誤差を小さくすることができる。
【0029】
上述のように、本発明に係る列車制御装置は、定常的に発生する誤差を解消することができるので、車上子bと地上子aとが結合したときに大きな距離補正が行われないから、自列車の停止点までの距離が急激に小さくなって急激な制動が働くおそれを未然に防止することができる。また、車上子が地上子と結合したときに自列車位置が後方に大きく補正されないから、後続列車の停止点までの距離が急激に小さくなってその後続列車で急激な制動が働くことを未然に防止することができる。
【0030】
次に、図6(a),(b),(c)を用いて、軌道Tの途中にA線及びB線の複線部分を含み、その複線の分岐点から合流点までの走行距離が異なるときの検知誤差に対する安全バッファの拡張について説明する。図示の例では、基準点となる地上子a0の内方の軌道Tの途中に、A線及びそのA線よりも走行距離の長いB線からなる複線を含む路線が示されている。したがって、同図(a)では、列車Xが基準点となる地上子a0を通過してB線を走行後、その列車Xに続く後続の列車YもB線を追従走行した場合は、先行列車Xが次の地上子aで列車位置が進行方向と反対方向側の列車の後方に補正されると、列車X及び列車Yの列車間隔が急激に減少し、後続の列車Yの停止点距離が急減するという事態が発生してしまう。また、同図(b)では、列車Xが基準点となる地上子a0を通過してB線を走行後、後続の列車YがA線から出発した場合は、先行列車Xの検知位置が実際の列車位置よりも進行方向と同方向側の列車の前方になり、列車X及び列車Yの実際の列車間隔が小さくなってしまう事態が発生してしまう。
【0031】
そこで、本発明においては、上述の停止点距離の急減に対処するため、及び実際の列車間隔が小さくなってしまうことに対処するため、図6(c)に示されるような安全バッファ量(長さ)Eを設定するようにしている。すなわち、この安全バッファ量Eは、先行列車Xの後方に、本来の安全バッファ量Sの他にこの本来の安全バッファ量Sに加算(付加)される形で拡張される。なお、ここで、本来の安全バッファ量Sとは、上述した速度発電機G1〜G4からの信号に基づく安全性を考慮して設定される列車の最後尾位置を意味している。
【0032】
上述の安全バッファ量Eは、自列車がA線及びB線からなる複線区間の特定の区間である特定のセグメントを走行していることを把握しているので、このセグメント内のA線及びB線の走行距離の差分の長さに相当する必要補正量Cと、基準点となる地上子a0からのセグメント内の自列車(列車X)位置Pとに基づいて下式によって求められる。
E=C×(P/L)
但し、Lは特定のセグメントの長さである。
例えば、図6(a),(b)に示される路線図において、B線の長さがA線よりも2m長く、したがって必要補正量Cが2mで、セグメントLの長さが100mの場合は、その拡張される安全バッファ量Eは、E=(2m)×(P/100m)となり、セグメントLを走行終了した時点における拡張される安全バッファ量Eは2mとなる。図6(c)の右側における列車Xは、このセグメントLを走行終了した状態を示している。また、同図(c)の中間の列車Xは、セグメントLの途中の安全バッファ量Eの状態を示し、そして同図(c)の左側における列車Xは、未だ安全バッファ量Eが拡張されていないセグメントLに進入する前の状態を示を示している。
【0033】
上述のように、先行列車Xの後方に安全バッファ量Eが拡張されると、列車X及び列車Yの列車間隔が急激に減少し、後続の列車Yの停止点距離が急減することが無くなり、また、列車X及び列車Yの実際の列車間隔が小さくなっても安全を確保することができ、さらに、列車間隔の急変が無いので、乗り心地が損なわれることを未然に防止することができる。
【0034】
なお、上述の例では、列車制御を司る列車制御装置の機能を地上に設けられた地上制御部(地上装置)に持たせたが、この機能を車上装置に持たせることもできる。この場合は、車上で検知された自列車位置は、無線通信等の伝送手段を介して地上装置に送信される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態に係る列車制御装置の概略構成図である。
【図2】列車位置検知制御動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】列車の先頭位置及び最後尾位置決定の説明図である。
【図4】車上子と地上子との結合時における列車位置の説明図である。
【図5】車上子と地上子との結合時における補正制御動作を説明するための説明図である。
【図6】(a),(b)は、軌道の途中に複線部分を含むときの検知誤差の発生を説明する説明図、(c)は、その検知誤差に伴う安全バッファ設定の説明図である。
【符号の説明】
【0036】
T 軌道(レール)
a,a0, 地上子
イ,イ′,ロ,X,Y 列車
1〜G4 速度発電機
b,b′,b″ 車上子
1 車上装置
2 選択処理部
3 車上制御部
4 送受信部
4a アンテナ
10 送受信部
10a アンテナ
11 地上制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軌道を走行する列車の車軸に接続された速度発電機の出力信号を用いて列車位置を検知するとともに、その検知された列車位置をその所定の軌道の所定の位置に設けられている地上子とその列車に設けられている車上子とが対向して結合したときにその検知された列車位置を補正して所定の列車制御を行う列車制御装置において、
前記地上子よりも列車の進行方向側の所定の軌道に互いに走行長さの異なる複数の経路からなる特定の区間を含むとき、それら複数の経路の走行長さの差分の長さとその特定の区間内におけるその地上子からの列車位置とに基づいてその列車の進行方向と反対側の列車後方に安全バッファ量を付加する安全バッファ量付加手段を設けたことを特徴とする列車制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の列車制御装置において、前記付加される安全バッファ量は、前記列車の車軸に接続された速度発電機の出力信号を用いて列車後方に付加された本来の安全バッファ量に拡張して設けられることを特徴とする列車制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−211903(P2011−211903A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139906(P2011−139906)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【分割の表示】特願2006−311052(P2006−311052)の分割
【原出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】