説明

列車運行指令装置

【課題】民鉄規模のダイヤに対応したダイヤ予測処理を実現し、ユーザインターフェイスの面でも指令員が操作しやすいシステムを提供する。
【解決手段】制約伝播方式を用いて出力する民鉄規模の予測ダイヤには、接続待ち制約、分割・併合制約等の制約を盛り込み、速度規制時の駅間走行時分で運行予測を行わせる為に、駅間毎に臨速値を設定する機能及び、駅混雑度を考慮した駅停車時分で運行予測を行わせる為に、番線毎に混雑度を設定する機能を持たせることにより、指令員が入力する情報も加味した予測ダイヤ作成を行うことを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の運行を監視、制御する列車運行管理システムにおいて用いられ、指令員が列車運行を監視、運転整理を行うために使用する列車運行指令装置に関し、計画ダイヤに対する運行実績データをチェックし、指令員が入力した情報も加味した運行予測ダイヤを表示する列車運行指令装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の列車運行指令装置は、制約伝播方式を用いているが、地下鉄向けの全区間複線であるため列車種別も少なく、主機能がダイヤ予測機能ではなく、予測データを用いた列車群管理機能を主な機能として操作者に提示しており、スジ画面の見易さ、画面の操作性、外乱入力機能に関しては乏しいものであった。
【0003】
現在、運行乱れの原因となっている遅延列車とその影響を受ける影響列車、及び、予測される運行乱れを解決するための運転整理提案を指令員に提示する場合に、例えば高密度路線等では、遅延列車、影響列車等の情報をスジ画面で指令員に提示すると、それらは表示面上で見づらく、一目で区別して認識しにくいものがあり、状況の判断が難しい。
【0004】
下記の特許文献1には、運転整理案の自動生成を実行する運転整理部と、列車ダイヤをダイヤ図として表示するダイヤ図表示部と、ユーザーからのパラメータ入力を受け付けるGUI表示部と、線形式や論理式、集合演算などで記述される数理モデルを解くための汎用ライブラリである数理計画実行部を有する運転整理支援システムにおいて、列車ダイヤに乱れが発生した際に、優先して走行させる優先列車の設定と優先列車の遅延量の限界値の設定を、GUI表示部を介して実行し、優先列車の遅延時分が遅延量の限界値以下となるような整理案を作成するとともに、整理案通りに走行させた場合の列車の到着・出発時刻を算出して、結果をダイヤ図表示部によりダイヤ図として表示する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−189272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この特許文献1に記載した技術においては、以下の3つの課題がある。
(課題1)列車ダイヤをダイヤ図として表示するダイヤ図表示部とあるが、詳細が記載されていないことから、民鉄のような高密度で多種の列車種別が存在するようなダイヤを見易く表示することが可能であるか不明である。
【0007】
(課題2)ユーザーからのパラメータ入力を受け付けるGUI表示部の詳細が記載されていないことから、何のパラメータを用いて予測ダイヤをどのように高精度にするか不明である。
【0008】
(課題3)以下を制約条件として定義しているが、以下の制約条件のみでは民鉄ダイヤには対応できない。
(1)早発禁止制約:計画出発時刻より早く出発してはならない。
(2)駅間走行時分制約:駅間走行時分は最小停車時分以上でなければならない。
(3)停車時分制約:停車時分は最小停車時分以上でなければならない。
(4)折返し時分制約:折返し時分は最小折返時分以上でなければならない。
(5)出発続行時隔:同一方向へ向けて駅を出発する列車は、出発の間隔を出発続行時隔以上に保たねばならない。
(6)到着続行時隔:同一方向より駅に到着する列車は、到着の間隔を到着続行時隔以上に保たねばならない。
(7)番線競合制約:同一番線を使用する列車においては番線使用時間に番線競合時隔以上の間隔を持たねばならない。
(8)駅間順序同一制約:駅間で同一線路上を走行する列車は順序が入れ替わってはならない。
【0009】
本発明の目的は、民鉄ダイヤのような分割・併合、接続、多種の列車種別が存在する複雑なダイヤにおいても、遅延列車の予測精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の列車運行指令装置は、列車運行を表すダイヤ及び当該列車運行についての実績データ、予測データ及び状況データを含む運行データの入力を受けて前記列車の運行状況をスジ画面表示し、民鉄市場特有のダイヤ(高密度ダイヤ、支線有り路線、複々線区間、単線区間、分割・併合等)を表示する列車運行指令装置であって、前記予測データに基づいて将来の運行状況を前記スジ画面上に再生し、前記スジ画面上に、入力手段で操作することにより前記将来の運行状況を指示する予測ボタンを表示し、前記スジ画面上に、操作者の判断により臨速値設定、駅混雑度設定等を入力手段で操作することにより、高精度で指令員からの情報も加味した予測ダイヤを実現可能とすることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の列車運行指令装置は、ラッシュ時間帯や事故等で駅が混雑した場合に、駅での駅混雑度係数を指令員が入力できるインターフェイス手段を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の列車運行指令装置によれば、民鉄ダイヤ等の複雑なダイヤにおいても、遅延列車の予測精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明による運転整理機能の全体構成図である。
【図2】図2は図1に示す運転整理機能について、予測機能の構成を詳細に説明する図である。
【図3】図3はユーザインターフェイスの工夫点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
はじめに、本発明の実施の形態の特徴部分について説明する。
【0015】
本発明の列車運行指令装置は、スジ表示に関して列車種別を一目で区別できるよう多種色を用いる(例:特急→赤、準急→緑、普通→黒)。実績ダイヤ、予測ダイヤに関しても太めのスジで区別しやすくする。
【0016】
また、多様なパターンでのスジ表示を実現する機能を設ける。
(1)スジ色→列種別or両数別(2)計画ダイヤ→多色or単色or無(3)実績ダイヤ→多色or単色or無(4)予測ダイヤ→多色or単色or無
上記(1)〜(4)の組合せ次第で着目すべきダイヤを目立たせることが可能である。
【0017】
予測ダイヤから得るべき重要な情報は、遅延した列車が後続の列車にどの程度の影響を与え、ダイヤ通りの走行に支障をきたすかである。したがって、ダイヤ通り走行している列車に関しては予測ダイヤを見る重要性は小さく、遅延しているダイヤの予測ダイヤのみ表示する機能を設ける。遅延時分0〜10分をリストボックスから選択でき、選択した時分以上の予測ダイヤのみを表示することにより、指令員に対して当該ダイヤに対する運転整理案を促す。
【0018】
ラッシュ時間帯のようなダイヤが高密度になる場合、スジ画面が大変見づらくなる。このようなケースを考えた機能として、マウススクロールを行うとマウスポインタの位置を中心にスジ画面の拡大・縮小を行うことができる。また、マウスドラッグでスジ画面を上下左右に簡単に移動することができる。
【0019】
ラッシュ時間帯や事故等で駅が混雑した場合に、当該駅での駅混雑度係数を指令員が入力できるインターフェイスを用意する。初期値は100%で混雑度が増すと150%のように入力し、予測ダイヤ上では設定した駅の停車時分が長くなるような形で反映される。
【0020】
速度規制時の駅間走行時分で運行予測を行わせる為に、駅間毎に臨速値を設定する機能を設ける。臨速値の設定なしでは最小駅間走行時分で走行する予測を行う。
臨速値を20Kmに設定すると予測ダイヤ上では臨速値なしの場合と比較して、駅間を結ぶスジの傾きが緩やかになるような形で反映される。
【0021】
民鉄ダイヤ対応の予測処理を実施するには以下の制約条件が必要である。
(1)交差競合制約:同一交差部を使用する進入列車と進出列車においては、交差競合時隔以上の時隔が必要である。
(2)過走防護制約:場内信号機の過走防護区間が他の場内信号機または出発信号機と競合する場合、信号機の警戒制御に伴い駅間走行時分を増加して予測する。
(3)接続待ち制約:接続待ち(絶対接続または相対接続)列車の出発時刻と接続相手列車の到着時刻に接続待ち時隔以上の時隔が必要である。
(4)分割・併合制約:分割前の列車の到着時刻と分割後、先に出発する列車の出発時刻の間には最小分割時隔以上の時隔が必要である。また、併合前の列車(後着の方)の到着時刻と併合後の列車の出発時刻の間には最小併合時隔以上の時隔が必要である。
(5)単線制約:単線の駅間を後で使用する列車の出発時刻と単線を先に使用する列車の到着時刻に単線時隔以上の時隔が必要である。以下に図面を用いて、実施形態の詳細を説明する。
【実施例】
【0022】
以下、図面を用いて,本発明のダイヤ予測指令装置について実施例を説明する。
【0023】
図1は本発明による運転整理機能の全体構成図であり、図2は図1に示す運転整理機能について、予測機能の構成を詳細に説明する図であり、図3はユーザインターフェイスの工夫点を説明する図である。
【0024】
図1において、実績予測処理部10は制約論理ライブラリ(制約伝播エンジン)を搭載しており、基本的な処理動作としては図2に示す制約定数(固定)22を制約条件とし、その解を当該駅の予測上の着時刻、発時刻として出力する。
【0025】
実績予測処理部10は複数の制約条件から解を導き出すが、指令員が入力した値となる図2に示す制約定数(可変)23をマンマシン・インターフェイス12より入力し、季節係数及び時間帯に依存する係数13も制約定数(固定)22の制約条件に追加して解を出力する。したがって、指令員の判断が予測ダイヤとして反映される。
【0026】
表示部11は制約伝播方式により出力した解である予測ダイヤ(当該駅の予測上の着時刻、発時刻)をスジ画面に表示するもので、マンマシン・インターフェイス12に搭載されている図3に示すスジ表示ボタン31(実行スジ、実績、予測スジ)を操作することにより、指定したダイヤの表示色、表示有無を選択可能とする。
【0027】
図3に示す予測スジ選択表示設定リストボックス32は、予測スジ選択表示機能(予測上遅延している列車の予測スジを選択的に表示する機能)において遅延判定時間を設定する。遅延判定時間は0〜10分で設定可能とする。遅延判定時間が0分の場合は全列車の予測スジを表示する。
【0028】
図1に示す運行監視機能14は、現場状況(1)、運行状況(2)の情報を監視し、予測ダイヤ(4)の情報から遅延により後続列車に影響を与えている列車を判断する機能で、運転整理ルール15で保持しているルールベースにその遅延列車が照合した場合、遅延回復を促す運転整理案(提案ダイヤ(3))を自動で出力する。
【0029】
提案ダイヤ(3)が表示されている最中も、そのダイヤに対する予測ダイヤ(4)を表示する。予測ダイヤ(4)の変更は、マンマシン・インターフェイス12を介して指令員に提案され、指令員が提案(5)を手動介入して承認すると、ダイヤ管理部16に入力された自動変更(6)されたデータにより、ダイヤ変更情報(7)が生成され、中央制御管理装置17に送信され、中央制御管理装置17からの運行状況(2)が運行監視機能に入力して、指令員が提案(5)を承認した後のダイヤに対しても予測ダイヤを表示する。
【0030】
マンマシン・インターフェイス12は、表示部11に表示されたスジ画面の任意の位置でマウスドラッグすることにより、ドラッグした位置をスジ画面中心部に移動させることが可能である。また、マウススクロールによりマウスポインタの位置からスジ画面の拡大・縮小の操作を行うことができる。
【0031】
本発明の列車運行指令装置によれば、民鉄ダイヤにおいても、遅延列車と影響列車の順序変更等の運転整理提案を考慮する際に、スジ画面によって、状況を一目で分かり易く表示できるため、指令員が直ちに対応することが可能となる。また、直感的なユーザインターフェイスを設けることにより、操作の手間が省け、指令員に操作上でのストレスを与えない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、多数存在する列車の予測ダイヤ(予測スジ)の中から遅延している列車だけを認知し、遅延列車に運転整理を実施するケースは指令員にとって多いと思われ、予測スジ選択表示機能は遅延時分を選択し、問題ある列車のみを表示させる技術であり、鉄道分野を含む車両の運行指令制御に広範囲に利用可能であると考えられる。
【符号の説明】
【0033】
10 実績予測処理部
11 表示部
12 マンマシン・インターフェイス
13 季節・時間帯係数
14 運行監視機能
15 運転整理ルール
16 ダイヤ管理部
17 中央制御管理装置
21 予測処理機能部
22 制約定数(固定)
23 制約定数(可変)
24 実績予測・試行予測
25 予測表示部
26 中央処理装置
31 スジ表示ボタン
32 予測スジ選択表示設定リストボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車運行を表すダイヤ及び当該列車運行についての実績データ、予測データ及び状況データを含む運行データの入力を受けて前記列車の運行状況をスジ画面表示し、高密度ダイヤ、支線有り路線、複々線区間、単線区間、または分割・併合を含む運行ダイヤを表示する列車運行指令装置において、
前記予測データに基づいて将来の運行状況を前記スジ画面上に再生し、前記スジ画面上に、入力手段で操作することにより前記将来の運行状況を指示する予測ボタンを表示し、前記スジ画面上に、操作者の判断により駅間毎の臨速値設定、番線毎の駅混雑度設定を入力手段で操作可能にして、指令員からの情報も加味した予測ダイヤを表示することを特徴とする列車運行指令装置。
【請求項2】
請求項1記載の列車運行指令装置において、制約伝播方式を用いることにより、高精度且つ多様なダイヤパターンに対応可能なことを特徴とする列車運行指令装置。
【請求項3】
請求項2に記載の列車運行指令装置において、ある指定した遅延量以上の列車を区別して表示することを特徴とする列車運行指令装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の列車運行指令装置において、直感的なユーザインターフェイスで操作者の使いやすさを追求したことを特徴とする列車運行指令装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−245801(P2012−245801A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116584(P2011−116584)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】