説明

制震架構

【課題】構造物がコア構造体と、平面上の外周位置に配置される外周構造体の2通りの構造体から構成される場合に、外周構造体を水平力の負担から解放させることで、外周構造体の形態上の自由度を増すと共に、外周構造体に組み込まれるダンパーの減衰力を高める。
【解決手段】水平二方向を向く耐震要素2cを含む構面を持つコア構造体2と、構造物の平面上の外周位置に配置され、少なくとも水平二方向を向く構面を構成する複数本の柱31を持つ外周構造体3と、コア構造体2と外周構造体3との間、及び外周構造体3を構成する柱31,31間に架設される水平材4から制震架構1を構成する。水平材4をコア構造体2と外周構造体3の柱31のそれぞれにピン接合、もしくは半剛接合状態で接合すると共に、外周構造体3の隣接する柱31,31にピン接合、もしくは半剛接合状態で接合し、隣接する柱31,31間にダンパー6を備えたダンパーブレース5を架設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物の制震架構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の平面計画をする上で、二方向の耐震要素を集約させたコアを平面上のいずれかの領域に配置する場合、通常は構造物が振動を生ずるときに捩れを生じないよう、重心と剛心間の偏心距離が極力小さくなるようにコアと周辺架構の配置が決められる。
【0003】
但し、例えばコアを平面上の中心(重心)位置から外れた領域に配置せざるを得ず、その関係で剛心が重心から離れるような場合には、偏心の影響を低減し、構造物に捩れ振動を発生させないようにするには、構造物の外周部に架構の剛性を高め、コアに集約している剛性を分散させるための柱部材と梁部材を配置することが必要になることがある。
【0004】
しかしながら、剛性の偏りを相殺させるために、剛性の高い部材を付加することは、構造物の質量を不必要に増大させる不都合がある。それに加え、剛性の高い柱部材と梁部材の接合部の耐力を確保するための補強筋の配筋量が膨大になる他、高強度コンクリートの使用が必要になる等、施工上、並びに工費上の不利益も大きくなる。
【0005】
構造物の平面上の外周部に柱部材を配列させることで、多数の柱部材からチューブ架構を形成することも考えられるが、この方法もコアの配置に伴う偏心の影響を低減する目的で周辺架構の剛性を高める点では上記方法と共通するため、構造物の質量を必要以上に増す結果を招く。
【0006】
一方、建築計画上の制限から、構造物の外周部に剛性と耐力の高い部材、あるいは架構を配置できないとすれば、構造物自体が耐震性に余裕(余力)のない構造になる。
【0007】
剛性の高い部材を付加することなく、構造物の平面上の外周部に配置される周辺の架構(構造体)の内部に減衰力を発生するダンパーを組み込むことをすれば(特許文献1参照)、架構の剛性の低さを生かしながら、架構の変形量を振動減衰に利用することが可能であるため、架構の剛性を上げる必要がなく、振動減衰(エネルギ吸収)効果を期待することも可能になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−227449号公報(請求項1、段落0013〜0021、図1〜図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、相対的に剛性の低い架構(柔構面)と、剛性の高い架構(剛構面)を互いに平行な構面をなすように組み合わせ、柔構面が剛構面に対して相対的に振動を生じたときの、柔構面の変形時にダンパーを機能させている。柔構面を水平二方向に向ける場合(図11−(b))も同様である。この関係で、剛性を相対的に弱くしようとしている柔構面を構成する柱梁接合部の一部をピン接合、もしくは半剛接合としている(図3、図5)。
【0010】
但し、建物全体はもともとラーメン架構で構成されているため、柔構面の全ての接合部をピン接合、もしくは半剛接合とすると架構として成立しなくなる。また、柔架構に交差(直交)する構面も重要な耐震構面であるから、同様の理由で、その全ての接合部をピン接合、もしくは半剛接合とすることはできない。従って、柔構面の一部にピン接合や半剛接合を含む、複数の接合ディテールが混在することになる。
【0011】
同一構面に複数のディテールが混在すると、コストアップの要因となるだけでなく、変形の大きくなる柔構面に残された剛接合部分に生じる応力的な負担が大きくなり、強度の確保のための材料費の増加を招く他、建築計画に与える制限は従来の剛接合方式と何ら変わるところはないため、建築計画上の利益は大きくない。
【0012】
本発明は上記背景より、ダンパーを設置する外周構面を全て剛接合から解放し、外周構面の接合部や柱を地震時の応力負担から解放することで、材料の効率の高い、低コストで軽微な構造形式として建築計画の自由度を大幅に向上させることに加え、ダンパー効果の大幅な増大による高い耐震性能を有する形態の制震架構を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明の制震架構は、少なくとも水平二方向を向く耐震要素を含む構面を持つコア構造体と、構造物の平面上の外周位置に配置され、少なくとも水平二方向を向く構面を構成する複数本の柱を持つ外周構造体と、前記コア構造体と前記外周構造体との間、及び前記外周構造体を構成する柱間に架設される水平材を備え、
前記水平材が前記コア構造体と前記外周構造体の柱のそれぞれにピン接合、もしくは半剛接合状態で接合されると共に、前記外周構造体の隣接する前記柱にもピン接合、もしくは半剛接合状態で接合され、
前記各外周構造体の隣接する前記柱間にダンパーを備えたダンパーブレースが水平方向と鉛直方向に対して傾斜した方向に架設されていることを構成要件とする。
【0014】
コア構造体の耐震要素が「少なくとも水平二方向を向く」とは、交差する二方向以上の方向を向くことを言う。コア構造体は少なくとも水平二方向を向く耐震要素を有することで、構造物(制震架構)に入力する水平二方向の水平力を負担し、単独で構造物(制震架構)の耐震性能を確保する。コア構造体が単独で構造物(制震架構)の耐震性能を確保することで、コア構造体と共に構造物(制震架構)の構成要素となる外周構造体が水平力の負担から解放され、外周構造体は主に自重(鉛直荷重)を負担すればよいことになる。外周構造体も「少なくとも水平二方向を向く」から、二方向以上の方向を向く。
【0015】
コア構造体を構成する耐震要素は例えば基本の構造体となる柱・梁のフレーム(架構)内に組み込まれる耐震壁やブレース、間柱(壁柱)等の水平力に対する抵抗要素を言う。耐震要素は構造物の高さ方向(鉛直方向)に連続し、連層になることもある。またコア構造体は構造物に作用する水平荷重と鉛直荷重を負担する機能を持つ必要から、二方向以上を向く耐力壁(耐震壁を含む)のみの組み合わせからなることもある。
【0016】
コア構造体は水平二方向を向く耐震要素からなる構面を持つことで、コア構造体の自重(鉛直荷重)に加え、構造物に作用する水平力の多く、あるいはほとんどを負担する能力を有する。結果として、外周構造体は基本的には自重(鉛直荷重)を負担する能力を持てばよく、必ずしも水平力に抵抗する能力を持つ必要はない。
【0017】
「コア構造体2と外周構造体3との間、及び外周構造体を構成する柱間に架設される水平材4」にはスラブの単体と梁(大梁と小梁を含む)付きのスラブが含まれ、後述の、外周構造体3の隣接する柱31,31間に架設される外周梁32を含む。梁付きでないスラブはフラットスラブのようなスラブを指す。水平材4は主にコア構造体2と外周構造体3間の水平せん断力を伝達する働きをするため、両構造体2,3間での十分な水平せん断力の伝達が期待される場合には、外周梁32は必ずしも必要とはされない。水平材はコア構造体と外周構造体には、それぞれの柱に交わるスラブの一部である梁等においてそれぞれの柱にピン接合等される。
【0018】
請求項1における「水平材がコア構造体と外周構造体の柱のそれぞれにピン接合、もしくは半剛接合状態で接合される」とは、外周構造体の柱の内、コア構造体に対向する側を向く面に水平材がピン接合等されることを言い、「外周構造体の隣接する柱にもピン接合、もしくは半剛接合状態で接合され」とは、外周構造体の隣接する柱が対向する側を向く面に水平材がピン接合等されることを言う。
【0019】
外周構造体3は水平力に対する抵抗力を発揮しないため、コア構造体2と外周構造体3が共に水平力に対する抵抗力を発揮する通常の耐震構造物(図8(ア))との対比では、構造物全体の剛性の低下により固有周期は長くなるが(イ)、外周構造体3におけるダンパーの減衰効果によって地震時の応答変形の程度は耐震構造物(ア)と変わりがない。
【0020】
外周構造体が水平力の負担から解放されることで、外周構造体を構成する各柱が水平力を負担しながら、周辺の柱と梁、スラブ等の架構に水平力を伝達するような、水平力を負担する場合の構造上の制約がなくなる。その結果、外周構造体の、ダンパーブレースが架設される全構面の節点(接合部)が剛接合から解放され、応力負担から解放されるため、外周構造体の形態(建築計画)上の自由度が増し、例えば柱間の間隔(距離)の調整と、柱間に架設され、隣接する柱同士を連結する梁(例えば水平材(スラブ)に付く外周梁)の柱との接合方法、コア構造体との間への梁、あるいはスラブの架設方法等に自由な手法(設計)を採用することが可能になる。
【0021】
水平材4は構造物に入力する水平力の負担時にコア構造体2と外周構造体3を一体的に挙動させる働きをし、特に構造物が捩れ振動を生ずるときに、コア構造体2の剛心回りの回転に外周構造体3を追従させる働きをする。水平材4は実質的にはコア構造体2と外周構造体3間の水平せん断力のみを伝達すればよく、曲げモーメントを伝達する必要がないため、水平材4を構成するスラブ付き梁の両端はコア構造体2と外周構造体3にはピン接合、または半剛接接合されればよい。水平材4はコア構造体2と外周構造体3との間で水平せん断力を伝達することで、コア構造体に図3−(b)に示すような捩れ変形が生じたときに、その捩れ変形に外周構造体を追従させて捩れ変形を生じさせる働きをする。
【0022】
コア構造体は例えば構造物の平面上の中心位置から外れた領域に配置される場合に、構造物(制震架構)のある層(階)における質量の中心(重心)と剛性の中心(剛心)との間に偏心が生じ易くなる(請求項2)。「偏心」はコア構造体と外周構造体との間に存在する偏心であり、この偏心の存在によりコア構造体に対する外周構造体の捩れ振動が生じ易く、ダンパー6の減衰力(エネルギ吸収量)が増大する利点がある。但し、外周構造体はコア構造体に、コア構造体との間で水平せん断力を伝達する水平材によって接続されることで、前記のようにコア構造体の水平変形に追従する水平変形が生ずるため、必ずしもコア構造体と外周構造体との間に偏心が存在する必要はなく、コア構造体が平面上の中心位置から外れた領域に配置される必要もない。
【0023】
ここで言う「構造物の平面上の中心位置」は構造物(制震架構)のある層(階)における「平面上の中心」を指し、必ずしも構造物(制震架構)を構成するコア構造体と外周構造体を合わせた質量の中心(重心)ではない。但し、水平二方向の耐震要素を持つコア構造体が「平面上の中心」位置から外れた領域に配置される一方、コア構造体から分離した外周構造体が構造物の外周位置に配置されることで、「平面上の中心」が質量の中心(重心)に一致することはあり、また重心に剛性の中心(剛心)が一致する(偏心が存在しない)こともある。
【0024】
コア構造体は前記のように例えばフレーム内に耐震要素が組み込まれた構造をし、自らの剛性が複数本の柱を基本要素とする外周構造体より相対的に高いため、「平面上の中心」位置から外れた領域に配置される場合には、制震架構内では剛心を重心位置より偏らせる可能性が高い。このことから、コア構造体の形態と配置位置、及び外周構造体の形態と配置位置の関係で、構造物(制震架構)のある層(階)における質量の中心(重心)と剛性の中心(剛心)との間に偏心が生ずることもある(請求項2)。
【0025】
重心と剛心との間に偏心が存在する場合(請求項2)には、後述のように地震時等に構造物に水平力が作用したときに、構造物は捩れ振動を生じ易くなり、偏心距離が大きい程、外周構造体の捩れ振動の振幅(水平面内での移動距離)が大きくなる。重心と剛心との間に偏心が存在することはコア構造体と外周構造体を含む構造物の平面上の重心位置と剛心位置に隔たりがあることを言う(請求項2)。
【0026】
外周構造体の捩れ振動の振幅が大きければ、外周構造体内に架設されるブレースが有するダンパーの変形(伸縮)量が大きく、ダンパーの変形に応じた減衰力(エネルギ吸収量)が増大する利点がある。構造物が偏心の存在による捩れ振動を生ずるときの外周構造体の変位量(振幅)は剛心から外周構造体を構成する各柱との間の距離が大きい程、大きくなるため、重心と剛心との間に偏心が存在する請求項2において、重心と偏心との間の距離(偏心距離)が大きいことが構造計画上の障害になることはなく、逆にエネルギ吸収効率を向上させる上では好都合になる。
【0027】
偏心が存在する場合(請求項2)には、水平振動(並進運動)と捩れ振動が同時に発生するため、図8に示すように2種類の振動モード(ウ、エ)が表れるが、上記のように捩れ振動の発生時にダンパーが効果的に機能するため、2種類の振動モードを重ね合わせても応答は捩れが発生しない(偏心のない)場合(イ)と変わりはない。むしろ、偏心が大きい程、ダンパーが発生する減衰力が大きくなり、減衰効果が高まるため(オ、カ)、偏心に対して冗長性が高い(偏心の存在にも拘らず、崩壊に対して余力がある)構造物になる。
【0028】
特に外周構造体3の隣接する柱31,31間に水平材4の一部として架設される外周梁32が両端において柱31,31にピン接合、もしくは半剛接合状態で接合される場合には、外周梁32が隣接する柱31,31の間隔を保持する役目を果たしながら、柱31の、外周梁32との接合部(節点)における回転変形を許容する働きをする。外周構造体3の各柱31はコア構造体2との間に架設される水平材4と、隣接する柱31,31間の外周梁32の存在により、コア構造体2の変形に引き摺られる水平材4に追従するように図3−(a)、(b)に示すような一体的な捩れ変形を生ずることになる。
【0029】
外周構造体3の各柱31が外周梁32と水平材4とによってコア構造体2の変形に引き摺られ、各構面が変形することで、コア構造体2と外周構造体3との間に偏心が存在しなくてもコア構造体2に対する外周構造体3の水平変形に伴い、ダンパー6に減衰力(エネルギ吸収量)を発生させることが可能になる。
【0030】
外周梁32はまた、外周構造体3を構成する各構面の隣接する柱31,31間に架設されることで、複数本の柱31からなる構面を一体的に挙動させる役目も果たす。外周構造体3を構成する、複数本の柱31からなる各構面は隣接する柱31,31が外周梁32によって繋がれることで、図3−(a)、(b)に示すように面外方向に曲げ変形(捩れ変形)可能な一枚板のように挙動させる。複数本の柱31,31を連結しながら、一体的に変形させる外周梁32の機能を水平材4が果たせる場合には、前記のように水平材4が外周梁32を兼ねるため、外周梁32は省略されることもある。
【0031】
外周構造体3の柱31が水平力を受けて変形を生ずるとき、外周構造体3を構成する各構面は隣接する柱31,31が水平材4によって、または水平材4と外周梁32によって拘束されながら水平材4に追従することで、図3−(a)、(b)に示すような変形を起こす。
【0032】
このとき、水平材4の存在によって、または外周梁32の架設によって隣接する柱31,31の、同一層(階)の節点(接合部)間距離に変化はないものの、隣接する柱31,31の異なる層間(階間)の節点間距離には変化が生ずる。変形の前方側に位置する柱31における最頂部の節点と、後方側に位置する柱31における最頂部より1層下の節点との間の距離は変形前より拡大し、前方の柱31における最頂部より1層下の節点と、後方の柱31における最頂部の節点との間の距離は変形前より縮小する。同じことは隣接する全2本の柱31,31間に生じている。
【0033】
このように外周構造体3は各方向の構面が水平材4に追従して変形することで、隣接する柱31,31間に架設されているブレース5のダンパー6に軸方向力を作用させて伸縮させ、減衰力を発生させるため、ダンパー6を内蔵した構面が捩れ変形を伴わず、構面外方向に捩れ変形するだけの変形時にも、ブレース5の伸縮量に応じた減衰力(エネルギ吸収能力)をダンパー6に発揮させることが可能になる。ブレース5は基本的には柱31の節点位置に連結されるが、後述のように節点を外した位置に連結されることもある(請求項3、図6)。
【0034】
ブレース5は外周構造体3の隣接する柱31,31間に、水平方向と鉛直方向に対して傾斜した方向に架設されていることで、隣接する柱31,31間の水平方向の相対移動と鉛直方向の相対移動に加え、前記のように請求項2では偏心の存在に起因する捩れ振動に伴う隣接する柱31,31間の相対移動時にも減衰力発生の機能を発揮する。外周構造体3の柱31が単に変形する場合には、隣接する柱31,31は主にその隣接方向に相対変位するが、捩れ振動の場合には、柱31,31の隣接方向に交差する方向にも相対変位が生じ、水平二方向に相対変位する。
【0035】
重心と剛心との間に偏心が存在する請求項2では、前記のように地震時等に構造物に水平力が作用することにより構造物は捩れ振動を生じ易くなり、偏心距離が大きい程、外周構造体3の捩れ振動の振幅が大きくなる。外周構造体3の捩れ振動の振幅が大きければ、外周構造体3内に架設されるダンパー6の変形(伸縮)量が大きく、ダンパー6の変形に応じた減衰力(エネルギ吸収量)が増大する。
【0036】
請求項2では例えば図1に二点鎖線で示すように構造物(制震架構1)全体の捩れ振動によりコア構造体2が剛心Sの回りに回転変形を生じ、外周構造体3の各柱31がコア構造体2に追従して変形を生じたときに、隣接する柱31,31の異なる層間に距離の変化が生ずるため、距離の変化に応じたエネルギ吸収効果が期待される。特に外周構造体3の柱31は剛心からの距離が大きい、構造物の平面上の外周に位置することで、前記のように捩れ振動による変位量(振幅)が最も大きくなるため、構造物の平面内でのエネルギ吸収効果は最大になる。
【0037】
偏心の存在により構造物(制震架構1)が図3−(a)、(b)に示すように捩れ振動を生ずるとき、コア構造体2の剛性は外周構造体3の剛性より相対的に高いために、剛体として剛心の回りに回転変位しようとするのに対し、外周構造体3の剛性はコア構造体2より小さく、外周構造体3の骨格は基本的に複数本の柱31であることで、各柱31は水平材4との間で軸方向力が伝達される範囲で、水平材4に引き摺られるようにコア構造体2の捩れ振動に追従しようとする。
【0038】
このとき、隣接する柱31,31間に水平材4が存在している、または外周梁32が架設されていることで、柱31は立面上、隣接する柱31,31間距離が一定に保たれたまま、変形しようとする。図1、図2に二点鎖線で示すように構造物が捩れ振動を生じ、例えばコア構造体2が反時計回りに回転変位するとき、外周構造体3の柱31はコア構造体2との間に架設されている水平材4の接続(連結)によってコア構造体2の変形に引き摺られるように追従しようとする。
【0039】
ここで、水平材4とコア構造体2との間の接合部では水平材4はコア構造体2に対して回転変形可能であり、せん断力、あるいはせん断力と軸方向力の伝達のみが可能であるため、コア構造体2と柱31との間においては距離が一定に保たれながら、平面上、相対的な回転変形が生じようとする。
【0040】
コア構造体2が捩れ振動を生ずるときの回転方向の前方側(コア構造体側)に位置する柱31と、それに回転方向後方に位置する柱31との間に着目すれば、前方の柱31における最頂部の節点と後方の柱31における最頂部より1層下の節点との間の距離は変形前より拡大する。また前方の柱31における最頂部より1層下の節点と、後方の柱31における最頂部の節点との間の距離は変形前より縮小する。同じことは隣接する全2本の柱31,31間に生じている。
【0041】
請求項2では構造物内のコア構造体2と外周構造体3の配置による重心と剛心間の偏心の存在により構造物が捩れ振動を生じ易い状態に置かれていることで、捩れ振動の発生により外周構造体3が大きく変形する。その結果、ダンパー6が減衰力を発生し、構造物に入力する振動エネルギを効果的に吸収することができるため、偏心の存在を振動減衰とそれによる揺れの早期終息のために有効に活用することが可能になっている。
【0042】
ブレース5は隣接する柱31,31の、主に柱31の節点(接合部)間に架設されることで、柱31,31間の相対変形時の変形量に応じた、すなわち柱31の節点(接合部)間に生ずる相対移動量に応じた減衰力を発生する。但し、外周柱(柱31)に単体として十分な曲げ剛性と曲げ強度がある場合、開口部になるべくブレースダンパーが見えないようにしたいという建築計画上の要求に対応して図6に示すように柱31の水平材4、または外周梁32との節点(接合部)を外した位置にブレース5が接続(連結)されることもある(請求項3)。
【発明の効果】
【0043】
少なくとも水平二方向の耐震要素を含む構面を持つコア構造体と、構造物の平面上の外周位置に配置される複数本の柱を持つ外周構造体との間に、双方にピン接合等される水平材を架設するため、隣接する柱からなる外周構造体の各構面をコア構造体の変形に引き摺られる水平材に追従させて一体的な変形を生じさせることができる。この結果、コア構造体と外周構造体との間に偏心が存在しなくてもコア構造体に対する外周構造体の水平変形に伴い、ダンパーに減衰力(エネルギ吸収量)を発生させることができる。
【0044】
またコア構造体が水平二方向を向く耐震要素からなる構面を持ち、構造物に作用する水平力の多くを負担する能力を有することで、外周構造体は水平力の負担から解放されるため、水平力を負担する場合の構造上の制約がなくなり、外周構造体の形態(建築計画)上の自由度が増す。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】コア構造体が柱・梁のフレームを基本要素とする場合に、コア構造体の柱間距離と外周構造体を構成する柱間距離が等しい場合のコア構造体と外周構造体の配置例を示した平面図であり、構造物(制震架構)が剛心の回りに捩れ振動を生じ、反時計回り側へ回転したときの様子を二点鎖線で示している。
【図2】柱・梁のフレームを基本要素とするコア構造体の柱間距離と外周構造体を構成する柱間距離が等しくない場合のコア構造体と外周構造体の配置例を示した平面図であり、構造物(制震架構)が剛心の回りに捩れ振動を生じ、反時計回り側へ回転したときの様子を二点鎖線で示している。
【図3】(a)は図1に示す構造物(制震架構)が捩れ振動を生ずるときの、変形前の様子を示した斜視図、(b)は変形後の様子を示した斜視図である。
【図4】(a)はダンパーを内蔵したブレースが外周構造体の一構面を構成する全柱間に架設された場合の構造物の例を示した立面図、(b)は外周構造体の一構面を構成する一部の柱間にブレースが架設された場合の構造物の例を示した立面図である。
【図5】外周構造体の一構面の下層側の区間が剛な柱・梁のフレームから、あるいは壁からなる場合の構造物の例を示した立面図である。
【図6】ブレースが柱の水平材との接合部(節点)を外した位置に接続されている場合の構造物の例を示した立面図である。
【図7】構造物(制震架構)がコア構造体を構成する高層部と外周構造体を構成する低層部を有する場合の、高層部と低層部の組み合わせ例を示した斜視図である。
【図8】本発明の制震架構を、減衰定数をパラメータとして偏心の存否により従来の耐震構造物との対比を示した、固有周期と応答変位の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0047】
図1は少なくとも水平二方向を向く耐震要素2cを含む構面を持つコア構造体2と、構造物の平面上の外周位置に配置される複数本の柱31を持ち、この複数本の柱31が少なくとも水平二方向を向く構面を構成する外周構造体3と、コア構造体2と外周構造体3との間、及び外周構造体3を構成する柱31,31間に架設される水平材4を備えた制震架構1の構成例を示した平面図である。コア構造体2は主に構造物の平面上の中心位置(重心:G)から外れた領域に配置される。コア構造体2と外周構造体3、及び水平材4の構造種別は一切問われず、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造のいずれか、または組み合わせの場合がある。
【0048】
水平材4はコア構造体2と外周構造体3の柱31のそれぞれにピン接合、もしくは半剛接合状態で接合されると共に、外周構造体3の隣接する柱31,31にもピン接合、もしくは半剛接合状態で接合され、主に両構造体2,3間で水平せん断力を伝達し、コア構造体2の変形に外周構造体3を追従させる働きをする。各外周構造体3の隣接する柱31,31間にはダンパー6を備えたダンパーブレース(以下、ブレース)5が水平方向と鉛直方向に対して傾斜した方向に架設される。
【0049】
水平材4は図1,図2中、破線で示す梁が付帯したスラブ、もしくは梁なしの、または梁とは独立したスラブであり、コア構造体2に対しては、コア構造体2を構成する後述の柱2aに、ピン接合等される梁の要領で接合されることによりピン接合、もしくは半剛接合状態で接合される。水平材4は梁付きスラブの場合には、梁部分において柱2aにピン接合等されればよい。
【0050】
外周構造体3の隣接する柱31,31間には図3−(a)に示すように水平材4の一部としての外周梁32が架設される場合があり、外周梁32は両端において柱31にピン接合、もしくは半剛接合状態で接合される。外周梁32は隣接する柱31,31間の距離を一定に保ち、複数本の柱31からなる構面を一枚板のように一体的に挙動させる働きをする。隣接する柱31,31間に外周梁32が架設される場合、隣接する柱31,31の対向する側面に外周梁32の端部(端面)がピン接合等され、柱31のコア構造体2側の側面には、図1,図2中、破線で示す水平材4に付帯する梁の端部(端面)がピン接合等される。
【0051】
図1はコア構造体2が柱2aと梁2bを基本要素とするフレームにブレースや耐震壁、間柱等の耐震要素2cが組み込まれた構造をする場合の例を示しているが、コア構造体2の構造は柱・梁のフレームを持たない壁(耐力壁)のみからなる場合もあり、任意に構成(設計)される。耐震要素2cは柱2aと梁2bからなるフレームに組み込まれるように配置される。図1はまた、外周構造体2が間隔を置いて二方向に配列する複数本の柱31から構成される場合の例を示しているが、外周構造体2を構成する複数本の柱31も三方向以上に配列する場合がある。
【0052】
図1ではコア構造体2を構成する柱2aのX方向とY方向の間隔と、外周構造体3を構成する柱31のX方向とY方向の間隔を等しくしているが、コア構造体2と外周構造体3を連結する水平材4は水平せん断力を伝えるのみでよく、コア構造体2と外周構造体3を連結する梁は小梁(両端ピン、もしくは半剛結)でよいため、図2に示すように必ずしも両構造体2、3の柱間距離が一定である必要はない。
【0053】
図1中、破線はコア構造体2の柱2aと外周構造体3の柱31間に架設される水平材4としてのスラブ付きの梁を示している。このスラブに接続した梁はコア構造体2の柱2aと外周構造体3の柱31間に両端においてピン接合、もしくは半剛接状態で架設される小梁である。水平材4はコア構造体2と外周構造体3をつなぐスラブであることで、水平剛性が大きいため、構造物(制震架構)1に振動(揺れ)が発生したときの、外周構造体3のコア構造体2への追従性をよくする。コア構造体2と外周構造体3をつなぐスラブは水平材4とは別に配置されることもある。
【0054】
図1の二点鎖線はコア構造体2と外周構造体3からなる制震架構1(構造物)の重心Gと剛心Sとの間に偏心が存在する場合に、構造物が水平力を受けて剛心Sを中心として捩れ振動を起こし、外周構造体3がコア構造体2の捩れ振動に追従したときの変形時の様子を示している。偏心が存在しない場合にも、コア構造体2が図3−(b)に実線で示すように捩れ変形(振動)を生じたときには、水平材4と外周梁32に引き摺られることで、外周構造体3(の各構面)にも捩れ変形が生ずる。
【0055】
図3−(a)は構造物(制震架構1)が捩れ振動を起こす前の状態を実線で示し、捩れ振動を起こしたときの様子を破線で示している。(b)はコア構造体2の捩れ振動の様子を実線で示している。
【0056】
ブレース5は図4−(a)に示すように外周構造体3の少なくとも隣接する2本の柱31,31間に架設され、柱31との接合のための、例えばガセットプレート等の露出を回避できる等、接合部の納まりのし易さから、ブレース5の端部は原則的に柱31と水平材4との接合部位置に接続(連結)される。但し、外周柱(柱31)に単体として十分な曲げ剛性と曲げ強度がある場合に、開口部になるべくブレース5を露出させたくないという建築計画上の要求に応じ、図6に示すように柱31と水平材4との接合部を外した中間部に接続(連結)されることもある。
【0057】
ブレース5はまた、柱31の変形時の振動減衰とブレース5が負担する軸方向力の柱31への伝達による複数本の柱31への分散効果を高める上では、図4−(a)に示すように制震架構の複数層に亘って連続的に架設されることが適切である。図4−(a)では地上から最上層にまで連続的にブレース5を架設している。
【0058】
図4−(b)は最下層を除いた層にブレース5を架設した場合と、二方向の構面を有する外周構造体3の一方向の構面を水平方向に2区分した内の片側の面にのみブレース5を架設した場合を示している。
【0059】
但し、コア構造体2と外周構造体3の組み合わせ(配置)条件等に応じ、構造物(制震架構1)が水平力を受けたときの構造物に生ずる変形の性状、程度等から、必ずしも外周構造体3の各方向の構面の全面にブレース5を架設する必要がないこともあることから、ブレース5の架設領域が図4−(b)に示すように構面の一部の範囲で、また地上(基礎)に接続(連結)されないこともある。
【0060】
図5は外周構造体3のいずれかの構面の下層の耐震要素として、ブレース5に代わり、剛な柱71と梁72からなるフレーム7を配置した場合、あるいはフレーム7に代わる壁(耐力壁)を配置した場合の例を示している。フレーム7に代わる壁は柱71・梁72のフレーム7が付帯することもある。図6は外周構造体3の柱31と水平材4との接合部を外した位置、すなわち柱31の軸方向(長さ方向)中間部にブレース5を接続した場合の例を示している。
【0061】
図6ではブレース5が柱31の節点(接合部)位置を外した、柱31の軸方向中間部間を通るように架設されることで、ブレース5から柱31に伝達されるべき軸方向力の内、水平成分は、当該柱31の中間に作用する水平荷重となり、曲げせん断応力を生じさせることになる。但し、柱31がこの中間荷重に対して抵抗できる強度と剛性を有していれば、図6のような配置計画も実現できる。
【0062】
図6に示すようにブレース5を柱31と水平材4との接合部(節点)を外した、柱31の軸方向中間部に連結した場合には、ブレース5が柱31の水平材4との接合部に接合された場合との対比では、複数本の柱31の変形(捩れ変形)時におけるブレース5の架設区間の伸縮量が大きくなるため、ブレース5が有するダンパー6が発揮する減衰力も大きくなる利点がある。
【0063】
図7は構造物(制震架構1)が、平面積の大きい低層部と平面積の小さい高層部の2通りの領域を有する場合に、高層部をコア構造体2として構築し、低層部を外周構造体3と水平材4とで構成した場合の例を示す。この例では高層部であるコア構造体2と低層部である外周構造体3の間に偏心が存在すれば、外周構造体3はコア構造体2の回りに捩れ振動を生じ、その振動に応じてブレース5のダンパー6が減衰力を発生するため、構造物全体の捩れ振動が抑制されることになる。
【0064】
図7に示すように高層部と低層部とに区分される構造物は新設構造物として構築される他、既設の高層の構造物(高層部)に対して低層部を新設する場合にも対応可能である。例えば既設の高層構造物(高層部)に立地条件等の制約により耐震要素を付加することが困難であるような場合に、高層部の周囲に複数本の柱31と水平材4、及びブレース5からなる、あるいはそれに加えた外周梁32からなる外周構造体3を構築することで、地震時等に外周構造体3に変形、あるいは捩れ変形を生じさせ、ブレース5のダンパー6に振動を抑制する減衰力を発生させることができるため、既設の高層構造物(高層部)に対する耐震補強を施すことが可能になる。
【0065】
図7の場合も、高層部(コア構造体2)と低層部(外周構造体3)とは水平材4の接合(連結)により水平力の伝達が行われるように接続されればよいため、高層部と低層部との接続は軽微で済む。また低層部(外周構造体3)に捩れ振動が想定される場合も、捩れ振動はダンパー6によるエネルギ吸収効果に直結することから、偏心の存在による捩れ振動を低減させることを考慮する必要もないため、計画上の自由度が高い。
【符号の説明】
【0066】
1……制震架構、
2……コア構造体、2a……柱、2b……梁、2c……耐震要素、
3……外周構造体、31……柱、32……外周梁、
4……水平材、
5……ダンパーブレース、6……ダンパー、
7……フレーム、71……柱、72……梁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水平二方向を向く耐震要素を含む構面を持つコア構造体と、構造物の平面上の外周位置に配置され、少なくとも水平二方向を向く構面を構成する複数本の柱を持つ外周構造体と、前記コア構造体と前記外周構造体との間、及び前記外周構造体を構成する柱間に架設される水平材を備え、
前記水平材は前記コア構造体と前記外周構造体の柱のそれぞれにピン接合、もしくは半剛接合状態で接合されると共に、前記外周構造体の隣接する前記柱にもピン接合、もしくは半剛接合状態で接合され、
前記各外周構造体の隣接する前記柱間にダンパーを備えたダンパーブレースが水平方向と鉛直方向に対して傾斜した方向に架設されていることを特徴とする制震架構。
【請求項2】
前記コア構造体と前記外周構造体を含む構造物の平面上の重心位置と剛心位置に隔たりがあることを特徴とする請求項1に記載の制震架構。
【請求項3】
前記ブレースが柱の水平材との接合部を外した位置に接続されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の制震架構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−28938(P2013−28938A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165079(P2011−165079)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】