説明

制御装置及びコンピュータプログラム

【課題】動作周期の異なる複数のアプリケーションプログラムを搭載する場合であっても、処理負荷の増大、設計の困難化、及び動作信頼性の低下等を生じることなく、各アプリケーションプログラムに係る通信処理を確実に行うことができる制御装置及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】統合ECU10は、それぞれ異なる周期で制御処理を行うボディ制御AP32及びAFS制御AP34等の複数のアプリケーションプログラムを備える。また統合ECU10は、通信処理をそれぞれ異なる周期で行う複数の通信モジュール21a及び21bを備えて、各アプリケーションプログラムが制御処理の周期に応じた通信周期の通信モジュール21a及び21bとの間でデータの授受を行うことで、メータECU3及びナビECU5等の他のECUとの通信を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌などに搭載された複数の被制御機器の制御処理を行う制御装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輌の高機能化が進んでおり、車輌には多種多様な機器が搭載され、これら車載機器を制御するための制御装置、所謂ECU(Electronic Control Unit)が多数搭載されている。例えば、ユーザのスイッチ操作などに応じてドアの開閉、ドアロックの施錠/解錠、ライトのオン/オフ、及びワイパーのオン/オフ等の制御を行うボディECU、運転席近傍に配設されるメータ類の動作を制御するメータECU、カーナビゲーションシステムの制御を行うナビECU、エアバッグの動作を制御するエアバッグECU、ABS(Anti-lock Brake System)の動作を制御するABS−ECU、並びにフロントライトの光軸を自動調整するAFS(Adaptive Front-lighting System)の動作を制御するAFS−ECU等の種々のECUが車輌には搭載されている。また、より高度な処理を行うために、車輌に搭載された複数のECUは、CAN(Controller Area Network)などのネットワークを介して互いに接続され、情報を送受信することでECU間での情報の共有を行っている。
【0003】
特許文献1においては、道路データのない場所又は予定コースを外れて車輌が曲がる場合であっても、照射領域の調整を適切に行うことができ、視認性に優れた車輌用前照灯装置が提案されている。この車輌用前照灯装置は、方向指示信号、舵角信号、地図情報及び現在位置情報等の情報を取得して前照灯の角度調整を行っている。即ち、車輌用前照灯装置は、ウインカーレバーの操作により方向指示信号の出力があった場合には指示された方向及び舵角に応じて前照灯の角度を調整し、現在位置が地図情報の道路データ上にないか又は舵角が所定範囲を超えている場合には舵角に応じて前照灯の角度を調整し、これら以外の場合には前方の道路形状の予測に応じて前照灯の角度を調整する。
【0004】
また、車輌に搭載されるECUは、ABS−ECU、エアバッグECU及びボディECU等のように車輌の走行制御又は車体制御を行う制御系ECUと、ナビECUのようにユーザへの情報提供を行う機器を制御する情報系ECUとに分類される。制御系ECUは、制御処理のリアルタイム性及び高信頼性が要求されることから、リアルタイムOS(Operating System)が搭載される場合が多い。またエアバッグECU及びABS−ECU等のように乗員の安全又は車輌の走行に係る制御を行う制御系ECUは、特に高速な制御処理が要求される。
【0005】
特許文献2においては、制御系電子制御装置に要求されるリアルタイム性及び高信頼性と、情報系電子制御装置に要求される柔軟性及び拡張性とを両立させたプラットフォームを有する車輌用制御システムが提案されている。この車輌用制御システムは、リアルタイムOSが配置されるプロセッサを有する制御系ECUと、リアルタイムOSが配置されるプロセッサ及びマルチメディアOSがそれぞれ配置される複数のプロセッサを有する情報系ECUとを備える。制御系ECU及び情報系ECUの間の通信は、制御系ECUのプロセッサと情報系ECUのリアルタイムOSが配置されるプロセッサとにより行われる。情報系ECU内の通信は、各プロセッサのコア間通信機能により行われる。
【0006】
また、車輌における装置の搭載スペースは限られている。ECUの搭載数が増加することによって、ECU間の接続を行う通信ケーブル及び各ECUへ電力を供給するための電源ケーブル等のケーブル数も増加するため、近年では車輌におけるECU及びケーブルを
配するためのスペースが不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−192674号公報
【特許文献2】特開2008−174098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図10は、従来のECUを複数搭載した車輌の一構成例を示す模式図である。図11は、車輌に搭載された従来のECUのソフトウェア構成を示す模式図である。図において1は車輌であり、車輌1にはボディECU2、メータECU3、AFS−ECU4及びナビECU5等の複数のECUが搭載されている。またこれら複数のECUは、通信ケーブル7を介して接続されており、相互にデータの送受信を行うことができる。
【0009】
ボディECU2にはリアルタイムOS11が搭載され、リアルタイムOS11がボディECU2の通信モジュール21、仮想バス15及びボディ制御AP(アプリケーションプログラム)32等のプログラムの実行管理などを行っている。通信モジュール21は、ボディECU2に通信ケーブル7を介して接続された他のECUとの通信処理を行うプログラムであり、他のECUからデータを受信した場合には仮想バス15を介してボディ制御AP32へ受信データを与え、またボディ制御AP32から仮想バス15を介して与えられたデータを他のECUへ送信する処理を行う。仮想バス15は、通信モジュール21及びボディ制御AP32が(更にはその他のプログラムが)データの授受を行うための記憶領域である。ボディ制御AP32は、ボディECU2の内外から与えられるデータに基づいて、車輌1のドア、ワイパー及びライト等の車体に付属する機器の動作を制御する処理を行うものである。
【0010】
メータECU3は、ボディECU2と略同じ構成であり、リアルタイムOS11、通信モジュール21及び仮想バス15を有すると共に、車輌に搭載されたメータの動作を制御するメータ制御AP33を有している。AFS−ECU4もまた、ボディECU2と略同じ構成であり、リアルタイムOS11、通信モジュール21及び仮想バス15を有すると共に、車輌1に搭載されたフロントライトの光軸を自動調整するAFS制御AP34を有している。ナビECU5は、リアルタイムOSを有しておらず、これに代えてマルチメディアOS12を搭載しており、マルチメディアOS12が通信モジュール21、仮想バス15及びナビ制御AP35等の動作管理などを行っている。
【0011】
例えば、メータECU3は車輌のメータに係るデータを20ms周期で送信しており、このデータを必要とするボディECU2のボディ制御AP32が10ms周期で動作する場合、ボディECU2の通信モジュール21は、メータECU3からのデータを受信する処理を10ms周期で行う。また、ナビECU5は車輌1の位置情報などのデータを0.5ms周期で送信しており、このデータを必要とするAFS−ECU4のAFS制御AP34が0.5ms周期で動作する場合、AFS−ECU4の通信モジュール21は、ナビECU5からのデータを受信する処理を0.5ms周期で行う。
【0012】
上述のように、近年ではECU及びケーブル等を配するためのスペースが不足しており、この問題の解決策として複数のECUを1つのECUに統合することでECU及びケーブルの数を削減することが考えられる。例えば、図10及び図11に示した例においては、ボディECU2はユーザのスイッチ操作に応じて車輌1のフロントランプのオン/オフを行い、AFS−ECU4は車輌1の舵角などに応じてフロントランプの光軸を調整する。即ち、ボディECU2及びAFS-ECU4は、共に車輌1のフロントランプを制御す
る機能を有しているため、この2つのECUを統合することが考えられる。
【0013】
図12は、ボディECU2及びAFS−ECU4を統合した場合のソフトウェア構成を示す模式図である。ボディECU2及びAFS−ECU4の機能を統合した統合ECU110は、リアルタイムOS11、通信モジュール21及び仮想バス15を有すると共に、ボディ制御AP32及びAFS制御AP34を有する構成である。換言すれば、統合ECU110は、ボディECU2にAFS制御AP34を追加した構成(又は、AFS−ECU4にボディ制御AP32を追加した構成)である。この構成であっても、ボディ制御AP32は10ms周期で動作し、AFS制御AP34は0.5ms周期で動作すればよいが、通信モジュール21はボディ制御AP32の通信処理及びAFS制御AP34の通信処理を行うため、0.5m周期で動作する必要がある。
【0014】
図13は、ECUの統合による通信モジュール21の処理の変化を説明するための模式図であり、(a)にボディECU2の通信モジュール21の処理を示し、(b)にAFS−ECU4の通信モジュール21の処理を示し、(c)に統合ECU110の通信モジュール21の処理を示してある。上述のように、ボディECU2の通信モジュール21は10ms周期で通信処理を行っており、AFS−ECU4の通信モジュール21は0.5ms周期で通信処理を行っている。ボディECU2及びAFS−ECU4を統合する場合、統合ECU110の通信モジュール21はボディ制御AP32に係る通信処理とAFS制御AP34に係る通信処理との両方を行うように変更される。よって統合ECU110の通信モジュール21を、AFS制御AP34の動作周期に合わせて0.5ms周期で動作させた場合、ボディ制御AP32に係る通信処理とAFS制御AP34に係る通信処理とが0.5ms周期で行われる。この場合、本来は10ms周期で行えばよいボディ制御AP32に係る通信処理が0.5ms周期で行われるため、統合ECU110の処理負荷が増大するという問題がある。
【0015】
また、統合ECU110の通信モジュール21は、ボディ制御AP32に係る通信処理とAFS制御AP34に係る通信処理とを常に0.5ms以内で完了させなければならないため、通信モジュール21の設計が容易でないという問題がある。また、例えばAFS制御AP34の処理にエラーが生じて通信モジュール21の処理が停止した場合には、ボディ制御AP32の処理が停止する可能性があり、統合ECU110の動作の信頼性が低下するという問題がある。
【0016】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、動作周期の異なる複数のアプリケーションプログラムを搭載する場合であっても、処理負荷の増大、設計の困難化、及び動作信頼性の低下等を生じることなく、各アプリケーションプログラムに係る通信処理を確実に行うことができる制御装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る制御装置は、一又は複数の被制御機器に対する制御処理をそれぞれ異なる周期で行う複数の制御処理手段と、外部装置との間で情報の送受信を行う通信手段と、前記複数の制御処理手段及び前記通信手段の間に介在し、前記通信手段によって送受信される情報を前記制御処理手段に対して授受する処理をそれぞれ異なる周期で行う複数の通信情報処理手段とを備え、前記制御処理手段は、制御処理の周期に応じた周期で処理を行う通信情報処理手段との間で、前記情報の授受をそれぞれ行うようにしてあることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る制御装置は、前記通信手段が受信した情報を記憶する記憶手段と、該記憶手段に記憶された情報を前記複数の通信情報処理手段に振り分ける受信情報振分手
段とを更に備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る制御装置は、前記通信手段が外部装置との間で送受信する情報には、情報の種別を示す識別子が付してあり、前記記憶手段は、前記識別子に応じたアドレスに情報を記憶するようにしてあり、前記受信情報振分手段は、前記通信情報処理手段と前記記憶手段のアドレスとの対応情報を有し、該対応情報に応じて情報の振り分けを行うようにしてあることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る制御装置は、前記通信手段が外部装置との間で送受信する情報には、情報の種別を示す識別子が付してあり、前記記憶手段は、前記識別子に応じたアドレスに情報を記憶するようにしてあり、前記受信情報振分手段は、前記識別子と前記記憶手段のアドレスとの対応情報を有し、該対応情報を前記通信情報処理手段へ与えるようにしてあることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る制御装置は、前記複数の制御処理手段には、車輌に搭載されたフロントライトの照射方向を走行方向に応じて調整する処理を行う制御処理手段と、該制御処理手段の動作周期よりより長い周期で動作し、使用者の操作に応じて車載機器を動作させる処理を行う制御処理手段とを含むことを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る制御装置は、前記複数の制御処理手段には、車輌に搭載されたエアバッグを動作させる処理を行う制御処理手段と、該制御処理手段の動作周期よりより長い周期で動作し、使用者の操作に応じて車載機器を動作させる処理を行う制御処理手段とを含むことを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る制御装置は、前記複数の制御処理手段には、車輌に搭載されたアンチロックブレーキシステムを動作させる処理を行う制御処理手段と、該制御処理手段の動作周期よりより長い周期で動作し、使用者の操作に応じて車載機器を動作させる処理を行う制御処理手段とを含むことを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係るコンピュータプログラムは、外部装置との間で情報の送受信を行う通信手段を有するコンピュータに、被制御機器の動作を制御させるコンピュータプログラムにおいて、前記コンピュータに、一又は複数の被制御機器に対する制御処理をそれぞれ異なる周期で行わせる複数の制御処理プログラムモジュールと、前記コンピュータに、前記通信手段によって送受信される情報を前記制御処理プログラムモジュールに対して授受する処理をそれぞれ異なる周期で行わせる通信情報処理プログラムモジュールとを含み、前記制御処理プログラムモジュールは、制御処理の周期に応じた周期で処理を行う通信情報処理プログラムモジュールとの間で、前記情報の授受を行うことを特徴とする。
【0025】
本発明においては、例えば車輌のフロントランプ、エアバッグ又はABS等のような被制御機器に対して、制御装置のアプリケーションプログラムなどの複数の制御処理手段(制御処理プログラムモジュール)がそれぞれ異なる周期で制御処理を行う。制御装置は、外部機器との間で情報の送受信を行うことができ、送受信に係る情報処理を行う通信情報処理手段(通信情報処理プログラムモジュール)を複数備える。複数の通信情報処理手段は通信に係る情報処理をそれぞれ異なる周期で行う。複数の制御処理手段は、例えば動作周期が同じ又は近い通信情報処理手段など、制御処理の周期に応じた周期の通信情報処理手段との間で情報の授受を行い、制御処理を行う。
これにより、各通信情報処理手段は、自らの処理周期に適した情報の送受信のみを行えばよいため、通信情報処理手段が不要な処理を行うことによる制御装置の負荷の増大を防止できる。また、例えば制御装置の統合により、制御装置に制御処理手段を追加した場合であっても、これに適した通信情報処理手段を追加することで対応できるため、制御装置
が以前から備える通信情報処理手段に変更を加える必要がなく、設計が容易である。また、エラーの発生によりいずれかの通信情報処理手段の処理が停止した場合であっても、その他の通信情報処理手段の処理は停止しないため、制御装置の全ての処理が停止することはなく、制御装置の動作の信頼性を高めることができる。
【0026】
また、本発明においては、外部装置から受信した情報を一時的に記憶する記憶手段(所謂、通信バッファ)を制御装置に設ける。記憶手段に記憶された情報はこの情報を必要とする通信情報処理手段へ受信情報振分手段により適宜に振り分けられ、振り分けられた情報は各通信情報処理手段から対応する制御処理手段へそれぞれ与えられる。
【0027】
また、本発明においては、外部装置との間で送受信する情報にはID(IDentifier)などの識別子を付し、識別子と記憶アドレスとを予め対応付けておく。外部装置から情報を受信した場合、制御装置は受信情報に対応付けられたアドレスを調べ、記憶手段の対応アドレスに受信情報を記憶する。また記憶手段のアドレスと通信情報処理手段とを予め対応付けておき、受信情報振分手段は、この対応情報に基づいて、記憶手段に記憶された情報を対応する通信情報処理手段に振り分ける。これにより、外部装置から受信した情報の各通信情報処理手段への振り分けを容易且つ確実に行うことができる。
【0028】
また、本発明においては、外部装置との間で送受信する情報には識別子を付し、識別子と記憶アドレスとを予め対応付けておく。外部装置から情報を受信した場合、制御装置は受信情報に対応付けられたアドレスを調べ、記憶手段の対応アドレスに受信情報を記憶する。また記憶手段のアドレスと通信情報処理手段とを予め対応付けておき、受信情報振分手段はこの対応情報を(即ち、受信情報の記憶されたアドレスを)通信情報処理手段へ与えることで振り分けを行い、各通信情報処理手段は与えられたアドレスに基づいて記憶手段から受信情報を取得する。これにより、外部装置から受信した情報の各通信情報処理手段への振り分けを容易且つ確実に行うことができる。
【0029】
また、本発明においては、車輌のフロントライトの照射方向を走行方向に応じて調整する機能(AFS)と、使用者の操作に応じてドア、ワイパー又はライト等の車載機器を動作させる機能とをそれぞれ異なる制御処理手段にて行う。AFSの処理を行う制御処理手段は、車輌の走行に伴って処理を行う必要があるため、高速処理を行わなければならず、これに対して使用者の操作に応じて車載機器を動作させる制御処理手段は低速処理でよい。この2つの制御処理手段を備える制御装置は、通信処理の周期が異なる2つの通信情報処理手段を備え、各制御処理手段の動作周期に応じた通信処理を各通信情報処理手段に行わせればよい。よって、本発明の制御装置が備える複数の制御処理手段として、AFSの処理を行う制御処理手段及び使用者の操作に応じて車載機器を動作させる制御処理手段は好適である。
【0030】
また、本発明においては、車輌のエアバッグを動作させる機能と、使用者の操作に応じてドア、ワイパー又はライト等の車載機器を動作させる機能とをそれぞれ異なる制御処理手段にて行う。エアバッグの動作処理は使用者の安全に係る処理であるため、この処理を行う制御処理手段は高速処理を行わなければならず、これに対して使用者の操作に応じて車載機器を動作させる制御処理手段は低速処理でよい。この2つの制御処理手段を備える制御装置は、通信処理の周期が異なる2つの通信情報処理手段を備え、各制御処理手段の動作周期に応じた通信処理を各通信情報処理手段に行わせればよい。よって、本発明の制御装置が備える複数の制御処理手段として、エアバッグの動作処理を行う制御処理手段及び使用者の操作に応じて車載機器を動作させる制御処理手段は好適である。
【0031】
また、本発明においては、車輌のブレーキ操作によるタイヤのロックを防止するアンチロックブレーキシステム(ABS)を動作させる機能と、使用者の操作に応じてドア、ワ
イパー又はライト等の車載機器を動作させる機能とをそれぞれ異なる制御処理手段にて行う。ABSの動作処理は使用者の安全に係る処理であるため、この処理を行う制御処理手段は高速処理を行わなければならず、これに対して使用者の操作に応じて車載機器を動作させる制御処理手段は低速処理でよい。この2つの制御処理手段を備える制御装置は、通信処理の周期が異なる2つの通信情報処理手段を備え、各制御処理手段の動作周期に応じた通信処理を各通信情報処理手段に行わせればよい。よって、本発明の制御装置が備える複数の制御処理手段として、ABSの動作処理を行う制御処理手段及び使用者の操作に応じて車載機器を動作させる制御処理手段は好適である。
【発明の効果】
【0032】
本発明による場合は、異なる周期で制御処理を行う複数の制御処理手段(制御処理プログラムモジュール)を備える場合に、通信処理の周期が異なる複数の通信情報処理手段(通信情報処理プログラムモジュール)を制御装置に備え、各制御処理手段が動作周期に応じた通信情報処理手段との間で情報の授受を行う構成とすることにより、通信情報処理手段が不要な処理を行うことによる処理負荷の増大を防止し、通信情報処理手段の設計を容易化でき、制御装置の動作の信頼性を高めることができる。よって、処理負荷の増大、設計の困難化、及び動作信頼性の低下等を生じることなく、異なる制御処理手段をそれぞれ有する複数の制御装置を統合して1つの制御装置とすることができ、多数の制御装置を搭載する車輌などにおいて制御装置及びこれらを接続するケーブルの配設スペースの不足を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る制御装置を搭載した車輌の一構成例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る制御装置のソフトウェア構成を示す模式図である。
【図4】統合ECUとその他のECUとの間で行われる通信処理を説明するための模式図である。
【図5】変形例1に係る統合ECUが行う受信データの振り分け処理を説明するための模式図である。
【図6】受信データ振り分けモジュールが有する対応情報の一例を示す模式図である。
【図7】変形例2に係る統合ECUが行う受信データの振り分け処理を説明するための模式図である。
【図8】受信データ振り分けモジュールが有する対応情報の一例を示す模式図である。
【図9】変形例3に係る統合ECUのソフトウェア構成を示す模式図である。
【図10】従来のECUを複数搭載した車輌の一構成例を示す模式図である。
【図11】車輌に搭載された従来のECUのソフトウェア構成を示す模式図である。
【図12】ボディECU及びAFS−ECUを統合した場合のソフトウェア構成を示す模式図である。
【図13】ECUの統合による通信モジュールの処理の変化を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。図1は、本発明に係る制御装置を搭載した車輌の一構成例を示す模式図である。図において1は車輌であり、車輌1にはメータECU3及びナビECU5等の複数のECUと、本発明に係る制御装置である統合ECU10とが搭載されている。車輌1に搭載されたこれらのECUは、通信ケーブル7を介して接続されており、CANなどのプロトコルによる通信を行って相互にデータの送受信を行うことができる。なお、統合ECU10は、図10に示したボデ
ィECU2及びAFS−ECU4の機能を統合したECUである。これにより本発明の構成では、図10に示した従来の構成と比較して、車輌1に搭載するECUの数を削減でき、複数のECUを接続する通信ケーブルを削減することができる。
【0035】
図2は、本発明に係る制御装置のハードウェア構成を示すブロック図であり、統合ECU10の構成を示してある。統合ECU10は、車輌1に搭載されたヘッドライト61、ヘッドライト用アクチュエータ62、ワイパー63及びドアロック機構64等の車載機器の制御を行うECUである。即ち、統合ECU10は、ユーザの操作を受け付けてヘッドライト61の点灯/消灯を制御し、ワイパー63のオン/オフを制御し、ドアロック機構64の施錠/解錠を制御するボディECUの機能と、舵角に応じてヘッドライト用アクチュエータ62を駆動し、ヘッドライト61の照射方向を調整するAFS−ECUの機能とを兼ね備えるものである。
【0036】
統合ECU10は、CPU(Central Processing Unit)51、RAM(Random Access
Memory)52、ROM(Read Only Memory)53、通信部54及び入出力I/F(インタフェース)部55等を備えて構成されている。上記のヘッドライト61〜ドアロック機構64等の車載機器は統合ECU10の入出力I/F部55にケーブルなどを介して接続されている。入出力I/F部55は、これらの車載機器との間で信号の入出力を行うことができ、CPU51から与えられた動作命令などを各車載機器へ出力すると共に、各車載機器から入力された情報をCPU51へ与える。
【0037】
CPU51は、ROM53に予め記憶された車載機器制御プログラム(コンピュータプログラム)90を読み出して実行することにより、入出力I/F部55に接続された車載機器の制御処理を行う。またCPU51は、制御処理を行う過程の演算などにて発生した一時的なデータをRAM52に記憶しながら処理を進める。ROM53は、例えばマスクROM又はEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)等の不揮発性のメモリ素子で構成され、車載機器制御プログラム90及びこのプログラムの実行に必要なデータ(図示は省略する)等が予め記憶されている。RAM52は、SRAM(Static RAM)又はDRAM(Dynamic RAM)等のメモリ素子で構成されており、CPU51の処理過程で発生する種々のデータを一時的に記憶する。
【0038】
通信部54は、車輌1に搭載されたメータECU3及びナビECU5等の他のECUに通信ケーブル7を介して接続されており、CANなどのプロトコルに従って他のECUとデータの送受信を行う。通信部54は、CPU51から与えられたデータを送信し、他のECUから受信したデータをCPU51へ与える。これにより統合ECU10は、他のECUに接続された車載機器から得られる情報を通信部54の通信によって取得することができると共に、他のECUに接続された車載機器への動作命令などを送信して制御することができる。なお、図2においては統合ECU10のみ詳細な構成を図示し、メータECU3及びナビECU5の詳細な構成は図示を省略するが、メータECU3及びナビECU5のハードウェア構成は統合ECU10と略同じであり、入出力I/F部55に接続される車載機器と、ROM53に記憶される車載機器制御プログラム90の処理内容とが異なる。
【0039】
図3は、本発明に係る制御装置のソフトウェア構成を示す模式図であり、統合ECU10のCPU51がROM53に記憶された車載機器制御プログラム90を実行した場合の構成を示してある。車載機器制御プログラム90を実行した統合ECU10は、リアルタイムOS11、仮想バス15、通信管理部16、ECU状態管理部17、通信モジュール21a及び21b、並びにボディ制御AP32及びAFS制御AP34等の複数のアプリケーションプログラムを含むアプリケーション層30等のソフトウェアによる複数の機能ブロック(プログラムモジュール)を備えて構成される。
【0040】
リアルタイムOS11は、統合ECU10のハードウェア資源の管理処理及びプログラム実行のスケジュールの管理処理等の処理を行うプログラムであり、特にスケジュールの管理処理において、一定時間以内でのプログラムの起動を保証することによって、プログラムのリアルタイム処理を実現する機能を有している。統合ECU10の車載機器制御プログラム90に含まれるプログラム(プログラムモジュール)は、リアルタイムOS11によりその実行スケジュールが管理されている。またハードウェア資源の管理処理において、リアルタイムOS11は、RAM52へのデータ記憶/読み出し、通信部54を介したデータの送受信、及び入出力I/F部55を介した車載機器との情報授受等の実行中のプログラムによる統合ECU10のハードウェア資源の使用の可否及び制限等を行っている。
【0041】
通信管理部16及びECU状態管理部17は、共に統合ECU10の動作状態の切替に係る管理処理を行うものである。統合ECUは、例えばスリープモード又はスタンバイモード等の低消費電力状態と、通常の動作状態とを切り替えることができる。通信管理部16は、通信モジュール21a又は21bにて通信処理が行われている場合には、統合ECU10が低消費電力状態へ切り替わることを禁止する。同様に、ECU状態管理部17は、アプリケーション層30のプログラムが処理を行っている場合には、統合ECU10が低消費電力状態へ切り替わることを禁止する。
【0042】
通信モジュール21a及び21bは、統合ECU10とメータECU3及びナビECU5等の他のECUとの通信に係る処理を行うプログラムモジュールである。通信モジュール21a及び21bは、送信に係る処理を行う送信部22、受信に係る処理を行う受信部23及び送受信に係るデータを記憶する記憶部24をそれぞれ有している。通信モジュール21a及び21bは、例えばリアルタイムOS11の異なるタスクとして実現されたものであり、それぞれ異なる周期で通信処理を行うことができる。更に送信部22及び受信部23は、送信処理及び受信処理をそれぞれ異なる周期で行うことができる。記憶部24は、統合ECU10のRAM52の一部分を用いて実現されるものである。
【0043】
統合ECU10の通信部54にて受信した他のECUからのデータは、このデータを必要とする通信モジュール21a及び21bの記憶部24へ、通信部54又はリアルタイムOS11によって記憶される。通信モジュール21a及び21bの受信部23は、記憶部24に記憶された受信データを仮想バス15に与え、その後にこの受信データを必要とするアプリケーション層30のプログラムが仮想バス15から受信データを取得することによって、通信モジュール21a及び21bとアプリケーション層30のプログラムとの間の受信データの授受が行われる。
【0044】
またデータの送信を行う場合、アプリケーション層30のプログラムは仮想バス15に送信データを与え、その後に対応するいずれかの通信モジュール21a及び21bが仮想バス15から送信データを取得し、記憶部24に送信データを記憶する。送信データを取得した通信モジュール21a及び21bは、適宜のタイミングで記憶部24に記憶した送信データをリアルタイムOS又は通信部54へ与え、他のECUへの送信を行う。
【0045】
仮想バス15は、ボディ制御AP32及びAFS制御AP34等のアプリケーション層30のプログラムと、通信モジュール21a及び21b等のその他のプログラムとの間に介在し、これらのプログラム間でデータの授受を行うための一時的なデータ記憶領域であり、統合ECU10のRAM52を用いて実現されるものである。
【0046】
アプリケーション層30は、複数のアプリケーションプログラムを含んで構成されており、本実施の形態においてはボディ制御AP32及びAFS制御AP34を含んでいる。
ボディ制御AP32は、ヘッドライト61、ワイパー63及びドアロック機構64等の車輌1の車体に搭載される車載機器の制御処理を行うアプリケーションプログラムである。ボディ制御AP32は、車輌1の運転席近傍の適所に配されたスイッチなどに対するユーザの操作情報を、通信部54の通信により他のECUから又は入出力I/F部55により操作装置から取得し、ユーザの操作に応じて車載機器の制御処理を行う。例えばボディ制御AP32は、ヘッドライト61をオン/オフするスイッチに対するユーザの操作に応じてヘッドライト61の点灯/消灯を制御し、ワイパー63をオン/オフするスイッチに対するユーザの操作に応じてワイパー63を動作させると共に、ワイパー63の動作速度を制御し、ユーザが所持する携帯型の通信器からの無線信号に応じてドアロック機構64を動作させて車輌1のドアの施錠/解錠を制御する処理を行う。
【0047】
AFS制御AP34は、車輌1に搭載された舵角センサが検出する舵角情報を有するECUから、また、車輌1の走行位置に係る情報をナビECU5から、通信部54の通信によりそれぞれ取得し、取得したこれらの情報に応じて車輌1のヘッドライト用アクチュエータ62を動作させて、ヘッドライト61の照射方向を車輌1の走行方向に合わせて調整する制御処理を行う。
【0048】
図4は、統合ECU10とその他のECUとの間で行われる通信処理を説明するための模式図である。統合ECU10のボディ制御AP32は、ユーザのスイッチ操作などに応じて車載機器の動作を行うものであるため高速処理の必要はなく、例えば10ms周期でリアルタイムOS11によって起動され、車載機器の制御処理を行う。これに対して、統合ECU10のAFS制御AP34は、車輌1の走行に伴ってヘッドライト61の調整を行うものであるため高速処理を行う必要があり、例えば0.5ms周期でリアルタイムOS11に起動され、ヘッドライト61の調整を行う。
【0049】
統合ECU10に通信線7を介して接続されたメータECU3は20ms周期でデータの送信を行っており、統合ECU10は通信モジュール21aにてメータECU3から送信されたデータの受信処理を行う。通信モジュール21aは、10ms周期でリアルタイムOS11によって起動され、10ms周期でメータECU3からのデータの受信処理を行い、受信したデータを仮想バス15へ与える。ボディ制御AP32は、10ms周期で動作して仮想バス15から受信データを取得し、このデータに基づいて制御処理を行う。即ち、10ms周期で動作するボディ制御AP32は、10ms周期でメータECU3からのデータの受信処理を行う通信モジュール21aとの間でデータの授受を行っている。
【0050】
また、統合ECU10に通信線7を介して接続されたナビECU5は0.5ms周期でデータの送信を行っており、統合ECU10は通信モジュール21bにてナビECU5から送信されたデータの受信処理を行う。通信モジュール21bは、0.5ms周期でリアルタイムOS11によって起動され、0.5ms周期でナビECU5からのデータの受信処理を行い、受信したデータを仮想バス15へ与える。AFS制御AP34は、0.5m周期で動作して仮想バス15から受信データを取得し、このデータに基づいて制御処理を行う。即ち、0.5ms周期で動作するAFS制御AP34は、0.5ms周期でナビECU5からのデータの受信処理を行う通信モジュール21bとの間でデータの授受を行っている。
【0051】
このように、統合ECU10のアプリケーション層30に含まれるボディ制御AP32及びAFS制御AP34等のアプリケーションプログラムは、リアルタイムOS11により異なる周期で起動されて制御処理を行っており、統合ECU10に複数設けられた通信モジュール21a及び21bもまたリアルタイムOS11により異なる周期で起動されて通信処理を行っている。アプリケーション層30の各アプリケーションプログラムがいずれの通信モジュール21a及び21bを利用して通信を行うかは、その動作周期に応じて
(周期が一致するもの又は周期が近いもの等に)予め定められている。
【0052】
また、メータECU3及びナビECU5等の他のECUから送信されたデータは、ハードウェアとしては統合ECU10の通信部54にて受信される。通信線7を介して接続された各ECUは、データの送信を行う際に、データの種別に応じたIDを付して送信を行っており、統合ECU10の通信部54(又は、通信部54の動作を制御するリアルタイムOS11若しくはその他のプログラム等)は、受信したデータに付されたIDに応じて複数の通信モジュール21a及び21bに対するデータの振り分けを行う。通信部54は、データに付されるIDと通信モジュール21a及び21bとの対応情報を有しており、受信したデータのIDを調べて対応する通信モジュール21a又は21bを選択し、選択した通信モジュール21a又は21bの記憶部24にデータを記憶する。
【0053】
なお、統合ECU10から他のECUへのデータ送信についても同様であり、10ms周期で動作するボディ制御AP32は10ms周期で送信処理を行う通信モジュール21aを介して他のECUへデータの送信を行い、0.5ms周期で動作するAFS制御AP34は0.5ms周期で送信処理を行う通信モジュール21bを介して他のECUへデータの送信を行う。
【0054】
以上の構成の統合ECU10(制御装置)及び車載機器制御プログラム90(コンピュータプログラム)は、アプリケーション層30に含まれるボディ制御AP32及びAFS制御AP34等の複数のアプリケーションプログラム(制御処理手段、制御処理プログラムモジュール)がそれぞれ異なる周期で制御処理を行う場合に、通信処理をそれぞれ異なる周期で行う複数の通信モジュール21a及び21b(通信情報処理手段、通信情報処理プログラムモジュール)を備えて、各アプリケーションプログラムが制御処理の周期に応じた通信周期の通信モジュール21a及び21bとの間でデータの授受を行い、他のECUとの通信を行う構成である。これにより、各通信モジュール21a及び21bは、自らの処理周期に適したデータの送受信のみを行えばよく、統合ECU10のCPU51の処理負荷を増大させることがない。また、統合ECU10に異なる周期で動作する新たなアプリケーションプログラムを追加した場合には、この動作周期に対応する新たな通信モジュールを追加することで対応できるため、統合ECU10が以前から備える通信モジュール21a及び21bを修正又は変更等する必要がなく、統合ECU10の設計が容易化できる。また、例えばいずれかのアプリケーションプログラムが原因のエラーにより対応する通信モジュールの処理が停止した場合であっても、他の通信モジュールの処理は停止せず、他のアプリケーションプログラムの処理は停止しないため、統合ECU10の全ての処理が停止することがなく、統合ECU10の動作の信頼性を高めることができる。
【0055】
また、リアルタイムOS11としてリソースの保護機能を有する者を統合ECU10に搭載した場合には、通信モジュール21a及び21bをリアルタイムOS11のタスクとして実現することによって、リアルタイムOS11の保護機能を利用することが可能となり、これにより各タスクによるリソースへのアクセスが保護されるため、通信モジュール21a及び21bの独立性及び信頼性等を確保でき、これを用いて通信を行うアプリケーションプログラムの独立性及び信頼性等を確保できる。
【0056】
なお、本実施の形態においては、車輌1に搭載されるECUを例に本発明の制御装置及びコンピュータプログラムの説明を行ったが、これに限るものではなく、例えばロボットに搭載される制御装置に同様の構成を適用してもよく、その他の機器に搭載される制御装置に同様の構成を適用してもよい。本発明の制御装置及びコンピュータプログラムは、リアルタイム性を要求される制御装置に好適である。
【0057】
また、ボディ制御AP32及びAFS制御AP34、並びに通信モジュール21a及び
21bの動作周期は一例であって、これに限るものではない。同様に、メータECU3及びナビECU5の通信周期は一例であって、これに限るものではない。また、統合ECU10が通信管理部16及びECU状態管理部17を備える構成としたが、これに限るものではなく、通信管理部16及びECU状態管理部17を備えない構成であってもよい。また、統合ECU10は2つの通信モジュール21a及び21bを備える構成としたが、これに限るものではなく、3つ以上の通信モジュールを備える構成であってもよい。
【0058】
また、統合ECU10は、受信データに付されたIDに応じて通信部54又はリアルタイムOS11等が受信データを通信モジュール21a又は21bに振り分ける構成としたが、これに限るものではなく、以下の変形例1、2に示す方法で受信データの振り分けを行ってもよく、更に他の方法で振り分けを行ってもよい。
【0059】
(変形例1)
図5は、変形例1に係る統合ECU10が行う受信データの振り分け処理を説明するための模式図であり、変形例1に係る統合ECU10のソフトウェア構成を示してある。変形例1に係る統合ECU10は、受信バッファ41及び受信データ振り分けモジュール42を備えている。受信バッファ41は、統合ECU10のRAM52の一部分を用いて実現されるものであり、他のECUから受信したデータを統合ECU10の通信部54又はリアルタイムOS11等が受信バッファ41に蓄積する。このとき、通信部54及びリアルタイムOS11は、受信データに付されたIDに応じて受信バッファ41への記憶先アドレスを決定する。
【0060】
受信データ振り分けモジュール42は、リアルタイムOS11により起動され、受信バッファ41に蓄積された受信データを通信モジュール21a又は21bへ振り分ける処理を行う。受信データ振り分けモジュール42は、受信バッファ41のアドレスと振り分け先の通信モジュール21a又は21bとの対応情報を予め記憶しており、この対応情報に従って振り分け処理を行う。図6は、受信データ振り分けモジュール42が有する対応情報の一例を示す模式図である。図示の対応情報では、受信バッファ41のアドレス”000000”、”00001F”又は”00111F”(16進数)が”通信モジュール21b”に対応付けられ、アドレス”00011F”が”通信モジュール21a”に対応付けられている。よって、受信データ振り分けモジュール42は、例えば受信バッファ41のアドレス000000から受信データを読み出して通信モジュール21bの記憶部24に記憶し、受信バッファ41のアドレス00011Fから受信データを読み出して通信モジュール21aの記憶部24に記憶することによって、受信データの振り分けを行う。なお、受信データ振り分けモジュール42の動作周期は、最も高速動作する通信モジュール21a及び21bと同じか又はそれ以上の高速動作となるように設定する。
【0061】
以上の構成の変形例1に係る統合ECU10は、他のECUからのデータを通信部54が受信して受信バッファ41に蓄積し、受信データ振り分けモジュール42が予め記憶した対応情報に基づいて受信バッファ41に蓄積された受信データを通信モジュール21a又は21bに振り分ける構成とすることによって、アプリケーションプログラムの追加によって通信モジュールが追加された場合には、受信データ振り分けモジュール42及び対応情報を変更するのみでよいため、統合ECU10の設計を容易化することができる。
【0062】
(変形例2)
図7は、変形例2に係る統合ECU10が行う受信データの振り分け処理を説明するための模式図であり、変形例2に係る統合ECU10のソフトウェア構成を示してある。変形例2に係る統合ECU10は、受信バッファ41及び受信データ振り分けモジュール43を備えている。受信バッファ41は、変形例1のものと同様であり、統合ECU10の通信部54又はリアルタイムOS11等が他のECUからの受信データを記憶する。この
とき、通信部54及びリアルタイムOS11は、受信データに付されたIDに応じて受信バッファ41への記憶先アドレスを決定する。
【0063】
変形例2の受信データ振り分けモジュール43は、受信バッファ41のアドレスと受信データに付されたIDとの対応情報を記憶している。図8は、受信データ振り分けモジュール43が有する対応情報の一例を示す模式図である。図示の対応情報では、受信バッファ41のアドレス”000000”が受信データのID”0”に対応付けられ、アドレス”00001F”がID”1”に対応付けられ、アドレス”00011F”がID”2”に対応付けられ、アドレス”00111F”がID”3”に対応付けられている。
【0064】
受信データ振り分けモジュール43は、通信モジュール21a及び21bからの問い合わせに対して記憶した対応情報を与える。例えば通信モジュール21aがID”0”が付されたデータの受信処理を行う場合、通信モジュール21aはID”0”に対応する受信バッファ41のアドレスを受信データ振り分けモジュール43に問い合わせることで取得し、このアドレスに記憶された受信データを受信バッファ41から取得する。よって変形例2の受信データ振り分けモジュール43は、受信バッファ41に蓄積された受信データを通信モジュール21a及び21bへ直接的に振り分けるのではなく、受信データの記憶先を通信モジュール21a及び21bへ通知することで間接的に受信データの振り分けを行うことができる。
【0065】
以上の構成の変形例2に係る統合ECU10は、他のECUからのデータを通信部54が受信して受信バッファ41に蓄積し、受信データ振り分けモジュール43が記憶した対応情報に基づいて受信バッファ41に蓄積された受信データの記憶先アドレスを通信モジュール21a又は21bへ通知して受信データの振り分けを行う構成とすることによって、アプリケーションプログラムの追加によって通信モジュールが追加された場合であっても、受信データ振り分けモジュール42及び対応情報を変更する必要はなく、統合ECU10の設計をより容易化することができる。なお、受信データ振り分けモジュール43は、図8に例示した対応情報の内容を動的に更新する構成であってもよい。
【0066】
(変形例3)
図9は、変形例3に係る統合ECU10のソフトウェア構成を示す模式図である。変形例3に係る統合ECU10は、アプリケーション層30にエアバッグ制御AP36及びABS制御AP37を更に含んだ構成である。即ち、統合ECU10は、エアバッグの制御を行うECUと、ABSの制御を行うECUとを更に統合した構成である。なお、本例においては、ボディ制御AP32は10ms周期で動作し、AFS制御AP34は2ms周期で動作し、エアバッグ制御AP36は1ms周期で動作し、ABS制御AP37は0.1ms周期で動作するものとする。
【0067】
エアバッグ制御AP36は、車輌1に加わる振動又は加速度等に応じてエアバッグを動作させる制御処理を行うものである。このため、エアバッグ制御AP36は、振動又は加速度等を検知するセンサの検知結果を他のECUから受信し、受信結果に応じたエアバッグの制御処理を行っている。またABS制御AP37は、車輌1の速度又は車輪の回転速度等に応じてブレーキの制御を行うものである。このため、ABS制御AP37は、車輌1の車速センサ又は車輪の回転速センサ等の検知結果を他のECUから受信し、受信結果に応じたブレーキの制御処理を行っている。
【0068】
また、変形例3に係る統合ECU10は、3つの通信モジュール21a〜21cを備えている。3つの通信モジュール21a〜21cはそれぞれ動作周期が異なり、本例においては、通信モジュール21aは10ms周期で動作し、通信モジュール21bは1ms周期で動作し、通信モジュール21cは0.1ms周期で動作するものとする。10ms周
期で動作するボディ制御AP32は、10ms周期で動作する通信モジュール21aとの間でデータの授受を行い、他のECUとの通信を行う。2ms周期で動作するAFS制御AP34及び1ms周期で動作するエアバッグ制御AP36は、1ms周期で動作する通信モジュール21bとの間でデータの授受を行い、他のECUとの通信を行う。0.1ms周期で動作するABS制御AP37は、0.1ms周期で動作する通信モジュール21cとの間でデータの授受を行い、他のECUとの通信を行う。
【0069】
このように、アプリケーション層30のアプリケーションプログラムと通信モジュール21a〜21cとは、一対一に対応する必要はなく、1つの通信モジュール21a〜21cが複数のアプリケーションプログラムとの間でデータの送受信を行う構成とすることができる。また、データの授受を行うアプリケーションプログラムと通信モジュール21a〜21cとは、その動作周期が同一である必要はなく、アプリケーションプログラムは動作周期が近い通信モジュール21a〜21cとの間でデータの授受を行う構成とすればよい。ただし、アプリケーションプログラムの動作周期よりデータの授受を行う通信モジュール21a〜21cの動作周期は短いことが望ましい。
【0070】
以上の構成の変形例3に係る統合ECU10は、ボディ制御AP32、AFS制御AP34、エアバッグ制御AP36及びABS制御AP37等の更に多くの異なる周期で動作するアプリケーションプログラムを有する場合であっても、各アプリケーションプログラムの動作周期に応じて、動作周期の異なる複数の通信モジュール21a〜21cを適宜に備える構成とすることにより、各通信モジュール21a〜21cは、自らの動作周期に適したデータの送受信処理のみを行えばよく、統合ECU10のCPU51の処理負荷を増大させることがない。
【0071】
なお、変形例3において統合ECU10はボディ制御AP32、AFS制御AP34、エアバッグ制御AP36及びABS制御AP37の4つのアプリケーションプログラムを備える構成としたが、これに限るものではなく、その他の制御を行うアプリケーションプログラムを備える構成であってよい。ただし、車輌1に搭載されるECUにおいては、ボディ制御AP32と、AFS制御AP34、エアバッグ制御AP36又はABS制御AP37の少なくとも1つとを備えるECUに本発明に係る制御装置の構成を適用することが好適である。これは、ユーザの操作に対して車載機器を動作させるボディ制御AP32は高速動作させる必要がなく、車輌1の走行又はユーザの安全に係る処理を行うAFS制御AP34、エアバッグ制御AP36及びABS制御AP37は高速動作させる必要があるため、共通の通信モジュールとした場合には、通信モジュールが不要な処理を行ってCPU51の処理負荷が増大するという問題が発生しやすいためである。
【0072】
また、変形例3の統合ECU10は3つの通信モジュール21a〜21cを備える構成としたが、これに限るものではなく、例えば2ms周期で動作する通信モジュールを更に備える構成とし、AFS制御AP34がこの通信モジュールとの間でデータの授受を行う構成とすることができる。また例えば、統合ECU10が2つの通信モジュール21a及び21cを備え、AFS制御AP34、エアバッグAP36及びABS制御AP37の3つのアプリケーションプログラムが、0.1ms周期で動作する通信モジュール21cとの間でデータの授受を行う構成としてもよい。ただし、アプリケーションプログラムの動作周期と通信モジュールの動作周期とが10倍程度異なる場合には、このアプリケーションプログラムの動作周期に適した通信モジュールを設けることが望ましい。
【符号の説明】
【0073】
1 車輌
2 ボディECU
3 メータECU
4 AFS−ECU
5 ナビECU
7 通信ケーブル
10 統合ECU(制御装置)
11 リアルタイムOS
15 仮想バス
21、21a〜21c 通信モジュール(通信情報処理手段、通信情報処理モジュール)
32 ボディ制御AP(制御処理手段、制御処理プログラムモジュール)
33 メータ制御AP(制御処理手段、制御処理プログラムモジュール)
34 AFS制御AP(制御処理手段、制御処理プログラムモジュール)
35 ナビ制御AP(制御処理手段、制御処理プログラムモジュール)
36 エアバッグ制御AP(制御処理手段、制御処理プログラムモジュール)
37 ABS制御AP(制御処理手段、制御処理プログラムモジュール)
41 受信バッファ(記憶手段)
42、43 受信データ振り分けモジュール(受信情報振分手段)
54 通信部(通信手段)
61 ヘッドライト(被制御機器)
62 ヘッドライト用アクチュエータ(被制御機器)
63 ワイパー(被制御機器)
64 ドアロック機構(被制御機器)
90 車載機器制御プログラム(コンピュータプログラム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一又は複数の被制御機器に対する制御処理をそれぞれ異なる周期で行う複数の制御処理手段と、
外部装置との間で情報の送受信を行う通信手段と、
前記複数の制御処理手段及び前記通信手段の間に介在し、前記通信手段によって送受信される情報を前記制御処理手段に対して授受する処理をそれぞれ異なる周期で行う複数の通信情報処理手段と
を備え、
前記制御処理手段は、制御処理の周期に応じた周期で処理を行う通信情報処理手段との間で、前記情報の授受をそれぞれ行うようにしてあること
を特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記通信手段が受信した情報を記憶する記憶手段と、
該記憶手段に記憶された情報を前記複数の通信情報処理手段に振り分ける受信情報振分手段と
を更に備えること
を特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記通信手段が外部装置との間で送受信する情報には、情報の種別を示す識別子が付してあり、
前記記憶手段は、前記識別子に応じたアドレスに情報を記憶するようにしてあり、
前記受信情報振分手段は、前記通信情報処理手段と前記記憶手段のアドレスとの対応情報を有し、該対応情報に応じて情報の振り分けを行うようにしてあること
を特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記通信手段が外部装置との間で送受信する情報には、情報の種別を示す識別子が付してあり、
前記記憶手段は、前記識別子に応じたアドレスに情報を記憶するようにしてあり、
前記受信情報振分手段は、前記識別子と前記記憶手段のアドレスとの対応情報を有し、該対応情報を前記通信情報処理手段へ与えるようにしてあること
を特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記複数の制御処理手段には、
車輌に搭載されたフロントライトの照射方向を走行方向に応じて調整する処理を行う制御処理手段と、
該制御処理手段の動作周期よりより長い周期で動作し、使用者の操作に応じて車載機器を動作させる処理を行う制御処理手段と
を含むこと
を特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の制御装置。
【請求項6】
前記複数の制御処理手段には、
車輌に搭載されたエアバッグを動作させる処理を行う制御処理手段と、
該制御処理手段の動作周期よりより長い周期で動作し、使用者の操作に応じて車載機器を動作させる処理を行う制御処理手段と
を含むこと
を特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の制御装置。
【請求項7】
前記複数の制御処理手段には、
車輌に搭載されたアンチロックブレーキシステムを動作させる処理を行う制御処理手段
と、
該制御処理手段の動作周期よりより長い周期で動作し、使用者の操作に応じて車載機器を動作させる処理を行う制御処理手段と
を含むこと
を特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の制御装置。
【請求項8】
外部装置との間で情報の送受信を行う通信手段を有するコンピュータに、被制御機器の動作を制御させるコンピュータプログラムにおいて、
前記コンピュータに、一又は複数の被制御機器に対する制御処理をそれぞれ異なる周期で行わせる複数の制御処理プログラムモジュールと、
前記コンピュータに、前記通信手段によって送受信される情報を前記制御処理プログラムモジュールに対して授受する処理をそれぞれ異なる周期で行わせる通信情報処理プログラムモジュールと
を含み、
前記制御処理プログラムモジュールは、制御処理の周期に応じた周期で処理を行う通信情報処理プログラムモジュールとの間で、前記情報の授受を行うこと
を特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−274783(P2010−274783A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129429(P2009−129429)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】