説明

制振材料およびその製造方法

【課題】制振材料として求められる十分な貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)を有し、貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)の温度依存性が小さい制振材料を提供する。
【解決手段】シリコーンオイル、およびメジアン径が10μm以下の板状粒子及びメジアン径が10μmm以下である球状粒子を含む充填剤が制振材中に20重量%ないし50重量%有することを特徴とする制振材料。球状粒子はヒュームドシリカを含有することが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物、機械、車両、機器等の制振装置に用いることができる制振材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁等の構造物、機械、車両、機器等の使用に際して不可避的に発生する振動を低減するための制振装置に用いられる制振材料について、種々知られている。一般に、制振材料は、粘性的特性と弾性的特性を兼ね備えていることが必要とされており、ゴムや樹脂等の高分子材料も粘弾性特性を備えている。しかし、高分子材料の粘弾性特性は温度変化に応じて大きく変化する。(社)日本機械学会編の「振動のダンピング技術」にも記載されているように、高分子材料は、温度上昇に伴って高分子分子鎖が互いに動きやすくなり、変形に伴う抗力が低下するため、温度上昇に伴い高分子材料の弾性が低下する。従って、高分子材料においては、その貯蔵弾性率(G')や、減衰性を表す指標である変形時の歪みと応力の位相角とから得られる損失係数(tanδ)が温度依存性を有するようになる。そのため、高分子材料を制振材料として各種の制振装置に適用する場合、季節や昼夜、地理的移動等による使用環境の温度変化により粘弾性特性や損失係数(tanδ)が大きく変化し、所望の制振性能が得にくくなるという問題があった。
【0003】
特許文献1には、上記問題を解決するために、高分子材料を制振材料に用いた制振装置に発熱体を併設し、温度制御を行うことにより制振材料の粘弾性特性を一定に保つ技術が開示されている。特許文献2には、制振材料として、シリコーンオイルを用いた橋梁用制振装置が開示されている。特許文献3には、シリコーンオイルに、さらにポリメチルシルセスキオキサン粉末と未表面処理微粉末シリカとを混合した粘性流体を封入した弾性小型防振装置が開示されている。特許文献4には、ポリオルガノシロキサン(シリコーンオイル)とポリオルガノシルセスキオキサン粉末と炭酸カルシウムとからなる粘性流体が開示され、当該粘性流体は粘性流体封入ダンパーに用いられている。
【特許文献1】特開2002−295579号公報
【特許文献2】特開2005−320764号公報
【特許文献3】特開平10−281202号公報
【特許文献4】特開2000−80277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される制振装置は、電力や温度制御を必要とする発熱体が併設されているため、装置製造費用等の初期投資が高額となる上、電気代やメンテナンス等のランニングコストも高額となり、経済性に問題がある。
【0005】
特許文献2に開示される制振装置は、制振材料としてシリコーンオイルのみを用いており、粘弾性特性の温度依存性は小さくなるものの、貯蔵弾性率(G')を高くすることには限界があり、制振材料としての適用範囲が狭くなる。例えば、シリコーンオイルを橋梁等の重量構造物の制振装置へ適用する場合は、制振材料の設置厚さを非常に薄くしなければ、所要の剛性と減衰性が得られないため、制振装置の機械的加工精度や使用時の振動等を考慮すると、実用性に乏しくなるという問題がある。
【0006】
特許文献3,4に開示される粘性流体は、シリコーンオイルに充填剤が混合されているが、いずれの文献にも、本発明のように充填剤として板状粒子は用いることは開示されていない。例えば、充填剤として球状粒子のみを用いた場合、粘弾性特性の改善には限界があり、制振材料としての適用に限界がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、制振材料として求められる十分な貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)を有し、貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)の温度依存性が小さい制振材料を提供することにある。また、前記制振材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することができた本発明の制振材料とは、シリコーンオイル、および充填剤としてメジアン径が10μm以下の板状粒子を含有するところに特徴を有する。前記構成によれば、制振材料として求められる十分な貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)とを有し、貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)の温度依存性が小さい制振材料が得られるようになる。
【0009】
本発明の制振材料は、さらに、充填剤としてメジアン径が10μm以下の球状粒子を含有することが好ましい。充填剤として板状粒子と球状粒子とを併用することより、得られる制振材料の粘弾性特性がさらに改善する。
【0010】
本発明の制振材料は、制振材料中の充填剤の含有割合が20質量%〜65質量%の範囲であることが好ましい。充填剤の含有割合が前記範囲にあれば、貯蔵弾性率(G')を効果的に向上させることができ、充填剤をシリコーンオイル中に均質に分散させやすくなる。
【0011】
また、本発明の制振材料は、シリコーンオイルとメジアン径が10μm以下の板状粒子を含有する充填剤とを配合して配合物を得る工程、および前記配合物を自転公転式ミキサーにより混合する工程を有する製造方法により製造することが好ましい。このような製造方法を採用することにより、短時間で、均質な制振材料が得やすくなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の制振材料は、制振材料として求められる十分な貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)とを有し、貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)の温度依存性が小さい。また、本発明の製造方法によれば、前記制振材料を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の制振材料は、シリコーンオイル、および充填剤としてメジアン径が10μm以下の板状粒子を含有する。また、本発明の制振材料は、さらに充填剤としてメジアン径が10μm以下の球状粒子を含有してもよい。
【0014】
シリコーンオイルは、一般に、粘度、貯蔵弾性率(G')、損失係数(tanδ)等の温度変化が小さいという特性を有している。例えば、ジメチルシリコーンオイルは、−10℃〜70℃の範囲における粘度変化が5倍程度であり、粘度の温度依存性が小さい。また、シリコーンオイルは、例えばジメチルシリコーンオイルのガラス転移温度が−50℃以下であるように、一般にガラス転移温度が低く、通常の屋外環境や産業上の使用環境における寒冷条件下でも流動性が保持されるという特性を有している。さらに、シリコーンオイルは、例えばジメチルシリコーンオイルが150℃でも熱酸化に対する安定性を有し、通常の屋外環境や産業上の使用環境における高温条件下でも化学的に安定に存在するという特性を有している。そのため、シリコーンオイルは、広い温度範囲で利用可能であり、貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)の温度依存性が小さいという特性を有する点で、本発明の制振材料を得るのに好適に用いられる。
【0015】
本発明で用いられるシリコーンオイルとしては、従来公知のシリコーンオイルを用いることができ、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイル;アルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルキルアラルキル変性シリコーンオイル、アルキルポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、フルオロアルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、エポキシポリエーテル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル等のジメチルシリコーンオイルのメチル基の一部を各種有機基に変性した変性シリコーンオイル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。また、シリコーンオイルの構造は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。
【0016】
本発明で用いられるシリコーンオイルは、低温でも流動性を保持することが望ましく、また、広い温度範囲において粘度変化が小さいことが望ましい。このような観点から、前記例示したシリコーンオイルのうち、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルが好ましく用いられる。
【0017】
本発明で用いられるシリコーンオイルの貯蔵弾性率(G')(温度30℃、加振振動数30Hz)は、10kN/m2以上が好ましく、30kN/m2以上がより好ましく、50kN/m2以上がさらに好ましい。前記貯蔵弾性率(G')が10kN/m2以上であれば、本発明の制振材料の貯蔵弾性率(G')を高めやすくなり、その結果、制振材料の適用範囲が広がり、実用性が向上する。一方、シリコーンオイルの貯蔵弾性率(G')の上限は、シリコーンオイルの取り扱い性が十分確保される限り特に限定されず、例えば500kN/m2以下が好ましい。しかし、一般に高い貯蔵弾性率(G')を有するシリコーンオイルを入手することは難しく、市販のジメチルシリコーンオイルの中で最も貯蔵弾性率(G')が高い信越化学工業株式会社製のKF96H−100万csでも、貯蔵弾性率(G')は60kN/m2程度に過ぎない。従って、シリコーンオイル単独では、実用上十分な大きさの制振材料を得ることは難しい。
【0018】
そこで本発明では、シリコーンオイル単独の場合の前記課題を解決するために、シリコーンオイルに、充填剤としてメジアン径10μm以下の板状粒子を配合した。その結果、シリコーンオイルと充填剤との配合物は、貯蔵弾性率(G')が向上しつつ、損失係数(tanδ)が大きく低下せず、制振材料として好適に用いられ得ることが見出された。このような効果を発現させるには、充填剤として板状粒子を用いることが好ましく、特に充填剤として板状粒子と球状粒子とを併用することがより好ましい。
【0019】
充填剤として板状粒子を用いることが、制振材料の粘弾性特性の改善に有効な理由としては、板状粒子がその体積に比べて表面積が大きく、シリコーンオイルと板状粒子との接触面積が大きくなることが考えられる。一粒子当たり同じ体積を有する充填剤を用いた場合、接触面積が大きくなるほど、シリコーンオイルと充填剤との界面におけるエネルギー吸収量が増加する。従って、接触面積が大きい板状粒子を充填剤として用いた制振材料では、球状粒子を充填剤として用いた場合よりも、その損失係数(tanδ)が向上するものと考えられる。
【0020】
本発明の制振材料において、充填剤として用いられる板状粒子と球状粒子のメジアン径は、10μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましい。本発明の制振材料は、長時間静置しても充填剤の沈降が起こらないことが好ましいが、液体中の粒子の沈降速度は粒子径の2乗に比例し、粒子径が小さいほど粒子の沈降速度は大幅に低減するため、メジアン径が10μm以下であれば充填剤の沈降が起こりにくくなり、好適である。板状粒子と球状粒子のメジアン径の下限は特に定められるものではないが、充填剤の製造容易性や入手容易性を考慮すると、メジアン径の下限は0.04μmとすることが好ましい。
【0021】
板状粒子と球状粒子のメジアン径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製、LS 13 320型)により計測して得られた体積基準粒度分布(累積分布)の累積50%値(一般に、「d50」と称される)を意味する。
【0022】
本発明で充填剤として用いられる板状粒子は、形状が板状を有している限り、特に種類は限定されない。なお、板状とは、厳密に物質表面が平面により形成されることを意味するものではなく、例えば、表面が丸みを帯びていたり、表面に凹凸があってもよい。また、物質表面が平面により形成されていたとしても、相対する面が平行に位置していなくてもよく、各面の形状は四角形に限らず、例えば、三角形でも五角形以上の多角形であってもよい。すなわち、本発明で用いられる板状粒子は、粒子全体として見た場合に薄く広がった形状を有しているものであれば、特に限定されない。
【0023】
本発明で用いられる板状粒子は、接触面積ができるだけ大きくなるようにして粒子を内接させた直方体の最短辺の長さが、2番目に長い辺の長さの1/5以下であることが好ましい。なお、板状粒子の形状や長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)、または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより把握する。
【0024】
板状粒子としては、一般に層状物質として知られる物質を用いることができ、例えば、粘土鉱物;カネマイト、マカタイト、マガディアイト、ケニアイト等のポリケイ酸塩;ハイドロタルサイト、ハイドロカルマイト等の層状複水酸化物;グラファイト、黒リン等の単体;Mg(OH)2、Ca(OH)2、Mn(OH)2、Fe(OH)2等の2価金属水酸化物;CdI、MgBr2、AsI3、SrFCl等のハロゲン化金属;ギブサイト・アルミナ(α−アルミナ)、GaS、InSe等のIII−VI族化合物;PbO、Ge2Te3、SnO、SnS2、SnSe2等のIV-VI族化合物;MoS2、ZrS2、NiTe2、PtSe2等の遷移金属カルコゲナイト;窒化ホウ素等を用いることができる。前記粘土鉱物としては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト;バーミキュライト;金雲母、黒雲母、チンワルド雲母、白雲母、パラゴナイト、セラドナイト、海緑石等の雲母;クリントナイト、マーガライト等の脆雲母;クリノクロア、シャモサイト、ニマイト、ペナンタイト、スドーアイト、ドンバサイト等のクロライト(緑泥岩);スーライト;タルク;パイロフィライト;アンチゴライト、リザーダイト、クリソタイル、アメサイト、クロンステダイト、バーチェリン、グリーナライト等の蛇紋石;カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト等のカオリン等が挙げられる。これら例示した板状粒子は、天然物であってもよく、合成物であってもよい。また、日本板硝子株式会社製のマイクログラス・ガラスフレーク(登録商標)を用いることもできる。これらの板状粒子は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
前記例示した板状粒子のうち、合成物は、粒度分布の制御が容易な点で、天然物よりも好適に用いることができる。合成板状粒子としては、合成スメクタイト、合成雲母、合成アルミナ(α−アルミナ)等が市販されている。なかでも、合成スメクタイトは、非常に微小なものを入手することができる。そのような微小な板状粒子を充填剤として用いた場合、シリコーンオイルの流動性を維持しつつ、充填剤の充填率を高くすることが可能となるため、特に好適である。
【0026】
本発明で充填剤として用いられる球状粒子は、形状が略球状を有している限り特に種類は限定されない。球状粒子としては、例えば、シリカ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、金属粉末等の無機化合物であってもよい。また、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の架橋性単量体と、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル等の非架橋性単量体とを重合して得られるビニル系架橋樹脂;メラミン、ベンゾグアナミン等のアミノ化合物と、ホルムアルデヒドとを縮合重合して得られるアミノ系ホルマリン架橋樹脂で例示される各種樹脂等の有機化合物であってもよい。これらの球状粒子は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。充填剤として球状粒子を併用することにより、シリコーンオイルの貯蔵弾性率(G')を向上させやすくなる。
【0027】
前記例示した球状粒子の中でも、ハロゲン化ケイ素を気相酸化することによって得られるシリカであるヒュームドシリカは、非常に小さい粒子径を有する点で、好ましく用いられる。ヒュームドシリカは、工業規模で製造されているシリカの中では最も小さい粒子径を有しており、このような粒子径の小さい球状粒子を充填剤として用いれば、シリコーンオイルの流動性を維持しつつ、充填剤の充填率を高めることができる。さらに、ヒュームドシリカは、液体が静止している場合には、粒子間相互作用により網目状構造を形成するというチキソトロピー効果を発現するため、ヒュームドシリカをシリコーンオイルに配合した場合、ヒュームドシリカの沈降が極めて生じにくくなるとともに、制振材料の経時変化が起こりにくくなるという点で、特に好適に用いられる。
【0028】
制振材料中の前記充填剤の含有割合は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、また65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。充填剤の含有割合が20質量%以上であれば、制振材料の貯蔵弾性率(G')を効果的に向上させやすくなる。充填剤の含有割合が65質量%以下であれば、充填剤をシリコーンオイル中に均質に分散させやすくなる。
【0029】
板状粒子と球状粒子とを併用する場合、板状粒子と球状粒子の構成比率は、板状粒子/球状粒子(質量比)として、5/95以上が好ましく、8/92以上がより好ましく、また99/1以下が好ましい。板状粒子と球状粒子の構成比率が、板状粒子/球状粒子(質量比)として5/95〜99/1の範囲にあれば、得られる制振材料は、制振材料として好適な貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)を有するようになる。
【0030】
なお、本発明の制振材料がより高い貯蔵弾性率(G')を有するようにする場合は、板状粒子と球状粒子の構成比率は、板状粒子/球状粒子(質量比)として、30/70以上が好ましく、50/50以上がより好ましく、70/30以上がさらに好ましく、また95/5以下が好ましく、90/10以下がより好ましい。
【0031】
シリコーンオイル中への分散性や濡れ性を向上させるために、充填剤はシランカップリング処理等の各種表面処理が施されていてもよい。
【0032】
本発明の制振材料は、シリコーンオイルとメジアン径が10μm以下の板状粒子を含有する充填剤とを配合して、混合することにより得られる。シリコーンオイルと充填剤との混合方法は特に限定されない。しかし、高い貯蔵弾性率(G')を有する制振材料を得るためには、シリコーンオイルと充填剤との配合物は高い粘度を有することとなるため、例えばスクリュー型撹拌翼によりシリコーンオイルと充填剤との配合物を混合しようとしても短時間で均質な混合物を得ることは難しい。従って、シリコーンオイルと充填剤との配合物を混合する場合は、強力な剪断力を加えることが可能な自転公転式ミキサーや三本ロールミルにより混合することが好ましい。特に好ましいのは、材料を入れた円筒型容器を公転させながら自転させることにより、強力な遠心力のもと材料を混合することのできる自転公転式ミキサーである。自転公転式ミキサーを用いれば、撹拌翼や真空引きを適用することなく、混合と気泡除去を同時に短時間で行うことができる。自転公転式ミキサーとしては、倉敷紡績株式会社、松尾産業株式会社、株式会社シンキー、株式会社キーエンス等が製造または販売している装置を用いることができる。自転公転式ミキサーの運転条件に特に制限はなく、被混合物の性状に応じて、自転数、公転数、運転時間等の条件を適宜調整すればよい。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0034】
<制振材料の作製>
[製造例1]
動粘度(25℃)100万mm2/sを有するジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製、KF96H−100万cs)を組成物1とした。
【0035】
[製造例2]
ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製、KF96H−100万cs)75質量部と、板状粒子としてスメクタイト(コープケミカル株式会社製、スメクタイトSTN)25質量部とを配合し、自転公転式ミキサーであるハイブリッドミキサー(株式会社キーエンス製、HM−500)を使用して、目視観察で充填剤が均質に分散するまで混合し、組成物2を得た。
【0036】
[製造例3〜19]
ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製、KF96H−100万cs)と、表1〜表3に示した板状粒子(B−1〜B−3)と球状粒子(C−1〜C−6)とを、表2,3に示した配合量で配合した以外は、製造例2と同様にして組成物3〜19を得た。
【0037】
[製造例20]
酢酸ビニル21mol%、アクリル酸n−ブチル31mol%、および分岐脂肪酸ビニルエステル(シェル化学株式会社製、ベオバ10)48mol%の三元共重合体に、チキソ剤として脂肪族アマイドワックス(楠本化成株式会社製、ディスパロン#6900−20X)を樹脂組成物に対し1.0質量%加えて、酢酸ビニル系樹脂(D−1)を得て、これを組成物20とした。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
<分析および評価試験方法>
[板状粒子と球状粒子のメジアン径の測定]
100mLビーカーに被測定物(板状粒子または球状粒子)を適量取り、そこに水または0.2%アンモニア水を30mL加えて撹拌後、1分間ホモジナイザー(出力約200W)にかけて被測定物を分散させ、測定用試料とした。この試料を、10L/minの流速でレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製、LS 13 320型)に供給し、体積基準粒度分布を測定した。得られた体積基準粒度分布(累積分布)の累積50%値をメジアン径とした。被測定物を分散させる媒体は、コープケミカル株式会社製のスメクタイトSTNと日本アエロジル株式会社製のアエロジルR972を測定する場合に0.2%アンモニア水を用いた以外は、分散媒体として水を用いた。なお、スメクタイトSTNは、シリコーンオイルへの分散性を向上させるため粒子表面に官能基が導入されているが、スメクタイトSTN自身は0.2%アンモニア水への分散性が良好でないため、メジアン径の測定には、粒子表面に官能基が導入される前のスメクタイトを用いた。測定結果は表1に示した。
【0042】
[貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)の測定]
動的粘弾性測定装置(TA Instruments社製、ARES(登録商標))により、30℃と50℃における組成物1〜20の貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)を測定した。測定には、直径25mmのパラレルプレート型フィクスチャーを使用し、ギャップ2.0mm、加振振動数30Hz、測定温度20℃〜60℃の条件で測定を行った。測定結果は表2,3に示した。
【0043】
[充填剤の沈降性の測定]
組成物2〜19を各々ガラス瓶に入れ、室温で24時間静置したときの充填剤の沈降の有無を目視で確認した。測定結果は表2,3に示した。
【0044】
<評価試験結果>
本発明の制振材料は、制振材料として求められる十分な貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)とを兼備する点に特徴を有するため、組成物1〜20について、貯蔵弾性率(G')と損失係数の積を「制振指数」として算出し、それを性能評価の指標とした。さらに、各組成物の制振指数について、シリコーンオイル単独からなる組成物1の制振指数を基準とした比を算出し、それを「改善指数」として、各組成物を評価した。制振指数と改善指数は数値が大きい方が好適である。
【0045】
また、本発明の制振材料は、貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)の温度依存性が小さい点にも特徴を有するため、30℃と50℃における制振指数の比(30℃における制振指数/50℃における制振指数)を「温度指数」として算出し、それを各組成物の粘弾性特性の温度依存性に関する評価に用いた。温度指数は数値が1に近い方が好適である。
【0046】
組成物1は、シリコーンオイル単独であり、制振材料として求められる十分な貯蔵弾性率(G')を有していなかった。
【0047】
組成物2〜5は、シリコーンオイルに、充填剤としてメジアン径10μm以下の板状粒子が配合されている。いずれも、シリコーンオイルのみからなる組成物1と比較して、損失係数(tanδ)が低下することなく、貯蔵弾性率(G')が向上した。組成物2〜5は、改善指数が1.36〜3.58の範囲の値を示し、制振材料としての特性が改善された。組成物2〜5は、温度指数が0.86〜1.08と1近辺の値となり、優れた温度安定性を示した。
【0048】
組成物6〜14は、シリコーンオイルに、充填剤としてメジアン径10μm以下の板状粒子と球状粒子とが配合されている。いずれも、シリコーンオイルのみからなる組成物1と比較して、損失係数(tanδ)が顕著に低下することなく、貯蔵弾性率(G')が向上した。組成物6〜14は、改善指数が1.50〜4.95の範囲の値を示し、制振材料としての特性が改善された。組成物6〜14は、温度指数が0.86〜1.43と1近辺の値となり、優れた温度安定性を示した。
【0049】
組成物15〜19は、シリコーンオイルに、充填剤として球状粒子が配合されている。組成物15は、充填剤のメジアン径が21.5μmと大きかったため、室温で24時間静置した後、充填剤の沈降が生じた。組成物17は、充填剤の含有割合が70質量%と大きく、シリコーンオイル中に充填剤を均質に分散させることができなかった。従って、組成物15,17は、制振材料として好適に用いられないものと判断された。
【0050】
組成物16,18は、シリコーンオイルのみからなる組成物1と比較して損失係数(tanδ)が低下し、改善指数も0.92〜1.14と組成物2〜14の改善指数よりも小さい値となり、制振材料としての特性はほとんど改善されなかった。組成物19は、改善指数は大きい値を示したが、温度指数が0.46と1から大きく外れ、粘弾性特性の温度依存性が大きくなった。
【0051】
組成物20は、制振材料として、酢酸ビニル系樹脂を適用したものである。組成物20は、貯蔵弾性率(G')と損失係数(tanδ)の値が大きく、充填剤を配合しなくても優れた制振特性を有していたが、温度指数が5.24と1から大きく外れ、粘弾性特性の温度依存性が大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の制振材料は、構造物、機械、車両、機器等の制振装置に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンオイル、および充填剤としてメジアン径が10μm以下の板状粒子を含有することを特徴とする制振材料。
【請求項2】
さらに、充填剤としてメジアン径が10μm以下の球状粒子を含有する請求項1に記載の制振材料。
【請求項3】
制振材料中の前記充填剤の含有割合が20質量%〜65質量%の範囲である請求項1または2に記載の制振材料。
【請求項4】
前記球状粒子としてヒュームドシリカを含有する請求項2または3に記載の制振材料。
【請求項5】
シリコーンオイルとメジアン径が10μm以下の板状粒子を含有する充填剤とを配合して配合物を得る工程、および
前記配合物を自転公転式ミキサーにより混合する工程を有することを特徴とする制振材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−96933(P2009−96933A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271744(P2007−271744)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】