説明

制電性熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】制電性、成形加工性及び表面外観に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族若しくは芳香族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)を構成成分とするポリエステル共重合体(A)、主として結晶性脂肪族若しくは芳香族ポリアミド単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(b1)と、脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族若しくは芳香族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b2)を構成成分とするポリアミド共重合体(B)あるいはポリエステル共重合体(A)及びポリアミド共重合体(B)からなる共重合体混合物を含む熱可塑性樹脂組成物100重量部に有機イオン導電剤を0.01〜20重量部配合してなる制電性熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟で弾性に富み、成形加工性に優れると共に、優れた制電性を有する制電性熱可塑性樹脂組成物及び、それから成る成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は軽量で加工し易く、家電、OA機器、自動車等の部品として欠かすことの出来ない材料である。熱可塑性樹脂の中でも、熱可塑性エラストマー樹脂は、柔軟性、屈曲性、弾性、耐薬品性に優れ、その独特の性質を活かして、ハウジング、パッケージ、チューブ、被覆関係材、防震材料、雑貨関係の材料等、様々な用途で用いられている。
【0003】
近年、精密な電気・電子制御部品を備えた各種機器の分野を中心に、発生する静電気による制御装置等の誤作動や故障を防止するため、機器・装置の構造部品や、搬送部材向けに、持続的な制電性能、帯電防止性能を有する様々な熱可塑性樹脂組成物が開発され、使用されている。
【0004】
熱可塑性樹脂に持続的な制電性能を付与する方法として、カーボンブラックやグラファイト、炭素繊維等のカーボン系充填剤や、金属繊維や金属粉末を配合する方法が知られている。しかしながら、これらの方法により制電性能を付与された熱可塑性樹脂は、色調が限定されるという問題があり、また、安定した制電性能を発現するためには比較的多くの充填剤配合量が必要であるため、熱可塑性樹脂の機械特性(衝撃特性、伸び)が低下する問題があった。特に、熱可塑性樹脂の中でも熱可塑性エラストマー樹脂に適用すると、柔軟で弾性に富むという特長を極端に損なってしまう問題があった。
【0005】
熱可塑性樹脂に持続的な制電性能を付与する別の方法としてポリエーテルエステルアミドをはじめとする高分子型帯電防止剤を配合する方法が知られている。この方法であれば、熱可塑性エラストマー樹脂に対して適用してもその特長を損なう可能性は低い。しかしながら、この方法で制電性能を付与された熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー樹脂は、用途によっては制電性が必ずしも十分ではなく、要求される性能を満足出来ない場合があった。
【0006】
これらの従来の方法で制電性を付与した熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー樹脂の問題を解決する方法として、最近、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩等の有機イオン導電剤を配合する方法(特許文献1参照。)、熱可塑性樹脂に非ポリマーの窒素オニウムカチオンと弱配位性含フッ素有機アニオンからなるイオン塩を配合する方法(特許文献2参照。)、熱可塑性樹脂にパーフルオロアルキルスルホン酸塩を配合する方法(特許文献3参照。)、及び熱可塑性樹脂に環状アミジン又はピリジンのオニウム塩を高分子化合物に複合する方法(特許文献4参照。)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であるカチオン、及びイオン解離可能なアニオンによって構成される金属塩を配合する方法(特許文献5、6参照。)などが提案されている。しかしながら、特許文献1の方法では、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマーの使用について記載されているものの、スチレン系樹脂を必須成分とし、エラストマーをスチレン系樹脂に分散させる帯電防止剤として捉えているため、その配合量が少なく、得られる組成物に柔軟性を付与し得ないことから、柔軟性を要求される用途では使用出来ない問題がある。また、特許文献2〜6の方法では、特に、電子・電気機器部品等の分野において要求される高度な制電性を必ずしも満足するものではなく、また、純粋性が要求され、金属イオンの存在を嫌うような用途においては好適に用いることが出来ない等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2007/094195号
【特許文献2】特表2003−511505号公報
【特許文献3】特表2003−507510号公報
【特許文献4】特開平10−265673号公報
【特許文献5】特開2002−20589号公報
【特許文献6】特開2004−43614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記のような従来の技術的課題を解決するものであり、従来と同等以上の制電性、即ち表面固有抵抗値及び体積固有抵抗値が低く、安定した持続型制電性を有すると共に、金属イオンの含有量が極めて少なく、柔軟で弾性に富み、成形加工性及び表面外観に優れる熱可塑性樹脂組成物と、それからなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アルキレンオキシド単位を構成成分として含有するポリエステル共重合体又はポリアミド共重合体、若しくはポリエステル共重合体とポリアミド共重合体の混合物に、有機イオン導電剤又は、有機イオン導電剤とスチレン系樹脂を添加することにより、上記目的が効率的に達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族若しくは芳香族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)を構成成分とするポリエステル共重合体(A)100重量%、主として結晶性脂肪族若しくは芳香族ポリアミド単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(b1)と、脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族若しくは芳香族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b2)を構成成分とするポリアミド共重合体(B)100重量%、あるいはポリエステル共重合体(A)3〜97重量%及びポリアミド共重合体(B)97〜3重量%からなる共重合体混合物100〜46重量部並びにスチレン系樹脂0〜54重量部からなる熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、有機イオン導電剤を0.01〜20重量部配合してなる制電性熱可塑性樹脂組成物、及びその成形品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表面固有抵抗値及び体積固有抵抗値が低く、安定した持続型制電性を有すると共に、金属イオンの含有量が極めて少なく、成形加工性及び表面外観に優れ、エラストマーとしての機械的物性にも優れた制電性熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。また、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、これらの優れた特性の成形品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用されるポリエステル共重合体(A)は、主として結晶性芳香族ポリエステルからなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族若しくは芳香族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)のブロック又はグラフト共重合体、好ましくはブロック共重合体である。
【0013】
高融点結晶性重合体セグメント(a1)の主たる構成成分としては、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、ジオール又はそのエステル形成性誘導体から重縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体であって、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、ビフェニル−4,4−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。主として芳香族ジカルボン酸を用いるが、必要によっては、芳香族ジカルボン酸の一部を1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸及びダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸に置換しても良い。また、例えば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル及び酸ハロゲン化物等、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体を用いることもできる。
【0014】
ジオールとしては、炭素数2〜20の脂肪族或いは脂環式グリコール、即ちエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、及び、キシレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン等の芳香族ジオールが好ましく、これらのジオールは、例えばアセチル体、アルカリ金属塩等のエステル形成性誘導体としても用いることができる。
【0015】
上記のジカルボン酸及びその誘導体、ジオール及びその誘導体は2種以上併用することができる。
【0016】
ポリエステル共重合体(A)の高融点結晶性重合体セグメント(a1)においては、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位、又は、イソフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるものが好ましく用いられる。
【0017】
本発明で使用されるポリアミド共重合体(B)は、主として結晶性脂肪族若しくは芳香族ポリアミド単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(b1)と脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族若しくは芳香族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b2)の共重合体である。
【0018】
高融点結晶性重合体セグメント(b1)の主たる構成成分としては、炭素原子数6以上のアミノカルボン酸、炭素原子数6以上のラクタム又は炭素原子数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との反応物が好ましい。
【0019】
ポリアミド共重合体(B)の高融点結晶性重合体セグメント(b1)を構成する炭素数が6以上のアミノカルボン酸としては、炭素数が6以上20以下のアミノカルボン酸が好ましく、具体的には、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノカプリル酸、ω−アミノペルゴン酸、ω−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、及び12−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸がより好ましい例として挙げられる。また、炭素数が6以上のラクタムとしては、炭素数が6以上20以下のラクタムが好ましく、具体的には、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、及びラウロラクタムなどがより好ましい例として挙げられる。また、炭素原子数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との反応物としては、炭素原子数6以上20以下のジアミンと炭素原子数6以上20以下のジカルボン酸との反応物が好ましく、具体的には、ヘキサメチレンジアミン−アジピン酸塩、ヘキサメチレンジアミン−セバシン酸塩、及びヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸塩などのジアミンとジカルボン酸との塩(ナイロン塩)の反応物が挙げられる。
【0020】
ポリアミド共重合体(B)の高融点結晶性重合体セグメント(b1)において、炭素数が6以上のアミノカルボン酸、炭素数が6以上のラクタム、又は炭素原子数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との反応物と、低融点重合体セグメント(b2)との結合は、エステル結合又はアミド結合であることが好ましい。
【0021】
また、ポリアミド共重合体(B)の高融点結晶性重合体セグメント(b1)として、ジカルボン酸やジアミンなどの第三成分を反応成分としてさらに含有していてもよい。この場合のジカルボン酸成分としては、重合性、色調及び物性の点から、炭素数4〜20のカルボン酸が好ましく、その例として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。一方、ジアミン成分としては、芳香族、脂環族又は脂肪族のジアミンが用いられ、中でも脂肪族ジアミンであるヘキサメチレンジアミンが好ましく用いられる。
【0022】
ポリエステル共重合体(A)の低融点重合体セグメント(a2)及びポリアミド共重合体(B)の低融点重合体セグメント(b2)は、脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族若しくは芳香族ポリエステル単位からなる重合体である。
【0023】
脂肪族若しくは芳香族ポリエーテルとしては、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール及び次の一般式(I)〜(III)
【0024】
【化1】

【0025】
(ここで、一般式(I)〜(III)中、R、Rはそれぞれ独立にエチレン基又はプロピレン基を表し、Yは共有結合、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜6のアルキリデン基、炭素数7〜17のシクロアルキリデン基、炭素数7〜17のアリールアルキリデン基、O、SO、SO、CO、S、CF、C(CF又はNHを表し、X〜X12はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン、SOH又はその金属塩(SONa、SOK等)を表す。)で示されるジオール化合物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の化合物を構成成分として含有する共重合体であることが好ましい。
【0026】
上記の一般式(I)〜(III)中のm、nは、それぞれ「−(RO)−」と「−(RO)−」の重合度を表す。その和である(m+n)は、使用される一般式(I)〜(III)のジオール化合物に依存するが、8〜65の範囲となることが好ましい。(m+n)の平均値は、一般式(I)〜(III)のジオール化合物の構造(単量体の分子量)と数平均分子量から計算により求めることができるものである。
【0027】
本発明において、数平均分子量は、試料1gを過剰なアセチル化剤、例えば、無水酢酸と加熱してアセチル化を行い、生成したアセチル化物を中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg数)をG、アセチル化前の試料1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg数)をHとしたときに、次の(式1)によって計算することができる。
【0028】
【数1】

【0029】
上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物としては、R、Rがそれぞれ独立にエチレン基又はプロピレン基であって、Yが炭素数2〜6のアルキリデン基、X〜X12がそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜6のアルキル基であるジオール化合物が好ましく、これらの中でも特にX〜X12が水素であるジオール化合物が好ましい。
【0030】
具体的なジオール化合物としては、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、ジメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、2,2−ビス(4,4’−ヒドロキシフェニル−3,3’−スルホン酸ナトリウム)プロパン、ビスフェノールS、ジメチルビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールS、4,4’−(ヒドロキシ)ビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフルオロメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アミン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキノン、1,4−ジヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びジヒドロキシナフタレン等のエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシド付加物又はそれらのブロック共重合体等が挙げられる。
【0031】
これらの中でさらに好ましいジオール化合物は、ヒドロキノンのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物、ジヒドロキシナフタレンのエチレンオキシド付加物、及びそれらブロック共重合体である。特に、重合性と経済性の点で、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物又はそのブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0032】
上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるこれらジオール化合物の数平均分子量は、1,000〜3,000であることが好ましい。数平均分子量がこの範囲にある場合には、得られるポリエステル共重合体及びポリアミド共重合体の帯電防止性の向上及び重合時間の短縮を図ることができる。
【0033】
脂肪族若しくは芳香族ポリエステルとしては、炭素数3以上20以下のラクトンの開環重合反応により得られる重合体ないしは共重合体、あるいは脂肪族若しくは芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とジオール又はそのエステル形成性誘導体から重縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体である。
【0034】
炭素数3以上20以下のラクトンとしては、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、エナントラクトン、カプリルラクトン、ラウロラクトンなどが挙げられる。
【0035】
ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸及びダイマー酸などが挙げられる。また、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸を用いることもできる。主として脂肪族ジカルボン酸を用いるが、必要によっては、脂肪族ジカルボン酸の一部をテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、ビフェニル−4,4−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などに置換しても良い。例えば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル及び酸ハロゲン化物等、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体を用いることもできる。
【0036】
ジオールとしては、炭素数2〜20の脂肪族或いは脂環式グリコール、即ちエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、及び、キシレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン等の芳香族ジオールが挙げられる。これらのジオールは、例えばアセチル体、アルカリ金属塩等のエステル形成性誘導体としても用いることができる。
【0037】
上記のジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体、ジオール又はそのエステル形成性誘導体は2種以上併用することができる。
【0038】
ポリエステル共重合体(A)の低融点重合体セグメント(a2)及びポリアミド共重合体(B)の低融点重合体セグメント(b2)として、脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位からなる共重合体であることが好ましく、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールであることがより好ましい。ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリ(1、2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1、3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック又はランダム共重合体、及びエチレンオキシドとテトラヒドロフランのブロック又はランダム共重合体などが挙げられ、中でも、ポリエステル共重合体(A)の低融点重合体セグメント(a2)の構成成分としては、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール及び/又はポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物及び/又はエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましく、ポリアミド共重合体(B)の低融点重合体セグメント(b2)の構成成分としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコールを用いることが好ましい。
【0039】
ポリエステル共重合体(A)の低融点重合体セグメント(a2)及びポリアミド共重合体(B)の低融点重合体セグメント(b2)の数平均分子量は、好ましくは200〜6000の範囲であり、より好ましくは300〜4000の範囲である。また、必要に応じてポリ(アルキレンオキシド)グリコール成分の両末端は、アミノ化又はカルボキシ化されていてもよい。
【0040】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物では、ポリエステル共重合体(A)、ポリアミド共重合体(B)をそれぞれ単独で使用してもよく、或いはポリエステル共重合体(A)及びポリアミド共重合体(B)の共重合体混合物として使用してもよい。ポリエステル共重合体(A)及びポリアミド共重合体(B)の混合物を使用する場合、ポリエステル共重合体(A)とポリアミド共重合体(B)の組成比は、好ましくは、ポリエステル共重合体(A)3〜97重量%、ポリアミド共重合体(B)97〜3重量%の範囲、電気特性、機械特性のバランスを考慮すると、ポリエステル共重合体(A)40〜90重量%、ポリアミド共重合体(B)60〜10重量%の範囲がより好ましい。
【0041】
本発明で使用されるポリエステル共重合体(A)の製造方法については、特に限定されず、公知の製造方法を利用することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール及び、低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下、エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法及び、ジカルボン酸と過剰量のグリコール及び、低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下、エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法などを適用することができる。
【0042】
本発明で使用されるポリアミド共重合体(B)の製造方法については、特に限定されず、公知の製造方法を利用することができる。例えば、アミノカルボン酸、ラクタム又は炭素数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との塩と、上記の第三成分として含有可能なジカルボン酸とを反応させて両末端がカルボン酸基のポリアミドプレポリマーを作り、このプレポリマーにポリ(アルキレンオキシド)グリコール及び上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物を、真空下に反応させる方法を適用することができる。
【0043】
また、アミノカルボン酸、ラクタム又は炭素数6以上のジアミンと炭素原子数6以上のジカルボン酸との塩、上記の第三成分として含有可能なジカルボン酸、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール及び上記の一般式(I)〜(III)からなる群から選ばれるジオール化合物の3つの化合物を反応槽に仕込み、水の存在下又は不存在下に、高温で加熱反応させることによりカルボン酸末端のポリアミドエラストマーを生成させ、その後、常圧又は減圧下で重合を進める方法も適用することができる。さらに、これら3つの化合物を同時に反応槽に仕込み、溶融重合した後、高真空下で一挙に重合を進める方法も適用できる。
【0044】
本発明においては、熱可塑性樹脂組成物としてスチレン系樹脂を含んでいてもよい。スチレン系樹脂とは、芳香族ビニル系単量体がその成分として含まれる重合体からなるものである。この芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレン及びo,p−ジクロロスチレンなどが挙げられるが、中でもスチレンとα−メチルスチレンが好ましく用いられる。芳香族ビニル系単量体は、1種の使用でもよく又は2種以上を併用しても良い。
【0045】
また、スチレン系樹脂は、耐薬品性や耐熱性などの特性を付与する目的で、芳香族ビニル系単量体及びその芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体を共重合したビニル系共重合体を含有していても良い。これらの他のビニル系単量体としては、例えば(メタ)アクリロニトリル、エタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、無水イタコン酸、フタル酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミニプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、(メタ)アリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、及び2−スチリル−オキサゾリンなどが挙げられる。これらの中でも、特にアクリロニトリルと(メタ)アクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0046】
スチレン系樹脂に含有される芳香族ビニル系単量体の割合は、成形加工性の観点から10〜100重量部が好ましく、より好ましくは20〜90重量部である。
【0047】
スチレン系樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、物性バランスを維持する上で、5万〜30万であることが好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による一般的に公知な手法で測定することができる。
【0048】
スチレン系樹脂の製造方法には特に制限はなく、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法及び塊状−懸濁重合法など通常の製造方法を用いることができる。また、これらのいずれかの方法で得られた1種又は2種以上のスチレン系樹脂を溶融混練して製造しても良い。
【0049】
スチレン系樹脂の耐衝撃性などの特性を飛躍的に向上させることを目的とする場合には、スチレン系樹脂として、芳香族ビニル系(共)重合体からなるマトリックス中に、ゴム質重合体が分散したゴム変性スチレン系樹脂を用いることが好ましい。すなわち、スチレン系樹脂として、ゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体及び該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体を含有しているゴム変性スチレン系樹脂を好ましく用いることができる。また、芳香族ビニル系単量体及び該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体、並びにゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体及び該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体を含有しているゴム変性スチレン系樹脂も好ましく用いることができる。なお、本発明において、上記のように(共)重合体と表示するときは、重合体及び/又は共重合体を意味している。
【0050】
ゴム質重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体及びアクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴム、ポリイソプレン、及びエチレン−プロピレン−ジエン系三元共重合体などが挙げられるが、中でもポリブタジエンとブタジエン共重合体が好ましく用いられる。
【0051】
ゴム質重合体は、耐衝撃性に優れるという観点から、平均粒子径が0.15〜0.60μmの範囲のゴム粒子が好ましく、平均粒子径が0.2〜0.55μmの範囲のゴム粒子がより好ましい。中でも、耐衝撃性及び薄肉成形品の落錘衝撃が著しく優れていることから、平均粒子径が0.20〜0.25μmの範囲のゴム粒子と、0.50〜0.65μmの範囲のゴム粒子との重量比が、90:10〜60:40であるゴム質重合体が特に好ましい。
【0052】
ここで、ゴム粒子の平均重量粒子径は、「Rubber Age、Vol.88、p.484〜490、(1960)、by E.Schmidt,P.H.Biddison」に記載の、アルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率から累積重量分率50%の粒子径を求める方法により測定することができる。
【0053】
スチレン系樹脂として、上記のゴム変性スチレン系樹脂を用いる場合には、ゴム質重合体とマトリックスであるスチレン系樹脂とは非相溶であるため、ゴム質重合体にマトリックスと相溶する成分をグラフト重合させると、耐衝撃性をより一層向上させることができる。すなわち、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体又は単量体混合物をグラフト重合したグラフト共重合体を用いることが好ましい。グラフト重合に用いられる単量体としては、上記のマトリックスである芳香族ビニル系(共)重合体中の単量体成分と同様の単量体成分を同様の割合で使用することが好ましい。
【0054】
組成とグラフト量については、ゴム質重合体の分散性を損なわないような組成とグラフト量に調整することが好ましい。グラフト率は5〜200%が好ましく、より好ましくは20〜100%である。ここでいうグラフト率とは、次の(式2)により算出される値である。
【0055】
【数2】

【0056】
グラフト重合していない(共)重合体の特性については、優れた耐衝撃性を有する樹脂組成物が得られるという観点から、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度[η](30℃で測定)が、好ましくは0.25〜0.60dl/gの範囲であり、さらに好ましくは0.25〜0.50dl/gの範囲である。
【0057】
ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法としては、具体的には、ゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体を含有する単量体又は単量体混合物をグラフト重合して得られるグラフト共重合体と、芳香族ビニル系単量体を含有する単量体又は単量体混合物を重合して得られるスチレン系(共)重合体とを溶融混練してゴム変性スチレン系樹脂を製造する方法が、工業的及び経済的に好適である。
【0058】
上記のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるグラフト共重合体は、乳化重合や塊状重合などの公知の重合法により得ることができる。中でも、ゴム質重合体ラテックスの存在下に、単量体又は単量体混合物、ラジカル発生剤及び連鎖移動剤の混合物を、連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法が、操業上好適である。
【0059】
本発明で用いられるスチレン系樹脂の具体例としては、例えば、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ABS樹脂、MAS樹脂、MS樹脂、MABS樹脂及びMBS樹脂等があり、またこれらの樹脂と他の樹脂とのアロイなど挙げられる。
【0060】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂組成物の配合割合は、熱可塑性樹脂組成物が100重量部である場合、ポリエステル共重合体(A)、ポリアミド共重合体(B)又はポリエステル共重合体(A)及びポリアミド共重合体(B)の共重合体混合物100〜46重量部、スチレン系樹脂0〜54重量部の範囲である。スチレン系樹脂は必ずしも用いる必要はなく、配合されなくても構わないが、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂とは異なり、ビーズ、パウダー形状の重合体が容易に得られるスチレン系樹脂には液体を含浸させることが出来るので、ビーズ、パウダー形状のスチレン系樹脂を配合することにより、液添設備を用いることなく容易に液体の添加剤を配合できる。そして、後述のイオン導電剤は液体であり、ビーズ、パウダー形状のスチレン系樹脂と合わせて配合することで、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物を容易に得ることができる。一方、熱可塑性樹脂組成物100重量部においてスチレン系樹脂が54重量部を超えるとエラストマーとしての機械的特性(柔軟性)が損なわれるため好ましくない。なお、0〜54重量部の範囲内でスチレン系樹脂の配合割合が多いほど配合コストとしては優位であるが、スチレン系樹脂を配合する場合の好ましい配合割合は配合コスト、イオン導電剤等の液体の添加剤の配合のしやすさ、機械的特性等を考慮すると5〜45重量部の範囲である。
【0061】
有機イオン導電剤とは、有機物でありながらイオン的な特性を有する有機化合物塩であり、融点が低くて常温で液体であるイオン性液体又はイオン液体とも呼ばれている有機化合物塩を含む。このような有機化合物塩としては、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウム、ホスホニウムなどの陽イオンと、フッ化物イオンやトリフラートなどのフッ素を含む陰イオンからなるものなどが挙げられる。本発明で使用される有機イオン導電剤としては、常温で液体のイミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩又はホスホニウム塩等のイオン性液体といわれている有機化合物塩が好ましい。
【0062】
具体的には、有機イオン導電剤としては、次の一般式(3)〜(6)
【0063】
【化2】

【0064】
(ここで、一般式(3)〜(6)中、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜8のアルキル基又はトリデカフルオロオクチル基を表し、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、R10はそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表し、R11、R12はそれぞれ独立に炭素数1〜15のアルキル基を表す。また、これらのアニオン成分[X]を構成するXは、(CFSON、(CSON、(CFSOC、CFSO、I、Br、Cl、PF、BF、NO、CHSO、p−CHSO(トシル)、CHO(CO)SO、C17SO、SCN、CHSO、CH(CHCO、N(CN)、CF(CFSO、CF(CFSO、[(CHCCHCH(CH)CH]PO又はAlClを表す。)で示される有機化合物塩が好ましい。
【0065】
より具体的には、イミダゾリウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウム・メチルスルファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロエチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・クロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ニトラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トシラート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−n−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ブロミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・クロリド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・2−(2−メトキシエトキシ)エチルスルファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・メチルスルファート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム・クロリド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム・クロリド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1,2−ジメチル−3−プロピルオクチルイミダゾリウム・トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム・クロリド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム・テトラフルオロボラート、1−メチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)イミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート、及び1−ブチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)イミダゾリウム・ヘキサフルオロホスファート等が挙げられる。
【0066】
ピリジニウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、3−メチル−1−プロピルピリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−プロピル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート、1−ブチル−4−メチルピリジニウム・ブロミド、1−ブチル−4−メチルピリジニウム・クロリド、1−ブチル−4−メチルピリジニウム・ヘキサフルオロホスファート、及び1−ブチル−4−メチルピリジニウム・テトラフルオロボラート等が挙げられる。
【0067】
アンモニウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、テトラブチルアンモニウム・ヘプタデカフルオロオクタンスルホナート、テトラブチルアンモニウム・ノナフルオロブタンスルホナート、テトラペンチルアンモニウム・メタンスルホナート、テトラペンチルアンモニウム・チオシアナート、及びメチル−トリ−n−ブチルアンモニウム・メチルスルファート等が挙げられる。
【0068】
ホスホニウム塩である有機イオン導電剤としては、例えば、テトラブチルホスホニウム・メタンスルホナート、テトラブチルホスホニウム・p−トルエンスルホナート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロエチルスルホニル)イミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィナート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ブロミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・クロリド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・デカノアート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ヘキサフルオロホスフィナート、トリエチルテトラデシルホスホニウム・テトラフルオロボラート、及びトリブチルメチルホスホニウム・トシラートが挙げられる。
【0069】
このような有機イオン導電剤の中でも、イミダゾリウム塩とピリジニウム塩が好適であり、中でも、下記の一般式(1)又は(2)
【0070】
【化3】

【0071】
(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは(CFSON、(CSON、(CFSOC又はCFSOを表す。)のいずれかで示されるイミダゾリウム塩又はピリジニウム塩が好ましく用いられる。
【0072】
上記の一般式(1)又は(2)において、アニオン成分を構成するXとしては、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物の熱安定性の面から、フルオロ基を有するものが好ましく、XがCFSO(トリフルオロメタンスルホナート)又は(CFSON[ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド]のものが好ましく用いられる。
【0073】
本発明では、有機イオン導電剤は、公知の方法、例えば、第三級アミンをハロゲン化アルキルで四級化した後、目的のアニオン成分を有する塩を用いてアニオン交換反応を行う方法等を利用することにより製造した有機イオン導電剤を用いることができる。また、商業的に入手可能なものをそのまま使用することができる。市販品として、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(日本カーリット社製)や1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート(日本カーリット社製)等が挙げられる。
【0074】
上記の有機イオン導電剤の配合量は、本発明で用いられる熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量%であり、より好ましくは0.1〜5重量%である。イオン導電剤の配合量が0.01重量部未満の場合には、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物の制電特性が悪化し、配合量が20重量部を超える場合は、成形加工性、耐熱性が低下する。コストの面からも、上記の配合量の範囲が好ましい。
【0075】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミノ基及びオキサゾリン基から選ばれる少なくとも一種の官能基を含有する変性ビニル系(共)重合体(以下、変性ビニル系重合体と略称することがある。)を含有することもできる。この変性ビニル系重合体としては、一種又は二種以上のビニル系単量体と、上記の官能基(カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミノ基及びオキサゾリン基から選ばれる少なくとも一種の官能基)を導入するためのビニル系単量体とを重合又は共重合して得られる重合体を用いることができる。変性ビニル系重合体中におけるこれらの官能基を有する化合物の含有量は、変性ビニル系重合体100重量%当たり0.01〜20重量%の範囲であることが好ましい。
【0076】
変性ビニル系重合体の製造で用いられる上記のビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレン、及びo,p−ジクロロスチレンなどの芳香族ビニル系単量体が挙げられる。また、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体を併用することも可能である。上記の他のビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル、エタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、無水イタコン酸、フタル酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミニプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、及び2−スチリル−オキサゾリンなどを用いることもできる。
【0077】
変性ビニル系重合体に、上記官能基としてカルボキシ基を導入するためのビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、無水マレイン酸、フタル酸、及びイタコン酸などの不飽和結合を有するカルボン酸又はカルボン酸無水物を用いることができる。
【0078】
また、γ,γ´−アゾビス(γ−シアノバレイン酸)、α,α´−アゾビス(α−シアノエチル)−p−安息香酸、及び過酸化サクシン酸などのカルボキシ基を有する重合発生剤及び/又はチオグリコール酸、α−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプト−イソ酪酸、及び2,3又は4−メルカプト安息香酸などのカルボキシ基を有する重合度調節剤を用いて、これらに上記のビニル系単量体を(共)重合する方法も用いることができる。さらに、メタクリル酸メチルやアクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体と芳香族ビニル系単量体の共重合体、又は(メタ)アクリル酸エステル系単量体、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体の共重合体を、アルカリによってケン化する方法も用いることができる。
【0079】
変性ビニル系重合体に、上記官能基としてヒドロキシ基を導入するためのビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、及び4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどのヒドロキシ基を有するビニル系単量体を用いることができる。
【0080】
変性ビニル系重合体に、上記官能基としてエポキシ基を導入するためのビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、及びp−グリシジルスチレンなどのエポキシ基を有するビニル系単量体を用いることができる。
【0081】
変性ビニル系重合体に、上記官能基としてアミノ基を導入するためのビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、及びp−アミノスチレンなどのアミノ基又はアミド基を有するビニル系単量体を用いることができる。
【0082】
また、変性ビニル系重合体に、上記官能基としてオキサゾリン基を導入するためのビニル系単量体としては、例えば、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、及び2−スチリル−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体を用いることができる。
【0083】
変性ビニル系重合体としては、メチルエチルケトン溶媒中、30℃の温度で測定した極限粘度[η]が0.20〜0.65dl/gの範囲のものが好ましく、0.35〜0.60dl/gの範囲のものがより好ましい。また、N,N−ジメチルホルムアミド溶媒中、30℃の温度で測定した場合には、極限粘度[η]が0.30〜0.90dl/gの範囲のものが好ましく、0.40〜0.75dl/gの範囲のものがより好ましい。これら範囲の極限粘度を有する変性ビニル系重合体を用いることにより、より優れた耐衝撃性及び成形加工性を有する本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0084】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関しては特に制限はなく、例えば、バンバリミキサー、ロール、エクストルーダー及びニーダー等で溶融混練することによって製造することができるが、配合成分の分散性の観点から二軸押出機を用いることが好ましい。また、溶融混練時の温度は、配合成分にもよるが通常150〜260℃程度である。
【0085】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、表面固有抵抗値及び体積固有抵抗値、帯電圧及び帯電圧減衰半減期が低く、安定した持続型制電性を有すると共に、金属イオンの含有量が極めて少なく、成形加工性及び表面外観に優れ、エラストマーとしての機械的物性にも優れる。
【0086】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、各種の熱可塑性樹脂を配合してもよい。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ナイロン6やナイロン6,6等のポリアミド樹脂、変性PPE樹脂、ポリアセタール樹脂、又はこれらの変性物やポリ乳酸等の植物性由来樹脂やポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー類を配合することにより、成形用樹脂組成物として性能をさらに改良することができる。
【0087】
また、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系又は含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系又はサリシレート系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類などの可塑剤、各種難燃剤、難燃助剤、カーボンブラック、顔料、及び染料などを添加することができる。また、各種強化材、充填材、各成分が酸・塩基性であった場合の中和剤などを添加することができる。
【0088】
上記によって得られた制電性熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形及びガスアシスト成形などの現在熱可塑性樹脂の成形に用いられる公知の方法によって成形することができ、特に制限されるものではない。
【実施例】
【0089】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物をさらに具体的に説明するために、以下、実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。下記の実施例および比較例中、特にことわりのない限り「部」および「%」で表示したものは、それぞれ重量部および重量%を表す。まず、制電性熱可塑性エラストマー樹脂組成物の各種物性の評価方法を下記する。
【0090】
(1)デュロメータ硬さ
シリンダー設定温度230℃、金型温度30℃に設定した東芝機械(株)製IS−50A成形機で、射出成形により得た50×60×2.5mm厚みの角板成形品について、温度23℃、湿度50%Rh環境下で24時間放置した後、該角板成形品を2枚重ねて、ISO 868の規定(1993年)に準拠し、デュロメータ硬さ(Dスケール)を測定した。試験片数は5個とした。
【0091】
(2)引張破断伸び(%)
ISO 178の規定(1993年)に準拠し、引張破断伸びを評価した。試験片数は5個とした。
【0092】
(3)表面固有抵抗値(Ω)/体積固有抵抗値(Ω・cm)
シリンダー設定温度230℃、金型温度30℃に設定した東芝機械(株)製IS−50A成形機で、射出成形により得た40×50×3mm厚みの角板成形品について、温度23℃、湿度50%Rh環境下で24時間放置した後、ASTM D257(1990年)に準拠して表面固有抵抗値及び体積固有抵抗値を測定した。印加電圧500V、1分後の固有抵抗値を読みとった。試験片数は3個とした。
【0093】
[参考例1]ポリエステル共重合体(A)
・ポリエステル共重合体(A−1)
東レ・デュポン(株)製熱可塑性エラストマー“ハイトレル”(登録商標)4047を使用した。
・ポリエステル共重合体(A−2)
東レ・デュポン(株)製熱可塑性エラストマー“ハイトレル”(登録商標)7247を使用した。
【0094】
[参考例2]ポリアミド共重合体(B)
・ポリアミド共重合体(B−1)の調製
ε−カプロラクタム45部、数平均分子量1,800のビスフェノールAのエチレンオキシド付加物45部、数平均分子量が1,800のポリエチレングリコール5部、テレフタル酸5.2部、および“イルガノックス”(登録商標)1098(酸化防止剤)0.2部を反応容器に仕込み、窒素パージして260℃の温度で60分間加熱攪拌して透明な均質溶液とした後、0.07kPa以下まで減圧した。テトラブチルチタネート0.1部を加えて、圧力は0.07kPa以下、温度は260℃の条件で、2時間反応させた。得られたポリマーをストランド状に吐出させ、カットしてペレット状のポリエーテルエステルアミド(B−1)を得た。
・ポリアミド共重合体(B−2)
ARKEMA社製ポリエーテルブロックアミド共重合体“ペバックス”(登録商標)4033を使用した。
【0095】
[参考例3]スチレン系樹脂の調製
各グラフト共重合体のグラフト率は、次の方法で求めた。グラフト共重合体の所定量(m)に、アセトンを加え4時間還流した。この溶液を8000rpm(遠心力10,000G(約100×10m/s))の回転で30分遠心分離した後、不溶分を濾過した。この不溶分を、70℃の温度で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は、次式で求めた。
・グラフト率(%)=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100
(式中、Lはグラフト共重合体のゴム含有率である。)。
【0096】
グラフト共重合体(C−1)の調製
ポリブタジエンラテックス(平均ゴム粒子径0.3μm、ゲル含率85%)60部(固形分換算)に、スチレン70%とアクリロニトリル30%からなる単量体混合物40部を加えて乳化重合した。得られたグラフト共重合体を硫酸で凝固した後、水酸化ナトリウムで中和し、洗浄、濾過、乾燥することにより、パウダー状のグラフト共重合体(C−1)を得た。
【0097】
得られたグラフト共重合体(C−1)のグラフト率は36%であった。このグラフト共重合体(C−1)は、スチレン構造単位70%およびアクリロニトリル構造単位30%からなる非グラフト性の共重合体を18.1%含有するものであった。また、N,N−ジメチルホルムアミド可溶分の極限粘度は、0.48dl/gであった。
【0098】
ビニル系共重合体(C−2)の調製
スチレン75%とアクリロニトリル25%からなる単量体混合物を懸濁重合して、ビニル系共重合体(C−2)を得た。得られたビニル系共重合体(C−2)のN,N−ジメチルホルムアミド可溶分の極限粘度は、0.73であった。
【0099】
[参考例3]有機イオン導電剤
・有機イオン導電剤(D−1)
1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(日本カーリット社製)を使用した。
・有機イオン導電剤(D−2)
1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート(日本カーリット社製)を使用した。
【0100】
[実施例1〜7、比較例1〜5]
上記の参考例1〜4に示したポリエステル共重合体(A−1)〜(A−2)、ポリアミド共重合体(B−1)〜(B−2)、スチレン系樹脂(C−1)〜(C−2)、有機イオン導電剤(D−1)〜(D−2)表1に示した配合比で配合し、ベント付30mmφ2軸押出機((株)池貝製PCM−30)を使用して溶融混練(バレル設定温度230℃)し、押出しを行うことによって、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を製造した。次いで、射出成形機を用い、シリンダー温度230℃、金型温度30℃で射出成形し、上記の熱可塑性樹脂組成物からなる試験片を成形した。試験片について、上記の条件で物性を測定し、結果を表1および2に併せて示した。
【0101】
表1に示すように、本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物(実施例1〜7)は、いずれも表面固有抵抗値、体積固有抵抗値が優れ、表面硬度が低く、伸び特性に優れるとともに成形加工性にも優れていた。
【0102】
【表1】

【0103】
一方、表2に示すように、有機イオン導電剤を含まない(比較例1と2)或いは0.01重量部未満(比較例3)の熱可塑性樹脂組成物は、表面固有抵抗値及び体積固有抵抗値が高かった。また、有機イオン導電剤が20重量部を超える熱可塑性エラストマー樹脂組成物(比較例4)は、押出性に問題があり造粒することができなかった。スチレン系樹脂を多く含む熱可塑性樹脂組成物(比較例5)は、表面硬度が高くなると共に伸び特性が大幅に低下し、エラストマーとしての柔軟性を著しく損なった。
【0104】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、表面固有抵抗値及び体積固有抵抗値が低く、安定した持続型制電性を有すると共に、金属イオンの含有量が極めて少なく、成形加工性及び表面外観に優れ、エラストマーとしての機械的物性にも優れた成形品を与えることができる。本発明の制電性熱可塑性樹脂組成物は、エラストマーとしての機械的特性を維持しながら、従来と同等以上の優れた表面固有抵抗値及び体積固有抵抗値を有し、また金属イオン含有量も少ないことから、金属イオンの存在及び静電気を嫌うOA機器、家電分野、電気・電子分野、自動車分野等の各種部品、ハウジング、パッケージ、チューブ、被覆関係材、雑貨関係の材料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族若しくは芳香族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)を構成成分とするポリエステル共重合体(A)100重量%、主として結晶性脂肪族若しくは芳香族ポリアミド単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(b1)と、脂肪族若しくは芳香族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族若しくは芳香族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b2)を構成成分とするポリアミド共重合体(B)100重量%、あるいはポリエステル共重合体(A)3〜97重量%及びポリアミド共重合体(B)97〜3重量%からなる共重合体混合物100〜46重量部並びにスチレン系樹脂0〜54重量部からなる熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、有機イオン導電剤を0.01〜20重量部配合してなる制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル共重合体(A)成分における高融点結晶性重合体セグメント(a1)の主たる構成成分が、ポリブチレンテレフタレート単位を主たる構成成分とする請求項1記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド共重合体(B)成分における高融点結晶性重合体セグメント(b1)の主たる構成成分が、炭素数6以上のアミノカルボン酸、炭素数6以上のラクタム、又は、炭素数6以上のジアミンと炭素数6以上のジカルボン酸との反応物である請求項1又は2記載の制電性熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステル共重合体(A)における低融点重合体セグメント(a2)又はポリアミド共重合体(B)における低融点重合体セグメント(b2)が、数平均分子量200〜6000のポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび数平均分子量が1,000〜3,000である次の一般式(I)〜(III)
【化1】

(式中、R、Rはそれぞれ独立にエチレン基又はプロピレン基を表し、Yは共有結合、炭素数1〜6のアルキレン基、炭素数2〜6のアルキリデン基、炭素数7〜17のシクロアルキリデン基、炭素数7〜17のアリールアルキリデン基、O、SO、SO、CO、S、CF、C(CF又はNHを表し、X〜X12はそれぞれ独立に水素、炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン、SOH又はその金属塩を表し、mおよびnは重合度を表す。)からなる群から選ばれた1種又は2種以上のジオール化合物を構成成分として含有する請求項2〜4のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエステル共重合体(A)における低融点重合体セグメント(a2)が、数平均分子量200〜6000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール若しくはそれらのエチレンオキシド付加物、又はエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアミド共重合体(B)における低融点重合体セグメント(b2)が、数平均分子量200〜6000のポリエチレンオキシドグリコールを構成成分として含有する請求項1〜5のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
有機イオン導電剤が、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩又はホスホニウム塩である請求項1〜6のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
有機イオン導電剤が、次の一般式(1)又は(2)
【化2】

(式中、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜5のアルキル基を表し、R、R及びRはそれぞれ独立に水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、Xは(CFSON、(CSON、(CFSOC又はCFSOを表す。)で示される化合物である請求項1〜7のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
有機イオン導電剤が、一般式(1)又は(2)において、XがCFSO又は(CFSONである請求項8記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
有機イオン導電剤が、1−ブチル−3−メチルピリジニウム・トリフルオロメタンスルホナート又は1−ブチル−3−メチルピリジニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである請求項1〜9のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
スチレン系樹脂が、芳香族ビニル系単量体及び該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体を含有してなる請求項1〜10のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
スチレン系樹脂が、ゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体及び該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体を含有してなる請求項1〜11のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
スチレン系樹脂が、芳香族ビニル系単量体及び該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体とが共重合したビニル系共重合体、並びにゴム質重合体に、芳香族ビニル系単量体及び該芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体とを含有してなる請求項1〜12のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の制電性熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2010−196007(P2010−196007A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45560(P2009−45560)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】