説明

制動装置及び車両

【課題】制動時の車体の偏向を効果的に抑制することができる制動装置及び車両を提供することを目的とする。
【解決手段】車体に回転自在に配置された第1タイヤと第2タイヤに制動力を付与する制動装置であって、ブレーキペダルと、液圧を供給する第1液圧室を備えた第1シリンダ、液圧を供給する第2液圧室を備えた第2シリンダ、及び、前記ブレーキペダルに入力された外力を第1シリンダと第2シリンダとに直接伝達するリンク機構を備えるマスタシリンダと、第1液圧室から供給された液圧に基づいて第1タイヤに制動力を作用させる第1油圧制動部と、第2液圧室から供給された液圧に基づいて第2タイヤに制動力を作用させる第2油圧制動部と、を有し、マスタシリンダは、リンク機構から第1シリンダ及び第2シリンダに外力が伝達されると、第1液圧室と第2液圧室とで異なる液圧を発生させることで、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速時に制動力を作用させる制動装置及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、走行中に減速、停止するために、ブレーキ等の制動装置が設けられている。制動装置は、回転するタイヤや、車軸、駆動機構に回転を抑制する方向に負荷を加えることで、車両を減速させ、停止させる。
【0003】
ここで、制動装置の制動力を制御する装置としては、例えば、特許文献1に、車輌のロール剛性を変更するロール剛性可変手段と、車輪に制駆動力を付与する制駆動力付与手段とを有する車輌用操舵制御装置に於いて、車輌のロール方向によって車輌のロール剛性が異なる固着異常が前記ロール剛性可変手段に発生しているときには、車輌のロール方向に対する車輌のロール剛性のずれ量に基づいて車輌に作用する余分なヨーモーメントに対抗するに必要なヨーモーメントを演算し、前記必要なヨーモーメントを車輌に付与するよう左右輪の制駆動力差を制御する制御手段を有することを特徴とする車輌の走行制御装置が記載されている。特許文献1に記載の装置は、必要に応じて、左右輪の制動力を調整することで、直進走行性を向上させることができる。また、制動力を調整する装置としては、ABS(Anti-lock Brake System)制御や、VCS(Vehicle Control System)制御もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−168694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、車両は、制動時に偏向することがある。つまり、ブレーキをかけると、一方向に曲がりながら止まる挙動を示す場合がある。このような場合も、特許文献1に記載の装置や、ABS制御や、VCS制御により制動力を制御することで、車両の偏向を抑制することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の制御装置は、検出値に基づいて制御を行うため、制御開始前は、左右の車輪に同じ制動力がかかる。ここで、左右車輪と重心位置との距離が、左右で異なる距離となる。そのため、左右の車輪に同じ制動力がかかると回転モーメントが発生し、車体の偏向が発生する。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、制動時の車体の偏向を効果的に抑制することができる制動装置及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、車体に回転自在に配置された第1タイヤと第2タイヤに制動力を付与する制動装置であって、ブレーキペダルと、液圧を供給する第1液圧室を備えた第1シリンダ、液圧を供給する第2液圧室を備えた第2シリンダ、及び、前記ブレーキペダルに入力された外力を前記第1シリンダと前記第2シリンダとに直接伝達するリンク機構を備えるマスタシリンダと、前記第1液圧室から供給された液圧に基づいて第1タイヤに制動力を作用させる第1油圧制動部と、前記第2液圧室から供給された液圧に基づいて第2タイヤに制動力を作用させる第2油圧制動部と、を有し、前記マスタシリンダは、前記リンク機構から前記第1シリンダ及び前記第2シリンダに外力が伝達されると、前記第1液圧室と前記第2液圧室とで異なる液圧を発生させることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記リンク機構は、前記ブレーキペダルに入力された外力を前記第1シリンダ及び前記第2シリンダに伝達するリンク部を有し、前記リンク部は、重心から前記第1シリンダの力点までの距離と、重心から前記第2シリンダの力点までの距離とが異なる距離であることが好ましい。
【0010】
また、前記リンク部は、支点が固定され、前記ブレーキペダルから外力が入力されると前記支点を中心として回動する棒状部材と、前記棒状部材に接続され、前記棒状部材の移動に比例して移動し、前記第1シリンダに外力を伝達する第1入力部材と、前記棒状部材に接続され、前記棒状部材の移動に比例して移動し、前記第2シリンダに外力を伝達する第2入力部材と、を有することが好ましい。
【0011】
また、前記第1シリンダは、入力された外力に対して発生させる液圧の大きさが、前記第2シリンダに同じ大きさの外力を入力した際に発生させる液圧の大きさとは異なることが好ましい。
【0012】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、車体と、前記車体の重心に近い側に回転自在に配置された第1タイヤと、前記車体の重心に遠い側に回転自在に配置された第2タイヤと、上記のいずれかに記載の制動装置と、を有し、前記第1油圧制動部は、前記第1液圧室から供給された液圧に基づいて第1タイヤに制動力を作用させ、前記第2油圧制動部は、前記第2液圧室から供給された液圧に基づいて第2タイヤに制動力を作用させ、前記制動装置は、運転手が乗車した状態で、前記車体の進行方向に直交する方向において、重心に近い側の制動力が、重心に遠い側の制動力よりも大きくなる設定であることを特徴とする。
【0013】
ここで、前記第1タイヤ及び前記第2タイヤは、前記車体の進行方向において、前方にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる制動装置及び車両は、制動時の車体の偏向を効果的に抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、制動装置を有する車両の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、制動装置のマスタシリンダの概略構成を示す模式図である。
【図3】図3は、制動時に車体に作用する力を説明するための説明図である。
【図4】図4は、第1室液圧と第2室液圧との関係の一例を示すグラフである。
【図5】図5は、制動装置のマスタシリンダの他の例の概略構成を示す模式図である。
【図6】図6は、制動装置のマスタシリンダの他の例の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。以下に、本発明にかかる車両の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0017】
[実施形態]
図1は、制動装置を有する車両の概略構成を示す模式図である。図1に示すように車両10は、車体11と、左フロントタイヤ12と、右フロントタイヤ14と、左リヤタイヤ16と、右リヤタイヤ18と、制動装置20と、を有する。なお、図示は省略したが、車両10は、上記構成以外にも、駆動源、動力伝達部、操作部、座席等、車両として必要な各種構成を備えている。
【0018】
車体11は、車両10の筐体、いわゆるボディーである。車体11の内部には、駆動源、動力伝達部、操作部、座席等が設けられている。
【0019】
左フロントタイヤ12と、右フロントタイヤ14と、左リヤタイヤ16と、右リヤタイヤ18は、車体11の四方に配置され、路面に接地している。左フロントタイヤ12と、右フロントタイヤ14と、左リヤタイヤ16と、右リヤタイヤ18は、駆動源及び動力伝達部により回転されることで、駆動力を路面に伝え、車体11を路面に対して移動させる。
【0020】
制動装置20は、運転者が操作するブレーキペダル21と、ブレーキペダル21に入力されたペダル踏力を倍化させる制動倍力装置(ブレーキブースタ)22と、この制動倍力装置22により倍化されたペダル踏力をブレーキ液の液圧(油圧)へと変換するマスタシリンダ23と、マスタシリンダ23から供給される油圧を流通させる第1油圧配管24及び第2油圧配管26と、各タイヤに対応して配置されており、第1油圧配管24及び第2油圧配管26から供給される油圧により制動力を発生させる油圧制動部28lf、28rf、28lr、28rrと、を有する。なお、第1油圧配管24は、油圧制動部28rf及び油圧制動部28lrと接続されている。また第2油圧配管26は、油圧制動部28lf及び油圧制動部28rrと接続されている。
【0021】
ここで、油圧制動部28lfは、左フロントタイヤ12に制動力を付与し、油圧制動部28rfは、右フロントタイヤ14に制動力を付与し、油圧制動部28lrは、左リヤタイヤ16に制動力を付与し、油圧制動部28rrは、右リヤタイヤ18に制動力を付与する。油圧制動部28lfは、第2油圧配管26を介してマスタシリンダ23から油圧が供給されるホイールシリンダ30lfと、車輪(左フロントタイヤ12)とともに回転するブレーキロータ32lfと、回転しないように車体11に支持され、ホイールシリンダ30lfにより位置が変化され制動時にブレーキロータ32lfと接触するブレーキパッド34lfと、を有する。油圧制動部28lfは、以上のような構成であり、マスタシリンダ23からより高い油圧(制動時の油圧)が供給されると、ホイールシリンダ30lfがブレーキパッド34lfをブレーキロータ32lfに押し付ける方向に移動させる。これにより、ブレーキパッド34lfとブレーキロータ32lfが接触し、ブレーキロータ32lfに対して回転が停止する方向の力を付与する。油圧制動部28lfは、このようにして、マスタシリンダ23から供給される油圧により、制動力を対向して配置されたタイヤに付与する。
【0022】
次に、油圧制動部28rf、28lr、28rrは、配置位置(対応して配置されるタイヤ)が異なるのみで、基本的に油圧制動部28lfと同様の構成である。油圧制動部28rfは、第1油圧配管24から供給される油圧によりホイールシリンダ30rfの位置が変動され、制動時は、第1油圧配管24から、ホイールシリンダ30rfに高い油圧が供給され、ブレーキパッド34rfとブレーキロータ32rfとを接触させることで、右フロントタイヤ14に制動力を付与する。油圧制動部28lrは、第1油圧配管24から供給される油圧によりホイールシリンダ30lrの位置が変動され、制動時は、第1油圧配管24から、ホイールシリンダ30lrに高い油圧が供給され、ブレーキパッド34lrとブレーキロータ32lrとを接触させることで、左リヤタイヤ16に制動力を付与する。油圧制動部28rrは、第2油圧配管26から供給される油圧によりホイールシリンダ30rrの位置が変動され、制動時は、第2油圧配管26から、ホイールシリンダ30rrに高い油圧が供給され、ブレーキパッド34rrとブレーキロータ32rrとを接触させることで、右リヤタイヤ18に制動力を付与する。
【0023】
次に、図2を用いてマスタシリンダ23について説明する。ここで、図2は、制動装置のマスタシリンダの概略構成を示す模式図である。図2に示すようにマスタシリンダ23は、リンク機構40と、第1シリンダ42と、第2シリンダ44とを有する。また、マスタシリンダ23には、上述したように、ブレーキペダル21に入力されたペダル踏力が制動倍力装置22で倍化されて、入力される。マスタシリンダ23は、入力された制動指示に対応する制動動作を行う。
【0024】
リンク機構40は、ピストンロッド50と、回動棒52と、支点支持部54と、伝達棒56、58と、ジョイント60、62とを有し、ブレーキペダル21に入力された外力を第1シリンダ42、第2シリンダ44に伝達する。
【0025】
ピストンロッド50は、一方の端部が制動倍力装置22と接続され、他方の端部が回動棒52と接触している。また、回動棒52は、棒状の剛体である。支点支持部54は、回動棒52を回動可能な状態で支持している。伝達棒56は、一方の端部が、ジョイント60により回動棒52の一方の端部に連結され、他方の端部が、第1シリンダ42の後述する入力ピストン72に固定されている。また、伝達棒58は、一方の端部が、ジョイント62により回動棒52の他方の端部に連結され、他方の端部が、第2シリンダ44の後述する入力ピストン82に固定されている。また、ジョイント60は、自在継手等であり、回動棒52と伝達棒56と回動可能な状態で連結する。ジョイント62は、自在継手等であり、回動棒52と伝達棒58と回動可能な状態で連結する。
【0026】
リンク機構40は、以上のような構成であり、ブレーキペダル21が踏み込まれると、ピストンロッド50がペダル踏力に比例して矢印α方向に移動する。リンク機構40は、ピストンロッド50が矢印α方向に移動することで、回動棒52が支点支持部54を中心として、力が負荷された方向に回動する。リンク機構40は、回動棒52が回動することで、ジョイント60を介して回動棒52の一方の端部に接続されている伝達棒56が矢印α方向に移動し、ジョイント62を介して回動棒52の他方の端部に接続されている伝達棒58が矢印α方向に移動する。
【0027】
次に、第1シリンダ42は、第1液圧室70と、入力ピストン72と、加圧ピストン74と、リターンスプリング76とを有する。第1液圧室70は、内部に空間が形成された筒型形状の部材であり、内部の空間に液体(作動油)が貯留されている。また、第1液圧室70の内部には、入力ピストン72と、加圧ピストン74と、リターンスプリング76とが配置されている。また、第1液圧室70は、筒型形状の軸方向の一方の端面から内部に摺動可能な状態で、伝達棒56が挿入され、筒型形状の軸方向(以下、単に軸方向ともいう。)の他方の端面には、第1油圧配管24が接続されている。
【0028】
入力ピストン72は、外周面が第1液圧室70の内周面と接した状態で、軸方向に移動自在に支持されている。また、入力ピストン72は、伝達棒56と連結されており、伝達棒56とともに第1液圧室70の軸方向に沿って移動する。加圧ピストン74も外周面が第1液圧室70の内周面と接した状態で、軸方向に移動自在に支持されている。また、加圧ピストン74は、入力ピストン72よりも、第1油圧配管24が接続されている面側に配置されている。
【0029】
リターンスプリング76は、一方の端部が加圧ピストン74に固定され、他方の端部が第1液圧室70の第1油圧配管24と接続している面に固定されている。リターンスプリング76は、第1スプリング76aと第2スプリング76bとが直列で接続されている。なお、第2スプリング76bは、第1スプリング76aよりも、ばね係数が小さいばねである。リターンスプリン76は、第1液圧室70の第1油圧配管24と接続している面と加圧ピストン74との距離が基準距離よりも短くなると、第1液圧室70の第1油圧配管24と接続している面と加圧ピストン74とを離す方向の力を第1液圧室70の壁面と加圧ピストン74とに付与する。
【0030】
次に、第2シリンダ44は、第2液圧室80と、入力ピストン82と、加圧ピストン84と、リターンスプリング86とを有する。第2液圧室80は、内部に空間が形成された筒型形状の部材であり、内部の空間に液体(作動油)が貯留されている。また、第2液圧室80の内部には、入力ピストン82と、加圧ピストン84と、リターンスプリング86とが配置されている。また、第2液圧室80は、筒型形状の軸方向の一方の端面から内部に摺動可能な状態で、伝達棒58が挿入され、筒型形状の軸方向(以下、単に軸方向ともいう。)の他方の端面には、第2油圧配管26が接続されている。
【0031】
入力ピストン82は、外周面が第2液圧室80の内周面と接した状態で、軸方向に移動自在に支持されている。また、入力ピストン82は、伝達棒58と連結されており、伝達棒58とともに第2液圧室80の軸方向に沿って移動する。加圧ピストン84も外周面が第2液圧室80の内周面と接した状態で、軸方向に移動自在に支持されている。また、加圧ピストン84は、入力ピストン82よりも、第2油圧配管26が接続されている面側に配置されている。
【0032】
リターンスプリング86は、一方の端部が加圧ピストン84に固定され、他方の端部が第2液圧室80の第2油圧配管26と接続している面に固定されている。リターンスプリング86は、第1スプリング76aと同じスプリングで構成されている。つまり、リターンスプリング86は、リターンスプリング76よりもばね定数が高い弾性体、つまり、リターンスプリング76よりも縮みにくい弾性体で構成されている。リターンスプリン86は、第2液圧室80の第2油圧配管26と接続している面と加圧ピストン84との距離が基準距離よりも短くなると、第2液圧室80の第2油圧配管26と接続している面と加圧ピストン84とを離す方向の力を第2液圧室80の壁面と加圧ピストン84とに付与する。
【0033】
マスタシリンダ23は、以上のような構成であり、乗員がブレーキペダル21を踏むと、その操作力(踏力)が制動倍力装置22に伝達され、操作力が倍力されてマスタシリンダ23に伝達される。マスタシリンダ23は、制動倍力装置22によりピストンロッド50が押され矢印α方向に移動し、回動棒52が回動する。回動棒52が回動すると、伝達棒56が矢印α方向に移動し、伝達棒58が矢印α方向に移動する。第1シリンダ42は、伝達棒56が矢印α方向に移動すると、伝達棒56に連結されている入力ピストン72も矢印α方向に移動する。これにより、入力ピストン72と加圧ピストン74との距離が短くなり、入力ピストン72と加圧ピストン74との間に充填されている作動油の油圧が高くなる。第1シリンダ42は、入力ピストン72と加圧ピストン74との間に充填されている作動油の油圧が高くなり、作動油が加圧ピストン74を押す力が、リターンスプリング76が加圧ピストン74を押す力よりも大きくなると、加圧ピストン74が第1液圧室70の第1油圧配管24が接続されている面側に移動される。第1シリンダ42は、加圧ピストン74と、第1油圧配管24が接続されている面との間の体積が小さくなると、当該領域から作動油が第1油圧配管24に吐出される。
【0034】
また、第2シリンダ44は、伝達棒58が矢印α方向に移動すると、伝達棒58に連結されている入力ピストン82も矢印α方向に移動する。これにより、入力ピストン82と加圧ピストン84との距離が短くなり、入力ピストン82と加圧ピストン84との間に充填されている作動油の油圧が高くなる。第2シリンダ44は、入力ピストン82と加圧ピストン84との間に充填されている作動油の油圧が高くなり、作動油が加圧ピストン84を押す力が、リターンスプリング86が加圧ピストン84を押す力よりも大きくなると、加圧ピストン84が第2液圧室80の第2油圧配管26が接続されている面側に移動される。第2シリンダ44は、加圧ピストン84と、第2油圧配管26が接続されている面との間の体積が小さくなると、当該領域から作動油が第2油圧配管26に吐出される。
【0035】
車両10は、以上のような構成であり、乗員がブレーキペダル21を踏むとマスタシリンダ23から第1油圧配管24及び第2油圧配管26に油圧が吐出される。これにより、マスタシリンダ23の第1液圧室から吐出された油圧は、第1油圧配管24を介して、油圧制動部28rfと油圧制動部28lrに供給される。マスタシリンダ23の第2液圧室から吐出された油圧は、第2油圧配管26を介して、油圧制動部28lfと油圧制動部28rrに供給される。このようにマスタシリンダ23から各油圧制動部に油圧が吐出されることで、各油圧制動部のブレーキロータにブレーキパッドが接触し、タイヤに制動力を付与する。これにより、車両10は、減速され、停止される。
【0036】
このように、車両10は、制動装置20により各タイヤに制動力が付与される。つまり、図3に示すように、左フロントタイヤ12には油圧制動部28lfにより制動力Fxlfが付与され、右フロントタイヤ14には油圧制動部28rfにより制動力Fxrfが付与され、左リヤタイヤ16には油圧制動部28lrにより制動力Fxlrが付与され、右リヤタイヤ18には油圧制動部28rrにより制動力Fxrrが付与される。ここで、図3は、制動時に車体に作用する力を説明するための説明図である。なお、制動時は、前輪により大きい制動力が付与される。つまり、制動力Fxlfと制動力Fxrfの方が、制動力Fxlrと制動力Fxrrよりも大きい力となる。ここで、制動力Fは、ブレーキパッドの受圧面積、ロータ径(ブレーキロータの径)、摩擦係数(ブレーキパッドとブレーキロータの摩擦係数、μ)、油圧の大きさ、タイヤ径に基づいて算出することができる。具体的には、F=((ブレーキパッドの受圧面積)×(ロータ径)×(摩擦係数)×(油圧)×2)/(タイヤ径)で算出することができる。
【0037】
車両10は、図3に示すように、運転手(ドライバ)が乗車した状態で、走行方向に直交する方向において、重心gは、中心(中央)よりも、右側(右タイヤ側)にずれた位置となる。このため、走行方向に直交する方向における、左側のタイヤ(左フロントタイヤ12と左リヤタイヤ16)と重心gとの距離はLwlとなり、右側のタイヤ(右フロントタイヤ14と右リヤタイヤ18)と重心gとの距離はLwrとなる。ここで、距離Lwlと距離Lwrとの関係は、Lwr<Lwlとなる。
【0038】
ここで、図3に示すように、重心gが中心にない車両10、つまり、一方向にずれている車両10が、ブレーキをかけると、回転モーメントMzが発生する。ここで、回転モーメントMzは、Mz=(Fxlf+Fxlr)×Lwl−(Fxrf+Fxrr)×Lwrとなる。ここで、(Fxlf+Fxlr)=(Fxrf+Fxrr)となるため、距離が長い(Fxlf+Fxlr)×Lwlの成分がより大きくなり、モーメントが発生する。なお、重心gのずれの距離が大きくなるほど発生するモーメントは大きくなる。このようにモーメントが発生するのに対して、第1室Rで発生する液圧と、第2室Rで発生する液圧とが、略同一の圧力となる液圧をマスタシリンダ23から出力させると、(Fxlf+Fxlr)と、(Fxrf+Fxrr)とが同じ値となるため、重心gが中心からずれている分、制動力が不均一となる。そのため、回転モーメントMzが発生し、車両10が偏向してしまう。つまり曲がってしまう。
【0039】
これに対して、本実施形態の車両10は、制動時に、第1液圧室70で発生させる液圧と、第2液圧室80で発生させる液圧とを異なる液圧とすることで、回転モーメントMzの発生を抑制し、制動時に車両10が偏向することを抑制する。以下、図4を用いて、車両10の制動装置20について説明する。
【0040】
ここで、図4は、第1室液圧と第2室液圧との関係の一例を示すグラフである。なお、図4に示すグラフは、横軸を第1室の液圧(油圧)[MPa]とし、縦軸を第2室の液圧(油圧)[MPa]とした。図4に示すグラフは、マスタシリンダ23に圧力が入力された場合に、第1液圧室70と第2液圧室80とで発生する液圧、つまり第1油圧配管24と第2油圧配管26に吐出される油圧の関係を示すグラフである。ここで、実線90は、本実施形態のマスタシリンダ23を用いた場合の第1液圧室の液圧と第2液圧室の液圧との関係を示す線である。また、実線92は、第1液圧室と第2液圧室とが直列で接続されており、ピストンロッド、第1液圧室に力を伝達するピストン、第1液圧室、第2液圧室に力を伝達するピストン、第2液圧室の順に力が伝達するマスタシリンダを用いた場合の第1液圧室の液圧と第2液圧室の液圧との関係を示す線である。また、点線94は、第1液圧室と第2液圧室とで発生させる液圧を同じにした場合の第1液圧室の液圧と第2液圧室の液圧との関係を示す線である、なお、実線90、実線92は、実際にブレーキペダル21を踏みこみ、その後、開放した場合の圧力変化の一例を示している。
【0041】
マスタシリンダ23は、上述したように、支点支持部54からジョイント60までの距離が、支点支持部54からジョイント62までの距離よりも長くなる。これにより、支点支持部54からの距離がより長いジョイント60と接続されている入力ピストン72は、支点支持部54からの距離がより短いジョイント62と接続されている入力ピストン82よりも移動量が大きくなる。これにより、ブレーキペダル21の踏み込み力に対する入力ピストン72と、入力ピストン82との移動量は、入力ピストン82の方が大きくなる。これにより、加圧ピストン74は、加圧ピストン74よりも大きい力が付与される。さらに、マスタシリンダ23は、リターンスプリング76がリターンスプリング86よりも縮みやすい。このため、加圧ピストン74は、加圧ピストン84よりも移動しやすくなっている。つまり、加圧ピストン74は、加圧ピストン84よりも付与された力に対する抵抗が小さい。
【0042】
これにより、マスタシリンダ23は、加圧ピストン74に加圧ピストン84よりも大きい力が付与され、かつ、加圧ピストン74が加圧ピストン84よりも抵抗が小さいため、第1液圧室70から第1油圧配管24に供給される液圧(油圧)は、第2液圧室80から第2油圧配管26に供給される液圧よりも液圧が高くなる。これにより、第1液圧室70から第1油圧配管24に供給される液圧(第1室液圧)と、第2液圧室80から第2油圧配管26に供給される液圧(第2室液圧)との関係は、実線90に示すように、第1室液圧が第2室液圧よりも液圧が高くなる。
【0043】
さらに、マスタシリンダ23は、つまり、第1液圧室と第2液圧室とが直列で接続されており、ピストンロッド、第1液圧室に力を伝達するピストン、第1液圧室、第2液圧室に力を伝達するピストン、第2液圧室の順に力が伝達する経路ではなく、リンク機構40から別々の経路で第1シリンダ42と第2シリンダ44とに力を伝達している。これにより、第1シリンダ42と第2シリンダ44とに時間遅れがない力を付与することができ、実線90に示すように、第1室液圧と、第2室液圧とは、比例関係とすることができる。
【0044】
マスタシリンダ23は、実線90に示すように、比例関係の液圧差で液圧を発生させることで、点線94に示すように、第1液圧室と、第2液圧室で発生させる液圧を1対1の関係とした場合よりも回転モーメントMzの発生をより抑制し、制動時に車両10が偏向することを抑制することができる。つまり、マスタシリンダ23は、液圧を異なる液圧とし、左右のタイヤで発生させる制動力を重心からの腕の長さに比例したそれぞれ異なる制動力とすることで、重心を支点として発生する回転モーメントをより小さくすることができる。
【0045】
制動装置20及びそれを有する車両10は、図4に示すように、マスタシリンダ23で油圧を発生させることで、制動力Fxrfと制動力Fxlrとを、制動力Fxlfと制動力Fxrrよりも相対的に大きくすることができる。これにより、(Fxrf+Fxrr)×Lwrの成分をより大きくし、(Fxlf+Fxlr)×Lwlの成分をより小さくすることができるため、発生する回転モーメントMzを小さくすることができる。また、(Fxrf+Fxrr)×Lwr=(Fxlf+Fxlr)×Lwlとなる液圧差にすることで、回転モーメントMzをより小さく、理想的には0にすることができる。
【0046】
このように、制動装置20及びそれを有する車両10は、第1室Rと第2室Rで発生させる液圧に差をつけることで、制動時に発生する回転モーメントを小さくすることができ、制動時に車両10が偏向することを抑制することができる。また、車両10及び制動装置20は、機械的な構造(つまり、基準の設定、初期設定として)で発生させる制動力に差を発生させている。このため、センサ等を用いて制動力を調整する場合では、制御することができない時間帯、つまり、制動初期(制動開始時に演算開始してから制動力の制御を開始するまでの間)も、回転モーメントを小さくすることができる。特に、軽い車両やホイールベースが短い車両の場合は、制動時の偏向が発生しやすくなるが、本実施形態のように、制動力に差を発生させることで、制動安定性を高くすることができる。
【0047】
また、マスタシリンダ23は、実線90に示すように、液圧を発生させることで、つまり、実線92に示すように、ブレーキペダルの踏み込み時と、ブレーキペダルの開放時とで液圧の関係が変化することを抑制することができる。このように、ブレーキペダルの踏み込み時と、ブレーキペダルの開放時とで同様の液圧を発生させること、つまり、油圧にヒステリシス差を発生させない(またはヒステリシス差の発生を抑制する)ことで、第1液圧室70で発生させる液圧と、第2液圧室80で発生させる液圧とを比例関係で異なる液圧とすることができ、回転モーメントMzの発生をより好適に抑制し、制動時に車両10が偏向することをより好適に抑制することができる。
【0048】
なお、マスタシリンダ23では、リンク機構の支点支持部からジョイントまでの長さ、つまり腕の長さと、リターンスプリングの抵抗(バネ定数)によって、第1液圧室と第2液圧室で発生する液圧を異なる大きさにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、リンク機構の支点支持部からジョイントまでの長さ、または、リターンスプリングの抵抗(バネ定数)の一方のみで、第1液圧室と第2液圧室で発生する液圧を異なる大きさとするようにしてもよい。また、これにも限定されず、油圧にヒステリシス差を発生させないで、異なる油圧(液圧)を発生させることができる機構(特に機械的機構)であれば、種々の機構を用いることができる。
【0049】
次に、図5及び図6を用いて、制動装置に用いるマスタシリンダの他の例を説明する。図5及び図6は、それぞれ制動装置のマスタシリンダの概略構成の他の例を示す模式図である。また、図5及び図6に示すマスタシリンダにおいて、図2に示すマスタシリンダと同様の構成である部材には、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。以下、各図のマスタシリンダに特有の構成について説明する。
【0050】
図5に示すマスタシリンダ100は、リンク機構102と、第1シリンダ42と、第2シリンダ44とを有する。また、マスタシリンダ100も、ブレーキペダル21に入力されたペダル踏力が制動倍力装置22で倍化されて、入力される。マスタシリンダ100は、入力された制動指示に対応する制動動作を行う。
【0051】
リンク機構102は、ピストンロッド50と、伝達ブロック110と、伝達棒112、114とを有し、ブレーキペダル21に入力された外力を第1シリンダ42、第2シリンダ44に伝達する。
【0052】
ピストンロッド50は、一方の端部が制動倍力装置22と接続され、他方の端部が伝達ブロック110と接続されている。また、伝達ブロック110は、剛体で構成された部材であり、ピストンロッド50と、伝達棒112と、伝達棒114とに接続されている。伝達ブロック110は、ピストンロッド50と、伝達棒112と、伝達棒114と一体となって移動する。伝達棒112は、一方の端部が、伝達ブロック110と連結され、他方の端部が、第1シリンダ42の入力ピストン72に固定されている。また、伝達棒114は、一方の端部が、伝達ブロック110と連結され、他方の端部が、第2シリンダ44の入力ピストン82に固定されている。
【0053】
リンク機構102は、以上のような構成であり、ブレーキペダル21が踏み込まれると、ピストンロッド50がペダル踏力に比例して矢印β方向に移動する。ピストンロッド50が矢印β方向に移動すると、伝達ブロック110も一体となって移動し、伝達ブロック110に接続されている伝達棒112が矢印β方向に移動し、伝達ブロック110に接続されている伝達棒114が矢印β方向に移動する。このように、伝達棒112が移動することで、入力ピストン72も移動する。また、伝達棒114が移動することで、入力ピストン82も移動する。なお、リンク機構102は、伝達棒112と、伝達棒114とを一体で移動させるため、伝達棒112と、伝達棒114とは同じ移動量となる。
【0054】
マスタシリンダ100も、第1シリンダ42のリターンスプリング76と、第2シリンダ44のリターンスプリング86との抵抗が異なる値であるため、リンク機構102による加圧ピストンの移動量が同じでも、第1液圧室70と、第2液圧室80で発生させる液圧を異なる液圧とすることができる。これにより、マスタシリンダ100もマスタシリンダ23と同様の効果を得ることができる。
【0055】
図6に示すマスタシリンダ200は、リンク機構202と、第1シリンダ204と、第2シリンダ206とを有する。また、マスタシリンダ200も、ブレーキペダル21に入力されたペダル踏力が制動倍力装置22で倍化されて、入力される。マスタシリンダ200は、入力された制動指示に対応する制動動作を行う。
【0056】
リンク機構202は、ピストンロッド50と、伝達ブロック210と液圧室212とを有し、ブレーキペダル21に入力された外力を第1シリンダ204、第2シリンダ206に伝達する。
【0057】
ピストンロッド50は、一方の端部が制動倍力装置22と接続され、他方の端部が伝達ブロック210と接続されている。また、伝達ブロック210は、剛体で構成された部材であり、ピストンロッド50に接続されている。また、伝達ブロック210は、液圧室212の壁面に摺動可能な状態で配置されている。なお、伝達ブロック210は、ピストンロッド50と一体で移動するブロックであり、移動することで、液圧室212の内部にある部分の体積が変化する。
【0058】
次に、液圧室212は、作動油が充填された液室であり、第1シリンダ204の第1液圧室221と、第2シリンダ206の第2液圧室231と、第3液圧室214とで構成されている。なお、液圧室212は、第3液圧室214を介して、第1液圧室221と、第2液圧室231とが繋がっている。つまり、液圧室212は、第1液圧室221と第2液圧室231との間に第3液圧室214が配置されている。また、第1液圧室221と第3液圧室214との境界は、第1シリンダ204の加圧ピストン220であり、第2液圧室231と第3液圧室214との境界は、第2シリンダ206の加圧ピストン230である。また、第3液圧室214を構成する領域の壁面には、伝達ブロック210が挿入されている。
【0059】
リンク機構202は、以上のような構成であり、ブレーキペダル21が踏み込まれると、ピストンロッド50及び伝達ブロック210がペダル踏力に比例して矢印γ方向に移動する。伝達ブロック210が矢印γ方向に移動すると、第3液圧室214の領域が狭くなり、第3液圧室214の液圧が高くなる。これにより、加圧ピストン220は、矢印γ方向に押され、加圧ピストン230は、矢印γ方向に押される。
【0060】
次に、第1シリンダ204は、第1液圧室221と、加圧ピストン220と、規制部材222と、リターンスプリング76とを有する。第1液圧室221は、上述したように液圧室の一部であり、加圧ピストン220を介して第3液圧室214と繋がっている。また、第1液圧室221は、内部の空間に液体(作動油)が貯留されている。また、第1液圧室221の内部には、規制部材222とリターンスプリング76とが配置されている。また、第1液圧室221には、第1油圧配管24が接続されている。
【0061】
加圧ピストン220は、外周面が液圧室212の内周面と接した状態で、軸方向に移動自在に支持されている。また、規制部材222は、加圧ピストン220と第1油圧配管24が接続されている位置との間に配置されている。規制部材222は、加圧ピストン220が一定位置よりも、第1油圧配管24との接続部分側に移動しないように加圧ピストン220の移動を規制している。これにより、第1油圧配管24が第3液圧室214と連通することを抑制する。リターンスプリング76は、一方の端部が加圧ピストン220に固定され、他方の端部が第1液圧室221の端面に固定されている。
【0062】
次に、第2シリンダ206は、第2液圧室231と、加圧ピストン230と、規制部材232と、リターンスプリング86とを有する。第2液圧室231は、上述したように液圧室の一部であり、加圧ピストン230を介して第3液圧室214と繋がっている。また、第2液圧室231は、内部の空間に液体(作動油)が貯留されている。また、第2液圧室231の内部には、規制部材232とリターンスプリング86とが配置されている。また、第2液圧室231には、第2油圧配管26が接続されている。
【0063】
加圧ピストン230は、外周面が液圧室212の内周面と接した状態で、軸方向に移動自在に支持されている。また、規制部材232は、加圧ピストン230と第2油圧配管26が接続されている位置との間に配置されている。規制部材232は、加圧ピストン230が一定位置よりも、第2油圧配管26との接続部分側に移動しないように加圧ピストン230の移動を規制している。これにより、第2油圧配管26が第3液圧室214と連通することを抑制する。リターンスプリング86は、一方の端部が加圧ピストン230に固定され、他方の端部が第2液圧室231の端面に固定されている。
【0064】
マスタシリンダ200は、以上のような構成であり、乗員がブレーキペダル21を踏むと、その操作力(踏力)が制動倍力装置22に伝達され、操作力が倍力されてマスタシリンダ200に伝達される。マスタシリンダ200は、制動倍力装置22によりピストンロッド50及び伝達ブロック210が押され矢印がγ方向に移動する。これにより、マスタシリンダ200は、第3液圧室214の液圧が高くなり、加圧ピストン220に矢印γ方向の力を作用させ、加圧ピストン230に矢印γ方向の力を作用させる。第1シリンダ204は、加圧ピストン220に作用する矢印γ方向の力が、リターンスプリング76が加圧ピストン220を押す力よりも大きくなると、加圧ピストン220が第1液圧室221の第1油圧配管24が接続されている面側に移動される。第1シリンダ204は、加圧ピストン220と、第1油圧配管24が接続されている面との間の体積が小さくなると、当該領域から作動油が第1油圧配管24に吐出される。また、第2シリンダ206は、加圧ピストン230に作用する矢印γ方向の力が、リターンスプリング86が加圧ピストン230を押す力よりも大きくなると、加圧ピストン230が第2液圧室231の第2油圧配管26が接続されている面側に移動される。第2シリンダ206は、加圧ピストン230と、第2油圧配管26が接続されている面との間の体積が小さくなると、当該領域から作動油が第2油圧配管26に吐出される。
【0065】
このとき、マスタシリンダ200も、第3液圧室214から加圧ピストン220に作用する圧力(力)と、第3液圧室214から加圧ピストン230に作用する圧力(力)と、は同じ力になる。また、第1シリンダ204のリターンスプリング76と、第2シリンダ206のリターンスプリング86との抵抗が異なる値であるため、リンク機構202から加圧ピストンに作用する力が同じでも、加圧ピストン220と、加圧ピストン230の移動量を異なる移動量とすることができ、第1液圧室221と、第2液圧室231とで発生させる液圧を異なる液圧とすることができる。これにより、マスタシリンダ200もマスタシリンダ23と同様の効果を得ることができる。
【0066】
ここで、上記実施形態では、車両を構成する4つの車輪の制動力から回転モーメントを算出し、ドライバが乗車している場合に発生する回転モーメントを抑制する液圧差を算出したが、制動力がより大きくなる前輪のみで回転モーメントを抑制する液圧差を算出してもよい。つまり、式、Mz=Fxlf×Lwl−Fxrf×Lwrを用いて、Fxlf×Lwl=Fxrf×Lwrとなる、制動力の関係を算出し、その関係に基づいて液圧差を設定してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、第1液圧室のリターンスプリングを2つのスプリングを直列で接続、液圧が相対的に高くなる液圧室に液圧室の体積が減少しやすくなる、つまり、ピストンの移動の抵抗が小さくなる構成としたが、本発明はこれに限定されない。制動装置は、液圧が相対的により低くなる液圧室に、液圧室の体積が減少しにくくなる構成(非線形ばね、多段ばね、抵抗)を設けるようにしてもよい。また、上記実施形態では、リターンスプリングにより、付加される力に対する抵抗を変化させたが、ピストンと液室との摺動抵抗を異なる値とすることで、発生する液圧を変化させるようにしてもよい。
【0068】
ここで、上記実施形態では、運転手(ドライバ)のみが車両に乗車している状態、つまり、1名のみが車両に乗車している状態を想定して、第1室と第2室とで発生させる液圧差、つまり、車両の右側のタイヤで発生させる制動力と、車両の左側のタイヤで発生させる制動力との差(「制動力差」ともいう。)を決定したが、制動力差は、種々の重心位置を想定して算出することが好ましい。このように、種々の重心位置、つまり種々の使用状態を想定して、制動力差を設定することで、いずれの使用状態でも、発生する回転モーメントを小さくすることができる。ここで、種々の重心位置を想定して制動力差を算出する場合は、発生する回転モーメントが設定された範囲内となるように制動力差を設定することが好ましい。これにより、いずれの場合でも制動時に発生する回転モーメントを一定範囲内(略同じ)とすることができる。これにより使用状態によらず、同様の条件で走行を行うことができる。
【0069】
また、車両10は、1名乗車の場合と2名乗車との場合で、回転モーメントが略同じ(または同一)となる制動力差に設定することが好ましい。このように、1名乗車と2名乗車との場合を加味することで、車両の右側と左側とで、乗車人数が同じ場合と、一名違う場合とを想定することができる。これにより、3名乗車、4名乗車の場合も重心バランスは略同じとなり、回転モーメントが大きく発生する使用状態の発生を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明にかかる制動装置及び車両は、走行中の車両を減速させるのに有用である。
【符号の説明】
【0071】
10 車両
11 車体
20 制動装置
23 マスタシリンダ
24 第1油圧配管
26 第2油圧配管
28lf、28rf、28lr、28rr 油圧制動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に回転自在に配置された第1タイヤと第2タイヤに制動力を付与する制動装置であって、
ブレーキペダルと、
液圧を供給する第1液圧室を備えた第1シリンダ、液圧を供給する第2液圧室を備えた第2シリンダ、及び、前記ブレーキペダルに入力された外力を前記第1シリンダと前記第2シリンダとに直接伝達するリンク機構を備えるマスタシリンダと、
前記第1液圧室から供給された液圧に基づいて第1タイヤに制動力を作用させる第1油圧制動部と、
前記第2液圧室から供給された液圧に基づいて第2タイヤに制動力を作用させる第2油圧制動部と、を有し、
前記マスタシリンダは、前記リンク機構から前記第1シリンダ及び前記第2シリンダに外力が伝達されると、前記第1液圧室と前記第2液圧室とで異なる液圧を発生させることを特徴とする制動装置。
【請求項2】
前記リンク機構は、前記ブレーキペダルに入力された外力を前記第1シリンダ及び前記第2シリンダに伝達するリンク部を有し、
前記リンク部は、重心から前記第1シリンダの力点までの距離と、重心から前記第2シリンダの力点までの距離とが異なる距離であることを特徴とする請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記リンク部は、支点が固定され、前記ブレーキペダルから外力が入力されると前記支点を中心として回動する棒状部材と、
前記棒状部材に接続され、前記棒状部材の移動に比例して移動し、前記第1シリンダに外力を伝達する第1入力部材と、
前記棒状部材に接続され、前記棒状部材の移動に比例して移動し、前記第2シリンダに外力を伝達する第2入力部材と、を有することを特徴とする請求項2に記載の制動装置。
【請求項4】
前記第1シリンダは、入力された外力に対して発生させる液圧の大きさが、前記第2シリンダに同じ大きさの外力を入力した際に発生させる液圧の大きさとは異なることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の制動装置。
【請求項5】
車体と、
前記車体の重心に近い側に回転自在に配置された第1タイヤと、前記車体の重心に遠い側に回転自在に配置された第2タイヤと、
請求項1から4のいずれか1項に記載の制動装置と、を有し、
前記第1油圧制動部は、前記第1液圧室から供給された液圧に基づいて第1タイヤに制動力を作用させ、
前記第2油圧制動部は、前記第2液圧室から供給された液圧に基づいて第2タイヤに制動力を作用させ、
前記制動装置は、運転手が乗車した状態で、前記車体の進行方向に直交する方向において、重心に近い側の制動力が、重心に遠い側の制動力よりも大きくなる設定であることを特徴とする車両。
【請求項6】
前記第1タイヤ及び前記第2タイヤは、前記車体の進行方向において、前方にあることを特徴とする請求項5に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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