説明

制御性T細胞は自己免疫を抑制する

本発明は、自己抗原特異的制御性T細胞濃縮組成物を作製する方法、並びに得られた組成物及び使用の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明者:Jeffrey A. Bluestone、Qizhi Tang及びEmma Masteller
譲受人:The Regents of the University of California
関連出願の相互参照
本願は、2004年1月8日に出願された米国特許出願第60/535,085号の優先権を主張する。
【0002】
政府支援の確認
本研究は、NIH NCRRグラントR37 AI46643によって補助された。米国政府は、本願に対して発行される全ての特許に権利を有する場合がある。
【背景技術】
【0003】
自己免疫疾患は、今日、最も被害が大きく治療が困難な病気の多くを占め、代表的な自己免疫疾患には、とりわけ、糖尿病、ぶどう膜網膜炎および多発性硬化症が含まれる。
【0004】
自己免疫を能動的に制御し、長期の寛容性を誘導するTregの潜在能力は、長期にわたる寛容性を誘導するための戦略として多大な活用性を秘めている。Tregの活用は、この少量のT細胞サブセット(自己免疫傾向がある動物及び患者では、さらに少ない細胞の集団)を増殖し、性質を決定することができないために困難であった。例えば、最近の研究は、疾病の活動期中に抑制に対して抵抗性となる自己反応性T細胞のため、進行する自己免疫性糖尿病を回復させることは不可能であり得ることを示唆している。Tregを生体外で増殖するための過去の尽力は、臨床的に十分な増殖及びインビボでの実証可能な効力を達成していない(例えば、Fu et al. , 2004, Am J Transplant. 4,65−78)。CD4CD25制御性T細胞(Treg)の数が少ないこと、それらのアネルギー性表現型及び多様な抗原特異性は、自己免疫及び移植拒絶を治療するためのこの強力な寛容原性集団を利用するための大きな困難となっている。
【0005】
Horwitz(例えば、第6,803,036号及び第6,797,267号及び関連特許文献)、米国特許第6,534,055号;US2003/124122A1;US2003/0082806A1;US2002/0058019A1;US2002/0119568A1;US2003/0119185A1;及びUS2002/0019048A1を含む、数多くの米国特許文献が、T細胞増殖について述べている。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、自己抗原特異的制御性T細胞濃縮組成物を作製する方法、並びに得られた組成物及び使用の方法を提供する。一実施形態において、本発明は、(a)対象体適合性細胞の集団を取得することと;(b)前記細胞の集団から得られた、自己抗原特異的制御性T細胞濃縮組成物を作製することと;及び(c)前記対象体中での前記自己免疫反応を調節するために前記対象体中に前記組成物を導入することと;を含む、対象体中の自己免疫反応を調節する方法を提供する。
【0007】
特定の実施形態において、前記細胞の集団は前記対象体から取得され、前記対象体とは異なるドナーから取得され、及び/又は末梢血から採取される。
【0008】
特定の実施形態において、前記作製工程が、前記抗原特異的制御性T細胞を増殖すること及び/又は前記得られた細胞の集団から前記自己抗原特異的制御性T細胞を濃縮することを含む。
【0009】
特定の実施形態では、前記増殖は、前記細胞の集団を自己抗原特異的制御性T細胞刺激組成物と接触させることによって達成される。
【0010】
特定の実施形態では、制御性T細胞は、前記増殖工程の前に、または前記増殖工程の後に前記細胞の集団から濃縮される。
【0011】
特定の実施形態では、前記刺激性組成物は、MHCクラスII/自己抗原性ペプチド複合体、同時刺激因子又は第二の制御性T細胞刺激因子を含む。
【0012】
特定の実施形態では、前記同時刺激因子は、CD28に結合するアゴニスト抗体などのアゴニスト抗体である。
【0013】
特定の実施形態では、前記第二の刺激因子は、インターロイキン−2などのインターロイキンのようなサイトカインである。
【0014】
特定の実施形態において、前記刺激性組成物は、細胞又はビーズなどの基材上に固定化される。
【0015】
特定の実施形態において、前記作製工程は、含む。
【0016】
特定の実施形態において、前記調節は、阻害することを含む。
【0017】
本発明は、組成物の細胞の少なくとも50%が天然の自己抗原特異的制御性T細胞である、細胞の集団を含む組成物も提供する。
【0018】
特定の実施形態において、自己抗原特異的制御性T細胞は、表Aに示されているように、MHCクラスII分子中に提示されたペプチドに対して特異的である。
【0019】
特定の実施形態において、前記自己抗原特異的制御性T細胞は、対象に投与されたときに、自己免疫応答を調節するのに効果的である。
【0020】
本発明は、自己抗原特異的制御性T細胞の組成物を作製するためのキットであって、(a)自己抗原特異的T細胞受容体刺激因子;及び(b)同時刺激因子を含むキットも提供する。
【0021】
特定の実施形態において、前記刺激因子は、MHCクラスII/自己抗原ペプチド複合体である。
【0022】
特定の実施形態において、前記同時刺激因子は、CD28に結合する抗体などのアゴニスト抗体である。
【0023】
特定の実施形態において、前記キットは、インターロイキン−2又はインターロイキン−15などのインターロイキンのようなサイトカインなどの第二の制御性T細胞刺激因子をさらに含む。
【0024】
特定の実施形態において、前記刺激因子及び前記同時刺激因子は、細胞又はビーズなどの基材上に固定化される。
【0025】
本発明は、治療用制御性T細胞の生体外増殖のための方法及び組成物、並びに得られた組成物及び使用の方法を提供する。前記増殖方法は、一般的には、T細胞の混合集団からCD4CD25T細胞(Treg細胞)が濃縮された亜集団を単離する工程と;生体外増殖されたTreg細胞を取得するために、前記亜集団を(i)TCR/CD3活性化因子、(ii)TCR同時刺激物質活性化因子及び(iii)IL−2の有効量と接触させることによって、前記亜集団のTreg細胞を増殖する工程とを含み、前記増殖されたTreg細胞が免疫抑制を示し、前記単離工程は典型的には本明細書に記載された療法に適した自己免疫疾患に罹患し又は寛解しているヒト又は患者から得た前記集団を増殖させることによって典型的に始められる。
【0026】
特定の実施形態において、前記亜集団は、>98%のTreg細胞、好ましくは>98%のCD4CD25CD62L Treg細胞を含み;前記単離工程は陰性及び陽性免疫選択並びに細胞分取を含み;前記増殖工程が前記亜集団の少なくとも100倍の増殖を達成し;TCR/CD3活性化因子はTCR/CD3に対する多価抗体又はリガンドであり;TCR同時刺激物質活性化因子は、CD28、GITR、B7−1/2、CD5、ICOS、OX40又はCD40に対する多価抗体又はリガンドであり;IL−2の有効量は、200ないし2500IU IL−2/mL、及び/又はTreg細胞は、抗CD3又は同種異系抗原刺激されたCD25T細胞の増殖をインビトロで抑制し、又は移植片対宿主病を含む自己免疫をインビボで抑制する。
【0027】
さらに特定の実施形態では、
糖尿病を有すると診断され、空腹時血漿グルコース(FPG)、食後血糖値(PPG)及び耐糖能(GTT)から選択されるグルコース恒常性障害の兆候を示す患者中に導入された前記生体外増殖されたTreg細胞の有効量は、グルコース恒常性障害に改善をもたらし、前記改善は、110mg/dL以下のFPG、140mg/dL以下の2時間PPG、及び75gのグルコース負荷から2時間後における140mg/dL以下のGTTから好ましくは選択され;
前記TCR/CD3活性化因子は抗CD3抗体であり、及び前記TCR同時刺激物質活性化因子が抗CD28抗体であり、前記抗CD3及び抗CD28抗体が、1:1ないし1:2のTreg細胞:ビーズ比で与えられた常磁性ビーズ上に固定化されており;
前記TCR/CD3活性化因子及び前記増殖されたTreg細胞は抗原特異的であり、好ましくは、前記TCR/CD3活性化因子がMHCペプチド多量体であり、前記ペプチドが糖尿病関連自己抗原ペプチドであり、前記糖尿病関連自己抗原がグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、膵島細胞自己抗原(ICA)及びインシュリンから選択され、前記TCR同時刺激物質活性化因子は抗CD28抗体である。
【0028】
本発明は、養子細胞免疫療法を必要としている患者中に、生体外で増殖された本発明のTreg細胞の有効量を導入する工程を含む養子細胞免疫療法に対する方法及び組成物も提供する。これらの方法は、一般的には、ヒトから得たT細胞の混合集団を抽出する工程と;T細胞の混合集団からCD4CD25T細胞(Treg細胞)が濃縮された亜集団を前記集団から単離する工程と;生体外増殖されたTreg細胞を取得するために、前記亜集団を(i)TCR/CD3活性化因子、(ii)TCR同時刺激物質活性化因子及び(iii)IL−2の有効量と接触させることによって、前記亜集団のTreg細胞を増殖する工程と;生体外増殖されたTreg細胞の有効量を患者中に導入する工程と;並びに得られた自己免疫の抑制を検出する工程とを含む。
【0029】
特定の実施形態において、前記ヒト及び患者は糖尿病を有すると診断されて、空腹時血漿グルコース(FPG)、食後血糖値(PPG)及び耐糖能(GTT)から選択されるグルコース恒常性障害の兆候を示す患者であり、前記亜集団が>98%のTreg細胞を含み;前記亜集団が>98%のCD4CD25CD62LTreg細胞を含み;前記単離工程が陰性及び陽性免疫選択並びに細胞分取を含み;前記増殖工程が前記亜集団の少なくとも100倍の増殖を実施し、前記TCR/CD3活性化因子が、TCR/CD3に対する多価抗体またはリガンドから選択され;前記TCR同時刺激物質活性化因子がCD28、GITR、CD5、ICOS、OX40またはCD40Lに対する多価抗体及びリガンドから選択され;Il−2の有効量が200ないし2500 IU IL−2/mLであり;前記Treg細胞が抗CD3または同種異系抗原によって刺激されたCD25T細胞の増殖を抑制し;及び/又は、生じたグルコース恒常性障害の改善として、得られた自己免疫の抑制が検出される。
【0030】
さらに具体的な実施形態では、
前記改善は、110mg/dL以下のFPG、140mg/dL以下の2時間PPG、及び75gのグルコース負荷から2時間後における140mg/dL以下のGTTから選択され;
前記TCR/CD3活性化因子は抗CD3抗体であり;及び前記TCR同時刺激物質活性化因子が抗CD28抗体であり、前記抗CD3及び抗CD28抗体が、1:1ないし1:2のTreg細胞:ビーズ比で与えられた常磁性ビーズ上に固定化されており;及び/又は、
前記TCR/CD3活性化因子がMHCペプチド多量体であり、前記ペプチドが糖尿病関連自己抗原ペプチドであり、糖尿病関連自己抗原がグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、膵島細胞自己抗原(ICA)及びインシュリンから選択され、前記TCR同時刺激物質活性化因子は抗CD28抗体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、所定の自己抗原特異的制御性T細胞濃縮組成物を作製する方法、並びに得られた組成物及び使用の方法を提供する。一実施形態において、本発明は、(a)対象体適合性細胞の集団を取得することと;(b)前記細胞の集団から得られた、自己抗原特異的な、好ましくは所定の自己抗原特異的な制御性T細胞濃縮組成物を作製することと;及び(c)前記対象体中での前記自己免疫反応を調節するために前記対象体中に前記組成物を導入することと;を含む、対象体中の自己免疫反応を調節する方法を提供する。
【0032】
特定の実施形態において、前記細胞の集団は前記対象体から取得され、前記対象体とは異なるドナーから取得され、及び/又は末梢血から採取される。得られた細胞の集団は、自己抗原特異的制御性T(Treg)細胞を含み、末梢血、胸腺、リンパ節、脾臓及び骨髄などの自己抗原特異的Treg細胞が存在する任意の取得源から得ることができる。ある種の実施形態において、Treg細胞の取得源は死体の組織から得ることができる。
【0033】
細胞の集団は、Treg濃縮組成物が引き続き導入される前記対象体から取得することができる。前記対象体は、自己免疫反応の調節が望まれる任意の哺乳動物とすることが可能である。興味深い哺乳動物には、げっ歯類、例えば、マウス、ラット;家畜、例えば、ブタ、ウマ、ウシなど、ペット、例えば、イヌ、ネコ;及び霊長類、例えば、ヒトが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、前記対象体は自己免疫疾患の動物モデルである。多発性硬化症(EAE:実験的自己免疫性脳脊髄炎);重症筋無力症(EMG:実験的重症筋無力症)及び神経炎(ENA:実験的自己免疫性神経炎)など、寛容性を誘導するために自己抗原のT細胞エピトープを使用するための確立された動物モデルが多数存在する。別の実施形態では、前記対象体は、表Aに列記されているいずれかの疾病/疾患などの自己免疫病又は疾患に罹患したヒトである。
【0034】
別の実施形態では、前記細胞の集団は前記対象体とは異なるドナーから取得される。前記ドナーは、好ましくは、同系であるが、得られた細胞が、大規模な慢性移植片対宿主病(GvHD)をもたらさずに、免疫抑制療法と必要に応じて組み合わせて対象体中に導入可能であるという点で対象体適合性であれば、同種異系、又は異種とすることも可能である。同種異系のドナー細胞は、好ましくは、ヒト白血球抗原(HLA)適合性であり、典型的には、免疫抑制療法と組み合わせて投与される。対象体適合性とするために、異種細胞には、γ線照射又はPEN110処置を施すことができる(Fast, LD et al, Transfusion.2004 Feb; 44 (2):282−5)。
【0035】
前記作製工程は、好ましくは、標的とされる自己免疫反応に関連する所定の自己抗原に特異的な、好ましくは標的とされる自己免疫反応と関連することが予め決定された前記細胞の集団から得られる所定の自己抗原特異的制御性T細胞濃縮組成物を提供する。特定の実施形態において、前記作製工程が、前記抗原特異的制御性T細胞を増殖すること及び/又は前記得られた細胞の集団から前記自己抗原特異的制御性T細胞を濃縮することを含む。
【0036】
自己抗原特異的制御性T(Treg)細胞濃縮組成物とは、自己抗原特異的Treg細胞のパーセントが、細胞の最初に得られた集団中の自己抗原特異的Treg細胞のパーセントより高い組成物である。具体的な実施形態には、前記組成物の前記細胞の少なくとも75%、85%、90%、95%又は98%が自己抗原特異的制御性T細胞である。特定の実施形態において、前記作製工程は、前記抗原特異的制御性T細胞を増殖すること及び/又は前記得られた細胞の集団から前記自己抗原特異的制御性T細胞を濃縮することを含む。
【0037】
特定の実施形態では、制御性T細胞は、前記増殖工程の前に、又は前記増殖工程の後に前記細胞の集団から濃縮される。Treg細胞は、以下で実施例1及び2に記載されているように、免疫抑制性Tregに対して特異的な細胞表面マーカーの選択を標的とし、蛍光活性化細胞分取(FACS)などの自動化された細胞分取、固相磁気ビーズなどを用いて分離することによって濃縮することが可能である。濃縮を増強するために、陽性選択は、CD8、CD11b、CD16、CD19、CD36及びCD56を有する細胞の枯渇、及び以下に例示されているような非Treg細胞種に対して特異的な表面マーカーを含む細胞に対する陰性選択と組み合わせることができる。
【0038】
特定の実施形態では、前記増殖は、前記細胞の集団を自己抗原特異的制御性T細胞刺激組成物と接触させることによって達成される。自己抗原特異的制御性T細胞は、好ましくは少なくとも50倍、並びに好ましくは少なくとも100、200、300、500及び800倍に増殖される。自己抗原特異的制御性T細胞刺激組成物は、所望の自己抗原を認識するT細胞受容体を発現する自己抗原特異的制御性T細胞の生存、成長及び/又は増殖を促進する。
【0039】
好ましい刺激組成物は、T細胞受容体複合体に抗原特異的に結合し、活性化させることによってT細胞を刺激する。架橋された、ペプチドが結合したMHC分子、抗体及び模倣物などの、様々な抗原特異的TCR結合試薬を使用することができる。好ましい実施形態において、前記組成物は、MHCクラスII/自己抗原ペプチド複合体、特にこのようなMCH/ペプチド複合体の会合体を含む。これらの複合体は、少なくとも、その中で自己抗原ペプチドが機能的に結合されているMHCクラスII分子の細胞外ペプチド結合ドメインを含む。前記複合体は、溶液若しくは懸濁液中に存在することができ、又は細胞、特にAPCの表面上に提示されるなど基材の上に固定化されることができる。literu中に見出し得るような、機能的MHCクラスII/ペプチド複合体を作製するための数多くの適用可能な方法が本分野において公知である。
【0040】
一実施形態において、前記自己抗原ペプチドは、MHCクラスII分子と複合体を形成できる天然に存在する自己抗原のペプチドである。典型的なMHCクラスII分子/ペプチド複合体は、表Aに列記されている。別の実施形態において、前記自己抗原ペプチドは、MHCクラスII分子と複合体を形成できるミモトープペプチドである。
【0041】
別の実施形態において、前記自己抗原ペプチドは、MHCクラスII分子と複合体を形成できるミモトープペプチドである。ミモトープペプチドは、本文献中の以下でさらに、及び実施例1に記載されている。その他の点では従来どおりのT細胞からTregを増殖するために自己抗原ペプチドを使用するためのプロトコールには、細胞表面表現型とは独立に患者からTregを増殖するために、自己抗原特異的MHCペプチド四量体、ペプチドパルスDC(Yamazaki, et al, 2003, J Exp Med 198:235−47)又は人工のAPC(Maus et al. Nat. Biotechnol. 20: 143−8,2002)を使用することが含まれる。さらに、インビトロ及びインビボアプローチの組み合わせが、前記療法の効果を増強することが可能である。例えば、最近の研究によって、自己抗原、変化されたペプチドリガンド及びFcR非結合抗CD3mAbなどの非特異的刺激の投与は、抗原特異的Treg活性を促進できることが示されている(Apostolou et al. J. Exp. Med. 199:1401−8,2003;Belghith et al. Nat. Med. 9:1202−8,2003)。このように、Tregを誘導するためのインビボ免疫化を生体外増殖と組み合わせること又はその逆は、有利であり得る。
【0042】
ある種の実施形態では、前記刺激組成物は、一又は複数の追加因子、例えば、同時刺激因子、第二の制御性T細胞刺激因子又はT細胞の生存及び/又は成長を一般的に促進する因子をさらに含み得る。
【0043】
ある種の実施形態において、前記同時刺激因子は、以下に記載されているように、CD28又はGITRなどのTCR同時刺激物質に対して特異的な抗体又はリガンドである。特定の実施形態では、前記同時刺激性因子は、CD28に結合するアゴニスト抗体などのアゴニスト抗体である。
【0044】
前記刺激組成物は、あるいは、第二の制御性T細胞刺激因子を含む。具体的な刺激因子には、顆粒球コロニー刺激因子、IL−2、IL−6、IL−7、IL−13及びIL−15などのインターロイキン並びに肝細胞増殖因子(HGF)が含まれる。特定の実施形態では、前記第二の刺激因子は、インターロイキン−2などのインターロイキンのようなサイトカインである。
【0045】
特定の実施形態において、前記刺激性組成物の一又は複数の成分は、細胞又はビーズなどの基材上に固定化される。基質として使用するのに適切な細胞には、人工抗原提示細胞(AAPC)(Kim, JV et al, Nat Biotechnol. 2004 Apr;22(4):403−10; and Thomas, AK et al, Clin Immunol. 2002 Dec;105(3):259−72)が含まれる。ビーズは、典型的には1ないし20ミクロンの範囲の、プラスチック、ガラス又は他の任意の適切な素材とすることができる。常磁性ビーズが好ましい。
【0046】
前記刺激組成物の各成分の至適濃度、培養条件及び期間は、汎用の実験操作を用いて実験的に決定することが可能である。典型的な自己抗原特異的制御性T細胞刺激組成物は、実施例2に記載されている。
【0047】
自己免疫反応を調節するために、増殖された及び/又は濃縮された自己抗原特異的制御性T細胞は前記対象体中に導入される。例えば、前記対象体は、表Aに列記されている疾病/疾患など、持続的又は再発性の自己免疫反応を有することを特徴とする疾病又は疾患に罹患し得る。特定の実施形態において、前記調節は、阻害することを含む。Tregは、炎症の部位に、IL−4(Yamamoto et al. J Immunol. 166: 4973−80,2001)、幹細胞増殖因子、血管新生制御因子、遺伝子の欠如などのような、抑制的又は他の生物学的因子を送達するための「トロイの木馬」としての役割を果たし得る。例えば、foxp3の過剰発現は、そうでなければ病原性のT細胞をTregに形質転換することが示されており(Jaeckel et al. Diabetes. 2004 Dec 10; [Epub])、極めて高い数及び効率性で強力な抗原特異的Tregを生成するために、ポリクローナル性に増殖されたTregを、抗原特異的TCRプラスfoxp3をコードする遺伝子で形質導入することが可能である(Mekala, et al., Blood. 2004 Nov 4; [Epub])。このようにして、これらの抗原特異的アプローチは、Treg特異性と機能を最大化しつつ、高い細胞数に対する要求を減少させる。
【0048】
抗原特異的Tregは、感染症の病原性が病原体の細胞変性効果の結果ではなく、むしろ感染性因子に対する免疫炎症性応答によって引き起こされる組織損傷の結果である感染性疾患に特に適応される。C型肝炎又はHSVによって誘導された角膜の炎症などの疾病において、Treg療法は、ウイルスによって誘導される免疫炎症性疾患を抑制するための好機を与える(Suvas et al. J. Immunol. 172:4123−4132,2004)。コクサッキーなどのウイルスは、膵炎を引き起こすことが知られており、1型糖尿病の発症に関連している。このように、発現されたウイルス抗原を標的とするTregは、感染によって引き起こされる局所的な組織損傷を抑制し、自己免疫疾患の発症を誘発する炎症を低減するために使用することが可能である。
【0049】
本発明は、組成物の細胞の少なくとも50%が天然の(形質転換されていない)、好ましくは増殖された自己抗原特異的制御性T細胞であり、自己抗原特異性が好ましくは予め決定されており、好ましくは、標的とされる自己免疫反応抗原に対して予め決定されている、細胞の集団を含む組成物も提供する。前記組成物は、本明細書に記載されている方法によって作製される。前記組成物における自己抗原特異的制御性T細胞のパーセントは、実施例2に記載されている方法を用いて確認することが可能である。特定の実施形態には、前記組成物の前記細胞の少なくとも75%、85%、90%、95%又は98%が自己抗原特異的制御性T細胞である。
【0050】
特定の実施形態において、前記自己抗原特異的制御性T細胞は、表Aに列記されているMHCクラスII分子/ペプチド複合体に対して特異的である。
【0051】
特定の実施形態において、前記自己抗原特異的制御性T細胞は、対象体に投与されたときに、自己免疫応答を調節するのに効果的である。増殖された及び/又は濃縮された自己抗原特異的制御性細胞を使用する効果的且つ最適化された投薬量及び治療計画は、既存のT細胞注入療法の莫大な臨床実験から得られ、さらに実験的に決定することが可能である。
【0052】
本発明の方法は、宿主中での異常な免疫応答の調節が望まれる様々な異なる症状の治療に用途を見出す。宿主中での異常な免疫応答とは、自己免疫応答として特徴付けられる対象体中での任意の免疫反応(例えば、自己免疫疾患)を意味する。一般的に、対象体の免疫系が自己抗原を外来として認識し、自己反応性エフェクター免疫細胞の産生をもたらすときに、自己免疫応答が生じる。自己反応性エフェクター免疫細胞には、細胞毒性T細胞、ヘルパーT細胞及びB細胞を含む様々な系列から得られる細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。正確な機序は異なるが、自己免疫疾患に罹患している宿主中に自己反応性エフェクター免疫細胞が存在することによって、宿主の組織及び細胞の破壊が引き起こされ、病理的症候をもたらす。宿主中のこのような細胞の存在を、そして、それによる宿主中の抗原特異的自己免疫疾患などの自己免疫疾患の存在を決定するための数多くのアッセイが当業者に公知であり、容易に本発明の方法で使用される。興味が持たれるアッセイには、「Autoimmunity. 2003 Sep−Nov;36(6−7):361−6;J Pediatr Hematol Oncol.2003 Dec;25 Suppl 1:S57−61;Proteomics. 2003 Nov;3(11):2077−84;Autoimmun Rev. 2003 Jan;2(1):43−9」に記載されているアッセイが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
治療とは、宿主中の異常な免疫応答を伴う症候の少なくとも改善が達成されることを意味し、ここで、軽減とは、治療されている症状に関連するパラメーター、例えば症候の規模が少なくとも低減することを表す広い意味で使用される。従って、治療とは宿主が症状、又は少なくとも該症状を特徴付ける症候にもはや罹患しないように、病理的症状又は少なくともこれに関連する症候が完全に阻害され(例えば、発生が抑制される)、又は停止される(例えば、終結される)状況も含む。
【0054】
本発明の方法に従って、様々な宿主を治療することができる。ある種の実施形態において、このような宿主は、「哺乳動物」又は「哺乳類」であり、これらの用語は、肉食動物目(例えば、イヌ及びネコ)、齧歯類(例えば、マウス、モルモット及びラット)、及び霊長類(例えば、ヒト、チンパンジー及びサル)を含む哺乳綱に属する生物を記載するために広く使用される。多くの実施形態において、前記宿主はヒトである。
【0055】
さらなる実施形態において、前記方法は、自己免疫疾患の存在を診断する工程を含む。診断とは、対象体の自己免疫応答が一般的に分類されること(例えば、糖尿病、SLE、MSなど)を意味する。さらに、異常な免疫応答が誘導される少なくとも一つの自己抗原が同定される。様々な診断法が本分野において公知であり、現在、開発中である。従って、本発明の方法は、宿主中の自己免疫疾患又はそれが誘導される抗原を診断するための特異的アッセイに限定されない。
【0056】
上記方法の一又は複数を実施するための試薬及びそれらのキットも提供される。本発明の試薬及びそれらのキットは、極めて多様であり得る。ある種の実施形態において、該キットは、少なくとも抗原特異的制御性T細胞刺激組成物を含む。他の実施形態では、前記キットは、インターロイキン−2又はインターロイキン−15などのインターロイキンのようなサイトカインなどの別の制御性T細胞刺激性因子を含む。ある種の実施形態において、前記キットは、培養皿又はフラスコ、培地、又は任意の必要な緩衝液、因子などを含む、前記抗原特異的制御性T細胞増殖工程を実施するための試薬をさらに含み得る。さらに別の実施形態において、前記キットは、前記制御性T細胞を含有する試料を採取するための手段と、制御性T細胞濃縮/精製を実行するために必要な試薬とを含む。
【0057】
上記成分の他に、本発明のキットは、本発明の方法を実施するための指示書をさらに含み得る。これらの指示書は様々な形態で本発明のキット中に存在することができ、一又は複数の指示書がキット中に存在することができる。これらの指示書が存在し得る一つの形態は、適切な媒体又は基材の上に情報を印刷することである(例えば、情報が印刷される一片又は複数片の紙の上、キットの包装中、パッケージ挿入物中など)。さらに別の手段は、その上に情報が記録されるコンピュータ読み出し可能な媒体(例えば、ディスケット、CDなど)であり得る。存在し得るさらに別の手段は、離れた場所の情報にアクセスするためにインターネットを介して使用され得るウェブサイトアドレスである。任意の便利な手段が、キット中に存在し得る。
【0058】
具体的な実施形態において、前記刺激因子はMHCクラスII/自己抗原性ペプチド複合体である。典型的なMHCクラスII分子/ペプチド複合体は、表Aに列記されている。
【0059】
前記同時刺激因子は、以下に記載されているように、CD28又はGITRなどのTCR同時刺激物質に対して特異的な抗体又はリガンドである。具体的な形態では、前記同時刺激因子は、CD28に結合する抗体などのアゴニスト抗体である。
【0060】
特定の実施形態において、前記刺激性因子及び前記同時刺激因子は、細胞又はビーズなどの基材上に固定化される。
【0061】
本発明は、治療用制御性T細胞(Treg)の生体外増殖のための方法及び組成物、並びに自己免疫を抑制するための養子細胞免疫療法のためのこのような増殖されたTreg細胞の使用を提供する。
【0062】
増殖方法は、ヒト又は患者からT細胞の混合集団をまず抽出することと、及びTreg細胞中で濃縮された亜集団を前記集団から単離することとを一般的に含む。効力を最大化するために、前記亜集団は少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%のTreg細胞、好ましくはCD4CD25CD62LTreg細胞になるように濃縮される。細胞は、一般的に、免疫制御性Tregに対して特異的な選択細胞表面マーカーを標的とし、蛍光活性化細胞分取装置(FACS)、固相磁気ビーズなどの自動化された細胞分取装置を用いて分離することによって濃縮される。濃縮を増強するために、陽性選択は、CD8、CD11b、CD16、CD19、CD36及びCD56を有する細胞の枯渇、及び以下に例示されているような非Treg細胞種に対して特異的な表面マーカーを含む細胞に対する陰性選択と組み合わせることができる。
【0063】
次いで、Treg濃縮された亜集団は、TCR/CD3活性化因子、TCR同時刺激物質活性化因子及びIL−2の有効量の存在下で、前記細胞を培養することによって、生体外で増殖される。TCR/CD3活性化因子は、抗CD3抗体などの抗原非特異的活性化因子を含む、TCR/CD3に対する多価抗体又はリガンド、及びMHCペプチド多量体(例えば、Adoptive T cell therapy using antigen−specific CD8+ T cell clones for the treatment of patients with metastatic melanoma:In vivo persistence, migration, and antitumor effect of transferred T cells. Proc Natl Acad Sci USA, Dec 10,2002 ; 99(25):16168−16173;Butterfield, et al., T− Cell responses to HLA−A*0201 immunodominant peptides derived from a−fetoprotein in patients with hepatocellular cancer, Clin. Cancer Res., Dec 1,2003;9(16):5902−5908; and Yee, et al., Isolation of high avidity melanoma−reactive CTL from heterogeneous populations using peptide−MHC tetramers, J Immunol, 1999,162 :2227−223参照)などの抗原特異的活性化因子から選択され、前記ペプチドは、典型的には、糖尿病関連自己抗原ペプチドなどの自己免疫疾患関連ペプチドであり、適切な糖尿病関連自己抗原には、グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、膵島細胞自己抗原(ICA)及びインシュリンが含まれ、このようなペプチドの組み合わせも使用することができる。
【0064】
前記同時刺激物質活性化因子は、TCR同時刺激物質、好ましくはCD28又はGITRに対して特異的な多価抗体又はリガンドであるが(Shimizu et al., Stimulation of CD25 (+)CD4(+) regulatory T cells through GITR breaks immunological self−tolerance, Nat Immunol. 2002 Feb; 3(2):135−42.Epub 2002 Jan 22;Tone et al., Mouse glucocorticoid−induced tumor necrosis factor receptor ligand is costimulatory for T cells, Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 Dec 9;100(25):15059−64. Epub 2003 Nov 07)、実験的に決定され得るように、適切な増殖がそのようして得られる場合には、CD5、ICOS、OX40及びCD40Lなどの別のTCR同時刺激物質も標的とすることができる。活性化及び増殖を促進するために、TCR/CD3及びTCR同時刺激物質活性化因子は、典型的には、宿主細胞(例えば、Thomas et al, Dec 2002, Clin Immunol 105,259−72)又はビーズなどの三次元固相表面上に固定化される。特定の実施形態において、前記活性化因子は、2:1ないし1:5、好ましくは1:1ないし1:3のTreg細胞:ビーズ比で提供される常磁性ビーズ上に固定化される。最適なビーズサイズは、実験的に決定されるが、通例、1ないし20ミクロンの直径の範囲にある。
【0065】
IL−2は、典型的には組換え形態で与えられ、IL−2の有効量は、典型的には、200ないし2500IU IL−2/mLである。本発明者らは、500−2500、好ましくは1000ないし2000IU IL−2/mLの範囲にわたる通常ではなく上昇したIL−2濃度を用いると、増殖が増加することを見出した。前記亜集団の標的Treg細胞は、好ましくは少なくとも50倍、並びに好ましくは少なくとも100、200又は300倍に増殖される。最大増殖は実験的に決定され、細胞の種類、インキュベーション条件などによって変動し得る。例示的な実施形態の場合、最大増殖は、約300、500及び800倍であることが見出されている。
【0066】
増殖されたTreg細胞の抑制機能は、インビトロ又はインビボで検出され得る。例えば、インビトロでは、増殖されたTreg細胞は、Fc受容体を有する細胞の存在下、抗CD3で刺激されたCD25T細胞の増殖を又は被照射同種異系脾細胞で刺激されたCD25T細胞の増殖を抑制することが示され得る。適切で典型的なインビボ動物モデル及びヒト臨床免疫抑制プロトコールは、以下でさらに記載されている。
【0067】
特定の実施形態では、TCR/CD3活性化因子及び増殖されたTreg細胞は自己抗原特異的である。例えば、このような特定の実施形態では、糖尿病と診断され(例えば、Mayfield et al., Diagnosis and classification of diabetes mellitus: new criteria, Am Fam Physician. 1998 Oct15;58(6):1355−62,1369−70)、並びに空腹時血漿グルコース(FPG)、食後血糖値(PPG)及び耐糖能(GTT)などのグルコース恒常性障害の兆候を示す患者中に導入された、生体外で増殖されたTreg細胞の有効量は、特に、110mg/dL以下のFPG、140mg/dL以下の2時間PPG、及び75gのグルコース負荷から2時間後における140mg/dL以下のGTTから選択される、グルコース恒常性障害の改善をもたらす。従って、本発明は、養子細胞免疫療法を必要としている患者中に、生体外で増殖された本発明のTreg細胞の有効量を導入することを含む養子細胞免疫療法のための方法及び組成物も提供する。
【0068】
一般的に、これらの適用は、同じ患者から抽出された、増殖されたTreg細胞を再導入することを含むが、前記方法は、ドナー組織から得られたTregを用いた移植、特に骨髄移植に伴う植片対宿主病の治療のための養子細胞免疫療法にも適用することが可能である。
【0069】
本明細書に開示されているように増殖されたTregの養子免疫伝達は、以下で例示されており、文献に記載されている動物モデル及びヒト臨床試験で実証されているように、糖尿病、GVHD、狼瘡、関節リウマチ、乾癬、多発性硬化症、変性心疾患(例えば、Ziad Mallat, et al. Induction of a Regulatory T Cell Type 1 Response Reduces the Development of Atherosclerosis in Apolipoprotein EBKnockout Mice, Circulation. 2003 Sep 9;108(10):1232−7)、炎症性腸疾患(クローン病)などを含む、多岐にわたる病原性自己免疫応答を抑制するのに有効である。
【0070】
本発明者らの養子免疫細胞伝達プロトコールでは、まず、標的ドナーからT細胞の混合集団が抽出される。用途に応じて、T細胞は、寛解期の間に、又は病気の活動期の間に抽出され得る。典型的には、これは、全血を採取し、白血球分離採血法(leukopheresis)によって顆粒球を採取することによって行われる。例えば、大量白血球分離採血法(LVL;large volume leukapherisis)は、血液の白血球の収率を最大化させることが示されている。採取は、連続流アフェレーシス装置(Spectra, COBE BCT)を用いて、20×10個細胞/Lに達する。低カルシウム血症の症候は、白血球分離採血法を通じて投与されるカルシウムの継続的注入によって回避される。典型的には、約100ないし300分にわたる時間の間に、全血液容量の約4倍に対応する15ないし45リットルの液体が採取される。
【0071】
採取されたリンパ球は、CD4、CD25及びCD62などのTreg特異的細胞マーカーに基づいて、フローサイトメトリー又は他の細胞分離技術によって分離され、本明細書に記載されているように増殖され、次いで、養子免疫抑制のために患者(典型的には、細胞ドナー(ドナーとレシピエントが異なるGVHDを除く。))に注入され得る。あるいは、増殖に先立って及び/又は増殖に引き続き保存及び/又は輸送するために、細胞を凍結させてもよい。抗原非特異的増殖の場合、約10ないし1011個のTregが注入され、抗原特異的増殖の場合、治療的に有効な注入には、通例、約10ないし10個のTreg細胞が必要とされる。
【0072】
移植片対宿主病(GVHD)。生体外で増殖されたCD4CD25細胞は、「Taylor, et al.Blood 99,3493−9(2002)」を改変した本発明者らの実験プロトコールにおいてGVHDの生成を阻害する。2×10個の新たに精製されたB6 CD4T細胞プラス5×10個の骨髄細胞を、照射されたBALB/cxB6(F1)レシピエント中に注入する。マウスの集団に、2x10個の活性化されたCD4CD25細胞又はCD4CD25細胞を別個に注射し、生存と重量をモニターする。生体外で増殖されたCD4CD25細胞の注入は、80%のマウスで、10日から100日超まで、中央値生存時間を有意に増加させる。補充的な増殖されたCD4CD25細胞を与えられたマウスでの生存は、新鮮なCD4T細胞のみを与えられた対照マウスとは有意には異ならず、保護効果は増殖されたCD4CD25集団に対して特異的であることを示唆している。「Edinger, et al. Nat Med 9,1144−50(2003)」から改変された実験的プロトコールでのGVHDの致死性を抑制するために、新鮮な(増殖されていない)ドナー由来CD4CD25Treg細胞を用いると、同様の結果が得られる。通常細胞とともに1:1の比で、生体外増殖されたTreg細胞を与えられた動物は、急性の致死的なGVHDから保護され、80%超が100日を上回って生存する。
【0073】
増殖されたTreg細胞の同時移植後には、Tconv細胞の移植片対腫瘍(GVT;Graft−versus−tumor)活性も維持される。GVHDは、臨床的特徴及び生存、腫瘍増殖及び拒絶によって評価される。骨髄移植(BMT)の時点で注入されたA20−luc/yfp細胞は、骨髄に遊走し、肝臓及びリンパ器官の二次的浸潤を伴う白血病をもたらす(Edinger, . et al. Blood 101,640−648(2003))。C57BL/6の動物から得たT細胞除去骨髄(TCD BM)を移植され、1×10個のA20−luc/yfp白血病細胞を同時投与されたBALB/cマウスは、長期にわたる生物発光画像法(BLI)シグナル強度の増加によって実証されるように、白血病から36日より前に死亡する。BLI画像は、移植から5日後に腫瘍細胞が上腕骨、大腿骨及び胸骨の骨髄を浸潤し、15日より前に、脾臓を含むその他の臓器を浸潤することを示す。TCD BM及びTconv細胞を与えられた動物は、GVHDよりさらに早く死亡するが、骨髄のみの対照群と同様の腫瘍細胞分布を示しながら、A20−luc/yfp白血病の初期の移植を示す。これに対して、CD4CD25Treg細胞とともにTconv細胞を与えられた動物の大多数は、60日の観察期間中生存する。何れの動物も白血病の成長を示さないが、全ての動物が、5日の時点で、骨髄から初期腫瘍シグナルを示した。このことは、T細胞移植はA20−luc/yfp細胞の移植を妨害しないが、白血病細胞の活発な根絶は、ドナーCD4CD25Treg細胞による致死的GVHDから動物が保護されるときに達成されることを示している。これらのデータは、本発明者らの増殖されたCD4CD25Treg細胞によるGVHD抑制が、養子免疫伝達されたドナーTconv細胞のGVT活性を抑制しないことを示している。
【0074】
多発性硬化症(MS)。数多くの研究が、Treg細胞の喪失がMS患者で観察される免疫制御の欠如に対する原因であること(例えば、Putheti etal., Eur J Neurol. 2003 Sep; 10(5):529−35;Baecher−Allan et al. , J Immunol,167:1245−53. 2001; Baecher−Allan et al, J Immunol. 2002.169(11):6210−7;Schmied, et al. , Clin Immunol. 2003 Mar;106(3):163−74)、及び養子免疫細胞療法は疾病を軽減し得ること(例えば、Muraro et al. Immunological questions on hematopoietic stem cell transplantation for multiple sclerosis, Bone Marrow Transplant. 2003 Aug;32 Suppl 1:S41−4;Blevins et al. Future immunotherapies in multiple sclerosis,Semin Neurol. 2003 Jun; 23(2):147−58; Kohm, et al., Cutting Edge :CD4+CD25+ Regulatory T Cells Suppress Antigen−Specific Autoreactive Immune Responses and Central Nervous System Inflammation During Active Experimental Autoimmune Encephalomyelitis, J. Immunol., Novl, 2002; 169(9):4712−4716. Eur J Neurol.2003 Sep; 10(5):529−35)を示唆している。
【0075】
MS患者を用いた養子免疫抑制療法の本発明者らによる初期の研究では、寛解期にT細胞を採取し、Tregは抗CD3及びCD28抗体(上記)で増殖し、凍結して保存する。再発時に、前記増殖されたTregを注射によって注入し、ガドリニウムで増強した病変によって疾病の進行をモニターする(例えば、Horsfield et al., Guidelines for using quantitative magnetization transfer magnetic resonance imaging for monitoring treatment of multiple sclerosis, J Magn Reson Imaging. 2003 Apr;17(4):389−97)。その後の研究では、抗原特異的増殖は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP;myelin basic protein)、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG;myelin oligodendroctye glycoprotein)、プロテオリピドタンパク質(PLP;proteolipid protein)の免疫原性ペプチドと結合されたDR2 MHCを用いて実施される。MHCペプチド多量体(上記)プラス抗CD28抗体及びIL−2を用いて増殖が実施されることを除き、分離、増殖及び凍結保存を上述のように実施する。
【0076】
関節リウマチ(RA)。以前の研究により、Treg細胞の喪失がRA患者で観察される免疫制御の欠如に対する原因であることが示唆されており、治療的介入に対する動物モデルの正当性が確認されている。例えば、抗原特異的T細胞の規定された集団の役割を具体的に分析するために、慢性炎症性関節炎、オボアルブミンによって誘導された関節炎(OIA;ovalbumin−induced arthritis)の動物モデルが使用されてきた。例えば、「Hardung, Regulatory function of antigen−specific T helper cell subsets in a murine arthritis model, Proc 34th Ann Meet German Soc Immunol, Berlin, Sept 24−27,2003」を参照。この系では、野生型の共通遺伝子レシピエント中に活性化された抗原特異的Tヘルパー細胞(Ova−TCRtg/tg)を伝達することは、抗原の関節内注射後に関節炎を誘導するのに十分であった。インビトロで分極されたTh1細胞の伝達は、急性及び慢性の関節炎症をもたらした。さらに、Ova−TCRtg/tg CD4CD25制御性T細胞の同時伝達は、疾病の誘導を抑制した。
【0077】
RA患者を用いた養子免疫抑制療法の本発明者らによる初期の研究では、寛解期に、PBMC又は関節の滑液からT細胞を採取し(Cao et al. Isolation and functional characterization of regulatoryCD25brightCD4+T cells from peripheral blood or the target organ of patients with rheumatoid arthritis. Eur J Immunol. 2003 Jan;33(1):215−23)、Tregは抗CD3及び抗CD28抗体(上記)及びIL−2とともに増殖し、凍結して保存する。増殖されたTregは、寛解期に注射によって注入し、確立された臨床的基準を用いて、疾病の進行をモニターする(Felson et al, The American College of Rheumatology preliminary core set of disease activity measures for rheumatoid arthritis clinical trials. The Committee on Outcome Measures in Rheumatoid Arthritis Clinical Trials. Arthritis Rheum 1993 Jun;36(6):729−40; Felson et al., American College of Rheumatology. Preliminary definition of improvement in rheumatoid arthritis, ArthritisRheum 1995 Jun; 38(6):727−35)。
【0078】
その後の研究では、熱ショックタンパク質(HSP)、MHC由来ペプチド及びII型コラーゲンなどの関節特異的抗原などのRA関連自己抗原用のペプチドが結合されたDR4 MHCを用いて、抗原特異的増殖が実施される(例えば、Kotzin, Use of soluble peptide−DR4 tetramers to detect synovial T cells specific for cartilage antigens in patients with rheumatoid arthritis, Proc Natl Acad Sci USA 2000 Jan 4;97(1):291−6)。MHCペプチド多量体(上記)プラス抗CD28抗体及びIL−2を用いて増殖が実施されることを除き、分離、増殖及び凍結保存を上述のように実施する。
【0079】
乾癬。以前の研究により、Treg細胞の喪失が乾癬患者で観察される免疫制御の欠如に対する原因であることが示唆されており、治療的介入に対する動物モデルの正当性が確認されている(例えば、Elder et al., Of genes and antigens:the inheritance of psoriasis. J Invest Dermatol. 1994 Nov; 103,5 Suppl,150S−153S参照)。
【0080】
乾癬患者を用いた養子免疫抑制療法の本発明者らによる初期の研究では、寛解期にPBMCから又は病気の活動期に皮膚からT細胞を採取し、Tregは抗CD3及び抗CD28抗体(上記)及びIL−3とともに増殖し、凍結して保存する。増殖されたTregは、寛解期に注射によって注入し、主要な臨床的終末点がベースラインと第12週スコアを比較してPASIスコアの平均パーセント変化である確立された臨床的基準を用いて、疾病の進行をモニターする(例えば、Ashcroft et al., Clinical measures of disease severity and outcome in psoriasis: a critical appraisal of their quality. Br Dermatol. 1999 Aug; 141(2):185−91)。
【0081】
その後の研究では、抗原特異的増殖は、乾癬関連皮膚自己抗原のペプチドと結合されたDR6 MHCを用いて、及び乾癬性関節炎の場合には関節自己抗原と結合されたDR6 MHCを用いて実施される。MHCペプチド多量体(上記)プラス抗CD28抗体及びIL−2を用いて増殖が実施されることを除き、分離、増殖及び凍結保存を上述のように実施する。
【0082】
炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、大腸炎。以前の研究により、Treg細胞の喪失がIBD患者で観察される免疫制御の欠如に対する原因であることが示唆され、治療的介入に対する動物モデルの正当性が確認されている(例えば、Assessman et al., Colitogenic Thl cells are present in the antigen−experienced T cell pool in normal mice: control by CD4+ regulatory T cells and IL−10. J Immunol.2003 Jul 15; 171(2):971−8; Read, et al., 1998.CD38CD45RBlowCD4 T cells:A T cell population with immune regulatory activities in vitro. Eur. J. Immunol. 28:3435; Mason et al, 1998. Control of Immune Pathology by regulatory T cells. Curr. Opin. in Immunol. 10:649;Asseman, et al., 1999. IL−10 is required for the generation of a populationof T cells, which regulate inflammatory responses in the intestine. J. Exp. Med. 190: 995参照)。
【0083】
IBD患者を用いた養子免疫抑制療法の本発明者らによる初期の研究では、寛解期にPBMCから又は病気の活動期に罹患した腸組織からT細胞を採取し、Tregは抗CD3及び抗CD28抗体(上記)及びIL−2で増殖し、凍結して保存する。再発時に、前記増殖されたTregを注射によって注入し、炎症細胞の中度から重度の浸潤物、慢性的な間欠、長期の下痢、体重減少、嘔吐などを含む、胃腸炎の組織学的兆候と相関する確立された臨床基準を用いて疾病の進行をモニターする。ここでは、別の腸炎症の源は臨床的に除外される。
【0084】
その後の研究では、抗原特異的増殖は、IBD過敏性に関連する食事及び/又は細菌性抗原のペプチドに結合されたHLA−CW6を用いて実施される。MHCペプチド多量体(上記)プラス抗CD28抗体及びIL−2を用いて増殖が実施されることを除き、分離、増殖及び凍結保存を上述のように実施する。
【0085】
本発明は、本発明の方法によって作製されたTreg細胞組成物、特に、本明細書に記載されているように、自己免疫の抑制を必要としている患者中への注入に適合された組成物を提供する。例えば、このような組成物には、本明細書に記載されている増殖されたTreg細胞の注入可能な有効単位投薬量を含み、このような投薬量は、以下に記載されているように、キットとともに予め梱包してもよい。
【0086】
本発明は、本発明の方法で使用するための試薬及び/又は材料を含み、本発明の方法について記載した指示媒体を必要に応じて含むキットを提供する。本発明は、本発明の方法又はキットの記述又は参照に対して特異的に適合され、及び/又は本発明の方法又はキットの記述又は参照を取り込む業務方法も提供する。
【0087】
追加実施例
【実施例1】
【0088】
インビトロで増殖された抗原特異的Treg細胞は自己免疫性糖尿病を抑制する。
【0089】
ここで、本発明者らは、自己免疫傾向のある非肥満性糖尿病(NOD)マウス由来の抗原特異的Tregを増殖する着実な方法を記載する。インビトロで、2週間未満で、最大200倍まで増殖されたTregは、CD25、CD62L、FoxP3およびGITRの発現を含むこのサブセットの典型的な特徴をすべて保持する伝統的なTreg表現型を発現し、インビトロおよびインビボの両方においてエフェクターT細胞機能を抑制するように機能する。インビボで前糖尿病性マウスおよび糖尿病性マウスにおいて糖尿病を抑制する、増殖されたNODTregの能力は、ポリクローナルTregと比較すると、自己抗原特異的T細胞を使用すると有意に亢進した。抗原特異的Tregは、Treg欠乏性CD28−/−マウスにおける糖尿病の発達を効果的に抑制し、慢性的に糖尿病の動物における同系膵島移植片拒絶反応を遮断し、先行する報告とは対照的に、Tregは初めて、新たに発生した疾病を有するマウスにおいて糖尿病を回復させることが示される。それゆえ、これは少数の抗原特異的Tregが疾病開始後に糖尿病を回復できるという最初の証明であり、自己免疫のための細胞内免疫療法への新規のアプローチを提供する。
【0090】
自己抗原特異的TCRトランスジェニックNODマウス由来の調節性T細胞の増殖。先行研究は、NODマウスにおいて16〜24週齢まで臨床的な疾病と相関する時間にわたり、Tregが数および機能の上で減少することを示してきた。しかしながら、これらの細胞を治療上使用する能力は、循環またはリンパ系器官中の細胞が少数であるため、制限されている(NODマウスにおいてCD4T細胞が5%未満、およびT1Dを有するヒトにおいてCD4T細胞が2%未満)。さらに、抗原特異性に基づいて細胞を選択することが困難であるために、数多くの細胞が必要とされる。それゆえ、本発明者らは、TCRトランスジェニック(Tg)マウスにおいて存在するこれらの細胞が、同時固定化された抗CD3抗体および抗CD28抗体と外因性IL−2を使用して細胞周期へと駆動できるという知見に基づいて、自己抗原特異的Tregの迅速かつ効率的な増殖のための技術を開発した。IL−2の存在下で抗CD3/抗CD28によりコーティングされたビーズとともに培養された、FACS精製されたNODTregは、11日間で150〜225倍に増殖した。一般に、CD4CD25T細胞はより激しく増殖した(複数の実験で300〜800倍の範囲)。したがって、CD25CD4T細胞またはCD8T細胞のいずれかのわずかな夾雑がTregを増殖する能力に影響を与えるので、98%を超える純度のCD4CD25CD62T細胞はTreg増殖の成功にとって好ましかった。
【0091】
免疫欠乏性NODマウスにおいて疾病を転移させるための糖尿病NODマウス由来のTeff細胞の能力を、若齢NODマウスから単離されたCD4CD25Tregが抑制したことを先行研究は報告している。しかしながら、前記処理は能率的ではなく、この設定におけるTregの抑制効果は、おそらく抗原特異的Tregの低い前駆体頻度のためにTreg:Teffの0.5:1または1:1の比を必要とした。したがって本発明者らは、2つの異なる抗原特異的TCRTgマウス由来のTregがポリクローナルNODTregと同じ方法論を使用してインビトロで増殖できるか否かを検討した。BDC2.5TCRTgマウスは、β細胞の顆粒において発現される膵島抗原に特異的なTCRを発現するのに対し、GAD286TCRTgは前記膵島抗原から派生するペプチドであるグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)を認識する。TregはBDC2.5マウスおよびGAD286マウスから精製され、抗CD3/抗CD28とIL−2カクテルを使用して増殖された。前記BDC2.5細胞は、このTCRと反応することがすでに示されているMHCペプチド四量体で効率よく染色することに基づいてトランスジェニックTCRαβを発現し、前記増殖されたGAD286TregはTgTCRβ鎖を発現した。BDC2.5TCRTgマウス由来のCD4CD62LCD25およびTregは、固定されたMHC−ペプチド二量体を使用して同様に効率よく増殖できる。これらの結果は、このプロトコールを使用して増殖できるCD4CD25CD62Lの集団が野生型マウスおよびTCRTgマウスの両者において存在することを示す。
【0092】
本発明者らは、次に、前記増殖されたTregの表現型をフローサイトメトリー、ウェスタンブロットおよびリアルタイムPCRにより検討した。前記増殖されたTregは、増殖されたCD25T細胞と比較して、CD25の高レベルの発現を維持したのに対し、CD62Lの発現は両細胞タイプにおいて高いままであった。さらに、同様に増殖されたCD25T細胞と比較して、Tregがすべて高レベルのSOCS2、PD−1およびCTLA−4を発現することを定量的PCRは示した。さらに、最近同定されたマーカーであるニューロピリンおよびTRAILも、前記増殖されたTregにおいて多量に発現した。高レベルの細胞表面GITR発現は、増殖されたTregにおいて観察されたが、このすでに同定されたTregマーカーも増殖されたCD25T細胞においても誘導された。定量的PCR研究が5つの個別の増殖されたTreg集団(ポリクローナルTregおよびBDC2.5TCRTregの両者を含む。)に関して実行され、その相対的な発現が高度に再現可能であったことは留意されるべきである。最後に、本発明者らは、Tregについて最近同定された線形マーカーであるFoxP3を検討した。RT−PCR分析およびウェスタンブロット分析の両者によって示されるように、前記増殖されたTregは、新鮮なTregにおいて観察されるのと同様のレベルのFoxP3を発現し、新鮮なまたは増殖されたCD25T細胞よりも有意に高いレベルのFoxP3を発現した。RNA発現(10倍)およびタンパク質量(20倍)は、新鮮なTregに関する先行研究と一致したが、CD25Teff細胞中でのFoxP3に明らかにいくらかの亢進があり、この培養条件がCD25サブセット内でいくつかの制御性T細胞を誘導するかもしれないことを示している。
【0093】
本発明者らは、また、サイトカインを分泌する前記増殖されたTregの能力も検討した。活性化されたCD25T細胞とは異なり、TregはIL−2もIFNγも産生しないが、むしろ免疫抑制性サイトカインであるIL−10およびTGFβを発現した。したがって、Tregの大規模な活性化と増殖は、CD25T細胞サブセットとは異なったままであるTregの表現型を変化させない。
【0094】
インビトロで増殖されたTregの機能的活性。先行研究は、Tregが抗CD3および脾臓APCで刺激されるCD25T細胞の増殖性反応を効果的に抑制できることを示してきた。増殖されたNODTregは増殖性反応並びにIL−2およびIFNγを含むサイトカインの産生を効率よく抑制した。実際、複数の実験において、前記増殖されたTregは、新鮮なNODTregよりも有意に抑制した。前記抑制は1:10未満のTreg:Teff比で定期的に観察された。増殖されたBDC2.5TregがポリクローナルNODT細胞と同様にBDC2.5の増殖性反応を抑制する上で効果的であるので、TCRTgマウス由来の増殖されたTregを使用して同様の結果が、観察された。Treg抑制機序の検討は細胞間接触が必要であることを実証する他の研究を裏付けた。前記増殖されたTregは有意なレベルのIL−10およびTGFβを発現したが、抑制活性は抗IL−10、抗TGFβ、または両抗体の組み合わせをインビトロ培養物へ添加することによって影響を及ぼさなかった。これらの結果は、細胞間接触がインビトロ設定における免疫抑制の基本的手段であるTreg抑制の数多くのモデルと一致する。
【0095】
前記増殖されたTregの抗原特異性をさらに評価し、前記増殖されたTregが構成的に抑制性であるか否かを決定するため、正常BALB/cマウス由来の増殖されたTregが、OVA特異的DO11.10TCRTgマウス由来のT細胞を抑制するそれらの能力について検討した。TregおよびDO11.10TgTeff細胞を、(Teff細胞のみを活性化する)OVA抗原または(TeffおよびTregの両者を活性化する)抗CD3の存在下で共培養した。増殖されたBALB/cTregは、OVAペプチドにより刺激されるDO11.10T細胞の増殖性反応を抑制しなかった。しかしながら、抗CD3反応は、低いTreg:Teff比で完全に抑制された。このことは、増殖されたTregの構成的抑制活性の欠失および効果的な免疫抑制のためのTregの抗原特異的活性化についての必要性を裏付ける。この結果はまた、高レベルのCD25発現を通じて入手可能なIL−2を消費することによって細胞が培養物を抑制しているという小さな可能性も除外した。
【0096】
増殖されたTregの生体内生存および活性化。Tregによる生体内での免疫反応の効果的な抑制は、細胞が適切な部位へ移動し、抗原に反応し、長時間生存することを要する。本発明者らは、CD28/B7経路の遮断が生体内でのTregの迅速な損失およびその後の決定的な免疫調節の損失に至ることを最近観察した。したがって、本発明者らは、生体内で生存および増殖するための増殖されたTregの能力を検討した。NOD、BDC2.5、およびGAD286のマウス由来の増殖されたTregをCSFEで標識し、正常な非リンパ球減少症NODマウスへと転移した。転移7日後、前記マウスを屠殺し、生存および増殖からの読み取りとしてCSFE細胞の数について検討した。異なる系のマウス由来の増殖されたTregで転移したマウスから有意な数のCSFE細胞を回収した。実際、CFSETregはThy1.1により標識されたTregと同様、少なくとも転移50日後に観察され、その数は同じ方法で転移された新鮮なTregで観察されるものと等しかった。
【0097】
次に、本発明者らは、抗原に反応し、生体内で増殖する養子免疫伝達されたTregの能力を分析した。リンパ球減少症によって増殖が駆動される可能性を未然に防ぐため、Tregを正常マウスへと導入した。少数だが有意な数のTregはCSFE希釈に基づいて増殖した。しかしながら、膵臓リンパ節(pancLN)におけるNODTregの選択的増殖がなかった。このことは、NODTregレパートリーの範囲内で膵島自己抗原特異的細胞の有意な数がないことを示す。実際、NODpancLN細胞中では、増殖されたTregの量が他のLN細胞において観察されるよりも少なく、そのことは膵島特異的TregがNODにおいて除去された可能性を示す。NODTregとは対照的に、BDC2.5Tgマウス由来のTregは7日間の間、少なくとも3〜4倍に分割するpancLNにおいて広範囲かつ選択的に増殖および増大された。興味深いことに、前記増殖されたTregはCD62L発現を下方制御した。細胞が導入前にインビトロで複数回の増殖周期を経験し、高レベルのCD62L発現を維持したため、このことは驚くべきことである。BDC2.5Tregとは対照的に、GAD286Tregは生体内で増殖しなかった。先行研究はこれら2つのTCRTgマウスがそれらの胸腺発達において有意に異なることを示唆する。前記BDC2.5Tgマウスは胸腺における膵島特異性を負に選択せず、むしろこの動物に存在する有力なエフェクター細胞により疾病を遮断することが示されてきたTregを小さいが再生可能な数発達させる。比較すると、逸出する細胞が代わりのTCRα鎖を利用するように、GAD286TCRTgT細胞は前記胸腺において負に選択される。末梢のGAD286TCRTg細胞はインビトロでGADペプチドに反応するが、その反応性は弱く、およびBDC2.6とは対照的に、養子免疫伝達に際して糖尿病を誘導できない。このことは、自己反応性レパートリーの「欠如」を示す。したがって、前記増殖されたTregを使用するこれらの結果は、生体内において帰巣および生存し、さらなる信号を受信して抗原特異的サブセットをさらに活性化および増殖する、循環自己反応性TregをGAD286TCRTgマウスではなくBCD2.5TCRTgマウスが有することを示す。
【0098】
インビトロで増殖されたTregは生体内での糖尿病の養子免疫伝達を抑制する。次に、本発明者らは、活性化されたBDC2.5T細胞のNOD.RAGマウスへの生体内での同時導入後に糖尿病を抑制する前記増殖されたBDC2.5Tregの能力を検討した。前記Tregは糖尿病の導入を遮断する上で効果的であり、Treg:Teffが1:9の比と同程度で低く機能するのに対し、前記GAD286Tregは1:1のTreg:Teffでさえ保護しなかった。実際、前記増殖されたBDC2.5TregはポリクローナルT細胞によって媒介される疾病を抑制した。僅か2×10個の増殖されたBDC2.5Tregが、疾病を導入する25×10個の糖尿病誘発性NOD脾細胞の能力を遮断した。前記BDC2.5マウス由来の増殖された抗原特異的Tregは糖尿病の開始を予防する上で増殖されたポリクローナルNODTregよりもさらに効果的であり、上述の異なる増殖性の差異と一致した。8×10個に達する増殖されたNODTregは、1/4の数の前記抗原特異的BDC2.5Tregを使用する疾病導入の総遮断と比較すると、糖尿病誘発性細胞の導入されたRAGレシピエントの25%で糖尿病を予防するにすぎなかった。この結果は、Teff細胞に対するポリクローナルTregの高い比がこの設定における疾病導入を効率よく抑制するのに必要であることを示唆する先行研究の知見と一致する。重要なことに、これらのデータは、Tregのインビトロでの反応性がこの疾病における生体内機能を推定しないことを示す。
【0099】
増殖されたTregは非リンパ球減少症の設定において生体内で糖尿病を予防する。Tregの免疫調節性活性を示す複数のモデルはあるが、そのシステムの多くはTreg増殖を亢進するリンパ球減少症マウスを利用する養子免疫伝達モデルに基づいている8,21−24。それゆえ本発明者らは、非リンパ球減少症動物モデルにおける糖尿病を予防するための前記増殖されたTregの能力を検討した。先行研究は、CD28−/−NODマウスが正常数のT細胞およびTh1反応を有することを示してきた。実際、これらのマウスは強くCD28依存性であることが示されているTh2およびTregの欠乏性のため、悪化した自己免疫性を発達させる。したがって、本発明者らは、野生型により増殖されたBDC2.5TregがCD28−/−NODマウスへと導入できるかどうか、及び疾病の開始を遅延または予防できるかどうかを検討した。5×10個のTregを5週齢のCD28−/−NODマウスへと導入し、糖尿病について観察した。増殖されたBDC2.5Tregの導入は、導入後20週もの間検討されたマウスの100%において糖尿病の発達を予防した。対照的に、増殖されたNODTregの導入は疾病の発症に何ら影響しなかった。これらの結果は、抗原特異的な増殖されたTregが完全に機能的な病原性T細胞反応に直面して生体内で機能したことを示す。
【0100】
増殖されたTregは生体内で糖尿病を回復させる。Treg療法の最終的な有用性は、進行する疾病を有する個体を治療できることによって決まる。したがって本発明者らは、糖尿病の明らかなモデルにおけるこれらの増殖されたTregの調節効果の検討を展開した。最初に、本発明者らは同系のNOD膵島移植片の拒絶を遮断する増殖されたBDC2.5Tregの能力を検討した。少なくとも2週間の間インスリンペレットを使用して、糖尿病NODマウスにおいて正常血糖を維持した。そのとき、前記マウスに500個の同系膵島細胞のみをまたは増殖されたTregと同時に導入した。5×10個のNODではなく、2×10個のBDC2.5の増殖されたTregを同時伝達すると、この条件で進行する自己免疫性を遮断する抑制細胞の能力と一致して、前記同系の膵島の拒絶を遮断した。より重要なことに、増殖されたBDC2.5Tregの養子免疫伝達は、明瞭に糖尿病のNODマウスにおける糖尿病を回復させた。この設定において、1×10個のTregは、血糖レベルの上昇(300mg/dL超)に基づいて最近疾病を発症したと診断されたNODマウスへと伝達された。前記伝達されたTregは前記マウスの60%において糖尿病を回復させた。したがって、前記増殖されたTregは、進行する自己免疫設定において糖尿病を遮断および回復させることに特に効果的である。
【0101】
Tregが糖尿病を回復できるという本発明者らの見解は、臨床自己免疫療法に対する本発明者らの方法の適用可能性を示すものであり、そこではTregが(例えばSLEまたはMSの場合)寛解期または(例えばT1Dの場合)疾病発症直後のいずれかの患者から単離される。前記細胞を次に増殖し、最大疾病活性の時点で再導入し、前記炎症反応を抑制する。本発明者らは、この療法がラパマイシン、抗CD3、またはTregに影響せずに病原性細胞の欠失を惹起する他の薬物と組み合わせることができることを発見した。総合して、これらの療法はいずれも短期病原性反応を低下させる一方で、長期間の耐性誘導のための恒常性平衡を回復する。
【実施例2】
【0102】
NODマウス由来の機能的内因性抗原特異的CD4CD25制御性T細胞の増殖:抗原特異的CD4CD25制御性T細胞は自己免疫性糖尿病を調節する。
【0103】
CD4CD25Foxp3制御性T細胞(Treg)は、自己免疫性を調節するために極めて重要である。証拠は、Tregの発達および機能が抗原特異性に依存することを示唆する。これにもかかわらず、自然の状態で生じる抗原特異的Tregについてほとんどわかっていない。この実施例において、本発明者らは非肥満性糖尿病マウスにおいて膵島ペプチド擬似体を認識し、自然に惹起するTregを同定しおよび特徴付ける。抗原特異的Tregは、原型の表面マーカーおよびサイトカインを発現する。増殖されたTregは、抗原特異的様式で活性化されるが、インビトロおよび生体内の両者においてバイスタンダー抑制(bystander suppression)できた。重要なことに、前記膵島ペプチド擬似体特異的Tregは、自己免疫性糖尿病を抑制する上でポリクローナルTregよりも効率がよかった。本発明者らの開示は器官特異的自己免疫性に対する治療剤としてのTregの利用を示す。
【0104】
自己免疫性1型糖尿病(T1D)は、自己抗原に対する耐性を維持することに関与する機構の崩壊により発症し、T細胞により仲介される膵臓のインスリン産生膵島細胞の破壊に至る。潜在的に病原性の自己反応性T細胞は、正常な末梢T細胞レパートリーに存在するが、健常な個体では、抑制因子または制御性T細胞(Treg)によって一部調節される(1,2)。Tregのクラスのうち、CD4CD25Tregは自己免疫性を調節するのに重要な独特な細胞サブセットである(3,4)。CD4CD25TregまたはCD4CD25Tregの発達および抑制因子機能を調節する転写因子であるFoxp3を欠乏するマウスおよびヒトは多臓器自己免疫性疾患を経験する(5−11)。CD4C25Tregの抑制因子機能の低下または悪化は、T1D、多発性硬化症、関節リウマチおよび他の自己免疫性疾患と関連付けられてきた(12−16)。比較すると、ポリクローナルCD4CD25調節性T細胞の導入は、T1Dのマウスモデルである非肥満性糖尿病(NOD)マウスにおける自己免疫性糖尿病を含む多くのシステムにおける自己免疫を予防した(17,18)。しかしながら、前記過程は非効率的であり、多数のTregの導入を必要とした。本発明者らは、最近、IL−2並びに抗CD3および抗CD28mAbでコーティングされたビーズの組み合わせを使用して、膵島抗原特異的CD4CD25BDC2.5T細胞受容体トランスジェニック(TCRTg)Tregのインビトロ増殖のための方法を記載した(19)。前記増殖された膵島特異的Tregは、ポリクローナルNODTregと比較して有意に減少した数のTregを使用して、NODマウスにおける糖尿病を遮断および回復させる上で効果的であり、Tregの抗原特異性が治療の有効性に重要であることを示した。それゆえ、効果的な臨床療法は、ポリクローナル集団由来の関連する抗原特異的Tregを同定および増殖する能力に依存する(20)。
【0105】
自然条件下で生じるCD4CD25Tregの抗原特異性については比較的わずかなことが分かっているにすぎない。本研究において、本発明者らは、BDC2.5TCRTgマウスが有意な割合の膵島抗原特異的Tregを有しているため、この特異性は同様に既存のNODマウスにおいて存在するかもしれないと仮説を立案した(19,21,22)。したがって、本発明者らは、抗CD3mAbを、BDC2.5TCRミモトープペプチド1040−31(p31)を呈する組み換えMHCクラスIIのI−Ag7と置換することによって、BDC2.5Treg研究に使用される増殖プロトコールを適応させた(23)。内因性BDC2.5抗原がまだ同定されていないため、前記ミモトープペプチドを使用した(24)。p31−I−Ag7ビーズがポリクローナル集団由来の低頻度の抗原特異的細胞を増殖できるか否かを決定するため、BDC2.5TCRTgTregをNODマウス由来のポリクローナルCD4CD25Treg細胞へと播いた。前記p31−I−Ag7および抗CD28によってコーティングされたビーズは、外因性IL−2の存在下でCD4CD25BDC2.5TCRTgTregを増殖する上で特に効率よかった。0.1%BDC2.5TCRTgTregで最初に播いた培養物は約4倍に増殖されたのに対し、0.01%および0.001%BDC2.5TCRTgTregで播いた培養物は感知できるほどには増殖しなかった。しかしながら、p31−I−Ag7多量体を使用して抗原特異的細胞を検出するフローサイトメトリー分析によって、BDC2.5TCRTgTregがすべての培養物において増殖されたことが評価された。最低濃度の播種において、BDC2.5TCRTgTregは0.001%から34.3%の集団へと成育した。このことは、10日間の培養で前記抗原特異的細胞のほぼ5000倍の増殖に至る培養期間中における12細胞よりも多い細胞分裂を反映した。CD4CD25Tregがペプチド−I−Ag7でコーティングされたビーズによる増大後の調節活性を保持することを確認するため、新鮮に単離されたCD4CD25BDC2.5Tgレスポンダー細胞を、増殖されたCD4CD25BDC2.5TgTregの滴定と組み合わせて使用して抑制アッセイを実行した。増殖されたCD4CD25BDC2.5Tregは、前記BDC2.5ミモトープペプチド1040−31で刺激される培養物において投与量依存的な態様で、前記CD4CD25T細胞反応を効率よく抑制した。さらに、抑制活性はインビトロでの複数回の刺激後に喪失されなかった。0.001%で最初に播き、およびペプチド−I−Ag7ビーズによる2回の刺激の後50%にまで増殖されたCD4CD25BDC2.5Tg細胞は、前記p31ペプチドにより刺激されるCD4CD25BDC2.5Tg細胞を抑制した。したがって、抗原特異的BDC2.5TCRTgTreg細胞が総ポリクローナルTreg集団の非常にわずかな割合を呈したときでさえ、前記手法は、抑制機能を保持する抗原特異的Tregの大きな増殖に至った。
【0106】
本発明者らは、次に、このアプローチを既存のNODマウス由来の抗原特異的CD4C25Tregの増殖へ適用した。NODマウス由来のCD4CD25CD62L細胞を材料および方法において記載されるようなp31−I−Ag7ビーズとともに培養した(25)。7〜14日間かけて、前記総集団は、最初の細胞入力と比較して1〜10倍に典型的に増殖された。フローサイトメトリー分析は、前記p31−I−Ag7ビーズによる増殖の後、10%にまで上るCD4CD25細胞が前記p31−I−Ag7多量体に対して正に染色するのに対し、抗CD3によりコーティングされたビーズで増殖されたCD4CD25細胞はバックグラウンドレベルを超えるp31−I−Ag7に対する正の染色には至らないことを示した。同じ培養条件下で、CD4CD25CD62LTエフェクター(Teff)は典型的に、前記p31−I−Ag7多量体に対して40〜50%正に染色するとともに10倍増殖された。しかしながら、多量体染色は明らかに、インビトロ増殖アッセイに基づいた前記p31−I−Ag7反応性Treg細胞の過小評価であった。増殖されたTreg細胞をカルボキシフルオロセインスクシニミジルエステル(CFSE)で標識し、抗原提示細胞(APC)および抗CD28の存在下でp31ペプチドまたは対照の卵白アルブミン(OVA)ペプチドとともに培養した。CFSE希釈アッセイの結果は、卵白アルブミンにより刺激された培養物中の14%のバックグラウンド増殖と比較して、50%を超えるp31−I−Ag7で培養したTregが細胞周期へと入ることを示した。前記OVAペプチドで観察される高程度のバックグラウンド増殖は、培養物がその中にあるビーズの連続した存在により100%休止していなかったことを反映するのかもしれない。刺激の前に、この同じ細胞集団は、フローサイトメトリーによりp31−I−Ag7多量体結合について分析されるとき、たった6.4%のp31反応性細胞を有していた。これらの結果は、低い結合活性を有するT細胞が多量体染色によってほとんど検出されないことを示し、前記TCRがBDC2.5特異性のp31ミモトープと正確には同じではない内因性抗原に特異的であるという事実を反映するのかもしれない。この解釈の妥当性を探究するため、本発明者らは前記p31−I−Ag7により増殖されたT細胞のVβレパートリーを検討した。前記BDC2.5T細胞受容体はVβ4ファミリー由来のTCRβを発現する(26)。しかしながら、p31−I−Ag7により増殖されたTreg細胞よびTeff細胞がp31−I−Ag7多量体および異なるTCRVβ試薬で同時染色されるとき、いずれの集団もモノクローナルではなかった。代わりに、両集団は、いくつものVβ集団を提示する幅広いレパートリーを示した。興味深いことに、有意な数のVβ4p31−I−Ag7多量体T細胞がTreg培養物中に存在したが、他のTCRVβも有意な数で存在し、例えば、Vβ2よびVβ12はこの代表的な培養物中でp31−I−Ag7多量体Tregのそれぞれ10.2%および13.7%を占めた。TCRVβ4T細胞は、前記p31−I−Ag7多量体Tエフェクター集団中に一般に存在したが、より低い割合であった。これらの結果を総合すると、膵島ペプチド擬似体に対して反応性のある幅広いレパートリーのTreg細胞およびTeff細胞が既存のNODマウスにおいて存在することを示す。本結果はまた、膵島ペプチド擬似体反応性Tregレパートリーが膵島ペプチド擬似体反応性Teffレパートリーと同一ではないことも示す。
【0107】
抗CD3により増殖された培養物についてすでに観察されるように、ペプチド−I−Ag7により増殖されたTregは、同様の方法で培養されるCD4CD25CD62L細胞とは対照的に、培養期間を通じてCD4CD25CD62L表現型を保持した。CD4CD25CD62L細胞は活性化に際しCD25highになったが、初期の活性化の後、p31−I−Ag7反応性Treg細胞と比較してCD25をわずかに下方制御した。p31−I−Ag7反応性Tエフェクター細胞の大部分は前記培養期間にCD62Lを下方制御した。本発明者らは、また、定量的リアルタイムPCRを使用してTreg系列マーカーであるFoxp3の発現について前記増殖されたTreg細胞およびTeff細胞を検討した。p31−I−Ag7反応性細胞が分析されることを確認するため、分析前に、p31−I−Ag7により増殖されたTregを蛍光により活性化される細胞選別(FACS)により、p31−I−Ag7多量体陽性および陰性集団へと選別した。代表的な実験において、増殖されたp31−I−Ag7多量体Tregは、増殖されたp31−I−Ag7多量体陽性Tエフェクターに対して約3000倍のFoxp3を発現した。増殖されたp31−I−Ag7Tregはまた、フローサイトメトリーにより分析されるとき、典型的なTreg表面マーカーであるCTLA−4、ICOS、およびGITRも発現した。本発明者らは、次に、抗原による負荷試験に際しp31−I−Ag7により増殖されたTregによるサイトカイン分泌を検討した。Tregについてすでに報告されているデータと一致して、p31−I−Ag7により増殖されたTregは、低レベルの炎症前サイトカインIL−2、IL−4、およびIFNγを発現し、および高レベルの抗炎症性サイトカインIL−10を発現した。
【0108】
先行研究は、CD4CD25TregがインビトロでのCD4エフェクターの増殖を抑制でき、および前記抑制効果がそのTCRを通じてのCD4CD25Tregの刺激に依存することを示した。それゆえ、増殖されたp31−I−Ag7Treg細胞をインビトロで抑制活性および特異性について検討した。培養物をポリクローナル活性化因子である抗CD3で刺激したとき、増殖されたp31−I−Ag7は、新鮮に単離されるポリクローナルCD4T細胞および抗原特異的CD4BDC2.5TCRTgマウスの増殖を投与量特異的な形式で効果的に抑制した。より重要なことに、前記培養物をその中の1040−31ペプチド反応性細胞による特異的抑制を呈する1040−31ペプチドで刺激すると、p31−I−Ag7TregはBDC2.5TCRTgCD4T細胞の増殖を抑制した。対照的に、増殖されたCD4CD25p31−I−Ag7Teffは、新鮮に単離されたBDC2.5CD4T細胞を抑制することができず、増殖を増大させた。興味深いことに、前記p31−I−Ag7により増殖されたTeff細胞ではなくTreg細胞は、新鮮に単離されるTregについての報告どおり、CD28の同時刺激の欠如のもとでの刺激(p31ペプチドおよび抗CD3の両者)に対してアネルギー性であった。前記増殖されたTregの抗原特異性をさらに特徴付けるため、抗CD3を介するポリクローナルT細胞活性化または抗原特異的T細胞活性化のいずれかを通じて、増殖されたポリクローナルTregおよびp31−I−Ag7により増殖されたTregを、BDC2.5TCRTgまたはグルタミン酸脱炭酸酵素ペプチド286特異的(GAD286)TCRTgCD4細胞を抑制する能力について評価した。ポリクローナルTregおよびp31−I−Ag7により増殖されたTregはいずれも、抗CD3により刺激されるとき、BDC2.5TCRTgレスポンダーを抑制したのに対し、前記p31−I−Ag7により増殖されたTregのみが、前記BDC2.5 1040−31ペプチドで刺激される培養物を抑制した。同様に、ポリクローナルTregおよびp31−I−Ag7により増殖されたTregの両者は、抗CD3により刺激されるとき、GAD286TCRTgCD4T細胞の反応を抑制した。しかしながら、前記ポリクローナルTreg集団も前記p31−I−Ag7により増殖されたTreg集団も、前記GAD(286−300)ペプチドで刺激されるとき、GAD286TCRTgレスポンダーを抑制しなかった。最も重要なことに、前記培養物を前記GAD(286−300)および前記1040−31ペプチドの両者で刺激するとき、p31−I−Ag7により増殖されたTregはGAD286TCRTgレスポンダーを抑制できた。これらのデータを総合すると、前記ペプチド−I−Ag7により増殖されたTregの抑制活性が前記TCRを通じての抗原特異的刺激に依存するが、同族の抗原で一度刺激されると、p31−I−Ag7により増殖されたTregはバイスタンダー抑制を発揮できることを示す。
【0109】
本発明者らは次に、p31−I−Ag7により増殖された少数のTregが、CD28−/−NODマウスにおけるポリクローナルT細胞仲介性糖尿病を抑制する能力について検査した。CD28−/−NODマウスは、正常な数のエフェクターT細胞およびTh1反応を有し、末梢部分における恒常性についてCD28に依存するTregの欠乏により、自己免疫性糖尿病の加速した形態を発症する(17,28)。先行研究は、多数(8−20×10個)のポリクローナルTregの導入が糖尿病の開始を遅延または予防できることを示した(17)。したがって本発明者らは、CD28−/−マウスへ導入されるp31−I−Ag7により増殖されたTregが糖尿病を予防できるか否かを検討した。1.8〜2×10個と同数のp31−I−Ag7により増殖されたTregを5〜7週齢のマウスへと導入することにより、15週齢と同程度の齢のマウスの55%において糖尿病の発達を予防した。前記導入した集団はフローサイトメトリーに基づいて〜10%のp31−I−Ag7多量体細胞を典型的に含んでいたが、絶対頻度は前記CFSE増殖アッセイに基づくと明らかに高かった。それゆえ本発明者らは、前記導入した集団が、ポリクローナルNODTregで実行される同様の研究よりも実質的に少数の10個以下の抗原特異的Treg細胞を含んでいたと概算する。したがって、抗原特異的p31−I−Ag7により増殖された細胞は、十分に機能的なポリクローナルT細胞反応によって誘導される糖尿病の開始を保護する上で非常に効率が高かった。さらに、p31−IAg7により増殖されたTregを与えられ、15週齢および16週齢で糖尿病から保護される動物は、糖尿病であり且つ8〜10週齢で検討されて、処理されていないマウスおよびポリクローナルTregにより処理されたマウスと比較して、唾液腺および甲状腺で、より高い程度のリンパ球性浸潤を示したため、p31−IAg7により増殖されたTregによる自己免疫性の抑制は器官特異的であった。
【0110】
この実施例において本発明者らは、膵島ペプチド擬似体に反応性のある抗原特異的CD4CD25Foxp3Tregが、糖尿病感受性NODマウスの末梢に存在することを示す。さらに本発明者らは、抗原特異的細胞がポリクローナル集団からインビトロで選択的に増殖でき、および新鮮に単離されたCD4CD25Foxp3Tregの表現型特徴および機能的特徴を、これらの増殖されたTregが保持することを示す。本発明者らは、増殖された抗原特異的Tregが生体内で器官特異的自己免疫性を調節する点で非常に効率よいことを示す。これらの結果はCD4CD25Tregによる免疫調節がTregの抗原特異性に依存することを示す先行研究を支持し、およびTregがT細胞ニッチについて競合することにより抗原非特異的形式で機能することを示唆する報告と一致しない(19,22,29)。
【0111】
本発明者らの知見は臨床療法のためのTregベースのアプローチを提供し、それは末梢血からの器官特異的Tregの増殖を必要とする。制限されたレパートリーの少数の自己抗原特異的Tregが増殖される場合でさえ、バイスタンダーサイトカイン産生およびまたは内因性制御性細胞の動員のいずれかによってポリクローナルT細胞反応を抑制する能力のため、これらの自己抗原特異的Treg細胞は臨床的に有効でありうる。T1Dおよび多発性硬化症のような自己免疫性疾患に関与する多くの器官特異的抗原が同定されており、および現在入手可能なヒトMHC多量体試薬は自己免疫性疾患の治療のためにヒト器官特異的Tregを増殖するために採用できる(2)。
【0112】
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22. K. V. Tarbell, et al. , J. Exp. Med. 199,1467 (2004).
23. E. L. Masteller et al. , J. Immunol. 171,5587 (2003).
24. V.Judko. wski et al. , J. Immunol. 166,908(2001).
25. Information on materials and method is available on Science Online.
26. J. D. Katz, B. Wang, K.Haskins, C. Benoist, D. Mathis, Cell 74,1089 (1993).
27. K. V. Tarbell et al. , J. Exp. Med. 196,481 (2002).
28. Q. Tang et al. , J. Immunol. 171,3348 (2003).
29. T. Barthlott, G. Kassiotis, B. Stockinger, J. Exp. Med. 197,451 (2003).
【実施例3】
【0113】
増殖されたTreg細胞の養子免疫伝達後のループス腎炎の臨床的寛解
研究サイズ:被験者の総数20名;部位の総数2箇所
研究期間:12〜24ヶ月
標的集団:ループス腎炎患者
理論的根拠:自己免疫性の調節における制御性Tリンパ球(Treg)の重要性は今やさまざまな実験動物モデルにおいて十分に確立されている(McHugh他、The role of suppressor T cells in regulation of immune responses.J Allergy Clin Immunol 10:693−702,2002)。さらに、Treg欠乏がヒト自己免疫性疾患の根本的な原因であるかもしれないことを示唆する多数の研究がある。最も重要なことに、免疫恒常性の不可欠な要素としてのCD4CD25制御性T細胞の出現は活発な免疫調節および長期の耐性誘導のための有力な治療機会を提供する。しかしながら、Tregは、数%(2%未満)のヒトCD4T細胞を占めるにすぎず、自己免疫性ヒトにおいては、数および機能を低下させ、増殖的にアネルギーであると一般に考慮される。本発明者らはヒト由来のTreg細胞を増殖する強力な方法を開発した。3週間未満で200倍にまで増殖された細胞は伝統的なTreg表現型(CD4、CD25、CD62Lhi、GITR、およびFoxP3)を発現し、T細胞エフェクター増殖およびサイトカイン産生を抑制するよう機能する。
【0114】
本研究は、ループス腎炎患者由来の増殖されたCD4CD25細胞の安全性および有効性を検査するよう企図された。予備段階データは、全身性エリテマトーデス(SLE)患者は、寛解時に高いTreg活性をおよび再発時に低下という病状によるTreg活性における変動性を示すことを示唆した(Crispin et al.,Quantification of regulatory T cells in patients with systemic lupus erythematosus.J Autoimmun 21:273−276,2003)。本発明者らは、本発明者らが寛解時に患者由来のTregを同定、選択、および増殖することができ、並びにそれらの細胞を凍結保存によって保存でき、再発時に再導入できるか否かを決定しようとした。本研究は、そのような自家性Treg療法の安全性を検査し、および疾病の進行および免疫学的因子に及ぼすこの療法の効果を決定するよう企図された。
【0115】
研究デザイン/治療プロトコール:本研究は2つの相からなる。第一相において本発明者らは、活発なループス腎炎を有する5名の患者および寛解にあるループス腎炎の病歴を持つ5名の患者(免疫抑制療法停止)由来のTregを増殖する。この相は活発なおよび不活発な疾病を有する患者由来のTregを増殖する相対的な可能性を示し、および前記増殖された細胞の機能的能力を実証する。
【0116】
第二相は、2つの異なるデザインプロトコールを使用する、活発なループス腎炎を有する患者におけるTreg注入の非盲検治験である。第一プロトコールにおいて、本発明者らは活発な疾病を有する患者由来の機能的Tregを増殖し、次にこれらの患者はすぐに患者自体の増殖された細胞のレシピエントとなるだろう。流入判定基準には、活発なループス腎炎に加えて、抗二本鎖DNA抗体および低補体血症の存在が含まれる。流入判定基準にはまた腎炎のための適切な根本的治療も含まれる(例、プレドニゾン、ミコフェノール酸モフェチル、アザチオプリン、等)。しかしながら、シクロホスファミド(CTX)療法は、CTXがTregの効果をより干渉しがちであるかもしれないという懸念に基づいて排除された。一次評価項目は一般的な臨床因子および疾病活性を観察することによって査定される自家性導入の安全性である。二次評価項目(疾病活性、血清学、および機構的研究)は治療30日後、60日後、90日後、180日後、および365日後で測定される。
【0117】
第二プロトコールは、十分なTregが活発なループス腎炎患者から回収できない場合に適用される。ここでは、細胞は疾病の寛解期間に患者から回収され、生体外で増殖され、およびその後再発時の注入に備えて凍結される。より大きな患者プールおよびより長い期間以外は、この治験のデザインは上述のデザインと並行した。
【0118】
本方法および材料は、糖尿病患者における養子性細胞導入に関する本発明者らのフェイズIの研究について以下に記載されるものと同様である。本発明者らの選択したFDAにより承認される抗CD3/抗CD28でコーティングされたビーズおよび前記指定されたモノクローナル抗体は、Xcyte TherapiesおよびBecton Dickinsonからそれぞれ入手可能である。本発明者らは、個々の患者由来の約10個のTregを増殖および凍結保存するための選別および増殖手法を一定の基準に従って調節した。
【0119】
一次結果:安全性
二次結果:1)クレアチニン、タンパク尿、および尿沈渣により査定される腎機能、2)抗二本鎖DNA抗体および補体により査定されるループス血清学、3)SLEDAIおよびまたはBILAGにより査定され、および患者の包括的な査定による疾病活性指数、および4)機構的研究
機構的研究:1)抗二本鎖DNAおよび補体の測定、2)自家抗体産生B細胞の頻度の査定、3)Treg表現型を検出するための循環しているリンパ球の表現型分析、4)Treg活性の査定、および5)Th1およびTregサイトカインについてのELISPOT
解釈:この研究は、ループス腎炎患者由来のTreg細胞が前記患者における健康または疾病の進行に及ぼす有害な効果がなく、および養子免疫伝達療法がこれらの患者における腎機能を改善することを示す。
【実施例4】
【0120】
増殖されたTreg細胞の養子免疫伝達後の真性糖尿病の臨床的寛解
この治験は、増殖されたTreg細胞の養子免疫伝達後の真性糖尿病の臨床的寛解を示す。本発明者らの研究であるリンパ球回収および注入プロトコールはRapoport、他:Molecular remission of CML after autotransplantation followed by adoptive transfer of costimulated autologous T cells.Bone Marrow Transplant(印刷に先立ち電子出版、2004年10月27日)から適応した。
【0121】
患者の適格性および登録。本発明者らは、書面による事前のインフォームドコンセントがすべての患者から、施設内倫理委員会の指針にしたがって得られることを必要とした。患者は臨床的および実験的特徴に基づいた真性糖尿病を有することが必要とされる。適切な腎機能、心機能、肺機能、および肝機能が必要とされ、および患者は活発な感染またはHIV血清陽性を有していない。
【0122】
定常状態のリンパ球の回収。患者はまず自動細胞分離装置(Cobe Spectra細胞回収装置または応分の装置)を使用して定常状態の白血球分離採血法を受ける。約20−30lの血液が大きな内腔のカテーテルを通じて処理され、体重1kgあたり約1.5×10個の単核細胞を得る。後で本発明者らの抗CD3/抗CD28培養システムにおいて増殖するために、これらの細胞を凍結保存する。
【0123】
Tリンパ球の生体外同時刺激および増殖。FDAにより承認された研究上の新薬適用において指定されるようにT細胞を培養する。自家移植相の初日前後に、前記凍結保存された単核細胞を解凍し、および1%ヒト血清アルブミン入りのPBSで3回洗浄した。もし初期の凍結保存時に実行されなければ、前記単核細胞は閉システムにおいて磁気ビーズを使用して単球枯渇する。前記細胞を次に、プールされた5%のAB血清入りのX−VIVOを含有する気体透過性フラスコ(Baxter Oncology、Deerfield、IL、USA)へと播く。固定した抗CD3(OKT3)および抗CD28(9.3)モノクローナル抗体を有する常磁性ビーズをビーズ:CD3+細胞の比を2:1で添加し、およびIL−2(1000IU/ml)で補強された培養物は14日間まで維持した後、回収して注入のために調製した(上述)。前記細胞を毎日計数し、および1000IU/mlでIL−2により補強された新鮮培地を添加して、前記細胞を0.75〜2×10個/mlの密度で維持する。細胞培養の完了後、Baxter Fenwal Maxsep磁気細胞分離デバイスを使用して前記磁気ビーズを除去する。ビーズの除去後、前記細胞を洗浄し、濃縮し、およびBaxter Fenwal Harvester Systemを使用して1%ヒト血清アルブミンを含有する100〜250mlのPlasmalyte A中に再懸濁する。
【0124】
生体外で増殖されたT細胞の再注入。放出前に、前記回収した産物はすべて、細胞生存率(70%)、滅菌性(バクテリアおよび菌についてのネガティブ培地、ネガティブ菌体内毒素アッセイ)、およびビーズ夾雑(3×10個の細胞あたりビーズ100個未満)についての基準に合うことを必要とされる。前記回収した細胞を細胞産生設備から患者へと配達媒体により輸送し、同日に注入する。前記細胞を白血球フィルターなしで20−60分かけて注入する。患者はアセトアミノフェンおよびジフェンヒドラミンで定期的にあらかじめ投薬されてもよい。
【実施例5】
【0125】
増殖されたTreg細胞の養子免疫伝達後の真性糖尿病の臨床的寛解。
【0126】
この治験は、増殖されたTreg細胞の養子免疫伝達後の真性糖尿病の臨床的寛解を示す。本発明者らの研究であるリンパ球回収および注入プロトコールは、Rapoport、他:Molecular remission of CML after autotransplantation followed by adoptive transfer of costimulated autologous T cells.Bone Marrow Transplant(印刷に先立ち電子出版、2004年10月27日)から適応した。
【0127】
患者の適格性および登録:本発明者らは、書面による事前のインフォームドコンセントがすべての患者から施設内倫理委員会の指針にしたがって得られることを必要とした。患者は臨床的および実験的特徴に基づいた真性糖尿病を有する必要がある。適切な腎機能、心機能、肺機能、および肝機能が必要であり、および患者は活発な感染またはHIV血清陽性を有していない。
【0128】
定常状態のリンパ球の回収。患者はまず自動細胞分離装置(Cobe Spectra細胞回収装置または応分の装置)を使用する定常状態の白血球分離採血法を受ける。約20−30lの血液が大きな内腔のカテーテルを通じて処理され、体重1kgあたり約1.5×10個の単核細胞を得る。後で本発明者らのMHCクラスII分子/ペプチド複合体−同時刺激剤培養システムにおいて増殖するために、これらの細胞を凍結保存する。
【0129】
Tリンパ球の生体外同時刺激および増殖。FDAにより承認された研究上の新薬適用において指定されるようにT細胞を培養する。自家移植相の初日前後に、前記凍結保存された単核細胞を解凍し、および1%ヒト血清アルブミン入りのPBSで3回洗浄した。もし初期の凍結保存時に実行されなければ、前記単核細胞は閉システムにおいて磁気ビーズを使用して単球枯渇する。前記細胞を次に、プールされた5%のAB血清入りのX−VIVOを含有する気体透過性フラスコ(Baxter Oncology、Deerfield、IL、USA)へと播く。固定したMHC複合体II型DQ0602/インスリンBペプチド(aa5〜15)および抗CD28(9.3)モノクローナル抗体を有する常磁性ビーズをビーズ:CD3+細胞の比を2:1で添加し、およびIL−2(1000IU/ml)で補強された培養物は14日間まで維持した後、回収して注入のために調製した(上述)。前記細胞を毎日計数し、および1000IU/mlでIL−2により補強された新鮮培地を添加して、前記細胞を0.75〜2×10個/mlの密度で維持する。細胞培養の完了後、Baxter Fenwal Maxsep磁気細胞分離デバイスを使用して前記磁気ビーズを除去する。ビーズの除去後、前記細胞を洗浄し、濃縮し、およびBaxter Fenwal Harvester Systemを使用して1%ヒト血清アルブミンを含有する100〜250mlのPlasmalyte A中に再懸濁する。
【0130】
生体外で増殖されたT細胞の再注入。放出前に、前記回収した産物はすべて、細胞生存率(70%)、滅菌性(バクテリアおよび菌についてのネガティブ培地、ネガティブ菌体内毒素アッセイ)、およびビーズ夾雑(3×10個の細胞あたりビーズ100個未満)についての基準に合うことを必要とされる。前記回収した細胞を細胞産生設備から患者へと配達媒体により輸送し、同日に注入する。前記細胞を白血球フィルターなしで20−60分かけて注入する。患者はアセトアミノフェンおよびジフェンヒドラミンで定期的にあらかじめ投薬されてもよい。
【0131】
具体的な実施形態及び実施例の前記記述は、例示のために提供されており、限定のために提供されているものではない。別段の記載がなければ、これらの記述及び本明細書全体を通じて、「1つの」という用語は、一又は複数を意味し、「又は」という用語は、及び/又はを意味する。本明細書に引用されている全ての刊行物及び特許出願並びにこれらに引用されている刊行物は、各刊行物が参照により具体的且つ個別的に組み込まれる旨の記載が為されている場合と同様に、参照により本明細書に組み込まれる。前記発明は、理解を明瞭にする目的で、例示および実施例によって、幾分詳細に記載されているが、当業者であれば、本発明の教示に照らして、付属の特許請求の範囲の精神又は範囲から逸脱することなく、本発明に何らかの変化及び修飾を加え得ることが自明であろう。
【0132】
【表1】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象体適合性細胞の集団を取得することと;
前記細胞の集団から得られた、所定の自己抗原特異的制御性T細胞濃縮組成物を作製することと;及び
前記対象体中での前記自己免疫反応を調節するために前記対象体中に前記組成物を導入することと;
を含む、対象体中の自己免疫反応を調節する方法。
【請求項2】
前記細胞の集団が前記対象体から取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞の集団が前記対象体とは異なるドナーから取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞の集団が末梢血から採取される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記作製工程が前記抗原特異的制御性T細胞を増殖することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記増殖が、前記細胞の集団を自己抗原特異的制御性T細胞刺激組成物と接触させることによって達成される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
制御性T細胞が、前記増殖工程の前に、前記細胞の集団から濃縮される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
制御性T細胞が、前記増殖工程の後に、前記細胞の集団から濃縮される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記刺激組成物がMHCクラスII/自己抗原ペプチド複合体を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記刺激組成物が同時刺激因子を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記同時刺激因子がアゴニスト抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アゴニスト抗体がCD28に結合する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記刺激組成物が第二の制御性T細胞刺激因子を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記第二の刺激因子がサイトカインである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記サイトカインがインターロイキンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記インターロイキンがインターロイキン−2である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記刺激組成物が基材上に固定化される、請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記基材が細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記基材がビーズである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記作製工程が前記取得された細胞の集団から前記自己抗原特異的制御性T細胞を濃縮することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記調節が阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
組成物の細胞の少なくとも50%が自己抗原特異的制御性T細胞である、天然細胞の集団を含む組成物。
【請求項23】
前記自己抗原特異的制御性T細胞が、表AのMHCクラスII分子中に提示された自己抗原ペプチドに対して特異的である、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記自己抗原特異的制御性T細胞が、対象体に投与されたときに、自己免疫応答を調節するのに効果的である、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
請求項22に記載の自己抗原特異的制御性T細胞の組成物を作製するためのキットであって、
自己抗原特異的T細胞受容体刺激因子;及び
同時刺激因子を含むキット。
【請求項26】
前記刺激因子がMHCクラスII/自己抗原ペプチド複合体である、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記同時刺激因子がアゴニスト抗体である、請求項25に記載のキット。
【請求項28】
前記抗体がCD28に結合する、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
第二の制御性T細胞刺激因子をさらに含む、請求項25に記載のキット。
【請求項30】
前記第二の刺激因子がサイトカインである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記サイトカインがインターロイキンである、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
前記インターロイキンがインターロイキン−2である、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
前記インターロイキンがインターロイキン−15である、請求項31に記載のキット。
【請求項34】
前記刺激因子及び前記同時刺激因子が基材上に固定化される、請求項25に記載のキット。
【請求項35】
前記基材が細胞である、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記基材がビーズである、請求項34に記載のキット。
【請求項37】
糖尿病を有すると診断されて、空腹時血漿グルコース(FPG)、食後血糖値(PPG)及び耐糖能(GTT)から選択されるグルコース恒常性障害の兆候を示す患者からT細胞の混合集団を抽出する工程と;
>98%のCD4CD25T細胞(Treg細胞)を含む亜集団を、陰性及び陽性免疫選択並びに細胞分取によって前記集団から単離する工程と;
生体外で増殖されたTreg細胞を取得するために、前記亜集団を、(i)TCR/CD3に対する多価抗体及びリガンドから選択されるTCR/CD3活性化因子;(ii)CD28に対する多価抗体及びリガンドから選択されるTCR同時刺激物質活性化因子;並びに(iii)有効量が200ないし2500 IU IL−2/mLであるIl−2の、有効量と接触させることによって、前記亜集団のTreg細胞を少なくとも100倍増殖させる工程と;
生体外で増殖された10ないし1011個のTreg細胞を前記患者中に導入する工程と;並びに
生じたグルコース恒常性障害の改善を検出する工程と、
を含む、養子細胞免疫治療の方法。
【請求項38】
前記改善が、110mg/dL以下のFPG、140mg/dL以下の2時間PPG、及び75gのグルコース負荷から2時間後における140mg/dL以下のGTTから選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記TCR/CD3活性化因子が抗CD3抗体であり、前記TCR同時刺激物質活性化因子が抗CD28抗体であり、前記抗CD3及び抗CD28抗体が、1:1ないし1:2のTreg細胞:ビーズ比で与えられた常磁性ビーズ上に固定化されている、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記TCR/CD3活性化因子がMHCペプチド多量体であり、前記ペプチドが糖尿病関連自己抗原ペプチドであり、糖尿病関連自己抗原がグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)、膵島細胞自己抗原(ICA)及びインシュリンから選択され、前記TCR同時刺激物質活性化因子が抗CD28抗体であり、導入工程で生体外で増殖された10ないし10個のTreg細胞を前記患者中に導入する、請求項37に記載の方法。

【公表番号】特表2007−538000(P2007−538000A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549433(P2006−549433)
【出願日】平成17年1月8日(2005.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/000502
【国際公開番号】WO2005/070090
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(506235281)リージエンツ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・カリフオルニア (2)
【Fターム(参考)】