説明

制御弁式鉛蓄電池

【構成】 制御弁式鉛蓄電池では、正極板と負極板との間にセパレータを介在させた極板群を電槽内に収容すると共に、極板群とセパレータとに電解液を保持させる。電解液は20℃の満充電状態における密度が1.32g/cm以上で1.36g/cm以下で、かつアルミニウムイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下、リチウムイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下含有する。
【効果】 制御弁式鉛蓄電池での硫酸鉛の蓄積を少なくし、低温HR性能を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は制御弁式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用等の制御弁式鉛蓄電池では、電装品の増加による暗電流の増加と、アイドリングストップ時の電装品への電力供給等のために、高容量化が要求されている。そして高容量化に際しては、低温HR性能等で表されるエンジン始動時の性能を許容範囲内に保ち、硫酸鉛の蓄積(サルフェーション)を許容範囲内に留める必要がある。なお低温HR性能は例えば低温HR容量で評価でき、高密度の電解液では低温でサルフェーションが進行しやすいので、低温でのサルフェーションを検討する。
【0003】
関連する先行技術を示すと、特許文献1(WO2007/36979)は、電解液にアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含有させることにより、アイドリングストップ寿命と電池の容量(5時間率容量)とに優れた、液式の鉛蓄電池が得られることを開示している。しかしながら電解液の密度の影響は検討されていない。また制御弁式の鉛蓄電池の電解液に、アルミニウムイオンとリチウムイオンとを含有させることは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/36979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、硫酸鉛の蓄積が少なく、かつ低温HR性能を向上させた制御弁式鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、正極板と負極板との間にセパレータを介在させた極板群を電槽内に収容すると共に、前記極板群と前記セパレータとに電解液を保持させている制御弁式鉛蓄電池において、前記電解液は20℃の満充電状態における密度が1.32g/cm以上で1.36g/cm以下で、かつアルミニウムイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下、リチウムイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下含有することを特徴とする。なお、アルミニウムイオン濃度が0.2mol/Lを越えると、アルミニウムイオン濃度が0.2mol/Lの場合に比べ、低温HR容量が低下し、硫酸鉛の蓄積量も増す。またリチウムイオン濃度が0.2mol/Lを越えても、リチウムイオン濃度が0.2mol/Lの場合に比べ、同様に低温HR容量が低下し、硫酸鉛の蓄積量も増す。そこで好ましくは、電解液中のアルミニウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.2mol/L以下とし、リチウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.2mol/L以下とする。
【0007】
なお満充電状態とは充電率が実質的に100%の状態であり、例えば定格容量の150%程度の電気量を10時間程度で充電すると実現できる。以下では電解液の密度は20℃の満充電状態における密度を表すものとする。
【0008】
制御弁式鉛蓄電池の電解液にアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含有させると、これらのイオンの効果は、電解液の密度が1.32g/cm〜1.36g/cmの範囲で特に高くなる。図1はアルミニウムイオン濃度を0.05mol/Lに固定し、リチウムイオン濃度を0.1mol/Lに固定して、制御弁式鉛蓄電池の電解液密度を1.28g/cmから1.37g/cmの範囲で変化させた際の特性を表している。JIS D 5301:2006の9.5.3b)に規定する低温HR容量と、電池工業会規格SBA S 0101:2006に規定するアイドリングストップ寿命試験を0℃で実施した際の硫酸鉛の蓄積量を、アルミニウムイオンもリチウムイオンも含有しない比較例を100%とする相対値で、縦軸に示す。実施例では電解液の密度が1.32g/cm以上と高い場合、低温で硫酸鉛の蓄積が著しいので、アイドリングストップ寿命試験を電池工業会規格の25℃ではなく0℃で実施したが、0℃での硫酸鉛の蓄積が少ない制御弁式鉛蓄電池は、25℃等でも硫酸鉛の蓄積が少なかった。
【0009】
電解液密度が1.32g/cm以上で1.36g/cm以下の範囲で、低温HR容量が特異的に大きくなり、またこの範囲で硫酸鉛の蓄積量も特異的に小さくなる。そして一般に電解液の密度を高めることにより、制御弁式鉛蓄電池の放電容量が増す。この反面で硫酸鉛の蓄積が進行しやすくなり、かつ低温HR性能が低下する。このため密度が1.32g/cm以上で1.36g/cm以下の電解液に、アルミニウムイオンとリチウムイオンを各々0.02mol/L以上0.3mol/L以下含有させると、制御弁式鉛蓄電池の放電容量を大きくでき、かつ低温HR性能とアイドリングストップ寿命性能を向上させることができる。
【0010】
電解液の密度が1.32g/cm以上で1.36g/cm以下で、0.02mol/L以上0.3mol/L以下のリチウムイオンを含む場合、アルミニウムイオン濃度を0.01mol/Lから0.02mol/Lへ増すことにより硫酸鉛の蓄積量を著しく少なくできる。なおアルミニウムイオン濃度を0.2mol/Lから0.3mol/Lへ増すと、硫酸鉛の蓄積量が再度増し、また低温HR容量も低下する。従ってアルミニウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.3mol/L以下とし、好ましくは0.02mol/L以上0.2mol/L以下とする。
【0011】
電解液の密度が1.32g/cm以上1.36g/cm以下で、0.02mol/L以上0.3mol/L以下のアルミニウムイオンを含む場合、リチウムイオン濃度を0.01mol/Lから0.02mol/Lへ増すことにより、低温HR容量を増すと共に硫酸鉛の蓄積量を少なくできる。リチウムイオン濃度を0.2mol/Lから0.3mol/Lへ増すと、硫酸鉛の蓄積量が増し、また低温HR容量も低下する。従ってリチウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.3mol/L以下とし、好ましくは0.02mol/L以上0.2mol/L以下とする。これらのため全体としては、電解液の密度を1.32g/cm以上で1.36g/cm以下とし、アルミニウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.3mol/L以下とし、リチウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.3mol/L以下とする。そして好ましくは、電解液の密度を1.32g/cm以上で1.36g/cm以下とし、アルミニウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.2mol/L以下とし、リチウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.2mol/L以下とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】リチウムイオンを0.1mol/L、アルミニウムイオンを0.05mol/L含む電解液での、20℃の満充電状態における密度と、低温HR容量及びアイドリングストップ寿命試験後の硫酸鉛の蓄積量を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0014】
ボールミル法で製造した鉛粉に合成樹脂繊維を加え、水と希硫酸とを加えてペースト化し、Pb-Ca-Sn系の正極格子に充填して熟成と乾燥とを施し、未化成の正極板とした。ボールミル法で製造した鉛粉に合成樹脂繊維と硫酸バリウムとカーボンブラックとリグニンとを加え、水と希硫酸とを加えてペースト化し、Pb-Ca-Sn系の負極格子に充填して熟成と乾燥とを施し、未化成の負極板とした。未化成の負極板5枚と未化成の正極板4枚を用意し、微細なガラス繊維から成るリテーナマットをU字に折り曲げて正極板を包み、圧迫を加えながら電槽に収容し、負極板上部の耳部を互いに溶接して未化成の負極板群とし、正極板上部の耳部を互いに溶接して未化成の正極板群とした。なおリテーナマットの代わりに、ゲル化した電解液を用い、あるいは顆粒状のシリカを含む電解液を用いても良い。
【0015】
アルミニウムイオン含有量とリチウムイオン含有量とが各々0〜0.3mol/Lとなるように硫酸アルミニウムと硫酸リチウムとを加え、かつ化成後の満充電の状態で20℃での密度が1.28〜1.37g/cmとなるように密度を変化させた希硫酸を調製した。この希硫酸を電槽に注ぎ、25℃の水槽内で電槽化成を行って、B20サイズの制御弁式鉛蓄電池とした。正極格子及び負極格子の材質と製造方法は任意で、鉛粉はボールミル法によるものに限らず、バートン法等によるものでもよく、鉛丹等の含有量は任意である。また鉛粉への添加物の量と種類、不純物の含有量等は任意である。アルミニウムイオンとリチウムイオンを含有させるための化合物の種類は任意である。各試料は、電解液の密度とアルミニウムイオン含有量とリチウムイオン含有量の他は、全て同じ条件で製造した。
【0016】
電解液の密度と組成が同じ制御弁式蓄電池を3個ずつ用意し、低温HR放電試験を行い、-15℃で300Aで放電した際に端子電圧が6Vに低下するまでの放電持続時間を測定した。低温HR放電試験の後に制御弁式蓄電池を満充電し、0℃でアイドリングストップ寿命試験を行った。電池工業会規格では、アイドリングストップ寿命試験を、25℃で45A×59秒の放電と300A×1秒の放電と14Vで60秒の充電の充放電サイクルを繰り返し、3600サイクル毎に40〜48時間蓄電池を放置するとしている(SBA S 0101:2006)。しかし電解液の密度を増すと、低温でのサルフェーションが著しくなったので、周囲の気温を0℃に変更して試験した。そしてアイドリングストップ寿命試験での充放電を14400サイクルで打ち切り、制御弁式蓄電池を解体して負極の硫酸鉛蓄積量を測定した。
【0017】
3個の制御弁式蓄電池の平均値で結果を表1に示し、アルミニウムイオン含有量を0.05mol/L、リチウムイオン含有量を0.1mol/Lに固定し、電解液の密度を変えた際の結果を図1に示す。電解液の密度が同じで、アルミニウムイオンもリチウムイオンも含有しない比較例を100とする相対値で、結果を示す。なおアルミニウムイオン含有量とリチウムイオン含有量が共に0の場合、電解液の密度が高い程、放電容量は増加するが、サルフェーションが進行し易くなり、かつ低温HR容量が低下する傾向にある。
【0018】
【表1】

【0019】
主な結果を図1に示す。アルミニウムイオンとリチウムイオンを共に含む電解液では、密度を1.30g/cmから1.32g/cmへ増加させると、硫酸鉛の蓄積が著しく少なくなり、低温HR容量が急増する。電解液の密度が1.32g/cm以上で1.36g/cmの範囲では、硫酸鉛の蓄積が少なくかつ低温HR容量が大きい。しかし電解液の密度を1.37g/cmとすると、硫酸鉛の蓄積が増加し、低温HR容量も低下する。
【0020】
電解液の密度を1.32g/cmに固定し、アルミニウムイオン濃度を0.05mol/Lに固定して、リチウムイオン濃度を変えると、リチウムイオン濃度を0.01mol/Lから0.02mol/Lへ増すことにより、低温HR容量が急増する。また0.2mol/Lまではリチウムイオン濃度と共に硫酸鉛の蓄積量が減少するが、リチウムイオン濃度を0.3mol/Lにすると、低温HR容量がやや低下し、硫酸鉛の蓄積量も増加する。従ってリチウムイオン濃度は0.02mol/L以上0.3mol/L以下とし、好ましくは0.02mol/L以上0.2mol/L以下とする。なおリチウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.3mol/L以下で、低温HR容量が増加し、硫酸鉛の蓄積量も少なくなることは、電解液の密度とアルミニウムイオン濃度とを変えても同様である。
【0021】
電解液の密度を1.32g/cmに固定し、リチウムイオン濃度を0.1mol/Lに固定して、アルミニウムイオン濃度を変えると、アルミニウムイオン濃度を0.01mol/Lから0.02mol/Lへ増すことにより、硫酸鉛の蓄積量が急減する。またアルミニウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.3ml/L以下で低温HR容量も大きく、硫酸鉛の蓄積量も少ない。そしてアルミニウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.3mol/L以下で低温HR容量が増加し、硫酸鉛の蓄積量も少なくなることは、電解液の密度とリチウムイオン濃度とを変えても同様である。なおアルミニウムイオン濃度を0.3mol/Lとすると、硫酸鉛の蓄積量が増加し、低温HR容量も低下するので、アルミニウムイオン濃度は0.2mol/L以下が好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板との間にセパレータを介在させた極板群を電槽内に収容すると共に、前記極板群と前記セパレータとに電解液を保持させている制御弁式鉛蓄電池において、
前記電解液は20℃の満充電状態における密度が1.32g/cm以上で1.36g/cm以下で、かつアルミニウムイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下、リチウムイオンを0.02mol/L以上0.3mol/L以下含有することを特徴とする、制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
アルミニウムイオンを0.02mol/L以上0.2mol/L以下、リチウムイオンを0.02mol/L以上0.2mol/L以下含有することを特徴とする、請求項1の制御弁式鉛蓄電池。

【図1】
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