説明

制汗性能の評価方法

【課題】被検体の制汗性能を客観的かつ定量的に測定する方法の提供。
【解決手段】ヒトの体表に被検体を適用し、被検体の適用部位において、下記式(1)で表される物質又はその誘導体を定量する、被検体の制汗性能の評価方法。


〔式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数1乃至5のアルキル基を示し、R3は水素原子又はメチル基を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制汗剤の制汗性能の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エチケット意識の高まりに伴い、汗や体臭を気にする人が増えている。汗はほぼ全身の各部から分泌されるが、その中でも、腋窩部(腋の下)の汗は匂いやすく、腋窩部のニオイ(以下、腋臭とも呼ぶ)は本人又はそばに居る人に感知されやすい。そのため、腋窩部における発汗と腋臭を気にする人が多い。
【0003】
腋臭は、酸っぱくて蒸れたニオイと、腋窩部に特有のニオイとからなる。酸っぱくて蒸れたニオイは、エクリン汗腺から分泌されたエクリン汗や垢などが皮膚常在菌によって分解されて発生する。このニオイは、主に炭素数2〜5の低級カルボン酸に起因するものであり、低級脂肪酸臭、又は単に酸臭と呼ばれる。腋窩部特有のニオイは、アポクリン汗腺から分泌された、たんぱく質やコレステロールを豊富に含むアポクリン汗が皮膚常在菌によって分解されて発生し、アポクリン臭、又は「腋が」などと呼ばれている(以下、アポクリン臭とも呼ぶ)。
【0004】
特に、アポクリン臭は、その原因となるアポクリン汗の発汗量に比例して強くなり、また、全身的な体臭へ与える影響が大きいことから、汗や体臭を気にする人にとっては、自己の腋窩部においてアポクリン汗がどの程度発汗されているのかということが重要な関心事である。
【0005】
アポクリン汗の抑制を考える場合、社会生活に支障をきたすほどの発汗が見られる場合(医学的には多汗症と呼ばれる)には、専門の医療機関においてアポクリン汗腺を除去する外科的療法が選ばれる場合があるが、多くの場合は、市販されている各種のいわゆる制汗剤を使用することで、発汗量の低減を試みようと考える。従って、汗や体臭を気にする人にとっては、制汗剤の使用が効果を上げているのかということが重要な関心事である。
【0006】
従来、汗がどの程度出ているかを知る方法としては、例えば、汗を色づけする方法がある。具体的にはヨードの無水アルコール溶液をヒマシ油(又はグリセリン)とよく混ぜて皮膚に一様に塗り、アルコールが蒸発するのを待って、その上からでん粉をむらなく振り掛け、汗が出て濡れてくると、いわゆるヨード・でん粉反応が起こって紫色になるのを観察する方法である。
【0007】
この方法は、汗の水分を利用した方法であるが、通常アポクリン汗よりもエクリン汗の方が多量に分泌されるので、主にエクリン汗中の水分に反応する。従って、腋臭の主要原因となるアポクリン汗を直接観察しているわけではなく、制汗剤の使用によってアポクリン汗の発汗がどの程度低減されたのかを正確に知ることは困難であった。
【0008】
従って、例えば、制汗剤を研究開発している研究者からは、より効果の高い制汗剤の開発を目指す過程や、制汗剤の効果、すなわち、被験体の制汗性能を消費者等に説明又はアピールする場面において、客観的かつ正確な定量データに基づいて説明することができる評価手法の開発が期待されていた。
【0009】
ところで、本発明者らは、ヒトの腋窩部に存在するニオイ物質に関する研究により、アポクリン臭の主要原因物質が、3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オール、3-メルカプトヘキサン-1-オール、3-メルカプトペンタン-1-オール、3-メルカプト-2-メチルブタン-1-オール、3-メルカプト-2-メチルペンタン-1-オールに代表される、3位にチオール基を有するアルコール化合物(以下、これらの化合物を3-メルカプトアルコール化合物ともいう)であることを発見した(非特許文献1)。
【0010】
また、本発明者らは、3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オールは、前記の他の3-メルカプトアルコール化合物の10倍以上の質量比で存在し、ヒトの腋窩部から最も検出されやすい3-メルカプトアルコール化合物であることも発見した(非特許文献1)。
【0011】
更に本発明者らは、前記の3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オールは、S体72質量%とR体28質量%とからなる光学活性物質であることも発見した(非特許文献1)。
【0012】
【非特許文献1】日本味と匂学会誌,10巻,3号,807-810頁(2003年12月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、制汗剤、又は制汗効果が期待される候補物質若しくは組成物の制汗性能を客観的かつ定量的に測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、アポクリン汗中に含まれている物質として、下記式(1)で表される物質をヒトの腋窩部から新たに発見し、それらが微生物や酵素の作用などにより、アポクリン臭の主要原因物質である3-メルカプトアルコール化合物に変化すること、また、下記式(1)で表される物質がアポクリン発汗に対する被験体の制汗性能を客観的かつ正確に測定するための指標物質として好適であることを見出し、これらの知見に基づき、更に研究を発展させた結果、本発明を完成した。
【0015】
【化1】

【0016】
〔式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数1乃至5のアルキル基を示し、R3は水素原子又はメチル基を示す。〕
【0017】
本発明は、ヒトの体表に被検体を適用し、被検体の適用部位において、式(1)で表される物質を定量する、被検体の制汗性能の評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体の存在量を基にして、制汗剤、又は制汗効果が期待される候補物質若しくは組成物の制汗性能を客観的かつ定量的に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明で使用する式(1)で表される物質には下記(イ)〜(ハ)の特徴がある。
【0020】
(イ)式(1)で表される物質は、アポクリン汗に含まれており、ヒトの腋窩部に存在する物質である。
【0021】
(ロ)式(1)で表される物質は、微生物や酵素の作用などによって、アポクリン臭の主要原因物質であり、硫黄様の生臭く動物的なニオイを有する、下記式(2)で表される3-メルカプトアルコール化合物に変化する。
【0022】
【化2】

【0023】
〔式中、R1、R2及びR3は前記の意味を示す。〕
【0024】
(ハ)式(1)で表される物質の存在量は、アポクリン臭の強さと正比例する。
【0025】
3-メルカプトアルコール化合物(2)は、下記式(2a)〜(2e)で表される3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オール、3-メルカプトヘキサン-1-オール、3-メルカプトペンタン-1-オール、3-メルカプト-2-メチルブタン-1-オール、3-メルカプト-2-メチルペンタン-1-オールに代表される、3位にチオール基を有するアルコール化合物である。これらはアポクリン臭によく似たニオイを有している。
【0026】
【化3】

【0027】
ヒトの腋窩部には、3-メルカプトアルコール化合物(2a)〜(2e)だけでなく、これらに化学構造の類似した物質も存在していると推定されるが、3-メルカプトアルコール化合物(2)は、ヒトの腋窩部におけるアポクリン臭の主要原因物質であり、ヒトの腋窩部におけるその存在量は、アポクリン臭の強さと正比例する。
【0028】
更に、ヒトの腋窩部においては、式(2a)で表される3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オールは、式(2b)〜(2e)で表される物質の10倍以上の質量比で存在し、最も検出されやすいものである。また、3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オール(2a)は、ヒトの腋窩部における最も主要なアポクリン臭原因物質である。
【0029】
そして、本発明者らがヒトの腋窩部から新たに発見した、下記式(1a)で表される新たな物質:2-アミノ-7-ヒドロキシ-5-メチル-5-プロピル-4-チアヘプタン酸は、前記の最も主要なアポクリン臭原因物質:3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オール(2a)に変化する前段階の物質(前駆体ともいう)である。
【0030】
【化4】

【0031】
式(1a)で表される前駆体自身はニオイのないものであり、この点で、硫黄様の生臭く動物的なニオイを有する3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オール(2a)とは異なる。前駆体(1a)は、ヒトの腋窩部において最も存在量の多い3-メルカプトアルコール化合物である3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オール(2a)の骨格とα-アミノ酸の骨格とを有している。このことから、前駆体(1a)は、前記3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オール(2a)のチオール基と、セリン(又はシステイン)のヒドロキシ基(又はチオール基)とから水(又はH2S)が取れて生成した、ニオイ物質とα-アミノ酸との縮合体であると推定される。
【0032】
そして、式(1a)で表される物質はヒトの腋窩部において、微生物や酵素の作用などにより、最も主要なアポクリン臭原因物質である3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オール(2a)に変化する。
【0033】
従って、式(1)で表される物質の中でも、前駆体(1a)は、ヒトの腋窩部に比較的多く存在し、検出しやすいという点と、微生物や酵素の作用などにより最も主要なアポクリン臭原因物質である3-メルカプト-3-メチルヘキサン-1-オール(2a)に変化するという点から、アポクリン臭の低減を目的としてアポクリン汗の発汗状況を評価するための物質として特に適している。すなわち、アポクリン汗に対する制汗効果が期待される被検体の制汗性能を客観的かつ正確に評価するための指標物質として特に適している。
【0034】
本発明者らがヒトの腋窩部から発見した、前記式(2b)〜(2e)で表される物質も、ニオイ物質に変化する前段階では、下記式(1b)〜(1e)で表される物質として存在していると推定される。またこれらの前駆体が微生物や酵素の作用などにより前記式(2b)〜(2e)で表される物質に変化するものと推定される。
【0035】
【化5】

【0036】
ヒトの腋窩部には、式(1a)〜(1e)で表される物質だけでなく、これらに化学構造の類似した物質も存在していると推定される。
【0037】
ヒトの腋窩部から本発明者らが発見した前駆体(1a)を始めとする式(1)で表される物質は、アミノ酸の誘導体であるので、pH条件によって、分子中のアミノ基は−NH2又は−NH3+、カルボキシ基は−COOH又は−COO-の形で存在し得る。
【0038】
式(1)中のアミノ基は、生体の内外において、当該アミノ基における塩(例えば、塩酸塩)、又は前記アミノ基に、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リシン及びアルギニンから選ばれるα-アミノ酸、若しくはこれらの少なくとも1種類が2分子以上脱水縮合した原子団が、ペプチド結合した状態等で存在していると推定される。
【0039】
また、式(1)中のカルボキシ基は、生体の内外において、当該カルボキシ基における塩(例えば、金属塩)、又は前記カルボキシ基に前記α-アミノ酸若しくはそれらの少なくとも1種類が2分子以上脱水縮合した原子団が、ペプチド結合した状態で存在していると推定される。
【0040】
すなわち、式(1)で表される物質は、その構造に含まれるアミノ基及びカルボキシ基の部分において、塩を形成している状態、又はアミノ酸、ペプチド若しくはタンパク質と結合した状態で存在していると推定される。
【0041】
従って、本発明においては、式(1)で表される物質の誘導体、すなわち、アミノ基における塩(例えば、塩酸塩など)、カルボキシ基における塩(例えば、金属塩など)、又はアミノ基若しくはカルボキシ基に、前記α-アミノ酸若しくはそれらの少なくとも1種類が2分子以上脱水縮合した原子団がペプチド結合している誘導体(例えば、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質等)を定量することで、被検体の制汗性能を評価することもできる。
【0042】
以下、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体を定量することにより、制汗剤、又は制汗効果が期待される候補物質若しくは組成物を被検体として、その制汗性能を評価する具体的な方法について説明する。
【0043】
例えば、被検体の適用部位において、式(1)で表される物質又はその誘導体の定量を、適用の前後で行うことによって、式(1)で表される物質の変化量を比較することができる。従って、被検体が式(1)で表される物質の分泌を抑制する効果、すなわち、アポクリン汗の発汗を抑制する効果について客観的かつ定量的に評価することができる。より具体的には、例えば、被検体の適用前後において適用部位から各々採取した試料中の式(1)で表される物質を定量することで、アポクリン汗の発汗に対して抑制効果が期待される被検体の制汗性能を評価することができる。被検体を適用するヒトの体表としては、腋窩部が好ましい。
【0044】
本発明に係る被検体の制汗性能の評価方法は、まず、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体の腋窩部における存在量を化学的、物理的、生物学的等の様々な分析手法によって解析し、その解析結果に基づいてアポクリン汗の発汗状況を客観的かつ正確に観察し、被検体の制汗性能を評価することもできる。
【0045】
腋窩部から試料を採取する方法としては、脱脂綿等の布帛によりそのまま腋窩部をこする方法、腋窩部に生理食塩水等を吹き付けた後、脱脂綿等の布帛により拭き取る方法、腋窩部に綿パッドを一定時間挟んでおく方法、腋窩部に当たる部分に綿パッドが縫い付けられた肌着やTシャツを一定時間着用する方法などが挙げられ、これらの方法は、1つ又は2つ以上を組み合わせて適用することもできる。
【0046】
また、被検体の制汗性能を評価する際、腋窩部における発汗を促進させる方法として、ランニングや筋力トレーニング等の運動負荷を与える方法、サウナ等の高温環境室に入り温度負荷を与える方法、暗算をさせる、恐怖映画を鑑賞させる等の精神的負荷(ストレス)を与える方法等が挙げられ、これらの方法は、1つ又は2つ以上を組み合わせて適用することもできる。
【0047】
上記の腋窩部から試料を採取する方法と腋窩部における発汗を促進させる方法とを組み合わせて適用することもできる。
【0048】
本発明においては、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体を定量し易くするために、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体と、それ以外の物質との化学的諸性質の違い等を利用して、腋窩部から採取した試料に対して様々な精製・濃縮手段を講じることもできる。
【0049】
例えば、式(1)で表される物質は、水に溶けやすく油に溶けにくい性質を有している。従って、水又は油への溶解度の差を利用して、油溶成分と分離し、分析試料中の式(1)で表される物質の濃度を高めることもできる。
【0050】
詳しくは、腋窩部から採取した試料に含まれる皮脂由来のトリグリセリド、高級脂肪酸エステル等の油溶性物質を取り除くためには、採取した試料に対して、例えば、水に溶けにくく、油を溶かし易い、ヘキサン、ペンタン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル等の有機溶媒を加えてよく混合して、試料中に含まれる油溶性物質を前記有機溶媒に溶解させた後、遠心分離等の手段を利用して水層と有機層とに分層し、試料中から溶媒と共に油溶成分を取り除くことにより、式(1)で表される物質を定量し易くすることもできる。
【0051】
本発明においては、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体を化学的、或いはその他の手法によって合成し、合成品を標準物質(スタンダード)として利用することもできる。
【0052】
式(1)及び式(2)で表される物質は、例えば下記反応式に従って合成することができる。
【0053】
【化6】

【0054】
〔式中、R1、R2及びR3は、前記と同じ意味を示し、R4はアルキル基を示し、R5はベンジル基を示す。〕
【0055】
すなわち、不飽和構造を有する脂肪酸エステル誘導体(a)を原料とし、誘導体(a)にベンジルメルカプタン等を付加導入して3位にチオエーテル構造を有する脂肪酸エステル誘導体(b)とし、誘導体(b)を水素化リチウムアルミニウム等の還元剤を用いて還元し、3位にチオエーテル構造を有するアルコール誘導体(c)とする。
【0056】
引き続き、バーチ還元によりベンジル基を脱離させることで、式(2)で表される3-メルカプトアルコール化合物を合成することができる。そして、この3-メルカプトアルコール化合物と、アミノ基がtert-ブトキシカルボニル基(Boc基)で保護された3-クロロアラニンとを縮合させることで、チオエーテル構造を有するα-アミノ酸誘導体(d)とした後、酸(塩酸など)で処理し保護基を取り除くことによって、式(1)で表される物質を合成することができる。
【0057】
本発明に係る式(1)で表される物質は、1〜3個の不斉炭素原子を有しているので、それらに由来する最大8種類の異性体が存在し得るが、本発明に係る式(1a)で表される物質を定量する際の標準物質(スタンダード)として利用する合成品としては、これらの立体配座については特に限定されず、任意の割合で混合された合成品をそのまま利用することもできる。また、様々な分離精製手段を用いて各異性体を分離した後、それらのうちのいずれか一つを利用することもできるし、それらのうちの二つ以上が任意の割合で混合されたものを利用することもできる。
【0058】
例えば、ヒトの腋窩部から単離される物質(1)については、α-アミノ酸骨格のα炭素の立体配置は常にL-配置であるが、式(1)で表される物質を化学合成して、標準物質(スタンダード)として用いる場合には、その立体配座は特に限定されず、L-配置のアミノ酸だけでなく、D-配置のアミノ酸、或いはそれらが任意の割合で混合されたアミノ酸を原料として用いることもできる。また、ヒト由来であり、アポクリン臭の主要原因物質である物質(2a)は、S体72質量%とR体28質量%とからなる光学活性物質であるが、物質(1)を化学合成する際に原料として用いる物質(2)の立体配座は特に限定されずS体とR体のどちらか一方のみを使用することもでき、S体とR体とが任意の割合で混合されたものを使用することもできる。
【0059】
式(1)で表される物質を定量することにより被検体の制汗性能を評価する方法は、式(1)で表される物質そのものを定量することによって実施可能であるほか、当該物質の誘導体を定量することによっても実施できる。また、式(1)で表される物質そのものとその誘導体の両方を定量することによっても実施できる。
【0060】
本発明における、腋窩部から採取した物質の中に式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体の存在量を定性的及び/又は定量的に解析する方法は、特に限定されないが、例えば、クロマトグラフィー法による分離分析法、モノクロナール抗体等を利用する免疫化学的測定法(イムノアッセイとも呼ばれる)、更に検出段階においての超高感度化を目的として、化学発光法、化学増幅法、電気化学的計測方法等を適用することもできる。
【0061】
本発明において利用することができるクロマトグラフィー法としては、特に限定されないが、具体的には、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、電気泳動等を挙げることができる。
【0062】
液体クロマトグラフィー法は、固定相と移動相への親和性の差により溶質を分離する方法であり、本発明においては、様々な分離機構(溶質と固定相との相互作用)を適用することもできる。例えば、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー(ゲルろ過クロマトグラフィー、又はゲル浸透クロマトグラフィー)等を利用することもできる。
【0063】
より詳しくは、例えば、吸着カラムクロマトグラフィーでは、溶質が固定相に物理的或いは化学的に吸着する際の吸着係数の違いによって分離を行うことができ、各成分がカラム内で分離されて各成分に固有の時間だけカラム内に保持された(保持時間という)後、カラム外に溶出されて検出器を通過する。またサイズ排除クロマトグラフィーでは、立体網目構造の多孔性固定相中に溶質分子がその大小に応じて排除又は浸透される程度の差によって分離を行うことができる。
【0064】
そして、合成品及びヒト由来の試料から得られるクロマトグラムの保持時間及び検出器から得られる各クロマトピークのスペクトル情報を参考にして、腋窩部から採取した物質の中に式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体が含まれているかどうかを定性的に解析することもできる。
【0065】
例えば、クロマトグラフィー法における検出器として質量分析計(MS)が単独又は2つ以上連結されたものを用いる場合には、カラム上で分離された各成分について、各成分の分子量及び分子構造に由来するマススペクトル情報(フラグメンテーションパターン、開裂パターンともいう)を得ることができる。マススペクトル情報は、各物質に固有のものであることから、それらを参考にして、腋窩部から採取した物質の中に式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体が含まれているかどうかを定性的に解析することができる。
【0066】
また、クロマトグラフィー法における検出器として可視・紫外吸収分光計(Vis/UV)、赤外分光計(IR)、ラマン分光計、核磁気共鳴分光計(NMR)から選ばれる検出器が単独又は2つ以上連結されたものを用いる場合には、カラム上で分離された各成分について、各成分の分子構造に由来する可視・紫外吸収(Vis/UV)スペクトル、赤外(IR)スペクトル、ラマンスペクトル、核磁気共鳴分光計(NMR)スペクトルを得ることができる。前記のスペクトル情報は、各物質に固有のものであることから、それを参考にして、腋窩部から採取した物質の中に式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体が含まれているかどうかを解析することができる。
【0067】
クロマトグラフィー法による分離分析装置においては、クロマトグラムにおけるピークの大きさ(面積)はそのピークに由来する物質の濃度と比例する。従って、腋窩部から採取した物質の中に式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体が含まれている場合には、それらに由来するクロマトピークの面積を参考にして、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体の含有量を解析することもできる。
【0068】
例えば、式(1)で表される物質の合成品を標準物質(スタンダード)として用いる場合には、この標準物質を用いて様々な濃度領域における検量線を作成し、この検量線を使用して、採取した試料中に含まれる式(1)で表される物質の量を換算することもできる。
【0069】
すなわち、クロマトグラフィー法による分離分析装置においては、検出器から得られるスペクトル情報を参考にして腋窩部から採取した物質の中に式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体が含まれているかどうかを定性的に解析することができるだけでなく、クロマトグラムにおけるピークの大きさ(面積)を参考にして、それらの存在量を定量的に解析することもできる。そして、それらの総合的な解析結果に基づいて被検体の制汗性能を評価することもできる。
【0070】
クロマトグラフィー法による分離分析装置を利用して、腋窩部から採取した物質の中に式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体が含まれているかどうかを定性的に解析する場合、並びに、それらの存在量を定量的に解析する場合には、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体の分析における選択性及び検出感度の向上を目的として、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体に対して、特に官能基の部分に化学修飾を施し、この化学修飾体を定量することによってアポクリン汗を観察することもできる。また、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体と、その化学修飾体との両方を定量することによってアポクリン汗を観察することもできる。
【0071】
クロマトグラフィー法において、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体に対して化学修飾を施し、これを定量する方法としては、特に限定されないが、例えば、腋窩部から採取した物質と化学修飾を施すための試薬(以下、化学修飾試薬ともいう)とを反応させ、化学修飾を施した後、化学修飾された式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体をクロマトグラフィー法により分離し、定量することもできる(以下、「プレカラム修飾法」ともいう)。また、腋窩部から採取した物質に含まれる式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体をクロマトグラフィー法により分離した後、化学修飾を施すための試薬を添加し、化学修飾された式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体を定量することもできる(以下、ポストカラム修飾法ともいう)。更に、プレカラム修飾法とポストカラム修飾法とを組み合わせて適用することもできる。
【0072】
式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体に対して化学修飾を施す方法としては、特に限定されないが、例えば、液体クロマトグラフィー法においては、前記の式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体の分子構造に含まれる官能基(具体的には、アミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、カルボニル基、チオ基、アミド基など)の少なくとも一つに対して、検出感度を向上させる発色団(可視・紫外吸収領域に吸収を持つ化合物や蛍光を発する形質を有する化合物など)を導入する方法、化学発光、電気化学活性などを利用する方法等を挙げることもできる。ガスクロマトグラフィー法においては、与えられた温度内で気化可能な化合物に誘導する方法等を挙げることもできる。
【0073】
官能基に対して発色団を導入する方法としては、特に限定されないが、各種化学反応を利用することができる。より具体的には、例えば、式(1)で表される物質のアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基に、可視及び紫外線吸収を持つ発色団、又は蛍光を発する性質を有する発色団が導入された代表的な例としては、下記式(3)で表される物質を挙げることもできる。
【0074】
【化7】

【0075】
〔式中、R1、R2及びR3は前記と同じ意味を示し、X1は、式(1)で表される物質のアミノ基に発色団が導入された代表例であり、X2は、式(1)で表される物質のカルボキシ基に発色団が導入された代表例であり、X3は、式(1)で表される物質のヒドロキシ基に発色団が導入された代表例である。〕
【0076】
例えば、式(1)で表される物質のアミノ基は、スルホンアミド、カルボアミド、チオ尿素、アミン、或いは、その他の形に変換することもできる。同様に、式(1)で表される物質のカルボキシ基は、エステル、イソ尿素、尿素、或いは、その他の形に変換することもできる。ヒドロキシ基は、エーテル、ウレタン、エステル、或いは、その他の形に変換することもできる。
【0077】
すなわち、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体の分子構造に含まれる官能基に発色団を導入する際には、特に限定されないが、例えば、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、アゾベンゼン、クマリン、2,1,3-ベンゾオキサジアゾール、ナフタレン、アクリジン、フルオレセイン及びその類似体、或いは、その他の発色団を利用することもでき、また、前記の官能基は、前記式(3)中に例示した、X1〜X3の置換基と同じ又はそれらに類似した形に変換することもできる。
【0078】
各種化学反応を利用して、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体に発色団を導入するに際し、市販の化学修飾試薬(誘導体化試薬とも呼ばれる)を利用することもできるし、必要に応じて、前記の式(1)で表される物質に適用できる化学修飾試薬を適宜新たに合成し、利用することもできる。以下、本発明において利用可能な、代表的な市販の化学修飾試薬について例示する。
【0079】
アミノ基に発色団(可視及び/又は紫外吸収)を導入するために利用可能な試薬としては、例えば、(a)塩化アシル、(b)アリルスルホニルクロリド、(c)ニトロベンゼン、(d)イソシアナート或いはイソチオシアナート等を挙げることができる。
【0080】
具体的には、(a)塩化アシルとしては、p-メトキシベンゾイルクロリド、m-トルオイルクロリド、p-ニトロベンゾイルクロリド、塩化ベンゾイル等が挙げられる。(b)アリルスルホニルクロリドとしては、トルエンスルホニルクロライド(TSCl)、ベンゼンスルホニルクロリド(BSCl)、ジメチルアミノアゾベンゼンスルホニルクロリド(DABSCl)等が挙げられる。(c)ニトロベンゼンとしては、1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(FDNB)、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)、4-フルオロ-3-ニトロベンゾトリフルオリド(FNBT)等が挙げられる。(d)イソシアナート或いはイソチオシアナートとしては、フェニルイソシアナート(PIC)、ナフチルイソシアナート(NIC)、フェニルイソチオシアナート(PITC)、ナフチルイソチオシアナート(NITC)、4-N,N'-ジメチルアミノアゾベンゼン-4'-イソチオシアナート、p-フェニルベンゾイルイソチオシアナート等が挙げられる。
【0081】
更に、p-ニトロベンジルブロミド(p-NBBr)、ダンシルクロリド(Dns-Cl)、o-フタルジアルデヒド(OPA)、ニンヒドリン、1,2,3-ペリナフチンダントリオン(Peri)等を挙げることもできる。
【0082】
アミノ基に発色団(蛍光)を導入するために利用可能な試薬としては、例えば、(a)塩化スルホニル、(b)塩化カルボニル、(c)ハロゲノニトロベンゾフラン、(d)イソシアナート或いはイソチオシアナート、(e)シッフ塩基生成試薬及びその関連試薬等を挙げることができる。
【0083】
具体的には、(a)塩化スルホニルとしては、5-ジメチルアミノナフタレン-1-スルホニルクロリド(Dns-Cl)、5-ジ-n-ブチルアミノナフタレン-1-スルホニルクロリド(BNS-Cl)、6-N-メチルアニリノナフタレン-2-スルホニルクロリド(Mns-Cl)、2-p-クロロスルホフェニル-3-フェニリンドン(Dis-Cl)、1,2-ナフタレンベンズイミダゾール-6-スルホニルクロリド、8-メトキシキノリン-5-スルホニルクロリド等が挙げられる。(b)塩化カルボニルとしては、9-フルオレニルクロロギ酸メチル(FMOC)、2-ナフチルクロロギ酸(NCF)、2-ダンシルクロロギ酸エチル、(R,S)-2-(p-クロロフェニル)-α-メチル-5-ベンゾキサゾールアセチルクロリド等が挙げられる。(c)ハロゲノニトロベンゾフランとしては、4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール(4-クロロ-7-ニトロベンゾフラザン;NBD-Cl)、4-フルオロ-7-ニトロベンゾフラザン(NBD-F)等が挙げられる。(d)イソシアナート或いはイソチオシアナートとしては、9-イソチオシアナートアクリジン、フルオレセインイソチオシアナート、4-ジメチルアミノ-1-ナフチルイソチオシアナート、4-(ベンジルオキシカルボニルアミノメチル)フェニルイソチオシアナート、4-(ジメチルアミノナフタレン-1-スルホニルアミノ)フェニルイソチオシアナート等が挙げられる。(e)シッフ塩基生成試薬及びその関連試薬としては、ピリドキサールとピリドキサールリン酸、2-フルオレンカルボキシアルデヒド、1-ピレンカルボキシアルデヒド、o-フタルジアルデヒド/アルキルチオール(OPA/R-SH)試薬、2-アセチルベンズアルデヒド/エタンチオール(OAB)、ω-ホルミル-o-ヒドロキシアセトフェノン、ベンゾ-γ-ピロン、ベンゾイン(2-ヒドロキシ-2-フェニルアセトフェノン)等が挙げられる。
【0084】
更に、4-フェニルスピロ[フラン-2(3H),1'-フタラン]-3,3'-ジオン(フルオレサミン)、2-メトキシ-2,4-ジフェニル-3(2H)-フラノン(MDPF)、N-スクシニミジル-2-ナフトキシアセテート、N-スクシニミジル-1-ナフチルカルバメート、5-(4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン-2-イル)アミノフルオレセイン(DTAF)等を挙げることもできる。
【0085】
カルボキシ基に発色団(可視及び/又は紫外吸収)を導入するために利用可能な試薬としては、例えば、(a)フェナシルブロミド、ナフタシルブロミド、及びそれらの類縁化合物、(b)N-メチルフタルイミド誘導体等を挙げることもできる。
【0086】
具体的には、(a)フェナシルブロミド、ナフタシルブロミド及び類縁化合物としては、p-ブロモフェナシルブロミド、フェナシルブロミド、ナフタシルブロミド、p-ニトロフェナシルブロミド、1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブロモエタノン(4-HBE)等が挙げられる。(b)N-メチルフタルイミド誘導体としては、N-クロロメチルフタルイミド(CIMPI)、N-クロロメチル-4-ニトロフタルイミド(CIMNPI)、N-クロロメチルイサチン(CIMIS)等が挙げられる。
【0087】
また、O-p-ニトロベンジル-N,N'-ジイソプロピルイソ尿素(p-NBDI)、2-ニトロフェニルヒドラジン、o-フェニレンジアミン、二クロム酸ピリジニウム、2-メチルキノキサノール誘導体、イミダゾール等を挙げることもできる。
【0088】
カルボキシ基に発色団(蛍光)を導入するために利用可能な試薬としては、例えば、蛍光性クマリン誘導体等を挙げることもできる。
【0089】
具体的には、蛍光性クマリン誘導体としては、4-ブロモメチル-7-メトキシクマリン(Br-Mmc)、4-ブロモメチル-6,7-ジメトキシクマリン(Br-Mdmc)、4-ブロモメチル-7-アセトキシクマリン(Br-Mac)、4-ジアゾメチル-7-メトキシクマリン、N,N'-ジシクロヘキシル-O-(7-メトキシクマリン-4-イル)メチルイソ尿素、N,N'-ジイソプロピル-O-(7-メトキシクマリン-4-イル)メチルイソ尿素、9-ブロモメチルアクリジン、3-ブロモメチル-6,7-ジメトキシ-1-メチル-2(1H)-キノキサリン、ナフタシルブロミド(2-ブロモアセトナフトン)、p-(アントロイルオキシ)フェナシルブロミド(パナシルブロミド)、1-ブロモアセチルピレン、9-クロロメチルアントラセン、9-アントリルジアゾメタン(ADAM)等が挙げられる。
【0090】
また、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体のカルボキシ基を塩化オキサリル、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N,N'-カルボニルジイミダゾール、2-ブロモ-1-メチルピリジニウムヨージドなどの試薬によって活性化した後、アルコールやアミンと反応させて蛍光ラベル化する方法等を挙げることもできる。
【0091】
例えば、式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体に塩化オキサリルを作用して酸クロリドとし、これにトリエチルアミンの存在下、9-アミノフェナントレン、又は1-ナフチルアミンと反応させると、強い蛍光を発するアミド化合物に誘導することができる。
【0092】
また、活性化したカルボン酸の蛍光ラベル化に適当なアルコールとしては、例えば、9-ヒドロキシメチルアントラセン、2-ダンシルアミノエタノール、4-ヒドロキシメチル-7-メトキシクマリン(HO-Mmc)が挙げられ、蛍光性のエステル化合物に誘導することができる。
【0093】
ヒドロキシ基に発色団(可視及び/又は紫外吸収)又は発色団を含む原子団を導入するために利用可能な試薬としては、例えば、塩化アシル、フェニルイソシアナート(PIC)、フェニルジメチルシリルクロリド等を挙げることができる。
【0094】
具体的には、塩化アシルとしては、塩化ベンゾイル、p-メトキシベンゾイルクロリド、p-ニトロベンゾイルクロリド、3,5-ジニトロベンゾイルクロリド、アントラセン-9-カルボニルクロリド等が挙げられる。
【0095】
ヒドロキシ基に発色団(蛍光)を導入するために利用可能な試薬としては、例えば、7-メトキシクマリン-3-カルボニルアジド(3-MCCA)、7-メトキシクマリン-4-カルボニルアジド(4-MCCA)、7-(クロロカルボニルメトキシ)-4-メチルクマリン、4-ジメチルアミノ-1-ナフトイルニトリル、1-アントロイルニトリル、9-アントロイルニトリル、2-メチル-1,1'-ビナフタレン-2'-カルボニルニトリル、ナフタレンホウ酸、フェナントレンホウ酸等が挙げられる。
【0096】
チオール基に発色団(可視及び/又は紫外吸収、蛍光)を導入するために利用可能な試薬としては、例えば、N-(9-アクリディニィル)マレイミド(NAM)、4-クロロ-7-スルフォベンゾフラザン アンモニウム塩(SBDCl)、4-フロロ-7-スルフォベンゾフラザン アンモニウム塩(SBD-F)、4-フロロ-7-スルファモイルベンゾフラザン(ABD-F)、N-[4-(5,6―メチレンジオキシ-2-ベンゾフラニィル)フェニル]マレイミド(MBPM)、N-[4-(6-ジメチルアミノ-2-ベンゾフラニィル)フェニル]マレイミド(DBPM)、N-[p-(2-ベンズイミダゾリル)フェニル]マレイミド、モノブロモビマン、5,5-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、フェナンジンメトサルフェート、o-フタルアルデヒド/2-アミノエタノール等が挙げられる。
【0097】
アミド基に発色団(可視及び/又は紫外吸収、蛍光)を導入するために利用可能な化学的修飾方法としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキサム酸−鉄キレートによる呈色やアゾ色素生成によるN-アリールアミドの呈色等を挙げることができる。
【0098】
式(1)で表される物質をガスクロマトグラフィー及び/又はガスクロマトグラフィー−質量分析計分析計において定量する際には、主に揮発性の付与、検出感度の向上、分解能の向上等を目的として、官能基に前記の式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体の分子構造に含まれる官能基の少なくとも一つに対して、様々な化学反応を基づく化学修飾を施し、この化学修飾体を定量することもできる。
【0099】
具体的には、例えば、式(1)で表される物質のカルボキシ基をエステル化した後、式(1)で表される物質のアミノ基をアシル化し、揮発性の誘導体であるN-アシルアルキルエステルにすることで、式(1)で表される物質に揮発性を付与することができる。
【0100】
より具体的には、例えば、前記のN-アシルアルキルエステルにおけるアルキルエステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、n-及びイソブチルエステル、n-及びイソアミルエステル等を挙げることができる。また、メチルエステルを合成する方法としては、例えば、ジアゾメタン又は三フッ化ホウ素とメタノールを用いる方法、トリメチルシリルジアゾメタンを利用する方法等を挙げることができる。また、前記のN-アシルアルキルエステルにおけるアシル基としては、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ペンタフルオロプロピオニル基、ヘプタフルオロブチリル基等を挙げることができる。アシル基を導入する方法としては、例えば、無水トリフロロ酢酸、トリフロロ酢酸イミダゾール等を利用する方法等を挙げることができる。
【0101】
また、例えば、式(1)で表される物質のカルボキシ基及び/又はアミノ基をトリメチルシリル化し、揮発性の誘導体であるN-トリメチルシリル体にすることで、前記の式(1)で表される物質に揮発性を付与することもできる。
【0102】
より具体的には、トリメチルシリル化するための試薬としては、例えば、N-トリメチルシリルイミダゾール(TMSI)、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSTFA)、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)、N-メチル-N-トリメチルシリル-トリフルオロアセトアミド(MSTFA)、N-トリメチルシリルジメチルアミン(TMSDMA)、N-メチル-N-トリメチルシリルアセトアミド(MTMSA)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等を利用することができる。
【0103】
更に、例えば、メタノール、エタノール、或いはブタノールと塩酸とを利用して、式(1)で表される物質のカルボキシ基をエステル化した後、式(1)で表される物質のアミノ基をトリメチルシリル化し、揮発性の誘導体である、N-トリメチルシリルアミノ酸エステルにすることで、式(1)で表される物質に揮発性を付与することもできる。
【0104】
免疫化学的測定法(イムノアッセイとも呼ばれる)とは、動物などの生体系で行われている分子認識の一つである免疫反応、すなわち、「抗体」によって、抗原と呼ばれる特定の物質を高感度高選択的に捕捉し、抗原の働きを抑制する機能(抗原−抗体反応)を利用して、抗原の量を化学的に測定する方法である。本発明は、式(1)で表される物質及び/又はその誘導体を高感度高選択的に定量するために上記の免疫化学的測定法を適用することもできる。
【0105】
式(1)で表される物質の抗体を作製する際には、式(1)で表される物質に対してスペーサー分子等を導入し、より高分子量の状態にしてから抗体を作製することもできる。
【0106】
前記の免疫化学的測定法を利用して、腋窩部から採取した試料中の式(1)で表される物質及び/又はその誘導体の存在量を定量する方法は、特に限定されないが、より高感度で定量するために、式(1)で表される物質を標識化したものを用いることもできる。この標識化には、放射性同位元素を用いることもでき(ラジオイムノアッセイ)、酵素を用いることもでき(エンザイムイムノアッセイ)、蛍光色素や化学発光試薬などを用いることもできる。
【0107】
本発明は、以上の例示したような様々な方法によって本発明に係る式(1)で表される物質及び/又はそれらの誘導体を定量することができ、発色団として可視領域に吸収のある原子団を有する試薬(以下、呈色試薬ともいう)を利用する場合には、発現された色を可視・紫外分光光度計で定量してもよく、或いは肉眼で検出してもよい。
【0108】
式(1)で表される物質又はその誘導体を肉眼で検出する場合には、標識化合物の濃度−発色標準サンプルを調製し、腋窩部から採取した試料を同じ試薬で発色させたものと比較して、目視で被験体の制汗性能を評価することも可能である。例えば、呈色試薬等と反応させた当該物質を含有するものを用いて、水溶液を充填した比色管や或いは標準物質(スタンダード)を含浸させたろ紙の形で様々な濃度の呈色比較サンプルを作製し、腋窩部から採取した物質を呈色試薬と反応させて得られる色の変化を呈色比較サンプルと比べることによって、被験体の制汗性能を評価することもできる。また、水溶液の色を肉眼で直接判定する評価、試験紙に含浸させたものを肉眼で直接判定する評価を行ってもよい。
【0109】
本発明方法による制汗性能の評価の対象とされる、アポクリン汗の分泌に対し抑制効果が期待される制汗剤サンプルとしては、通例、制汗デオドラント剤で配合され得る、他の成分、例えば、溶剤、安定剤、制汗剤、殺菌剤、抗菌剤、界面活性剤、酸化防止剤、香料、植物抽出物等の添加剤が配合されたものを用いることもできる。
【実施例】
【0110】
(1)アポクリン汗の発汗状況の観察
健康な米国人女性13名(18〜63歳)を被験者とした。被験者には試験開始の10日前から制汗デオドラント剤及び香水の使用を禁じ、入浴時には香料未配合の石鹸を使ってもらった。試験当日の朝、被験者の両腋窩部のアポクリン臭の強さを3人の専門パネラーが官能評価した。得られた評価データ(3人の評価者×左右=6データ)の平均値を各被験者のアポクリン臭強度とした。
【0111】
<評価基準>
0:匂わない。
1:かすかに匂う。
2:弱く匂う。
3:匂う。
4:やや強く匂う。
5:かなり強く匂う。
【0112】
(2)腋汗のサンプリング
腋の下をガーゼで拭き取ることで各被験者の汗を採取した。具体的には、蒸留水1mLを染み込ませた脱脂ガーゼ(6×9cm)で各被験者の両腋窩部を拭き(各5回/片腋)、分析までの間、-20℃で保存した。
【0113】
(3)腋臭前駆体の定量分析
脱脂ガーゼは室温で解凍後、8等分にカットした。次に、蒸留水(10mL×2回)で抽出し、ヘキサン洗浄(10mL×2回)した後、凍結乾燥した。蒸留水2mLを加えてろ過(0.45μm)したものをLC-MS/MS分析装置に供し、2-アミノ-7-ヒドロキシ-5-メチル-5-プロピル-4-チアヘプタン酸(1a)を定量した。
【0114】
【化8】

【0115】
<分析条件>
HPLCシステム: LC-10AD VP(島津製作所)
分析カラム:Inertsil ODS-3(2.1mmID×250mm)
カラム温度:40℃
移動相:1%酢酸水溶液:1%酢酸メタノール溶液=50:50(v/v)
流速:0.2mL/min
試料保存温度:4℃
試料注入量:10μL
質量分析装置(MS/MS):API2000(Applied Biosystems / MDS Sciex)
【0116】
その結果、図1に示すとおり、強いアポクリン臭が認められる被験者ほど、より多量の2-アミノ-7-ヒドロキシ-5-メチル-5-プロピル-4-チアヘプタン酸(1a)が検出された。これにより、式(1)で表される物質を定量することでアポクリン汗の発汗状況を観察できることがわかる。
【0117】
(4)市販制汗剤の制汗性能の評価
前述の官能評価においてアポクリン臭の認められた米国人女性1名を被験者とした。試験は連続で9日間行い、3日目以降、毎朝、右側の腋窩部に市販の制汗剤を塗布(0.3g)した。1日目(未塗布)、2日目(未塗布)、3日目(塗布1日目)、4日目(塗布2日目)、8日目(塗布6日目)、9日目(塗布7日目)の夕方に、前述と同様な方法により汗のサンプルリングを行い、2-アミノ-7-ヒドロキシ-5-メチル-5-プロピル-4-チアヘプタン酸(1a)の定量を行った。
【0118】
解析の結果、図2に示すとおり、制汗剤の使用によりアポクリン汗の発汗が抑制されたことによって、2-アミノ-7-ヒドロキシ-5-メチル-5-プロピル-4-チアヘプタン酸(1a)の検出量が減少した。これにより、式(1)で表される物質を定量することで被験体の制汗性能を評価できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】アポクリン臭の強さと2-アミノ-7-ヒドロキシ-5-メチル-5-プロピル-4-チアヘプタン酸(1a)検出量の関係をグラフ化したものである。
【0120】
【図2】制汗剤の使用による2-アミノ-7-ヒドロキシ-5-メチル-5-プロピル-4-チアヘプタン酸(1a)検出量の変化をグラフ化したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの体表に被検体を適用し、被検体の適用部位において、下記式(1)で表される物質又はその誘導体を定量する、被検体の制汗性能の評価方法。
【化1】

〔式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素数1乃至5のアルキル基を示し、R3は水素原子又はメチル基を示す。〕
【請求項2】
式(1)で表される物質が、下記式(1a)で表されるものである請求項1に記載の制汗性能の評価方法。
【化2】

【請求項3】
被検体の適用部位が、ヒトの腋窩部である請求項1又は2記載の制汗性能の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−93519(P2007−93519A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286230(P2005−286230)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】