説明

制動機構

【課題】設計上の制動力が確実に得られるようにして品質及び信頼性を向上する。
【解決手段】引出体6を収納体5に対して第1の位置と第2の位置とに切り換えるときに該引出体の移動速度を第1の制動部材及び第2の制動部材により制動する制動機構である。工夫点は、収納体5に設けられて第2の制動部材4を保持しており、第1の位置から第2の位置へ向かう引出体の移動途中で該引出体の対応部と係合して引出体と一緒に動く保持部材57、及び保持部材を初期位置方向へ付勢している付勢部材58を有し、記引出体が第1の位置から第2の位置の途中まで移動する間は第1の制動部材3のみが作用し、その後、第2の位置までは第1の制動部材及び第2の制動部材4の両方が作用するとともに、記第1の制動部材及び第2の制動部材の各出力部分が収納体の対応する被係合部53,54と常に係合していることを特徴している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納体に対し引出体を第1の位置と第2の位置とに切り換えるとき該引出体の移動速度を制動する制動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は特許文献1に開示の制動機構を示している。この制動機構では、蓋体84を収納体である本体81に対して同図(a)の実線で示される第1の位置(閉位置)と、同図(b)の実線で示される第2の位置(開位置)とに切り換えるときに、蓋体84の移動速度を第1の制動部材(制動ギア)86及び第2の制動部材(制動ギア)88により制動するものである。符号80は蓋体84を開放方向へ付勢する付勢部材である。この要部は、蓋体84を開放させるとき、蓋体84の開放開始から所定角度までの間は蓋体側に設けられているセクタギヤ82が第1の制動部材86だけと係合するようにし、所定角度から開放完了までの間はセクタギヤ82が第1の制動部材86及び第2の制動部材88の両方と係合するよう設定される。それにより、この制動機構は、所定角度から開放完了までの間は、開放開始から所定角度までと比較して蓋体84の開放速度を遅くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−178818号公報(図10と図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した制動機構では、蓋体84の開放開始から途中の所定角まで弱い制動力が作用し、所定角から開放完了まで強い制動力が作用するというように、蓋体の開放速度を途中で変えることができる。ところが、この制動機構にあっては、セクタギヤ82が第1の制動部材86とは常に係合しているが、第2の制動部材88とは蓋体の開放途中で係合(歯同志の噛み合い)する構成であるため、例えば、蓋体84を比較的速く開放するように設定すると、セクタギヤ82が第2の制動部材88とスムースに係合できず作動不良が発生し易くなる。そのような作動不良は適用する装置自体の信頼性を損なうこととなる。そこで、本発明の目的は、以上のような課題を解消して、設計上の制動力が確実に得られるようにして品質及び信頼性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明は、摺動式の引出体を収納体に対して第1の位置と第2の位置とに切り換えるときに該引出体の移動速度を第1の制動部材及び第2の制動部材により制動する制動機構において、
前記収納体に設けられて前記第2の制動部材を保持しており、前記第1の位置から第2の位置へ向かう前記引出体の移動途中で該引出体の対応部と係合して引出体と一緒に動く保持部材、及び該保持部材を初期位置方向へ付勢している付勢部材を有し、前記引出体が前記第1の位置から第2の位置の途中まで移動する間は前記第1の制動部材のみが作用し、その後、前記第2の位置までは前記第1の制動部材及び第2の制動部材の両方が作用するとともに、前記第1の制動部材及び第2の制動部材の各出力部分が前記収納体の対応部にそれぞれ設けられた対応する被係合部と常に係合していることを特徴としている。
【0006】
以上の制動機構において、前記第1と第2の制動部材は、請求項2のごとくロータリー式ダンパー用ケース内から突出している制動軸に装着された回転ギアであり、前記被係合部であるギア部に係合することで制動力を伝達することがより好ましい。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明では、引出体を収納体に対し出し入れする形態において、引出体が第1の位置から第2の位置の途中まで移動する間は第1の制動部材のみが作用し、途中から第2の位置までは第1の制動部材及び第2の制動部材の両方が作用する点で特許文献1と同様であるが、第1の制動部材及び第2の制動部材の各出力部分(回転ギア)が収納体に設けられる被係合部(ラック部)と常に係合していることから、上記従来例のような噛み合い不良の発生を確実に解消できる。これにより、本発明の制動機構は、適用される引出構造の信頼性を向上できる。また、この発明は、第1の位置から第2の位置へ向かう引出体の移動途中で該引出体の対応部と係合して引出体と一緒に動く保持部材、及び該保持部材を初期位置方向へ付勢している付勢部材を有し、第2の制動部材が保持部材に保持されることにより、例えば、第2の制動部材に対する引出体側の形状を簡素化できる。
【0008】
請求項2の発明では、例えば、各制動部材がロータリー式ダンパーの回転ギアで構成され、ラック部との噛み合いで制動力を伝達するため、摩擦伝達方式などと比べて常に安定した制動が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)〜(c)は発明形態の制動機構を引出体の押入状態、引出途中の状態、引出状態で示す模式図である。
【図2】発明形態の制動機構の全体構成を示す概略分解図である。
【図3】(a)と(b)は特許文献1の制動機構を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明形態を示した図面を参照しながら制動機構、その作動の順に詳述する。
【0011】
(制動機構)図1及び図2において、形態の制動機構は、移動体が収納体5の前開口から出し入れされる引出体6とした引出構造に適用した場合で、引出体6を第1の位置である押入位置と第2の位置である引出位置とに切り換えるときに該引出体6の移動速度を第1の制動部材としての回転ギア3と第2の制動部材としての回転ギア4により制動する構成例である。要部は、引出体6が押入位置から引出位置の途中まで移動する間は回転ギア3のみが作用し、その後、途中から最終の引出位置までは回転ギア3及び回転ギア4の両方が作用するようになっているとともに、回転ギア3及び回転ギア4の各出力部分である歯が固定体又は移動体に設けられる対応する被係合部、つまり後述するラック部53とラック部54とに常に係合している構成にある。細部は以下の通りである。なお、回転ギア3と4は、ロータリー式ダンパー30、31を構成しており、ダンパー用ケース内から突出されて作動油の抵抗を受けている突出軸部に装着されている。
【0012】
収納体5及び引出体6は作図上一部を省略したり簡略化している。収納体5は、内側空間が上下壁50a,50b、左右側壁50c、背面壁50dにより区画されるとともに、前側及び上壁50aの後側部分を開口している。両側壁50cは、内面に対向して設けられている前後方向に延びるガイド部51を有している。下壁50bは、内面にあって、左右略中間に設けられて前後方向へ延びているガイド部52と、ガイド部52に沿って設けられているラック部53と、前側に設けられてラック部53と所定間隔を保ち、かつラック部53より短いラック部54と、ラック部54と所定間隔を保ち、かつラック部54と平行に設けられているガイド溝55と、ガイド溝55の前側に立設されている凸部56a付きの立壁56とを有している。
【0013】
ガイド溝55には保持部材57が摺動自在に嵌合される。この保持部材57は、ダンパー31を取り付ける支持部57aと、支持部57aの下面前後方向に設けられてガイド溝55に嵌合する係合部57bと、前側に立設されて立壁56と対向する立壁57cと、立壁57cに突設された凸部57dとを有している。そして、保持部材57は、支持部57aに対しダンパー31を取り付けた状態で、係合部57bをガイド溝55に嵌合することにより、ダンパー31の回転ギア4がラック部54の歯と噛み合って係合し、該係合を保ってガイド溝55に沿って前後摺動自在に組み付けられる。また、保持部材57は、立壁56の凸部56aと立壁57cの凸部57dとの間に配置されるコイルスプリング58によりガイド溝55の後方側へ付勢移動されている。このため、保持部材57は、図1(c)のごとくコイルスプリング58の付勢力に抗して前方へ摺動されることになる。
【0014】
これに対し、引出体6は、引出式のカップホルダー等を想定したもので、ガイド部51,52に嵌合する溝部61,62と、図1に示されているラック部53の歯と係合するダンパー30の回転ギア3と、引出体6の引出過程で保持部材57の立壁57cに係合ないしは当たる突起63と、コンストンバネ64等を有している。コンストンバネ64は、本体が引出体6の上後側に取り付けられて、該本体から引き出される板バネの引き出し端を収納体5の対応部に係止した状態で、引出体6を収納体5に対し常に引出方向へ付勢移動している。このため、引出体6は、コンストンバネ64の付勢力に抗して収納体5に押し込められて押入位置で、不図示のラッチ装置を介して係止される。なお、このラッチ装置は、引出体6がコンストンバネ64の付勢力に抗して引出位置から押入位置へ切り換えたときに係止し、更に引出体6を同方向へ押して手を離すと係止解除するプッシュ・プッシュ係止機構からなっている。
【0015】
(作動)以上の制動機構を引出体の切り換え操作と共に述べる。
(ア)図1(a)は、引出体6が収納体5に押し込められた押入位置の状態である。この押入位置では、回転ギア3がラック部53の歯と係合(噛み合っていること)し、回転ギア4がラック部54の歯と係合(噛み合っていること)した状態であり、引出体6が不図示のラッチ装置によりコンストンバネ64の付勢力に抗して係止されている。そして、引出体6を引き出すときは、引出体62の前面を後方に押して離す。すると、引出体6は、ラッチ装置が係止解除状態になるためコンストンバネ64の付勢力により引出方向へ移動開始される。
【0016】
(イ)図1(b)は引出体6が引出途中まで移動されて、突起63が保持部材57の立壁57cに当たった直前の状態を示している。この制動機構では、引出体6が同図の引出途中までの間は回転ギア3により制動されるが、回転ギア4によって制動されない。これは、回転ギア3がラック部53との係合を保った状態で引出体6と連動して前移動するが、回転ギア4がラック部54との係合を保っているものの、保持部材57が引出体6の前移動と非連携となっていて動かないためである。
【0017】
(ウ)図1(c)は引出体6が図1(b)の引出途中から更に前進されて引出位置に切り換えられた状態を示している。この制動機構では、引出体6が図1(b)の引出途中から最終の引出位置に達する間は回転ギア3及び回転ギア4の両方により制動されて緩やかに移動される。この構成では、回転ギア3が前述と同じくラック部53との噛み合い係合を保ち、かつ引出体6の移動と連動して移動されるためであり、また、回転ギア4がラック部54との噛み合い係合を保ち、かつ保持部材57が立壁57cに係合する引出体側突起63により該引出体6と連動して移動されるためである。
【0018】
(エ)引出体6を再び引出位置から押入位置へ切り換える場合は、引出体6がコンストンバネ64の付勢力に抗して押し込め操作される。この制動機構では、引出体6が押入方向の途中、つまり図1(b)の位置に達するまでの間は回転ギア3及び回転ギア4の両方により制動されて緩やかに移動される。つまり、この場合は、回転ギア3がラック部53との噛み合い係合を保ち、かつ引出体6に連動して移動されるためであり、また、回転ギア4がラック部54との噛み合い係合を保ち、かつ保持部材57がコイルスプリング58の付勢力により引出体6の移動と連動して初期位置(ガイド溝55の後側)まで移動されるためである。
【0019】
(オ)また、この制動機構では、引出体6が図1(b)の途中状態から更に押し込め操作されて図1(a)の押入位置に切り換えられる間は回転ギア3により制動されるが、回転ギア4によって制動されない。これは、回転ギア3がラック部53との係合を保った状態で引出体6と連動して移動するが、回転ギア4がラック部54との係合を保っているものの、保持部材57が引出体6と非連携となっていて動かないためである。
【0020】
以上のように、この制動機構において、特に回転ギア3及び回転ギア4の各出力部分である歯が被係合部であるラック部53のラック歯、ラック部54のラック歯と常に係合していることから、従来のような噛み合い不良の発生を確実に解消でき、それによって適用される引出構造又は装置等の信頼性を向上できる。また、引出体6と回転ギア4との間に保持部材57を介在し、回転ギア4が収納体側のラック部54のラック歯と係合するようにしたため簡素化できる。
【0021】
なお、本発明は、請求項1で特定される構成を備えておればよく、細部は上記した形態例のように必要に応じて種々変更可能なものである。
【符号の説明】
【0022】
3・・・回転ギア(第1の制動部材に相当し、30はダンパー)
4・・・回転ギア(第2の制動部材に相当し、31はダンパー)
5・・・収納体(固定体に相当し、55はガイド溝、56は立壁)
6・・・引出体(移動体に相当し、63は突起)
57・・・保持部材(57aは支持部、57bは係合部)
53,54・・・ラック部(被係合部に相当する)
58・・・コイルスプリング(付勢部材に相当する)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動式の引出体を収納体に対して第1の位置と第2の位置とに切り換えるときに該引出体の移動速度を第1の制動部材及び第2の制動部材により制動する制動機構において、
前記収納体に設けられて前記第2の制動部材を保持しており、前記第1の位置から第2の位置へ向かう前記引出体の移動途中で該引出体の対応部と係合して引出体と一緒に動く保持部材、及び該保持部材を初期位置方向へ付勢している付勢部材を有し、
前記引出体が前記第1の位置から第2の位置の途中まで移動する間は前記第1の制動部材のみが作用し、その後、前記第2の位置までは前記第1の制動部材及び第2の制動部材の両方が作用するとともに、
前記第1の制動部材及び第2の制動部材の各出力部分が前記収納体の対応部にそれぞれ設けられた対応する被係合部と常に係合していることを特徴とする制動機構。
【請求項2】
前記第1と第2の制動部材は、ロータリー式ダンパー用ケース内から突出している制動軸に装着された回転ギアであり、前記被係合部であるギア部に係合することで制動力を伝達することを特徴とする請求項1に記載の制動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−6595(P2012−6595A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211742(P2011−211742)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【分割の表示】特願2006−139839(P2006−139839)の分割
【原出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】