説明

制御マップ最適化方法

【課題】車両動作制御装置等において用いられる制御マップを、従来に比して精度良く、簡易に最適化可能とする。
【解決手段】2種類の物理量を入力パラメータとし、その2種類の入力パラメータに対して定まる第3の物理量を出力としてなる制御マップは、先の2種類の物理量と、この2種類の物理量に対して定まる第3の物理量は、これら3つ物理量の組合せで一組の制御データをなし、この制御データに対する座標空間として、先の2種類の物理量を、それぞれx軸座標、y軸座標に、先の第3の物理量をz軸座標に、それぞれ配する3次元座標空間を設定し、粒子群最適化アルゴリズムに基づく、z軸座標の座標点に相当する複数のエージェントを、粒子群最適化アルゴリズムに基づいて先の3次元座標空間を探索空間として同時に移動させることによって当該エージェントの座標点の最適解を得て、制御マップの出力値とすることで最適化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の電子装置等において用いられる制御マップの最適化方法に係り、特に、制御マップの最適化処理の簡素化、制御マップの信頼性向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来方法や装置としては、例えば、いわゆる制御マップを制御動作に供しつつ、その制御マップにおけるマップの格子を、目標値と制御マップの出力値とから最急降下法によって最適化する装置や(例えば、特許文献1等参照)、いわゆる遺伝的アルゴリズムを用いて車両の動作制御に供される制御パラメータの最適化を行う装置(例えば、特許文献2等参照)等が種々提案、実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−146290号公報(第6−13頁、図1−図11)
【特許文献2】特開2008−117059号公報(第7−19頁、図1−図18)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者の例にあっては、一つ一つの実験データに対して、制御マップを構成する格子の最適化を行うため、局所的にしか最適化されないという問題があり、最適化が必ずしも満足できるものではなかった。また、最適化の際のx、y座標は、所定の範囲、大きさに設定されるため、x、y座標系については最適化がなされず、かかる点からも十分満足できる制御マップを得ることは難しいという問題があった。
また、後者の例にあっては、最適化データを得るまで比較的長い処理時間を要し、処理の迅速性に欠けるという問題があった、
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、車両動作制御装置等において用いられる制御マップを、従来に比して精度良く、簡易に最適化できる制御マップ最適化方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る制御マップ最適化方法は、
2種類の物理量を入力パラメータとし、前記2種類の入力パラメータに対して定まる第3の物理量を出力としてなる制御マップを、実験データを基に最適化する制御マップ最適化方法であって、
前記入力パラメータとしての2種類の物理量と、この2種類の物理量に対して定まる前記第3の物理量は、これら3つ物理量の組合せで一組の制御データをなし、
前記制御データに対する座標空間として、前記入力パラメータとなる2種類の物理量を、それぞれx軸座標、y軸座標に、前記第3の物理量をz軸座標に、それぞれ配する3次元座標空間を設定し、
前記3次元座標空間において、粒子群最適化アルゴリズムに基づく、前記z軸座標の座標点に相当する複数のエージェントを、粒子群最適化アルゴリズムに基づいて前記3次元座標空間を探索空間として同時に移動させることによって当該エージェントの座標点の最適解を得て、前記制御マップの出力値とすることで制御マップの最適化を図り、
粒子群最適化アルゴリズムに基づく前記エージェントの最適解の取得にあたっては、
前記x軸座標、y軸座標のそれぞれにおける各座標点の間の距離を、それぞれパラメータとし、前記x軸座標、y軸座標の各座標点の位置は、前記x座標の基準点となる座標点、及び、前記y座標の基準点となる座標点のそれぞれの位置と前記パラメータによって設定可能とする一方、
前記エージェントの前記z軸座標の座標を、当該エージェントの座標点に最も近接する周囲の5個のz軸座標の座標点の平均値に、係数を乗じた乗算結果とするよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来と異なり、制御マップ作成者の経験等の人為的な要素に基づくことなく、制御マップの最適化ができるので、最適化のばらつきを低減し、より短時間で精度の良い制御マップを得ることができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態における制御マップ最適化装置の構成例を示す構成図である。
【図2】制御マップ最適化装置により実行される制御マップ最適化処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態の制御マップ最適化処理において用いられる座標を説明する模式図である。
【図4】各格子へ対する付番の順序を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図4を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における制御マップ最適化装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における制御マップ最適化装置Sは、入力装置1と、制御部(図1においては「CPU」と表記)2とを主たる構成要素として構成されたものとなっている。なお、かかる制御マップ最適化装置Sには、必要に応じて外部に制御マップ記憶用記憶装置(図1においては「MEM」と表記)3が接続可能となっており、後述するように最適化されて得られた制御マップを、制御マップ記憶用記憶装置3へ出力可能に構成されたものとなっている。
【0010】
制御部2は、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAM、ROM等の記憶素子(図示せず)や、外部とのインターフェイス回路(図示せず)を有し、後述する粒子群最適化(Particle Swarm Optimization、以下、「PSO」と略記)による制御マップ最適化処理を実行し、最適化された制御マップを、外部に設けられた制御マップ記憶用記憶装置3へ出力可能に構成されたなるものである。
【0011】
入力装置1は、後述するように制御部2へ実験データを入力するためのもので、例えば、いわゆるキーボードに代表されるものである。
なお、制御部2への実験データの入力は、必ずしもキ−ボードのような入力装置1を用いる方法に限定される必要は無く、例えば、予め実験データが記憶された、例えば、USBメモリのような携帯可能な補助記憶装置(図示せず)を、制御部2へ接続して、読み込むようにしても良い。
【0012】
図1においては、かかる制御部2の概略機能が、機能ブロックとして示されており、以下、その機能ブロックについて説明する。
制御部2は、後述するように実験データを基に、最適化処理ブロック(図1においては「最適化処理」と表記)2bにより制御マップの最適化処理が実行されるようなっていると共に、上述のように入力装置1によって外部から入力された制御マップの、いわば基礎データとなる実験データを保持する実験データ保持領域2aを有するものとなっている。
また、制御部2には、最適化処理中の暫定的なデータ等を保持する暫定データ保持領域2cが設けられ、さらに、最適化された制御マップを保持する最適化制御マップ保持領域2dが設けられたものとなっている。
【0013】
次に、上述の制御部2により実行される本発明の実施の形態における制御マップ最適化処理について、その概略を説明する。
本発明における制御マップ最適化処理は、例えば、車両動作制御装置などにおいて用いられるいわゆる制御マップの最適化を行うものである。
対象とされる制御マップは、2つのパラメータに対して、一つの出力値が得られるよう構成されてなるものである。具体的には、例えば、エンジン回転数と燃料噴射量を入力とし、これら2つのパラメータに対する過給圧が出力されるよう構成された制御マップに代表されるような車両動作制御に用いられる種々の制御マップである。
【0014】
このような制御マップは、従来は、例えば、実験データを基に、種々提案されている最適化処理の中から好適なものを選択して用いることによってマップの最適化を行うと共に、実験データの不足する箇所については、補間法等によってデータを補う等の処理を行うことで作成されていた。
本発明の実施の形態においては、実験データを基に制御マップを作成するに際して、実験データの最適化処理方法として粒子群最適化(Particle Swarm Optimization、以下、「PSO」と略記)による処理を施すようにしたものである。
【0015】
特に、本発明の実施の形態における制御マップ最適化処理は、PSOアルゴリズムを基本としつつも、制御マップのさらなる精度向上等の観点から、詳細は後述するが、独自のx、y座標パラメータの導入、最適化の精度と処理時間の短縮を図りつつ探索範囲の縮小のための独自のZ座標の演算処理を導入した点に特徴を有するものである。
なお、制御部2には、最適化処理ブロック2bによる最適化処理中の種々の暫定的なデータ等を一時的に記憶、保持する暫定データ保持領域2cが確保されると共に、最適化された最終な制御マップのデータを記憶、保持する最適化制御マップ保持領域2dが確保されている。
【0016】
図2には、制御部2により実行される制御マップの最適化処理の手順がサブルーチンフローチャートに示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
制御部2による処理が開始されると、最初に、制御マップを作成する基となる実験データの読み込みが行われる(図2のステップS102参照)。
この実験データの読み込みは、先に述べたように、入力装置1を用いた実験データの入力で行うようにしても良いし、これに限定される必要はなく、予め実験データが記憶された補助記憶装置(図示せず)を接続し、一括して制御部2に読み込むようにする等の他の方法を用いても良い。
入力された実験データは、制御部2に予め確保された実験データ保持領域2aに記憶、保持されることとなる(図1参照)。
【0017】
制御マップの基礎となる実験データは、例えば、物理量である2つのパラメータと、この2つのパラメータに対して定まる一つの物理量とで一組の実験データとされるもので、2つのパラメータに対して定まる一つの物理量は、制御マップの出力値に相当するものである。
かかる実験データは、具体的には、例えば、車両の動作制御におけるエンジン回転数及び燃料噴射量と、これに対応して過給機の動作制御によって得られる過給圧である。すなわち、エンジン回転数及び燃料噴射量が制御マップの入力としての2つのパラメータであり、過給圧は、制御マップの出力値となるものである。
【0018】
ここで、以後の説明の便宜上、実験データについて、2つの入力パラメータを、それぞれ、x、yとし、制御マップの出力値に対応する値をzとする。上述の例で言えば、エンジン回転数をxとすれば、燃料噴射量はyとなり、過給圧はzである。なお、エンジン回転数をy、燃料噴射量をxとしても良い。
【0019】
なお、本発明の実施の形態における制御マップ最適化処理を適用する制御マップとしては、上述の例に限定されるものでは無いことは勿論である。例えば、車両のコモンレール式燃料噴射制御において、エンジン回転数及び燃料噴射量を入力パラメータとし、レール圧制御により得られるべきレール圧(目標レール圧)を出力するよう構成されたレール圧制御用マップ等であっても好適である。
【0020】
次いで、エージェントの座標設定が行われる(図2のステップS104参照)。
ここで、エージェントは、PSOおいて、探索空間を移動しながら最適解を探索する探索点で、位置と移動速度を有するものである。かかるエージェントは、予め所定数設定されるが、その所定数は、探索空間の規模や、所望される最適化の精度等に応じて適宜選択されるべきもので、特定の値に限定されるものではない。
【0021】
本発明の実施の形態においては、次述するような座標空間モデルを設定して、かかる座標空間モデルを前提として各エージェントの座標が設定されるものとなっている。
本発明の実施の形態における座標空間モデルは、図3に示されたように、x、y、zの三次元空間座標において、x0とy0の値は、具体的な値を設定するが、他のx、yの各々の位置は、それぞれx0とy0を基準として、それぞれ次のようなパラメータを用いて表されるものとなっている。
【0022】
x0は、x座標軸において原点0に最も近接した点であり、また、y0は、y座標軸において原点0に最も近接した点であり、それぞれの具体的な値は、制御マップの対象とされる具体的な物理量の種類や実際の実験データの大きさ等によって異なるものであり、それらの諸条件に応じて適切な値が選択されるべきものである。
【0023】
また、x座標軸においては、x0に続いてx1、x2、・・・xnとn個の点が設定される。なお、n個を具体的に如何なる値とするかは、最終的に最適化によって得る制御マップの大きさ等に応じて適切な値が選択されるべきものである。
そして、x1の座標位置は、x0に、x1との距離を加算した形式、すなわち、x0+パラメータ2として表されるものとなっている。ここで、パラメータ2は、x0とx1との距離であり、以下説明するPSOによる最適化処理の中で、その具体的な値が求められるものとなっている。
【0024】
また、x2の座標位置は、x0の値に、x0とx2との距離を加算した形式で表されることは、x1と同様であるが、x0とx2との距離は、x0とx1との距離に、x1とx2との距離を加算したものとして表され、x0とx1との距離は、上述のようにパラメータ2とされ、同様に、x1とx2との距離は、パラメータ3とされ、パラメータ2同様、以下説明するPSOによる最適化処理の中で、その具体的な値が求められるものとなっている。
以下、x3、x4・・・、xnのそれぞれの位置も、上述と同様に、x0に、x0との距離を表す複数のパラメータの和を加算したものとして表されるものとなっている。
【0025】
このように、この図3に示された座標空間モデルにおいては、隣り合うx座標間の距離をパラメータ化し、それぞれの具体的な値は、PSOによる最適化により定められるものとなっている。
一方、y座標においても基本的に上述したx座標同様に、y0に続いてy1、y2、・・・ykとk個の点が設定される。なお、k個を具体的に如何なる値とするかは、x座標同様、最終的に最適化によって得る制御マップの大きさ等に応じて適切な値が選択されるべきものである。
【0026】
そして、y1の座標位置は、y0とy11との距離を加算した形式、すなわち、y0+パラメータ(n+2)として表されるものとなっている。ここで、パラメータ(n+2)は、y0とy1との距離であり、以下説明するPSOによる最適化処理の中で、その具体的な値が求められるものとなっている。
【0027】
また、y2の座標位置は、y0の値に、y0とy2との距離を加算した形式で表されることは、y1と同様であるが、y0とy2との距離は、y0とy1との距離に、y1とy2との距離を加算したものとして表され、y0とy1との距離は、上述のようにパラメータ(n+2)とされ、同様に、y1とy2との距離は、パラメータ(n+3)とされ、以下説明するPSOによる最適化処理の中で、その具体的な値が求められるものとなっている。
以下、y3、y4・・・ykのそれぞれの位置も、上述と同様に、y0に、y0との距離を表す複数のパラメータの和を加算したものとして表されるものとなっている。
このように、図3に示された座標空間モデルにおいては、x座標同様、隣り合うy座標間の距離をパラメータ化し、それぞれの具体的な値は、PSOによる最適化により求められるものとなっている。
【0028】
次に、z座標は、探索効率を高める観点から、下記する数1に基づいて定められるものとなっている。
【数1】

【0029】
ここで、Ziの添字iは、i番目のZ座標であることを表している。
かかる数1において、第1項は、Ziの座標が、パラメータ(n+k+i)の関数として表されることを意味しており、同第2項は、その具体的内容を示したもので、Ziの座標が、制御マップ上のi番目の格子に最も近い実験データ5点のZ座標の和を5で除した値に、係数{1+パラメータ(n+k+i)}を乗じた結果として求められるものであることを表している。
ここで、係数{1+パラメータ(n+k+i)}において、パラメータ(n+k+i)は、本発明の実施の形態においては、−0.1〜+0.1の範囲に制限している。
【0030】
また、制御マップにおける格子(「マップ格子」とも称する)とは、図3に示された3次元座標において、制御マップのデータが存在する点を、x座標軸方向、y座標軸方向のそれぞれで仮想的な線(図3においては実線で表記)で結んだ際に形成される網目を指し、データが存在する点を”格子点”と称する。
本発明の実施の形態においては、かかる格子の番号は、x0,y0に最も近い格子の番号を”1”とし、以下、x軸に沿って昇順に付番してゆき、付番の対象となる格子が尽きたところで、x0の格子点に戻り、1番目の格子に対して、y軸方向で隣接する格子から再びx軸方向で昇順に付番してゆく。以下同様にして各格子に付番するものとしている(図4参照)。
なお、図4は、図3に示されたパラメータを除いて制御マップの格子を模式的に表したもので、その内容は、基本的に図3と同様のものである。
【0031】
このような座標空間モデルを用い、x、y座標の位置をパラメータ化し、最適化するようにしたのは、x、y座標の各点の位置を予め設定、固定してPSOによる最適化を行った場合、最適化によって、座標の位置が前後する可能性があり、その場合、制御マップとしては不完全なものとなるため、このようなことを防止し、信頼性の高い制御マップを得るためである。
【0032】
次に、各エージェントの座標の設定について説明する。
各エージェントは、上述した座標空間モデルを前提として、それぞれx、y、z座標におけるパラメータが、例えば、乱数を利用してランダムに設定されるものとなっている。
すなわち、例えば、1番目のエージェントをA1とすると、そのA1の座標は、A1(x(A1)、y(A1)、z(A1))と表される。
ここで、x(A1)は、x0に、先の座標空間モデルで示したx座標におけるパラメータを加算した結果として表されることとなる。すなわち、原則的には、x(A1)=x0+(x座標の複数のパラメータの和)となる。例えば、x(A1)=x0+パラメータ2+パラメータ3+パラメータ4の如くである。ここで、x0を基準として幾つのパラメータの和となるかは、乱数を発生させ、その発生した乱数の値によって予め定めた規則にしたがって定められるものとする。
なお、例外として、乱数が1の場合は、パラメータ1個とされ、x(A1)は、x(A1)=x0+パラメータ2とされる。
【0033】
y(A1)についても、基本的にx(A1)と同様である。
すなわち、原則的に、y(A1)=y0+(y座標の複数のパラメータの和)と設定される。
そして、例外として、パラメータ1個の場合には、y(A1)=y0+パラメータ(n+2)と設定される。
一方、z(A1)については、先の述べた数1に基づいて定められることとなる。
【0034】
上述のようにして各エージェントの座標設定がなされた後は、ステップS106の処理へ進み、エージェントの座標更新が行われることとなる。
すなわち、エージェントの座標更新は、下記の数2、数3に基づいて行われるものとなっている。
このエージェント座標の更新は、複数のエージェントの中から、予め定めた順に一つのエージェントが順次選択されて行われるものとなっている。
【数2】

【数3】

【0035】
ここで、数3における係数W、C1、C2を除いて、数2、数3における各要素はベクトルである。なお、以下の説明においては、文章表記の便宜上、例えば、数2において、Position_nに→を冠して表されたベクトルを、「ベクトルPosition_n」と表記、称することとする。
まず、数2において、”ベクトルPosition_n”は、更新により得られたエージェントの新たな座標を、”ベクトルPosition_n-1”は、更新直前のエージェントの座標を、それぞれ表している。
また、数2、数3における”ベクトルVn”は、更新後のエージェントの移動速度を、数3における”ベクトルVn-1”は、更新直前のエージェントの移動速度を、それぞれ表している。
【0036】
さらに、数3の第2項の括弧内において、”ベクトルLocal_best(ローカルベスト)”は、この時点で更新対象となっているエージェントのこれまでの座標の中で、評価値(詳細は後述)が最小のときの座標を意味し、また、同じく第2項の括弧内において、”ベクトル現在地(local)”は、同じく更新対象となっているエージェントの現時点の座標を意味している。
また、数3の第3項の括弧内において、”ベクトルGlobal_best(グローバルベスト)”は、全エージェントの中で、これまで評価値が最小のエージェントの座標を意味し、また、同じく第3項の括弧内において、”ベクトル現在地(Global)”は、グローバルベストとされたエージェントの現時点の座標を意味している。
なお、図2の一連の処理が開始された直後において、ステップS104に続いてステップS106の処理に進んだ場合には、それ以前のエージェントの座標が無い状態であるので、ステップS104で設定された座標が維持されることとなり、実質的な更新は行われないこととなる。
【0037】
上述のようにしてエージェントの座標更新がなされた後は、評価値の算出が行われることとなる(図2のステップS108参照)。
評価値は、エージェントの座標の最適化の適否を判断する基準であり、本発明の実施の形態においては、制御マップの出力値、すなわち、エージェントのZ座標の値と、対応する位置における実験データのZ座標の値との差分diを評価値として用いることとしている。
そして、本発明の実施の形態においては、次述するようにして、全エージェント毎の差分diを基に評価値が算出されるものとなっている。
【0038】
すなわち、まず、全エージェントの各々の差分diの内、最大値di(max)が抽出される。次いで、全エージェントの各々の差分diの標準偏差di(sd)が算出され、さらに、差分の最大値di(max)との和、di(max)+di(sd)が評価値Eとして算出されるものとなっている。
【0039】
次いで、上述のステップS108で算出された評価値を、最新の評価値であるとしてEnと表すとすると、この最新の評価値Enが、直近の評価値En-1よりも小さいか否か(En<En-1)が判定されることとなる(図2のステップS110参照)。
そして、最新の評価値Enが、直近の評価値En-1よりも小さいと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS112の処理へ進む一方、最新の評価値Enが、直近の評価値En-1よりも小さくないと判定された場合(NOの場合)後述するステップS114の処理へ進むこととなる。
【0040】
ステップS112においては、ローカルベストの座標更新が行われることとなる。
まず、先に述べたようにローカルベストは、各エージェントの過去の座標の中で、評価値が最小だったときの座標である。
一方、先のステップS106の処理により座標更新が行われたエージェントを含めて、ステップS108で算出された評価値が、過去の最小値よりも更に小さくなったこと(図2のステップS110参照)は、その座標更新がなされたエージェントの差分diがより小さくなったことによるものとして、ステップS106で座標更新がなされたエージェントについて、その座標が新たにローカルベストとして更新されることとなる。
【0041】
次いで、ステップS114へ進み、全てのエージェントについて上述のようにしてローカルベストの座標更新が完了したか否かが判定され、未だ完了してないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS106の処理へ戻り、同ステップ以降の処理が、次のエージェントに対して繰り返されることとなる。
一方、ステップS114において、全てのエージェントについて上述のようにしてローカルベストの座標更新が完了したと判定された場合(YESの場合)には、グローバルベスト座標の更新が行われる(図2のステップS116参照)。
なお、先のステップ112において更新されたローカルベストや上述のステップS116において更新されたグローバルベストのデータは、暫定データ保持領域2cに、暫定的に記憶、保持されるようになっている。
【0042】
すなわち、この時点において、全エージェントの座標の中で、評価値が最小のものの座標が、新たなグローバルベストの座標として更新されることとなる。
次いで、先のステップS106以降の処理が、予め定められた所定の試行回数実行されたか否かが判定され(図2のステップS118参照)、所定の試行回数の処理実行が達成されたと判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS120の処理へ進む一方、未だ所定回数の処理実行が達成されていないと判定された場合(NOの場合)には、先のステップS106へ戻り、それ以降の一連の処理が繰り返されることとなる。
なお、所定試行回数は、求める制御マップの規模等に応じて適宜定められるべきものであるが、例えば、少なくとも500回程度とするのが好適である。
【0043】
ステップS120においては、上述のようにして得られた制御マップのデータ出力が行われ、制御部2内に予め確保された最適化制御マップ保持領域(図1参照)に、記憶、保持され、一連の処理が終了されることとなる(図2のステップS120参照)。
すなわち、グローバルベストの各エージェントの座標が、最適化された制御マップのデータとされ、最適化制御マップ保持領域2dに、記憶、保持され、必要に応じて、外部に接続された制御マップ記憶用記憶装置(図1においては「MEM」と表記)3にも出力されることとなる。
【0044】
上述の実施の形態においては、対象とされる制御マップとして、エンジン回転数と燃料噴射量に対する過給圧を定める制御マップを例に挙げた他、これに限定されるものではなく、例えば、エンジン回転数と目標レール圧に対して目標燃料噴射量を定める制御マップ等であっても良いものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
車両の動作制御等に用いられる種々の制御マップの作成に適する。
【符号の説明】
【0046】
1…入力装置
2…制御部
3…制御マップ記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類の物理量を入力パラメータとし、前記2種類の入力パラメータに対して定まる第3の物理量を出力としてなる制御マップを、実験データを基に最適化する制御マップ最適化方法であって、
前記入力パラメータとしての2種類の物理量と、この2種類の物理量に対して定まる前記第3の物理量は、これら3つ物理量の組合せで一組の制御データをなし、
前記制御データに対する座標空間として、前記入力パラメータとなる2種類の物理量を、それぞれx軸座標、y軸座標に、前記第3の物理量をz軸座標に、それぞれ配する3次元座標空間を設定し、
前記3次元座標空間において、粒子群最適化アルゴリズムに基づく、前記z軸座標の座標点に相当する複数のエージェントを、粒子群最適化アルゴリズムに基づいて前記3次元座標空間を探索空間として同時に移動させることによって当該エージェントの座標点の最適解を得て、前記制御マップの出力値とすることで制御マップの最適化を図り、
粒子群最適化アルゴリズムに基づく前記エージェントの最適解の取得にあたっては、
前記x軸座標、y軸座標のそれぞれにおける各座標点の間の距離を、それぞれパラメータとし、前記x軸座標、y軸座標の各座標点の位置は、前記x座標の基準点となる座標点、及び、前記y座標の基準点となる座標点のそれぞれの位置と前記パラメータによって設定可能とする一方、
前記エージェントの前記z軸座標の座標を、当該エージェントの座標点に最も近接する周囲の5個のz軸座標の座標点の平均値に、係数を乗じた乗算結果とすることを特徴とする制御マップ最適化方法。
【請求項2】
各エージェントのz座標と、前記各エージェントのx、y座標の位置と同一位置における実験データのz座標との差分の内、最大値に、前記各エージェントのz座標と、前記各エージェントのx、y座標の位置と同一位置における実験データのz座標との差分についての標準偏差を加算した値を、前記各エージェントの座標点が最適解か否かを判定する評価値とし、前記各エージェントの座標更新が行われる度に前記評価値を算出し、当該算出された評価値が、直近の評価値よりも小さい場合、その時点における前記各エージェントの座標点が最適であるとすることを特徴とする請求項1記載の制御マップ最適化方法。
【請求項3】
x座標における基準点をx0とし、この基準点x0からx座標軸に沿って離間する方向でn番目に位置するx座標点の座標は、前記基準点x0とn番目の座標点との間の各座標点間に設定されたパラメータの総和を、前記x0の座標に加算した加算結果として表される一方、
y座標における基準点をy0とし、この基準点y0からy座標軸に沿って離間する方向でn番目に位置するy座標点の座標は、前記基準点y0とn番目の座標点との間の各座標点間に設定されたパラメータの総和を、前記y0の座標に加算した加算結果として表されることを特徴とする請求項2記載の制御マップ最適化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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