説明

制御装置および制御方法

【課題】複数の半導体光源を利用して実現された前照灯を制御する際、複数の半導体光源の制御に係る情報の伝達速度を向上する。
【解決手段】制御装置100は、動作モードに応じて照射領域の中で部分的に明るさの変更が可能な車両用前照灯を、複数のLEDを利用して実現したとき、車両用前照灯を制御する制御装置である。制御装置100は、動作モードのオンオフを示すとともに、動作モードがオンの場合に明るさを変更すべき照射領域の部分を指定するモード情報を第1通信回線LINを介して受信するモード情報受信部と、受信されたモード情報が動作モードのオンを示す場合、モード情報が指定する照射領域の部分に基づき各LEDの状態を決定する状態決定部と、各LEDを、それが状態決定部によって決定された状態となるよう制御する光源制御部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は前照灯を制御する制御装置および前照灯の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘッドライトなどの前照灯に、従来のフィラメントを有するハロゲンランプに代えてより長寿命で低消費電力のLED(Light Emitting Diode)が利用されている。LEDの発光の度合いすなわち明るさはLEDに流す電流の大きさに依存するので、LEDを光源として利用する場合にはLEDに流れる電流を調節するための点灯回路が必要となる。そのような点灯回路は通常エラーアンプを有し、LEDに流れる電流が一定となるようにフィードバック制御する。
【0003】
本出願人は、前照灯の配光を可変とし、きめの細かい配光制御を行うために、光源としてLEDのアレイを採用し、各LEDを個別に点消灯する技術を特許文献1において提案している。各LEDを個別に点消灯することにより、グレア抑制機能や歩行者スポット機能などの各種機能を備えた前照灯が実現される。
【0004】
通常、前照灯の所定の機能を実現するためのLEDの輝度はエンジンコントロールユニットによって演算される。エンジンコントロールユニットは演算された輝度データを点灯回路に送信し、点灯回路はLEDが演算された輝度で発光するようそのLEDを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−192865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
配光制御の柔軟性を高めるため、LEDのアレイに含まれるLEDの数は増加傾向にある。制御すべきLEDの数が増えると、その分エンジンコントロールユニットから点灯回路に送信される輝度データの量も増大する。輝度データの量が増大して輝度データの伝達にかかる時間が増大すると、前照灯の各種機能の応答性が低下しうる。
【0007】
輝度データの量の増大に対し、エンジンコントロールユニットと点灯回路との間の通信回線の通信速度を上げることで対応することも考えられる。しかしながら、実際、車両内に設けられる通信回線の通信プロトコルは規格で定められているもののなかから選択されることが多いので、通信速度の向上幅は限られている。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の半導体光源を利用して実現された前照灯を制御する際、複数の半導体光源の制御に係る情報の伝達速度を向上できる制御技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は、制御装置に関する。この制御装置は、動作モードに応じて照射領域の中で部分的に明るさの変更が可能な車両の前照灯を、複数の半導体光源を利用して実現したとき、前照灯を制御する制御装置であって、動作モードのオンオフを示すとともに、動作モードがオンの場合に明るさを変更すべき照射領域の部分を指定するモード情報を所定の通信回線を介して受信するモード情報受信部と、モード情報受信部によって受信されたモード情報が動作モードのオンを示す場合、モード情報が指定する照射領域の部分に基づき各半導体光源の状態を決定する状態決定部と、各半導体光源を、それが状態決定部によって決定された状態となるよう制御する光源制御部と、を備える。
【0010】
この態様によると、モード情報に基づき各半導体光源の状態を制御できる。
【0011】
本発明の別の態様は、前照灯の制御方法である。この方法は、それぞれが複数の半導体光源で構成される左右の前照灯による照射領域の中で照射の明るさを変更すべき部分を特定するステップと、特定された部分の照射に関与する半導体光源を左右の前照灯についてそれぞれ特定するステップと、特定された半導体光源の輝度を変更するステップと、を含む。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を装置、方法、システム、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを格納した記録媒体などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の半導体光源を利用して実現された前照灯を制御する際、複数の半導体光源の制御に係る情報の伝達速度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態に係る制御装置によって制御される車両用前照灯の水平断面図である。
【図2】図1の光源ユニットの垂直断面図である。
【図3】図1の光源ユニットの正面図である。
【図4】左右のハイビーム用灯具ユニットの照射領域を合わせた合成照射領域の模式図である。
【図5】実施の形態に係る制御装置の機能および構成を示すブロック図である。
【図6】モード情報の構成を示す模式図である。
【図7】図5の左側状態決定部における一連の処理を示すフローチャートである。
【図8】図5の左側対応関係保持部の一例を示すデータ構造図である。
【図9】図5の右側対応関係保持部の一例を示すデータ構造図である。
【図10】図5の制御装置およびエンジンコントロールユニットにおける一連の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、信号には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面において説明上重要ではない部材の一部は省略して表示する。また、電圧、電流あるいは抵抗などに付された符号は、必要に応じてそれぞれの電圧値、電流値あるいは抵抗値を表すものとして用いることがある。
【0016】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0017】
図1は、実施の形態に係る制御装置によって制御される車両用前照灯10の水平断面図である。車両用前照灯10は、グレア抑制機能や歩行者スポット機能や電子スイブル機能などの各種機能のそれぞれに対応した動作モードに応じて照射領域の中で部分的に明るさの変更が可能なように、複数の半導体光源すなわちLEDを利用して実現される。
【0018】
グレア抑制機能は、車両用前照灯10の照射領域のうち対象すなわち前走車、対向車に対応する部分の明るさを抑えることで、前走車や対向車に対するグレアを抑制する機能である。
歩行者スポット機能は、車両用前照灯10の照射領域のうち対象すなわち歩行者に対応する部分の明るさを上げることで、歩行者を照らし出す機能である。
電子スイブル機能は、モータやアクチュエータなどの機械的な手段によらず電子的な手段によって車両用前照灯10の照射方向を左右方向に偏向制御する機能である。
クレア抑制機能、歩行者スポット機能、電子スイブル機能はいずれも車両用前照灯10がハイビームを照射する状態(以下、ハイビーム状態と称す)にあるときに使用される。
【0019】
車両用前照灯10の灯室は、ランプボディ12と、ランプボディ12の前端開口部に取り付けられた透光カバー14と、で形成される。ロービーム用灯具ユニット20Lおよびハイビーム用灯具ユニット20Hはその灯室内に収容される。ロービーム用灯具ユニット20Lおよびハイビーム用灯具ユニット20Hはそれぞれ、図示しない支持部材によってランプボディ12に取り付けられている。エクステンション部材16は各灯具ユニットの存在領域に開口部を有し、ランプボディ12または透光カバー14に固定される。
【0020】
ロービーム用灯具ユニット20Lは、周知の反射型の灯具であり、光源バルブ21と、リフレクタ23と、を有する。ロービーム用灯具ユニット20Lは、光源バルブ21から出射した光をリフレクタ23に反射させる。リフレクタ23から前方に向かう光の一部は図示しない遮光板でカットされ、所定のカットオフラインを有するロービーム用の配光パターンを形成する。光源バルブ21の先端には、光源バルブ21から前方に出射される光をカットするシェード25が設けられている。なお、ロービーム用灯具ユニット20Lの形状はこれに限定されず、プロジェクタ型の灯具ユニットであってもよい。
【0021】
ハイビーム用灯具ユニット20Hはプロジェクタ型の灯具ユニットであり、投影レンズ22と、複数のLEDがアレイ状に配列されたLEDアレイ26を備える光源ユニット24と、投影レンズ22および光源ユニット24を保持するホルダ28と、を有する。投影レンズ22は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズであって、車両前後方向に延びる光軸Ax上に配置されている。投影レンズ22は、その後側焦点Fを含む後側焦点面上の像を、灯具前方に配置された鉛直仮想スクリーン上に反転像として投影するように構成されている。投影レンズ22は、その周縁部がホルダ28の前端環状溝部に保持されている。
【0022】
光源ユニット24は、LEDアレイ26が投影レンズ22の後側焦点Fよりも後方側に配置された状態で、ホルダ28の後端側に固設されている。ホルダ28は図示しない支持部材を介して、ランプボディ12に取り付けられている。
【0023】
光源ユニット24は、LEDアレイ26を搭載するための搭載プレート30と、搭載プレート30に固定された上方反射鏡36および下方反射鏡38と、LEDアレイ26から発せられる熱を逃がすための放熱板32と、を備える。LEDアレイ26は、搭載プレート30の前方側表面に、その発光面が光軸Ax方向前方を向くようにして固定されている。LEDアレイ26の中心は、光軸Ax上に位置している。放熱板32は、搭載プレート30の後方側表面に固定されている。
【0024】
図2は、光源ユニット24の垂直断面図である。図3は、光源ユニット24の正面図である。なお、図2においては、放熱板32の図示を省略している。上方反射鏡36はLEDアレイ26の上方に設けられ、下方反射鏡38はLEDアレイ26の下方に設けられる。LEDアレイ26は、20個の正方形状のLED34−1〜34−20を、横一列に配置したものである。各LEDは、搭載プレート30上に固定されている。各LEDは、本実施の形態に係る制御装置により個別に点消灯される。
【0025】
通常、車両は前方左側、右側それぞれにひとつづつ車両用前照灯10を備える。以下、左側の車両用前照灯10に含まれる20個のLEDを20個の左LED34L−1〜34L−20と表記し、右側の車両用前照灯10に含まれる20個のLEDを20個の右LED34R−1〜34R−20と表記する。
【0026】
図4は、左右の車両用前照灯10のハイビーム用灯具ユニット20Hの照射領域を合わせた合成照射領域50の模式図である。合成照射領域50は、複数の例えば23個の部分合成領域52に分割されている。制御装置100では、各部分合成領域52に、それを特定する領域IDが割り当てられている。例えば、図4で最も左の部分合成領域52から順番に領域ID「1」、領域ID「2」、…、領域ID「23」が設定されてもよい。
【0027】
領域ID「1」から領域ID「20」の部分合成領域52は左LED34L−1〜34L−20によってそれぞれ照射され、領域ID「4」から領域ID「23」の部分合成領域52は右LED34R−1〜34R−20によってそれぞれ照射される。すなわち、領域ID「1」から領域ID「20」の部分合成領域52は左側の車両用前照灯10の照射領域を構成し、領域ID「4」から領域ID「23」の部分合成領域52は右側の車両用前照灯10の照射領域を構成する。左側の車両用前照灯10の照射領域は右側の車両用前照灯10の照射領域と少なくとも部分的に、この場合では領域ID「4」から領域ID「20」の部分合成領域52において、重なる。
【0028】
図5は、実施の形態に係る制御装置100の機能および構成を示すブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPU(central processing unit)をはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
【0029】
制御装置100は左右の車両用前照灯10を制御する。制御装置100は、20個の左LED34L−1〜34L−20を制御する左側制御装置102と、20個の右LED34R−1〜34R−20を制御する右側制御装置104と、を含む。左側制御装置102および右側制御装置104はいずれも、自動車の電気的な制御を総合的に行うためのマイクロコントローラであるエンジンコントロールユニット(ECU)106と、第1通信回線LINを介して接続される。第1通信回線LINでは、車載LAN(Local Area Network)の通信プロトコルの一種であるLIN(Local Interconnect Network)にしたがって通信が行われる。エンジンコントロールユニット106は外部と第2通信回線CANを介して接続される。第2通信回線CANでは、車載LANの通信プロトコルの一種であるCAN(Controller Area Network)にしたがって通信が行われる。本実施の形態では、第1通信回線LINの通信速度は第2通信回線CANの通信速度より遅い。
【0030】
エンジンコントロールユニット106は、車両用前照灯10の機能に対応した動作モードのオンオフを示すとともに、動作モードがオンの場合に明るさを変更すべき部分合成領域52を指定するモード情報200を生成し、第1通信回線LINに送出する。
図6は、モード情報200の構成を示す模式図である。モード情報200は、23ビットで表されるグレア抑制情報202と、23ビットで表されるスポット情報204と、5ビットで表されるスイブル情報206と、1ビットで表されるハイビームオンオフ情報208と、を含む。モード情報200はトータルで52ビットの情報である。
【0031】
グレア抑制情報202は、グレア抑制機能に対応したグレア抑制モードのオンオフを指定する。グレア抑制情報202の各ビットは領域IDに対応する。例えば、1番目から23番目のビットは領域ID「1」から領域ID「23」にそれぞれ対応する。エンジンコントロールユニット106は、不図示の車載カメラから第2通信回線CANを介して受け取る情報に基づき、合成照射領域50に前走車や対向車などの別の車両が存在するか否かを判定する。エンジンコントロールユニット106は、別の車両が存在すると判定された場合、その別の車両が存在する部分合成領域52を指定するグレア抑制情報202を生成する。より具体的には、グレア抑制情報202は、別の車両が存在する部分合成領域52の領域IDである車両存在領域IDに対応するビットの値を「1」とし、それ以外のビットの値を「0」とする。制御装置100では、グレア抑制情報202のビットのうちの少なくともひとつの値が「1」の場合、グレア抑制モードがオンされ、そのビットに対応する領域IDが特定する部分合成領域52の明るさが低減される。グレア抑制情報202の全てのビットの値が「0」の場合、グレア抑制モードはオフされる。
【0032】
スポット情報204は、歩行者スポット機能に対応したスポットモードのオンオフを指定する。スポット情報204の各ビットは領域IDに対応する。例えば、1番目から23番目のビットは領域ID「1」から領域ID「23」にそれぞれ対応する。エンジンコントロールユニット106は、不図示の車載カメラから第2通信回線CANを介して受け取る情報に基づき、合成照射領域50に歩行者などの人が存在するか否かを判定する。エンジンコントロールユニット106は、人が存在すると判定された場合、その人が存在する部分合成領域52を指定するスポット情報204を生成する。より具体的には、スポット情報204は、人が存在する部分合成領域52の領域IDである人存在領域IDに対応するビットの値を「1」とし、それ以外のビットの値を「0」とする。制御装置100では、スポット情報204のビットのうちの少なくともひとつの値が「1」の場合、スポットモードがオンされ、そのビットに対応する領域IDが特定する部分合成領域52の明るさが増やされる。スポット情報204の全てのビットの値が「0」の場合、スポットモードはオフされる。
【0033】
なお、グレア抑制機能や歩行者スポット機能では、合成照射領域50のなかで機能をオンとする部分合成領域52が複数になりうる。したがって、グレア抑制情報202、スポット情報204のいずれについても、領域IDごとにオンオフを示す1ビットを割り当てることで、明るさを変更すべき部分合成領域52の領域IDが指定される。
【0034】
スイブル情報206は、電子スイブル機能に対応したスイブルモードのオンオフを指定する。エンジンコントロールユニット106は、合成照射領域50のなかで明るさの基準すなわち中心となるべき部分合成領域52をひとつ選択し、選択された部分合成領域52を指定するスイブル情報206を生成する。より具体的には、スイブル情報206は、選択された部分合成領域52の領域IDを二進数で表す。制御装置100では、スイブル情報206が存在する領域IDを表す場合、スイブルモードがオンされ、「0」や「24」などの存在しない領域IDを表す場合、スイブルモードがオフされる。
ハイビームオンオフ情報208は、左右の車両用前照灯10をハイビーム状態とすべき場合は「1」に設定され、そうでない場合は「0」に設定される。
【0035】
図5に戻り、左側制御装置102は、左側モード情報受信部108と、左側状態決定部110と、左側光源制御部112と、左側対応関係保持部114と、を含む。左側モード情報受信部108は、モード情報200を第1通信回線LINを介して受信する。
【0036】
左側状態決定部110は、左側モード情報受信部108によって受信されたモード情報200が動作モードのオンを示す場合、モード情報200が指定する部分合成領域52に基づき各左LEDの状態を決定する。モード情報200が動作モードのオンを示す場合に、モード情報200の受信の前後で結果として状態が変わらない左LEDが存在する可能性がある。状態が変わらない左LEDについては、左側状態決定部110は、状態を変更しないと決定することでそのような左LEDの状態を決定する。左側状態決定部110については図7を参照して後述する。
【0037】
左側光源制御部112は、各左LEDを、それが左側状態決定部110によって決定された状態となるよう制御する。左側光源制御部112は20のスイッチングレギュレータ(不図示)を有する。20のスイッチングレギュレータのそれぞれは、車載バッテリ(不図示)から電力の供給を受け、20個の左LED34L−1〜34L−20の対応するひとつに供給すべき駆動電流を生成する。各スイッチングレギュレータは駆動電流を生成する際、駆動対象の左LEDについて左側状態決定部110によって決定された状態が実現されるように、スイッチング素子のデューティ比を調整する。特に各スイッチングレギュレータは、駆動対象の左LEDについて決定された調光率に応じてデューティ比を設定する。
【0038】
図7は、左側状態決定部110における一連の処理を示すフローチャートである。左側状態決定部110は、モード情報200に含まれるハイビームオンオフ情報208を参照し、それが「0」の場合(S302のN)は全ての左LEDの状態を消灯状態に決定する、すなわち全ての左LEDの調光率を0%に決定する(S308)。LEDの調光率の増減に応じてLEDの輝度も増減する。したがって、LEDの調光率を決定することはLEDの輝度を決定することに対応する。左側状態決定部110は、ハイビームオンオフ情報208が「1」の場合(S302のY)、モード情報200に含まれるスイブル情報206を参照し、スイブルモードのオンオフを判定する(S304)。左側状態決定部110は、スイブルモードがオンであると判定された場合(S304のY)、左側対応関係保持部114(図8で後述)を参照し、スイブル情報206が表す領域IDに対応する各左LEDの調光率を決定する(S306)。
【0039】
ステップS306の後またはスイブルモードがオフであると判定された場合(S304のN)、左側状態決定部110はモード情報200に含まれるスポット情報204を参照し、スポットモードのオンオフを判定する(S310)。左側状態決定部110は、スポットモードがオンであると判定された場合(S310のY)、左側対応関係保持部114を参照し、スポット情報204が指定する人存在領域IDに対応する左光源IDを決定する。左光源IDは、左LEDを特定するIDである。左側状態決定部110は、決定された左光源IDが特定する左LEDを調光率を変更すべき左LEDとして決定する。左側状態決定部110は、決定された左LEDの状態を、そうでない左LEDの輝度よりも高い輝度で発光する状態に決定する。より具体的には、左側状態決定部110は、決定された左LEDの調光率を100%に決定する(S312)。
【0040】
ステップS312の後またはスポットモードがオフであると判定された場合(S310のN)、左側状態決定部110はモード情報200に含まれるグレア抑制情報202を参照し、グレア抑制モードのオンオフを判定する(S314)。左側状態決定部110は、グレア抑制モードがオンであると判定された場合(S314のY)、左側対応関係保持部114を参照し、グレア抑制情報202が指定する車両存在領域IDに対応する左光源IDを決定する。左側状態決定部110は、決定された左光源IDが特定する左LEDを調光率を変更すべき左LEDとして決定する。左側状態決定部110は、決定された左LEDの状態を、そうでない左LEDの輝度よりも低い輝度で発光する状態に決定する。より具体的には、左側状態決定部110は、決定された左LEDの調光率を0%に決定する(S316)。
【0041】
図8は、左側対応関係保持部114の一例を示すデータ構造図である。左側対応関係保持部114は、領域IDと、その領域IDが特定する部分合成領域52を照らす左LEDを特定する左光源IDと、その領域IDがスイブル情報206によって指定される領域IDである場合の各左LEDの調光率と、を対応付けて保持する。
【0042】
右側制御装置104は、右側モード情報受信部116と、右側状態決定部118と、右側光源制御部120と、右側対応関係保持部122と、を含む。右側モード情報受信部116は左側モード情報受信部108と、右側状態決定部118は左側状態決定部110と、右側光源制御部120は左側光源制御部112と、右側対応関係保持部122は左側対応関係保持部114と、それぞれ対応する。左側制御装置102と右側制御装置104との主な差異は対応関係保持部の構造である。
【0043】
図9は、右側対応関係保持部122の一例を示すデータ構造図である。右側対応関係保持部122は、領域IDと、その領域IDが特定する部分合成領域52を照らす右LEDを特定する右光源IDと、その領域IDがスイブル情報206によって指定される領域IDである場合の各右LEDの調光率と、を対応付けて保持する。
【0044】
以上の構成による制御装置100の動作を説明する。図10は、制御装置100およびエンジンコントロールユニット106における一連の処理を示すフローチャートである。車両側の制御装置すなわちエンジンコントロールユニット106は、第2通信回線CANから受け取る情報に基づき、照射の明るさを変更すべき部分合成領域52を特定する(S402)。車両側の制御装置は特定された部分合成領域52の情報を含むモード情報200を生成し、第1通信回線LINに送出する。前照灯側の制御装置100は、第1通信回線LINを介してモード情報200を受信する(S404)。前照灯側の制御装置100は、特定された部分合成領域52の照射に関与するLEDを左右の車両用前照灯10についてそれぞれ特定する(S406)。この際、前照灯側の制御装置100は左側対応関係保持部114および右側対応関係保持部122を参照する。前照灯側の制御装置100は、特定されたLEDの輝度を変更する(S408)。
【0045】
本実施の形態に係る制御装置100によると、左側制御装置102および右側制御装置104が第1通信回線LINから受け取るモード情報200は、LEDの調光率そのものを含まず、代わりに動作モードのオンオフを示すとともに、動作モードがオンの場合に明るさを変更すべき部分合成領域52を指定する。したがって、第1通信回線LINから受け取る情報が車両用前照灯10の各LEDの調光率を直接含む場合と比べて、第1通信回線LINを介した1回の通信データ量を低減できる。その結果、第1通信回線LINを介した情報伝達の高速化を図ることができ、車両用前照灯10の各種機能の応答性を高めることができる。
【0046】
エンジンコントロールユニットが動作モードのオンオフに基づき左右の各LEDの調光率を演算し送信する場合を比較例として考える。調光率は消灯(0%)であるかまたは点灯(100%)であるかまたは5%〜95%の間で5%単位で指定される。このような調光率の状態は全部で21個有るので、調光率を指定するためには5ビット必要である。したがって、第1通信回線LINを介して左側制御装置および右側制御装置に送信される情報のデータ量は、(LEDひとつ当たり5ビット)×(左右のLEDの総数40個)=200ビットとなる。LIN1.3規格によると、LIN通信の1つのスケジュールIDに対するデータ量は最大で8バイトなので、この場合4つのスケジュールIDが必要となる。これにより1回の通信時間は比較的長くなる。
【0047】
これに対して本実施の形態に係る制御装置100では、モード情報200は上記の通り52ビットの情報である。したがって、1つのスケジュールIDでモード情報200を伝送できる程度まで1回の通信データ量を低減でき、1回の通信時間を低減できる。
【0048】
また、エンジンコントロールユニットは一般に車両用前照灯の他にも点火系や燃料系などの制御も行っている。したがって、車両用前照灯のLEDの制御に関する演算量が増えると、エンジンコントロールユニットにおける処理の優先度の設定によっては、LED制御関係の演算が後回しにされて演算時間が長くなる可能性がある。そこで、本実施の形態のように調光率は演算せず動作モードのオンオフを伝えることとすることにより、エンジンコントロールユニット106におけるLED制御関係の演算量を低減できる。その結果、エンジンコントロールユニット106におけるLED制御関係の演算時間を低減でき、またエンジンコントロールユニット106の全体的な処理速度を増大させることができる。
【0049】
また、本実施の形態に係る制御装置100では、グレア抑制情報202、スポット情報204、スイブル情報206はいずれも部分合成領域52を指定し、左側制御装置102、右側制御装置104は指定された部分合成領域52に対応する左右のLEDをそれぞれ決定する。したがって、グレア抑制情報やスポット情報やスイブル情報が左右のLEDを直接指定する場合と比べて、第1通信回線LINを介した通信データ量を低減できる。
【0050】
例えば、グレア抑制情報が左右のLEDを直接指定する場合、グレア抑制情報は左LEDを指定するための20ビットと右LEDを指定するための20ビットとを足し合わせた40ビットの情報となる。これに対して本実施の形態では、グレア抑制情報202は部分合成領域52の個数に対応する23ビットの情報である。このように、本実施の形態によると通信データ量を低減できる。
【0051】
また、車両用前照灯10の機能のなかでもグレア抑制機能や歩行者スポット機能などのように部分的に明るさを変更する機能については、第1通信回線LINを介して明るさを変更すべき部分の指定を送受することとされている。これにより、より効果的に通信データ量を低減できる。
【0052】
また、グレア抑制機能や歩行者スポット機能や電子スイブル機能は、刻々と変化する走行中の状況に車両用前照灯10の照射状態を適応させる機能であるから、一般に処理の遅延は好ましくない。そこで本実施の形態に係る制御装置100によると、エンジンコントロールユニット106における処理の遅延は抑えられ、また第1通信回線LINを介したより高速な情報伝達が可能となる。したがって、制御装置100はそれらの機能を有する車両用前照灯10により適している。
【0053】
以上、実施の形態に係る制御装置100の構成と動作について説明した。この実施の形態は例示であり、その各構成要素や各処理の組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0054】
実施の形態では、左側制御装置102は左側対応関係保持部114を有し、右側制御装置104は右側対応関係保持部122を有する場合について説明したが、これに限られない。例えば、制御装置は左側対応関係保持部114の機能と右側対応関係保持部122の機能とを合わせた機能を有する保持部を有し、左右の状態決定部はその保持部を参照してもよい。
【0055】
実施の形態では、車両用前照灯10の機能としてグレア抑制機能、歩行者スポット機能および電子スイブル機能を説明したが、これに限られない。例えば、車両用前照灯は車速に応じた減光を行う車速減光機能と雨天時に雨天に応じた配光を行う雨天配光機能とを有してもよい。
【0056】
車速減光機能は、所定の車速に基づいて全てのLEDを一律に減光する機能であってもよい。モード情報は、車速減光機能に対応した車速減光モードのオンオフを指定する車速減光情報を含んでもよい。車速減光情報は、20km/h以下で5km/hごとの情報であり、データ量は2ビットであってもよい。左右の制御装置は、2ビットの車速減光情報に対応した所定の調光率データを有してもよい。
【0057】
雨天配光機能は、雨天時に全LED対応の定数にて調光する機能であってもよい。モード情報は、雨天配光機能に対応した雨天配光モードのオンオフを指定する雨天配光情報を含んでもよい。雨天配光情報は、雨天時に「1」となり、そうでない場合「0」となる1ビットの情報であってもよい。左右の制御装置は、雨天用の所定の調光率データを有してもよい。
これら2つの機能を加えた場合のモード情報のデータ量は、52ビットに追加機能分の2ビット+1ビットを加えた55ビットであるから、これら2つの機能を加えても、スケジュールID1つでの伝送が可能である。
【符号の説明】
【0058】
10 車両用前照灯、 50 合成照射領域、 52 部分合成領域、 100 制御装置、 102 左側制御装置、 108 左側モード情報受信部、 110 左側状態決定部、 112 左側光源制御部、 114 左側対応関係保持部、 200 モード情報。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作モードに応じて照射領域の中で部分的に明るさの変更が可能な車両の前照灯を、複数の半導体光源を利用して実現したとき、前記前照灯を制御する制御装置であって、
前記動作モードのオンオフを示すとともに、前記動作モードがオンの場合に明るさを変更すべき照射領域の部分を指定するモード情報を所定の通信回線を介して受信するモード情報受信部と、
前記モード情報受信部によって受信されたモード情報が前記動作モードのオンを示す場合、モード情報が指定する照射領域の部分に基づき各半導体光源の状態を決定する状態決定部と、
各半導体光源を、それが前記状態決定部によって決定された状態となるよう制御する光源制御部と、を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
左右の前照灯の照射領域を合わせた合成照射領域は複数の部分合成領域に分割されており、
モード情報は部分合成領域を特定する領域IDを含み、
本制御装置はさらに、領域IDと、その領域IDが特定する部分合成領域を照らす半導体光源を特定する光源IDと、を対応付けて保持する対応関係保持部を備え、
前記状態決定部は、前記対応関係保持部を参照し、モード情報に含まれる領域IDに対応する光源IDが特定する半導体光源を、輝度を変更すべき半導体光源として決定することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
照射領域に別の車両が存在すると判定された場合、モード情報は別の車両が存在する照射領域の部分を指定し、
前記状態決定部は、別の車両が存在する照射領域の部分を照らす半導体光源の状態を、そうでない半導体光源の輝度よりも低い輝度で発光する状態に決定することを特徴とする請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
照射領域に人が存在すると判定された場合、モード情報は人が存在する照射領域の部分を指定し、
前記状態決定部は、人が存在する照射領域の部分を照らす半導体光源の状態を、そうでない半導体光源の輝度よりも高い輝度で発光する状態に決定することを特徴とする請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項5】
それぞれが複数の半導体光源で構成される左右の前照灯による照射領域の中で照射の明るさを変更すべき部分を特定するステップと、
特定された部分の照射に関与する半導体光源を左右の前照灯についてそれぞれ特定するステップと、
特定された半導体光源の輝度を変更するステップと、を含むことを特徴とする、前照灯の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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