説明

制電性複合材料及びその製造方法

【課題】優れた制電性を有し、導電性材料による着色の影響の少ない制電性複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基材の片面のみが導電性材料により被覆された複合材料であって、被覆されている面の表面抵抗値が1.0×109Ω以下であることを特徴とする制電性複合材料、並びに、導電性重合体形成性モノマーの溶液を繊維基材に付与することにより、該モノマーの付着量を0.8〜4.0%o.w.f.とする工程、若しくは、導電性重合体形成性モノマーの溶液をプラスチックフィルム又はシート基材に付与することにより、該モノマーの付着量を0.2〜1.5g/m2とする工程、及び、酸化剤溶液を基材に付与する工程を有し、該モノマーの溶液及び酸化剤溶液を付与する工程が、溶液をスプレー、コーティング又はプリントする工程であり、基材の片面のみにおいて該モノマーを重合せしめた導電性材料で被覆することを特徴とする制電性複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性複合材料及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、優れた制電性を有し、導電性材料による着色の影響の少ない制電性複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維などの原料として用いられる重合体は疎水性であり、静電気により帯電しやすいために、帯電を抑える目的で、帯電防止剤や導電性付与剤などを施す制電加工が行われている。帯電防止剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルエトキシホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのカチオン性、アニオン性又は非イオン性の界面活性剤、カチオン化されたジメチルアミノエチルメタクリレート重合体又は共重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体などが用いられている。また、導電性付与剤としては、導電性フィラーをバインダー中に分散させた導電性塗料を塗布する方法、界面活性剤を基材中に練り混む方法、界面活性剤により表面処理する方法、金、パラジウムなどの金属や酸化インジウムなどの金属酸化物を蒸着する方法などにより、制電加工が行われている。
しかし、これらの方法は、冬場などの乾燥時期や、クリーニング後の乾燥工程を出た直後などの低湿度環境下では、制電性能が十分ではないという問題がある。また、界面括性剤や水溶性高分子を帯電防止剤として用いると、洗濯などにより、繊維状製品から帯電防止剤が容易に溶出若しくは脱落してしまい、制電性能を十分に維持することができないという問題がある。
一方、ピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体から得られる重合体は、電子共役系ポリマーとも呼ばれ、優れた制電性能を有し、種々の静電防止塗料、静電防止素材などとして利用されている。従来から、これらの導電性重合体形成性モノマーの重合体は、モノマーと導電性塩の存在下に、電解反応により陽極上に重合体が析出される電気化学的方法により重合させる電界重合法と、モノマーと化学酸化剤の存在下で水系で重合させる酸化重合法が知られている。
導電性重合体形成性モノマーを酸化重合して形成される導電性重合体の生成過程は、エピタキシャル生長と言われ、形成される導電性重合体の性能から、導電性重合体形成性モノマーの酸化重合は、水溶液を静置して低温でゆっくりと行うのがよいとされてきた。このために、従来、織布、編布、不織布、糸などの繊維基材に、導電性重合体形成性モノマーを酸化重合して導電性重合体被膜を形成する場合には、単にモノマーと酸化剤とを含有する導電化処理液に繊維基材を浸漬する方法が採用されていた。例えば、優れた導電性を有し、かつ導電性の耐久力に優れた導電性複合体を、容易に製造することができる方法として、被導電処理材を処理液中に浸漬し、該処理液中で電子共役系ポリマーを形成し得るモノマーとドーパント作用を有する酸化重合剤とに接触せしめ、かつ酸化重合剤とともにドーパントを併用する方法が提案されている(特許文献1)。
この方法では、モノマーと酸化剤を含んだ溶液に繊維基材を浸漬処理するために、繊維基材に対して2%o.w.f.以上のモノマーが必要であり、さらに長時間浸漬する必要があった。また、浸漬処理なので、モノマーを繊維に十分に吸着させるために、多量のモノマーが必要であった。さらに、繊維基材全体を浴に長時間浸漬させて処理を行うために、一度に処理できる繊維基材の量は限られ、処理における効率はよくなかった。また、生成した電子共役系ポリマーで被覆した材料は良好な制電性能を有するが、電子共役系ポリマ
ーであるが故に特有の着色があり、使用目的が制限されるという問題があった。
高性能の導電性を有するとともに洗濯耐久性があり、摩擦や放置による性能低下の少ない導電性繊維製品を製造する方法として、繊維に酸化剤と電子を授受する制御物質を含浸させ、次いでピロールの蒸気を20℃以下の雰囲気で付与させて繊維表面部にピロールの重合体を形成させる導電性繊維製品の製造方法が提案されている(特許文献2)。
しかし、この方法では、ピロールを蒸気として付与するために均一性に乏しく、処理時間も10〜24時間と非常に長い時間が必要であった。また、生成した電子共役系ポリマーで被覆した材料は良好な制電性能を有するが、電子共役系ポリマーであるが故に特有の着色があり、使用目的が制限されるという問題があった。
【特許文献1】特公平6−18083号公報
【特許文献2】特開昭62−299575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、優れた制電性を有し、導電性材料による着色の影響の少ない制電性複合材料及びその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、基材の片面のみが導電性材料で被覆され、被覆されている面の表面抵抗値を1.0×109Ω以下とすることにより、導電性材料により被覆されていない面においても優れた制電性が発現し、かつ導電性材料による着色の影響の少ない制電性複合材料が得られることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)基材の片面のみが導電性材料により被覆された複合材料であって、被覆されている面の表面抵抗値が1.0×109Ω以下であることを特徴とする制電性複合材料、
(2)基材が繊維基材であって、繊維基材が被覆された繊維基材表面から繊維基材の厚さ方向に対して、40〜95%の比率で導電性材料により被覆されてなる(1)に記載の制電性複合材料、
(3)導電性材料が、ピロール、チオフェン、アニリン及びそれらの誘導体からなる群から選択された少なくとも1種の導電性重合体形成性モノマーの重合体である(1)又は(2)に記載の制電性複合材料、
(4)導電性重合体形成性モノマーの溶液を繊維基材に付与することにより、該モノマーの付着量を0.8〜4.0%o.w.f.とする工程、及び、酸化剤溶液を基材に付与する工程を有し、該モノマーの溶液及び酸化剤溶液を付与する工程が、溶液をスプレー、コーティング又はプリントする工程であり、基材の片面のみにおいて該モノマーを重合せしめた導電性材料で被覆することを特徴とする制電性複合材料の製造方法、及び、
(5)導電性重合体形成性モノマーの溶液をプラスチックフィルム又はシート基材に付与することにより、該モノマーの付着量を0.2〜1.5g/m2とする工程、及び、酸化剤溶液を基材に付与する工程を有し、該モノマーの溶液及び酸化剤溶液を付与する工程が、溶液をスプレー、コーティング又はプリントする工程であり、基材の片面のみにおいて該モノマーを重合せしめた導電性材料で被覆することを特徴とする制電性複合材料の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の制電性複合材料は、基材の片面のみが導電性材料により被覆され、その面の表面抵抗値が1.0×109Ω以下であり、導電性材料で被覆されていない面には、導電性材料による着色の影響がなく、しかも導電性材料で被覆されていない面にも制電効果が発現する。本発明方法によれば、導電性重合体形成性モノマーの溶液と、酸化剤溶液を基材に付与し、基材の片面のみにおいて該モノマーを重合せしめることにより、本発明の制電性複合材料を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の制電性複合材料は、基材の片面のみが導電性材料で被覆された複合材料であって、被覆されている面の表面抵抗値が1.0×109Ω以下での複合材料である。本発明の制電性複合材料は、被覆されている面の表面抵抗値が5.0×107Ω以下であることがより好ましい。本発明において、表面抵抗値は、二端子法の表面抵抗計を用いて、20℃、相対湿度40%において測定した値である。すなわち、20℃、相対湿度40%において、真鍮製電極2本を20mm間隔で制電性複合材料の導電性材料で被覆されている面上に置き、印加電圧100〜1,000Vをかけて、抵抗値を測定することができる。
本発明に用いる基材に特に制限はなく、例えば、繊維基材、プラスチックフィルム又はシート、紙などを挙げることができる。繊維基材としては、例えば、綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ポリアミド、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、芳香族ポリイミドなどの合成繊維、これらの2種以上の繊維の混紡、混繊などにより得られる複合繊維などを挙げることができる。本発明に用いる繊維基材の形態に特に制限はなく、例えば、織布、編布、不織布、組物、レース、網などを挙げることができる。繊維基材としては、糊抜、精錬、セットを行った晒上げの布帛を用いることができ、さらに染色、フィックス処理を行った色物の布帛を用いることもできる。
【0007】
本発明において、基材として用いるプラスチックフィルム又はシートとしては、例えば、ポリビニルアルコール、セロファン、セルロースエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ナイロン6、ナイロン66、イオン電解質モノマーの重合体若しくは該モノマーと他のモノマーとの共重合体などの高吸水性樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの低吸水性樹脂などよりなるフィルム又はシートを挙げることができる。フィルム又はシートの厚さは、10μm〜1mmであることが好ましく、15μm〜0.5mmであることがより好ましい。フィルムの厚さが10μm未満であると、導電性材料により被覆する工程の作業性が低下するおそれがある。シートの厚さが1mmを超えると、非被覆面における制電性が十分に発現しないおそれがある。
本発明において、基材として用いる紙としては、例えば、広葉樹、針葉樹などから得られる木材パルプ、バガス、ケナフ、竹パルプ、古紙再生パルプなどの植物繊維、パルプモールドなどの繊維材料、レーヨン、ポリエステルなどの合成繊維、カーボン繊維などの繊維状無機材料、これらの2種以上からなる繊維を膠着させて製造された中性紙、酸性紙、合成紙、再生紙などを挙げることができる。
【0008】
本発明に用いる基材が繊維基材である場合、繊維基材が被覆された繊維基材表面から繊維基材の厚さ方向に対して、40〜95%の比率で導電性材料により被覆されていることが好ましく、70〜90%の比率で導電性材料により被覆されていることがより好ましい。繊維基材の厚さ方向に対して導電性材料により被覆されている部分が40%未満であると、非被覆面における制電性が十分に発現しないおそれがある。繊維基材の厚さ方向に対して導電性材料により被覆されている部分が95%を超えると、非被覆面に導電材料による着色が現れて外観に悪影響を及ぼすおそれがある。
本発明に用いる導電性材料としては、例えば、金属、導電性重合体、界面活性剤などを挙げることができる。これらの中で、導電性重合体は、基材に高い制電性を与えることができるので、好適に用いることができる。導電性重合体としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフラン、ポリインドール、それらの誘導体などを挙げることができる。これらの導電性重合体はピロール、チオフェン、アニリン、フラン、インドール、それらの誘導体などの導電性重合体形成性モノマーを、酸化剤の存在下に重合させることにより得ることができる。これらの導電性重合体形成性モノマーは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの導電性重合体形成性モノマー中で、ピロール、チオフェン、アニリン及びそれらの誘導体は、基材に高い制電性を与えるので、特に好適に用いることができる。
【0009】
ピロールの誘導体としては、例えば、N−メチルピロールなどのN−置換ピロール、3−メチルピロール、3−オクチルピロールなどの3−置換ピロール、4−メチルピロール−3−カルボン酸メチルなどの3,4−二置換ピロール、3,5−ジメチルピロールなどの3,5−二置換ピロールなどを挙げることができる。チオフェンの誘導体としては、例えば、2−チオフェンカルボン酸などの2−置換チオフェン、3−メチルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−チオフェンカルボン酸などの3−置換チオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどの3,4−二置換チオフェンなどを挙げることができる。アニリンの誘導体としては、例えば、o−メチルアニリン、o−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、o−クロルアニリンなどのo−置換アニリン、m−メチルアニリン、m−メトキシアニリン、m−クロルアニリンなどのm−置換アニリン、p−メチルアニリン、p−メトキシアニリン、p−エトキシアニリン、p−クロルアニリンなどのp−置換アニリンなどを挙げることができる。
【0010】
本発明の制電性複合材料の製造方法の第一の態様は、導電性重合体形成性モノマーの溶液を繊維基材に付与することにより、該モノマーの付着量を0.8〜4.0%o.w.f.とする工程、及び、酸化剤溶液を基材に付与する工程を有し、該モノマーの溶液及び酸化剤溶液を付与する工程が、溶液をスプレー、コーティング又はプリントする工程であり、基材の片面のみにおいて該モノマーを重合せしめた導電性材料で被覆する。
本発明の制電性複合材料の製造方法の第二の態様は、導電性重合体形成性モノマーの溶液をプラスチックフィルム又はシート基材に付与することにより、該モノマーの付着量を0.2〜1.5g/m2とする工程、及び、酸化剤溶液を基材に付与する工程を有し、該モノマーの溶液及び酸化剤溶液を付与する工程が、溶液をスプレー、コーティング又はプリントする工程であり、基材の片面のみにおいて該モノマーを重合せしめた導電性材料で被覆する。
本発明方法の第一の態様においては、導電性重合体形成性モノマーの付着量を1.2〜4.0%o.w.f.とすることが好ましい。本発明方法の第二の態様においては、導電性重合体形成性モノマーの付着量を0.3〜1.0g/m2とすることが好ましい。繊維基材への導電性重合体形成性モノマーの付着量が0.8%o.w.f.未満であると、制電性が十分に発現しないおそれがある。繊維基材への導電性重合体形成性モノマーの付着量が4.0%o.w.f.を超えると、繊維基材の風合いが損なわれるおそれがある。プラスチックフィルム又はシートへの導電性重合体形成性モノマーの付着量が0.2g/m2未満であると、制電性が十分に発現しないおそれがある。プラスチックフィルム又はシートへの導電性重合体形成性モノマーの付着量が1.5g/m2を超えると、プラスチックフィルム又はシートの柔軟性が損なわれるおそれがある。
【0011】
本発明方法に使用する酸化剤としては、例えば、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩、三酸化クロム、二クロム酸ナトリウム、二クロム酸カリウム、二クロム酸銀などのクロム酸類、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸銀などの硝酸塩、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウムなどのペルオキソ二硫酸塩、次亜塩素酸、次亜塩素酸カリウムなどの酸素酸類、過塩素酸鉄(III)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)などの三価の鉄化合物、塩化銅などの遷移金属塩化物などを挙げることができる。これらの酸化剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中で、ペルオキソ二硫酸塩は、反応性が良好であり、高い導電性を有する制電性複合材料を容易に得ることができるので、特に好適に用いることができる。
本発明方法において、基材に付与する酸化剤は、導電性重合体形成性モノマーの0.1〜3当量倍であることが好ましく、0.5〜1.5当量倍であることがより好ましい。基材に付与する酸化剤が導電性重合体形成性モノマーの0.1当量倍未満であると、導電性重合体が十分に形成されず、制電性が不足するおそれがある。基材に付与する酸化剤が導電性重合体形成性モノマーの3当量倍を超えると、基材が酸化により劣化するおそれがある。
【0012】
本発明方法において、導電性重合体形成性モノマーの溶液及び酸化剤溶液を調製するための溶媒としては、水又は親水性有機溶媒と水との混合溶媒を挙げることができる。水と混合溶媒を形成する親水性有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート、3−メトキシ−3−メチルブタノールなどのグリコール類及びそれらの誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリルなどを挙げることができる。親水性有機溶媒と水の混合溶媒における水の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。混合溶媒における水の含有量が1質量%未満であると、導電性重合体形成性モノマーの反応が十分に進行せず、十分な制電性が得られないおそれがある。
【0013】
本発明方法においては、導電性重合体形成性モノマーの溶液を付与する工程と酸化剤溶液を付与する工程において、溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより基材に付与する。溶液をスプレー、コーティング又はプリントにより基材に付与することにより、選択的に基材の表面においてモノマーを重合して導電性重合体を形成し、効果的に基材に制電性を与えることができる。
本発明方法において、基材に導電性重合体形成性モノマーの溶液及び酸化剤溶液を付与する順序に特に制限はなく、例えば、基材に導電性重合体形成性モノマーの溶液を付与したのち、酸化剤溶液を付与することができ、基材に酸化剤溶液を付与したのち、導電性重合体形成性モノマーの溶液を付与することもでき、基材に導電性重合体形成性モノマーの溶液と酸化剤溶液を同時に付与することもできる。
本発明方法において、導電性重合体形成性モノマーの溶液又は酸化剤溶液をコーティングする方法として、溶液を泡状にして被処理材に付着させる泡加工コーティング法を好適に用いることができる。泡加工コーティング法によれば、起泡した溶液を必要量のみ基材に付与することができ、したがって乾燥に要するエネルギー及び時間を大幅に短縮することができ、また溶液を全量無駄なく使用することができる。
本発明方法において、溶液をプリント又はコーティングにより被処理材に付与する場合には、溶液を加工に適した粘度に調整することが好ましい。粘度調整に用いる粘度調整剤に特に制限はなく、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ザンタンガム、デンプン糊などを挙げることができる。
【0014】
本発明方法において、スプレー法としては、例えば、圧搾空気により溶液を霧状にして吹き付けるエアスプレー、液圧霧化方式のエアレススプレー、スプレーガンと基材の間に静電界を形成して、溶液の粒子を負に帯電させ、正に帯電した基材に効率よく塗着させる静電スプレーなどを挙げることができる。コーティング法としては、例えば、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、カーテンコーター、カレンダコーターなどを用いるコーティングを挙げることができる。プリント法としては、例えば、ローラー捺染機、フラットスクリーン捺染機、ロータリースクリーン捺染機などを用いるプリントを挙げることができる。
本発明方法においては、基材の導電性をさらに向上させるために、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン類、五酸化リンなどのルイス酸、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、1,5−ナフタレンスルホン酸、サリチル酸、酢酸、安息香酸などのプロトン酸などの酸類や、これらの可溶性塩や、ポリカルボン酸系ポリマーをドーパントとして添加することができる。また、導電性の耐久性を向上させるために、抗酸化剤、紫外線吸収剤を併用することができる。さらに、繊維の風合い及び制電性を損なわない範囲で、導電処理後、スプレー法、浸漬法、コーティング法、転写法などにより1〜2μm程度のポリマー層を繊維基材表面に形成することができる。
【実施例】
【0015】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、制電性複合材料の制電性、着色による影響度、繊維基材の厚さ方向に対する被覆率は、下記の方法により評価した。
(1)制電性
(a)表面抵抗値
試料を温度20℃、相対湿度40%の室内に24時間放置したのち、表面抵抗計[東亜電波工業(株)、SUPER MEGOHMMETER SM−5E]を用い、表面抵抗値に応じて印加電圧を100〜1,000Vの範囲で調整して測定した。
(b)摩擦帯電圧
試料を温度20℃、相対湿度40%の室内に24時間放置したのち、JIS L 1094に従い、摩擦帯電圧測定器[(株)大栄科学精機製作所、ロータリースタティックテスター MRS−500D]を用い、摩擦布を綿として測定した。
(2)導電性材料の厚さ方向における被覆層の比率
試料の厚さ方向の断面部分を走査型電子顕微鏡[(株)日立製作所、S−2400]を用いて写真撮影し、写真において被覆した基材表面からの導電性材料部分の映像が占める層の厚さを、基材の厚さに対する百分率で表し、被覆層比率とした。
(3)非被覆面の導電性材料による着色
試料の非被覆面を目視により観察し、導電性材料による着色を以下の3段階の評価基準により評価した。
○:非被覆面に、導電性材料による着色が見られない。
△:非被覆面に、導電性材料による着色がわずかに見られる。
×:非被覆面の導電性材料による着色が著しい。
また、基材として、目付200g/m2の精練済みポリエステルニット、目付200g/m2のナイロンニット、厚さ30μmの延伸ポリプロピレンフィルム、厚さ20μmの延伸ポリエチレンフィルム、厚さ500μmの塩化ビニルシートを使用した。
【0016】
実施例1
ピロール4質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液50g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は3.6×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は295Vであり、被覆層比率は85%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例2
ピロール4質量部と3−メトキシ−3−メチルブタノール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液50g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は2.5×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は940Vであり、被覆層比率は40%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例3
ピロール4質量部とエチレングリコールモノメチルエーテル10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液50g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は8.5×105Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は1,350Vであり、被覆層比率は35%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例4
ピロール4質量部を、蒸留水96質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸カリウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液50g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は2.5×104Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は1,890Vであり、被覆層比率は10%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例5
アニリン4質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液50g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は4.6×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は386Vであり、被覆層比率は90%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
【0017】
実施例6
チオフェン4質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液50g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は8.4×105Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は486Vであり、被覆層比率は70%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例7
ピロール3質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水87質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。塩化鉄(III)六水和物10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液50g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は8.7×108Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は1,758Vであり、被覆層比率は80%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例8
ピロール4質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液50g/m2をスプレーして、3分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は3.5×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は246Vであり、被覆層比率は95%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例9
ピロール4.2質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水85.8質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液50g/m2をスプレーして、3分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は4.7×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は218Vであり、被覆層比率は98%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色がわずかに見られた。
実施例10
ピロール4質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、酸化剤溶液50g/m2をスプレーし、次にモノマー溶液100g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は2.4×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は305Vであり、被覆層比率は85%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
【0018】
実施例11
ピロール4質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2と酸化剤溶液50g/m2を同時にスプレーし、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は5.4×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は358Vであり、被覆層比率は85%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例12
ピロール4質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解し、起泡剤[花王(株)、アンヒトール(登録商標)20N]0.1質量部を添加し、泡加工機[Werner Mathis社、Mathis MINIMIX]を用いて20倍に発泡し、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーしたのち、酸化剤溶液50g/m2をアプリケーターを用いてコーティングし、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は6.5×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は456Vであり、被覆層比率は85%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例13
ピロール4質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解し、非イオン系増粘剤[日華化学(株)、ネオステッカー(登録商標)NT]を用いて粘度10Pa・sに調整して、酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をスプレーしたのち、酸化剤溶液50g/m2をプリントし、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は5.8×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は445Vであり、被覆層比率は85%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
実施例14
ピロール4質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水86質量部に溶解し、起泡剤[花王(株)、アンヒトール(登録商標)20N]0.1質量部を添加し、泡加工機[Werner Mathis社、Mathis MINIMIX」]を用いて20倍に発泡してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム10質量部を、蒸留水90質量部に溶解し酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液100g/m2をアプリケーターを用いてコーティングしたのち、酸化剤溶液50g/m2をスプレーし、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は5.6×106Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は386Vであり、被覆層比率は85%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
【0019】
比較例1
実施例1〜14に用いたポリエステルニットの表面抵抗値と摩擦帯電圧を測定した。表面抵抗値は6.0×1013Ωであり、摩擦帯電圧は6,809Vであった。
比較例2
ピロール2質量部とイソプロピルアルコール10質量部を、蒸留水88質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム2.5質量部を、蒸留水97.5質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエステルニットの片面に、モノマー溶液40g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液20g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は、2.5×109Ωあり、非被覆面の摩擦帯電圧は2,856Vであり、被覆層比率は80%であった。また、非被覆面に、導電性材料による着色は見られなかった。
比較例3
1Lのガラス製ビーカーに蒸留水800gを入れ、ピロール0.5gとp−トルエルスルホン酸3.7gを加えて溶解した。この溶液に、ポリエステルニット40gを浸漬し、塩化鉄(III)六水和物3.2gを徐々に加えたのち、4時間静置した。次いで、この布を蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の片面の表面抵抗値は、4.8×106Ωであり、他の面の摩擦帯電圧は166Vであり、被覆層比率は100%であった。また、制電性複合材料の両面は、黒色に着色していた。
実施例1〜14及び比較例1〜3の結果を、第1表に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
第1表に見られるように、ポリエステルニットの片面に、ピロール、チオフェン又はアニリンの溶液と酸化剤溶液を付与して、ピロール、チオフェン又はアニリンの付着量を1.5〜2.1%o.w.f.とし、重合せしめて被覆した実施例1〜14の制電性複合材料は、被覆面の表面抵抗値が2.5×104〜8.7×108Ωであり、被覆されていない面の摩擦帯電圧が218〜1,890Vであり、良好な制電性を有し、さらに、導電性材料による非被覆面の着色がほとんどなく外観も良好である。
これに対して、ピロールの付着量が0.4%o.w.f.である比較例2の制電性複合材料は、被覆面の表面抵抗値が2.5×109Ω、非被覆面の摩擦帯電圧が2,856Vであって、制電性が不足している。また、ポリエステルニットをピロールと塩化鉄(III)を含有する水溶液に浸漬した比較例3の制電性複合材料は、制電性は良好であるが、両面ともに黒色に着色している。
【0022】
実施例15〜28
ポリエステルニットの代わりに、ナイロンニットを用いて、実施例1〜14と同じ処理を行った。
比較例4
実施例15〜28に使用したナイロンニットの表面抵抗値と摩擦帯電圧を測定した。
比較例5〜6
ポリエステルニットの代わりに、ナイロンニットを用いて、比較例2〜3と同じ処理を行った。
実施例15〜28及び比較例4〜6の結果を、第2表に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
第2表に見られるように、ナイロンニットの片面に、ピロール、チオフェン又はアニリンの溶液と酸化剤溶液を付与して、ピロール、チオフェン又はアニリンの付着量を1.5〜2.1%o.w.f.とし、重合せしめて被覆した実施例15〜28の制電性複合材料は、被覆面の表面抵抗値が2.7×104〜8.8×108Ωであり、被覆されていない面の摩擦帯電圧が254〜1,920Vであり、良好な制電性を有し、さらに、導電性材料による非被覆面の着色がほとんどなく外観も良好である。
これに対して、ピロールの付着量が0.4%o.w.f.である比較例5の制電性複合材料は、被覆面の表面抵抗値が2.5×109Ω、非被覆面の摩擦帯電圧が2,956Vであって、制電性が不足している。また、ナイロンニットをピロールと塩化鉄(III)を含有する水溶液に浸漬した比較例6の制電性複合材料は、制電性は良好であるが、両面ともに黒色に着色している。
【0025】
実施例29
ピロール2質量部を、蒸留水98質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム5質量部を、蒸留水95質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリプロピレンフィルムの片面に、モノマー溶液30g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液15g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は3.5×103Ωあり、非被覆面の摩擦帯電圧は1,025Vであった。
実施例30
アニリン2質量部を、蒸留水98質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム5質量部を、蒸留水95質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリエチレンフィルムの片面に、モノマー溶液30g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液15g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は、4.2×104Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は1,205Vであった。
実施例31
チオフェン2質量部とイソプロピルアルコール5質量部を、蒸留水93質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム5質量部を、蒸留水95質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
塩化ビニル樹脂シートの片面に、モノマー溶液30g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液15g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は8.2×105Ωあり、非被覆面の摩擦帯電圧は1,524Vであった。
実施例32
ピロール1質量部を、蒸留水99質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。塩化鉄(III)六水和物3質量部を蒸留水97質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリプロピレンフィルムの片面に、モノマー溶液30g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液15g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は、8.7×108Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は2,015Vであった。
実施例33
ピロール2質量部を、蒸留水98質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム5質量部を、蒸留水95質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリプロピレンフィルムの片面に、酸化剤溶液15g/m2をスプレーし、次にモノマー溶液30g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は、5.6×104Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は1,545Vであった。
実施例34
ピロール2質量部を、蒸留水98質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム5質量部を、蒸留水95質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリプロピレンフィルムの片面に、モノマー溶液30g/m2と酸化剤溶液15g/m2を同時にスプレーし、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は4.8×104Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は1,785Vであった。
【0026】
比較例7〜9
実施例29〜34に使用したポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム及び塩化ビニル樹脂シートの表面抵抗値と摩擦帯電圧を測定した。
比較例10
ピロール2質量部を、蒸留水98質量部に溶解してモノマー溶液を調製した。ペルオキソ二硫酸アンモニウム5質量部を、蒸留水95質量部に溶解して酸化剤溶液を調製した。
ポリプロピレンフィルムの片面に、モノマー溶液6g/m2をスプレーし、次に酸化剤溶液3g/m2をスプレーして、2分間放置した。次いで、蒸留水で洗浄し、120℃で2分間乾燥して制電性複合材料を得た。
得られた制電性複合材料の被覆面(スプレー面)の表面抵抗値は、2.5×109Ωであり、非被覆面の摩擦帯電圧は3,054Vであった。
実施例29〜34及び比較例7〜10の結果を、第3表に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
第3表に見られるように、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム又は塩化ビニル樹脂シートの片面にピロール、チオフェン又はアニリンの溶液と酸化剤溶液を付与して、ピロール、チオフェン又はアニリンの付着量を0.3〜0.6g/m2とし、重合せしめて被覆した実施例29〜34の制電性複合材料は、被覆面の表面抵抗値が3.5×103〜8.7×108Ωであり、被覆されていない面の摩擦帯電圧が1,025〜2,015Vであり、良好な制電性を有している。
これに対して、ピロールの付着量が0.12g/m2である比較例10の制電性複合材料は、被覆面の表面抵抗値が2.5×109Ω、非被覆面の摩擦帯電圧が3,054Vであって、制電性が不足している。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の制電性複合材料は、基材の片面のみが導電性材料で被覆され、その面の表面抵抗値が1.0×109Ω以下であり、導電性材料で被覆されていない面には、導電性材料による着色の影響がなく、しかも導電性材料で被覆されていない面にも制電効果が発現する。本発明方法によれば、導電性重合体形成性モノマーの溶液と、酸化剤溶液を基材に付与し、基材の片面のみにおいて該モノマーを重合せしめることにより、本発明の制電性複合材料を効率的に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面のみが導電性材料により被覆された複合材料であって、被覆されている面の表面抵抗値が1.0×109Ω以下であることを特徴とする制電性複合材料。
【請求項2】
基材が繊維基材であって、繊維基材が被覆された繊維基材表面から繊維基材の厚さ方向に対して、40〜95%の比率で導電性材料により被覆されてなる請求項1に記載の制電性複合材料。
【請求項3】
導電性材料が、ピロール、チオフェン、アニリン及びそれらの誘導体からなる群から選択された少なくとも1種の導電性重合体形成性モノマーの重合体である請求項1又は請求項2に記載の制電性複合材料。
【請求項4】
導電性重合体形成性モノマーの溶液を繊維基材に付与することにより、該モノマーの付着量を0.8〜4.0%o.w.f.とする工程、及び、酸化剤溶液を基材に付与する工程を有し、該モノマーの溶液及び酸化剤溶液を付与する工程が、溶液をスプレー、コーティング又はプリントする工程であり、基材の片面のみにおいて該モノマーを重合せしめた導電性材料で被覆することを特徴とする制電性複合材料の製造方法。
【請求項5】
導電性重合体形成性モノマーの溶液をプラスチックフィルム又はシート基材に付与することにより、該モノマーの付着量を0.2〜1.5g/m2とする工程、及び、酸化剤溶液を基材に付与する工程を有し、該モノマーの溶液及び酸化剤溶液を付与する工程が、溶液をスプレー、コーティング又はプリントする工程であり、基材の片面のみにおいて該モノマーを重合せしめた導電性材料で被覆することを特徴とする制電性複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2007−277771(P2007−277771A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107662(P2006−107662)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】