説明

制動装置、軌道系車両

【課題】コストを抑えながらブレーキディスクの表面の熱の淀みの解消を図り、ブレーキディスクの冷却効果を向上することが可能な制動装置を提供する。
【解決手段】車軸2に取り付けられたブレーキディスク3と、ブレーキディスク3の表面を挟持可能なブレーキパッド4と、ブレーキディスク3の表面に沿って該ブレーキディスク3の径方向に冷却風を循環させる冷却風循環手段5とを備え、冷却風循環手段5は、ブレーキディスク3の表面に放射状に設けられ、ブレーキディスク3とともに軸線Pを中心に回転して近傍の空気Aを冷却風としてブレーキディスク3の径方向に循環させる第一の換気用羽根12を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪等の制動対象にブレーキ力を付与する制動装置及びこれを備えた軌道系車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道車両や自動車において車輪にブレーキ力を付与することでこれらを停止させる制動装置の一種としてディスクブレーキ装置が知られている。
【0003】
ここで例えば、軌道に設けられたガイドレールによって案内されながら軌道上を走行する軌道系交通システムの車両には、通常走行時に用いる制動装置として、電動機を発電機として作動させてブレーキ力を得る電気ブレーキが主に用いられている。さらに、非常停止時等に対応するための機械式の制動装置として、上記ディスクブレーキ装置が併設されている。
【0004】
ディスクブレーキ装置は、上記車両の非常停車時に用いられる際には、例えば30秒程度の間に、車両が時速80キロメートル程度の速度から停車状態になるまで、一気に作動されるという過酷条件下で使用されることとなり、ブレーキディスクでは急激な温度上昇が生じる。このため、このような温度上昇に起因して、フェード現象が発生したり、熱歪によりブレーキディスクに割れが発生したりして、十分なブレーキ力を得られなくなってしまうことを確実に防止する対策を講じる必要がある。また、非常停車後、即ちこのような過酷条件下でのディスクブレーキ装置の使用後すぐに車両の運転再開ができるように、ディスクブレーキ装置の機能維持も必要となる。
【0005】
このようなブレーキディスクの発熱に対応するため、冷却効果の高いベンチレーテッドディスクが一般に知られている。このベンチレーテッドディスクは、複数のフィンを二枚のディスクで挟み込んだ通風型のディスクローターを用いたものとなっており、通風性・放熱性に優れている。
【0006】
また、特許文献1には、冷却効率を向上するブレーキディスクが開示されている。具体的には、ブレーキディスク本体の側面に回転方向に対して交差する方向に延びる放熱用フィンを設けており、この放熱用フィンによって、ブレーキディスク本体の熱を大気中に放熱して冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−227892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のベンチレーテッドディスクを採用した場合には、大幅なコストアップとなってしまう。さらに、特許文献1のブレーキディスクにおいては、放熱用フィンが設けられているのみであるため、通風性能が十分でなく、ブレーキディスクの表面に過熱された空気の淀みが発生してしまうことが懸念される。特に軌道系交通システムの車両においては、ブレーキディスク自体がホイールによって外側から覆われて設置されているため、このような熱の淀みを解消することは難しい。
【0009】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、コストを抑えながらブレーキディスクの表面の熱の淀みの解消を図り、ブレーキディスクの冷却効果を向上することが可能な制動装置及びこれを備えた軌道系車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
即ち、本発明に係る制動装置は、車軸に取り付けられたブレーキディスクと、前記ブレーキディスクの表面を挟持可能なパッドと、前記ブレーキディスクの前記表面の少なくとも一方に沿って該ブレーキディスクの径方向に冷却風を循環させる冷却風循環手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
このような制動装置によると、制動装置が作動してブレーキディスクの温度が上昇した際には、冷却風循環手段の冷却風による対流熱伝達によってブレーキディスクの表面の熱を回収した後に、速やかに排出可能となる。従って、特別な装置を用いずに、冷却風を循環させることのみによってブレーキディスク表面を冷却しながら、速やかに熱の淀みを解消することができる。
【0012】
また、前記冷却風循環手段は、前記ブレーキディスクの前記表面に放射状に設けられ、前記ブレーキディスクとともに軸線を中心に回転して近傍の空気を冷却風として該ブレーキディスクの径方向に循環させる第一の換気用羽根を有していてもよい。
【0013】
このような第一の換気用羽根によると、ブレーキディスクの回転によって、ブレーキディスク表面に空気を送り込んで撹拌し、対流熱伝達を促進することによって確実に熱を回収することができる。その後、この空気をブレーキディスク表面から速やかに排出する。このようにブレーキディスクの回転にともなって連続的に空気を循環し、ブレーキディスクの表面の熱の淀みの解消を図り、ブレーキディスクの冷却効果を向上することが可能となる。また、第一の換気用羽根は、ブレーキディスク表面と空気との接触面積を増大する放熱面としても機能し、さらに冷却効果を向上することができる。
【0014】
さらに、前記冷却風循環手段における前記第一の換気用羽根は、前記ブレーキディスクの径方向内側から外側に向かうに従って、回転方向の一方側から他方側へ向かって湾曲して形成されていてもよい。
【0015】
このような第一の換気用羽根によると、ブレーキディスクの回転にともなって、ブレーキディスク表面に空気をより確実に送り込み、その後、速やかに排出が可能となる。従って、空気の循環を促進し、熱の淀みを確実に解消でき、さらなるブレーキディスクの冷却効果を向上することが可能となる。
【0016】
また、前記冷却風循環手段における前記第一の換気用羽根は、前記ブレーキディスクの径方向内側の方が、外側と比較して前記軸線の方向の高さが高く形成されていてもよい。
【0017】
このような第一の換気用羽根によると、ブレーキディスクの径方向内側でより多くの空気を取り込み、ブレーキディスク表面での空気の流量増大によって流速を増加させて循環させることが可能となる。従って、対流熱伝達の効果を向上するとともに、熱の淀みをさらに解消でき、さらなる冷却効果の向上を図ることができる。
【0018】
さらに、前記冷却風循環手段における前記第一の換気用羽根は、前記ブレーキディスクの前記表面から着脱可能であってもよい。
【0019】
このような第一の換気用羽根によると、既存のブレーキディスクへも装着可能となり、設置の際の手間を省いたり、ブレーキディスクが消耗した場合でも消耗部分のみ交換し第一の換気用羽根は継続して使用することができるので、部品費の低減によって、コストダウンが可能となる。
【0020】
また、本発明に係る制動装置は、前記ブレーキディスクを外側から覆う収容部をさらに備え、前記冷却風循環手段は、前記ブレーキディスクの表面に対向する前記収容部の内面に放射状に設けられ、軸線を中心に回転して近傍の空気を冷却風として該ブレーキディスクの径方向に循環させる第二の換気用羽根を有していてもよい。
【0021】
このような第二の換気用羽根によって空気の撹拌効果をさらに向上でき、対流熱伝達を促進することで、ブレーキディスクの冷却効果を向上することが可能となる。
【0022】
さらに、本発明に係る制動装置は、前記ブレーキディスクを外側から覆う収容部をさらに備え、前記冷却風循環手段は、前記収容部の内部へ外部の空気を冷却風として導入するダクトを有していてもよい。
【0023】
このようなダクトによって、強制的に空気をブレーキディスク表面に送り込むことができ、熱伝達の効果を向上するとともに、空気の循環を促進して熱の淀みを確実に解消でき、さらなる冷却効果の向上を図ることができる。
【0024】
また、本発明に係る軌道系車両は、上記の制動装置と、前記車軸に取り付けられて、軌道上を走行可能な走行輪とを備えることを特徴とする。
【0025】
このような軌道系車両によると、制動装置における冷却風循環手段によってブレーキディスク表面を冷却しながら、速やかに熱の淀みを解消することができ、ブレーキディスクの冷却効果の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の制動装置及び軌道系車両によれば、冷却風循環手段の冷却風によって、熱回収を行なった後に速やかに熱の淀みを解消することができ、コストを抑えながらブレーキディスクの冷却効果の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一実施形態に係る車両を示す全体概略図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る車両に関し、制動装置と、制動装置周りの車両の走行装置の一部を示す全体概略図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る車両に関し、制動装置を示す図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る車両に関し、制動装置を示す図であって、(a)は軸線方向から、(b)は径方向から見たものである。
【図5】本発明の第三実施形態に係る車両に関し、制動装置を示す図であって、(a)は軸線方向から、(b)は径方向から見たものである。
【図6】本発明の第四実施形態に係る車両に関し、制動装置を示す図であって、(a)は軸線方向から、(b)は径方向から見たものである。
【図7】本発明の第五実施形態に係る車両に関し、制動装置と、制動装置周りの車両の走行装置の一部を示す全体概略図である。
【図8】本発明の第六実施形態に係る車両に関し、制動装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の第一実施形態に係る車両(軌道系車両)100について説明する。
図1に示すように、車両100は、例えば、軌道に設けられたガイドレールによって案内されながら走行する軌道系交通システムの車両であり、乗客を収容する車両本体101と、車両本体101の下部において車両本体101の長手方向の両端部に一台ずつ設けられた走行装置90を備えている。
【0029】
また、この走行装置90は、車軸2に支持された走行輪91と、車軸2にブレーキ力を付与する制動装置1を備えている。
【0030】
次に、制動装置1について説明する。
制動装置1は、走行装置90に設けられ、走行装置90の車軸2に機械的にブレーキ力を付与して車両100の制動を行なうディスクブレーキ装置である。
【0031】
図2に示すように、この制動装置1は、車軸2に取り付けられたブレーキディスク3と、ブレーキディスク3の両面を挟持するブレーキパッド(パッド)4と、ブレーキディスク3の表面に沿って該ブレーキディスク3の径方向に冷却風を循環させる冷却風循環手段5と、これらを外側から覆うホイール(収容部)6とを備えている。
【0032】
ブレーキディスク3は、径方向内側に、車軸2の外径よりも少し径が大きな取付孔3aが形成されたドーナッツ状をなす円盤部材である。そして、取付孔3aの中心であるブレーキディスク3の中心と、車軸2の軸線Pとを一致させた状態で、軸線方向一方側P1(図1の紙面右側)からこの取付孔3aに車軸2が差し込まれて、ブレーキディスク3の軸線方向一方側P1に配される取付金7を介してボルト11によって固定され、車軸2ともに回転可能に設けられている。なお、このボルト11は、取付孔3aの径方向外側に周方向一定の間隔をあけて複数(本実施形態では8個)が配されて、ブレーキディスク3の軸線方向他方側P2を向く表面から差し込まれて設けられている。
【0033】
ブレーキパッド4は、不図示のブレーキキャリパに取り付けられて、ブレーキディスク3の径方向外側の位置において、ブレーキディスク3の表面を軸線P方向の両側から挟み込ように配置される摩擦部材であり、複数材料よりなる複合材である例えば、レジンモールド材や焼結材等が用いられている。なお、本実施形態では、ブレーキパッド4はブレーキディスク3の表面において、周方向に180度間隔をあけて2箇所配置されている。
【0034】
次に、冷却風循環手段5について説明する。
冷却風循環手段5は、ブレーキディスク3の表面に設けられる第一の換気用羽根12を有している。
【0035】
第一の換気用羽根12は、ブレーキディスク3の軸線方向他方側P2を向く表面から突出して、取付孔3aの外周縁3bから、軸線Pの径方向外側に向かって、複数(本実施形態では8枚)が周方向に所定の間隔をあけて放射状に延びて設けられている羽根部材である。そして、この羽根部材は、上記ブレーキパッド4の配置位置と干渉しないような径方向位置に設けられている。
【0036】
ホイール6は、車軸2の軸線Pを中心とした円筒状をなす部材であり、ブレーキディスク3、ブレーキパッド4、及び冷却風循環手段5を外側から所定の空気Aが流通可能な間隙Sを形成した状態で、これら全体をブレーキディスク3の軸線方向他方側P2を向く表面から覆うように設けられるものである。そしてブレーキディスク3の軸線方向他方側P2を向く表面に対向するホイール6の内面6aには、ブレーキディスク3を貫通している車軸2の先端を保持する保持部材8が設けられている。
【0037】
なお、このホイール6の径方向外側にはゴムタイヤ10が嵌めこまれて、走行輪91が構成されている。
【0038】
このような車両100においては、車両100の走行中に、車軸2とともにブレーキディスク3が回転する。そしてこの状態で、不図示のブレーキキャリパを作動させることによって、ブレーキディスク3の表面を軸線方向一方側P1及び軸線方向他方側P2の両側から挟み込むように、ブレーキパッド4を押し付けてブレーキディスク3の表面とブレーキパッド4との間に摩擦力を発生させる。この摩擦力をブレーキ力としてブレーキディスク3に作用させて車軸2を介して車両100の減速を行う。
【0039】
そして、ブレーキパッド4をブレーキディスク3の表面に押し付けている間に発生する摩擦熱によってブレーキディスク3の温度が上昇する。この際、ブレーキディスク3とともに回転する第一の換気用羽根12によって、周囲の空気Aを冷却風として、ブレーキディスク3表面で撹拌し、対流熱伝達を促進して、ブレーキディスク3の熱を回収することができる。
【0040】
また、熱回収を行なった空気Aは、ブレーキディスク3表面において径方向内側から外側に向かって排出される。そして、特に本実施形態ではホイール6によってブレーキディスク3が覆われているが、このようにしてブレーキディスク3の回転にともなって連続的に空気Aを循環できるため、ブレーキディスク3の表面の熱の淀みの防止を図り、ブレーキディスク3の冷却効果の向上が可能となる。
【0041】
さらに、冷却風循環手段5は、ブレーキディスク3の表面に設けた第一の換気用羽根12のみであり、複雑な装置を設けずに、ブレーキディスク3の表面の熱の淀みを防止できるため、大幅にコストアップしてしまうことはない。
【0042】
また、第一の換気用羽根12は、ブレーキディスク3表面と空気Aとの接触面積を増大する放熱面としても機能するため、さらにブレーキディスク3の冷却効果を向上することができる。
【0043】
本実施形態の車両100によると、第一の換気用羽根12をブレーキディスク3の表面に設けたことによって、コストを抑えながら、対流熱伝達の促進、及び熱の淀みの防止を行い、ブレーキディスク3の冷却効果を向上できる。
【0044】
次に、第二実施形態に係る車両100について説明する。
なお、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して、詳細説明を省略する。
本実施形態では、制動装置21の冷却風循環手段25における第一の換気用羽根26の形状が第一実施形態のものと異なっている。
【0045】
図4に示すように、第一の換気用羽根26は、第一実施形態と同様に、ブレーキディスク3の軸線方向他方側P2を向く表面から突出して、取付孔3aの外周縁3bから、軸線Pの径方向外側に向かって、複数(本実施形態では8枚)が所定の間隔をあけて放射状に延びて設けられている羽根部材である。
【0046】
また、この第一の換気用羽根26は、ブレーキパッド4の配置位置と干渉しない径方向位置において、ブレーキディスク3の径方向内側から外側に向かうに従って、回転方向Dの前方側(一方側)から後方側(他方側)へ向かって湾曲して形成されている。
【0047】
このような車両100においては、ブレーキディスク3とともに回転する第一の換気用羽根26が、ブレーキディスク3の表面に空気Aをより確実に送り込み、ブレーキパッド4との間の摩擦によって温度が上昇したブレーキディスク3から熱を回収する。
【0048】
さらに、第一の換気用羽根26が湾曲しているため、取り込んだ空気Aをさらに速やかに回転方向Dの後方側へ排出可能とし、換気性能を向上できる。従って、空気Aの循環を促進してブレーキディスク3表面で熱が淀んでしまうことを防止でき、冷却効果の向上を図ることが可能となる。
【0049】
本実施形態の車両100によると、湾曲した第一の換気用羽根26によって、空気Aの循環をさらに促進でき、熱の淀みの防止を行って、さらなるブレーキディスク3の冷却効果の向上を図ることが可能となる。
【0050】
なお、第一の換気用羽根26は、本実施形態における湾曲方向とは逆方向に湾曲するように、即ち、ブレーキディスク3の径方向内側から外側に向かうに従って、回転方向Dの後方側から前方側に向かって形成されていてもよく。この場合、空気Aは径方向外側から内側に向かって取り込まれるように循環することとなり、上述の実施形態の場合と同様に、高い冷却効果を期待できる。
【0051】
次に、第三実施形態に係る車両100について説明する。
なお、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して、詳細説明を省略する。
本実施形態では、制動装置31の冷却風循環手段35における第一の換気用羽根36の形状が第一実施形態及び第二実施形態のものと異なっている。
図5に示すように、第一の換気用羽根36は、第一実施形態及び第二実施形態と同様に、ブレーキディスク3の軸線方向他方側P2を向く表面から突出して、取付孔3aの外周縁3bから軸線Pの径方向外側に向かって、複数(本実施形態では8枚)が所定の間隔をあけて放射状に延びて設けられている羽根部材である。
【0052】
また、この第一の換気用羽根36は、ブレーキパッド4の配置位置と干渉しない径方向位置において、ブレーキディスク3の径方向内側の方が、外側と比較して軸線P方向の高さが高く形成されている。即ち、ホイール6の内面6aと対向する端面が、径方向内側から外側に向かうに従って、第一の換気用羽根36の高さが漸次低くなる傾斜面とされている。
【0053】
このような車両100においては、ブレーキディスク3とともに回転する第一の換気用羽根36が、ブレーキディスク3の径方向内側においてより多くの空気Aを取り込み、ブレーキディスク3表面を流通する空気Aの流量・流速を増大することが可能となる。
【0054】
この結果、対流熱伝達の効果を向上するとともに空気Aの循環を促進し、熱の淀みを解消可能となる。
【0055】
本実施形態の車両100においては、第一の換気用羽根36がより多くの空気Aを取り込み可能であるため、さらなる冷却効果の向上を図ることができる。
【0056】
次に、第四実施形態に係る車両100について説明する。
なお、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して、詳細説明を省略する。
本実施形態では、制動装置41の冷却風循環手段45における第一の換気用羽根46が第一実施形態から第三実施形態のものと異なっている。
【0057】
図6に示すように、第一の換気用羽根46は、ブレーキディスク3とは別体で製造された部材であって、略円盤状のベースプレート47と、ベースプレート47から突出する羽根部48とを有している。
【0058】
ベースプレート47は、略円盤状をなし、径方向内側には、ブレーキディスク3の取付孔3aと同径か、又はこの取付孔3aよりも大径の貫通孔47aが形成されたドーナッツ状をなす円盤となっている。そして、ベースプレート47の外周縁3bからは、径方向内側に向かって周方向に一定の間隔をあけて略半円状の切欠部47bが形成されている。
【0059】
なお、この切欠部47bは、ちょうどブレーキディスク3と車軸2とを接続するボルト11の頭の外周面に径方向内側から係合するようになっている。
【0060】
羽根部48は、複数(本実施形態では8枚)が、ベースプレート47の軸線方向他方側P2の表面から突出して、貫通孔47aの外周縁3bから、軸線Pの径方向外側に向かって、周方向に所定の間隔をあけて放射状に延びて設けられている。そして、それぞれの羽根部48は、隣接する切欠部47b同士の間に設けられている。
【0061】
そして、羽根部48の設けられていない側のベースプレート47の表面、即ち軸線方向一方側P1を向く表面と、ブレーキディスク3の軸線方向他方側P2を向く表面とが対向するように、第一の換気用羽根12がブレーキディスク3に設置され、不図示の固定具、例えばボルト等によってブレーキディスク3と固定されている。
【0062】
このような車両100においては、第一の換気用羽根46をブレーキディスク3に固定することで、第一の換気用羽根46がブレーキディスク3とともに回転する。この際、周囲の空気Aを冷却風として、ブレーキディスク3表面において撹拌し、対流熱伝達を促進することができる。また、熱回収を行なった後に、この空気Aをブレーキディスク3の表面において径方向内側から外側に向かって循環して、ブレーキディスク3表面で熱が淀んでしまうことを防止できる。
【0063】
さらに、ブレーキディスク3の表面に設けた第一の換気用羽根46のみでブレーキディスク3の表面の熱の淀みを防止でき、コストアップを抑えることが可能となることに加え、第一の換気用羽根46が着脱可能とされているため、既存のブレーキディスク3に対しても、このブレーキディスク3を全交換することなく、第一の換気用羽根46を取り付けるのみで、容易に冷却風循環手段45を設けることができる。従って、ブレーキディスク3の交換に要する工数や部品費等の観点から、さらなるコストダウンを図ることができる。
【0064】
本実施形態の車両100によると、着脱可能な第一の換気用羽根46によって、さらにコストを抑制しながら、対流熱伝達の促進、及び熱の淀みの防止を行い、ブレーキディスク3の冷却効果を向上できる。
【0065】
なお、第一の換気用羽根46をブレーキディスク3に固定する際には、車軸2とブレーキディスク3とを固定しているボルト11を共用して、固定具として使用してもよい。
【0066】
また、第一の換気用羽根46は本実施形態で説明した形状に限定されず、例えば羽根部48の形状については、第一実施形態から第三実施形態で説明したような第一の換気用羽根12、26、36の形状を採用してもよい。
次に、第五実施形態に係る車両100について説明する。
なお、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して、詳細説明を省略する。
本実施形態では、制動装置51の冷却風循環手段55が、第一実施形態の冷却風循環手段5に加え、第二の換気用羽根56をさらに有している。
【0067】
図7に示すように、第二の換気用羽根56は、ブレーキディスク3の軸線方向他方側P2を向く表面に対向するホイール6の内面6aから、保持部材8よりも径方向外側で軸線P方向に突出して、軸線Pの径方向内側から外側に向かって複数が周方向に所定の間隔をあけて放射状に延びて設けられている羽根部材である。この羽根部材は、第一の換気用羽根12と干渉しない高さまで形成されている。
【0068】
このような車両100においては、第一の換気用羽根12と第二の換気用羽根56との相乗効果によって、ブレーキディスク3の表面における空気Aの撹拌効果を向上し、さらに対流熱伝達の効果を向上できる。従って、空気Aがブレーキディスク3からより多くの熱が回収された後に、この空気Aが第一の換気用羽根12によって速やかに径方向外側へ排出される。
【0069】
本実施形態の車両100によると、冷却風循環手段55が第一の換気用羽根12に加え、第二の換気用羽根56を有することによって、対流熱伝達のさらなる促進と、第一の換気用羽根12による空気Aの循環によって熱の淀みの防止を行い、ブレーキディスク3の冷却効果を向上できる。
【0070】
なお、本実施形態のように第二の換気用羽根56を採用した場合には、第一の換気用羽根12を設置せずに第二の換気用羽根56のみを設けてもよい。
【0071】
また、この第二の換気用羽根56は、例えばモーター等を用いてホイール6とは別途回転させてもよい。この場合には、モーターの回転数を調整することによって空気Aの撹拌効果を向上でき、熱伝達率の向上を図ることが可能となる。
【0072】
次に、第六実施形態に係る車両100について説明する。
なお、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して、詳細説明を省略する。
本実施形態では制動装置61の冷却風循環手段65が、第一実施形態における第一の換気用羽根12に代えて、空気Aを制動装置61の外部から導入するダクト66を有している。
【0073】
図8に示すように、ダクト66は、ホイール6とブレーキディスク3との間に形成された間隙Sと、ホイール6の外部とを連通する管状部材であり、不図示のブロア等によって、ダクト66へ外部の空気Aを間隙Sへ供給可能とする管状部材である。
【0074】
このような車両100においては、ホイール6とブレーキディスク3との間の間隙Sへ強制的に外部の空気Aを冷却風として導入できる。このため、対流熱伝達を向上することによって、ブレーキディスク3からより多くの熱を回収できる。さらにダクト66によって空気Aを導入することで空気Aの排出能力も向上でき、空気Aの循環も促進して空気Aの淀みを防止できる。
【0075】
本実施形態の車両100においては、ダクト66によって制動装置61の外部から、ホイール6とブレーキディスク3の間隙Sへ空気Aが導入されるため、熱伝達を促進し、空気Aの淀みも防止でき、冷却効果の向上を図ることができる。
【0076】
なお、冷却風循環手段65は第一実施形態から第四実施形態の第一の換気用羽根12、26、36、46や第五実施形態の第二の換気用羽根56を併設してもよく、この場合、相乗効果によってさらなる冷却効果の向上を図ることができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態についての詳細説明を行なったが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、多少の設計変更も可能である。
例えば、ブレーキディスク3と対向するホイール6の内面6aには、ホイール6内外を連通する連通孔が設けられていてもよく、この場合、通風性能を向上でき、ブレーキディスク3の冷却効果をさらに向上できる。
【0078】
また、ブレーキディスク3において、第一の換気用羽根12、26、36、46が設置された表面とは反対側、即ち、軸線方向一方側P1を向く表面にも羽根部材を設けてもよく、この場合さらなる冷却効果を期待できる。
【0079】
さらに、上述の実施形態では、軌道系交通システムの車両100について説明したが、これに限定されることなく、例えば自動車や二輪車等にも上述の実施形態の制動装置1、21、31、41、51、61を適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…制動装置 2…車軸 3…ブレーキディスク 3a…取付孔 3b…外周縁 4…ブレーキパッド(パッド) 5…冷却風循環手段 6…ホイール(収容部) 6a…内面 7…取付金 8…保持部材 10…ゴムタイヤ 11…ボルト 12…第一の換気用羽根 S…間隙 P…軸線 軸線方向一方側…P1 軸線方向他方側…P2 A…空気 D…回転方向 21…制動装置 25…冷却風循環手段 26…第一の換気用羽根 31…制動装置 35…冷却風循環手段 36…第一の換気用羽根 41…制動装置 45…冷却風循環手段 46…第一の換気用羽根 47…ベースプレート 47a…貫通孔 47b…切欠部 48…羽根部 51…制動装置 55…冷却風循環手段 56…第二の換気用羽根 61…制動装置 65…冷却風循環手段 66…ダクト 90…走行装置 91…走行輪 100…車両(軌道系車両) 101…車両本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸に取り付けられたブレーキディスクと、
前記ブレーキディスクの表面を挟持可能なパッドと、
前記ブレーキディスクの前記表面の少なくとも一方に沿って該ブレーキディスクの径方向に冷却風を循環させる冷却風循環手段とを備えることを特徴とする制動装置。
【請求項2】
前記冷却風循環手段は、前記ブレーキディスクの前記表面に放射状に設けられ、前記ブレーキディスクとともに軸線を中心に回転して近傍の空気を冷却風として該ブレーキディスクの径方向に循環させる第一の換気用羽根を有することを特徴とする請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記冷却風循環手段における前記第一の換気用羽根は、前記ブレーキディスクの径方向内側から外側に向かうに従って、回転方向の一方側から他方側へ向かって湾曲して形成されていることを特徴とする請求項2に記載の制動装置。
【請求項4】
前記冷却風循環手段における前記第一の換気用羽根は、前記ブレーキディスクの径方向内側の方が、外側と比較して前記軸線の方向の高さが高く形成されていることを特徴とする請求項2に記載の制動装置。
【請求項5】
前記冷却風循環手段における前記第一の換気用羽根は、前記ブレーキディスクの前記表面から着脱可能であることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の制動装置。
【請求項6】
前記ブレーキディスクを外側から覆う収容部をさらに備え、
前記冷却風循環手段は、前記ブレーキディスクの表面に対向する前記収容部の内面に放射状に設けられ、軸線を中心に回転して近傍の空気を冷却風として該ブレーキディスクの径方向に循環させる第二の換気用羽根を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の制動装置。
【請求項7】
前記ブレーキディスクを外側から覆う収容部をさらに備え、
前記冷却風循環手段は、前記収容部の内部へ外部の空気を冷却風として導入するダクトを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の制動装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の制動装置と、
前記車軸に取り付けられて、軌道上を走行可能な走行輪とを備えることを特徴とする軌道系車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−104530(P2013−104530A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250693(P2011−250693)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】