説明

制振構造

【課題】線状部材を利用して制振対象部位の振動を抑制する制振構造を提供する。
【解決手段】縒り線3と被覆4とからなる線状部材2を制振対象部位1に固定した制振構造において、前記線状部材2の一端が前記縒り線3と被覆4とを一体にして前記制振対象部位1に固定され、かつ他端は前記被覆4のみが前記制振対象部位1に固定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、線状部材を利用して制振対象部位の振動を抑制する制振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、制振対象物にケーブルやワイヤを取り付けて、制振対象物が振動する際のエネルギをケーブルやワイヤ等に吸収させることにより、制振対象物の振動を抑制あるいは減衰させる技術が提案されている。その一例として、水平中空断面部材の内部にチェーンまたはワイヤロープを中間に弛みをもたせた状態で両端固定状態に挿入し、この水平中空部材を照明柱などの水平部材に取り付けた発明が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されている制振床パネルによれば、水平中空部材が水平方向に振動するときにチェーンまたはワイヤロープが水平中空部材の内壁への衝突を繰り返すことにより、振動エネルギを散逸させ、水平部材の制振を行うとされている。
【0003】
また、特許文献2には、内部が中空となっている塔状構造物のその内部の上端にケーブルが固定され、ケーブルの下端は固定されておらず自由端となって宙吊りの状態になった発明が記載されている。この特許文献2に記載されている制振装置付き塔状構造物によれば、照明柱が振動した時にケーブルがテーパー部の内壁に衝突して振動を減衰させるとされている。
【0004】
そして、特許文献3には、制振対象構造物に紐状の弾性部材(ケーブル)を吊り下げた発明が記載されている。この特許文献3に記載されている構造物の制振装置によれば、弾性部材の固有振動数を制振対象構造物の固有振動数に設定して振動を抑制するとされている。
【0005】
さらに、特許文献4には、複数の弾性体は弧状に湾曲形成されるか、もしくは弾性材からなる複数の心線を縒り合わせて形成される。またはこの弾性体は弾性を有する金属、樹脂等からなり、断面形状は、円、管、多角形等の任意の形状より構成できる。さらに、硬度のある金属細線を縒り合わせてワイヤ状に形成したものを弾性体として用いることもでき、弾性体の変形時に金属細線が互いに擦れ合って振動エネルギーを吸収する発明が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−67877号公報
【特許文献2】特開2003−328590号公報
【特許文献3】特開2000−353880号公報
【特許文献4】特開平9−189341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の各特許文献に記載された発明を、例えば自動車のトランスミッション等に適用した場合、近接する他物品(回転体、高温部品、相対動きのある部品)との干渉が課題となる。ワイヤーまたはケーブルなどで形成される線状部材の一端を振動発生部位に固定して、他端を自由端とすると、例えば車両が激しく揺れた際にその他端である自由端が近接する他物品と干渉したり、あるいは他端が巻き込まれたりする可能性がある。
【0008】
そこで、線状部材の他端である自由端を他物品に干渉させるなどの問題から解決するために、その自由端である他端を固定するという方法も考えられる。このように線状部材の両端を固定すると線状部材の全体が突っ張ってその動きを妨げることとなってしまうので制振効果を損なうという問題があった。また、線状部材を曲げた状態でその両端を固定するという方法も考えられるが、線状部材全体の曲率が大きくなってしまい、その動きを妨げることとなってしまうので制振効果を損なうという問題があった。
【0009】
この発明は、上記の事情を背景にしてなされたものであり、線状部材を利用して制振対象部位の振動を抑制する制振構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、縒り線と被覆とからなる線状部材を制振対象部位に固定した制振構造において、前記線状部材の一端が前記縒り線と被覆とを一体にして前記制振対象部位に固定され、かつ他端は前記被覆のみが前記制振対象部位に固定されていることを特徴とする制振構造である。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記被覆は、前記縒り線より長くなるように前記他端側に引き延ばされて、かつ引き延ばされた状態で前記制振対象部位に固定されていることを特徴とする制振構造である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記被覆の前記一端側には、半径方向で外側に突出した突起部が形成され、その突起部に前記線状部材における少なくとも長手方向で係合する取付け部材が、前記線状部材の一端に圧着され、前記線状部材の一端はその取付け部材を介して前記制振対象部位に固定されていることを特徴とする制振構造である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、縒り線と被覆とからなる線状部材を制振対象部位に固定した制振構造において、前記線状部材の一端が前記縒り線と被覆とを一体にして前記制振対象部位に固定されているので、制振対象部位からの振動を吸収して制振効果が得られる。そして、他端は前記被覆のみで前記制振対象部位に固定されているので、他物品への干渉がなく、また巻き込みや他物品が破損するということがない。
【0014】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明による効果に加えて、被覆は、前記縒り線より長くなるように前記他端側に引き延ばされて、かつ引き延ばされた状態で前記制振対象部位に固定されているので、縒り線により大きな摩擦力が加わる。
【0015】
さらに、請求項3の発明によれば、請求項1または請求項2の発明による効果に加えて、被覆の一端側には、半径方向で外側に突出した突起部が形成される。その突起部に線状部材における少なくとも長手方向で係合する取付け部材が、その突起部には小さな力で、その前後では大きな力で取付けられているので取付け部材の抜け止めを部品を増やさずに簡単な構造でできる。しかも簡単に取り付けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明を実施した最良の形態について説明する。図1は、この発明に係る制振構造の実施例を模式的に示し、線状部材の長手方向に沿った断面図である。図1において、符号1はこの発明における制振対象部位であって、ここでは、たとえば車両に搭載されるトランスミッションケースのリヤカバーの一部を制振対象部位1とした構成の例を示している。
【0017】
図1において、制振対象部位1に線状部材2が取り付けられている。この線状部材2は縒り線3と被覆4とから形成されるワイヤやケーブル等である。制振対象部位1に縒り線3と被覆4とからなる線状部材2の一端が取付け部材5(圧着端子等)によって取り付けられている。縒り線3は可とう性もしくは可塑性を備えた多数の素線(線材)が束ね合わせられ、もしくは縒り合わせられることで、それら多数の素線が互いに接触して相対変位可能なように保持されている。被覆4は縒り線3より柔軟性の高い材料、例えばビニールやポリエチレン等の樹脂等で形成されている。
【0018】
そして、線状部材2の内部に被覆4に対して縒り線3を短く構成したので、被覆4のみの部位6が形成されている。
【0019】
このように、制振対象部位1に固定される線状部材2の一端に制振対象部位1からの振動が発生した場合には、この一端から振動が線状部材2に伝えられ、被覆4の内側にある縒り線3同士が相対変位することになる。前述したように、この縒り線3は多数の素線が束ねられ、もしくは縒り合わせられていて、互いに接触した状態で保持されている。そのため、線状部材2に曲げモーメントが作用して変形が生じると、その線状部材2の内部で素線同士が相対変位し、その際の振動が摩擦力に変換されることによって制振対象部位1の振動が抑制される。
【0020】
このとき、線状部材2に曲げモーメントが作用する際に線状部材2の他端である被覆4のみの部位6が自由端ではなく取付け部材5によって制振対象部位1に固定されているので、他の物品や部材等との干渉を未然に防ぐことができる。
【0021】
図2(a)、(b)は、この発明にかかる線状部材の取り付け状態を示す模式的な断面図である。線状部材2に取付け部材5が取り付けられた状態でその全体の長さをL1とする。そして線状部材2の取り付け座面7間の長さをL2とする。このときのL1とL2との長さの関係は、式に表すとL1<L2となる。つまり、線状部材2の全体の長さL1より取り付け座面7間の長さL2の方が長く設定されている。この長さの関係で線状部材2を取り付け座面7に取り付けると同図(b)に示すように被覆4がその長手方向aに引き延ばされた状態で固定されることになる。このとき被覆4の径方向には圧縮する力bが働くので縒り線3の摩擦力が増加する。そして、このときの被覆4の引き延ばされるイメージを図3で示すと、被覆4がその長手方向に引き延ばされる前はその径8がある程度の大きさを保っているが、引き延ばされた後には長手方向に長さが伸びて、その径8は引き延ばされる前よりは小さい径9となる。つまり径方向に圧縮される。
【0022】
図4は、被覆のみの部位の抜け止め部を示す模式図である。被覆4のみの部位6はその内部が中空となっている。その中空の筒状の被覆4を取付け部材5に取り付けるには、例えばピンやボルト等で抜け止め部10を設定することによって、線状部材2の強い引き延ばしの状態での固定が可能となる。
【0023】
図5(a)〜(c)は、線状部材の一端を模式的に示した断面図である。被覆4は、長手方向に円筒形状をしている。そして被覆4の一端側には、断面形状が円形をなしており、その円形の半径方向で外側に突出した全周に亘って外向きフランジ形状の突起部11が形成される。その突起部11に線状部材2における少なくとも長手方向で係合する取付け部材5が、線状部材2の一端に圧着される。そして、その線状部材2の一端はその取付け部材5を介して図示しない前記制振対象部位1に固定されている同図(a)。突起部11に取付け部材5を取り付ける際には圧着により取り付けると複雑な構造や部品を増やすことなく簡単な構造で取り付けることができる。この圧着時には突起部11には小さな圧着力12で、その突起部11以外の他の部分つまり突起部11の前後する部分に取付け部材5を取り付ける際には大きな圧着力13で取り付けるようにした同図(b)。これにより、取り付け工程が増えたりすることなく縒り線3と取付け部材5との密着性が損なわれずに取り付けられる。この突起部11が、もし無い場合には同図(c)に示すように、縒り線3と被覆4で形成される一端部のその被覆4の自然なふくらみが縒り線3を覆うため、一様な力14で圧着すると取付け部材5による圧着が充分ではなくむしろ妨げられるようになり、図示しない制振対象部位からの振動が縒り線3に充分伝わらず振動伝達の低下や被覆4による縒り線3の押しつけ力低下によって制振効果が損なわれる。
【0024】
なお、この発明は上記の具体例で示した構成に限定されないのであって、具体例では、この発明における制振対象部位を、例えばトランスミッションケースのリヤカバーを対象とした例を示しているが、上記のように構成されたこの発明の制振構造を、制振対象部位・箇所に適用することのできる全ての部材・部品、構造物等を制振対象物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明に係る実施例の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】(a)、(b)は、この発明に係る線状部材の取り付けを示す模式的な断面図である。
【図3】被覆の引き延ばされるイメージを模式的に示した断面図である。
【図4】被覆のみの一端部の抜け止め部を示す模式図である。
【図5】(a)〜(c)は線状部材の一端を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1…制振対象部位、 2…線状部材、 3…縒り線、 4…被覆、 5…取付け部材、 6…被覆のみの部位、 7…取り付け座面、 8…径、 9…小さな径、 10…抜け止め部、 11…突起部、 12…小さな圧着力、 13…大きな圧着力、 14…一様な力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縒り線と被覆とからなる線状部材を制振対象部位に固定した制振構造において、
前記線状部材の一端が前記縒り線と被覆とを一体にして前記制振対象部位に固定され、かつ他端は前記被覆のみが前記制振対象部位に固定されていることを特徴とする制振構造。
【請求項2】
前記被覆は、前記縒り線より長くなるように前記他端側に引き延ばされて、かつ引き延ばされた状態で前記制振対象部位に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
前記被覆の前記一端側には、半径方向で外側に突出した突起部が形成され、その突起部に前記線状部材における少なくとも長手方向で係合する取付け部材が、前記線状部材の一端に圧着され、前記線状部材の一端はその取付け部材を介して前記制振対象部位に固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の制振構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−304028(P2008−304028A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153993(P2007−153993)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】