説明

初期吸引を容易にするために弾性部を有する注射器

【課題】プランジャの後退を伴うことなく針の先端位置の確認のための初期吸引を可能にした注射器を提供する。
【解決手段】注射器1は、摺動可能に密封係合するプランジャ3を備えた胴部2を含み、胴部2の一端に針が取り付けられる。胴部2は、手動で操作可能な弾性部13の形態をとる吸引手段を有し、弾性部13を操作して胴部2内に圧力差を生じさせることができ、その際、圧力差を利用して吸引が行われる。弾性部13は、胴部2の壁を局部的に薄肉化して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸引(aspiration)を行う手段を有する注射器(syringe)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の注射器は、胴部(barrel)及び胴部の一端に取り付けられる針を有し、胴部は、その中に、摺動可能に密封係合するプランジャを備える。従来の注射器を用いる注射は、注入物質の入った小瓶に注射器の針を挿入して行われる。その際、ユーザが注射器の胴部を他方の手でしっかり掴んで、注射器のプランジャを後退させる。これにより注入物質が注射器の胴部に吸い込まれる。この時、ユーザは、うっかりして胴部に吸い込まれた空気により生じる気泡が、胴部内の注入物質中にあるか否かをチェックして、通常の方法で気泡を針から排除することができる。その後、注射を行うことができる。
【0003】
患者の皮膚に針を挿入して注射が施される。注入物質が適切に、例えば筋肉に又は血管内に送達されたことを確認するために、針の先端位置が患者の内部にあるか否かをチェックする必要がある。これは、針が患者の内部にあると、プランジャの後退を少し伴う注射器の吸引(aspiration)により達成される。これにより、ユーザが視認できる針を通して注射器の胴部に、針の先端に接する身体構成要素が引き込まれるであろう。このように、注入物質が血管を対象にしているならば、例えば血液が注射器に吸い込まれるならば、その時、注射が行われる針の先端部は正しい位置にある。血液が認められないならば、ユーザは別の注射部位を見出す必要があるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
理解され得るように、吸引行為は、患者にとって苦痛であり、また潜在的に危険な場合もある。特に、ユーザは針を患者の内部に位置させながらプランジャを引く必要があるので、これにより、針先端部の不要な動きを引き起こすことがあり、痛みを伴うこともある。これは、シールのためにプランジャが注射器の胴部を備える必要があるので特にその通りであり、プランジャの後退にはかなりの力を加える必要があり、これにより注射器をそのままの状態に保つ可能性が少なくなるであろう。また、針先端部の位置は吸引中に移動することがあり、従って注入物質が意図する位置に送達されない可能性がある。このように、ユーザが注射器を吸引することによって適切な注射部位を見出したと考えていても、吸引作用により、針先端部が動くことがあり、注射を無効にするかあるいは患者の健康を危険にさせることさえある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、摺動可能に密封係合するプランジャを中に備えた胴部を含む注射器が提供され、胴部は使用時に注射器の吸引を可能にする吸引手段を有する。これは胴部に吸引をもたらす手段の提供によるということで有利であり、注射器は使用が容易であって、プランジャを後退させる必要がない。そのため、注射器を使用する者は、患者に針を挿入して同じ手で吸引手段を動作させながら、胴部で注射器を保持することができる。これにより、簡単かつ注射器の最小限の動きで吸引を行うことが可能になる。これは、患者に苦痛を与える機会を軽減させ、また、意図する注射部位への注入物質の送達を確実に行えるのに役立つ。
【0006】
吸引手段は手動で操作可能な弾性手段を含むことができる。そのため、吸引手段は胴部に圧力差を発生させることができ、吸引手段を用いて吸引を行うことができる。好ましくは、吸引手段は、胴部の少なくとも1つの手動で操作可能な弾性部を含む。ユーザは、注射器を保持して針を患者に挿入しながら、手動で操作可能な弾性部に指圧を容易に加えることができる。圧迫圧を胴部に加えることにより、胴部内に圧力が作り出される。その結果、手動で操作可能な弾性部に加えられる圧力をユーザが弱めると、胴部内に認められる圧力の低下により血液等の身体構成要素が引き込まれ、吸引をもたらす。
【0007】
胴部は2つの手動で操作可能な弾性部を備えていてもよい。これらの弾性部は直径方向に対向していることが好ましい。弾性部が直径方向に対向しているので、両方の弾性部は、自ずと把持され、ひいては、ユーザにより親指ともう一本の指で圧迫されるであろう。必要とされる把持は、現行の医療従事者の訓練に合致し、多くの場合「鉛筆を持つような把持(pencil grip)」として知られている。これは、吸引手段を特に効果的にし、使用が容易になる。
【0008】
好ましくは、手動で操作可能な弾性部又はその各々は、胴部壁を局部的に薄肉化して形成される。壁の薄肉化は、胴部の内面に対するプランジャ・ヘッドの密封に影響を及ぼさないように、外側を薄くすることが好ましい。手動で操作可能な弾性部又はその各々を形成する壁部は、ユーザが胴部を容易に圧迫して胴部内の圧力変化をもたらすことが可能になるように、十分に薄くしなければならない。しかし、注射器の胴部が十分な構造的完全性を有することを確実にするには、壁部は十分厚くなければならない。例えば、手動で操作可能な弾性部又はその各々のヒステリシスは、注射を行う“感触”に影響を与えないか、あるいは、プランジャが手動で操作可能な弾性部又は胴部部分を通る際に、胴部とプランジャ・ヘッド間の密封の質を低下させないような、ものとすべきである。好ましくは、弾性部の壁の厚さは、胴部壁の残り部分の厚さの大凡20%〜80%である。分かるはずであるが、これは、胴部の材質及び注射器の大きさに依存し、30%,40%,50%,60%又は70%であるか、あるいは、この範囲内で他のあらゆる適当な数値であってもよい。壁の厚さが1mmのポリプロピレン材料の標準的な注射器では、弾性部の壁の厚さは 0.8mmであろう。胴部は、ABS又はポリカーボネートで構成されてもよいが、ポリプロピレンで構成されることが好ましい。
【0009】
剛性を与えるために、凸状の稜が薄肉化された壁部分を標準的な厚さの壁部分から切り離している。手動で操作可能な弾性部又はその各々の表面はざらざら(textured)しており、胴部を圧迫する箇所の身体的指示として、ユーザに「感触」を与えることができる。粗面(胴部の残り部分の滑らかな面の対語として)のような又は表面に複数の突起のような、風合いを与えることができる。稜は軸方向に延びることが好ましい。
【0010】
好ましくは、手動で操作可能な弾性部又はその各々の幅は、胴部の外周の10%〜40%であり、より好ましくは大凡25%である。分かるはずであるが、弾性部又はその各々の幅は、少なくとも弾性部の壁の厚さと胴部の材質及び大きさとに依存し、そして15%,20%又は30%とすることができる。更に、手動で操作可能な弾性部又はその各々の長さは、胴部の長手方向の長さの20%〜80%、好ましくは40%〜60%とすることができる。しかし、上述の通り、これは少なくとも弾性部の壁の厚さと胴部の材質及び大きさとに依存する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、ほんの一例として添付の図面を参照して本発明を詳細に説明する。図面の図1は注射器1として普通に知られている注射器具を示す。注射器1は胴部2及びプランジャ3を含む。胴部2には、把持フランジ4が設けられた開口近位端と液体出口6を有する遠位端5とがある。必要に応じて針を取り付けるために、液体出口6を種々の方法で配置することができる。図1において、針は、接着剤、熱又は他の何らかの手段で恒久的に取り付けられるであろう。また、図2に示すように、ルア・スリップ・デザイン(luer slip design)を用いることもできる。注射器のプランジャ3は、ロッド7とプランジャを把持する指板8とを含む。ロッドの遠位端には、弾性シール10を支持する縮径したプランジャ・ヘッドがあり、シール10は、胴部2の内面11と共にシールを形成し、注入物質(図示せず)を受け入れるチャンバ12を画定する。
【0012】
胴部2が図2により詳細に示されている。胴部2は、直径方向に対向する2つの手動で操作可能な弾性部13(図2に見えるのは1つだけである)を含む吸引手段を有する。手動で操作可能な弾性部13は、胴部壁の一部を薄肉化して形成される。壁は胴部2の外面が薄肉化されている。このように、胴部2は、標準的な肉厚部分14と各々が手動で操作可能な弾性部を形成する2つの薄肉部分15とを含む。部分14,15は、剛性を与えるために、壁部の標準的な肉厚と壁部の薄肉との間を橋渡しする、僅かに突出した稜16で分離されている。各薄肉部分15は、実質的に長方形をなし、遠位端5から円弧状部17で終端する胴部2の近位端に向かって延びている。
【0013】
標準的な肉厚部分14は、厚さが約1mmである。各薄肉部分15は厚さが約0.8mmである。しかし、注射器1の大きさに応じて、標準的な肉厚部分14を0.5mm〜3mmの範囲とすることができる。それに応じて、各薄肉部分15を0.5mm〜1mmの範囲、例えば0.6,0.7,0.8又は0.9mm とすることができる。各薄肉部分15は幅が胴部外周の約25%である。これは、その厚さと胴部の材質及び大きさとに応じて、10%〜40%の範囲で変化してもよい。各薄肉部分15の長さは、やはりその厚さと胴部の材質及び大きさとに依存するが、通常20%〜80%の範囲にあるであろう。
【0014】
把持フランジ4には直径方向に対向する一対の翼があり、使用時に隣り合わせの指の間で胴部2を把持することが可能である。部分13は、胴部2上の容積標示(図示せず)を干渉しないように、翼と直線上に形成される。これらの標示は常に翼間にある。図2に示す部分13には滑らかな外面がある。変更例(図示せず)では、部分13の外面はざらざらしており、部分13が存在する箇所について身体的指示をユーザに与えることができる。ざらざらした表面は、粗面化されていても(胴部の残り部分の滑らかな外面と比較して)、あるいは軸方向に延びる複数の突起によりもたらされてもよい。
【0015】
注射器1の操作が図3〜図6に図示されている。図3は、注入物質をまさに胴部2に吸い込もうとしている状態にある注射器1を示す。このようにして、針(図示せず)を注入物質の小瓶(図示せず)に入れると、矢印方向20にプランジャ3を後退させて、胴部2のチャンバ12に注入物質を吸い込む。
【0016】
図4は、後退したプランジャ3と注入物質21で充填されたチャンバとを示す。当然のことながら、必要な量に応じて、ほぼ同程度の注入物質をチャンバ12に吸い込むことができる。その際、ユーザは注射器の胴部2を掴みながら、大凡矢印方向22の圧力を手動で操作可能な弾性部13に加えることができる。図4を見ても分かるように、手動で操作可能な弾性部13は、チャンバ12の容積が僅かに減少するように弾性変形する。手動で操作可能な弾性部13の変形23は、明確にするために誇張されている。手動で操作可能な弾性部13に圧力が加えられる前に、注射器1の針を患者に挿入していてもよい。
【0017】
まだ挿入していないならば、その後注射器1の針(図示せず)を患者に挿入する。吸引を行うには、ユーザは手動で操作可能な弾性部13に加えられる把持圧を弱めるだけでよい。それに応じて、手動で操作可能な弾性部13は、矢印24で示され図5に示すように、元の形に戻るであろう。これによりチャンバ12の容積が増加し、胴部2内に負圧を作り出して、矢印25で示されるように、針(図示せず)を通じてチャンバ12に身体構成要素が引き込まれる。当然のことながら、全てのユーザがなすべきことは、吸引を行う胴部2にかかる把持圧を弱めることであり、針は安定した状態にあり、正確に、確実にかつ安全に、注射を行うことができる。
【0018】
最後に、図6はプランジャを矢印方向26に押圧した時の注射器1を示し、矢印方向27で示すように、胴部2からの注入物質21の排出を促して患者の身体に注入物質を送達する。壁が外側に薄肉化されているので、薄肉部分15によりシール10が阻害されない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の注射器の断面図を示す。
【図2】本発明の注射器における胴部の斜視図を示す。
【図3】異なる操作段階における本発明の実施例を示す。
【図4】異なる操作段階における本発明の実施例を示す。
【図5】異なる操作段階における本発明の実施例を示す。
【図6】異なる操作段階における本発明の実施例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動可能に密封係合するプランジャ(3)を備えた胴部(2)を含む注射器(1)において、
前記胴部(2)が使用時に注射器(1)の吸引を可能にする吸引手段(13)を有し、
前記吸引手段が胴部(2)において直径方向に対向している2つの手動で操作可能な弾性部(13)を含み、
各弾性部(13)が胴部(2)壁を局部的に薄肉化(15)して形成され、
各弾性部(13)の壁の厚さが胴部(2)壁の残り部分の厚さのほぼ20%〜80%であることを特徴とする注射器。
【請求項2】
前記壁の薄肉化(15)が外側を薄くしたものである、請求項1に記載の注射器。
【請求項3】
各弾性部(13)の幅が、胴部(2)の外周の10%〜40%である、請求項1又は2に記載の注射器。
【請求項4】
各弾性部(13)の幅が、胴部(2)の外周のほぼ25%である、請求項3に記載の注射器。
【請求項5】
各弾性部(13)の長さが、胴部(2)の長手方向の長さの20%〜80%である、請求項1〜4のいずれかに記載の注射器。
【請求項6】
各弾性部(13)の長さが、胴部(2)の長手方向の長さの40%〜60%である、請求項5に記載の注射器。
【請求項7】
凸状の稜(16)が薄肉化された壁部分(15)を標準的な厚さの壁部分(14)から切り離す、請求項1〜6のいずれかに記載の注射器。
【請求項8】
各弾性部(13)がざらざらとした外面を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の注射器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−254353(P2012−254353A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−219272(P2012−219272)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【分割の表示】特願2009−507136(P2009−507136)の分割
【原出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(508310230)スター・シリンジ・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】